日本地質学会学術大会講演要旨
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T6.堆積地質学の最新研究
  • 武藤 鉄司, 本宮 圭悟, 飯嶋 耕崇, 大野 研也, 王 俊輝
    セッションID: T6-O-22
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    海水準変動のもとで成長する下流域沖積系は,海水準フォーシングに対して非平衡応答 (non-equilibrium response) するのが一般的であり,定常的海水準変動のもとであっても系 (堆積システム) の層序応答 (stratigraphic response) は非定常的に変遷する (Muto et al. 2007 JSR).海水準フォーシングが時間的に不変であっても,系それ自体が成長しサイズを増していくことが原因となって特定の同じ応答を持続できなくなるからである.このように,系の成長は層序記録から海水準変動を考えるときの必須の視点である.一方,既存のシークウェンス層序学は,下流域沖積系の応答は相応規模の海水準変動サイクルの位相と対応し,海水準が同じ位相に来たとき系は同じ応答を繰り返すという仮説を基本としている.このスキームの中では,下流域沖積系は,海水準下降期に浸食谷 (incised valley) の形成など削剥過程 (degradation) が進行する傾向にあり,そして上昇期には埋積過程 (aggradation) が進行する傾向にあると説明されることが多いが,フィジカルな根拠で裏付けられているわけではない. Wang & Muto (2021 Sedimentology) は,定常的海水準変動サイクルを模した二次元水槽実験により,各サイクルの中で進行する下流域沖積系の地形・地層形成過程がサイクル数の進行に伴って変遷することを初めて示した.次のサイクルで起こることは前のサイクルで起こったことの単純なリピートではなく,非平衡応答それ自体もサイクル数の経過に伴って変遷する.例えば,早期サイクルの海水準下降期に顕著な浸食谷を生じたとしても,多数回のサイクルを経て下流域沖積系が十分に成長していれば,以降のサイクルのどのタイミングにおいても全系的な下刻・削剥を生じない無下刻フェイズ (incision-free phase) に到達する.有下刻フェイズ (incision-inclusive phase) から無下刻フェイズへの転換のタイミング (経過サイクル数) は二次元オート層序学的長さスケールΛ2Dで無次元化したサイクル振幅Abl*と比例関係にあることが示唆されている. この新奇な知見が三次元セッティングの下流域沖積系でも成り立つか否かを調べるため,演者らは長崎大学の三次元実験水槽を使用して12ランに及ぶモデル実験をおこなった.この実験シリーズでは,全ランを通じて,基盤地形,初期水深,堆積試料,給砂量,水流量を固定した.水位変動サイクルは対称形とし,水位変動速度 (Rbl) の大きさは上昇期と下降期とで等しく,上昇・下降を繰り返すたびに水位は初期水位の位置に戻る.ラン毎に系統的に変えたのは水位変動速度,周期 (2Tbl),振幅 (Abl = RblTbl) である.この条件のもとで,既存堆積物が無い状態から下流域沖積 (〜デルタ) 系を10時間前後にわたって成長させた.実験結果はおおむね次のように要約される.(1) 早期サイクルにおいては,下降期に深い浸食谷 (incised valley) が生じた.上昇期には浸食谷の埋積が進み,上昇期の終わり頃には浸食谷は消失するが,後続の下降期に入ると再び浸食谷が生じた (i.e., 有下刻フェイズ).(2) サイクル数の進行につれて下降期の下刻量が減少する傾向にあった.(3) 晩期サイクルにおいては,下降期に浸食谷が形成されず,下降期と上昇期を通じて埋積傾向が持続することがあった.12ランのうち10ランで,この無下刻フェイズが実現した.(4) 有下刻フェイズから無下刻フェイズへの転換が起こるタイミングは三次元オート層序学的長さスケールΛ3Dで無次元化したサイクル振幅Abl*に比例する. 二次元実験で観察されたことと基本的に同じことが三次元実験でも観察された.無下刻フェイズの実現が物理的に可能である (少なくとも,物理的に不可能ではない) ことが確認されたことから,条件さえ揃えば,天然の下流域沖積系でも海水準変動サイクルの進行により無下刻フェイズが実現しうると想像される.有下刻フェイズから無下刻フェイズへの転換のタイミングが無次元パラメータの関係式で表現できることは注目に値する.海水準変動がどんなに急激かつ大規模であろうとも,同じパターンの上昇・下降サイクルが繰り返される限り,有下刻フェイズから無下刻フェイズへの転換が実現することが示唆される.露頭・ボーリング試料・震探断面などから得られた下流域沖積系の層序記録に顕著な浸食谷の痕跡が認められる場合,それはその系が最終的に無下刻フェイズへと至る遷移過程の一場面を捉えたものとして理解できるかもしれない.

  • 高野 修
    セッションID: T6-O-23
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    <はじめに> 堆積盆を埋積する堆積システムの種類,累重パターン,サイクル性などの埋積様式は,どのような要因によって規制されるのであろうか。その規制要素はどのような階層性(主要因,副要因)があるのであろうか。これらの様式は堆積盆タイプによってどのような違いがあるのであろうか。本研究では,東北日本弧,西南日本弧周辺に発達する「前弧堆積盆」および背弧堆積盆のうちの「反転リフト堆積盆」について,上記の規制要素の検討を行った。 <前弧堆積盆> 前弧堆積盆については,石狩空知堆積盆,石狩夕張堆積盆,蝦夷堆積盆,三陸沖堆積盆,常磐沖堆積盆,房総堆積盆,東海沖堆積盆,熊野灘堆積盆,宮崎沖堆積盆(Takano, 2017)を事例として検討を行った。前弧堆積盆では,プレート沈み込みに伴う付加体の形成による外縁隆起帯(trench slope break:以下TSB)の成長が長周期のテクトニックサイクルを支配するとともに,プレート運動の変化に起因して形成される不整合面を境にした中長周期のテクトニックサイクルも形成されている。TSB未発達時には斜面タイプの断面形態を主体とし,砕屑物供給が少ない場合には泥質斜面,多い場合にはスロープエプロンシステムが発達する。TSBが発達するにつれて海盆状形態を呈し,砕屑物供給が多い場合には海盆中に海底扇状地もしくはトラフ充填タービダイトシステムが発達する。さらにTSBが発達してリッジを形成し,なおかつ砕屑物供給が多い場合には,前弧堆積盆は埋め立てられて(benched, shelved forearc: Dickinson, 1995),内湾〜河川システムが主体となる。このタイプは島弧より陸弧の前弧である場合に形成されやすい。この埋立てリッジタイプの前弧は,プレート運動の変化(構造侵食の開始など)によって,斜面タイプに変化してテクトニックサイクルが再開始することがある(Takano, 2017)。前弧堆積盆に発達する堆積シーケンスは,TSB発達に伴うテクトニックサイクルおよび不整合面で挟まれたテクトニックサイクルより短周期のサイクルであり,堆積速度が速ければ,氷河性海水準変動に対応して,遅ければ,いくつかの複合要因に反応して堆積シーケンスが形成されている(Takano et al., 2013; Takano, 2017)。 <背弧反転リフト堆積盆> 背弧反転リフト堆積盆については,新潟〜信越堆積盆,秋田堆積盆,島根堆積盆に対して検討を行った。Retroarc foreland basin的に,背弧側に典型的に発達する反転リフト堆積盆は,急速沈降のsyn-rift期→緩慢沈降のポストリフト期→構造反転期の変化をもって,ひとつの長周期テクトニックサイクルを形成している。syn-rift期からポストリフト期にかけては,堆積速度に対して堆積空間形成速度が速いため,泥質な深海システムへのretrogradationalな累重様式を基本とするが,ポストリフト初期〜中頃の後背地での圧縮の開始によって,海底扇状地システムの発達によるaggradationalな累重様式も見られる。構造反転期には,圧縮の強化により,後背地からの砕屑物供給の増加と,堆積盆内沈降域の限定化や隆起による堆積空間増加量の減少によって,progradationalな累重様式が主体となり,浅海〜河川システムによる埋積が盛んになる。これらのsyn-rift期→ポストリフト期→構造反転期と変化するテクトニックサイクルの上に乗る形で,より短周期の3次〜4次〜5次オーダー堆積シーケンスが形成されており,それぞれが個々の海進海退サイクルを形成している(Takano, 2002)。 <まとめ> 前弧堆積盆の場合も,背弧反転リフト堆積盆の場合も,より長周期で強振幅のテクトニックサイクルが存在し,それに応じた堆積盆形状や砕屑物供給の状況によって堆積システムが決定されている。長周期テクトニックサイクルの上に乗る形で,より短周期の堆積シーケンスが形成されている。 <文献> Dickinson, W.R., 1995, In Tectonics of Sedimentary Basins, Blackwell, 221-261; Takano, O., 2002, Sediment. Geol., 152, 79-97; Takano, O., 2017, In Dynamics of Arc Migration and Amalgamation, InTech, 1-24; Takano, O. et al., 2013, In Mechanism of Sedimentary Basin Formation: Multidisciplinary approach on active plate margins, InTech, 3-25.

  • 奈良 正和, 石塚 創太, 今井 悟, 藤野 滋弘
    セッションID: T6-O-24
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    和歌山県に分布する中新統田辺層群は,日本海拡大と時をほぼ同じくして堆積した珪砕屑性前弧海盆堆積物である.そのうち,西牟婁郡白浜町才野周辺の海岸露頭には,きわめて厚いイベント堆積物が分布する.本講演では,石塚(2021)ならびにFujino et al. (2022)に新たな知見を加えて,それが潮汐低地システムに残された巨大津波堆積物であること示す. この堆積物を挟む白浜層には,大局的に見て,下位より,トラフ型斜交層理が発達した礫質砂岩から中粒砂岩(潮汐流路堆積物),シート状の砂岩が卓越した砂岩泥岩互層(砂底堆積物),シート状の砂岩と泥岩との等量互層(混合底堆積物),そして泥岩卓越互層(泥底堆積物)の順に重なる層厚30 mほどのサクセションが発達する.これらの地層には,ヘリンボーン構造,再活動面,マッドドレイプ,波状層理などが発達し,反対方向の古流向が復元される.砂岩には波浪リップルや極浅海での堆積を示唆する干渉リップル,そしてDactyloidites ottoiなどの干潟環境を特徴づける生痕化石やScolicia shirahamensisなどの通常塩分の海域環境を特徴づける生痕化石(奈良ほか, 2017)も多数含む.以上のことから,ここの白浜層は外洋の影響を強く受けた潮汐低地システムの大局的な前進埋積作用によって形成された可能性が高い.イベント堆積物は,潮汐流路堆積物などを明瞭な侵食面をもって覆い,潮汐砂底堆積物に整合に覆われる.基底は凹凸に富み,確認される最大侵食量は約6 mにもなる.また,層厚は通常4〜6 mほどであるが,下位をもっとも侵食した地点では約9 mと見積もられる.この様に,極めて厚い層厚と基底部の著しい侵食が重要な特徴である.岩相は,側方での変化が著しいが,基底付近では局所的に発達したリップアップ・クラストの密集層,低角斜交葉理の発達した礫質極粗粒砂岩〜粗粒砂岩が特徴的に見られる.上記のうち,粗粒な粒子はしばしばa軸型のインブリケーションを示し,古流向は特徴的に反転する.イベント堆積物中部の砂岩には,火炎状構造,皿状構造や柱状構造といった急速堆積を示唆する構造が広く見られるほか,波長24.5 mの巨大なHCSも確認できる.また,イベント堆積物の上部から最上部には砂岩と泥岩の細互層が発達し,多量の材化石や炭質物を含む砂泥質堆積物も確認される.このイベント堆積物は,全層準を通じて生物源堆積構造が一切観察されないうえ,大局的に上方に細粒化・薄層化するが,その内部にも明瞭な侵食面によって境された上方細粒化のサブユニットが複数確認される.上述の特徴から判断すると,この堆積物を形成した営力は,チクシュルブ・インパクトに伴う津波に比較される様な巨大津波が最も考えやすい. 一般に,現代の浅海底で確認された海溝型地震に伴う津波堆積物の厚さは100 cm程度であるが(横山ほか,2021など),ここで扱うイベント堆積物や従来報告された西南日本弧中新統の津波堆積物の層厚(松本・増田,2004; 奈良ほか,2017; Imai & Nara, 2022)は,それを大きく上回る.このことは当時の活発な構造運動による巨大地震の発生に加え,弧内での砕屑物の大量生産(奈良ほか,2017)に伴って沿岸域に堆積物が豊富に存在していたことに起因した可能性がある.さらには,浅海堆積物に多数の大規模未固結変形構造が残されていることから(奈良ほか,2017),海底崩壊にともなう地域的な津波高の増大も影響していたのかもしれない. 文献 Fujino et al., 2022, The 21st ISC Abst. Book, 503–503. Imai & Nara, 2022, Jour. Geol. Soc. Jpn. 128, 129–130.石塚,2021,堆積学会2021年大会演旨,24–25.松本・増田,2004,地質論集 58, 99–110.奈良ほか,2017,地質雑 123, 471–489.横山ほか,2021,堆積学研究 79,47–69.

