日本毒性学会学術年会
第42回日本毒性学会学術年会
選択された号の論文の457件中251~300を表示しています
一般演題 ポスター
  • 三木 雄一, 佐藤 あや, 弘中 千尋, 秋元 治朗, 藤原 泰之
    セッションID: P-58
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】光線力学的療法(PDT)は、腫瘍細胞に選択的に蓄積する光感受性物質を投与後、患部に特定波長のレーザーを励起照射することで、腫瘍細胞を死滅させる治療法である。本研究では、PDT処理が神経膠腫細胞に誘導する細胞死の形態について検討した。
    【方法】光感受性物質としてレザフィリン(NPe6)を、神経膠腫細胞としてT98G細胞を用いた。T98G細胞をNPe6で前処理後、664 nm、10 J/cm2のレーザー光を照射し、PDT(NPe6-PDT処理)を行った。
    【結果と考察】NPe6-PDT処理24h後の細胞のviabilityを観察したところ、NPe6の処理濃度依存的なviabilityの低下が認められた。このとき、necrosis指標である細胞の膨満化、乳酸脱水素酵素の細胞から培地中への漏出およびpropidium iodide染色性の向上も認められた。次に、この細胞死にnecroptosis(シグナル伝達により引き起こされるとされるnecrosisの一形態)が関与しているかについて確認した。NPe6-PDT処理したT98G細胞において、necroptosisを起こした細胞で一般的に観察されるautophagosomeの形成とLC3-IIタンパク質の増加が認められた。さらに、necroptosisの誘導にかかわるシグナル伝達タンパク質であるRIP-1、RIP-3およびMLKLの作用を阻害剤あるいはsiRNA処理により抑制したところ、NPe6-PDTによる細胞死が抑制された。これらの結果から、NPe6-PDTは神経膠腫細胞に対してnecroptosisを引き起こすことが示された。
  • 前田 潤, 三木 雄一, 市川 恵, 秋元 治朗, 藤原 泰之
    セッションID: P-59
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】光線力学的療法(PDT)は、腫瘍細胞に選択的に集積する光感受性物質を投与後、患部にレーザ光を照射して活性酸素を産生させ、腫瘍細胞を死滅させる治療法である。我々はこれまでに、光感受性物質レザフィリン(NPe6)を用いたPDT(NPe6-PDT)が神経膠芽腫細胞に対して効果的に細胞死を誘導することを明らかにしている。本研究では、有効な治療法が少ない悪性髄膜腫に対する新たな治療法としてのPDTの有効性を確認するために、悪性髄膜腫細胞に対するNPe6-PDTの殺細胞効果を検討した。
    【方法】ヒト悪性髄膜腫細胞RCB0680及びラット悪性髄膜腫細胞RCB1753をNPe6で処理した後、664 nm、0-30 J/cm2のレーザ光を照射し、0-24時間後に細胞毒性評価を行った。
    【結果と考察】悪性髄膜腫細胞を種々のNPe6濃度並びにレーザ強度でPDT処理しviability を観察したところ、両細胞において、NPe6濃度、レーザ強度に依存した細胞死の誘導が確認されたことから、NPe6-PDT は 悪性髄膜腫細胞に対しても有効であることが示された。また、低濃度NPe6処理では、アポトーシス指標であるcaspase-3の活性化、phosphatidylserine の細胞表面への露出が強く観察され、さらにDNAの断片化も認められた。一方、高濃度NPe6処理では、ネクローシス指標である乳酸脱水素酵素の漏出やpropidium iodideによる染色が強く観察された。これらの結果から、NPe6-PDTは悪性髄膜腫細胞に対して細胞死を誘導するが、その細胞死の様式はNPe6の処理濃度に依存することが示された。悪性髄膜腫は、化学療法剤に対する耐性が高いために手術による物理的な除去以外の有効な治療法が少ない。本研究は、NPe6-PDTが悪性髄膜腫に対する新しい治療法となり得る可能性を示している。
  • 西村 和彦, 米澤 祐樹, 中川 博史, 松尾 三郎
    セッションID: P-60
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    エリスロポエチン(EPO)は様々な組織で細胞保護作用を持つことが報告されている。EPO産生能を持つ腫瘍細胞では腫瘍細胞自身の保護にも関与していると考えられる。細胞保護作用減弱のためにEPO産生を抑制するには酸素濃度を高めることが最も有効な方法であるが、一般的に腫瘍塊は低酸素状態になりやすく、酸素濃度を高めることは難しい。そこで、ミトコンドリアへの還元等量の輸送を増やすことで、酸素濃度を上昇させるのと同等の効果が得られると考え、ミトコンドリアへの還元等量輸送系の一つであるリンゴ酸—アスパラギン酸シャトルを促進する、乳酸、アスパラギンおよびリンゴ酸の添加が、5% O2で培養したHepG2細胞のEPO産生とシスプラチンの抗ガン作用に及ぼす影響を解析した。HepG2細胞を5% O2で24時間培養すると通常酸素下に比べてEPO mRNA発現は増加するが、si-EPO RNAの前処置により5% O2でのEPO mRNA発現増加は消失した。これらの細胞にシスプラチンを投与したとき、通常酸素状態に比べて5% O2ではアポトーシスおよび細胞活性低下は抑制されたが、si-EPO RNA 処置ではシスプラチンの効果が減弱しなかったことから、HepG2細胞の産生するEPOによってシスプラチンから細胞が保護されていると考えられた。5% O2下において乳酸単独投与ではEPO mRNA発現抑制効果が認められなかったが、乳酸+アスパラギンおよび乳酸+リンゴ酸の添加はEPO mRNA発現を抑制し、シスプラチンの効果も増強した。乳酸+アスパラギン添加時にaminooxyacetateによってミトコンドリアへの還元等量の輸送を制限すると、EPO mRNA発現は増加し、シスプラチンの効果の促進は消失した。以上の結果から、酸素濃度の低い状態であっても還元等量の細胞質からミトコンドリアへの輸送を促進することでEPO産生を抑制して、細胞保護作用を低下させることで、抗がん剤の作用を増強させることができると考えられた。
  • 山田 茂, 古武 弥一郎, 中野 瑞穂, 関野 祐子, 諫田 泰成
    セッションID: P-61
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    トリブチルスズ(TBT)はもともと漁業用防汚剤として使用されていたが、現在では有害性が指摘され特定化学物質に指定されている。nMレベルのTBTの作用としてPPAR/RXRを介したゲノム作用が知られている。我々は、これまでにヒト胎児性癌細胞株NT2/D1を用いたメタボローム解析により、TBTの新規非ゲノム作用として解糖系やミトコンドリア・イソクエン酸脱水素酵素 IDH3の阻害、ATP産生の低下を明らかにしてきた1, 2)。ミトコンドリアは分裂・融合のダイナミクスにより制御されることが知られていることから、本研究では、ミトコンドリア品質管理機構に焦点を当ててIDH3を介したTBT毒性作用の解析を行った。
    まず、100nMのTBT曝露によりミトコンドリア分裂の亢進が認められた。ミトコンドリア融合マーカーmitofusin(Mfn)の発現を検討したところ、Mfnタンパク質の有意な減少が認められた。Mfnの減少はプロテアソーム阻害剤MG132処理によって回復したことから、ユビキチン-プロテアソーム系による蛋白分解が示唆された。次に、TBTによるミトコンドリア品質低下がIDH3によるかどうかを明らかにするために、IDH3活性阻害作用を有するアピゲニンの作用を調べた。アピゲニン処理によりTBTと同様にIDH3活性が阻害され、ミトコンドリア分裂の亢進およびMfnの分解が認められた。さらに、αケトグルタル酸アナログであるDMKG前処理により、TBTによるミトコンドリア品質低下の回復が認められた。
    以上の結果から、ヒト胎児性癌細胞において、低濃度TBTによる毒性作用はIDH3を介したミトコンドリアの品質低下による可能性が示唆された。
    参考文献
    1) Yamada et al., Metallomics. 2013, 5, 484-491
    2) Yamada et al., Sci. Rep. 2014, 4, 5952
  • 石田 慶士, 古武 弥一郎, 青木 香織, 瀧下 智子, 木村 朋紀, 諫田 泰成, 太田 茂
    セッションID: P-62
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】船底塗料等に使用されてきたトリブチルスズ (TBT) に代表される有機スズ化合物は生体内に常在する濃度と毒性を示す濃度が非常に近く、ヒト血中からも数~数百 nM のレベルで検出される。我々は現在までに 20 nM TBT が AMPA 型グルタミン酸受容体 GluR2 サブユニットの発現を特異的に低下させ、神経細胞を脆弱にすることを報告している。そこで本研究では、TBT が GluR2 発現に関与する転写因子に与える影響について検討した。
    【方法】実験には胎生 18 日齢ラット (Slc:Wistar/ST) より調製した大脳皮質初代培養神経細胞を用いた。細胞は培養 6 日目に Ara-C を添加しグリア細胞を死滅させ、培養 11 日目で各実験に使用した。20 nM TBT を 3-24 時間曝露し、クロマチン免疫沈降法 (ChIP assay) 及びゲルシフトアッセイにより転写因子の DNA 結合活性を評価した。転写因子複合体形成量は特異的抗体を用いた免疫沈降及びウエスタンブロッティングにより評価した。
    【結果・考察】ラット大脳皮質初代培養神経細胞に 20 nM TBT を 3-24 時間曝露することにより GluR2 転写因子の一つである nuclear respiratory factor 1 (NRF-1) のプロモーター結合活性が低下することが ChIP assay 及びゲルシフトアッセイにより明らかとなった。さらに、NRF-1 との相互作用により転写調節を担う転写共役因子peroxisome proliferator activated receptor gamma coactivator-1α (PGC-1α) と NRF-1 の複合体レベルの低下が認められた。 NRF-1 は神経細胞の発達や樹状突起の伸長に関与することは報告されているが、神経毒性ターゲットとしての報告はほとんど存在しない。本研究により、TBT は NRF-1 と PGC-1α の相互作用を阻害し、NRF-1 の転写活性を低下させることで GluR2 発現を減少させる可能性が示唆された。
  • 佐藤 昌幸, 永沼 章, 黄 基旭
    セッションID: P-63
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】我々は、メチル水銀がプトレシン(ポリアミンの一種)のレベルおよびその合成に関わるornithine decarboxylase (ODC)の活性を上昇させることを見出している。一方、メチル水銀による細胞死にアポトーシスが関与することが知られている。そこで、マウス脳神経幹細胞由来のC17.2細胞を用いて、メチル水銀によるアポトーシス誘導におけるプトレシンの役割を検討した。【結果・考察】プトレシンの培地中への添加およびODC高発現は、メチル水銀が引き起こすDNAの断片化およびcaspase3の活性化を抑制した。ODC高発現はさらにメチル水銀によるミトコンドリア損傷を介するアポトーシスの誘導(cytochrome cの放出促進などを指標として測定)も抑制した。一方、プトレシンから合成されるポリアミンであるスペルミンの添加は、ODC高発現とは逆に、メチル水銀によるアポトーシス誘導を増強し、cytochrome cの放出も促進した。また、スペルミン存在下ではODC高発現によるメチル水銀毒性軽減が全く認められなくなった。これらのことから、細胞内で増加したプトレシンはメチル水銀毒性増強作用を示すスペルミンと競合的な作用を示すことによってメチル水銀によるアポトーシス誘導を抑制している可能性が考えられる。さらに、cytochrome cの放出に関わるBcl蛋白質ファミリーのレベルを調べたところ、メチル水銀によってミトコンドリア画分中のBaxおよびBakのレベルが増加し、プトレシンの添加はこれらの増加を抑制した。以上のことから、メチル水銀はBaxおよびBakのミトコンドリアへのリクルートを介してミトコンドリア膜の透過性を上昇させcytochrome cの放出を促進させることによってアポトーシスを誘導し、プトレシンはBaxおよびBakのミトコンドリアへのリクルートを阻害することでメチル水銀によるミトコンドリア損傷を介したアポトーシス誘導を抑制していると考えられる。
  • 高橋 勉, 金 ミンソク, 齋藤 隆寛, 趙 倩, 岩井 美幸, 黄 基旭, 永沼 章
    セッションID: P-64
