理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
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ポスター
  • 久保田 圭祐, 国分 貴徳, 桜井 徹也, 髙栁 清美
    セッションID: 0051
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】Functional Reach Test(以下FRT)は,動的姿勢コントロールに関して比較的新しい評価方法である。FRTは簡便に行うことができるため臨床で広く用いられている。FRTによる前方リーチ時には,静止立位よりも前足部で体重を支えることが要求され,より前方へ重心移動を行うためには,中足骨頭部から足趾による支持が重要であると考えられる。また,高齢者の転倒を予測する因子として,足趾および足底機能の重要性が示されている。しかし,FRTと母趾機能との関係性に関する報告は散見しており,統一した見解が得られていない。本研究の目的は母趾圧迫力の大きさとFRT距離との関係,母趾を免荷した場合におけるFRT距離の変化,また股関節戦略群と足関節戦略群での母趾の筋活動の差異を明らかにすることである。【方法】対象は過去1年間に整形疾患の既往のない健常成人男性20名(年齢20.7±1.1歳,身長173.1±4.7cm)とした。母趾圧迫力は,ハンドヘルドダイナモメーターを独自に作成した測定機器に設置し,椅子座位にて膝関節90°,足関節底背屈0°で固定し測定を行った。測定回数は3回とし,各試行の最大値の平均を測定値とした。FRTの測定はファンクショナルリーチ測定器GB-210を使用し,両足の母趾を床面に接地させた場合と接地させない場合での2種類を行った。測定はそれぞれ3回行い平均した値を測定値とした。母趾を床面に接地させない場合での施行は独自に作成した機器を用いて行った。また,FRT施行中はEMGマスター,ディスポ電極Vitrodo,特別に作成した電極を用いて短母趾屈筋と腓腹筋の内側頭の2筋の筋活動を記録し,%MVCを算出した。また,股関節戦略群と足関節戦略群とに群分けするために各施行を動画撮影し,Image Jを用いて体幹前傾角度を算出した。全被験者の体幹前傾角度から中央値(38°)を求め,体幹前傾角度38°以上を股関節戦略群,38°未満を足関節戦略群と規定した。統計処理は,SPSS Ver.15.OJを用いた。母趾圧迫力とFRT距離との関係性は,Spearmanの相関係数,母趾接地時と非接地時でのリーチ距離の関係性は対応のあるt検定,股関節戦略群と足関節戦略群での筋活動の差異に関しては独立したt検定を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,事前に研究内容を説明し同意を得た。【結果】母趾接地時のFRTと母趾圧迫力では有意な相関を認めることができなかった(r=0.310,p=0.183)。母趾接地時と非接地時のFRTのリーチ距離には,p<0.001と有意差が認められた。戦略間における筋活動の変化では,短母趾屈筋と腓腹筋のどちらにおいても,股関節戦略と足関節戦略間で筋活動に有意差を認めることができなかった。【考察】FRTと母趾圧迫力で相関関係を認めなかった理由として,座位における母趾筋力測定は前方リーチ時に母趾で床面を支持するために必要とされる母趾圧迫力とは機能的に異なると考えた。FRT時はCOPの前方移動に加え,足関節が背屈位となるため足関節底屈筋の筋張力が得られることで大きな足関節底屈モーメントを発揮し,長・短母趾屈筋が活動しやすくなると考えられる。しかし,座位ではCOPや足関節角度の変化が生じないため,効率的に底屈モーメントを発揮できず,結果的に長・短母趾屈筋の活動が減弱してしまったと推測される。また,COP位置が踵から足長の約30~60%より前方へ逸脱すると,母趾外転筋の活動が急増したとの報告があり,前方リーチには側方の安定性に関与する筋の動員も必要であることが考えられる。母趾接地時と非接地時のFRTの関係性に関しては,リーチ距離に有意差が認められた。この結果から,水平面の動的姿勢制御能である前方リーチ時においては,母趾接地が支持基底面を拡大させ,COPの前方移動を可能とし,リーチ距離が延長したと考えられる。戦略間における筋活動の差異では,股関節戦略と足関節戦略間において短母趾屈筋と腓腹筋の筋活動に有意差を認めることができなかった。健常成人では,いずれの戦略においても重心を前方へ移動させ,母趾で支持し得る限界まで前方リーチを行っていることが確認された。また,腓腹筋と比較して短母趾屈筋がより高い筋活動を示した。前方リーチ時は,足関節機能よりも母趾機能が重要な役割を果たすことが考えられる。これは,前方へのCOP移動には底屈力よりも母趾屈曲力が強く関係していたと報告した研究を支持する結果となった。【理学療法学研究としての意義】足趾の機能が姿勢制御に及ぼす影響について,動的バランスにおける母趾機能の重要性を支持することができた本研究は,高齢者の転倒予防に関する母趾の役割を明らかにする一助となった。
  • 小原 菜穂子, 三浦 達浩, 佐々木 健, 吉田 かおり, 山内 盛太
    セッションID: 0052
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】先行随伴性姿勢調節(APAs)に関する研究は1967年から現在に至るまで多数の研究者により行われてきているが,片脚立位に関して,筋電図と重心動揺計を同期させて解析した研究は少なく,さらに個人差に言及した研究も少ない。そこで本研究では,片脚立位における筋活動と足圧中心(COP)移動のタイミングから,APAsとCOPの関係性を検討することを目的とした。【方法】対象は,健常成人男性10名(年齢25.9±4.0歳,身長170.0±5.9cm,体重62.5±6.1kg)とした。実験課題は,両脚立位から効き足を挙上して片脚立位になる動作とし,測定項目は,表面筋電図による下肢体幹筋の筋反応時間とCOPとした(全ての被験者の効き足が右であったため,以下,挙上側は右,支持側は左とする)。課題動作の開始姿勢は肩幅の立位とし,15秒間の安静立位を保持させ,ビープ音を合図に右股・膝関節を出来るだけ素早く90°に屈曲し,左片脚立位を15秒間保持させた。計測時間は開始姿勢からの30秒間とし10回計測した。表面筋電計(Noraxon社,MyoSystem 1200)は,周波数帯域10~500Hz,サンプリング周波数1000Hzとした。電極は双極のディスポーサブル電極(Blue Sensor,N-00-S,Ambu,Denmark)を電極中心間距離20mmにて貼付した。被験筋は左右内腹斜筋,左右中臀筋,右大腿直筋,右大腿二頭筋,右腓腹筋,左前脛骨筋とした(皮膚抵抗は10KΩ以下)。筋電図解析はMyoResearch XP(Noraxon社)を使用し,ビープ音から各筋が反応するまでの時間(EMG-RT)を求めた。これは安静立位の5秒間のRoot Mean Square(RMS)の平均+2SDを超えた時点とした。また,外部同期信号としてフットスイッチ(DKH社)を右踵に貼付し,ビープ音からフットスイッチが反応するまでの時間を片脚立位動作反応時間(M-RT)とした。重心動揺計(Zebris PDM-S)は,サンプリング周波数60Hzにて計測し,ビープ音からCOPが動き始めるまでの時間をCOP反応時間(COP-RT)とした。解析項目は片脚立位におけるEMG-RT,COP-RT,M-RTの順序と,COPの軌跡とした。また,個人の片脚立位10回におけるEMG-RTの再現性を被験者内級内相関係数(ICC)にて検討し,再現性の高い被験者のEMG-RTとM-RTとの相関およびEMG-RTとCOP-RTとの相関をPearsonの積率相関係数を用いて算出した。統計解析にはSPSS ver15.0J(Windows)を用い,有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本実験は当院倫理委員会の承諾を得て実施した。被験者には予め研究の主旨,方法及び侵襲の程度を書面と口頭で説明し,同意を得た。【結果】反応時間は,COP-RT,M-RTの順序であった。対象者や被験筋によってCOP-RTやM-RTに対するEMG-RTの順序は様々であったが,全ての被験者でAPAsが確認できた。EMG-RTのうち最も先行した筋が左前脛骨筋であった者は5名,右中臀筋は2名,右内腹斜筋・左中臀筋・右腓腹筋は各1名で,同一被験者内の順序については個人差があった。COP-RTよりも先行して活動していた筋は少なく,4名1箇所ずつ(右中臀筋2名,右内腹斜筋1名,左前脛骨筋1名)にとどまった。COPは10名ともS字形の軌跡を描いた(右前足部,左後足部,左前足部,左中足部の順序:以下S字パターン)。EMG-RTのICCは,10名中5名においてr=0.68以上,p<0.05であった。この5名においては,M-RTと右内腹斜筋・左前脛骨筋・右大腿直筋・左中臀筋のEMG-RTとの間に正の相関があり(r=0.754,p<0.001;r=0.738,p<0.001;r=0.678,p<0.001;r=0.532,p<0.001),COP-RTと左内腹斜筋・左前脛骨筋のEMG-RTとの間に正の相関があった(r=0.681,p<0.001;r=0.624,p<0.001)。【考察】本実験では,M-RTよりも先行してすべての被験者でAPAsを確認することができた。当初の予想ではCOPが移動し始める前にも多くの筋活動がみられると考えていたが,結果的にCOP-RT以前のAPAsが明確に確認できないにもかかわらずCOPが移動していた。本実験で選択した筋の他に先行的に活動している筋が存在する可能性もある。しかし,M-RTおよびCOP-RTとEMG-RTの正の相関が認められたことから,左内腹斜筋と左前脛骨筋はCOPの右方向への移動に,右内腹斜筋・左前脛骨筋・右大腿直筋・左中臀筋は右踵を浮かせるために関与している可能性も考えられた。COPの軌跡については,筋活動の順序は個人によって異なるものの軌跡自体は10名の被験者全員が近似していたことから,個人において身体制御の戦略は異なってもCOPのS字パターンを遂行し,片脚立位というパフォーマンスを実現させていると考えられた。【理学療法学研究としての意義】片脚立位の際の筋活動には個人差があるものの,COPの軌跡は近似している。随意運動とAPAsは表裏一体のものであり,APAsを多角的に解明することは,効率的な片脚立位の獲得につながり意義がある。
  • 押見 雅義, 栁澤 千香子, 鈴木 昭広, 齋藤 康人, 高橋 光美, 鹿倉 稚紗子, 洲川 明久
    セッションID: 0053
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年高齢者に対する肺切除手術症例が増えてきているが,ガイドライン上では年齢のみで手術の適否を決定すべきでないとされている。術前のPerformance status(PS)や運動耐容能低下は周術期の離床や合併症に影響を与える要因とされており懸念されることが多い。このため運動耐容能による手術適否の判断にはPSや階段昇降,最大酸素摂取量を基準としたものが報告されている。理学療法分野では周術期リハを進める上で運動耐容能評価として6分間歩行試験(6MWT)を使用している施設が多いが,6MWTから手術症例の運動耐容能低下を予測し影響を検討した報告は少ない。今回我々は自施設での肺切除症例を対象として,6MWTでの術前運動耐容能の低下が,特に高齢者の術後経過に影響を与えるかどうかについて明らかにすることを目的として検討を行った。【方法】2008年1月から2012年12月までの5年間に当センターで周術期リハを実施した初回の肺切除術症例を対象とした。対象除外基準として術前化学療法・放射線治療実施者・試験開胸例・術後経過に手術侵襲の影響が強いと考えられる肺全摘例・拡大手術例は除外した。年代ごとの傾向を見るため対象を59歳以下(Y群),60-74歳(M群),75歳以上(H群)の3群に分けた。運動耐容能の評価は術前に実施した6MWTから6分間歩行距離(6MD)を求め,年代ごとの平均値から平均-1SD以下の6MDの症例を運動耐容能低下症例(L群),それ以外を運動耐容能正常群(N群)として群分けした。また各L群においては6MD低下に関わり得る既往についてカルテより抽出した。次に年代ごとにN/L群間の術式,術後経過(術後在院日数・術後酸素使用日数・胸腔ドレーン抜去日数),術後合併症発生率,術前評価項目(BMI・喫煙指数・肺機能・呼吸筋力・6MWT時のdesaturation・栄養状態・生化学データ)の比較を行った。統計は一元配置分散分析,対応のないt検定,χ2乗検定,Mann-WhitneyのU検定を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】当研究は個人情報の秘匿化に努め,自施設における倫理委員会の承認を得て実施された。【結果】対象はY群82例 M群281例,H群107例であった。各群の6MDは各々522.4±80.1m,494.0±88.1m,419.5±91.5mであった。各群間相互に6MDに有意差(P<0.001)を認めた。-1SD以下で分類した各群の内訳はY-N群69例(男:女33:36)Y-L群13例(5:8),M-N群250例(170:80)M-L群31例(20:11),H-N群90例(59:31)H-L群17例(12:5)であった。L群の6MDはY-L群398.2±51.2m,M-L群324.1±73.6m,H-L群278.3±37.4mでM-L群とH-L群間以外に有意差を(P=0.008~P<0.001)認めた。L群の6MD低下要因はH群では呼吸器系・循環器系・整形外科系の既往が多かった。また低下に関わりうる既往が不明な割合はY群が54%,M群が35%,H群が24%であった。術式はH-L群で葉切除以上の割合が有意に低かった。術後経過と術後合併症発生率はY群,M群,H群各群ともN/L群間に有意差は認めなかった。合併症発生率はY-N群10.1%・Y-L群0%,M-N群18.4%・M-L群16.1%,H-N群12.2%・H-L群23.5%であった。合併症は多岐にわたり群間に特有の傾向は認めなかった。各群の因子ではY群は有意差を認めなかった。M群ではL群で年齢・喫煙指数が有意に高く,VC・吸気筋力が有意に低かった。H群ではL群で%FEV1.0が有意に高かった。【考察】6MDから見た術前運動耐容能低下の程度は年代ごとに異なる。本研究でH-L群は6MD300m弱程度でこれはEnrightらの予測式換算で見ても同年齢の症例から約30%程度の低下を示した。H群では運動耐容能低下を規定する要因は様々な既往による影響が大きいと考えられた。一方で最も手術症例が多いM群では運動耐容能低下との関連として年齢・喫煙や肺機能の関わりが示唆された。今回の結果では各年代平均の1SD以下の症例でも術後経過に有意な悪影響は認めなかった。H-L群では部分切除レベルの症例が多く,また%FEV1.0が高い症例が多いなど術前からの症例選択の要素が見られたが,全体の中で23.5%と最も高い合併症発生率を示しており,高齢者の運動耐容能低下症例には術後経過に慎重な対応が必要と考えられた。6MWTから見た運動耐容能低下症例の周術期への影響については,今回対象に含めなかった手術適応外と判断された症例や手術実施者で6MWT未実施例などもおりそれらとの比較やさらに症例を増やした検討を進める必要があると考えられた。【理学療法学研究としての意義】高齢者の肺切除術適応可否基準のひとつとしてPSを基準とした活動性や運動耐容能が挙げられるが明確な基準はない。運動耐容能の低下が術後に与える影響や低下の程度を,理学療法的立場から明らかにすることは今後の周術期リハビリテーションを進める上で有用であると考える。
  • 久堀 陽平, 山本 洋司, 松木 良介, 堀田 旭, 森沢 知之, 玉木 彰, 田中 亨, 梅本 安則, 片岡 豊
    セッションID: 0054
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】肺癌の根治術として施行される肺切除術は,術後の最大酸素摂取量を低下させる。従来,肺切除術後の運動耐容能評価には6分間歩行試験(6MWT)が用いられ,6MWTでの歩行距離(6MD)は術後1か月程度で術前値まで回復すると報告されている。しかし最大酸素摂取量の低下は術後6か月以上認められ,6MWTは肺切除術後の最大酸素摂取量を評価する上で不十分である。一方,Stair-climbing test(SCT)は症候性限界まで階段昇段を負荷する運動耐容能評価法であり,高負荷強度のため6MWTに比較し最大酸素摂取量を正確に評価できる。European Respiratory Societyが作成したガイドラインでは,肺切除術前の運動耐容能評価法としてSCTは6MWTより推奨度が高い。しかし,肺切除術後の運動耐容能評価にSCTを用いた報告は,我々が渉猟する限り見当たらない。肺切除術前後のSCTの変化を捉えることは,6MWTに代わる正確且つ簡便な運動耐容能評価法の確立に寄与すると考えられる。そこで本研究の目的は,胸腔鏡下肺切除術(VATS)施行患者を対象に,術前後のSCTと6MWTの変化を比較検討することとする。【方法】対象は2012年11月から2013年9月までにVATSを施行した肺癌患者のうち,術後合併症を認めなかった14例(男性6例,女性8例)とした。年齢69.2±9.4歳,身長159.2±9.4 cm,体重59.8±10.9 kg,BMI 23.5±2.8 kg/m2,術前肺機能は%VC 108.6±15.1%,一秒量1.75±0.50 Lであった。測定項目は,6MD,SCTにおける昇段高とした。6MWTはAmerican Thoracic Societyが作成したガイドライン,SCTはBrunelliらの報告に準じて実施し,試験終了直後の心拍数は心電図モニター(フクダ電子株式会社製DYNASCOPE DS-7780W)を用いて記録した。各測定項目についてVATS術前および術後1か月時に計測を行い,術後回復率(%6MWT,%SCT)を算出した。理学療法は手術翌日より開始し,歩行練習,自転車エルゴメータ運動,ADL練習を実施した。統計学的解析は,VATS術前後の6MD及びSCTにおける昇段高についてpaired t test,各試験終了後の心拍数及び術後回復率についてStudent’s t testを使用した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者に対して事前に研究の趣旨を説明し,了承を得て施行した。【結果】6MDは術前492±64.4m,術後452±88.5mであった(P=0.15)。SCTにおける昇段高は,術前25.9±13.9m,術後15.2±5.5mであり,術後は術前と比較し有意に低値を示した(P<0.05)。試験終了直後の心拍数は,6MWTで術前101±14.5bpm,術後104±17.8bpm,SCTで術前122±22.1bpm,術後122±18.5bpmであり,術前・術後ともに6MWTと比較しSCTでは有意に高値を示した(P<0.05)。また,%6MWTは87.8±19.1,%SCTは67.1±24.4であり,SCTの術後回復率は6MWTの回復率と比較し有意に低値を示した(P<0.05)。【考察】肺切除術は肺胞の面積及び血管床を減少させるため,術側肺血流量及び一回心拍出量が低下し,運動時には心拍数で補正しきれず最大酸素摂取量は低下する。一般的に術後運動耐容能評価法は6MWTが用いられているが,Cesarioらは術後1か月で術前値の94%まで回復すると報告しており,本研究の%6MWTは類似する結果となった。一方,%SCTは67.1%に留まり,SCTは6MWTと比較し有意に回復率が低い結果となった。肺切除術後1か月での最大酸素摂取量は術前値の75.9%と報告されており,SCTの昇段高は6MDと比較し術後の最大酸素摂取量を正確に反映している可能性が示唆された。また試験直後の心拍数は,6MWTと比較しSCTで有意に高値であった。したがってSCTは6MWTより高負荷強度であったため,6MWTでは評価できない運動耐容能の低下を検出できた可能性が考えられた。【理学療法学研究としての意義】肺切除術後のSCTと6MWTでは回復率に差が生じ,SCTは術後の最大酸素摂取量を反映する可能性が示唆された。臨床上簡便且つ正確な運動耐容能の評価法としてSCTは有用であり,理学療法の新たな効果指標となり得る。
  • 髙橋 敬介, 川田 稔, 川田 恵, 花田 真嘉, 浜野 泰三郎, 寺山 雅人, 下雅意 崇亨, 梶原 祐輔, 橋本 つかさ
    セッションID: 0055
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】当院では肺癌の外科的治療として,標準開胸術や侵襲度の低い胸腔鏡補助下手術(Video-Assisted Thoracic Surgery;VATS)などによる肺切除術が行われている。肺切除術における術式の違いによる術後運動耐容能や呼吸器合併症の比較といった報告は散見されるが,その中でもCOPDを合併している低肺機能の肺癌症例について標準開胸術とVATSでの呼吸機能や運動耐容能の違いを検討したものは少ない。そこで本研究の目的は,COPDを合併している低肺機能の肺癌症例について,標準開胸術とVATSでの術前呼吸機能と運動耐容能や術後離床,術後呼吸器合併症で違いがあるかを検討することで,このような症例に対する理学療法の一助にすることにした。【方法】対象は2011年5月から2013年8月までに,標準開胸術またはVATSにより肺区域切除または肺葉切除が施行された15例(標準開胸術7例,VATS 8例)とした。手術適応外,試験開胸術となった症例は除外した。今回の検討では,開胸術とVATSの2群に分類し,調査項目は患者背景(年齢,BMI,PS),術前呼吸機能(%VC,FEV1%,FEV1L,%FEV1,DLCO%),術前運動負荷試験から得られたVO2max,Mets,手術情報(手術時間,術中出血量),手術後経過(端座位開始日,歩行自立日,在院日数),手術前後6MD,手術前後膝伸展筋力値,術後呼吸器合併症の有無(発症率)とし後方視的に行った。解析はIBM SPSS Statistics Version 20を使用し,χ2検定,対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定で行い,統計危険率5%を有意水準とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言,当院臨床研究に関する倫理指針に準じて実施している。【結果】各項目については,2群間で有意差を認めなかった。呼吸機能に関しては,開胸術群とVATS群を比較すると%VCで97.2±26.4%と91.0±10.2%,FEV1.0Lで1.9±0.7Lと1.3±0.2L,FEV1.0%で61.9±20.4%と57.9±15.9%,%FEV1で71.9±24.2%と61.0±17.6%であった。DLCO(%)ではどちらも80%未満であり拡散障害を呈していた。VO2maxは開胸術群で中央値14.9ml/min/kg,VATS群で中央値13.8ml/min/kg,Metsは開胸術群で中央値4.3METs,VATS群で中央値3.9METsであった。術後の運動機能に関して,6MDは開胸術群で術前400±77mから術後242±80m,VATS群で術前314±120mから術後206±87m,膝伸展筋力値は,開胸術群で術前32.2±8.0kgf/kgから術後29.0±8.3kgf/kg,VATS群で23.0±11.0kgf/kgから21.0±11.1kgf/kgと両群ともに低下を認めた。手術後経過に関して,端座位開始日は開胸術とVATSで中央値1.0日とほぼ変わりはなく,歩行自立日は開胸術群とVATSで4.0±2.0日,3.2±1.7日であった。在院日数は開胸術群で中央値15日,VATS群で中央値11日であった。術後呼吸器合併症は,開胸術群で肺炎・無気肺が2例,低酸素血症が1例(発生率43%),VATS群で肺炎・無気肺が2例,低酸素血症が1例(発生率38%)であった。【考察】本研究の患者背景として,高齢者でCOPDを合併している低肺機能症例であり,術後離床遅延や術後呼吸器合併症を起こすリスクの高い症例を対象にしている。今回の結果では,全ての項目において有意な差は認めなかった。その原因として,①創部痛が疼痛コントロールを行うことで最小限にできたこと,②術後早期からの理学療法により運動耐容能の低下を最小限にできたこと,③術後呼吸器合併症を2群間で同程度に予防できたことと推測した。①については,硬膜外麻酔と患者自己調節鎮痛法による効果的な術後疼痛管理がなされており,切開の大きさや手術侵襲の大きさに関わらず,早期離床が可能となり2群間で有意な差がなかったと考えた。②について,肺切除術後の運動耐容能は開胸術において有意な低下を示すことが報告されているが,今回の結果で,開胸術とVATSの術式の違いによる6MDの低下に有意な差がなかった。これは全例に対して,術前から退院までの周術期の呼吸理学療法および上記の疼痛コントロールにて早期離床が可能となったことで,運動耐容能の低下を最小限に抑え,2群間で有意な差を認めなかったと考えた。③について,今回はCOPDを合併した低肺機能患者での検討であったため,2群ともに術後呼吸器合併症の発症率は43%,38%と高い結果であった。術後呼吸器合併症の予防には術後1週間以内が最も重要な時期であり,当院では上記の硬膜外麻酔とPCAを組み合わせた疼痛管理を行うことで,早期離床および深呼吸や自己排痰も円滑に進めることができ,2群間で合併症を同程度に予防することができたものと考えた。【理学療法学研究としての意義】従来手術適応とされていなかったCOPDを合併した低肺機能の肺癌症例でも,術後理学療法を導入することで,開胸術でもVATSでも同程度の治療を提供できると考える。
  • 山田 耕平, 横山 茂樹, 塩田 和輝, 管原 崇, 桑嶋 博史, 多田 善則, 菰渕 真紀, 岡野 宏信, 本田 透, 小野 恭裕, 青江 ...
