日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
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T2.変成岩とテクトニクス
  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★【ハイライト講演】
    横井 雅範, 河上 哲生
    セッションID: T2-O-14
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    沈み込みスラブ表面のミキシングゾーンでは水などの流体を介した物質移動が活発に起きていると考えられている[1]。電気石は流体中に取り込まれやすいホウ素を主成分にもち、形成時の温度や流体組成などの情報を記録している。また、ホウ素は苦鉄質岩や泥質岩には数百ppm以下しか含まれない[2]。この理由から、電気石の濃集は外部流体によるものと考えることができ、その電気石を解析することで流体活動の情報を抽出できる。三波川変成帯の電気石濃集層は、四国中央部のナップ境界で確認されている[3][4]。このうち、愛媛県新居浜市端出場の電気石濃集層は包有物の解析により、変成ピーク直後から後退変成期にかけて形成したとされている[4]。三波川変成帯における含ホウ素流体活動の時空間的広がりを明らかにし、より一般的な結論を得るためには、他地域のデータも必要である。本研究では和歌山県紀の川市藤崎の苦鉄質片岩中に産する緑簾石に富むレンズの中に電気石の濃集が確認されたため、微細組織の観察と地質温度計による温度見積もりを行い、含ホウ素流体活動のタイミングを制約した。和歌山県紀の川市藤崎では、赤鉄鉱とバロワ閃石を含む曹長石―黒雲母帯の苦鉄質片岩中に長径約3-20 cm の緑簾石に富むレンズが点在する。多くのレンズ中にはDs変形段階の褶曲構造が見られる。レンズ内外共に主要鉱物組合せは、緑簾石+角閃石+曹長石+緑泥石+石英で、副成分鉱物として白雲母、チタン石、ルチル、赤鉄鉱、燐灰石、電気石を含む。レンズの内外で曹長石の斑状変晶が存在するが、曹長石の伸びの方向が異なる。レンズ内の曹長石の累帯構造は、概ね長径0.1 mm以下の包有物による内部片理を持つコア(An1)、包有物が少なくなるマントル(An1)、包有物が概ね長径0.1 mm以上で内部片理が外部の構造と連続するリム(An2)に分けられる。マントルとリムの境界はX線元素マップでCaの不連続な濃度境界として認識できる。リムは斑状変晶の伸びの方向に厚く成長する。レンズ内外で角閃石は組成累帯構造をもち、曹長石に包有されない場合、コアからリムに向かってバロワ閃石、普通角閃石、アクチノ閃石の順に変化する。この累帯構造は角閃石+緑簾石+緑泥石+斜長石+石英が平衡共存する苦鉄質片岩では減温減圧を表す[5]。レンズ内の曹長石に包有される角閃石はバロワ閃石~普通角閃石組成を示したため、包有されない角閃石の累帯構造と比較すると曹長石全体がピーク変成時に形成されたと解釈できる。斑状変晶内の角閃石に対して、角閃石-斜長石温度計[6]を8 kbar を仮定して適用した結果、コアから515-555℃、リムから530-578℃の温度条件が得られた。これらは誤差を考慮すると差異がないためピーク温度条件は515-578℃と解釈した。レンズ内の電気石はDr片理面に沿って濃集し、Ds褶曲に曲げられている。電気石の累帯構造はBSE像で明るいコア、暗いマントル、中程度の明るさのリムに分けられ、リムまで成長した段階で曹長石リムに包有される。各段階に対しCa/Naの分配を用いた電気石極性温度計[7]を適用すると、コア、マントルでは490-520℃、リムでは530-560℃の温度条件が得られた。リム成長時の温度は角閃石-斜長石温度計によって求められたピーク変成温度と一致する。よって、電気石コア、マントルは昇温期に成長し、リムはピーク時に成長したといえる。以上の結果をまとめると、和歌山県紀の川市藤崎の緑簾石レンズ内部の電気石は、周囲の泥質岩を起源とする含ホウ素流体がDr片理面を伝って流入し形成されたといえる。四国中央部の例と総合すると、含ホウ素流体は変成ピーク前の昇温期から後退変成期にかけて時間的広がりを持って沈み込み帯表面で活動し、物質移動を引き起こしていたと結論づけられる。引用文献 [1] Bebout (2007) Earth Planet. Sci. Lett. 260, 373-393. [2] Dutrow & Henry (2011) Elements 7, 301–306. [3] 砂田・榊原 (2004) 日本地質学会第111年学術大会講演要旨 235. [4] 石山ほか (2016) 日本鉱物科学会2016年年会講演要旨集 24. [5] Okamoto & Toriumi (2005) J. Metamorphic Geol. 23, 335–356. [6] Holland & Blundy (1994) Contrib. Mineral. Petrol. 116, 433-447. [7] van Hinsberg & Schumacher (2007) Contrib. Mineral. Petrol. 153, 289–301.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    原田 浩伸, 辻森 樹, ファインマン モーリン, パストルガラン ダニエル, アルバレスバレロ アントニオ, 青木 一勝, 板谷 徹丸
    セッションID: T2-O-15
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    変成地帯において、その温度構造に直交する横断線(トラバース)に沿った地質学・岩石学・地球化学的情報の抽出は、変成条件の変化に伴った物理化学的応答を天然から読み解く効果的な手段である。高圧変成帯においては、プレート収束域における元素の挙動を明らかにするため、みかけの変成度上昇に伴う岩石の地球化学的特徴の変化が記載されてきた(例えば、Busigny et al., 2003; Stepanov, 2021など)。本講演では、四国中央部三波川帯の南北横断線に沿って採取された試料(トラバース試料)についてのフェンジャイトの酸素・水素安定同位体組成の意義を評価する。変成地帯における変化傾向の比較の他、PTloop (Vho et al., 2020) を用いた三波川帯の高圧変成岩に対する酸素同位体モデリングによる検討についても紹介する。四国中央部三波川帯汗見川−銅山川ルートのフェンジャイト84試料(Itaya &Takasugi (1988) によりK–Ar年代測定が行われたもの)の酸素・水素同位体組成はみかけの変成度の上昇に伴った変化傾向をもつ(Asemigawa Meta-Pelite Phengite Line [AMPPL]: 辻森, 2022)。フェンジャイトのK含有量とH2O量に基づいて選別した泥質片岩50試料の酸素、水素同位体組成 (δ18O[‰ VSMOW]、δD[‰ VSMOW]) はそれぞれ+11.0 to +16.2‰、–82.8 to –45.2‰と幅広い同位体組成を示し、各鉱物帯の平均値は変成度の上昇に伴ってわずかに上昇してAMPPL上に乗る。また、フェンジャイトの微量元素組成の特徴とSr同位体比(87Sr/86Sr = 0.70955–0.71836: 年代補正なし)との間には相関は見られない。既存のフェンジャイト–水流体間の酸素同位体分別係数 (Zheng, 1993) を用いると、フェンジャイトと平衡であった水流体のδ18O値もみかけの変成度の上昇に伴って高くなると予想される。なお、北米西岸カタリナ島では変成度に関わらず高圧変成岩と平衡にあった水流体の同位体組成は一定であることが示されているが (Bebout, 1991)、それとは異なる傾向である。近年、Vho et al. (2020) は酸素同位体モデリング (PTloop)を用いて、沈み込みに伴う全岩及び構成鉱物のδ18O変化を推定した。Vho et al. (2020) によるモデリングは、外部由来流体との相互作用がない場合には変成堆積岩の全岩及び構成鉱物のδ18O値は大きく変化しないが、苦鉄質・超苦鉄質岩における脱水反応に由来する流体と相互作用を起こした場合には沈み込みの進行に伴って変成堆積岩の全岩及び各構成鉱物のδ18O値が大きく低下することを示した。汗見川−銅山川ルートに沿った泥質片岩のフェンジャイトは堆積物として妥当な高いδ18O値をもち、変成度上昇に伴ったδ18O値の顕著な低下も見られない。その一方で、同ルートの苦鉄質片岩のフェンジャイトの多くが泥質片岩と同程度のδ18O値を示した。後退変成作用時に苦鉄質片岩、泥質片岩の両者に堆積物起源の外部由来流体が相互作用した可能性は否定できないもののの、泥質片岩のフェンジャイトは原岩のδ18O値の特徴を保持し、苦鉄質片岩のフェンジャイトの値は泥質片岩の脱水反応によって生じた水流体との同位体交換を反映した可能性が高い。引用文献Bebout, 1991. Science 251, 413–416. https://doi.org/10.1126/science.251.4992.413Busigny et al., 2003. Earth Planet. Sci. Lett. 215, 27–42. https://doi.org/10.1016/S0012-821X(03)00453-9Itaya &Takasugi, 1988. Contrib. Mineral. Petrol. 100, 281–290. https://doi.org/10.1007/BF00379739Stepanov, 2021. Chem. Geol. 568, 120080. https://doi.org/10.1016/j.chemgeo.2021.120080辻森, 2022. 岩石鉱物科学 55, 220310. https://doi.org/10.2465/gkk.220310Vho et al., 2020. https://doi.org/10.5194/se-11-307-2020Zheng, 1993. https://doi.org/10.1016/0012-821X(93)90243-3

  • 辻森 樹, 小橋 知佳, 山田 千夏, 常 青
    セッションID: T2-O-16
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    海洋プレート沈み込み帯において、スラブから放出される水流体(スラブ由来流体)は、化学平衡にあった母岩を構成する鉱物相との元素分配・同位体分別や流体が岩石中を移動する間の岩石−水流体相互作用によって、大きく化学組成と酸素雰囲気を変えうる。そのため、スラブ由来流体の化学的特徴を制約することは一般に容易ではない。しかしながら、前弧域の含水マントルウェッジに浸潤したスラブ由来流体については、前弧域の蛇紋岩に着目することで、より確からしい情報を解読できる可能性がある。著者らは、局所Li-B同位体比分析法(Kimura et al., 2016)の開発以降、前弧域の含水マントルウェッジを起源とする蛇紋岩、すなわち前弧域の蛇紋岩緩衝熱水系に着目し、沈殿交代岩脈及び蛇紋岩そのものを解析することで地球化学的プロパティーの推定を試みてきた。本講演では前弧域の蛇紋岩のB同位体比のリファレンス値(あるいはリファレンス幅)を決めるための取り組みについて紹介する。 Bには質量数10と11が存在し、とくに11Bは選択的に液相に分別するため、理想的には沈み込むスラブから放出される流体のB同位体比は徐々に軽くなる(値が小さくなる)。したがって、スラブ由来流体の影響を直接被る含水マントルウェッジ蛇紋岩のB同位体比は、深部ほど低くなることが予想される。実際、Martin et al. (2016, 2020) や Yamada, Tsujimori et al. (2019a,b) が示したように、オロジェンに露出した蛇紋岩のB同位体比により、B濃度に関わらず、含水マントルウェッジの深部にあった蛇紋岩(あるいは沈み込んだ蛇紋岩)とそうでないものの識別がおおよそ可能である。ところが、Bの同位体分別は温度によっても大きく変わるほか、pHの違いによっても変わる可能性がある。微量元素濃度による評価も効果的であるが、微量元素濃度は蛇紋岩化する以前のマントルかんらん岩のそれにも依存しうる。著者らは前弧域の蛇紋岩のB同位体比の幅を見極めるため、北米西岸、西南日本内帯、北上山地南部などの顕生代の前弧域由来の蛇紋岩について420点に達するB同位体比データを得た。B同位体比は–12‰から+30‰(B濃度は8–930 µg/g)と非常に大きな幅をもつものの、地質学的・岩石学的な評価からスラブ由来流体が浸潤した前弧域の蛇紋岩が示しうるB同位体比と濃度の特徴を絞り込める可能性がある。講演では、我々の研究チーム以外が最近までに公表してきた世界の蛇紋岩のB同位体比の研究成果も評価しつつ予察的な前弧域蛇紋岩のリファレンス値(あるいはリファレンス幅)を提案したい。《引用文献》- Kimura, J.-I., Chang, Q., Ishikawa, T., Tsujimori, T. (2016) JAAS, https://doi.org/10.1039/C6JA00283- Martin, C., Flores, K.E., Harlow, G.E. (2016) Geology, https://doi.org/10.1130/G38102.1- Martin, C., Flores, K.E., Vitale-Brovarone, A., Angiboust, S., Harlow, G.E. (2016) Chem. Geol., https://doi.org/10.1016/j.chemgeo.2020.119637- Yamada, C., Tsujimori, T., Chang, Q., Kimura, J.-I., 2019a, Lithos, https://doi.org/10.1016/j.lithos.2019.02.004- Yamada, C., Tsujimori, T., Chang, Q., Kimura, J.-I., 2019b, JMPS, https://doi.org/10.2465/jmps.190726

  • 平島 崇男, 薮田 渉, 皆川 広太, 片岡 晃一, 木下 周祐, 道免 和之
    セッションID: T2-O-17
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    青色片岩(BS)は沈み込み帯浅部の流体活動を理解する際の重要な研究素材である。例えば、ローソン石(Lws), 緑簾石(Ep), パンペリー石(Pmp)の消長は、沈み込むスラブがH2Oの貯蔵庫となるか供給源になるかを左右する。ACF-3成分系のモデル計算では、Lws, Ep, Pmpを伴うBSはPT図上の1点で安定であるという提案がなされており (e.g., Katzil et al. 2000;JMG,18,699-718), このようなBSをTriple point BSと呼ぶことにする。 神居古潭変成帯・幌加内地域のBSには、柴草(1974;地質雑, 80, 341-353)により3種類のCaAl含水ケイ酸塩の出現が報告されており、Triple point BSに該当する。我々は当該地域の岩石の鉱物共生を検討した結果、Triple point BSの三重点を定義する反応を同定したので、以下に報告する。 旭川市江丹別町からその北西の幌加内町には神居古潭変成岩が分布している。幌加内峠~江丹別峠~冬路山~シラッケ山を結ぶ稜線より南方は、弱変形岩が卓越し、概ね、柴草(1974)のZone I (Lws-Pmp帯)、或いは、榊原ほか(2007;地質雑,113Suppl., 103-118)の美瑛ユニットに相当する。それに対して、稜線より北方は、柴草(1974)のZone II/III(Ep帯)、或いは、榊原ほか(2007)の幌加内ユニットに相当し、片岩が卓越する。Ep-BSの出現はこの地域に限られる。我々は江丹別峠周辺で、以下のような鉱物組合せ変化を確認した。なお、緑泥石(Chl)、白雲母、石英、アルバイト(Ab)はほぼすべての変成岩に含まれている。江丹別峠の頂上付近とその南麓では、Lws+アルカリ輝石(Napx)+/-Pmp組合せが卓越する。江丹別峠北麓の道道沿いの標高360~345m付近の露頭では片理が顕著になり、Lws-Namp組合せ、即ちLws-BSが出現する。さらに、標高345m付近より北方では、Ep-Namp組合せ、即ち、Ep-BSが出現する。榊原ほか(2007)はシラッケ山付近とその南方ではLws+Napx組合せが卓越し、その北方ではLws+Ep+Namp共生に変化することを報告している。以上のことから、柴草(1974)のZone IはPmp-ディオプサイド相、Zone II/IIIは青色片岩相と定義できる。上記の鉱物組み合わせ変化は、Al-Ca-(Fe+Mg)-Fe3+の仮想4成分系で以下の様になる: ・Lws-BS形成反応:Napx + Pmp + Chl + H2O = Lws + Namp (1) ・Ep-BS形成反応:Napx + Pmp + Chl = Ep + Namp + H2 O (2) これら2つの反応の関係性を推定するために、上記6相にアクチノ閃石(Tr)とヘマタイト(Hem)加えた4成分8相系でpetrogenetic grid を作成した。幾何学的に可能な複数のgridのうち、幌加内地域で確認したNapx-Chl-Ep共生が見られるNapxとChlがEpと共存するgridを選んだ。得られたgridでは、緩やかな負の勾配を示す反応(1)と正の大きな勾配を示す反応(2)はTrとHemを欠く不変点[Tr, Hem]から、それぞれ、低温側と低圧側に射出すること、また、この不変点はPmp-BS領域のほぼ中央部に存在し、この不変点より高圧側にはLws-BS、高温側にはEp-BSの安定領域が広がっていることが判った。弱変形岩を代表するLws-Napx-Pmp組合せは、反応(1)の低圧側か、反応(2)の低温側で安定となり、昇圧・昇温によりLws/Ep-BSに変化したと解釈できる。Epを含む組合せは、不変点[Tr, Hem]から正の急勾配で低圧側に射出する反応, Pmp + Lws + Napx = Ep + Chl + H2O (3), 或いは、正の勾配で高圧側に射出する反応, Namp + Lws + Napx = Ep + Chl + H2O (4), の近傍で安定であることが分かった。 当該地域の変成温度は炭質物Raman温度計から、280-300℃とされている(苗村ほか, 2022;日本鉱物科学会年会要旨)。圧力はAb・霰石の存在から0.6-0.8GPa程度である。この温度域は、石英の塑性-脆性遷移領域に当たり、幌加内地域では、Lws/Ep-BSの出現ととともに、片理の発達が顕著になることと相補的である。また、(2)~(4)の反応で放出される脱水流体は、片理を切って成長するLwsの粗粒化やその脈状の産状に寄与している可能性が高い。日本列島では三波川帯、蓮華帯、周防帯、長崎変成帯、黒瀬川帯などで青色片岩の産地が知られているが、広域的にTriple Point BSが産出するのは幌加内地域のみであり、貴重な地質資源と言える。

  • LU ZEJIN, 大和田 正明
    セッションID: T2-O-18
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    近年,周防帯の分布域から白亜紀貫入岩類に伴われた低圧型の変成岩類が各地から報告されてきた。例えば、大牟田地域では、Miyazaki et al. (2017) は角閃岩相高温部の条件を示すミグマタイトのジルコンU–Pb年代105 Maを報告した。変成岩類の原岩堆積年代は250Maであった。さらに柚原ほか. (2021) は、福岡県築上町に分布する田川変成岩の原岩堆積年代が約250Maで、領家帯に相当する低圧型の変成作用を被ったとした。  山口県南部の瀬戸内海にある大津島産変成岩類は,変成鉱物組合せから、Sil Zone、And-Crd ZoneとBt zoneに分帯された。Sil Zoneのピーク変成条件は600 ℃- 720 ℃、350 MPa-420 MPaである。一方、野島産変成岩類の最高変成温度と圧力条件は480-530 ˚C、180-300 MPaで、これらは低圧高温型変成作用を受けた領家帯に相当する。 しかしながら、九州の例でも明らかなように、山口県中部の島嶼部は周防帯と領家帯の境界が不明瞭である。そのため、地帯構造を検討するためには、原岩年代に遡って検討することが急務であった。そこで、本研究は、大津島と野島に産する変成岩に注目し、砕屑性ジルコンの U–Pb 年代と変成条件から西南日本の地帯構造を検討した。本研究結果による地帯構造区分をもとに視野を広げることで、東アジア東縁部の沈み込み帯におけるトリアス期中期から白亜紀までの地殻形成過程の解明に貢献できると考えている。  大津島の砕屑性ジルコンはKDE図から1800Maと250Maの年代ピークが認められる。最も若いU–Pb 年代値は250.3 ±2.74 Maで、原岩の堆積年代はペルム紀最末期〜トリアス期初頭と考えられる。一方、野島の砕屑性ジルコンは大津島のKDE図とは異なり、200Ma、250Ma、371Ma、511Ma、887Maそして1853Maと6つのピークで特徴づけられる。最も若いU–Pb 年代年代は200Maで、原岩の堆積年代はトリアス紀最末期〜ジュラ紀初頭であると考えられる。従って、原岩の堆積年代から見ると、大津島と野島は異なる地質帯に帰属し、それぞれの原岩は周防帯と柳井地域に代表される領家帯に相当する。  大津島の砕屑性ジルコンとほかの周防帯変成岩が分布する地域に産する変成岩類の砕屑性ジルコン年代を比較すると、九州では田川地域、久留米地域 (260-250 Ma; Tsutsumi et al., 2003)、大牟田地域、そして山口県に産する津野層群(250Ma; Tsutsumi et al ., 2000)で、これらはほぼ同じ年代値を示す。大牟田や田川地域の変成岩類は、低圧高温型の鉱物組み合わせを持つことで特徴付けられる。すなわち、大津島を含むこれら変成岩類は、周防帯に相当する原岩の地質体が白亜紀に高温型変成作用を受けたと考えられる。さらに、野島・大津島産の変成岩類と柳井地域に産する領家変成岩類は同じ地温勾配を示すことから、これらの地域に分布する変成岩類は、白亜紀の火成活動に伴って形成した可能性が高い。   中国地方から九州にかけて分布する変成岩類は、大局的に見ると250 Maの原岩年代を示す変成岩類が200 Maの原岩年代を示す変成岩類より大陸側に位置する。このことは、これまで主に付加体から検討されてきた日本列島の地帯構造区分と調和的である。大津島と野島の変成岩類は共に低圧型の変成作用を被っている。しかしながら、原岩の形成年代は異なり、もともと異なる地質帯に帰属していたと考えられる。こうした関係は九州の肥後帯と類似している。肥後帯は、北側の間の谷変成岩が260 Maの原岩年代を示し 、南側肥後変成岩の原岩形成年代は190 –200 Maである (Suga et al., 2017)。以上から、中国地方から九州に分布する低圧型変成作用を被った変成岩類は、原岩形成年代は異なるが、白亜紀の火成活動に伴う広域的な接触変成作用によって形成されたと推察される。引用文献:柚原ほか(2021), 地質学雑誌, 127, 447-459; Tsutsumi et al. (2003) J. Mineral.Petrol. Sci., 98, 181–193; Miyazaki et al. (2017) Island Arc. 2017;26; Tsutsumi et al. (2000) J. Mineral.Petrol. Sci., 95, 216-227; Suga et al. (2017) J. Asian Earth Sci., 143, 218-235.

  • 加納 隆
    セッションID: T2-O-19
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    1.研究の背景と目的 1990年代以降,飛騨帯において変成作用を受けた花崗岩や深成岩起源の片麻岩が存在することが知られるようになった.飛騨帯神岡地域では,前者の例が花崗岩起源のマイロナイト(眼球花崗岩~眼球片麻岩)であり,後者の例が閃緑岩質片麻岩である.後者は神岡地域一帯に広く分布し,主に閃緑岩質の粗粒の片麻状岩を主体に,トーナル岩質~花崗閃緑岩質,あるいは斑れい岩質の部分を伴い,岩石組織・構造の上で,①片麻状構造と変成組織の発達した片麻岩相,②不均質な中間的岩相,③深成岩的組織を残した岩相,が存在する. 演者の当初の目論見は,飛騨片麻岩体を構成する“変成作用を受けた深成岩”の中から,できるだけ変成していない部分を探し出し,火成岩としての性質とその年代を明らかにしたい,ということであった.具体的なターゲットとして神岡鉱山地域の閃緑岩(③)と熊野川の斑れい岩の2試料を選定し,京都フィッショントラック社に依頼して,LA-ICPMS法によるジルコンU-Pb年代測定を行った.2.測定結果  神岡鉱山の弱変成閃緑岩が195.2±1.2Ma,熊野川斑れい岩が192.0±1.1Maであった.各試料とも30個のジルコンを無作為に選んだにもかかわらず,粒子年代は全てコンコルディア線上に乗り,よくまとまるため測定値は精度よく決められた. 3.年代値の意味  椚座ほか(2010)は,飛騨変成作用は300Ma以前から始まってピーク年代を250-240Maとし,松田ほか(1998)は180Ma前後まで高温状態が続いた後に急速に上昇・冷却したとした.またTakahashi et al. (2010)は変成作用に伴うマイロナイト化の持続年代を議論した.飛騨変成作用は長期間続いた現象であり,その中で変成・変形の時期と花崗岩体の形成を適切に位置づけて行く必要がある.当初の目的は,言い換えれば飛騨変成作用の開始時期を明らかにしようとしたものであったが,結果として,“図らずも”,飛騨変成作用の終息期における深成活動の1断面を知ることとなった. ①飛騨帯各地に180-200Ma前後のジルコン年代を示す花崗岩体が分布するが,片麻岩体内にも,変成作用に巻き込まれた,ほぼ同時期の苦鉄質深成岩が存在することが分った.その一部は同時性岩脈などのマグマ混合・混交現象を伴い,花崗岩とco-magmaticな関係があることが示唆され,深成活動のマーカーとなるだろう. ②180-200Ma前後の花崗岩体は,一部はほとんど変形していない(大熊山岩体・打保岩体)が,一部は変形しており(麻生野岩体=旧船津岩体・毛勝山岩体・八尾岩体・庄川岩体),岩体により,地域により,変形と花崗岩体形成との関係は錯綜し,必ずしも年代の若い岩体が非変形であるとは限らない.神岡地域北部の八尾岩体(187.5±1.7Ma)は,変形構造の強い片状トーナル岩や眼球花崗岩を伴うが,今回測定した195Maの閃緑岩を含む片麻岩体に貫入した打保岩体(190.3±3.6Ma)はほとんど変形していない(カッコ内の年代値はYamada et al.,2021による).しかも各年代値は数Maの範囲で相前後している. ③飛騨広域変成のピーク年代をやや過ぎた235Ma前後に伊西ミグマタイトの形成があり,この中のパレオゾームとして変斑れい岩(角閃岩)のブロックが含まれる.また250-240Maの花崗岩体にも苦鉄質岩が伴われる.苦鉄質深成岩の年代も,地域により,岩体により,異なる可能性があり,これらを解明することで飛騨帯の変成・深成作用の解明に新たな展開が期待される. 椚座ほか,2010,地質学雑誌,116巻 補遺,83-101. 松田ほか,1998,日本地質学会第105年学術大会講演要旨,248. Takahashi et al., 2010, Gondwana Research, 17, 102-115. Yamada et al., 2021, Jour. Mineral. Petrol. Sci., 116, 61-66.

