水銀の毒性は古くから知られていたが、1950−1960年代に日本では水俣病の発生により、特に有機水銀(メチル水銀)の生物濃縮や人の中枢神経系などに対する強い毒性が明らかになった。そのため、日本では水銀の使用量は減少してきたが、世界的にはアジア諸国の経済成長などにより需要は拡大しており、水俣病に似た問題も発生している。そこで、世界レベルでの環境保全の観点から水銀に関する水俣条約が2017年に発効し、水銀の使用や大気・水・土壌への排出を包括的に規制しようというトレンドである。大学等でも水銀含有試薬や必要な水銀含有製品の適正な管理や使用、および不要な水銀含有製品や水銀系廃棄物の適正処理など環境負荷低減に資する取り組みが求められる。そのためには水銀の特性や毒性、水銀の取り扱いに関する正しい知識、精確な水銀分析技術や処理技術、並びに水銀汚染への対処法などが重要である。 ここでは、水銀の定量分析法の変遷、ヨウ化物の干渉なしの2つの微量水銀分析法、および大学の実験室などで水銀汚染が発生した場合の水銀除去法などについて解説する。
アジア太平洋地区における中等学校NST(原子力科学技術)教育の最近の動向を紹介した。IAEAはNST人材育成に関する技術協力プログラム(同地区における中軸教員を育成し、地域の標準的なNST教育カリキュラムの策定を目指す。第Ⅰ期2012~2016年、第Ⅱ期2018~2021年)を主催している。併せて、このプログラムにおける日本の役割と、著者らTeam JAPANが現在取り組んでいる関連の研究開発状況を紹介した。フィリピン、インドネシア、マレーシア、タイ、スリランカ、ヨルダン6か国における公式パイロット活動からのフィードバックを活かし、Team JAPANは独自にさらなる教育ツール、モジュールの開発に視野を広げている。大視野ペルチェ冷却式霧箱、教育用次世代型環境放射線サーベイメータ、教育用工作式簡易放射線計数管、自然物質を材料とした放射線源、等が主な開発事例である。学校現場に適した教育用ツールや放射線源を、どのように入手し、上手にかつ安全に扱うかが、今後の重要な検討課題となろう。
大学における障害者雇用の推進は、大学の社会的責任を果たすためだけでなく、多様な視点に基づく安全なキャンパスの構築や、業務の効率化のためにも重要である。2021年には法定雇用率が引き上げられることも決定しており、障害を有する職員の業務内容の拡張や、やりがいのある職場作りが求められるが、一方で安全な職場環境の確保には課題がある。本研究では、大学における障害者雇用の現場での安全管理の現状について、3つの国立大学法人及び名古屋大学に対してヒアリング調査を行った。また、名古屋大学内で発生した事故・災害等の事例の分析を行った。これらの結果を元に障害者への安全教育を実施した。障害者の職域の拡大のための取り組みとして、従来技術職員が行っていたパソコン操作を伴う業務を新たに依頼し、十分な実績を上げている。これらの取り組みにより、大学をより安全で魅力的な職場とすることに貢献できたと考えている。