    セッションID: 0056
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】肺癌の摘出術はビデオ胸腔鏡下手術(video-assisted thoracic surgery VATS)が主流となり,入院期間も短縮されてきた。一般的に理学療法では手術前から,術後肺合併症の予防目的に介入しており,なかでも手術後は残存肺を再拡張させるため,深呼吸を行われている。しかし手術後は呼吸機能の低下がみられ,その要因の一つに胸郭可動性低下が挙げられているものの,その改善を目的とした運動介入についての報告はほとんど見られない。そこで,今回我々はVATS肺葉切除術および肺部分切除術後において胸郭可動性の再獲得に向けた運動として,ハーフカットポール(HCポール)を用いたストレッチ運動(運動)が,胸郭可動性を改善させることができるのかを検証することを目的とした。【方法】対象は平成25年4月から同年9月の期間に,VATS肺葉切除術および肺部分切除術後を施行した患者25名(男性16名 女性9名 平均年齢73.8±7.3歳)を対象とした。取込基準は,胸腔ドレーンが抜去され,血圧,脈拍,酸素化が安定している方とした。運動は胸腔ドレーンが除去された翌日から退院日は(2日-10日 平均日数5.0±2.2日)で,その間に1回実施した。方法として,半側臥位(45-60°程度)でHCポールを脊柱に当て,シルベスター法による深呼吸と両上肢のツイスター運動の2種目を各々1分間実施した。尚,ツイスター運動とは,胸郭拡張を目的とし,一側方向へ肩関節90°水平外転位,対側方向へ膝屈曲位にて,肩甲帯と骨盤帯を反対方向に回旋させる運動である。評価項目および計測方法について,①胸郭拡張差はテープメジャーを使用して腋窩と剣状突起,第10肋骨レベルの3部位について3回測定し,平均値を測定した。②呼吸機能として肺活量,努力性肺活量,1秒量,1秒率の4項目を測定した。③深呼吸のしやすさの自己評価(深呼吸)はVASに準じて,10cmの線上に印をつけてもらい数値化した。胸郭拡張差の測定は手術前および術後のHCポールによる運動前後の計3回(術前,術後運動前,術後運動後)行った。呼吸機能と深呼吸の評価は術後運動前後の計2回行った。統計学的処理について,①胸郭拡張差は3部位を比較するために,測定時期と測定部位の2要因とする2元配置分散分析および多重比較,②呼吸機能の各項目は,1元配置分散分析および多重比較,③深呼吸の自覚症状は運動前後で対応のあるt検定を実施した。尚,有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,当院倫理委員会の承認を得て行った。対象者には,,同意を得た。また個人情報保護の観点からも十分に配慮した。【結果】胸郭拡張差の3部位は部位:手術前-手術後運動前-手術後運動後)腋窩:41.2±10.6mm-27.6±9.7mm-29.8±8.9mm,剣状突起:52.9±14.5mm-32.7±14.3mm-33.1±13.0mm,第10肋骨:50.9±18.2mm-31.5±14.5mm-33.8±16.1mmであった。術前と術後運動前および後との間で有意に低下していた(p<0.05)。術後の運動前および運動後における腋窩では胸郭可動域の拡大傾向が認められた(p<0.05)が,剣状突起,第10肋骨レベルでは有意差が認められなかった。呼吸機能の4項目は有意差がみられなかった。深呼吸の評価は術後の運動前52.8±7.3mmおよび運動後45.6±9.2mmであり,自覚症状の改善が見られた(p<0.01)。【考察】今回,VATS術後における胸郭可動性の改善を目的としてHCポールを用いた運動を実施し,運動前後に腋窩で改善傾向が認められ,自覚症状でも改善傾向であった。腋窩部は上位胸郭にあたり,構造上,下部胸郭よりも可動性の小さい部位であるにもかかわらず,改善傾向を認めたことは興味深い。この要因として,HCポールを使用することで肋椎関節や椎間関節の動きが拡大し,腋窩での胸郭拡張差や自覚症状の改善につながったと考えられた。しかし,呼吸機能の改善には至っておらず,胸郭可動性に対するアプローチの意義について,長期的経過も踏まえて再考していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】HCポールを用いた運動は徒手的な介入を必要としないため治療者の経験や技量の影響をうけにくいこと,背臥位においても,HCポール上に脊柱を乗せるため背側へ胸郭が拡張できることから,下側肺の換気を促すことができるため,周術期における下側肺障害予防の一手段として活用できる可能性があると考える。
  • ~CT画像による検討~
    大島 洋平, 長谷川 聡, 玉木 彰, 陳 豊史, 伊達 洋至, 佐藤 晋, 柿木 良介, 松田 秀一
    セッションID: 0057
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,重症患者における全身的な筋力低下(ICU-AW)が注目されている。ICU-AWの発症は,死亡率の上昇,人工呼吸器装着期間およびICU在室期間の延長などを招く可能性がある。肺移植の術後ICU管理においては体外循環や人工呼吸器管理,鎮静管理を必要とする場合が多く,潜在的にICU-AWを発症している症例も少なくないと思われるが,その診断は容易ではない。当院における肺移植術後は,ICU-AWの発症を想定して,離床を主体とした呼吸リハを術後早期から開始し,人工呼吸器の早期離脱,術後呼吸器合併症の予防に向けての介入を行っているが,その介入プログラムについては現在も模索段階にある。過去のデータでは,肺移植術後3ヶ月では術前より呼吸機能の改善を認めるが下肢筋力はむしろ低下傾向にあり,骨格筋の機能は他の機能よりも回復が遷延することが明らかとなった。そこで本研究では,肺移植術後の骨格筋機能低下に着目し,胸部CT画像を用いて骨格筋断面積を定量評価し,術後急性期での筋萎縮の程度を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は当院にて生体肺移植を施行した44例のうち,年齢が16歳以上で,かつ一般診療内で手術前1ヶ月以内と手術後1ヶ月以内での胸部CTを撮影している19例を解析対象とした。なお,19例(男性10例)の平均年齢は50.3±11.9歳,平均身長は161.4±5.8cm,術前平均BMIは18.6±3.6,原疾患は間質性肺炎11例,閉塞性細気管支炎6例,気管支拡張症2例であった。調査項目は,術前と術後3ヶ月での体重,肺機能(%VC,酸素投与の有無),運動機能(等尺性膝伸展筋力,6MWD),術後経過として人工呼吸器装着日数,ICU在室日数,在院日数,初回端坐位までの日数,初回歩行までの日数とし,さらに手術1ヶ月以内および手術後1ヶ月以内において抗重力筋の一つである脊柱起立筋の断面積を胸部CT画像上で評価した。なお,脊柱起立筋の断面積の算出は,画像解析ソフト(AquariusNET Viewer V4.4.7.47)を使用し,Th12椎体下縁の高位において3回計測した平均値を求めた。検討事項は,手術前後での各パラメータを対応のあるt検定で比較し,さらに術後1日当たりの脊柱起立筋断面積の変化率を算出した。なお,各検定は有意水準5%未満を統計学的に有意と判定した。【倫理的配慮,説明と同意】すべての対象者において診療データを研究目的で使用することがある旨を手術前に説明し,同意を得た。また,すべてのデータは一般診療内から採取し,個人が特定できないように配慮し,保管は厳重に行った。【結果】術後ICU在室日数は平均11.7±4.7日,術後在院日数は平均81.3±18.3日,術後人工呼吸器装着日数は平均15.4±7.1日であり,術後初回端坐位までの日数は平均5.2±2.9日,術後初回歩行までの日数は平均13.2±6.9日であった。体重は術前平均48.6±11.0kg,術後3ヶ月平均45.2±8.8kgであり,術前と比較して術後3ヶ月では有意な減少を認めた。%VCは術前平均44.8±14.3%,術後平均53.9±18.3%であり,術前と比較して術後3ヶ月では有意な改善を認めた。術前は全例酸素投与有りであったが,術後3か月では全例日中の酸素投与は無しであった。等尺性膝伸展筋力は術前平均337.4±150.1N,術後平均296.1±130.0Nであり,術前後で有意差を認めなかった(p=0.07)。6MWDは術前平均229.8±95.6m,術後平均439.8±112.8mであり,術前と比較して術後3ヶ月で有意な改善を認めた。脊柱起立筋の断面積は術前1323.4±335.6mm平方,術後1148.4±255.7mm平方(術後CT撮影日は術後平均19.2±5.7日)であり,術前と比較して術後は有意な減少を認め,術後1日当たりの減少率は0.7±0.5%であった。【考察】肺移植後は術後3ヶ月で肺機能が改善するにも関わらず下肢筋力は回復が遅延しており,これまでの報告と一致する結果であった。6MWDは術後3ヶ月で大幅に改善していたが,これは主に肺機能の改善によるものと考えられた。抗重力筋の一つである脊柱起立筋の断面積は術後3週以内で術前よりも有意に減少し,術後1日当たり平均0.7%の減少率であった。当院では,術後早期から離床を中心としたリハビリテーション介入を行い,骨格筋機能低下の予防に努めているにも関わらず,健常者を対象とした多くのベッドレスト研究と比較しても筋萎縮は同等かそれ以上の減少率であり,肺移植後の急性期においては廃用性以外の要因(たとえば炎症,低栄養,高血糖,鎮静剤など)が筋萎縮に関与している可能性が示唆された。今後は,急性期の筋萎縮と術後経過との関連をさらに調査していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】肺移植術後急性期は通常のベッドレストによる廃用性筋萎縮と同等かそれ以上に筋萎縮が進行している可能性があることを定量的に実証した点で意義がある。
  • 安藤 道晴, 伊藤 千晶, 丸山 翔, 若山 佐一
    セッションID: 0058
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】高齢者の在宅における運動プログラム(以下 運動)の継続率は低く,運動を継続するのは困難であるといわれている。先行研究より運動の継続には多くの要因が指摘されているが,その中で比較的強い要因の1つにセルフ・エフィカシー(self-efficacy:以下SE)がある。SEとは,「ある結果を生み出すために必要な行動を,どの程度うまく行うことができるのかという個人の確信の程度」と定義される。運動において,SEの低下は運動の継続を妨げる一因になり得るといわれている。本研究は,SEへ介入を行い,運動継続との関係を検討することを目的とした。我々は,第48回日本理学療法学術大会で,3ヶ月時点の研究を途中経過として発表した。3ヶ月ではSEに有意な変化はなく,両群とも運動を継続できていた。今回は,継続が困難になるといわれている3ヶ月以降5ヶ月までの運動継続とSE介入の関連について報告する。【方法】対象者は初回測定に参加した健常高齢者26名中,身体活動量が高活動群に分類された4名を除く22名とし,ランダムに対照群11名(男性7・女性4名,年齢76.1±3.92歳)と介入群11名(男性2名・女性9名,年齢74.7±6.81歳)に群分けした。対象者は運動を5ヶ月間実施した。測定は全4回行い,初回,1ヶ月後,3ヶ月後,5ヶ月後に実施した。初回は運動を行うための動機づけを行い,さらに介入群にはSEへの介入方略を指導した。測定は,身体機能として10M最大歩行時間,Functional Reach,Timed Up and Go Test,30秒椅子立ち上がりテスト(以下CS-30テスト),片脚立位時間を測定した。SEの測定として,身体活動セルフ・エフィカシー尺度,運動セルフ・エフィカシー尺度を測定した。また運動の実施回数(以下 実施回数)は,健康カレンダーを配布し,運動を実施した際に記入するように指導した。その他運動ソーシャルサポート,環境要因尺度,国際標準化身体活動質問票,MMSEなどを測定した。運動課題はウォーキング(5日/週),筋力増強運動(2日/週),バランス運動(2日/週)を指導した。具体的には椅子に腰掛けて行う運動,片脚立位などの運動を指導した。SEへの介入方略は,目標設定(適切な目標で,対象者の達成感を蓄積),セルフモニタリング(運動実施記録,自己の気づきを高める),認知再体制化(視点・思い込みを変えさせる)を実施した。実施回数は全20週を4週間毎の5回に分け,それぞれ実施回数をカウントし解析した。またSEや身体機能測定は初回・1・3・5ヶ月後までの4回のデータを解析した。これらは,測定時点間の差をみるためTukeyの検定・Friedmanの検定を行い,さらに群間での差をみるため,対応のないt検定・Mann-Whitneyの検定を行なった。有意水準はp<0.05とし,統計ソフトはSPSS 16.0Jを使用した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は研究実施施設の倫理委員会で承認された。対象者には,書面および口頭にて説明し,同意を得て行った。【結果】5ヶ月間実施した結果,脱落者5名(22.7%)となり介入群8名,対照群9名となった。初回・1・3・5ヶ月の測定時において,実施回数は測定時点間や群間による有意差はなかった。2つのSE尺度の得点は,測定時点間,群間ともに有意な差はなかった。身体機能では,測定時点間では5ヶ月と初回の比較にてCS-30テスト(p=0.03),10M最大歩行時間(p=0.03)に有意差があった。しかし,どの項目でも群間での有意差はなかった。【考察】Bandura(1977)は,SEは行動の先行要因であると述べている。つまり,運動継続に関するSEが高いほど,意欲的に運動に取り組み,運動の実施回数を維持できることを示唆している。本研究では,初回・1・3・5ヶ月にSEを測定した。1ヶ月では,期間が短く介入の効果や対照群でのSE低下はみられない。3ヶ月でも両群でSE得点が維持されているため運動の実施回数や群間に有意な差がなかったと考えられる。3ヶ月以降は運動継続が困難であることより,対照群ではSEが低下,運動実施回数が低下していくと仮説を立てた。しかし,5ヶ月時点で両群ともにSEが低下せず,実施回数を維持できている。SEは運動中断が続いた後に低下するといわれているが,5ヶ月間ではSEを低下させる程の期間の運動中断がなかったと考えられる。また身体機能のフィードバックは各測定時,両群に行なった。本研究ではCS-30テスト等は時点間で記録が良くなっているため,成功体験となり,SEの維持に作用したのではないかと考えられる。今後は,より長期間の介入やフォローアップ期間でのSEの変化を比較することにより,運動継続やSEの影響を明らかにすることも必要である。【理学療法学研究としての意義】健康増進分野における理学療法士の役割や重要性は増している。本研究は健康教室などで運動を指導する際に継続して実施するための一助となると考える。
  • 新井 武志, 大渕 修一, 河合 恒
    セッションID: 0059
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】介護保険法には,予防の重要性が謳われている。しかし,同制度開始以来,要支援・要介護認定者数は増加の一途をたどり,2006年には予防重視型へと制度の見直しが実施された。その際の議論において,軽度者の増加が特に著しいことが指摘された。また,どのような対象にどのようなサービスを提供すれば,状態の改善に効果があるのかが整理されていないことや,軽度者への既存のサービスが心身の状態の改善につながっていないとの指摘があった。本研究では,介護予防ケアマネジメントに生かすために,要支援者の認定状況の変化を追跡し,どのような状況の高齢者が要介護認定の悪化につながりやすいのかを検討した。【方法】東京都A市において2007年2月~2009年3月の間に認定審査を受け要支援1または2の認定を受けた650名のうち,次の認定結果の追跡ができた488名(男性155名,女性333名,平均年齢81.0±7.0歳)を対象とした。本研究では,要介護認定の見直しの際に,認定が同じもしくは軽度化した者を「維持・改善群」とし,認定が悪化した者を「悪化群」と定義した。調査項目は,基本属性として「年齢」,「性別」,「Body Mass Index(以下BMI)」,既往症として,「脳血管疾患」,「心疾患」,「認知症」,「うつ病」,「高脂血症」などの有無,また,身体状況として「麻痺」,「筋力低下」,「関節可動域制限」,「関節痛」などの有無,社会環境要因として,「同居者の有無」,「外出頻度」,「介護予防通所介護の利用の有無」などを抽出した。前述の調査項目を「維持・改善群」と「悪化群」で,対応のないt検定やχ2乗検定などを用いて比較検討した。統計的有意水準は,いずれも危険率5%未満とし,統計解析にはSPSS Statistics(IBM社製)を使用した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の実施に当たっては,A市の許可および所属機関の研究倫理審査委員会に倫理審査を付託し承認を得たうえで実施した。本調査にあたっては学術目的のみに使用することとし,個人の氏名や住所などの個人情報が除外された資料を用いた。【結果】488名のうち,「維持・改善群」が266名(54.5%),「悪化群」が222名(45.5%)であった。「年齢」は悪化群で有意に高く,「性別」では男性において悪化群が有意に多かった。また,「BMI」には有意差は認められなかった。既往症では,「脳血管疾患」や「心疾患」の有無では有意差を認めなかったが,「認知症」,「うつ病」,「視覚障害」の有無で,有りの者が有意に悪化群が多かった。一方で,「高脂血症」の有無では,「高脂血症有り」の者のほうが悪化群が有意に少ないという逆の結果になった。身体状況では,「麻痺」,「関節可動域制限」,「関節痛」の有無では有意差が認められなかったが,「筋力低下」の有無では,筋力の低下がある者のほうが悪化群が有意に多かった。社会環境因子では,「同居者の有無」,「外出頻度」では有意差はなく,「介護予防通所介護の利用の有無」では,利用有の者の方が悪化群が有意に多かった。【考察】本研究では,要支援者の認定悪化につながる心身の状況について分析した。これまで言われている通り,既往では「認知症」や「うつ病」といった高齢期に頻発する疾患が悪化につながりやすいことが明らかとなった。つまり,これらの疾患の予防対策あるいは治療が悪化を防ぐ手立てとして重要であると言える。また,特筆すべきは,高脂血症が有る者の方が悪化率が低い事である。高齢期には,低栄養が状態の悪化につながると指摘されている点と齟齬がない結果になったと考えられる。また,身体状況では,筋力の低下が悪化につながることが示唆され,運動器の機能向上によって,身体機能の改善を図ることが悪化予防につながることが示唆された。介護予防通所介護の利用者の方が悪化率が高い結果となったが,これは軽度者の中でも比較的元気な者は元々サービスを利用しない例が多いことや,一度サービスを利用し始めるとより利用の頻度を高めるために,重度の認定に移行しやすことなどが影響している可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】現在(2013年),要支援者については,介護保険の利用が制限される,もしくは利用ができなくなる可能性が出てきている。それら対象への支援は,介護保険制度から自治体事業に移行する可能性がある。本研究からは,増加する一途の軽度者について,どのような状況の対象が要介護認定の悪化につながりやすいのかという情報が得られた。我々理学療法士がそれに対して適切な支援を提供していく必要がある。また,それらに対する理学療法介入のエビデンスを蓄積し,国や行政にその有用性をアピールしていくことが必要であると考えられる。
  • 李 相侖, 島田 裕之, 朴 眩泰, 牧迫 飛雄馬, 阿南 祐也, 土井 剛彦, 吉田 大輔, 林 悠太, 波戸 真之介, 堤本 広大, 上 ...
    セッションID: 0060
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】今後15年間で後期高齢者の人口は日本全国で現在の1.5倍以上になり,それに伴う体力や認知機能の低下から老年症候群を発症し,要介護状態に陥る高齢者が急増するものと考えられる。平成18年度の介護保険制度改正においては,「予防重視型システムへの転換」がなされ,要介護状態の軽減や悪化防止に効果的な新たな予防給付が創設された。要介護状態の軽減のためには,生活機能の保持が重要な側面を持ち,とくにIADLの低下予防が,その後に生じる機能障害を予防するために重要である。要介護認定度における先行研究の生活機能の評価においては老研式活動能力指標を用いているが,この指標は,Lawtonの活動能力の体系に依拠してADLの測定ではとらえられない高次の生活能力を測定する尺度であり,健常高齢者を対象とした検討が多くされている。そこで,本研究事業では,健常高齢者,要支援高齢者,要介護高齢者の分類を可能とする新たなIADL指標を開発して,要支援高齢者と要介護高齢者のIADL能力の低下部分を明らかにすることで,要介護認定発生における精度の高いスケール開発を目標とした。【方法】項目選定のためのプリテストと本調査を実施した。対象者は,健常高齢者,要介護認定を受けた高齢者の合計が,プリテストでは399名,本調査は13,066名を対象として実施した。プリテストでは事前に用意した47項目の日常生活活動を調査し,本調査では19項目の調査を実施した。在宅介護サービスを受給する要支援・要介護高齢者については,要支援1,2と要介護1,2の高齢者を対象者とした。調査期間は,プリテストは2012年8月末から1か月程度で実施した。本調査は2012年11月~2月まで実施した。要支援者のIADLは,全国に通所介護事業所を展開している株式会社ツクイに調査委託をして実施した。健常高齢者については,愛知県大府市に在住する高齢者を対象とした。本調査の主要項目であるIADLについては,先行研究において有用性が認められている項目および当分野の研究者,臨床家によるブレインストーミング等により項目を抽出し,IADL指標を作成した。項目は容易に選択可能なように2件法とした。なお,評価は自記式および観察で評定できるようにし,誰にでも適用可能な指標を目指した。統計方法としては,IADLの各項目における回答傾向に関しては,通過率,φ係数,項目反応理論等を用いた。また,質問内容の妥当性の検討,項目反応理論,ROC分析からNCGG-ADLスケールを検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究では独立行政法人国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認を得た後に実施し,事前に書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明し,対象者から書面にて同意を得た。なお,本研究の対象者は要支援の認定を受けた高齢者であり,基本的な理解力は保たれている者が対象となるが,必要に応じて家族からの承諾を得ることとした。【結果】プリテストの結果から,項目の難易度が低いものや明らかな男女差が認められた項目を削除した。また,IADLの項目と判断しづらい項目を削除した19目において,本調査を行った。本調査の結果,質問内容の妥当性の検討,項目反応理論,ROC分析からNCGG-IADLスケールは13項目に決定した。13項目でのクロンバックのα信頼性係数を算出したところ,0.937と信頼性も十分であった。認定なし,要支援,要介護高齢者における得点の分布を図に示した。認定のない高齢者では81.4%が13項目全て可能であった。要支援者と要介護者は得点の分布が広いが,要支援者では低得点者が少なく要介護者では点得点者が多かった。【考察】NCGG-IADLスケールは先行研究を踏まえた狭義の手段的活動にとどまらず,日常生活活動の構成概念を拡大して多様な社会活動を含む内容と構成された。プリテストと本調査により,13項目スケールが確定し,IADL能力の低下部分を明らかにするスケール開発ができた。現在,要介護認定における悪化の危険性を発見するための判定基準,縦断調査を用いたカットポイントの検討を行っている。【理学療法学研究としての意義】本研究では地域居住高齢者と要支援高齢者,要介護高齢者の分類を可能とする新たなIADL指標を開発すること,特に,要支援高齢者と要介護高齢者のIADL能力の低下部分を明らかにするスケール開発を目標とした。適切なアセスメントは何かを具体的に明示することは,個別機能訓練の実施を効率化し要支援者に適切なプログラムを提供するための助けとなる可能性が高く,理学療法の大きな課題であり,理学療法実施に示唆を与える結果が得られた。
  • ―歩行速度の観点から―
    坂本 由美, 大橋 ゆかり
    セッションID: 0061
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】個人による差は見られるものの,加齢に伴い身体機能は徐々に低下を来す。この加齢に伴う変化を高齢者が正しく認識していない場合,身体機能に応じたバランス戦略の選択に影響を及ぼし,事故のリスクを高める可能性がある。そこで本研究では,歩行速度の観点から他者と比較した自己の運動イメージと実際の身体機能との関係を見ることで,高齢者の身体機能認識を検討することを目的とした。【方法】対象者はA県B町で2012年に実施した高齢者体力測定および健康指導の参加者のうち,研究協力の同意が得られた64歳~86歳の地域在住高齢者60名(平均年齢75.1±5.4歳,男性22名,女性38名)とした。身体機能の指標には握力,長座体前屈,開眼・閉眼片脚立ち,Functional Reach,10m普通・最大歩行速度,普通および最大歩行速度でのTimed Up and Go Test(以下,順にTUG-u,TUG-f),障害歩行路(Standardized Walking Obstacle Course:SWOC)における歩行所要時間(以下,SWOCスコア)を用いた。身体機能認識の指標には,研究協力者にSWOC上を歩く他者のビデオ映像を見せて歩行速度の観点による自己イメージと比較させ,自分がいつも家の中を歩くスピードと比べた場合のビデオ映像モデルの歩行を「かなり遅い」から「かなり速い」までの7件法で回答させた。なお,ビデオ映像モデル(57歳,女性)のSWOCスコア(平均12.3 sec.)は2006年~2012年に高齢者体力測定および健康指導に参加した高齢者の初回参加時データ(女性96名を含む高齢者146名分,初回参加時平均年齢74.8±5.3歳)から求めた平均SWOCスコア(13.3±3.2 sec.)を参考とした。かなり遅い・遅い・やや遅いと回答した者を「過大評価群」,同じくらいと回答した者を「同等評価群」,やや速い・速い・かなり速いと回答した者を「過小評価群」に分類し,一元配置分散分析を用いて各群の身体機能について比較検討した(有意水準は5%未満)。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属機関の倫理委員会の承認を得て実施した。高齢者体力測定および健康指導の全参加者に対して口頭と書面にて調査・研究の趣旨および内容を説明し,書面による同意を得た。【結果】過大評価群は16名(女性9名,男性7名,平均年齢75.2±5.0歳),同等評価群は35名(女性23名,男性12名,平均年齢76.0±5.3歳),過小評価群は9名(女性6名,男性3名,平均年齢71.4歳±4.9歳)であった。3群間に有意な差が見られた身体機能は開眼片脚立ち(過大評価群36.9±34.6 sec.,同等評価群18.2±19.6 sec.,過小評価群28.3±20.1 sec.,F(2,57)=3.298,p=.044)・閉眼片脚立ち(過大評価群4.5±2.9 sec.,同等評価群3.2±2.6 sec.,過小評価群5.6±2.0 sec.,F(2,57)=3.50,p=0.37),10m普通歩行速度(過大評価群73.6±17.4 m/min,同等評価群77.8±11.5 m/min,過小評価群92.3±19.0 m/min,F(2,57)=5.04,p=.01),TUG-f(過大評価群7.7±1.9 sec.,同等評価群7.2±0.9 sec.,過小評価群6.0±1.1 sec., F(2,57)=5.01,p=.01),SWOCスコア(過大評価群13.2±3.5 sec.,同等評価群12.2±1.5 sec.,過小評価群8.9±1.7 sec., F(2,57)=8.27,p=.001)であり,筋力や柔軟性の指標に群間の相違は見られなかった。【考察】本研究結果から,歩行速度の観点において,自己の身体機能を正しく認識していない高齢者の存在が確認された。他者の歩行速度を自らに比べて判断した場合に,その判断と実機能とに乖離が見られたが,このことから例えば人混みで人にぶつからずに歩く,車の往来を縫うように歩く際にタイミングを見誤り事故に至る可能性が危惧される。また自らの機能を過大評価する高齢者は若い頃の身体運動イメージが強く残存している可能性があり,転倒や交通事故のリスクも高めると考えられる。逆に自らを過小評価する群は歩行やバランスに関する自己効力感が低く,将来的に必要以上の活動制限に結びつく可能性も考えられるため,高齢者に見られる身体機能の認識誤差については更なる検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】加齢に伴う身体機能の変化を正しく認識できていない高齢者の存在が示唆された。加齢に伴い変化を来す身体機能に見合った行動ができるかどうかは日常生活上の大切な要素であるため,高齢者にみられる認識誤差は,高齢者の事故防止を考える上で,また高齢者の生活を支える上で,更なる検討が必要な大事な要因であると考える。
  • 堀田 亮, 土井 剛彦, 島田 裕之, 牧迫 飛雄馬, 吉田 大輔, 上村 一貴, 堤本 広大, 阿南 裕也, 李 相侖, 朴 眩泰, 中窪 ...