  • 中小路 一真, 清水 以知子
    セッションID: T2-O-20
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    石英は地殻や沈み込みプレート境界のレオロジーを担う重要な鉱物であり、塑性流動した石英の動的再結晶組織は、結晶粒径や粒子形状、結晶方位について様々なパターンを示すことが、高圧変成帯や剪断帯におけるフィールド試料の観察から報告されている。これらの組織は温度や歪速度などの変形条件を反映したものだと考えられ、その関係を調べるために、高温高圧変形試験機を用いた室内実験において、温度や歪速度を様々に変えた研究が行われてきた。Masuda and Fujimura (1981) (以下、M & F)は、細粒含水石英岩(メノウ)を用いて、封圧0.4GPa, 温度700℃―1000℃, 歪速度10-6 /s-10-4/sで高温高圧変形実験を行ない、低温-高歪速度条件下では、扁平な結晶粒と鋸状の結晶粒界を持つSタイプの再結晶組織、高温-低歪速度条件下では、等粒状結晶粒と直線的な結晶粒界を持つPタイプの再結晶組織が発達することを報告した。彼らはこれら2つの石英組織が、時間や歪によらない定常組織であると解釈した。一方、Hirth and Tullis (1992)(以下、H & T)は、メノウに比べより粗粒な石英岩 (quartzite) を出発物質として、封圧1.5 GPa、温度約500℃ -1200℃, 歪速度はおよそ10-7/sec-10-5/secの範囲で高温高圧変形実験を行い、主要な再結晶機構によって、3つの組織に分類した。M & FのSタイプ-Pタイプの境界線を天然系に外挿するためには、定常組織の封圧に対する依存性を考慮する必要があるが、M & Fより高封圧で行われたH & Tでは粗粒石英岩を用いていたため再結晶が遅く、定常組織にはなっていない。また、H & Tの組織の分類基準がM & Fとは異なるため、S-P境界の封圧依存性についてはわかっていない。そこで、本研究ではM & Fと同じ出発物質であるメノウを用いて、M & Fより高圧 (封圧1.5 GPa)で、温度800℃~1000℃, 歪速度10-6/s ~ 10-4/sの条件で変形実験を行った。実験試料には、メノウの初期組織の繊維状結晶に平行に、直径8.0 mm, 長さ8.0 mmでコアリングしたものを用いた。圧媒体にはタルクを使用し,試料を囲むスリーブには,試料に水を供給し塑性変形を促進するため, 800℃の条件ではパイロフィライト(脱水温度約500℃), 900℃以上の条件ではタルク(脱水温度約800℃)を使用した。水が試料に加わりやすいように、試料は金属ジャケットで覆わなかった。実験装置は京都大学理学部設置の熊澤型固体圧式変形試験機を使用した。熊澤型試験機では,上下のピストンに取り付けたロードセルを用いて固体圧媒体中の内部摩擦を実験中にリアルタイムに補正し、差応力を精度よく求めることができる (Shimizu and Michibayashi, 2022)(以下、S & M)。実験後の試料薄片の偏光顕微鏡観察では、M&FのSタイプとPタイプに類似した2種類の組織が、低温-高歪速度領域と高温-低歪速度領域でそれぞれ見られた。鋭敏色検板を通した結晶方位観察により、ほとんどの実験の回収試料において、メノウの初期組織が失われていることを確認した。得られた力学データは、Fukuda and Shimizu (2017)が拡散係数を用いて半経験的に導出した石英の転位クリープ流動則と、温度・歪速度依存性及び流動応力の大きさにおいて、よい一致がみられた。S-P境界線の封圧依存性については、M & F(封圧0.4 GPa)ではPタイプが観察されていた温度900℃-1000℃, 歪速度10-5/sの条件でSタイプが見られたことから、高封圧ほどS–P境界線が高温-低歪速度側へ移動すると考えられる。S & MによるM&FのSタイプの実験試料のEBSD解析によると、比較的大きい扁平な石英再結晶粒子のc軸方向がσ方向に集中しており、石英の底面すべりがSタイプ組織の発達に有利に働いていたことが示唆される。また、別の変形実験 (Ave’Lallemant & Carter, 1971) では、高封圧ほど石英の底面滑りが卓越するという結果が報告されている。これらの実験事実から、S–P境界線のシフトが、石英の卓越滑り系の変化に影響された可能性が考えられる。引用文献  Fukuda, J. and Shimizu, I. (2017) J. Geophys. Res. Solid Earth, 122, 5956–5971. Masuda, T. and Fujimura, A. (1981) Tectonophysics, 72, 105–128.Shimizu, I. and Michibayashi, K. (2022) Minerals, 12, 329.Ave’Lallemant, H. and Carter, N. (1971) American J. Science, 270, 218–235.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    沖野 峻也, 岡本 敦, 喜多 倖子, 澤 燦道, 武藤 潤
    セッションID: T2-O-21
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    沈み込み帯において大量の炭素が炭酸塩や炭酸塩鉱物として地球内部に持ち込まれるが、マントルウェッジにおいて、どれほどの炭素が固定されるかはよく制約されていない。一般的に、マントルウェッジの地殻とマントルの境界では、地殻からマントルへのSiの供給によってSi交代作用が起こり、滑石や角閃石が形成されると考えられている。滑石は摩擦係数が小さく、沈み込み帯のレオロジーに影響を与える可能性があり、スロースリップ現象の発生との関連性も指摘されている1。 近年、三波川帯などで、マントルウェッジ起源の蛇紋岩体において、滑石に伴う炭酸塩鉱脈の存在が報告されている2。しかし、マントルウェッジでの炭酸塩化とそれに伴う滑石形成のメカニズムについては、その再現実験が行われておらず、その具体的な過程はよくわかっていない。本研究では、マントルウェッジの条件の地殻―マントル境界を再現した高温高圧実験により滑石形成に及ぼすSiとCO2の影響を評価した。本実験はGriggs型固体圧式変形試験機を用い、500℃・1GPaにおける地殻-マントル境界を模擬した反応実験を行った。実験試料は、泥質片岩(長瀞)のコア試料を、かんらん岩(幌満)と蛇紋岩(アンチゴライト+クリソタイル、長瀞)で上下に挟み、沈み込む堆積物が無水または含水マントルと接する境界を模擬した。流体としては、純粋なH2O流体と、シュウ酸二水和物(OAD)の分解によるH2O-CO2流体の2種類を用いた。H2O-CO2流体の実験では、H2Oを4 wt%、XCO2を0.2とした。H2O流体を用いた静水圧実験では、かんらん岩と泥質片岩の境界に厚さ約10µmの滑石層が形成され、反応帯の先端から滑石で埋められた引張クラックの形成も観察された。蛇紋岩と泥質片岩の境界では、蛇紋岩の境界付近にAlに富む蛇紋石が薄い層として形成され、より内部には細い滑石脈が形成された。一方、両境界の泥質片岩内では、曹長石斑状変晶が選択的に反応して、Mg-スメクタイトによって置換されていた。H₂O-CO2流体を用いた実験では、泥質片岩と接するかんらん岩と蛇紋岩の両方において、滑石+マグネサイトの形成が確認された。蛇紋岩―泥質片岩の境界近傍では、一部、石英+マグネサイトの組み合わせも見られた。一方、泥質片岩では白雲母の縁がわずかに緑泥石に変質した。かんらん岩内では、滑石とマグネサイトが網目状の割れ目を伴って形成され、滑石はかんらん石よりも斜方輝石中に多く生成した。蛇紋岩では、マグネサイトはちょうど境界部分に優先的に生成し、内部には多量の細孔と細い滑石マグネサイト脈のネットワークが形成された。鉱物マップを用いたマスバランス計算を行った結果、蛇紋岩―泥質片岩の境界では、いずれの条件においても、地殻からマントルへのSiの移動に加えて、マントルから地殻へのMgの移動が進行することがわかった。また、その移動度はH2O-CO2流体のほうがH2O流体よりも小さかった。また、マントル岩石中の滑石の形成に着目すると、H2O流体を用いた実験で示される地殻から供給されるSiによるSi交代作用による生成量と比べて、含水・無水マントルともに、H2O-CO2流体を用いた実験で起こるCO2交代作用において、約5-30倍もの量の滑石が形成することが示された。このようなH2O-CO2流体での反応では、Si交代作用の効果は小さい。無水マントルの炭酸塩化は顕著な体積増加と著しい破壊を伴っており、含水マントルは脱水と空隙の形成が特徴として観察された。さらに、Griggs型固体圧式変形試験機を用いて同じ温度圧力条件下における石英岩-かんらん岩の変形実験を行った。試料は反応実験と同じコア試料で、片面にソーカットを施し、石英岩とかんらん岩が45°で接するようにした。流体はOADを導入したH2O-CO2流体で、XCO2は0.1とした。変形開始前に3時間静水圧下で反応させ、8.3×10-5/sの歪速度で12時間変形させた。その結果、境界には滑石とマグネサイトの厚さ約20μmの層が生成したのに対し、数μmの滑石層にのみ変形が集中した。差応力は歪がおよそ0.03のときに最大(約300MPa)となり、その後150MPaまで単調減少した。摩擦係数はおよそ0.25であり、わずかな滑石のみが変形をまかなったことにより影響が与えられたと考えられる。このような一連の結果から、CO2流体の浸透が、純粋なH2O流体と比べて、沈み込み帯のマントルウェッジの滑石ーマントル境界の強度を降下させる可能性があることを示唆しており、反応と変形のカップリングについての議論を行う予定である。1. Tarling et al., Nat. Geosci., 20192. Okamoto, A. et al., Commun. Earth Environ., 2021

  • 道林 克禎, 柿畑 優季, 夏目 樹
    セッションID: T2-O-22
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    オマーンオフィオライトは、火山岩、シート状岩脈群、斑レイ岩を含む海洋地殻部とカンラン岩からなるマントル部の構造を保持する世界最大のオフィオライトである。オマーンオフィオライト掘削プロジェクトでは、2017年11月から2018年3月までの冬季に地殻−マントル遷移帯を含む海洋地殻下部からマントル最上部までの岩石コアを掘削した。その後,マントル部を掘削したBAサイトの掘削コアの1次記載が,2018年8月5日から9月3日まで超深部探査船ちきゅう船上で実施された(ChikyuOman2018)。最初に掘削コア全体をX線コンピューター断層撮影(XCT)スキャナーや全周マルチセンサーコアロガー(MSCL-W)などの非破壊分析が行われた。その後,掘削コアは半裁されて,火成作用,変質作用,構造の順に観察と記載が行われた。BAサイトの掘削コアは、蛇紋岩であるが,残存した初生鉱物(主にカンラン石,直方輝石,スピネル)の組織から元はダナイトとハルツバージャイトであった。本研究では、BAサイトの3つの掘削孔(BA1B:400m、BA3A:300m、BA4A:300m)の掘削コアのうち溶け残りカンラン岩に相当するハルツバージャイトについて,XCT画像を参考にしてできるだけカンラン石が残存した部分を切り出して研磨薄片を作成し、電子後方散乱回折(EBSD)分析を行った。微細構造はやや粗粒粒状組織からポーフィロクラスト状組織であり、伸長した直方輝石で定義される面構造の傾斜角は比較的水平的であった。EBSD分析を基にして,蛇紋岩からカンラン岩の組織を再構築した。結果として、カンラン石の粒径はハルツバージャイトで1.2mmから2.4mm、ダナイトで2.1mmから2.3mm程度とやや粗粒であった。カンラン石の結晶方位ファブリックについて、集中度の指標であるJ-indexは2〜4であり、P波速度異方性(AVp)は5.9〜11.8%であった。カンラン石のファブリックタイプはBA1AではAタイプ、BA3AではDタイプ、BA4AではA〜Dタイプであった。本発表では,これらの結果を基にして数100mにおよぶ掘削コア全体の構造と地震波異方性について議論する。

  • 金木 俊也, 纐纈 佑衣, 青矢 睦月, 中村 佳博, Wallis Simon
    セッションID: T2-P-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    地球内部における岩石の続成・変成過程を調べる上で、最高温度は重要な情報である。炭質物は、堆積岩の多くやそれら由来の変成岩類中に一般的に存在し、歪の影響を受けていない場合は周囲の温度条件に対してその熟成度を不可逆的に変化させることから、有効な温度指標として広く用いられてきた。特に2000年代以降、ラマン分光法を用いた地質温度計の開発が盛んに行われており、炭質物ラマンスペクトルから計算可能な様々なパラメータと温度の関係を記述する経験式が数多く報告されている。最高温度における平衡状態を仮定すれば、これらの経験式で計算される温度を最高変成温度として解釈することが可能となる。しかし、モデルパラメータをピークフィッティングで決定する場合、非線形逆解析における初期値を解析者の主観で設定する必要があるため、得られる結果が解析者に依存し、また初期値の設定に多大な時間と労力が必要であるという問題がある。この問題を解決するため、Kaneki & Kouketsu (2022)は、Kouketsu et al. (2014)が報告した炭質物ラマン温度計を対象とし、Pythonを用いた炭質物ラマンスペクトルの自動ピークフィッティング手法を開発した。コードによる自動解析から推定された温度は、Kouketsu et al. (2014)の報告値と誤差の範囲で一致したことから、手法の有効性が示された。しかし、Kouketsu et al. (2014)の温度計の適用可能範囲は150から400℃であるため、400℃以上の温度を示す岩石についてはKaneki & Kouketsu (2022)の手法を適用することはできない。Aoya et al. (2010)は、スペクトル中のピークの面積比であるR2比(Beyssac et al., 2002によって定義)に着目することで、340から655℃に適用可能な炭質物ラマン温度計を開発した。そこで本研究では、Kaneki & Kouketsu (2022)のコードの一部を、Aoya et al. (2010)が報告した炭質物ラマン温度計に応用することを試みた。コードを用いてAoya et al. (2010)が温度計を構築する際に用いたデータを再解析した結果、Aoya et al. (2010)と調和的な結果を得た。得られたR2比と温度との関係をモデル化する多項式の次数を決定するため、赤池情報量基準(Akaike Information Criterion; AIC)を用いた解析を行なった結果、二次多項式のモデルが情報量的に最も有利となった。これは、Aoya et al. (2010)の報告と調和的である。今後の課題として、予測誤差の計算の実装、Aoya et al. (2010)以外のデータセットへの適用可能性の検討、R2比のレーザー波長依存性の精査、が挙げられる。本研究とKaneki & Kouketsu (2022)の成果を合わせることで、150から655℃までの温度範囲の岩石について、炭質物ラマンスペクトルの自動解析を行うことが可能となることが期待される。参考文献Aoya et al. (2010) Journal of Metamorphic Geology Beyssac et al. (2002) Journal of Metamorphic Geology Kaneki & Kouketsu (2022) Island Arc Kouketsu et al. (2014) Island Arc

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    早川 由帆, 新屋 貴文, 森 宏, 延原 香穂, 山岡 健, 常盤 哲也, 田中 渉, 築島 由理恵
    セッションID: T2-P-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    [はじめに]大断層周辺における断層運動前の地質分布の復元は,断層運動の総変位量推定や広域テクトニクス究明の鍵となる.断層運動前から存在していた基盤岩は,断層を境に分断されているが,断層を挟んで対比可能な地質マーカーを見出すことができれば地質分布復元が可能となり,これは断層運動の総変位量推定にも直結する.本研究では,糸魚川–静岡構造線(ISTL)周辺に基盤岩として露出する変成岩類をケーススタディーに,変成温度を地質マーカーに利用した大断層周辺の地質分布復元を試みた.[地質概要・研究方針]ISTL南に南北方向で狭長に分布する赤石山地北部・三波川帯の白亜紀変成岩類(三波川変成岩類)は,中央構造線(MTL)とともにISTLにより分断されている.一方,ISTL北の基盤岩は新第三紀以降の地質に広く覆われるが,小規模に露出する横河川変成岩類は,長年,三波川変成岩類に帰属する可能性が指摘されてきた.特に近年,Mori et al.(2023)は,横河川変成岩類の炭質物ラマン温度計による変成温度条件と砕屑性ジルコンU–Pb年代測定による原岩年代が,三波川変成岩類に類似することを示し,両者が元々同一の地質体であったことを確実なものにした.一方で,Mori et al.(2023)の三波川変成岩類との比較は大局的なものであり,ISTL周辺の正確な地質分布の復元には,横河川変成岩類に近い赤石山地北部の検討が重要である.また,同地域北端のISTLに沿っては,木舟花崗閃緑岩体(木舟岩体)が約1.5×2 km程度の規模で貫入して三波川変成岩類に接触変成作用を与えており(e.g. 牧本ほか,1996),この熱影響の検討も必要となる.そこで本研究では,赤石山地北部の三波川帯を対象として,炭質物ラマン温度計(Kouketsu et al.,2014)により広域かつ詳細に変成温度構造を明らかにするとともに,横河川変成岩類との対応関係に基づくISTL活動前の地質分布復元,および,貫入熱モデリングとの比較による復元結果の妥当性検証を行った.[炭質物ラマン温度計による変成温度解析]炭質物ラマン温度計用の試料として,地質構造(片理面の走向)に直交する東西ルートと接触変成作用に伴う熱構造(黒雲母アイソグラッド)に直交する南北ルートで,計19地点から泥質岩を採取した.見積もられた変成温度は,地域全体で約310~440 ºCを示す.大局的には,東西ルートでは西端のMTLに近づくにつれて,南北ルートでは北端の木舟岩体に近づくにつれて,いずれも系統的な温度上昇を示す.また,岩相の特徴や地質構造との関係性も考慮すると,東西ルートは木舟岩体貫入以前,南北ルートは木舟岩体貫入時(接触変成作用)の熱履歴を記録していると考えられる.[ISTL北・横河川変成岩類との対応関係と地質分布復元]東西ルートの東から西への温度上昇は,ISTL北方の横河川変成岩類においても認められる.また,両地域の温度構造の空間的な対応関係に基づけば,ISTLに沿って水平方向に約13 kmの地質分布のズレが生じていたことを示すとともに,この変位量を基に,ISTL活動前の地質分布を復元すると,木舟岩体の分布位置はISTL北において貫入する下諏訪岩体に合致し,元々一つの“木舟–下諏訪岩体”であったことを示唆する.[貫入熱モデリングに基づく復元結果の検証]木舟岩体の接触変成作用を記録した南北ルートに対しては,一次元の解析解を用いた球状貫入熱モデリングとのフィッティングを行い,貫入時のマグマ温度と貫入岩体規模の関係を求めた.これら変成岩解析とは独立して,木舟岩体の全岩化学組成を入力値とした熱力学計算から得られたマグマ温度を考慮すると,貫入岩体の直径は約6~10 kmに制約される.これは,前述の“木舟–下諏訪岩体”の分布規模(直径約8 km)と整合的であり,東西ルートの変成岩解析に基づく地質分布の復元結果の妥当性を示す.そして,ISTL断層運動の水平方向での総変位量は約13 kmであるとともに,その活動開始時期は下諏訪岩体の貫入時期である約10 Ma(大平ほか,1999)より後であったと考えることができる. 本研究は,炭質物ラマン温度計を用いた基盤岩の変成温度解析が,大断層周辺の地質分布復元に有用であるとともに,断層活動履歴究明へのアプローチに対する新しい切り口となることを提示する.[引用文献]Kouketsu et al., 2014, IAR, 23, 33–50;牧本ほか, 1996, 地域地質研究報告(5万分の1地質図幅);Mori et al., 2023, JMPS, 118, 221215;大平ほか, 1999, 地学団体研究会第53回総会(長野)シンポジウム・ポスター要旨集, 53, 113–114.

  • 前原 誠也, ウォリス サイモン
    セッションID: T2-P-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    地震発生帯の下限は脆性-延性遷移領域に一致するとされ、南海に代表されるような温かい沈み込み帯において、脆性-延性遷移領域は深部スロー地震の一種である深部ETSの主な発生源とされている。深部スロー地震に関して、モデルやシミュレーションを用いた地球物理学的な研究や測地学的手法を用いた観測が活発に行われている一方で、地質学的なアプローチによるその発生環境の制約は不十分である。そこで、本研究ではフィールド調査に基づいた地質学的な側面から深部スロー地震の発生環境を捉えることを目指した。三波川帯は九州北部から関東山地まで続く低温高圧型の変成帯であり、本研究では三波川帯東端に位置する関東山地の秩父地域を調査対象とした。秩父地域荒川沿いでは、特に長瀞周辺において、脆性変形と延性変形が同時に同一の岩体内で起きたことを示す組織が観察されることから、深部スロー地震の発生環境を捉えるのに非常に適した地質であると言える。以上を踏まえ、この地域の変成岩を地質学的な手法に基づいて分析することで、沈み込み帯の脆性-延性遷移領域の応力・温度の推定を行なった。関東山地の三波川変成岩の変形時の環境の制約として、ラマン炭質物温度計を用いたピーク変成温度の推定、石英の粒径差応力計及び流動則を用いた差応力・歪速度の推定を行なった。秩父地域の広域において変成ピーク温度は~350-400 ℃と推定されたほか、Cross et al. (2017)の応力計及びHirth et al. (2001)の流動則を用いて推定した歪速度は~10-13 /sの値を示した。今回の研究を通じて推定された三波川変成岩の変形時の温度-圧力環境は、現在日本列島で発生している深部ETSの発生環境より浅い領域を示しており、脆性-延性遷移領域の上限に一致していることが推察される。関東山地三波川変成岩の変形と深部スロー地震との関連性については、現在の沈み込み帯と三波川帯の沈み込み・上昇過程との比較やより広域における応力・温度推定等、さらなる検討を行う必要がある。(引用文献)Cross, A. J., Prior, D. J., Stipp, M. and Kidder, S. 2017. The recrystallized grain size piezometer for Quartz: An EBSD-based calibration. Geophysical Research letters.Hirth, G., Teyssier, C. and Dunlap, J.W. 2001. An evaluation of quartzite flow laws based on comparisons between experimentally and naturally deformed rocks. International Journal of Earth Sciences.