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    メチル水銀は中枢神経に選択毒性を示すが、その毒性発現機構はほとんど明らかにされていない。我々は、以前、メチル水銀を投与したマウスの小脳における遺伝子発現をマイクロアレイ法で解析し、メチル水銀投与によって発現上昇する遺伝子を21種同定した。このうち5種の遺伝子はケモカイン分子種をコードしており、その中でCCL4がメチル水銀によって脳特異的に発現誘導されることを明らかにしている。本研究では、残りの16種の遺伝子について、メチル水銀を投与したマウスの各組織における発現変動を解析し、メチル水銀によって脳特異的に発現上昇する遺伝子を検索した。その結果、セクレトグロビン(低分子量の分泌蛋白質)ファミリーに属するScgb3a1の遺伝子の発現がメチル水銀投与によって脳特異的に上昇することが明らかとなった。メチル水銀によるScgb3a1の発現誘導はマウス神経前駆細胞 (C17.2細胞) でも認められ、同細胞を用いて経時的に検討したところScgb3a1の mRNAレベルの上昇はメチル水銀による細胞死が引き起こされるより早い時点で認められた。また、メチル水銀を投与したマウスにおいても、脳組織での病理変化が認められる前に、Scgb3a1の発現上昇が確認された。このことから、Scgb3a1の発現誘導は、少なくともメチル水銀によって細胞が障害された結果として認められる現象ではなく、メチル水銀曝露に対する細胞応答によるものと考えられる。また、siRNAによってScgb3a1の発現を抑制したところ、C17.2細胞のメチル水銀感受性が上昇した。以上の結果からScgb3a1はメチル水銀曝露に応答して脳特異的に発現誘導される防御因子として働く可能性が考えられる。現在、メチル水銀によるScgb3a1の脳特異的な発現誘導機構について解析中である。
  • 李 辰竜, 玉川 明弘, 渡辺 稚佐登, 徳本 真紀, 佐藤 雅彦
    セッションID: P-65
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】カドミウム(Cd)は腎臓をはじめ、骨、呼吸器、生殖器、循環器などに障害を引き起こすが、Cd毒性の分子メカニズムはほとんど明らかにされていない。Cdは腎細胞において小胞体ストレスを引き起こすことが報告されているとともに、我々は最近、ヒト腎近位尿細管上皮細胞(HK-2細胞)において、複数のシャペロンタンパク質をコードする遺伝子発現がCdによって上昇することを見いだした。小胞体ストレスによる異常タンパク質の増加は、細胞内ユボキチン化タンパク質量を上昇させると考えられる。そこで本研究では、Cdによる細胞内ユビキチン化パンパク質上昇作用とCd毒性発現との関係について検討した。【方法】HK-2細胞を40 µMのCdで6時間処理した。細胞生存率はAlamar Blue法を用いて検討し、遺伝子発現はリアルタイムRT-PCR法により測定した。また、細胞内遺伝子発現抑制はsiRNA法を用いて行い、ユビキチン化タンパク質は抗ユビキチン抗体を用いたウェスタンブロット法により検出した。【結果および考察】HK-2細胞を40 µM Cdで6時間処理したところ、顕著な細胞死は示されなかった。同条件下で、Cdによるユビキチン化タンパク質の蓄積が認められた。なお、Cdは、細胞内のユビキチンタンパク質をコードする4種類の遺伝子(UBBUBCRPS27AUBA52)のうち、UBBUBCおよびRPS27Aの遺伝子発現を顕著に上昇させた。次に、Cdにより遺伝子発現が上昇したユビキチンタンパク質コーディング遺伝子のうち、上昇の程度が最も大きかったUBBのsiRNAを用いて、Cdによるユビキチン化促進作用に及ぼすUBBの影響を検討した。その結果、UBBの発現抑制はCdによるユビキチン化タンパク質レベルの上昇を減弱させた。しかも、HK-2細胞におけるCd毒性がUBBの発現抑制により有意に軽減された。以上の結果より、Cdによるユビキチン化タンパク質の蓄積は細胞障害を引き起こすとともに、Cdによるユビキチン化タンパク質上昇にユビキチンタンパク質コーディング遺伝子が関与している可能性が示唆された。
  • 松崎 紘佳, 原 崇人, 吉田 映子, 藤原 泰之, 山本 千夏, 斎藤 慎一, 鍜冶 利幸
    セッションID: P-66
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】パールカンは主に内皮細胞から産生されるプロテオグリカン分子種であり,基底膜の主要構成成分として知られている。内皮細胞に対してパールカンは,細胞増殖因子FGF-2を活性化することで細胞増殖を促進する一方で,血管平滑筋細胞に対しては増殖を抑制することが報告されている。そのため,動脈硬化病変の進展初期における内皮細胞の傷害による機能異常と,血管平滑筋細胞の過剰増殖に,パールカンは抑制的に機能すると考えられる。それゆえに,パールカンの発現機構の理解は重要である。しかしながら,パールカンの発現を制御する分子プローブに関する報告は少なく,詳細な研究が行われずにいる。そこで,本研究では,有機骨格構造に金属元素を組み込んだ有機金属化合物から,血管細胞におけるパールカンの発現を制御する化合物の探索を行った。【方法】ヒトおよびウシ大動脈内皮細胞と,ウシ大動脈平滑筋細胞を有機金属化合物で処理し,形態学的観察により毒性評価を行った。mRNAの発現はReal-Time RT-PCR,コアタンパク質発現はWestern blot法により検討した。【結果・考察】23化合物からなる有機金属化合物ライブラリーから細胞毒性を示さず,パールカンの発現を特異的に抑制する有機ロジウム化合物TO3-94-2を見出した。なお,いずれの細胞種においてもTO3-94-2の処理濃度および時間依存的なパールカンの発現抑制が認められた。TO3-94-2の構成要素であるロジウム,および1,10-Phenanthrolineの単独処理下ではパールカンの発現抑制は認められなかったことから,その活性にはTO3-94-2が有機金属化合物であることが重要であると示唆された。また,TO3-94-2の構造類縁体を用いた検討から,TO3-94-2が有するロジウム近傍に立体障害が存在しないことがパールカンの発現抑制に重要であることが推察された。以上より,TO3-94-2は細胞種によらないパールカンの発現調節機構を解析するためのツールとして有用であると考えられる。
  • 櫻井 健太, 吉田 映子, 山本 千夏, 鍜冶 利幸
    セッションID: P-67
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】メチル水銀による毒性の病理組織学的な特徴として,脳溝周辺に限局した大脳障害が挙げられる。この限局性について,メチル水銀による脳浮腫形成が重要であるとする“浮腫仮説”が提唱されている。Vascular endothelial growth factor (VEGF) は血管透過性を亢進させ浮腫形成を促進することから,メチル水銀による脳浮腫形成に深く関与している可能性が考えられる。本研究の目的は,脳微小血管周皮細胞のVEGF発現に対するメチル水銀の作用を明らかにすることである。
    【方法】培養ヒト脳微小血管周皮細胞にメチル水銀を曝露し,VEGF mRNAの発現を定量的RT-PCR法により検討した。
    【結果および考察】メチル水銀に曝露した周皮細胞において,濃度依存的なVEGF mRNAレベルの上昇が確認された。VEGFの発現誘導には細胞内cAMPの増大が関与することから,細胞内cAMPを増加させるagents,Adenylate cyclaseおよびPKA阻害剤を処理しVEGF mRNAの発現を検討した。その結果,高濃度のagentsによりメチル水銀によるVEGF mRNAレベルの上昇が抑制された。Adenylate cyclaseおよびPKA阻害剤においても同様にVEGF mRNAレベルの上昇が抑制された。また当研究室では,メチル水銀が内皮細胞においてEGFR,p38 MAPKのリン酸化を介してCOX-2の誘導を促進することを見出している。そこで,各因子の阻害剤を前処理すると,メチル水銀によるVEGF mRNAレベルの上昇が抑制された。以上の結果より,ヒト脳微小血管周皮細胞においてメチル水銀はEGFR/p38 MAPK/COX-2シグナルに介在されるcAMP/PKA経路の活性化によりVEGFを誘導し,血管透過性が向上することが示唆された。
  • 笹岡 智子, 吉田 映子, 山本 千夏, 鍜冶 利幸
    セッションID: P-68
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】水俣病患者における病理組織学的特徴の一つとして,大脳障害が深い脳溝周辺に限局して発生することが知られている。この限局性を説明する上で,メチル水銀による脳浮腫形成が原因であるとする“浮腫仮説”が提唱されているが,その分子基盤は未解明である。当研究室の先行研究において,糖代謝に関わるポリオール経路の活性化が,脳浮腫形成に至る要因である可能性を見出している。本研究の目的は,培養ヒト脳微小血管周皮細胞を用いて,ポリオール経路の律速酵素であるアルドース還元酵素のメチル水銀による発現誘導機構を明らかにすることである。
    【方法】培養ヒト脳微小血管周皮細胞をメチル水銀で処理し,浮腫性変化を形態学的観察で評価した。Nrf2,MAPKの活性化およびアルドース還元酵素の発現をWestern blot法で検出した。
    【結果および考察】メチル水銀を曝露した周皮細胞において,紡錘形から敷石状への細胞毒性浮腫様の形態変化が観察された。このとき,メチル水銀の濃度依存的なNrf2の活性化が認められた。そこでNrf2の発現を抑制したところ,メチル水銀によるアルドース還元酵素の誘導が顕著に抑制された。また,メチル水銀を曝露した周皮細胞において,p38 MAPKの活性化が認められた。さらに,p38 MAPKの阻害剤を処理すると,メチル水銀によるアルドース還元酵素の誘導が抑制される傾向が認められた。以上の結果から,メチル水銀を曝露した周皮細胞の浮腫性の形態変化に,Nrf2の活性化を介したアルドース還元酵素の発現誘導が関与すること,また,p38 MAPKの活性化もアルドース還元酵素の発現誘導に一部関与することが示唆された。
  • 田中 美帆, 栗田 賢, 吉田 映子, 山本 千夏, 鍜冶 利幸
    セッションID: P-69
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【背景】水俣病の原因物質であるメチル水銀は,大脳の深い脳溝周辺に傷害が局在することが知られている。この原因として,メチル水銀による脳浮腫形成と,二次的な微小循環障害が考えられる。線溶調節因子として組織型プラスミノーゲンアクチベーター(t-PA)とプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1型(PAI-1)があり,そのバランスの破綻は循環障害の要因となる。本研究の目的は,ヒト脳微小血管内皮細胞の線溶系に対するメチル水銀の作用を解明することである。
    【方法】メチル水銀を曝露した培養ヒト脳微小血管内皮細胞の線溶活性をフィブリンザイモグラフィーで検討した。t-PA mRNA発現を定量的RT-PCR法で,t-PAおよびPAI-1分泌量をELISA法で検出した。また,COX-2の発現誘導,MAPKおよびEGFRのリン酸化をWestern blot法にて検出し,PTP1B活性はELISA法を用いた。
    【結果・考察】内皮細胞においてメチル水銀は線溶活性を低下させた。このとき,PAI-1の分泌量は変化しなかったが,t-PA mRNA発現レベルおよびt-PA分泌量は低下した。t-PA分泌に関与するAdenylate cyclaseおよびPKAを阻害したところ,メチル水銀によるt-PA分泌の低下を抑制した。また,メチル水銀は内皮細胞からのPGI2合成を促進し,その合成に関わるCOX-2の発現が上昇した。さらに,COX-2発現誘導に関与するp38 MAPKがメチル水銀によって活性化され,その上流のEGFRも活性化した。また,EGFRの脱リン酸化酵素であるPTP1Bはメチル水銀によって阻害された。以上の結果より,内皮細胞においてメチル水銀はPTP1B/EGFR/p38 MAPK/COX-2シグナルを介してcAMP/PKA経路を活性化し,t-PAの発現を抑制することで,循環障害を引き起こすことが示唆された。
  • 藤江 智也, 村上 正樹, 吉田 映子, 山本 千夏, 藤原 泰之, 安池 修之, 鍜冶 利幸
    セッションID: P-70
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】有機-無機ハイブリッド分子の毒性は,その分子構造,含有金属および両者の相互作用に依存すると考えられるが,その詳細はよくわかっていない。本研究の目的は,トリフェニルアンチモンとそのフッ素誘導体および中心元素置換体の血管内皮細胞に対する毒性と蓄積性を調べ,有機金属化合物の細胞毒性の特性を探ることである。
    【方法】ウシ大動脈内皮細胞をコンフルエントまで培養し,triphenylstibane (Sb25),tris(4-fluorophenyl)stibane (Sb33),tris(3, 4, 5-trifluorophenyl)stibane (Sb49)およびtris(pentafluorophenyl)stibane (Sb35),ならびにSb35のアンチモンをヒ素およびリンで置換したtris(pentafluorophenyl)arsane (As35)およびtris(pentafluorophenyl)phosphane (P35)で24時間処理し,形態学的観察および乳酸脱水素酵素の逸脱によって細胞毒性を評価し,併せてICM-MSによって細胞内への蓄積を測定した。