    セッションID: 0062
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】加齢に伴い低下する認知機能と関連する要因の1つとして生活習慣が報告されている。とりわけ身体活動と認知機能の関係については多くの研究がなされ,その有用性が明らかにされている。一方で,喫煙と認知機能の関係についてもさまざまな研究が行われているが,これらの研究の多くは喫煙者,喫煙経験者,非喫煙者のように喫煙についてタイプに分類し,認知機能との関わりについて検討したものである。年数や本数など複合的かつ量的視点から喫煙を捉え,喫煙がさまざまな認知機能とどのように関連するかについては明らかになっているとはいえない。本研究の目的は,生活習慣の中でも特に喫煙に着目し,高齢期の認知機能との関連について横断的に検討することである。【方法】対象者は,国立長寿医療研究センターが2011年8月~2012年2月に実施したObu Study of Health Promotion for the Elderly(OSHPE)に参加した65歳以上の地域在住高齢者5,104名のうち,認知機能に影響する可能性がある脳卒中,アルツハイマー病,パーキンソン病,うつ病の既往がある者,要支援・要介護認定を受けている者,日常生活動作(activity of daily living:ADL)が自立していない者を除き,さらにデータに欠損があった者を除いた4,457名であった。認知機能は,記憶(word recall,logical memory recognition),注意(trail making test part A),遂行機能(trail making test part B),情報処理能力(symbol digit substitution test),全般的認知機能(Mini-Mental State Examination:MMSE)を測定した。生活習慣は,身体活動(歩行頻度および時間),飲酒習慣(飲酒の頻度および年数),喫煙習慣(喫煙の年数および本数)について評価した。なお,喫煙については,喫煙の本数および年数から喫煙歴の指標であるpack-years(喫煙年数×喫煙本数/20)を算出した。また,調整変数として年齢,性別,教育歴について聴取した。統計解析は,まず喫煙者のタイプによって諸変数に差があるかどうかを確認するために,一元配置分散分析ならびにχ2検定を行った。次に,喫煙と認知機能の関連をみるために,性別,年齢,教育歴,身体活動,飲酒習慣を調整し,階層的重回帰分析を実施した。最後に,喫煙歴によって認知機能に違いがみられるかどうかを検討するために,階層的重回帰分析により喫煙との関連が求められた認知機能を従属変数とし,pack-yearsを固定因子,性別,年齢,教育歴,身体活動,飲酒習慣を共変量とする共分散分析を行った。統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得た上で,ヘルシンキ宣言を遵守して実施した。対象者には本研究の趣旨・目的を書面および口頭にて説明し,同意を得た。【結果】一元配置分散分析ならびにχ2検定の結果,非喫煙者は女性が多く,喫煙経験者,喫煙者は男性が多かった(p<.05)。また1日の歩行時間は喫煙経験者,喫煙者に比べ,非喫煙者のほうが多く(p<.05),喫煙経験者,喫煙者は現在も飲酒をしている者の割合が高かった(p<.05)。階層的重回帰分析の結果,喫煙は情報処理能力と有意な関連がみられた(p<.05)。共分散分析の結果,情報処理能力を測定するsymbol digit substitution testの得点に群間差がみられ(F(1,1801)=6.035,p<.05),pack-yearsが40を超える者は40以下の者に比べ有意に情報処理能力が低かった。【考察】本研究の結果から,喫煙は他の生活習慣と関連があり,また情報処理能力と関連があること,喫煙本数および年数が多く長い者(pack-years≧40)は情報処理能力が低い可能性が示唆された。先行研究からは,pack-yearsは前頭葉の容積と負の相関にあることが報告されている。また,前頭葉は情報処理能力と関わることが報告されていることを鑑みると,本研究結果は先行研究の結果と一致するものであると思われる。さらに,本研究は複合的な視点で喫煙の具体的な基準値を示しており,喫煙と認知機能の関係をみる研究の発展の一助になると考えられる。一方,その他の認知機能については喫煙との関連が認められなかった。このことに関しては,先行研究においても結果が一致していないことが報告されており,今後,認知機能や生活習慣の評定方法を含め詳細にわたり検討すべきであると考えられる。また,喫煙経験者あるいは喫煙者は非喫煙者に比べ1日の歩行時間が少なかったことから,喫煙のみならず身体活動の亢進を含めた総合的な健康教育が必要であると思われる。【理学療法学研究としての意義】本研究は喫煙と認知機能が量的関係にある可能性を示唆するものであり,今後の高齢者の健康増進にむけた生活習慣改善の具体的かつ有益な情報を提供するものである。
  • 青山 満喜, 伊藤 三幸, 上之郷 由希
    セッションID: 0063
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,高齢者の栄養状態は身体機能に影響をおよぼすため,リハビリテーション分野においても重要な事柄であり,看過できないことは認識されている。しかしながら,高齢者における実際の栄養状態と習慣的な身体活動の関連を報告したものはあまり多くはない。今回我々は,地域在住高齢者における栄養状態ならびに習慣的に行っている身体活動とそれに関与する因子を検討するために調査を実施した。【方法】名古屋市とその近郊の地域在住高齢者,267名を対象とした。対象者の平均年齢は,75.5±6.0歳。内訳は,男性(84名,75.5±6.4歳),女性(183名,75.5±5.8歳)であった。習慣的身体活動は,Modified Baecke Questionnaire(MBQ),栄養状態は,簡易栄養状態評価表(Mini Nutritional Assessment-Short Form:MNA-SF),併存症ならびに合併症は,Charlson Comorbidity Index(CCI)を用い,聞き取り法と自己記入式により調査・評価し,関与する因子を検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本調査は本学の倫理委員会で承認されたものである。調査にあたり対象者には口頭と書面で説明し,書面による同意を得た。また,結果に関して発表することがあり得る事も説明し了承を得た。【結果】統計解析にはSPSS Ver. 18.0を使用し,パラメトリックおよびノンパラメトリック検定にはT検定とMann-WhitneyのU検定を用いた。その結果,MBQ,MNA-SFともに(p<0.05)で有意差を認めたが,CCIは(p=0.462)で有意差を認めなかった。【考察】今回の結果から,地域在住高齢者における日常の習慣的な身体活動に関与する因子として,身体的な併存症や合併症よりも栄養状態がより一層関係の強いことが示唆された。今後も増加の一途にある高齢者の身体活動を維持していくには,運動機能だけではなく,栄養状態も考慮することの重要性が明らかになったということができる。【理学療法学研究としての意義】高齢者の栄養状態は,身体的な虚弱性(frailty)にも直結する重要な関連因子のひとつである。高齢者の身体活動を適切に維持することは,健康寿命の延長に繋がる。その結果ADLやQOLの維持・向上だけではなく,最終的には介護予防に関係してくる。したがって,医療経済学的観点からも重要な課題であるということができる。今回の結果は,理学療法学を考慮し,実施するうえでの有効な指標のひとつになると考える。
  • ~ランダム化比較対照試験による検討~
    羽田 量, 加藤 仁志, 入山 渉, 鳥海 亮
    セッションID: 0064
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】日本の高齢化率は急速に上昇し,2013年10月1日の概算では25.1%である。それに伴って認知症高齢者数の増加も見られ,2015年には345万人に達し,2025年には470万人になることが推計されている。認知症では,理解・判断力の低下が生じるため,社会生活に支障をきたし,日常生活への適応を困難にする問題が生じる。今後,認知症高齢者の数が増えることで施設の不足や,在宅の認知症者の増加,認知症ケアに対するコストの増加が考えられる。よって認知症予防が重要な課題のひとつになっている。従来,認知症予防に対しては,様々な領域で研究報告がなされている。吉田らの研究(2005)では,認知機能の低下は前頭前野を活性化させることである程度遅らせることができ,Burbaudらの研究(1995)では,単純な計算や音読などの認知課題により前頭前野の血流が増加することや,Heynらの研究(2004)では,運動は認知機能改善に対して中等度の効果があることが報告されている。一方,Koechlinら(1999)によると,二重課題は前頭前野を中心としたワーキングメモリが関与し認知機能遂行に不可欠であると報告している。これより,二重課題は運動課題,認知課題の二つを同時に行うことができ,時間的負荷の軽減ともなり,認知症予防への介入として効率的であると考えた。そこで,本研究では,高齢者に対して認知機能の向上を図れるよう,その前段階として,健常若年者における二重課題トレーニングによる認知機能向上の効果を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は,健常若年者40名(男女各20名,平均年齢20.9±0.7歳)であった。全対象者をランダムに二重課題群(男女各5名),運動課題群(男女各5名),認知課題群(男女各5名),対照群(男女各5名)の4群に割り付けた。二重課題群では山田らの研究(2009)において転倒リスクの評価法として使用されているTrail Walking Testを参考に考案したTrail Walking Trainingというトレーニングを1日1回実施した。運動課題群では,1日30分の歩行と筋力トレーニングを実施した。認知課題群では1日60問の四則演算ドリルを実施した。3群とも全12回(週3回)実施した。対照群では日常生活に特に規制を設けなかった。以上の介入前後,認知機能の測定として全対象者にパソコンの画面に5秒間出現する8桁の数字の数列を暗記させ,正当数(10問中)を調査した。統計学的解析は,介入前の結果,8桁数列暗記の正当数の介入前後の変化量を多重比較(Tukey法)を用いて群間比較した。解析ソフトはR2.8.1を使用した。【倫理的配慮,説明と同意】対象者に対する倫理的配慮として,研究の目的,方法,参加による利益と不利益,自らの意思で参加し,またいつでも参加を中止できること,個人情報の取り扱いと得られたデータの処理方法,結果公表方法などを記した書面を用いて口頭による説明を十分に行った上で,同意書への署名にて同意を得て本研究の対象とした。また,本研究は群馬パース大学保健科学部理学療法学科卒業研究倫理規定に触れないことを研究倫理検討会で承諾された。【結果】介入前の8桁数列暗記の正当数平均は二重課題群が6.5±3.2問,運動課題群が6.3±3.3問,認知課題群が6.1±2.6問,対照群が6.1±1.9問であり,多重比較(Tukey法)を用いて群間比較したところ,有意差は認められなかった。介入後の8桁数列暗記の正当数平均は二重課題群が8.8±1.1問,運動課題群が7.9±2.6問,認知課題群が8.0±1.5問,対照群が7.0±2.6問であった。多重比較(Tukey法)を用いて介入後の正当数の変化量を群間比較したところ,全ての群間に有意差は認められなかった。【考察】介入前に有意差がないことから,介入前に群間差がないことが明らかとなった。また,本研究では,先行研究により認知課題,運動課題の単一課題として認知機能向上に効果のある,二つの課題を同時に行う二重課題では,より前頭前野の活動を高め,認知機能向上すると考え,認知機能が向上するか検討した。しかし,健常若年者に対して本研究で実施した二重課題,運動課題,認知課題は認知機能向上に効果が認められなかった。【理学療法学研究としての意義】認知症予防や認知症者の認知機能維持・向上を図ることができれば,高齢者の健康寿命が延長し,介護者の介護負担の軽減やコストの抑制が見込まれる。また,認知課題や運動課題の単一課題を認知症者への介入として用いるより,その二つを同時に行う二重課題を用いることで時間的対効果の面で効率的介入となり得る可能性がある。本研究の結果は,健常若年者に対しての認知機能向上は認められなかったため,健常若年者への介入策としては,二重課題,運動課題,認知課題におけるトレーニングが認知機能向上に有用となり得る可能性はないと考えた。
  • 志水 宏太郎, 佐々木 健史, 井平 光, 水本 淳, 牧野 圭太郎, 古名 丈人
    セッションID: 0065
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】高齢者の転倒発生の要因には運動機能のみならず,注意機能をはじめとする認知機能の低下が深く関与している。これら運動及び認知機能を同時に評価する方法として,歩行中に計算課題や語想起課題,逆唱等の認知課題を行う二重課題歩行が用いられている。高齢者において,二重課題歩行時の歩行速度は通常歩行時よりも減少するが,課題遂行に用いられる記憶再生や注意配分などの認知機能への負荷量は,課題の種類により異なると考えられる。そのため本研究では認知課題の違いが高齢者の二重課題歩行に与える影響を明らかにすることを目的に,高齢者を対象として歩行中に計算課題と語想起課題を行った際の歩行速度およびその変化量を比較した。【方法】対象は高齢者22名(男性12名,女性10名,平均年齢80.2±3.6歳)であった。歩行条件は通常歩行,計算および語想起課題の二重課題歩行(以下計算歩行,語想起歩行)の3条件とした。測定環境は6.4mの歩行路(加速路2.0m,測定区間2.4m,減速路2.0m)にて実施した。測定回数は各条件ともに3試行ずつ行い,課題の順序は通常歩行から開始し,その後は計算あるいは語想起歩行を各条件ともランダムに行った。測定前の対象者に対して,通常歩行では「普段歩く速さで歩いてください」,計算および語想起歩行では「できるだけ多くの答えを声に出して言いながら,普段通りの速さで歩いてください。途中で答えが言えなくなっても歩くことを止めないでください」と教示した。計算課題はそれぞれ引き始めの異なる3の引き算(100,90,80)を,語想起課題は異なる種類の単語想起(動物,都道府県,魚)を1試行ずつそれぞれの試行間でランダムに行った。測定機器にはWalk-Way(アニマ社)を使用し,各条件および試行毎の歩行速度(m/s)を測定した。さらにそれぞれの二重課題による歩行速度の変化量として,歩行速度のDual-Task-Cost(以下DTC)を算出した。歩行速度の分析には,Walk-Way解析(アニマ社)のソフトウェアを用い,各条件の3試行の歩行速度の平均値を分析対象とした。DTCについては,|(通常歩行速度-計算もしくは語想起歩行での歩行速度)/通常歩行速度×100|の計算式から算出した。これらの解析から得られた各々のデータを歩行条件間で比較した。統計学的解析としてはANOVAを行い,その後の多重比較検定にはTukeyを用いた。またDTCについてはWilcoxonの順位和検定を用い,計算歩行と語想起歩行の間で比較した。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には本研究の趣旨および目的を口頭と書面にて説明し,書面にて同意を得た。なお,本研究は著者所属機関の倫理審査委員会の承諾を受けて実施した。【結果】通常歩行,計算歩行,および語想起歩行の3つの歩行条件間に有意な主効果が認められた(p<0.05)。また多重比較検定の結果から,通常歩行条件と比較して計算歩行条件および,語想起歩行条件時の歩行速度が有意に低下したことが確認された(p<0.05)。DTCに関しては,歩行条件間で有意な差はみられなかった(p=0.41)。【考察】本研究の結果から,計算および語想起課題ともに歩行速度の低下に影響することが示された。またDTCの結果より,認知課題間の有意差は認められず,歩行速度の変化量に差がないことが明らかとなった。このことにより,認知課題を負荷した二重課題歩行時には歩行動作に影響を与えることが確認されたが,計算課題と語想起課題を負荷した場合の歩行時には注意配分の差は認められなかった。先行研究において,計算では短期記憶,語想起課題では長期記憶を多く用いるという課題特性があるとされるが,今回の結果から課題処理の違いが歩行に与える影響に差がないことが示された。そのため課題処理の違いによる影響よりも,対象者の認知機能の影響が大きいと考える。特に短期・長期記憶は加齢により処理速度や正確性が低下するとされている。今回の対象者の平均年齢が高く,加齢による短期・長期記憶の機能低下が予想されるため,処理過程の違いによる負荷量の差が生じなかったのではないかと推察する。【理学療法学研究としての意義】本研究より,課題処理の違いによる後期高齢者の二重課題歩行への影響が少ないことが示され,課題処理の違いよりも,対象者の認知機能が二重課題歩行に影響する可能性が示唆された。本研究の結果は二重課題を使用した介入や二重課題歩行の研究において,対象者への適切な課題選択の一助となると考える。
  • 井上 和郁子, 池添 冬芽, 佐藤 郁弥, 小林 拓也, 松原 綾香
    セッションID: 0066
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】二重課題条件あるいは歩行開始時の歩行特性は高齢者の転倒と密接な関連がみられることが指摘されており,転倒経験を有する高齢者においては二重課題条件下での歩行速度が低下していることや歩行開始時の歩行周期変動係数が大きいことなどが報告されている。しかし,高齢者の単純課題および二重課題条件下での歩行特性について,歩行開始時と定常歩行時に分けて詳細に評価し,これらと生活活動量との関連について検討した研究は見当たらない。そこで本研究は施設入所高齢者を対象として単純課題および二重課題条件下で歩行開始時および定常歩行時における歩行特性を評価し,生活活動量との関連性について検討した。【方法】対象は自力歩行可能な施設入所高齢者23名(男性3名,女性20名,平均年齢84.8±6.6歳)とした。なお,測定に大きな支障を及ぼすほど重度の神経学的・整形外科的障害や認知障害を有する者は対象から除外した。歩行特性の評価はできるだけ速く歩行させる最大努力歩行について,単純課題および二重課題の2条件で実施した。なお,二重課題では認知課題(語想起課題)をさせながら,できるだけ速く歩くように指示した。歩行路のスタート地点から2m,8m地点に光電管を設置し,各地点の通過時間を計測した。スタート地点から2mまでを歩行開始時,2m~8m間を定常歩行時と規定し,各区間の歩行速度をそれぞれ算出した。また,多機能三軸加速度計(ベルテックジャパン製G-WALK)を腰部に装着し,ケイデンス,歩幅,左右の歩幅の非対称性,ステップごとの踵接地時間を測定した。5ステップ分の踵接地時間の平均値および標準偏差値から変動係数(Coefficient of variation;CV)を算出した(CV=標準偏差/平均×100)。なお,1~5歩目の踵接地時間のCVを歩行開始CV,6~10歩目の踵接地時間のCVを定常歩行CVと定義した。生活活動量の評価は,Bakerらによって開発されたLife-Space-Assessment(LSA)の質問紙を用い,過去1ヶ月間の活動範囲,活動頻度および自立度から点数(120点満点)を算出した。統計解析について,単純課題と二重課題の歩行特性の違いについて,対応のあるt検定を用いて分析した。生活活動量(LSA)と歩行特性との関連についてはPearsonの相関分析を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】すべての対象者に本研究に関する十分な説明を行い,同意を得た。なお,本研究は本学医の倫理委員会の承認を得て行った(承認番号E-1141)。【結果】単純課題と二重課題の歩行特性の違いについて分析した結果,歩行開始速度,定常歩行速度,ケイデンス,歩幅で有意差がみられ,いずれも単純課題と比較して二重課題において有意な減少がみられた。歩行開始CV,定常歩行CV,歩幅非対称性では有意差はみられなかった。生活活動量(LSA)と歩行特性との関連について,まず単純課題においては歩行開始速度(r=0.60),定常歩行速度(r=0.67),定常歩行CV(r=-0.44)でLSAと有意な相関を認めたが,ケイデンス,歩幅,歩幅非対称性,歩行開始CVにおいては相関を認めなかった。二重課題については,すべての歩行特性においてLSAとの有意な相関は認めなかった。【考察】本研究の結果,二重課題下での歩行においては単純課題と比較して歩行速度は減少するものの,CVや歩幅非対称性には変化がみられなかったことから,二重課題にしても歩行周期や歩幅が不規則になることはないことが示唆された。生活活動量(LSA)と歩行特性との関連について,単純課題においては歩行開始速度,定常歩行速度,定常歩行CVでLSAと有意な相関を認めた。このことから,定常歩行時における歩行能力だけでなく,歩行開始時の歩行能力も施設入所高齢者の生活活動量と関連していること,歩行周期の変動性が大きくなるほど,すなわち不規則な歩行パターンになるほど生活活動量は減少していることが示唆された。一方,二重課題での歩行特性についてはすべての項目において相関が認められなかったことから,体力水準の低い施設入所高齢者においては二重課題下での歩行能力よりも単純課題における歩行能力のほうが生活活動量と関連していることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,施設入所高齢者においては二重課題での歩行特性よりも単純課題における歩行特性のほうが生活活動量と関連がみられることが示された。また,虚弱高齢者の生活活動量向上や生活空間の拡大のためには,定常歩行時の歩行能力だけでなく,歩行開始動作について評価・介入することも重要であることが示唆された。
  • 竹田 圭佑, 千鳥 司浩, 水野 亜希子
    セッションID: 0067
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】転倒は寝たきりを引き起こす主要な原因の1つに挙げられており,可及的に転倒の防止を図ることが重要である。転倒には身体,環境など複数の要因が関わっていることが知られているが,その要因の一つに足底の感覚低下が考えられる。立位で唯一地面と接触している足底部からの感覚は姿勢の変化や地面の状態を適切に把握し,足関節による力発揮の程度を調節するために重要である。なかでも空間分解能として加齢を反映するとされている2点識別覚は立位でのバランス能力と関連が深いことが報告されている。第48回の本大会において足底2点識別覚が高齢者では若年者に比べ有意に低下し,高齢者では踵部の足底2点識別覚が顕著に低下しており,足底2点識別覚と開眼片脚立位保持時間の間には中等度の相関関係が認められたことを報告した。しかし,足底感覚の加齢による変化は明確になったものの,転倒の有無と足底感覚の低下については明らかとなっていない。そこで本研究の目的は,地域在住高齢者を対象とし,転倒歴の有無による足底2点識別覚閾値および片脚立位保持時間との関連性を検討した。【方法】対象は事前の説明により研究参加に同意の得られた65歳以上の地域在住高齢者55名,110肢(男性10名,女性45名,平均年齢75.7±4.7歳)とし,転倒に関するアンケートより過去1年以内に転倒を経験した者を転倒群(以下,転倒群)とし,過去1年以内に転倒の経験がないものを非転倒群(以下,非転倒群)とした。測定項目は足底2点識別覚,開眼片脚立位時間を測定し,2点識別覚の計測にはデジタルノギス(シンワ社製)を使用し,ベッド上仰臥位で裸足にて,左右の拇趾,拇趾球,小趾球,踵の8点に対し足底に2点を同時に触れたときに2点として識別できる最小距離を測定した。2点識別距離の決定として,同一の距離で3回施行し2回以上の正答が得られた部位を最小距離とした。統計分析には,転倒経験と測定部位の2変数を独立変数とし,2点識別距離を従属変数とする二元配置分散分析およびTukey-Kramerの多重比較検定を用いた。また,開眼片脚立位保持時間と各測定部位における2点識別距離との関係にはスピアマン順位相関係数を求めた。統計ソフトはStatcel2を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には研究目的・内容について紙面および口頭で十分に説明を行い,同意を得られた者に対してのみ測定を行った。【結果】転倒群と非転倒群では年齢における有意差はなかった。測定部位ごとの2点識別距離について転倒群と非転倒群を比較すると,転倒群の平均値は,拇趾18.5±7.6mm,拇趾球18.8±9.1mm,小趾球21.8±10.6mm,踵25.1±10.2mmに対し,非転倒群ではそれぞれ平均14.4±6.4mm,15.0±4.1mm,17.2±5.8mm,18.3±7.8mmであり,転倒高齢者群が非転倒高齢者群に比べ踵部において有意に高値であった(p<0.01)。また,4つの測定部位間の比較においては転倒群で拇趾と踵において有意差が認められ,非転倒群においても拇趾と踵において有意差が認められた。さらに,開眼片脚立位保持時間と2点識別距離の関連性については,拇趾(r=-0.22,p<0.01),拇趾球(r=-0.30,p<0.01),小趾球(r=-0.45,p<0.01),踵(r=-0.42,p<0.01)と有意な負の相関を認めた。【考察】高齢者を対象に転倒歴の有無における足底2点識別覚閾値の比較を行った結果,非転倒高齢者と比べ転倒高齢者において踵部での足底2点識別覚が低下を示し,踵部での感覚閾値の増加が認められた。また,各測定部位の足底2点識別覚と開眼片脚立位保持時間には中等度の相関が認められた。我々は先行研究より高齢者における感覚閾値の増加は均一に生じるのではなく踵部で著しいことを示唆しており,今回の結果においては転倒群で踵部での足底感覚が更に低下していると考えられた。これにより,転倒高齢者においては踵部での足底感覚の低下が静的なバランス保持に影響を及ぼし転倒を誘発する1因子であることが示唆された。一方,高齢者が転倒に至る経緯は,ふらつき・躓き・滑りなど多岐にわたっているが,特に足底2点識別覚は立位や歩行時の「ふらつき」と関連性が高いことが推察される。今後これらの外乱要因と足底2点識別覚にどのような関連があるのかを検討していく必要性があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究により,非転倒群に比べ転倒群において有意に踵の足底2点識別覚が低下していることが明らかとなった。このことから足底2点識別覚検査は転倒予防などの観点から臨床上有用な評価の一つになると考える。
  • 上田 哲也, 樋口 由美, 今岡 真和, 藤堂 恵美子, 石原 みさ子, 平島 賢一, 北川 智美, 安藤 卓, 水野 稔基
    セッションID: 0068
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】高齢者の転倒は,健康寿命の延伸を阻む要因である。転倒要因は内的要因と外的要因に分けられ,内的要因への対策は,複合的運動プログラムの有効性が確認されている。一方,外的要因に対する効果も明らかにされており,転倒による入退院を経験した高齢者の,家屋評価・改善による再転倒及びADL低下の有効性が報告されている。回復期リハビリテーション病院から自宅退院していく患者に関しては,退院する際の家屋環境改善指導の徹底がなされてきている。一方で,急性期病院から直接自宅退院していく患者に対して,適切な転倒予防指導が実施されているかについては明らかにされていない。そこで本研究目的は,急性期病院の理学療法士が自宅退院患者に対して,どのような視点をもち転倒予防指導を行っているかを明らかにすることとした。【方法】平成25年10月に開催された大阪府内の新人症例検討会に参加した理学療法士58名(女性22名)に対してアンケート調査を行い,即日回収した。職歴から,急性期病院のみ勤務経験がある理学療法士(以下,急性期群)と,急性期病院以外(回復期リハ病院,老人保健施設等)にも勤務経験のある理学療法士(以下,その他群)に大別し,比較検討を行った。アンケートには,経験年数・家屋評価の経験回数に加え,1)家屋評価時に生活動線・転倒経験場所を評価するか,2)自宅退院前に転倒予防指導を行なうか,3)転倒予防指導に関する知識への自信があるか,4)自宅内の転倒危険因子(段差,手すり,敷物・マット,コード類,動線内の整理整頓,暗さ)について認知しているか,以上の項目を含んだ。回答方法は,1)家屋評価時の視点については自由記載の内容から「有無」を判断した。その他の項目は「あり・なし」の選択式とした。統計学的解析は,職歴と各項目の比較,またその他群における家屋評価の経験回数と各項目の比較にはχ2検定を,同じくその他群の経験年数と家屋評価の経験回数の関係性については,Spearmanの順位相関分析を用いた。統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に則り,対象者には本研究の意図を書面上で説明し同意を得た。【結果】職歴による分類は,急性期群11名(平均2.4年目:1-7年目),その他群47名(平均4.7年目:1-15年目)であった。職歴と家屋評価の経験の有無の比較では,急性期群で家屋評価の経験があるのは45.5%で,その他群の93.5%と比較して有意に少なかった(p<0.01)。職歴と1)家屋評価時の視点では,急性期群で生活動線に着目しているのは18.2%のみであり,その他群63.8%と比較して有意に少なかった(p<0.01)。職歴と2)転倒予防指導の実践については,その他群の93.3%が転倒予防指導を実践しているのに対し,急性期群では70%にとどまった(p=0.07)。3)知識の自信ありと回答した者は,急性期群の11.1%,その他群の22.5%にすぎなかった(p=0.66)。職歴と4)自宅内の転倒危険因子の認知は,動線内の整理整頓について急性期群の認知が30.0%となり,その他群65.0%と比較して少ない傾向となった(p=0.07)。その他群において,経験年数と家屋評価の経験回数とに有意な正の相関(r=0.78)がみられた。また,家屋評価の経験と1)家屋評価時の視点との関連では,家屋評価の経験がある者の67.4%が生活動線に着目しているのに対し,経験がない者は全く着目していなかった(p<0.05)。【考察】家屋評価の視点として生活動線に着目しているのは急性期群が有意に少なく,また転倒危険因子の認知で,動線内の整理整頓の項目で急性期群が少ない傾向にあったということから,その他群では急性期群と比較して,自宅退院患者に対して,実際の生活に沿った転倒予防指導ができているのではないかと推測される。平成22年度に内閣府が行った調査において,自宅内で転倒した場所は生活動線内が多いことから,急性期病院から直接自宅退院する患者においても,より動線内の転倒指導が重要ではないかと考える。家屋評価の経験の有無が生活動線への着目に影響を与える可能性が明らかにされたものの,急性期病院において実際の家屋評価経験を増すことは難しい。そのため,実践的な評価視点を担保する教育プログラムの開発・提供が望まれる。【理学療法研究としての意義】今後ますますの転倒ハイリスク者の自宅退院が見込まれており,急性期病院から自宅退院時に転倒予防を行うことが重要である。本研究においては,施設形態別の退院時転倒予防指導の実態を把握することで,今後の介入研究の基礎資料としてなり得ると考える。