  • 片桐 星来, 纐纈 佑衣, 道林 克禎
    セッションID: T2-P-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    西南日本に分布する低温高圧型の変成帯である三波川帯は,泥質片岩に含まれる石墨の結晶化度から変成温度を算出する炭質物ラマン温度計を用いて,沈み込み時の温度構造や中央構造線による熱の影響などが議論されている.一方,三波川帯に分布する大小様々な超苦鉄質岩体周辺の温度構造を明らかにした例はほとんどない.そこで本研究では,静岡県北西部三波川帯の渋川超苦鉄質岩体(塩谷ほか, 2020)の周辺の泥質片岩の温度構造について泥質片岩の炭質物ラマン温度計を用いて考察した.さらに,泥質片岩の石英ファブリックとの関係についても考察した.泥質片岩の鉱物組み合わせは石英,白雲母,緑泥石,斜長石,グラファイト,ルチルであった.分析方法として,泥質片岩中のグラファイトについて炭質物ラマン温度計を用いた変成温度の推定と走査型電子顕微鏡を用いた石英の結晶方位解析と粒径測定を行った.炭質物ラマン温度計はKouketsu et al. (2014)に従い,解析プログラムはKaneki & Kouketsu (2022)を使用した.結果として,渋川超苦鉄質岩体周辺部の泥質片岩の変成温度は約320℃であったのに対し,岩体内側に分布する泥質片岩は約280℃~300℃の低い変成温度を示した.また,岩体内側の低変成泥質片岩の採取地点は,岩体周辺部の約320℃の変成温度を示す岩石の採取地点よりも約100m高い標高付近に分布する傾向があった.泥質片岩の石英粒径は,岩石試料毎に約10μmの細粒組織と約100μmのやや粗粒な組織をもつ違いが見られた.さらに,変成温度に関わらず超苦鉄質岩体との境界部で石英が細粒化する傾向が見られたが,この傾向は特に岩体南部で顕著であった.本研究では,これらの結果をふまえて,渋川超苦鉄質岩体周辺の三波川帯の大構造について考察した.引用文献: Kouketsu, Y. et al. (2014) Island Arc, 23, 33­50.塩谷 輝ほか (2020) 地質学雑誌, 127, 59-65.Kaneki, S., Koukestu, Y(2022) Island Arc, 31, e12467.

  • 壱岐 美乃, 壷井 基裕
    セッションID: T2-P-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    岐阜県揖斐川町春日地域は,幅3 km以上の接触変成帯として,貝月山花崗岩が周囲の岩石に接触変成作用を与えている1)。また,ドロマイトスカルンが広域的に分布する地域であり,Mgに富む鉱物が多く見られる1)。炭酸塩鉱物であるcalciteとdolomiteは固溶体を形成し,その金属カチオンの置換は化学的・熱力学的反応をよく反映することが知られている。Calcite-dolomiteソルバス温度計(log[MgCO3 mol % in calcite]=1.727×10-3T-0.223)2)は,地質学的温度計の一種であり,代表的な変成温度推定手法である。Suzuki(1975; 1977)は,電子プローブマイクロアナライザーと粉末X線回折を用いて,calcite中のMg量をcalcite-dolomiteソルバス温度計へ適用することで,貝月山花崗岩接触面から約3 kmの範囲における石灰岩の変成温度分布を詳細に報告した3,4)。さらに,Aoya(2010)は,ラマン分光法を用いて,炭質物の石墨化度を炭質物地質学的温度計へ適用することで変成温度を推定した5)。しかし,接触変成帯のcalciteとdolomiteの固溶体における系統的なラマンスペクトル分析は,ほとんど行われていない。Calciteに固溶可能なMg量は温度が上昇すると共に増加し,ラマン分光法で測定されるν4(CO32-の面内振動)は高波数側へシフト(ν4=711.9+0.19[% mol MgCO3])6)する。本研究では,岐阜県揖斐川町春日の貝月山花崗岩接触変成帯において,ラマン分光法によりcalcite中のMgを定量し,calcite-dolomiteソルバス温度計へ適用することで石灰岩の変成温度を推定した。 採取した石灰岩(KG1,KG2,KG3,KG4,KG5,KG6)より作成した薄片について,顕微ラマン分光分析装置でcalciteのν4を30ポイント以上,dolomiteのν4を5ポイント以上それぞれ測定した。その結果,全ての試料より,calciteとdolomiteのラマンスペクトルを確認することができた。よって,周囲にMgが十分にある環境であり,calcite中のMg濃度は変成温度を反映すると考えられる。最も高波数側へシフトしたν4から変成温度をそれぞれ算出すると,各試料の変成温度は,KG1(911 ℃),KG2(908 ℃),KG3(829 ℃),KG4(775 ℃),KG5(700 ℃), KG6(700 ℃)となった。これより,熱源である花崗岩から近い位置で採取した試料ほど変成温度が高くなることが確認できた。しかし,採取地点の近い試料(KG3,KG4,KG5)同士のばらつきは大きくなった。これは,測定ポイント数を先行研究よりも約3倍に増やした結果,熱変成由来でないMg-calciteの影響が大きくなった可能性が考えられる。そこで,各試料のポイントごとに算出したcalcite中のMg量の最頻値で変成温度を再算出した。その結果,各試料の変成温度は,KG1(829 ℃),KG2(825 ℃),KG3(706 ℃),KG4(706 ℃),KG5(700 ℃),KG6(602 ℃)となった(図1)。図1に示される温度分布より,最も高波数側へシフトしたν4から変成温度を算出するよりも,最頻値で変成温度を算出した方が近い地点で採取した試料同士のばらつきが小さくなった。一部の試料(KG1,KG2)の変成温度が先行研究で報告されている変成温度(400-650℃)よりも極めて高く推定されたのは,先行研究よりも花崗岩に非常に近い地点で試料を採取したことが原因であると考えられる。また,KG3,KG4,KG5で先行研究よりも高い変成温度が推定されたのは,部分的に花崗岩が直下に貫入している可能性が考えられる。以上より,試料中の最も高波数側にシフトしたcalciteのν4から変成温度を算出するよりも,測定ポイントごとに算出した変成温度の最頻値をその変成温度とする方が有効であるといえる。 参考文献1) M Enami et al., 地質学雑誌 第127巻 第6号, 313-331, 20212) Sheppard S.M.F. et al., Contributions to Mineralogy and Petrology 26, 161-198, 19703) 鈴木和博, 地質学雑誌 第81巻 第8号, 487-504, 19754) K Suzuki, Contributions to Mineralogy and Petrology 61, 79-89, 19775) M Aoya et al., Journal of Metamorphic Geology 28, 895-914, 2010 6) L Borromeo et al., Journal of Raman Spectroscopy 48, 983-992, 2017

  • 吉岡 拓郎, 高木 秀雄
    セッションID: T2-P-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】 高温低圧型変成帯である領家変成帯は柳井地域,青山高原地域および三河地域などで変成分帯と詳細な変成条件の推定が行われてきた (例えば, Ikeda, 2004; Miyazaki, 2010).長野県高遠地域と駒ヶ根地域の領家変成帯ではそれぞれの地域において変成分帯がなされた (例えば, 牧本ほか, 1996; Hokada, 1998; Kawakami, 2004).しかし,両地域の統一的かつ詳細な変成分帯・変成条件の推定はいまだ行われていない.領家変成帯の全体像の解明のためにも,本地域の温度構造を明らかにすることは重要である.本研究は炭質物ラマン温度計と地質温度計・圧力計の適用,温度指標となる微細組織のマッピングおよび変成分帯の再検討を行うことで高遠−駒ヶ根地域の詳細な温度構造を明らかにすることを目的とする.【地質概要】 長野県高遠−駒ヶ根地域の領家変成帯は,砂岩・泥岩を主体とし,局所的にチャート・苦鉄質岩を原岩とする領家変成岩が南北走向の中央構造線 (MTL) および非持トーナル岩 (領家古期花崗岩類) の西側に広く分布する.領家変成帯は北西から南東へ向かってMTLに近づくにつれて黒雲母帯, 菫青石帯,珪線石帯,ざくろ石−珪線石帯へと変成度が上昇する (牧本ほか, 1996).黒雲母帯から菫青石帯の一部では,高遠花崗岩 (領家新期花崗岩類) による接触変成作用を重複して受けている.本研究ではざくろ石と菫青石の共生関係が観察されたことから,牧野ほか (1996) の設定したざくろ石−珪線石帯をざくろ石−菫青石帯に改めて再定義する.【研究手法と結果】 黒雲母帯から菫青石帯にかけて採取した泥質片岩中の炭質物を対象に炭質物ラマン温度計 (Aoya et al., 2010) を適用した.その結果,黒雲母帯内において変成温度の最大は∼630°Cを示した.高遠花崗岩の周辺の黒雲母帯から菫青石帯では広域変成作用に加え,接触変成作用による最高被熱温度の重複が確認された.ざくろ石−菫青石帯のざくろ石コアを対象にざくろ石−黒雲母−斜長石−石英圧力計 (Hoisch, 1990),ざくろ石−黒雲母温度計 (Hodges & Spear, 1982) を適用した結果,温度圧力条件を744−799°C,595−620 MPaと推定した.鉱物組み合わせ,部分溶融を示す斜長石,電気石などの分布をマッピングした.ざくろ石−菫青石の組み合わせ,また片理面と平行に配列する珪線石の分布は高遠湖を取り巻くような局所的なものであることが示された.【議論】  炭質物ラマン温度計の結果から,菫青石アイソグラッド (Hokada, 1996) を∼630−655°Cに制約し,菫青石帯中で炭質物ラマン温度計の推定温度の上限である655°Cに達することが推定された.また,菫青石アイソグラッド上の一部の地点では雲母類の無方向性を示し地下に伏在する新期花崗岩による接触変成作用の影響を受けていると考えられ,菫青石アイソグラッドはより高温側に引かれる可能性がある.この場合,黒雲母の等しい粒径を連ねた等粒径線 (高木ほか, 2005) および炭質物ラマン温度計により示された等温線とも調和的となる.この菫青石アイソグラッドに対し,珪線石およびざくろ石-菫青石アイソグラッドは地質図上にて西に張り出している.この変成帯の分布の特徴について,長濱・高木 (1985) は非持トーナル岩マイロナイト帯の線構造が高遠地域で鉛直に立っていることから,局所的な構造的変動が影響していると考えた.本発表では,新期花崗岩類による接触変成作用の評価や温度構造への影響を考慮した議論を行う予定である.【引用文献】Aoya et al. (2010) J. Metamorph. Geol., 28, 895–914; Hodges & Spear (1982) Am Mineral, 67, 1118–1134; Hoich (1990) Contrib Mineral Petrol, 104, 225–234; Hokada (1998) Isl. Arc., 7, 609–620; Ikeda (2004) Contrib Mineral Petrol, 146, 577–589; Miyazaki (2010) Lithos, 116, 287–299; Kawakami (2004) Trans. R. Soc. Edinburgh: Earth Sci., 95, 111–123; 牧本ほか (1996) 地域地質研究報告 (5万分の1地質図幅) 高遠地域の地質, 114; 長濱・高木 (1985) 日本地質学会学術大会第92年学術大会講演要旨, 494; 高木ほか (2005) 日本地球惑星科学連合2005年大会予稿集.

  • 原山 翔, 志村 俊昭
    セッションID: T2-P-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに 山口県光市の千坊山周辺地域は領家帯に属し、岩国-柳井地域の西側に位置している。岩国-柳井地域は、多くの研究者により詳細な変成分帯が行われている(Ikeda, 1993, 2004; Okudaira et al., 1993; Nakajima, 1994; Okudaira, 1996; Nakajima et al., 2016など)。例えばIkeda(1993, 2004)では、変成度の低い方から高い方へ、 緑泥石帯 緑泥石-黒雲母帯 黒雲母帯 白雲母-菫青石帯 カリ長石-菫青石帯 珪線石-カリ長石帯 ザクロ石-カリ長石帯 に変成分帯されている。この地域の領家変成岩類は、いずれの研究においても、基本的に北から南にむかって変成度が上昇していくが、南端では南から北に変成度が上昇しており、単純な配列でない。この原因について、断層や褶曲の影響が指摘されている(Okudaira et al., 1993; Okudaira, 1996; Skrzypek et al., 2016)。 宮下 (1996)は、千坊山周辺地域の南東、柳井地域の南西に位置する柳井半島-長島地域の領家変成岩について、Ikeda(1993, 2004)の変成分帯における珪線石-カリ長石帯の岩石が分布しているとしている。 千坊山周辺地域では、石塚ほか(2009)と宮崎ほか(2016)により20万分の1地質図幅が作成されており、変成分帯は以下のように行われている。 黒雲母帯 カリ長石珪線石帯 ざくろ石菫青石帯 この分帯によると、この地域では南から北にむかって変成度が上昇しているとされている。  本研究では、千坊山周辺地域の変成分帯を行ったので、その解析結果について説明する。地質概説 千坊山周辺地域は全域に変成岩類が分布しており、泥質片麻岩、砂質片麻岩、珪質片麻岩に分けられる。泥質片麻岩と砂質片麻岩は、縞状片麻岩である。変成岩類の露頭では、片理面や鉱物線構造が観察できる。片理面の走向はNE-SW方向、傾斜はNW方向のものが多くみられる。線構造はN~W方向のトレンドと1~30°のプランジを持つものが多い。露頭スケールの褶曲も多く観察できる。褶曲には開いた平行褶曲が多い。また、局所的に花崗岩類の貫入も見られる。 変成分帯 千坊山周辺地域の泥質片麻岩について、南から北へ、以下のように変成分帯出来ることが分かった。泥質片麻岩の主要な鉱物組み合わせは以下の通りである。 白雲母帯 : Ms + Bt + Chl + Qz + Pl 珪線石-カリ長石帯 : Bt + Kfs + Sil + Qz + Pl 菫青石-カリ長石帯 : Bt + Kfs + Sil + Crd + Qz + Pl ザクロ石-菫青石帯 : Bt + Kfs + Crd + Grt + Qz + Plこの変成分帯をIkeda(1993, 2004)の変成分帯と対応させると、以下のようになる。 本研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・Ikeda(1993, 2004) 白雲母帯・・・・・・・・・・・・・・・・・緑泥石-黒雲母帯 珪線石-カリ長石帯、菫青石-カリ長石帯・・・珪線石-カリ長石帯 ザクロ石-菫青石帯・・・・・・・・・・・・・ザクロ石-菫青石帯 珪線石-カリ長石帯と菫青石-カリ長石帯の境界は菫青石出現アイソグラッド、菫青石-カリ長石帯とザクロ石-菫青石帯の間はBt + Sil = Grt + Crd + Kfs + H2Oの反応アイソグラッドで定義される。この変成分帯から、本地域は基本的に南から北に向かって変成度が上昇していることが分かった。なお、白雲母帯と珪線石-カリ長石帯の間は露欠のため、アイソグラッドかどうかの検討は現状ではできていない。また、珪線石-カリ長石帯と菫青石-カリ長石帯の境界は、単純に南から北へ変成度が上昇するのではなく、菫青石-カリ長石帯の北側に珪線石-カリ長石帯が見られる場所もある。この変成分帯の配列は、岩国-柳井地域のものと異なっている。引用文献 Ikeda (1993) Lithos, 30, 109-121Ikeda (2004) CMP., 146, 577–589.石塚ほか (2009) 20万分の1地質図幅「中津」. 産総研. 宮下 (1996) 地質雑, 102, 84-104. 宮崎ほか (2016) 20万分の1地質図幅「松山」(第2版). 産総研. Nakajima (1994) Lithos, 33, 51-66. Nakajima et al. (2016) In Moreno et al. Eds., The Geology of Japan. Geological Society, London, 251-272.Okudaira (1996) Isl. Arc, 5, 373-385. Okudaira et al. (1993) Mem., Geol. Soc. Japan, 42, 91–120. Skrzypek et al. (2016) Lithos, 206, 9-27.

  • 林 里沙, 池田 剛
    セッションID: T2-P-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    変成鉱物は温度圧力の変化に伴い核形成し成長する。その鉱物の内部組織、粒径、モードなどの微細構造の特徴はこの温度圧力変化を反映し、化学組成のデータと併せて結晶の成長過程を制約することができる。本研究では、柳井地域領家変成帯の最高変成度地域に産するザクロ石の微細構造の違いを圧力の違いで説明し、ザクロ石の成長過程を明らかにすることを試みた。 本地域の高変成度地域は変成度の上昇に伴い、カリ長石-菫青石帯、珪線石-カリ長石帯、ザクロ石-菫青石帯に分帯され、ザクロ石-菫青石アイソグラッドは次の不連続反応で定義される。 黒雲母+珪線石+石英=ザクロ石+菫青石+カリ長石+メルト   (1)  ザクロ石-菫青石帯はザクロ石、菫青石、黒雲母の共存で定義され、東西に広範囲に分布する。ザクロ石-菫青石帯の温度圧力条件は東に向かって630℃,1.9kbarから870℃,5.7kbarに上昇する。偏在するザクロ石のモードは東に向かって増加する一方、数密度は減少する。つまり、東に向かって平均粒径は増大する。但し、最小粒径は東西ともに約0.02mmで、最大粒径が西部で0.23mm、東部で0.77mmに達する。このザクロ石の結晶サイズ分布(CSD)は、東部、西部共に粗粒側に尾を引く形状を示す。 このようなザクロ石の微細構造とCSDの東西の違いは、AFM図を用いて次のように圧力の違いで説明できる。ザクロ石、菫青石、黒雲母の3相のMg/(Fe+Mg)は、圧力の増加と共に増大する。このことは、同じバルク組成では高圧ほどザクロ石のモードが高くなることを意味し、今回の結果と調和的である。このモードの違いに加え、ザクロ石の形成過程も圧力によって異なると考えられる。高圧地域では、反応(1)とそれより低温の以下の反応によってザクロ石が形成される。 黒雲母+珪線石+石英=ザクロ石+カリ長石+メルト    (2) 反応(2)は連続反応で、温度の上昇と共にザクロ石のモードは連続的に増加する。それに対して低圧地域では、反応(1)以前にはザクロ石は存在せず、不連続反応(1)によって核形成-成長する。つまり高圧のザクロ石は最初、反応(2)で核形成-成長し、既存のザクロ石に反応(1)によって被覆成長するため数密度が低く粗粒になる。一方低圧のザクロ石は、不連続反応(1)で核形成するため数密度が高く細粒になると考えられる。 このようなザクロ石の化学組成は不均質で、コアからリムにかけてMg/(Fe+Mg)(以下#Mg)が減少し、Mn含有量が増加する。また、ザクロ石の#Mgは岩石内でも不均質で、粗粒なコアほど高い値を示す。ザクロ石に向かって黒雲母のTi含有量は減少し、#Mgは増加する。この変化は以下の置換で表現される: NaTi2[ ]Al↔[ ]Al2MgSi Mnに富むザクロ石のリムとTiに乏しい黒雲母が接することは後退変成作用時に形成したことを示唆するので、この置換は温度降下に伴う黒雲母の組成変化を表している。 以上を踏まえると、本地域のザクロ石-菫青石帯中のザクロ石は到達圧力で形成時期と過程が異なっていたと推測される。

  • 椿 陽仁, 志村 俊昭
    セッションID: T2-P-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに 愛媛県高縄半島に分布する変成岩類と白亜紀花崗岩類は,領家変成帯に属している.この地域の花崗岩類は,トーナル岩質岩・花崗閃緑岩・花崗岩の3つの岩相に分類されている(越智, 1982).この分類に基づきジルコンU-Pb年代の測定が行われており,本発表研究地域に分布する湯ノ山花崗岩の年代は,98.8 ± 1.0 Maとされている(Shimooka et al., 2019). この地域の変成岩類は,半島基部に東西方向に狭長に分布しているほか,花崗岩体中にゼノブロックとしても分布している.これまでの研究による最高変成度での泥質片麻岩の鉱物組合せは,以下のとおりである.野戸(1975):Crd,Bt,Pl,Qz越智(1982):Crd,Kfs,Grt,Ms,Bt,Pl,Qz鳥海ほか(1991):Crd,Kfs,Grt,Ms,Bt,Pl,Qz高縄半島の領家帯の最高変成度での鉱物共生は,菫青石+カリ長石共生(宮崎ほか,2016)である.鉱物組合せでは上記のようにざくろ石と菫青石が含まれる泥質片麻岩の報告はされているが,ざくろ石+菫青石共生は今まで報告されていない.本研究地域の地質概説 本研究地域は,半島基部の変成岩類が分布する愛媛県松山市東部に位置する.本地域の花崗岩類は,角閃石黒雲母花崗岩体と黒雲母花崗岩体の2つの岩体に分けられる.両者は,越智(1982)の松山花崗閃緑岩(角閃石黒雲母花崗岩体),湯ノ山花崗岩(黒雲母花崗岩体)にそれぞれ対応する.どちらの花崗岩体も変成岩類の片理面に対して非調和的に貫入している.また,黒雲母花崗岩の岩脈が,半島基部の変成岩体と角閃石黒雲母花崗岩体に貫入している. 本地域の変成岩類は,半島基部の岩体と角閃石黒雲母花崗岩中のゼノブロックに分けられる.変成岩類には砂泥質片麻岩と珪質片麻岩,一部で苦鉄質片麻岩と石灰珪質片麻岩が見られる.また,珪質片麻岩・苦鉄質片麻岩・石灰珪質片麻岩は,砂泥質片麻岩中にレンズ状に産する.ゼノブロックには ,砂泥質片麻岩と珪質片麻岩が見られる.変成分帯 変成分帯については,本地域の泥質片麻岩(半島基部の岩体とゼノブロック)に産する鉱物(片理と調和的に産する鉱物)組合せに基づいて検討した.その結果は,以下のとおりである.また,本地域の変成度は,以下の結果より,南東から北西方向に上昇している.※ 以下の結果は,低変成度側から高変成度側へ,順番に示している.※ ()は稀に産するという意味である.黒雲母帯 Bt,Ms,Pl,Qz,(Chl)菫青石帯 Crd,Bt,Ms,Pl,Qz Grt,Bt,Ms,Pl,Qzカリ長石帯 Kfs,Crd,Bt,Pl,Qz,(Ms),(Tur) Kfs,Grt,Bt,Pl,Qz,(Ms),(Tur)ざくろ石帯 Grt,Kfs,Crd,Bt,Pl,Qz,(Ms),(Tur)ゼノブロック Grt,Crd,Bt,Pl,Qz,Tur岩石組織 ざくろ石帯とゼノブロックで見られる岩石組織は,以下のとおりである.ざくろ石帯:菫青石とカリ長石が密接に産し,それらを切るようにざくろ石が産する.また,白雲母は稀に片理と調和的なものが産する.ゼノブロック:カリ長石は産せず,ざくろ石と菫青石が密接に産する(下記のCOMPO像).また,白雲母は,片理と調和的なものは産せず,菫青石を切っているものが産する.鉱物化学組成 各分帯とゼノブロックのざくろ石の鉱物化学組成は,以下のとおりである. 菫青石帯:Alm36.9-52.3Sps37.2-54.2Prp3.7-5.8Grs3.2-5.6ざくろ石帯:Alm65.3-66.6Sps22.3-21.5Prp7.2-8.8Grs2.2-2.5ゼノブロック:Alm70.5-73.3Sps14.7-25.2Prp4.3-10.1Grs1.9-3.1ざくろ石の組成は,菫青石帯からゼノブロックにかけてspessartine 成分が減少し,almandine成分とpyrope成分が増加している.考察 本地域の花崗岩類は,貫入関係より,ゼノブロックを含む角閃石黒雲母花崗岩体のほうが,黒雲母花崗岩体より古いと考えられる.そして,本地域の最高変成度の変成岩は,ゼノブロックのものだと考えられる.また,ゼノブロックの泥質片麻岩は,ざくろ石と菫青石が平衡共存する変成度に達していたと考えられる.引用文献宮崎ほか (2016) 20万分の1地質図幅「松山」(第2版). 産総研.野戸 (1975) 地質学雑誌, 81, 59-66.越智 (1982) 地質学雑誌, 88, 511-522.Shimooka et al. (2019) JMPS, 114, 284-289.鳥海ほか (1991) 日本の地質「四国地方」. 日本の地質「四国地方」編集委員会, 6-8.