    【結果・考察】ベンゼン環にフッ素原子を導入したSb33およびSb49の細胞毒性は親化合物のSb25よりも高かったが,さらにフッ素原子を多く導入したSb35では細胞毒性は消失した。Sb35よりもAs35の細胞毒性は高かったが,P35ではさらに高い細胞毒性が観察された。Sb33およびSb49の細胞内への蓄積はSb25よりも高かったが,Sb35の蓄積はこれらの有機アンチモン化合物に比べ有意に低く,As35はSb35よりも高蓄積性を示した。以上の結果は,有機金属化合物の内皮細胞毒性と細胞内蓄積性は,脂溶性や中心金属の種類からは単純に推測できないことを示している。
  • 今野 裕太, 中浴 静香, 吉田 映子, 藤原 泰之, 山本 千夏, 安池 修之, 鍜冶 利幸
    セッションID: P-71
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【背景・目的】有機-無機ハイブリッド分子は合成試薬として広く利用されてきたが,生命科学への貢献は皆無に等しい。当研究室では,有機ビスマス化合物(PMTABiおよびDAPBi)の強い細胞毒性がそのアンチモン置換体(PMTASおよびDAPSb)では消失することを見出した。また, これらの化合物に感受性低下を示す有機ビスマス化合物感受性低下細胞(RPB-1γ,RPB-2,RPB-3およびRDB-1細胞)を樹立した。本研究の目的は,有機ビスマス化合物の毒性発現機構の解明を目指し,有機ビスマス化合物の感受性と細胞内金属蓄積量の関係を明らかにすることである。
    【方法】チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO-GT細胞)および有機ビスマス化合物感受性低下細胞に,
    PMTABi,PMTAS,DAPBi,DAPSbを曝露し,形態学的観察を行うとともに,それぞれの化合物の細胞内蓄積量をICP-MSで測定し,Bi量またはSb量で評価した。
    【結果・考察】PMTABiの蓄積量は,CHO-GT細胞に比べ,20 µMまでは全ての耐性細胞において高かったが,50 µMではRPB-1γ,RPB-2およびRPB-3細胞への蓄積量はCHO-GTよりも低くなった。DAPBiの蓄積量は,CHO-GT細胞に比べ,50 µMまでRPB-3およびRDB-1細胞において高かった。しかしながら,RDB-1細胞へのDAPBiの蓄積量は50 µMまで濃度依存的であったが,RPB-3細胞では50 µMで減少した。RPB-2細胞には有機ビスマス化合物が蓄積しなかった。PMTABiを曝露して獲得したRPB-1γ,RPB-2およびRPB-3細胞がDAPBiに対しても耐性を示すことが確認された。アンチモン置換体は全ての細胞種において細胞内に蓄積せず,形態学的観察による細胞毒性も確認されなかった。以上より,有機ビスマス化合物の細胞毒性は,その細胞内蓄積量だけでなく,細胞種と有機ビスマス化合物の濃度によって異なるメカニズムが存在することが示唆される。
  • 岡崎 貴大, 中浴 静香, 吉田 映子, 藤原 泰之, 山本 千夏, 安池 修之, 鍜冶 利幸
    セッションID: P-72
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【背景・目的】有機-無機ハイブリッド分子は従来の有機・無機化合物とは異なる機能や性質を持つことから,生体機能解析ツールや創薬リード化合物としての活用が期待できる。その一方で,安全性確保のために,新たな「ハイブリッド分子の毒性学」の確立が必要となる。当研究室では,血管内皮細胞に対して有機テルル化合物(DPDTe)が高い細胞内蓄積と強い毒性発現を示すのに対し,その硫黄およびセレン置換体はそのような毒性や細胞内への蓄積や毒性を示さないことを見出している。本研究では,DPDTeの電子状態と細胞毒性の関連性を探るために,DPDTeの細胞毒性への置換基効果を調べた。
    【方法】ウシ大動脈由来血管内皮細胞に,有機テルル化合物DPDTeとそのp-位置換体4種(p-OMe基置換体,p-Me基置換体,p-Cl基置換体,p-Naphtyl基置換体)をそれぞれ処理し,形態学的観察,AlamarBlue-assayによるミトコンドリア活性の測定,ICP-MSによる細胞内テルル蓄積量の測定を行った。
    【結果・考察】DPDTeと比較して,p-MeO基置換体のみ細胞毒性が増強し,他の置換体(p-Me基,p-Cl基およびp-Naphtyl基)では毒性が減弱した。毒性の減弱の度合いは嵩高い構造(p-Naphtyl基)で最も顕著であり,次いで求電子性置換基(p-Cl基)において顕著であった。このことから,ジテルル化合物の細胞毒性は結合する分子構造の嵩高さだけでなく電子状態の影響を受けることが示唆された。細胞内金属蓄積量を測定した結果,これらの化合物のうち,細胞毒性の強いDPDTeおよびp-OMe基置換体で処理した細胞に高い蓄積が認められた。最も毒性の弱いp-Naphtyl基置換体は5つの化合物の中で最も低い蓄積量の値を示した。この結果から,毒性の強さと細胞内テルル蓄積量は全体として相関することが示唆された。
  • 鈴木 武博, Khaled HOSSAIN, 姫野 誠一郎, 野原 恵子
    セッションID: P-73
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【背景・目的】ヒ素およびヒ素化合物は国際がん研究機関がグループ1に分類する発がん物質である。中国、インド、バングラデシュなど東南アジアをはじめ世界各国で、天然由来の無機ヒ素の摂取による慢性中毒が発生し、大きな環境問題となっている。近年、無機ヒ素によるDNAメチル化変化などのエピジェネティック変化を介した生体影響が報告されている。DNAメチル化変化は、環境化学物質の曝露マーカーとしての応用可能性も期待されている。本研究では、様々な疾患との関連が報告されているLINE1に着目し、バングラデシュの住民の血液ゲノムDNAにおいてLINE1のDNAメチル化を測定し、ヒ素汚染地域と非汚染地域で比較検討した。 【実験】バングラデシュにおいて、ヒ素汚染が報告されている3地域の住民(男性39名、女性37名)と、ヒ素汚染が報告されていない1地域の住民(男性16名、女性16名)より毛髪、爪、血液、及び飲料水を収集した。また、年齢、BMI、喫煙の有無を聞き取り調査した。血液から調製したゲノムDNAをバイサルファイト処理し、LINE1領域のDNAメチル化率(LINE1メチル化率)をパイロシークエンサーで測定した。得られたメチル化率をヒ素汚染地域と非汚染地域で比較し、さらに、毛髪、爪、及び飲料水中のヒ素濃度との対応関係を調べた。 【結果・考察】男性、女性ともに、LINE1メチル化率は、非汚染地域と比較してヒ素汚染地域で有意に減少した。さらに、3つのヒ素汚染地域ごとにメチル化率を比較すると、ヒ素汚染の程度とLINE1メチル化率が対応することが明らかになった。また、LINE1メチル化率と、飲水中、及び毛髪、爪中のヒ素濃度との間に、有意な相関がみられることが明らかになった。一方で、LINE1メチル化率と、年齢、BMIとの間には、有意な相関はみられなかった。以上の結果から、血液のLINE1メチル化変化はヒ素曝露量と対応する可能性が示唆された。今後は、さらに検体数を増やし、疾患との関連も含めて詳細な解析をおこなう予定である。
  • 柳場 由絵, 須田 恵, 王 瑞生
    セッションID: P-74
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【背景】校正印刷工場の労働者に胆管がんが多発し、職業性胆管がんの発生は塩素系有機溶剤ばく露との関係が認められつつある。これまでの研究で、1,2-ジクロロプロパン(DCP)による急性肝毒性発現はCYP2E1により活性化されることを報告した。そこで、DCPはCYP2E1を介しどのような代謝物を産生するか、また、どのような代謝経路が推測されるかについて検討を行った。
    【方法】雄性の野生型(129sv)とCYP2E1遺伝子ノックアウト(CYP2E1-KO)型マウスを用い、DCP吸入曝露を行った。曝露条件は0, 100, 300, 500ppmの濃度条件で、6時間/日で5日間の曝露を行い、6日目は3時間の曝露後2時間に解剖し、血漿中肝機能値、尿中の代謝物について検討した。また、未処置の雄の野生型とCYP2E1-KO型マウスから肝臓を摘出し、ホモジネート、サイトゾル、ミクロソーム分画に分け、それぞれの分画とDCPを2分から60分間、37℃でインキュベートし、ヘッドスペースサンプラ法を用いて、GC/MSでDCPおよびその代謝物を測定した。
    【結果・考察】 肝機能値は野生型の500ppm曝露群で有意に上昇した。尿中代謝物量はどちらの遺伝子型マウスにおいても曝露により増加していた。また、肝ホモジネート及びミクロソーム分画では、1-Chloro-2-propanol濃度が野生型で時間とともに増加し、CYP2E1-KO型の各分画と比較すると有意差は無いが、野生型の方がタンパクあたりの濃度が高くなった。一方、サイトゾル分画は野生型、CYP2E1-KO型ともに検出限界値程度であった。以上の結果から、DCPの肝毒性を誘発する代謝物はCYP2E1による代謝による産物であることが示唆され、その代謝物の一つが1-Chloro-2-propanol であるかもしれない。一方、野生型だけでなくCYP2E1-KO型でもばく露濃度に比例して代謝物量の増加していたことから、代替経路が活性化している可能性が示唆された。
  • 梯 アンナ, 萩原 昭裕, 今井 則夫, 魏 民, 福島 昭治, 鰐渕 英機
    セッションID: P-75
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    本研究では、ラットにおける2-エトキシ-2-メチルプロパン(ETBE)の肝発腫瘍性機序(MOA)の解明を目指した。6週齢F344雄性ラットを用いて実験開始時より0, 300 及び2000mg/kg/day ETBE(i.g.)または 500ppm phenobarbital(PB)を投与し、ETBEとPB投与の肝臓を病理学的、生化学的ならびに分子生物学的に検索した。ETBE高用量及びPB投与の7日目及び14日目に、肝臓においてミクロゾーム分画のOH°が、P450 total content及び核の8-hydroxydeoxyguanosine (8-OHdG)形成レベルの上昇と細胞質におけるCYP2B1/2,3A1/2,2C6 mRNAと蛋白質の蓄積をともないながら、有意に上昇した。CYP2E1及びCYP1A1の誘導がETBE高用量投与群のみにみられた。高用量ETBE及び PB投与14日後ではアポトーシス指数の顕著な上昇が認められた。高用量ETBE投与 14日後では肝細胞においてペルオキシソームの増殖がみられた。また、ラットの肝臓において、ETBE高用量投与群で認められた蛋白質の過剰発現は主にCAR, PXR(PB投与群でより高度)及びPPARs(PB投与群では認めず)の活性化により誘導されていた。さらに、ETBE高用量投与3日目及び28日目に細胞増殖の有意な上昇が見られた。これらの結果は、ラットにおけるETBE肝発腫瘍性のMOAが、酸化的ストレス及び8-OHdG形成の誘導、それに続く、14日後での再生性細胞増殖を示唆する細胞周期停止及びアポトーシスと関連しており、主にCAR及びPXRの活性化によるものでありPBのMOAに類似していた。さらに、PPARsの活性化も関与していると考えられた。
  • 荻原 琢男, 井戸田 陽子, 加藤 多佳子, 矢野 健太郎, 荒川 大, 安竹 良礼, 宮島 千尋, 笠原 文善
    セッションID: P-76
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】アルギン酸(Alginic acid :Alg)は天然の藻類に含まれる多糖類であり,食品添加物や健康食品あるいは医薬品の原料として広く使用されている.また,そのナトリウム塩(Na-Alg)はストロンチウム(Sr)の体内取り込みを低減させ,体外排泄を促進する作用を有することが報告されている1,2).さらに我々は,アルギン酸のカルシウム塩(Ca-Alg)がSrのみならずセシウム(Cs)に対しても同様な効果を有することを明らかにした3).もし他の重金属においても同様な作用が認められれば,Algの重金属解毒剤としての有用性はさらに増すものと期待される.そこで本研究ではNa-Algと各種重金属との親和性を比較検討し,その吸着メカニズムを検討した.
    【方法】Na-Alg溶液に各種重金属の塩を加え,メンブランフィルターを用いて遠心分離した.ろ液の金属濃度を原子吸光法を用いて測定することにより,Algに吸着した金属濃度を算出した.各種金属濃度における結合濃度から,Double reciprocal plotを用いて各種金属の結合部位数n,結合定数Kを求め,親和性を検討した.それらの結果と各種重金属の価数,イオン半径などの物理的性質との相関性を検討した.