  • 【ハイライト講演】
    篠崎 鉄哉, 井口 亮, 西島 美由紀, 後藤 和久, 藤野 滋弘
    セッションID: T6-O-25
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    本研究では,地層中の津波堆積物の新たな識別プロキシとして,環境DNAの有効性について議論した.陸上のイベント堆積物中に,海洋に生息する生物由来の遺伝子情報が含まれれば,その堆積物が海からの流れによって形成したことを示す確度の高い根拠となる.環境DNAを津波堆積物研究に適用した研究例は徐々に報告され始めているが(例えばYap et al., 2021; 2023),環境DNAの保存性や堆積環境ごとの挙動など,まだまだ検討段階にある.本発表では,湖沼堆積物に対し環境DNA分析を行い,2011年東北沖津波の堆積物を対象にして研究アプローチの妥当性を,869年貞観津波と先史津波の堆積物を対象にして古津波への適用可能性を検討した結果を報告する. 用いた試料は,2014年4月に宮城県山元町にある湖沼,水神沼で得られた98 cm長の柱状堆積物である.この試料は既にShinozaki et al. (2015)によって2011年東北沖津波による堆積物の識別が行われている.東北沖津波による堆積物は,湖底表層の厚さ50 cmの泥質津波堆積物と,その下位の厚さ7 cmの極細粒〜中粒の砂質津波堆積物からなる.さらにその下位には通常環境時に形成したと考えられる泥炭堆積物が堆積しており,2枚のイベント砂層を挟在する.これらのイベント砂層は,869年貞観津波による堆積物と,2400〜2900年前の先史津波堆積物であると考えられている(Shinozaki et al., 2015).堆積物試料は掘削後,一部分析用に切り分けた試料を除いて-20℃で冷凍保存をした.この冷凍試料を用いて,合計32層準の環境DNA分析を行った.DNeasy PowerMax Soil Kit(QIAGEN社)を用いて堆積物からDNAを抽出し,真核生物18SリボソームRNA遺伝子部分塩基配列を対象にしたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を実施した.得られたPCR増幅産物を次世代シーケンサーで解析し,シーケンスによって得られた塩基配列に対して,QIIME2(Bolyen et al., 2019)で代表配列の決定や多様性解析を施した後,BLAST+(Camacho et al., 2008)で各代表配列の相同性検索による分類群推定を行った. 2011年東北沖津波による泥質および砂質堆積物と,その下位の通常時堆積の泥炭での検討の結果,泥質津波堆積物中に海生のDNAが含まれている点,含有しているDNAに多様性がある点が見られた.多様な遺伝子配列は湖沼周辺からの砕屑物の供給を示していると考えられる.一方,砂質津波堆積物では泥質津波堆積物に比べてDNAの回収率が低かった.しかし,砂質津波堆積物中でわずかに検出した海洋生物のDNAは異地性の遺伝子情報を含んでおり,確度が高い物的証拠と言える.2011年東北沖津波での検討で,環境DNAが津波堆積物識別プロキシとしての可能性を十分有している結果が得られた.次に,環境DNAが古津波堆積物の識別にも適用可能か,869年貞観津波堆積物,先史津波堆積物,上位下位の通常堆積の泥炭堆積物で検討を行った.歴史・先史津波堆積物は通常時堆積物と含まれている生物種が大きく異なっており,クラスター解析でも,貞観津波堆積物,先史津波堆積物,通常時堆積物でグループが分かれる結果を示した.歴史・先史津波堆積物からは,例えば海生種の珪藻Chaetoceros spp.や二枚貝類が検出された.また,貞観津波堆積物中に含まれている生物種が,津波堆積物直上の層準でも多く見出された.この層準は,肉眼およびCT写真の観察ではさらに上位の泥炭堆積物層と見分けがつかなかったが,環境DNAの結果から,砂質津波堆積物の直上に堆積した泥質津波堆積物である可能性が高いと考えられる.地層中から泥質津波堆積物を識別することは容易ではないが,今回の結果は,環境DNAが泥質津波堆積物を識別できるポテンシャルを持っていることを示している. 本研究の結果,環境DNAを用いることで,湖沼に来襲した現世・歴史・先史時代の巨大津波の痕跡を識別できることがわかった.環境DNAを用いることで,これまで識別が難しかったイベント堆積物の起源を明らかにできる可能性があり,今後様々な堆積環境に適用されることが望まれる.Bolyen et al., 2019. Nature Biotechnology, 37, 852–857.Camacho et al., 2008. BMC Bioinformatics, 10, 421.Shinozaki et al., 2015. Marine Geology, 369, 127–136. Yap et al., 2021. Communications Earth & Environment, 2, 129.Yap et al., 2023. Marine Geology, 457, 106989.

  • 古明地 海杜, 篠崎 鉄哉, 菅原 大助, 石澤 尭史, 池原 実, 藤野 滋弘
    セッションID: T6-O-26
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    ・はじめに 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震津波(以下,東北沖津波)は,日本海溝沿いの沿岸域に甚大な被害をもたらした.東北沖津波のような大規模自然災害は低頻度(百〜千年スケール)で発生するため,将来発生する巨大津波のリスク評価には機器観測記録だけでは不十分である.そこで,地質学的痕跡の“津波堆積物”から過去数千年以上の長期的な津波の履歴や規模の推定を行う必要がある. 津波堆積物の分布や層厚などの情報は,津波規模を拘束し,津波波源を推定する上で重要である(例えばSugawara et al., 2014).しかし,浸水限界付近では視認可能な砂質津波堆積物が存在しにくいため(Abe et al., 2012),古津波の浸水域を正確に明らかにすることは容易ではない.そこで本研究では,砂質津波堆積物の分布限界より内陸で海水流入の痕跡を検出するべく地球化学的手法に着目した.東北沖津波など現世の津波の研究では,浸水域内から高濃度の海水成分や海洋生物起源の有機化合物の検出が報告されている(Chagué-Goff et al. 2017; Shinozaki, 2021).本研究では,これらのマーカーを用いることで正確な浸水域が復元可能か,西暦869年に発生した貞観津波をケーススタディとして検証を行った.・869年貞観津波 本研究の対象は,西暦869年に日本海溝沿いの地域で発生したとされる貞観津波である.東北沖津波発生以前から,石巻平野や仙台平野では貞観津波による堆積物の存在が知られ(箕浦,1990),津波堆積物の分布を説明しうる津波波源が求められていた(佐竹ほか,2008).東北沖津波発生以降,貞観津波に関する調査や研究が複数報告され(例えば,高田ほか,2016),貞観津波の新たな知見が得られている.これまでに,地質学的,考古学的調査,数値計算など様々な観点から精力的に研究が進められてきた貞観津波を対象にすることで,十分な知見に基づき化学分析データを解釈できると考えられる.・研究対象地域と試料,分析 本研究で対象とする福島県南相馬市小高区では,Sawai et al. (2012)によって貞観津波によると考えられる砂質津波堆積物が確認されている.東北沖津波の浸水範囲を参考にし,2014年に海岸線に直交する測線上の内陸2〜3 kmの範囲内で計6本の柱状試料を採取した.試料は各分析を行うまで冷凍で保存した.本研究では,これらの試料のCT撮影を行った後,放射性炭素年代測定・テフラ分析による年代決定,蛍光X線分析(XRF)・バイオマーカー分析による古環境復元と津波流入の痕跡の検出を試みた.・結果 柱状試料の採取地点は,内陸側から海側に向かってODA–3,ODA–4,ODA–5,ODA–6,ODA–7,ODA–8と名づけた.最も海側のODA–8では深度70〜95 cmにかけてまばらにテフラが存在し,その直下に砂の薄層が確認された.砂の薄層下位から得られた較正年代がAD772–891(2σ)であったことから,この砂層は貞観津波堆積物の可能性が高いと考えられる.最も内陸側のODA–3では深度40–42 cmの間で貞観津波に相当する年代より若い年代値が得られ,67–69 cmの間で貞観津波に相当する年代より古い年代値が得られたことから,42〜67 cmの間に貞観津波の年代に相当する層準があると考えられるが,その層準内で肉眼・CT画像での観察からイベント層を認識することが出来なかった.また,ODA–3とODA–8の間にあるODA–5において,貞観津波より古い年代値が得られたが,その上位でイベント層を視認することが出来なかった.以上より,砂質津波堆積物の分布限界より内陸での試料採取に成功していると考えられる.本発表では,貞観津波に該当する層準のXRFおよびバイオマーカー分析の結果を報告し,砂質堆積物の分布によらず貞観津波の浸水域を復元することで,地球化学的手法による高精度津波浸水域推定法の確立を目指す.・引用文献Abe, T. et al., 2012, Sediment. Geol., 282, 142–150.Chagué-Goff, C., et al., 2017, Earth Sci. Rev., 165, 203–244.箕浦幸治, 1990, 歴史地震. 6, 61–76.佐竹健治ほか,2008, 活断層・古地震研究報告, 8, 71–89.Sawai, Y., et al., 2012, Geophys. Res. Lett., 39, L21309.Shinozaki, T., 2021, Geosci. Lett., 8:6.Sugawara, D., et al., 2014, Mar. Geol., 358, 18–37.高田圭太ほか,2016, 活断層・古地震研究報告, 16, 1–52.