  • 北野 一平
    セッションID: T2-P-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    クリソベリル(金緑石)はBeを含む代表的な鉱物で,アレキサンドライトの名の宝石としてもよく知られている.本邦では,日本三大ペグマタイト産地として知られる,福島県石川地方および岐阜県苗木地方において白亜紀のペグマタイトからクリソベリルの産出が報告されているのみであった(例えば河田,1961;大野ほか,2005).しかしながら,本研究では,栃木県西部足尾山地で最近見出された片麻岩(北野,2022)から,鏡下観察およびラマン分光分析結果に基づいてクリソベリルの産状を確認した.変成岩中に産出するクリソベリルとして本邦初の報告になると考えられる.片麻岩中のクリソベリルの産状と組織,主要化学組成の特徴を報告し,その意義について考察する. 栃木県西部足尾山地には,足尾帯のジュラ紀付加体が広く分布し後期白亜紀~前期古第三紀の花崗岩類に貫入されている.分析試料の片麻岩は数cm厚の珪質層と数mm厚の雲母質層からなり,主な鉱物組み合わせは黒雲母,白雲母,フィブロライト,紅柱石,カリ長石,石英で,少量のルチル,アパタイト,電気石,ジルコン,クリソベリルを伴う.クリソベリルは,主に細粒な黒雲母,白雲母,フィブロライト,粗粒な紅柱石からなる雲母質層にのみ産する.半自形~他形(融食形)で最大0.22 mmの粒径をしめし,双晶を成し面構造に沿って配列している.黒雲母,白雲母,石英,フィブロライト,ルチルと接し,中心部にアパタイト,フローレンス石((La,Ce,Nd)Al3(PO4)2(OH)6),ルチルを包有している.一部,クラックに細粒白雲母が充填されている.他形のクリソベリルはAl2O3 = 77.87­–80.30 wt%, TiO2 = 0.13­–2.54 wt%, Cr2O3 = 0.02­–0.11 wt%, FeO = 0.31­–0.46 wt%の化学組成をしめし,半自形のものはAl2O3 = 78.15–80.33 wt%, TiO2 = 0.30­–2.08 wt%, Cr2O3 = 0.04–0.12 wt%, FeO = 0.37–0.58 wt%の化学組成をもつ.これらのクリソベリルは,Merino et al. (2013)のFeO–Al2O3図およびTiO2–FeO–Cr2O3図でペグマタイト質~花崗岩質岩起源のものと類似した組成をしめすものの,後者の図において一部のクリソベリルの縁部の組成はペグマタイト質~花崗岩質岩起源の組成範囲から外れる. 一般に,変成岩中のクリソベリルはベリル(緑柱石)を消費して形成されるが(Franz et al., 2002),本試料中にベリルは確認されていない.本片麻岩中に含まれるクリソベリルは半自形で,中心部に希土類元素を含有するリン酸塩鉱物を包有し,ペグマタイト質~花崗岩質岩起源のクリソベリルに類似する組成を呈することから,Merino et al. (2013)で報告されているようなパーアルミナスで分化した花崗岩質岩を起源とする可能性が推察される.一方で,一部のクリソベリルは融食形を呈し,定向配列するフィブロライトなどと接し,比較的変成作用起源の組成領域に近い化学組成をしめす.以上の結果から,火成起源のクリソベリルが局所的に高温変成作用により再結晶化したことが推察される.本片麻岩の最高変成条件は約580–600 °C,>4.5 kbarと見積もられており,Beurlen et al. (2013)で報告されている珪線石+クリソベリル+石英を含む変ペグマタイトの変成条件(約600 °C, 3.5–5 kbar)と類似し,Franz and Morteani (1981)のクリソベリル+石英の安定領域内にあたる.北野(2022)の片麻岩の記載岩石学的特徴と組み合わせると,海底下で原岩の層状チャート形成時に,大陸側に存在したパーアルミナスで分化した花崗岩質岩からクリソベリルを含む泥質の砕屑物が供給された後,延性変形を伴う高温変成作用を被り,一部のクリソベリルは再結晶化した過程が考察される.しかしながら,この考察の具体化には更なる広域調査と年代解析などの分析が必要である. 引用文献 Beurlen et al. (2013) Journal of Geosciences, Franz and Morteani (1981) Neues Jahrbuch für Mineralogie – Abhandlungen, Franz and Morteani (2002) in Reviews in Mineralogy and Geochemistry, 河田(1961)5万分の1地質図幅説明書「付知」,北野ほか(2022)日本地質学会第129年学術大会要旨,Merino et al. (2013) Lithos, 大野ほか(2005)地質ニュース

  • 大和田 正明, 宮下 由香里, 佐藤 大介, 小山内 康人, 北野 一平
    セッションID: T2-P-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    領家深成変成コンプレックスは,白亜紀の低圧高温型変成岩と花崗岩を主体とする深成岩から構成される複合岩体で,中央構造線の北側に位置し東西約800kmにわたり追跡できる.山口県東部の柳井地域には,領家深成変成コンプレックスが広く露出している(東元ほか,1983,5万分の1図幅「岩国地域の地質」;宮崎ほか,2016,20万分の1地質図幅「松山」第2版).近年,機器分析技術の進歩によってジルコンU–Pb年代測定が多くの変成岩や花崗岩体から報告されるようになり,変成岩の熱源が議論されるようになってきた(Skrzypek et al., 2016, Lithos, 260, 9–27).  地質調査総合センターでは,5万分の1地質図幅「久賀」を作成している.「久賀」は柳井市の南東部,瀬戸内海島嶼部に位置し,図郭は屋代島と周辺の島嶼部を含み,主に領家深成変成複コンプレックスと瀬戸内火山岩類が分布する.調査地域の大部分は岩相の異なる複数の花崗岩類から構成され,東部の島嶼部と屋代島の西部に少量の変成岩を伴う(宮下ほか,2018,日本地質学会第125年学術大会講演要旨,R5-P-26).宮下ほか(2018同)は,岩相の差異により花崗岩類を区分し,それらのジルコンU–Pb年代を報告した.また,屋代島の南に位置する笹島から,16 MaのジルコンU–Pb年代を示すドレライトを報告した.この年代値は,瀬戸内火山岩類の活動年代としてはやや古い年代値を示す.本発表では,「久賀」図幅内に産する花崗岩類について,新たなデータを加えて,周辺地域に分布する白亜紀花崗岩類と比較しつつ,花崗岩類の特徴,火成活動史そして変成岩との関係について報告する. 調査地域の花崗岩類は,鉱物組み合わせと岩相の特徴に基づき,1) 角閃石-黒雲母花崗岩,2) 黒雲母花崗岩,3) 優白質黒雲母花崗岩に大別できる(宮下ほか,2018同).角閃石-黒雲母花崗岩は屋代島東半部,同中央部北日前(ひくま)周辺,小伊保田,情島,沖家室島に分布する.粗粒で暗色包有物 (MME)を多く含む.MMEの量と花崗岩中の角閃石の量は比例する.この岩相のジルコンU–Pb年代は,情島と小伊保田で105〜101 Ma,屋代島中央部付近では,97〜100 Maである.  黒雲母花崗岩は屋代島の中央部〜西部の大部分を占め,周辺の小島(浮島,黒島,前島)と愛媛県に属する津和地島にも分布する.黒雲母花崗岩は屋代島西部や黒島,前島で,変成岩をブロックとして取り込んでいる.中粒から粗粒な岩相が多いが,細粒部も存在する.また,最大5 cmに達する斑晶状のアルカリ長石を伴うことがある.アルカリ長石斑晶を含む岩相は,一般に優白質である.MMEを伴うところでは,しばしば角閃石を含む.こうした岩相の多様性は,黒雲母花崗岩マグマの結晶分化作用,変成岩との同化作用,そしてより苦鉄質マグマとのマグマ同士での共存(マグマ混交作用)によって生じた.ジルコンU–Pb年代は,津和地島と前島の中粒黒雲母花崗岩で101 Ma,その他の地域では,多様な岩相であっても95〜98 Maを示す.一方,屋代島西部のアルカリ長石の斑晶を含む中〜細粒黒雲母花崗岩の年代値はやや若く88 Maである. 優白質黒雲母花崗岩は,屋代島の東部〜中央部にかけてストック状または岩脈として産する.細粒から中粒で,黒雲母と白雲母を含み,部分的にざくろ石を含む.前者は屋代島中央部の片添ヶ浜周辺,後者は東部の小泊から馬ヶ原に,それぞれ小規模な岩体として分布する.化学組成は過アルミナ質で,泥質岩の部分溶融実験で得られるマグマ組成と類似する.馬ヶ原の東に岩脈として産する優白質黒雲母花崗岩のジルコンU–Pb年代は97 Maを示す.  屋代島及び周辺の島嶼部に産する花崗岩類の活動年代は105〜88 Maで,柳井地域や愛媛県の高輪半島に分布する花崗岩類と同じ年代幅を示す.一方,九州にも白亜紀の花崗岩類が分布し,これらはジルコンU–Pb年代と分布によって以下の通り3区分される(Tsutumi et al., 2022, Is Arc; 31:e12446);I) 肥後帯,120〜105 Ma,II) 中部九州,117〜105 Ma, III) 北部九州,112〜94 Ma.これらの活動年代はいずれも山口県から愛媛県に分布する花崗岩類よりも古い傾向にあり,相対的に見て九州〜愛媛県・山口県の白亜紀火成活動は西から東へ活動時期が若くなる傾向を示す.また,各地域に分布する低圧高温型変成岩の変成年代と火成活動の年代値はほぼ重なることから,こうした火成活動が変成岩形成の熱源になっていたと考えられる.

  • 遠藤 俊祐, 崎 海斗, 八木 公史
    セッションID: T2-P-12
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに太平洋北西域の海洋プレート沈み込みにより形成された中生代付加体の海洋プレート層序を復元すると,白亜紀中頃を境に海洋プレートの特徴が急変したことが示唆され,関連して様々なモデルが提案されている(e.g. Ueda and Miyashita 2005; Boschman et al. 2021).ジュラ紀~前期白亜紀の付加体中には石炭紀~トリアス紀石灰岩を伴う海洋島玄武岩(OIB)が多産し,多数の海山を載せた古い海洋プレートがこれら付加体の形成に関与した.一方,後期白亜紀(100Ma以降)の四万十付加体や三波川変成岩では,苦鉄質岩は主に中央海嶺玄武岩(MORB)起源であり,イザナギプレートの海洋地殻に相当する.四万十付加体や三波川変成岩にホットスポット海山の痕跡(OIB+石灰岩)はほとんど知られていない.代わりに,四国の三波川変成岩に小規模なアルカリ玄武岩を原岩とするものが存在し,プチスポットのような小規模プレート内火成活動が想定された(Endo et al. 2018).これら変成アルカリ玄武岩の産状,地球化学的特徴およびK-Ar年代を報告する.地質概要と産状四国三波川帯の主要部を占める白滝ユニットは側方連続性の良いMORB起源の苦鉄質片岩を伴うことにより特徴づけられる.しかし,白滝ユニットの下部(低変成度域)ではまだMORBの大規模付加は始まっておらず,泥質・砂質片岩を主とし,稀に小規模な変成アルカリ玄武岩が認められる(Endo et al. 2018).このような関係を高知県大豊地域(緑泥石帯低温部:300℃)と愛媛県西条市の桜樹屈曲域(緑泥石帯高温部:400℃)の二地域で観察した.大豊地域の変成アルカリ玄武岩は幅3 m以下のシート状岩体として泥質片岩卓越部に産するが,泥質片岩との境界に必ず薄い珪質片岩が介在し,シート状岩体には細粒周縁相も認められる.桜樹屈曲域の変成アルカリ玄武岩はMORB起源の苦鉄質片岩層の直下の薄い珪質片岩中に幅1-4 mの褶曲したシート状岩体として産する.両地域の変成アルカリ玄武岩の産状から,遠洋性堆積物に貫入したシルが原岩と推定される.岩石記載大豊地域の変成アルカリ玄武岩は褐色自形のケルスート閃石と少量のチタン輝石(Tiに富むディオプサイド),針状アパタイトを残留鉱物として含む.ケルスート閃石のリムやブーディンネックにはアクチノ閃石が生じている.桜樹屈曲域では,変成アルカリ玄武岩中の残留火成鉱物は僅かであるが,二タイプに分類できる.タイプ1はケルスート閃石仮像とみられる粗粒のアルカリ角閃石(フェロ藍閃石)を特徴的に含む.また大部分が変成アルカリ輝石に置換されたチタン輝石も少量含まれる.タイプ2は著量のチタン輝石仮像(変成アルカリ輝石)やアパタイト,炭酸塩を含む.また残留変質鉱物として濃緑~褐色の多色性が顕著なTiに富むエジリンやNa-Nb-Zrに富むチタナイトがみられる.地球化学的特徴大豊地域および桜樹屈曲域のタイプ1とタイプ2の変成アルカリ玄武岩の微量元素パターンは,不適合元素に富むアルカリOIBの特徴を示す.また,プチスポットのアルカリ玄武岩(Hirano and Machida 2022)と同様に,Zr-HfやTiの負異常,高Zr/Hf比といったカーボナタイトのフィンガープリントが認められ,不適合元素に富むタイプ2でより顕著である.CO2に富むマントルを融解源とし,部分融解度の上昇とともにタイプ2からタイプ1に変化したと考えられる.K-Ar年代大豊地域の二地点の試料から残留鉱物のケルスート閃石を分離し,K-Ar年代測定を行った.二試料の年代値(108.6±2.4 Ma,110.1±2.4 Ma)は誤差の範囲で一致した.K-Ar系の角閃石の閉鎖温度(500~700℃:例えば,兼岡,1998)は同地域の変成温度より有意に高いため,得られた年代値は原岩年代と解釈できる.また,これらの年代値は白滝ユニットのMORBの形成年代(約150 Ma: Nozaki et al.2013)と白滝ユニット下部の砂質片岩の砕屑性ジルコン年代の最若集団(約95 Ma:Endo et al. 2018)の中間であり,イザナギプレート上のプレート内火成活動として矛盾しない.文献Boschman et al. (2021) Tectonics 40, e2019TC005673;Endo et al. (2018) IAR 27, e12261; Hirano and Machida (2022) Commun. Earth Environ. 3, 110; 兼岡(1998)年代測定概論,315p;Nozaki et al. (2013) Sci. Rep. 3, 1889; Ueda and Miyashita (2005) IAR 14, 582-598

  • 小林 記之
    セッションID: T2-P-13
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    部分溶融を伴った高度変成岩やミグマタイトの研究は、下部地殻での部分溶融過程及び生成されたメルトの分離・移動プロセスを理解する上で非常に重要である。九州中部肥後変成帯は、高温低圧型(high-T/P)の変成帯とされており、高温部には高度変成岩類である泥質片麻岩とともにミグマタイトが産し、その変成度は高温部で、角閃岩相からグラニュライト相に達している(e.g. Obata et al., 1994; Osanai et al., 1996)。肥後変成帯は、永川ほか (1992)の鉱物組み合わせによってAからEの5帯に変成分帯され変成度は北から南に向かい上昇しているとされており、高温部のD帯はザクロ石(Grt)+菫青石(Crd)の鉱物共生の出現、E帯では、斜方輝石(Opx)の出現および珪線石(Sil)、菫青石(Crd)の消失で特徴づけられている。この高温部では、部分的にMaki et al. (2004)やMiyazaki (2004)によって、変成分帯の再構築がなされている。肥後変成帯高温部にはミグマタイトが産しており、このミグマタイトは、その場での部分溶融により生じたこと、高温部からは全岩組成を変えるほどのK成分にとんだメルト(優白質花崗岩)が低温部へと抜け出ることにより、高温部のE帯のミグマタイトはレスタイト的に変化した可能性が指摘されている(Kobayashi et al., 2005)。さらに、部分溶融によって形成されたメルトは低温部へと抜け出る際に、熱を輸送するキャリアーとなっているとともに(Miyazaki,2004)、元素移動のキャリアーとして重要な役割を果たしていると考えられている。また、小林ほか (2010)は、全岩化学組成分析から得られた、微量元素組成を用いてモデル計算を実施し、九州中部肥後変成帯最高温部では部分溶融度が30%程度にまで達していた可能性を示唆した。 本研究では、熱力学的解析の「シュードセクション法」を用いて、高度変成岩の解析を行い、九州中部肥後変成帯の変成分帯、変成温度圧力見積もりの推定値との比較、および部分溶融度の推定比較を実施した。シュードセクション法の解析には、Kobayashi et al. (2005)によって報告されている、肥後変成帯に産する泥質片麻岩の平均全岩化学組成を用いた。また、シュードセクション法の解析では、de Capitani & Petrakakis (2010)のTheriak-Domino softwareを用いて、NCKFMASHT系のシステムで、1.0 wt% のH2Oを仮定して計算した。その結果、D帯を特徴づけるザクロ石(Grt)+菫青石(Crd)の鉱物共生は、700-850℃、4-7 kbarの範囲に出現し、E帯を特徴づける斜方輝石(Opx)の出現および珪線石(Sil)、菫青石(Crd)の消失領域は、D帯の温度圧力領域より高温高圧側に分布し、>850℃、>5 kbarの範囲に出現することが明らかとなった。また、シュードセクション法の解析と、D帯の従来の変成温度圧力見積もり(e.g. Obata et al., 1994; Osanai et al., 1996) は調和的である。一方で、本研究のE帯のシュードセクション法の解析では、従来の地質学的温度圧力計を用いた変成温度圧力見積もりと概ね調和的であるが、若干、高温高圧条件が推定された。さらに、シュードセクション法の解析から、E帯での部分溶融メルトは>30 vol%に達することがシュードセクション法の計算により推定された。この結果は、小林ほか (2010) による、全岩化学組成のモデル計算で求められた、E帯の部分溶融度推定の30%程度とも整合的である。【引用文献】 Obata et al. (1994), Lithos, v. 32, p. 135-147. Osanai et al. (1996), Japan. Tectonics and Metamorphism, SOUBUN Co., Ltd., p. 113-124. 永川ほか (1992),日本地質学会第99年大会見学旅行案内書, p33-49. Maki et al. (2004), Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, v.99, p. 1-18. Miyazaki (2004), Journal of Metamorphic Geology, v. 22 (9), p. 793-809. Kobayashi et al. (2005), Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, v. 100, p. 1-25. 小林ほか (2010), 日本地球惑星科学連合2010年大会, SMP055-P08 de Capitani & Petrakakis (2010), American Mineralogist 95, 1006-1016.

  • 三上 航大, 水上 知行
    セッションID: T2-P-14
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    飛騨帯は、地殻深部由来の岩石を主体とする地質帯で、泥質、石英長石質、塩基性、石灰質の変成岩とそれに貫入する深成岩類からなる。東は富山県宇奈月から西は隠岐まで分布し、飛騨山地を主要部とする。変成岩は優白質部と優黒質部が不均質に混在する複雑な構造を有しており、加納(1981)は記載岩石学的な立場からこれをミグマタイトと称した。ミグマタイトの成因として部分溶融に伴う分離が考えられる(優白質部はメルト、優黒質部は溶け残りとする)が、飛騨帯では岩石学的に検討した研究はない。鈴木ほか(1989)がザクロ石-黒雲母温度計を適用して、北西側(内帯)は〜650℃、南東部(外帯)は〜720℃の条件を見積ったが、この温度構造と無関係に、より高温条件を示唆する鉱物共生が断片的に見つかっている。この高温イベントの実態を明らかにするため、本研究では、飛騨帯北西部(内帯)に位置する高清水岩体に産するミグマタイト構造を呈する変成岩に注目し、岩石学的研究を行なった。 高清水岩体の変成岩は、石英、斜長石を主成分とし、卓越するマフィック鉱物の種類によって黒雲母岩、角閃石岩、石英長石質岩(マフィック鉱物<10%)に分類することができる。これに加えて方解石を主成分とする石灰質岩が産する。黒雲母岩、角閃石岩共にマフィック鉱物の濃淡によるミグマタイト構造が発達する。岩体の西側では粒径0.1-0.4mmで片状構造が発達し、粒径1mm程度の組織は稜線付近で観察される。 黒雲母岩の特徴的な鉱物共生として、(1)ザクロ石-菫青石、(2)珪線石-黒雲母-ザクロ石、(3)珪線石-黒雲母-十字石、(4)黒雲母±ザクロ石を確認した。共生(1)は比較的粗粒、それ以外は片状構造が特徴的である。(1)、(2)、(3)は温度低下に伴う共生変化と解釈できる。また、十字石は褐色の変質部分に細粒の半自形から自形の粒子群として見つかる。紅柱石は珪線石を内包して斑状変晶をなす。これらは庄川花こう岩の熱変成作用による産物と考えられる。優黒質部に残存するザクロ石-珪線石-スピネル共晶がザクロ石-黒雲母温度計による推定温度(650℃、鈴木ほか(1989))よりも高温のピーク条件を示唆する。 鉱物共生と優白質-優黒質のバリエーションをカバーする試料群に石英長石質岩を加えて、XRFによる全岩化学組成の分析を行なった。石英長石質岩はKに乏しく、庄川花崗岩の組成とは明らかに異なる。また、黒雲母岩の組成は一般的な泥質岩の組成よりもCaに富み、Kに乏しい。飛騨帯の他地域の変成岩組成とACF図上で比較すると、高清水岩体の黒雲母岩の組成分布は小鳥川-水無地域の黒雲母岩の組成分布と類似していることが明らかになった。これに対して、神岡-和田川地域の変成岩組成は黒雲母岩、角閃石岩ともにホルンブレンド組成を端成分とする変化を示し、上記2地域のものとは異なる。 高清水岩体の黒雲母岩の組成をACF図にプロットすると石英長石質岩とザクロ石-菫青石の組成混合線の間に分布し、SiO2(wt%)が低いものほどザクロ石と菫青石の混合組成に近く、高いものは石英長石質岩付近にプロットされる。上記の関係はSiO2/Al2O3に対して他の成分をプロットしても矛盾なく説明できる。 この岩石の多様性を説明できる解釈として、部分溶融(ミグマタイトモデル)が考えられる。すなわち、メルト成分は石英長石質岩で代表され、溶け残り成分はザクロ石+菫青石であり、黒雲母岩の組成幅はメルト成分の離脱の程度を反映している、と見る。このモデルを検証するためには、微量元素も含めて固液分離で説明できるか、また、高清水岩体のピーク温度条件が黒雲母岩におけるザクロ石+菫青石+メルトの共存条件を合致するかを検討する必要がある。<引用文献> 加納隆 (1981). 飛騨変成帯のミグマタイト構造. 地質雑, 87(5), 315–328. 鈴木盛久, 中沢伸治, 刑部哲也 (1989). 飛騨帯の構造発達史-変成履歴と後期石炭紀〜三畳紀の変動について-. 地質学論集, 33, 1–10.

