日本地質学会学術大会講演要旨
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T4.中生代日本と極東アジアの古地理・テクトニクス的リンク:脱20世紀の新視点
  • 堤 之恭, 長谷川 遼, 磯﨑 行雄
    セッションID: T4-O-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    日本列島の白亜紀整然層は,前弧・弧内・背弧堆積物の3種に分類される.弧内・背弧堆積物は一般に陸成層からなり,これまで対比精度が劣る非海棲生物化石と凝灰岩・火山岩の放射年代のみが年代推定手段だった.篠山層群は兵庫県に産する非海成相白亜系で,下部の大山下層と上部の沢田層からなる(坂口, 1960; 林ほか, 2017).軟体動物化石により,大山下層は北部九州の関門層群脇野亜層群下部若宮層に(田村, 1990),また沢田層は上部若宮層に(Ota, 1960)各々対比され,K-Ar年代とFT年代により篠山層群の堆積年代はジュラ紀末チトニアン~白亜紀セノマニアンとされてきた(松浦・吉川, 1992).しかし,カイエビおよび貝形虫の記載に加え,大山下層下部の凝灰岩から106 ± 9 Ma (1σ)(アルビアン)というFT年代が報告され,その堆積年代の下限は従来示されていたよりも大幅に若くなった(林ほか, 2010).また,同凝灰岩および沢田層最下部の安山岩からそれぞれ112.1 ± 0.4 Ma,106.4 ± 0.4 Ma (95% conf.; Kusuhashi et al., 2013;アルビアン) というジルコンU-Pb 年代が報告された(図A). 篠山層群の堆積年代の確認と砕屑物の来歴,さらに他の弧内堆積物との比較のため,新たに砕屑性ジルコン年代の測定を行った.大山下層中部から得た砂岩の年代分布は最若ピーク以外が卓越する背弧海盆的なパタンをもち,YC1σは105.9 ± 1.5 Maを示した.一方で,沢田層下部~中部から得た砂岩はほぼ最若ピークのみが卓越する弧内堆積盆地的なパタンをもち,YC1σは98.3 ± 0.6 Ma(セノマニアン)を示した(図B). 大山下層中部のYC1σは沢田層最下部の安山岩の年代と誤差範囲で一致し,大山下層の中部以降の堆積速度が速く,その年代が約106 Maであることを示している.一方,沢田層下部~中部のYC1σは98 Maと,下部の安山岩と年代的にかなり離れる.これらの結果は篠山層群が,アルビアン前期の泥質で凝灰岩を挟む大山下層下部,アルビアン後期安山岩に覆われる砂泥質な大山下層中部~沢田層下部,そしてセノマニアン以降の沢田層中部~上部という,年代の異なる三つの層序単元から構成されることを示唆する. 大山下層下部の凝灰岩の年代は,関門層群脇野亜層群熊谷層(上部若宮層相当)の凝灰岩の年代111.8 ± 1.3 Ma(95% conf.; Miyazaki et al., 2019)と誤差範囲で一致し,大山下層下部と上部若宮層との対比は妥当である.一方で,下関亜層群下部の塩浜層砂岩のYC1σは101.3 ± 0.9 Maを示す(堤ほか, 2023).おそらく山口県の下関亜層群は,篠山層群の沢田層下部の106 Ma安山岩に対応する部分を欠くのであろう.しかし,長崎の西彼杵半島/五島列島間の江島では,下関亜層群相当の安山岩層が102.0 ± 1.2 Ma(95% conf.; Tsutsumi & Tani, 2022)の花崗閃緑岩に貫入されており,安山岩の年代は102 Ma以前なので,江島の安山岩は沢田層下部のそれに対比可能である.このように,篠山層群と関門層群とは大局的によく対比されることが確認された.山口県の関門層群のみが106 Ma火山岩の存在を欠く事実は,西南日本の白亜紀中葉以降のテクトニクスを考察する上での制約条件の一つとなる.林ほか(2017)地雑 123, 747-764.; 林ほか(2010)地雑 116, 283-286.; Kusuhashi et al. (2013) Proc. Royal Soc. B 280, 20130142.; 松浦・吉川(1992)地雑 98, 635-643.; Miyazaki et al. (2019) Int. Geol. Rev. 61, 649-674.; Ota (1960) Mem. Fac. Sci. Kyushu Univ. C 9, 187-209.; 坂口(1960)大阪学芸大紀要 8, 34-46.; 田村(1990)熊大教育紀要, 自然科学 39, 1-47.; 堤ほか(2023)鉱物科学会要旨.; Tsutsumi & Tani (2022) Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., C 48, 1-14.

  • 澤木 佑介, 浅沼 尚, 坂田 周平, 大野 剛
    セッションID: T4-O-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    花崗岩は地球を特徴づける岩石の一つであり、その成因解明に向けてこれまで多くの先行研究が報告されてきた。大陸地殻上部は概ね花崗岩質であるとされており、2000年代以降大陸形成史を議論する上で砕屑性ジルコンが注目を集めている。砂岩中に含まれる砕屑性ジルコンの年代分析は、既に消失した地質体の年代情報を提供するため、日本列島の構造発達史の解明において大きな役割を果たしてきた(Aoki et al., 2012; Isozaki et al., 2017など)。一方で、砕屑性ジルコンを供給した母岩組成情報については理解が進んでいない事が研究現状といえる。砂岩に含まれる砕屑性ジルコンの大半は花崗岩に由来し、本研究は花崗岩中のジルコンを判別できる方法を模索する。花崗岩を分類する方法は多々あるが、Sawaki et al. (2022)では花崗岩をI-, S-, M-, A-型に分類する方法に着目し、西南日本に分布する中新世花崗岩の各型に含まれるジルコンの化学組成を調べた。その結果、Nb/P、Ta/P、Ce/Pの組み合わせることでジルコンを供給した母岩の花崗岩型判別を可能であると提唱した。しかし、特にS型花崗岩については扱った岩石が大峯地域のみであり、判別図の一般性が十分に検証されたとは言えない。そこで本研究では鹿児島県に産出する中新世花崗岩を用い、上記判別図の更新を行う。 鹿児島県に産する中新世花崗岩のうち、南大隅岩体、高隅山岩体、紫尾山岩体から岩石を採取した。Nakada & Takahashi (1979)によると前二者はS型花崗岩、紫尾山岩体はI型花崗岩に分類される。構成鉱物、主要元素、微量元素組成の観点から言って、南大隅岩体及び高隅山岩体はS型花崗岩の特徴を有している事が再確認できた。紫尾山岩体はI型花崗岩の特徴も有する一方で、ferroan、高(Nb+Y)濃度、高Ga/Alといった特徴を併せ持つ。Whalen & Hildebrand (2019)の分類に当てはめるとA1型に分類されるため、ここでは暫定的にI-A遷移型として扱う。花崗岩から分離したジルコンをEpofix樹脂に埋め込み、カソード像にて内部構造を観察した結果、inheritedジルコンはほとんど観察されなかった。各ジルコンの微量元素濃度は学習院大学のLA-ICP-MSを用いて測定した。その際包有鉱物には細心の注意を払い、包有鉱物の照射が疑われる分析は除外した。 南大隅岩体及び高隅山岩体中のジルコンはやや低いNb/P, Ce/Pによって特徴づけられた。これは、S型花崗岩マグマ中でのジルコン晶出が遅い事に由来すると考えられる。つまり、早期晶出したイルメナイトにNb、モナザイトにCeが選択的に分配されたために残存マグマ及びそこから晶出するジルコン中ではこれら元素に枯渇したと考えられる。また、これら元素の枯渇度合いは大峯地域のS型花崗岩中ジルコンほどではなく、S型花崗岩中ジルコンが持ち得る組成幅はSawaki et al. (2022)で想定されていたよりは広いと結論づけられる。紫尾山岩体中のジルコンはNb/P-Ce/P図上でI型とA型花崗岩中ジルコンの中間にプロットされた。紫尾山岩体花崗閃緑岩の全岩Zr濃度は概ね200 μg/g以上と高いため、マグマ中でのジルコン晶出が早期であったと想定される。そのため、早期の共生鉱物の晶出影響に鈍く、全岩組成の特徴がそのままジルコン組成にも反映されたと推察される。 上記判別図では、ジルコンの組成領域は全岩化学組成および早期の共生鉱物によって決定される。本研究で議論するイルメナイトやモナザイトは日本の中新世花崗岩に限った花崗岩の共生鉱物種ではないため、判別図としての一般性は損なわれないと考えられる。上記I-, S-, M-, A-型花崗岩中ジルコンの組成領域は互いに重複している部分も存在するため、どんなジルコンでも完璧に分けられるわけではない。しかし、特徴的な化学組成を持つジルコンだけでも母岩推定ができれば、日本列島の構造発達史の解明に貢献できると思われる。 [引用文献] Aoki et al. (2012) Geology, 40(12), 1087-1090. Isozaki et al. (2017) Journal of Asian Earth Sciences, 145, 565-575. Sawaki et al. (2022). Island Arc, 31(1), e12466. Nakada & Takahashi (1979) 地質学雑誌, 85(9), 571-582. Whalen & Hildebrand (2019) Lithos, 348, 105179.

  • 青木 翔吾, 内野 隆之, 福山 繭子, 中野 竜
    セッションID: T4-P-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    日本列島を含むアジア大陸東縁部は、約5.2億年前に受動的大陸縁から活動的大陸縁へと移行し、それにともない付加体形成や弧火成活動が開始した。活動的大陸縁への移行後のテクトニクスや沈み込み帯内部の物質構造の進化は、付加体や火成岩体の地質学・岩石鉱物学・地球化学的な情報から推定することができる。しかしながら構造侵食や火成活動にともなう地殻の改変プロセスにより、現在の日本列島を含めたユーラシア大陸にはペルム紀以前の地質体は断片的にしか残されていないため、その推定の妨げとなっている。東北日本北上山地には、ジュラ紀付加体からなる北部北上帯と先シルル紀基盤岩類およびシルル系-白亜系堆積岩から構成される南部北上帯に挟まれて、前期石炭紀と後期ペルム紀-前期三畳紀の付加体から構成される根田茂帯が狭長に分布する(永広・鈴木, 2003; 内野ほか, 2005など)。本研究では、日本列島最古の付加体である東北日本根田茂帯の前期石炭紀綱取ユニットの砕屑岩に着目し、それらに含まれる砕屑性ジルコンの複合化学分析(U–Pb年代、Hf同位体比、微量元素濃度)に基づき、同時代に形成された低温高圧型変成帯との比較から綱取ユニットのアジア大陸東縁部における位置付けを明らかにするとともに後背地火成活動史の復元を試みた。綱取ユニットの砂岩は、ユニットの主岩相である凝灰岩-泥岩互層中に厚さ数mから十数mでレンズ状に散在する。それらの砂岩は、構成鉱物のモード組成によると、火山岩岩片から構成される“火山性砂岩”(QmFLt三角図上でLt成分が90%を超えるもの)と石英と堆積・火山岩片を豊富に含む岩片質砂岩(Qm成分が10-20%、Lt成分が80-90%)に大別される。本研究では、岩片質砂岩5試料と火山性砂岩1試料から、それぞれ344粒子と3粒子のジルコンを分離し、秋田大学大学院理工学研究科に設置されたLA-ICP-MSを用いてU–Pb年代測定を行った。その結果、岩片質砂岩のジルコンは400-3000 Maの広い年代値を示し、ヒストグラム上で400-550 Maに大きなピークを示す。これらの試料の最若クラスター年代は、それぞれ402.9±5.6 Ma、461.9±4.1 Ma、452.0±5.7 Ma、452.9±4.5 Ma、477.7±4.9 Maであった。火山性砂岩1試料は、2粒子が400-450 Ma、1粒子が約860 Maの年代値を示した。全ての試料で、付加体形成年代である前期石炭紀の年代値を示すジルコンは含まれていなかった。 400-550 Maにピークを示すという年代ヒストグラムの特徴は、西南日本に分布する低温高圧型変成岩体である三郡-蓮華帯や黒瀬川帯の砂質片岩に含まれるジルコンのコア年代においてもみられる (Tsutsumi et al., 2003, 2011; Yoshida et al., 2020; Matsunaga et al., 2021)。これらの地質体の低温高圧型変成作用は、後期デボン紀-前期石炭紀(370-340 Ma)に起きたことがジルコンの変成リム年代から示されており、これらの原岩が綱取ユニットと同時期に堆積し、堆積年代を示す火成ジルコンが含まれていないことが示唆される。以上の砕屑性ジルコンU–Pb年代の類似性から、綱取ユニットと三郡-蓮華帯、黒瀬川帯木頭名片岩はいずれも同じ弧-海溝システム縁辺部で形成されたことを示唆する。そして、最若クラスター年代と堆積年代との年代ギャップは、中期デボン紀から石炭紀初期にかけて、後背地においてジルコン形成をともなう珪長質火成活動が行われていなかった、あるいは極小規模であったことを示唆する。綱取ユニット砂岩に含まれる400-550 Maのジルコンは、当時ゴンドワナ大陸周縁部に位置した東アジア大陸東縁部において、海洋プレートが沈み込みを開始してから1億年間分の記録を保持している。本発表では、年代測定を行ったジルコンのHf同位体比や微量元素組成から、この時代の詳細な火成活動史の復元を試みた成果を発表する。 参考文献: 永広・鈴木 (2003), 構造地質 vol.47, 13-21; 内野ほか (2005), 地質学雑誌 vol.111, 249-252; Tsutsumi et al. (2003), JMPS vol.98, 181-193; Tsutsumi et al. (2011), Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., C, vol.37, 5-16; Yoshida et al. (2020), J. Metmorph. Geol. vol.39, 77-100; Matsunaga et al. (2021), Lithos, vol. 380-381, 105898

  • 安藤 寿男
    セッションID: T4-P-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    白亜紀の堆積物は東アジアに広く分布しているが,その多くは陸成層である.しかし,日本列島の場合は,陸成から浅海成,そして沖合海成までの多様な岩相と生物相を記録しており,四万十帯北帯に代表される付加複合体も広く分布する.したがって,日本列島の白亜紀の地層は,東アジアや西太平洋縁辺部の古環境,気候,生態系に関する情報を含む豊富な地質学的情報を提供している.また,日本列島の白亜紀の古生態系を復元するためには,現実的なテクトニクスモデルに基づいた古地理学的復元も不可欠である. そこで,白亜紀の日本列島の地質学的背景を理解するために,古日本陸弧−海溝系を構成していた岩石の分布や連続性の把握を試みた.白亜紀の深成岩,火山岩,堆積岩,付加体の時空間分布に関する最新の情報を整理・統合して,高橋・安藤 (2016) および安藤・高橋 (2017) に示した古地理図を基に白亜紀古日本陸弧–海溝系の復元を試みた.白亜紀の岩石分布は,西南日本弧と北東日本弧で大きく異なるが,大陸側から海洋側に1) 弧内・弧間・背弧堆積盆における非海成堆積岩類,2) 火成弧における花崗岩類と火山岩類,3) 前弧堆積盆における主に海成で河川成を伴う堆積岩類,4) 付加体におけるタービダイト相とメランジュ相の堆積岩類が帯状配列する. そして,九州から北海道にかけての背弧,弧内・弧間,前弧堆積盆に分布する総計71地域(サハリン南部1地域,北海道東部 (千島弧) 2地域を含む)における白亜系について,地質年代や主要な堆積相に基づいて広域対比を行い,3枚の地質柱状対比図にまとめた.東北日本弧と西南日本弧の個々の地域における地層の時代範囲は短いことが多く,堆積相もそれぞれ異なることが少なくないが,全体で見ると白亜紀前期から末期まで広がっており,主要な堆積相とその分布傾向は概ね類似しており,大きな差異や広域不整合も認め難い.東北日本では白亜紀/古第三紀境界付近の地層は広域不整合で認められないが,上位の暁新統が断続的に確認できる (Ando, 2003; 安藤, 2005, 2006).化石相や古生物地理研究からは,東北日本,西南日本ともに同一の北西太平洋の温帯域生物相が分布すると解釈されている.したがって,白亜紀には前弧堆積盆が両弧全体に続いていたことが示唆される.  ただし,北海道の空知−エゾ帯中軸部に分布する前弧堆積物の蝦夷層群が整合に重なる,先アプチアン下部白亜系〜上部ジュラ系の空知層群は前弧堆積盆起源ではなく,オフィオライト起源の基盤岩であり,北海道における独特な地質背景を反映する. 東北日本の前弧の白亜系は北海道以北を除くと散点的にしか陸上露出していないが,東北地方の太平洋沖合 (三陸沖〜鹿島沖) 海底下には,幅数十km以上の範囲にわたって前弧堆積盆の厚い白亜系が南北に連続的に広がっていると推定されている (馬場, 2017). その層序範囲は下部白亜系におよび,一部はジュラ系に達しているかもしれない.一方,西南日本の前弧堆積物は,1) 外帯の秩父帯 (関東山地〜九州) に断続的に分布するものと,2) 紀伊半島〜四国の内帯南縁沿いに連続する和泉層群とその西方の九州中央部に分布する地層群,および和泉層群の東方延長とされる紀伊半島中部から関東に点在する地層群の2列をなしている.この顕著な帯状構造は,中新世の日本海拡大とそれに伴うテクトニズムによるものと考えられている.したがって,西南日本と東北日本の白亜系の顕著な分布や地質構造の違いは,新第三紀以降のテクトニクスの違いに起因している.そうすると,東北太平洋沖海底下の白亜系の構造の方が,初生的な白亜紀前弧堆積盆の状態をよく保存していると解釈できる. こうした,地質学的背景から,サハリン南部まで含めれば,基本的には2,500 kmにおよぶ一連の白亜紀古日本陸弧−海溝系が連続していたものと復元される.文 献:Ando, 2003, Journal of Asian Earth Science, 21, 919-933/安藤,2005,石油技術協会誌,70, 24-36/安藤, 2006, 地質学雑誌,112,84-97/高橋・安藤, 2016, 化石, 100, 45-59/安藤・高橋, 2017, 化石, 102, 43-62/馬場, 2017, 日本地方地質誌2 東北地方,427-478,朝倉書店

T5.テクトニクス
  • 【ハイライト講演】
    星 博幸
    セッションID: T5-O-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    日本列島の新生代テクトニクスで現在ホットな話題の一つは、「日本海拡大直後の16–15 Maのプレート配置はどうなっていたか、そして伊豆-小笠原弧(以下、伊豆弧)はどこに位置していたか」であろう。これまでに提唱されているモデルは三つの類型に大別できるが(星 2018a)、日本海拡大時または拡大直後に伊豆弧が本州弧のどの場所で接合または衝突していたかが大きなポイントである。この問題の解決には、西南日本太平洋側の応力場変遷、地殻垂直変動、マグマ活動の時空間変遷に加えて、伊豆衝突帯周辺の地殻変形の理解が鍵を握ると考えられる。今回の発表では主に伊豆衝突帯周辺の地殻変形に焦点を当てる。新生代テクトニクスのモデルは以下に示す二つのテクトニック・イベントをうまく説明する必要がある。一つ目のイベントは、関東山地周辺各地で確認されている広域不整合の形成である。この不整合では、伸張変形または短縮変形を受けた前期中新世の地層を変形度の小さい中期中新世の地層が侵食面を挟んで覆っており、多くの地域で傾斜不整合になっている。この不整合は15.5~15.0 Maの短期間に形成されたことが層序学的研究により明らかにされている(高橋ほか 2006)。二つ目のイベントは、本州中部の八の字型屈曲(関東対曲構造;星 2018b)西翼側で示唆される弧内地殻回転と横ずれ剪断変形である。愛知県設楽地域より北東側(長野県側・山梨県側)の上部地殻(中央構造線を含む)は15.5 Ma以降に西南日本主部およびアジア大陸に対して反時計回りに回転したことが筆者の最近の調査により判明してきた。この中期中新世の弧内地殻回転によって対曲構造西翼側の湾曲が強化された。設楽以北では、15.5 Maから12 Ma頃までの間にこの反時計回り弧内回転とその後の赤石構造帯+中央構造線・南信州セグメントの左ずれ断層運動(狩野ほか 1993)が起こったことによって、現在の地質構造の大枠が完成したと考えられる。本講演では、伊豆衝突帯周辺から最近得られた年代測定結果や古地磁気測定結果の概要も交えて、伊豆衝突帯周辺の地殻変形とテクトニック・モデルについて議論する。<文献>星 博幸, 2018a, 地質雑, 124, 675–691; 星 博幸, 2018b, 地質雑, 124, 805–817; 狩野謙一ほか, 1993, 地質学論集, 42, 203–223; 高橋雅紀, 2006, 地質雑, 112, 14–32.