  • 飯嶋 耕崇, 成瀬 元, 菅原 大助
    セッションID: T6-O-27
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    津波を発生させた波源断層の情報を推定する事は、地震規模や津波の全体像を把握する上で重要である。2011年に発生した東北地方太平洋沖地震津波を対象とした既往研究においても、波源断層のパラメーター推定を行った例は数多く存在しており、東北地方の太平洋沿岸地域における浸水範囲を再現するような断層パラメーターを推定したり(今村ほか、2012)、沿岸や海底における時系列の波高データを再現したりするような断層パラメーターの推定が行われている(Satake et al., 2013)。これらの既往研究に共通する手法は、津波の流れに関する情報(海域・沿岸・陸上における波高、陸上の浸水範囲等)に着目し、それをよく再現するような波源断層パラメーターを、津波伝播計算を用いて推定している点である。既往研究により東北地方太平洋沖地震の断層パラメーターが詳細に復元されている一方で、津波の流れに関する情報が乏しい過去の津波を対象とする場合、既往研究の手法を直接的に用いる事は難しい。 過去に発生した津波の波源断層パラメーターを推定する場合、用いる事ができる情報源は陸上の津波堆積物のみであることが多い。そのため、津波堆積物のみから波源断層パラメーターを推定する手法を開発する事は、過去の津波規模を推定する上で重要である。津波堆積物のみから波源断層の情報を推定した既往研究として、西暦869年の貞観津波の例がある(菅原ほか、2011)ものの、計算資源量の課題により想定されうる断層パラメーターが十分網羅されていないなど、客観的・定量的比較に課題を残していた。 近年、定量的な逆解析を可能とする手法として、DNN (Deep Neural Network)と順解析を組み合わせる手法が開発された(Mitra et al., 2020)。断面1次元順解析モデルを用いて津波伝播・土砂移動計算を多数回実施し、津波の初期条件と堆積物性状の組み合わせを多数生成する。両者の関係をDNNに学習させることで逆解析モデルを構築し、沿岸における津波の水理条件推定に成功した。一方で、用いられている地形が実地形でない点、推定できるのは沿岸の水理条件のみであり波源断層の情報は推定できない点など改善されるべき点がある。 そこで本研究では、津波堆積物のみから波源断層パラメーターを復元する新しい逆解析手法を開発した。本研究では順解析モデルとして平面2次元を取り扱う事ができるDelft3D-FLOW (Deltares, 2021)を用いると共に、津波堆積物が分布する陸上域から波源断層が位置する日本海溝周辺までを含む領域の実地形を用いた。逆解析モデル開発に当たっては、断層パラメーターが良く知られている2011年東北地方太平洋沖地震津波を対象として、対象地域として仙台市七北田川右岸を選択した。波源断層の初期条件として、今村ほか(2012)による波源断層モデルの内、断層変位量を1-40m、断層幅10-200kmの範囲内で変化させた。底面堆積物の初期条件として、4粒径クラス(140、250、420、1000μm)の比率を変化させた。対象地域における津波堆積物量を順解析を多数回実施する事で計算し、初期条件と津波堆積物量との組み合わせを1300ケース生成し、これを教師データとしてDNNに学習させ逆解析モデルを構築した。学習したモデルについて、100ケースの人口データを用いたテストを行ったところ、断層パラメーターと初期粒径割合ともに、よく推定できる事が確認された。 次に、構築した逆解析モデルを2011年東北地方太平洋沖地震津波堆積物に適用した。仙台平野における津波堆積物の実測値を用いて断層パラメーターの推定を行ったところ、断層変位量は21.25m、断層幅は119.91kmという値が求められた。既存の断層モデルと比較すると合理的な値が推定されている事が確認された。推定された断層パラメーターを初期値として順解析を行ったところ、測線上における津波堆積物の層厚や、津波堆積物の平面的な分布をよく再現できる事が確認された。さらに、推定値の誤差範囲を検証するためジャックナイフ法による誤差推定を行った(Mitra et al., 2020)。断層パラメーターの推定誤差の幅を求めたところ、断層変位量については0.47m、断層幅については1.29kmに収まっている事が確認された。 引用文献菅原ほか、2011、自然災害科学 今村ほか、2012、東北大学モデル(version1.2) Satake et al., 2013, Bulletin of Seismological Society of America Mitra et al., 2020, JGR Earth Surface Deltares, 2021, Delft3D-FLOW

  • 芦 寿一郎, 村山 雅史, 中西 諒, 金松 敏也
    セッションID: T6-O-28
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    室戸岬東方沖の陸棚斜面の水深1000 m付近には馬蹄形地形が複数認められる.これらは海底地すべり跡とみられ,宍喰村に被害を及ぼした永正地震(1512年)の津波の波源に当たる可能性が指摘された(馬場ほか,2017, JpGU要旨).白鳳丸KH-17-2次航海および新青丸KS-22-3次航海では,馬蹄形地形および斜面下の平坦面で採泥を行ったが,試料はいずれも半遠洋性泥に細粒砂〜シルトの薄層が多数挟在する細粒タービダイトで,過去7,300年の間に大規模な地すべりを示すイベント層は認められなかった.地すべり発生時期の特定のため5 km四方の範囲から採取されたこれらの試料を活用するため,近接した地点間のタービダイトの対比と,堆積年代・イベント発生間隔の推定を行ったので報告する. 室戸岬東方には東北東-西南西方向に陸棚が連続している.室戸岬から徳島県阿南にかけては大きな河川は存在せず,海底谷は室戸岬の近傍に野根海底谷が分布するのみである.本研究では室戸岬の北東沖約30 kmの3つの地点の柱状試料を用いた.PC11は「白鳳丸」KH-17-2次航海にて,PC02及びPC03は「新青丸」KS-22-3 次航海にて採取されたピストンコア試料で,マルチプルコアラーとグラビティー式コアラーによる表層採泥も行った.PC11地点とPC03地点は陸棚斜面の基部に位置し,両地点の堆積物の供給源となる斜面は小さな高まりで隔てられ,小規模な斜面崩壊では同時に両地点への堆積物供給は起こりにくい配置となっている.PC02地点は斜面基部のPC11地点から約4 km沖側にあり陸棚斜面からの距離によるイベント層の変化が期待された.試料の測定・分析については,X線CTスキャン撮影と蛍光X線コアロガーを用いた元素濃度分析(PC11のみ)を行った.堆積年代については,東京大学大気海洋研究所のシングルステージ型加速器質量分析計を用いて,浮遊性有孔虫と全有機炭素の放射性炭素年代を求めた.3地点のピストンコア試料の下限はいずれも火山灰層で,PC02とPC03においては堆積過程での軽微なコンタミネーションの可能性がみられるものの,火山ガラスの形態・屈折率等からK-Ahテフラと同定された(分析は(株)京都フィッショントラックによる). タービダイト層の認定は全体に泥質であるため肉眼では容易でなくX線CT画像を用いた.タービダイト泥と半遠洋性泥の境界は,PC11 において蛍光X線コアロガーの元素濃度変化をもとに推定した.PC02とPC03はX線CT値と帯磁率の変動パターンをPC11と比較することでタービダイトを認定した.タービダイト層の数はPC11で36層,PC02で21層,PC03で28層であった.陸棚斜面から離れたPC02では認定できたタービダイト層の数が最も少ない.これは乱泥流の到達が少なかったか,あるいは細粒なタービダイトが認定から漏れているためと考えられる.コア間のタービダイトの対比は,X線CT値と帯磁率の変動パターンから概ね行えるが,放射性炭素年代を用いたAge-depthモデルを用いることでPC02とPC03のほぼ全てのタービダイト層をPC11と対比することができた.3地点のコアの堆積速度に注目すると,約2千年前以降ではPC11が最も速く,約4千年前以前では陸棚斜面基部から遠いPC02がPC11より早くなっている.野根海底谷から続くチャネルは現在,PC02地点の南2 kmに位置しているが,かつて流路が近接していたか,堆積物供給が現在より多かった可能性がある.ただし,PC02のタービダイト層の数は全ての層準でPC11より少ないため,海底谷を通した堆積イベントの頻度に変化があった訳ではない. PC11地点におけるタービダイト層の堆積間隔の推定を行なった結果,192年±85年となった.この値は55 km南方の土佐バエ海盆でのタービダイトの挟在間隔の215±21年(岩井ほか,2004,地質学論集)と大きな差はない.土佐バエ海盆は陸から続く斜面や海底谷とは繋がっておらず洪水の影響を受けない地点である.そのためタービダイトは地震性と解釈でき,南海トラフにおけるプレート境界地震の発生間隔とも矛盾しない.本調査地点は陸棚斜面基部にあり,洪水の影響も排除できない地点ではあるが,地震イベント推定に有効な情報の提供が期待される. なお,本研究は令和4年度原子力施設等防災対策等委託費(海域の古地震履歴評価手法に関する検討)事業の受託研究の一部として実施された.X線CTスキャン撮影と蛍光X線コアロガー分析は高知大学海洋コア国際研究所の共同利用により行った.

  • 【ハイライト講演】
    齋藤 有
    セッションID: T6-O-29
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    泥質堆積物の供給源は,堆積物の輸送経路や運搬メカニズム,後背地の古地理やテクトニクス,古気候を解き明かす上で有用な情報となる.Sr-Nd-Pb同位体比を指標とする四国海盆の半遠洋性泥質堆積物の供給源解析の結果,黒潮が,細粒砕屑物の運搬メカニズムとして重要であることがわかった.さらに,シャツキー海台堆積物の鉛同位体比からは,黒潮続流が遠洋域まで砕屑物を運搬している可能性が示唆される. 四国海盆北縁のIODP Site C0011で掘削採取された半遠洋性堆積物(7Ma~現世)の砕屑成分,およびその主要な供給源の一つと考えられる西南日本から太平洋に流入する主要50河川より採取した泥質堆積物のSr-Nd-Pb同位体比を測定し,供給源の他の候補である東シナ海および周辺陸域の堆積物の同位体比と比較した結果,Site C0011の半遠洋性堆積物の主供給源が,4.4Ma以前は東シナ海周辺の陸域,おそらく長江・黄河流域であり,2.9Ma以降は日本列島であることが示唆された.東シナ海と四国海盆との間には琉球列島,九州パラオリッジが存在するため,東シナ海周辺由来の砕屑物は底層流ではなく黒潮によって輸送されたことが示唆される.4.4Maから2.9Maにかけては同位体比が徐々に日本列島由来を示す値へと変化する.この時代変化の要因として考えられるのは,約4Maにおけるフィリピン海プレートの沈み込みの加速(Kimura et al., 2005)である.4.4Ma以前はC0011が現在の位置より100~200km沖合にあり,黒潮による供給の寄与率が高かったのが,プレートが北上したことで徐々に日本列島の寄与率が上昇したと説明できる.北太平洋の遠洋堆積物の砕屑成分は大気輸送でもたらされたもの(黄砂)であることは知られているが(Jones et al., 2000; Pettke et al., 2000),四国海盆の半遠洋性堆積物については黄砂の寄与は微小であることが,Pb同位体比(206Pb/204Pb, 207Pb/204Pb, 208Pb/204Pb)間の線形関係がC0011堆積物と黄砂とで明確に異なることから結論づけられる. 黒潮が東シナ海から四国海盆まで砕屑物を輸送しうるということは,黒潮続流が東シナ海周辺陸域と西南日本由来の砕屑物を合わせてさらに遠方に運搬しうることを示唆する.それを検証するため,シャツキー海台(ODP Site 1208)の堆積物10試料(0.3~9.6Ma)について予察的な研究を行った.黒潮続流が堆積物を輸送するとすれば,Site 1208堆積物のケイ酸塩成分の鉛同位体比はC0011堆積物と類似することが期待される.しかしながら,Site 1208試料のPb同位体比は,黄砂と火山灰との混合で説明される北太平洋中央の遠洋性堆積物の値と類似し,C0011とは明確に逸れる.このことは,シャツキー海台上の砕屑物の主成分が,四国海盆とは違って黄砂であることを意味する.しかしながら,鉛同位体比の時代変化を詳しく見ると,0.3~3.8Maの6試料は黄砂と火山灰の混合線によく整合するのに対し,4.7~9.6Maの4試料の線形関係はその線形関係からわずかに逸れて,C0011の線形関係に近い.4Maより古い時代には黒潮の相対的な寄与率が無視できない程度には高かったことを示唆する.北太平洋への黄砂フラックスは約3.6Maに急増したとされている(Rea, et al., 1998).4.7Ma以前に示唆される黒潮の寄与が,3.8Ma以降検知されないのは,それ以降は黄砂の寄与が圧倒的に卓越したことで説明できる.ただし,差異は微小である上に測定数は少なく,議論の精度を高めるために鉛同位体比の測定層準を大幅に増やす必要がある.Kimura, J. et al., 2005, GSA Bulletin, 117, 969­–989. Jones, C.E. et al., 2000, GCA, 64, 1405–1416. Pettke, T. et al., 2000, EPSL, 178, 397–413. Rea, D.K. et al., 1998, Paleoceanography, 13, 215–224.