  • 原 大樹, 今田 健
    セッションID: 0069
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】病棟内の歩行は自立していたが,夜間歩行時の転倒歴を有する片麻痺症例を担当した。照明の暗さは転倒リスクに関わる環境因子の1つと考えられており,本症例が転倒した要因を考察する上での1つの視点として,照度が歩行時の下肢筋活動に与える影響について検討する必要があると考えた。歩行路の明るさを変化させた条件下の下肢歩行時筋活動を表面筋電図(以下,EMG)にて計測し,明るさが歩行時筋活動に与える影響について検討した。【方法】対象は前交通動脈瘤の破裂によって左片麻痺を呈した60歳代の女性であった。病棟内の歩行は歩行補助具なしで自立していたが,夜間にベッドから自室内のトイレまで歩行した際に2度転倒していた。麻痺側のBrunnstrom Recovery Stageは上肢V-下肢V-手指V,Berg Balance Scaleは44点であった。デジタル照度計AR813A(SMART SENSOR社)を用いて先行研究に従い,明るい(200lux以上),薄暗い(1~5lux),暗い(0lux)の3条件を設定し,各条件における歩行中の麻痺側の内側広筋,内側ハムストリングス,前脛骨筋,腓腹筋内側頭の筋活動を表面筋電計km-818MT(メディエリアサポート社)で計測した。計測は暗い条件,薄暗い条件,明るい条件の順で実施した。10歩行周期を抽出し,立脚相,遊脚相それぞれ階級幅10%で正規化を行い加算平均した。計測後,照度を独立変数,筋活動量を従属変数とする多重比較検定を用いて比較を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に従い,いつでも中断可能であり,それにより一切の不利益を被らないことなど事前に本研究の目的を十分に説明した。EMGを用いた運動機能評価に関する十分な理解と協力の意思を確認し,当院倫理委員会の承認を得た後に実施した。【結果】各条件における歩行路の照度は,明るい条件で294lux,薄暗い条件で1lux,暗い条件で0luxであった。内側広筋では有意差を認めず,内側ハムストリングスでは立脚相の0~20%において暗い条件は明るい条件より有意に高い筋活動(p<0.01),10~20%において薄暗い条件は明るいより有意に高い筋活動(p<0.05)を認めた。前脛骨筋では立脚相前半を通して暗い条件において他の条件より高い筋活動を示す傾向を認め,遊脚相の0~10%において暗い条件は明るい条件より有意に高い筋活動(p<0.01),50~60%において明るい条件は薄暗い条件および暗い条件より有意に高い筋活動(p<0.01,0.05)を示した。腓腹筋内側頭ではピーク値を示した時期が明るい条件では立脚相の40~50%,薄暗い条件では立脚相の60~70%,暗い条件では立脚相の70~80%であり,照度の低下に伴ってピークの時期が遅延する傾向を認めた。立脚相の50~60%において薄暗い条件は暗い条件より有意に高い筋活動,60~70%において明るい条件より有意に高い筋活動を認めた(p<0.01)。【考察】有意差が認められた場面では暗い条件において高い筋活動を示すことが多く,照度が低下することによって筋活動の上昇が示された。片麻痺患者において障害物や物体を視覚で過剰に意識させることは過剰な筋緊張状態を作り出すと報告されている。加えて,片麻痺患者では足元に視線を向けて歩行する傾向があることも報告されており,暗い条件では視認しにくい歩行路を注視しながら歩行したため,明るい条件と比べて筋活動が有意に上昇した可能性が考えられた。暗い条件が明るい条件と比べて有意に高い筋活動を認めた場面において,薄暗い条件では明るい条件との間に有意差を認めておらず,本研究において設定した1lux程度のわずかな明かりであっても歩行する上で視覚の手掛かりとなり得ることが推察された。また,内側広筋および内側ハムストリングスに比べ,前脛骨筋および腓腹筋内側頭では3条件間での筋活動量や筋活動パターンの違いが大きく,照度が低下した場合には足関節による制御が優位に生じる可能性が考えられた。このことから,暗い環境での歩行練習は特に足関節制御を促通し得ると考えた。【理学療法学研究としての意義】歩行時の下肢筋活動に関する検討は,従来明るい環境において幅広く行われてきた。暗い環境における歩行時の下肢筋活動について検討することは,転倒予防に向けた歩行練習について再考する機会や,在宅において患者や家族に照明の整備の重要性を説明する上での一助となり得ると考えられる。本研究は,実際に夜間歩行時の転倒歴を有する症例を対象として明るさを変化させた条件下の下肢歩行時筋活動を計測し,報告した点で意義があると考えた。
  • 吉塚 久記, 下條 聖子, 浅見 豊子
    セッションID: 0070
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】理学療法士・作業療法士養成校は大学と専門学校に分けられるが,社会人経験者や他学部の大学・大学院等を卒業もしくは中退した後の入学生(非現役生)は専門学校に多く見受けられる。クラス内に種々の経験を持った年齢層豊かな学生が混じり,お互いに影響を与える環境は専門学校の大きな特色の1つだと考えられる。そのような中,非現役生には成績優秀者が多く,学習動機と学習方略が比較的明確な場合が少なくない。そこで本研究では,非現役生と現役入学生(現役生)の学習動機の源泉や強さを明らかにすること,また経時的変化を追って両群の差を検証することで,今後の学生教育の一助とすることを目的とした。【方法】対象は専門学校理学療法学科1学年40名・作業療法学科1学年32名の合計72名(男性40名・女性32名),平均年齢20.2±4.3歳であった。そのうち現役生は57名(男性29名・女性28名)で平均年齢18.5±0.6歳,非現役生は15名(男性11名・女性4名)で平均年齢26.7±6.0歳だった。方法は「学習による直接的な効果や利益の期待度(功利性)」と「学習内容そのものの主観的重要度」の2次元で構造化されている市川の学習動機の2要因モデルを用い,記名式で36項目の質問紙に5段階尺度で回答を求めた。集計は充実志向(学習している内容自体が楽しく,充実感を得ている),訓練志向(知力を鍛える),実用志向(自分の将来の仕事や生活に活かす),関係志向(他者の影響),自尊志向(プライドや競争心),報酬志向(外からの報酬を期待),以上6分類各30点満点で集計した。また調査は同一学生に対して,1年次と2年次の2回実施して,経時的変化も調べた。統計学的解析には,各群の正規性と等分散性をShapiro-wilk検定とLevene検定で確認後,2標本t検定,Welchの補正による2標本t検定,Mann-Whitneyの検定の中から適応する方法を用いた。尚,危険率は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言を遵守し,72名全ての対象者に研究目的及び方法を説明後,研究参加に対する同意を得た。【結果】各項目の値を現役生1年次・2年次,非現役生1年次・2年次の順に記載する。結果は,充実志向20.9±3.5点,20.5±4.1点,23.3±4.2点,22.3±4.3点,訓練志向18.5±4.2点,18.5±4.1点,21.9±4.6点,20.9±4.3点,実用志向25.0±3.1点,24.4±3.4点,27.4±1.9点,26.9±2.4点,関係志向16.8±4.1点,16.5±4.4点,13.1±5.7点,12.9±5.5点,自尊志向15.8±4.6点,16.7±4.2点,15.2±5.5点,15.5±4.0点,報酬志向16.0±4.0点,16.2±3.7点,13.6±4.6点,14.9±4.5点であった。2群間比較において,非現役生は1年次,充実志向・訓練志向・実用志向で有意に高値を示し,関係志向・報酬志向で有意に低値だった。2年次では,実用志向は有意に高値であり,関係志向は有意に低値を示した。【考察】今回の結果から,非現役生は現役生に比べて,1年次において内容関与的動機が強く,内容分離的動機が弱かった。また,外発的動機よりも内発的動機が強いと捉えられた。しかし2年次では,実用志向・関係志向の差は変わらなかったが,充実志向・訓練志向・報酬志向の差が認められなくなった。養成校入学者全員が少なくとも何らかの動機で理学療法士・作業療法士を志して,学習を望んでいる者だと考えられるが,その学習動機の源泉や強さは多様であった。今回得た結果のように非現役生と現役生の間で,学習動機に違いがみられるのであれば,それを考慮した上で学生教育に臨むことが重要だと捉えられた。また,2年次では差がなくなった項目があったことから,学習動機は経時的に変化するものであり,非現役生と現役生がお互いに影響を与え合った可能性も考えられた。一般的に,個々の学習動機に多く支えられて学習することが望ましいとされているので,自己の学習動機の源泉を意識して,学生同士でお互いの価値観を学び,教員側にも視野を拡げられるような支援が求められていると捉えた。【理学療法学研究としての意義】大学と専門学校という2つの教育体系が共存する中,専門学校にも独自の特色がある。その1つとして,本研究で着目した現役生と非現役生の関係性は,入学時の学習動機に差がみられたことから,お互いに影響を与え合う可能性が考えられた。専門学校での理学療法教育はこの点を考慮することも必要だと捉え,今後も追跡調査を行っていきたい。
  • 浅川 育世, 水上 昌文, 岩本 浩二, 吉川 憲一, 古関 一則
    セッションID: 0071
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】本学では平成22年度より3年次必須科目「生活支援機器論」においてロボットスーツHAL®(Hybrid Assistive Limb)福祉用(以下,HAL)を用いた授業を行っており,その学習効果について昨年の本学会にて報告した。しかし,種々の要因により授業でHALの装着を体験できる学生は半分程度に限られてしまう。同一授業内で学習到達度に違いが生じることは学生の不利益にもつながり問題がある。そこでHAL装着体験の有無により,どの程度学習に違いが生じるのか検証作業を行ったので報告する。【方法】授業に参加した39名(うち20名がHAL装着を体験)に対し,授業後に自由記載のレポートの提出を課し,提出されたレポート(39名分;100%)について内容分析を行った。内容分析はBerelsonの内容分析の手法を参考にした。本研究では「HALの理学療法領域への貢献」に関連して記載された文章を抜粋したものを記録単位とし,意味内容の類似性に従い教員3名でカテゴリー化を行った。カテゴリー化の信頼性については他の2名の理学療法士にサブカテゴリーをカテゴリーに分類することを依頼し,一致度をκ係数を用い検討した。またHAL装着体験の有無によるカテゴリー毎の記録単位数の差の検討には対応のないt検定を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】レポート提出にあたり,本研究の内容と意義,匿名性の確保などについて口頭で説明し,すべての学生から同意を得た。【結果】レポート中に記載された「HALの理学療法領域への貢献」に関連すると思われる文章の総数は118となり,それらを記録単位として扱った。記録単位からは43のサブカテゴリーと7つのカテゴリーが分類された。第1カテゴリーは〈ADLの範囲を拡大する可能性がある〉〈自立動作や介護支援へ貢献できる〉など6つのサブカテゴリーから「ADLの向上や介護負担軽減への貢献」(記録単位数;装着体験有10:装着体験無4)と命名した。第2カテゴリーは〈QOLを向上させる可能性がある〉より「QOLの向上への貢献」(同;1:3)と命名した。第3カテゴリーは〈歩行を通じた刺激による神経再教育が期待できる〉〈機能回復を早める効果が期待できる〉など9つのサブカテゴリーから「神経や筋,その他の機能回復への貢献」(同;11:11)と命名した。第4カテゴリーは〈廃用症候群の防止や骨密度の維持に関する効果が期待できる〉など3つのサブカテゴリーから「廃用症候群の予防や改善への貢献」(同;6:2)と命名した。第5カテゴリーは〈歩行困難者の歩行獲得への効果が期待できる〉〈歩行困難者の歩行練習手段としての活用が期待できる〉など11のサブカテゴリーから「歩行機能の再獲得や向上に対する貢献」(同;16:18)と命名した。第6カテゴリーは〈家族や周囲の者のモチベーションを向上させる効果がある〉〈患者のリハビリテーション意欲を改善させる効果がある〉など5つのサブカテゴリーから「モチベーションや意欲など精神面の改善への貢献」(同;10:10)と命名した。第7カテゴリーは〈質の高い理学療法を提供できる可能性がある〉〈理学療法の効率を高める可能性が期待できる〉など7つのサブカテゴリーから「理学療法の質や効率の向上や新たなモデルの開発に対する貢献」(同;6:10)と命名した。カテゴリー化の信頼性を示すκ係数はそれぞれ0.86,0.83と十分な信頼性が確認された。HAL装着体験の有無によってそれぞれのカテゴリーの記録単位数には有意差は認められなかった。【考察】HALについては現在までに歩行能力に関して,歩容の改善や,支持性の改善,緊張の改善などが報告されており,学生はこれら現段階で明らかにされつつあるHALの効果について実感されたものと思われる。また歩行困難者の歩容の満足度はQOLと正の相関を示すことも明らかにされている。学生は精神機能面への効果についてもHALが影響をおよぼす可能性があることをレポート中に記載しており,身体機能面にとらわれず「HALの理学療法領域への貢献」を考えることができたと推察できる。本授業の行動目標は「HALの取り扱いを通じて最新の移動支援機器の操作を体験するとともに,HALの普及にあたり,使用目的,適応,リスク管理等について自らの考えを説明する」であり,ある程度の行動目標は達成できたものと考える。時間的要因やHAL本体の要因(サイズなど)などで全員がHALを装着体験することができないといった限られた条件下でも本授業がHAL装着体験の有無にかかわらず,等しく学習効果をもたらしていることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本授業は理学療法教育の中でも先駆的な授業であり,様々な要因で限界がある中での授業ではあるが等しく学習効果が実証されたことは大きな意義を持つ。
  • ―計量テキスト分析による学生アンケートの検討―
    篠崎 真枝, 浅川 育世, 大橋 ゆかり
    セッションID: 0072
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】平成14年のカリキュラム改訂以降,本学理学療法学科では専門科目への問題基盤型学習(Problem Based Learning;以下,PBL)を用いたテュートリアル教育を導入してきた。多くの専門科目で小グループ学習型の教育を取り入れており,1年次よりテュートリアル教育を経験する。本研究は,アンケート調査により,PBLテュートリアルの教育効果および問題点,さらに学生意識の変化を明らかにすることを目的とした。【方法】理学療法学科1~4年生167名を対象とし,アンケートの回収が得られた72名を分析対象とした(回収率:全体43.1%)。アンケート調査の時期は,各学年のPBLテュートリアルを導入している授業の終了後に実施した。アンケートは,「PBLテュートリアル形式の授業で感じたことを自由にお書きください」良かったこと,難しかったこと,講義形式との取り組みの違い等)。」といった自由記載形式とした。回収したアンケートをテキスト形式にデータ化し,語句の整理を行った後KH Coder 2.Xを用いて分析した。KH Coderは,内容分析の考え方を基盤にして開発された計量テキスト分析のためのフリーソフトウェアである。まず,アンケートのから抽出された出現回数8回以上の語句をWard法にてクラスター化した。次に,各学年の特徴語となる語句を抽出し,語句と語句の結びつきを示す共起ネットワークを作成し,学年の特徴を分析した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属施設倫理委員会の承認を得ており,研究協力者には本研究の目的およびデータの取り扱いについて説明した。研究への協力は自由意志に基づくものであり,アンケート用紙の回収箱への提出を以て,研究協力の同意を得たことを確認した。【結果】アンケートのテキストデータは,文章数370,語句数6154語からなり,591種類の語句が分析対象として抽出された。頻出8回以上の語句を対象にし,クラスター分析を行った結果,6つのクラスターに分類された。「PBLテュートリアルへの取り組み意識」「ディスカッションによる対人技能への影響」「学習意欲および学習効果の向上」「テューターの介入による学習促進」「グループ活動から感じる責任感」「グループ活動時間確保の難しさ」の6つ要因が抽出された。学年ごとのテキストデータ分析より,それぞれの特徴的な語句と,語句の結びつきより次のような特徴を抽出した。1年生では「人-意見-聞ける」「相手-伝える」「話し合う」といったディスクカッションによる対人技能,コミュニケーションに関連した語句が特徴語として挙げられた。また,「集まる-時間-合わせる」といったグループ活動時間確保の難しさを表した語句も抽出された。2年生では,「意欲-興味-取り組める」「責任-迷惑」といったPBLテュートリアルによる学習意欲と責任感を示す語句が挙げられた。一方,「激しい-差-偏り」といったグループ活動から生じる不満を表す語句がみられた。3・4年生では「自己学習」「疑問-自ら-調べる」といった自己学習や,「図書館」「文献」といった学習ツールに関する語句が挙げられ,主体的な学習への取り組みを表していた。「情報-共有-知識」といったグループ活動から他者との共有体験を得られたことが分かった。【考察】アンケートのテキスデータから抽出された6つのクラスターから,PBLテュートリアル教育の効果として考えられる学習意欲の向上,主体的・積極的な授業参加,対人技能・コミュニケーション能力の向上といった効果が得られていると考えられる。PBLテュートリアルの問題点として,授業時間外のグループ活動時間の確保が挙げられた。この点については授業時間内に時間を確保する,あるいはグループ活動が必要な科目の調整が必要だと考える。各学年のテキストデータの分析結果より,PBLテュートリアルを経験することで,それに対する意識も変化していると考えられる。1年生ではディスカッションしながら問題解決を進めるという授業形式に対し,新鮮さや面白さを感じている。3・4年生では,PBLテュートリアル形式の授業を通じて,自ら問題解決しようとする姿勢や自己学習への意識が形成されることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究より,PBLテュートリアル教育による学習意欲の向上,自己学習への意識の変化,対人技能への影響が確認された。本研究は横断的な分析ではあるが,PBLテュートリアルの経験を積むことで,学生の「学ぶこと」に対する意識の変化が示され,今後の理学療法教育への示唆を得ることができた。
  • 岩瀬 洋樹, 菅沼 一男, 丸山 仁司
    セッションID: 0073
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】「理学療法士は,後進の育成に努力しなければならない」,この一文は,日本理学療法士協会倫理規定基本精神第5項に明記されている規定となっている。後進の指導に対して,理学療法士養成校での教育も当然含まれており,学校教育や長期実習において教育に携わっているものは少なくない。15歳を対象にした経済協力開発機構(OECD)による国際的な生徒の学習到達度調査では,2000年以降日本は科学的リテラシー・読解力・数学的リテラシーの何れの分野でも成績を下げている。これは理学療法士養成校でも同様であり,どこの学校でも学生の学力低下に対応するべく指導力の強化を行っている。この指導力の強化とは効率的な方法で教育を行い,良い結果をえることであると考えられる。本研究はこの効率の良い教育を行う為に,まずは現時点で学生は平常時と定期テスト時ではどのくらいストレスに差があるのか比較し,その原因について検証していくことである。【方法】対象は平成25年度に4年制理学療法士養成大学に在籍する1年~3年生で平常時237名(男性135名,女性102名:年齢19.2歳±1.1歳),定期テスト前236名(男性135名,女性101名:年齢19.4歳±1.0歳)とした。方法は質問用紙によるアンケートと心理検査を実施した。調査は2回行い,1回目は5月初旬の平常時に行い,2回目は7月中旬の定期テスト開始1週間前に行った。調査内容は学生の平常時と定期テスト前におけるストレスをVisual Analog Scale(以下VAS)と気分を評価するProfile of Mood States(以下POMS)短縮版の2種類とした。VASは長さ10cmの線分の左端を「ストレスがない」,右端を「想像する最悪のストレス」として学生自身に現在のストレスが線分上のどの位置であるのかをペンで示してもらい,左端からの距離(mm)をもってストレスの強度とした。POMS短縮版では気分を評価する指標としてMcNairらによりアメリカで開発され,対象者がおかれた条件により変化する一時的な気分,感情の状態を測定する検査である。分類には「緊張」,「抑うつ」,「怒り」,「活気」,「疲労」,「混乱」の6項目がある。統計学的手法は,VASとPOMSの評価項目ごとにウィルコクソンの符号検定行い,有意確率5%未満をもって有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は国際医療福祉大学の倫理審査会の承認を得て行った。また,ヘルシンキ宣言に従い,対象者には本研究の概要と目的を十分に説明し,個人情報の保護,研究中止の自由などが記載された説明文を用いて説明し,書面にて同意を得たうえで実施した。【結果】VASは1-3年生のすべての学年において差が認められテスト前に高値を示した。POMSは1年生では「緊張」に,2年生では「緊張」,「抑うつ」,「活気」,「疲労」,「混乱」に,3年生では「緊張」,「抑うつ」,「疲労」,「混乱」の項目に有意差がみられた。【考察】VASでは1-3年生のすべてにおいて有意差がみられた。これは,今回計測したすべての学年で定期テストは平常時と比較し,ストレスを感じており,精神的に負担の大きいイベントであることが示唆される。POMSにおいて,1年生は「緊張」のみに増加の有意差がみられた。これは,不安感はありながらも,「抑うつ」や「混乱」などの負の要因がみられず,2・3年生と比較し,一般教養科目が多く,定期試験の難易度の問題も容易であり,精神的に安定しているのではないかと考えられる。2・3年生において,両学年は一般教養科目から専門教科科目に移り,勉強内容の難易度も上がってきたため,POMSの各要因で有意差が出現したと考えられる。その中で,3年生の「活気」では有意差がみられず,平常時と変化がなかった。先行研究において,学校への適応度と精神的健康度の重要性を指摘するものがある。今回の結果もこれと同様で,3年生は2年生と比較し,定期テストや学校生活の経験が多くあるために,カリキュラムにそった定期試験に焦点をあわせ,スケジュールを立てることができるため「活気」の低下がみられなかったのではないかと考えられる。本研究の限界として,理学療法養成校間での特色や学年でのイレギュラーなカリキュラムなども影響があるものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】定期テストは,学生自身がこれまで学んだ内容を発揮する場であり,その過程において様々なストレスを感じる場面があるものと考えられる。その内容がそのようなものなのか把握し,その対処法を考えることは有意義であると考えた。
  • 奥 壽郎, 廣瀬 昇, 山野 薫
    セッションID: 0074
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】理学療法卒前教育では,3年次評価実習においてスムーズに進まないことがある。対策として臨床に即した形で患者を想定し,実習前指導を行うことが重要であると考えられる。第47回本学術大会において,評価実習前の症例検討グループワークで高齢者体験装具を用いて実施しその意義について報告した。今回は,評価実習前指導において,片麻痺体験装着(装具)を利用する意義について検討したので報告する。【方法】理学療法士養成大学3年生44名を対象とした。実習前指導は後期科目「理学療法評価学実習」に導入し,その後半月後に評価実習を迎える。3年生を8グループに分け脳血管障害後右片麻痺症例を紙面で情報を与え,理学療法評価を目的に症例検討グループワークを行った。装具を用い模擬患者を設定した症例検討の講義を4コマと,装具を用いずに模擬患者を設定した症例検討の講義を4コマの合計8コマを実施した。装具は,株式会社特殊衣料「まなび体片麻痺用」を用いた。グループワーク終了時に無記名留置き式アンケート調査を実施した。アンケート内容は症例検討を通して装具を用いる意義について選択式で尋ねた。さらに,「有意義であった」あるいは「有意義でなかった」理由について,自由記載で回答を求めた。選択式のデータは単純集計を行い,自由記載式データはK-J法でカテゴリー分類し単純集計を行った。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には書面で研究の目的と内容を説明し,同意を得て実施した。また,帝京科学大学倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】「症例検討全体を通して装具を用いる有益性」について,「有益である」は44名(100%)であり,理由は「片麻痺の姿勢や動きがわかりやすい」,「片麻痺をイメージしやすい」などであった。理学療法検査測定毎の結果では,「有益である」との回答が多かった項目は(70~80%),「四肢長」・「運動麻痺検査」・「バランス検査」・「姿勢分析」・「歩行分析」であった。理由は,「装具により四肢長差が再現されていた」・「片麻痺患者のバランス障害,動作異常,歩行異常がわかりやすかった」であった。「有益ではない」との回答が多かった項目は(70~80%),「問診」・「四肢周径」・「関節可動域検査」・「MMT」・「感覚検査」・「腱反射」・「筋緊張検査」であった。理由は,「装具装着はこれらの異常を再現するのに関係しない」・「装具は装着することによって装具が邪魔になり測定しづらい」であった。【考察】症例検討に装具を用いることは,有意義であるとの意見が得られた。健常者が装具を用いずに片麻痺患者を演じることは限界があると考えられる。装具を用いることで,片麻痺患者の身体的変化を再現しやすくなる。さらに,歩行などの動的な動作異常も評価しやすくなると考えられる。このことにより,臨床場面により近い患者設定ができ,理学療法評価を進める上で,充実したグループワークができたものと考えられた。測定項目別にみていくと,姿勢や動作観察など動的な評価場面では,装具装着の有用性が伺えた。しかしながら,「四肢周径差」・「腱反射異常」や「筋筋緊張異常」などは,装具装着でも再現することは困難であり,より臨床場面を想定するためには創意・工夫が必要である。今回,装具を評価実習前の症例検討グループワークに使用する意義について検討した。今後は,実際の評価実習において効果があるか否かを検討する必要があると考えられた。【理学療法研究としての意義】実習施設の確保が困難な昨今,実習の時間数の減少,実習形態の簡素化などの傾向がある。こうした問題の対策として,健常者を対象とした学内教育において,評価実習前指導に,片麻痺体験装具を用いることは臨床場面に近い状況で指導が可能であることが推察できた。
  • 大野 洋一, 浅香 満
    セッションID: 0075
