日本毒性学会学術年会
第42回日本毒性学会学術年会
選択された号の論文の457件中151~200を表示しています
就職活動支援プログラム 安全性研究の現場紹介 (それぞれの職場で求められる専門性の向上と必要なコミュニケーション能力)
  • 黒岩 有一
    セッションID: JH-6
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    安全性受託機関(非臨床CRO)は、顧客である製薬企業、化学メーカー、大学発ベンチャーなどから委託を受け、創薬研究や非臨床安全性試験を実施することを事業内容としている。非臨床安全性試験には、一般毒性、がん原性、遺伝毒性、生殖発生毒性、安全性薬理、免疫毒性、光安全性試験などの多くの試験種が存在する。受託機関では、in vitroから動物試験までの多種多様な試験を、受託事業として効率的かつ高品質を維持しながら実施するために、多くの専門家や技術者が協力して働いている。毒性試験は、データの信頼性を確保するための実施基準(GLP)を遵守して実施される。GLPシステムでは、一試験に一人の試験責任者(主にトキシコロジスト)が任命され、この試験責任者が、各分野の専門家(毒性検査、眼科学検査、臨床検査、分析化学、統計解析など)を取りまとめている。これらの多くの技術者や専門家がそれぞれ円滑なコミュニケーションをとりながら試験を遂行する必要がある。特に、試験責任者には優れた技術的・専門的な背景だけでなく、コミュニケーションや問題解決能力などの管理調整技術にも長けている人物が求められる。質の高い受託試験とするためには、試験計画の段階から試験委託者側の毒性専門家との入念な打ち合わせも欠かせず、化合物の使用目的(医薬、化学、農薬、食品)によっても毒性評価は異なるため、試験委託者とのコミュニケーションが重要となる。近年では、複数場所試験として一部の試験操作を他社で実施するケースも一般的となり、他社の試験主任者との協調も必要になっている。単なる受託試験の実施機関ではなく、共同開発者としての意識を持って試験を行うことが毒性試験の質の向上につながることを付け加えたい。このように、受託機関の業務は試験責任者・社内・社外の専門家のチームプレーによる総合力で成り立っている。
  • 杉元 陽子
    セッションID: JH-7
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    近年製薬業界のグローバル化が加速している。国内企業は海外展開を進め,外資系企業は日本市場に積極的に参入し,三極同時開発がスタンダード化する中,国内企業であっても外資系企業であっても会社全体としての医薬品開発の進め方に差はなくなりつつある。しかしながら,非臨床毒性領域担当者の職責については,国内企業(=グローバル本社)と外資系企業(=グローバル企業の日本法人)では大きな違いがある。多くの外資系製薬企業は国内に研究施設を持たず,新薬開発および申請に必要な非臨床試験のほとんどはグローバル本社により計画・実施されるため,国内の非臨床毒性担当者は,既に終了した試験の成績や評価を元に新薬開発及び申請を行うことになる。グローバル本社の決定に基づき,日本独特の言語や慣例に合せて開発を進めていくためには,常にグローバルの毒性試験担当者や関連部署担当者と密にコミュニケーションを取り,お互いの見解をすりあわせながら合意点を導き出していく必要がある。さらに,日本国内においては,関連部署,担当者に対して,グローバルを含めたR&D(研究開発)代表として情報を発信し,社内調整を行っていくことも重要な職責のひとつである。また,少人数で種々の開発段階,数多くの開発候補品を同時に扱うことも国内企業と異なる点である。幅広い知識と高度の専門性を活かしたスピーディな判断と,効率的に業務をこなすための部内でのチームワークが必要となる。
    本演題では,外資系製薬企業における非臨床毒性領域担当者の業務について具体例を紹介するとともに,専門性の向上とコミュニケーションの重要性について概説したい。
学会賞・奨励賞
学会賞
  • 遠山 千春
    セッションID: GA
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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     今回の学術賞の対象となった研究は、私が2005年1月に東京大学大学院医学系研究科・疾患生命工学センター・健康環境医工学部門に赴任して以降の研究が主体である。我々は、疾患解明への寄与を念頭に環境有害因子による毒性学研究を進めるとともに、それを実現するために新たな技術開発を行ってきた。
     以下にこれらの研究と技術開発について概要を述べる。
     医薬品・農薬の場合、分子標的を想定した開発が行われるが、環境中化学物質の場合には特異的に反応する分子が見出されていない場合がほとんどである。ところで、ダイオキシンは生殖発生・学習機能・免疫機能の異常や発がんなど多彩な毒性を示し、その毒性発現には、細胞内のアリール炭化水素受容体(AhR)の存在が不可欠であるが、毒性メカニズムはほとんど未解明のままであった。我々はダイオキシンによる毒性の典型例とされていた齧歯類の新生仔に生じる水腎症の研究を行った。水腎症は尿管の閉塞により腎臓内に貯留した尿が腎実質を破壊する疾患と理解されている。しかしダイオキシンによる新生仔水腎症では尿管閉塞が生じないことから、尿管閉塞ではなくて腎・尿管機能異常が原因と考えられた。遺伝子発現解析を起点とした研究を実施し、発達期の腎臓において、ダイオキシンが生理活性物質であるプロスタグランジンE2(PGE2)の合成に関わる酵素であるcPLA2α、COX-2、mPGES-1 のそれぞれを誘導し、PGE2を過剰に合成することを見出した。これらの3つの酵素およびAhRについて、遺伝子欠損あるいは選択的阻害剤投与による実験を行い、それぞれ水腎症発症の原因遺伝子であることが証明できた。さらに、4種のPGE2受容体のうちでEP1が原因となって水・電解質の再吸収調節異常とそれに伴う尿量増加が水腎症を引き起こすことが明らかになった。AhRを介さずにCOX-2を発現上昇させるLi投与によっても水腎症が起こること、mPGES-1が水腎症の感受性決定因子になることが判明した。水腎症という病態解明にも資する情報が提供できたと考えている。
     次に、我々は認知行動毒性に焦点を当て、齧歯類の学習・記憶、情動、社会性を解析できるユニークな行動毒性試験法・解析法を考案・開発し、化学物質による高次脳機能への影響の解析を行った。一つはラットにおいて、地理情報と味情報をリンクさせる対連合学習が成立するかどうかを調べる試験である。胎仔期・授乳期に低用量ダイオキシン曝露を受けたラットではこの前頭前皮質に依存した対連合学習能力が低下することがわかった。もう一つは、マウスを最大16匹同時に飼育可能な全自動行動解析装置を用いた試験である。低用量ダイオキシン曝露マウスから生まれた仔が成獣になってから報酬(水飲み)に対する行動を調べたところ、行動柔軟性の低下、固執的行動の亢進、社会的競争環境における優位性の低下が生じることを明らかにした。この異常の背景には、内側前頭皮質と扁桃体の神経活動のアンバランスが生じている可能性が判明した。微量の化学物質へ曝露による高次脳機能障害の器質的異常を通常の組織学的検索で検出することは困難である。最近、我々は、ダイオキシンやビスフェノールAの周産期曝露を受けたマウスにおいて、神経細胞の樹状突起の長さ、分岐数、スパイン密度などの微細形態異常が生じていることを発見した。これらの結果より、化学物質による行動異常の誘導のメカニズムとして、微細形態変化によることが明らかとなった。
     謝辞: 共同研究者、ご支援いただいた方々ならびに助成団体に御礼申し上げる。
奨励賞
  • 李 辰竜
    セッションID: SA1
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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     カドミウムや水銀等の有害重金属は、生体に対して重篤な障害を引き起こすことが知られている。これら有害重金属の毒性発現機構に関する研究は、国内外の様々な研究グループによって長年にわたって進められてきたものの、それらの分子レベルでの毒性発現機構については、ほとんど解明されていないのが現状である。
     カドミウムは、イタイイタイ病の原因物質として知られており、主な慢性毒性として腎臓の近位尿細管機能障害を引き起こす。しかしながら、カドミウムによる腎毒性発現の分子機構については明確にされていない。本演者の所属研究室では「カドミウムのUBE2Dファミリー(E2ユビキチン転移酵素)遺伝子発現抑制を介したp53依存的アポトーシス誘導」に関する研究が進められてきた。本演者は、ヒト由来の腎近位尿細管上皮細胞(HK-2細胞)を用いて、カドミウムによるp53の過剰蓄積にUBE2Dファミリーのうち、UBE2D2UBE2D4が直接関与していることをsiRNA法を利用して明らかにした。p53をノックダウンさせたHK-2細胞を用いて、カドミウムがp53過剰蓄積を介したアポトーシス誘導を引き起こすことを明らかにした。しかも、カドミウムによるp53依存的アポトーシス誘導に、下流遺伝子BAXPUMAの発現上昇が関与していることも示した。なお、カドミウム長期曝露マウスの腎臓連続切片を用いた検討により、腎近位尿細管の同一部位でアポトーシスの誘導とp53の過剰蓄積が確認された。しかも、カドミウムによるUBE2D4遺伝子の発現抑制に、転写因子FOXF1の活性抑制が関わっていることも明らかにした。本演者はさらに、DNAマイクロアレイやProtein/DNAアッセイを駆使して、カドミウムによって発現変動する新規の遺伝子、および活性変動する新規の転写因子を複数同定することにも成功している。それらの因子の一部は細胞生存に関わっていることも確認されたことから、今後のカドミウム毒性発現機構の解明に貴重な情報を提供できると考えられる。
     本演者はまた、メチル水銀の毒性発現に関わる標的因子の同定に関する研究も進めており、メチル水銀を曝露させたマウスの小脳で複数のC-Cケモカインの遺伝子発現が上昇することをDNAマイクロアレイ解析により見いだした。しかも、C-Cケモカインのうち、CCL4がメチル水銀によって脳特異的に発現上昇されることも明らかにした。メチル水銀は、水俣病の原因物質であり、中枢神経障害を主な中毒症状とする環境汚染物質であることから、メチル水銀により脳特異的な上昇作用を示す因子の同定は、今後のメチル水銀毒性発現機構の解明に繋がるものと期待される。
  • 藤代 瞳
    セッションID: SA2
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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     カドミウム(Cd)はイタイイタイ病に代表される腎障害を、マンガン(Mn)はパーキンソン病様の神経症状を引き起こすことが知られている。しかし、それぞれの毒性の標的組織におけるCdやMnの輸送機構はまだ十分に分かっていない。私たちは複数のCd耐性細胞やMn耐性細胞を樹立することにより、Cd2+やMn2+の細胞内取り込みには、亜鉛輸送体のZIP8およびZIP14、2価鉄輸送体のDMT1が関与していることを明らかにしてきた。そこで、CdやMnの標的組織である腎臓や神経におけるこれらの輸送体の役割について解析した。
     腎臓近位尿細管におけるCdの輸送はこれまでCd-メタロチオネインがエンドサイトーシスされることによる再吸収によって説明されていた。私たちは、生体と似た環境で管腔側と血管側に近位尿細管上皮細胞を整列させて培養できるカップ培養により、尿細管の部位によってはZIP8あるいはZIP14を介したCd2+の取り込み系も一部機能している可能性を明らかにした。さらに、腎臓近位尿細管の部位によるCd輸送の違いを解析するため、マウス近位尿細管のS1, S2, S3それぞれの領域由来の不死化細胞を入手し、カップ培養を用いた解析を行った。その結果に基づいて、近位尿細管においてCdはS1領域付近で尿細管上皮細胞に取り込まれた後、再び管腔側に分泌され、下流のS3領域においてCd2+として再吸収されるという仮説を提唱した。今後さらに腎臓近位尿細管における部位特異的なCd輸送のダイナミックな機構を明らかにしていきたい。またこの系を活用することで、様々な腎障害誘発物質の尿細管部位特異的な毒性発現機構と輸送機構の解析に活用できる。
     一方、脳神経細胞におけるMn輸送についてはこれまでDMT1およびトランスフェリン受容体しか検討されていなかった。私たちは、ヒト神経芽細胞腫由来のSH-SY5Y細胞におけるMn輸送にDMT1だけでなく、ZIP14も関与していることを見出した。また、SH-SY5Y細胞をIL-6に曝露するとMnの蓄積が増加することを見出し、その原因として、Mnの細胞内取り込みに関わるZIP14の発現上昇とMnの排泄に関わるZnT10の発現低下がSH-SY5Y細胞でのMn蓄積を増加させた可能性を見出した。近年様々な脳変性疾患に脳内サイトカインが関与することが報告されており、本研究結果から脳病変において炎症性サイトカインがMn蓄積の増加を引き起こし、脳疾患の悪化させる可能性が示唆された。今後は、さらにin vivoでの検討も行い、CdおよびMnの毒性の標的組織における金属輸送の機構について解析し、その毒性発現への役割を明らかにしていきたい。
一般演題 口演
  • 難波 佑貴, 吉岡 靖雄, 森下 裕貴, 瀧村 優也, 清水 雄貴, 吾郷 由希夫, 田熊 一敞, 松田 敏夫, 東阪 和馬, 堤 康央
    セッションID: O-1
