日本サンゴ礁学会誌
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10 巻, 1 号
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学会賞記念論文
  • 山里 清, スワルデイ エリア, サルタナ サイーダ
    2008 年 10 巻 1 号 p. 1-11
    発行日: 2008/12/01
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    ハナヤサイサンゴ科の3種のサンゴ,ハナヤサイサンゴ,トゲサンゴ,ショウガサンゴは,多くの海域でプラヌラ幼生を一年のうちの長い期間,月に1回の頻度で産出すること,産出の期間は低緯度ほど長く,高緯度になるにつれて短くなることが知られている(Harrison and Wallace 1990)。沖縄にもこれらのサンゴは生息し,しかも沖縄が分布の北限に近い(西平・Veron 1995)。沖縄県瀬底島(26°40′N, 127°50′E)において(1993年9月~1995年5月に3種を,1995年4月~1996年6月にショウガサンゴを飼育観察した結果,ハナヤサイサンゴは,自然温度(常温)下では,冬季(1~3月または2月~4月)には幼生産出がなく,その間に26℃に暖めると幼生産出し,温暖期でも22℃または20℃に冷やすと幼生産出がなくなることがわかった。20℃では,最初のひと月だけ幼生産出をおこない,以後死亡した。トゲサンゴとショウガサンゴは常温では,5月~9月及び10月の間に幼生を産出した。ショウガサンゴについては,1995年4月~1996年6月に,常温と定温(26℃)下で飼育観察した。常温では,6月~8月に幼生産出し,定温(26℃)ではそれ以外の季節でも幼生を産出した。この結果から3種のサンゴの幼生産出は水温に依存し,ハナヤサイサンゴの幼生産出の下限は20℃,トゲサンゴとショウガサンゴのそれは24℃と推測できる。これは,これらのサンゴの分布の北限とも関連する。西平・Veron(1995)によると,ハナヤサイサンゴの分布は串本(34°N, 年平均水温22.0℃),トゲサンゴは奄美大島(28°N, 24.5℃)(環境省・日本サンゴ礁学会 2004),ショウガサンゴは天草(32°N, 13-27℃)である。海水の温度は Yeemin et al. (1990)に拠った。ちなみに沖縄島は26°N, 25℃である。
総説
  • 諏訪 僚太, 井口 亮
    2008 年 10 巻 1 号 p. 13-23
    発行日: 2008/12/01
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    造礁サンゴに共生する褐虫藻の,分子系統学的手法による遺伝的なグルーピングとサンゴの生理学的性質との因果関係は,環境変動に直面したサンゴが褐虫藻を替えることによって新しい環境へ適応することや特定の褐虫藻グループを保持するサンゴのみが生存する可能性が指摘されたため,生息環境の劣化に伴うサンゴの減少が問題視される中で,精力的に研究されてきた。熱帯から亜熱帯,温帯にまたがってサンゴが分布し,環境要因(海水温や日射量)の緯度勾配に対して,サンゴと褐虫藻の共生関係がどのような地理的適応パターンを示すのかを知る上で適している北西太平洋においても,分子系統学的手法によって,サンゴに共生する褐虫藻の遺伝子型の分布が調べられてきた。北西太平洋に見られる褐虫藻の遺伝子型の構成は,クレードレベルでは,クレードCを持つサンゴが多く,クレードAやBを持つサンゴが多いカリブ海とは異なる。さらに細かいクレード内のサブタイプレベルにおいては,北西太平洋ではクレードC内のサブタイプが卓越する。また,コロニー内や種内に複数の褐虫藻遺伝子型が見られるサンゴの存在が,北西太平洋においてクレードレベルでもサブタイプレベルでも確認されている。しかし,これまで褐虫藻のサブタイプレベルでの遺伝子型の決定に用いられてきたDGGE(Denatured Gel Gradient Electrophoresis)解析には問題点が指摘されているので,今後は塩基配列そのものをデータとして用い,褐虫藻の遺伝子型の分布パターンを調べていくことが望まれる。
原著論文
  • 与那覇 寛, 藤田 和彦, 新城 竜一
    2008 年 10 巻 1 号 p. 25-45