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】近年,患者ニーズの多様化に伴い,医療形態もこれまでのような医師中心に展開される形態から,より患者にあった個別性の高い目標の実現や的確な治療提供を行うため,多職種が連携をとり,それぞれの知識と情報を共有し医療を進めるチーム医療の形態となっている。理学療法士も専門職種として基本動作やADLの獲得を中心に臨床現場におけるチームの一員としての重要な役割を担っている。本学では理学療法士養成校として,チーム医療の必要性を理解し,患者本位の医療を実践するために,チームの一員であることを自覚することを目的とし,多職種との連携の必要性,具体的な連携の取り方について1年前期にチーム医療論を実施している。内容としてはチームを構成する各職種の役割の紹介,スポーツ関係者,看護師,理学療法士におけるチーム連携の在り方についての講義,K-J法を用いたチーム医療に関してのグループワーク,模擬カンファレンス等を行っている。今回,チーム医療論実施前と実施後にチーム医療に関するアンケートを行い,学生のチーム医療に対する考え方の変化,および,講義終了後アンケート結果における総合的特性の調査を行ったので若干の考察を含め報告する。【方法】対象は本学の理学療法学科1年生44名とした。アンケートはチーム医療論開始前と8回の授業終了後の計2回実施した。アンケートは群馬大学にてチーム医療に関する調査で用いられているものを使用した。内容としてはチーム医療の有用性に関する14問の設問となっており,各設問を5段階評価(賛成の度合い)で回答を求めた。アンケート回収率は初回100%,2回目95%であった。そのうち,未記入の設問のあるもの,初回と2回目の回答者が同一であることが特定できないものを除外し,最終的には29名分が本研究の対象となった。方法としてアンケートの全設問に対してチーム医療論受講前(以下,受講前)とチーム医療論受講後(以下,受講後)をWilcoxon signed-ranks testにて比較した。有意水準は0.05未満を統計的有意とみなした。また,2回目のアンケートに対してPrincipal Component Analysisにより主成分を抽出した。【説明と同意】アンケート調査はその目的を対象学生全員に十分に説明し同意を得た上で行われた。匿名性に配慮し,解答者に4ケタの数字を決め記入させ,初回と2回目のアンケートの解答者がわかるように実施した。【結果】アンケートでは医療の効率化,医療ミスの防止,熱意・興味の維持,医療の質の向上,患者への的確な対応,患者家族への的確な対応,多職種理解,退院準備の効率化の計8問で有意差を認め,受講前よりも受講後において賛成への傾向が強くなった。主成分分析の結果では,第1成分としてチーム医療に費やされる時間とチーム医療による物事の複雑化が選択され,チーム医療における不利益要素と名付けた。第2成分としては医療判断の効率化,医療ミスの防止,医療の質の向上,患者への的確な対応,多職種理解,コミュニケーションの充実が選択され,チーム医療における有益的要素と名付けた。第3成分としては患者への全人的対応向上,退院準備の効率化が選択され,患者利益と名付けた。抽出された3主成分に全要素の70.3%が集約された。【考察】本研究の結果より,講義前後のアンケート結果では,多数の設問において賛成の傾向が強くなった。これは,臨床現場におけるチーム医療への必要性や理解が深まったことによるものと考えられ,本学におけるチーム医療教育が一定の成果を認めることを示唆した。主成分分析ではチーム医療における不利益要素,有益要素,患者利益が抽出された。これは,チーム医療の知識が向上したことで,チーム医療の有用性が理解された結果,不利益な面,有益な面,また患者利益が明確になったことによるものと思われる。本学では1年生後期に理学療法士の役割や施設内での位置づけ等の理解を目的として5施設の病院・施設実習を行っている。本研究においても実際の臨床現場を体験したことによるチーム医療の印象の変化を今後もアンケートを継続的に行い調査するとともに,Interprofessional Education(IPE)からInterprofessional Work(IPW)への繋がり,IPEの効果の検証を行いたい。また,本学ではチーム医療に関する講義は1年生のみであり,今後,他学年における教育方法の検討も実施していきたい。【理学療法学研究としての意義】臨床現場におけるチーム医療の重要性から卒前からのチーム医療教育の必要性が示唆されている。そのため,カリキュラム内容や評価方法の検証が現在求められており,本研究の結果はその一端に貢献できるものと考えている。
  • 堀江 翔太, 石原 康成, 水池 千尋, 水島 健太郎, 久須美 雄矢, 立原 久義
    セッションID: 0076
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】肩甲胸郭関節(以下STj)は,腱板が正常に機能するための土台として重要な役割を果たしている。しかし,我々の先行研究によって,腱板断裂(以下RCT)患者では,肩甲骨周囲筋のタイトネスや不均衡によって肩甲骨の位置異常が生じており,STjの機能障害を有することを報告した。一般に,上肢挙上に際して肩甲骨の後傾・内転・上方回旋が制限されると肩峰下でインピンジが生じやすいとされており,肩甲骨の位置異常がRCTの発症や症状に影響している可能性がある。したがって,理学療法を実施する際は肩甲骨の位置異常に対してもアプローチすることが重要であると考える。しかし,RCTにおける肩甲骨運動は断裂サイズによって多様性があると考えられ,評価を困難にしている。そこで,本研究の目的は,腱板の断裂サイズが上肢挙上時における肩甲骨の後方傾斜に及ぼす影響を検証することとした。【方法】対象は,当院で腱板完全断裂と診断されたRCT患者22肩(男性15肩,女性7肩,平均年齢68歳)とし,断裂サイズによって小~中断裂12肩(以下SM群)と大~広範囲断裂10肩(以下LM群)に分類した。また,肩関節に既往がなく,超音波にて腱板断裂がない40~60代の健常者32肩(以下健常群)(男性16肩,女性16肩,平均年齢51歳)を対照とした。上肢下垂位と130°挙上位の2肢位で胸部三次元CTを撮影し,骨格側面像にて肩峰の先端から下角の下端を結んだ線と床面への垂線がなす角度(肩甲骨前後傾斜角)を測定した。胸部三次元CTの撮影は診療放射線技師が行った。下垂位と挙上位での肩甲骨前後傾斜角と変化量を3群間で比較検討した。統計学的検討は一元配置分散分析を使用し,有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した。ヘルシンキ宣言に基づき,対象者には共同研究者である医師が三次元CT撮影の前に説明を行い,同意を得ている。【結果】下垂位での肩甲骨前後傾斜角は,SM群では136.8±7.4°,LM群では140.3±6.6°,健常者群では139±4.3°であった。SM群で前傾している傾向にあったが,3群間で有意差は認めなかった。挙上位での肩甲骨前後傾斜角は,SM群では179.0±8.8°,LM群では180.4±6.8°,健常者群では181.5±3.7°であった。断裂サイズが大きいほど,拳上時に肩甲骨の後傾が少ない傾向にあったが,3群間で有意差は認めなかった。下垂位から挙上位での肩甲骨後傾による前後傾斜角の変化量は,SM群では平均42.3±7.0°,LM群では平均40.2±4.7°,健常者群では平均42.4±6.0°であった。LM群で後傾方向の動きが小さい傾向があったが,3群間で有意差は認めなかった。【考察】本研究では,RCT患者と健常者における上肢挙上時と下垂時の肩甲骨の傾きを,三次元CTを用いて評価した。その結果,下垂位では断裂サイズが小さいSM群において肩甲骨が前傾傾向であった。肩関節の挙上時に,肩甲骨の後傾・内転・上方回旋の不足が生じると相対的に烏口肩峰アーチが狭小化するため,肩峰下でのインピンジが惹起されるとされている。本研究の結果より,肩甲骨の前傾増大がRCTの発症にも影響している可能性が示唆された。肩甲骨の前傾を引き起こす要因としては,小胸筋の短縮が問題になることが多く,徒手療法では小胸筋へのアプローチが有効であると考える。また,大きな断裂ほど挙上時に肩甲骨の後傾が少ない傾向にあった。罹病期間が長くなり,断裂サイズが拡大するにしたがって腱板機能不全が進行し,僧帽筋上部線維の筋活動が代償性に亢進することが知られている。このことが,挙上位での後傾に影響している可能性が考えられる。理学療法では,僧帽筋上部線維の緊張をコントロールし,肩甲骨の上方回旋に重要な僧帽筋下部線維と前鋸筋の働きを促すことが重要であると考える。本研究の課題として,今回は術前の評価であるが,今後は腱板修復術後の縦断的な評価を行うことで腱板機能の改善に伴う肩甲骨運動の変化を明らかにし,腱板機能が肩甲胸郭関節に与える影響を検証したい。【理学療法学研究としての意義】今回の研究結果では,上肢下垂位では断裂サイズが小さいほど肩甲骨が前傾している可能性があると考えられた。このことから,断裂サイズが小さい腱板断裂における理学療法では,肩甲骨後傾を引き出す可動域練習が必要であることが示唆された。また,腱板断裂に関する三次元CTを用いた評価は少なく,基礎資料として有意義であると考える。
  • 雫田 研輔, 畑 幸彦, 大羽 明美, 牛越 香
    セッションID: 0077
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】肩甲下筋腱断裂は比較的稀な損傷であり,棘上筋腱断裂や棘下筋腱断裂などとの合併例を含めると40%に発生するという報告や肩甲下筋腱単独断裂は腱板断裂の4.9%であるという報告がある。また症状に関しては肩甲下筋断裂が生じると疼痛が強く,機能の低下が著しいという報告があり,治療に関しては肩甲下筋腱断裂を伴う腱板断裂例は手術的治療に難渋するという報告や修復後に水平外転と外旋の可動域制限が生じるため術後の理学療法を考慮する必要があるという報告がある。しかし肩甲下筋腱断裂を伴う腱板断裂手術例の経時的変化の特徴に関する報告はわれわれが渉猟しえた範囲ではほとんどなかった。今回,われわれは肩甲下筋腱断裂の有無が術後の治療経過にどのような影響を及ぼすのかを明らかにする目的で調査したので報告する。【方法】対象は,腱板断裂に対しMcLaughlin法を施行され術前から術後1年経過観察可能であった腱板断裂患者のうちmoderate-sized tear以上の断裂サイズの症例80例80肩象とした。これらの症例を肩甲下筋腱断裂合併の有無によって肩甲下筋腱断裂のない55肩(以下M群)と肩甲下筋腱断裂を認めた25肩(以下L群)の2群に分類した。2群間で,①病歴(手術時年齢・性別・手術側・断裂サイズ),②他動的肩関節可動域(屈曲,外転,伸展,下垂位内・外旋,外転位内・外旋,水平屈曲,水平伸展,CTD),③徒手筋力検査(屈曲,外転,伸展,外旋,内旋,水平屈曲,水平伸展,握力)④肩関節治療成績判定基準(以下:JOA score)⑤棘上筋腱付着部の腱内輝度⑥棘上筋腱の脂肪浸潤の項目について術前,術後3ヵ月,6ヵ月,9ヵ月および12ヵ月で評価し,比較検討した。なお⑤は術後6ヵ月と12ヵ月,⑥は術前と術後12ヵ月に比較検討した。なお,統計学的検定は年齢,断裂サイズ,他動的肩関節可動域,徒手筋力検査およびJOAスコアはMann-Whitney U検定を使用し,性別,罹患側,棘上筋腱付着部の腱内輝度および棘上筋腱の脂肪浸潤はχ2検定を用いて行い,危険率0.05未満を有意差ありとした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の趣旨を説明し同意を得られた患者を対象とした。【結果】手術時平均年齢,性別,罹患側および断裂サイズにおいて2群間で有意差を認めなかった。他動的肩関節可動域は,どの時期においても10方向の全ての可動域で2群間に有意差を認めなかった。徒手筋力検査は,すべての時期において肩関節屈曲,外転,外旋および内旋でL群がM群より有意に低下していた。握力は,すべての時期で2群間に有意な差を認めなかった。JOA scoreは,総合点で術前と術後3ヵ月でL群がM群より有意な低下を認め,痛みの項目で,術後6ヵ月と9ヵ月でL群がM群より有意に低下していた。棘上筋腱付着部の腱内輝度は,術後12ヵ月でL群がM群より腱内の低信号を示す症例が有意に少なかった。棘上筋腱の脂肪浸潤は,術前と術後12ヵ月でL群がM群よりGrade 1の症例が有意に少なく,L群もM群も両方とも術前と術後12ヵ月の間で有意差を認めなかった。【考察】肩甲下筋腱を含む腱板断裂手術例は,断裂サイズに有意差が無く,術前からの筋力低下は術後12カ月まで残存し,JOA scoreで疼痛の項目は術後6ヵ月と9ヵ月で有意に低下していた。市川らは肩甲下筋腱が断裂している例では治療成績が劣ると報告しており,石垣らは腱板断裂術後の疼痛の要因は筋力低下および腱板機能不全であると報告しており,古川らは肩甲下筋腱断裂では疼痛の改善に6ヵ月以上必要であったと報告している。 今回の調査と過去の報告から,肩甲下筋腱を含む腱板断裂術後の疼痛は,筋力低下および腱板機能不全と関連がありそうであると考えた。その原因については,肩甲下筋腱を含む腱板断裂手術例は,術前からの棘上筋腱の高度な脂肪浸潤は術後12カ月まで残存し,術後12カ月の棘上筋付着部の修復が遅いという今回の結果に加えて,Goutallierらの高度な脂肪浸潤のある症例は機能スコアも低く,再断裂の可能性も大きかったという報告や高宮城らの腱板断裂例の脂肪変性の程度とJOA scoreの改善度に関連性があったという報告から肩甲下筋腱を含む腱板断裂例では術前から脂肪変性が高度なために筋力や腱板機能の回復が不十分であり,これらが疼痛の要因となったのではないかと考えた。【理学療法学研究としての意義】肩甲下筋腱断裂を合併すると,筋力の回復が悪く,肩関節機能の回復と除痛に時間がかかり,腱板自体の修復にも時間がかかるため,術後理学療法を考慮する必要がある。
  • 原田 伸哉, 多々良 大輔, 吉住 浩平, 石谷 栄一
    セッションID: 0078
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】腱板断裂の再断裂因子は断裂サイズ,筋の脂肪変性委縮,合併病変など病態に関する報告は散見される。我々は第10回肩の運動機能研究会で大・広範囲断裂症例の術前評価から内旋に対する外旋の筋力比(以下筋力比)が再断裂因子として重要であると報告した。しかし症例数が少なく,断裂サイズが筋力比に与える影響の比較は不十分であった。今回の目的は中断裂も含めた腱板断裂症例の術前と術後半年での筋力比を追加調査し,外/内旋筋力比が再断裂に与える影響を検討することである。【方法】対象は鏡視下腱板修復術を施行した腱板断裂患者73名(男性39名,女性34名)。断裂サイズは中断裂42名,大断裂19名,広範囲断裂12名。さらに術後半年のMRIにてsugaya分類を用い,タイプ1~3を修復群65名(以下S群)タイプ4,5を再断裂群8名(以下R群)とした。平均年齢はS群65.3/R群65.8歳であった。筋力測定はMicroFET2(HOGGAN社)を使用した。測定肢位は肩下垂位内外旋0°,肘90°屈曲位,前腕中間位で行った。内外旋ともに3回ずつ測定し,単位:Nの平均値を求め,外旋/内旋で筋力比を算出した。調査項目は(1)S群の断裂サイズ間での術前筋力比(2)S群の各断裂サイズの術前後の筋力比(3)両群間の術前筋力比(4)各群の術前後の筋力比(5)両群の上腕二頭筋,肩甲下筋断裂(以下前方病変)の有無(6)両群の断裂部位(superior facet以下S,middle facet以下M,middle facet anterior以下Ma,inferior facet以下I,lesser tubercle以下L)とした。統計処理は(1)Kruskal-Wallis検定(2)と(4)はWilcoxonの符号付順位和検定(3)Mann-Whitney検定を用いた。有意水準は全て危険率5%未満を有意差ありとした。(5)は割合を%で求めた。(6)は人数を調査した。【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき,本研究の目的を対象者全員に十分に説明し,同意を得た上で研究を行った。【結果】術前/後で記載(1)中断裂0.89/0.85大断裂0.73/0.69広範囲断裂0.34/0.54,術前の筋力比は中断裂と大断裂には有意差なし。広範囲断裂は中断裂と比較して有意に低値を示し(P<0.01),大断裂との比較も有意に低値を示した(P<0.05)。(2)各断裂サイズで術前後の筋力比に有意差なし(3)S群0.79/0.79R群1.10/0.92,S群に比べてR群は有意に術前の筋力比が高い(P<0.01)(4)両群とも術前後の筋力比に有意差なし(5)上腕二頭筋断裂:S群45%/R群100%,肩甲下筋断裂:S群12.3%R群50%(6)断裂部位S:S群22名/R群0名,SMa:S群25名/R群3名,SM:S群8名/R群2名,SMI:S群3名/R群0名,SL:S群2名/R群0名,SML:S群3名/R群3名【考察】腱板断裂の筋力に対する研究は術後成績や断裂サイズとの関連を報告したものが多く,再断裂と筋力の関連を報告したものはない。しかし再断裂因子は個人差が大きく,単純に筋力で評価することは有効でないと臨床で感じており,身体特性として筋力比を用いて検討を行った。今回の結果から,術後半年で腱板が修復できたS群の術前筋力比は断裂サイズが大きくなるにつれて低くなり,特に広範囲断裂は有意に低値を示すことがわかった。一方S群とR群で比較すると,R群の約75%が大・広範囲断裂症例であるにもかかわらず,筋力比が1.10という高値を示しており,これが再断裂を引き起こした要因の1つになる可能性が示唆された。このR群の断裂部位を確認すると,SMa~Lまで至っていた症例が88%を占めており,断裂形態がより前方に及んでいたことがこのような結果を引き起こしたと考えられる。またS群よりもR群の方が前方病変を有する割合が多かった。前方病変を合併すると再断裂率が高まることは諸家の報告でも挙げられており,R群は前方組織の脆弱性が高いことが考えられる。今回の結果から再断裂因子を考察すると,前方病変による組織の脆弱性と外/内旋筋力比のアンバランスが肩の前後組織の不均衡を招いたと推察し,前方ストレスが増大したまま後療法を行っていたことが再断裂に影響した可能性がある。術前後での筋力比の変化は有意差がなく,R群は術後半年も筋力比が高いままであった。この結果はその症例の身体特性として捉えることができ,術前の状態で再断裂因子として判断することが重要である。今回の研究の限界は筋力比の基準値が不透明なことである。今後は腱板断裂好発年齢での健常肩を対象にした基準値の設定や,筋力比を後療法の中でコントロールすることで再断裂防止に繋がる可能性があるか追跡調査していきたい。【理学療法学としての意義】断裂サイズが大きいにも関わらず術前筋力比が高く,前方病変を有している症例は再断裂を起こす可能性が高いことがわかった。術前から再断裂因子を把握し,機能的弱点を考慮しながら後療法を行うことが重要と考える。
  • 健常人の歩行分析結果との比較
    坪内 健一, 定松 修一
    セッションID: 0079
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】肩腱板損傷修復術後患者(以下,術後患者)は,10日前後に亜急性期病棟に転科転棟し,術後4週で肩軟性装具(DONJOY ULTRASLINGIII)を除去・肩関節他動的関節可動開始,術後6週で肩関節自動運動を開始,術後8週で退院としている。退院まで術後患者の歩行は概ね安定しているように見られるが,少数ながら動揺の改善が見られない症例もある。今回我々は,現状把握のため高性能で簡便な8チャンネル無線モーションレコーダ用歩行バランスチェッカー(MicroStone社製MVP-UK-S,MVP-RF8)を使用し,術後患者の歩行と健常人の歩行の結果を比較分析した。【方法】対象は,術後患者18例(男性10例,女性8例,平均年齢67±9歳),健常人5例(男性3例,女性2例,平均年齢35±11歳)とした。測定方法は,第3腰椎部にテープとベルトにてセンサを固定,自由スピードで20m歩行を2回測定した。肩装具装着時の比較のため健常人は,左右交互に装具装着し測定した。術後患者の測定時期は,軟性装具固定中の術後2週(a),装具除去後の術後4週(b)・6週(c)・8週(d)で行った。解析方法は,歩行バランスチェッカーソフトウェアから歩行始動時数秒を除外した10秒間を選択し,CSVファイルに変換されたものをMicrosoft Excelにて解析,加速度計の3方向(左右方向・上下方向・前後方向)の波形を算出した。歩行時の動揺の指標とするため,算出した左右方向・上下方向・前後方向と3方向合成した値の2乗平均平行根処理(Root Mean Square,以下,RMS)を行い,各左右方向・上下方向・前後方向のRMSに対して3方向合成したRMSで除したものをRMS比とした。このRMS比の結果から健常人の装具装着時と非装着時の比較,術後患者と健常人の比較をU-検定にて比較した。また術後患者の外れ値検定(スミルノフ・グラプス検定)も行った。有意水準は5%未満とした。【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,対象者には,本研究の趣旨および検査内容について口頭および文書にて十分に説明し同意を文書により得た。【結果】健常人の装具非装着時のRMS比平均は,左右方向0.43,上下方向0.70,前後方向0.56であった。健常人の装具装着時のRMS比平均は,左右方向0.40,上下方向0.73,前後方向0.55であった。健常人の装具装着時と非装着時の比較では,左右方向・上下方向・前後方向の3方向ともに有意な差はなかった。術後患者の左右方向のRMS比平均は,(a)0.42(b)0.45(c)0.44(d)0.44,上下方向のRMS比平均は,(a)0.70(b)0.69(c)0.70(d)0.70,前後方向のRMS比平均は,(a)0.56(b)0.56(c)0.55(d)0.55であった。術後患者の術後2週と健常人の装具装着時の比較は,左右方向・上下方向・前後方向の3方向ともに有意な差はなかった。術後患者の術後4週以降と健常人の非装着時の比較は,左右方向・上下方向・前後方向の3方向ともに有意な差はなかった。術後患者の外れ値検定を行った結果,18例中1例左右方向の術後2週・4週と前後方向の術後2週に検出された。術後2週・4週の左右方向は,術側へ動揺増大,術後2週の前後方向は,後方の動揺減少がみられた。検出された1例の左右方向のRMS比は,(a)0.65(b)0.60(c)0.52(d)0.56,上下方向のRMS比は,(a)0.66(b)0.55(c)0.66(d)0.63,前後方向のRMS比は,(a)0.36(b)0.58(c)0.54(d)0.52であった。【考察】肩軟性装具の装着による歩行の動揺は,健常人の結果からもわかるように影響は少ない。術後患者の歩行の動揺は,臨床でもみられるように術後早期から少なかった。外れ値検定の結果でみられた1例も術後6週以降では歩行の動揺も軽減している。これは当院では,術部のアプローチだけではなく体幹・下肢のストレッチやエルゴメータの実施なども積極的に行っている結果,歩行の動揺の軽減に役立っていると推察される。外れ値検定の結果でみられた1例については,術後より痛みは強かったが,痛み・歩行スピード・術側の腕の振りなど他と比較検討したが,著名な違いは得られなかった。今後は症例数を増やし,評価内容も検討して,患者への治療に結びつけたいと考える。【理学療法学研究としての意義】術部の肩甲上腕・肩甲胸郭関節に対するアプローチだけなく,後患者の歩行状態の経時的な変化を測定することは,少数であるが早期に歩容改善のアプローチの参考になりうると考える。
  • 破局的思考と抑うつの交互作用
    高橋 佳子, 平田 淳也
    セッションID: 0080
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】痛みは多くの人が経験する問題であり,肩関節に慢性痛を有する者は高齢者では7%~34%に及ぶ。Youngら(2012)は肩関節の慢性痛患者の痛みに抑うつや恐怖感といった心理的因子が影響を及ぼすと報告している。さらに近年ではこれらに加えて,痛みに対するネガティブな思考である破局的思考が注目されている。慢性痛を予防するためには急性痛のコントロールが重要であり,痛みの予測因子が抽出できれば効果的な介入が行える。心理的因子は急性痛患者にも影響があることが示唆されているが,肩関節疾患を対象とした報告は見当たらない。そこで本研究の目的は,腱板損傷術後患者における痛みと心理的因子の関連を検討することとした。【方法】対象は腱板損傷に対して当院で鏡視下腱板修復術を施行した3症例である。症例1は60歳代,女性。受傷機転は肩を強打し受傷。MRIにて棘上筋・肩甲下筋腱の不全断裂を認めた。症例2は60歳代,女性。受傷機転は事故で肩を強打し受傷。MRIにて棘上筋・肩甲下筋腱の不全断裂を認めた。症例3は60歳代,男性。受傷機転は特になく,徐々に疼痛出現し当院受診。MRIにて棘上筋・棘下筋腱の完全断裂,肩甲下筋腱の不全断裂を認めた。これらの症例に対して,痛みを術後1週・2週・4週に評価し,破局的思考と抑うつを術後1週・2週に評価した。痛みの評価は,11件法numerical rating scale(以下NRS)を用いた。痛みの破局的思考は,Pain Catastrophizing Scale(以下PCS)を用い,抑うつはPatient Health Questionnaire-9(以下PHQ)を用いた。それぞれ信頼性と妥当性が認められている。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には本研究の趣意を十分に説明し,文章にて同意を得た。なお,本研究は当院の倫理委員会にて承認を得ている(承認番号:88)。【結果】症例1:PCSは14点から32点と高値を示し,PHQは3点から9点と高値を示した。痛みは各時期6点で変化が見られなかった。症例2:PCSは4点,0点と低値を示し,PHQはともに0点と低値を示した。痛みは術後1週において10点,2週・4週では1点,0点と低下した。症例3:PCSは19点,21点と高値を示し,PHQは2点,4点と低値を示した。痛みは術後1週において5点であったが,2週・4週の各時期で0点と低下した。【考察】破局的思考は,痛みの強さに最も影響を与える因子であることが報告されている。症例1は破局的思考が高く,術後4週の時点で痛みの改善はみられなかった。また,症例2は破局的思考が低く,術後2週・4週の時点で痛みは大きく改善した。しかし,症例3では破局的思考が高いにも関わらず,術後2週・4週の時点で痛みは改善がみられた。これは先行研究と異なった結果を示しているが,Stevenら(2011)は,破局的思考と抑うつの交互作用について検討しており,両者が高い患者は痛みの強さは高いが,一方のみ高い傾向にある患者または両者とも低い傾向にある患者では痛みの強さが低いことを報告している。このことから症例3では破局的思考が高かったが,抑うつが低かったため痛みに影響を与えなかったのではないかと考えられた。これらのことから,腱板損傷の術後患者において痛みを予測する場合,破局的思考のみならず,抑うつについても評価していくことでより正確に予後予測が行える可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】腱板損傷術後患者に対して,破局的思考に加えて抑うつの評価も同時に行うことで痛みの予後予測を正確に行うことができ,痛みに対して効果的な介入が行えると考える。
  • 高橋 康弘, 振甫 久, 村山 智恵子, 下田 雄斗, 石黒 正樹
    セッションID: 0081
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】肩関節周囲炎は中年以後の肩関節周囲組織の退行性変化を基盤として発症した疼痛性肩関節制動症として理解されている。痛みは徐々に増強し,その激痛により日常生活の行動を制限する。特につらいのが夜間痛である。夜間痛の持続期間は,全く無いものから数ヶ月間に及ぶものまで幅が広いのが現状である。今回,夜間痛の持続期間が影響を及ぼす因子について検討するために,肩関節周囲炎がプラトーに至り,治療が終了となった症例を分析した。【方法】2011年5月から2013年9月までに肩関節周囲炎と診断され,機能面がプラトーに至るまで運動療法を施行した23症例23肩(女性18例・男性5例,年齢64.3±10.7歳)を対象とした。腱板断裂は対象外とした。両側肩に,肩疾患・受傷既往や合併症のある者も除外した。全例同一理学療法士が担当し,概ね同じリハビリテーションスケジュールで行われた。肩関節周囲炎の回復期に入り,4週間以上関節可動域(以下,ROM)の改善が得られない状態をプラトーとし治療を終了した。夜間痛は,毎日持続する痛みがあり,一晩に2~3回以上は目が覚めるものと定義し,夜間痛の発症から消失するまでの期間を週単位で記録した。夜間痛の持続期間が影響を及ぼす予測因子として,全治療期間,運動療法期間,最終獲得ROM(屈曲・外転・外旋・結帯動作)を列挙した。外旋ROMは下垂位でのポジションとした。全治療期間は初診日から治療の終了日までとし,発症日は特定できないケースが多いため考慮しなかった。運動療法期間は,運動療法が開始となった日から治療の終了日までとした。最終獲得ROMの屈曲・外転・外旋に関しては,プラトーに至った患側ROMを健側ROMで除し,患側ROMの改善した割合(以下,改善率)を算出した。最終獲得の結帯動作に関しては,健側結帯動作とプラトーに至った患側結帯動作の差(以下,結帯差)を脊椎の個数で示した。Grubbs-Smirnov棄却検定を行ない外れ値の検討をした上で,夜間痛の持続期間と各予測因子の関係をSpearmanの相関係数を使用して調べた。p<0.05で統計学的有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿って計画され,対象者には本研究の趣旨を説明し,同意を得て実施した。【結果】夜間痛の持続期間と外旋改善率においてはr=-0.79 p<0.01であり,負の強い相関を認めた。夜間痛の持続期間と結帯差はr=0.46 p<0.05であり,正の弱い相関を認めた。夜間痛の持続期間とその他の因子には相関は見られなかった。【考察】今回の研究により,外旋ROMと結帯動作の予後は夜間痛が長期間に及ぶほど,悪影響を受けることが示唆された。特に外旋ROMは夜間痛の期間に強く影響を受ける結果となった。肩関節周囲炎の夜間痛は,肩峰下滑液包と腱板の癒着による肩峰下滑動機構の破綻,もしくは上方支持組織の拘縮が,肩峰下圧の上昇に関与しているといわれる。夜間痛が発生している期間は上方支持組織の伸張性が低下し,下垂位での内外旋を制限するため,それが長期間になるほど,外旋・結帯動作のROM予後に悪影響すると考察された。一方で,屈曲・外転ROMに関しては,上方支持組織の伸張性は関与しないため,夜間痛の持続期間の影響を受けなかったと考えられた。夜間痛に対しては炎症軽減のために日中の安静指導や,上方組織の伸張性回復のための徒手的治療が提案されており,これらの重要性を再確認する機会となった。夜間痛と内外旋制限の関係については,先行研究とも一致する結果であった。今後はさらに症例数を重ね,夜間痛の持続期間に影響する因子を可能な限り多く抽出し,より信憑性の高い研究が必要であると感じた。【理学療法学研究としての意義】今回我々は,夜間痛の持続期間が明確で,尚且つプラトーに至り治療が終了になるまで介入可能であった症例を分析した。肩関節周囲炎の夜間痛に対する報告は散見されるが,持続期間に着目した研究や,最終予後に至るまで追求し分析を行った物は見当たらないため,本研究の臨床的意義は高いと考える。
  • 松田 友秋, 新保 千尋, 福田 秀文, 石井 慎一郎
    セッションID: 0082