  • 宇野 康司, 尾原 帆香, 古川 邦之, 金丸 龍夫
    セッションID: T5-O-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    大陸などから得られた古地磁気極を,地質学的な時間軸の中で並べた見かけの極移動経路を「古地磁気極移動曲線(apparent polar wader path, APWP)」と呼ぶ。ある地質学的領域のAPWPの形状は,その領域の移動速度や,他の領域との間で生じた衝突プロセスを評価するために使用されている。また,APWPに見られるヘアピンターンの形状は,そのデータが得られた領域の急激な運動を反映すると考えられているため,特に重要な情報であるとされる。 西南日本の内帯(以下,西南日本)からも白亜紀100 MaにおいてAPWPヘアピンが観察されている(Kodama and Takeda, 2002)。この時代の西南日本の古地磁気極は,その前(110Ma)と後(90-70Ma)の極に対して,明瞭にニアサイドに位置しているためヘアピン状のAPWPが生じている。同年代幅における東アジアの古地磁気極に大きな移動が存在しないことから(Cogné et al., 2013),西南日本のヘアピンが意味するものは,西南日本が東アジアに対して110 Ma以降100 Maまでの間に約2000 km北上する運動を経験し,その後90 Maまでの間に同程度の南下を経験したことであるとされた。しかし,この反復的な大規模運動を支持するデータは他の研究からは示唆されていない。 西南日本が経験した可能性のある変動の有無について,すなわちAPWPのヘアピンターンの有無については,西南日本の100 Maの古地磁気極の位置が鍵となる。そのため新たな研究サイトを増やすとともに,その古地磁気データの精密な検討が求められている。 西南日本の白亜紀APWPにヘアピンターンが存在しないという仮説を設定し,それを検証するために西南日本の100 Maの古地磁気極の更新を試みた。西南日本の中央部に分布する羽山層(101 ± 4 Ma,鈴木ほか 2001)の8地点から,古地磁気分析のために赤色層の試料が採取された。段階熱消磁により,これらの地点からヘマタイトが担う高温残留磁化成分が分離された。反射顕微鏡観察と化学組成分析から,高温成分を担うヘマタイト粒子が鏡鉄鉱であると示された。これらの観察結果より,羽山層の高温成分が堆積時に得た初生磁化であると結論された。初生磁化の方向から,100Maの西南日本を代表する古地磁気極(35.0°N,209.6°E,A95=6.1°,N=8)を得た。この極は,白亜紀の他の年代の磁極クラスターと重なる形でプロットされ,西南日本の白亜紀の古地磁気極は110 Maから70 Maにかけて,その位置を大きく移動させないことが観察された。したがって,西南日本の白亜紀APWPにヘアピンターンが存在したとは考えにくい。 [文献]Cogné et al. (2013) Geophysical Journal International 192:1000-1024Kodama and Takeda (2002) Earth and Planetary Science Letters 201:233-246鈴木ほか (2001) 地質学雑誌 107:541-556

  • 松元 日向子, 藤内 智士, 原 英俊
    セッションID: T5-O-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】  四国沖におけるフィリピン海プレートの沈み込みは前期~中期中新世に始まったとされており,それ以前のプレート収束域の様子については議論が続いている(例えば,Taira and Ogawa, 1991).この課題の解決には,その時に堆積した地層について岩相や変形の情報を集める必要がある.また,詳細な堆積年代の制約は,地質体の広域対比・比較や,同時代に生じた地質現象との関連の議論にもつながる.高知県室戸半島に露出する古第三系室戸層は,プレート収束域で堆積したとされており,乱堆積層および砕屑注入岩が多く見られることで特徴づけられる(平ほか,1980).これらの乱堆積層の多くは未固結な堆積物が海底地すべりに伴って変形してできたとされる(例えば,DiTullio and Byrne, 1990).室戸層の堆積年代は放散虫化石と浮遊性有孔虫化石より,後期始新世から漸新世に対比されている(例えば,須鎗ほか,1989).本研究では,室戸層を特徴づける乱堆積層の変形過程と堆積年代について,従来よりも詳細な情報を得ることを目的とした.そのために,本層が露出する高知県室戸半島の海岸露頭を中心に野外調査を行い,乱堆積層および砕屑注入岩の分布や内部構造について調べた.また,調査地域西部の行当岬と黒耳海岸で採取した珪長質凝灰岩2 試料と,黒耳海岸の砂岩1 試料からジルコンを抽出し,そのU–Pb年代を測定した. 【乱堆積層の内部構造】  野外調査の結果,室戸層では複数の乱堆積層が確認され,海岸に露出する本層の約40%を占めることがわかった.個々の乱堆積層の厚さは,行当岬では1–25 mであるが,黒耳海岸で観察した大規模なものでは100 mを超える.岩相は,一部に欠如はあるものの下位より,泥から中粒砂が混在する砂質泥岩層,砂質泥岩を基質とする変形した砂岩あるいは頁岩,互層からなる偽礫を含む砂礫質泥岩層,砕屑注入岩が貫入する砂岩頁岩互層,が累重する.乱堆積層内には小規模な褶曲が数多く見られ,行当岬のものは褶曲軸面とヒンジ線の方向がまとまっている.一方で黒耳海岸の大規模な乱堆積層内の小規模褶曲群は,ヒンジ線の方向はまとまるのに対して,褶曲軸面は層理面に対してさまざまな角度で存在する.これらの乱堆積層の移動方向は,周囲の古流向とほぼ平行である. 【ジルコンU–Pb年代】  珪長質凝灰岩は2 試料ともに約35–31 Maの顕著なピークを示すジルコン集団からなることで特徴づけられる.ピークを構成するジルコンU–Pb年代から得られた加重平均値は,行当岬で約32.5 Ma,黒耳海岸で約32.2 Maを示し,いずれも前期漸新世の最前期を示す.砂岩の1試料から得たジルコンU–Pb年代は,主に約540–54 Ma (78.3%) と約1900–1700 Ma (15.0%) の集団を示し,最も若い単一粒年代は約54.1 Maを示す.600 Maより若い年代に注目すると,主に先カンブリア時代から白亜紀のジルコンからなり,ペルム紀からジュラ紀のジルコンの割合がやや高い. 【考察】  乱堆積層内部の褶曲構造の方向より,乱堆積層をつくった海底地すべりは陸側斜面やトラフ軸でレビー堆積物が崩れ,深海チャネル内を流れたものだと考えた.また,乱堆積層内部の岩相は,下部で砂質泥岩層や,互層のブロックをもつ砂礫質泥岩層であり,上部で砂岩頁岩互層であることより,砂岩頁岩互層を起源とするものが多いことがわかる.これは,室戸層では,乱堆積層が移動する前は砂岩頁岩互層が堆積する環境であったことを示す.  珪長質凝灰岩のジルコンU–Pb年代は,前期漸新世の最前期を示す.この年代は,化石年代で推定されている後期始新世〜漸新世の範囲にあり,堆積年代をより制約することができた.一方,砂岩からは堆積年代を示唆するようなジルコンを見いだせなかった.四万十帯南帯において乱堆積層を含む地層は,和歌山県の後期始新統~漸新統牟婁層群や宮崎県の前期漸新統~後期漸新統の日南層群(久富ほか,1980;酒井,1988)で確認されている.これら西南日本弧のプレート収束域広域で乱堆積層は,室戸層での堆積年代の制約により,前期漸新世以降に発生した海底地すべりであった可能性がある. 参考文献 DiTullio and Byrne, 1990, Geol. Soc. Amer. Bull., 102, 1420–1438 ; 久富ほか,1980,地球科学,34, 73–91;酒井,1988,地質学雑誌,94, 733–747; 須鎗ほか,1989,徳島大学教養部紀要自然科学/徳島大学教養部編,22,33–57.;Taira and Ogawa, 1991, Episodes, 14, 205–212;平ほか,1980,四万十帯の地質学と古生物学-甲藤次郎教授還暦記念論文集,319–389.

  • 志村 侑亮, 原 英俊, 常盤 哲也, 中村 佳博, 淺原 良浩
    セッションID: T5-O-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】 近年,運動力学モデルから推定されるプレート沈み込み史と地震波トモグラフィーの解析から推定される現在のマントル構造の比較により,60~50 Ma頃,東アジア東縁部へイザナギ-太平洋海嶺が沈み込んだことが提案された(Seton et al., 2015).このことは,東アジア東縁部におけるマグマ活動や前弧海盆・付加ウェッジ成長の停止(例えば,Wu & Wu, 2019),および構造境界断層の運動センスの転換(Kubota et al., 2020)など,その後の地質学的証拠からも支持された.一方,白亜紀から古第三紀にかけて,イザナギ-太平洋海嶺が東アジア東縁部に接近し最終的に沈み込むことにより,沈み込み帯の特に前弧域でどのようなテクトニックプロセスが生じていたのかについては議論されていない. 四万十帯は,白亜紀~新第三紀の付加体からなり,イザナギ-太平洋海嶺の接近から沈み込みまでの発達史を解明する上で重要な役割を担う.古第三紀付加体中には凝灰岩や花崗岩類,および高圧型変成岩類などを巨礫として含む礫岩が認められ,紀伊半島では丹生ノ川礫岩(谷口ほか, 2012),四国では大山岬礫岩(馬渕, 1995)と呼ばれている.この礫岩は,海嶺沈み込み時期にあたる古第三紀に形成されたと考えられているが,礫岩の堆積時期や礫の起源,および成因についてほとんど検証されていない.これらを解決するため,本研究では丹生ノ川礫岩と大山岬礫岩を対象に,野外調査・ジルコンU–Pb年代測定・白雲母K–Ar年代測定・炭質物ラマン分光分析を実施した.【結果】 丹生ノ川礫岩については,挟在する砂岩層と花崗岩礫を対象にジルコンのU–Pb年代を測定した.砂岩層から得られたU–Pb年代は,最若粒子として66.5 Ma,最若クラスターとして68.2 Maを示した.既存の凝灰質岩から得られた年代も含めると(63.0 Ma; 常盤ほか, 2016),本礫岩の堆積時期は古第三紀暁新世もしくはそれ以降と推定できる.花崗岩礫から得られたU–Pb年代は,加重平均値として86.3~78.8 Maを示し,白亜紀のサントニアン期~カンパニアン期に形成したといえる. 大山岬礫岩については,挟在する砂岩層,および火山礫凝灰岩と砂質片岩の礫を対象にジルコンのU–Pb年代を測定した.砂質片岩については白雲母K–Ar年代測定と炭質物ラマン分光分析も実施した.砂岩層は,最若粒子として59.2 Ma,最若クラスターとして64.4 Maの年代を示したため,本礫岩の堆積時期は暁新世もしくはそれ以降と推定できる.火山礫凝灰岩礫は,95.2 Maの加重平均値を示し,白亜紀のセノマニアン期に形成したといえる.砂質片岩は,90.3~82.2 Maの最若粒子,91.3~87.6 Maの最若クラスターのU–Pb年代を示し,67.9 MaのK–Ar年代を示した.また,ラマン分光分析の結果,73.8~66.6 cm-1のD1半値幅が得られ,Kaneki & Kouketsu (2022)に従い温度換算することで316~333 °Cの変成ピーク温度を得た.すなわち,砂質片岩は白亜紀のチューロニアン期~カンパニアン期頃に堆積し,マーストリヒチアン期に~330 °C程度の変成作用を経験したと推定できる.【議論】 丹生ノ川礫岩に含まれる花崗岩礫は領家帯の花崗岩類を,大山岬礫岩に含まれる砂質片岩は三波川帯の高圧型変成岩類を起源とすることがわかった.また,本礫岩が堆積した時期(暁新世もしくはそれ以降)は,イザナギ-太平洋海嶺が沈み込んだ時期と概ね一致する.すなわち,イザナギ-太平洋海嶺が沈み込むことで東アジア東縁の弧-前弧域で隆起・削剥プロセスが生じ,丹生ノ川礫岩や大山岬礫岩が形成したと考えられる. 従来,三波川帯の高圧型変成岩類は始新世中期頃に陸上へ露出したと考えられてきたが(楠橋ほか, 2022),本研究の結果は高圧型変成岩類の少なくとも一部は始新世中期よりも前に露出していたことを示唆している.【文献】Kaneki & Kouketsu, 2022, Isl. Arc, 31, e12467; Kubota et al., 2020, Tectonics, 39, e2018TC005372; 楠橋ほか, 2022, 地質雑, 128, 411–426; 馬渕, 1995, 島根大学地質学研究報告, 14, 21–35; Seton et al., 2015, Geophys. Res. Lett., 42, 1732–1740; 谷口ほか, 2012, 地団研専報, 59, 185–192; 常盤ほか, 2016, 地質雑, 122, 625–635; Wu & Wu, 2019, Geology, 47, 953–957.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    牛丸 健太郎, 山路 敦
    セッションID: T5-O-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    領家帯と三波川帯が接合する過程での中央構造線(MTL)付近の左横ずれを,三波川変成岩のみならず,地殻表層にあったであろう白亜系前弧海盆堆積物からも読み取ることができ,それが古第三紀初頭の出来事とする説がある[e.g., 1].すなわち,四国から紀伊半島に露出する三波川帯と和泉層群には左横ずれを示す杉型雁行配列をした褶曲が認められるが[e.g., 2, 3],四国および瀬戸内海沿いの始新統には目立った横ずれ変形や褶曲がない[4].臼杵-八代構造線(UYTL)も同時期に左横ずれしたとされるが[1],MTLに比べて年代制約が乏しい.左ずれの時期は,雁行配列した褶曲があるとされる大野川層群[5]の堆積から中部中新統火山岩類の堆積前という制約しかない. 九州地方西部,天草には上部白亜系姫浦層群と始新統が分布し,かつUYTLの延長部に隣接することから,その古第三紀の運動が読み取れる可能性がある.実際,天草の白亜系と始新統には構造差がある[e.g., 6, 7].すなわち,始新統にみられる褶曲(NNE-SSW方向)とは異なる方向の軸で白亜系が褶曲している.しかし,白亜系独自の褶曲軸の方向が不明確でテクトニックな意義の議論が困難であった.天草の多くの地域では白亜系の褶曲軸はE-W方向であるのに対し[7, 8, 9],天草上島ではNE-SW方向だとされていた[6].しかし,上島の褶曲軸の方向は始新統による白亜系の削剥量の水平変化から間接的に推定されたに過ぎなかった.  そこで,本研究では白亜系と始新統の構造差を再検討すべく天草上島東部の地質図を作成した.その結果,白亜系だけが被っている,褶曲軸がE-W方向の地質図規模の褶曲を発見した.褶曲の形体は,波長約500–800 mで翼間角約150°の正立キンク褶曲であった.白亜系にあって始新統にないN-S方向の地質図規模の左ずれ断層も見出された.加えて,白亜系の削剥量がN-S方向に変化することが分かった.調査地域の南部と北部には白亜系の上部が露出するのに対し,中央部には露出しない.これは,E-W方向の軸の背斜の軸部で削剥量が多いと考えれば説明できる.上島におけるE-W方向の褶曲軸は,天草の他地域の白亜系の褶曲軸や下島西部の高浜変成岩の最終変形ステージにおける褶曲軸[10]と共通である.したがって,天草の全域で始新統堆積前にこの方向の軸の褶曲が形成されたと考えられる. 天草の白亜系の褶曲軸はUYTLにたいして杉型雁行しており,UYTLを主断層としたときの左横ずれ変形と理解できる.これはそうした雁行構造と形成時期から,和泉層群および三波川帯の褶曲(Du褶曲[11])に対比できそうである.天草の褶曲時期は白亜系・始新統の堆積年代からマーストリヒチアンからイプレシアンの間と制約でき,四国における左横ずれの地層記録(和泉層群堆積後,ひわだ峠層堆積前)と整合的である.すなわち,MTLは古第三紀以降に様々な運動をしているが[3],古第三紀初頭の左横ずれ変形が西南日本から九州まで広範囲に及んでいたことが天草の地層記録からも支持される. ところで,西南日本から九州の内帯が古第三紀初頭に約20°時計回り回転したことが指摘されている[12].今回注目した和泉層群・三波川帯・姫浦層群の褶曲とこの回転の前後関係は不明だが,回転を戻してもこれらの褶曲軸がMTL・UYTLといくらか斜交することから,褶曲形成時に左横ずれ成分は存在していたと考えられる.また,姫浦層群の褶曲とUYTL,和泉層群と三波川帯の褶曲とMTLの斜交角に大きな違いが見られない.このことは,三波川帯の上昇および九州から西南日本弧の内帯の回転後に,地殻浅部で褶曲が形成されたことを示唆する. 1, Miyata, 1980, Mem. Geol. Soc. Japan., 18, 51–68; 2, Shiota et al., 1993, J. Sci. Hiroshima Univ., 9, 671–683; 3, Kubota et al. 2020, Tectonics, 39, e2018TC005372. 4, 楠橋ほか, 2022, 地質雑, 128, 411–426; 5, 寺岡, 1970, 地調報告, 237, 1–87; 6, 植田・古川, 1960, Sci. Rep., Dep. Geol., Kyushu Univ., 5, 14–35; 7, 天野, 1960, 地質雑, 66, 767–779; 8, 高井ほか, 1997, 天草炭田地質図説明書; 9, Takai & Matsumoto, 1961, Mem. Fac. Sci., Kyushu, Univ., 11, 252–287; 10, 守山・山本, 2005, 地質雑, 111, 765–778; 11, Wallis, 1990, J. Geol. Soc. Japan., 96, 345–352; 12, 山岡・Wallis, 2023, JpGU2023, SMP26-P4.

  • 新正 裕尚, 羽地 俊樹, 仁木 創太, 折橋 裕二, 佐々木 実, 平田 岳史
    セッションID: T5-O-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    日本海の拡大とそれに伴う西南日本の時計回り回転と同時期に,西南日本の海溝寄り地域で広域的な火成活動が起こった.なかでも高橋(1986)が外縁帯の火成活動と呼んだ,海溝に極めて近接した地域にみられる玄武岩質の火成岩体は,当時,西南日本が対面していた海洋プレートに関する情報をもたらしうる点で注目される.近年,測定の高精度化が進み,形成時期が若い斑れい岩中のウラン濃度の低いジルコンについても精度良くU-Pb年代測定が可能となってきた.そこで外縁帯の玄武岩質火成岩体のひとつであり,四国東南部の室戸岬の北方にシル状をなして前期中新世の四万十帯南帯菜生層群を貫く室戸岬斑れい岩体について,ジルコンU-Pb年代を求めた.本岩体の斑れい岩はソレアイト質玄武岩マグマに由来するものであり,全岩化学組成の特徴と四国海盆の海嶺軸が南方にあることから,四国海盆玄武岩マグマに由来する可能性が指摘されていた(Miyake,1985; Hibbard and Karig, 1990; Kimura et al., 2005).これまで本岩体からは岩体周縁部の文象斑岩についてVistelius et al. (1982) により18MaのK-Ar年代が,浜本・酒井(1987)により14.4 Maの黒雲母-全岩のRb-Srアイソクロン年代が報告されているのみで貫入時期は精度良く決定されていなかった.今回,細粒の斑れい岩および優白質岩脈からジルコンを分離し,U-Pb年代を東京大学地殻化学研究施設の機器によるレーザーアブレーションICP質量分析法によって求めたところ,それぞれおよそ15.6 Maの年代を得た.また,急冷周縁部のドレライトを含む数試料について全岩化学組成を検討したが,すべて低カリウム系列のソレアイトであり,NMORBで規格化した液相濃集元素パターンではEMORBと類似した傾きを示す.これらの観察は,室戸岬斑れい岩体が四国海盆玄武岩マグマに由来するという従来の考えを支持する.西南日本の高速時計回り回転の終了が16 Maごろであることが詳細な古地磁気研究により,明らかになりつつある (星, 2018).また,西南日本外帯の珪長質火成岩の広域的なジルコンU-Pb年代測定に基づき火成活動の開始時期が15.6 Maごろであることから,少なくとも紀伊半島から九州の範囲で西南日本回転直後に高温の四国海盆リソスフェアの沈み込みがあったことが主張されている(Shinjoe et al., 2021).今回報告する室戸岬斑れい岩体の年代は,西南日本回転直後に,この地域が拡大終焉期の四国海盆と対面していたことを強く裏付けるものである.【文献】浜本・酒井 (1987) 九大理研報(地質学), 15, 131-135; Hibbard & Karig (1990) Tectonics, 9, 207-230; 星(2018) 地質雑, 124, 675–691; Kimura et al., (2005) Geol. Soc. Amer. Bull., 117, 969–986; Miyake (1985) Lithos, 18, 23–34; Shinjoe et al. (2021) Geol. Mag., 158, 47-71; 高橋 (1986) 科学, 56, 103–111; Vistelius et al. (1982) Geochimya International, 6, 875–884.

  • 常盤 哲也, 北川 奏
    セッションID: T5-O-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    日本列島には花崗岩類が広く分布しており,国土の約30%を占めるとされている(中島,2018).この花崗岩類のうち,白亜紀から古第三紀の初期にあたる130~50 Maの花崗岩類(白亜紀花崗岩類)が最も多くを占めており,その露出面積は日本列島の全花崗岩類の80%以上を占める(中島,2018).よって,日本列島の形成史の解明において,白亜紀花崗岩類は重要な存在と考えられる.西南日本に分布する領家花崗岩類は,白亜紀花崗岩類を代表する花崗岩類の一つである.この領家花崗岩類については,K-Ar年代やRb-Sr年代などを中心に多くの年代測定が行われ,西から東に向かって若くなる傾向を有することが指摘されている(例えば,Nakajima et al., 1990; Yuhara et al., 2000).木下・伊藤(1986)やNakajima et al. (1990)は,この年代の東西変化を海嶺の沈み込み位置の移動に起因するとしている.一方で,Tani et al. (2015)は,閉鎖温度が高く,自己検証能力の高いジルコンU–Pb年代測定結果から,年代に東西変化は認められなく,85,60,35 Maにパルス的花崗岩類の形成があったとしている.しかし,ジルコンU–Pb年代測定が行われていない地域も多く存在しており,伊那地域に分布する白亜紀花崗岩類(伊那領家花崗岩類)もその一つである.よって本研究では,伊那領家花崗岩類のジルコンU–Pb年代測定を行った.  伊那花崗岩類は,木曽山脈およびその周辺に広く分布しており,大小約20個の岩体に区分されている(領家団体研究グループ,1955).これらの岩体のほぼすべてを対象としてジルコンU–Pb年代測定を行った結果,伊那花崗岩類のジルコンU–Pb年代は約100~60 Maを示した.つまり,伊那地域では40 Myという長い期間,火成活動が生じていたと考えられることに加え,中国地方の柳井地域や四国地方の香川地域などよりも最終の活動時期が若いことも示している.また本研究では,火成活動の度合いをより正確に捉えるため,岩体ごとの露出面積を産出し,今回得られた年代との整理を行った.その結果,伊那地域の主要な火成活動は約72~65 Maに限定され,約100~60 Maの40 Myの間に絶え間なく火成活動が生じていたのではなく,数Myという短期間の火成活動により形成されたことが明らかとなった.この岩体ごとの露出面積について,国地方の柳井地域や四国地方の香川地域など他の地域にも適用させたところ,主要な活動時期も西から東に若くなっている結果となった.よって,領家花崗岩類の主要な形成は,西から東に向かって若くなる傾向があるのは間違いなさそうである.この結果は一見,海嶺沈み込み説を支持するようにも考えられる.しかし,近年の地球物理学的な解析から,海嶺が沈み込んだ時期は約50 Maという結果もあり(Seton et al., 2015),領家花崗岩類の形成についてはマグマ形成の不均質性や構造侵食なども考慮して考える必要がある.引用文献:木下・伊藤, 地質雑, 92, 723-725; 中島, 2018, 地質雑, 124, 603-625; Nakajima et al., 1990, Cont. Min. Pet., 104, 381-389; 領家団体研究グループ, 1955, 地球科学, 26, 1-3; Seton et al., 2015, Geophys. Res. Lett., 42, 1732–1740; Tani et al., 2014, 8th Hutton Sympo. Abst., 109; Yuhara et al., 2000, Island Arc, 9, 64-80.

  • 清水 以知子, 盧 志強, 板谷 徹丸, 纐纈 結衣, 辺 笛
    セッションID: T5-O-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    北部秩父帯のジュラ紀~白亜紀初期の付加体は,古典的には三波川帯の未変成~弱変成部とみなされてきたが,近年,秩父帯と三波川帯の間に分布する御荷鉾緑色岩類との関係も含め,様々なテクトニックモデルが提案されている.磯崎・丸山 (1991) は,微化石年代や変成年代のギャップに基づき,北部秩父帯を構造的上位の地質ユニット(上吉田ユニット)と下位の地質ユニット(柏木ユニット)にわけ,上位のユニットは,下位の三波川変成作用を受けたユニットより古い地質体であり,西南日本内帯の美濃-丹波帯に相当するナップ(クリッペ)と考えた.その後の磯崎ほか (2010) の地体構造区分でもこの考えが踏襲されているが,砕屑性ジルコン年代の情報により,三波川変成帯のピーク変成年代についての考えが大きく変化している.これまでの秩父帯-三波川帯の構造モデルは主として四国地域での研究に基づいて提唱されたものであるが,本講演では,三波川帯・秩父帯の古典的フィールドである関東山地北西部における堆積岩中のイライト K–Ar 年代の知見 (Lu et al., 2022) に加え,炭質物ラマン温度計による最高被熱温度推定とナップ境界断層の露頭観察から,北部秩父帯のユニット区分と,三波川変成帯との構造関係を議論する.調査地域の北部秩父帯は下位から柏木ユニット・万場ユニット・上吉田ユニットに区分される.イライト結晶度と炭質物ラマン温度計のデータから,上位ほどピーク変成温度が低くなる傾向が読み取れる.柏木ユニットはジュラ紀後期~白亜紀前期に付加した整然層よりなり,万場および上吉田ユニットはいずれもジュラ紀中期に付加した混在岩よりなるユニットである.柏木ユニットと上吉田ユニットは四国との広域対比に用いられているが,枕状溶岩などの塩基性溶岩で特徴づけられる万場ユニットに相当する地質体は四国では認定されていない.このことから.関東山地においても,万場ユニットを上吉田ユニットに含める区分がしばしば用いられてきた.その場合,大きな構造境界(断層)は従来の万場ユニットを含む「上吉田ユニット」と柏木ユニットとの境界に想定されている(関東山地団体研究グループ, 1994).しかし,調査地域のイライト K–Ar 年代において,柏木-万場ユニット境界では明瞭なギャップはみとめられなかった.上吉田ユニットの K–Ar 年代はばらつきが大きいものの,140 Ma 以前の古い変成年代が示唆された.これらの事実は,大きな構造境界が万場-上吉田ユニット境界にあるというナップモデル (Shimizu, 1988) を支持する.このことは放散虫による年代ユニットが,変成年代ユニットと必ずしも一致しないことを意味している.万場ユニットの混在岩と柏木ユニットの砂泥互層は神流川ぞいの連続露頭において,漸移的に変化する.万場ユニットの分布が本地域に局在していることから,御荷鉾海山に沈み込みによってプレート境界の上盤側の付加体が乱され引きずり込まれた部分が,万場ユニットである可能性が考えられる. 御荷鉾緑色岩類の最上位のジュラ紀新世の赤色頁岩に挟在される酸性凝灰岩は,柏木ユニットと同じ約 115 Ma のピーク変成年代を示しており,御荷鉾緑色岩類が柏木ユニットのメンバーであるという考えを支持している.関東山地の三波川帯(鮎川ユニット)と北部秩父帯柏木ユニットの間には 30 Ma ほどのギャップがあるが,四国地域もふくめて大域的にみると,付加-沈み込み-上昇サイクルを繰り返す一連の「三波川変成帯」とみなすことができる. 引用文献 磯崎行雄・丸山茂徳, 1991, 地学雑誌, 100, 697–761. 磯崎ほか, 2010, 地学雑誌, 119, 999–1053. 関東山地団体研究グループ, 1994, 地球科学, 48, 83–101. Lu, Z., Shimizu, I., Itaya, T., 2022, Minerals, 12, 1515. Shimizu, I., 1988, J. Geol. Soc. Japan, 94, 609–628.