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    生活習慣や化学物質曝露といった環境要因は、遺伝的要因と合わせ、我々の健康を左右する原因となる。また、親が受けた環境要因による生体影響は、次世代にまで影響を与えることも明らかとなっている。従来は、胎児や乳児と、より密接に関わる母親に着目した次世代影響研究が多くなされてきた。一方で、近年の疫学研究・動物実験により、遺伝的要因によらない父親を介した次世代影響の存在も考察されている。しかし、父親を介した次世代影響に関する情報は未だ乏しく、更なる情報の集積が喫緊の課題となっている。本観点から我々は、開発・実用化が進展しているナノマテリアルを用い、雄親曝露に着目した次世代影響評価研究を推進している。特に、非晶質ナノシリカが、生殖細胞の核内にまで移行し得ることを認めており、雄親を介した次世代影響評価の重要性を見出しつつある。そこで本発表では、粒子径30 nmの非晶質ナノシリカ(nSP30)を用い、雄親を介した次世代影響について基礎情報の収集を試みた。BALB/cマウス(10週齢、雄性)に、nSP30を1日おきに計4回尾静脈内に投与した。投与開始から35日後に、無処置のBALB/cマウス(10週齢、雌性)と交配させた。生まれた仔に関して、成長への影響や情動認知機能への影響など、多面的に解析した。その結果、過剰量投与によるハザード同定ではあるものの、高架式十字迷路試験により、雄親にnSP30を投与した群で、不安様行動の有意な低下が認められた。この現象を分子レベルで評価するために、HPLCにより海馬中のモノアミン含量を解析した。その結果、不安と深く関わるセロトニンをはじめ、モノアミン量には群間で変化は認められなかった。これらの結果から、nSP30の雄親曝露が次世代の情動機能に影響を与える可能性が示された。現在、雄親のnSP30曝露が仔の不安におよぼす影響に着目し、より詳細な分子レベルでの変動解析を通じ、不安様行動低下のメカニズム解明を進めている。
  • 西川 雄樹, 東阪 和馬, 真木 彩花, 吉岡 靖雄, 堤 康央
    セッションID: O-2
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    ナノマテリアルは、医薬品、工業製品、食品などに数多く使用され、我々が日常的に曝露し得る化学物質の一つとなっている。即ち我々は、老若男女を問わず、多岐にわたる経路からナノマテリアルを曝露し続けていると考えられ、ナノマテリアルの安全性評価を推進するうえでは、実際の曝露状況に則した慢性曝露に着目した検討が求められる。そこで本検討では、慢性影響の評価に向けた足がかりとして、ナノ粒子の中でも、最も多くの用途で利用されている、ナノ銀粒子を連日曝露し続けた際の細胞への影響を炎症誘発性の観点から評価した。粒子径10、50、100 nmのナノ銀粒子を、ヒト肺胞上皮細胞に最大3日まで連日曝露させ、炎症性サイトカインであるIL-8の産生量を測定した。その結果、いずれのナノ銀粒子を曝露した群においても、経時的にIL-8産生量が上昇すること、さらに、粒子径の減少に依存してIL-8産生量の増加が認められることが明らかとなった。同様の条件で起炎性物質であるLPSを曝露した際は、曝露後24時間以内にIL-8産生のピークが認められたことから、ナノ銀粒子は通常の化学物質と比較して、炎症応答が遅発的に誘発される可能性が考えられた。そこで、より詳細に炎症応答を評価するため、IL-8の上流にあたるMAPK(ERK、JNK、p38)の活性をウェスタンブロッティング法、阻害剤を用いた検討により解析した。その結果、ナノ銀粒子の曝露によりERK、JNK、p38の発現上昇とリン酸化の経時的な進行が認められ、各種阻害剤の存在下でIL-8産生量が有意に減少することが認められた。即ち、ナノ銀粒子によりMAPKを介してIL-8が産生されることが示された。現在、より長期間の検討における炎症誘発性の評価を行うと共に、細胞への移行や蓄積などの細胞内動態を加味することで、実際の曝露状況に基づいた炎症誘発の可能性について評価している。本研究が、慢性影響に着目したナノ安全科学研究の進展に貢献することを期待している。
  • 坂本 義光, 小縣 昭夫, 北條 幹, 湯沢 勝廣, 安藤 弘, 久保 喜一, 長澤 明道, 高橋 博, 広瀬 明彦, 井上 義之, 橋爪 ...
    セッションID: O-3
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    目的:多層カ-ボンナノチュ-ブ(CNT)は,陰嚢内/腹腔内投与によりラットに中皮腫を誘発することから,長期間ばく露によるアスベスト類似の呼吸器系への影響が懸念されている.またCNTによるラット中皮腫発現機構には,繊維を貪食した大食細胞による炎症反応と酸化ストレスの関与が提唱されている.一方,PBNは活性酸素捕捉などにより,酸化ストレスによる毒性・発がん性を抑制する.本研究は,ヒトへのばく露条件を反映した経気管反復投与によるCNTのラット中皮および肺増殖性病変の誘発に対するPBNの影響を観察した. 材料・方法:動物はHan:WIST系雄ラット10週齢を用いた.CNTは,MWNT-7分散液[CNT繊維サイズ:長さ2 μm,径75 nm,Fe含有量0.344%]を0.25 mg/kg体重の用量で単回腹腔内投与,または0,0.01,0.05,0.25 mg/kg体重を1回/4週間,計12回経気管投与した.PBNは,CNT 0.25 mg腹腔内及びCNT 0, 0.25 mg経気管投与追加群に0.065%の濃度で飲水投与した.実験期間は104週間とした.結果・考察:CNT投与に関係した中途死亡・瀕死,臨床症状,最終体重及び肺重量に変化はなかった.病理組織学的に0.25 mg及びPBN併用腹腔内投与群では,各々20例中4または3例に腹膜中皮腫が認められた.経気管投与群では,各投与群で,主に腹膜中皮腫と,肺の細気管支末梢・肺胞の増殖性病変を認めた.PBNの併用は,これらの病変の発現頻度や程度に明らかな影響を示さなかった.したがって繊維サイズの短いCNTによるラットの中皮及び肺における増殖性病変の誘発機構においては,繊維サイズが長いCNTの発がんメカニズムのひとつと考えられている酸化ストレスとそれによるシグナル異常と異なる要因が主として関与する可能性が示唆された.
  • 森本 泰夫, 和泉 弘人, 吉浦 由貴子, 友永 泰介, 大藪 貴子, 明星 敏彦, 島田 学, 久保 優, 山本 和弘, 北島 信一
    セッションID: O-4
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    酸化セリウムナノ粒子は、化学的機械研磨剤,自動車排ガス浄化触媒,樹脂フィルムなど様々な用途における使用が期待されているが、生体影響は不明である。我々は、酸化セリウムナノ粒子の生体影響を検討するために、吸入暴露試験と気管内注入試験を行い、肺炎症をエンドポイントして評価を行った。吸入暴露試験に関しては、F344ラットに低濃度(2.1 mg/m3)または高濃度(10.2 mg/m3)の暴露濃度で4週間(6時間/日、5日/週)の吸入暴露を行った。1次粒子径は、8nm程度であり、暴露チャンバーにおける平均凝集径は低濃度で88nm、高濃度で110nmであった。曝露終了後、3日、1ヶ月、3ヶ月後に解剖し、BALFの細胞解析を行った。一方、気管内注入試験に関しては、吸入暴露試験で使用した同一の酸化セリウム懸濁液を用いてラットに0.2mg、1mg/ratの用量で気管内注入を行った。注入終了後、3日、1週間、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月後に解剖し、BALFの細胞解析を行い、吸入暴露試験と同様にBALFの細胞解析を行った。
    吸入暴露試験では、酸化セリウムは高濃度、低濃度ともBALFの好中球が増加し、1ヶ月後がピークとなった。気管内注入試験では、注入1週間後でBALFの好中球数のピークを認め、その後漸減し6ヶ月後にはほぼ陰性対照レベルまで低下した。これらの結果を、以前行った酸化ニッケルナノ粒子、二酸化チタンナノ粒子の炎症と比較すると、酸化セリウムによる炎症は、肺炎症能の高い酸化ニッケルナノ粒子と炎症能が低い二酸化チタンナノ粒子の概ね中間か、高いものもあった。以上より、酸化セリウムナノ粒子の炎症能は、中間か、やや高いレベルであることが示唆された。今後は、サイトカインのデータを含め総合的に判断する。
    本研究は経済産業省からの委託研究「ナノ材料の安全・安心確保のための国際先導的安全性評価技術の開発」による。
  • 石原 康宏, 伊藤 康一, 高橋 亮平, 石田 敦彦, 山﨑 岳
    セッションID: O-5
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
     メチル水銀は中枢神経系に対して選択的な毒性を示し、知覚障害、運動失調、視野狭窄や聴力障害など、様々な中枢性の症状を引き起こすことが知られているが、その発症メカニズムはほとんど解明されていない。私たちは、核磁気共鳴画像法(MRI)を用いて、メチル水銀を投与したマウスの脳の形態、および、T1強調画像のシグナル強度を網羅的に調べたところ、下丘神経核のT1シグナルが増大していることが明らかとなった。下丘神経核は聴覚伝導路の一部であり、蝸牛で感知した聴覚刺激を大脳皮質聴覚野に伝える中継核である。そこで、本研究では、メチル水銀の聴覚伝導路への影響について、下丘神経核に着目して調べた。
     4週齢の雄性ICRマウスに4mg/kgの用量でメチル水銀を毎日投与した。投与2週間後、および、4週間後のマウス聴覚を聴性脳幹反応により測定したところ、メチル水銀投与4週間のマウスにおいて、外側毛帯から下丘への伝達が有意に遅延していた。このとき、下丘の音圧閾値を測定したところ、メチル水銀投与群で閾値が有意に増大していた。マンガン増強MRIを用いて下丘機能を測定したところ、40kHzで24時間聴覚刺激を行った後の下丘の神経活動が低下していることが明らかとなった。下丘では、浮腫、炎症性サイトカインの発現変化、および、TUNEL陽性細胞は認められない一方、glial fibrillary acidic proteinシグナルの増加と脂質過酸化の増大が認められた。さらに、抗酸化薬であるα-トコフェロールを300mg/kg/dayの用量でメチル水銀と共に投与すると、聴覚異常が改善され、さらに、マンガン増強MRIで検出された下丘機能の低下が抑制された。
     以上の結果から、メチル水銀は、マウスの聴覚障害と下丘の神経機能異常を引き起こすことが明らかとなり、さらに、メチル水銀により下丘で生じる酸化ストレスが、聴覚障害の一因となると考えられる。
  • 吉田 成一, 三浦 早織, 賀 淼, 市瀬 孝道
    セッションID: O-6
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【背景】粒子状物質は粒径が小さいほど細気管支や肺胞まで達しやすいため、粒径の小さいPM2.5による健康影響が懸念されている。また、粒子状物質は生物由来成分のリポ多糖 (LPS)やβ-グルカンの他、有機化学物質 (タール成分)など多くの物質から構成されている。しかし、粒子状物質による免疫修飾作用にどの成分が寄与しているかについての知見は限られている。そこで本研究では、粒子状物質の免疫修飾作用の簡易評価法を確立し、PM2.5による影響を評価するとともに粒径や構成成分による影響の解明を試みた。
    【方法】マウス由来マクロファージ様細胞株 (RAW264.7)に濃縮大気粉塵 (30µg/ml)を処理し、所定時間後 (1、3、8、24時間)に細胞を回収して、定量的RT-PCR法を用い、標的遺伝子の発現変動を指標とした評価系を確立した。確立した評価系を用いて粒径の異なる粒子 (PM2.5、PM10、およびPM10より粒径の大きい粒子 (>PM10) :各30µg/ml)や、構成成分 (LPS、β-グルカン、タール、加熱処理DEP (H-DEP))による21種の遺伝子発現の解析を行い、各種粒子や構成成分による免疫修飾作用への影響を評価した。
    【結果及び考察】粒子の処理時間の検討を行ったところ、3時間処理時に発現変動が最大となった遺伝子は21遺伝子中11遺伝子であったため、処理時間は3時間が適切であると判断した。確立した評価系をPM2.5に適用したところ、PM2.5はTNFなど炎症性サイトカイン・ケモカイン mRNAの発現誘導活性を示し、免疫修飾作用を有することが明らかにされた。しかし、PM10、>PM10と比較するとTNF、IL-1β mRNAの誘導活性は低かった。さらに粒子状物質構成成分によるTNF、IL-1β mRNA発現量を解析したところ、生物由来成分 (LPS、β-グルカン)で有意に増加し、タールやH-DEPでは発現変動は認められなかった。これらのことから、PM2.5は免疫修飾作用を有するが、その作用は粒径の大きい粒子より小さいこと、また、生物由来の成分が免疫修飾作用に関与することが示唆された。
  • 岩渕 勝己, 間澤 大地, 佐藤 至, 植田 富貴子, 津田 修治
    セッションID: O-7
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】有機フッ素化合物(PFC)は、環境残留性と生体蓄積性が問題であり、代表的なPFCであるPFOS、PFOAはPOPs条約等により使用が規制されている。しかし、依然として環境中から広く検出され、炭素数の異なる多種類の未規制PFCもまた検出されている。そこで本研究では、環境中から広く検出される種々のPFCをラットに投与し、その生体内におけるPFC特異的動態及び臓器特異的動態について検討した。
    【方法】PFCのうち3種のカルボン酸系のPFHxA、PFOA、PFNAとスルホン酸系のPFOSをWistar系雄ラットに急性(強制経口)及び長期(飲水)投与し、各臓器・組織(肝臓、腎臓、脾臓、心臓、脳、血清、全血)を摘出し、LC/MS/MSで分析した。急性投与(0.1 mg/kg~0.05 mg/kg)後5分~28日の経時的臓器濃度から消失半減期(t1/2)を算出した。また、1か月及び3か月の長期曝露(水道水、1 ppb、5 ppb、25 ppb)後各臓器の濃度を測定した。
    【結果と考察】急性投与試験から、各臓器における消失半減期は、PFHxAでは大きな差は見られなかったが、PFOA及びPFNAでは炭素鎖に応じて長くなり、肝臓で最も長い傾向が認められた。PFOSの消失半減期も同様な傾向を示し肝臓で最も長かったが、その消失半減期は同じ炭素数のPFOAより長く、炭素数の1つ多いPFNAより短かった。長期曝露試験では、PFOSは肝臓において特徴的な蓄積傾向を示し、消失半減期から推測される蓄積量は、PFOA・PFNAでは推測値とほぼ同等であったにもかかわらず、PFOSでは推測値の7~9倍も高く、PFOAの約6~8倍、PFNAの約6~7倍に相当した。以上より、PFOSの特異的肝臓蓄積は消失半減期に依存するのみならず、肝臓への特異的取り込み機構の存在が示唆された。
  • 小柳 美穂子, Robert R. MARONPOT, Cheryl A. HOBBS, Jeffrey DAVIS, Carol SWAR ...