  • 正田 陽宏, 金﨑 勇斗, 清里 弘志, 湯浅 紀之, 横川 美和
    セッションID: T6-P-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    地層の水中重力流の堆積物では水中土石流から混濁流へと変化する過程で堆積したと考えられるさまざまなパターンの堆積構造が報告されており,流れの挙動とそれがどのように地層へと反映されるのかについて,多くの議論がある.Yokokawa & Yuasa (2023)では,含泥率の高い材料にさらに礫を加えて水中に流し込み,流れの挙動を調べる実験を行った.その結果,礫を少量(5wt%)加えただけで,流れの性質が変化し,流れが途中で加速する現象が起こることがわかった.このような流れの違いが堆積物にはどのように反映されるのか,本研究では,流れが流下した後に残った堆積物中の砂礫の分布を測定した. 実験はIlstad et al. (2004)の実験条件の一つ,水35wt%,粘土32.5wt%,砂32.5%をレファレンスとした.長さ760cm, 幅30cm,高さ120cmの深型堆積用水路に水を張り,その中に長さ700cm, 幅8cm, 高さ50cmのアクリル製の水路を設置した.アクリル製水路の傾斜はIlstad et al.(2004)と同じ6°に設定した.実験に使用した材料は,粘土はカオリンクレー(平均粒径0.4μm),砂は6号硅砂(平均粒径330μm),礫は市販の天然大磯石(3-5mm)である.実験条件はいずれも水35wt%,粘土32.5wt%であり,残る32.5wt%について礫を0wt%,5wt%,15wt%と変化させて,残りを砂にした.上記の材料を攪拌機でよく攪拌し,上流端から供給した.その結果,礫が入ると途中で流れの加速が起こり,7mを流下する時間が大幅に短縮した(礫0%では21秒,5%では15秒,15%では16秒).また,流下後の堆積物の分布も礫の有無によって異なり,礫がある場合はより上流側で堆積した. 水路底に堆積した堆積物の表面直下(表面は ”hemiperagic” な細粒堆積物に覆われるので,その下に分布する分布する流れが流下する過程で堆積したと考えられる部分の最上部)と底面付近の堆積物を採取し,含まれる砂礫の量を測定した.その結果,礫0%では,底面付近より表面直下の方に砂が多く含まれていた.このことは,礫が入らない場合には,栓流構造がより顕著に発達し,砂の沈降が妨げられるような状態で流下・堆積した,すなわち,流れの加速などが起こりにくい状態であったことを示唆すると考えられる.礫を含むケースはいずれも,礫は底面付近により多く堆積している.逆に,砂の比率は,いずれも表面直下付近が多くなっている.したがって,今回の条件では,直径3-5 mmの礫程度の沈降速度を持つ堆積物は沈降できるが,6号砂(平均粒径330μm)の沈降速度では,沈降しきれない状態が続いていると考えられる.また,礫の堆積は流下距離400cm辺りから急に減少するが,この地点は流れの加速が終わり減速に転じるところとほぼ対応している.したがって,流れの中での礫の沈降が流れの加速と関連する可能性が示唆される.引用文献:Ilstad, T. et al., 2004, Marine Geology, 213, 415-438. Yokokawa, M. and Yuasa, N., 2023,Abstract of JpGU2023, H-CG20-O04.

  • 清里 弘志, 金﨑 勇斗, 正田 陽宏, 湯浅 紀之, 横川 美和
    セッションID: T6-P-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    水中土石流から混濁流へと変化する過程で堆積したと考えられるさまざまなパターンの堆積構造が地層から報告されており,流れの挙動とそれがどのように地層へと反映されるのかについて,多くの議論がある.Yokokawa & Yuasa (2023)では,含泥率の高い材料にさらに礫を加えて水中に流し込み,流れの挙動を調べる実験を行った.その結果,礫を少量(5wt%)加えただけで,水中土石流から混濁流へのFlow transformationが起こり,流れの流下速度が40%程度増加することがわかった.このような流れの違いが生じるメカニズムを探るため,本研究では,流れが流下した後に残った堆積物の含泥率を測定した. 実験はIlstad et al. (2004)の実験条件の一つ,水35wt%,粘土32.5wt%,砂32.5%をレファレンスとした.長さ760cm, 幅30cm,高さ120cmの深型堆積用水路に水を張り,その中に長さ700cm, 幅8cm, 高さ50cmのアクリル製の水路を設置した.アクリル製水路の傾斜はIlstad et al.(2004)と同じ6°に設定した.実験に使用した材料は,粘土はカオリンクレー(平均粒径0.4μm),砂は6号硅砂(平均粒径330μm),礫は市販の天然大磯石(3-5mm)である.実験条件はいずれも水35wt%,粘土32.5wt%であり,残る32.5wt%について礫を0wt%,5wt%,15wt%と変化させて,残りを砂にした.上記の材料を攪拌機でよく攪拌し,上流端から供給した.その結果,礫が入ると途中で流れの加速が起こり,7mを流下する時間が大幅に短縮した(礫0%では21秒,5%では15秒,15%では16秒).また,流下後の堆積物の分布も礫の有無によって異なり,礫がある場合はより上流側で堆積した. 水路底に堆積した堆積物の表面直下(表面は ”hemiperagic” な細粒堆積物に覆われるので,その下に分布する分布する流れが流下する過程で堆積したと考えられる部分の最上部)と底面付近の堆積物を採取し,含泥率を測定した.その結果,礫0%では,表面直下より底面付近の方が含泥率が高かった.礫5%では,表面直下と底面付近の含泥率があまり変わらず,礫15%では,表面直下の方が底面付近より含泥率が高い.このことは,礫が入らない場合には,栓流構造がより顕著に発達し,砂の沈降が妨げられるような状態で流下・堆積した,すなわち,流れの加速などが起こりにくい状態であったことを示唆すると考えられる.逆に,礫が入ると,礫の沈降によって,栓流構造がすぐに壊れて,周囲水の取り込みなどが始まりやすいことが予測される.礫5%ではその効果は限定的と考えられるが,礫15%になると,流下開始直後から密度勾配が生じた可能性が示唆される.引用文献:Ilstad, T. et al., 2004, Marine Geology, 213, 415-438. Yokokawa, M. and Yuasa, N., 2023,Abstract of JpGU2023, H-CG20-O04.

  • 成瀬 元, 山田 昌樹, 酒井 祐一
    セッションID: T6-P-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    Crevasse splay landforms are lobate landforms formed on flood plains when levees fail due to river flooding. Crevasse splays are one of the major fluvial geomorphological elements and have long been studied for their geomorphological characteristics and sedimentary facies because they provide a record of past inundation disasters. Similar to fluvial deposits, crevasse splay deposits are also found in submarine fans. Crevasse splay deposits are generally massive sandy deposits that, depending on their size, can be good reservoirs for hydrocarbons. Hence, understanding their development pattern and three-dimensional morphology are important issues in resource exploration. Observations of fluvial geomorphology suggest that the direction of development of the crevasse splay is extremely diverse. Recently, Kato et al. (in review) revealed through flume experiments that this diversity is a function of the developmental stage of splays. Although the river crevasse splay initially develops downstream, the crevasse channel diverges as sedimentation progresses, and the splay gradually acquires a radial shape. While the study of fluvial crevasse splays has progressed, the shape development process of similar landforms in submarine fans has been little studied. Therefore, this study examined the morphological differences in crevasse splay deposits formed by rivers and turbidity currents. We developed the 2DH models of rivers and turbidity currents and conducted experiments with the breached levee on the channel. As a result, while river-derived splay deposits tend to elongate downstream, those formed by turbidity currents exhibited upstream elongation or radial configurations. This variance can be attributed to the dissimilar forces driving these processes. River flow, characterized by the substantial pressure force of the main channel, generates downstream elongation in resultant splay deposits. Conversely, the weaker pressure force in turbidity currents causes these density flows to follow local topography, forming upstream elongation.The significance of this research extends beyond its core findings, hinting at broader implications for our understanding of depositional environments.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    藤島 誠也, 成瀬 元
    セッションID: T6-P-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    深海底では,乱流によって浮遊砂を支持し周囲流体との密度差を駆動力として流れ下る混濁流が間欠的に発生している.混濁流の発生要因には様々なものがあるが,現世の海底観測から,混濁流は津波によって発生しうることが指摘されている [1].津波起源混濁流の水理条件(流れの厚さ・堆積物濃度など)が発生源の津波の規模を反映するならば,混濁流堆積物(タービダイト)の逆解析は,過去の巨大津波の規模を推定するために重要な手がかりを提供する可能性があるだろう.そこで,本研究はタービダイトから混濁流の初期条件と順計算モデルパラメーターを推定する深層学習モデルを構築した.この際に,順計算モデルとしては混濁流の水平2次元4方程式モデルであるturb2dを採用し,水槽実験により本研究の逆解析モデルの性能を検証した.本研究の逆解析モデルの構築手続きは以下の通りである.まず,様々な初期条件およびモデルパラメーター(摩擦係数など)のもとで数値計算を繰り返し,訓練データを生成する.次に,生成した訓練データを用いて初期条件・モデルパラメーターと堆積物分布・流速・濃度・流れの厚さとの関係を全結合ニューラルネットワークに学習させ,堆積物から混濁流の初期条件・モデルパラメーターを推定するモデルを構築した.その後,訓練データと独立に生成した人工のテストデータによりモデルの性能評価を行ったところ,流れの挙動にあまり影響を与えない一部のモデルパラメーターを除き,本研究のモデルは高い精度で堆積物から混濁流の初期条件およびモデルパラメーターを推定できることが示された.つぎに,実験水槽 (2.2 ×4.5 ×1.5 m) 内で混濁流を発生させ,その実験堆積物に対して本研究のモデルを適用した.さらに,モデルによって推定された初期条件およびモデルパラメーターを用いて順計算を行い,層平均流速・層平均堆積物濃度・流れの厚さ・流れの継続時間・堆積物の各粒径階ごとの面積あたり堆積量について,実際の測定値と予測値の比較を行った.その結果,各粒径階の面積あたり堆積量の分布は測定値と逆解析結果が良く一致した.また,堆積物の総濃度・流れの厚さ・流速・流れの継続時間については,測定値と逆解析結果の間の相対誤差は-0.79–78%となり,本研究の逆解析モデルが実験で発生させた混濁流の水理条件を良く再現することが示された.ただし,個々の粒径階の堆積物濃度については復元精度が低く,測定値と逆解析結果の間の相対誤差は26–5800%であった.これについては,そもそも濃度の測定精度に問題があった可能性も考えられ,今後の検討が必要である.本研究の成果は,深層学習逆解析モデルがタービダイトから混濁流の水理条件を精確に復元できることを示している.実際の前弧海盆や海溝には侵食や隆起に起因する凹凸地形が分布しているが,本研究で採用した水平2次元モデルはそのような複雑な地形上を流れる混濁流を十分に再現することができるものである.今後は,本研究で開発された逆解析モデルを実際の海底で採取されたタービダイトに対して適用することで,過去の混濁流発生イベントの性質が解明されるものと期待される.引用文献[1] Kazuno Arai, Hajime Naruse, Ryo Miura, Kiichiro Kawamura, Ryota Hino, Yoshihiro Ito, Daisuke Inazu, Miwa Yokokawa, Norihiro Izumi, Masafumi Murayama, Takafumi Kasaya; Tsunami-generated turbidity current of the 2011 Tohoku-Oki earthquake. Geology 2013;; 41 (11): 1195–1198.