  • 坂東 晃紀, 淺原 良浩, 大藤 茂
    セッションID: T5-O-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】 四国や紀伊半島の四万十帯では,砕屑性ジルコンU–Pb年代分析を通じた後背地解析や堆積年代拘束の研究が進んでいる(例えば、Hara et al., 2017;Tokiwa et al., 2021).一方,関東山地の四万十帯は同様な研究事例に乏しく,特に小仏層群や相模湖層群での研究事例がない.そこで,本研究では小仏層群盆堀川層と相模湖層群権現山層で砕屑性ジルコンU–Pb年代測定を実施し,堆積年代の拘束と後背地の解析を試みた.【地質概説】 関東山地四万十帯は,北から順に白亜系の大滝層群,小河内層群,小仏層群,及び古第三系の相模湖層群に区分される(例えば,酒井,1987;Hara and Hisada, 1998).盆堀川層では,酒井ほか(1987)が,酸性凝灰岩からAlbian 階に対比される放散虫化石を,Yagi (2000) などが,珪質・凝灰質頁岩及び頁岩から後期白亜紀Turonian~Campanian 階に対比される放散虫化石をそれぞれ報告している.権現山層は,泥岩及び頁岩から産出した放散虫化石より,暁新~始新統(酒井ほか,1987;猿田・高橋,2012)に対比される. 【手法】  盆堀川層(0401, 0304)及び権現山層(2901, 2902)より,砂岩試料をそれぞれ2試料採取し,抽出した砕屑性ジルコンのU–Pb同位体組成を名古屋大学大学院環境学研究科設置のLA-ICPMSで分析した.206Pb/238U値と207Pb/235U値の誤差楕円(2σ)がコンコーディア曲線に重なるものをコンコーダントデータとして採用した.206Pb/238U年代から最若年代及びそれと誤差範囲(±2σ)が重なる年代を最若年代クラスターとして抽出し,それらの加重平均値(YC2σ:Dickinson and Gehrels, 2009)の誤差を踏まえた最大値を堆積年代上限値(MDA)とした.試料2902では,最若年代と誤差範囲の重なるデータが存在しなかったため,2番目に若い年代及びそれと誤差範囲(±2σ)が重なる年代(n = 3)からYC2σを算出した. 【ジルコンUPb年代測定結果】 測定結果を添付の表に示した. 【考察】 盆堀川層のMDAは71.4 Ma(後期白亜紀Maastrichtian 期)であり,既報の化石が示す時代より若い時代に堆積した蓋然性が高い.権現山層のMDAは, 68.7 Maである.試料2901でのMDAが63.4 Maであるため,権現山層の堆積年代は古第三紀暁新世以降に及ぶ蓋然性が高く,暁新世を指示する放散虫化石が産出した事実(猿田・高橋,2012)と調和する. 関東山地では,砂岩の岩片の割合が小仏層群(42ポイント)で最も高い(酒井ほか,1987).本研究で得た盆堀川層の砕屑性ジルコンは,50 %以上が後期白亜紀以降であり,その中の約50 %が75 Ma以降であった.従って,盆堀川層の,白亜紀以降の砕屑性ジルコンの主要供給源は,西南日本内帯の湖東流紋岩類(74 Ma:Sato et al., 2016)や濃飛流紋岩類(72 Ma:星ほか,2016)などの後期白亜紀火山岩・火山砕屑岩類であった蓋然性が高い. 一方,相模湖層群では,砂岩の岩片の割合が,小仏層群と比べておよそ13ポイント減少する(酒井ほか,1987).また,本研究で得た権現山層の砕屑性ジルコン年代は,前期白亜紀にもピークが認められる分布となった.故に,相模湖層群堆積時に後背地の火成活動は相対的に沈静化し,後期白亜紀以外の岩体からの砕屑物供給も受けるようになった蓋然性が高い. 【引用文献】Dickinson and Gehrels (2009) Earth Planet. Sci. Lett., 288, 115–125./Hara and Hisada (1998) Sci. Rep. Inst. Geosci., Univ. Tsukuba, Sec. B, 19, 43–60. /Hara et al. (2017) Isl. Arc, 26, e12218. /星ほか(2016).日本地質学会学術大会講演要旨, 81/君波ほか(1998)地質雑,104,314–326./酒井ほか(1987)五日市地域の地質 地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,75 p. /猿田・高橋(2012),地質雑,118(1), 53–58./Sato et al. (2016) J. Volcanol. Geotherm. Res., 310, 89–97. /Tokiwa et al. (2021) J. Asian Earth Sci., 207, 104657./Yagi (2000) Sci. Rep., Inst. Geosci., Univ. Tsukuba, Sec. B, 21, 13–40

  • 酒井 治孝
    セッションID: T5-O-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    ヒマラヤ山脈はモンスーンの降雨と氷河により激しい侵食に曝されているが、さらに地震や氷河湖の決壊洪水(以下GLOF)等により大規模に削剥されている。最近の温暖化に伴い、高ヒマラヤ地域に分布する氷河湖が決壊した例が各地から報告されるようになり、アンナプルナ山麓のポカラの段丘もGLOFによって形成されたという報告が相次いでいる(Stolle et al.,2017; Fischer et al., 2022他)。筆者はアンナプルナIII峰(7555m)からポカラに流れ下っているセティ川の前人未到の源流域から、河川に沿って約60kmの地域を踏査する機会を得た。その結果、約1.5万年前にアンナプルナIII峰の東方稜線が大規模に山体崩壊し、その岩屑雪崩堆積物が源流部と上流部に厚く堆積しているのを発見した。また下流部では岩屑と水が混合し土石流となって、河成段丘を形成していることを見出した。本講演では、源流部からポカラまでを5つの地域に分け、地形と堆積物の特徴を報告し、崩壊堆積物の総量を推定し、崩壊の原因と崩壊前に存在したヒマラヤの高峰について議論する。1. セティ川源流域(テチス堆積帯)7500m級のアンナプルナIII〜IV峰の南斜面は4700mまで急崖を成す。その南の楕円形の谷は3200mまで厚さ平均600mの山体崩壊堆積物によって埋積されている。堆積物はテチス起源の石灰岩や砂岩およびそれに貫入した花崗岩のカタクラサイトと角礫から構成されており、無数の針山〜尖塔状の地形をなす。2. 上流V字谷地域(テチス堆積帯と高ヒマラヤ変成岩帯)高ヒマラヤ変成岩帯は深いV字谷で削られ、流路には断続的に山体崩壊堆積物からなる比高250〜150mの小山が残されている。山体崩壊堆積物は岩屑雪崩によって運搬・堆積したものと考えられる。3. 河成段丘地域 (レッサーヒマラヤ帯)MCT(Main Central Thrust)より南のレッサーヒマラヤ帯では、川幅が広がり2段の段丘が形成されている。高位段丘を作るGhachok層は、厚さ〜100mの崩壊堆積物とそれが摩耗した礫からなる。最上部には最大7mに達するテチス堆積物の巨礫が密集しており、土石流によって堆積したものと考えられる。4. ポカラ西方のLovely hill 地域ポカラ盆地西縁の丘陵は、厚さ30mに達するテチス帯起源の角礫からなる山体崩壊堆積物によって覆われている。5. ポカラ盆地とその地下ポカラ盆地西部の表層と地下には厚さ最大120mのGhachok層が分布している(ボーリングデータによる)。下部は段丘堆積物と同様な岩相を示すが、上部は円磨されたテチス帯起源の礫と細粒の角礫・岩粉からなる基質から構成されている。6. 考察:崩壊イベントの発生時期、原因、堆積プロセス、総体積崩壊イベントの発生時期については、Ghachok層の基底部と堰き止め湖基底部の堆積物の14C年代測定に基づき1.4〜1.5万年前と推定される。また山体崩壊地域にはNNE-SSW方向のリニアメントが多数分布し、その中の1本は正断層成分を持つ活断層の可能性があり、標高5000〜4600mの地域を1.5km以上に亘って続いている。またアンアプルナ地域の東方では2015年にMCTの地下延長部を震源としたM=7.8の地震が発生している。このような地震あるいは活断層の活動が山体崩壊を引き起こした原因と推定される。セティ河源流域からポカラ盆地の地下に至る山体崩壊堆積物の総量を試算したところ、24.7km3推定された。従って崩壊前には、7500〜8000m級のヒマラヤが存在した可能性がある。参考文献 Stolle et al.,2017, Quat. Sci. Rev., 177, 88-103.Fischer et al., 2022, Earth Surf. Process Landforms 2023,1-17.

  • 野村 夏希, 藤内 智士, 福島 颯, 弓井 浩暉
    セッションID: T5-O-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】 沈み込み海洋地殻の強度構造は,プレート収束帯で起こる変形の過程に影響を与える.また,海溝に対して直交あるいは平行に数十kmを超える範囲で見た場合,海洋地殻の岩相は側方に変化し(例えば,Underwood and Pickering, 2018),場所による変形の違いを生み出す要因の一つとなる.その中で,高知県室戸岬沖でInternational Ocean Discovery Program(IODP)において掘削された室戸沖付加体先端部に当たるC0023サイトの海底下775–1121 mにて熱水性の充填鉱物が報告されると同時に,これらが複数の時期や成因によってできている可能性が示唆された(Tsang et al., 2020).このような充填鉱物帯の存在も海洋地殻の強度構造と関係すると思われるが,その分布についてはこれまであまり言及されていなかった.そこで本研究では高知県室戸沖の南海トラフを対象として,複数回の国際海洋科学掘削において採取されたコア試料を対象として,充填鉱物の分布について調べた.【調査対象と手法】 研究の対象はOcean Drilling Program(ODP)の1173,1174,808サイトの3サイトのコア試料とした.これらのうち,1173サイトは南海トラフの海側に位置し,その他のサイトは南海付加体の先端部に位置する.これらのサイトでは,基盤である玄武岩の上に中期中新世以降の半遠洋性堆積物および海溝充填堆積物が重なり,岩相に基づいて下位から,下部四国海盆相,上部四国海盆相,海溝充填相に分けられる(例えば,Moore et al., 2001). 調査は,まずX線コンピュータートモグラフィー(XCT)データを用いて,室戸沖海底下にて充填鉱物帯の空間分布を調べた.そして,充填鉱物の種類を同定するため,X線回析(XRD)を用いての鉱物同定や走査型電子顕微鏡(SEM)による目視観察,エネルギー分散型X線分析装置(EDS)による元素分析を行った.【結果と考察】 3つのサイトごとに作成したXCTデータを様々な空間スケールで解析した.全体に焦点を置き,まず堆積層の平均CT値に注目すると,深度方向に約1100から1800まで徐々に上昇していく.その中で,平均CT値が2000から10000程度のスパイクの集中領域が複数の深度で見られる.トラフ海側斜面に位置する1173サイトでは,このスパイクの集中領域が明瞭であり,海溝充填相から上部四国海盆相の上部まで,下部四国海盆相の最上部からデコルマン相当層準まで,および下部四国海盆相の下部の3箇所に発達する.また,他の2サイトでも1173サイトと同層準に平均CT値の高いスパイクが集中する.高い平均CT値のスパイクが集中する領域では,厚さ数cmほどの高い平均CT値の箇所が数mから数十mに1つの間隔で分布している.高い平均CT値が集中する3区間は,XRDデータや肉眼観察で報告されているカルサイトが多い区間とほぼ一致する.このことから,カルサイトの濃集が高い平均CT値の原因と考えられる. 次に,サイトごとの高CT値領域を構成する鉱物をXRD解析,SEM観察,EDS分析から調べた.高い平均CT値が見られる3区間のうち,上部四国海盆相の区間はCT値が3000–4000前後のものが多い.それに対して,下位の2区間ではCT値が10000を超える領域も多く,場合によっては30000も超える.そこで,これらのCT値に対応する鉱物を調べた. その結果,3000–4000前後のものはカルサイトに,10000以上のものはバライトとロードクロサイトに対応することがわかった.また,CT画像やSEM観察から,カルサイト,バライト,ロードクロサイトはいずれも充填鉱物として析出した産状を示すことがわかった.  以上より,調査地域では上部四国海盆相にカルサイトが充填する厚さ8 cm程度の層準が挟まれる箇所が見られた.そして,下部四国海盆相では,カルサイトに加えて,バライトやロードクロサイトが亀裂沿いにあるいはチューブ状で充填している箇所があることが明らかになった.これらの特徴は海溝よりも海側の1173サイトでも見られることから,充填作用は付加作用より前に発生したと考えられる.参考文献Moore, G. F. et al., 2001, Geochem. Geophys. Geosyst., 2, 2001GC000166. Tsang, M. Y. et al., 2020, Mar. Pet. Geol., 112, 104080,Underwood, M. B. and Pickering, K. T., 2018, The Geological Society of America Special Paper, 534, 1–34.

  • 木村 治夫, 青柳 恭平, 高橋 秀暢, 秋永 康彦, 山田 浩二, 今吉 隆, 末廣 匡基
    セッションID: T5-O-12
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】 糸魚川-静岡構造線活断層系は本州の中央部を南北に横断する全長約160 kmの活断層系であり(例えば,地震調査研究推進本部地震調査委員会, 2015, 糸魚川-静岡構造線断層帯の長期評価(第二版)),神城断層は糸魚川-静岡構造線活断層系の最北部に位置している.2014年長野県北部の地震(Mw = 6.2)の際には,神城断層の地表トレースの一部に沿って総延長10 km程度に及ぶ地表地震断層が出現した(Okada et al., 2015, Seis. Res. Lett., 86 , 1287–1300; Katsube at al., 2017, Geophys. Res. Lett., 44 , 6057–6064).2014年地震の震源断層は,余震分布と本震の発震機構から,南北約20 kmに延びる東傾斜の逆断層と推定され,神城断層の一部分(北部区間)とその北方延長が活動したと考えられている(地震調査研究推進本部地震調査委員会, 2014, 2014年11月22日長野県北部の地震の評価).本研究では,地震時に明瞭な地表変位を生じなかった神城断層の南部区間において,その地下構造を明らかにして北部区間の地下構造と比較する目的で,同断層南部の青木湖周辺地区でP波反射法地震探査を実施した.【反射法地震探査】 本探査は長野県大町市の青木湖西方に位置する青木湖スキー場から青木湖東方1.5 km程度に位置する丸切沢1号砂防堰堤付近へ至る,湖水域区間約0.6 kmを含む,約3.5 kmの測線で実施した(図1).探査測線は,北北東-南南西走向である神城断層とほぼ直交するように設定した.データ取得は共通中間点重合法(例えば,物理探査学会, 1998, 物理探査ハンドブック)によって行った.発震は陸域は中型バイブレーター震源(米国IVI社製のEnviro Vibe)で,湖水域はエアガン(40Cu)で行い,標準発震点間隔は10 mである.また,標準受振点間隔も10 mとして,100 ch以上を同時収録した.データ記録は独立型レコーダー(陸域は米国Geospace社製のGSX,湖水域は同社の独立型海底地震計OBX)を用いて,サンプリング間隔1 msで行った.取得した記録に対して,一般的な共通中間点重合法によるデータ処理の結果,マイグレーション深度変換断面を得た.【神城断層南部の地下構造】 得られた結果断面では,深度1.5 km程度までの地下構造をイメージングすることができた(図2).断面の特徴を概説すると,青木湖の湖底直下ではほぼ水平な反射面が見られ,青木湖の湖成堆積層だと考えられる.しかし,さらに深部の標高650 m以深では緩やかな東傾斜の反射面が目立ち,この領域は,周囲に比べると高い地震波速度で特徴付けられる(図2のカラー表示).また,さらに深部では,標高-100 m・CMP 360付近から標高-400 m・CMP 160にかけて緩やかな東傾斜の反射面が顕著である.こうした東傾斜の反射面群は糸魚川-静岡構造線の西方に分布する中古生代の基盤岩に相当するものと解釈した.一方,青木湖の東方では,標高500 m以浅では比較的短波長の褶曲が卓越する.さらに深部の標高500~100 mの範囲では,標高400 m前後でCMP 380~280の領域ではほぼ水平な反射面群が分布するのに対して,標高300 m以深でCMP 280~180の領域では東に急傾斜した反射面群が分布する.これらの特徴は,神城断層の地下形状に起因するものと考え,また,青木湖湖底で確認されている断層位置も考慮し,図2の赤線のように神城断層の地下構造を解釈した.【神城断層と2014年長野県北部の地震】 本探査により神城断層の南部区間は本探査地において深度約700 m以浅でフラット-ランプ型の地下形状をを呈することがわかった.これに対して,2014年地震時に最大変位を生じた同断層北端付近を横切る反射法探査では,地下深部でやや低角化するもののほぼ一様な東傾斜を示す断層面が推定されている(木村ほか, 2018, 日本地球惑星科学連合大会, SSS08-16).また, 2014年の地表地震断層南端付近を横切る反射法地震探査でも,地表地震断層の地下延長はほぼ一様な東傾斜を呈する(文科省・東北大災害研, 2016, 糸魚川-静岡構造線断層帯における重点的な調査観測(追加調査)平成27年度 成果報告書).ただし,同探査結果では地表からの深度約400 mで盆地方向前縁(西方)へ分岐した断層はフラット-ランプ型の地下形状を呈しており,この前縁断層では2014年時の地表変位が確認されていない.このように,神城断層では各区間によって深度1 km以浅での地下構造の特徴に違いがあることがわかった.

  • 西川 治, 仁井田 拓己, 齊藤 温人, 今井 忠男
    セッションID: T5-O-13
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    秋田地域の新第三紀堆積盆には,中期中新世後期から更新世までの一連の海成層が累重している.その厚さは数千mにおよび,深部に埋没した堆積物は強く圧密されている.また,東北日本弧において鮮新世以降に強まった東西水平圧縮によって,これらの地層には逆断層や褶曲構造が発達している.秋田地域の堆積岩類が経験したこのような履歴の記憶は,岩石に刻まれ,その組織や物性に現れているはずである. 弾性波速度は岩盤物性の評価や地下構造の可視化に用いられており,堆積岩も多数測定されている.しかしながら,堆積時の層理面の発達や続成過程における圧密,造構応力による変形の影響が弾性波速度にどのように反映されるのかについて十分な検討は行われていない.本研究では,秋田県太平山南麓地域,北由利衝上断層上盤の褶曲帯,鳥田目断層下盤の強変形帯に分布する新第三系(権現山層,女川層,船川層,天徳寺層)の泥質岩試料を採取し,弾性波(P波)速度,密度および孔隙率を測定し,堆積,圧密および変形の影響を検討した.P波測定では,試料をZ軸 (層理面に垂直),X軸(走向方向), Y軸(X軸およびZ軸に垂直)を3辺とする一辺5cm~3cmのキューブ状に成型し,3方向の速度を測定した. P波速度の測定には,秋田大学岩盤研究室の超音波速度測定装置 ソニックビューア (応用地質)を用いた. 各層のP波の平均速度は,権現山層で3.35km/sec,女川層で2.77km/sec,船川層で3.14km/sec,天徳寺層で2.61 km/secである. P波速度は,試料の密度とは正の相関関係を示し,有効孔隙率とは負の相関関係を示した.これは埋没過程での割れ目や孔隙の閉塞によるものだと考えられる.3方向の弾性波速度を比較すると,測定値にばらつきがあるものの,速度平均では,天徳寺層を除く下位の3つの地層のサンプルで,Z方向の弾性波速度がほかの2方向にくらべて明らかに小さい値を示した.Z方向の速度が最小になる理由の解明は今後の課題である.秋田地域の新第三系泥質岩は,圧密作用によって堆積時の50%から25%程度の厚さにまでZ方向に短縮している(西川ほか, 2017 [日本地質学会第124年学術大会講演要旨])また,堆積時に形成された層理面や圧密による粒子配向がZ軸に垂直に形成されている.これらが弾性波速度にどのような影響を与えているかについて,さらに検討する必要がある.一方,X軸方向とY軸方向の速度を比較すると, Y軸方向の速度がX軸方向よりも速い試料が認められた.北由利地区および鳥田目地区の多くの試料において,X軸はN-Sに近い方位を向くことから,東西圧縮の広域応力の影響が示唆されるが,Z軸に垂直な面内での異方性は一般に小さい. 先行研究(長田・Adikaram, 2012 [ 第41回岩盤力学に関するシンポジウム講演集]など)では,堆積岩試料の含水量の違いによって弾性波速度が変化し,飽和度の減少とともに低下する傾向がZ方向において顕著であるとの報告がある.本研究では自然状態の試料を測定したが,今後,飽和度を変えたP波速度測定を行い,含水量の効果についても明らかにしていきたい.