    セッションID: O-8
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    Myricitrin, a flavonol rhamnoside of myricetin, extracted from the Chinese bayberry (Myrica rubra SIEBOLD) plant is used in Japan as a food flavoring in snack foods, dairy products and beverages. It is affirmed as GRAS by the U.S. FEMA and was recently considered safe by JECFA at current estimated dietary exposures. Its toxic potential was evaluated in anticipation of expanded worldwide marketing of myricitrin in food and beverage products. Following OECD guidelines, myricitrin was evaluated in standard in vitro and in vivo genotoxicity assays, in the comet assay in mouse liver, stomach and duodenum, in a 90-day repeated dose rat toxicity study at dietary concentrations up to 5%, and in a rat toxicokinetic study at single gavage doses of myricitrin up to 1000 mg/kg and a single 1.6 mg/kg dose of myricetin. Bacterial reverse mutation, in vivo micronucleus, and comet assays were negative. In vitro micronucleus in TK6 cells without S9 was positive but was negative with S9. There were no treatment-related adverse clinical or pathological findings in the rat toxicity study. Median myricitrin plasma Tmax was 3 hours at 250 mg/kg and 6 hours at 500 & 1000 mg/kg. Increases in mean Cmax and mean AUC values were both approximately dose proportional. Plasma levels of myricetin were present at 12 and 24 hours in some rats dosed with myricitrin, but not in rats dosed with myricetin. Using JECFA myricitrin intake estimates and assuming similar myricitrin metabolism in rats and humans, myricetin blood levels would be 30 (SPET) and 300 (MSDI) times lower in humans than in rats and would be below the level of detection in human blood. The genotoxicity assays and repeated dose toxicity study along with a favorable toxicokinetic profile support the safe use of myricitrin as a flavoring in food and beverages.
  • 五十嵐 友紀, Donald J WILSON, 上野 晋
    セッションID: O-9
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】有機溶剤は幅広い産業現場で用いられており、その急性曝露により突然死を引き起こすことがこれまで指摘されている。その原因の多くは酸素欠乏症と言われているが、詳細なメカニズムは不明である。突然死の原因として致死的不整脈の発生が挙げられるが、心筋細胞間に存在するギャップ結合の機能低下が不整脈発生に関与していることがこれまで報告されている。コネキシン43は心室筋のギャップ結合を構成する主要なタンパク質であり、その発現が低下すると心室頻拍や心室細動の発生頻度が増加する。今回我々はヒト細胞株を用いて有機溶剤の急性曝露がギャップ結合に及ぼす影響を検討した。【方法】ヒト細胞株(胎児腎細胞、線維芽細胞、心室筋細胞)にトルエン、キシレン、クロロホルムを曝露し、24時間後に細胞傷害性を検証した。さらにヒト心室筋細胞においてウエスタン・ブロット法にてコネキシン43の発現を測定した。【結果】全ての有機溶剤はヒト細胞株において細胞傷害毒性を示し、その程度は容量依存的であった。またヒト心室筋細胞において、有機溶剤の曝露量に反比例しコネキシン43の発現が低下していた。【考案】有機溶剤曝露はヒト細胞株に対して急性細胞傷害性を有し、ヒト心室筋細胞ではコネキシン43の発現が低下していた。このことから有機溶剤の急性曝露は心筋細胞間の刺激伝導傷害し、不整脈発生の要因になる可能性が示唆された。
  • 小山 知博, 福永 衣留, 小山 保夫
    セッションID: O-10
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】クリオキノール(CQ)は脂溶性Zn2+キレート剤としての臨床応用が考えられている。CQは脂溶性であることから細胞膜を透過して細胞内Zn2+動態に影響を与える。ところで、細胞内Zn2+濃度と酸化ストレスの関係は複雑である。よって、酸化ストレス条件下でCQのZn2+依存性細胞毒性を検討した。
    【方法】ラット(8–12週齢)から胸腺細胞浮遊液(タイロード液)を調製し、実験に供した。細胞膜及び細胞内イオン・物質動態の変化は蛍光プローブを用いてフローサイトメーターで計測した。酸化ストレスとして過酸化水素(H2O2)を用いた。尚、細胞浮遊液には標本由来のZn2+が200–230nM含まれる。
    【結果】(1)H2O2(300µM)による細胞致死率上昇を10–300nMのCQはベル型に増加させた。しかし、1µMのCQはH2O2による細胞致死率上昇を著明に減少させた。CQ単独(1µM)は細胞致死率を変化させなかった。(2)H2O2(300µM)とCQ(100nM)による細胞致死率上昇は細胞外Zn2+除去により著明に減少した。(3)CQ(10nM–3µM)単独は300nMをピークとして細胞内Zn2+濃度をベル型に上昇させた。また、H2O2(300µM)存在下でもCQは同様なベル型の反応で、細胞内Zn2+濃度をさらに上昇させた。(4)細胞浮遊液のZn2+除去条件ではCQは100nM以上の濃度で用量依存性に細胞内Zn2+濃度を低下させた。細胞浮遊液にZnCl2を1µM添加した条件ではCQ高濃度(1–3µM)に於ける細胞内Zn2+濃度最大ピークからの減少幅が縮小し、ベル型反応とならなかった。
    【考察】CQ単体およびZn2+をキレートしたCQが細胞内に入ると仮定すると、CQ濃度、CQのZn2+キレート剤安定度定数、細胞外Zn2+濃度から細胞内Zn2+濃度のベル型変化は説明可能である。また、細胞内Zn2+濃度上昇がH2O2細胞毒性を増強することから、細胞致死率のベル型変化も同様に説明可能である。CQの細胞毒性を考える上で要因の一つは細胞外Zn2+濃度(結果としての細胞内Zn2+濃度上昇)である。(筆頭著者の現所属:医療法人相生会/福岡市)
  • 山田 耕資, 白石 弘章, 奈女良 昭, 有馬 陽介, 長尾 正崇, 山田 康枝
    セッションID: O-11
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】1995年に神経ガスのサリンを使用した地下鉄サリン事件が発生した.その当時重度な中枢神経障害を負った被害者は,今も後遺症・神経症状に悩まされている.サリンは急性毒性としては,アセチルコリンエステラーゼ阻害剤である.その遅発性神経毒性の作用機序は分かっていないが,アセチルコリンエステラーゼ阻害以外の効果が毒性に関与していると考えられる.サリンなど毒性の高い有機リン化合物の合成および使用は法や国際条約において規制されている.本研究では我々が合成した,サリンと同一のリン酸基を持つ揮発性の全くない有機リン剤bis (isopropyl methyl) phosphonate (BIMP) を使用した.サリンによる遅発性毒性の神経系細胞への効果をみるため, BIMPのヒト神経芽細胞腫SK-N-SH細胞への毒性効果及び,レチノイン酸添加によって神経細胞へ分化させたSK-N-SH細胞への効果を検討する.【方法】SK-N-SH細胞はFCS 10%を含むMEMα培地で継代培養した.様々な濃度のBIMPを添加し,MTTアッセイ法により細胞生存率より,毒性効果を検討した. 培養した細胞(2.0x105 cells /ml)に傷を入れ,BIMPの創傷治癒への影響を観察した(スクラッチアッセイ).神経細胞へ分化させるため, FCS 5%を含むMEMα培地で細胞培養 (5.0x105 cells /ml).3日ごとに培地交換とレチノイン酸,NGF,BDNFの添加を行った.【結果・考察】MTTアッセイ法による毒性の効果で, BIMPを添加すると細胞生存率が下がった.また,BIMP添加後24時間のIC50は44 µMであった.スクラッチアッセイの結果は,細胞に傷を与えてから48時間後, BIMP添加なしの細胞修復率約90%に対し,BIMP100 µMは約45%と細胞修復率が低くなった.神経細胞へ分化させた細胞 に対するBIMPの効果で48時間後, BIMP添加なしの細胞修復率約80%に対し, BIMP100 µMでは約43%であり修復率は低くなった.この結果から,BIMPはSK-N-SH細胞及び,神経細胞へ分化させた細胞 に対する細胞修復率に影響を与え,BIMPはアセチルコリンエステラーゼ阻害以外の効果でSK-N-SH細胞に毒性を示すことを明らかにした.