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】大腿骨近位部骨折の発生機序は転倒によるものが大半であり,術後の理学療法において再転倒予防を含めた能力の改善が重要となる。転倒の予測因子として,転倒経験や転倒恐怖感,歩行能力などが報告され(征矢野2009),これらの因子は相互に作用して転倒リスクを高めるとされている(Rose 2009)。近年,歩行時の転倒回避戦略に関して,歩行ロボットの軌道生成法の研究から,立脚後期における矢状面での下肢関節運動の制御が注目されている。本研究の目的は,デジタル画像解析ソフトImageJで計測した歩行立脚後期の下肢関節角度と転倒恐怖感との関連性を明らかにすることで,臨床応用が可能なデジタル画像の分析から大腿骨近位部骨折術後患者の転倒リスクを評価する方法を開発することである。【方法】対象は転倒により大腿骨近位部骨折を受傷し,観血的治療が行われた患者14名とした(平均年齢:82.2±7.0歳,性別:女性14名)。対象の選定は,杖歩行が自立または監視のみで可能な者とした(杖歩行自立6名,監視8名)。課題は最大速度での5mの直線歩行とし,歩行中の矢状面映像をデジタルカメラ(CASIO社製EXILIM EX-ZS10)で5施行撮影した。カメラは,受傷側から歩行進行方向と直行するように,高さ0.9m,距離3mの位置に設置した。得られた映像を,VirtualDub-1.9.11を用いて1/30秒ごとの静止画に変換し,ImageJ1.45を用いて下肢関節角度を計測した。関節角度の計測点の決定は,歩行路中央部分の受傷側立脚期で,両下腿が交差する区間の50%の時点(以下,立脚中期)と,健側の下肢が接地する直前の時点(以下,立脚後期)とした。関節角度は,上前腸骨棘,上後腸骨棘,大転子,外側上顆,腓骨頭,外果,第5中足骨頭,第5中足骨底に貼付した直径15mmの標点マーカーを指標に,受傷側の股・膝関節伸展角度,足関節背屈角度,床面に対する足部の絶対角度(以下,踵挙上角度)を計測し,5施行の平均値を算出した。計測に先立ち,角度計測の誤差範囲を検討し,計測誤差が3.5±3.0°であることを確認した。転倒恐怖感の評価は,征矢野らの転倒予防自己効力感(Fall Prevention Self-Efficacy:以下,FPSE)を用いた。FPSEは10項目の動作について転倒せずに行う自信の程度を4段階で調査するもので,高い点数ほど転倒恐怖感が少ないことを示す。データの分析は,各部位での立脚中期から立脚後期までの角度変化量とFPSEの総点との関連性を,データの正規性を確認した上で,Pearsonの積率相関係数を用いて検討した。統計ソフトはR-2.8.1を用いて,危険率5%未満を有意水準とした。【倫理的配慮,説明と同意】研究に先立ち当院倫理審査委員会にて承認を得た。対象者には事前に研究内容を説明し書面で同意を得た。【結果】FPSEの総点と有意な正の相関を認めたのは,股関節伸展角度(r=0.56)と踵挙上角度(r=0.62)で,有意な負の相関を認めたのは足関節背屈角度(r=-0.60)であった(全てp<0.05)。関節角度の平均値は,股関節伸展角度8.5±2.9°,足関節背屈角度6.1±3.2°,踵挙上角度5.7±4.7°で,事前に確認した計測誤差の範囲外であった。【考察】歩行ロボットの軌道生成法の研究から,立脚後期での3つの転倒回避戦略が必要とされている。これは,転倒力が発生した際に,床反力作用点を調節して転倒力を制御する床反力制御,床反力制御で制御できなかった転倒力を,上体をさらに前方へ加速させることで身体を復元する目標Zero Morment Point制御,予測起動から逸脱した上体位置を遊脚側下肢の着地位置の調節で修正する着地位置制御の3つのプロセスを示す(石井2012)。これらの転倒回避戦略は,足関節背屈を制御しながら踵を挙上することで,身体の回転軸を足関節から前足部に移行し,重心軌道の修正を行うForefoot Rockerを基盤とした姿勢制御である。今回,転倒恐怖感が少ないほど,立脚後期での足関節背屈角度が少なく,踵挙上角度が大きいといった結果を示したことは,前述したForefoot Rocker機能と転倒恐怖感との関連性を反映した結果と考える。また,転倒恐怖感が少ないほど立脚後期での股関節伸展角度が大きいといった結果は,Forefoot Rockerを支点とした股関節伸展での身体の復元やステップ長の調節機能と転倒恐怖感との関連性を反映した結果と考える。以上の事から,大腿骨近位部骨折術後患者の歩行分析において,立脚後期のForefoot Rocker機能を反映する踵挙上角度と股関節伸展角度から,転倒リスクを評価できる可能性が示唆される。【理学療法学研究としての意義】本研究の意義は,我々理学療法士が直接対応可能な歩容の問題点に関して,転倒恐怖感との関連性を踏まえた上で,立脚後期におけるForefoot Rocker機能の重要性を明らかにした事である。これらのデータをImageJを用いて定量的に捉えることは有用な評価として臨床応用できる可能性がある。
  • 菅 祐紀, 荒谷 幸次, 鳥居 昭久
    セッションID: 0083
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】大腿骨近位部骨折患者は年々増加しており,急性期病院において大腿骨近位部骨折術後リハビリテーションを行う機会は多い。大腿骨近位部骨折は大腿骨頚部骨折・転子部骨折・転子下骨折に分類され年齢階層別の発生率は70歳代半ばまでは大腿骨頚部骨折が高いが,それ以降では大腿骨転子部骨折が圧倒的に高くなると言われている。ガイドラインによると近年,男女の大腿骨頚部骨折・女性の大腿骨転子部骨折の発生率が増加しており今後,大腿骨近位部骨折の発生数も増加すると予測している。大腿骨近位部骨折術後リハビリテーションについては,術後早期の患側荷重量・荷重率(患側下肢荷重量/全体重)と歩行能力等に関する報告は散見されるが,患側荷重時の足底圧分布に関する報告は見当たらない。本研究の目的は,大腿骨転子部骨折に対する観血的骨接合術後患者の術後1週間後の立位荷重時足底圧分布(自然立位・患側努力荷重立位)の特徴を把握することとした。【方法】対象者はH25.8~H25.11に当院に入院し大腿骨転子部骨折に対し手術療法を行い,術後荷重制限がなく改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)21点以上,かつ入院前ADLが歩行レベル(シルバーカー歩行以上)であった,13名(男性1名,女性12名,平均年齢86.0±7.2歳)とした。術式は髄内釘固定術Proximal Femoral Nail Antirotation(PFNA:SYNTHES社製)で,下肢に他の整形疾患を有する者は除外した。測定は,体圧分布測定システムBody Pressure Measurement System(BPMS:ニッタ株式会社製)を用い,自然立位と患側努力荷重立位の各10秒間測定し,自然立位時健側足底分布(以下,健側群),自然立位時患側足底分布(以下,自然患側群),患側努力荷重立位時患側足底分布(以下,努力患側群)それぞれの平均値を算出した。また,各立位時に患側の疼痛についてNumeric Rating Scale(NRS)を用い計測した。立位条件は,平行棒内で靴を脱ぎ,前方を注視させ足幅・足角は任意とした。測定日は術後7日目または8日目とした。対象者の足底を北野の分類をもとに足趾・前足部・中足部・後足部の4部位に分類し,算出された足底圧分布と照合した上で各部位の足底圧分布百分比(部位圧/全体圧)を求め,さらに個人間足底圧分布百分比(以下,百分比)のばらつきの大きさを求めるため各群・各部位の標準偏差を求め,各群で比較した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院における倫理委員会の承認を受け,対象者には研究の趣旨やプライバシーの保護等について説明し同意を得た。【結果】各群の百分比(足趾:前足部:中足部:後足部)については,健側群(3.5±1.9%:35.5±5.9%:14.4±4.1%:46.7±7.2%),自然患側群(9.1±7.9%:49.7±15.6%:7.8±6.2%:33.5±19.0%),努力患側群(7.0±5.8%:44.7±15.5%:14.0±9.4%:34.2±15.2%)だった。また,疼痛(NRS)は安静時痛(0.0±0.0)で,自然患側群(0.5±1.9),努力患側群(6.2±2.7)だった。【考察】北野は圧の数値よりも分布様式を知ることが重要としており,健常者100名の百分比(足趾:前足部:中足部:後足部)は(2%:34%:6%:58%)で百分比の高い順は,①後足部,②前足部,③中足部,④足趾であると示している。本研究での健側群の百分比は,北野の報告した健常者の百分比の高い順と同様に①後足部,②前足部,③中足部,④足趾の順となった。これは本研究の対象者の百分比の特徴が健常者と同様であると考えられる。これに対し,自然患側群では,百分比の高い順は①前足部,②後足部,③足趾,④中足部となっており,自然患側群は後足部の荷重が健側群に比べ不十分であることが示唆された。努力患側群では,百分比の高い順に①前足部,②後足部,③中足部,④足趾となっていることから自然患側群と同様に後足部への荷重が不十分であることが示唆された。また,標準偏差が健側群に比べ自然患側群・努力患側群の方が大きいことから患側荷重時は足底圧分布が個人間でのばらつきが大きいことが示唆された。疼痛に関しては,自然患側群に比べ,努力患側群で疼痛増加を認めた。【理学療法学研究としての意義】大腿骨転子部骨折術後患者の術後1週での立位時足底圧分布の特徴を把握することにより立位時のバランス評価や患側への立位荷重時に適切な助言・課題設定が可能となると考える。
  • ―健常者との比較ならびに骨盤傾斜角度・股関節形態との関連―
    堀 弘明, 堀 享一, 由利 真, 千葉 健, 小島 尚子
    セッションID: 0084
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】我々は第48回日本理学療法学術大会において,変形性股関節症患者は安静時腹横筋厚に対する腹部引き込み運動時の腹横筋厚の変化率(以下腹横筋厚変化率)が健常人より低値になることから腹横筋の筋活動は低下していると報告した。その原因として先行研究から股関節の変形や骨盤アライメントが腹横筋厚変化率に影響を与えると推測した。そこで,本研究の目的は,前額面の骨盤レントゲン画像から骨盤傾斜角度と股関節形態を定量的に評価し,腹横筋厚変化率との関連性を明らかにすることとした。【方法】対象者は,北海道大学病院に片側変形性股関節症の診断を受け手術目的に入院し,術前理学療法を実施した患者を変形性股関節症群(21名。男4名・女17名:65.3±11.4歳)とした。除外基準は,既往歴に整形外科的疾患がある者,対側股関節に手術を施行している者,腹部に手術歴がある者とした。また,変形性股関節症群の年齢に合わせ身体に整形疾患等の既往歴のない者を健常者群(20名。男2名・女18名:64.4±3.1歳)とした。測定項目は腹横筋厚,骨盤傾斜角度,患側の骨頭外方化指数,骨頭上方化指数,大腿骨頭被覆率とし,測定実施日は術前理学療法開始1日目に実施した。腹横筋厚の測定肢位は膝を立てた背臥位姿勢とし,超音波診断装置はVenue 40 Musculoskeletal(GEヘルスケア・ジャパン)を使用し,画像表示モードはBモード,8MHzのプローブで撮影を行った。腹横筋の測定部位は,Urquhartらのワイヤー筋電図の測定部位を参考にし,患側中腋窩線上における肋骨辺縁と腸骨稜の中央部で腹横筋,内腹斜筋,外腹斜筋の境界を描出した。測定時の運動課題は,安静呼気終末時の腹横筋厚を安静時腹横筋厚とし,分離収縮においては腹部引き込み運動時の腹横筋厚とした。また,当院整形外科の処方により入院時に撮影した背臥位における前額面の骨盤レントゲン画像を用い,骨盤傾斜角度,患側の骨頭外方化指数,骨頭上方化指数,大腿骨頭被覆率を測定した。骨盤傾斜角度は両側仙腸関節下縁を結ぶ線に平行な小骨盤腔の最大の横径と,両側仙腸関節下縁を結ぶ線に対して恥骨結合上縁から下ろした垂線の縦径を計測し,それらを男性=-67×縦径/横径+55.7,女性=-69×縦径/横径+61.6に代入し求める土井口らの方法で算出した。骨頭外方化指数は,涙痕像先端から骨頭内側縁までの距離を恥骨結合中心から涙痕像先端までの距離で割り100倍して算出し,骨頭上方化指数は,骨頭最上端から涙痕像先端を結ぶ線への垂線の長さを恥骨結合中心から涙痕像先端までの距離で割り100倍する二ノ宮らの方法でそれぞれ算出した。大腿骨頭被覆率は,大腿骨頭内側端から臼蓋縁外側端までの距離を大腿骨頭横径で割り100倍するHeymanらの方法で算出した。変形性股関節症群と健常者群の腹横筋厚変化率についてはMann-Whitney U検定を用い,腹横筋厚変化率と骨盤傾斜角度,骨頭外方化指数,骨頭上方化指数,大腿骨頭被覆率についてはSpearmanの順位相関係数を用い統計学的処理は5%未満を有意水準として実施した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿い,北海道大学病院の自主研究検査機関の承認を受け,十分な説明を受けた後,被験者本人の自由意思による文書同意を得てから計測を行った。【結果】変形性股関節症群と健常者群の腹横筋厚変化率の比較では,変形性股関節症群30.6±20.7%,健常者群100.3±60.5%となり2群間で有意差(p<0.01)が認められた。変形性股関節症群の腹横筋厚変化率と骨盤傾斜角度18.4±4.4度(r=0.501。p<0.05),骨頭外方化指数30.0±10.8(r=-0.519。p<0.05),大腿骨頭被覆率66.5±11.4%(r=0.569。p<0.01)において中等度の相関が認められた。【考察】本研究において変形性股関節症患者は腹横筋厚変化率が低値であり,骨盤傾斜角度,骨頭外方化指数,大腿骨頭被覆率と関連することが示唆された。先行研究では,正常人の骨盤傾斜角度は平均22.4度と報告されており,本研究結果から腹横筋の筋活動が低下している変形性股関節症患者ほど骨盤前傾により骨頭被覆率に関連しているものと考えられた。その要因として,hip-spine syndromeの機序で腹横筋は収縮困難な状態を生じたと考える。今後の課題として,腹横筋に着目した訓練が運動機能改善に有効であるかの検討や姿勢変化による腹横筋筋厚変化について検討する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果により,変形性股関節症患者の腹横筋は筋活動が低下していることが示唆された。その原因として骨盤アライメントや股関節形態に関連していると考えられ,変形性股関節症患者の身体機能向上に対し効果的な理学療法を立案する際の一助となると考えられる。
  • 西角 暢修, 山下 和樹, 長尾 賢治, 岩井 信彦
    セッションID: 0085
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】当院の股関節人工骨頭置換術(Bipolar Hip Arthroplasty;BHA)では後側方進入法が多く選択される。切離した梨状筋腱は置換後に大転子付近の中殿筋筋膜に再縫合され,癒着を起こし壁となることで骨頭の後方偏位を防ぐ役割がある。しかし股屈曲や股屈曲位での外旋の関節可動域(Range of Motion;ROM)制限の因子となる可能性が高く靴・靴下着脱動作に制限が生じるため,梨状筋には大腿骨頭の後方偏位を防ぐ役割を損なわない範囲での伸張性向上が求められる。今回,梨状筋への物理療法等が靴・靴下着脱動作の実用性向上に繋がった症例を経験したので報告する。【方法】症例はBHA施行により梨状筋腱を中殿筋筋膜に再縫合し,術後6週間経過し急性炎症を認めない3名とした。超音波の設定は周波数1MHz,出力2.0W/cm2,duty cycle100%,10分間で,照射肢位は側臥位で股屈曲60°,内外転・内外旋0°,膝屈曲90°とした。触診にて梨状筋の筋腹を確認し超音波とマッサージを行い筋の伸張性向上を図った。施行前後で靴・靴下着脱動作時間,術側の股ROM屈曲・外転・外旋・総和(屈曲+外転+外旋),踵引きよせ距離(%),梨状筋の筋硬度を比較した。梨状筋の筋硬度は筋硬度計(NEUTONE TDM-N1)を用いて測定した。靴・靴下着脱動作は端坐位にて最大速度での時間を計測し,3分以上かかった場合は不可と判定した。計測はストレッチ効果を避けるために施行前後ともROMや踵引きよせ距離を測定する前に行った。ROM測定は2m離れた距離からデジタルビデオカメラで動画撮影したものをDartfish prosuite 5.5で画像処理し角度を算出した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者に本研究の目的・内容について説明し,拒否しても一切不利益が生じないことを文書と口頭にて説明し同意を得た。【結果】梨状筋の筋硬度は症例A施行前平均23.0±2.0N,施行後平均21.0±2.0N,症例Bは同様に22.3±0.6N,22.0±1.7N,症例Cは24.3±1.6N,18.0±0.0Nと全例で改善を認めた。股ROMは症例Aの屈曲施行前107.5°,施行後109.7°,外転22.1°,25.9°,外旋29.8°,25.9°,総和159.4°,160.9°。症例Bは同様に屈曲98.9°,102.3°,外転30.5°,25.8°,外旋21.8°,27.4°,総和151.2°,155.5°。症例Cの屈曲88.0°,94.5°,外転は6.5°,8.2°,外旋36.6°,42.3°,総和131.1°,145.0°と症例Bの外転と症例Aの外旋以外で改善を認めた。踵引きよせ距離は症例A施行前59.3%,施行後61.4%。症例Bは同様に54.2%,63.7%,症例Cは60.0%,70.0%と全例で改善を認めた。靴着衣時間は症例Aが施行前5.2秒,施行後3.7秒,症例Bは同様に21.3秒,16.9秒,症例Cは不可,23.5秒。靴脱衣時間は症例Aが8.5秒,5.3秒,症例Bは12.9秒,8.6秒,症例Cは8.08秒,9.22秒。靴下着衣時間は症例Aが5.8秒,7.1秒,症例Bは21.3秒,16.9秒,症例Cは不可,23.6秒。靴下脱衣時間は症例Aが9.2秒,6.0秒,症例Bは11.4秒,9.9秒,症例Cは不可,52.8秒と症例A靴下着衣動作と症例C靴脱衣動作以外は改善を認めた。【考察】花房らは開排法での靴下着脱動作獲得に必要なROMは股屈曲83.5°,外転27.7°,外旋33.3°,総和144.5°が必要と述べている。各症例のROMは運動方向別では平均値以下の結果も認めたが,総和や踵引きよせ距離・筋硬度は施行後に全例改善を認めた。2例は施行前から総和が平均値以上で屈曲法での靴・靴下着脱動作が可能であり,他の1例は施行後に総和が平均値以上となり開排法による動作を獲得した。このことから今回の介入が梨状筋の粘弾性低下と伸張性向上を促し円滑な関節運動が可能となることで,ROM改善,靴・靴下着脱動作の獲得や,実用性向上に繋がったと考える。施行後に動作時間が延長した例も存在したが施行前後の差が最大1.3秒であり天上効果による誤差の範囲であるものと思われる。ROM改善の程度も症例により差を認めたが,これは梨状筋腱を大転子の骨梁構造を加味して再縫合するため,症例によって走行や耳側への伸張度合に違いがあったと考えられる。介入の時期は梨状筋腱縫合が術後3週間以内に高率で断裂していたとの報告もあることから,梨状筋腱や関節包の縫合が生着する術後6週経過後から積極的に梨状筋に対し介入することが適切と考える。超音波と徒手療法の併用が補完効果により有効であったと思われるが,単独の効果や疼痛の影響については検討できておらず今後の課題である。【理学療法学研究としての意義】BHA術後の靴・靴下着脱動作に関し,軟部組織の柔軟性に着目した研究は少ない。今回の研究において急性期を過ぎた症例に対する梨状筋への介入が靴・靴下着脱動作の獲得,実用性向上に繋がることが示唆された。
  • 島袋 公史, 平山 史朗, 井上 美幸, 渡邉 英夫
    セッションID: 0086
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】股関節切除術は感染症のコントロールとして行われるが,術後の股関節の著しい不安定により起立・歩行練習に難渋し日常生活動作(以下,ADL)の制限も著しいとされている。これは股関節が切除され体重を支える構造が破綻し,股関節周囲の多くの筋に機能低下が生じ,さらに2関節筋による影響で膝関節筋力も低下し,立位での著明な脚長差も生じるなどが原因と考えられる。今回,股関節切除術後約半年が経過した症例に,3種類の下肢装具を病態に合わせて使用し,身体機能向上が得られたので報告する。【方法】症例は57歳,女性である。基礎疾患に糖尿病があり当院転院8ヶ月前に臓器感染にて他院に入院したが,その後2か月経過して右大腿骨頭,右臼蓋の骨髄炎がわかり,同部にセメントスペーサーを留置された。セメントスペーサー抜去と同時に右股関節切除術を受ける。術後から約半年を経て当院へリハビリテーション(以下,リハ)目的で転院となった。理学療法介入時,術側への荷重は全荷重可能の指示であったが不能。右股関節の可動域はいずれの方向にもhyper mobilityであった。徒手筋力テストでは右下肢は股関節1 level,膝関節2 level,足関節2 levelであり,健側下肢も3~4 levelであった。立位での脚長差は8cm(左>右)。基本動作は座位保持も困難で全介助,ADLは機能的自立度評価表(以下,FIM)で42点であった。理学療法を進める上での問題点として,右股関節不安定性,右下肢筋力低下,脚長差,健側下肢の筋力低下が挙げられた。方法は,1.右股関節の不安定,筋力低下に対してリハ室常備の組立式股装具を用いたが,これは股継手に屈曲・伸展を制動・補助できる機能があり,外転も5°,10°,15°と設定できる。2.歩行時の膝折れに対して,常備の組立式膝装具を用いて膝継手を輪止めでロックした。3.脚長差と下垂足に対して,可撓性プラスチックキャストにより即席短下肢装具を製作し,底屈位で保持した。【倫理的配慮,説明と同意】今回の発表の趣旨を説明し,発表に関して同意を得ている。【結果】理学療法介入約1か月後にリハ室での起立練習を開始したが,右股関節不安定,両上肢・健側下肢の支持性も乏しく体幹の正中位保持も困難であり,全介助で実施していた。そこで組立式股装具を使用して股関節の動きを制動し,軽度外転位保持を行ったら下肢への荷重量を増加でき,体幹の安定も改善した。右下肢の短縮と下垂足に対して即席短下肢装具をリハ室で製作したが,内側で踵部に数珠玉を敷き詰め底屈位で前足部荷重が安定良く出来るように作製できた。理学療法介入2か月経過して体幹の正中位保持・下肢振り出しも可能となり,平行棒内歩行練習も開始できた。徐々に健側下肢,両上肢の支持性も向上したので組立式股装具を外すこととした。しかし,歩行時に膝折れがみられることもあり,膝関節の安定保持のために組立式膝装具を装着した。経過良好で,理学療法介入3か月後には組立式膝装具,即席装具を使用せずに平行棒内歩行が可能となった。その後,歩行器歩行練習が実施可能となった。基本動作は修正自立~軽介助となり,立位移乗も可能となる。FIMは86点で,家族の介助で車いすでの外出が可能なlevelまで回復した。【考察】理学療法介入当初,股関節不安定,脚長差,健側下肢筋力低下の問題があり起立,歩行が不能で基本動作はほぼ全介助に近い状態であった。しかし,3種類の下肢装具を使用したことにより荷重でのリハが可能となり,両下肢支持性向上や体幹筋の賦活へと繋がったと思われる。これにより,Bed上動作や車いすへの移乗などがやりやすくなり,日常生活での活動性向上に繋がったのではないかと考える。特に組立式股装具の外転位での適切な屈曲への制動機能が不安定な股関節と体幹を保持し,起立・歩行練習を可能とし,症例の身体機能・能力向上に寄与できたのではと考える。今回は,術後約半年を経過した整形外科的な症例であったが,使用した3種類の装具は脳卒中急性期の症例や整形外科で他の下肢手術後早期の症例にも有用であると推測できた。【理学療法学研究としての意義】早期からリハ室常備の組立式下肢装具や,短時間で製作できる即席装具を種々の機能障害に対して使用することが出来れば,病期を逃さず起立・歩行練習を行う事ができる可能性がある。我々理学療法士が日常のリハの中でこのようなアプローチ法も選択肢にあれば障害の機能的・能力的改善に対して有用であると思われる。
  • 原 耕介, 松島 知生, 小保方 祐貴, 西 恒亮
    セッションID: 0087
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,股関節唇損傷の病態や治療に関する報告が増えている。損傷メカニズムは股関節運動時に大腿骨頚部と臼蓋前縁が衝突することとされている。臨床では,股関節屈曲時に鼡径部につまりや疼痛を訴える患者に対し,徒手的に骨頭の後方滑りを補助することで症状の軽減やROMが改善することを経験する。また,LeeやSahrmannは股関節屈曲運動に伴う大腿骨頭の後方すべりの減少に起因する関節前面のインピンジメントを成書のなかで示している。Sahrmannは,自動SLR時の大転子の軌跡を追うことで,大腿骨頭の後方滑りを評価しているが,股関節屈曲運動に伴う大腿骨頭の動態について報告しているものは見受けられない。そこで今回,他動股関節屈曲運動時の大転子の軌跡を分析し,大腿骨頭の動態を明らかにすることを目的とする。【方法】対象は健常成人男性10名20股(年齢24.5±2.2歳,身長171.2±3.cm,体重66.8±7.0kg)で,股関節屈曲時に鼡径部につまり・疼痛を感じる群(P群:6股)と感じない群(N群:14股)に分け,基本特性として,股関節0°および90°屈曲位における股関節内外旋角度を測定した。被験者は骨盤・股関節中間位の背臥位とした。骨盤中間位は両側上前腸骨棘(以下;ASIS)と恥骨結合が並行になる位置とし,股関節内外転中間位を維持するために膝蓋骨中央をマーキングし,さらに膝蓋骨中央が上方を向いた位置を股関節内外旋中間位とした。その後,骨盤の代償が可能な限り起こらないように,非検査側の大腿部および両側のASISを非伸縮性のベルトで固定し,さらに徒手的に両側ASISを固定した。測定は他動股関節屈曲運動を最終域まで行った。最終域は検者がエンドフィールを感じた時点もしくは被検者が鼡径部につまり感を感じた時点とし,その際の可動域を測定した。その際,大転子最突出部(以下;Tro)を触診し軌跡を追い,屈曲10°ごとにTroをマーキングした。マーキング後に両側ASISを結んだ線の延長線上でTroから60cm,床から60cmの位置に設置したデジタルカメラにて縦・横とも1ピクセル0.2mmに設定した画像を撮影した。撮影した画像を,Image Jを用いX軸は頭側を正,尾側を負とし,Y軸は腹側を正,背側を負として,各股関節屈曲角度におけるTroの座標を求めた。股関節屈曲0°の座標を原点とし,原点からのTro移動量(以下,原点移動量)をmm単位で屈曲角度ごとに求めた。さらに,各屈曲角度間におけるTroの移動量(以下,角度間移動量)も同様の方法で求めた。統計処理はSPSSver21.0を用い,各股関節屈曲角度におけるX軸・Y軸の原点移動量および角度間移動量,股関節屈曲可動域および90°・0°内外旋可動域をN群とP群で比較した。群間比較にはMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者に目的及び内容,対象者の有する権利について口頭にて十分説明を行い,書面にて同意を得た。【結果】股関節屈曲可動域はN群が優位に大きい値(N群:107.50±6.72°,P群:98.33±3.67°)を示した。股関節内外旋可動域は群間で差は認められなかった。X軸原点移動量では屈曲10°から40°においてP群で有意に頭側へ移動し,Y軸原点移動量は屈曲10°から最終域の全屈曲角度でP群有意に腹側へ移動した。角度間移動量では両軸とも屈曲0°から10°の間にN群で有意に尾・背側に移動した。【考察】他動股関節屈曲時にP群では屈曲0°から10°における大転子の背側移動量が減少し,その後も背側に大転子が背側へ移動せずに,N群よりも腹側に大転子が位置していることが分かった。Joshuaらによれば,大転子の移動量は股関節中心の移動量を反映しているため,大転子が背側へ移動しない,つまり,大腿骨頭が後方へ滑らないまま屈曲することが鼡径部のつまりや疼痛の一因である可能性が示唆された。後方滑り減少の原因として,本研究では,群間で屈曲可動域に有意差は認められたが,内外旋可動域に差がないことから,諸家により報告されている短外旋筋群の伸張性低下が股関節屈曲可動域や大腿骨頭の後方滑りに影響を与えた可能性は本研究においては低いと考えられた。今回の結果から,股関節屈曲0°から10°での大腿骨頭の後方滑りが減少していた原因を断定することは困難であり,また,大転子の軌跡が真に大腿骨頭の動態を反映しているかは議論の余地がある。今後は関節エコーなどを用いて,関節内の大腿骨頭の動態とそれに影響を与え得る因子を明らかにするとともに,本研究で用いた方法の妥当性を検証していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】他動股関節屈曲運動時に鼡径部につまりや疼痛を訴える場合,大転子の背側移動量が減少していることが明らかとなった点において意義があると考える。
  • 中谷 知生, 田口 潤智, 笹岡 保典, 堤 万佐子, 藤本 康浩
    セッションID: 0088
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】我々は川村義肢株式会社協力のもと,長下肢装具を用いた歩行トレーニング時に使用することで歩行速度を向上させることが可能となる歩行補助具T-support(以下ver1)を作成し,第48回大会においてその即時効果について報告した。今回,ver1の体幹伸展補助機能に改良を加えたT-support ver2(以下ver2)を作成した。本研究の目的は,ver2使用による長下肢装具装着下での歩行因子の変化を明らかにすることである。【方法】対象は当院で長下肢装具を作成し,歩行トレーニングを行っている7症例とした。ver2装着による歩行因子の変化を明らかにするため,10mの歩行路をバンド装着時と非装着時の2度歩行した。装具は全例が足継手にGait Solutionを用いた金属支柱付長下肢装具を使用していた。評価指標として10m歩行所要時間およびステップ数,川村義肢株式会社製Gait Judge System(以下GJ)を用い計測されるイニシャルコンタクト(以下IC)からローディングレスポンスに装具に発生する底屈トルク値(ファーストピーク,以下FP),およびICにおける股関節屈曲角度,ターミナルスタンス(以下TSt)における股関節伸展角度を測定した。統計学的分析にはt検定を用い5%を有意水準とした。【倫理的配慮,説明と同意】当研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し,被験者に研究の目的,方法を説明し同意を得た。また所属施設長の承認を得て実施された。【結果】ver2装着により,10m歩行所要時間が30.9秒から20.6秒に,ステップ数が32.7歩から26.4歩に,FPが3.0 Nmから4.3Nmに,TStでの股関節伸展角度は3.1°から9.0°に変化し,有意差が認められた。ICにおける股関節屈曲角度は24.3°から22.5°と変化したが,有意差は認められなかった。【考察】脳卒中片麻痺患者の歩行トレーニングでは,歩行速度を向上させる事が重要とされる。Dobkinらは脳卒中患者を強制的に早く歩かせた群とそうでない群の2群に分け歩行能力を比較した結果,早く歩かせた群において有意に歩行能力の改善が認められたと報告している。これは歩行速度向上に伴い歩行制御におけるCentral Pattern Generatorの役割が相対的に増し,歩行がより自動的な運動となるためであると考えられており,歩行速度を向上させることは歩行制御の神経機構を変化させることにつながると思われる。このことから,我々は長下肢装具を用いた歩行トレーニングにおいてもスピードの向上が治療上より有効な手段となりうるのではないかと考えている。しかし長下肢装具により膝関節の運動自由度を制限した状況で歩行速度を向上させることは容易ではなく,麻痺側下肢の筋緊張亢進やスイング時の体幹側屈などの異常歩行パターンを誘発する可能性がある。これに対しThijssenらはCVAidという肩から足部までを弾性バンドでつないで制御する装具を作成し,バンドの張力を用い麻痺側下肢のスイングを補助することで,脳卒中片麻痺患者のストライド長増大に伴う歩行速度の向上が見られたと報告しており,その有用性は理学療法診療ガイドライン第1版(2011)にも引用されている。これを参考にして我々は歩行補助具を作成してきた。ver1は装着により歩行速度を向上させる効果が確認されたが,ゴムベルトをタスキ状に繋いだ構造のため重度の介助を必要とする症例では体幹の支持性の不足が問題であった。そこでver2では体幹支持部に腰椎コルセットを使用した。その理由は,コルセットにより腹圧を上昇させ,体幹前屈方向へのモーメントを減少させることにある。またコルセットはスイングを補助するための弾性バンドが2本着脱可能となっており,このバンドを長下肢装具の大腿カフの前後面に装着し,バンドの張力を用いることで速度を向上させた麻痺側下肢のスイングが可能となる。今回の研究結果からは,ver1同様に,股関節伸展角度およびストライド長を増大させ,その結果歩行速度が向上するという即時効果があることが明らかとなった。これは弾性バンドの張力に加え,コルセットにより体幹伸展が促され,股関節屈筋群を含めた体幹前面の筋が働きやすくなったことによる影響であると考えた。【理学療法学研究としての意義】脳卒中片麻痺患者の長下肢装具を用いた歩行トレーニングにおいて,ver2を使用することで効率的なトレーニングが可能となることが明らかとなった。この新しい歩行補助具の効果を明らかにした本研究は,脳卒中片麻痺患者の理学療法を発展させる上で重要なものであると考える。
