Tropics
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9 巻, 4 号
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  • 沼田 真也, 可知 直毅, 奥田 敏統, N. MANOKARAN
    2000 年 9 巻 4 号 p. 237-243
    発行日: 2000年
    公開日: 2009/02/28
    ジャーナル フリー
    熱帯樹種の種子及び実生の食害とその防御機構に関する知見を得るために,半島マレーシアの低地自然林に生育するフタパガキ科5 種の実生ステージにおける葉の傷害(昆虫及びカビなどの病原体による)と葉の形質(フェノール化合物含量,物理的強度及び窒素含量)との関係を調査した。その結果,野外に生育する実生の葉の平均葉傷害には有意な種間差がみられ,特に全ての着葉のうち50% 以上の傷害を受けた葉の割合(重傷害率)は5 % (Shorea multofIora) から13.8 % (S. paucifIora) と大きくばらついた。葉の平均葉傷害とそれぞれの葉の特性の聞にみられる種間差を検討するために相関解析を行ったところ,いずれにおいても有意な相関関係はみられなかった。一方,葉の重傷害率と葉の特性の聞について棺関解析を行ったところ,葉内フエノール化合物含量との聞に有意な負の相関関係がみられた。これは量的防御物質として知られるフェノール物質を葉内に高濃度に蓄積する樹種ほど成熟葉の傷害拡大を回避している可能性を示唆する。
  • 1. 内陸小低地集水域の土壌特性
    林 慶一, Oluwarotimi O. Fashola, 増永 二之, 若月 利之
    2000 年 9 巻 4 号 p. 245-258
    発行日: 2000年
    公開日: 2009/02/28
    ジャーナル フリー
    西アフリカ,ニジエールに於けるサヘル帯内陸小低地集水域の土壌特性を明らかとするため,ベンチマーク集水域内の土壌の物理,生物,そして化学性の把握を行った。マタンカリ村を含む集水域にベンチマークサイトを設け(BMW),縦横二つのトランセクトラインに沿って,土壌サンプリングを行った。BMW は4 つの異なる地理的単位,即ち,台地,斜面,平原部,低地部によって構成されている。台地及び斜面は泥質砂岩(TMS) より成り,また平原部は砂によって覆われている。低地部は,表面流去水や侵食土壊等を湛えることができる唯一の場所である。土壌分析の結果により,縦トランセクトライン上に分布する土壌は,物理,生物,そして化学性どれについても非常に低いことがわかった。これは,このトランセクトラインが,ワジ(澗れJlI)が分布する谷底に沿って引かれているためである。一方,横トランセクトライン上に分布する土壌の土壌肥沃度を見ると,縦トランセクトラインよりも高いことがわかった。平野部に分布する土壌は全て,砂の含量が高い(>95%) ため,肥沃度が非常に低いが,台地と低地部では粘土含量が高く,他の土壌に比べ高い肥沃度を持っていることがわかった。この二つの土壌は,全窒素,全炭素量が高く,有機物の集積があることが判る。以上から,この二つの地理的単位に分布する土壌の化学性は農耕に適した土壊であるということが明らかとなった。また,これらの地理的単位での生態系への適切な技術の適用によって,台地上の過乾と低地の過剰な水分を制御できれば, BMW のその他の地理単位における農耕によって引き起こされている土壊や生態環境への負荷の軽減が可能となると考える。今後,内陸小低地集水域での農民の持つ伝統的な知識や情報に関する研究,即ち,民族土壌学や民族植物学等半乾燥地に於ける持続可能な農業システムの開発に必要な研究が重要である。
  • 2. 農民による伝統的な土壌分類システム
    林 慶一, Oluwarotimi O. FASHOLA, 増永 二之, 若月 利之
    2000 年 9 巻 4 号 p. 259-273
    発行日: 2000年
    公開日: 2009/02/28
    ジャーナル フリー
    農民による伝統的な土嬢評価,土壊分類システムを分析データを基に検討するため,西アフリカ,サヘル帯に位置するマタンカリ村付近の内陸小低地集水域をベンチマークサイトとし,農民による土壌分類システムに関する調査を行った。ベンチマーク内に於いて,農民は土壌を土色,土性,そして肥沃度レベルの3 つの因子を用いて評価していることがわかった。これらの因子は,現地の使用言語であるハウサ語によって3~4 つに細分されていた。農民は,これらの細分化された言葉の組み合わせによって,或いは,直接細分された言語を用いて土嬢を認識,分類していた。調査によって“Hori-rairay”,“Lesso&rdqup, “Phara-Kassa”, “Ja-kassa”, “Baka-Kassa”,“Baringo”,“Ja-laka”そして“Kounkou” がベンチマーク内で用いられている土壊の現地名であることが分かった。土色,土性,そして肥沃度レベルによる土壊の評価方法は,農民の何世代にも渡る経験に基づいており,その社会に適応した言葉である。ベンチマーク内で採取した土壊サンプルを用いて,土壊の定量的評価を行い,各土壌の土壌特性を明らかにした。土色,粒径組成,全炭素,全窒素,有効態リン酸そして, eCEC について,分析を行った。分析結果により,農民により分類された土壌は分析結果によく対応していることが分かった。例えば,農民によって極めて不良な土嬢に分類されている“Hori-rairay” について,ほかの土壌に比べその土色は薄く,砂含量が高くそして肥沃度が低いことが分かった。一方,農耕に最も適した土壊に分類されてい“Baringo”については,その土色は濃く,粘土含量が高くeCECが高い土壊であることが分かった。以上の結果により,農民による土壌評価や土壌分類システムは,それが経験に基づいているにも関わらず,科学的に確証のある情報であることが明らかとなった。