  • 田口 恵子, 高久 美咲, Thomas W. KENSLER, 山本 雅之
    セッションID: O-12
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    Nrf2は毒物代謝や抗酸化に関わる酵素群の遺伝子発現を統一的に制御する転写因子である。Nrf2欠失マウスを用いた解析から、毒物代謝におけるNrf2の重要性が示されてきたが、一方、マウス特有の解毒代謝酵素の発現によりマウスが毒性評価に適さない場合もあった。その一例がアフラトキシンB1(AFB1)である。AFB1はピーナッツなどの食品に付着するカビ毒で、肝臓がんの原因物質である。マウスではAFB1の解毒代謝に関わるグルタチオンS-転移酵素A3(GSTA3)の発現が高く、AFB1毒性に対して耐性を示す。そこで、我々は新たな毒性評価モデル動物としてNrf2欠失ラットを作製し、AFB1毒性に対するNrf2の防御効果を調べた。Nrf2欠失ラットの肝臓では、Nrf2活性化剤CDDO-Im投与によってNrf2の核蓄積が起こらず、Nrf2下流遺伝子の発現応答も消失した。AFB1の解毒代謝に重要なGSTA3およびアルドケト還元酵素7A3(AKR7A3)は、Nrf2欠失ラット肝臓において、通常時およびCDDO-Im誘導時のいずれにおいても抑制されていた。AFB1を連続投与するとNrf2欠失ラットでは体重増加が抑制され、50%は死亡した。また、CDDO-Im投与によって、Nrf2欠失ラットにおけるAFB1による死亡は防御できなかった。遺伝子およびタンパク質の発現解析から、Nrf2はAFB1の解毒代謝に関わるGSTA3、GSTA5、AKR7A3の発現を誘導していた。そのため、Nrf2欠失ラットでは、AFB1の解毒代謝中間体によるDNA付加体が野生型ラットより多く形成され、遺伝子変異を起こしやすいことが予想される。毒性学では古くよりラットが用いられてきた背景があるので、今回我々が作製したNrf2欠失ラットは、AFB1のみならず多くの毒性評価に新しいツールとなることが期待される。
  • 北嶋 聡, 種村 健太郎, 古川 佑介, 小川 幸男, 高橋 祐次, 大西 誠, 相磯 成敏, 相﨑 健一, 菅野 純
    セッションID: O-13
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    実験動物による吸入毒性試験において病理組織学的な病変を誘発する暴露濃度は、人のシックハウス症候群(SHS)の指針濃度をはるかに超える濃度であることから、そこから得た毒性情報を人へ外挿することの困難さが指摘されてきた。この問題に対し、これまでに、病理組織所見が得られない段階での遺伝子発現変動をPercellomeトキシコゲノミクス法により測定し、肺、肝において化学物質固有及び共通のプロファイルを網羅的に捕えた。加えて、海馬に対し化学構造の異なる3物質が共通して神経活動抑制を示唆する遺伝子発現変化を誘発したことから、これが人のSHSにおける「不定愁訴」の原因解明の手がかりとなる可能性を示した。
     この成果を踏まえ、神経活動抑制の上流に位置する分子機序と肺・肝の関与の解明、及び海馬に対する有害性を実証する目的で、雄性C57BL/6マウス(12週齢)を使用し、SHS関連物質についてSHSレベルでの吸入トキシコゲノミクス及び、3種類のバッテリー式の情動認知行動解析を検討した。3種の暴露プロトコール(2時間単回暴露、6時間/日×7日間暴露、及び22時間/日×7日間暴露)(各4用量・4時点、各群3匹)にて吸入暴露させた際の海馬・肺・肝のmRNAを採取しGeneChip MOE430v2 (affymetrix社)を用い、約45,000プローブセットの遺伝子発現の絶対量をPercellome法により得て網羅的解析をおこなった。情動認知行動解析は、キシレン22時間/日×7日間暴露の終了日及び3日後に検討した。
     肝・肺の連関解析から、IL1βが、二次的シグナルとして海馬での神経活動抑制に働く共通因子の候補と考えられた。また情動認知行動解析の結果、空間-連想記憶及び音-連想記憶の低下が暴露終了日に可逆的に認められ、この事は、海馬における遺伝子発現変動データの予見性が確認されたものと考える。
  • 土屋 卓磨, 石井 雄二, 高須 伸二, 木島 綾希, 横尾 諭, 小川 久美子, 梅村 隆志
    セッションID: O-14
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】酸化ストレスを発生する化学物質は環境中に多数存在するものの、それらの複合暴露による生体影響、特にその加算性については未解明な部分が多い。そこで今回、ラット腎発がん物質であり、その発がん機序に酸化的DNA損傷を起点とした変異原性誘発の関与が疑われている臭素酸カリウム(KBrO3)と腎臓の酸化的DNA損傷は増加させるものの変異原性は有さないアリザリン(Alz)をgpt deltaラットに併用投与して、酸化的DNA損傷並びに遺伝子突然変異への複合影響について検討した。【方法】6週齢の雄性F344系gpt deltaラットに250あるいは500 ppmの濃度のKBrO3を13週間飲水投与し、同時に500 ppmの濃度のAlzを混餌投与した。また、基礎食と蒸留水を投与した対照群に加え、高用量のKBrO3あるいはAlz単独投与群を設けた。投与終了後、腎臓DNA中の酸化的DNA損傷の指標である8-hydroxydeoxyguanosine(8-OHdG)の定量解析並びにgpt及びSpi-遺伝子突然変異体頻度(MF)の検索を行った。【結果】KBrO3単独投与群において8-OHdG量の有意な増加並びにSmall deletionを特徴とするgpt及びSpi- MFの用量依存的な増加を認め、Alz単独投与群においては8-OHdG量が有意に増加した。一方、KBrO3及びAlzの併用投与群では8-OHdG量の加算的な増加を認め、gpt MFはKBrO3単独投与群と変わらないものの、KBrO3 500 ppmとAlzの併用投与群においてSmall deletionに加え、1 kb以上のLarge deletionを特徴とするSpi- MFの顕著な増加を認めた。【考察】KBrO3及びAlzの併用投与により8-OHdG量の加算的な増加を認め、遺伝子突然変異においてはSmall及びLarge deletionを特徴としたSpi- MFの増加が認められた。このことから、酸化ストレス発生剤の併用投与により酸化的DNA損傷が加算的に増加することが明らかとなり、その結果、欠失サイズの増加を伴う遺伝子突然変異が誘発される可能性が示された。
  • 田崎 雅子, 黒岩 有一, 井上 知紀, 日比 大介, 松下 幸平, 石井 雄二, 能美 健彦, 西川 秋佳, 梅村 隆志
    セッションID: O-15
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】酸化ストレスは細胞周期関連遺伝子の転写活性化を通じて腫瘍促進効果を発揮することが知られている。一方、酸化ストレスは8-hydroxydeoxyguanosine(8-OHdG)に代表される酸化的DNA損傷を引き起こすことから、遺伝子突然変異誘発の可能性も考えられている。そこで今回、異なる酸化ストレス産生系を有する非遺伝毒性肝発がん物質をp53ホモ欠損(p53-/-gpt deltaマウスとその野生型(p53+/+)に投与して、肝DNA中の8-OHdG並びにレポーター遺伝子突然変異体頻度(MF)を検索した。【方法】7週齢、雄C57BL/6系p53-/-及びp53+/+gpt deltaマウス各群5匹にペンタクロロフェノール(PCP)を600及び1200 ppm、ピペロニルブトキサイド(PBO)を6000ppm、フェノバルビタール(PhB)を500 ppmの濃度で13週間混餌投与後、肝臓を摘出し、NQO1Cyps1A11A22B10のmRNAレベル、8-OHdG量並びにgpt及びred/gamのMFを解析した。【結果】PCPの何れの投与群においてもNQO1のmRNA並びに8-OHdGレベルの有意な上昇が認められたが、遺伝子型間で差異は認められなかった。PBO投与群でNOQ1Cyps1A11A22B10、PhB投与群でCyp2B10のmRNAレベルの有意な上昇が認められ、PBO投与群で8-OHdG量が有意に増加したが、遺伝子型間でこれらの変化に差異は認められなかった。また何れの投与群においてもgptならびにred/gam MFの上昇は認められなかった。【考察】代謝過程の酸化還元サイクルやCYP誘導により酸化ストレスを産生する肝発がん物質をgpt deltaマウスに投与すると、肝臓中のそれぞれの酸化ストレス産生に寄与する遺伝子のmRNAレベルは上昇し、酸化的DNA損傷の増加も観察されたが、遺伝子突然変異の誘発は認められず、酸化ストレス高感受性のp53欠損マウスにおいても同様の結果であった。従って、酸化ストレス産生系を有する非遺伝毒性発がん物質の発がん機序には酸化的DNA損傷による遺伝子突然変異は関与しない可能性が示された。
  • 信國 好俊, 升本 順子, 沼本 通孝, 好光 健彦
    セッションID: O-16
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】抗腫瘍活性物質感受性関連遺伝子群のゲノム機能学的包括的探索法の開発
    【背景】我々はこれまで大規模ジーントラップ挿入変異細胞ライブラリーを用いた機能遺伝子群の系統的解明法の検討と開発に取り組んできた。これは random mutagenesis による遺伝学的解析法の1つで、ジーントラップ法で様々な遺伝子を破壊した変異細胞ライブラリーの中から、特定の表現型を持つ変異細胞を単離できれば、その変異の責任遺伝子の解明が可能になる。
     このゲノム機能学的解析法を用いて、三酸化ヒ素およびAgelastatin-Aという海綿Agelas dendromorpha (Axinellida)から見出された抗腫瘍活性物質を例に、抗腫瘍活性物質感受性関連遺伝子群の探索法の開発を進めてきた(第41回日本毒性学会学術年会)。しかし、感受性の低下した変異細胞を一つ一つ単離して解析していくのは多くの時間と労力のかかる仕事で、より簡便な包括的探索法の開発が求められている。
    【方法】①大規模ジーントラップ挿入変異CHO細胞ライブラリーの中から、三酸化ヒ素、あるいはAgelastatin-A処理でも、生き残ってきた細胞を各感受性低下変異細胞とした。②各感受性低下変異細胞でトラップ(同時に破壊)された遺伝子を5’-RACE法で増幅後、シークエンス/BLAST解析によって同定した。
    【結果・考察】①これまでに解析を進めてきた、(ⅰ)三酸化ヒ素感受性関連遺伝子群、(ⅱ)Agelastatin-A関連遺伝子群、(ⅲ)細胞内コレステロール代謝異常関連遺伝子群のスクリーニング結果の比較検討から、大規模ジーントラップ挿入変異細胞ライブラリーを用いた遺伝子探索法は、様々な細胞表現型を指標とした機能遺伝子群の解明に有用であると考えられた。②現在、より簡便かつ包括的なゲノム機能学的包括的探索法の開発を進めている。
  • 寒川 彰久, 大竹 正剛, 塩谷 聡子, 柴田 昌利
    セッションID: O-17
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【背景と目的】マイクロミニピッグ(以下MMP)は6ヵ月齢時の体重が約10kgと非常に小型であることから、試験研究等での使用が近年増加している。しかしながら、MMPの組織学的特徴に関する詳細な報告は少ない。そこで本研究ではMMPの精巣に着目し、精子形成サイクルやその月齢別推移等を調べることで、精子形成の組織学的な成熟時期を明らかにすることを目的とした。【方法】3、4.5、6、8.5および12ヵ月齢のMMPの精巣についてFSA固定を行い、常法に従いパラフィン包埋切片を作製した。染色はHE染色およびPAS染色を実施した。精子形成サイクルは、HE染色を用いたtubular morphology systemおよびPAS染色を用いたacrosomic systemの二種類の方法によりステージ分類を実施し、その差異を比較した。また、acrosomic systemの分類に先立ち、精子細胞のPAS染色陽性部位から精子発生のステップ分けを既報に従い行った。続いて、ステージ分けされた精細管数を測定し、ステージごとの比率を月齢別に算出した。【結果および考察】精子形成サイクルはtubular morphology systemでは8ステージに分けられた。精子発生の過程には15ステップが認められたが、ステップ後期の精子細胞とステップ前期の精子細胞は併存することから、acrosomic systemによる精子形成サイクルは11ステージに分けられた。両分類方法によるステージ数の差異は主に円形精子細胞の細分類化によるものであった。月齢別にみたステージ比率は、両分類方法とも3ヵ月齢時で精子発生の若い段階であるステージⅠが他の月齢と比べ1.5~2倍程度高率に観察された。4.5ヵ月齢以降では月齢によるステージ比率に大きな差はみられなかった。また、3ヵ月齢では菲薄な精上皮が散見され、3ヵ月齢と4.5ヵ月齢では精子細胞の分裂不全とされる多核細胞が認められたが、6ヵ月以降ではほとんど観察されなかった。以上より、ステージ比率の安定化と異常所見の有無から、MMPの精子形成は4.5ヵ月齢頃までは発達段階にあり、6ヵ月齢頃に成熟に達することが示唆された。
  • 古川 賢, 辻 菜穂, 林 清吾, 阿部 正義, 山岸 由和, 黒田 雄介, 萩尾 宗一郎, 杉山 晶彦
    セッションID: O-18
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】クロルプロマジン(CP)のラット胎盤発生に対する投与時期の影響を経時的に検索した。【材料及び方法】試験にはWistar Hannover妊娠ラット96匹を供試した。CPは生理食塩水に溶解・希釈し、0及び100mg/kgの用量にて妊娠11、13ないし15日のいずれかに単回腹腔内投与した。妊娠11日投与群(GD11群)では妊娠12、13、15、17及び21日、妊娠13日投与群(GD13群)では妊娠14、15、16、17及び21日に、妊娠15日投与群(GD15群)では妊娠16、17及び21日に剖検し、胎盤及び胚子/胎児を摘出し、重量測定後、胎盤の組織病理学検査を実施した。【結果】母動物は全CP投与群において自発運動減、低体温、尿失禁など一般状態不良を示し、体重減少が認められた。妊娠21日の胎児死亡率はGD11群で40%、GD13群で20%及びGD15群で17%であった。胎児・胎盤重量は全CP投与群で減少していた。胎児重量の減少の程度はGD15群>GD13群>GD11群であったが、胎盤重量の減少の程度は投与時期とは無関係で、ほぼ一律に減少していた。組織病理学的には、迷路層及び間膜腺においてアポトーシスが全CP投与群で投与後1、2日にて増加し、これにより迷路層及び間膜腺は菲薄化していた。細胞増殖活性には著変は認められなかった。基底層においてアポトーシスはGD11群で投与後1、2日、GD13群及びGD15群で投与後1日にて増加していた。細胞増殖活性の減少はGD11群において投与後2日でのみ認められた。基底層は妊娠15日まで菲薄化していたが、妊娠17日以降はグリコーゲン細胞の残存及び嚢胞変性により肥厚していた。胎盤病変及びその進行過程についてはCP投与群間で著変は認められなかった。【結論】CPを妊娠11、13ないし15日のラットに単回投与することで、アポトーシスにより迷路層及び間膜腺では低形成、基底層ではグリコーゲン細胞の残存による嚢胞変性が誘発され、投与時期により病変の差は認められなかった。胎盤病変の感受期は抗がん剤では細胞増殖時期と密接に関連しているものの、CPでは特定の感受期はなく、アポトーシスにより非特異的に胎盤の発育が一過性に阻害されるものと推察した。さらに、胎児毒性は胎盤障害の2次的変化ではなく、CPの直接作用に起因したものと推察した。
  • 木島 綾希, 石井 雄二, 高須 伸二, 横尾 諭, 土屋 卓磨, 児玉 幸夫, 小川 久美子, 梅村 隆志
    セッションID: O-19
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】ラットに腎発がん性を有する抗菌剤ニトロフラントイン(NFT)の遺伝毒性発現機序には酸化的DNA損傷の関与が示唆されている。しかし、その化学構造中の酸化ストレス産生を担うと考えられるニトロフラン骨格を共有するニトロフルフラール(NFA)は遺伝毒性を有するものの酸化的DNA損傷を誘発しない。そこで今回、抗酸化酵素群の転写因子であるNrf2を欠損したgpt deltaマウスにNFTおよびNFAを投与して、NFTの遺伝毒性発現への酸化ストレス関与の詳細について検討した。【方法】6週齢、雄のC57BL/6J系統Nrf2ホモ欠損gpt delta マウス並びにその野生型マウスにNFTを35 および70 mg/kg体重、NFAをNFTの同モル相当の21および41 mg/kg体重 の用量で13週間強制経口投与し、腎臓におけるレポーター遺伝子突然変異頻度、酸化的DNA損傷の一つ、8-hydroxydeoxyguanosine(8-OHdG)レベル並びにNRF2制御下の抗酸化系酵素群のmRNA発現レベルを検討した。【結果】レポーター遺伝子突然変異頻度は、NFT高用量群のホモ欠損マウスで対照群に対し約2倍に上昇し、有意な変化となったが、野生型では上昇傾向を示すに留まった。NFA投与群では、変異頻度の上昇は両遺伝子型共に認められなかった。【考察】NFT投与によりNrf2ホモ欠損マウスのみでレポーター遺伝子突然変異体頻度が有意に上昇したことから、NFTの遺伝毒性に酸化ストレスの関与が強く示唆された。一方、ニトロフラン骨格を共有するNFAはラットの結果と異なり、マウスにおいて遺伝毒性を示さなかった。ニトロフラン骨格の5位にアミノヒダントインがアゾメチン結合したNFTとアルデヒド基を有するNFAで異なる結果を示したことから、NFTの酸化ストレス産生機序にはニトロフラン骨格の側鎖が大きく影響していることが示唆された。今後、gpt変異体の変異スペクトラム、8-OHdGレベル並びにNRF2制御下の酵素群のmRNA発現解析の結果を合わせて報告する。
  • Wageh Sobhy DARWISH, Yoshinori IKENAKA, Shouta NAKAYAMA, Hazuki MIZUKA ...