  • 【ハイライト講演】
    佐藤 瑠晟, 成瀬 元
    セッションID: T6-P-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    近年,ドローンで撮影された画像をフォトグラメトリ技術によって処理することで,露頭表面の形状や色を記録した(3次元点群)を容易に作成できるようになった.この点群データから岩相の3次元的空間分布を把握することができれば,堆積プロセスや堆積岩の物理特性に関する定量的な解析に役立つ情報が得られるものと期待される.しかし,巨大な露頭のデータから人為的に3D岩相モデルを作成することは作業効率の面で問題があり,現時点では堆積学分野において3次元露頭解析から大きな成果は得られていない.そこで,本研究は畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いて露頭の3次元点群データから自動的に岩相を判定する手法の開発を行った.本研究では,北海道東部に分布する白亜系-古第三系根室層群厚岸層の海底地滑り堆積物が露出する恵茶人海岸の露頭を調査し,ドローンによって撮影された多数の露頭写真から,フォトグラメトリ技術によって露頭3次元点群の構築を行った.次に,その3次元点群データを多数の2次元画像データに変換した.この変換の際に,各2次元画像データは,露頭表面の色に加えて凹凸情報をチャンネルとして持つように設定した.そして,得られた画像の一部を抽出し,岩相のラベル付けを手動で行ってCNNを訓練するための教師データを作成した.本研究では,岩相を自動判別するCNNモデルとして,残差接続を有したU-Net型のニューラルネットワークを構築した.トレーニングに際しては,岩相を判別するクラススト凹凸情報がCNNのトレーニングに与える影響を調べるため,計4つの学習条件でトレーニングを行った.モデルの訓練の結果,訓練データとは独立したテストデータに対して,本研究のモデルは全ての条件で約80%以上のピクセル判別率(precision metrics)を示した.CNNモデルを前述の恵茶人海岸露頭の全体に適用したところ,露頭中の礫質泥岩,堆積岩ブロック,露頭ではない部分の植生,砂浜,表土の空間分布が自動判別された.構築された3D岩相モデルと実際の露頭を肉眼で比較して見たところ,岩相の空間分布は十分な精度で一致していた.今後,この手法の適用によって,研究者が直接アクセスすることが難しい大型の露頭であっても,迅速に3D岩相モデルを構築することができるようになり,多くの地域で定量的な堆積岩の解析が行われるようになるものと期待される.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    長門 巧, 成瀬 元
    セッションID: T6-P-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    本研究は,砂岩切片中の砂粒子を効率的に自動判別する画像解析手法を採用することで,粗粒砂岩層に観察される多重逆級化構造(Spaced Stratification)の微細組織の特徴を可視化した.その結果,肉眼では区別がつかないものの,多重逆級化層は実際には2種類の異なる特徴をもった逆級化レイヤーで構成されていることが明らかになったので報告する. 多重逆級化構造とは,複数枚の逆級化層理から成る堆積構造である(Hiscott and Middleton, 1980).多重逆級化構造は海成の粗粒砂岩層や,陸上のハイパーコンセントレイティッド流堆積物,ラハール堆積物,火砕流堆積物などに観察されている(e.g., Smith, 1986; Palladino and Simei, 2002).これまで,海成の粗粒砂岩層に見られる多重逆級化構造は,高濃度重力流からの堆積作用を表す指標とみなされてきた(Lowe, 1982など).しかし,多重逆級化層を水槽実験で再現した例は無く,その形成メカニズムについては分かっていないことが多い.そもそも,多重逆級化層とよばれる堆積構造が単一のメカニズムによって形成される構造なのか,それとも複数の異なるプロセスによって類似した構造が形成されうるのかについても既存研究では十分な検討はなされてこなかった.そこで,多重逆級化構造の形成プロセスを理解するための基礎として,本研究は実際の地層中にみられる多重逆級化層の多様性を微細組織の観点から検討した. 本研究では,多重逆級化構造の粒度分布および粒子配列を観察するために,畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いた画像解析モデルを作成した. CNNモデルには,U-Net型の構造を採用し (Ronneberger et al., 2015),人為的に粒子をトレースした教師画像を作成してモデルの訓練を行った.多重逆級化層の砂岩試料にモデルを適用する際には,まず岩石を切断・研磨し,デスクトップスキャナーで断面画像を4800 dpiで撮影した.次に,得られた画像に対して粒子判別モデルを適用すると,画像中で砂粒子と基質部とを判別した二値化画像が出力される.この出力画像から砂粒子の粒径や面積,長軸と短軸の比,円磨度,インブリケーション角などを測定した.この画像解析から,本研究は多重逆級化層内の粒度・粒子配列の変動パターンをミリメートル以下のスケールで連続的に解析することに成功した. 本研究で解析を行ったのは,徳島県北部大毛島に分布する白亜系和泉層群板東谷層および兵庫県淡路島南東部に分布する和泉層群灘層で採取した多重逆級化構造を示す砂岩試料である.解析の結果,本研究の調査地で観察される多重逆級化構造は2つのタイプの逆級化レイヤーで構成されていることが見出された.タイプ1のレイヤーは比較的粗い粒子で構成され,それらの粒子は高角(> 30°)な平均インブリケーション角を示す.このタイプのレイヤーでは,粒径やインブリケーション角が鉛直方向に大きくばらつくという特徴もみられた.一方,タイプ2のレイヤーは比較的細粒な粒子で構成され,平均インブリケーション角には多様性があるものの,粒径やインブリケーション角は鉛直方向にあまり変化しないという特徴がある. 一つの多重逆級化層の中にはこれら二つのタイプのレイヤーがどちらも含まれていることがあるが,常にタイプ1のレイヤーが下位にあることも明らかになった. 今回認識した多重逆級化構造に含まれる2種類の逆級化レイヤーの形成メカニズムは現時点では明らかではない.しかし,本研究の結果は,一見すると同一のプロセスで形成された多重逆級化構造が,実際には2つ以上の異なるプロセスから形成されている可能性を示唆している.今後は水槽実験で多重逆級化構造を再現し,実験堆積物が示す粒子配列を野外で観察された試料と比較することで,多重逆級化構造の形成プロセスの解明を目指す予定である. 引用文献Hiscott, R. N., and Middleton, G. V., 1980, Jour. Sedimentary Research, 50, 703–721.Smith, G.A., 1986, Geol. Soc. America Bulletin, 97, 1–10.Palladino, D. M., and Simei, S., 2002, Jour. Volcanology and Geothermal Research, 116, 97–118.Lowe, D. R., 1982, Jour. Sedimentary Petrology, 52, 279–297.Ronneberger, O., Fischer, P., and Brox, T., 2015, MICCAI, 9351, 234–241.

  • 菊地 一輝, 成瀬 元
    セッションID: T6-P-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    本研究は,海底掘削コア画像から生痕化石の領域を自動抽出し,生物撹拌強度と生痕多様性を推定するモデルを開発した.海洋底生動物の活動による生物撹拌作用によって,海底の堆積物は移動・変形し,生痕化石として地層中に記録・保存される.生物撹拌作用の影響の大きさは,生物撹拌作用の強さ(生物撹拌強度)や生痕化石群集の分類群数(生痕多様性)として表現される.生物撹拌強度は一般に露頭面を占める生痕化石の面積の割合として見積もられる.また,生痕多様性には露頭の観察面積の増加に伴って見かけの多様性が増加する効果がある.この効果を補正するためにも,生痕分類群ごとの面積の割合が必要である(Kikuchi et al., 2018).このため,生物撹拌強度や生痕多様性の長期的な変動を復元するためには,堆積岩の断面画像から生痕化石の領域を自動的に抽出する方法が不可欠である.  そこで,畳み込みニューラルネットワークを用いたセマンティックセグメンテーション技術によってコア画像から生痕化石の領域を自動抽出するモデルを本研究は提案する.さらに,開発したモデルをIODP Expedition 322 Site C0011で掘削された海底扇状地堆積物のコア断面画像に適用し,生痕分類群ごとの予測性能を検証した.  Site C0011のコアは主に中新世の深海堆積物からなる(Pickering et al., 2013).調査層準からは,ChondritesNereitesPalaeophycusPlanolitesPhycosiphonScoliciaZoophycosの7属の生痕化石が産出した.コア断面に対する生痕化石の面積比を計算したところ,PlanolitesZoophycosが卓越した.本研究ではこれらの7属に加え,背景,コア断面,の合計9色でコア画像を人為的に着色した画像を作成して教師データとし,コア画像との関係をCNNに学習させた.CNNの構造にはU-Netを採用した(Ronneberger et al., 2015).また,U-Netのエンコーダ部にはImagenetと呼ばれる大規模画像データセットで事前学習を行ったEfficientNetV2(Tan and Le, 2021)を使用して転移学習を行った.  学習の結果,モデルを未知のコア画像に適用したところ80%程度のピクセルの分類が人為的に着色した正解画像と一致する推定画像が出力された.特に,背景とコア断面の領域は精度よく分類された.生痕化石では,教師データ中の面積比が大きかったPlanolitesZoophycosはある程度再現されたものの,その他の生痕属の予測精度は低かった.コア画像中を占める面積比が大きかった2属を除いて予測精度が低かった理由として,教師データの不足や生痕化石の分類の難しさが考えられる.たとえば,小型の生痕属はコア断面を占める面積比が小さくなりやすく,教師データを得にくい.また,生痕化石の充填物と母岩との色のコントラストが小さいPalaeophycusは色情報に基づいた分類が行いにくいと考えられる.今後の課題として,クラス間不均衡を補正した損失関数の採用や画像生成モデルを用いたドメイン適応によるデータ拡張によって,産出頻度の低い生痕属の分類を補助するような学習方法を検討する必要があるだろう.また,生痕化石の形態の特徴を抽出しやすい色空間やサンプリングウィンドウサイズを探索することで,分類の難しい生痕属も高い精度で推定可能なモデルを開発できるものと期待される.引用文献Kikuchi, K. et al., 2018, Palaios, 33, 204–217.Pickering, K. et al., 2013, Geochemistry, Geophysics, Geosystems, 14, 1722–1739.Ronneberger, O. et al., 2015, in Navab, N. et al. Eds., Medical Image Computing and Computer-Assisted Intervention–MICCAI 2015, Springer International Publishing, Cham. pp. 234–241.Tan, M. and Le, Q., 2021, Proceedings of the 38th International Conference on Machine Learning, PMLR 139, 10096–10106.

  • 中西 諒, 前田 歩, 芦 寿一郎, 天野 敦子, 山口 飛鳥
    セッションID: T6-P-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    地震調査研究推進本部(2022,日向灘及び南西諸島海溝周辺の地震活動の長期評価(第二版))は琉球海溝北部の海溝型地震について古地震の情報が不足していることから,M8以上の海溝型地震の発生確率は不明であるとし、さらなる調査が急務であるとしている.学術研究船「白鳳丸」KH-22-3次航海は,白鳳丸改修工事後の地学系観測機器類の習熟航海として奄美大島周辺前弧斜面の4サイトで採泥が実施され,マルチプルコアラーとピストンコアラーによる柱状試料が採取された.これらのコア試料におけるタービダイト層は更新世以降の地震履歴を明らかにする上で重要である.本報告ではその履歴や最大規模解明に向け,タービダイト層や火山灰層の起源について述べる. 対象とした採泥点は洪水による土砂流入のある海底谷などを避け,喜界島周辺前弧斜面域の凹地形から採泥された.得られたピストン・マルチプルコア試料は高知大学海洋コア国際研究所においてX線CTスキャン,MSCL-S測定を行った後,サンプリングを行った.コア試料中のガラス質な層準については東京大学大気海洋研究所のSEM-EPMAを用いて,火山ガラスの化学組成分析を行った.砂層については同所のX線回折分析装置によって回折パターンを得た. 火山ガラスの分析から,これまでに奄美周辺まで分布が報告されている鬼界Ah,姶良Tn,鬼界Tz,Ata火山灰といった広域火山灰が確認された一方で,西南日本でこれまでに報告例のない低K2O(約2%)で特徴づけられる系列の火山灰層が多数確認された.砂層の鉱物組成は,斜長石と輝石からなるグループと,石英・長石と炭酸塩鉱物で構成されるグループの大きく2種類に分けることができる.前者は石英をほとんど含まないことから,ローカルな火山活動による火山灰層の可能性がある.後者の炭酸塩に富む砂層は喜界島に近い地点でのみ確認され,鬼界Ah火山灰下位から2m程度の層準に限定的に確認された.これらの砂層の供給源をより詳細に推定するため,炭酸塩鉱物の種類や浮遊性・底生有孔虫の割合について浅海(約1000m以浅)の堆積物との比較を試みた.表層試料は産業技術総合研究所の海洋地質図調査においてグラブ採泥器で採取された.この試料の有孔虫および翼足類の計数結果については(長谷川・内村,2017,平成28年度研究概要報告書,地質調査総合センター速報)を参照した.浅海堆積物は採取地点の水深が増すほど浮遊性有孔虫の割合が増加し,翼足類・底生有孔虫の割合は減じて1000 m以深ではほとんど確認されない.これを反映して,鉱物組成は水深が増すほどMgに富むカルサイト(Mg-Cal)やアラゴナイト(Ag)の割合は減少し,1000m以深では確認されなかった.これを定量的に比較するためXRD回折パターン(2θ)における各鉱物のピーク分離を行い,ピーク面積比(Cal/Cal+Mg-Cal+Ag)を算出した.コア中の半遠洋性泥では底生有孔虫や翼足類に対して浮遊性有孔虫が90%以上を占めるのに対して,砂層では70%以下であることがわかった.砂層の炭酸塩ピーク面積比は0.3–0.6を示し,これは水深300–700mの表層堆積物と同等の値であった. このような結果からコア中の炭酸塩質砂層は斜面上部から供給されており,ラミナなどの堆積構造が確認されることからも地震・津波や洪水といった突発的なイベントによって形成されたタービダイト層であると考えられる.砂層の存在が陸域に近い採泥点に限られていること,完新世では確認できないことから,氷期の海退によって砂の供給源が近づくことで採泥点まで砂層が運搬されるようになったと解釈される.洪水起源の可能性を考慮する必要があるものの,地震性のものであれば,その破壊領域は限定的であった可能性がある.今後さらなる調査によって地震起源であるかを特定し,その分布から古地震規模を推定する必要がある.