  • 新妻 信明
    セッションID: T5-O-14
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    西南日本で繰返される海溝型巨大地震は,世界で最も詳細に記録されている.この地震記録に基づけば,将来,海溝型巨大地震が起こることは確実で,「南海Trough巨大地震」と呼ばれ,対策が検討されている.問題は,この巨大地震が何時到来するかである.地震記録は,地震被害による城修復についての厳しい江戸幕府の監視が日本列島全域へ拡充させ,1922年からの地震計網による震源決定,1994年からCMT解公開,1997年からの一元化初動発震機構解解公開を経て飛躍的に向上してきた.これら日本列島全域の27353個の地震記録を38震源帯と202震源区への区分に従い(新妻,2023),西南日本の8震源帯・39震源区を検討した.海溝型巨大地震は西南日本沈込震源帯TrPhに属する.繰返は,「年号」を付して区別する. 海溝型巨大地震は単発でなく連発することが知られている.石橋(1976)は,海溝型巨大地震「昭和」では,「安政」で連発した東海地震が起こっていないと注意を喚起した.しかし,未だ起こっていないのは,1944年「昭和」の前の,1923年大正関東地震が東海地震域の歪を解放していたからと考えられる. 地震規模に基づいて算出される地震断層面積の累積を図示するBenioff曲線は(新妻,2015),海溝型巨大地震「慶長」・「宝永」とその後の静穏化によって階段状になっている.しかし,「安政」から「昭和」までの期間は,静穏化せず日数の経過とともに増大する異常が認められる(付図参照). 「安政」-「昭和」の期間には,「銭洲」・「伊勢湾」-「若狭湾」と九州におけるM7.5以上の西南日本沈込震源帯TrPh海溝型以外の西南日本脊梁震源帯BkbPh・西南日本裂開震源帯RifPh・西南日本海岸震源帯JscPhの地震によって,静穏化していない. 駿河Trough軸と南海Trough軸は「逆く」の字型に接続しており,沈込むSlabが不足して裂開しなければ沈込めない.「伊勢湾」‐「若狭湾」はこのSlab裂開域に当たる.裂開が不完全な場合には「銭洲」に背面破断が発生する(新妻,2007). 南海Trough軸と琉球海溝軸は「く」の字型に接続しており,沈込むSlabが過剰になり,余剰Slabが襞とならなければならない. 西南日本沈込震源帯TrPhと他の震源帯BkbPh・RifPh・JscPhの地震断層面積移動平均規模曲線を比較すると,「安政」から「昭和」で逆相になっており,Slab沈込とSlab過不足調整には時間差があり,交互に進行することが示唆される. 琉球海溝全域のCMT解のBenioff曲線は,日数の経過とともにほぼ直線的に増大している.しかし,区分された各震源帯毎のBenioff曲線は,階段状で,段差の生じる時期が海溝から離れる従い,沈込震源帯TrPh・平面化震源帯uBdPh・裂開震源帯RifPhの順にずれ.最後まで行くと最初に戻り一周することが明らかになった.この周期に「‐3」から「+3」の歪解放周期番号を付した. 琉球海溝域の歪解放周期開始の海溝震源帯地震と西南日本の海溝型巨大地震を比較すると,「平成」は「1」の後になって琉球海溝域の影響を受けているが,「昭和」は「-2」の直前で琉球海溝域に影響を与えており,相互作用を認めることができる.   付図説明.江戸時代以降の西南日本地震活動. 左図:震央地図,右縁の数値はAmur Plateに対するPhilippine海Plateの相対運動Euler緯度,括弧内数値は年間相対運動距離(cm). 中図:海溝距離断面図. 右図:Euler緯度断面図.areaMは,設定期間の250分の1の618.5日毎に集計した地震断層面積規模.Benioffは,累積地震面積曲線.右下図は,南海Trough軸傾斜方位を中心線(TrDip)とした発震機構解の主歪軸傾斜方位でPlate運動方位は紫色線(Sub).   引用文献 石橋克彦(1976)地震学会予稿集I,30. 新妻信明 (2007), プレートテクトニクス−その新展開と日本列島−. 共立出版,東京, 292p. 新妻信明 (2015)総地震断層面積のベニオフ図.新妻地質研究所特報5,https://www.niitsuma-geolab.net/article07/article05. 新妻信明 (2023) 「和達深発日本面震源帯」の「大和堆無震領域」と2011年3月11日M9.0.地球惑星合同大会,SSS11-P01.

  • 野田 篤, Fabien Graveleau, Cesar Witt, Frank Chanier, Bruno Vendeville
    セッションID: T5-P-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    プレート沈み込み帯に発達する一般的な付加体は,前縁付加から始まり,底付付加(アンダースラスティング)で終わる付加サイクルの繰り返しによって発達する.この付加サイクルの過程で,付加体の変形が集中する位置は海側から陸側へと移動する(図).この種の周期的な変形パターンは,プレートの沈み込み帯の運動学と力学を理解する上で非常に重要あり,プレート境界の固着域に関連したプレート境界型地震の発生機構とも関連する.そこで,付加サイクル中の変形スタイルと付加体内のスラスト活動がどのような時間的・空間的変化を示すのかを調べるために,複数の異なる条件を設定した上で,砂箱を用いたアナログ実験を実施した. 本研究では,2次元の大幅短縮(1 m)が可能な砂箱を用いて,付加する堆積物に含まれる弱層(デコルマ)の構成について,4つの異なるタイプを設定して実験を行った(タイプ 1:連続する単一の弱層.タイプ2:連続する2層の弱層.タイプ3:不連続な単一の弱層.タイプ4:1層だけが不連続な2層の弱層).実験は側方からカメラで連続撮影し,その画像をオープンソースのDICソフトウェア(Ncorr)を使用して定量的に変位量とひずみ量を求めた.得られたデータから,付加体の形状,付加サイクル中の変形集中帯の位置,活動中のスラストの位置(順序外スラストの活動),付加体と沈み込むプレートとのカップリングの程度などを解析した. 単一のデコルマを備えた参照モデル(タイプ 1)は,変形集中帯の陸側への伝播および既存のスラストの再活性化を伴う前縁付加の周期的なサイクルによって支配される.各サイクルは,プロトスラスト帯における変形の開始(Phase 0),新しい前縁スラストの出現(Phase 1),前縁付加の進行(Phase 2),付加体内部の既存スラストの再活性化と底付付加(Phase 3)の4段階で構成される.Phase 0からPhase 3までの付加サイクルの過程を通じて,プレート境界の固着域が陸側へ移動するとともに,付加体内部にひずみが蓄積し,圧密が進む.一方,変形前線(deformation front)に新たな前縁スラストが現れると(Phase 1),付加体底部のプレート間固着は突然失われ,リラックスした状態になる.このようなサイクルを通じて,付加体全体は硬化と軟化を経験しながら徐々に強度が増加し,臨界状態に近づくと考えられる. 連続する2層の弱層モデル(タイプ 2)はタイプ1と同様の付加サイクルを示すが,断層ネットワークはタイプ1よりも複雑で,主要なすべり面(プレート境界面)は下位側と上位側の弱層との間を交互に移動する.これにより,付加体前縁部で沈み込む堆積物のアンダースラストが促進される.弱層を不連続にした実験(タイプ3とタイプ4)では,付加サイクルの波長は乱れ,結果として急傾斜の内側ウェッジと緩傾斜の外側ウェッジの組み合わせが生成された.特に,2層の弱層を含むタイプ4では,上側の弱層が低角度な巨大スラストとして機能し,アンダースラスト(堆積物の底付付加)が大幅に促進された. これらの結果は,付加する堆積物に含まれる弱層の数や連続性が付加体の変形パターンやプレート間固着域の範囲に影響を及ぼすこと示している.本研究の結果を天然の沈み込み帯で観測される地震や地殻変動などの諸現象と比較することで,天然の沈み込み帯におけるメカニズムとダイナミクスの理解に貢献できる.

  • 小野 晃
    セッションID: T5-P-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    関東山地北縁部の牛伏山ナップ:中新世の東北日本は15Maごろに西南日本と衝突し接合した.接合境界は関東平野に想定される関東構造線(KTL, Figure A)である.このテクトニクスによって牛伏山ナップが形成され,吉見変成岩に低角断層[1]やマイロナイト化帯[2]が形成される.牛伏山ナップは,庭谷不整合と牛伏山スラストの間の褶曲・衝上断層帯[3]を構成する地質体である.牛伏山ナップが南方に移動する過程で褶曲・衝上断層帯と牛伏山スラスト(Figure 1)が形成されたと考える.牛伏山スラストは西方の下仁田地域に連続している[4].牛伏山スラストは関東山地の三波川変成岩の北限を画する断層であり中期中新世の中央構造線(MTL)とされている[5].ただし,下仁田の牛伏山ナップを構成する地質体は,領家外縁帯[6]起源である.領家変成岩は牛伏山ナップから報告されていない. 下仁田の牛伏山ナップ:Figure 2は既存の地質図[4,7]に基づいた下仁田地域の地質図である.これによると,牛伏山スラストの西端部は,三波川変成岩を回りこむように東西方向から北西-南東方向に急変している.回り込まれている三波川変成岩(Figure 2の右下部分)は,牛伏山ナップの構造的下位にあった地質体である.牛伏山ナップの地質体は,古第三紀の赤津層,白亜紀および古第三紀の神農原礫岩,白亜紀の骨立山凝灰岩,ジュラ紀の南蛇井層および中新統などである.これらの構造的下位に三波川変成岩が分布している.問題は,地下での三波川変成岩の広がりである.鏑川西方や北方の南蛇井層や花崗岩類の分布域に東西性の大断層が認められないので,地域全体が牛伏山ナップであって,全域に牛伏山スラストと三波川変成岩が伏在している可能性が高い.この牛伏山ナップの地質構造は複雑であり,古第三紀初期頃の地質復元が困難である.牛伏山ナップを切断する高角断層:大北野-岩山断層と馬山-金井断層は牛伏山スラストを高角度で切断し[4],地下で三波川変成岩を切断する東西性の断層である.したがって地体構造上の大断層(MTL)ではない.下仁田町の馬山-金井断層は東方に続き,場所によっては三波川変成岩と中新統が接する断層となる.藤岡市金井の馬山-金井断層は,Figure 3の地質図[8]では金井断層と呼称されている.金井断層の南方には三波川変成岩に囲まれた下部中新統牛伏層の岩塊が複数存在する.地点Xの岩塊は,周囲の三波川変成岩よりも低所に分布しており,三波川変成岩の上昇テクトニクスが明らかである.領家ナップのルートゾーン:寄居-小川地域の跡倉ナップには領家外縁帯(Figure B)起原のチャート,泥岩,寄居層,寄居酸性岩類が分布しているが,それらは領家ナップによって被われていた.領家ナップには跡倉ナップに確認されていない領家変成岩(黒雲母+白雲母片岩,片麻岩,黒雲母を含む低温変成岩)やマイロナイトや黒雲母±菫青石ホルンフェルスや片麻状トーナル岩などがかなり広範囲に分布していた.下仁田地域についても領家外縁帯起原の南蛇井層や神農原礫岩や骨立山凝灰岩などは,跡倉ナップの一部として三波川変成岩の上に移動し,その後,領家ナップに被われたと想定される.跡倉ナップや領家ナップの形成過程であまり移動しなかった三波川変成岩は,領家ナップのルートゾーン付近の地下で領家変成岩と接合し,古第三紀MTLが形成される.その後牛伏山ナップやKTLが形成されるが,その時期に古第三紀のMTLが受けたテクトニクスは,明らかではない.この一連のナップテクトニクスにおいて,領家ナップのルートゾーンを神農原礫岩や赤津層や寄居層の南方に想定することはできない.これらの地層は領家帯南方の領家外縁帯に堆積したもの[6]と推定されるからである.関東山地北縁部の地質を理解するには,領家ナップの形成過程を考察することが必要不可欠である.文献 [1]小坂,1979,地質雑,No.4,157-176.[2]小野,2003,地質雑,109, No.7, 414-419.[3]高橋ほか,2006,地質雑,112, No.1, 33-52.[4]鏑川団体研究グループ,2016,下仁田町自然史館研報,第1号,41-48.[5]埼玉総会中・古生界シンポジューム世話人会,1995,地球科学,49巻,4号,271-291.[6]小野,2022, GSJ Meeting Abst. T1-P07.[7]河合ほか,2022,群馬県立自然史博物館研報,(26),75-90.[8]小野,2009, JpGU Meeting Abst. G120-P002.

  • 羽地 俊樹, 安邊 啓明
    セッションID: T5-P-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    西南日本の前弧海盆堆積物中の小断層から推定された応力史は,各堆積盆周辺の構造発達史やフィリピン海プレートの運動史の制約条件としてよく参照される(例えば,Yamaji, 2003, Yamaji et al., 2003).四国南西部の土佐清水市には,中新世前半の前弧海盆堆積物とされる三崎層群が分布し,多数の小断層が認められる.しかしながら,これまでの三崎層群における研究は堆積学・古生物学的なものが主で,小断層を取り扱った研究はほとんどない.そこで,発表者らは三崎層群中に見られる小断層の実態の解明に向けて,それらの産状の調査と応力解析のための小断層データの取得を進めている.本発表では,これまでに観察した800条を越える小断層について,その産状と予察的な応力解析結果を報告する.三崎層群は下位から順に養老層・浜益野層・竜串層の3つの地層からなる.堆積相や生痕化石の検討から,それらは外側陸棚から潮間帯までの上方浅海化を示す整合一連の地層であるとされる(奈良ほか,2017).これまでに我々は三崎層群の分布する土佐清水市の海岸線沿いの8つの調査地域(養老層3地域・浜益野層3地域・竜串層2地域)において小断層データを取得した.いずれの地域でも地層面を基準面とした際のgap断層(基準面を引き離す運動センスの断層,Sato, 2006)が大きな割合を占めていたが,overlap断層(gap断層と逆センスの断層)や層面滑り断層も認められた.また少数ながら共役関係が認識できる断層群も存在した.産状から,小断層には堆積後まもなく形成したものと,固結後に形成したものが混在していることが明らかになった.浅海性の砂岩層からなる竜串層では,傾斜方向の同じ微小な小断層群が特定の層準に発達していた.これは堆積時のノンテクトニック断層と推定される.一方で,竜串層には周辺の葉理の変形を伴わない点から圧密後に形成したと判断されるノジュールが見られ,それを切る小断層も認められた.また,鉱物脈および砕屑岩脈を切るもの,それらに切られるもののどちらも存在した.小断層データを取得した地域ごとに分け,Hough変換法(Yamaji et al., 2006; Sato, 2006)で応力解析を行った.複数の応力クラスターが得られた地域もあり包括的な解釈は難しい.本発表では,いずれの地域でも得られた北東-南西方向に水平最小圧縮軸を持つ応力に着目する. 四国南西部の小構造を利用して古応力を検討したRaimbourg et al. (2017)は,三崎層群の分布域の数地点で今回我々が着目した応力に似る北西-南東方向に水平最大圧縮軸を持つ横ずれ断層型ないし逆断層型の応力を報告した.そして彼らはそれらの応力を三崎層群が大きく傾いている(木村,1985)ことを考慮せずに解釈した.しかし,本発表ではこれを支持しない.今回の解析で得た北東-南西方向に水平最小圧縮軸を持つ応力の主軸方向は,データセットごとに多少ばらついた.そして,それらの最大圧縮主応力軸の方向は,小断層データを採取した各地域の地層の法線方向の変化に対応するように見える.このことから,それらの応力はRaimbourgらのように現姿勢のまま解釈するのではなく,三崎層群傾動以前の正断層型応力とみなすのが妥当と考える.今後の検討課題は,この応力の成因の解釈・他の応力状態の決定・応力の時期の推定である.<引用文献> 木村,1985,地質雑,91,815‒831./ 奈良ほか,2017,地質雑,123,471‒489./ Raimbourg et al., 2017, Tectonics, 36, 1317‒1337./ Sato, 2006, Tectonophys., 421, 319‒330./ Yamaji, 2003, Tectonophys., 364, 9‒24./ Yamaji et al., 2003, Tectonophys., 369, 103‒120./ Yamaji et al., 2006, J. Struct. Geol., 28, 980‒990.

  • 伊藤 久敏
    セッションID: T5-P-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    北アルプスには第四紀の黒部川花崗岩と滝谷花崗閃緑岩が分布し,これらは巨大カルデラ噴火後の再生マグマが地下で固結し,急激な隆起・削剥を経て,現在地表に露出したものである(例えば,Ito et al., 2021).北アルプスの第四紀の急激な隆起の原因は,マグマの浮力によるとする説(Ito et al., 2021)と,マグマの浮力に東西圧縮が加わったものとする説(原山ほか,2003)がある.さらには,伊豆弧の衝突の影響が大きいという説(Spencer et al., 2019)もある.今回,著者は,北アルプスの成因は伊豆弧の衝突による広域的な応力(Fig. 1の①)の影響を受け,マグマの浮力により形成されたと考えられることを以下の点から主張したい. 北アルプス南部~中央アルプスにかけて分布する活断層の境峠断層(Fig. 1の②)は左横ずれ断層であり,この断層の北端(Fig. 1の③)には活火山の焼岳が分布する.これらの活断層や活火山は伊豆弧の衝突による南部からの広域的な応力(Fig. 1の①)の影響を受けたものと考える.この考えに基づいて黒部川花崗岩分布域を見てみると,Fig. 1の④で示した断層は,映画「黒部の太陽」でも紹介された幅80mの大規模破砕帯である.黒部川花崗岩は概ね1 Maに生成しており(Ito et al., 2021),この破砕帯は黒部川花崗岩体中に出来た破砕帯であること,破砕帯が生じるには,母岩がある程度冷却した後であることを考慮すると,この破砕帯が出来たのは恐らく過去数10万年の間であり,この破砕帯は活断層とも言える程度に最近の活動で生じたものと思われる.この破砕帯の北端(Fig. 1の⑤)には小説「高熱隧道」でも紹介された掘削時の岩盤温度175℃のトンネルが存在する.南側に断層が発達し,その北端に熱源があるという点では,黒部の大規模破砕帯は境峠断層と同様である.従って,黒部の大規模破砕帯や高熱隧道も伊豆弧の衝突の影響を受けたものと考えられる.Ito et al. (2021)は,北アルプスで1.76~1.55 Maに生じた3回の巨大噴火の原因としてフィリピン海プレートの沈み込み(と沈み込み方向の変化)を掲げたが,この点も含め,北アルプスの成因に伊豆弧の衝突が大きく関わっていると考えられる.すなわち,北アルプスは東西圧縮よりも北西-南東の圧縮(Fig.1の①)の影響を強く受けて成長したと考えられる. 文献 原山 智,大薮圭一郎,深山裕永,足立英彦,宿輪隆太,2003.飛騨山脈東半部における前期更新世後半からの傾動・隆起運動.第四紀研究,42,127–140. Ito, H., Adachi, Y., Cambeses, A., Bea, F., Fukuyama, M., Fukuma, K., Yamada, R., Kubo, T., Takehara, M. and Horie, K., 2021. The Quaternary Kurobegawa Granite: an example of a deeply dissected resurgent pluton. Sci. Rep., 11, 22059. Spencer, C.J., Danišík, M., Ito, H., Hoiland, C., Tapster, S., Jeon, H., McDonald, B. and Evans, N.J., 2019. Rapid exhumation of Earth’s youngest exposed granites driven by subduction of an oceanic arc. Geophys. Res. Lett., 46, 1259–1267. Fig. 1. Geology in the northern Japanese Alps and its vicinities.

  • 山本 朱音, 大坪 誠, 三澤 文慶, 新井 隆太, 竹村 貴人
    セッションID: T5-P-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    1.はじめに 地球表面のおよそ5%は背弧海盆由来のものであるといわれているが,その発達メカニズムについて,特に形成初期段階での力学的な特徴は詳しくは分かっていない.沖縄トラフは背弧拡大の初期段階であり(Sibuet et al., 1998),世界でほぼ唯一海洋底拡大する直前の状態を研究することができる背弧海盆である.沖縄トラフ南部,特に八重山海底地溝周辺では,反射法地震探査データの解析により,海底地溝底直下の深さ1 kmほどに下部からの貫入構造が存在する可能性が指摘されている(Arai et al., 2017).リフト帯ではマグマの上方に正断層や引っ張り亀裂が形成されることが多いが(例えば,Chadwick and Embley, 1998; Gudmundsson, 2006など),Arai et al. (2017)の反射断面では貫入構造の真上には断層は認められていない.そこで,本研究ではより詳細な海底地形データも合わせて,貫入構造の直上の断層を再検討した.さらに,八重山海底地溝周辺の断層マッピングを通して,リフティングにかかわる力学特性について検討を行った.2.使用データおよび解析方法 本研究では,2021年に実施された白鳳丸KH-21-3航海(大坪ほか, 2021)で得られた海底地形データと反射法地震探査データと,JAMSTEC, 産総研(Misawa et al., 2020), およびGEBCOの海底地形データを使用した.八重山海底地溝周辺の地形データからGMT (Generic Mapping Tools; Wessel et al. 2019)を使用して海底地形図の作成を行った.作成した地形図を用いて,海底面上で断層地形と考えられるリニアメントの分布を確認し,リニアメント部分に認められる地形の高低差(段差)の走向と段差間の水平間隔を計測した.また,正断層の水平間隔と断層の到達する深さの関係(Soliva et al., 2006)と,八重山海底地溝を横断する反射断面から,海底地溝周辺の断層の到達する深さを検討した.3.結果および議論海底地形図から確認できた段差は合計157であり,これらの段差は八重山海底地溝に沿って認められた.段差の数は八重山海底地溝の北側と南側で大きな差異は認められなかった.これらの段差を6つのグループ(八重山海底地溝の北側3地域および南側3地域)に分類して比較したところ,西部,中央部,東部でそれぞれの卓越する走向は異なり,かつ,八重山海底地溝の北側と南側では類似していることが分かった.八重山海底地溝中央部を南北に横断する反射断面(C1測線; Arai et al., 2017と同一測線)に注目すると,海底面の段差の下に正断層が認められる.つまり,海底地形図で認められる八重山海底地溝周辺の段差は正断層によるものである.一方,八重山海底地溝底の海底面には断層は認められなかった.C1測線の反射断面では正断層の下端は海底面から深さおよそ2〜3 kmまでは認めることができた.また, 海底地形データとSoliva et al. (2006)の式を用いて,八重山海底地溝周辺の18箇所で正断層の下端の深さを計測したところ,海底面下から最大2.42 km,最小0.85 kmであった.正断層の下端の深さについて,反射断面より求められた結果とSoliva et al. (2006)の式より導かれた計算結果は大きくは矛盾しない.本発表では,Soliva et al. (2006)の式から求められた八重山海底地溝周辺の正断層が到達する深さとArai et al. (2017)の貫入構造の描像の関係を紹介する.引用文献: Arai, R., et al., 2017, J. Geophys. Res., 122, 622–641; Chadwick Jr., W. W., Embley, R.W., 1998, J. Geophys. Res., 103, 9807–9825; Gudmundsson, A., 2006, Earth-Science Reviews, 79, 1–31; Misawa, A., et al., 2020, Geophys. Res. Lett., 47, e2020GL090161; 大坪ほか, 2021, JpGU2021, SCG45-07; Sibuet, J.C., et al., 1998, J. Geophys. Res., 103, 30245–30267; Soliva, R., et al., 2006, J. Geophys. Res., 111, B01402; Wessel, P., et al., 2019, G-cubed, 20, 5556–5564.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    牛丸 健太郎, 山路 敦
    セッションID: T5-P-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    古第三紀には,日本列島の周辺で大規模なテクトニクスがいくつも起こったとされる.例えば,海嶺沈み込み[1],三波川帯の上昇[2, 3],MTLの正断層・左横ずれ運動[4]が挙げられる.しかし,古第三系が日本列島陸上に少ないために,これらのテクトニクスは十分理解されていない.鍵となる始新統は瀬戸内海沿岸に点在するが、薄い地層がわずかに残るのみで、それらから読み出せる情報は乏しい.ところが天草の始新統は層厚が約3 km以上あって[5],始新世頃の様子を読み出せる可能性がある.始新世のeustacyの振幅はせいぜい101 mのオーダーだから[6],それだけ厚い地層が堆積するには何らかのテクトニックな沈降が必要である.しかし,天草の始新世テクトニクスについて,はっきりした議論がなされてこなかった.また,天草では中新世以降のテクトニクスが分かってきているので[7,8],古第三紀のそれを若い変形から識別できる可能性がある. これまで筆者らは,天草の構造発達史を解明するため天草下島北西部でマッピングを進めてきた.その結果,始新統の地質図規模の構造として,1) NE系の正断層,2) 低角正断層,3) NW-SE系正断層・横ずれ断層,4) NE-SW方向の軸を持つ褶曲を認定した.このうち,3), 4)は中期中新世以降に形成した構造である[7, 8].本発表では,始新世テクトニクスの記録の可能性がある1), 2)の正断層群について報告・議論する. 調査範囲において地質図規模のNE-SW系正断層群を認定した.これらの断層はNW-SE系断層群に切られていることから,中期中新世以前の構造である.4地点の断層露頭で条線を観察した結果,傾斜滑りに近い正断層であることが分かった.それぞれの正断層の変位量は概ね200 m以下であったが,変位量が約1300 mに及ぶ正断層も存在した.また,調査範囲において2条の地質図規模の低角断層を認定した.一方は,白亜系と始新統の境界をなし,断層露頭を1地点で確認した.断層破砕帯の内部構造はtop-to-the-NWの正断層運動を示した.もう一方は地層の分布から推定した断層である.推定された断層面を始新統が水平になるように傾動補正すると,リストリックな正断層になることから,褶曲前に形成した正断層だと解釈した.ただし,これらの正断層に向かって地層が厚くなる傾向は確認できていない. 天草の始新統から堆積同時テクトニクスの直接の証拠は得られていないが,以下の事実は始新統がNE-SW方向のグラーベンを埋積したことを示唆する.まず,天草の始新統にみられる最も古い構造がNE-SW系正断層および低角正断層であることが分かった,これらの断層の活動時期の制約は弱いが,低角断層もあり伸長歪み量が大きいことから堆積盆形成時の断層の可能性がある.また,天草の始新統は東または南東に向かって厚くなる傾向がある[9].さらに,始新統中の石炭層が天草西部のみに限られることから,堆積時は西側ほど陸に近かったと考えられる[10].これらことは,天草の南東側にNE-SW走向の大規模な正断層があり,地層が南東に傾動しながら堆積したと考えれば説明できる.天草南東側のグラーベン境界断層としては,臼杵-八代構造線が考えられる. 天草周辺海域の始新世のテクトニックセッティングも上記の描像を支持する.天草西方沖の天草灘や五島灘では始新統がグラーベンを埋積しており[11],東シナ海でも暁新世~始新世にNE-SW方向のグラーベンが多数形成している[12].天草の始新世堆積盆は,これら東シナ海から続くグラーベン群の一部であろう. 1, Seton et al., 2015, Geophys. Res. Lett., 42, 1732–1740; 2, 矢部, 1963, 地学雑, 72, 110–114; 3, 楠橋ほか, 2022, 地質雑, 128, 411–426; 4, Kubota et al. 2020, Tectonics, 39, e2018TC005372. 5, 高井ほか, 1997, 天草炭田地質図説明書; 6, Simmons et al. 2020, The Geological Time Scale 2020, pp1087–1140 ; 7, Ushimaru & Yamaji, 2023, JSG., 173, 104894; 8, 牛丸・山路, 2023, JpGU2023, SGL23-P09; 9, Miki & Suzukawa, 1980, Sci. Rep. Fac. Sci., Kyushu Univ., 13, 285–293; 10, Miki, 1975, Mem. Fac. Sci., Kyushu Univ., 23, 165–209; 11, Itoh et al., 1999, Island Arc, 8, 56–65; 12, Cukur et al., 2011, Mar. Geophys. Res., 32, 363–381.