  • 熊木 由美子, 萩原 章由, 溝部 朋文, 松葉 好子
    セッションID: 0089
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】片麻痺者の理学療法において,廃用症候群を予防し早期から積極的なリハビリテーションを行うことや,装具を利用して歩行練習を行うことは強く勧められている(脳卒中ガイドライン2009)。当院では備品である装具(長下肢装具(KAFO)・短下肢装具(AFO),底屈制動機構付きなど)を,症例の体格や身体機能,目的などに合わせて適宜使用し歩行練習を行っている。歩行については,身体のアライメントの維持やスムーズな体重移動,荷重時の筋活動のタイミングの促通などを目的にKAFOを活用している。また,積極的な歩行練習の準備として,立位などの動作における身体のアライメントの維持やバランスの強化を行うためにも活用している(萩原章由ほか:JSPO29,2003)。今回,当院におけるKAFOの対象などを明らかにすることを目的に,使用状況の調査を行った。【方法】<対象>2010年6月1日~2012年3月31日に当院に救急入院し,入院時・退院時の評価が行えた片麻痺者(186例)のうち,KAFOを使用した症例。(再発例と両側片麻痺例は除外した。)<方法>基本情報,装具の使用状況,入院時・退院時・KAFO使用開始時(KAFO時)の下肢随意性(Br.Stage),歩行能力,最大連続歩行距離,Berg Balance Scale(BBS)を診療録より後方視的に調査した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究である。症例に対し十分な説明と同意の上評価を実施し,当院の倫理規定に則って報告を行う。【結果】KAFOを使用した症例は40例であった。年齢は64.6±7.7歳。性別は男性29,女性11例。診断名は脳梗塞15,脳出血24,くも膜下出血1例。障害側は右22,左18例。発症~PT開始は1.8±1.1日。入院期間は149.3±50.9日。転帰は自宅退院20,施設入所15,リハ転院3,治療転院2例であった。発症~KAFO使用開始34.7±37.5(中央値28,7-249)日。KAFO使用期間44.1±29.0(中央値39,5-156)日。退院時に使用した装具はKAFO10,金属支柱付AFO18,プラスチックAFO5,装具なし7例(AFOカットダウン率57.5%,装具なし含む75%)。本人用装具を作製した症例は22例55%であった。下肢Br.StageはKAFO時II5,III27,IV5,V1,精査不可2。全例が歩行練習を実施していた。歩行能力はKAFO時全例が介助,退院時は自立が11,監視が8,介助が21例,退院時に実用歩行を獲得した症例は22例であった。退院時に歩行自立・監視だった例の最大連続歩行距離はKAFO時17.4±16.7m→退院時552.6±401.3m,BBS平均値(中央値)はKAFO時12.9(11)点→退院時41.4(43)点。退院時に歩行介助だった例の最大連続歩行距離はKAFO時6.2±4.1m→退院時31.3±39.8m,BBS平均値(中央値)はKAFO時4.0(4)点→退院時12.9(10)点であった。【考察】発症~KAFO処方(当院では発症~KAFO使用開始)までの時期,KAFOからAFOへカットダウンまでの期間(当院ではKAFO使用期間)の平均は先行文献とほぼ同様であったが,標準偏差が大きい傾向にあった。また,カットダウン率やBr.Stage,退院時の歩行能力から,幅広い対象にKAFOを使用していたことがわかった。このことから,当院では備品としてKAFOを多数所有しているため,理学療法士が個々の症例ごとに,必要な時期に治療用としてKAFOを導入していたことが示唆された。また,実用歩行に至らなかった例が約半数であったが,立位・バランス能力を反映するBBSの得点には改善がみられており,実用歩行に至らなかったような重症例でも,KAFOを用いて立位・歩行練習を行っていたことにより一定の効果が得られていたと考える。【理学療法学研究としての意義】施設備品として装具を所有するメリットは,理学療法士が症例の機能や運動の目的に応じて装具を導入し,立位・歩行練習を行うことができる点で意義があると考える。
  • 増田 知子, 吉尾 雅春, 中山 宜久, 堀口 知彦, 松本 浩司, 山本 康一郎, 南 祐次
    セッションID: 0090
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】脳卒中片麻痺者の長下肢装具(knee ankle foot orthosis:以下KAFO)装着下の歩行トレーニングは,ほぼ介助下で行われる。そのため,種々の装具が有する特性に対応した適切な介助を加えることが重要である。Gait Solution(以下GS)は油圧による底屈制動を特徴とした足継手であり,主にヒールロッカー機能を補助する目的で用いられるが,KAFOの足継手にGSが選択されることも増えてきている。我々は臨床上,GS付KAFOを使用した歩行介助の際に,骨盤帯が進行方向へ推進しやすくなる現象を経験してきたが,KAFOにおいてはGSの機能がどのように発揮されるのか明確ではない。そこで本研究では,GS付KAFOの機械特性および歩行に及ぼす影響の調査を通し,装具の特性と介助方法の関連について検討することを目的とした。【方法】GS付KAFOに関して,1)装具への荷重試験,2)装着下での介助歩行の計測を行った。1)下肢に見立てた支柱を中心とした試験機にGS付KAFOを固定し,その踵部に油圧ユニットが底屈する方向に1歩行周期を想定した0.8Hzで10周期繰り返し荷重を加えた。その際の大腿カフによる進行方向への荷重値(カフ後面が支柱を前方へ押し出す値)をロードセル(株式会社センサーネット製LCMタイプ)で測定した。油圧ユニットの抵抗値は1,2.5,4の3条件とした。5周期分を平均化し最大荷重値を算出した。2)健常成人13名{男性8名・女性5名,平均年齢35.3(25~60)歳,身長163.2±3.3cm,体重51.9±4.5kg}を対象とし,GS付KAFOを装着して10mの平坦路をPTの介助下で歩行した。油圧ユニットの抵抗値を1,2.5,4の3条件でランダムに変更し,各条件で2試行実施した。対象者には,装具装着肢を積極的に前進させず,介助に委ねるよう指示した。全試行とも同一のPTが,骨盤帯が後退しないよう後方より介助した。歩行中はGait Judge System(川村義肢株式会社製)を用いて足関節角度,底屈トルクを計測した。また,装具装着側殿部にフォースゲージ(株式会社イマダ製DPX-5T)を取り付け,介助による殿部への荷重値を測定した。歩行開始時と終了時を除いた5歩行周期ずつを抽出し,2試行分の合計10歩行周期について,1歩行周期中の殿部への荷重最大値,底屈トルクの平均値を算出した。各対象者について,殿部荷重値と油圧抵抗値との関連を一元配置分散分析(p<0.05)および多重比較により分析した。また,その分析結果を基に対象者を後述する2群に分け,底屈トルク平均値をt検定(p<0.05)を用いて比較した。なお,計測には膝継手リングロック,足継手Gait Solution・ダブルクレンザックのKAFOを,底背屈を制限せずに使用した。【倫理的配慮】本研究は,当院倫理委員会にて承認を受けた。対象者には十分な説明を行い承諾を得た。【結果】1)大腿カフにおける最大荷重値は,油圧1で5.0N,油圧2.5で9.7N,油圧4で14.6Nであった。油圧による抵抗値が高くなるに従い,大腿カフにも高い荷重が加わっていた。2)介助による殿部への荷重値は,平均油圧1で3.9±1.1N,油圧2.5で3.6±1.0N,油圧4で3.3±0.9Nであり,13名中10名において油圧抵抗値の高さに応じて有意に減少した。その10名と残り3名とで底屈トルクの平均値を比較すると,油圧1および4の場合は10名の平均値が有意に大きかった。油圧2.5では差を認めなかった。【考察】GSの機構により,大腿カフが下肢を前方へ押し出す力が生じ,その力は油圧抵抗値に応じて大きくなることがわかった。そのため,GS付KAFOを使用した介助歩行において骨盤帯を前方へ推進させるには,油圧抵抗が小さいほどより大きな力の介助が必要であり,油圧抵抗が大きいほど軽微な力で充足すると考えられた。ただし,姿勢制御能力の不十分な片麻痺者においては,大腿部が強く押し出されることが歩行の困難さに繋がる危険性もある。よって油圧抵抗値の適応は,歩容の観察等も含め総合的に判断する必要がある。油圧抵抗値の設定により,必要な徒手的介助の量が変わり得ることを認識した上で,装具が発揮する機能を生かし,それをさらに強調したり不十分な部分を補ったりする介助を加えることが重要である。【理学療法学研究としての意義】足継手を含めた装具の特性,歩行に及ぼす影響を明らかにすることが,必要な徒手的介助の量や内容について検討する材料となり得る。装具と徒手的介助を融合させることがより効果的な運動療法の展開に繋がる可能性を有している。
  • ―全介助レベルの患者に対する胸腰椎支持部付両長下肢装具を使用した歩行練習―
    菊井 将太, 新井 秀宜, 本間 隆次, 平崎 力, 湊 哲至, 淺野 暁, 深田 光穂, 高原 利和, 出村 幌
    セッションID: 0091
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】回復期リハビリテーション(以下:リハ)病棟において2008年に質の評価が導入,2010年,2012年に改定され,より多くの重症脳血管疾患患者(以下:重症患者)の受け入れ及び改善が各医療機関に求められている。脳卒中治療ガイドライン2009では,脳卒中患者に対して十分なリスク管理を行った上で起立・歩行などの下肢の運動を増やすことが推奨されており,装具の使用も重要な治療法であるとされている。当院では,重症患者に対しても全身状態を確認した上で機能回復を目的とするだけでなく,廃用予防・改善を目的として装具を作成し積極的な理学療法(起立・歩行練習等)を行っている。患者の状態[入院時Japan Coma Scale(以下:JCS)2桁~3桁でFunctional Independence Measure(以下:FIM)18点,Brunnstrom Recovery Stage(以下:BRS)下肢I,両下肢障害を有している等]によっては胸腰椎支持部付両長下肢装具(以下:体幹付長下肢装具)を作成する場合もある。質が評価される現在において,重症患者に対するリハはより重要となってきているが,上記のような重症患者に対して廃用予防・改善を視野に入れ,体幹付長下肢装具を使用した積極的な理学療法を行った報告は見当たらない。そこで今回は重症患者に対する積極的な理学療法の効果を明らかにすることを目的に,当院に入院された3症例についてその経過を報告する。【方法】カルテを基に後方視的に検討した。(症例1)70歳代,男性,病名:脳出血,発症から入院までの日数:57日,入院時FIM18点,経管栄養管理(症例2)20歳代,男性,病名:低酸素脳症,発症から入院までの日数:34日,入院時FIM18点,気管切開あり,経管栄養管理(症例3)60歳代,女性,病名:脳出血,発症から入院までの日数:44日,入院時FIM18点,気管切開あり,経管栄養管理各症例に対し全身状態の確認を行いながら積極的理学療法(装具を用いた起立・歩行など)を実施した。リハ中止基準は日本リハ学会の基準を採用した。リハ以外にも適宜,看護師とも連携し病棟での座位練習,ベッド上及び車いす座位でのポジショニング,体交を実施した。評価指標に関しては,JCS,バイタルサイン(体温・血圧),BRS(下肢),FIM,栄養摂取方法,合併症の発生の有無及び治癒に要した日数,座位時間とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者(意思疎通困難な場合には代理人)に書面および口頭にて研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。【結果】3症例とも全入院期間で安全にリハを実施できた。理学・作業・言語聴覚療法合わせて毎日平均6-7単位実施した。3症例ともほぼ毎日1回以上,装具を使用した歩行もしくは起立のリハ(平均歩行時間30-40分,距離200-300m程度)を継続した。(症例1)[入院時/退院時]JCS[II-10/I-3],体温(℃)[36.7/36.5]・収縮期血圧(mmHg)[135/130]・拡張期血圧(mmHg)[85/79],BRS[I/I],FIM[18/25],摂取方法[経管/2食経口,1食経管],合併症発生あり(褥瘡新規発生2件・治癒までの日数平均14日),車いすにて2時間座位保持可能(症例2)[入院時/退院時]JCS[III-200/III-200],体温(℃)[37.0/36.9]・収縮期血圧(mmHg)[127/126]・拡張期血圧(mmHg)[75/75],BRS[I/II],FIM[18/18],摂取方法[経管/経管],合併症発生あり(褥瘡新規発生1件・治癒までの日数18日),車いすにて2時間座位保持可能(症例3)[入院時/退院時]JCS[II-30/II-30],体温(℃)[37.2/36.7]・収縮期血圧(mmHg)[108/113]・拡張期血圧(mmHg)[68/72],BRS[I/I],FIM[18/18],摂取方法[経管/経管],合併症発生あり(褥瘡新規発生1件・治癒までの日数13日),車いすにて2時間座位保持可能【考察】意識状態に関して症例1で改善がみられた。症例2,3ではJCSの変化はみられなかったがご家族などの呼びかけによる反応が若干改善し積極的な介入が良い刺激となったことが考えられる。FIM,栄養摂取方法についても症例1で改善がみられた。装具でのリハに関して石神らは高次脳機能障害にも好影響を及ぼすと述べ,三好は立位,歩行練習は座位に好影響を与え,嚥下機能も改善すると述べている。症例1に関しては意識状態,座位の改善も得られたため経口摂取が可能となったと考えられる。合併症に関しては,3症例で褥瘡がみられたが治療期間が非常に短期であった。これも立位・歩行練習の積極的実施が好影響を与えたのではないかと考える。重症患者へのリハは全身状態の管理及び急変に対するリスク管理が特に重要となるが,リスクを過大評価することで廃用症候群を進めてはならない。今回の結果からは重症患者に対する廃用症候群の予防・改善も視野に入れた積極的な理学療法は重大な有害事象なく実施できることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】重症患者に対して,廃用症候群の予防・改善も視野に入れ,装具を使用して積極的な介入を行った本研究の結果は単純かつ効率的なリハ戦略を提供する一助となる可能性がある。
  • ―Gait Judge Systemによる足関節運動の計測より―
    西濱 大輔, 大垣 昌之, 山木 健司, 加藤 美奈, 竹井 夕華, 坂口 勇貴, 竹下 優香, 藤本 康浩, 横山 雄樹, 冨岡 正雄
    セッションID: 0092
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】当院は脳卒中後片麻痺者に対して早期から長下肢装具(以下KAFO)歩行介入を実施している。Perryが提唱するロッカーファンクションの実現を念頭に,足継手はGait Solution(以下GS)継手を多用している。KAFO歩行介入時は,歩行中の膝ロックによる下肢モーメントアーム延長の利点を股・足関節可動に得ること,随意筋力より高い筋活動を歩行場面で得ること,ヒール・アンクルロッカーによる荷重応答期から立脚中期の重心前上方移動の運動学習を促すことを念頭に置いている。しかし,これらは適切な介助歩行が前提となる。そこで,片麻痺者KAFO歩行介助時の足関節運動を定量的に評価し,健常者のKAFO歩行と比較検討し,片麻痺者のKAFO歩行介助時の特徴を考察することで,KAFO歩行介入の理論を実践するための要点を得ることを目的として本研究を行った。【方法】対象は健常者4名(男性2名,女性2名,平均年齢27.3±7.9歳)および,当院回復期病棟入院中でGS足継手付きKAFOを使用した介助歩行を実施する脳卒中後片麻痺者9名とした(男性6名,女性3名,平均年齢70.6±12.94歳,下肢Brunnstrom Recovery StageII3名,III2名,IV4名)。健常者群(以下:健常群),片麻痺者群(以下:片麻痺群)の二群に分け,10m歩行路にてKAFO装着下での歩行速度と足関節運動を計測し比較検討した。KAFO設定は,健常者群GS油圧2.0快適独歩,片麻痺者群は歩容観察において適切と判断した油圧(3.0~2.0)設定にて担当理学療法士による介助歩行を条件とした。簡易歩行分析システム(Gait Judge System:川村義肢株式会社製)を用い,歩行中の足関節角度と加速度の計測および同期した動画を撮影した。得られた加速度の値と動画から連続する3歩行周期を任意に抽出し,平均値の算出および縦軸を角度,横軸を歩行周期(%)として足関節可動範囲と歩行時期を波形化し分析した。測定項目は,①10m歩行速度(秒),②荷重応答期の足関節最大底屈角度(以下:LR底屈),③立脚中期の足関節中間位時期(以下:MS時期%),④立脚後期の足関節最大背屈角度(以下:TS背屈),⑤足関節可動範囲(以下:可動範囲)の5項目とした。二群間比較はMann-WhitneyのU検定(p<0.05)を行い,片麻痺者群のみ5項目についてSpearmanの順位相関係数検定(p<0.05)を用いて比較検討した。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,各対象者には本研究の施行ならびに目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得た。【結果】二群間比較より,①10m歩行速度(健常群8.20±1.4秒,片麻痺群17.7±3.6秒)において有意に健常群の歩行速度が速い結果を示した(p<0.05)。その他の項目には有意差を認めなかった。②LR底屈,④TS背屈,⑤可動範囲の3項目は,各々健常群(8.0±3.1度,2.3±5.7度,10.3±5.0度),片麻痺群(6.4±4.8度,3.5±4.1度,9.9±6.1度)であった。③MS時期(%)は,健常群34.7±9.3%,片麻痺群41.4±9.3%であった。片麻痺群における項目間の相関関係は,LR底屈と可動範囲(rs=0.71)に正の相関,MS時期(%)とTS背屈(rs=-0.80)に負の有意な相関を認めた(p<0.05)。【考察】本研究の結果と正常歩行(Perry.2007)を照合すると,GS付きKAFO歩行においてLR期の足関節底屈角度は両群とも正常歩行時の底屈7度と近似した値となり,ヒールロッカー機能は実現可能であると考えられた。しかし,次のMS時期は正常歩行では20%の時点で足関節中間位をとるが,両群ともMS時期(%)は遅延していた。また,TS期の正常歩行時の背屈角度は10°に達するが,両群ともTS背屈角度が不十分であった。歩行時の足関節の可動範囲は正常歩行の約30±10度に満たないことが分かった。MS時期の遅延はKAFO膝ロックによりLR期の衝撃吸収が行えず,次のMS期アンクルロッカーファンクション(Perry.2007)を阻害していることが要因と考える。結果,MS時期(%)とTS背屈角度の負の相関に関連したと推察する。歩行効率の視点では,健常者はKAFO歩行時のMS時期(%)遅延による重心前上方移動低下に対して,歩行速度で対応していると考える。本研究より得られた片麻痺者へのKAFO歩行介入時の要点は,健常群の歩行速度でもMS時期は遅延することを念頭に,KAFO膝ロックによるLR期の後方重心への対策と,MS時期への早期到達,TS期の十分な足背屈角度の有無を考慮することである。【理学療法学研究としての意義】健常者との比較を基に,脳卒中後片麻痺者に対するKAFO歩行介入を定量的に評価し,ロッカーファンクションを考慮した歩行介助の現状と改善点を示した。KAFO使用のエビデンス構築に寄与する事は重要と考える。
  • 妹尾 浩一, 橋立 博幸
    セッションID: 0093
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】維持期脳卒中者に対するリハビリテーション効果については,通所介護施設における12か月間の介入効果や,入院リハビリテーションにおける集中的な介入効果に関する報告がなされているが,障害者支援施設におけるリハビリテーション効果についての報告は見当たらない。また,脳卒中者では発症から6か月または12か月を経過して維持期へ移行すると麻痺および機能障害の回復が停滞しやすくなると考えられているが,維持期脳卒中者における発症からの期間と介入効果との関連については十分に検証されていない。本研究では,維持期脳卒中者における障害者支援施設入所中の長期的なリハビリテーションが退所時の歩行機能に及ぼす効果を検証するとともに,介入によって改善した歩行機能と入所時身体機能または発症からの期間との関連を検討することを目的とした。【方法】障害者支援施設にてリハビリテーションを実施した32人中,入所時に歩行可能で脳出血または脳梗塞片麻痺を罹患した17人(年齢46.6±7.6歳,左/右片麻痺8/9人,下肢Brunnstrom recovery stage(下肢BRS)3/4:13/4),発症から入所までの期間(421.4±185.1日),mini-mental state examination(MMSE)24.5±6.7点,コース立方体組み合わせテスト(Kohs)63.7±40.4点,trail making test part A(TMT-A)150.2±56.7秒))を対象とした。入所中のリハビリテーションは理学療法(PT)と作業療法を各2時間,各週4回実施した。主なPT介入は,関節可動域運動,筋力増強運動,持久性運動,バランス練習,歩行練習,屋外外出練習を実施し,理学療法士が主導で行うのではなく対象者が主体的に取り組めるように内容を設定した。評価項目は入所時および退所時において,下肢BRSとともに,歩行機能について10m歩行時間(WT),timed up and go test(TUG),実用的歩行能力分類(PAS)にて評価した。PASは,歩行不能:class0から公共交通機関自立:class6までの7段階で歩行能力の実用性を評価した。統計学的解析は,入所時および退所時の下肢BRS,WT,TUG,PASの各指標についてWilcoxon符号順位和検定を用いて比較した。次に,入所時に対する退所時の各指標の変化率(%)を求め,入所時の下肢BRSおよび発症から入所までの期間とのSpearman順位相関係数を算出した。さらに,発症から入所までの期間に基づいて対象者を1年未満群と1年以上群の2群に分け,各群における各指標をMann-Whitney検定を用いて群間比較した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に基づいて概要を対象者に説明し,同意を得て実施した。【結果】入所から退所までの期間は298.8±81.8日であり,入所中のリハビリテーション実施日数は168.1±45.1日であった。入所・退所前後で下肢BRSには有意差を認めなかったが,歩行機能においては入所時(WT34.5±25.6秒,TUG37.3±28.0秒,PAS2.7±0.7)と比較して,退所時(WT26.1±16.1秒(変化率28.7±28.9%),TUG30.0±19.2秒(変化率25.9±35.0%),PAS4.1±1.3(変化率50.0±27.0%))ではいずれも有意な向上が認められた。また,歩行機能の変化率と入所時下肢BRSまたは発症から入所までの期間との間には有意な相関は認められなかった。さらに,発症から入所までの期間1年未満群と1年以上群の比較では,歩行機能(WT,TUG,PAS)の変化率,入所時の下肢BRS,高次脳機能(MMSE,Kohs,TMT-A)のいずれも有意な群間差は認められなかった。【考察】障害者支援施設に入所した維持期脳卒中者に対して平均168.1日のリハビリテーションを実施した結果,入所時と比較して退所時におけるWT,TUG,PASが有意に改善し,12か月間の運動介入により歩行機能が有意に改善したという先行研究を支持する結果となった。本研究では16時間/週の介入を実施したが,維持期脳卒中者においても集中的にリハビリテーションを実施することによって歩行機能および歩行自立度を向上できる可能性があり,これまでに推奨されているエビデンスに基づいて練習量をより多くすることが維持期脳卒中者の歩行機能改善においても重要であると考えられた。また,歩行機能の変化率と発症から入所までの期間または入所時下肢BRSとの間には有意な相関は認められず,脳卒中発症から6か月以上1年未満の群と1年以上の群で歩行機能改善の有意な群間差がなかったことから,発症からの期間や介入開始時の運動麻痺によって必ずしも歩行機能改善効果の程度が決定されるとは限らないと推察された。【理学療法学研究としての意義】障害者支援施設において,維持期脳卒中者に対するリハビリテーション介入をより多くの練習量にて積極的かつ長期的に実施することで,維持期であっても歩行機能改善効果が得られる可能性があることを示した。
  • 内山 恵典, 田中 正宏, 新津 雅也, 久保 光正, 藤田 大輔, 塚野 未来, 満冨 一彦
    セッションID: 0094
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】脳卒中の理学療法は,脳卒中ガイドラインの普及にしたがい,臨床現場においてエビデンスを重視するようになってきた。当院においても,データベースという考えの基にNational Institute of Health Stroke Scale(以下NIHSS)やBarthel Index(以下BI)などの画一的な評価を義務化し,介入方法の検討や組織の方針決定に利用しようとしている。しかし,脳卒中という疾患が,突如として麻痺や言語障害,食事摂取困難などの劇的な症状が出現し,患者のQuality Of Life(以下QOL)が著しく低下するという,画一的ではない事情を含んでいるものと捉えられる。QOLは個人の生活や価値観に大きく関わり,画一的な理学療法評価とは別に評価されるべき部分であると考えられる。また,意識や言語障害などで自分の意思表示ができない患者にとって,医療スタッフが患者の状況を認識し,リハビリテーションのゴール設定を行うためには,画一的ではない部分を主観的に判断せざるを得ない部分が生じる。本研究の目的は,QOLに影響を及ぼす主観的な評価となるGroval Rating of change scale(以下GRC)が脳卒中の機能的側面や日常生活動作の能力的側面との関係性があるかを明らかにすることである。また,患者だけでなく,理学療法士(以下PT)の主観的な評価についても調査し,画一的な理学療法評価のみに留まらない側面を明らかにすることである。【方法】対象は,脳卒中にて当院へ入院し,理学療法を施行した患者で,退院時にGRCが聴取可能であった者(n=80)とした。データは2013年6月から10月までの脳卒中患者に対してデータ収集しているデータベースから,後方視的に取得した。取得したデータは,患者から聴取したGRCの他,脳卒中の重症度を機能的な側面から判定するものとしてNIHSS,日常生活動作の能力的側面の評価としてBI,GRC評価をPTが行ったGRC(以下GRCth)とした。なお,GRCの評価は,-3~3の7段階評価とし,下位から順に,入院時と比較して「はるかに悪くなった」「少し悪くなり,生活に影響する」「少し悪くなったが,生活に影響しない」「ほぼ同じ」「少しは良くなったが,生活に意義はない」「少しは良くなり,生活に意義がある」「はるかに良くなった」としている。検討については,GRCおよびGRCthとNIHSS,BIの各項目または合計点との関係性について統計学的分析を行った。そして,GRCとGRCth,理学療法介入時と退院時のNIHSS,BIについては差について検討した。統計学的分析として,R2.8.1を使用し,各変数の関係性の検討には分布に応じてピアソンまたはスピアマンの積率相関分析を用い,GRCとGRCthの差の検定にはフリードマンの順位和検定,理学療法介入時と退院時のNIHSSおよびBIの差には対応のあるt検定を用いた。検定における有意確率は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り,当院の倫理規定および個人情報取り扱い規定を順守し,全て匿名化したデータを用いることで対象者への影響がないように配慮した。【結果】対象者の属性は,年齢が平均69(±15)歳,退院時NIHSSが平均3.54(±6.21)点,改善の差は平均1.42(±4.13)点,退院時BIの平均が76点(±30.72)点,改善の差は平均28.56(±26.61)点,GRCの平均は1.52点(±1.14点),GRCの平均は1.56点(±0.95点)であった。対象者の転帰については,自宅が46人,転院が34人であった。統計学的検討の結果は,GRCおよびGRCthとNIHSS,BIの各項目または合計点との関係性は全項目で相関関係がなかった。また,GRCとGRCthとの差はなかった。理学療法介入時と退院時のNIHSSおよびBIの差は有意差あり(p<0.05)との結果となった。【考察】結果の解釈としては,まず対象者の属性から,GRCが聴取でき,NIHSSやBIの評価結果,自宅退院数からすると,対象者が軽症の者に限局されていることが見てとれ,対象者の特性として考慮する必要があった。そして,NIHSSおよびBIは有意な改善が示されているにも関わらず,GRCやGRCthとNIHSSおよびBIで関係性が見られない。以上より,機能的,能力的側面の改善が必ずしも主観的側面に影響を与えないものと解釈された。つまり,他覚的側面とは別に主観的側面が存在するということになる。また,患者とPTの主観的評価に差がないことからすると,PTが患者像を捉えるにあたり,PTの主観的側面も評価の一部として取り入れられる可能性があるものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果を受け,脳卒中患者には意思疎通の困難な者も多く存在するため,PTの感覚的指標も他覚的・画一的評価に加えて必要であると考える。これら患者やPTの主観的な評価を含めたエビデンスの構築が理学療法の更なる発展に寄与するものと考える。