  • 【ハイライト講演】
    西 玄偉, 田口 知樹, 小林 記之
    セッションID: T2-P-15
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    ポホリェ山地は東アルプス・スロベニア北東部に位置し、超高圧変成作用を経験した泥質片麻岩やエクロジャイト等が広く産出する(Vrabec et al., 2012 Lithos; Janák et al., 2015 JMG)。当地域は、ざくろ石中のマイクロダイヤモンド及びコース石仮像の存在や熱力学的解析により、ピーク変成作用時に超高圧条件(> 3 GPa)を経験したと考えられている。これまで先行研究の多くは、当地域におけるピーク変成条件の復元に焦点が当てられてきた。しかし近年、超高圧変成岩体の産出は限定的であるという指摘(Li et al., 2021 JMG)もあり、ポホリェ地域における詳細な変成進化過程の解明が求められている。プレート沈み込みから衝突に至る一連の変成史を理解する上で、変成岩に記録されるプログレード期の情報抽出は不可欠である。本研究は、ポホリェ山地に産する藍晶石エクロジャイトを対象に、ラマン分光学及び熱力学的アプローチに基づく包有物岩石学の視点からプログレード変成履歴を検証した。 本試料は沈積岩由来の全岩化学組成を有し、その基質部ではエクロジャイト相の鉱物共生が認められる:ざくろ石+オンファス輝石(XJd = 0.24–0.33)+藍晶石+石英+ルチル±普通角閃石±灰簾石±白雲母。ざくろ石は半自形の斑状変晶(数mm–3 cm)として産する。我々は本試料のざくろ石組成情報を報告済みであり(西ほか,2022 地質学会講演要旨)、その特徴はグロシュラー成分が結晶中心部から最外縁部へ僅かな単調減少を示すが、パイロープ成分は中心部から外縁部に向かい減少した後、再び最外縁部で増加することにある。ざくろ石の組成累帯構造と包有物共生の変化には対応関係が認められ、本研究ではコア部・マントル部・インナーリム部・アウターリム部と定義した。ざくろ石コア部では藍晶石+灰簾石の包有鉱物が広く認められ、これらは原岩の斜長石に由来する分解生成物と解釈できる。マントル部の鉱物共生は、藍晶石+灰簾石+角閃石+緑泥石+Mg十字石(XMg = 0.56–0.64)により特徴付けられる。Mg十字石はその化学組成傾向から生成時の環境場を推定できる(中村,2004 岩石鉱物科学)。そこで今回、中村(2004 岩石鉱物科学)のデータセットに加え、世界各地の変成岩で報告されたMg十字石の組成データを新たにまとめ、本試料との比較検証を行った。その結果、ざくろ石マントル部にのみ観察される十字石は、高圧かつSiO2不飽和環境で形成されたことが示された。ざくろ石インナーリム部では、藍晶石+角閃石+白雲母+石英+オンファス輝石+赤鉄鉱+ルチル±灰簾石が観察される。一方、ざくろ石アウターリム部は清澄であり、藍晶石包有物のみが認められる。 石英の安定領域変化を検討するため、MnNCKFMASHTO系に関するシュードセクション図を作成した。その結果、石英初出線が高圧側に位置し、プログレード期全体で普遍的に産出しないことが示された。実際、石英包有物の分布がざくろ石インナーリム部に限定されること、及びMg十字石がマントル部にのみ産し石英と共存しない事実と矛盾しない。また、石英ラマン圧力計(Kouketsu et al., 2014 AM)をざくろ石インナーリム部の石英に適用した結果、P/T= 約2.3–2.4 GPa/ 740–770 °Cの変成条件が見積もられた(変成温度値はざくろ石―単斜輝石温度計に基づく)。先行研究で報告されたMg十字石の安定領域(Gil-Ibarguchi et al., 1991 AM; Simon et al., 1997 Lithos)、及びシュードセクション図に基づくオンファス輝石と石英の安定領域を考慮すると、ポホリェ地域の藍晶石エクロジャイトは高dP/dTのプログレード変成経路を経験したことが示唆される。ざくろ石アウターリム部の変成条件を推定できる包有物共生は現状認められないが、結晶最外縁部のパイロープ成分が増加する特徴から、ピーク超高圧変成条件(P/T = 3.0–3.7 GPa/710–940 °C: Vrabec et al., 2012 Lithos)に相当する可能性が高い。本研究成果は、藍晶石エクロジャイト中のざくろ石がプログレード期の岩石学的情報をよく記録し、ポホリェ山地の変成履歴解明に貢献すると考えられる。

  • 董 文昭, 纐纈 佑衣, 道林 克禎
    セッションID: T2-P-16
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    クラトンは、地球の大陸リソスフェアの安定した古く厚い領域であり、古い岩石で構成されている。地殻変動はほとんどなく、しばしば大きな盾のような形状を特徴とする。クラトンの安定性と地質学的特性は、キンバーライトパイプの形成と保存に適切な条件を提供している。クラトン中の炭素に富むマントル物質は減圧融解を受け、キンバーライトマグマが形成され、最終的にキンバーライトが生成される。 本研究では、キンバーライトゼノリスのかんらん岩を分析対象とする。これらは主にカンラン石で構成されている。そして、本研究ではカンラン石の赤外分光分析を行い、粒子中の含水量マッピングを作成し,かんらん岩の変形との関連性を検証することを目的とする。 先行研究によると、カンラン石は基本的に無水鉱物であるが、結晶構造の欠陥中に少量のO-Hが存在する(Bell & Rossman, 1992)。このppmオーダーの少量のO-Hは、カンラン石中の「水」と呼ばれる。そして,カンラン石粒子中の「水」は上部マントルの物理的性質に影響を与える(Jung & Karato, 2001)。 予備実験により、両面研磨薄片の最適な厚さは100-200μm(±30μm)であることが明らかになった。レーザーラマン分析により、カンラン石粒子を分析した結果、856cm-1と824cm-1に特徴的なピークを示した。ラマン分光分析でカンラン石粒子を分析した後、FT-IRによる分析を行った。3200-3800cm-1波数の領域を観察することにより、蛇紋岩化の影響を排除するとともに、O-Hピークを持たないカンラン石粒子は除外した。その後、これらの "純粋な "カンラン石粒子に対してFT-IRマッピングを行い、数百から数千のスペクトルデータを取得した。これらのデータは、Matlabを用いてアルゴリズム解析し,Matveev & Stachel (2007)の計算式を用いて含水量を可視化した。 その結果、カンラン石の含水量は60-220ppmであることが明らかになった。また,マッピングを作成することで,カンラン石粒子内の含水量の分布が直感的にわかるようになった。さらに本研究では、カンラン石の組織と含水量を対比させ、パターンを見出そうとしている。 Reference 1. Bell, David R., and George R. Rossman. “Water in Earth’s Mantle: The Role of Nominally Anhydrous Minerals.” Science 255, no. 5050 (1992): 1391–97. 2. Jung H, Karato S. Effects of water on dynamically recrystallized grain-size of olivine[J]. Journal of Structural Geology, 2001(23):1337-1344. 3. Matveev S. FTIR spectroscopy of OH in olivine: A new tool in kimberlite exploration[J]. Geochimica et Cosmochimica, 2007(71).

  • 吉田 一貴, 岡本 敦, 大柳 良介, 藤井 昌和, 丹羽 尉博, 武市 泰男, 木村 正雄
    セッションID: T2-P-17
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    海洋リソスフェアの蛇紋岩化による水素生成は、深部生物圏の維持に重要な役割を果たしていると考えられており、関心が高まっている。しかし、海洋底における下部地殻―上部マントルにかけての地下深部の試料は技術的困難からいまだに得られておらず、海洋リソスフィア深部における水素発生メカニズムは不明な点が多い。本研究では、海洋リソスフィアのアナログであるオマーンオフィオライトの陸上掘削試料の全岩分析からナノスケール構造観察にわたるマルチスケール観察から、海洋リソスフェアの下部地殻-上部マントルにおける水素生成プロセスを明らかにすることを目的とする。オマーン掘削プロジェクトのCM1A(掘削深さ404 m)とCM2B(掘削深さ300 m)で採取された下部地殻から上部マントルの蛇紋岩(合計78試料)について、蛍光X線分析、X線吸収微細構造(XAFS)解析、熱重量分析および飽和磁化測定を行うことで、蛇紋岩に含まれる鉄の量および酸化還元状態、含水鉱物の重量比、マグネタイトの量を調べた。XAFS測定は高エネルギー加速器研究機構(KEK)フォトンファクトリー(PF)のBL-12Cビームラインで行い、飽和磁化測定は高知大学海洋コア国際研究所の振動試料磁力計(VSM)で測定した。地殻-マントル遷移層のダナイトと上部マントルのハルツバージャイトは掘削コア全体にわたりほぼ均質に蛇紋岩化している。ダナイトはハルツバージャイトよりもブルーサイトおよびマグネタイトを多く含んでおり、マグネタイト量は深さ方向に対して系統的な変化は見られなかった。ダナイトは一部の試料を除いて完全に蛇紋岩化しており、蛇紋石、ブルーサイト、マグネタイト、Crスピネルからなる。上部マントルのハルツバージャイトは70-90%蛇紋岩化しており、蛇紋石、ブルーサイト、マグネタイト、カンラン石、輝石、Crスピネルからなる。ブルーサイトの一部は風化しており、コーリング石に変化していた。ハルツバージャイト中のマグネタイトはメッシュリムに脈状に存在しているのに対して、ダナイト中には粒子状のマグネタイトが均質に分布していた。ダナイト中に観察された粒子状マグネタイトをより詳細に調べるために、放射光CT(KEK PF-AR NW2A)によるナノスケール組織観察を行った。その結果、蛇紋岩化したカンラン石と新鮮なカンラン石にはプレート状の同一形状のマグネタイト粒子が観察された。このことから、このプレート状マグネタイト粒子は蛇紋岩化前から存在しており、ダナイト中のマグネタイトの30-70 wt%は蛇紋岩化する前に形成されたことが示唆された。これらの岩石中のFe(III)の空間分布を明らかにするために、PF-AR NW2Aで2次元イメージングXAFS測定を行った。その結果、Fe(III)は主に蛇紋石、マグネタイト、コーリング石に分布していることが明らかになった。また、蛇紋石はFe(III)/ΣFe=0.4±0.1という高い比率を示し、これはダナイトとハルツバージャイトの間で大きな差はなかった。ダナイトとハルツバージャイトのいずれにおいても、全岩石中の全Fe(III)の約20-30%が蛇紋石に含まれている。これらの結果は、マグネタイトが形成されにくい上部マントルのハルツバージャイトにおいても、Fe(III)に富む蛇紋石の形成によって水素が生成される可能性を示唆している。

  • 二村 康平, 道林 克禎, 針金 由美子, 小原 泰彦
    セッションID: T2-P-18
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    海洋コアコンプレックス(Oceanic Core Complex; OCC)は中央海嶺や背弧海盆の低速拡大系に特徴的な地形であり、海底拡大に伴う正断層運動によって下盤側が数100万年かけて露出した数10 km四方の巨大な海底地形である。OCCの表面には、主に深部地殻/上部マントルを構成する斑れい岩やかんらん岩が露出する。OCCの斑れい岩は、トロクトライト・かんらん石斑れい岩・斑れい岩・オキサイドガブロと組成のばらつきが大きく、その割合も多様である。さらに斑れい岩には、高温側のグラニュライト相から角閃岩相の延性剪断帯における結晶塑性と、拡散クリープによる塑性変形と低温側の角閃岩相から緑色岩相の流体-岩石相互作用を伴う剪断帯における脆性変形を受けた,マイロナイト、ウルトラマイロナイトおよびカタクレーサイトといった断層岩が含まれる。これらの断層岩には、海水による流体-岩石反応によって形成した角閃石などの含水鉱物が含まれる。斑れい岩でおこる流体-岩石反応は、塑性変形時に歪の局所化を生じさせてOCC深部で延性剪断帯を発達させる可能性があり、断層地形であるOCCの構造発達過程を理解する上で重要である。しかしながら、OCCにおける流体-岩石反応の研究は、200以上確認されているOCCのうち、大西洋中央海嶺のアトランティス岩塊、南西インド洋海嶺のアトランティスバンクおよびフィリピン海パレスベラ海盆のゴジラメガムリオンに限られる。また、流体-岩石反応と斑れい岩の微細構造発達の関係について詳細な解析がなされているものの、剪断帯のレオロジー特性に関してはほとんど理解が進んでいない。そこで本研究では、フィリピン海の四国海盆に存在するOCCの1つであるマドメガムリオンに着目し、構造岩石学的な手法を用いて流体-岩石反応と延性剪断帯のレオロジー特性の関係性を考察した。 本研究では、2019年の研究航海で「しんかい6500」によって、マドメガムリオンから採取された岩石10個のうち、変形斑れい岩3試料(R10,R19a,R20)の斜長石と角閃石について、組織観察、結晶方位解析および主要元素組成分析を行った。そして、組織観察と結晶方位解析の結果をもとにして変形機構を推定した。また、組織観察と主要元素組成分析の結果から流体-岩石反応を推定した。さらに、主要元素組成分析から得られた化学組成を角閃石-斜長石地質温度計に適用することによって変形温度を推定した。斜長石と角閃石の微細構造はどちらも結晶内塑性変形の証拠を示し、動的再結晶作用によって細粒化していた。斜長石と角閃石の結晶方位ファブリックは、それぞれ(001)[100]パターンと(100)[001]パターンの強い集中を示した。斜長石の化学組成は、マトリクスがポーフィロクラストよりも低いAn値を示した。角閃石の化学組成は、Hornblende–Pargasiteの範囲にあり、初生的なものと二次的なものの両方が含まれていた。得られた平衡温度は3試料でほぼ同じ温度範囲(870–680℃)だった。また、斑れい岩に貫入した珪長質脈からは680–600℃の平衡温度を得た。 組織観察と結晶方位解析から、斜長石と角閃石の変形機構は転位クリープであったと推定される。斜長石と角閃石の主要組成元素分析の結果は、流体の存在下で、Calcic plagioclase + Clinopyroxene + H2O → Sodic plagioclase + Hornblendeの変成反応を斑れい岩が経験したことを示唆する。斜長石と角閃石の結晶すべり面が同じであることから、平衡温度を変形時の温度範囲と仮定すると、分析した斑れい岩は870–680℃(グラニュライト相)において流体の存在下で塑性変形したと考えられる。試料中の高歪領域における剪断歪速度を求めるために、転位クリープで変形した斜長石の動的再結晶粒径、平衡温度および斜長石の流動則から変形機構図を作成した。その結果、マドメガムリオンの延性剪断帯の剪断歪速度は10–10 s–1以下、厚さは約2 m以下であることが推定された。マドメガムリオンにおける剪断歪速度は、一般的な剪断帯における歪速度よりも速く、また剪断帯の厚さも薄いことが明らかとなった。本研究で得られた知見と同様に、ゴジラメガムリオンの延性剪断帯では斑れい岩が流体の存在下で塑性変形を経験したことが報告されており、その時の剪断歪速度と剪断帯の厚さの値は、本研究で得られた値とおおよそ一致している。すなわち、本研究の結果は、マドメガムリオンとゴジラメガムリオンの延性剪断帯における斑れい岩の変形条件が共通であることを示唆する。中央海嶺のOCCで報告されている斑れい岩についても、流体の存在下における変形を経験した場合、剪断歪速度が速くなり、剪断帯の厚さが薄くなる可能性がある。

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    松山 和樹, 道林 克禎
    セッションID: T2-P-21
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    幌満カンラン岩体は多様な変形微細組織と軽微な蛇紋岩化作用で特徴づけられる大規模カンラン岩体である。同岩体から産するカンラン岩は最上部マントルの化学組成と一致することが明らかにされており、マントルプロセスを解明するための研究が多数行われてきた(Takazawa et al., 1999; Ozawa, 2004; Morishita and Arai, 2003など)。しかしながら、岩体全体の変形構造に着目した研究は少なく(Niida, 1975a; Sawaguchi, 2004など)、同岩体の変形・上昇過程については未だよく理解されていない。そこで本研究は、幌満カンラン岩体の変形構造と地震波特性を明らかにすることを目的として、カンラン石と直方輝石の結晶方位ファブリック(粒径分布、結晶方位定向配列など)の解析とそれを基にした地震波特性の計算を行った。岩体上部から下部にかけて採取した定方位カンラン岩試料について、カンラン石と直方輝石の平均粒径、構造強度(J-index)、結晶方位定向配列(CPO)を測定した。カンラン石の平均粒径はおよそ500 µm未満、直方輝石の平均粒径はおよそ600 µm 未満であった。カンラン石のJ-indexは1.5~4.6程度の値で、岩体下部から上部にかけて値が減少する傾向を示した。一方直方輝石のJ-indexは1.3~3.6程度で、系統的な変化はなかった。カンラン石の結晶方位ファブリックとしてE、A、AG の3つのタイプが確認され、岩体下部から上部にかけてこの順での分布を示した。直方輝石の結晶方位ファブリックについてAC、ABC、BCの3つのタイプが確認されたが、カンラン石のような系統的な分布は確認されなかった。 Sawaguchi (2004)の結果と合わせて岩体下部でEタイプのカンラン石結晶方位ファブリックが確認されたことは、岩体最下部での局所的な水の流入イベントがあったことを示唆する。さらに、カンラン石と直方輝石の結晶方位ファブリックと弾性定数から計算された地震波速度を岩体全体で比較した結果、岩体下部から上部にかけてP波速度異方性が減少すること、P波速度の方位異方性が変化することが明らかとなった。引用文献:Morishita, T., Arai, S., 2003. Evolution of spinel-pyroxene symplectite in spinel-lherzolites from the Horoman Complex, Japan. Contributions to Mineralogy and Petrology 144 (5), 509–522.Niida K., 1975a. Texture and olivine fabrics of the Horoman ultramafic rocks, Japan. J. Japan Assoc. Min. Petr. Econ. Geol. 70, 265–285.Ozawa, K., 2004. Thermal history of the Horoman peridotite complex: a record of thermal per-turbation in the lithospheric mantle. J. Petrol. 45, 253–273.Sawaguchi, T., 2004. Deformation history and exhumation process of the Horoman Peridotite Complex, Hokkaido, Japan. Tectonophysics 379, 109–126.Takazawa, E., Frey, F. A., Shimizu, N., Saal, A. and Obata, M., 1999. Polybaric petrogenesis of mafic layers in the Horoman Peridotite Complex, Japan. J. Petrol. 40, 1827–1851.Toyoshima, T., 1991. Tectonic evolution of the Hidaka metamorphic belt and its implication in late Cretaceous –Middle Tertiary tectonics of Hokkaido, Japan. Sci. Rep. Niigata Univ., Ser. E: Geol. Mineral. 8, 1–107.

  • 福田 倫太郎, 豊島 剛志, 植田 勇人
    セッションID: T2-P-22
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    日高帯南部に分布する日高変成帯は,日高帯の中の川層群などの砂泥質堆積岩・塩基性岩を原岩として火成活動で形成された島弧地殻の断片である(小松ほか,1982など)とされ,島弧地殻形成プロセスを理解するために研究が活発に行われてきた.ジルコンU-Pb年代の普及前,日高変成帯において,東から西に向かって変成度が累進的に上昇していくことから,56Ma頃の一度の変成・火成作用で形成された地殻の上部から下部までが東から西に向かって露出しているとされた(Owada et al. 1991など).しかし,ジルコンU-Pb年代の普及後,日高変成帯には37Ma頃と19Ma頃の2回の熱イベントを記録していることが示された(Kemp et al., 2007).さらに,日高変成帯は,37Ma頃にできた上部変成岩と19Ma頃にできた下部変成岩の2つの地殻が重なってできた(志村ほか,2015)ことや, 2回の変成作用が重複していること(志村ほか,2018)も明らかになっている.また,日高帯北部-中部では19Ma頃,37Ma頃,45Ma頃の3回の火成活動を示す年代が得られている(Jahn et al., 2014など).また,日高変成帯においても37Ma頃と19Ma頃,42Ma頃の3ステージの熱イベントがあったことも示されており(菅野・豊島,2019;Kanno et al., 2020),2回だけでなくより多くの地殻形成に関わる熱イベントがあったことが示されている.このようにジルコンU-Pb年代の普及によって日高変成帯の形成テクトニクスの再構築が必要となってきている.また,日高変成帯の島弧地殻形成・衝突プロセスに大きく関係する幌満かんらん岩体と日高変成帯との構造的関係についても議論がある.Sawaguchi(2004)によれば,幌満かんらん岩体と日高変成岩類は北傾斜の断層で接し,前者は後者に挟まれ,前者南縁の構造的下位に後者が分布する.しかし,Yamamoto et al. (2010)によると,幌満かんらん岩体は初生的にほぼ水平な断層によって日高変成岩類と接し,その構造的下位に分布するとされている.  そこで,本研究では,複数回の熱イベントを記録している可能性のある変成岩・火成岩が幌満かんらん岩体と接している本地域を対象とした.本地域では変成帯が西に張り出した特異な地質構造であり,形成・衝突プロセスを解析できると考えられる.踏査より地質図を作成,本地域の火成岩・変成岩のジルコンU-Pb年代測定を行った.その結果,以下のことが示された. (1)日高変成帯上部層に相当するとされる黒雲母片麻岩・片岩に,37Ma頃の花崗岩が貫入している.その花崗岩の一部にアルカリ花崗岩が認められる.これは日高変成帯で初報告となる. (2)20Ma以降に形成されたトーナル岩が,37Ma頃に形成された花崗岩や黒雲母片麻岩・片岩に貫入している.このトーナル岩にはグラニュライトなど高度変成岩が捕獲されている. (3)本研究によって明らかになった本地域の地史は,次の通りである.(i)日高変成帯上部層相当の黒雲母片麻岩・片岩の形成(おそらく37Ma頃)(ii)37Ma頃の花崗岩の貫入 (iii)グラニュライトなど高度変成岩の形成(おそらく20Ma頃) (iv)20Ma以降のトーナル岩の貫入と高度変成岩の包有 (v)地質図オーダーのWNW-ESE走向褶曲の形成 (vi)おおむね北傾斜の基底断層により幌満かんらん岩体が日高変成岩類の上に衝上した.上盤南方への断層運動である.その分岐断層で,構造的下位の変成岩類にはシート状かんらん岩体が挟まれている.基底断層は北から南に向かって80°→30°へと傾斜が変化している.(vii)幌満かんらん岩体の上盤南方への断層運動後,上盤北方への断層運動が重複して起こった.引用文献 Jahn, B.M. et al (2014) Am J Sci, 314, 704-750. 菅野萌子・豊島剛志(2019),JPGU要旨.Kanno M et al (2020) , Abstracts of JpGU-AGU. Kemp, A.I.S. et al. (2007) Geology , 35 , 807-810. 小松正幸ほか (1982) 岩鉱, 3 , 229-238. Owada M et al (1991), Jour. Geol. Soc. Japan, 97, 751-754. Sawaguchi T (2004), Tectonophysics, 379, 109 – 126. 志村俊昭ほか(2018)地質学会要旨. 志村俊昭ほか (2015) 地質学会要旨.Yamamoto H et al (2010) Island arc, 19, 458-469.

  • 原野 あゆ, 道林 克禎
    セッションID: T2-P-23
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    早池峰超苦鉄質岩体はオルドビス紀に島弧域で形成された岩体であり,岩石学的・地球化学的特徴から背弧的特徴をもつと考えられている(Ozawa, 1984, 1988, 2001; Ozawa & Shimizu, 1995; Yoshikawa & Ozawa, 2007).本研究では,早池峰超苦鉄質岩体カンラン岩の構造岩石学的特徴を明らかにすることを目的として,野外調査,組織構造観察,結晶方位分析,鉱物主要元素組成分析を実施した.結果として,早池峰岩体カンラン岩には組織構造と結晶粒径に多様性が認められ,カンラン石が粗粒(1-2mm)で不規則な粒界をもつ粗粒カンラン岩と,カンラン石が中粒(0.3-0.5mm)でやや直線的な粒界をもつ中粒カンラン岩に分けられた.粗粒カンラン岩のカンラン石結晶方位ファブリックはOzawa(1989)で報告された(010)[100]すべり系のA-typeまたはAG-typeで相対的に強い集中をもつ(J-index=2.0~4.0).さらに,結晶方位の集中度(J-index)が大きいカンラン岩はA-typeを示し,集中度が弱くなるとAG-typeに変化していく傾向が確認された.一方,中粒カンラン岩のカンラン石結晶方位ファブリックは非常に弱く(J-index=1.2~1.3),結晶方位タイプを決定することができなかった.鉱物主要元素組成分析の結果,部分溶融度はA-typeを示す粗粒カンラン岩,AG-typeを示す粗粒カンラン岩,中粒カンラン岩の順に低い傾向があった.本発表では,これらの結果を基にしてその形成過程を考察する.【引用文献】Ozawa K. (1984), Journal of the Geological Society of Japan, 90, 697‒716. Ozawa K. (1988), Contributions to Mineralogy and Petrology, 99, 159‒175. Ozawa K. (2001), Journal of Geophysical Research, 106, 13407‒13434. Ozawa K. & Shimizu N. (1995), Journal of Geophysical Research, 100, 22315‒22335. Yoshikawa M. & Ozawa K. (2007), Gondwana Research, 11, 234–246.