  • 坂口 有人
    セッションID: T5-P-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    中央構造線(MTL)は西南日本の外帯と内帯とを区分する主要な地質境界であるとともに、国内の内陸断層のなかでは平均変位速度が最も大きい活断層の一つである。 地質境界としてのMTLは、四国西部では三波川帯や領家帯の変成岩と、それらを覆う和泉層群や久万層群と接している。地表露頭では北に中角度で傾斜しており、そのまま地下深部まで連続して下部地殻まで切断するものと考えられている(Ito, et al., 2009)。 一方、活断層としてのMTLは、地質境界としてのMTLの北側に断続的に並走する。空中写真では尾根や谷地形を直線的に斜断するリニエーションとして認識され、垂直に近い高角断層の様相を示す。また、地表露頭でも垂直に近い高角断層であることが確認できる。そのため地質境界としてのMTLと、活断層としてのMTLは、地下で互いに斜交するものとして広く認識されてきた。 愛媛県西部の湯谷口には、地質境界としてのMTLの露頭があり、そのすぐ北側には活断層としての川上断層が並走している。この場所では両断層の地表でのみかけの距離はわずか100m程度以下であり、両者の関係を明らかにする適所である。この場所において、川上断層と地質境界としてのMTLの両者を貫く掘削調査が原子力規制庁によって行われた。断層を貫くかたちで、垂直および傾斜掘削が行われ、長さ80mから330mまでの5本のボーリングコア試料が採取された。その結果、地質境界としてのMTLは、地表から深部まで北に約30度で傾斜するのに対して、川上断層は地表付近では北に70度で傾斜しているものの、深くなるに連れて傾斜がゆるくなり、地下140m付近で地質境界としてのMTLに収束することが確認された(Miyawaki and Sakaguchi, 2021)。これは西南日本の島弧の大構造を検討する上で重要な成果である。 この調査に用いられた掘削コア試料として、地質境界としてのMTLのみを貫いたものが1本、地質境界としてのMTLと川上断層の両方を貫いたものが3本、両断層が収束した部分を貫いたもの1本がある。それぞれのコア試料は断層中心部を含めて、きわめて高い採取率で得られている。これらのコア試料は学術的にきわめて貴重なものであり、より多くの研究者によって詳細な分析に活用されることが望ましい。 コア試料の主要部分は山口大学に移送され、内外の研究者に広く公開する予定である。試料断層中心部など重要区間は、その一部はアーカイブとして保存されるが、断層中心部を含む残りの部分は分析希望者に配布する計画である。

  • 窪田 安打, 竹下 徹
    セッションID: T5-P-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    1.研究経緯  中央構造線の古第三紀の運動像について,市之川フェーズ(59 Ma)は中央構造線が大規模な正断層運動を行う運動時相であること,その後の先砥部フェーズ(47-46 Ma)は,中央構造線に平行~雁行配列する内帯の断層群が左横ずれ逆断層運動により形成された運動時相であることが示されている(Kubota and Takeshita 2008; Kubota et al. 2020).彼らは中央構造線の破砕帯の一部に認められた市之川フェーズの北フェルゲンツ褶曲に重複するN-S~NNE-SSW方向に軸を持つ褶曲を形成する断層運動は課題として挙げた。この課題に対して,窪田・竹下(2022)は,四国西部の愛媛県西条市丹原町中山川河岸の中央構造線の湯谷口露頭において,先第四紀の右ずれ変形構造を報告し,解明の方向性を示した。本論は同露頭において更に研究を進めた結果を報告する。2.調査結果  湯谷口露頭の東側河岸において露頭観察,試料採取,研磨片・薄片観察による構造地質学的な手法による変形構造の解析を行った。本露頭は愛媛県指定天然記念物であるため,愛媛県および西条市の許可を得て試料採取した。 本露頭は,外帯の三波川変成岩と内帯の和泉層群を区分する中央構造線が分布しており,断層面の走向傾斜はN80°W 35°Nである。この断層境界に沿って中新世の安山岩が貫入している。露頭観察により,南からA帯:三波川変成岩のcataclasite zone(水平幅12m以上),B帯:ドロマイト質片岩のcataclasite zone(水平幅10m),C帯:和泉層群のcataclasite zone(水平幅8m),D帯:和泉層群のgouge zone(水平幅2m)として区分した。・A帯は,EW~NE-SW走向の高角度で北傾斜するせん断面が広く分布しており,top-to-the Westの引きずり変形が認められる。この北側ほどせん断面が密に分布しており,B帯との境界に厚さ3m程度の安山岩が貫入する。安山岩にはせん断面が分布しているが,主に割れ目が密に分布する程度であり,AB帯の破砕に比べて弱い変形である。・B帯はドロマイト質片岩のcataclasiteであり,強い破砕により細粒化している。また和泉層群の砂岩のレンズも含まれており,両地質が混合して固結している。Kubota et al. (2020)は,この変形構造を解析して,top-to-the-Northの後にtop-to-the-SWの変形を受けていることを報告した。このB帯は南北側に安山岩の貫入を受けているが,北側は安山岩の上盤側にドロマイト質片岩のcataclasiteが薄く分布する。ここでも研磨片・鏡下観察により,top-to-the Westの構造が確認された。・C帯は和泉層群のcataclasiteからなる。北側3mはWNW-ESE走向で約30°N 傾斜の主せん断面にtop-to-the-Eastの明瞭な複合面構造と条線が分布する。南側5mは安山岩の貫入を受けてドーム状に変形している。熱水変質により肉眼では岩相が不明瞭であるが,研磨片,鏡下によりtop-to-the-Westのshear bandとこれを切るtop-to-the-Eastのshear bandを確認した。C帯の北縁はD帯のgougeに切られる。3.考察  C帯の和泉層群に分布するtop-to-the-Eastのcataclasiteは,top-to-the-Westの後の構造であり,安山岩の貫入前に形成されたものである。B帯のドロマイト質片岩のcataclasite を中心に分布するtop-to-the-West~SWの構造は,Kubota et al. (2020)により先砥部フェーズ(47-46 Ma)により形成されたと報告されている。更に,中新世の安山岩(本露頭の安山岩では信頼できる年代値が得られていないが、他地区で15Maであると測定されている)の貫入を受けていることから,top-to-the-Eastのcataclasiteの形成時期は,45~16Maに限定されると考えられる。また,久万層群堆積期の南北伸張18~16Ma(楠橋・山路, 2001,新正・折橋, 2021他)を考慮すると,45~19Maに限定される。 以上の中央構造線の右ずれ変位は,四国西部の中央構造線が大規模に左屈曲する桜樹屈曲付近に圧縮場を形成し(i.e. restraining bend),上述したN-S~NNE-SSW方向に軸を持つ褶曲(Kubota and Takeshita, 2008)と関連する可能性がある。また,中央構造線の先第四紀の右ずれ破砕帯は他地域でも報告されており(Jefferies et al., 2006; Shigematsu et al. 2017),中央構造線の大規模な断層運動であった可能性がある。

  • 酒井 亨, 高木 秀雄
    セッションID: T5-P-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】 2011年4月11日に発生した福島県浜通りの地震(以下,4.11浜通り地震)により,いわき市に発達する湯ノ岳断層に地表変状が生じた.この地表変状は北西‒南東走向で高角南西傾斜の正断層であり,最大鉛直変位は0.8 m,全長15 kmにおよぶ地表地震断層である(Toda and Tsutsumi,2013).この地表地震断層の北西端はいわき市官沢地区に位置するが,湯ノ岳断層はさらに西方の入遠野ダム北露頭まで延長される(酒井・高木,2023).著者らは4.11浜通り地震の活動部と非活動部の破砕帯性状を比較し,それらの違いを明らかにするとともに,湯ノ岳断層の破砕帯形成史の解明を目指し調査を進めている. 4.11浜通り地震の活動部は中野北露頭と官沢露頭,非活動部は入遠野ダム北露頭を対象とし,露頭記載に加え,最新活動面を含む試料から作製した研磨片・薄片を観察した.以下に結果を記す.なお,断層岩類の原岩の緑色片岩は御斎所変成岩に属する.【中野北露頭】 いわき市中野地区の北方に位置し,北西と南東の2つの壁面で観察される.4.11浜通り地震で活動した断層面(最新活動面)は北西‒南東走向で高角南西傾斜を示し連続性が良く,基盤上面に0.3~0.5 mの変位を与えている.上盤には中新世の堆積岩類と緑色片岩を原岩とする破砕帯,下盤には緑色片岩を原岩とする破砕帯が分布し,全体の幅は2~4 mであり,断層ガウジ,断層角礫,カタクレーサイトから構成される.断層ガウジは最新活動面に沿って幅1~5 cmで認められる.また,露頭では上盤の断層角礫内に逆断層(北落ち)の複合面構造が見られる.研磨片・薄片では断層ガウジ内に右ずれ正断層(南落ち),その周囲の断層角礫に右ずれ逆断層(北落ち)の複合面構造が形成されている.【官沢露頭】 いわき市官沢地区に位置する.4.11浜通り地震で活動した断層面(最新活動面)は北西‒南東走向で高角南西傾斜を示し連続性が良く,基盤上面に0.2~0.3 mの変位を与えている.上盤には中新世の堆積岩類と緑色片岩を原岩とする破砕帯,下盤には緑色片岩を原岩とする破砕帯が分布し,全体の幅は3~4 mであり,断層ガウジ,断層角礫,ウルトラカタクレーサイト,カタクレーサイトから構成される.最新活動面は幅10~20 cmのウルトラカタクレーサイトと幅0.3~2 cmの断層ガウジの境界に位置する.露頭では上盤の断層角礫内に逆断層(北落ち),研磨片・薄片では断層ガウジとその周囲の断層角礫内に左ずれ正断層(南落ち)の複合面構造が発達する.【入遠野ダム北露頭】 入遠野ダムの北方に位置し,北西と南東の2つの壁面が露出する.最新活動面の姿勢は鉛直に近く,走向は北西‒南東~東‒西を示し湾曲する.なお,上載層である現世の河川堆積物に変状は認められない.上盤と下盤の両方に緑色片岩を原岩とする破砕帯が分布し,全体の幅は0.05~4 mであり膨縮が激しく,分岐・収斂する複数の小断層が認められる.破砕帯は断層ガウジ,断層角礫,カタクレーサイトから構成されるが,北西壁面と南東壁面で様相が異なり,前者では断層角礫,後者ではカタクレーサイトが主に見られる.なお,断層ガウジは最新活動面に沿って幅1~20 cmで認められる.研磨片・薄片では断層ガウジ内に左ずれ北落ち,その周囲の断層角礫内には左ずれ南落ちの複合面構造が発達する.【まとめ】 非活動部は活動部よりも最新活動面は湾曲し,複数の小断層が形成されており,破砕帯は膨縮する.これは露頭スケールにおける断層の端部性状(Kim et al.,2004)と解釈される.また,活動部は正断層(南落ち.中新世の堆積作用)→逆断層(北落ち.中野北露頭では右ずれ成分を伴う)→正断層(南落ち.4.11浜通り地震による最新活動を含む.中野北露頭では右ずれ成分,官沢露頭では左ずれ成分を伴う),非活動部は左ずれ南落ち→左ずれ北落ち(最新活動)の運動履歴が推定される.以上から湯ノ岳断層全体では①左ずれ正断層(南落ち.中新世の堆積作用)→②逆断層(北落ち.活動部は右ずれ成分,非活動部は左ずれ成分を伴う)→③正断層(南落ち.4.11浜通り地震を含む)の履歴が推定され,活動部は①~③,非活動部は①・②の運動ステージを経験したと考えられる.【引用文献】Kim, Y.-S., Peacock, D. C. P. and Sanderson, D. J.,2004,J. Struct. Geol.,26,503‒517.酒井亨・高木秀雄,2023,JpGU Meeting 2023,SSS13-P10.Toda, S. and Tsutsumi, H.,2013,Bull. Seismol. Soc. Am.,103,1584‒1602.

  • 宮崎 一希, 中島 淳一
    セッションID: T5-P-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    日本列島下に沈み込むフィリピン海プレートは、中国・九州地方では深さ400 km付近までその存在が追跡されている(例えば Zhao et al. 2012)が、北陸地方をはじめとする中部日本下においては約140 kmまでしか形状が決定されておらず、スラブの沈み込みに大きな東西非対称が存在していた。ところが最近の研究により北陸地方下にも深さ約250 km程度まで沈み込むフィリピン海スラブが存在することが示された(Miyazaki et al. 2023)。加えて北陸地方の下に部分的にスラブが存在しないスラブウィンドウが形成されていることも明らかになってきた。 スラブウィンドウはトロイダルなマントル流を励起することがいくつかの沈み込み帯研究から知られており(例えば Zandt and Humphreys 2008; Asamori and Zhao 2015)、北陸地方下のマントル流もスラブウィンドウの影響を受けている可能性がある。そこで本研究では地震波を用いてS波のスプリッティング解析を行い、中部日本下のマントル異方性を調べた。  解析の結果、日本海沿岸部地域(能登~新潟県)では北西南東方向に速い軸を、内陸部(岐阜県~長野県)ではほぼ南北~やや北東南西に速い軸を、東海地域(三重県~愛知県)でははほぼ東西方向に速い軸を持ち、地域的に異なる異方性を示すことがわかった。日本海沿岸部と東海地方の異方性は直下の太平洋プレートの最大傾斜方向とおおむね一致しており、太平洋プレート沈み込みに関連するリターンフロウを反映していると解釈される。一方で内陸部の異方性はいずれとも異なる。 内陸部の異方性の原因は定かでは無いが、もしスラブウィンドウに関連する対流を反映している場合、スラブウィンドウを通じて深部からの熱、物質輸送が起きている可能性がある。シミュレーション研究からスラブウィンドウの形成は約3Maに始まったことが示唆されているため、この領域におけるフィリピン海プレート沈み込み様式の変化と地質学的情報に記録される最近3Myrの地形変動・火山活動との比較を行うことでスラブウィンドウをキーワードとした北陸地方のテクトニクスについて議論する。

  • 長谷川 凌平, 森 宏, 山岡 健, 山岸 弘治, 常盤 哲也, 木村 陽介, 野部 勇貴
    セッションID: T5-P-12
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    [はじめに]現在活動を続ける地下深部の断層面には,固着度不均質性が存在し,このことが断層の破壊領域および地震規模の主な規定要因と想定されている(e.g. Kanamori, 1986).一方,陸上大断層周辺の地質は,かつて地下深部で断層運動を経験しており,固着度不均質性の物質科学的検証に有用といえる.ただし,地球物理学的観測から推定される固着度不均質性の空間規模はkmスケール以上であり(e.g. Wyss et al., 2000),上記検証には同程度の規模での地質学的アプローチが重要となる.そこで本研究では,日本陸上最大の断層である中央構造線(MTL)近傍・三波川帯における数十kmスケールでの野外調査を実施し,固着度不均質性に対応した地質構造の特徴検出を試みた. MTL近傍の三波川帯岩石は,様々な深度・時期に生じたMTLの断層運動の影響を被っている.紀伊半島中央部では,三波川帯北限のMTLに近づくにつれて,褶曲軸面の姿勢が北に倒れ込む変化が報告され,この空間変化はMTLの正断層運動に起因すると結論づけられている(Fukunari & Wallis, 2007).このことは,MTLの正断層運動時に高固着度領域が存在していたと解釈可能である一方,MTLに沿った側方変化は不明である.そこで本研究では,同地域における広域野外調査(調査範囲:東西約30 km × 南北約3 km)より,MTL近傍での延性変形構造の空間変化の詳細究明を目的とした.[地質概要]本研究地域の三波川帯には,ほぼ東西走向で北傾斜を呈すMTLを北限として,付加体起源の変成岩類が分布し,北部の粥見コンプレックスと南部の波瀬コンプレックスに細分される(e.g. Jia & Takeuchi, 2020).粥見コンプレックスは微細褶曲が発達した泥質岩を主体とする一方,波瀬コンプレックスも泥質岩主体ではあるが,粥見コンプレックスに比べて細粒であり,微細褶曲はほとんど認められない. 本研究地域の主な延性変形構造は,普遍的に発達する片理と,これら主片理を曲げる褶曲構造であり,前者は変成ピーク直後の上昇初期,後者はそれより後の変形構造に該当する(e.g. Yamaoka & Wallis, 2022).一方,脆性変形に関しては,MTLから数百m以内において脆性剪断組織が顕著であり,また,調査地域全域で北東–南西〜東北東–西南西走向の高角胴切り断層が卓越する.[広域地質構造]延性変形構造の大局的な傾向としては,主片理面の走向は概ね東西〜西北西–東南東に集中する一方,傾斜は北傾斜と南傾斜が混在する.また,主片理面上の鉱物線構造は概ね東西トレンドの低角プランジを呈す.褶曲構造に関しては,褶曲軸は東西トレンドかつ低角プランジが卓越する一方,軸面は主片理面と同様に傾斜方向がばらつく. 粥見コンプレックスでは,褶曲構造が東西方向に10 km以上にわたって追跡でき,胴切り断層による延性変形構造の改変が限定的であることを示す.一方,粥見–波瀬コンプレックス境界では,境界をまたいで主片理面の急激な姿勢変化が認められ,延性変形時の空間的連続性が保たれていない可能性がある.そこで,以下のMTLと延性変形構造の空間変化に関する議論では,粥見コンプレックスのみに着目する.[延性変形構造の空間変化]調査範囲を東西方向に6 km間隔,南北方向に500 m間隔に区切って,より詳細な空間変化を検討した.その結果,褶曲軸面に関して,MTLから南に500 m〜1000 m離れた領域では,約20ºの南傾斜が卓越して東西変化が乏しい一方で,MTLから500 m以内では,西から東にかけて,約20ºの南傾斜,約20ºの北傾斜,水平傾斜,約20ºの南傾斜,水平傾斜の系統的な変化が認められた.この不均質な空間変化の特徴は,MTLの断層運動時に,断層面上に約10 km規模の固着度不均質性が存在していた可能性を示す.[引用文献]Fukunari & Wallis, 2007, IAR, 16, 243–261; Jia & Takeuchi, 2020, JAES, 196, 104342; Kanamori, 1986, Annual Reviews of Earth and Planetary Sciences, 14, 293–322. Wallis et al., 1992, IAR, 1, 176–185; Wyss et al., 2000, JGR, 105, 7829–7844. Yamaoka & Wallis, 2022, IAR, 31, e12440.