    科学的データと一致した農民の土壌に関する知識は,土壊評価や土壊分類を行う上で,有益な情報を提供することができる。即ち,半乾燥地に於ける脆弱な生態系の中で,迅速で且っきめ細かな土壌分類を行うことが可能である。今後,農民の持つこのような知識・情報が半乾燥地に於ける持続可能な農業システムの開発にとって,大きな儲tl を担っていくと考える。
  • Savent PAMPASIT, Soontom KHAMYONG, Gerhard BREULMANN, 二宮 生夫, 荻野 和彦
    2000 年 9 巻 4 号 p. 275-286
    発行日: 2000年
    公開日: 2009/02/28
    ジャーナル フリー
    北タイ熱帯山地常緑林における土壌およて湘木中の無機元素蓄積量をKog-Ma 流域調査区で調べた。土壌試料を1996 年12 月に, 28 樹種の葉,樹皮,木部試料を1995 年8 ・9 月に採集した。C, N, P, K, Ca, Mg, Fe, Mn, 5, Na の各元素を分析し,土壌および樹木中の元素蓄積量を算定した。土壌中の各元素濃度は表層で最も高く,深層になるにつれて低下するが,ある深さで一定の濃度となる傾向を示した。土壊中の各元素濃度は斜面下部で高く,斜面上部になるほど低くなった。土壌中の1m 深までの元素蓄積量はこれを反映し,斜面下部でもっとも多くなった。樹木中の元素蓄積量も,斜面下部で、もっとも多くなった。器官別では木部に,階層別では巨大高木層にもっとも多量の元素が蓄積されていた。C, N, K, Ca, Fe, Mn, Naの土壌中の蓄積量は211000 , 154000, 535, 272, 114, 1.69, 4.53, 149 kg/ha/m,樹木中の蓄積量は90400, 451 , 508, 69.4, 1.14, 5.45, 3.92 kg/ha と算定された。
  • Savent PAMPASIT, Soontom KHAMYONG, Gerhard BREULMANN, 二宮 生夫, 荻野 和彦
    2000 年 9 巻 4 号 p. 287-307
    発行日: 2000年
    公開日: 2009/02/28
    ジャーナル フリー
    北タイ熱帯山地常緑林における樹木の元素濃度をKog-Ma 流域調査区で調べた。1995 年8-9 月に28樹種の葉,樹皮,木部から514 個のサンプルを採集し. C, N, P, K, Ca, Mg, Fe, Mn, B, Na, Al の各元素濃度を分析した。C 濃度は器官,樹種,階層,斜面位置にかかわらずほぽ一定の値を示した。N 濃度はマメ科の樹種で有意に高かった。Castanopsis acminatissima, Castanopsis echinocarpa, Castanopsis ferox の各樹種は多くの元素に対して平均的な濃度を示すgeneralist であった。Aporusa villosa は. P, Mg, Mn, Al を葉に蓄積する傾向があった。Eugenia oblata がFe, Na について特に低い濃度を示した。このようにいくつかの樹種で,特定の元素が特に高い濃度を示したり,非常に低い濃度を示すものがあった。Ca, Mg, Na の濃度は斜面下部で高くなったが. P, K は逆の傾向を示した。葉のN, K, Ca, Mg, Fe, Mn, Al, Na 濃度は樹皮や木部よりも高かった。
  • 大塚 雅裕
    2000 年 9 巻 4 号 p. 309-322
    発行日: 2000年
    公開日: 2009/02/28
    ジャーナル フリー
    熱帯地域では持続的な森林資源管理のために,多年生作物を用いた農民の土地利用の安定化が緊要な政策課題となっている。しかしながら,農民の行動様式はその地域の天然資源状態及び社会経済環境に左右される。本論文では,インドネシア・西スマトラ州の調査地での事例をもとに,森林周辺において商業主義化が進む地域住民の農業方式の特徴と土地利用集約化のための課題を考察する。
    ミナンカパウ農民は自活のために平坦地で長らく水田耕作を営んできたが,近年山間地で収入増加のための畑地耕作を拡大してきた。畑地には植民地時代以降導入されてきたゴム,コーヒー,シナモンなどの換金作物が広く栽培されている。しかし,農民の畑地耕作は,土壌劣化,苗木入手困難,有害動物など多くの技術的制約に妨げられており,一部農民は自らのアイデアで克服してはいるもののその効果はまだ限定的である。さらにより深刻なのは社会経済的制約であり,小農は十分な解決策を見い出せていない。土地問墾,作付け,作物保護及び収穫のために多量の資本と労働力が必要となるが,農民は米の自給自足のために狭小化・分散化する水間耕作にますます集中せざるを得なくなり,遠方の森林内にある畑地での労働が一層困難となっている。さらに市場価格の不安定もあり,生産手段のない小農は頻繁に換金作物栽培を中断し,畑地は放置されて休耕地となる。休耕地の生産資源は劣化し,十分な資本・労働力なしにはその後の再耕作も困難である。他方農民は栽培・市場取引失敗のリスクを恐れるあまり,果樹その他の樹木作物の本格導入には欝跨しがちで,依然として従来の不安定な森林開拓・換金作物栽培に依存したままである。
    こうした商業主義的な農業方式を地域の生態的・経済的な状況に適合させるため,他のスマトラ地域での様々な農業システムの事例をも検討しながら,適切な土地利用集約化の方策が模索されなければらない。
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