    セッションID: O-20
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    Benzo[a]pyeren (B[a]P) is one of the polycyclic aromatic hydrocarbons which is formed due to smoking of foods, incomplete combustion of woods, vehicle exhausts and cigarettes smokes. B[a]P gets entry into human and animal bodies mainly through their diets. B[a]P is confirmed to be pro-mutagenic and pro-carcinogenic to animals and humans in many studies.
    Carotenoids such asβ-carotene and its metabolites like retinol and retinoic acids have a confirmed antioxidant activities through their radical scavenging roles.
    The aim of this study, was firstly to estimate the B[a]P levels in fresh and heat treated meats. Additionally, B[a]P induced mutagenicity was studied using Salmonella mutagenicity assay. Moreover, B[a]P induced oxidative stress was examined using human hepatoma cell line (HepG2) cells after exposure to the relevant concentrations of B[a]P formed in heat-treated foods. In addition, the protective effects of carotenoids and retinoids against these harmful effects were also examined. The mechanisms behind these effects were also investigated.
    The obtained results confirmed that carotenoids and retinoids have clear protective effects against B[a]P induced mutagenicity and oxidative stress, probably through their ability of induction of phase II and III enzymes and interference with the induction of phase I enzymes.
  • 田中 猛, 阿部 一, 白木 彩子, 板橋 恵, 木村 真之, 水上 さやか, 渡邉 洋祐, 寒川 祐見, 吉田 敏則, 渋谷 淳
    セッションID: O-21
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】オクラトキシンA(OTA)は主にAspergillus属のカビが産生するマイコトキシンであり、穀物やコーヒー、ビールといった幅広い食品で汚染例が報告されている。その毒性影響として腎毒性や腎発がんの他に中枢神経毒性が知られているものの、後者の特性は十分に検討されていない。本研究ではOTAの神経発生毒性の病理学的なリスク評価を目的として、ラットを用いたOTAの妊娠期・授乳期暴露実験を行い、海馬歯状回におけるニューロン新生への影響を検討した。
    【方法】各群10匹の妊娠SDラットにOTAを0、0.12、0.6、3 ppmの濃度で妊娠6日目から離乳時(分娩後21日目)まで混餌投与した。離乳時及び分娩後77日に児動物を解剖し、雄性児動物の海馬歯状回での、顆粒細胞層とその下帯(subgranular zone: SGZ)におけるニューロン新生の各段階にある顆粒細胞系譜の細胞数の変動及び歯状回門におけるGABA性介在ニューロン及び成熟ニューロンの分布を免疫組織化学的に検討した。
    【結果】児動物では離乳時に3 ppmで脳相対重量の高値及び腎臓相対重量の低値がみられた。免疫組織化学的に、離乳時における児動物のSGZでは3 ppmでPAX6及びTBR2陽性細胞が減少したが、BLBP及びDCX陽性細胞数は変動せず、アポトーシス及び細胞増殖活性に影響はみられなかった。歯状回門では3 ppmでsomatostatin陽性細胞が減少したが、calbindin、calretinin、parvalbumin、reelin及びNeuN陽性細胞は変動しなかった。これらの変化はいずれも分娩後77日では消失した。
    【考察】OTAのラットに対する妊娠期・授乳期暴露により、離乳時の海馬歯状回において3 ppmで顆粒細胞の分化及び生存を制御するGABA性介在ニューロンが減少し、type-2前駆細胞を標的とするニューロン新生障害が認められたが、影響は可逆的であった。
  • 中島 民治, 田中 晋, 佐藤 実
    セッションID: O-22
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【背景・目的】リバビリンは、細胞内のイノシン単リン酸デヒドロゲナーゼ(inosine monophosphate dehydrogenase, IMPDH)に結合してDNA合成を阻害する経口抗ウイルス薬である。C型肝炎ウイルス感染症に対してインターフェロンアルファとともに用いられるが、この治療を受けた患者の約20%で細胞質のロッド・リング構造(Rods and Rings structure, RR)を認識しIMPDHを標的とする自己抗体が産生される。RRは通常の細胞では発現されないが、リバビリンで高率に誘導される。本研究では、細胞質RRの形態的特徴を蛍光顕微鏡および電子顕微鏡で追求した。
    【方法】スライド上のHeLa細胞(ヒト子宮頸癌)を、1 mMリバビリン下で3時間培養しRRを誘導、アセトン・メタノールまたはパラホルムアルデヒド/グルタールアルデヒド固定した。RR/IMPDHに対する自己抗体陽性のC型肝炎患者血清、ついで蛍光標識抗ヒト IgGと反応させ蛍光顕微鏡で観察した。電顕観察は0.2% Digitonin(PBS)で前処理後、ウサギ抗IMPDH2抗体、ついでHRP標識二次抗体と反応後DAB発色、グルタールアルデヒド・オスミウム二重固定、脱水後、倒立ゼラチンカプセル法によってエポン包埋し行った。
    【結果】蛍光抗体法で細胞質に多数のロッド(3~10μm長の棒状)およびリング(2~5μm径の環状)構造が観察された。これらは、細胞に複数個存在する場合があり一部は核内にもみられ、両者が同時に観察される細胞もあった。電顕観察では、RR構造は、中間径フィラメントに似た単一の細線維よりなる結晶状の構造物であり、それが糸状(ロッド)および環状(リング)の構造を呈し、限界膜は持たなかった。 RR誘導の経時的観察からリバビリン処理した細胞質内の脂肪体(Lipid bodies)上にIMPDHが集積し、この表面でIMPDHの集合および成長が起こり、ロッド形成が進むことが示唆された。
    【結語】RR形成過程の解明がリバビリンによる自己抗体誘導機序の理解に重要と考える。
  • 一ツ町 裕子, 森山 賢二, 別枝 和彦, 森田 文雄, 箱井 加津男
    セッションID: O-23
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】マイクロRNAは遺伝子発現を制御して種々の生命現象に関与していることが明らかとなっており,組織から分泌される体液中のマイクロRNA(miRNA)は毒性学分野ではバイオマーカーとしての有用性が報告されている.肝細胞特異的なmiR-122は肝細胞障害時に血中で高発現することから診断マーカーとしても近年注目されている.肝細胞の3次元培養法は肝細胞の長期培養や,より生体に近い機能維持が可能であることから,in vitroの肝毒性評価系として有用である.本研究では,HepG2細胞を用いたスフェロイド培養法を用いて,化合物曝露による肝毒性を形態学的評価及びmiR-122の定量によって検討した.
    【方法】HepG2細胞を用いてスフェロイドを作製し,媒体,acetaminophen(APAP)及びtetrachloromethane(CCl4)を曝露した.スフェロイドを経日的に顕微鏡観察,生細胞染色観察,パラフィン切片作製及びその観察を行い,形態学的評価を行った.また,経日的に培養液及びスフェロイドを回収後,miR-122を測定した.
    【結果及び考察】APAP及びCCl4を曝露したスフェロイドは曝露量依存的にその形態に異常が認められ,膜透過性が亢進していることが確認された.また,曝露後8日目には用量依存的に生細胞数が減少していた.スフェロイドのパラフィン切片を作製し,HE染色したところ,細胞の変性及び壊死像が用量依存的に認められた.一方,経日的に細胞及び培養上清を回収し,miR-122を測定したところ,APAP及びCCl4を曝露したスフェロイドでは曝露後24時間で細胞及び上清中のmiR-122は媒体曝露と比較して著しく上昇しており,また,経日的にその値は上昇することが確認された.以上のことから,HepG2スフェロイドの形態学的評価及びmiR-122のモニタリングは肝毒性検出に有用であることが示唆された.
  • 竹澤 俊明, 押方 歩
    セッションID: O-24
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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     これまでに、コラーゲンビトリゲル膜(以下CVM)チャンバーを用いてヒト肝がん細胞株であるHepG2 細胞の肝機能を迅速に賦活化する培養法を開発した。具体的には、CVMチャンバーの下面に脱着可能なPETフィルムを付着することでCVM下を固相として、チャンバー内に培養液に懸濁したHepG2 細胞を播種して「液相-固相」の界面で2日間培養した。その後、CVMチャンバーの下面よりPETフィルムを取り外して12-wellプレートのwellに装着することでCVM下を気相として、さらに「液相-気相」の界面で1日間培養した。3日間培養したHepG2細胞は、毛細胆管様構造を呈するとともに、アルブミン産生や尿素合成のみならず薬物動態(ADME)関連の肝機能も賦活化することが分かった。
     本研究では、上述のように3日間培養してCVMチャンバー内で肝機能を賦活化したHepG2細胞の培養液にモデル薬物としてFluorescein Diacetate (FD)を添加し、その代謝物であるFluoresceinが細胞間の毛細胆管様構造へ蓄積されたことを確認した。その後、CVMチャンバーをヒト胆管がん細胞株であるTFK-1細胞を単層培養した培養皿内および培養液のみを注いだコントロール培養皿内に移し入れて、Fluoresceinの排泄について解析にした。その結果、コントロール培養皿に比べTFK-1細胞との共培養システムは、HepG2 細胞からのFluoresceinの排泄量およびTFK-1細胞側へのFluoresceinの排泄割合を向上することが分かった。本研究で開発した「肝機能を賦活化したHepG2 細胞とTFK-1細胞の共培養システム」は、今後、短期間で薬物のヒト型肝代謝排泄物を解析する培養ツールとして有用性を検証する研究に発展すると期待された。
  • 高平 梨可, 宇野 泰広, 池中 良徳, 石塚 真由美, 西川 美宇, 榊 利之, 生城 真一
    セッションID: O-25
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】抱合酵素であるUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)は、医薬品、環境汚染物質、食品成分などの生体異物に対するグルクロン酸抱合を触媒する。遺伝子ファミリーを形成しているUGT分子種は、複数の分子種の存在により動物種間において多様な基質及び部位特異性を示す。生体異物に対する毒性評価においてヒト代替動物を用いた代謝解析ではグルクロン酸抱合能に寄与するUGT分子種の機能解析は重要である。本発表では出芽酵母発現系を用いてカニクイザル(Macaca fascicularis, mf)由来UGT分子種の異物抱合能の代謝解析を行った。
    【方法】自律複製型発現ベクターpGYRにmfUGT1A分子種のcDNAをそれぞれ組込み、出芽酵母AH22に酢酸リチウム法を用いて遺伝子導入した。それぞれの形質転換体よりミクロソーム膜画分を調製し、ウェスタンブロット法によってタンパク発現を確認した。また、UDP-グルクロン酸供給系との同時発現によるグルクロン酸抱合能を有する酵母株の構築もそれぞれの分子種について行った。種々の基質に対する抱合能解析はC18逆相カラムを用いたHPLCにより分離定量を行った。
    【結果・考察】C末端共通領域に対するペプチド抗体を用いたウェスタンブロット解析により、ミクロソーム膜画分およびグルクロン酸抱合能を有する菌体株においてUGT1A分子種の発現を確認した。いずれの分子種もモデル基質であるスコポレチンに対してグルクロン酸抱合能を示し、ビスフェノールAや1-ヒドロキシピレンなどの異物に対しても代謝能が確認された。このことから酵母を用いたin vitroでのUGT抱合能解析が可能であり、抱合体調製系としても有用であることが示された。以上より、出芽酵母発現系を用いたmfUGT分子種の機能解析により、カニクイザルにおけるグルクロン酸抱合能をUGT分子種レベルで理解することが可能となった。
  • 岩井 良輔, 根本 泰, 中山 泰秀
    セッションID: O-26
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】培養細胞を用いた創薬試験において,単層培養細胞と立体構造を有する生体内細胞の間で薬剤感受性が異なることが問題視され,スフェロイド培養が注目されている.一方,スフェロイド作製は操作が煩雑で,細胞数の統一や形成後の回収が困難であるなど課題も多い.我々は単層培養細胞へ外部から刺激を加えることなく自己組織化させてスフェロイド形成させることができる培養皿の表面コート剤(CAT)を開発し,再生医療への応用を目指している.本研究ではCAT表面でのスフェロイド作製とそのサイズ調整を行い,創薬試験用途としての可能性を検討した.