  • 高下 裕章, 野田 篤, 宮川 歩夢, 大熊 祐一, 橘 隆海, 兼子 尚知, 大坪 誠
    セッションID: T5-P-13
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    アナログモデル実験は実際の地質構造や断層の形成過程を再現する手法であり、初期条件を変化させることで、造山帯や沈み込み帯における地質構造形成プロセスを理解する手段として利用されている[1]。近年、このアナログモデル実験は、変形の定量化技術や(例えば[2])、陸側の壁面にロードセルを設置し、変形時に連続測定した水平応力(最大主応力σ1)から、ウェッジ変形時の応力変化を議論する研究も進んできた[3]。 しかし、ウェッジの変形様式やウェッジ強度の時間変化を定量的に理解するためには、最大主応力(σ1)と最小主応力(σ3)の両方を知る必要があるが、そのような実験的研究はこれまでに報告されていない。そこで、産総研では、装置の陸側壁面と底面に応力センサーを組み込み、σ1とσ3を同時に連続測定できる新たな砂箱実験装置を立ち上げた。これにより、画像解析による変形の定量化と応力変化とを組み合わせた解析が初めて可能になった。 本研究の目的は、(1)付加体形成における断層活動の時空間分布(画像解析)と最大・最小主応力の時間変化(応力測定)との関係を明らかにすること、さらに(2)長大変形におけるサブダクションチャネルの役割を明らかにすることである。 アナログ実験では自然の岩石と類似した応力ひずみ曲線を示す材料を用いることが一般的である[4]。そのような材料として、非粘着粘着性の珪砂(豊浦砂)を用い、低摩擦のテフロンシートの上に、2 cm厚の豊浦砂を敷き、モーターでシートを巻き取ることによってプレートの沈み込み再現した。実験では、アウトフラックスが0となる条件Aと1 cm高のアウトフラックスとなる条件Bの2種類の実験を行った。実験材料の詳細なパラメータは[5]に準じる。ロードセルは底面側に、バックストップから近い順番でR1からR5とし合力をRbottomとする。背面はR6,R7,R8と3つのロードセルが存在するが、この合力をRbackstopとした。 実験の結果、条件Aでは前縁スラストが前方へ順序通りに形成されながら付加体が成長する過程が再現された。条件Bでは、サブダクションチャネルの効果によってステージ2の後半では堆積物が深くまでアンダースラストしており、大規模分岐断層に相当する順序外断層が形成された。この順序外断層は、ウェッジ(砂)の内部に発達する断層であり、砂とテフロンシートとの境界に発達するデコルマ面(プレート境界断層)よりも摩擦が大きい。このため、この順序外断層は、高摩擦で急傾斜の内側ウェッジと低摩擦で緩傾斜の外側ウェッジとを境する断層として機能しており、付加体の形成に重要な役割を担っていると考えられる。 付加体の成長過程は、応力変化に基づくと、条件Aでの応力変化はシンプルに2つのステージに区分することが可能である。Rbottom<Rbackstopをステージ1、それが逆転する状態をステージ2とした。ステージ1では、前縁スラストの新規形成が短周期である様子が観察された。条件Bでは応力変化の応答が複雑なことから4つのステージに区分した。Rbottom<Rbackstopであるステージ1、Rbottom<Rbackstop となるステージ2ステージ1、R1>Rbackstopとなるステージ2、付加体前縁部がR3の位置まで進展しのR3応力が上昇し始める地点をステージ3、そこから実験終了までをステージ4とした。ステージ1では、前縁スラストの新規形成が短周期である様子が観察された。 条件Bにおける順序外断層は、例えば南海トラフなどでは津波地震の震源断層として注目されている重要な断層であるため、条件Bにおける断層活動と応力変化についての解析は重要になってくる。今後、画像解析は現在DIC-FFTを使用して解析を進めており[7]、断層形成のタイミングと応力変化の応答時間の差について詳細に議論する予定である。 文献: [1]Graveleau, F. et al. (2012) Tectonophysics, 538, 1-66; [2]Adam, J. et al. (2005) Journal of Structural Geology, 27(2), 283-301; [3]Ritter M.C. et al. (2018) Tectonophysics, 722, 400-409; [4] Lohrmann, J. et al. (2003) Journal of Structural Geology, 25(10), 1691-1711; [5]Okuma, Y. et al. (2022) Tectonophysics, 845, 229644; [6]Dotare, T. et al. (2016) Tectonophysics, 684, 148-156. [7]Bickel, V.T. et al. (2018) Remote Sens.10, 865

T6.堆積地質学の最新研究
  • 船場 大輝, 江﨑 洋一, 足立 奈津子
    セッションID: T6-O-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    後期ジュラ紀の礁はヨーロッパに分布するテチス海と日本に分布する古太平洋で広く形成された.従来,礁の形成に果たす被覆性微生物類(以下,微生物類)の役割に注目し,テチス海の礁が重点的に研究されてきた (Leinfelder et al., 1993など).しかし,後期ジュラ紀に特徴的な礁の形成様式や海洋環境を理解するためには,両海域からの情報が必要である.微生物類の中でもLithocodiumが多産し (Shiraishi & Kano, 2004など),量的に重要な役割を果たす.Lithocodiumは,異なる成長段階を示すアオサ藻綱石灰質緑藻類と解釈され (Schlagintweit et al., 2010),光の環境条件に応じて成長段階が変化する (Schlagintweit et al., 2012).本発表では,古太平洋で形成された鳥巣石灰岩の中でも大型造礁骨格生物(以下,大型生物)が豊富な和歌山県由良地域の石灰岩を対象とし,多産するLithocodiumが礁の構築に果たした役割を検討する. 由良地域からは,層孔虫や六射サンゴ,ケーテテスなどの大型生物が豊富に産出する.微生物類として,LithocodiumThaumatoporellaGirvanellaOrtonellaBacinellaTubiphytesが認められる.その中でLithocodiumが最も豊富である.Lithocodium には成長順に次の3つの成長段階が認められる.(1)大型生物の成長末端部に形成された空洞を泡状構造が充填する段階,(2)内部の袋状構造からフィラメント構造が上方に複数分岐する段階,(3)(2)の内部の袋状構造から不規則な泡状構造が側方へ広がるように成長し,それに伴ってそこから上方に分岐するフィラメント構造が減少する段階.中でも(2)の成長段階が多く認められ,この成長段階のLithocodiumは,主に層状ケーテテス及び塊状六射サンゴの成長末端部を被覆して上方に成長するが,さらにそれらと累積する場合やそれらの側面部を被覆する場合もある.(3)の成長段階のLithocodiumは,塊状六射サンゴの側面部を被覆する場合に認められる.(1)の成長段階のLithocodiumは,ケーテテス及び六射サンゴの成長末端部や側面部に形成された空洞に認められ,それらが充填された表面を(2)及び(3)の成長段階のLithocodiumが被覆する場合が認められる.ThaumatoporellaGirvanellaなどの他の微生物類も大型生物の側面部や内部を被覆する場合が多い. 微生物類の中でも(2)の成長段階のLithocodiumが特に卓越する理由として,主に上方へと選択的に成長し大型生物の固着基盤を提供できたためと考えられる.加えて,大型生物と累積しながら上方へと選択的に成長し,大型生物の側面部や内部よりも活発に繁茂できたためと考えられる.一方,(1)及び(3)の成長段階のLithocodiumや他の微生物類は,大型生物間に形成された微小な空間や大型生物の骨格内の空間を被覆する場合が多く,単に礁の枠組み構造を二次的に強固にする役割を果たしたに過ぎない.卓越する(2)の成長段階のLithocodiumは,大型生物の固着基盤を提供し,礁を上方へと発達させる役割を果たした.[引用文献]・Leinfelder et al., 1993. Facies, 29, 195-229. ・Schlagintweit et al., 2010. Facies, 56(4), 509-547. ・Schlagintweit et al., 2012. Facies, 58, 37-55. ・Shiraishi & Kano, 2004. Facies, 50(2), 217-227.

  • 山本 和幸, 高柳 栄子, アルジュネイビ マリアム, アルファルファン ザハラ, 佐藤 時幸, 辻 喜弘, 井龍 康文
    セッションID: T6-O-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    白亜紀セノマニアン期のアラビアプレート上には,浅海性炭酸塩プラットフォームおよび陸棚内堆積盆地が形成され,炭酸塩堆積物が厚く堆積した.本研究の検討対象であるアラブ首長国連邦アブダビ沖に位置する油田では,30年以上の長い間,同堆積物よりなる貯留層から原油の生産が続けられている.しかしながら,同貯留層の岩相は極めて不均質であり,地震探査で認められる音響インピーダンス境界も不明瞭なため,その構造は不明確であった.そこで本研究では,同貯留層の構造を解明するために,炭酸塩堆積物の炭素同位体比層序を検討し,その解釈に際し新たな視点に基づく層序対比を試みた結果,良好な結果が得られたので報告する. 本研究で用いたコア試料は,炭酸塩プラットフォームから陸棚内堆積盆地までを網羅する6本の坑井より連続的に採取された.地球化学分析用試料は,大型の生砕物化石やセメント,スタイロライト,溶解シームを避けて採取した.全ての試料の鉱物組成および微量元素含有量(Sr,FeおよびMn)を求め,続成作用による同位体組成改変の有無を確認した.炭素同位体比は546試料を分析し,炭素同位体比層序を高解像度(約1 m間隔)で解析した.Sr同位体比は,全岩試料および保存状態が良好な厚歯二枚貝化石の殻試料から採取した204試料を分析し,堆積年代を求めた.また,炭酸塩プラットフォームおよび陸棚内堆積盆地の炭酸塩堆積物と,それらの上位に塁重する海成頁岩から得られた計212試料の石灰質ナンノ化石生層序も併せて検討した. 炭素同位体比の分析結果を坑井間で比較すると,同位体比の平均値には坑井ごとの差異が認められたが,同位体比の時系列変化には陸棚内堆積盆地の1坑井を除く全ての坑井で明瞭な変動が認められなかった.この状況では,炭素同位体比の時系列変動パターンに基づく通常の層序対比を実施することは困難である. そこで,炭素同位体比の新しい層序対比手法を確立するために,アラビアプレート上のアプチアン階の炭素同位体比層序のデータを統合して考察した.アラビアプレート上では,セノマニアン期に形成された炭酸塩プラットフォームおよび陸棚内堆積盆地と同様の堆積システムがアプチアン期においても形成された.アプチアン階の炭素層位体比層序は同時代の炭酸塩堆積物を貯留層とする多数の油田群において確立されている.その結果,アプチアン階の炭素同位体比は,全球規模の炭素循環システムが大きく変動した海洋無酸素事変に伴う明瞭な時系列変動パターンを示し,同一層準において,炭酸塩プラットフォームから陸棚内堆積盆地に向かって炭素同位体比が側方に減少する傾向が有意であることが分かった.これは,陸棚内堆積盆地に比べて炭酸塩プラットフォーム頂部における生物活動が活発であったため,後者周辺の海水から選択的に軽い炭素(12C)が取り除かれたことを反映していることに起因する. このアプチアン階の貯留層内で認められた同一層準における炭素同位体比の側方への変化が,セノマニアン階でも同様に生じたと考えて層序対比を試みた.その結果,炭酸塩プラットフォームと陸棚内堆積盆の構造が復元され,同堆積盆地の中心に向かって前進するクリノフォームの存在が明らかになった.このクリノフォームの解釈は,岩石コア試料の岩相や地震探査データの解釈とも矛盾しない.一方,炭酸塩プラットフォーム頂部からその前縁部に前進したクリノフォームに向かって炭素同位体比は漸増傾向がみられた.これは,クリノフォームの前進により陸棚内堆積盆地が徐々に小さくなり,外洋との海洋循環が弱まって閉鎖的になることで,有機炭素の埋没量が増加したためであると考えられる. このクリノフォームの前進を駆動した強制海退は,アラビアプレート東縁部でのオマーンオフィオライトのオブダクションに関連する構造隆起に起因すると考えられる.Sr同位体比層序ならびに石灰質ナンノ化石の生層序を複合的に検討した結果,この構造隆起により,チューロニアン階は全て欠如して大きなハイエイタスが形成されていることが判明した. 得られた全ての結果を統合的に解釈すると,炭酸塩プラットフォームは上方に塁重しながら成長した後,側方にクリノフォームが前進して陸棚内堆積盆地が埋積され,最終的に長期間陸上干出したことが示された.炭素同位体比の新しい層序対比手法の適用により,これまで長年不明なままであった貯留層の構造を解明することが出来た.炭素同位体比の時系列変動パターンに基づく通常の層序対比手法とは異なり,本研究で示された手法は,炭素同位体比が堆積環境によって異なる点を利用して層序対比を試みたものである.炭酸塩プラットフォームと陸棚内堆積盆地という同様の地質セッティングであれば,地域や時代が異なっていても,本研究の層序対比の手法は適用可能であると考えられる.

  • 江﨑 洋一, 前田 宗孝, 足立 奈津子, 劉 建波
    セッションID: T6-O-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    ペルム紀末の大量絶滅は,地球史上最大規模の絶滅事変であった.骨格を分泌する石灰海綿類,コケムシ,四射サンゴ,フズリナ類などが大打撃を受け,南中国の最下部トリアス系の浅海成炭酸塩岩相では,主としてスロンボライトから構成される微生物礁が特異的に形成されている(Ezaki et al., 2003など).ごく最近,最下部トリアス系の微生物岩の中に,海綿化石が豊富に含まれていることが指摘され(Wu et al., 2022など),絶滅現象の実態(絶滅生物の選択性や絶滅後の生物相など)を再評価する必要性が生じている.本発表では,南中国の最下部トリアス系スロンボライトの特性を手がかりに絶滅現象の影響を考察する. 南中国の最下部トリアス系の浅海成炭酸塩岩では,ストロマトライトは稀で,スロンボライトが特徴的に認められる.スロンボライトは,露頭レベルではドーム状からテーブル状の構造を示し,コノドント,薄殻二枚貝や巻貝を多産する生砕性石灰岩の薄層を頻繁に挟在する.肉眼レベルで,スロンボライトはメソクロッツ(mesoclots)の集合から成り,上位方向と側方方向への癒合程度の差に起因し,斑点状・層状・樹状などの枠組み構造を形成する.枠組み構造部では,円形から楕円形,あるいはそれらが癒合した不定形のクロッツ(clots)が認められる.枠組み部ではドロマイト化作用が顕著である.枠組み間の空隙部では,しばしばジオペタル構造を示しながら,ペロイド状粒子の充填作用が認められる.ペロイド状粒子が密に充填した部分では,基質のスパー部が,見掛け上vermiform(虫食い状)を呈し海綿に類似する組織を示す.枠組み間のミクライトの集積部では,小型の有孔虫,貝形虫などが認められる.また,スパー部が虫食い状を呈する海綿状組織が,枠組み表面を被覆・枠組み間を充填する箇所がある.そこでは海綿骨針は確認できないが,直径が0.5 mmほどの中空の構造が散点的に認められる.ミクライトの集積部とは異なり,二枚貝や巻貝などの生砕物の含有量はわずかである.これらペロイド状粒子やミクライトの集積部,海綿状組織部はドロマイト化作用を被らず,保存良好な場合が多い. 枠組み表面を被覆・枠組み間を充填する海綿状組織は,初生的にはタンパク質(2次的に石灰質)の骨格を有し,海綿骨針を欠くケラトース海綿由来(Luo and Reitner, 2016)である可能性が高い.ペロイド状粒子やミクライトは,スロンボライトの枠組み形成に関与した微生物類の代謝活動他に,海綿の軟体部の分解産物に起因する可能性も考えられる.ケラトース海綿がクロッツから成るスロンボライトの枠組み間を充填し,残された空隙部をミクライトやペロイド状粒子が順次,充填したと考えられる.ペルム紀末の絶滅事変時には海洋酸性化が進行したが(Lehrmann et al., 2015),そのような環境下でも,ケラトース海綿で代表される一部の骨格生物は生存可能であった.ペルム紀末の大量絶滅事変は,大型の骨格生物を完全に一掃したわけではなく,一部の骨格生物の生存を許容し,絶滅事変後にスロンボライトや一部ストロマトライトとともに礁の形成がもたらされた.今後,海綿状組織部の3次元復元を行い,ケラトース海綿の成長形態の詳細や海綿固有の水管系の存在などを明確にしていく必要がある.[引用文献]Ezaki, Y. et al. (2003) Palaios, 18, 388-402.; Lehrmann, D.J. et al. (2015) Palaios, 30, 529-552.; Luo, C. and Reitner, J. (2016) Lethaia, 49, 555–570.; Wu, S. et al. (2022) Global and Planetary Change, 211.

  • 松田 博貴, 佐々木 圭一, 得重 和希
    セッションID: T6-O-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    鹿児島県喜界島には,鮮新統〜下部更新統島尻層群早町層を基盤として,下部更新統知念層,中部更新統琉球層群百之台層,上部更新統琉球層群湾層,ならびに上部更新統〜完新統砂丘砂層が分布する(中川,1969;松田ほか,2023).このうち琉球層群はサンゴ礁複合体堆積物からなり,百之台層(0.85〜0.45Ma)は,礁相(礁〜礁斜面)と島棚相(島棚〜島棚斜面上部)が鉛直方向に繰り返すアグラデーショナルな累重様式を示し,大きな岩相の側方変化は認められないのに対し,湾層(138〜40ka)は,MIS 5e以降のきわめて速い隆起速度(2.1〜2.3 m/kyr;Inagaki and Omura, 2006)により,正断層群で限られた標高の異なる段丘面に対応して,最終間氷期以降(MIS 5e〜3)の礁相と島棚相が比高差に応じて分布するオフラップ型の堆積様式を示す(太田・大村,2000;大村ほか,2000;Sasaki et al., 2004).百之台層と湾層のいずれも,喜界島全域に分布すると共に,最高位段丘や他の低位段丘にも分布する.しかしながら,現在用いられている喜界島の地質図(中川,1969)は,高位段丘に百之台層,低位段丘に湾層が分布する段丘地質学的観点で描かれたものしかない.そこで本研究では,これまで蓄積された露頭データと新たな調査による知見を基に琉球層群の分布を再検討すると共に,汎世界的海水準変動と顕著な隆起運動に呼応して形成された百之台層・湾層の岩相の上方・側方変化を明らかにすることを目的とした.その結果,中部更新統百之台層はほぼ島全域に分布し,低位段丘にも広く分布する.特に島西部の川嶺から上嘉鉄北方の段丘(標高80〜40m程度)では,基盤の島尻層群早町層を不整合に覆い,礁相と島棚相が複数の層準で分布する.またコア試料と沈砂池露頭では,少なくとも3回の礁相と島棚相の繰り返しが確認される.百之台層の堆積年代は,石灰質ナンノ化石分析から0.85〜0.45Ma(松田ほか,2023),またESR年代測定から0.57〜0.65Maの年代が得られていること(Ikeda et al., 1991)から,百之台層はMIS 19〜13の間の氷期・間氷期サイクルのいずれかに対応して形成されたと推定される.一方,上部更新統湾層は,島中央部の最高位段丘である百之台西部から島西部の荒木にかけて,複数の段丘面上に広く分布し,また島北西岸の伊実久地区と坂嶺〜池治地区,北東岸の塩道〜志戸桶地区の標高80 m以下にも分布する.特に島西部では,MIS 5e(115〜138 ka),MIS 5c(98〜104 ka),MIS 5a(79〜83 ka),MIS 4〜3(60〜70 ka,50〜60 ka,40 ka)の礁相のサンゴ石灰岩が,各々,百之台の上部(標高200m以上),百之台の下部(標高180m付近),中西台(標高160m付近),ならびに川嶺から荒木にかけて(標高80m以下)分布する.一方,MIS 5e・5c・5aの島棚相は中西台以下の低位段丘面上に分布する.これら多数の露頭データを基にした湾層の模式的なサクセションは,下位から,(A)石灰藻球石灰岩(島棚外側)→(B)コケムシに富む淘汰の悪い生砕性石灰岩(島棚斜面上部)→(C)石灰藻球石灰岩(島棚外側)→(D)石灰藻球を伴う淘汰の悪い生砕性石灰岩(島棚内側)→(E)造礁サンゴ礫を伴う淘汰の悪い生砕性石灰岩(礁斜面)→(F)現地性造礁サンゴからなるサンゴ石灰岩(礁域)からなり,その上位に(G)風成砂丘砂層(陸域)が重なる.高位段丘に分布するサンゴ石灰岩のウラン系列年代と分布高度から,このサクセションは,MIS 5c/5a間の亜氷期からMIS 2にかけての相対的海水準低下に伴い上方浅海化し,さらに陸化する過程を示すと推定される.一方,北西岸と北東岸の地域では湾層の分布は限られ,北西岸では,主に(B)のコケムシに富む淘汰の悪い生砕性石灰岩が分布し,しばしば平板型斜交層理を伴うが,(E)や(F)のような礁相は分布しない.一方,北東岸では,MIS 5aからMIS 3の(E)や(F)の礁相が,時代と共に次第に標高の低い地点へと分布が変化し,(B)〜(F)のサクセションの一部が認められる(Sasaki et al., 2004).これら地域による岩相の違いは,西部地域が島棚上の比較的広い平坦面に位置するのに対し,北西・北東岸地域は比較的急傾斜の島棚斜面に位置し,平坦面に乏しい潮汐流や海流の影響を受ける環境にあったと考えられる.講演では,これらの結果に加え,現時点で明らかになった百之台層と湾層の詳細な分布について報告する.

  • 佐々木 佑二郎, 藤田 和彦, 富岡 尚敬, 高橋 嘉夫, 白石 史人
    セッションID: T6-O-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    微生物岩は過去約35億年間の生命活動や地球環境を記録しているだけではなく,近年では石油資源の観点からも注目されており,一部の微生物岩は高い空隙率から良質な石油貯留岩になりうるとして重要視されている.微生物岩には,しばしばスフェルライト(球晶)が含まれており,近年発見された微生物岩を貯留岩とした巨大油田の内部にもスフェルライトが大量に発見されたが,その起源については議論が続いている.先行研究では,微生物由来の有機物(細胞外高分子など)によって炭酸塩鉱物が沈殿してスフェルライトが形成したとする微生物起源説を提唱するものも多い (e.g. Chafetz et al., 2018).しかし,それらの解釈は主に走査型電子顕微鏡 (SEM) などを用いた形態観察に基づいており,直接的な証拠を欠いている.また顕生代においては,ホヤが骨片としてスフェルライトを形成することから,微生物岩中に見られるスフェルライトの解釈には特に注意を要する.そこで本研究は,まず微生物起源のスフェルライトとホヤ骨片を見分けることを目的とし,海成微生物岩である礁性微生物皮殻 (RMC; reefal microbial crusts) と現世のウスボヤ科の骨片を用いて検討を行った. RMC試料は,沖縄県久米島西銘崎に打ち上げられた台風石 (強風時の高波によって剥離したサンゴ礁岩塊) から採集した.ホヤ試料もまた,久米島近海から採集した.これらの試料は,偏光顕微鏡とSEMを用いて形態観察および元素組成分析を行った.さらに,微生物起源と考えられるスフェルライトに関しては,薄片試料から集束イオンビーム (FIB) 加工によって薄膜試料を作成し,走査型透過X線顕微鏡 (STXM) および透過型電子顕微鏡 (TEM) を用いて観察・分析し,微生物のスフェルライト形成への関与について検討した.  偏光顕微鏡観察の結果,ホヤ骨片は球状または突起を持った金平糖状の外形を呈し,針状結晶の束が集合して構成されていることが明らかになった.同様の特徴を示す粒子はRMC試料中にも散在しており,これらはホヤ骨片起源であると考えられる(タイプ①).一方,RMC直下の空隙中に見られるスフェルライトは,緻密に放射状配列した針状結晶で構成されており,隣接するスフェルライトと密接しているためにその外形は他形を示した(タイプ②).またその内部には,直径約1 μmのフィラメント状構造がしばしば認められ,中心部から放射状に配列する場合もあった.このような特徴はホヤ骨片とは明らかに異なっていることから,微生物起源を示している可能性が高い.実際にSTXM分析では,フィラメント周縁部にカルボキシ基と非晶質炭酸カルシウム (ACC) を特徴付けるスペクトルが確認され,これは微生物の細胞外高分子を介した炭酸塩沈殿を示唆している. 引用文献 Chafetz, H., Barth, J., Cook, M., Guo, X., Zhou, J. (2018) Origins of carbonate spherulites: Implications for Brazilian Aptian. Sedimentary Geology 365, 21–33.

  • 白石 史人, 秋元 貴幸, 富岡 尚敬, 甕 聡子, 高橋 嘉夫
    セッションID: T6-O-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    トラバーチンは温泉成の炭酸塩堆積物であり,微生物岩や石油貯留岩のアナログとして注目されている.トラバーチンに特徴的な組織として,ペーパーシンラフトとコーティッドバブルがある.ペーパーシンラフトは温泉水の流れが弱い場所の水面に形成される薄皮状の沈殿物,コーティッドバブルは水底の泡周囲が薄皮状の沈殿物で覆われた中空の球体である.先行研究では,水面よりも気泡表面の方がCO2脱ガスが活発であるためにCaCO3過飽和度が高く,それによってコーティッドバブルが形成されると解釈したが,気泡と大気の圧倒的な体積差を考えると実際はその逆である可能性がある.また,負帯電した気液界面におけるCaCO3結晶核形成が,同じく負帯電した有機物上での核形成と同様に,非晶質炭酸カルシウム(ACC)前駆体を経由するのか,という疑問も残されている.そこで本研究は,大分県長湯温泉に見られるペーパーシンラフトとコーティッドバブルを対象とし,野外観察,微小電極測定,および各種顕微鏡(偏光顕微鏡,走査型電子顕微鏡,透過型電子顕微鏡,走査型透過X線顕微鏡)による観察を行うことで,それらの成因を明らかにすることを目的とした.  野外観察の結果,ペーパーシンラフトは約1時間程度,コーティッドバブルは約8時間程度で形成されることが明らかとなった.また,日中の気泡表面には微小な白色沈殿物が見られ,しばしば水流によって高速に動いていた.微小電極測定の結果からは,酸素泡表面よりも水面で顕著なCO2脱ガス,そしてその結果としての顕著なCaCO3沈殿が起きていることが示された.顕微鏡観察からは,ペーパーシンラフトの水面に接する面において,約0.3–1.0 μmのアラゴナイト結晶が隙間なく配列していることが示された.一方,コーティッドバブルの水面に接する面では長さ約1–3 μm,幅1 μm以下のアラゴナイト結晶が,その長軸を気泡表面と平行にして配列しており,これらの結晶間にはしばしば隙間が見られた.いずれの試料でも初生的なACCは見られなかった. これらの結果から,水面では活発なCO2脱ガスによるCaCO3核形成が卓越していると考えられる.負帯電した水面においてACC前駆体が形成されていた可能性はあるが,有機物上での沈殿とは異なり,水面が鉱物で覆われると負帯電した気液界面は消失するため,ACCは安定化しないと考えられる.気泡表面においては,CO2脱ガスはあまり活発ではない一方で,他所で形成された針状アラゴナイトが付着し,それらの結晶成長が卓越していると考えられる.