  • 骨盤外計測法を用いて
    寺尾 貴史, 古谷 育子, 平井 二郎
    セッションID: 0095
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】重症心身障害者(重症者)は四肢拘縮,脊柱側彎など身体的変形の発生頻度が高く,それらの状態に対してさまざまな評価が試みられている。しかし骨盤に対して変形の指標となる評価方法は少なく視診あるいは触診での主観的評価であることが多い。今回骨盤変形に対して体表面からの計測および評価を試みたので報告する。【方法】対象は当院に入院する重症者42名(男性22名,女性20名)。運動機能は全員実用的な寝返りが不可能なレベル。骨盤の長さの計測にはブライスキー骨盤計(アトムメディカル社製)を使用し,骨盤の評価は産婦人科検査法の骨盤外計測を基準として被検者の骨盤計測を試みた。骨盤外計測法とは皮膚の上から骨盤の一部分を触知し,その2点間の直線距離を測定するものである。この方法を基準にして【1】左右の上前腸骨棘の距離(前棘間径)【2】左上前腸骨棘と右上後腸骨棘との距離(第1外斜径),逆は第2外斜径【3】一側の上前腸骨棘から同側の上後腸骨棘までの距離(側結合線)【4】左右の上後腸骨棘の距離(後棘間径)を計測した。測定方法は各骨棘上の皮膚にペンでランドマークし,その部位に骨盤計を当てて測定を行った。測定姿位は前棘間経の測定では背臥位とし外斜経,側結合線,後棘間経の測定では側臥位とした。上記の方法で得た【1】~【2】の測定値から骨盤の開き,骨盤の幅,左右のねじれの角度を算出した。算出方法は測定部位である各骨棘を右上前腸骨棘(A),左上前腸骨棘(B),右上後腸骨棘(C),左上後腸骨棘(D)としAB間の辺を(l),AD間を(m),BC間を(n),CD間を(o),AC間を(p),BD間を(q)とした。測定値l~qの6辺の長さ(四面体の辺長)より余弦定理を用いて左右の骨盤の開き(∠ACD,∠BDC)を求めた。骨盤の幅はCからABへの垂線CEを右幅としDからABへ垂線DFの長さを左幅とした。また骨盤のねじれは平面ABDと平面ABCの角度を求め2つの平面の間の角度を余弦定理を用いてねじれの角度θとした。【倫理的配慮,説明と同意】評価は臨床業務の中で行い,今回の学会発表のための臨床データの使用に関しては養育者に説明を行い同意を得た。【結果】骨盤の開きを左右対称とした場合の左右の開きの角度差を0°とした時に,24名の骨盤の開きには21±11°の左右差が認められた。骨盤の幅は42名の平均で右幅11±1.2cm左幅は11±1.1cmとなり,5名で骨盤の幅に1.4±0.3cmの左右差が認められた。ねじれの角度は28名の平均が12±5°となった。残りの14名のねじれの角度は計算が不可能であった。【考察】測定結果から骨盤の開きでは一側の骨盤の開きの角度より他方の骨盤の開きの角度が減少または増加した角度となった重症者が半数以上にみられ,左右の骨盤形状に変形が見られると推測できた。また左右の骨盤の幅はあまり差が見られなかったが,側結合線の長さが一般成人より重症者の方が短い症例が多く腸骨自体の発達が不十分であると考えられた。骨盤ねじれの角度については,仙腸関節の関節変形,腸骨の未発達などにより左右の腸骨にねじれの変形が生じたと推測できるが,この角度計算については計算式に代入してもエラーになる症例がみられた。これは,測定姿位を測定部位によって体位を変える時に体表面のランドマークが皮膚の動きによりズレが生じることにより,距離の誤差が出てしまい計算に必要な長さが不足することで,エラーとなった可能性が高いと推測された。このことから測定の正確さを検討する必要があると考える。上記の考察から骨盤変形の形状は左右差型とねじれ型などに分類して,客観的な骨盤変形の情報を共有できる可能性があると考える。【理学療法学研究としての意義】山口らは骨盤は姿勢の要であり,座位時にはまず骨盤を床と並行に位置させることが姿勢づくりの基本であると述べており骨盤自体が変形している場合の対応を含めて評価していくことは重要であると考える。骨盤変形に対して計測および評価を行うことは今後の姿勢づくりに,新たな方法を生み出す一つの材料になると考える。
  • 橋立 博幸, 澤田 圭祐, 浅野 克俊, 嶋崎 聡美, 鈴木 友紀, 千葉 美幸, 笹本 憲男
    セッションID: 0096
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,発症後6か月以上の維持期脳卒中者に対する訪問リハビリテーション(訪問リハ)の介入効果が報告されてきているが,発症後6か月未満の脳卒中者に対する在宅での訪問リハの長期介入効果については十分に検証されていない。本報告の目的は,30か月間の訪問リハを実施した脳梗塞両片麻痺者の症例の経過をとおして,訪問リハが基本動作能力および介護負担に及ぼす長期的な効果を検討することとした。【症例,検討方法】69歳,男性,糖尿病(透析治療)・左眼失明の既往あり,平成22年12月に脳梗塞両片麻痺を発症した。入院後,医師より予後について機能改善困難と診断され,症例本人の希望から日常生活動作(ADL)全介助レベルの状態で自宅退院したが,家族介護者の介護負担が課題となり要介護5にて平成23年5月より3回/週,40分/回の訪問リハを開始した。訪問リハ開始時は,左右Brunnstrom recovery stage(BRS)上肢・手指IV,下肢II,両上下肢ともに遠位筋群に比べて近位筋群および体幹筋群の筋緊張に低下がみられ,左右上下肢に中等度以上の表在感覚・深部感覚の感覚鈍麻があった。基本動作能力はBedside mobility scale(BMS)0/40点,Functional independence measure運動項目(FIM)18/91点,Zarit介護負担尺度短縮版(ZBI_8)27/32点であった。訪問リハは家族への介護方法の指導と併せて動作練習を中心に実施し,起居・座位練習から開始して可能であれば起立・立位練習へ漸増的に進展し,介助にて立位が可能になり次第できるだけ早期から歩行練習を実施した。血圧コントロールが不良で最高血圧が120-200mmHgの間を推移し,疲労感が頻繁に出現し日間変動がみられたため,介入時に留意してリスク管理しつつ介入内容を随時調整した。経過を追跡するために訪問リハ開始から3か月ごとにBMS,FIM,ZBI_8を用いて評価するとともに,3か月ごとの訪問リハの累積実施回数を算出し,基本動作および介護負担の改善と訪問リハ介入の関連を調べるために各指標間の相関関係についてSpearman順位相関係数を用いて分析した。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,訪問リハの概要およびデータの学術的利用について,対象者および家族に対して説明し同意を得た。【経過,解析結果】平成24年4月までの1年間で月平均12.7回,計152回の訪問リハを実施した結果,右BRS上肢・手指IV,左右BRS下肢IV,寝返り・起き上がり・座位保持が自立,BMS26点,FIM40点へ改善したが,ZBI_8は25点であった。平成24年7月より軽度支持介助での歩行器歩行が可能となり,平成24年10月では自宅内で家族介護者の見守りでの歩行器歩行が可能となるとともにZBI_8が21点へと改善した。また,平成25年4月までの2年間で月平均12.5回,計301回の訪問リハを実施した結果,移乗動作が見守りで可,支持介助での4点杖歩行が可となり,BMS33点,FIM51点へ向上するとともにZBI_8が15点へと改善し,これらの成績は平成25年10月まで維持した。訪問リハ開始以後3か月ごとに合計10回評価した各指標間のSpearman順位相関係数を算出した結果,訪問リハ開始から3か月ごとに評価したBMS,FIM,ZBI_8の経過と訪問リハおよび基本動作練習の累積実施回数との間に有意な高い相関が認められた(BMS:0.966,FIM:0.963,ZBI_8:-0.934)。また,訪問リハ開始から3か月ごとのZBI_8の経過とBMSまたはFIMの経過との間に有意な高い相関が認められた(BMS:-0.907,FIM:-0.910)。【考察】本症例は訪問リハ開始時においてADL全介助レベルであったのに対して,訪問リハ開始2年後ではADL自立または一部介助レベルへ改善した。本症例は,血圧コントロール不良,疲労感の頻発があり,訪問リハ介入に制限を伴いやすかったが,介入内容を調整するとともに,動作の改善に合わせて練習水準を前向きに漸増することによって緩やかな動作練習効果が得られたと推察された。また,BMS,FIM,ZBI_8の経過と訪問リハまたは各基本動作練習の累積実施回数との間に高い相関が認められたことから,通常,回復期と考えられる在宅の脳卒中者においても訪問リハの継続的な介入によって回復期から維持期にかけて日常生活動作および介護負担の長期的な改善が得られる可能性があり,十分な介入量を確保することが重要であると考えられた。とくに,各指標の改善経過と相関分析の結果から,起立・立位・移乗動作と歩行を中心としたADLの改善が家族介護者の介護負担軽減に大きな影響を及ぼすと推察された。【理学療法学研究としての意義】ADL全介助レベルで自宅退院した脳卒中者において,在宅での回復期とも言える時期から継続的に訪問リハを実施することによって長期的な日常生活動作能力向上と介護負担軽減が得られる可能性を示唆した。
  • 山口 順子, 三谷 祐史, 曽野 友輔, 井澤 大樹, 宮嵜 友和, 細江 浩典, 服部 誠
    セッションID: 0097
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】急性期病院から回復期リハビリテーション(以下,リハビリ)病院を経由して在宅へ至る道筋として地域連携クリティカルパス(以下,地域連携パス)が打ち出されている。脳卒中の地域連携パスは2007年の医療法改正で定められた。近年では各地域での地域連携パスの導入結果が報告されている。当院でも2008年から脳卒中の地域連携パスを使用している。今回,急性期病院の立場から,回復期リハビリ病院へ転出した患者の機能予後や転帰を検証し,既に報告されている他の地域と比較しその差異について検証することを目的とした。【方法】対象は2012年1月から2012年12月の1年間に当院でリハビリを施行し,脳卒中地域連携パスを用いて回復期リハビリ病院へ転院し,回復期リハビリ病院からパスを回収できた259名とした。今回,回復期リハビリ病院を退院後に,回収された地域連携パスを後方視的に調査した。調査項目は各病型における年齢,当院ならびに回復期リハビリ病院の在院日数,回復期リハビリ病院の入退院時FIM得点とし,FIM利得(退院時FIM―入院時FIM)とFIM効率(FIM利得/入院日数)を算出した。また,当院退院時の嚥下障害の有無,回復期リハビリ病院からの自宅復帰率を算出した。これらのデータを全国回復期リハビリ病棟連絡協議会の年次報告のデータと比較した。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に則り実施した。地域連携パスの運用ならびにデータ解析には,対象者および家族に本研究の主旨を説明し書面にて同意を得た。【結果】対象患者は259名(男性137名・女性122名)であり,平均年齢は73.1±12.3歳(32~95歳)で,発症病型は脳梗塞154名,脳出血85名,くも膜下出血(以下,SAH)20名であった。当院の平均在院日数は全体では30.8±16.2日,脳梗塞28.5±14.9日,脳出血30.4±13.8日,SAH 51.0±21.2日,回復期リハビリ病院の平均在院日数は全体では67.5±45.2日,脳梗塞70.2±49.5日,脳出血63.3±33.4日,SAH 64.6±54.1日であった。回復期リハビリ病院入院時の平均FIM得点は全体では70.3±31.2点,脳梗塞74.4±30.1点,脳出血65.0±31.9点,SAH 62.1±29.0点,回復期リハビリ病院退院時の平均FIM得点は全体では85.1±34.5点,脳梗塞87.6±33.1点,脳出血81.6±36.5点,SAH 80.1±36.5点であった。また,FIM利得は全体では14.9±17.4点,脳梗塞14.9±17.0点,脳出血14.9±18.2点,SAH 14.4±17.7点,FIM効率は全体では0.23±0.36,脳梗塞0.24±0.30,脳出血0.21±0.36,SAH 0.24±0.69であった。当院退院時に嚥下障害があるものは全体で37.8%,脳梗塞33.8%,脳出血44.7%,SAH40.0%であった。自宅復帰率は全体で52.1%,脳梗塞57.1%,脳出血44.7%,SAH 45.0%であった。【考察】2012年度全国回復期リハビリ病棟連絡協議会の年次報告のデータでは回復期リハビリ病院入院までの平均日数は36.3日,回復期リハビリ病院平均在院日数89.4日,回復期リハビリ病院入院時FIM得点は68.4点,退院時FIM得点は85.8点,平均FIM利得17.4点,平均FIM効率0.2,自宅復帰率67.8%と報告されている。本研究では,回復期リハビリ病院入院までの日数は同等だが,回復期リハビリ病院の在院日数が短かった。また,回復期リハビリ病院入院時のFIM得点が高値だった。一方ではFIM効率には差がみられなかった。このことから回復期リハビリ病院入院時のFIM得点の高さが,在院日数の短縮に関係している可能性がある。これは当院から回復期リハビリ病院に転院する患者が全国平均よりも良好なADLであることを示す。この理由の一つに,当院の他職種間カンファレンス開催の影響を考えた。カンファレンスでは,患者の現状や回復期リハビリ病院が適応か否かについて検討をし,適応でないと考えられた患者は直接介護転院となることがある。よって,当院から紹介する時点で,回復期リハビリ病院の適応になりにくい重症者は転院していない可能性がある。【理学療法学研究としての意義】地域連携パスを用いることで患者は急性期から回復期リハビリ病院へ至る一貫した治療を受けられるといわれる。そのため,地域の特徴を理解し,地域連携パスに必要な情報を明示できるようにすることは,急性期,回復期ともに良質な理学療法を展開するために必要だと考える。
口述
  • ―短期効果に着目して―
    丸山 翔, 伊藤 千晶, 安藤 道晴, 若山 佐一
    セッションID: 0098
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,注意の向け方により新しく獲得する運動過程に大きな影響を与える可能性が示唆されている。注意とは「意識の焦点化と集中」と定義され,学習者の能動的な注意をどのような対象に向けるかという注意の焦点をいう。従来,運動学習の過程において,一つ一つの身体部位(以下 身体内部)の動きに注意を払いながら運動を行うことが大事であった。このように意識的に運動を制御する過程が,歩行のような自動的な運動を獲得するために必要な過程だと考えられていた。つまり,言語教示を与える際に,自身の身体内部に対し注意を向けるInternal focus of attention(以下IF)が有効だと考えられていた。しかし,Wulfら(1998)は注意の焦点を自身の身体と接するものなどである身体外部,外部環境に対し向けるExternal focus of attention(以下EF)の方がIFに比べて運動学習の効果が高く,自動性を高めると述べている。これは,従来の考えとは異なる見解である。また,先行研究の多くはスポーツスキルの学習で検証しているものが多く,理学療法分野で検証している先行研究はほとんど見つからなかった。そこで本研究の目的は,理学療法分野において,言語教示により注意の向け方を変えることで動的バランスを獲得していく運動学習の過程にどのような影響があるのか比較・検証することとする。【方法】対象者を若年健常者39名(男17名,女22名,年齢23±1.93歳)とし,ランダムに,control(以下CON)群15名,IF群12名,EF群12名の3群に群分けした。同一の課題を3群で実施し,群によって異なる言語教示を行った。運動課題は,動的バランスを測るY Balance Test(以下YBT)を測定した。指示内容は,対象者に課題を実施してもらう際に,CON群には注意に関する口頭指示は与えず,IF群には身体に注意を向けるような口頭指示を与え,EF群には外部環境に注意を向けるような口頭指示を与えた。測定回数は,初回1回,練習5回,保持テスト1回の計7回とした。YBTとは,立位で下肢を3方向(前方・後方外側・後方内側)にどれくらいリーチできるかを測るバランステストである。方法は,開始肢位を直立姿勢とし,リーチする下肢を浮かせながら目的方向へのばし,浮かせたまま直立姿勢に戻る。その時のリーチ距離を測定する。この動作を3方向各々に実施してもらう。3方向の総合値をYBTの計算式に沿って数値化する。計算式は以下の通りである。{(前方リーチ距離+後方外側リーチ距離+後方内側リーチ距離)/(棘果長×3)}×100初回と保持テストでの変化量を比較した。統計は,群間比較はTukeyの検定で解析し,その後effect sizeを求めrと表記した。有意水準はp<0.05とした。統計ソフトは,SPSS16.0Jを使用した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属施設の倫理審査規定に基づき,書面および口頭にて説明し,同意を得て行った。【結果】群に対する多重比較法の結果,CON群とEF群で有意差あり(95%CI:5.07-13.52,r=0.75 large effect size)。IF群とEF群で有意差あり(95%CI:0.75-9.65,r=0.68 large effect size)。CON群とIF群では有意差なし(95%CI:-0.13-8.32,r=0.49 medium effect size)。【考察】注意の向け方により,健常者の動的バランスにどのように影響するかCON群,IF群,EF群で比較した。その結果,EFの有利性が示唆された。EFの言語教示により,EF群の方がCON群と比較し有意に学習効果があった。これは,先行研究での,EFは運動の制御過程への意識的な干渉を少なくし,自動的な運動制御を促進するという考えを支持する結果となった。IF群とCON群とでは,結果に有意な差が見られなかった。今回,IF群は言語教示により適切な身体内部の動きを獲得したことによりCON群に比べ学習効果が得られやすいと考えていた。しかし先行研究にて,IFのように運動の制御過程に意識的に介入すると自動的な運動を妨害することが示唆されている。その結果,IF群では自動性が阻害され学習効果が打ち消し合ってしまったと考えられる。CON群に関しては,適切な身体内部の動きを獲得できず,無意識にIFで運動制御をしてしまうため,学習効果が得られにくいと考えられる。今後は,測定日から1ヶ月後に保持テストを実施し,長期でもEFの学習効果が永続されているかも含め,検証していく。【理学療法学研究としての意義】臨床場面では,IFによる言語教示が多いように思える。そこで,先行研究に基づき言語教示をIFからEFに変えることでパフォーマンスが向上するのであれば,理学療法の治療において今までにない切り口になり,臨床的な介入の効果を向上させる可能性がある。
  • 大西 秀明, 菅原 和広, 小島 翔, 宮口 翔太, 椿 淳裕, 山代 幸哉, 佐藤 大輔, 桐本 光, 田巻 弘之, 白水 洋史, 亀山 ...
    セッションID: 0099
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】正中神経などの末梢神経を持続的に電気刺激することにより大脳皮質感覚運動領域の興奮性を変動させることができるが,刺激パラメーターに影響されてその効果が変動する(Andrews et al, 2013;Chipchase et al, 2011)。一方,末梢神経刺激により誘発される体性感覚誘発脳磁場(Somatosensory evoked magnetic fields:SEF)は,テスト刺激前の条件刺激に応じて変動することが明らかになっているが(Lim et al, 2012),条件刺激の刺激回数や周波数などの刺激パターンがSEF波形にどのような影響を及ぼすのかは不明である。そこで,末梢神経刺激による効率的な皮質可塑的変化誘導法を開発することを最終的な目標として,短時間電気刺激列が正中神経刺激により誘発されるSEF波形に及ぼす影響を明らかにすることを本研究の目的とした。【方法】健常成人男性8名(27.5±9.0歳)を対象として,306ch脳磁計(Vectorview,Elekta)を利用し,右正中神経刺激時のSEFを計測した。電気刺激の強度は全て90%運動閾値(MT)として,次の4条件を4.5秒から5.5秒に1回の頻度でランダムに与えた。条件1)試験刺激の450msから550ms前に条件刺激として1発の電気刺激を実施。条件2)試験刺激の450msから550ms前に条件刺激として10Hzで6発の電気刺激を実施。条件3)試験刺激の450msから550ms前に条件刺激として100Hzで6発の電気刺激を実施。条件4)試験刺激のみ(コントロール)。各条件で50回以上の加算平均処理を行い,得られたSEF波形から等価電流双極子(ECD)およびECDモーメントを算出した。また,算出されたECDモーメントが顕著であったピーク潜時とピーク値を各条件間で比較した(Tukey HSD)。【倫理的配慮,説明と同意】本実験を実施するにあたり所属機関の倫理委員会にて承認を得た。また,被験者には書面および口頭にて実験内容を説明し実験参加の同意を得た。【結果】試験刺激のみ(条件4)のECDモーメントは,刺激後21.9±1.6 ms(N20m),33.8±2.7 ms(P35m),68.3±10.1 ms(P60m),152.3±43.5ms(N150m)に顕著な値を示したが,各成分のピーク潜時は条件間で有意な差は認められなかった。ECDモーメントのN20mの値は12.5±5.7 nAm(条件1),12.9±3.6 nAm(条件2),11.7±4.8 nAm(条件3),12.6±4.8 nAm(条件4)であり,条件間で有意な差は認められなかった。P35mの値は19.2±13.1 nAm(条件1),15.9±9.6 nAm(条件2),16.1±8.3 nAm(条件3),21.3±12.7 nAm(条件4)であり,条件2では条件4に比べて有意に小さい値を示した(P<0.05)。P60mの値は34.2±13.6 nAm(条件1),31.1±10.6 nAm(条件2),36.2±13.4 nAm(条件3),39.6±11.6 nAm(条件4)であり,条件2では条件4に比べて有意に小さい値を示した(P<0.05)。N150mの値は14.6±8.4 nAm(条件1),12.1±5.6 nAm(条件2),11.6±5.2 nAm(条件3),14.6±6.8 nAm(条件1)であり,条件間で有意な差は認められなかった。【考察】先行研究と同様,いずれの条件においてもN20m,P35m,P60m,N150mが明確に観察された。また,試験刺激より約5秒前に与えられた運動閾値以下の刺激強度で構成した短時間の条件刺激の有無や条件刺激の種類に影響されずに,各成分のピーク潜時は変動しないことが確認された。一方,皮質活動量を示すECDモーメントはP35mおよびP60mにおいて試験刺激より約500ms前に与えた10Hzの6発刺激によって減弱することが明らかになった。この結果は,4 Hzの3発刺激を与えた際の我々の先行研究の結果と同様であった(第43回日本臨床神経生理学会)。高頻度高強度で神経を刺激することによりシナプス長期増強が認められるため,100Hzの6発刺激の条件ではP35mまたはP60mが増大するのではないかと予測していたが,著明な変化を導くことはできなかった。これは,刺激強度が運動閾値以下であったことと,刺激回数が6発のみであったことなどが影響しているのではないかと考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究結果は体性感覚刺激による皮質感覚運動領域の可塑的変化誘導法を開発するための一助になると考えられる。
  • 竹林 秀晃, 滝本 幸治, 奥田 教宏, 宮本 謙三, 宅間 豊, 井上 佳和, 宮本 祥子, 岡部 孝生, 小松 祐貴
    セッションID: 0100
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】近年,運動イメージの研究が進み,理学療法における評価・治療に応用することが期待されている。運動イメージの評価方法には,心的時間測定法(Mental Chronometry:MC)や心的回転(Mental Rotation),最大一歩幅などの動作の見積り誤差を用いる方法,VMIQなどの質問紙法を用いる方法,統御可能性テストなどがある。本研究では,運動イメージにおける時間的一致性を評価できるMCに着目した。MCにおける過去の報告では,Decetyらは,10m歩行時の実際歩行と心的歩行とでは1秒前後の誤差であると報告している。一方,高齢者では,若年者と比較して時間的不一致が報告されている。この時間的不一致は身体の誤認識と解釈でき,転倒との関連性も報告されている。MCは,加齢により低下することは報告されているが,身体運動の空間的要素や身体能力との関連に着目したものは少ない。そこで今回,10m歩行動作のMCにおける加齢による特性と高齢者にけるMCと身体能力との関係性を探ることを本研究の目的とした。【方法】対象は,20歳代の若年成人50名(若年者群:男性32名,女性18名,22.4±2.3歳)と自立した生活をしている地域在住高齢者104名(高齢者群:男性11名。女性93名,76.5±6.9歳)とした。運動課題は,10m平地自由歩行とした。MCの計測は,椅坐位開眼で10m先にあるカラーコーンまで歩行するイメージ課題をストップウォッチにて対象者本人が計測した(心的歩行)。その際に,歩数の計測も求め,空間的要素の評価も追加した。実際の歩行時間は,ストップウォッチを用いて実際に10m自由歩行遂行時間と歩数を検査者が計測した(実際歩行)。また,高齢者に対しては,運動機能評価として膝関節伸展筋力,開眼片足立位時間,Timed & Up Go Test,Ten Step Test(TST:敏捷性検査),10m努力歩行を計測した。若年者と高齢者の心的歩行と実際歩行の時間と歩数の絶対誤差は,unpaired t test用いて検討した。MCの特性を見出すため若年者・高齢者の心的歩行と実際歩行の時間と歩数の相対誤差をχ2検定を用いて検討した。また,心的歩行と実際歩行の時間差・歩数と各運動機能評価との関係性は,重回帰分析を用いて検討した。【説明と同意】実験プロトコルは,非侵襲的であり,施設内倫理委員会の承認を得た。対象者には,研究の趣旨を説明し,紙面上で同意を得た。【結果】心的時間と実際時間の絶対誤差は,若年者(1.5±2.4秒),高齢者が(3.4±3.7秒)で,心的歩数と実際歩数の差では若年者(1.4±1.2歩),高齢者(5.4±4.5歩)であり,有意に高齢者で高値を示した(p<0.001)。また,若年者・高齢者における心的歩行と実際歩行の時間差・歩数差の相対誤差は,若年者・高齢者共に心的時間が延長する者が多かったが(p<0.05),若年者・高齢者における違いは認められなかった。歩数差は,若年者では一致する者が多く,高齢者では実際歩行で歩数が多い者が有意に多かった(p<0.05)。重回帰分析の結果は,時間差とTSTと10m努力歩行で有意な相関が認められた(r=0.39,0.49,p<0.01)。【考察】本研究の結果から若年者より高齢者の方が,時間不一致性と歩数差が大きく,加齢により運動イメージ想起能力が低下していることが示唆された。また,高齢者では半数以上の者が,心的時間の方が延長し,実際歩数が多くなっている事から,イメージした歩数よりも多く,歩幅がイメージよりも短い事を示している。これは,加齢に伴い身体図式や身体機能が衰えた事が,原因だと考えられる。一方,反対に心的時間よりも速く,歩数も少ない事は身体能力が高い事が考えられるが,結局はイメージと実際歩行との誤差を示しており,自己身体の誤認識と解釈でき,身体を上手く制御出来ていない事を示唆している。また,心的時間と実際時間の絶対誤差とTSTと10m努力歩行において有意な相関関係が認められた。筋力やバランス要素には相関関係はないことからMCには,複合的かつ努力性の高い側面が要求される動作能力が反映される可能性がある。しかし,MCによる時間一致性だけでは,空間的・系列的要素を反映していないため正しい運動イメージが出来ているとは判断し難い。そのためいくつかの運動イメージ評価方法を組合わせたり,継続的な評価が必要であると考えている。【理学療法学研究としての意義】時間不一致性だけでなく,心的歩行と比較して実際歩行における歩数の減少(歩幅の減少)という空間的要素も確認した。また,MCにおける時間不一致性と努力性の高い動作との関連が高いことは,身体制御の要素をより反映していることを示唆している。これらのことは,高齢者への身体トレーニングに加え,運動イメージを組み合わせた身体評価・トレーニングの重要性を示す根拠になる。
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