    【結果・考察】結合定数Kの値は,Srの値が最も大きかった.また,イオン半径がある一定領域の金属との親和性が高い傾向が認められ,各種重金属の物理的性質から,Algによる重金属の吸収抑制や排泄促進効果を類推できることが示唆された.これらの相関性が,今後重金属解毒剤としてのAlgの有用性を検証する上で有効な指標となることが期待される.
    1) 西村義一ら, Radioisotopes, 40, 244-247 (1991).
    2) Hesp R. et al., Nature, 5017, 1341-1342 (1965).
    3) Y. Idota, et al., Biol. Pharm. Bull., 36, 485-491 (2013).
  • 川畑 公平, 川嶋 洋一, 工藤 なをみ
    セッションID: P-77
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】フッ素化界面活性剤であるペルフルオロオクタン酸(PFOA)は難燃剤、乳化剤、撥水剤等に使用されてきたが、化学的に安定で環境中に残留し、また、ヒトにおける半減期が長いため、ヒトの健康への影響が懸念されている。PFOAをラットに投与すると、脂質代謝が広範に撹乱され、脂肪酸のβ酸化に関与する酵素が誘導されることが報告されている。一方で、ペルフルオロカルボン酸を投与すると肝臓にトリグリセリド(TG)が蓄積される。そこで本研究では、肝スライスを用いてPFOAにより脂肪酸のβ酸化が亢進するかを評価した。【方法】9週齢の雄性WistarラットにPFOA0.01% (w/w)含有飼料を1週間摂取させた。ラットより肝臓を採取し、precision cut sliceを調製し、Krebs-Henseleit buffer中で[14C]16:0また[14C]18:1n-9とインキュベートし、ex vivoで代謝物の生成速度を測定した。また、肝ホモジネートを用いて、in vitroでのミトコンドリアとペルオキソームのβ酸化活性を評価した。肝TGおよびリン脂質の量は、構成脂肪酸をGCで分析することにより定量した。【結果および考察】肝スライスを用いると、PFOA群における16:0および18:1n-9のβ酸化活性は、それぞれ対照群の約1.5倍、1.7倍に上昇した。ホモジネートを用いて評価したところ、16:0および18:1n-9のβ酸化活性はミトコンドリアでそれぞれ1.9倍、2.4倍、ペルオキソームでそれぞれ3.2倍、1.9倍に上昇した。PFOA群における肝臓中の総脂肪酸量は対照群と比較してむしろ有意に増加した。以上の結果より、PFOAを投与すると肝臓のβ酸化活性が上昇するにもかかわらず、肝臓中の脂肪酸量は低下しないことが明らかとなった。
  • 向井 大輔, 田中 亮太, 納屋 聖人, 林 真
    セッションID: P-78
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    農薬評価に必要な毒性試験として、急性毒性、皮膚刺激性、眼刺激性、皮膚感作性、急性神経毒性、急性遅発性神経毒性、反復毒性、反復経口神経毒性、反復経口遅発性神経毒性、1年間反復経口毒性、発がん性、繁殖毒性、催奇形性、変異原性試験などがある。食品安全委員会ではこれらの毒性試験成績を評価し、種差や個体差を配慮してヒトに対する健康影響評価を行い、ホームページでその結果を公表している。今回、これらの公表された評価書をもとに、イヌの1年間反復投与毒性試験成績がなくても、これまでと同様に一日摂取許容量(ADI)が設定できるかを推定した。
    イヌの1~2年間反復投与毒性試験(イヌ1~2年試験)をADI算出根拠とした化合物は32%を占め、これはラット2年間反復投与毒性試験(43%)に次いでADI算出根拠に多く使用されている。イヌ1~2年試験成績を用いない場合、イヌの3ヶ月間反復投与毒性試験(イヌ3ヶ月試験)成績が重要となるが、イヌ3ヶ月試験のNOAELは、イヌ1~2年試験のNOAELよりも52%の化合物で1.5倍を超えて高くなり、その中でも16%の化合物では5倍を超える程高い。
    ADIの算出にイヌ1~2年試験成績を用いない場合、およそ18%の化合物でADIが現在よりも高く算出されることになり、イヌ1~2年試験成績を用いた場合と同等のリスク管理水準を維持できなくなる。
    そこで、イヌ3ヶ月試験のNOAELを追加の安全係数で除してADI算出根拠として使用する方法を試みた結果、ADIが現在よりも高くなる化合物の割合は、追加の安全係数を3.5とした場合には5%以下、7とした場合には1%以下に抑えられたため、追加の安全係数を用いることによりイヌ1~2年試験成績を用いた場合と同等のリスク管理水準を維持できると考えられる。しかしながら、これによりADIが低くなる化合物数は増加するため、全体的には現在よりも厳しい規制となる弊害が生じることになる。
  • Dongkeon LEE, Hyun YOUK, Hyun KIM, Yongsung CHA
    セッションID: P-79
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    Purpose: Glufosinate poisoning can cause complications that may be difficult to treat due to their delayed manifestation. Studies assessing possible predictors of complications are lacking. Although serum ammonia level is a probable predictor of severe neurotoxicity, it has only been assessed via case reports. Therefore, we investigated factors that predict complications in acute glufosinate-poisoned patients.
    Materials and Methods: We conducted a retrospective review of 45 consecutive glufosinate poisoning cases that were diagnosed and treated in the emergency department of Wonju Severance Christian Hospital between May 2007 and July 2014. The patients were divided into a severe group, defined as patients with Glasgow Coma Scale (GCS)<8, seizure, amnesia, respiratory failure, shock, pneumonia, acute kidney injury, and death, while the non-severe group included patients with none of these complications.
    Results: The severe group included 29 patients (64.4%). The complications were GCS<8 (27 patients, 60.0%), seizure (23 patients, 51.1%), respiratory failure (14 patients, 31.1%), shock (2 patients, 4.4%), pneumonia (16 patients, 35.6%), acute kidney injury (10 patients, 22.2%), and death (4 patients, 8.9%), respectively. Initial serum ammonia was a predictor of complications [odds ratio 1.039, 95% confidence interval (1.001-1.078), p=0.046]. The optimal point for initial serum ammonia was 86 ug/dL [sensitivity: 72%, specificity: 64%, and area under the curve 0.742].
    Conclusion: Complications developed in 64.4% of patients with acute glufosinate poisoning. The most common complication was GCS<8. Initial serum ammonia level>86 ug/dL could be a predictor of complications that can be readily assessed in the ED for acute glufosinate-poisoned patients.
  • 大湊 祐加里, 三木 雄一, 立花 佳弘, 別府 正敏, 藤原 泰之
    セッションID: P-80
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】酸化LDLなどの変性LDLは、マクロファージ(MΦ)等の貪食細胞表面に存在するスカベンジャーレセプター等を介して細胞内に取り込まれる。我々はこれまでに、MΦの細胞表面に存在する多機能性タンパク質ヌクレオリンが変性タンパク質やアポトーシス細胞を認識し、それらの細胞内取り込みに関与することを見いだしている。今回、MΦによる酸化LDLの取り込みにおけるヌクレオリンの関与について検討した。
    【方法】native LDLを基に、酸化度の異なる低酸化LDLおよび高酸化LDLを調製した(TBA試験により確認)。リコンビナントヌクレオリン(rNUC)と各種LDLとの結合は、surface plasmon resonance(SPR)法により検討した。蛍光標識した各種LDLとチオグリコレート誘導マウス腹腔マクロファージ(TG−MΦ)との結合性は、フローサイトメーターを用いて測定した。TG−MΦにより貪食された蛍光標識LDLの細胞内蓄積は、共焦点レーザー蛍光顕微鏡により観察した。
    【結果および考察】SPR法により高酸化LDLはrNUCと結合することが確認されたが、native LDL並びに低酸化LDLのrNUCとの結合は認められなかった。蛍光標識高酸化LDLはTG−MΦと濃度依存的に結合したが、native LDLと低酸化LDLではほとんど結合が認められなかった。また、高酸化LDLはMΦに貪食され、細胞内に蓄積されることが確認された。さらに、蛍光標識高酸化LDLとTG−MΦとの結合はヌクレオリンアプタマーであるAntineoplastic Guanine Rich Oligonucleotideおよび抗ヌクレオリン抗体の共存により阻害された。以上の結果は、ヌクレオリンが高度に酸化されたLDLに対してスカベンジャーレセプターとして機能することを示しており、MΦの泡沫化を介した動脈硬化症の発症にヌクレオリンが関与する可能性が示唆された。
  • 来栖 花奈, 小山 佳祐, 三木 雄一, 別府 正敏, 藤原 泰之
    セッションID: P-81
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】ヌクレオリンは、核、細胞質、細胞表面に存在する多機能性タンパク質である。先に我々は、ヌクレオリンがマクロファージ表面でスカベンジャーレセプターとして機能する可能性を見いだしている。本研究では、スカベンジャーレセプターの代表的リガンドであるマレイル化BSAを用い、それに対するマクロファージ表面ヌクレオリンのスカベンジャーレセプター活性について検討した。
    【方法】リコンビナントヌクレオリンとマレイル化BSAとの結合をsurface plasmon resonance(SPR)法で確認した。蛍光標識したマレイル化BSAとチオグリコレート誘導マウス腹腔マクロファージ(TG-MΦ)の結合およびヌクレオリンを高発現させたHEK293細胞との結合をフローサイトメーターでそれぞれ評価した。TG-MΦ内への蛍光標識マレイル化BSAの蓄積を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
    【結果・考察】SPR法において、native BSAはほとんど結合性を示さなかった(ka:2.86、kd:1×e-5、KA:2.85×e5)が、マレイル化BSAとリコンビナントヌクレオリンが強く結合することが確認された(ka:763、kd:8.39×e-6、KA:9.09×e7)。蛍光標識マレイル化BSAは、TG-MΦに結合することが確認されたが、この結合は、抗ヌクレオリン抗体およびヌクレオリンアプタマーであるAGROにより阻害された。HEK293細胞にヌクレオリンを高発現させることにより、蛍光標識マレイル化BSAの結合量が増加した。共焦点レーザー顕微鏡により、TG-MΦ内に蛍光標識マレイル化BSAが取り込まれていることが確認された。これらの結果は、マクロファージ表面ヌクレオリンがマレイル化BSAに対するスカベンジャーレセプターとして機能していることを示している。
  • 横川 梨那, 桜井 亮, 日暮 秀成, 藤野 智史, 早川 磨紀男
    セッションID: P-82
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    癌細胞のみに毒性をおよぼし、正常細胞にダメージを与えない治療手段の開発は必要である。今回、我々は癌細胞特異的にCDK inhibitor p21/Cip1の発現を増大させ、癌細胞増殖を抑制し得る生体内因子を探索する過程で、抗老化因子SIRT1のノックダウンによって、p21/Cip1のレベルが一旦増大するもののその後低下し、癌細胞増殖抑制効果が減弱する現象を見出した。このp21/Cip1レベル低下を引き起こす機構を解明して癌細胞選択性を高める一方で、癌細胞が、自らを死に追いやるp21/Cip1 を低下させる、いわば自己保存機能を有する可能性についても検討し、新たな癌治療戦略を見出すことを目的とする。
    ヒト腎癌細胞株 ACHNにおいて SIRT1に対するsiRNAを用いてSIRT1をノックダウンしたところ、ノックダウン後24hではp21タンパクレベルが増大したが、その後低下した。p21のmRNAレベルはSIRT1のノックダウンによって変化しなかった。一方、正常腎細胞由来細胞株 HK-2においてはSIRT1 をノックダウンしても p21 レベルは全く変化しなかった。次に、ACHNにおいてSIRT1 のノックダウンによって一旦増大した p21 タンパクが低下するメカニズムを明らかにするため、p21 レベルがp21自身のプロテアソーム分解に影響を及ぼす可能性について検討した。ACHNにおいてp21をノックダウンした際のプロテアソーム活性化因子PA28の発現レベルを調べたところ、p21のノックダウンによってPA28レベルが低下していた。
    p21レベルと自身を分解するプロテアソーム活性とは正の相関関係にあり、ヒト腎癌細胞株 ACHNにおいてSIRT1をノックダウンするとp21レベルが増大するが、増大したp21がプロテアソーム活性を低下させ、p21レベルを低下させると考えられる。
  • 新開 泰弘, 三浦 高, 掛橋 秀直, 赤池 孝章, 熊谷 嘉人
    セッションID: P-83
