Streptococcus gordoniiは歯面初期定着細菌としてプラークバイオフィルム形成の促進に関与し, う蝕や歯周病といった口腔感染症の誘発に深く関わるとともに, 細菌性心内膜炎などの全身疾患との関連が示唆されている細菌である. 本研究では
S. gordoniiの菌体表層に局在するnucleaseの分子生物学的解析について報告する.
S. gordonii ChallisのゲノムデータベースからLPXTG motifをもつタンパク質を検索し, その1つがnuclease (Nuc) ホモログであることを見出した. このnuclease遺伝子 (
nuc) は2,340塩基対で, 780アミノ酸残基からなり84.5 kDaのタンパク質をコードし, その等電点は5.37であった. Nucの推定アミノ酸配列は, N-末端にシグナルペプチド, 分子中央に活性部位を含むpfam03372配列, そしてC-末端に細胞壁アンカー領域 (sorting signal) を保持していた. Nucタンパク質は
nuc遺伝子をpGEX-4T2ベクターにクローニング後, 単一の組換え体 (102 kDa) として精製した. この精製NucはCa
2+ とMn
2+ またはMg
2+の存在下でDNA分解活性を示し, その至適pH は5.5であった. さらにNucに部位特異的変異を導入すると, N362, E401, D578, H654の4種の変異体でDNA分解活性が消失した. また, 菌体のDNA分解活性は, 野生株の抗Nuc血清処理で優位に抑制され, さらにnuclease 欠損変異株で消失した. また, 抗Nuc血清を用いたWestern blotは, 野生株の菌体表層でペプチドグリカン結合型Nucを検出したが, sortase欠損変異株では検出しなかった. さらに
S. gordoniiのNucホモログはMitis-group の
Streptococcus mitis,
Streptococcus sanguinis,
Streptococcus parasanguinisにも存在していた. 以上の結果は
S. gordonii Challisの菌体表層に局在するnucleaseの分子生物学的性質を明らかにし, さらに, この酵素が環境中のDNAの利用に関与している可能性を示唆した.
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