    【方法と結果】培養プレートは市販のPSt製96,48,24,12,6ウェルプレートを用いた.培養面へCAT水溶液を滴下して37℃で3時間インキュベートした後,培養面積に合わせて5,10,20,100,250×104個に調整したラット間葉系幹細胞を播種した.細胞は接着して単層コンフルエント層を一旦形成した後,約10時間内に培養皿の周縁から剥離しながら中心へ凝集し,最終的に1個のスフェロイドを自己形成した.スフェロイドは培養面に再接着することなく培地中に安定して浮遊し,培養面に細胞は残存しなかった.得られたスフェロイド゙のサイズは,培養皿と播種細胞数に相関し直径0.3~2.5 mmであった.免疫染色すると,細胞外マトリクスと増殖因子の発現も確認された.直径2.5 mmサイズでも24時間内には壊死は起こらず,48時間後から低酸素(HIF-1α陽性)領域,72時間後から壊死層を認めた.
    【結論】培養面へCAT水溶液を滴下して細胞を播種するだけの簡便操作でmm単位の間葉系幹細胞のスフェロイドを1日以内に作製して回収することができた.ウェル毎に1個のスフェロイドが形成され,そのサイズは細胞数(ウェル面積)で制御可能であった.CATは,創薬試験用スフェロイド゙の作製技術として極めて有望と言える.
  • 水上 拓郎, 百瀬 暖佳, 倉光 球, 平松 竜司, 益見 厚子, 栗林 和華子, 古畑 啓子, 高井 万海子, 山田 弘, 石井 健, 浜 ...
    セッションID: O-27
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    感染症に対し、ワクチンは最も有効な予防手段の一つであり、有効性を高める為のワクチンデザインに加え、新規接種ルート・接種法の開発、免疫活性を増強する為のアジュバントの添加など様々な工夫がなされている。インフルエンザワクチンに関しては、既に承認されている接種ルートに加え、粘膜免疫を誘導する経鼻接種や注射器の要らないパッチワクチン等が開発されている。また免疫活性を高める為に既に承認されているアルミニウムアジュバント以外にも様々なアジュバントが開発され、製剤の多様化が進んでいる。
     我々はこのような多様なワクチン及びアジュバントの新しい安全性評価法を開発する目的で、トキシコゲノミクスの応用を試みてきた。百日せきワクチンや日本脳炎ワクチンに加え(Momose et al., 2010)、インフルエンザワクチンにおける有効性について検討し、インフルエンザワクチンの安全性を評価する20個のバイオマーカー(BM)を同定する事に成功した (Mizukami et a., 2009, 2014)。季節性のインフルエンザワクチンはその流行株によって原料ウイルス株が年毎に代わることからも、株の違いを含めた毒性・安全性評価は非常に重要である。そこでこれらのBMを用い、季節性のインフルエンザワクチンの安全性評価が可能か検討した。その結果、これらのBMがワクチンの安全性に加え、従来の試験法では難しかったロット間差についても定量的に評価出来る事が明らかとなった。
     次に、接種ルートの違いによってこれらの結果に影響を与えるか検討した結果、筋注・腹腔内注射及び経鼻接種の何れの接種法・容量においても安全性を評価できる事が明らかとなった。更に近年開発されたCpGアジュバントの安全性を定量的に評価できるか検討した結果、何れのBMも有意に発現上昇が認められ、アジュバント評価にも応用可能である事が示唆された。
  • 岡田 晃宜, 中川 壯一
    セッションID: O-28
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    薬剤開発における安全性懸念は開発中止あるいは市場撤退理由の大きな割合を占め、製薬メーカーにとって適切な安全性予測・評価戦略の構築は不可欠である。特に投資が膨らんだ開発後期での中止は経営インパクトが極めて大きく、前臨床早期での的確な安全性評価が望まれるところである。しかし、pre-GLP安全性評価については規制ガイドライン等が存在せず、また開発戦略や領域戦略に大きく影響を受けることから、各社各様の背景とポリシーで構築されていると思われる。欧米では各種学会や論文発表において製薬メーカーのpre-GLP安全性評価戦略が報告される例があるが、多くは一般化した内容あるいは一部の評価系や標的臓器に視点を置いた内容であり、創薬研究の現場に即した全体像およびその背景にある考え方を総合的にうかがい知ることは困難である。一方で昨今の科学技術の進歩により、利用可能な最先端の毒性評価系や技術(in vitro/in silico系、モデル動物やバイオマーカー)は数・質・スピードがいずれも増したものの、従来のin vivo評価に比して使用目的が細分化されてきた傾向があり、総合的な創薬毒性評価体系への効率的な組み込みは容易ではない。本発表では、弊社における創薬研究における探索安全性研究の考え方と戦略について紹介する。本発表が、本邦におけるpre-GLP安全性研究者の議論とコミュニケーションのきっかけとなり、創薬研究の発展に少しでも寄与することができれば幸いである。
  • 安齋 享征, 上西 将路, Reto AERNI, 齊藤 祥子, 岩田 聖
    セッションID: O-29
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    米国Food and Drug Administration(FDA)は医薬品承認審査における前臨床試験および臨床試験データの電子化を進めており、前臨床試験についてはFDAもその主要メンバーであるClinical Data Interchange Standards Consortium (CDISC)が中心となり、Standard for Exchange of Nonclinical Data (SEND)の普及のため、SEND Implementation Guide Version 3.1(SENDIG)を発表するなど、その推進をはかっている.さらにFDAは2012年の12月にインフォメーション・テクノロジー5カ年計画案)を発表しており、一連の電子申請および電子審査の推進計画の大綱を示している.また、SENDにおいて考慮すべき点、推奨事項、データセットの提出方法などの細則についてガイダンスを策定している. 更に、本年度の米国トキシコロジー学会をはじめ多くの国際学会もSENDを大きく取り上げはじめている.
    一方、日本においても臨床試験データの電子化及び電子的審査の取り組みが行われており、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)は日本製薬工業会の協力を得て、臨床試験データの提供を受け、システムのフィージビリティーの確認)を行っており、いずれは前臨床試験データの電子審査についても同様の普及推進を行うと考えられている.
    このような日米の動きに対し、世界各国の製薬企業もSENDデータセットの作成方法を検討中あるいは既にそれを終了し、一部の企業はすでにSENDデータセットを用いたFDAへの申請を行っておいる.
    本発表においてはSENDに関わる国際的機関の動き、そして日本の製薬企業が直面しているSENDの課題と対応方法について考察した結果を発表するとともに、先般、Journal of Toxicological Pathologyに発表されたnon-US countriesにおける製薬企業のSEND対応の一つの指針となるSEND Compliance Schemeの有用性と使用事例を紹介する.
  • 山口 宏之, 竹澤 俊明
    セッションID: O-30
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】点眼薬として投与された薬剤は、主に角膜を経由して眼内へ移行する。したがって、点眼薬の開発では薬剤の角膜透過性の評価が極めて重要となる。当研究室では、これまで、生体内の結合組織に匹敵する高密度コラーゲン線維より構成されるコラーゲンビトリゲル膜(以下、CVM)をプラスチック円筒の底面に接着した細胞培養用容器(CVMチャンバー)内に、角膜上皮モデル、または角膜内皮モデルを構築し、それらのモデルの薬剤透過性試験への応用を検討してきた。本研究では、CVMチャンバーのCVMの一方の面に角膜上皮細胞を、もう一方の面に角膜内皮細胞を培養して角膜上皮‐内皮モデルを作製し、その薬剤透過性試験への応用を検討した。
    【方法】CVMチャンバーはCVMの厚さが20μm(関東化学製「ad-MEDビトリゲル」)および、450μm(特注品)の2種類を用いた。ヒト角膜上皮由来細胞株(HCE-T細胞)をCVMチャンバー内で2日間液相培養した後、気相‐液相界面に移行した。培養開始から3日目にCVMチャンバーの裏面にウシ角膜内皮由来細胞株(BCE C/D-1b細胞)を播種した後、3日間培養を行い、角膜上皮‐内皮モデルを作製した。また、角膜上皮のみ、および角膜内皮のみのモデルも作製した。各モデルの物質透過性を異なる分子量の被験物質を用いて測定した。
    【結果】角膜上皮‐内皮モデルは、CVMの一方の面にヒト角膜と同等の約6層の角膜上皮細胞層、もう一方の面に単層の角膜内皮細胞層を有していた。各モデルの物質透過性を測定した結果、角膜上皮‐内皮モデルは、角膜上皮モデル、角膜内皮モデルと比べ、従来、薬剤の透過性試験に使用されている摘出ウサギ角膜に近い物質透過性を示した。特に、膜厚450μmのCVMを用いて作製したモデルはウサギ摘出角膜と同等の透過性を示した。これらの結果から、CVMチャンバーを用いて作製した角膜上皮‐内皮モデルは、薬剤透過性試験用モデルとして有用であることが示唆された。
  • 朴 漢鎭, 金 惠珉, 崔 美善, 崔 永撙, 尹 碩柱
    セッションID: O-31
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    Human pluripotent stem cell (hPSC)-derived hepatocyte has been considered to be the most promising cell model for hepatotoxicity testing. However, it has not been well predictive because of its low expression and activity of drug metabolizing enzymes (DMEs). In this study, we measured mRNA levels of a variety of DMEs and their major regulators including AHR, CAR and PXR during in vitro hepatic differentiation. The mRNA expression levels of most DMEs regulated by CAR and PXR were considerably low in hPSC-derived hepatocytes. On the other hand, the mRNA expression levels of CYP1A1 and CYP1B1 regulated by AHR were comparable to those seen in human adult hepatocytes. Moreover, AHR and its signaling components were active in hPSC-derived hepatocytes, whereas the expression of CAR and PXR mRNA was weak or negligible. In addition, to demonstrate the functional utility of AHR signaling in hPSC-derived hepatocyte, we measured the induction of several AHR downstream target genes in response to well-known AHR agonists. Quantitative real-time polymerase chain reaction (qRT-CPR) analysis revealed strong induction of both CYP1A1 and CYP1B1 by benzo(a)pyrene (BaP), 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD), 3-methylcholanthrene (3-MC), and 2-(1′H-indole-3′-carbonyl)-thiazole-4-carboxylicacid methyl ester (ITE). Furthermore, 6, 2′, 4′-trimethoxyflavone (TMF), a known AHR antagonist, exhibited strong inhibitory effect on the transcriptional activity associated with AHR in hPSC-derived hepatocytes. These results indicated that hPSC-derived hepatocytes can be useful model for screening toxic substances triggering human AHR signaling pathway.

    Funding Source: This research was supported by the Bio & Medical Technology Development Program of the National Research Foundation (NRF) funded by the Ministry of Science, ICT & Future Planning (MSIP), Republic of Korea (No. NRF-2012M3A9C7050138).
  • 小島 肇, Nicole KLEINSTREUER, Michael Wilhelm SCHAEFFER, Tae Sung KIM, Wa ...