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】我々は最近、生体内における過硫化物や多硫化物に代表される活性イオウ分子種産生の実態を明らかにした。1) 本発見より、SH基付加反応を介して親電子物質の代謝に重要な役割を担っていることが予想された。本研究では、大気中親電子物質である1,2-ナフトキノン(1,2-NQ)が活性酸素種(ROS)を産生する性質を持つことに着目し、活性イオウ分子とROSが介在する可逆的な親電子シグナルの活性化を明らかにすることを目的とした。1) Ida T et al., PNAS, 111: 7606-7611 (2014)【結果・考察】A431細胞を1,2-NQH2-SHの前駆体である1,2-dihydroxynapthalene-4-thioacetate (1,2-NQH2-SAc)に曝露すると、このものは細胞内で速やかに水解して1,2-NQH2-SHに変換され、ROSの産生が増加した。1,2-NQH2-SAcはジメドンと反応して複合体を形成したことから、水解反応で生じた1,2-NQH2-SH はROSにより容易に酸化されて、SOH体に変換されることが示唆された。そこで1,2-NQH2-SAcとタンパク質との反応性を検討したところ、結果的に生成した1,2-NQH2-SOHは、リコンビナントKeap1タンパク質のCys171との脱水反応を介して付加体を形成した。このS-S結合を介した化学修飾はグルタチオン(GSH)の処理によって解除された。これと一致して、1,2-NQH2-SAc曝露によりKeap1を含むA431細胞中タンパク質は可逆的な化学修飾を受け、一過性の転写因子Nrf2の活性化とそれに伴う下流タンパク質xCTおよびHO-1の誘導を引き起こした。以上より、酸化ストレス条件下において、親電子物質のSH付加体によるスルフェン酸の生成を介した可逆的な親電子シグナル伝達経路が存在することが示唆された。
  • 鵜木 隆光, 新開 泰弘, 熊谷 嘉人
    セッションID: P-84
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】私たちを取り巻く環境中化学物質には親電子物質に類される一群が存在する。これらは分子中に電子密度の低い部位を持つゆえ、電子密度の高いタンパク質のチオール基に容易に共有結合し、付加体を形成する(親電子修飾)。したがって生体への環境中親電子物質の曝露によりタンパク質の親電子修飾が過剰に行われると、被修飾タンパク質の担う細胞機能が破綻する。これが環境中親電子物質の毒性要因と目されている。一方で、環境中親電子物質の親電子性を奪い無毒化することで細胞保護作用を発揮する内在性求核性物質が存在するのだろうか。近年、イオウ転移酵素であるCSE、CBSにより活性イオウ分子と称される多彩な分子群が生体内で産生されることが明らかとなった。活性イオウ分子に特徴的な化学的特性として、極めて高い求核性がある。そこで本研究では環境中親電子物質のモデルとして1,4-ナフトキノン(1,4-NQ)、活性イオウ分子のモデルとしてポリスルフィドであるNa2S4を用い、環境中親電子物質による細胞毒性に対する活性イオウ分子の生体保護作用を検証した。
    【結果・考察】マウス初代肝細胞を1,4-NQに曝露すると、濃度依存的な内在タンパク質の親電子修飾と細胞死の増加が引き起こされたが、これらはNa2S4の同時処理により顕著に軽減された。このことから、1,4-NQがNa2S4と反応し、無毒化された代謝物へと変換されることが予想された。そこで1,4-NQとNa2S4を混合し、LC-MSにてその反応生成物を解析したところ、種々のイオウ付加体の形成が確認された。このことから、Na2S4はその高い求核性により1,4-NQと容易に反応することでその親電子性を奪い無毒化をもたらすと考えられ、活性イオウ分子による環境中親電子物質の捕獲が示唆された。
  • 菅野 裕一朗, 呉 由貴, 白石 光, 井上 義雄
    セッションID: P-85
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】核内受容体constitutive androstane receptor(CAR)は、様々な環境化学物質や医薬品などの生体外異物をリガンドとして、異物の代謝などで重要な役割を果たしている。しかしながら、CARの機能調節機構はまだ明らかになっていない部分が多い。我々はこれまでに、新規CAR結合タンパク質としてDEAD-box型RNAヘリカーゼDP97及びタンパク質アルギニンメチル化酵素Protein arginine methyltransferase (PRMT) の一つであるPRMT5を明らかにしてきた。これらのタンパク質はCARのco-activatorとして作用するが、CARの転写活性化作用に対する寄与度に遺伝子選択性が認められる。したがって、CARの標的遺伝子であるCYP2B6やCYP3A4の誘導はCARのcofactorの発現量や活性によって影響を受けることが示唆される。 本研究では、CARによる転写調節機構を明らかとするため新規CAR結合タンパク質の同定及びその相互作用の解析を行った。
    【方法】pEBMulti puro/FLAG-hCAR プラスミドをトランスフェクションしたHepG2細胞をPuromycin でセレクションし、FLAG-hCAR 安定発現株を樹立した。培養後、細胞溶解液を抗FLAG 抗体マグネットビーズにより免疫共沈降を行い、FLAGペプチドを用いて溶出した。回収した上清中のタンパク質を質量分析法により同定した。
    【結果・考察】pEBMultipuro/FLAG-hCAR プラスミドを導入しセレクションした細胞株は、ウエスタンブロット法によりFLAG-hCAR タンパク質が安定的に発現していることが確認できた。免疫共沈降後の溶出液中には、CAR と結合することが知られているHsp90 やHsp70 が含まれていた。さらに、エピジェネティクス制御で重要な働きをしているクロマチン構造変換因子SWI/SNF 複合体に存在するBRMやBRG1など様々なタンパク質が含まれていた。現在、CARによる転写活性化に関与が予想されるタンパク質のCAR に対する作用について評価を行なっている。
  • 荒川 友博, 廣岡 拓麻, 杉山 貴洋, 荻野 泰史, 奥野 智史, 上野 仁
    セッションID: P-86
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】アレルギー性疾患には酸化ストレスの関与が示唆されていること、アレルギー性疾患患者において血中セレン濃度の低下が報告されていることから、抗酸化能をもつセレンの摂取がアレルギー性疾患の予防につながることが期待される。本研究では、セレン化合物の一つであるセレノメチオニン(SeMet)を用い、即時型アレルギー反応に対するSeMetの影響を検討した。
    【方法】雌性BALB/cマウスにovalbumin(OVA)と水酸化アルミニウムゲル(alum)を用いて感作し、SeMetあるいは生理食塩水を2週間経口投与した。その後、能動皮膚アナフィラキシー(ACA)反応を惹起し、惹起30分後の耳介における色素漏出量を測定するとともに、血漿、脾臓および肝臓を採取した。また、脾細胞を単離し、OVA存在下72時間培養した後、培養上清中サイトカイン産生量をELISA法により測定した。
    【結果および考察】ACA反応はSeMet投与により抑制された。血漿中OVA特異的IgE量はSeMet投与により対照群と比較して低下した。脾臓中のTh2サイトカインであるIL-4、IL-10およびIL-13 mRNA発現量はSeMet投与により対照群と比較して低下し、Th1サイトカインであるIFN-γ mRNA発現量は対照群と比較してSeMet投与により増加した。肝臓におけるセレノプロテインP mRNA発現量はOVA/alum処理により増加した。脾細胞培養上清におけるIL-4およびIL-13産生量は対照群と比較してSeMet投与群において低く、IFN-γ産生量はSeMet投与群において対照群よりも高かった。以上のことから、SeMetは、OVA特異的IgE量の低下、IL-4、IL-10およびIL-13産生の低下、IFN-γ産生の増加を介して、ACA反応を抑制することが示唆された。
  • 堀江 祐範, 田部井 陽介, 杉野 紗貴子, 中島 芳浩, 吉田 康一
    セッションID: P-87
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    金属酸化物ナノ粒子は、最も多く生産され、工業利用されているナノ粒子である。金属酸化物ナノ粒子の中には、細胞毒性や吸入時に呼吸器で炎症誘発を示すなど、有害性が報告されているものが多数あるが、すべての金属酸化物ナノ粒子が有害性を示すわけではない。また、有害性を示すナノ粒子であっても、産業利用においては有用なものも少なくないことから、ナノ粒子の毒性を把握してリスク管理の下で有効に利用することが望ましい。近年の研究で、金属酸化物ナノ粒子の細胞毒性には、ナノ粒子からの金属イオンの溶出が重要であるとの知見が得られている。Zn2+やCu2+などの金属イオンを溶出するZnOやCuOナノ粒子では強い細胞毒性が認められる一方で、MgOなどはMg2+を溶出しても細胞影響は小さく、「金属イオンが溶出する」ことと「溶出する金属種」によってナノ粒子の細胞影響が決定する。メタロチオネインは細胞内において金属と結合し、金属毒性の消去に働くタンパク質として知られている。メタロチオネイン(MT)は、有害な金属イオンの存在下で発現が亢進されることから、金属酸化物ナノ粒子の有害性マーカーとして有用ではないかと考えた。A549細胞を用い、はじめに細胞で高発現しているMT2の金属応答性を検討したところ、特にCd、Zn、Cuで発現の上昇が認められた。一方、Ni、Y、Mgでは発現の上昇は小さかった。次に、金属酸化物ナノ粒子をA549細胞に投与し、MT2の発現を検討した結果、ZnO、CuOナノ粒子で発現の上昇が認められた。NiO、MgOでの発現上昇は認められないか、ごくわずかであった。MT2の上昇は細胞生存率のほか、IL-8やHO-1遺伝子の発現とも一致していた。これらの結果から、MT2は金属酸化物ナノ粒子の有害性マーカーとして有用であると考えられた。
  • 清水 雄貴, 吉岡 靖雄, 森下 裕貴, 瀧村 優也, 難波 佑貴, 柳原 格, 東阪 和馬, 堤 康央
    セッションID: P-88
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    胎盤は、物質の母体‐胎児循環を制限することで、胎児を化学物質の曝露から守る役割を担う。しかし化学物質の中には、血液胎盤関門を通過するだけでなく、胎児の発生・発育不全等を誘発するものも確認されている。従って、新規物質の安全確保に向けて、血液胎盤関門の突破能や胎児への影響の評価が重要である。一方で近年、食品や医薬品、化粧品等に汎用されているナノマテリアル(NM)の中にも、血液胎盤関門を通過し胎仔へ移行するもの、また胎仔の発育不全を誘発する可能性を有すものの存在が、動物実験等により確認されている。しかし、NMの血液胎盤関門の通過機構は不明であり、NMの妊娠期における動態特性の把握に向けた情報が不足している。そこで本検討では、NMの血液胎盤関門の通過機構の解明に向け、NMが血液胎盤関門の透過性に与える影響について検討した。本検討では、医療分野等で用いられているNMである金ナノ粒子を用いた。これまでに胎仔への移行を明らかとしている粒子径10 nmの金ナノ粒子(nAu10)を、妊娠15日のBALB/cマウスに尾静脈内投与した。24時間後にEvans Blue(EB)を投与し、5時間後に帝王切開し、母体の血漿、胎盤、卵黄嚢および胎仔を回収した。胎盤、卵黄嚢および胎仔を観察したところ、nAu10投与群では対照群と比較して、EBが血液胎盤関門を通過し、胎仔側により多く漏出している様子が確認された。また、血液胎盤関門は炎症や組織傷害によって透過性が亢進する可能性が考えられるが、炎症、胎盤傷害の指標として胎盤中IL-1α、血中sFlt-1を測定したところ、nAu10投与群と対照群間に有意な差は認められなかった。従って、胎盤の病理学的解析など、より詳細な検討が必要であるが、nAu10は胎盤に炎症や組織傷害を誘発しない投与量において、血液胎盤関門の透過性を亢進させる可能性が示された。今後は、nAu10が血液胎盤関門の透過性を亢進させる機構を詳細に検討していく予定である。
  • 丸 順子, 遠藤 茂寿, 藤田 克英
    セッションID: P-89
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の安全性を検討する上で, SWCNTの体内動態(吸収,分布,代謝,排泄)を調べることは重要である。しかしながら、生体試料中の炭素成分と分離してSWCNTを定量するには、多くの課題が残されている。本研究では,吸入されたSWCNTの肺から他臓器への移行と蓄積の動態を把握することを目的に,脾臓内のSWCNT含有量の測定方法について検討した。演者らは肺組織に投与したSWCNT含有量を分光学的に測定する方法を確立しているため,脾臓についても同様な方法を適用した。SWCNTの測定では,肺と同様に脾臓の影響を排除する必要があるため,脾臓の酵素分解条件について検討した。50 mlのバイアル中に小片化した脾臓を入れ,タンパク質分解酵素Proteinase Kを500 µl,及び,ドデシルリン酸Na(SDS)を625 µl,それぞれ脾臓100 mgに対して添加した。37℃~50℃に温度制御した超音波槽(BRANSON 5510-MT; 70W, 42KHz)にバイアルを入れ,超音波照射下で1~5時間脾臓の分解を行い,分解液の紫外・可視域の吸光度を測定(島津製作所, UV-2550)した。この結果,500 nm付近及び600-650 nmに脾臓中の血液成分によると思われる吸収が認められたため、これらの吸光度を低下する方法として,脾臓を分解後,分解液に漂白剤を添加した。これによりその吸収が抑制され,700~800 nmにおける吸光度が非常に小さくなることを確認した。次に,3~60 µgのSWCNTを含む脾臓約400 mgのProteinase Kによる分解を,上記と同様に超音波槽内で行った。3時間超音波処理した分解液に漂白剤を同量添加後,700~800 nmの吸光度を測定し,予め求めておいたSWCNTの濃度検量線からSWCNTの含有量を算出した。その結果,添加したSWCNT質量と測定された質量の誤差は,添加量15~60 µgについて約1%~10%であり,本方法が脾臓中の SWCNT含有量評価に有効であることを確認した。本研究は,(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託研究「低炭素社会を実現する革新的なカーボンナノチューブ複合材料開発プロジェクト」によるものである。
  • 田中 翔, 佐伯 雄輔, 小田桐 由加里, 名波 加奈, 伊藤 圭一, 竹原 広, 土屋 舞, 田中 亮太, 納屋 聖人, 林 真
    セッションID: P-90
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    近年、ナノ領域の発展により、ナノ粒子の生殖発生に対する関心が高まっている。ナノ粒子は呼吸器からの吸収が懸念され、生殖発生毒性試験ではマウスなどの妊娠動物に対する気管内投与試験が求められる。一般に、気管内投与は麻酔下で行われ、器官形成期を通じた投与では複数回の麻酔が必要となる。しかし、妊娠マウスに対する複数回麻酔または気管内投与手技による影響に関する基礎的な知見は少ない。そこで我々は、ICR系妊娠マウスに対して複数回の麻酔または気管内投与を行い、母動物および胎児の発育に及ぼす影響を観察した。
    無処置群、麻酔群および媒体投与群として、1群あたり18匹の妊娠マウスを割り当てた。交尾成立日を妊娠0日とし、妊娠6、9、12および15日に、麻酔群にはイソフルラン麻酔を、媒体投与群にはイソフルラン麻酔下で0.1%CMC-Na含有リン酸緩衝生理食塩液を気管内投与した。いずれの群も妊娠17日に開腹して子宮内検査を行った。
    その結果、妊娠黄体数、着床数、生存胎児数、死亡胚・胎児数、胎盤重量、胎児体重および性比に3群間で差はみられなかった。媒体投与群では肺重量が高値を示し、胎児3例(母動物2例)に足および尾の外表異常が観察された。外表異常がみられた母動物では、他の母動物に比べて気管内へのゾンデ挿入時間の延長(酸素供給量の減少)が疑われたが、異常発現と酸素量の関係については不明であった.