  • 重野 未来, 森 康, 井上 和男
    セッションID: T2-P-24
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    変成岩の発達過程や上昇過程を明らかにする上で、変形構造の実態を明らかにすることは重要である。 九州北西部の西彼杵変成岩類は、中〜西部では主に泥質砂質片岩からなり、塩基性片岩を挟み、露頭規模の褶曲構造が発達している。蛇紋岩類はヒスイ輝石岩、オンファス輝石岩のような構造岩塊とともに点在する。また、東部には砂質片岩、石英片岩が分布し、東部では東傾斜である(西山, 1989)。 西彼杵半島中部で片岩類の片理面の構造は、北部の北東-南西方向から南東に屈曲しており、小褶曲の軸方向が大まかにはNE-SW、NW-SE、NS方向のものが見られる(服部他, 1993)。片理面と小褶曲の重複関係、顕微鏡下の微小構造の観察から、三重町(重野・卯田, 1993; 1995)および中部神浦〜雪浦(井上・卯田, 1995)にて変形史を編んだ。本地域ではその後、石英包有物を含むヒスイ輝石岩(Shigeno et al., 2005)、超高圧変成岩類(Nishiyama et al., 2020)の新知見が得られた。また、Miyazaki et al.(2019)は、本地域の泥質片岩のフェンジャイトK-Ar年代、ジルコンU-Pb年代から変成作用の継続時間を見積もり、西彼杵変成岩類は北から上昇したことを示した。また、高地ほか(2011)は本地域中部の泥質砂質片岩の砕屑性ジルコンのU-Pb年代測定により80-86Maの堆積年代を報告した。炭質物ラマン地質温度計による本地域の泥質片岩の変成温度は440–520℃であり、北西部がやや低温、南東部がやや高温の傾向を示す温度構造が明らかになった(Mori et al., 2019)。 本発表では、これまでの調査と並行して集めた、半島南部を含めた構造データの変形構造解析、多方向の薄片の顕微鏡観察をおこない、各地域での変形構造の重複関係と分布に着目して対比を試み、変形史を再検討し、大構造や温度構造との関係を考察する。 方法 調査地域の露頭や試料で観察される褶曲は、褶曲軸の方向は大まかにNW-SE、EW、NS、NE-SWの4つの方向を示すものがある。露頭や採取試料において観察される変形構造(片理面、褶曲、鉱物線構造など)の前後関係を調査した。これらの褶曲軸と片理面のステレオ投影結果と、野外や試料の観察結果と合わせて、それらの分布をまとめた。 結果 野外および試料観察から褶曲軸がNW-SE、NE-SWの褶曲が広範囲に見られ、2つの褶曲のステレオ投影結果が多くの地域で得られた。また、片理面のステレオ投影法から、褶曲軸がNS、NE-SWの2つの褶曲が示された。薄片や試料観察においても、主にこの3方向の褶曲が本地域の泥質片岩の組織に多く見られる。野外観察により、褶曲軸がNW-SEの褶曲の後に、NS方向の褶曲を形づくる片理面の重複が観察された。 褶曲構造の分布から、褶曲軸方向の異なる4種類の褶曲のうち、EW、NW-SE、NE-SWの3種類が観察される地域が、西海岸と中軸部でNW-SE方向に点在することがわかった。その中には超高圧変成岩、ヒスイ輝石岩の産出する地域、炭質物ラマン地質温度計結果による温度構造の高温部が含まれる。中軸部の分布域付近の東側に、SE傾斜を示す区域がNS方向に分布する。  以上のように、予想よりも複雑な重複関係や分布状況が、野外調査および顕微鏡観察により明らかになった。超高圧変成岩を含むなど特異な性質を持つ西彼杵変成岩類の発達過程や上昇過程を考えるため、変形構造の重複関係をさらに明らかにする必要がある。引用文献服部仁・井上英二・松井和典(1993)神浦地域の地質. 地域地質研究報告(5万分の1地質図幅), 地質調査所, 126p.井上・卯田(1995) 日本地質学会要旨.高地ほか(2011)地学雑誌120(1)30-39.Miyazaki et al.(2019)Contributions to Mineralogy and Petrology, 115, 174: 1-19.Mori, Y., Shigeno, M., Miyazaki, K., Nishiyama, T. (2019). Jour Mineral Petrol Sci, 114, 170–177.西山忠男(1989)地質学論集, 33, 237–257. Nishiyama et al.(2020)Scientific Reports 10(1). doi.org/10.1038/s41598-020-68599-7.重野・卯田(1993; 1995)日本地質学会要旨.Shigeno, M., Mori, Y., Nishiyama, T. (2005). Jour Mineral Petrol Sci, 100:237–246.

  • 丹羽 美春, 道林 克禎
    セッションID: T2-P-25
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    中央構造線は日本を代表する断層であり,内帯の領家帯と外帯の三波川帯を分ける地質境界でもある.これまでに多くの研究があるが,その地下深部構造については不明な点も多く議論の余地が残っている.中央構造線の内帯側の領家帯には断層に沿ってマイロナイトやカタクレーサイトなどの断層岩が分布し,断層活動時の変形履歴などの情報が保持されている.中央構造線に関する構造岩石学的研究は,中部地方の長野県ならびに近畿地方の三重県では多く報告されているにもかかわらず,その間に位置する愛知県三河地域では露頭は確認されているものの,研究例は少ない.この空白を埋めるべく,本研究では愛知県新城地域の中央構造線に分布する断層岩を研究対象とした.研究試料は,豊橋市自然史博物館の収蔵資料を活用したほか,新城地域の中央構造線沿いの露頭から採取した.断層岩の薄片について偏光顕微鏡による微細組織観察を行った結果,新城地域の中央構造線沿いの断層岩は,大部分がカタクレーサイトであることが明らかとなった.しかし,カタクレーサイトの岩片中の石英や長石には波動消光や粒界移動など塑性変形したことを示す組織が認められた.このことは,カタクレーサイト以前に延性剪断変形したマイロナイトが発達していたことを示唆する.これらをもとに三河地域の地域的な特徴を考察する.

T3.大地と人間活動を楽しみながら学ぶジオパーク
  • 天野 一男
    セッションID: T3-O-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    1.はじめに ChatGPTは2022年11月に公開された対話型の言語生成モデルで、公開直後からユーザーが爆発的に増えた。1年もたたない現在、その利用について教育関係・行政をはじめ様々な分野で賛否両論が噴出している。すでに一部では、具体的な活用も検討されている。地質学界もその埒外ではない。当初使われたエンジンは、GPT3.5であったが、その後より高度な機能をそなえたGPT4になっている。本講演では、後者に基づいたChatGPT4(有料)を使いジオパークを対象として、その利用の可能性と課題について実験を行った結果を発表する。2.ChatGPTに講演プロットを作成させる ChatGPTを使って、15分間の講演のプロットを作成するとともに講演要旨(400字)を作成してみた。プロットは分単位の網羅的なものが作成された。個々の項目についてChatGPTに問うと、一般的な項目については教科書的な回答を提示するが、具体的なケーススタディーについては満足な回答は得られなかった。参考のためにChatGPTが作成した要旨を下に示す。『この講演では、OpenAIのChatGPTをジオパークの情報提供、教育、および持続可能な開発に活用する方法について探ります。ジオパークは、自然と文化遺産を保護し、教育と地域開発を促進するための重要なプラットフォームです。初めに、ChatGPTの基本的な特性と一般的な利用法について紹介します。次に、ジオパークの重要性、定義、および目的に焦点を当て、教育と持続可能な開発に及ぼす影響を解説します。ChatGPTのジオパークでの応用範囲を深堀りし、情報提供、教育活動、および持続可能な開発支援の各領域での活用法を説明します。情報提供では、訪問者へのリアルタイムな情報を提供する手段として、教育活動では、学校やコミュニティグループ向けのプログラムに対話型学習を組み込む手法として、持続可能な開発支援では、地域住民とのコミュニケーションを強化し、研究とデータ収集を通じて開発プランを策定する手法としてChatGPTを活用します。具体的な活用例として、日本、ヨーロッパ、および南米のジオパークでのChatGPTの使用ケースを紹介します。これらは、インタラクティブなガイドシステム、教育プログラム、多言語対応の情報提供サービスなど、多岐にわたります。最後に、ChatGPTの活用における現在の課題、言語の限界、カスタマイズと更新の必要性などを考察し、ジオパークでの活用の将来展望について議論します。これにより、ジオパークが持続可能性を高め、教育的価値を向上させるためのAIの活用を探求します。』3.ジオパーク新規申請書作成への利用  現在ジオパークになっていない仮想の地域を例にして申請書の作成を試みた。概略的なプロットは作成するが、具体的なものは作成できない。なお、下記のような注意書きが添えられていた。『注意:実際の申請プロセスは、具体的な手続きや要件が異なる可能性があるため、関連する公式機関に問い合わせることをお勧めします。』4.個別ジオパークの評価への利用 ジオパークにおいては、4年ごとの再認定が必要である。再認定に関連したChatGPTの活用について検討してみた。2018年に認定取り消しになった「茨城県北ジオパーク」について試してみた。回答は以下の通りであった。現時点では、評価に関わるものについては十分な回答はえられないと思われる。『私の知識が2021年9月までのものであるため、それ以降の出来事については把握しておりません。茨城県北ジオパークの認定取り消しについての情報は私のデータベースには含まれていないため、最新の情報を得るために、公式なジオパークのウェブサイトやニュースソースを確認していただくことをお勧めします。ジオパークの認定取り消しは一般的に、管理、保護、教育、持続可能性など、ジオパークの基準を満たしていない場合に行われることがあります。』5.まとめ ジオパークに関してネット等で公表されているデータに基づく文章の生成については、かなりよくまとまった回答が得られる。一方、個々のジオパークに関わるような具体的な事柄については、効果的な回答は得られなかった。現時点での結論としては、一般的な知識に関するまとめについてはChatGPTの活用はかなり有効であるが、具体的な事柄や評価を伴う事柄については利用は難しい。

  • 吉岡 拓郎, 竹山 翔悟, 高木 秀雄
    セッションID: T3-O-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】 千葉県房総半島南部は,東京湾と太平洋により3方を海に囲まれ変化に富んだ海岸線が続いている.内陸部は県内最高峰の愛宕山(408 m)をはじめ山地と丘陵からなり南房総の海岸線一帯と内陸部の山間部の一部は「南房総国定公園」に指定されている.沖合を流れる黒潮の影響のために四季を通じて温暖な気候で,東京都心から近く,観光地となっている.南房総地域には日本の地質百選「黒滝不整合」や日本の地質構造百選「三浦層群の脈状構造」「千倉層群の海底地すべりとデュープレックス」「江見層群のクモの巣構造」など地質学的に高く評価されている露頭が数多く存在している.また地学教育という観点では南房総は良好な地質観察地として既に知られ,教育の場で活用されている例が存在する(例えば千葉の地層10選). 早稲田大学大学院の授業「地質学とジオパーク」において,本年度はSuzuki and Takagi (2018)が提案したジオサイトの評価法の項目に基づき,受講生は各ジオパークのジオサイトおよびジオパークの活動の評価・発表を行った.発表者のうちの2名は千葉大学において千葉県の地質を学び,房総半島南部を対象地域に新しいジオパークを構想するならば,という仮定のもとジオサイトの設定と評価を行った.本発表では講義内で発表した内容を基に,南房総を特徴づけるジオサイトとジオパークのストーリーになりうる地域の歴史・産業を紹介する.【千葉県の地質の特徴】 千葉県内に露出する地質はほとんどが新生界であり,なかでも南房総には比較的古い,古第三系の嶺岡層群,新第三系の三浦層群および千倉層群が分布する.基盤となる付加体とそれを覆う海溝斜面堆積盆堆積物で特徴づけられる.鴨川市には蛇紋岩類,玄武岩類などのオフィオライト様岩類が産出する嶺岡層群が分布する(高橋ほか, 2016).南房総の海岸沿いには繰り返すプレート境界地震に伴う海成段丘が発達している.平均隆起速度は約4 mm/年であり,これは日本最大級である(宍倉・川上, 2005).【「南房総ジオパーク」の特徴】 南房総の地理的な位置・気候に加え,隆起地形,嶺岡地域の蛇紋岩地質が織りなす地形・地質的特徴が,のちのエコやカルチャーを育む基盤になったというストーリーが展開できると想定している.南房総地域は6市3町から構成されるが,今回は館山市,南房総市,鴨川市,勝浦市,鋸南町の4市1町を「南房総ジオパーク」の範囲としてジオサイトを選定した.ジオサイト数としては30程度を想定している.ジオパークの情報拠点については新設のほか,博物館や資料館,多数の道の駅の活用を見込めると考えている.以下にジオサイトの一例を示す.【ジオ】 地形:白浜の海成段丘, 鵜原のリアス海岸, 嶺岡の地滑り地形 (鴨川松島) 地質:吉尾のボラの鼻 (黒滝不整合), 白浜の大規模海底地すべり露頭, 白浜のシロウリガイ化石, 太海の枕状溶岩, 保田層群のカオス層, 鋸山の向斜構造,館山の沼サンゴ層【エコ】 生態系:沖ノ島 (現在世界に生息する造礁性サンゴの北限)【カルチャー】 歴史:源頼朝上陸地の碑, 南総里見八犬伝と館山城, 赤山地下壕跡 産業:鋸山と房州石, 日本酪農発祥の地, 大山千枚田, 特産品のビワ, 温泉,など【ジオパークの現段階での評価】 今回紹介するサイトの多くはアクセスが容易である.Webページでの解説や現地看板などを整備することで教育の場のみならず観光地,そしてジオサイトとなり得るポテンシャルを持っていると考える.本発表では南房総ジオパークの概要を提案するとともに,具体的なジオサイトの特徴と評価を交えて紹介することで,ジオパークの主体となる地元住民や自治体,地質学会会員に南房総の地質の魅力を発信することを目的とした.現段階で南房総において具体的なジオパーク構想は持ち上がっていないが,2020年にチバニアンの認定により千葉県の地質への関心が高まりつつある.また,千葉県は地学専門の教員数が国内で最も多い (吉田・高木, 2020).千葉県内には銚子ジオパークが既に存在するが,地理的に隔った「南房総ジオパーク」の誕生は千葉県の教育や地質科学の啓発を促進するに違いない.【引用文献】千葉県教育庁教育振興部文化財課, 2020, 千葉の地層10選ガイド.; 宍倉正展・川上俊介, 2005, 地質ニュース, 605, 9-11.; Suzuki, D., Takagi, H., 2018, Geoheritage, 10, 123–135.; 高橋直樹, 柴田健一郎, 平田大二, 新井田秀一, 2016, 地質雑, 122, 375-395.; 吉田幸平・高木秀雄,2020,地学雑,129,337-354.

  • 伊藤 剛, 武藤 俊, 岩本 直哉
    セッションID: T3-O-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    銚子半島に位置する銚子ジオパークには,基盤岩となる“愛宕山層群”,下部白亜系銚子層群,中新統千人塚層及び夫婦ケ鼻層,鮮新統~更新統犬吠層群,更新統常総層及び香取層ならびに完新統が露出する.特に銚子層群のアンモナイト化石や名洗層下部のサメの歯化石など,白亜紀~第四紀の化石がよく知られている.一方,銚子層群最下部の海鹿島層では,挟在する礫からペルム紀~ジュラ紀微化石の産出も報告されていた.演者らは,海鹿島層の礫岩層に挟在する礫を処理し,微化石の抽出を試みた.その結果,チャート礫から新たにペルム紀及び三畳紀の微化石を得た.計4試料から,シスラリアン期(前期ペルム紀)放散虫,中期三畳紀放散虫,中期〜後期三畳紀放散虫,前期〜中期三畳紀コノドントを抽出した.岩相と年代から,供給源はジュラ紀付加体と推定される. 先行研究において,基盤岩である“愛宕山層群”からもペルム紀化石は得られているが,その帰属には議論があり,また野外での露出も限定的であった.本研究で得られた微化石を活用することにより,ペルム紀や三畳紀の化石もジオパークにおける教育や普及活動などに取り入れることが可能となる.礫は,堆積時の後背地に露出していた地質体からもたらされる.したがって,礫には礫層や礫岩層の堆積年代よりも古い化石が含まれており,その年代を検討することによりジオパークの地質年代が“拡張”できる.この方法は粗粒な砕屑岩層を含む他のジオパークにも応用できると期待される.

  • 【ハイライト講演】
    金子 一夫, 荒戸 裕之, 山本 由弦, 山田 泰広, 白石 和也, 千代延 俊, 保柳 康一, 國香 正念, 吉本 剛瑠, 関山 優希
    セッションID: T3-O-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    立山黒部ジオパーク(以後,立黒)は,『高低差4000 mロマン 富山の中の地球へ行こう』をテーマにした,富山県東部の9市町村にまたがるジオパークである.日本海から北アルプスまで,43のジオサイト,40の文化サイト,28の自然サイトを有しているが,地形的特徴からジオサイトがなかなか見学に行けない山岳地帯に多い感は否めない.そのため市街地から近く,児童生徒の学習にも使え,手軽に見学できるジオサイトの開拓が望まれていた. 今回,富山県中新川郡立山町の中心部から車で15分程の稲村にある産廃場跡地を整備したところ,スランプ構造の全容が観察できる大露頭(南北約80 m,東西約70 m,高さ約30 mの範囲に内向き斜面の崖が「凡」字形に配列している)が出現し,それを一般公開することができた.ここに至るまでの主な経緯は,2000年頃:最初の地権者により採土場として掘削を開始.’05年:新上市町誌(新上市町誌編集委員会編,2005)に「折戸凝灰岩層,海底火山灰の堆積した緑色凝灰岩の地層」として,スランプ構造の写真が掲載される.’05-’10年?:現地権者が瓦の粉砕施設をつくり,稼働するも程なく中止.産廃場に使うがこれも中止.以後,遊休地.’21年2月:立黒のジオパーク再認定決定.審査員から身近なジオサイトの開発を望まれる.5月:立黒研究教育部会で予備調査を行い,巨大なスランプ構造が灌木と崖錐堆積物にかなり被覆されているものの,ジオサイトになりうると判断.6月:地権者に立ち入りの許可を得ると同時に,町役場にジオサイト化に向けて協力を要請.11月:役場担当から,露頭の学術的評価が欲しいとの要請で,立黒が保柳に現地調査を依頼.保柳から情報を得た荒戸,立黒学術顧問竹内章富山大学名誉教授も加わり現地調査.地元紙が露頭を写真入りで報道.’22年1月:荒戸がボーリングコア採取の許可を得たい旨.地権者との交渉をジオパークに依頼.同時に,荒戸が代表を務める『海底地すべりモデルの構築:日高沖「静内海底地すべり堆積体」の発生機構と運動様式』(科研費番号 19H02397)の研究チームに,当該露頭の調査研究を提案.立黒が地権者にボーリングコア採取を説明.許可を得る.4月:勉強会を実施し,崖錐堆積物を取り除けば,スランプの構造を立体的に研究できる大露頭が出現する可能性が議論される.5月:町民向け現地説明会の実施と地元紙,ケーブルテレビの報道.6月:現地調査を実施し,重機を使って整備工事を行い,研究を進めることを確認.これを受けて,立黒が地権者に調査方法を説明,実施の承諾を得る.7月:町役場に露頭整備にあたる業者の紹介を依頼し,それに基づき見積もりを徴取.8月:露頭の整備,調査,整備後の立黒の利用に関して,地権者,荒戸が所属する秋田大学,立黒で覚書を締結.9月:整備工事開始し,十日程で終了.その後,予備調査.ステップ設置,底面のトレンチの工事を追加で依頼.10月:チームでの調査.地元小学5・6年生全員が見学.11月:チームでの調査.分析用試料の採取.説明看板の内容の検討を開始.下旬にステップの撤去とトレンチの埋め戻し.12月:ワークショップの開催.解説看板の土台の設置.’23年4月:解説看板,安全ポールコーンの設置.同時に立入禁止の柵を撤去し,一般公開の開始.5月:立黒ジオガイド向け現地研修会の開催.調査は継続中. 露頭の調査開始から一般公開まで極めて順調であったは要因は,・科研費の一部を露頭整備に使用し,そのまま見学対象となった.・地権者との交渉や町役場と現場周辺住民への説明,調査前後の整備及び撤収作業の立ち合いは立黒が担当.・露頭が県道のすぐ脇にあり,駐車スペースも十分で,大型重機による作業が可能.・露頭整備を請け負った業者が現場から車で15分の距離で,高所作業車,発電機,排水ポンプ,高圧洗浄機など急な要望にも対応.・地権者との覚書の締結で,現場の大規模な改変が可能となる. 一方,残る問題点は,・すでに泥岩部が剥離し始めており,何もしなければ10数年で整備前の状態に戻ると思われるが,保全する費用の目処が立っていない.・以前の施設の残骸を撤去しきれていない. ジオサイトにはその保全が求められるので,この露頭をジオサイトとして維持するためには,上記問題点の解消が必要である.謝辞:同地での調査と一般公開を快諾くださった英修興産有限会社と,調査作業諸事にご協力頂いた有限会社きんたに心より感謝申し上げます.文献:新上市町誌編集委員会編,2005,新上市町誌.上市町,921p.

  • 竹本 健太
    セッションID: T3-O-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    山陰海岸ユネスコ世界ジオパークは,京都府(京丹後市),兵庫県(豊岡市,香美町,新温泉町),鳥取県(岩美町,鳥取市)の3府県(6市町)から構成され,2458.44 ㎢の面積を有するジオパークである.2008年(平成20年)12月に日本ジオパーク,2010年(平成22年)10月に世界ジオパークに認定されている.当ジオパークは,2019年度にジオパーク基本計画および行動計画の改訂を行い,今期の戦略として“産業振興・ツーリズム”の分野について取組強化していくことを掲げている.その中で2022年度は,推進協議会事務局の若手職員を中心に,ジオパークについてあまり知識のない一般観光客(特に若年層)をターゲットにした観光パンフレット「“絵”になる旅」を作成した.本発表では,今回のジオパークパンフレットを作成するに至った背景から,デザイン・内容等で特に重視した点,完成後の評価や今後の課題などを,産業振興・ツーリズムの観点を踏まえて紹介したい.