  • 入野 智久, 山本 正伸, Giosan Liviu, Clemens Steven
    セッションID: T6-P-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    IODP U1445地点は、インド東縁から~94 km沖、マハナディ海盆南端、水深2502 mの大陸縁膨上部の平坦面に位置する。現在、懸濁物は夏モンスーン期にマハナディ川からもたらされる。陸棚が狭いために粒子は迅速に大陸斜面や大陸縁膨に運ばれるため、U1445地点堆積物は、植生、砕屑物フラックス、海洋表層塩分の推定を通して過去の夏モンスーン変動を復元するための理想的なアーカイブと言える。しかしながら、本地点の周囲は音波探査では水平に成層して見えてはいるが、完全にはタービダイトの堆積がないとは言えない。U1445地点は3つの掘削孔が設けられ、284.834 m CCSF-Aまではcomposite depthが作成され、それ以深は707.278 m CCSF-Aまでは各コアがただつなぎ合わされている。時代については、船上で確立された古生物および古地磁気層序によって、約600万年間をほぼ連続にカバーしていることが分かった。堆積物は生物源物質を多く含む半遠洋性粘土からなり時に薄いタービダイトを挟む。船上の生層序データ群を詳しく見ると、110, 250, 350-420, 630, 650 m CCSF-Aに年代の不一致があり、珪藻や有孔虫の再移動が示唆される。U1445地点の全層準に渡り軌道チューニングされた酸素同位体比を確立するために、底生有孔虫の安定酸素・炭素同位体比の測定が進められた。酸素同位体比は、1-5.5‰VPDBで変動し、時にスパイク状にベースラインから2.5‰以上低い酸素同位体比を示すこと、炭素同位体比には異常なスパイクが見られないことが分かった。このような同位体比の異常値は、水温が約10℃高く、栄養塩濃度がU1445地点とあまり変わらない大陸斜面上部の水深約250 mのところから再移動してきた底生有孔虫殻が含まれているからであると解釈される。一方、酸素同位体比のベースラインの変動は、典型的な標準酸素同位体曲線と同じパターンを示すので、再移動粒子を含む層準の時代的特徴、堆積相や組成との関係を検討していく予定である。

  • 中村 希, 坂本 泉, 横山 由香, 平 朝彦
    セッションID: T6-P-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    1.概要 駿河湾はプレート境界に位置し,最大水深が湾口部で約2500 mに達する急峻な地形的特徴を持つ湾である.湾奥部からは一級河川である富士川(全長約128 km)が流入し,大量の砕屑物を海域に供給している.梅雨や台風に伴う大雨時には,駿河湾奥部で河川流量増加に伴う堆積物重力流が発生していると考えられる.本研究では,駿河湾奥部における堆積物の変化および移動を把握することを目的に,採泥調査・岩相観察・粒度分析を行った. 2.方法 東海大学所有の調査船望星丸(約2000㌧),北斗・南十字(19㌧)を用いて,詳細な海底地形,後方散乱強度の取得,およびスミスマッキンタイヤ式グラブ採泥器を用いた表層堆積物試料採取を行った.堆積物試料は,アクリルの角柱容器による柱状試料,および各層(極表層:0~0.5 cm,表層,全体)を採取した.観測は,富士川河口から湾口に向かう南北測線上に設定した定点(トラフ軸に沿って水深20 m,50 m,100 m,300 m,~1500 mまで100 m毎)において,定期的(梅雨前・梅雨後・台風後)に実施している.本発表では,2021年の台風後,2022年の梅雨前・梅雨後・台風後,2023年の梅雨前の試料を用いた. 3.結果 海底地形の変換点をもとに,4つの範囲((1)水深20~100 m,(2)水深100~900 m,(3)水深900~1350 m,(4)水深1350 m以深)に区分した. (1)富士川河口から約1.0 km(水深20~100 m)までの範囲では,沖合より緩やかな傾斜(5.8°)を示した.堆積物は主に礫や砂質堆積物(中粒砂~粗粒砂)からなり,表層では生物擾乱が観察された.季節的な変化として,梅雨前には河口付近(河口から約0.6 km,水深20 m)において黒や茶に変色した植物片が層厚約数cmで堆積している様子が観察されたが,梅雨・台風後では観察されなかった. (2)河口から約1.0~6.3 kmの地点(水深100~900 m)は急勾配(9.1°)で特徴づけられる.表層堆積物は年間を通して,級化構造を示す礫や砂質堆積物(中粒砂~粗粒砂)の上に泥質堆積物が漸移的に堆積している.台風後の堆積物は台風・梅雨前の堆積物(中粒砂~粗粒砂)に比べ,粗粒な堆積物(中粒砂~礫)が確認された.(3)河口から約6.3~10.7 km(水深900~1350 m)では,上部よりやや緩やかな傾斜(8.1°)を示した.表層堆積物には砂質堆積物(細粒砂~中粒砂)の上に泥質堆積物が漸移的に堆積している特徴が観察された.河口から約7.4 km(水深1075 m)の地点では,2021年台風後の海底映像から富士川沿いに自生する植物に似た特徴を持つ緑色の植物が観察された.(4)河口から約10.7 kmより沖合(水深1350 m~)の傾斜は5.9°を示す.表層堆積物は,明瞭な境界を持つ泥質堆積物と砂質堆積物(細粒砂~極細粒砂)の互層からなる.2023年3月には,河口から約12.9 km離れた地点(水深1400 m)から,硫化物臭のする黒色の泥質堆積物が観察された.また,この地点周辺では海底映像から円礫や亜円礫の分布,北方向に凸部を持つ浸食地形,密集した植物片,堆積物により埋まった人工物などが観察された(中村ほか,2023).4.まとめ ①駿河湾奥部の堆積物に共通する特徴として,海底表面は泥質堆積物が分布しているが,その下位の岩相および粒度特徴は粒度は各水深帯で異なることが分かった.これらの駿河湾奥部の海底堆積物は,富士川河口から沖に向かって,その粒度が細粒化することが明らかとなった. ②駿河湾奥部の堆積物は陸源の植物片(葉や茎,木片など)を含む特徴がみられた.これらは,堆積物表面や柱状試料中に植物片層(層厚0.5 cm)として観察された.植物片の大きさは,沖合に向かって小さくなる(5 cmサイズから数mmに変化)特徴がみられた.また,台風後には,その分布が河口から沖合(水深1075 m以深)に広がる傾向が確認された.したがって,植物片は梅雨前には富士川河口付近に堆積するが,梅雨・台風時期に砕屑物とともに沖合まで運搬されることが考えられる. 以上より,堆積物の特徴および海底(水深約1400 m)に残された侵食地形なども合わせると,駿河湾では,梅雨・台風などに伴う河川増水によって,海底に植物片を含む礫などの粗粒な堆積物を移動・運搬する洪水性堆積物重力流が発生していると考えられる. 【引用文献】中村ほか(2023) JPGU2023,HCG-22-P01

  • 柴尾 創士, 坂本 泉, 横山 由香, 中村 希, 平 朝彦
    セッションID: T6-P-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    静岡県に存在する駿河湾は最大水深2500 mに達する構造性の湾である.湾内には富士川を含む4つの一級河川が流入しており,大雨時には河川から大量の砕屑物が湾内に供給される.2014年に取得した駿河湾内における後方散乱強度図から,富士川前面では粗粒な堆積物を示す強反射が南北かつ網目状に発達する様子が確認される.一方,駿河湾北西部に位置する三保半島沖合海域でも,海底谷-海底扇状地沿いに駿河トラフまで連続する東西かつ筋状に発達する強反射が確認され,堆積物移動の可能性が示唆される.しかし,三保半島に河川はなく,どのような堆積過程で粗粒堆積物の運搬が行われているかは不明である.本研究では,三保半島沖合の羽衣海底谷およびその延長上の海底扇状地における堆積過程を明らかにすることを目的とした. 調査は,後方散乱強度を基に羽衣海底谷-海底扇状地を東西方向(沿岸から沖方向,水深100~1350 m)に横断する測線を設定し,実施した.その際,地形図より測線の地形転換点,および平均勾配を基準とした地形区分を行った.試料採取は,スミスマッキンタイヤ式グラブ型採泥器を用いて,2022年8,10,11月,および2023年3,5,6月の計6回行った.また,採泥器には水中カメラを取り付け,採泥地点周辺の海底環境の把握を試みた.採取した試料は,バケット内部の採取状況を記録(写真,記載)した.その後,堆積物の岩相より極表層,表層,下層に区分し,持ち帰った.これらの試料とは別に角柱状アクリルケ-ス(5×6×20 cm)による柱状試料(層厚約8~13 cm)を採取した.各層に分けた堆積物試料は,ふるい法およびレーザー回析散乱法による粒度分析を行った.柱状試料は肉眼観察,ソフトX線写真を用いた岩相記載とレーザー回析散乱法による粒度分析を行った. 地形区分の結果,研究地域は①羽衣海底谷の谷部(水深100~水深450 m,傾斜約9.8 °,平均勾配約17.2%),②海底扇状地斜面上部(水深450~700 m,約7.7 °,約13.6%)③海底扇状地斜面下部(水深700~1000 m,約9.3 °,約16.4%),④海底扇状地末端部(水深1000~1300 m,約12.0 °,約21.3%),⑤駿河トラフ底(水深1300 m以深,約3.8 °,約6.6%)の5つに区分された.各区分における堆積物の特徴をまとめる. ➀羽衣海底谷の谷部(水深100~450 m)では,主に中粒砂から泥質堆積物(約5φ)が分布した.柱状試料の岩相は,ほとんどの試料で下位に礫を含む粗粒な堆積物(中粒砂から極細粒砂)とその上位の細粒砂から泥質堆積物からなった.ただし,2023年3月に水深450 mで採取した試料では,下位の粗粒な堆積物層に泥質堆積物の薄層(最大層厚1.5 cm)が複数狭在する様子が観察された.②海底扇状地斜面上部(水深450~700 m)では,極表層には主に泥質堆積物(約5φ)が分布し,地点による大きな違いは見られなかった.この範囲では採泥器に礫を挟んで上がってくることが多く ,柱状試料は得られなかった.しかし,その様子から下位には粗粒な堆積物が分布していると考えられる.③海底扇状地斜面下部(水深700~1000 m)では,主に泥質堆積物(約7φ)が分布し,極表層,表層ともに沖合に向かって細粒化する傾向が見られた.また,柱状試料は2地点で採取された.その岩相は,下位に礫を含む粗粒な堆積物とその上位の生物擾乱の発達する泥質堆積物からなった.また,泥質堆積物の最上位には酸化層が確認された.この酸化層には,2022年10月の試料では生物擾乱がみられないが,2023年5,6月の試料では生物擾乱がみられた.④海底扇状地末端部(水深1000~1300 m)では,水深1200 mからのみ試料を採取した.極表層は主に泥質堆積物(約4φ)が分布した.柱状試料の岩相はこれまでの地点と大きく異なり,砂と泥の互層からなった.この砂泥互層は,下位に中粒砂からなる砂層(最大層厚約2 cm)とその上位に5φ程度の泥質堆積物(最大層厚4.5 cm)からなる.この泥層は,下部にラミナ,上部に生物擾乱が認められる. 以上の結果から,三保半島沖の堆積物は,上位の細粒な層(泥から細粒砂)と下位の粗粒な層(極細粒砂から礫)からなる特徴を持つことが明らかになった.これらの堆積物は上位,下位層ともに,浅海域から深海域に向かって細粒化する傾向が認められた.したがって,この地域は一連の堆積過程で堆積していると考えられた.また,表層の酸化層内にみられた生物擾乱の変化から,表層1 cm程度は下位層と比較して変化を受けやすい可能性が推察される.海底扇状地末端部では,それより浅海とは異なり,砂泥互層からなる岩相が認められた.この違いは堆積過程の変化を示していると考えられる.