    以上のことから、妊娠マウスに対して複数回にわたりイソフルラン麻酔を行う場合,母動物および胎児に対して影響はないと考えられた。また、同麻酔下で気管内投与を行う場合、投与時の負荷(酸素供給量など)に配慮することで母動物および胎児に対して影響はないと考えられた。気管内投与の場合、投与者の熟練度によって母動物への負荷に差が生じることから、この負荷(特に呼吸状態の劣悪化)が及ぼす母動物および胎児への影響について現在検討中である。
  • 藤谷 知子, 猪又 明子, 小縣 昭夫, 安藤 弘, 久保 喜一, 中江 大, 広瀬 明彦, 西村 哲治, 池田 玲子
    セッションID: P-91
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    マウスにおける多層カーボンナノチューブの胎仔毒性を、6種のサイズの異なる製品間で比較した。妊娠9日に、多層カーボンナノチューブ(WS、N、M、WL、SD-1、T)の4mg/kg体重を母体の腹腔内に投与した。投与後2時間の母体の直腸体温を測定し、尾静脈から数μLを採血し、塗抹標本を作製して白血球のサブタイプを計数した。残りの血液を凍結保存し、インターロイキン-6(IL-6)と単球走化性因子(MCP-1)をELISA法で測定した。妊娠18日に、胎仔の生死と母体の白血球数・主要臓器重量を測定した。
    最も短いW(0.5‐2μm)および最も長いT(数10‐数100μm)は、母体および胎仔に影響を及ぼさなかった。中間の長さのWL(5‐20μm)およびSD-1(平均6μm)は、投与後2時間の母体の体温低下を引き起こし、胎仔死亡を増やす傾向が見られた。同じく中間の長さのN(1‐4μm 51%、5‐20μm 47%)およびM(1‐4μm 42%、5‐20μm 54%)は、母体体温の著しい低下と生存胎仔の著しい低下(N:0%およびM:41%)、白血球数(特に好中球)の増加と脾臓重量の増加を引き起こした。投与後2時間のIL-6およびMCP-1の母体血中濃度は、WS群とT群でやや上昇傾向、WL群とSD-1群で上昇傾向を示したが対照群と有意差はなく、N群およびM群では著しく(対照群に比べて有意に)上昇していた。
    以上の結果から、多層カーボンナノチューブのマウス胎仔への影響は、母体の白血球(好中球)増加、サイトカイン血中濃度の上昇、脾臓重量の増加などの炎症性の反応と密接な関係があると示唆された。
  • 半田 貴之, 吉岡 靖雄, 平井 敏郎, 西嶌 伸郎, 和泉 夏実, 東阪 和馬, 堤 康央
    セッションID: P-92
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    ナノマテリアル(NM)は、様々な製品に汎用されている一方、その潜在的なハザードに関する報告が多数なされている。しかし、これらハザードが、微小化に起因する比表面積の増大等により、素材そのものが本来有する毒性が顕在化しやすくなっているのか、或いはNM特有の新たな機序で誘導されているのかは解明されていない。本観点から我々は、昨年の本会にて報告したように、粒子径10~1000 nmの非晶質シリカを用い、粒子径と生体影響の連関を精査することで、ナノサイズ特異的な毒性の存在を検証してきた。その結果、粒子径の減少に伴い、凝固障害や肝障害が強く誘導される一方で、50 nm付近の粒子径をピークとして一過性の体温低下が誘導されることを見出した。本知見は、サイズ依存的に誘導されるハザードだけでなく、特定のナノサイズにおいて特に増強される、ナノサイズ特異的なハザードも存在する可能性を示している。そこで本検討では、ナノサイズ特異的なハザードの機序の解明に向け、血液凝固に必須であり、体温低下にも関与し得る血小板の急性毒性への寄与に関し、基礎情報を収集した。初めにC3H/HeNマウスへ抗血小板血清を投与し、血小板を枯渇させた。その後、過去の検討において凝固障害と肝障害を最も強く誘導した粒子径10 nmのシリカ(nSP10)および、体温低下を最も強く誘導した粒子径50 nmのシリカ(nSP50)を静脈内投与し、各粒子による急性毒性を解析した。その結果、nSP10誘導性の肝障害が、血小板の非存在下において有意に緩和された一方で、その影響はnSP50投与群では観察されなかった。また、nSP50誘導性の体温低下に関しても、血小板の非存在下で緩和される傾向が確認された。従って、少なくともnSP10誘導性の凝固障害が肝障害の誘導に関与すると共に、nSP50誘導性の体温低下の誘導にも血小板が関与していることが示唆された。今後、肝臓へのシリカの移行量に着目して、機序を精査していく。
  • 和泉 夏実, 吉岡 靖雄, 平井 敏郎, 西嶌 伸郎, 半田 貴之, 東阪 和馬, 堤 康央
    セッションID: P-93
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    金属アレルギーは、金属イオンへの曝露により引き起こされると考えられてきたが、イオンを単に曝露するのみでは、マウスにおいて金属アレルギーが誘導されにくいことが知られている。このような中、我々は、金属から自然生成することが報告されているナノ粒子に着目し、金属ナノ粒子への曝露が、金属に対する感作を効率よく誘導できることを明らかとしてきた。本検討では、モデル金属ナノ粒子として銀ナノ粒子(nAg)を用いた金属アレルギーモデルについて、金属アレルギー病態の形成に関わる細胞種の同定を試みた。まず、本モデルの病態形成における、CD4、CD8T細胞の寄与を評価した。nAgをLPSと共に足蹠に投与することで、銀への感作を成立させたnAg感作マウスに、CD4、CD8に対する中和抗体を投与した。その24時間後、再度nAgを耳介皮内に投与した際の耳介の腫れを指標として、CD4、CD8T細胞のアレルギー病態への関与を評価した。その結果、CD4の中和抗体投与群のみ、アレルギー性の耳介の腫れが消失し、CD4T細胞が、病態形成に重要であることが示された。次に、CD4T細胞のうち、どのようなサブセットが病態形成に重要であるのかを調べるため、nAg感作マウスの脾細胞を、nAgで再刺激した後の、サイトカイン産生をin vitroにて測定した。その結果、Th1型のIFN-γやTh2型のIL-4、5は検出できなかった一方で、IL-17Aのみが、nAgの濃度依存的に誘導されることが示された。従って、本モデルでは、Th17が病態形成に関わっていることが示唆された。ヒトの金属アレルギー病態の病理所見において、CD4T細胞の浸潤が多いこと、IL-17産生細胞が存在することが報告されている。従って、ヒトにおいても、Th17が病態形成に中心的役割を担っている可能性が示された。今後は、本モデルにおけるTh17の誘導機序を調べることで、ヒト金属アレルギー発症の機序解明を目指したい。
  • 真木 彩花, 東阪 和馬, 西川 雄樹, 吉岡 靖雄, 堤 康央
    セッションID: P-94
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    ナノマテリアル(NM)が、食品分野などの多くの分野で普及し、我々の生活に身近なものとなっている。特に、ナノ銀粒子(nAg)は高い消臭・抗菌効果が期待され、消臭剤や衣類に多く含まれている最も身近なNMである。NMは同じ物質でも従来の素材とは大きさが異なることから、予期せぬ生体影響をおよぼす可能性が指摘されており、NMの安全性評価に関する研究が進められている。一方で近年、環境中の微粒子がエピジェネティクス作用を介して、生体に負の影響をおよぼす可能性が注目され始めており、NMでも同様の作用を示すことが明らかとされつつある。エピジェネティクスは、後発的な影響のみならず、経世代的影響をも誘発し得ることから、NMの安全性評価においても重要な課題となっているものの、それらに関する知見は未だ少ないのが現状である。そこで本研究では、エピジェネティクスで代表的なDNAメチル化に焦点をあて、最も身近なNMであるnAg曝露によるDNAメチル化酵素(Dnmt1)発現への影響を解析した。ヒト肺胞上皮細胞株にnAg、銀イオン(Ag+)をそれぞれ添加し、24時間培養した。nAgは培養液中で徐々にイオンを放出することから、Ag+添加群とnAg添加群との比較で、放出されたイオンの影響を評価した。培養後、細胞を回収しウェスタンブロットによりDnmt1の検出を試みたところ、nAg添加群において、Dnmt1の発現量の減少が認められた。また、Ag+添加群においてもDnmt1の発現量の減少が認められたが、nAg添加群ほどの減少は認められないことが明らかとなった。これらの結果より、nAg曝露によるDnmt1の発現量の減少は、nAgが放出するAg+の作用のみならず、nAg自身の作用によって引き起こされていることが示唆された。今後は、様々な粒子径のnAgを用いた検討や、イオンを放出しない非金属ナノ粒子である非晶質ナノシリカを用いた検討を行い、粒子径や物性の違いによりDnmt1発現量への作用に差が生じないか評価していく予定である。
  • 宮島 敦子, 河上 強志, 小森谷 薫, 加藤 玲子, 新見 伸吾, 伊佐間 和郎
    セッションID: P-95
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】ナノマテリアルの生体影響には、化学組成に加えて、形状、粒子径、凝集状態、表面積、表面荷電など、様々な物理化学的要因が関与している。本研究では、物性の異なるZnOナノマテリアルを用いて、in vitro 培養細胞評価系により、細胞毒性、遺伝毒性及びサイトカイン産生等の細胞応答について比較検討した。
    【方法】物理化学的性質の異なるZnOナノマテリアル分散製品を対象として、懸濁液中での平均粒子径、粒径分布及びゼータ電位等を動的光散乱法にて測定した。ZnOナノマテリアルをヒト肺がん由来細胞株A549及びヒト血球系細胞株THP-1に暴露し、細胞応答を測定した。
    【結果と考察】2種類のZnO分散製品(Sigma-Aldrich及びNanoTeK Alfa Aesar)は、一次粒子径がそれぞれ <35 nm, 40 nm、水懸濁液中(10 mg/mL)での平均粒子径は、それぞれ66 nm, 165 nm、ゼータ電位は44.9 mV, -7.5 mVであった。A549細胞に対する細胞毒性及び遺伝毒性を比較したところ、ZnO(Sigma)はZnO(Alfa)よりも強い細胞毒性を示したが、遺伝毒性はZnO(Alfa)の方が強く、両ZnO間で細胞毒性と遺伝毒性の強度に関連はなかった。THP-1細胞の場合でもZnO(Sigma)は強い細胞毒性を示し、そのサイトカイン(IL-8)産生量は、100 μg/mL処理までZnO(Sigma)の方が多かった。更に、A549細胞において細胞毒性発現時のATP及びGSH含量の変化を比較した結果、ATP及びGSH含量はZnO(Alfa)の方が緩やかに減少し、これらの細胞応答の違いが毒性強度の差に関与していると考えられた。
  • 磯田 勝広, 大坊 萌美, 油科 香里, 平 裕一郎, 平 郁子, 吉岡 靖雄, 堤 康央, 石田 功