    セッションID: O-32
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    Collagen vitrigel membrane (CVM)は、生体内の結合組織に匹敵する高密度コラーゲン線維より構成され、強度、透明性およびタンパク質透過性に優れている(Takezawa T, et al. Cell Transplant. 13: 453, 2004)。これまでに、CVM上にHCE-T細胞(ヒト角膜上皮細胞株)を多層化培養してバリア機能を有する角膜上皮モデルを構築した後に、化学物質を曝露して惹起される経上皮電気抵抗(TEER)値の経時変化が眼刺激性評価の有効な指標となることを実証し(Takezawa T, et al. Toxicol.In Vitro 25: 1237, 2011)、新しい眼刺激性試験法「Vitrigel-EIT (Eye Irritancy Test)法」を開発した(Yamaguchi H, et al. Toxicol.Sci 135: 347, 2013)。この試験法は、培養液に混和した2.5(w/v)%被験物質を角膜モデルに曝露した後、TEER値の経時変化を3分間測定して眼刺激性の有無を評価するため、簡便かつ安価である。本研究では、この試験法の施設内、施設間再現性および予測性を評価するため、動物実験代替法国際協力組織(ICATM)の協力を得て国際的なバリデーション実行委員会を組織し、参加3施設の協力を得て、バリデーション研究を実施した。コード化した10物質を用いたプレバリデーション研究の結果、施設内再現性は80~100%、施設間再現性は80.0%といずれもバリデーション計画で設定した基準である80%を上回った。コード化した36物質を用いた本バリデーションにおける施設間再現性は91.7%であり,眼刺激性の感度,特異度,正確度は,それぞれ80.6%,41.7%,67.6%であった。この値は安全性試験として、不十分であることがバリデーション実行委員会から指摘され、適用範囲から酸性溶液および非水溶液の高い溶液を除くことが提案されている。
  • 中村 和昭, 相澤 和子, Kyaw Htet AUNG, 田上 昭人
    セッションID: O-33
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    DNAのメチル化は遺伝子発現を負に制御し、近年の研究から、発がんあるいは細胞特異的遺伝子発現制御に重要な役割を果たしていることが示されている。ゼブラリンは、ゲノムDNAの脱メチル化を引き起こすシチジン類縁体のDNAメチル化阻害剤である。今回我々は、ヒト肝癌由来細胞株であるHepG2細胞を用いて、ゼブラリンによるHepG2細胞におけるシトクロムP450(CYP)遺伝子発現亢進とその作用機序を検討した。培地へのゼブラリン添加は、HepG2細胞のCYP遺伝子発現を亢進させた。ゼブラリンはDNAメチル基転移酵素(DNMT)を抑制することから、HepG2細胞においてsiRNAを用いたDNMT1発現抑制によるCYP遺伝子発現変動を検討した結果、CYP遺伝子発現はゼブラリン添加時に比べ低かった。我々はこれまでの検討により、ゼブラリンがHepG2細胞においてdouble stranded RNA-dependent protein kinase(PKR)を抑制することを見出している。そこで、HepG2細胞においてsiRNAあるいは阻害剤を用いたPKRの抑制によるCYP遺伝子発現変動を検討した結果、CYP遺伝子発現はゼブラリン添加時に比べ低かった。一方、DNMT1とPKRを同時に抑制した場合、ゼブラリン添加時と同程度のCYP遺伝子発現亢進を認めた。これらの結果から、ゼブラリンはDNMT1およびPKRの両者を阻害することによって、CYP遺伝子発現を亢進していると考えられた。HepG2細胞は肝機能を有しているものの、その肝機能は著しく低いことが知られている。一方で、HepG2細胞は汎用性の高い培養細胞として多くの研究者に使用されている。したがって、ゼブラリンによるCYP発現亢進機序の解明は、HepG2細胞の機能亢進を誘導する新たな遺伝子発現制御機構の解明につながると考えられ、HepG2細胞の毒性研究等への応用に可能性が広がるものと期待される。
  • 平林 容子, 壷井 功, 五十嵐 勝秀, 菅野 純, 楠 洋一郎
    セッションID: O-34
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    全身照射をうけたマウスの急性応答に対する感受性は、造血器では若齢期で成体期よりも高く、放射線誘発白血病の発症頻度の報告とも符合していた。一方、照射による遷延効果は、被爆時の週齢によらず、より未分化な造血幹・前駆細胞に限局して長期に遺残することを見出した。即ち、6週齢と6ヶ月齢のマウスにそれぞれ2Gyのガンマ線の単回全身照射を行うと、6ヶ月齢群では、6週齢群と比べて分化型の血球も造血幹・前駆細胞分画も、照射直後の数の減少の程度は少ない。更に、6週齢群で観察された造血前駆細胞におけるBrdUrdの取り込み抑制も6ヶ月齢群では認められなかった。その後の回復は、既報の6週齢群同様、6ヶ月齢群でも、分化型の血球数は速やかに回復するが、造血幹・前駆細胞分画では分化階層の低いほど回復が遅延し、より未分化な造血幹細胞(LKS)分画では、18ヶ月齢(照射12ヶ月後)でも対照群の61.9%の回復に留まった。興味深い事に、2週間ないし、6週間にわたりBrdUrdを飲水投与したマウスのLKS分画におけるBrdUrdの標識率は、照射4週以降22.5ヶ月齢までの観察した限りの全ての時点で、6週齢照射群でも6ヶ月齢照射群でも非照射対照群よりも高かった。一方、generation doublingを反映すると考えられる2週間と6週間の標識率の比は、逆に照射群で低値に留まった。尚、照射4週後の標識率に限って、急性期応答の差異と同様、6週齢群の方が6ヶ月齢群より高値を示した(6週齢群vs.6ヶ月齢群:2週間標識1.36倍、1.21倍;6週間標識1.17倍、1.06倍)。更に、照射4週後の骨髄細胞における網羅的遺伝子発現解析で浮上した細胞増殖やアポトーシスの関連遺伝子に注目して定量PCR法で解析したところ、既報の6週齢群と同様6ヶ月齢群でも、照射15ヶ月後のLKS分画でのみCcnd1Fyn及びPiK3r1の過剰発現が認められた。照射による遷延効果は加齢変化を促進することが示唆されており、以上の結果もこれに符合するものとして興味深い。
  • 曽根 秀子, 曾 洋, 黒河 佳香
    セッションID: O-35
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    多能性幹細胞からの神経細胞へ分化を反映したin vitro発生毒性評価試験を実施するため、効率良く再現性の高いニューロスフィアアッセイの確立について、1)薄くて丈夫な細胞外マトリックスの選択、2)ニューロスフィアに最適な1ウェルあたりの細胞数、3)スフィア形成と分化期間の長さに関する検討を行ったので報告する。ヒト胚性幹細胞(H9細胞)由来神経前駆細胞hNPC株(米ジェロン社)を丸底96ウェルプレートに、1ウェルあたり3000~6000個細胞になるように播種し5~7日間培養した。その後、平面底プレートに、1ウェルあたり1個のスフィアになるように移し、神経分化専用培地で5~7日間さらに培養した。その後、4%PFAで固定し、神経特異的MAP2の蛍光シグナルを指標に神経突起伸長を定量した。また、ベンツ[a]ピレン(BaP)及び5-アザ-2'-デオキシシチジン(5-Azadc)を細胞培養の培地中に添加し、化学物質の影響を調べた。細胞外マトリックスの選択では、ラミニン(LM)511含有されているコートプレートが十分に神経突起の伸展をし、その後の免疫組織化学的解析にも有効であった。ニューロスフィア形成には、1ウェルあたり6000個の播種密度が再現性及び均一性の点で最適であった。アッセイ期間については、分化培地に移した後の細胞遊走能の大きさから、スフィア形成期間を5日間と、分化期間を5日間ないし6日間とする計10-11日間のアッセイを確立した。化学物質曝露の影響評価では、スフィア形成2日後に添加して3日間培養し、その後化学物質のない分化培地で培養して影響を調べた。その結果、両物質とも、用量依存的に神経細胞の遊走を抑制し、スフィアの発達が抑制されることが観察され、スループットに適用可能なューロスフィアアッセイの確立ができた。今後化学物質の影響評価を進める予定である。
  • 長倉 廷, 松原 孝宜, 圖子田 康, 澤田 光平
    セッションID: O-36
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    Human iPS-derived cardiomyocyte (iPS-CM) is potential source for the development of toxicity assay systems to predict the cardiac adverse event in clinical usage. Actually, electrophysiological assessment with multi-electrode array system showed excellent correlations between field potential duration and QTc prolongation. In the present study, we would like to introduce new multi-spheroid imaging analysis by Cellvoyager CV7000 system. This assay system brought unique parameters and they would be a suitable for in vitro screening to assess cardiotoxicity of drugs at an early stage of drug development process.
    In briefly, iPS-CM (iCell® Cardiomyocytes) was seeded into Cell-ableTM plate which has multiple fibronectin-coated spots in each well (40-400 spots/well) and spheroids were formed on all spots after 7 days culture. Then, the spheroids were incubated with several test compounds and calcium (Ca) sensing fluorescence dye was added for measurement of change in intracellular Ca concentrations. The changes in fluorescent intensity of all spheroids were detected using Cellvoyager CV7000 system.
    For optimization, the size of iPS-CM spheroid was modified by changing of diameter of fibronection spot. The result showed that diameter of around 100 µm is suitable for iPS-CM spontaneous beating. Seeded iPS-CM cells numbers were adjusted for optimizing cubic volume of spheroid. Optimized condition and the results after anti-cancer agent treatment in multi-spheroid imaging analysis will be introduced in JSOT annual meeting.
  • Patcaraporn MANAKUL, Peerakietkhajorn SARANYA, 松浦 友亮, 加藤 泰彦, 渡邉 肇
    セッションID: O-37
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    The crustacean zooplankton Daphnia magna is highly sensitive to chemicals and it has been used for chemical toxicity tests according to the OECD guidelines. Recently we identified symbiotic bacteria in Daphnia magna, which plays critical roles on the growth and the reproduction. To evaluate the effects of symbiotic bacteria on the chemical sensitivity of Daphnia, bacteria-free Daphnia were prepared and chemical sensitivities were compared between bacteria-free Daphnia and normal Daphnia (with symbiotic bacteria) under the acute immobilization test.
    Firstly we developed a method for preparation of bacteria-free Daphnia. The elimination of symbiotic bacteria was confirmed by PCR targeted to bacterial 16S ribosomal DNA. Then acute immobilization test was performed using the bacteria-free Daphnia. Normal Daphnia showed greater chemical resistance to higher concentration of Nonylphenol, Fenoxycarb and Pentachlorophenol than bacteria-free Daphnia. Interestingly, toxicity of antimicirobial reagent Triclosan did not show significant difference between normal and bacteria-free Daphnia.
    These results suggested potential roles of symbiotic bacteria in relation to the chemical resistance of its host Daphnia. Thus it is possible that multiple contaminant including antibiotics may rise the sensitivity of Daphnia to chemicals and that the differences of toxicity data on Daphnia among laboratories may partly depend on the composition of symbiotic bacteria.