  • 渡邊 聡士, 坂本 泉, 横山 由香
    セッションID: T6-P-12
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    2011年3月11日三陸沖を震源とする東北地方太平洋沖地震(Mw.9.0)が発生した.それに伴う津波により,東北地方太平洋沖沿岸域に甚大な被害を受けた.東北地方の湾内浅海域から,この津波による津波堆積物が確認され,岩手県広田湾ではその起源が周辺海岸砂と津波前の海底堆積物にある可能性が推察された(横山他,2021).本発表では,砂粒鉱物組成を用いて津波堆積物の起源を明らかにするため,津波堆積物,津波前海底堆積物および周辺海岸砂の砂粒鉱物組成分析を行った.  調査は岩手県広田湾を対象に行った.広田湾の後背地質は,東西で異なり,湾東部(広田半島)に白亜系花崗岩類,湾西部(唐桑半島)に古生界堆積岩類が分布している.湾奥部からは2級河川の気仙川が流入し,周辺には石灰岩・デイサイト・花崗岩類・海成泥岩が分布している.広田湾は,湾東西で後背地質が異なることから,それぞれの特徴を示し,起源推定に適した湾と考える. 試料は,湾奥部(高田松原海岸),湾東部2地点(大陽・矢の浦,金室崎),湾西部2地点(古谷,福伏)を用いた.コア試料は,2013年に採取した13HV10(水深18.0 m,海岸から約2 km,全長141 cm),2014年に採取した14HV6(水深28.5 m,海岸からの距離約3 km,全長110 cm)を用いた.これらの試料に対し,レーザー回析散乱法による粒度分析,岩相記載,砂粒鉱物組成分析を行った.砂粒鉱物分析では,篩を用いて,粗粒砂,中粒砂,細粒砂に対して,実体顕微鏡を用いて1試料について,200個以上を同定した. 海岸砂の砂粒鉱物組成は,主に花崗岩片,石英,長石が確認された.花崗岩片は湾奥部に近い地域(高田松原海岸,大陽・矢の浦,古谷)で高い割合で見られた.湾奥部から湾口部に向けて,花崗岩片の割合は減少し,広田半島(金室崎)では石英や角閃石,唐桑半島(福伏)では堆積岩や斜長石が多く認められた. コア試料はいずれも上位の砂層(Layer1),下位(Layer2)の泥~砂混じり泥層に区分され,明瞭な不連続面で区分される.横山他(2021)により,両コア試料におけるLayer1は,2011年の東北地方太平洋沖地震による津波堆積物,Layer2は湾内通常堆積物と推定されている. 13HV10のLayer1(津波堆積物層)の層厚は約48 cm認められた.層内部(約24 cm)にも,沖へ傾斜する不連続面が確認され,その上部と下部は異なるタイミングに堆積した可能性が示唆される.13HV10の砂粒鉱物組成は,10 cm間隔で観察した.その結果,全体として花崗岩片・雲母・石英の順に多く確認された.どの層および粒度においても花崗岩片と雲母が約60~80 %の割合を占めた.層毎では,Layer1は花崗岩片・雲母・石英の順に高く,Layer2では雲母・花崗岩片での順に高く,主な鉱物組成が異なった.また,雲母の割合はLayer2と比較し,Layer1でその変化が大きい傾向が見られた. 14HV6のLayer1の層厚は約25 cm認められた.このコアは,Layer2の約103~105 cm層に極細粒砂が狭在し,下位層と明瞭な不連続面をもって区分され,過去のイベント層の可能性が考えられる.砂粒鉱物組成は,15 cm間隔で観察した.このコアでは,13HV10と異なり,生物片(貝殻片や有孔虫など)が確認され,一部の層では急激にその割合が増加した.鉱物組成は,主に雲母,花崗岩片,石英からなり,Layer1では,雲母,花崗岩片および石英が卓越し,雲母の割合が大きく変化する傾向が確認された.Layer2では雲母に加えて,生物片が多く見られた.また,Layer2に狭在する砂層の組成は,Layer1の組成と似通っており,イベント層は通常時堆積物と異なる組成を示す可能性が考えられる. 以上より,広田湾の砂粒鉱物組成は津波堆積物(Layer1)も津波前通常堆積物(Layer2)も,主に花崗岩片と雲母からなることが分かったが,コア試料中に見られた花崗岩片および角閃石は気仙川・広田半島を起源に持つ可能性が考えられる.コア試料の砂粒鉱物組成の割合は,Layer1とLayer2で異なることが認められた.特に13HV10では,Layer1では花崗岩片が卓越し,Layer2では雲母片が卓越した.また,14HV6のLayer2に狭在するイベント砂層は,Layer1と似通った組成を示し,イベント層の同定に砂粒鉱物組成が有用な情報を与えると考えられる.また,コア試料には,雲母が全体的に確認されたのに対し,海岸砂ではほとんど見られなかった(約0~7.5 %).これは,海岸が波浪の影響で雲母は堆積しにくい環境であると考えられる.[引用文献] 横山ほか(2021)堆積学研究,79(2),47-69.

  • 松本 弾, 澤井 祐紀, 谷川 晃一朗, 行谷 佑一, 宍倉 正展, 楮原 京子, 藤原 治, 篠崎 鉄哉
    セッションID: T6-P-13
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    古津波堆積物の正確な理解には,現世の津波堆積物を研究することが1つの鍵となる.2004年スマトラ島沖地震や2011年東北地方太平洋沖地震などによる現世の津波堆積物に関して,堆積学的・古生物学的・地球化学的な研究が数多く行われ,多くの知見が蓄積されてきた.このうち,堆積物の層厚や内部の堆積構造といった堆積学的な特徴は,基本的な記載事項としてほぼ全ての報告に載せられているが,粒度に関しては「細粒砂」などの肉眼観察上の記載や,1地点につき数点の試料の分析結果を代表値として報告されていることがほとんどであった.  演者らは,2011年の津波直後から宮城県~福島県にかけての8地域,123地点において津波堆積物に関する現地調査を行い,このうち49地点で試料採取を行っていた.Matsumoto et al. (2023) は,123地点の津波堆積物の記載やデータを整理するとともに,49点の試料について垂直方向に1 cmごとに粒度分析を行って平均粒径や含泥率などを算出し,層厚や堆積構造,軟X線撮影画像などとあわせて広範囲に広がる津波堆積物の堆積学的特徴を公表している.このような現世津波堆積物のアーカイブデータは,古津波堆積物の識別にとって有効な指標となるだけではなく,数値シミュレーションによる流れの復元や,数値モデルの評価に有用である.特に本論文の粒度データは,平均粒径などの統計値だけではなく,分析結果(測定区間:−5.25~6.25 φ,0.25 φ間隔)の生データが補足資料として公開されている.このような高解像度の粒度データはこれまでに公開された例は多くなく,数値シミュレーションの時間的分解能をより高めることにつながると考えられる. 以下にMatsumoto et al. (2023)で示された2011年津波堆積物の特徴を簡単に述べる.調査地域は,ほぼ平坦な仙台平野の5地域(勾配1‰以下)と,相双丘陵を開析した谷底平野の3地域(勾配1~2‰)である.2011年の津波は,前者5地域では約3~5 km程度,後者3地域では約2 km程度内陸まで浸水したことが明らかになっている(Nakajima and Koarai, 2011).津波堆積物は内陸約4 kmまでの範囲に形成されており,平均層厚は約9 cm(最大層厚65㎝)であった.1地点ごとの含泥率は0.4~96.6%と大きなばらつきがみられるものの,平均では10.6%と下位の土壌(平均含泥率32.9%)より低い値を示した.1地点ごとの平均粒径は−0.5 ~+2.7 φとばらつきがみられるが,平均では1.6 φと下位の土壌(平均粒径1.7 φ)とほぼ同じであった.大局的にみると,内陸に向かって薄層化,含泥率増加,細粒化する傾向が認められたが,これは一般的な津波堆積物の特徴である. 内部の堆積構造としては,級化/逆級化構造やマッドドレイプ,平行葉理が多くの堆積物でみられたほか,級化/逆級化を繰り返すユニット構造がみられることもあった.特に,逆級化構造を示す堆積物は海岸線から約0.7 kmまで,平行葉理がみられる堆積物は海岸線から約1.7 kmまでの範囲に限られており,この範囲には比較的強い流れの影響があったことが示唆される. 仙台平野周辺では,2011年の地震と同規模であった可能性がある869年貞観地震による津波堆積物が広く分布していることが知られている(たとえば,阿部ほか,1990).今後,古津波堆積物と現世津波堆積物の比較研究が進めば,貞観津波の流速や波高などの より詳細な状況を復元できる可能性がある. References阿部 壽ほか (1990) 地震第2輯,43, 513–525.Matsumoto et al. (2023) PEPS, https://doi.org/10.1186/s40645-023-00553-3.Nakajima and Koarai (2011) Bull. Geospat. Inf. Auth. Japan, 59, 55–66.

  • 山口 直文, 大内 孝雄
    セッションID: T6-P-14
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    湖沼堆積物の粒径は,過去の気候変動に伴う湖沼環境の変化や洪水などのイベントを復元するための指標の一つとして古くから用いられてきた.堆積物の粒径から過去の履歴を正確に解釈するためには,その特徴を適切に代表するパラメータを求め,解析することが必要となる.粒径に関するこれまでの多くの研究では,単峰性の分布を想定した中央値や淘汰度,歪度などの統計値を代表パラメータとして用いられてきた.しかし,湖沼堆積物はしばしば複数の起源や堆積過程を経た混合物からなり,その粒度分布は多峰性の複雑な形を示す.このため,前述のような単峰性分布を想定した統計値では,湖沼堆積物に含まれる複数の起源や堆積過程それぞれを代表し説明できるとは言い難い.近年,こうした複雑な粒度分布を,複数の成分に分離して扱ういくつかの手法が提案され用いられているが,その解析方法はまだ確立されていない.そこでこの研究では,霞ヶ浦西浦(狭義の霞ヶ浦)および北浦の湖底表層堆積物を対象として,粒度分布の対数正規分布成分への分離による解析を試みた. 霞ヶ浦西浦および北浦は,茨城県南部に位置する海跡湖である.これらの湖は,湖底地形の特徴や平均水深(約4 m),最大水深(約7 m)が共通する一方で面積が異なる(それぞれ172 km2および36 km2).今回対象とした湖底表層堆積物は,2022年6月から7月に,霞ヶ浦西浦および北浦のそれぞれ湖心を中心とした16地点と14地点においてエクマンバージ採泥器を用いて採取した.採取した堆積物は,10%過酸化水素水によって有機物を除去した後,レーザー粒度分析装置(島津製作所,SALD-2300)を用いて粒度分布を測定した.得られた粒度分布は,RのmixRパッケージ(Yu, 2022)を使用したEMアルゴリズムによって複数の対数正規分布成分に分離した.分離する成分数は赤池情報量基準およびベイズ情報量基準を評価基準として用いて決定した. 西浦および北浦の湖底表層堆積物の粒度分布は,共通した平均粒径を持つ5つまたは6つの対数正規分布成分に分離された.これらの成分をさらに4つの成分群(粗粒な成分群から順にCG1–4とする)に分類し,その混合割合について解析を行った.不変動成分の推定法である変動係数法(Ohta et al., 2011)を用いたテストの結果,西浦・北浦ともに最も細粒な成分群CG4が湖内での変動が小さいと推定された.この結果を元に,CG4を規格化成分としたCG1–3の対数比解析(Aitchison, 1986)を行った結果,CG2,3はCG4と同様に湖内で比較的一様の対数比の値を示すのに対して,最も粗粒な成分群であるCG1の対数比は湖内でばらつき,湖岸から離れるに連れて値が小さくなる傾向が西浦・北浦に共通して見られた.この結果は,成分群CG1が,粗粒な砕屑物がある沿岸域から波浪などによって拡散し堆積したものであることを示唆している.一方,湖内で一様な成分群CG2–4は,湖内で生産された珪藻や,風成塵などを反映していると考えられる.また最も粗粒な成分群CG1の対数比は,西浦に比べ北浦においてより短距離で減少していた.この傾向は,西浦と北浦の吹送距離の違いによる波浪作用の強度の大小を反映している可能性がある.本研究は,複雑な粒度分布をもつ湖沼堆積物に対して,成分分離と適切な解析を行うことで,粒径によって異なる湖内での堆積過程を分けて推定できる場合があることを示唆している.また,湖底表層の堆積物だけでなく,コア試料などにおいても同様の解析を行うことで,特徴的な粒径成分を定量的に抽出し解釈できる可能性がある.引用文献Aitchison, J. (1986) Chapman & Hall, London, 400 pp.Ohta, T., Arai, H. and Noda, A. (2011) Mathematical Geosciences, 43, 421–434.Yu, Y. (2022) Journal of Open Source Software, 7(69), 4031.