    セッションID: P-96
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】現在まで、ナノマテリアル研究は機能面に焦点が当てられてきたが、最近マクロマテリアルでは毒性を示さない素材がナノマテリアル化に伴い組織傷害性を発揮することが示され、ナノマテリアルの安全性評価の必要性が認識され始めている。粒子径が100nm以下のナノ白金粒子(snPt)は、抗酸化作用、抗菌作用などに優れているため食品分野、衣料品分野などにおいて実用化されている。本研究では、snPtによる急性肝・腎毒性のメカニズムの検討と、snPtと肝障害を誘導する化学物質である四塩化炭素、シスプラチンとの薬物相互作用を検討した。【方法】8週齢雄性BALB/cマウスに一次粒子径1nmのサブナノ白金粒子(snPt1)と粒子径8nmのサブナノ白金粒子(snPt8)をそれぞれ最大用量20,15,10,5,1mg/kgで尾静脈から単回投与し、投与24時間後に血清を採取した。また、snPt1 とsnPt8をBALB/cマウスに投与し、投与後3、6時間後に血清中より各種サイトカインを測定した。次にマウスにsnPt1とsnPt8を尾静脈から投与し、同時に四塩化炭素(0.01ml/kg)またはシスプラチン(100µmol/kg)を腹腔内に投与し、薬物相互作用の検討を行った。薬物相互作用を評価するため血清中のALT・AST活性値とBUN値を測定し、さらにメカニズムを検討するために生体内酸化ストレスの指標である8-OHdGを測定した。【結果および考察】snPt1とsnPt8を各々単独でBALB/cマウスへ単回投与した結果、snPt1を投与したマウスはALT値、AST値とBUN値が上昇し、肝障害と腎障害が観察され、さらに血清中のIL-6とIL-1βが上昇した。次にsnPtの薬物相互作用を検討した結果、snPt1と四塩化炭素またはシスプラチンを投与群はALT値、AST値とBUN値が上昇し、さらに8-OHdG値が上昇した。これらのことより、snPt1は炎症性サイトカインにより急性肝・腎障害が誘導され、さらに薬物相互作用による傷害は活性酸素種による影響が示唆された。
  • 須田 恵, 北條 理恵子, 三浦 伸彦, 柳場 由絵, 鈴木 哲矢, 王 瑞生
    セッションID: P-97
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【背景・目的】二酸化チタン(TiO2)ナノ粒子の中枢神経系への取り込みおよび神経系への影響については、幾つかの先行研究があり、TiO2ナノ粒子の脳への移行を確認している文献も散見するが、脳への影響については結果が分かれている。そこで神経伝達系への影響の有無を確認するため、脳内アミノ酸濃度と脳内神経伝達物質であるモノアミン濃度について調べた。
    【方法】動物は雄性gpt-delthaマウスを用いた。NEDOの方法に準拠してTiO2粉末(P25)を0.2%リン酸水素二ナトリウム(DSP)に懸濁し、超音波で分散し使用した。この分散液を0, 2, 10, 50 mg/kgの投与量となるようにDSPで希釈して尾静脈より週1回×4週間投与し、4回目の投与後9日(17匹)と3か月(23匹)に解剖して脳を取出し、前脳、後脳、中脳、延髄、小脳の5部位に分けてクーロアレイ法とOPA法でモノアミンとアミノ酸を分析した。
    【結果・考察】血液から脳への取り込み率の高いフェニルアラニン(Phe)、チロシン(Tyr)、ロイシン(Lei)、イソロイシン(Ile)の脳内濃度について投与後9日で比較すると、ベンゼン環を有するPheおよびTyrの濃度はすべての部位で投与量依存的に減少したが、分枝鎖アミノ酸であるLeiやIleはほとんど変化がなかった。Tyrを前駆体とするモノアミンのドーパミンやノルエピネフリンは小脳では投与量依存的に減少したが、他の部位ではほとんど影響はなかった。また、投与後3か月の場合ではアミノ酸の脳内濃度はほぼ回復していた。これらの結果から、TiO2ナノ粒子の投与によって、ベンゼン環を有するアミノ酸のアップテイクが一時的に阻害されるものの、アミノ酸およびモノアミンの神経伝達系への影響は軽微であることが示唆された。
  • 羽二生 久夫, 齋藤 直人, 丸山 佳与, 松田 佳和, 青木 薫, 高梨 誠司, 岡本 正則, 小林 伸輔, 野村 博紀, 田中 学, 滝 ...
    セッションID: P-98
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】我々は骨親和性の高い多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を骨再生のスキャッフォルドとして検討している。このスキャフォルドは荷重のかからない部位での利用を想定しており、その一つが頭蓋骨であるため、MWCNTの脳を構成する神経関連細胞への影響を検討する必要がある。我々は今回、3種類の異なるセルラインを用いてその細胞毒性を検討した。【方法】細胞はIMR-32神経芽細胞、RCR-1アストロサイト様細胞、MG-6ミクログリア細胞を用いた。評価方法はアラマーブルー法を用いた細胞増殖性試験と走査型電子顕微鏡(SEM)と蛍光顕微鏡による形態観察を行った。また、すでに我々は分散剤によって細胞毒性に違いがでることを報告しているので、この実験でも暴露するMWCNTはFBS、Gelatin、Tween 80(T-80)及びCarboxymethyl cellulose (CMC)の4分散剤で分散した。MWCNTはMWNT-7を用いた。【結果】細胞の増殖性では細胞の種類だけでなく、分散剤によっても全く異なる傾向を示した。IMR-32細胞やRCR-1細胞ではFBSやT-80で分散したMWNT-7暴露による細胞増殖性抑制が濃度と時間に依存して見られたのに対し、MG-6細胞ではほとんど見られなかった。ただし、CMCで分散したMWNT-7はどの細胞でもほとんど細胞増殖抑制を示さず、MG-6細胞では細胞増殖亢進が見られ、gelatinでの分散はRCR-1細胞にだけ、著しい細胞増殖抑制が見られた。これらの細胞の形態観察を見たところ、RCR-1細胞とMG-6細胞はCMC以外で分散したMWNT-7を細胞内に取り込んでいるのに対し、CMC分散MWNT-7やIMR-32細胞ではほとんど取り込まれていなかった。【考察】これらの結果はMWCNTによるスキャッフォルドを開発する上で利用想定部位において、可能な限りの細胞種を対象にした毒性評価の必要性を示している。また、分散剤を用いた評価は慎重に行う必要があると思われる。
  • 曺 永晩, 水田 保子, 豊田 武士, 赤木 純一, 平田 直, 安達 玲子, 木村 美恵, 最上(西巻) 知子, 小川 久美子
    セッションID: P-99
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【背景・目的】ナノ銀は、食品・食品容器包装用途として経口曝露されるのみならず、消臭・殺菌剤として化粧品等にも含まれており、皮膚からも曝露される。しかし、ナノ銀の毒性について経口及び経皮投与による十分な評価は行われておらず、免疫毒性についての報告は限られている。本研究では、経皮曝露したサイズの異なるナノ銀のアジュバント作用を、マウス経皮曝露モデルを用いて解析した。
    【材料と方法】背面片側を剃毛した8週齢雌性BALB/cマウスに溶媒に調製した抗原懸濁液 (卵白アルブミン (OVA、100 µg)、OVA + Alum (250 µg) 又はOVA +各サイズのナノ銀 (AgNP、49 µg、直径10 nm、60 nm及び100 nm)) を浸潤させたパッチを連続3日間/週、4週間貼付し、経皮感作を行った後、OVAの腹腔内投与によるアレルギー反応の惹起を行った。感作後のOVA特異的抗体の測定、惹起後の直腸温、アナフィラキシー症状、血中ヒスタミン濃度、及び抗原再曝露による脾臓細胞におけるサイトカイン産生を測定した。また、曝露皮膚局所、脾臓、及びリンパ節の病理組織学的検査を実施した。
    【結果】OVA特異的血中IgG1は、溶媒対照群と比較して何れの投与群でも有意な高値を示したが、群間の差は認められなかった。直腸温の変化について、溶媒対照群と比較してOVA単独群で有意な低値及び他の投与群で低値傾向が認められた。また、アナフィラキシー症状をスコアリングした結果及び血中ヒスタミン濃度において、Alum群を除く全ての投与群で有意な高値を示した。脾臓細胞のサイトカイン分泌において、溶媒対照群と比較して有意な変化は見られなかった。腋窩リンパ節の濾胞が溶媒対照群と比較して何れの投与群でも有意な増加又は増加傾向を示したが、群間の差は認められなかった。
    【結論】本試験系ではOVAの皮膚感作と腹腔内投与によるアナフィラキシーの惹起は効果的に誘導されたが、AgNPの明らかなアジュバント効果は認められなかった。
  • 王 瑞生, 北條 理恵子, 安田 彰典, 須田 恵, 柳場 由絵, 長谷川 達也, 三浦 伸彦
    セッションID: P-100
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    二酸化チタン(TiO2)ナノ粒子は呼吸器系ばく露後、肺の急性炎症反応を誘発することが動物実験で観察された。また、肺に入った粒子は排出や他の臓器への移行があるが、一部は長期に亘って肺に留まることも知られているため、遺伝毒性や発がん性が懸念されている。本研究で気管内投与後TiO2ナノ粒子の肺組織における遺伝子突然変異作用などについて検討した。【方法】Degussa P25 TiO2ナノ粒子を超音波で蒸留水に分散し使用した。8週齢の雄性gpt Deltaマウスに、0(対照群)、20、100、500 µg/匹の用量で麻酔下で気管内投与した。3か月後、肺の右葉からBALFを採集して、さらに肺組織における遺伝子点突然変異(gptアッセイ)を解析した。左葉を秤量した後、肺病理観察やTi定量に用いた。【結果と考察】投与後マウスの体重変化や3か月後の肺左葉の重量はTiO2ナノ粒子投与による影響は観察されなかった。BALF解析の結果、白血球は検出され、その数は1 µlあたり10-18個で各群の間に差はなかった。肺組織損傷のマーカーとして、BALF中のLDH、TNFα及び総タンパク(µ-TP)を測定したが、いずれもTiO2ナノ粒子投与群と対照群の間に有意な差は認められなかった。遺伝子点突然変異解析の結果、対照群マウスの肺組織において低い変異率が検出されたが、TiO2ナノ粒子の各投与群で変異率の上昇は認められなかった。一方、間質性肺炎は100と500 µg投与群において散見でき、光学および電子顕微鏡では肺組織にTiO2の凝集体が観察された。これらの結果から、気管内投与されたTiO2ナノ粒子は、3か月経過後も粒子の残留が観察できたが、遺伝子変異は生じていないことが判明した。しかし、軽微な炎症等がみられたことから、より長期の作用を観察する必要がある。
  • 丸山 佳与, 羽二生 久夫, 小林 伸輔, 鶴岡 秀志, 松田 佳和, 青木 薫, 岡本 正則, 高梨 誠司, 野村 博紀, 田中 学, 滝 ...