    発行日: 2008/12/01
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    熱帯・亜熱帯に属する東南アジア諸国の都市化と沿岸開発が沿岸水域の底質へ与える影響を明らかにするために,沖縄県最多の人口が集中する那覇市の沿岸海域とそこに流入する河川の堆積物について堆積学的・地球化学的に検討し,それらの現状を把握するとともに,堆積物の起源と人為的影響について考察した。流域の土壌や地層を含めた合計40試料の粒度組成・有機物含有量・炭酸塩含有量・元素組成を分析した結果,研究地域の堆積物は,沿岸海域と河川上流に分布し,炭酸塩鉱物を主体とする堆積物と,河川下流や港に分布し,ケイ酸塩鉱物を主体とする堆積物とに区分される。下流から港にかけて堆積するケイ酸塩堆積物は,島尻層群の泥質岩を主な起源とし,上流に堆積する炭酸塩堆積物は河川に混入した建設用資材の石灰岩片を主な起源とすると推測される。一方,港を除く沿岸海域の堆積物は沖合のサンゴ礁やその周辺に棲息する石灰化生物の炭酸塩骨格や殻を主な起源とする。また,下流の泥質堆積物には有機物や人為的影響を示す元素(Cu,Pb,Zn)の含有量が多く,その量は下流堆積物の主な起源である泥質岩中の含有量よりも多いことから,下流底には自然由来の量に人間活動由来の量が付加していることを示唆する。一方,那覇市の沿岸海域の堆積物は,港付近で陸域からの人為的影響を受けているが,海域全体としてはサンゴ礁の影響を強く受けており,人為的影響は小さいと判断される。
  • 斉藤 宏, 岸野 元彰, 石丸 隆, 灘岡 和夫, 工藤 栄
    2008 年 10 巻 1 号 p. 47-57
    発行日: 2008/12/01
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    世界規模でのサンゴ礁の衰退が懸念されており,一般ダイバーの協力を受けた健康度のモニタリングが実施されている。本研究では,専門知識を持たないダイバーによっても,客観的なモニタリングができるような機器開発を目指し,褐虫藻が持つ光合成色素を利用して,水中で非接触によりサンゴの活性をモニタリングする手法の開発を行った。まず,光ファイバー分光計により,部分的に白化したサンゴ群体の各部分の分光反射率を水中で計測し,赤色および近赤外域の反射率から正規化植生指数(NDVIc)を算出した。この値は,同時に測定した,PAM法による光合成能と高い相関を示した。そこで,近赤外画像を取得可能な市販のデジタルカメラと光学フィルターを用いて,赤色域と近赤外域の画像を取得し,画素演算してサンゴの健康度をシュードカラー表示で可視化した。また,カメラの感度特性,海水の長波長側での強い吸収等を考慮し,青色画像と近赤外画像による植生指標(NDCI)を用いることにより,感度を上げることが可能であることを示した。
  • 阿部 和雄, 福岡 弘紀
    2008 年 10 巻 1 号 p. 59-70
    発行日: 2008/12/01
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    沖縄県石垣島宮良湾沖合域(岸からの距離約1800,2700,3900 m)及び宮良川河口において,2006年8月から2007年12月まで一月に一回程度の間隔で表面水中のケイ酸塩,リン酸塩,及び溶存カドミウム濃度を定量した。塩分・水温から見た沖合域の海域特性は,一般に宮良川からの淡水流出及び気温変動の影響を受け,12-5月の低水温・高塩分傾向,6-10月の高水温・広範囲な塩分分布,及び11月の中間的な傾向を示す周年変動が認められた。沖合域で観測されたケイ酸塩,リン酸塩,及び溶存カドミウムの濃度変動は周年を通して顕著ではなく,最大でそれぞれ7 μM,0.13 μM,32 pM程度であった。この調査海域はサンゴ礁に隣接しており,一部の海水は礁内の海水交換に伴い外洋水として礁内へ流入する。調査海域で得られたリン酸塩やカドミウム濃度は現在のところ富栄養や重金属汚染等の兆候はなく,実際の栄養塩とサンゴ生育の関係等から判断すると,隣接するサンゴ礁生態系への当海域からの富栄養等の影響は小さいものと考えられる。
サンゴ礁保全・再生セクション
解説
  • 日本サンゴ礁学会サンゴ礁保全委員会
    2008 年 10 巻 1 号 p. 73-84
    発行日: 2008/12/01