  • 加藤 大和, 村田 彬, 狩野 彰宏
    セッションID: T6-O-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    石灰岩地帯の河川水より析出するトゥファは、炭酸カルシウムを主成分とする炭酸塩岩である。トゥファの粗密構造の季節変化や、不純物として混入する土壌成分の変化が成長線として保存され、堆積の方向や速度が容易に認定できる場合が多い。鹿児島県徳之島西部の小原海岸では、海岸斜面に湧出した地下水から、様々な形態のトゥファが広範囲に発達している。本研究では、トゥファに含まれる不純成分に着目し、プラントオパール(植物ケイ酸体)の抽出を試みた。プラントオパールは植物細胞を鋳型として形成される非晶質のケイ酸体であり、植物の分類群や器官に固有の形態を持つ。また、植物が枯死した後にも、土壌中などに長く保存されることから、過去の植生の復元に利用されている。未固結の土壌に比べて、トゥファでは堆積下方への混濁が起こりにくいばかりでなく、年や季節単位の時系列変化を読み解けるメリットが見込まれる。徳之島の小原海岸付近の小河川底(Site1)に発達したトゥファは、30cm程の厚さで堆積しており、泥を比較的多く含んでいる。また、年縞構造と安定酸素同位体カーブの認定により、約1cm/年の成長速度を持つと推定されている。当地のトゥファから、堆積方向に垂直な柱状サンプルを切り出し、さらに厚さ2.5cmごとの12の切片を作成した。各切片の空隙率には差異があり、乾燥重量は10gから20g程度である。まず、トゥファの切片を電気炉で加熱し、基質の炭酸カルシウムを生石灰(酸化カルシウム)とした。次に希塩酸で溶解した残渣から、プラントオパール以外を多く含む大径成分を篩分法により除去し、熱塩酸による脱鉄、沈降法による微粒成分除去、メタタングステン酸ナトリウム重液中での比重分離を行い、プラントオパールを抽出した。プレパラートへの封入、及び検鏡の結果、各試料中に数・種類ともに豊富なプラントオパールが含まれていた。トゥファの堆積環境周囲の自然植生を考慮すると、ハチジョウススキ(Miscanthus属)やリュウキュウマツ(Pinus属)に由来すると思われるプラントオパールが多く含まれていたほか、ヤシ科(Arecaceae)のような暖地に特有の植物のプラントオパールも僅かに含まれていた。過去30年程度をカバーする12切片中のプラントオパールの種組成変化は、周辺地表の掘削や整地による土壌粒子や植物遺骸の供給バランス変化や、地表流の流路変化を反映したものと思われる。小原海岸のトゥファの堆積環境には、人為的に開拓された畑地からも、地表流によって泥粒子が運搬されている可能性があり、サトウキビ(Saccharum officinarum)やバナナ(Musa × paradisiaca)などの栽培植物のプラントオパールも含まれている可能性がある。

  • 村田 彬, 狩野 彰宏, 加藤 大和
    セッションID: T6-O-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    近年,日本国内の石筍を題材に陸域古気候に関する研究が盛んに行われている。酸素同位体比,流体包有物,炭酸凝集同位体の研究結果は完新世中期に温暖な時期があり,日本列島では最終氷期からの気温上昇幅が8〜9℃程度であることが示されてきた(e.g, Kato et al., 2021)。三重県霧穴からも過去8.4万年間の記録が示され,酸素同位体比が海水の値を反映して,温度変化による数千年周期の変動パターンが示された(Mori et al., 2018)。また,霧穴付近で採集された雨水の酸素同位体比は降水量と有意な相関を示さず,降水量との相関は無いと指摘された(Kano et al., 2023)。海岸線から20 kmほどの霧穴では,水蒸気ソースはほぼ常に大平洋からの気団であり,降水の酸素同位体比は降水量や降水季節性の影響も受けにくい。すなわち,南部中国の石筍で示された量的効果の解釈は霧穴の石筍には適用できない。その代わりに,海水酸素同位体比が安定していた完新世では,霧穴での石筍酸素同位体比は温度記録として解釈できる。 この研究では,霧穴から採集された長さ35㎝の石筍(KA-01)を対象とした。この石筍の約20点の層準からU-Th年代が得られており,これが過去1万4千年に成長したことがわかっている。0.2㎜インターバルでKA-01の成長中心から削ったサブサンプルの酸素同位体比のトレンドから,成長期間は3つに区分できる。1つ目の14.0–10.3 kaでは、ヤンガードリアスに相当する寒冷化と,それに続く急激な温暖化が記録された。2つ目の10.3–6.8 kaには温暖な時期が続いたと考えられる。酸素同位体比からこの時期の平均気温は今より約2℃高かったと見積もられる。3つ目の6.8-1.2 kaの時期は気温が緩やかに低下する。一方,降水量は,炭素同位体比,Mg/Ca比,石筍の成長速度から定性的に見積もられる。降水量が大きいと滴下水が石筍に到達するまでに起こりうるCO2脱ガスと方解石沈澱が進まず,炭素同位体比は低い値に,Mg/Ca比は高い値に保持される。また,滴下水の供給量が多いと成長速度は大きくなる。この解釈は,炭素同位体比がMg/Ca比や成長速度と逆相関することからも支持される。降水量が最も多かったのは2つ目の時期(6.8-1.2 ka)であり,寒冷化が開始する6.8 kyr移行は降水量は除去に減少したと考えられる。すなわち,温暖な時期には霧穴での降水量が増加することが示された。温暖になると太平洋からの水蒸気蒸発量が増加し,より多くの水蒸気が霧穴にもたらされたのであろう。 文献:Kano et al., 2023, Island Arc, 32, E12491; Kato et al., 2021, Quat. Sci. Rev., 253, 106746; Mori et al., 2018, Quat. Sci. Rev., 192, 47-58.

  • 【ハイライト講演】
    奥村 知世, 公文 富士夫
    セッションID: T6-O-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    刺胞動物門花虫綱八放サンゴ亜綱サンゴ科に属する宝石サンゴは、地中海周辺、ハワイやミッドウェー周辺とともに、台湾から日本周辺の海域が世界の三大産地とされている。日本では、黒潮流域の水深70~400 mで生息することが知られており、アカサンゴ(Corallium japonicum),モモイロサンゴ(Pleurocorallium elatius),シロサンゴ(P. konojoi)の3種が、明治初期より漁獲されている。時には、金よりも高値で取引されることもあり、乱獲や密漁の対象となるため、近年、国際的にも資源の枯渇が懸念される状況にある。宝石サンゴの研究は、地中海沖のベニサンゴ(Corallium rubrum)で先進的に進められてきたものの、近年、日本近海の種でもさまざまな側面での精力的な研究が進められつつある。本発表では、日本周辺の宝石サンゴに関する最新動向をダイジェストで紹介するとともに、我々が取り組んできた地球科学的側面での研究(Okumura et al., 2021)を紹介する。 宝石サンゴは、樹状の骨格表面に分布するポリプが生きた状態で漁獲されるものと、死後、骨格だけになった化石状態で漁獲されるものに大別され、流通している。日本近海では、漁業黎明期から化石状態のものが多く漁獲されていたとの記録もあり、“化石資源”としての側面のあるユニークな漁獲物である。我々は、宝石サンゴの資源量把握の第一歩として、日本有数の宝石サンゴの漁場である高知県足摺岬沖に焦点をあて、50を越える化石状態の試料に対して放射性炭素年代測定を行った。その結果、最も古い年代はcal BC 5,617-5488であった。また、紀元前から1950年までの幅広い生息時代が得られ、試料全体の85%は、漁業が本格的に開始されたとされる1871年より前に死滅したものであることが明らかとなった。この結果は、少なくとも、この漁場では、多くの化石骨格は、自然死や捕食、環境悪化などの自然の要因で死滅することで形成したものであり、伝統的な底引き漁による破壊で死滅したものではないと示唆された。また、今回の結果は、大陸棚地形上に位置するこの漁場では、最終氷期を経て現在のような海洋環境が整った後、少なくとも約7500年もの間、宝石サンゴが継続して生息をし、化石資源を蓄積してきたことが示された。今後、分布密度や寿命といった宝石サンゴの生理生態学的な情報を収集できれば、資源の蓄積プロセスや化石を含めた総資源量を推定することが可能になる。化石資源的な側面を持つ宝石サンゴの持続的利用を考える上では、地球科学的・堆積学的視点が重要な役割を果たすといえる。Okumura et al. (2021) Radiocarbon, 63(1), 195-212.

  • 福地 亮介, 沢田 健, 小安 浩理, 石丸 聡
    セッションID: T6-O-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    [はじめに] 周氷河斜面とは寒冷環境に特異的な周氷河作用である凍結融解作用によって形成された滑らかな緩斜面である。斜面下の堆積物は周氷河性斜面堆積物と呼ばれ、一般的に角礫を主体とするが、淘汰が悪く、層構造に不明な点が多い(小泉, 1992)。一方、堆積物中にはシルト主体の層も存在しており、近年斜面災害との関連性が指摘されている(石丸, 2017)。北海道には最終氷期に形成されたと考えられる‘化石’周氷河斜面が広く分布していて、その斜面に数mから数10m規模の厚さの堆積物が埋積していることがわかっている(小野・平川, 1975; 小安ほか, 2022)。本講演では、日勝峠周辺の花崗閃緑岩地域で掘削されたボーリングコアについてバイオマーカー分析を行い、予察的ではあるが、周氷河性斜面堆積物における有機物組成の特徴について論じる。 [試料と方法] 本研究では北海道立総合研究機構によって、北海道日勝峠で掘削された高品質ボーリングコアNS-BR-01、03を用いた。コア掘削地点の基盤岩は花崗閃緑岩である。本コアでは層相の区分や礫形状、配列が記載されている(小安ほか, 2022)。淘汰の悪い礫まじりのシルト~砂層の上位にTa-dテフラ(9ka)、黒土が載ることから、この堆積物は最終氷期の周氷河環境において形成され、9ka以降に安定期に入ったと考えられる(小野・平川, 1975)。NS-BR-01コアは層厚6mであり、下位から礫まじりのシルト~砂層、Ta-dテフラ層、黒土層、砂層で構成される。NS-BR-03コアは層厚5mであり、基盤岩上の堆積物は、下位から礫まじりのシルト~砂層、Ta-dテフラ層、黒土層で構成され、深度2.5mで風化基盤岩に達する。分析試料は礫が少ないシルト~細粒砂層から厚さ3~4cmで採取し、特にNS-BR-03コアについてはTa-dテフラ層直下の砂質シルト層と風化基盤岩直上のシルト質砂層を採取した。採取した試料は凍結乾燥後に細かく砕いて粉末にし、粉末試料10gから抽出した溶媒をカラムで分け、それぞれの画分ごとにGC-MSを用いてバイオマーカー分析を行った。 [結果と考察]堆積物試料からは長鎖n-アルカンが検出された。長鎖n-アルカンは主に植物の葉のワックス成分に由来し、堆積物中に広く存在する。風化基盤岩直上のシルト質砂層を除いて、総n-アルカン濃度は0.1~0.4μg/gであった。基盤岩直上の砂層からはn-アルカンは検出されず、他の層準で卓越した脂肪酸やアルカノールもほとんど検出されなかった。おそらく基盤岩が破砕して形成された層であり、有機物がほとんど含まれていなかったのだと考えられる。n-アルカンにおいて、木本植物は炭素数27(C27)とC29アルカンを、草本植物はC31以上の奇数炭素数のn-アルカンをより多く合成する傾向があるため、その平均炭素数(鎖長)を示した指標(ACL)が森林的か草原的かといった古植生復元のために使われる。NS-BR-01コアにおいてACLは下位ではより草原的な値を示し、上位で森林的な値を示した。また、堆積物試料からは被子植物由来のトリテルペノイドが検出されており、おそらく針葉樹というよりも被子植物の草本が卓越していたのだと考えられる。周氷河性斜面堆積物においても周辺地域の古植生の変化が記録されており、今後より詳細な分析を行うことで温暖期、寒冷期の周期性が見られる可能性がある。 [文献] 石丸(2017) 防災科学技術研究所研究資料, 411, 17-24. 小野・平川(1975) 地理学評論, 48, 1-26. 小泉(1992) 地理学評論 Ser. A, 65, 132-142. 小安ほか(2022) 地質学会第129年学術大会要旨

  • Adam Ismail, Amajida Roslim, Ken Sawada
    セッションID: T6-O-12
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    The late Miocene Miri and middle Miocene Belait Formations of North Borneo exposed in Brunei Darussalam, are characterised as muddy offshore and sandy tidal-shoreface shallow marine environments, respectively, deposited by progradational deltaic sedimentary systems that developed due to rapid uplifting of the Borneo hinterland. Within the tidal-shoreface environment, tides were found to enhance organic matter (OM) deposition and preservation in sandstones, contrary to the belief that only mudstones can preserve OM (Mayer, 1994). Hence, we analysed terrigenous biomarkers in shoreface to offshore facies to reconstruct how tidal processes can affect OM deposition in sandstones. A total of 29 mudstone samples were collected from both formations, while an additional 16 samples were collected from tide-dominant shoreface sandstones. Biomarkers were analysed using GC/MS. Based on TOC% and terrigenous biomarkers such as leaf wax n-alkanes and perylene as well as redox indicators such as pristane/phytane ratios, decreasing seaward trends in terrigenous OM are seen and is concordant with general trends. However, gymnosperm-derived diterpenoids increased in the late Miocene, suggesting an increase of conifers in the Bornean hinterland possibly linked to increasing altitudes. The increase of angiosperm-derived cadalene in the late Miocene sediments also suggests the radiance of certain angiosperms. Sandstones created by tides exhibit either OM-rich cross bedding or wavy bedding of mud and sand alternations. The OM-rich sands have lower aquatic plant contents but slightly higher carbon preference index (CPI), which are indicators of maturity and source organisms, while wavy bedded sands have slightly higher marine OM contents. The presence of terrigenous OM preserved in tidal-sandstones provides evidence that sandstones can become important global carbon sinks.[References]Mayer, L.M. 1994. Relationships between mineral surfaces and organic carbon concentrations in soils and sediments: Chemical Geology, v. 114, p. 347–363

  • 朝日 啓泰, 沢田 健
    セッションID: T6-O-13
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【導入】 タービダイトの化学データを単層単位で得て、その堆積過程や堆積後の初期続成作用を評価する”化学堆積学シーケンス”を用いた研究が近年になって行われている。Furota et al. (2014)では、石狩堆積盆に堆積した有機物農集砂岩を下部砂岩から上部の半遠洋性泥岩にかけての有機地球化学データプロファイルを作成し、海洋底まで陸源有機物を運搬する洪水流特有の堆積プロセスを検討した。これまでは単一、あるいは一地域のタービダイトの堆積プロセスを検討することに用いられてきた化学堆積学シーケンスだが、複数地域のタービダイトシーケンスに適用することで堆積盆毎の堆積プロセスの比較検討も可能になると考える。 中新世から鮮新世にかけて発達した北海道中央南部から南部の石狩堆積盆と日高堆積盆では、タービダイト中に有機物の葉理が良く発達することが報告されており、陸源有機物の活発な運搬システムが駆動したと考えられている。本研究では日高堆積盆の有機物葉理の発達するタービダイトシーケンスの有機地球化学データプロファイルを作成し、1)粒度組成やTOCと比較による日高堆積盆の有機物堆積プロセスの検討 2)石狩堆積盆との化学堆積学シーケンスの比較から堆積盆毎の有機物堆積プロセスの相違の検討 を行った。 【試料と手法】 日高堆積盆の中期中新世の堆積層が露出するむかわ町ホロカンベ沢では下位からアベツ層(粗粒砂泥互層)、二風谷層(細粒砂泥互層)が露出する。これらの堆積層の堆積年代は放散虫や珪藻によってアベツ層は15.3-12.5Maと推定されている(新澤他 2009)。本研究では有機物葉理が良く発達するアベツ層のタービダイトシーケンス2試料の分析を行った。化学分析はタービダイトシーケンスを堆積構造から複数のユニットに分割し、それぞれのユニットでのTOCとバイオマーカー組成分析を行った。粒度分析はタービダイトシーケンスの薄片を作成し、偏光顕微鏡下で測定を行った。またアベツ層と同時異層の石狩堆積盆の川端層のタービダイト試料の結果を日高堆積盆との堆積プロセスの比較に用いた。【結果と考察】 分析したアベツ層のタービダイトは細粒から極細粒砂で構成される砂岩部とシルト質の泥岩部で構成され、砂岩部と泥岩部の境界では急激に粒度が変化する。また有機物葉理はタービダイト砂岩部の上部に集中する。TOC分析の結果、タービダイトシーケンスのうち、有機物葉理部では1.37-3.4%の値を持ち、有機物葉理の存在を反映している。一方、下部砂岩部および上部泥岩部ではそれぞれ0.2-0.26%、0.44-0.69%であり、有機物がシーケンス内のあるユニットに濃集することが示唆される。 タービダイト中のバイオマーカー組成の変化を検討するため、本研究では有機物の陸起源/海起源比指標であるプリスタン/フィタン比(Pr/Ph)とC27/C29ステラン比を用いた。アベツ層タービダイトではPr/Ph、C27/C29ステラン比ともに砂岩部では低い海起源/陸起源比を示し、上部泥岩部では海起源有機物の寄与率が上昇する傾向が見られた。また各指標の値は有機物葉理ユニットと他の砂岩部の間で違いは見られず、TOCの傾向よりもむしろ粒度分析の結果と調和的であった。これは混濁流内では有機物組成は一定であり、流下時に有機物組成が変化しなかったことが推察される。  アベツ層と同時異層の川端層層では層厚に関わらず砂岩部の下部で海起源有機物の寄与が高く、有機物葉理部では陸起源有機物が卓越する傾向が見られ、アベツ層タービダイトの結果とは対照的な傾向を示す。川端層では砂岩部にマッドクラストを多く含むことから、混濁流が海底の表層堆積物を削剥したことが示唆され、砂岩下部に再堆積することで海起源有機物の寄与率が増加したと解釈した。またC27/C29ステラン比の比較では、川端層では有機物葉理部では値が0と陸源有機物が卓越する一方、アベツ層では0.27-0.30と海起源有機物の寄与がある程度存在し、両堆積盆での陸源有機物輸送能力の違いを示す可能性がある。  石狩堆積盆と日高堆積盆でのタービダイト中の有機物組成の違いから、石狩堆積盆では混濁流が海底を削剥、再堆積した一方、日高堆積盆では海底を削剥しない混濁流が多く流下したことが推察される。また石狩堆積盆と日高堆積盆では、Kawakami et al. (2013)の砕屑物組成が異なることが指摘されており、有機物の輸送能力の違いは当時の後背地環境を反映している可能性が示唆される。【引用文献】Furota et al., 2014. Res. Org. Geochem. 30, 9–21. Kawakami 2013. InTech. pp. 131–152. 新澤他 2009. 大阪微化石研究会誌特別号(14).117-141.

  • 林 和生, 池田 雅志, 沢田 健, 林 圭一, 髙嶋 礼詩, 西 弘嗣, 黒田 潤一郎, 太田 映
    セッションID: T6-O-14
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】白亜紀/古第三紀境界(K/Pg境界)期は生物の大量絶滅がおきたことが広く知られている。これらはデカントラップや隕石衝突による気候変化や物理的な環境破壊によってもたらされており、とくに隕石衝突によるイリジウム(Ir)濃集層やさまざまな指標によってK/Pg境界は特徴づけられる。日本におけるK/Pg境界は北海道白糠丘陵の茂川流布にて報告されているが(Saito et al., 1986)、近年同地域においてK/Pg境界を挟んだ断層のない連続層序が新たに発見された。本研究ではこの連続層序から得られた堆積岩に含まれるバイオマーカーを分析し、当時の古環境復元を試みた。【試料・分析手法】北海道浦幌町川流布川の根室層群において2015~2016年、2021年に採集した白亜紀末-古第三系の泥岩試料を用いた。分析手法としては、粉末化した試料を有機溶媒で抽出し、シリカゲルにより分画し、それらをGC-MSで測定した。また本試料はn-アルカンの含有量が多く脂肪族画分の微量成分を同定しやすくするために尿素アダクト法を用いることにより直鎖化合物を除去した。 【結果・考察】酸化還元指標のプリスタン/フィタン比(Pr/Ph)は2.1~3.7であり酸化的環境を示した。一方、還元的環境で生成する炭素数35ホパンがすべての試料から検出された。プリスタンは陸上植物の寄与の指標とも考えられており[2]、堆積場は還元的環境だったと推測される。針葉樹植生指標であるHPP”は中程度から比較的高い値(0.50~0.91)を示し、裸子・被子植物由来テルペノイドを用いた指標(ar-AGI)から復元した被子/裸子植生比は境界期前後で減少する傾向を示した。またHPP”は2度の増加スパイク, ar-AGIは白亜紀層準内で3度の増加スパイクが見られ、これらの急激な増加を示す層準からは木材腐朽菌由来と考えられるペリレンも多量に検出されたため、陸域からの陸源物質の顕著な流入が起きたイベントが2度起きた可能性がある。また渦鞭毛藻由来の三芳香環ステロイドや珪藻由来のHBIアルカンも検出され、それらの変動は逆トレンドをとり、沿岸・浅海域の海洋表層において群集生態系・海洋基礎生産種の変化が起きたと推察した。【参考文献】 Saito et al., (1986) Nature 323, 253-255. Rontani et al., (2010) Geocheim. Cosmochim. Acta, 74, 252-263.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    矢野 滉紀, 中村 英人, 湯川 弘一, 安藤 卓人
    セッションID: T6-O-15
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    福井県勝山市の北谷恐竜化石発掘現場には下部白亜系陸成層の手取層群北谷層が分布し、長年の大規模な発掘調査によって恐竜化石を含む多様な陸上動植物化石が発見・報告されてきた。発掘現場の露頭は蛇行河川流域で形成された堆積岩から成り(Suzuki et al., 2015)、前期白亜紀の河川周辺における陸域古環境を記録している。バイオマーカー等の堆積岩中の有機物組成を詳細に検討し、豊富な化石記録と対比を行うことで河川周辺の堆積環境や生物相を復元できる可能性がある。本研究では、北谷恐竜化石発掘現場の堆積岩や植物化石を対象にロックエバル分析やバイオマーカー分析等の有機地球化学分析を実施し、堆積物中に供給された有機物の性質および起源生物の寄与を復元することで堆積環境の推定を行った。 ロックエバル分析の結果、堆積岩のケロジェンタイプはType ⅢからType Ⅳに相当し、植物などの陸源有機物が堆積物中有機物の中で優占的であることが示唆された。また、Tmax値やバイオマーカーを用いた熱熟成度指標を総合すると、ビトリナイト反射率で約1%前後に相当する熟成度を示し、鈴木ら(1994)で報告されたビトリナイト反射率の実測値とおおよそ一致した結果が得られた。しかしながら、北谷恐竜化石発掘現場の露頭の範囲は直方で数十mに限られているにもかかわらず、Tmaxやメチルフェナントレン熟成度指標(MPI-1, MPR)の値は試料間で大きく異なっていた。北谷層は河川成の地層であることを考慮すると、これらの値のばらつきは上下層準間での熱熟成の程度ではなく、堆積場によって供給された有機物の性質や組成の違いを反映している可能性がある。 バイオマーカー分析ではn-アルカンや植物起源の脂肪族・芳香族テルペノイド、真核生物由来のステラン、バクテリア由来のホパン、光合成色素に由来するプリスタンやフィタン、嫌気的環境を好むメタン酸化細菌由来のクロセタンといった起源生物の推定が可能な成分に加えて、2~7環の多環芳香族炭化水素(PAH)等が検出された。コロネン等の燃焼生成物の寄与は層準間で多様性が見られ、菌類起源とされているペリレンは翼竜の足跡が見られる層準や氾濫原埋積層などで顕著に高い濃度で検出された。Fukuititan nipponensisが発見された層準では還元的堆積環境で保存されるC35ホパンやシアノバクテリアに由来する2-メチルホパンが検出されており、クロセタンの寄与が他の層準と比較しても高いことなどから、当時の河川域の中でも特異的に還元的または嫌気的な堆積環境で形成されたと考えられる。これらの分析結果は異なる堆積環境の間での起源的な有機物の性質の多様性が、熱熟成が進んだ手取層群の地層中においても保存されていることを示す。[参考文献] Suzuki et al. (2015) Memoir of the Fukui Prefectural Dinosaur Museum, 14, 1–9鈴木ら(1994) 地質学雑誌, 100(4), 302-311