    セッションID: P-101
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】我々はカーボンナノチューブ(CNT)の体内動態を計測するため、CNTの内部空間に造影効果のある金属分子を内包させたPeapod-CNTを作製してマイクロCTでの検出を試みている。現在主流のCNTを使ったイメージング剤は表面を修飾するタイプであるが、表面修飾したCNTと未修飾CNTとでは細胞内への取り込みが変化することが明らかになっている。Peapod-CNTは分子を内包化させるため、表面修飾のような生体応答への影響は少ないと考えられているが、ラジカル産生に影響を与えるという報告もあり、未処理CNTと比較した時の生体応答に違いがあるかは定かでない。そこで我々は細胞レベルでPeapod-CNTと未処理CNTとで生体応答性を比較した。【方法】Peapod-CNTは東レの2層CNT(DWCNT)を用いてガドリニウムと白金を内包化させた。これに未処理と加熱処理をしたDWCNTを加え、V79繊維芽細胞とRaw264.7マクロファージ細胞を使ってコロニー法とアラマーブルー法による細胞毒性試験、フローサイトメーターと形態観察による細胞内取り込み、サイトカイン測定による炎症反応を測定した。【結果】細胞毒性試験ではPeapod-CNTsと未処理CNTともほとんど細胞毒性は見られなかった。これらの形態観察をしたところ、多くのCNTで観察されている細胞内の取り込みは貪食細胞であるRaw264.7細胞でも見られず、細胞表面に接着しているCNTが多く観察された。この接着したCNTによると思われる炎症反応を含む細胞応答性には差が見られた。【考察】これらの結果から、CNTの生体内動態解析を目的としたPeapod-CNTは未処理CNTと同様に細胞内に取り込まれないことから、生物応答による生体内動態の差はないと考えられ、有力なCNTの構造特性に依存した体内動態解析ツールになる可能性がある。
  • 笠井 辰也, 梅田 ゆみ, 大西 誠, 浅倉 真澄, 福島 昭治
    セッションID: P-102
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    ストレートタイプの多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は、その形状や機械的強度をもつ特徴からアスベストと同様に、ヒトに肺線維症、肺がん、中皮腫、胸膜肥厚等を引き起こす可能性が危惧されている。MWCNTのラットでの発がん性を検索するために、実際のヒトへの暴露経路を考慮して乾式のサイクロン・シーブ法によるエアロゾル発生装置を開発し、雌雄ラットを用いた全身吸入暴露による2年間の吸入発がん試験を行った。
    ストレートタイプのMWCNT (MWNT-7)は、保土谷化学工業(株)社から購入し、F344/DuCrlCrljラットの雌雄に0、0.02、0.2及び2mg/m3の濃度で1日6時間、週5日間、104週間(2年間)、連続暴露(全身暴露)した。暴露中は、OPC(Optical particle controller、OPC-AP-600、柴田科学(株))を用いてMWCNTの個数濃度を連続測定しつつ、発生装置を帰還制御することにより吸入チャンバー内濃度を一定に維持した。また、2週間毎に各チャンバー内の質量濃度を測定し、さらに3ヵ月毎に粒子径測定及びSEMによる形態観察を実施した。2年間の暴露期間終了後、全動物を剖検し、気管支肺胞洗浄液を用いた細胞学及び生化学的検査、胸腔洗浄液のSEMによるMWNTの検索、マーカー(Benzo[ghi]perylene)を用いた肺内のMWCNTの定量及び病理学的検査を実施した。
    今回は、2年間にわたる吸入試験で得られたデータの中から、チャンバー内の濃度制御結果と、吸入チャンバー及び暴露ラットの肺から採取したMWCNTの SEMによる観察結果とキャラクタリーゼーションの計測結果を報告する。さらにこれに加え、胸腔洗浄液検査で観察されたMWCNTの形状及び途中死亡動物と定期解剖動物で実施した肺のMWCNTの定量結果を報告する。
  • 大西 誠, 笠井 辰也, 梅田 ゆみ, 福島 昭治
    セッションID: P-103
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【はじめに】MWCNTの肺に取り込まれた沈着量を正確に測定することは、生体毒性を評価する上で非常に重要である。MWCNTのラット全身吸入曝露により、2週間とその回復群及び13週間試験で肺に毒性影響が認められたことから、新しく開発したMWCNTの肺内の微量定量法(マーカー法)を用いて測定した肺内MWCNTの沈着量と肺の毒性発生の経過日数との関係よりArea Under the Curve (AUC)を求め、病理組織学的所見との関連について解析したので報告する。
    【方法】雌雄、6週齢のF344ラットにMWCNT(MWNT-7)を乾式サイクロン・シーブ方式により単回、2週間及び13週間全身吸入曝露した。その肺の一部を10%中性リン酸緩衝ホルマリン液で処理後、Clean99-K200により肺を溶解し、0.1%Tween80+9.6%PBS溶液で洗浄後、濃硫酸により残渣を分解した。その試料にベンゾ[ghi]ペリレン(マーカー)溶液を添加し15分間攪拌し、フィルターろ過した残渣のMWCNTから吸着したマーカーを抽出し、HPLCで測定した。その沈着量と曝露期間より、AUCを求めた。
    【結果】雄において2週間試験とその回復群の高濃度曝露では、AUCが300μg/g×day以上で肺に肉芽腫性変化が認められた。また、13週間試験の中濃度と高濃度曝露では、AUCが2000μg/g×day以上で肺に肉芽腫性変化及び線維化が認められ、それらの肺内MWCNTの沈着量及びAUCは、2週間及び13週間試験の曝露濃度と期間に応じて上昇した。
    【結論】MWCNTの肺のAUCと毒性変化の関係から、肺の毒性変化を生じるためにはAUCで算出された肺内MWCNTの沈着量と曝露期間が必要であった。
    なお、MWCNTの2年間ラット全身吸入曝露によるAUCと病理組織学的所見との関連についても現在検討中である。
  • 鈴木 正明, 加納 浩和, 妹尾 英樹, 近藤 ひとみ, 戸谷 忠雄, 齋藤 美佐江, 大西 誠, 相磯 成敏, 福島 昭治
    セッションID: P-104
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    [目的]ナノ材料の有害性情報取得のための低コスト・簡便な有害性評価技術を構築するため、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を用いて、単回から複数回の投与群を設け、ラットの生体反応の差異を検討した。
    [方法]12週齢のF344雄ラットに、MWCNTを気管内に1匹あたり320 μg/kgを1回投与する群、同量を複数回(160 μg/kgを2回、107 μg/kgを3回、80 μg/kgを4回:各群とも隔日に投与)に分けて投与する群、各投与回数毎の媒体対照群及び無処置群を設けた。動物飼育期間中は動物の状態観察及び体重測定を行った。投与後3、28及び91日目に動物を解剖し、3、28日目には気管支肺胞洗浄液(BALF)検査(細胞分類、総細胞数の測定及び生化学的検査)、28日目と91日目には血液学的検査、血液生化学的検査、臓器重量の測定と病理組織学的検査を行った。また、肺各葉におけるMWCNTの肺中濃度について経時的に測定を行った。
    [結果]動物の一般状態にMWCNT投与による影響はみられなかった。体重は、各群とも順調な増加を示したが、投与翌日に軽度の低下がみられた。投与後3日目のBALF検査では、MWCNT投与群に炎症や細胞傷害を示すパラメーターに変化が認められ、複数回投与群よりも1回投与群で高い値を示した。投与後28日目でも投与の影響がみられたが、投与回数による顕著な差は認められなかった。肺重量にMWCNT投与の影響は、ほとんどみられなかった。投与後のMWCNTの肺中濃度は、投与回数に関係なく右肺の後葉と副葉及び左肺が高かった。また、肺中MWCNTのクリアランスには投与回数による差はみられず、いずれもほぼ直線的に減少した。病理組織学的検査については、現在解析中である。
    (本研究は経済産業省からの委託研究「ナノ材料の安全・安心確保のための国際先導的安全性評価技術の開発」による研究成果である。)
  • 小林 憲弘, 田中 翔, 竹原 広, 納屋 聖人, 久保田 領志, 五十嵐 良明, 広瀬 明彦
    セッションID: P-105
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    ナノマテリアルの安全性を総合的に評価するために,生殖・発生毒性に関する情報は非常に重要である.我々はこれまで,多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を妊娠マウスに単回あるいは反復気管内投与し,催奇形性の評価を行ってきた.これまでの結果では,妊娠9日のマウスに3 mg/kg以上のMWCNTを単回気管内投与すると胎児の奇形がみられたが,妊娠6日~15日の期間に合計8 mg/kg(2 mg/kg×4)のMWCNTを反復気管内投与しても,胎児の奇形はみられなかったことから,投与時期が奇形の発現に重要な影響を与えていることが示唆された.そこで今回の試験では,これまでの試験よりも高用量(4 mg/kg)のMWCNTを妊娠9日のマウスに単回投与あるいは妊娠6,9,12,15日にそれぞれ同用量を反復気管内投与し,妊娠17日に帝王切開して母動物および胎児への影響について比較した.本試験では,各群11匹以上の母動物を評価に用いた.単回・反復気管内投与試験ともに,母動物への影響として摂餌量の減少に伴う体重増加抑制がみられ,MWCNTの投与による影響と考えられた.胎児への影響としては,単回・反復気管内投与試験ともに胎児体重が低値を示し,MWCNTの投与による胎児の発育抑制が示唆された.さらに,単回投与試験においては,外表異常を伴う胎児が4(5.1%)例みられた.所見としては,小肢,欠指,曲尾および短尾が認められ,小肢,欠指および短尾は同一腹での発生であった.一方,反復投与試験においては,単回投与の4倍の用量のMWCNTを投与したにも関わらず,胎児の外表異常はみられなかった.今後は,MWCNTの単回気管内投与と反復気管内投与による胎児への影響発現の差異について,更に詳細なデータ解析を行う予定である.
  • 小林 恭子, 敷野 修, Aaron HINEMAN, Chady STEPHAN
    セッションID: P-106
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    [はじめに] ナノ材料の粒子径は、材料の均一性を示す指標として重要な項目の一つである。また、ナノ粒子の様々な一般消費財への利用が増加しており、それに伴い、ナノ粒子が及ぼす環境影響や生体影響が懸念されている。粒子径の測定手法としては、動的光散乱法や電子顕微鏡法が代表的であるが、それぞれに特徴と課題がある。シングルパーティクル(SP)-ICP-MS法は、ICP質量分析法の特長を利用したナノ粒子の新たな分析手法である。SP-ICP-MS法ではナノ粒子懸濁液を直接イオン源に導入し、試料中のナノ粒子を一粒子ごとに検出する。この際に重要なパラメータはデータ取り込み間隔(滞在時間)である。そこで、パーキンエルマー社製 ICP-MS NexION350シリーズを用い、滞在時間を変化させた際の粒子径および粒子濃度に与える影響を検討した。さらに、SP-ICP-MS法の環境試料および生体試料への適用も検討した。
    [実験・結果] 直径50nmの金ナノ粒子懸濁液を試料とし、滞在時間を10~10000μsで変化させた際に得られる粒子径および粒子濃度を比較し、最適な滞在時間の決定を行った。滞在時間100μs以上では、粒子濃度は低く、粒子径は大きく見積もられる傾向があり、滞在時間は100μs以下に設定する必要があることが分かった。また、最適条件下で環境試料および生体試料中のナノ粒子測定を実施した結果についても報告する。
  • 白井 翼, 今井 弘一
    セッションID: P-107
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    ナノ材料の毒性発現は材料のサイズに依存するが,細胞の食作用(phagocytosis)によって,細胞が積極的にナノ材料を細胞内に取り込むことが知られている.また,ナノ材料は通常の材料と比べて体積に対する表面積の割合が極めて大きく,反応性も高いため細胞毒性の影響も大きいことが知られている.
    近年,市販歯科材料でも,ナノ材料によってより優れた機能を発揮させることが様々考案されている.これらにはナノ材料以外にも数多くの化学物質が混入されている.しかし,ナノ材料が混合されることによってトータルとしての細胞毒性レベルの変動はほとんど知られていない.我々はこの点に着目して,ナノ材料との混合条件で細胞毒性レベルがどのように変動するかを究明するために,まず細胞生存率に影響がない微量のナノ酸化亜鉛を培養液に混合し,歯科用モノマーとして数多く使用されているBis-GMAの細胞毒性レベルの変動をMTT法によって細胞生存率で調べた.
    その結果,ナノ酸化亜鉛群では対照群と比べてBis-GMAの細胞生存率がやや低下する傾向が認められた.なお,Bis-GMAが混入されていないナノ酸化亜鉛群では低濃度のため,対照群と細胞生存率に差が認められなかった.複数の成分が混合された条件での毒性を評価する場合に,それぞれの成分の細胞毒性の総和あるいは平均ではないことが従来から基本的に知られているが,ナノ材料が他の化学物質と混合された場合ではどのような結果になるか知られていない.さらに,ナノ材料が混合されたバイオマテリアルの生体安全性についてもほとんど明らかにされておらず,今後もさらに数多くのナノ材料が混合された状態について多方面からの早急な究明が期待される.
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