  • 脇田 浩二, 小原 北士, ウィルソン ジョアナ
    セッションID: T3-O-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    山口県中央部には, 東西約15km南北約8kmの広がりをもつ秋吉石灰岩が分布している.この石灰岩は,前期石炭紀から中期ペルム紀の化石を含み,当時世界最大の海洋であったパンサラッサ海において噴火した海底火山の頂部に形成された石灰礁を起源としている. プレートの移動によって, ペルム紀中-後期に日本周辺の収束境界において海溝充填堆積物とともに付加したとされる.秋吉石灰岩は, 小澤(1923)によって層序が逆転していることが明らかにされ,長い間地質学の重要課題として議論されてきた国際的に価値の高い地質遺産である(藤川ほか, 2019).一方, この石灰岩は, 現在カルスト台地を形成し, 地下には秋芳洞を初めとする400を超す鍾乳洞が形成されている.秋吉台のカルスト台地や地下の鍾乳洞は, 学術的に貴重な地質遺産であると同時に, その美しい景観が観光客を魅了するツーリズムサイトにもなっており, 年間3000万人超の観光客が訪れている(注:コロナ以前2015-2018年).カルスト台地の上では, トレッキングやトレイルラン, マラソンやサイクリングなど, 様々なアウトドアスポーツが行われ, 鍾乳洞では観光洞窟の散策やケービングなども楽しまれている.しかしながら, カルスト台地は全体としてなだらかな地形であるが, それでも多く急傾斜地や段差などが多く, 障害者や高齢者などが参加する機会は限られている.ジオパークは, 国連のユネスコの傘下にある活動であり,「誰一人取り残さない」というSDGsの中核理念に則って活動をする必要がある.そのためには, 障害・性別・年齢・宗教などの多様性を受け入れ, 誰も排除しないユニバーサルあるいはインクルーシブという考え方を導入することが望ましい. ユニバーサルツーリズムには大きく分けて, バリアフリーツーリズムとアダプティブツーリズムがある. 都市観光においては, 障害者や高齢者に対応して安全な場所や設備を提供するバリアフリー対応がしばしば進められている. しかし自然体験を中核としたアウトドアツーリズムにおいては, 障害者や高齢者一人一人の状態や条件に適応させるアダプティブツーリズムのスタンスが望ましい. Mine秋吉台ジオパークでは2021年にアダプティブツーリズムの実験を行った. Mine秋吉台ジオパークではこれまで秋芳洞のごく限られた場所のみで車椅子による洞内観光を行ったことがあったが, 今回初めて, 秋芳洞のうち一般公開している観光洞窟の全ルートと秋吉台科学博物館から若竹山山頂までのカルスト台地の台上ルートを, 障害者とともに観光する試みを実施した.この試みでは, ユニバーサルツーリズムのトライアルのために, アウトドア用車椅子「ヒッポキャンプ」を借用し使用した.この車いすを安全に運用するために, インクルーシブ野外教育研究所の小泉二郎氏や信州大学の加藤彩乃氏の指導の下, 事前トレーニングを実施し, 障害者の方を安全に案内するための技能や知識を習得した.現地では, この「ヒッポキャンプ」を組み立て, 障害者に通常の車椅子から移動してもらい, 事前トレーニングを受講した案内者が中心になり, さらに車椅子に連結したロープを使って, 数名がサポートに回った.今回は, 初めての試みだったため, 対象者は一人であったが, 今後体制を充実させて, 複数の障害者に対応できることを目指したい.これまで, 地域のジオパークイベントは, 家族連れや子ども達が中心であったが, 地元の高齢者矢障害者も参加できるイベントを増やし, 「誰一人取り残さない」ジオパーク活動を展開していきたいと考えている.今後は, 日本国内外のジオパークと連携し, ユニバーサル アウトドア アウトドア ジオツーリズムの在り方を, ジオパークネットワークの枠組みの中で検討を進めていきたいと思う.引用文献藤川将之・中澤 努・上野勝美(2019)石炭-ペルム系秋吉石灰岩の堆積作用とカルスト化作用,地質学雑誌, 125, 609-631.小澤儀明(1923) 秋吉台石灰岩を含む所謂上部秩父古生層の層位学的研究, 地質学雑誌, 30,227-243.

  • 森野 善広, 高木 宏二, 谷 彩音, 片野 真帆, 紫垣 真充, 山口 裕史
    セッションID: T3-O-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    1.はじめに 桜島・錦江湾ジオパークは、エリア拡大により姶良カルデラのほぼ全体が含まれ、ジオパークのテーマである「火山と人と自然のつながり」が深められるようになり、さらに付加体や貫入岩体を加えた地質多様性を考慮すると、火山だけでなくより大きく、多様なストーリーを語ることが可能となる。大地の形成過程を中心としたジオストーリーについて紹介する。2.地質概要 ジオパークエリアの地質はその形成過程から大きく分けて5つの地質時代から構成される。それらを地質時代の古い方から順に、白亜紀四万十累層群(付加体)、新第三紀高隈山花崗岩(貫入岩体)、新第三紀~第四紀北薩火山岩類、堆積岩類ほか、約30000年前の入戸火砕流堆積物(シラス、溶結凝灰岩)、26000年前から現在に至る桜島火山活動である。代表的な地質とそれに関連する主なジオサイトを表1に示す。3.地域の成り立ち(地質形成過程のジオストーリー)とジオサイト(◆設定、◇未設定)1)姶良カルデラ形成以前①白亜紀の四万十累層群が付加・上昇する   ◆四万十累層群を代表する露頭(錫山、太崎観音崎など;砂岩、泥岩、礫岩など)②新第三紀中新世頃四万十累層群中に高隅山花崗岩が貫入する   ◆高隈山花崗岩の代表する露頭(猿ヶ城渓谷など)   ◇花崗岩縁辺部の接触変成作用(高隈山;花崗岩、ホルンフェルス)③四万十累層群の上に重なる新第三紀~第四紀にかけての火山岩類や堆積岩類   ◆各時代の火砕流堆積物を代表する露頭(慈眼寺公園など;加久藤、阿多火砕流堆積物など)   ◆堆積岩類(城山層、国分層群や花倉層は未設定)   ◆湯湾岳安山岩類と接触変成作用(龍門の滝、蔵王岳など;安山岩、ホルンフェルス)2)姶良カルデラ形成以降の火山活動と錦江湾の環境変遷(鹿野和彦ほか,2022)①約30000年前 巨大噴火で姶良カルデラ形成 当時は淡水湖   ◆入戸火砕流堆積物(まさかり海岸・新城麓など;シラス台地形成)   ②約26000年前 カルデラ南縁で桜島火山の活動開始   ◆桜島北岳の噴火活動(桜島古期北岳の溶岩流、桜島薩摩など)③約15000年以降 湾奥海底から大量の軽石や火山灰の噴出   ◆若尊カルデラの形成(たぎり)④約14500年前 海面の上昇により海水の流入(約13000年前 水深100mを越える)   ◇淡水から海水への環境変化を示す地質(新島地震観測井コア;珪藻化石)⑤約8100年前~ 海域での堆積物と底生動物   ◇蒲生川の貝化石   ◆約6000年前 燃島貝層(新島)⑥約8000年前 姶良地域でマール(爆裂火口)の形成   ◆米丸マール、住吉池(上久徳の地層)⑦桜島安永噴火(1779年)により、海底の隆起で新島ができる   ◆安永諸島(新島)、⑧大正噴火(1914年)により桜島が島から陸(陸続き)へ   ◆大正溶岩(桜島口)4.ジオストーリーの構築1)高隈山花崗岩貫入のジオストーリー 白亜紀の四万十累層群に、花崗岩類が貫入し、その接触部がホルンフェルス化して、硬くなる。その後の地盤の隆起、岩盤の風化・侵食により、硬くなった部分が残り、花崗岩は削られて、錦江湾に注ぎ込む大きな流域を形成する(本城川流域)。花崗岩体は冷えて固まる時に縦方向、横方向の亀裂が入り、立方体や直方体の岩塊となり、風化侵食によって、丸みを帯びることがある。平滑な面構造は、渓谷の谷底に滑らかな形状となり「白磁の床」をつくり出す。また、丸みを帯びた巨大な岩塊は、河床に堆積し、独特の景観(猿ヶ城渓谷)をつくるとともに、キャニオニングなどのアクティビティを提供している。2)姶良カルデラ(錦江湾奥)の多様な地形地質が生んだ磯の生物多様性 姶良市重富海岸に代表される「干潟」や「磯」、溶岩によって形成された「岩礁」は、錦江湾の海岸域の多様な地形地質から構成される。干潟や礫浜に生息する生き物や、岩礁地帯の生き物などはその種類や生活様式が多様性に富んでいる。3)桜島大正噴火(大正溶岩)のジオストーリー 大正噴火(大正溶岩)で桜島と大隅半島が陸続きになることにより、何が起こったのか。「大正噴火が及ぼしたもの」について列挙する。 海域:海域の封鎖、海流の停滞、錦江湾の水質に変化 陸域:溶岩と大量の降下軽石(ジオサイト:溶岩なぎさ遊歩道(桜島)、有村溶岩展望所(桜島)、黒神埋    没鳥居(桜島)、牛根麓埋没鳥居(垂水)) 産業:掘り下げてみよう!ブリやカンパチの養殖は、大正溶岩のおかげ? 生活:交通の利便性 集落の移設から生まれた特産品「つらさげ芋」5.まとめと課題 桜島・錦江湾ジオパークでは、「火山と人と自然のつながり」をメインテーマとし、ジオサイト等を通して、観光客や地域住民にわかりやすく伝えるために6つのストーリーで紹介している。構築したジオストーリーを6つのストーリーに組み込むことで、錦江湾エリアの活性化に繋げていく必要がある。引用文献:鹿野和彦ほか,2022,地質雑,128,43-62.

  • 朝日 啓泰, 太田原 潤, 中村 健一, 宮北 健一, 長内 孝太, 甲 健太, 東出 桃子
    セッションID: T3-P-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】  下北ジオパークでは、地域住民の知識欲を刺激することで下北ジオパークへの理解促進及び活動の輪を広げ、ジオパークに触れるきっかけづくりとして、「下北ジオ検定」を令和2年度から実施している。「下北ジオ検定」では、令和2年度に発行したガイドブックの内容を中心に全100問の下北ジオパークの理念や各ジオサイトを出題し、80点以上で合格としている。「下北ジオ検定」は現在では下北ジオパーク認定ガイドの認定条件として定めており、ガイドの質を高める効果と、ジオパークガイドの間口を広げる役割を担いつつある。  また昨年度は小学校高学年から中学生向けの「下北ジオ検定ジュニア」も開催した。 郷土愛の醸成を目的の一つとしている下北ジオパークでは、ジオパークを通した学習を通して「地域資源の価値を理解し保全の意識を有した上で、地域の魅力を把握している子どもを育てること」を目標としている。そのような背景のなか、中学生以上向け副読本「みんなの下北ジオパーク」は、地域資源の価値に関する知識に加え、地域の魅力を理解するための情報を取り入れられる内容として作成し、各教育機関等へ配付している。 当事業では、みんなの下北ジオパークを学習した児童・生徒を対象として自らの学習成果を試す機会を創出するとともに、ジオパークの学習の知識、理解度を測り、今後の事業や副読本改訂の参考として活用することを目的として実施した。 【実施内容】  下北ジオ検定ジュニアは、下北管内の小中学校に配布している副読本「みんなの下北ジオパーク」から50問の問題を出題し、合格点は「下北ジオ検定」と同じく、80点とした。また回答者の理解の確認が目的のため類似語を列挙したようなひっかけ要素はなるべく排除して問題を作成した。12月10日に開催したジオ検定ジュニアでは小学3年生~中学3年生の合計13名(小学生7名、中学生6名)が受験した。 また比較のために、大平小学校の5~6年生にも同様の問題を抜き打ちで実施し、回答率の比較を行った。 【実施結果と考察】 13名のうち、合格者(80%以上の正答率)は6名に留まり、当初の想定よりも下回る結果となった。各問題の回答率を検討すると、特にジオサイトの場所を問う地理問題で、実際の検定と大平小学校ともに回答率が低い傾向が見られた。問題となったジオサイト「ちぢり浜」は下北管内の多くの小学校で課外学習の場として使われており、ちぢり浜で見られる地形の「ポットホール」の正答率が90%を超えた一方で、ちぢり浜の場所を問うような地理的な要素の理解は十分に進んでいなかったことが明らかになった。   また下北地域を代表する魚介類であるマダラに関する問題も出題した。マダラは陸奥湾沿岸では縄文時代より漁獲されており、現在まで下北の重要な魚介類として位置付けられている一方、その回答率は大平小学校の場合30%を下回る結果となった。これは地元の特産物や地質遺産の歴史的な経緯や価値がこれまでの出前講座では十分に浸透していなかったことを示すと考えられる。  これらの結果を基に、令和5年度からの出前講座では1)ジオサイトの地理的要素や他の地区やジオサイトとの位置関係を紹介した内容、 2)認知度が低くかつジオパーク内の文化と密接に関わっている事項の内容を盛り込むなど内容や方針の転換を行っている。 【教職員へのフィードバック】  今回の下北ジオ検定ジュニアの結果は、下北管内の生徒の地元への理解度に関する重要な知見であり、学校教員にも今回の検定の結果と今後の出前講座の方針を周知する場が必要と考える。本発表では今年度新たに開催する教職員の方々にジオパークでの活動や下北ジオ検定ジュニアの結果を共有する「教職員向け研修会」での現場の教職員の方々の意見やアンケート結果も報告する。

  • 原田 拓也, 佐藤 英和
    セッションID: T3-P-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    宮城県の北西部に位置する栗原市では,2008年岩手・宮城内陸地震により,山麓部を中心に3,500か所以上の山地災害が発生した.中でも,荒砥沢ダムの上流部で発生した荒砥沢地すべりは,幅900 m,斜面長1,300 mの移動体が,森林や道路をのせたまま南東方向へ300 m水平移動し,高さ150 mの滑落崖が出現した.この巨大地すべりは,国内に現存する地すべりとしては最大級とされ,日本の地質百選にも選ばれている.  栗駒山麓ジオパークでは,荒砥沢地すべりや冷沢崩落地などの災害遺構を防災教育に活用している.例えば,藍染湖ふれあい公園からの荒砥沢地すべりの展望や冷沢崩落地にある寸断された道路を見学し,岩手・宮城内陸地震により発生した現象や被害の様子を体感してもらう学習プログラムを提供している.現在,市内のほぼすべての小・中学校が導入しているほか,市外の中学校からの依頼も増加している.ただし,岩手・宮城内陸地震から15年が経過し,植生が徐々に拡大してきたことで,荒砥沢地すべりの展望が困難になってきている現状もある. 一方,栗駒山麓ジオパークでは,東北大学東北アジア研究センターの佐藤源之教授と連携し,GB-SAR(地表設置型合成開口レーダー)を用いた荒砥沢地すべりの滑落崖の常時観測を行っている.その結果,観測を始めてから現在まで,大きな変動が起こっていないことが示された.これをふまえて,荒砥沢地すべり地の管理者である林野庁東北森林管理局と協議し,栗駒山麓ジオパークとして条件付きで荒砥沢地すべり地内部を活用することが可能となった.これに伴い,「荒砥沢地すべり地入林に係る基本指針」を改定し,今年度から荒砥沢地すべり地内部を活用した高校生向けの防災学習を試験的に実施している.今後,これらの成果や参加者からの意見をもとに,新たな防災学習プログラムの開発を検討する.

  • 小河原 孝彦, 茨木 洋介, 郡山 鈴夏, 香取 拓馬, 竹之内 耕
    セッションID: T3-P-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    新潟県糸魚川市は,国石や新潟県の石に認定された宝石「ヒスイ」や,日本列島を東西に分断する大断層である糸魚川-静岡構造線など,地質資源に恵まれた町である.2009年には,日本初の世界ジオパークに認定され,地質資源を活かした地域開発を実践している.糸魚川ジオパークの研究活動で中核となる施設が,糸魚川フォッサマグナミュージアムである.1994年に開館し,2015年にリニューアルした地質系の博物館として,糸魚川産のヒスイ,石灰岩の化石,糸魚川-静岡構造線と日本列島の誕生などのコンテンツを展示している.人口4万人の糸魚川市にある地方博物館として,企画展などの展示活動,ジオ講演会やジオツアーなど市民への普及活動,ヒスイ中の新鉱物の研究(糸魚川石の発見等)や新たな資料の発掘など収蔵研究活動の3本柱を軸に活動を推進している.フォッサマグナミュージアムでは,年一回程度の間隔で特別展を開催してきた.近年の特別展の内容は,新潟焼山展(2016年),手取層群の化石展(2017年),宝石の国展・ヒスイ展(2018年),日本列島を変えた石展(2019年),栂海新道展(2021年),海のアート展・太古の海の化石展(2022年)である.宝石の国展は,講談社で市川春子氏が連載している漫画とコラボレーションし,漫画とキャラクターと実際の宝石を展示するなどした.栂海新道展は,文化庁の補助金を活用し,大学・研究機関・博物館・地元山岳団体が協力して新潟県・富山県境の朝日岳周辺の調査を実施し,その成果を特別展として公表した.また,登山のバリアフリー化を目指し,360度カメラで登山風景を撮影し超広角プロジェクターで放映することで,特別展来館者が実際に山を歩いているような臨場感のある展示を実現できた.海のアート展は,現在問題となっている海洋プラスチックを利用したアート作品の展示会であり,地元小学校やアート作家と協力し展示物を製作した.2023年7月15日から9月3日の期間,フォッサマグナミュージアムでは,特別展「石のまち糸魚川展」を開催した.市内を流れる河川である姫川沿いに存在する糸魚川-静岡構造線は,日本列島を地質的に分断する大断層であり,西側(青海地域)には日本が大陸時代に形成された古い時代の地層が,東側にはフォッサマグナを埋立てた新しい時代の地層が存在する.この糸魚川の大地を作っていた地層は,風雨や河川によって削剥され,長い年月をかけて海や川などの自然の力によって糸魚川の海岸に運ばれ,多種多様な石を海岸で探せるため「日本一の石ころタウン」・「石のまち糸魚川」と呼ばれている.今回の石のまち糸魚川展では,このようなヒスイを始め糸魚川の石を楽しみながら学び,地質の多様性や保護保全の必要性について考える展示会となっている.また,展示物として3Dプリンタを活用したため紹介する.糸魚川で産出するチャートは,放散虫や海綿の骨針などからなる珪質で緻密な岩石である.糸魚川市内の海岸では,赤褐色から暗緑色のチャートを採取でき,ヒスイと間違えやすいことから,来館者の興味も高い岩石である.博物館では,チャートは放散虫の化石からなる岩石であると説明しているが,放散虫は径0.05~0.1mmの微生物であり肉眼で観察することができない.また,顕微鏡や写真で形態を説明した場合も,放散虫の立体的な形状を理解することは難しい.今回の展示では,新潟大学理学部サイエンスミュージアムの協力で,チャート中の放散虫化石の3DデータについてX線マイクロCTを利用して取得し,3Dプリンタで立体的に出力した物を展示(図1)した.実物の岩石であるチャートの横に長径10cm程度の放散虫の立体模型を置き,来館者が手に取って形状を理解できるようにすることで,チャートという岩石の成因についてより良く理解することができるようになった. 今日の3Dプリンタの低価格化と高機能化によって,博物館の展示に応用する取組みが進められている(例えば,2010年に実施した九州国立博物館の古代中国青銅器に触れる展示など).3Dプリンタを活用することで,肉眼で観察することのできない微化石や岩石中の鉱物などを立体的に観察できる展示物を製作することができる.壊れやすく貴重な展示物など普段は手に触れることのできない物を複製し,気軽に触ることができるように工夫することも可能である.また,様々な標本の3Dデータが公開されており,これらのデータから3Dプリンタを利用して復元することで,手もとにない物品も展示することができる. このように3Dプリンタを活用した展示活動には多くの可能性があり,色や質感,重量感,臭いなどの復元には難があるが,フォッサマグナミュージアムにおける今後の展示活動に積極的に取入れていけるよう,今後とも研究を進めていきたい.

  • 笠間 友博
    セッションID: T3-P-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    1. はじめに 日本の海釣りの1つ投げ釣りは、シロギスを対象魚に大磯と小田原で発祥、発展したことは釣り人に広く知られている。一方、大磯から小田原に続く砂浜は、急深な地形となっているが、これはプレート境界である相模トラフが間近に迫っているためだが、これも地形、地質を学んだ人には広く知られている。ジオパークの役割の1つに、異分野の常識を結びつけ地域のストーリーを作る事がある。本発表はこの2つの結び付きについて述べる。 2. 日本の投げ釣り 投げ釣りは砂浜海岸で錘を使ってエサを投げる釣りを指し、地中海沿岸、アメリカ東海岸など世界各地で行われている。しかし、日本では遠投(100~200m)が前提になる点で特異である。これは対象魚が小型で、抵抗の少ない細糸を使用するためで、遠投で広範囲を探る投げ釣りが行われている。よって錘、糸、竿、リール等には、遠投性能向上の工夫がなされ、投擲技術も愛好者のクラブなどで受け継がれ進化している。またメーカー、自治体等の主催で、釣り大会も開催され、最近では女性の参加者も増えている。3. 急深な砂浜海岸の存在 大磯と小田原は、箱根ジオパークのテーマである東と西をつなぐ歴史のみち=東海道の隣り合う宿場町で、ともに明治以降は著名人の別荘が建ち、海に近く漁港もある。小田原は箱根ジオパークのエリア内、大磯はエリア外である。 砂浜海岸は一般的に遠浅で、鳥などの天敵に狙われやすいので魚が近寄らない、波で仕掛けが絡みやすい、など本来釣りには不向きである。相模湾の砂浜海岸は大磯の照ヶ崎を境に大きく変化し、照ヶ崎以西は、酒匂川系レキが目立つ急深な砂浜海岸になり、波打ち際の直ぐ沖で2m近い水深がある。これは小田原まで続く(図1)。背後の地形は大磯丘陵~酒匂川低地と変化し、沖には大磯海脚があるが、波打ち際の形状はそれらの影響が見られず、相模トラフまで続く急深海岸をなす。4. 海岸の漁業 急深な大磯から小田原の海岸は、波打ち際まで多くの魚が回遊するため、江戸時代頃よりシラス中心とした地引き網漁が盛んに行われていた。網を上げた直後は、こぼれた魚を狙って多くの魚が集まるため、漁師は大縄(オオナワ)と呼ぶ釣りを行っていた。3間半~4間の竹竿にその2~3倍の長さの太い麻縄(大縄)を付け波打ち際に立ち、濡れた麻縄の重さで擬餌針を投げては引く、体力と技術を要する釣りであった[1)]。カツオの一本釣りに似た釣りであるが、マグロ、カツオ、ブリ、スズキ、ヒラメなどが漁獲された。一方、遊漁の要素が強いシロギスを主な対象としたエサ釣りも行われていたが、錘を手や竹棒に引っかけて投げる原始的な方法がとられていた[2)]。急深な海岸なのでこれでも魚が釣れ、大正期まで続いた。5.車釣竿の発明 遊漁としての釣りを楽しむには、時間的、金銭的余裕が必要である。宿場町として発展した大磯と小田原は、多くの別荘が建ち、余裕のある人が多く訪れた。その中で、昭和2年、大磯のみとめ屋釣具店の尾上榮吉氏が、現在の日本の投げ釣り道具の原点になる木製回転式リール(大磯式リール)で投げる「車釣竿」(長さ2間、竹製)を発明した[1)]。投げる際のリール操作は熟練を要するが、竿の弾力で投げるので、少ない力で遠投が可能となり、手投げでは届かないところにいるシロギス等が釣れるようになった。リール直径は3寸半、当時木地屋は大磯に無く、平塚の1軒で生産されていた。全国から購入者が来たが、間もなく木地屋で勝る小田原で、より遠投性を追求した直径5寸の小田原式リールや2間1尺の竿が生産されるようになった[1)]。これらの回転式リールは戦後まで使用された。6. 戦後の発展 昭和22、3年頃、大磯の樺山氏がアメリカから金属製のスピニングリールという回転式ではないリールを持ち込んで釣りをしていた。このリールは糸がほつれて出て行くので回転式リールより投げやすく、巻き取りも速いので釣りの効率が上がった。このリールに着目したのが東京の植野精工(後のオリムピック釣具)であった。みとめ屋釣具店と試作品を研究しながら、昭和29年にサーフ93という遠投性に優れたヒット商品が誕生した。釣り竿も竹からグラスファイバー製に代わり、小田原の小田原一鱚氏が中心になり丈夫で遠投性の高い製品が生まれるようになった[1),2)]。昭和50年代からはより軽く反発力の強いカーボンファイバー製の製品が主体になり、リールも改良されていった。製品の進化は続き、試投会と呼ばれる新製品のプロモーションは、大磯や小田原の海岸で現在も行われている。 引用文献 1)みとめ屋釣具店 尾上正一氏の聞き取り調査(2023年5月27日)2)フィッシング編集部,1985, 特別対談ザ・小田原一鱚. 別冊フィッシング, 32, 廣済堂出版,東京.図1 小田原海岸(背後は箱根火山)