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    最近,造礁サンゴ移植の取組が活発になってきている。しかし,サンゴ礁保全・再生に移植がどの程度寄与するのか,また,どのようにすれば寄与できるのか,十分に検討されているわけではない。サンゴ礁生態系の攪乱要因は様々であり,これに対処するには移植だけでは不十分で,サンゴ移植は全体的なサンゴ礁保全策,統合沿岸管理の一部として位置づけるべきである。また,遺伝的攪乱やドナー群体の損傷など,移植が負の効果をもつ可能性を認識するとともに,不必要な開発の免罪符にされたり,より重要な保全行動へ向かうべき努力の「すり替え」に使われることには注意しなければならない。さらに,サンゴ礁の破壊と移植による再生のスケール,移植のコスト・便益も十分考慮し,システム技術として展開していく必要がある。移植活動は参加者にとってわかりやすく,サンゴ礁保全への導入点としては適している。このため,大きな普及啓発効果をもつと期待できるが,その後,より重要な保全策,例えば赤土・過剰栄養塩流入対策などにも運動を発展させられるかどうかが課題となっている。
    サンゴ移植の技術には大別して2種類の方法がある。天然海域からサンゴ断片を採取し,育成後,移植先に水中ボンド等で固定する「無性生殖を利用する方法」と,サンゴの卵や幼生を何らかの方法で採取し利用する「有性生殖を利用する方法」である。技術的な課題として特に重要なのは,移植適地の選定方法である。移植場所は,サンゴ幼生の自然加入が少ない,赤土の流入など陸域影響が少ない,高水温になりにくい,将来的に幼生の供給源となる可能性がある,等が選定基準となる。着生後のサンゴが減耗する要因として,漂砂や,死んだ枝状サンゴのレキ等が荒天時に海底を動いてサンゴを傷つけることが問題となっている。このため,サンゴを移植する場所,高さ,構造物などを決める際は,この点も意識するべきである。移植断片の固定方法には様々なものがあるが,サンゴが自分でしっかりと固着できるよう断片が容易に動かないこと,軟体部が基盤に接触することが重要である。有性生殖を利用する方法は,ドナー群体を傷つけることがなく,多様性のある種苗が使えるため有望だが,技術開発段階であり課題も多い。移植後の管理とモニタリングは,移植を成功させるために必須である。当然コストを伴うが,計画段階でこれを組み込んでおかなければならない。管理には,海藻類の除去,オニヒトデ等の食害生物の駆除,食害魚類対策などがある。モニタリングは,サンゴの生残率と成長を調べることが主となるが,サンゴの死亡要因や自然加入の状況なども記録しておくべきである。
    沖縄では造礁サンゴは原則採取禁止である。しかし,試験研究や養殖目的などでは,特別採捕許可をとることで採取が可能になる場合もある。特別採捕許可には,密漁の防止,ドナーサンゴの保護,流通段階での管理など課題が多いが,台風などで自然に断片化したサンゴ片を移植に利用する方法など,許可の運用を検討する余地もあると考えられる。
特集セクション
展望
解説
  • 中野 義勝, 中井 達郎
    2008 年 10 巻 1 号 p. 105-115
    発行日: 2008/12/01
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    人間は自らを取り巻く問題を見出し,解決したいと望み,行動する。環境問題は,人間が自然と関わることで発生する不可避の問題である。自然科学では,観察を通じて抽出した仮説の提示と実証により自然現象の合理的な説明と理解を探求する。このような思考法は明解で,かつての公害対策など多くの局面で問題解決に貢献してきた。しかしながら,人間社会の抱える多くの問題は複雑で,つねに実証可能ではない。それを承知で,科学の助けを借りながら問題を総合的に認識し,人々が受容できる範囲の合理的な動機付けから解決にいたる方法を探ることは重要であろう。沖縄を初めとした多くの地域のサンゴ礁は,空間的にも歴史的にも人間の生活に密着している。故に,サンゴ礁保全とは社会構造の問題と表裏をなし,将来を含めた歴史的関わりをどう望むかという動機付けが重要である。このような全体論的視点を涵養することも,学際学会である日本サンゴ礁学会の使命の一つであろう。
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