  • 篠原 直秀, 大嶋 浩, 小林 俊夫, 今田中 伸哉, 中井 誠, 佐々木 毅, 川口 建二, 張 貴華, 蒲生 昌志
    セッションID: O-38
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    サイズ、形状の異なる4種類の酸化ニッケルナノ粒子(US3352 (球形, 一次粒径18nm, 二次粒径 73~112 nm, US Research Nanomaterials, Inc.), NovaWireNi01 (繊維状, 径 ~20 nm長さ ~20 μm, Novarials Co.), I小粒径 (球形, 一次粒径300 nm, 二次粒径 1.8~2.0 μm, 日下レアメタル研究所), Ni(II) Oxide Nanopowder (球形, 一次粒径50 nm, 二次粒径 73~75 nm, Sigma-Aldrich))をF344ラットに気管内投与し、肺からのクリアランスおよびリンパ節等への移行を解析した。設定投与量は、0.67、2.0及び6.0 mg/kg bwとし、解剖を投与3日後、28日後及び91日後に行った。肺からのクリアランス速度定数は、NovaWireNi01 >> I小粒径 > Nanopowder > US3352であった。I小粒径では、用量依存的に肺クリアランス速度定数が減衰するオーバーロードが観察されたが、他の3材料では用量依存性は見られなかった。リンパ節への移行速度定数は、Nanopowder > US3352 > I小粒径 >> NovaWireNi01であった。NovaWireNi01以外の3材料では用量依存的にリンパ節への移行速度定数が増加していたが、NovaWireNi01では用量依存性は見られなかった。NovaWireNi01は、投与28日後及び91日後の肺内保持量が1%以下であったため、追加試験を行ったところ、24時間以内に投与量の30%近くが尿中に排泄されていることが分かり、体内で溶解して急速にクリアランスされていることが示唆された。本研究は経済産業省からの委託研究「ナノ材料の安全・安心確保のための国際先導的安全性評価技術の開発」による研究成果である。
優秀研究発表・一般演題 ポスター
優秀研究発表 ポスター
  • 越智 幹記, 田中 祥之, 豊田 弘
    セッションID: P-1
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
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    【目的】ニカルジピン塩酸塩注射液による血管障害を軽減することを目的として、ニカルジピン塩酸塩による正常ヒト皮膚微小血管内皮細胞(HMVEC)の細胞傷害メカニズムを明らかにし、さらに医薬品添加物による細胞保護作用について検討を実施した。
    【方法】HMVEC にニカルジピン塩酸塩を暴露し、経時的な死細胞数増加を測定した。また、オートファジーのマーカーである Monodansylcadaverine (MDC) を用いて細胞傷害メカニズムを精査し、オートファジー阻害剤存在下での細胞生存率の測定により、ニカルジピン誘発細胞傷害におけるオートファジーの関与を精査した。また、市販の製剤に用いられている医薬品添加物のニカルジピン誘発血管内皮細胞傷害に対する細胞保護作用をスクリーニングした。
    【結果・考察】ニカルジピン塩酸塩を暴露 30 分後に細胞内の小胞体増加が認められ、暴露後 3 から 6 時間にかけてオートファゴソーム染色試薬の MDC の蛍光強度が増加し、6 から 9 時間にかけて死細胞が増加したため、ニカルジピン塩酸塩暴露による細胞傷害のメカニズムはオートファジー誘導によるものであると考えられた。オートファジー阻害剤である 3-methyladenine 存在下でニカルジピン塩酸塩を暴露したところ、ニカルジピン塩酸塩による細胞生存率の低下は著しく抑制された。また、オートファジー抑制作用が報告されている N-acetylcysteine では 1 mg/mL の濃度でニカルジピン塩酸塩誘発細胞傷害を約 40% 抑制した。以上の結果から、ニカルジピン塩酸塩によるヒト血管内皮細胞の細胞傷害の主要経路はオートファジーであり、オートファジーの阻害によりニカルジピン塩酸塩による細胞傷害を低減できると考えられる。
  • 武正 文子, 吉田 映子, 山本 千夏, 藤原 泰之, 鍜冶 利幸
    セッションID: P-2
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】TGF-βは動脈硬化病変の進展に寄与する最も重要なサイトカインの1つであり,血管平滑筋細胞の増殖,遊走,細胞外マトリックス代謝を制御する。一方,必須微量元素である亜鉛もまた増殖などの細胞機能を調節することが知られている。しかしながら,亜鉛代謝に関しては未だ不明な点が多い。細胞内亜鉛は亜鉛輸送体より制御されているが,そのうちZIP8は亜鉛を細胞外から細胞質に輸送する亜鉛輸送体である。本研究の目的は,血管平滑筋細胞の機能調節因子であるTGF-β1による亜鉛輸送体ZIP8の発現調節機構を明らかにすることである。
    【方法】ウシ大動脈平滑筋細胞にTGF-β1を曝露し,亜鉛輸送体ZIP8 mRNAの発現を定量的RT-PCR法で,SmadシグナルおよびMAPKシグナルの活性化をウエスタンブロット法で検出した。RNA干渉法によるタンパク質の発現抑制を行った。
    【結果および考察】TGF-β1は濃度および時間依存的にZIP8 mRNA発現を抑制した。TGF-β1はその受容体ALK5の阻害剤およびALK5 siRNAにより,TGF-β1によるZIP8 mRNAの発現抑制が消失した。TGF-β1によるSmad2/3の活性化をSmad2またはSmad3 siRNAにより発現を抑制したところ,Smad2 の発現を抑制した場合にのみTGF-β1によるZIP8 mRNAの発現抑制が消失した。MAPK経路を検討した結果,TGF-β1によりERK,p38およびJNKの活性化が認められたが,それぞれの阻害剤を処理してもZIP8 mRNAの発現に変化は見られなかった。以上の結果から,TGF-β1はALK5-Smad2シグナル伝達経路の活性化を介してZIP8の発現を抑制することが明らかとなった。本研究の結果は,TGF-β1がZIP8の発現抑制を介して血管平滑筋細胞の亜鉛代謝を調節することを示唆している。
  • 徳本 真紀, 李 辰竜, 佐藤 雅彦
    セッションID: P-3
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】カドミウム (Cd) は腎毒性を引き起こす有害重金属であるが、その毒性発現機構は明らかとなっていない。我々はこれまでにCdを曝露したラットおよびヒトの腎近位尿細管上皮細胞 (NRK-52EおよびHK-2) において、ユビキチン (Ub) 転移酵素UBE2Dファミリー遺伝子の発現減少に伴ってp53が過剰蓄積し、アポトーシスが出現することを見いだしている。しかしながら、CdによるUb転移酵素の遺伝子発現抑制機構は明確にされていない。そこで、NRK-52E細胞を用いてCdによって活性変動する転写因子を網羅的に解析したところ、最も顕著に活性が低下する転写因子としてYY1が認められた。YY1はp53を負に調節し、YY1の発現抑制により細胞増殖の停止やアポトーシスが誘導されることが知られている。本研究では、CdによるUb転移酵素の遺伝子発現抑制に及ぼすYY1の影響を検討した。
    【方法】HK-2細胞を用いてCdによって活性変動する転写因子をProtein/DNA Arrayおよびゲルシフトアッセイにより解析した。HK-2細胞にYY1 siRNAを導入し、各mRNAレベルをリアルタイムRT-PCR法により測定した。
    【結果および考察】NRK-52E細胞と同様にHK-2細胞でもCdによりYY1のDNA結合活性が抑制された。次に、転写因子結合予測配列データベースからUBE2D2およびUBE2D4の転写開始領域上流にYY1が結合しうることを確認した。そこで、YY1をノックダウンしたHK-2細胞におけるUBE2D2およびUBE2D4 のmRNAレベルを測定したところ、UBE2D4 mRNAレベルに変化はなかったが、UBE2D2 mRNAレベルは約30%減少した。以上の結果より、CdによるUBE2D2の遺伝子発現抑制は、これを制御する転写因子YY1の転写活性が低下するためであることが示唆された。
  • 安孫子 ユミ, Nho Cong LUONG, 熊谷 嘉人
    セッションID: P-4
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    [目的] 親電子性を有するキノン化合物は,タンパク質のチオール基に代表される求核置換基に共有結合し,生体防御応答もしくは化学発がん等の原因となる.当該物質によるタンパク質の化学修飾を検出するには,それぞれの抗体を作成してウエスタンブロット分析することが一般的であるが、多大な時間と労力を要する.そこで本研究では,Biotin-(PEAC)5-maleimide (BPM) 標識法を用いてELISA法を応用したキノン化合物によるタンパク質修飾の検出法を確立することを目的とした.
    [結果および考察] A431細胞を1,2-naphthoquinone (1,2-NQ) および1,4-naphthoquinone (1,4-NQ) に曝露したサンプルで検討した結果,それぞれを特異的に認識する抗体を用いたウエスタンブロット分析では曝露量依存的なバンド強度の増加が見られるのに対して,BPMを用いた本分析では逆にバンド強度の減少が観察され,両者間で逆相関が見られた.このことは,BPMアッセイによるタンパク質の化学修飾検出の妥当性を示唆している.マウス肝細胞質画分を固相化した96穴プレートに1,2-NQおよび1,4-NQを反応させたELISAでも同様な結果が得られた.これを支持するように,5-hydroxy-1,4-NQ,5,8-dihydroxy-1,4-NQ,1,4-benzoquinone (BQ),tert-butyl-BQおよびアセトアミノフェンの親電子代謝物N-acetyl-p-benzoquinone imineについても本ELISAでタンパク質の化学修飾が認められた.さらに、大気揮発性成分には1,2-NQのような親電子物質が含まれていることが知られているが,BPMアッセイでその事実が再確認された.以上より、本法は親電子物質によるタンパク質の化学修飾を検出することで、キノン系化合物のような親電子物質の有無を簡便にスクリーニングできることが示唆された.
  • 武田 知起, 小宮 由季子, 木庭 彰彦, 仲矢 道雄, 黒瀬 等, 横溝 岳彦, 清水 孝雄, 内 博史, 古江 増隆, 石井 祐次, 山 ...
    セッションID: P-5
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    2,3,7,8-Tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD) 等のダイオキシン類は、芳香族炭化水素受容体 (aryl hydrocarbon receptor; AhR) を介して遺伝子発現を変動させ、肝障害等の毒性を惹起する。しかし、どの遺伝子変動が毒性に寄与するかは十分に理解されていない。遺伝子の発現変動に伴い生体内成分が変動し、これが毒性に直結することが考えられるが、このような視点からの研究は十分ではない。我々は最近、ラット肝臓を用いたメタボローム解析を実施し、TCDD 曝露 (60 µg/kg) により leukotriene B4 (LTB4) が蓄積する可能性を見出した。LTB4 は、強力な好中球遊走および活性化作用を通して炎症反応に関与し、その集積は組織障害の原因となりうる。従って、TCDD による肝 LTB4 蓄積は、好中球浸潤による炎症応答の亢進ならびに肝障害に直結する可能性が高い。本研究ではこの可能性に着目し、肝 LTB4 増加の機構解析ならびに毒性学的意義を検証した。まず、LTB4 合成および代謝酵素の発現変動を解析した結果、TCDD は LTB4 合成酵素である 5-lipoxygenase を誘導すると共に、前駆物質である LTA4 を LTC4 に変換する LTC4 synthase を減少させることが判明した。さらにこれらの変動は、AhR 欠損ラットにおいては全く認められず、AhR 活性化に基づいて起こることが明らかになった。続いて、LTB4 受容体 (BLT1) 欠損マウスを用いて炎症反応に対するLTB4 増加の寄与を検討した。その結果、TCDD により野生型マウスで認められる好中球浸潤ならびに、炎症/肝障害マーカーの増加が、BLT1 欠損マウスでは顕著に抑制された。以上の成果から、TCDD は AhR 依存的に 5-lipoxygenase を誘導すると共に LTC4 への変換を抑制することで肝臓への LTB4 蓄積を惹起し、これに基づく好中球浸潤ならびに炎症反応の亢進が、ダイオキシンによる肝障害の一端を担うとの新規機構が明らかとなった。
  • 熊本 隆之, 押尾 茂
    セッションID: P-6
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】X染色体不活性化は胎生期にX染色体不活性化因子(Xist・Tsix)がX連鎖遺伝子発現を制御し雌雄の発現量を均一にする機構である。X連鎖遺伝子は千種以上存在、特に脳神経や雄性生殖、免疫発達の関連遺伝子を多く有し、胎生期化学物質環境の次世代健康に作用することが予見される。これまでに発表者らはディーゼル排ガス (Kumamoto, JToxSci, 2013) やビスフェノールA (Kumamoto, JToxSci, 2013) 胎仔期曝露がXistとそのアンチセンスのTsixを変化させることを報告している。今回、学習・認知発達影響や中枢神経毒性が報告されているベンゾ[a]ピレン(BaP)の胎仔期曝露を実施、X染色体不活性化因子およびX連鎖性脳神経発達関連遺伝子の発現変動を中心に解析した。 【方法】ICR系妊娠マウスに20、80、320 mg/kgのBaPを妊娠7から15日目まで1日おきに胃内強制経口投与した。その雌性出生仔を4、11、46日齢に解剖に供し、大脳部を摘出、リアルタイムPCR法により遺伝子発現変動を検討した。検討遺伝子はX染色体不活性化因子のXistおよびTsix、X連鎖性脳発達関連遺伝子としてFmr1、Gdi1、Nlgn3、Ophn1、Pak3、ARとした。46日齢では血清中エストラジオール濃度をELISA法により解析した。統計処理はDunnett 法とした。 【結果】4日齢においてはXistおよびNlgn3、ARの減少、11日齢においてはXistおよびARの減少が認められた。46日齢においてはXistに変化が認められなかったが、Tsixの減少とともに、Fmr1、Pak3、Gdi1の上昇が認められた。46日齢では体重と大脳重量の有意な低下、エストラジオール濃度の曝露濃度依存的な増加が認められた。 【考察】Xistの減少またはTsixの上昇はX連鎖遺伝子を減少方向に、Xistの上昇またはTsixの減少はX連鎖遺伝子を上昇方向に変動させており、X染色体不活性化因子の変動の方向性がX連鎖遺伝子の変動を決定づける可能性が示唆された。BaP投与の脳発達影響との関連は不明であったが、変動の法則性が見いだされ、XistとTsixをバイオマーカーとした胎仔期化学物質曝露の毒性予測システムが構築される可能性がある。
  • 服部 友紀子, 武田 知起, 藤井 美彩紀, 伊豆本 和香, 石井 祐次, 山田 英之
    セッションID: P-7
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/03
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】妊娠期のダイオキシン曝露による出生児発育障害の発現機構は殆ど理解されていない。我々は最近、2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD) が出生前後の児の脳下垂体において成長ホルモン (GH) の発現を顕著に低下させることを見い出した。GH は児の発育に必須であるため、TCDD による GH 低下は発育障害に直結する可能性が高い。本研究では、この可能性を検証するため、TCDD 曝露胎児への GH 補給効果を解析すると共に、成長後にまで継続する障害の規定因子を探索した。【方法】妊娠 (GD) 15 日目の Wistar ラットに 1 µg/kg TCDD を経口投与したのち、GD20 に胎児に GH (5 µg) を補給した。出生児の体重を計測すると共に、成長後の学習記憶能力を評価した。成長後の血清を用いて、脂質濃度を測定すると共に、UPLC-TOF-MS 装置に付してメタボローム変動を解析した。【結果・考察】TCDD 曝露胎児に直接 GH を補給した結果、TCDD による出生児の低体重が生後早期には正常水準に回復し、その後も回復傾向を示した。さらに、成長後の学習記憶能力低下や低コレステロール形質も改善ないし改善傾向を示した。これらの結果から、TCDD 依存的な胎児期の GH 低下が、出生後早期に出現する低体重の主因であり、成長後の短期記憶障害や脂質代謝異常に対しても一定の寄与を有することが実証された。成長後にまで障害形質を固着させる因子を探索するため、TCDD 曝露母体より出生した児の血清メタボローム解析を行った。その結果、TCDD により acetylcarnitine 等の神経伝達物質や 1α,25-dihydroxycholecalciferol 等のカルシウム吸収・沈着因子の変動が認められ、胎児期の GH 補給により一部が改善した。従って、TCDD は胎児期の GH 低下を起点として、神経成熟や骨格維持に寄与する物質の変動をインプリントし、これらが発育障害の一因を担う可能性が示唆された。さらに、腎機能障害や骨質低下の指標である pentosidine が TCDD 依存的に増加し、胎児への GH 補給により改善したことから、これが発達期 GH 低下に基づく発育障害の新規バイオマーカーとなる可能性が見い出された。
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