  • 松原 典孝, 藤原 勇樹
    セッションID: T3-P-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    山陰海岸ユネスコ世界ジオパーク(UGGp)は、昨年12月の第7回評議会でイエローカード(条件付き再認定)を受けた。 その主な原因は、民間のショップで地質物品が販売されていたためである。 このショップは、山陰海岸UGGpの国際的な価値を持つサイトの近くに位置しているが、販売されている地質物品は、そのサイトから採取されたものではない。 このショップは流通業者から仕入れた美しい石や小さな化石をお土産品として販売しており、これらの販売は日本の法制度上違法ではない。 現在、私たちは「UGGpの理念」と「事業者の商業活動」との間で問題に直面しているが、課題解決のため、このショップとの対話を続けつつ、新たな取り組みも始めた。 他のいくつかのUGGpも同様の課題を抱えていると推測され、将来の地球のために、世界の仲間と意見を交換しながら、持続可能な発展方法を見つけていきたいと考えている。 そのことによって、UGGpの一員として、UGGpの発展に貢献したいというのが、私達の望みである。

  • 柴田 伊廣, 青山 裕, 加納 靖之, 星 博幸, 佐藤 明子, 松原 誠, 横山 光
    セッションID: T3-P-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    地震火山地質こどもサマースクール(以下、サマスク)は、日本地震学会、日本火山学会、日本地質学会が共同で支援して開催されている、地球科学や防災をテーマにした科学学習プロジェクトである。サマスク開催地は、ジオパーク認定地域、ジオパークの準備地域、その後ジオパークとなった地域などが多く含まれている。サマスクのプログラムは、地球科学を分かりやすく伝えるだけでなく、大地の成り立ちや災害と密接に関わる人々の暮らしや景観についても取り扱うため、ジオパーク事業や専門員と理念や目的を共有する。 1999年夏、第1回のサマスクは地震学会と火山学会の有志によって「丹那断層」をテーマに静岡県函南町などで開催された。その後、開催地を毎年変えて実施されており、直近では2019年に京都府宮津市や京丹後市で北丹後地震を、2022年に群馬県嬬恋村と長野原町で浅間山を、2023年に神奈川県平塚市で大正関東地震をそれぞれテーマとして開催した(※2023年サマスクは本予稿投稿後に開催)。当初、防災や教育に関心の高い研究者や教員らが中心となって開催されていたが、現在では3つの学会の支援のもとで常時設置されている地震火山地質こどもサマースクール三学会連合企画委員会で開催地を公募し、サマースクール運営委員会と、開催地の地元団体とで実行委員会をつくって実施されている。2016年からは開催希望団体からの応募によって開催地を決定している。 サマスクのプログラムは、当初から参加者が能動的に考えること、チームの中で学び合うこと、学んだことを自分たちの言葉や絵を使いプレゼンするまでを一連のプログラムとすることを重視しており、いわゆる探究学習の手法が用いられている。好奇心旺盛な子どもたちに安全な学習機会を提供する。過去22回のプログラムの特徴は次の通りである。1)チームで考え学ぶ:地球科学や防災について理解するために講師らが考えたナゾを、小学5年から高校生からなる5〜6名のグループで相談しながら解き明かす構成になっている。2)スタッフ構成:講師、実験担当、コーディネーター(進行役)、チームサポーター(チームに同行する大人)、安全管理担当などのスタッフ構成による子どもたちへの強力な支援がある。3)地元へのノウハウ提供:コーディネーターや実験を運営委員と地元スタッフが共に担うことで、進行の仕方や実験手法などのノウハウが地元に残ることを期待している。 プログラム終了後に実施しているアンケートによると、毎回参加者の9割以上がプログラムに満足し、特に野外での学習や実験に人気がある。若干のリピーターも存在し、中には大学で地球科学を専攻する者、サマスクの運営スタッフとなった者なども現れている。一方で、サマスクを体験できる子どもは毎回30〜40名程度で、もっと多くの子どもに役立つプログラムにすべきではとの声が少なからずある。 今回は、2023年の神奈川県平塚市での様子などを振り返りつつ、2024年の徳島県三好市、2025年の長野県木曽町で予定されている開催を見通して、またこれまで参加した研究者へのアンケート調査なども踏まえて、展望や課題等について議論する。

T4.中生代日本と極東アジアの古地理・テクトニクス的リンク:脱20世紀の新視点
  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    原田 浩伸, 辻森 樹
    セッションID: T4-O-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    かつて、南北中国地塊の衝突型境界 (Dabie-Sulu Orogen) におけるコース石を含む超高圧変成岩の発見後、ペルム紀〜三畳紀の大陸縁の地殻断片を主体とする飛騨帯は、その東方延長を解く鍵として着目されるようになった。東アジア地域の地質体との関連性についての関心から飛騨帯の年代学については一定の進展が見られたが(Sano et al., 2000; Harada et al., 2021a; Isozaki et al., 2023; Takehara and Horie, 2019など)、岩石学・地球化学的研究は停滞が続いた。本講演では、飛騨帯の角閃岩相からグラニュライト相変成作用を被った変成炭酸塩岩について最近の知見を紹介し、岩石圏での炭素循環の理解において変成炭酸塩岩研究の果たす役割について展望を論じたい。一般に、変成炭酸塩岩の同位体地球化学的研究は、原岩推定だけでなく、流体–岩石相互作用の過程と流体の起源の解読、さらに脱炭酸反応(CO2を放出する変成反応)に関して定量的な議論を可能にする。最近、Harada et al. (2021b) は飛騨帯のドロマイトを含まない大理石及び石灰珪質岩について、マイクロサンプリングによる炭酸塩鉱物の炭素 (C)–酸素 (O)の微少量同位体組成分析を行い、幅広いC–O同位体組成を報告した (δ13C = −4.4 to +4.2‰ [VPDB]、δ18O = +1.6 to +20.8‰ [VSMOW])。大部分の大理石試料のδ13C値は炭酸塩堆積物の範囲内であるが、石灰珪質岩は著しく低いδ13C (−4.4 to –2.9‰)値を有し、炭酸塩鉱物と珪酸塩鉱物との間での脱炭酸反応によるδ13Cの低下を示す。ストロンチウム同位体比 (87Sr/86Sr)は炭酸塩堆積物のそれに近い値で、初生的なSr同位体比を保持している可能性が高い一方、δ18O値は炭酸塩堆積物に比べて低く、水流体や珪酸塩鉱物との同位体交換を記録する。飛騨帯に産する変成炭酸塩岩の多くは炭酸塩鉱物として方解石を主とするが、ドロマイトと方解石の両者を含むようなドロマイト質大理石も産する。神岡産のドロマイト質大理石は方解石、ドロマイト、かんらん石(Fo~89–93)から構成され、少量のクリノヒューマイト、トレモラ閃石、金雲母を含む。方解石とドロマイトのC–O同位体組成はそれぞれ、方解石がδ13C = –3.3 to +2.8‰、δ18O = +8.6 to +17.3‰、ドロマイトがδ13C = +0.2, +0.8‰、δ18O = +17.9, +20.0‰であり、方解石のδ13Cはドロマイトよりも低い傾向にある。これはドロマイトを消費してかんらん石を形成する脱炭酸反応によるδ13C値の変化を反映していると解釈される。また、ドロマイト質大理石に含まれる変成かんらん石は多数のメタン(CH4)流体包有物を含む。流体包有物はメタンに加えてリザダイト蛇紋石やブルース石を含むことから、トラップした流体とそのホストかんらん石の間での局所的な相互作用による蛇紋石化での無機的メタン生成が妥当である。堆積岩起源の変成炭酸塩岩において、無機的メタンが流体包有物内の局所的な蛇紋石化に伴って発生した水素(H2)によるCO2の還元で生成可能なことを示す例である。同様の蛇紋石化に伴う流体包有物内部での無機的メタン生成は海洋底や造山帯のマントルかんらん岩やはんれい岩類で報告されているが(Klein et al., 2019; Zhang et al., 2021など)、飛騨帯での発見は、造山帯に広く分布する変成炭酸塩岩が地球表層付近の岩石圏における無機的メタン生成及びその貯蔵の場を提供してきた可能性を示す。このような造山帯に産する変成炭酸塩岩を対象とした総合解析は、大陸縁における地殻流体活動の理解に寄与することが期待される。引用文献Harada et al., 2021a. doi: 10.1016/j.lithos.2021.106256Harada et al., 2021b. doi: 10.1111/iar.12389Isozaki et al., 2023. doi: 10.1111/iar.12475Klein et al., 2019. doi: 10.1073/pnas.1907871116Sano et al., 2000. doi: 10.2343/geochemj.34.135Takehara and Horie, 2019. doi: 10.1111/iar.12303Zhang et al., 2021. doi: 10.1016/j.gca.2020.12.016

  • 椚座 圭太郎, 磯崎 行雄
    セッションID: T4-O-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    飛騨帯は、かつては日本列島の先カンブリア時代基盤とされたが、プレート造山論が普及する中、結晶片岩類から時計回りの中圧型PTtパスや約250Maの変成年代が判明し、北中国・南中国地塊間の衝突境界東方延長とされるようになった(例えばHiroi, 1981; 1983)。日本列島の主体が約5億年間成長してきた付加体であることがわかると、飛騨帯は海洋側の古生代・中生代付加体などに衝上した異地性ナップと説明されるようになった(Komatsu, 1990; 相馬・椚座, 1993)。本講演では、CHIME, SHRIMP, LA-ICPMS法で得られた大量のU-Pb年代に基づくその後の飛騨帯研究の進展についてレビューし、今後の視点を提案する。飛騨帯は、泥質/塩基性/石灰質片麻岩類と飛騨古期花崗岩、宇奈月結晶片岩類からなる飛騨変成岩類と、それらに貫入する200-180Maの飛騨新期花崗岩からなる。古期花崗岩のU-Pb年代は250−240Maのものが多いが、様々な程度に片麻岩化しており、またかつて新期花崗岩の模式地とされた岩体からも約280MaのSHRIMP年代が得られたので(椚座ほか, 2010)、飛騨変成作用時ないしそれ以前の変成岩とみなされる。宇奈月結晶片岩類の原岩は、石炭紀コケムシ化石を産する石灰岩やバイモーダル火成岩類、十字石を産するパーアルミナス泥岩などリフトを含む大陸縁辺起源の堆積岩である。飛騨変成岩類や新期花崗岩のジルコンには、時に1.9−1.8Gaの砕屑性のコアがあり(Cho et al., 2021)、飛騨帯は先カンブリア時代大陸地塊ではないことが再確認された。飛騨変成作用は、約1億年間に及んだ長期のプロセスであった。塩基性片麻岩原岩や古期花崗岩の年代は約270Maから増え、250-240Maに集中する。またジルコン再結晶部の年代は約240Maであり(Cho et al., 2021)、衝突開始時の熱構造変化から変成作用のピーク年代と考えられる。熱水起源のウラニナイトのCHIME年代は240Maと200Maに集中し(椚座・金子, 2001)、前者はジルコンの再結晶年代に一致する。K-ArやRb-Sr法による年代240−220Maは変成作用の後退期を示し、新期花崗岩は変成帯の上昇途中に貫入した。これらについて1000万年程度の時間差の考察も可能だが、長期の造山過程中での温度や流体組成の時空間変化として捉えることも重要である。一方、新期花崗岩貫入は飛騨変成作用での説明は困難であり、太平洋側からのプレート沈み込みに関係したマグマ活動と考えられる。また白亜紀前期手取層群(庵谷礫岩層)の約220Ma A-type花崗岩礫(Isozaki et al., 2023)の起源は、大和構造線(YTL)に沿ったテクトニクス面からの検討が必要である。今後に向けて次の3点を指摘する。1)飛騨帯の石灰質の単斜輝石片麻岩形成には、高温での石灰岩と含角閃石岩の機械的混合反応が必要であり、大陸縁辺堆積層が圧縮応力場に取り込まれたことを示す。飛騨片麻岩類と宇奈月結晶片岩類の原岩の構成や年代は、海域の縮小期の大陸縁辺での堆積場特定に関わる。飛騨帯からのU-Pb年代に、南中国地塊に特徴的な600−1200Maの年代を欠くことは重要である。2)東アジアプレート古地理復元のために、大・南中国(GSC)+ニポニデス造山帯(飛騨外縁帯など)、その大陸側の飛騨帯+その延長部、そして中央アジア造山帯の3者関係を広域的に再検討する必要がある。飛騨帯などの動きを反映した手取層群や相当層の後背地や古流系復元が重要である。3)YTL形成の一部として飛騨ナップ・テクトニクスを再検討する。YTLは日本では飛騨帯ナップの先端にあたるが、ロシア・中国国境や朝鮮半島でどのような様相を呈するのかは未解明である。 文献:Cho et al. (2021)GSF 12, 101145; Hiroi(1981)Tectonophysics 76, 317-333; Hiroi(1983)CMP 82, 334-350; Isozaki et al. (2023) Is. Arc 32, e12475 ; Komatsu (1990) In Ichikawa et al.(Eds.), IGCP project, 224, 25–40; 椚座・金子 (2001) 地質学会見学旅行案内書, 137-156; 椚座ほか (2010) 地質雑 116 Suppl, 83-101; 相馬・椚座 (1993) 地質学論集 42, 1-20

  • 磯崎 行雄, 堤 之恭, 中野 智仁, 椚座 圭太郎
    セッションID: T4-O-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    大・南中国(Greater South China; GSC)は、現在の中国南部に加えて、東シナ海や西南・東北日本を経て、現在のロシア(沿海州)・中国(吉林・黒龍江省)国境のKhanka-Jiamsi-Bureya(KJB)帯まで連続していたとして復元された古生代地塊である(Isozaki, 2019)。日本の顕生代地殻の大部分は、このGSC地塊の古太平洋側でのプレート沈み込みで形成されたNipponides造山帯の産物である。日本列島中央部の飛騨帯はその例外で、GSC地塊との関連を示す証拠を全く持たない。飛騨帯は伝統的に北中国地塊の一部とされてきたが、先カンブリア時代基盤岩を完全に欠いており(椚座ほか, 2010など)北中国地塊との比較も難しい。  飛騨帯を特徴付ける約250-230 Maと200-180 Maの2つの年代の花崗岩類(Takahashi et al., 2018など)の共産は、大和堆を経て、日本海対岸のロシア・中国・北朝鮮国境域や、さらに中国北東端の小興安嶺東部まで追跡される(Isozaki et al., 2021, 2023)。露/中の長い国境域に沿ったKJB帯(=GSC地塊北端)の西隣には、幅200 kmの独立した地体構造単元としてLaoelin-Grodekov(LG)帯が産する。ちなみに北中国地塊の北東端はLG帯のさらに南西方に位置する。大和堆を介して連続していたLG帯と飛騨帯は古生代後期の海棲動物化石を産し、かつてGSC地塊の西側にあった古生代海域に起源を持つと判断される。  飛騨帯とLG帯には保存良好な植物化石を多産する厚い砕屑岩相白亜系が分布し、飛騨帯では手取層群、LG帯ではNikan層群と各々呼ばれる。近年の砕屑性ジルコンのU-Pb年代測定により、手取層群内の対比や後背地推定の議論が進んだ(Kusuhashi et al., 2006; Kawagoe et al., 2012; Nagata et al., 2018など)。中でも、手取層群中の巨礫から検出された後期三畳紀A型赤色花崗岩(Isozaki et al., 2023)は重要である。同年代類似岩の産出は東アジアでも希少で、わずかに小興安嶺(LG帯の北方延長)にのみ報告例があり、古生代末-中生代前半における飛騨帯とLG帯の連続性を強く支持する。一方、Nikan層群中部Lipovtsy累層は採掘品質の石炭層を挟む非海成層からなり、手取層群と一部共通の植物化石を多産する(Kovaleva et al., 2016; Volynets & Bugdaeva, 2017など)。Lipovtsy累層上部の砕屑性ジルコンU-Pb年代スペクトル(Isozaki et al., 投稿中)は、手取層群上部のものと類似し、LG帯と飛騨帯とが少なくとも白亜紀前期の間、ほぼ同一の堆積盆地および後背地を共有したことを示唆する。中新世の日本海拡大までは両帯が一連の単元として繋がっていたと考えて問題ない。  北東アジアにおいて、南北方向に伸びるGSC地塊+太平洋縁Nipponides造山帯に対して、シベリア、北中国・タリム地塊間の古アジア海閉塞域の産物としての中央アジア造山帯は東西方向である。両大構造の接合は、GSC地塊・LG帯間の牡丹江断層など南北方向の断層境界として認識され、日本では飛騨帯と太平洋側の諸単元との境界(長門-飛騨外縁構造線)がそれにあたる。大和構造線(Yamato tectonic line;YTL)と総称されるこの南北方向の接合境界は、極東アジアで最重要の地体構造境界と位置付けられる(Isozaki et al., 2023)。 文献:Isozaki (2019) Is. Arc 28, e12296; Isozaki et al. (2021) Bull. Nat. Mus. Nat. Sci. C47, 25-39; Isozaki et al. (2023) Is. Arc 32, e12475 ; Kawagoe et al.(2012) Mem. Fukui Pref. Dinos. Mus. 11, 1-12 ; Kovaleva et al. (2016) Russ. Jour. Pacif . Geol. 10, 50-62; 椚座ほか (2010) 地質雑 116 Suppl, 83-101; Kusuhashi et al. (2006) Is. Arc 15, 378-390; Nagata et al. (2018) Mem. Fukui Pref. Dinos. Mus. 17, 9-26; Takahashi et al. (2018) Is. Arc 27, e12220; Volynets & Bugdaeva (2017) Is. Arc 26, e12171.

  • 【ハイライト講演】
    ルグラン ジュリアン
    セッションID: T4-O-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    日本の微化石生層序学的研究(有孔虫,石灰質ナノプランクトン,珪藻,放散虫)は極めて先進的で緻密であるが,それらは陸生層には適用できない.一方で,胞子・花粉は非海成層と海成層の両方に堆積し,広域な生層序学的対比に有用であるため,日本各地から花粉分析用の試料を採集し,従来の微化石生層序と対比できる花粉層序を確立する研究を進めている.今回,古生代及び中生代の陸上生態系の時空間解析に関する最新の古花粉学的研究成果を紹介したい.植物はシルル紀までには陸上に進出し,土壌形成や光合成を通じて,動物が生存可能な陸上生態系を作り上げた.しかし,これまでの陸上化の理解は,ほぼヨーロッパのデータに基づいている.従って,その一般性は十分に検証されていない.最近,北部ベトナムでアジア最古となる後期シルル紀の陸上植物化石群集を報告でき,国内でも,南部北上帯,飛騨帯,黒瀬川帯の古花粉学・古植物学的解析を進めている.特に,東北日本に分布する南部北上帯の下部デボン系中里層からリニア植物やゾステロフイルム植物などの初期陸上植物の類縁を持つ胞子群集や植物組織が初めて得られた.分類群の世界的レンジやユーラメリカ大陸・西北部ゴンドワナ大陸の花粉層序との比較から年代を確認し,胞子組成は南中国から報告された花粉群集に最も類似することから,前期デボン紀には南部北上帯が南中国地塊に近い位置という仮説を支持する.南部北上帯や秩父帯,四万十帯などの花粉分析でデボン紀から白亜紀まで各時代において胞子・花粉化石が得られ,花粉層序の確立を進めながら,日本列島の形成に伴う植生変遷が明らかになりつつある.特に,これまでの研究では,後期中生代には地球生命圏の様相を一変させた被子植物の急速な多様化過程の解明を目指してきた.東アジアにおいては,植物化石を含む陸成層の年代が決定されていないため,植物多様化の時間変遷が十分に解明されていない.物部川層群や銚子層群,蝦夷層群をはじめ,海成層を基軸とした古花粉学的解析を進め,日本の白亜紀における花粉・胞子化石の時空間分布を初めて解明した.その結果,125 Ma以降の気候変動に呼応して,東アジアの古植物相が緯度方向に振動した可能性が示された.さらに,日本では,典型的な初期被子植物花粉が127 Maまでに出現したことが明らかになった.この結果,東アジアにおける被子植物の出現年代の最小値を初めて定めた.

  • 福山 繭子, 小笠原 正継
    セッションID: T4-O-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    能登半島には第三系と第四系が広く分布しており、その基盤として飛騨帯の片麻岩類や花崗岩類が小規模に分布する。本研究では、金山ほか(1999)によって報告された能登半島北西部、石川県志賀町(旧町名:富来町)北東に産する変成溶結凝灰岩(黒雲母K-Ar年代178± 5 Ma、柴田ほか, 1984)からジルコンを分離し、U-Pb年代測定を実施した。溶結凝灰岩中のジルコンからは244± 2.6 Maと188± 1.6Maの2つの年代グループが得られた。ジルコンの形態と内部構造から、188Maの新期の年代は、溶結凝灰岩の形成年代を示すと考えられる。古期の年代は、溶結凝灰岩のマグマの起源物質または噴出時に取り込んだ周辺岩石由来の年代を示すと考えられる。古期の年代が、溶結凝灰岩のマグマの起源物質とした場合、変成結凝灰岩は、188Maに、244Maの年代を示す岩石からマグマが発生・噴出し溶結凝灰岩となり、その後、178Maの冷却年代を持つマグマ活動(花崗岩類)による接触変成作用を被ったと考えられる。一方、古期の年代が噴出時に取り込んだ周辺岩石由来とする場合、溶結凝灰岩の噴出時に244Maの年代を示す岩石が広く分布していたことを示す。 本研究で得られた古期年代は飛騨古期花崗岩類の年代(竹内ほか、2021)と一致し、また溶結凝灰岩の形成年代は飛騨新期花崗岩類の年代と一致する。このことから、溶結凝灰岩は飛騨新期花崗岩類の火成活動で形成されたと考えられ、飛騨新期花崗岩類をもたらしたマグマ活動は地表にも噴出していたことが明らかになった。この可能性に関しては、金山ほか(1999)でジュラ紀火山―深成複合岩体の存在を既に議論している。 また変成溶結凝灰岩の形成年代は、飛騨外縁帯の岩石を不整合に覆う来馬層群の年代(竹内ほか,2017)と同じである。来馬層群は酸性火山灰層を挟む。この溶結凝灰岩を形成した火山噴火は、飛騨帯と飛騨外縁帯を覆ったものと考えられる。つまり、飛騨外縁帯の岩石は飛騨新期花崗岩類の活動時期までに飛騨帯の近傍に位置していたことになる。 過去の研究において、ジュラ紀の付加体中に認められる堆積性ジルコンの年代で得られる190-160Maまたは200-150Maのグループについて、その起源となった岩石は日本列島から既に失われたと解釈されている。今回得られた飛騨帯の変成溶結凝灰岩の年代は、飛騨帯は前期ジュラ紀には陸化し、その上に溶結凝灰岩が重なり、さらにその深部には新期飛騨花崗岩が貫入していたことを示唆する。この溶結凝灰岩を形成した火成活動は、火山灰中のジルコン粒子として、または砕屑性ジルコン粒子として、飛騨外縁帯の前期ジュラ紀の堆積岩の来馬層群中にジルコンを供給したと考えられる。さらにジュラ紀付加体中、白亜紀付加体中にも砕屑性ジルコンとして供給されたと考えられる。本発表では、これらについて報告すると共に、ジルコンのHf同位体の示す飛騨帯古期・新期マグマの特徴について議論をする。 引用文献金山憲勇・廣井美邦・柴田賢.(1999) 能登半島北西部のジュラ紀火山―深成複合岩体, 地質学論集, 53, 299-308. 柴田賢・内海茂・宇都浩三・中川忠夫(1984)K-Ar年代測定結果-2-地質調査所未公表資料-. 地質調査所月報, 35, 331-340.竹内誠・常盤哲也・熊崎直樹・横田秀晴・山本鋼志. (2017) ジルコンU-Pb年代からみた下部ジュラ系来馬層群の堆積年代. 地質学雑誌, 123, 335-350.竹内誠・カスイ・志村侑亮.(2021)20万分の1地質図「富山」の東部地域の深成岩類のジルコンU-Pb年代. 地質調査研究報告, 72, 41-64.

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