  • 星 恒太郎, 福村 朱美, 沢田 健
    セッションID: T6-O-16
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    [はじめに]中期中新世の約15Ma以降に生物源シリカの堆積場が大西洋から太平洋に移ったと考えられていて、シリカスイッチもしくはオパールシフトと呼ばれる(Cortese et al., 2004)。太平洋における新第三紀以降の海洋基礎生産の変動の解明は長時間スケールの炭素循環などを議論する上で重要である。本研究で対象とするアラスカ湾は北部北太平洋高緯度地域に位置しており、外洋域は高栄養塩低生産(HNLC)海域として知られているが、沿岸域は春季から夏季にかけて珪藻を主体とする藻類ブルームが発生する海域であることが報告されている(Addison et al., 2012)。珪藻は藻類の中でも特に鉄分やシリカをはじめとする栄養塩の要求量が多く、これらの供給源としての陸源物質の供給が議論されている(e.g., Hopwood et al., 2015)。本研究ではアラスカ湾の堆積物のバイオマーカー分析を行い、後期中新世以降における海洋基礎生産と陸源物質供給の年代変動の復元と、それらの関係性について検討する。[試料と分析方法] 試料は、2013年の国際深海掘削計画(IODP) Exp. 341航海でアラスカ湾外洋部U1417サイト(56° 57.5’N, 147°6.5’W)から採取された深海掘削堆積物コアを用いた。堆積物コアは中新世から完新世までの年代であり、5つの岩相層序ユニットに区分され、Unit 1とUnit 5は各々さらに2つ、10の(サブ)ユニットに細分される。Unit 1は珪藻軟泥を含む泥層、Unit 5は生物源シリカ軟泥のユニットを挟む。また、前期更新世のUnit 3では氷河性の、中新世~鮮新世に堆積したUnit 5には非氷河性のダイアミクトが見られる暗灰色から緑灰色の泥から構成される。凍結乾燥処理した堆積物試料を有機溶媒で抽出した後に、シリカゲルカラムによって無極性〜極性成分に分画した。すべての極性画分をGC-MSおよびGC-FIDを用いてバイオマーカー分析を行った。 [結果と考察]U1417コアにおいてハプト藻起源の長鎖アルケノン、珪藻・真正眼点藻などに由来する長鎖アルキルジオール、珪藻起源の炭素数25(C25)高分枝鎖イソプレノイド(HBI)アルカン、渦鞭毛藻起源のDinosterolなど様々なステロイドが検出された。これら藻類バイオマーカーの濃度およびMass accumulation rate (MAR)から過去1000万年間の藻類ごとの海洋表層における基礎生産変動を復元した。一方で、U1417コアから植物由来テルペノイドや木材腐朽菌由来と考えられるペリレン、陸上植物由来ステロールなども検出され、陸源物質が有意に供給されていることを確認した。藻類および陸源バイオマーカーの濃度変動を比較・検討したところ、それらの変動はよく同調することがわかった。これは、陸源物質の供給と湾内における生産に関連性があり、陸源物質の供給が潜在的に生物生産を制御しているということを示唆すると考えられる。 引用文献 Addison et al. (2012) Paleoceanography, 27, PA1206. Cortese et al. (2004) Earth and Planetary Science Letters, 224, 509-527. Hopwood et al. (2015) Biogeochemistry, 124, 1-11

  • 安藤 卓人, 松岡 數充
    セッションID: T6-O-17
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    堆積性有機物の大部分を占めるのは,有機溶媒と酸・塩基に不溶なケロジェンである。ケロジェンは,アモルファス有機物(amorphous organic matter: AOM),植物片などのパリノデブリ,花粉などのパリノモルフによって構成されている。パリノファシス分析では,蛍光特性からAOMをクチクラなどの破片からなるFA (fluorescent amorphous),水生生物由来のWFA (weakly fluorescent amorphous),陸上植物由来もしくは熱熟成をうけたNFA (non-fluorescent amorphous) に区分してきた [1]。パリノモルフについては,形態から分類が可能なものの,分類群が異なるのに非常に似通った形態をもつ場合が多く,なおかつ分類不明なアクリタークも多く存在する。近年,ATR-FTIRを用いた個別パリノモルフの高分子分析による化学分類研究が発展している。例えば,花粉 [2] や渦鞭毛藻シスト [3] の高分子構造の赤外スペクトルを用いた主成分分析やクラスター解析によってグループ分けする試みがなされている。本研究では,ケロジェン試料を用いて同定不可能な粒子も含めた個別のケロジェン粒子に関して顕微ATR-FTIRで分析した結果と堆積学的研究への応用への可能性を検討した。まずは,河川(斐伊川水系)懸濁粒子中のAOMの構造の違いに着目した。その結果,色や形態的特徴から,静穏な川で特徴的な黄緑色から黄色の植物プランクトン由来の細胞片を含むWFAに似た特徴をもつOrange AOM,急峻な川で観察できる茶褐色の陸上植物片を含むNFAに似た特徴をもつBrown AOM,市街地を流れる川に多い全体的に黒色化したBlack AOMに区分できた。これらをそれぞれ単離してATR-FTIR分析をした結果,リグニンなどの陸上植物由来の有機物が特徴的に持つ芳香環を示すPhenolic OHがBrown AOMでOrange AOMより多く,メイラード反応を受けて生成するようなフラン環に由来するC-O-CのピークがBlack AOMでは多かった。以上のような特徴を利用して,アモルファス有機物の高分子組成から堆積環境や輸送課程を推測できる可能性がある。また,検討例がすでにあるパリノモルフについても分析を行なった。現生種水生パリノモルフは大きくセルロース質とキチン質に二分できることがわかった。保存性が低い渦鞭毛藻 Alexandriumなどが形成する単純な楕円形~球形のシストは,主にセルロースからなる分枝多糖で構成されており,セルラーゼによって容易に分解されていると推測できる。一方で,堆積岩中でも残りやすいSpiniferitesなどの独立栄養性渦鞭毛藻が形成するシストの細胞壁は,セルロースに類似した糖鎖にアルキル鎖がネットワーク状に繋がることで保存性を高めていることが推測できた。従属栄養性渦鞭毛シストや繊毛虫のロリカ/シスト,有殻アメーバの殻,有孔虫ライニングなどはキチン質であり,主に糖鎖とペプチド鎖から構成される糖タンパク質で構成されていた。パリノデブリも含めたこれらの成分の分解の程度は,もともとの生体高分子の構造だけでなく堆積過程と密接に関連している可能性があるため,今後はそれぞれの生体高分子における続成過程の影響を詳細に議論していく必要がある。[引用文献][1] Sawada et al. (2012): Kerogen morphology and geochemistry at the Permian–Triassic transition in the Meishan section, South China: Implication for paleoenvironmental variation. Journal of Asian Earth Sciences, 54, 78-90.[2] Kenđel and Zimmermann (2020): Chemical analysis of pollen by FT-Raman and FTIR spectroscopies. Frontiers in plant science, 11, 352.[3] Meyvisch et al. (2022): Attenuated Total Reflection (ATR) Micro-Fourier Transform Infrared (Micro-FT-IR) Spectroscopy to Enhance Repeatability and Reproducibility of Spectra Derived from Single Specimen Organic-Walled Dinoflagellate Cysts. Applied Spectroscopy, 76(2), 235-254.

  • 松井 良一
    セッションID: T6-O-18
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    石英質砂岩における主要かつ普遍的な埋没続成作用として、石英セメンテーションが挙げられる。炭化水素資源の探鉱開発における岩石性状評価対象としての関心からもそのメカニズムについては近年理解が大きく進み、岩石組織や埋没・被熱履歴との関係をモデル化することによる続成数値シミュレーションが実用的な性状予測ツールとして探鉱開発に利用されるようになっている(例えばAjdukiewicz and Lander, 2010; Taylor et al., 2015)。同時にその有効な利用に際しては、モデルパラメータ最適化のため、鉱物組成や岩石組織などのペトログラフィーに関する情報を地質試料から効率的・定量的に抽出することが重要となっている。  弊社においても、砂岩貯留岩を対象とした続成数値モデルの開発と並行し、岩石組織解析の一つのツールとしてコア試料の薄片試料を用いた元素・鉱物マッピングとその画像解析に関する開発・運用を進め、砂岩・火山岩などの社内プロジェクトへの利活用を行っている。とりわけ石英質砂岩を対象とするペトログラフィー評価においては、砕屑性石英粒子表面に付加成長した石英オーバーグロースの識別とその定量性が重要な評価項目となる。ホストとなる石英粒子と連続した光学方位を持つオーバーグロースは、光学顕微鏡下での識別は困難であり、有効な指標としてカソードルミネッセンス(CL)が用いられる。明暗様々な輝度を呈する砕屑性石英に比べて、オーバーグロースは概して単調かつ低輝度であることで、粒子と石英セメントの輪郭がトレース可能となる。しかしながら両者の輝度分布には一定の重複があるため、閾値による単純な二値化は困難であり、多大な時間を費やし画像解釈を行うか、もしくはCL画像自体は定性的・視覚的な利用にとどまることが多い。 本講演では砂岩薄片の画像解析、特に石英CL画像解析の効率化を目的とし、機械学習(セマンティックセグメンテーション)技術の適用を試みた事例について報告する。これは、社内既存プロジェクトの資試料から得た砂岩CL像(1000×1000 ピクセル相当、約700画像)について、石英領域のみを抽出したCL像とそれに対応するラベル付け(粒子-オーバーグロース区分および粒子―粒子接点分離)解釈画像の組み合わせを教師画像とするもので、U-netによるモデル構築を行ったものである。同モデルを用いた砂岩薄片の評価フローはおよそ以下の通りである。 (1) 岩石薄片の一定領域について、電子プローブ(EPMA)を用いた元素マッピング(SEM-BSE像、CL像を同時取得)を行い、相解析により鉱物マップを作成する。 (2) 鉱物マップ中の石英領域について、CL像に機械学習モデルを適用することで、砕屑性粒子―オーバーグロース区分と粒子―粒子接点の分離の自動解釈を行う。 (3) 石英粒子・オーバーグロース区別を反映した鉱物マップにおいて、鉱物種毎の画素数をカウントし、孔隙率を含めた鉱物含有量を面積比として算出する。 (4) 接点が分離された石英粒子画像について、粒子解析(粒子同定と各粒子の面積算出)を行い、三次元―二次元断面間の補正(stereological correction)を考慮し、石英粒子の粒径分布を求める。 構築したモデルは石英CL像における粒子―オーバーグロース識別能力をIoU(ジャッカード係数)を評価指標とする訓練を施したもので、教師画像に用いた試料とは時代・堆積環境の異なる砂岩層も含めた検証作業においても、高い予測性能を示した。また粒子接点分離は複数のモデルを組み合わせる(voting/アンサンブル学習)ことで分離性能の向上を図った。結果、石英セメント量・粒径分布(平均粒径・淘汰度)の推測値は続成数値モデルへの利用に充分耐えうる定量性を示した。従来こうした顕微鏡画像の評価には、手法の習熟と解釈作業のために多大な労力を必要としていたものであるが、当機械学習モデルを利用することで、常に同一基準での解釈作業とその大幅な時間短縮が可能となり、作業効率化への高い有効性を持つことが示された。(文献) Ajdukiewicz and Lander (2010) AAPG Bulletin, v. 94, no. 8, p. 1083–1091. Taylor, Kittridge, Winefield, Bryndzia and Bonnell (2015) Marine and Petroleum Geology, v.65, p. 1-21.

  • 一井 直宏, 芦 寿一郎, 池原 研, 大上 隆史, 阿部 信太郎, 多良 賢二
    セッションID: T6-O-19
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    地質構造の推定にあたっては,一般に,音波探査や地震探査と呼ばれる反射法地震探査によって構造を把握し,掘削・検層・コアリングなどで地層の推定・把握を行うといった調査が行われる.その際,反射記録の反射波と坑井の地層とを対応させることが重要となるが,反射記録と坑井の対比には,坑井の物理検層データを用いて,坑井位置での合成地震波形を作成し,反射記録との対比が行われることが多い.しかし,ピストンコアなどの採泥調査では物理検層を行うことが難しいため,反射記録とコア試料を結びつける物理データがない場合がほとんどである.そのため,反射記録とコア試料の対比では,海水中の音波速度等を用いて往復走時と深度とを換算せざるを得ない場合が多く,正確な対比には課題がある.近年,コア試料の分析としてX線CTスキャナーを用いることが多くなってきており,詳細な堆積構造の把握などに利用されている.CTスキャンで得られるCT値には,堆積物の密度が大きく寄与するため,CT値を仮想の密度検層データとして扱える可能性がある.そのため,CTスキャンのデータを用いて合成地震波形の作成を試み,反射記録との客観的な対比の可能性を検討した. 検討には2つのデータセットを用いた.1つは,海底面下200 m程度までの地質構造を対象としたBoomer記録と海上ボーリングで得られた約25 mのコア試料のデータセットである(大上ほか, 2019, JpGU2019).これは,一般的な合成地震波形との対比に用いられるプラスマイナスの両波形からなる反射記録とCTスキャンデータの組合せである.2つめは,主に表層の地質構造を対象としたSBP(Sub-bottom profiler)記録とピストンコアのデータセットである.SBP記録は発振波形と受振波形の自己相関をエンベロープで表示したプラス値の片側波形となっており,一般的に用いられる両波形の反射記録である1つめのデータセットとは異なる.これら2つのデータセットについて,CTスキャンで得られたCT値を仮想の密度として合成地震波形を作成し,それぞれの反射記録と比較した.その結果,Boomer記録のデータセットでは,反射記録で認められる特徴が合成地震波形でも認められたため,CTスキャンのデータが客観的な対比に活用できる可能性が示唆される.一方,SBP記録のデータセットでは,Boomer記録のデータセットほどの相関はないものの,いくつかの反射面は再現されているような結果となった.Boomer記録よりSBP記録の相関が低かった要因としては,主に両波形と片波形で波形としての情報がSBP記録はプラス側だけのため半分になっていることが考えられる.また,反射記録の分解能とCT値の分解能が大きく異なることも要因のひとつと考えられる.CTスキャンデータは,反射記録よりも非常に高分解能であり,そのままの分解能で扱うと反射記録に対して細かすぎる反射波が合成されることになるため,対比する反射面に合わせた分解能でデータを扱うことが重要と考えられる. 物理検層データがないコア試料とその採取地点の反射記録のデータセットは,探鉱掘削などのデータセットよりもはるかに多数存在している.しかし,物理検層データがない場合,深度変換の速度などを仮定せざるを得ないことがほとんどである.そのため,本検討で行った手法をはじめ,反射記録とコア試料の客観的な対比が高精度で行えるような手法を考案することで,対比の精度が向上するだけでなく,より細かい地質的な情報の抽出や議論を行うことができるようになる可能性がある.本発表では,CTスキャンのデータを用いた検討手法やその具体的な結果について報告し,より利便性のある手法など今後の検討について議論したい. なお,本研究で用いたSBP記録は令和4年度原子力施設等防災対策等委託費(海域の古地震履歴評価手法に関する検討)事業の受託研究の一部として実施されたものである.

  • 坂本 泉, 横山 由香, 中村 希, 柴尾 創士, 平 朝彦
    セッションID: T6-O-20
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    駿河湾奥の特徴  駿河湾は、日本列島を東西に二分するフォッサマグナの南端に位置し、中央には南北発達する駿河トラフ(湾口水深約2500m)が存在している。駿河トラフを境に、東側は伊豆地塊と西側は静岡地塊が接し、異なった地塊同士が衝突している。湾内には狩野川・富士川・安倍川・大井川の4つの一級河川が流入している。このうち安倍川(流路延長約51 km )は、静岡西岸を流れ、多くの堆積岩質砕屑物を運び、駿河トラフ西斜面に堆積物を供給している。それに対し、狩野川は多くの火山岩質砕屑物を運び、駿河トラフ伊豆側斜面に堆積物を供給している。富士川は南アルプスに端を発し、甲府の花こう岩地域を流れ、南部フォッサマグナ(第三系)の火山・堆積岩地域を流れ(流路延長約128 km)、駿河トラフに多量の堆積物を運んでいる。このように各河川はそれぞれの後背地の地質を反映する堆積物を運んでいる事が特徴である。富士川沖の特徴 富士川沖には、巨大な海底扇状地が発達している。富士川沖は、地形断面より水深900 m付近まで平均14.8 %の急斜面、その沖から水深1200m付近までは比較的緩やかな斜面(平均勾配10.0%)となる。その沖合、水深1200m以深ではさらに緩やかな斜面(2.3%)に変化する。また,後方散乱強度図からは、粗粒な堆積物(砂質・礫質堆積物)を示す強反射帯と、細粒な堆積物(泥質堆積物)を示す弱反射帯が南北方向を示す筋状に交互に分布している。この強反射帯は、沖に向かうに従い、弱反射帯に漸移(最終的には消滅)している。三保沖の特徴 三保沖の地形特徴として、東西および北西-南東方向に発達した谷が数本確認される。そのうち羽衣海底谷は、地形変換点から①水深100-400 m(平均勾配17.2 %)、②水深400-700 m(13.6 %)、③水深700-1000 m(17.2 %)、④水深1000-1300 m(21.3 %)、⑤水深1300 m以深(6.6 %)の5つに区分された。駿河トラフの西縁に位置する水深100-1300 m(①~④)は急崖の断層地形が発達し、その陸延長部は入山断層へと続いている。三保沖の後方散乱強度図では、東西方向に発達する強反射が確認され、水深1400 m付近で、富士川から発達する南北性の反射帯と合流する。異なる2種類の堆積過程 富士川沖の堆積物は、極表層(0-数mm)の泥質堆積物(沖に向かい細粒化)、その下位は水深帯毎の岩相変化が大きい粗粒な堆積物(砂~礫質堆積物)からなる。深度1200 m以深では、それまでと異なり、ラミナの発達する砂泥互層からなる堆積物が観察された。富士川沖では、深度約1400 m付近まで海底に約5cmの礫が散在する様子が見られるが、これらは堆積岩起源6割、火成岩起源を3割、その他1割となった。また。富士川沖では雲母片が観察され、この起源は、甲府周辺の花こう岩地域であると推定される。所々、植物片が表層および地層中に層状に観察されるが、特に表層の植物片量は季節変化が激しい。以上より、富士川沖では、富士川から多量の砕屑物と同時に植物片も運ばれ(季節毎に変化する)、表層は常に流動性に富んだ堆積を繰り返していると考えられる。 一方、三保の松原は富士川と同様に礫浜を構成するが、その多くは瀬戸川層群由来の黒色頁岩・砂岩・泥岩等堆積岩質礫岩である。採泥結果より、羽衣海底谷沿の水深1000 m付近までは、海底面(0 cm)から5-8 cm(特に0-2 cm)までは、無層理の泥質堆積物が発達するが、それより下位は礫や砂質堆積物が分布する。富士川沖と異なり、雲母類は全く確認されない。また、水深1200 mでは、極表層に泥質堆積物の薄層が分布するが、その下位は砂層と泥層の互層(層厚数cm)が繰り返し分布し、富士川起源の岩相と類似する。駒越海底谷の高分解能地層探査記録では、水深30 mと70 m付近に急斜面ながらも部分的平坦面があり、堆積物層が確認される。これらの堆積物は安倍川および久能山付近から供給された(北西方向に卓越した波および沿岸流により運搬)堆積物と推定される。したがって、三保沖水深1000 m付近までの岩相(厚い無層理泥層および下位の粗粒堆積物)は、海底重力流の特徴と類似し、100 m以浅の平坦面で一旦停滞した堆積物が、何かのトリガーにより海底重力流を引き起こしたと推定される。今後この平坦面に溜まった堆積物の写真・採取を試みる予定である。 このように、駿河湾奥では、1)季節変化の激しい堆積物および常に移動性に富んだ富士川沖の海底堆積環境と、2)安部川から供給された堆積物が三保沖の海底まで水平に移動し一旦とどまった後に沖に向かって一気に重力流により沖に向かい移動する異なった2種類の堆積様式があるのではないかと推定される。

  • 金﨑 勇斗, 清里 弘志, 正田 陽宏, 湯浅 紀之, 横川 美和
    セッションID: T6-O-21
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    水中土石流や混濁流などの水中重力流は,重要な土砂輸送現象であるとともに,海底インフラに重大な影響を及ぼす.また,地層の水中重力流の堆積物では水中土石流から混濁流へと変化する過程で堆積したと考えられるさまざまなパターンの堆積構造が報告されており,流れの挙動とそれがどのように地層へと反映されるのかについて,多くの議論がある.Yokokawa & Yuasa (2023)では,含泥率の高い材料にさらに礫を加えて水中に流し込み,流れの挙動を調べる実験を行った.その結果,礫を少量(5wt%)加えただけで,流れの性質が変化し,流れが途中で加速する現象が起こることがわかった.本研究では,流れの厚さなど流れの性質が礫の含有量によってどのように変化するかを観察し,堆積物の分布との比較を行った. 実験はIlstad et al. (2004)の実験条件の一つ,水35wt%,粘土32.5wt%,砂32.5%をレファレンスとした.長さ760cm, 幅30cm,高さ120cmの深型堆積用水路に水を張り,その中に長さ700cm, 幅8cm, 高さ50cmのアクリル製の水路を設置した.アクリル製水路の傾斜はIlstad et al.(2004)と同じ6°に設定した.実験に使用した材料は,粘土はカオリンクレー(平均粒径0.4μm),砂は6号硅砂(平均粒径330μm),礫は市販の天然大磯石(3-5mm)である.実験条件はいずれも水35wt%,粘土32.5wt%であり,残る32.5wt%について礫を0wt%,5wt%,15wt%と変化させて,残りを砂にした.上記の材料を攪拌機でよく攪拌し,上流端から供給した.その結果,礫が入ると途中で流れの加速が起こり,7mを流下する時間が大幅に短縮した(礫0%では21秒,5%では15秒,15%では16秒).また,流下後の堆積物の分布も礫の有無によって異なり,礫がある場合はより上流側で堆積した. 流れの流下過程を観察すると,礫なしの場合は試料投入直後の流れの厚さが薄く,薄いヘッドがある程度流下してから周囲水の取り込みが始まるのに対し,礫を加えると,試料投入直後から周囲水の取り込みが始まり,流れの厚さが比較的厚いことがわかった.流れの流下後の堆積物の含泥率(清里ほか,2023)や砂礫の分布(正田ほか,2023)と比較すると,礫がない場合は,栓流構造が保たれたままある程度の距離を流下するのに対し,礫が入ることによって,礫の沈降によって栓流構造が壊れ,周囲水の混入によって流れの粘性が下がって,流下速度が上昇する可能性が考えられる. 礫が混じることによって水中重力流の速度が大きくなることは,重力流発生地点付近に礫の供給がある場合は重力流の影響を過小評価しないように注意する必要性を示唆している.引用文献:Ilstad, T. et al., 2004, Marine Geology, 213, 415-438. 清里弘志ほか,2023,本大会講演要旨.正田陽宏ほか,2023,本大会講演要旨.Yokokawa, M. and Yuasa, N., 2023,Abstract of JpGU2023, H-CG20-O04.

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