  • 浜橋 真理, 高下 裕章, 照井 孝之介, 福地 里菜, 川村 喜一郎, 奥田 花也, 山口 飛鳥, 濱田 洋平, 井尻 暁, 辰巳 寛二, ...
    セッションID: T6-P-15
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    The geomorphology of submarine channels along the Nankai subduction zone exhibits complex nature that are likely the result of dynamic climatic, tectonic, and oceanic forcings. Submarine canyons are considered to be important passageways for sediment transport from the hinterland and continental shelf, feeding into the trench floor and ocean basin. The Shionomisaki Canyon (SC), with walls of up to ~600 m in height, is a major submarine canyon that has incised into the forearc basin and accretionary prism along the Nankai Trough. The evolution of submarine canyons in active margins and their depositional/incisional processes, however, are yet poorly constrained (Puig et al. 2014). Along the SC, complex forms of sediment waves are inferred, and instability of canyon walls is suggested by multiple scars, gullies, steep flanks and debris flows. During YK23-10S Cruise, high-resolution multi-beam bathymetry data covering ~4600 km2 around the full length (upstream to downstream) of the SC was acquired onboard the R/V Yokosuka, using a Kongsberg EM 122 Multi-narrow Beam Echo Sounder, operating at sonar frequencies of 12 kHz, with 432 beams by dual swath, and swath width of 120°. Together with bathymetry survey, sub-bottom profiler data was acquired using the 3300-HM (EdgeTech) Subbottom Profile Subsystem. The motivation of our research is to characterize the seafloor of the contemporary SC using the newly acquired MBES dataset, focusing on the channel morphology and backscatter seismic facies of seafloor sediments. Generally, the intensities of acoustic signals backscattered from the seafloor indicate seafloor characteristics such as interface roughness, acoustic impedance, and surficial heterogeneity, related to seafloor composition, grain size, and small-scale topographies (Lamarche et al. 2011). In this study, we investigate the seafloor sediment distribution from the derived relationship between sediment mean grain size and backscatter angular response. For this purpose, we conduct analyses of facies and grain size using the push core sediments acquired at the channel floor and adjacent terrace surface during the dives of the R/V Shinkai 6500, which provided a unique opportunity to sample seafloor sediments along the SC. Reference: Puig, P. et al (2014), Ann Rev Mar Sci; Lamarche, G. et al (2011), Cont Shelf Res

  • 才鴈 純平, 川村 喜一郎
    セッションID: T6-P-16
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    《はじめに》那珂湊層群は茨城県ひたちなか市の白亜紀後期の海成堆積層であり,下位より築港層・平磯層・磯合層で構成されている (築港層は現在消失).Masuda and Katsura(1978)ではWalker(1978)のWalker Fanとの対比から堆積域を海底扇状地としている.この海底扇状地のモデルは現在までに粒径や供給形態,地形を加味したさらに多様なモデルが示されている (Reading and Richards, 1994).本研究では地表踏査を基に白亜紀後期の後背地・前弧環境を踏まえた海底扇状地モデルを考察し、那珂湊層群でのより詳細な堆積環境を提示する. 《野外調査による那珂湊層群堆積相の特徴と解釈》 以下に地表踏査の結果より,那珂湊層群の堆積相を6区分し,その特徴と解釈を記す.1)平磯層下部(HL)(特徴)泥岩層が卓越し,変形を受けた数m厚の 厚層砂礫岩層が狭在する.泥岩層には変位量約10cm-3mの共役・逆断層とスランプ褶曲が広く発達する.(解釈)泥岩層の褶曲と共役・逆断層の一部は海底地すべりの末端部を示すと考え,変形厚層砂礫岩は斜面への近接を予感させる事から、堆積環境は斜面近傍の海盆~斜面下部と推定する. 2)平磯層上部(HU)(特徴)泥岩層がやや減少し,砂礫岩層が増加する上方粗粒化の傾向にある.植物片が多産し,貝化石片も確認された.ここでもスランプ褶曲が観察される.(解釈)上方粗粒化とスランプ褶曲からはHLより斜面上方の堆積環境を示すと考える. 3)磯合層下部1(IL1)(特徴)砂礫岩層の急激な増加によって特徴づけられる.礫組成は火成岩類が最も多く,約75%を占める.Convolute laminationを示す砂岩層と数m厚の中~巨礫岩互層の重力流堆積物が確認された.一部の砂岩層には生痕化石が見られる.ここでもスランプ褶曲が確認された.(解釈)礫の増加と砂岩中の生痕化石は更なる浅海化を予感させる.粗粒な礫岩層の堆積はChannel/Chute上の堆積物と解釈する.また,スランプ褶曲は堆積環境が引き続き斜面であったことを想定させる. 4)磯合層下部2(IL2)(特徴)ILIと対照的に再び泥岩層が卓越する.ILIとの境界は大規模な傾斜逆転層が見られ,礫主体のILIから本堆積相への変化過程は不明である.本堆積相の最上部では生痕化石が見られた.(解釈)泥岩層の卓越は深海化を想定させ,逆転層を大規模スランプ構造とすると深海化した斜面と考えることができる. 5)磯合層上部1(IU1)(特徴)泥質部に所々に砂礫岩層を挟在し,緩やかな上方粗粒化の傾向にある.生痕化石と生物擾乱が砂岩層と泥岩層で見られ,合弁二枚貝や炭化木片が泥岩層で見られた.スランプ褶曲は一か所のみ観察された.(解釈)上方粗粒化,化石の頻出,スランプ褶曲減少の三つの特徴は,陸に近接した浅海化する静穏な緩斜面を想定させる.6)磯合層上部2(IU2)(特徴)引き続き上方粗粒化傾向にあり,砂礫岩層によって特徴づけられる.ここでもスランプ褶曲が一か所のみ観察された.IU2と同様生痕化石や炭化植物片も確認される.(解釈)砂礫岩層の増加と化石の頻出から,IU2から引き続き浅海化する緩斜面を想定する. また,HU~IL1では粗粒化を示すのに対し,IL2では泥質優勢となるなど,堆積進行に伴い,海水準の影響を受けた可能性が示唆される. 以上より那珂湊層群は主として,斜面の発達と同時に浅海化を示す粗粒堆積物と地すべり体に富んだ堆積層であり,少なからず,海水準変動の影響を受けていたと考える. 《ファンデルタスロープ=海底扇状地》 石坂ほか(2021)では,白亜紀後期の前弧に沿った後背地隆起帯の存在がしめされており,那珂湊層群の礫組成からもこれを支持できると考える.この場合,隆起帯下のデルタから直接に埋積が進行する前弧海盆へと粗粒堆積物を供給するファンデルタの形成を推測する.Reading and Richards (1994) ではこのような後背地の隆起帯に起因したファンデルタのスロープ上の堆積体について,粗粒粒子や地すべり体に特徴づけられたGravel rich typeの海底扇状地としてモデル化している.上記の那珂湊層群の特徴,すなわち粗粒堆積物,地すべり体,浅海化と斜面の発達は前弧海盆を粗粒斜面が前進するというこのファンデルタスロープ上の海底扇状地の発達過程と符合するものであると考える. 《参考文献》石坂ほか (2021) 地学雑, 130, 63-83. Masuda and Katsura (1978) Ann. Rep. Inst. Geo., Univ. Tsukuba, 4, 26-29. Reading and Richards (1994) AAPG Bull., 78, 792-822. Walker (1978) AAPG Bull., 62, 932-966.

  • 明石 凌河, 石原 与四郎
    セッションID: T6-P-17
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに 宮崎県宮崎市から日南市の海岸沿いには,新第三系宮崎層群が分布する.宮崎層群は,大きく浅海相の"宮崎相”と,タービダイトが卓越する"青島相"の2つのタイプの層相が卓越し,このうち"青島相"は厚くかつ単調なタービダイト砂岩と半遠洋性泥岩の互層からなる."青島相"は,下位から双石層,家一郷層,郷之原層,蛇ノ河内層,青島層と累重し,海岸沿いに最も厚く分布するのは蛇ノ河内層である(たとえば,中村ほか,1999).最上部の青島層に関しては,その層厚頻度分布が特徴的であることや,認められるタービダイトも逆級化層が見られることが明らかになっているほか,一部の層準・区間ではセディメントウェーブが発達することも指摘されている(石原ほか,2009;Onishi et al., 2018).一方,青島層下部から蛇ノ河内層にかけては,下位に向かって厚い半遠洋性泥岩優勢互層からタービダイト優勢互層へと変化する傾向が明らかになっているが,詳細な層相やその層序的変化は明らかになっていない.また,これらの半遠洋性泥岩優勢互層には厚さ20 m以上にもなる砂岩が挟在されているが,これらと通常の互層との関係も不明である.本研究では,蛇ノ河内層の最上部の層準において凝灰岩鍵層を用いながら対比を行い,およそ400層の連続柱状図を作成し,その層相と層序的変化について検討した.蛇ノ河内層最上部の対比 本研究では,厚層の砂岩が認められる日南市の観音岬から鵜戸神宮まで,5カ所の区間で柱状図を作成し,計5層認められる薄層の凝灰岩鍵層(J1~J5)を用いて対比を行い,一つの連続柱状図を得た.これは,厚層砂岩から下位に向かっておよそ150 m分にあたる.凝灰岩鍵層はいずれも1~3 cmと薄く特徴が少ないため,上位・下位のタービダイトの層厚パターンも考慮に入れて対比を行った.タービダイトのタイプ 認められるタービダイトは,基本的に青島層(Onishi et al., 2018)と良く似る.すなわち,典型的なタービダイトのように,Bouma Sequenceの一部を示すことが少なく,大きく級化,塊状タイプに分けられ,級化するものは5 m以上は連続する平行葉理をなすもの(GHor;Onishi et al., 2018)および薄層で平行葉理を示すもの(GPl;Onishi et al., 2018)で70%近くを占める.一方で,青島層では特徴的であった逆級化するタイプが見られず,シルト質のタービダイトが10%ほど認められる.層厚の層序的変化 タービダイトや半遠洋性泥岩の層厚変化は以下のような特徴がある.すなわち,大きく上部(厚層砂岩から半遠洋性泥岩の累積層厚にして60 m程度)と下部に分けられ,上部では10 cm以下の薄層タービダイトが卓越し,特にシルト質のタービダイトはこのほとんどこの層準にのみ認められる.このとき,半遠洋性泥岩の層厚は10~90 cmと非常に変化に富む.一方で,下部は層厚20 cm程度に平均を持つタービダイトが多く,層数,層厚ともに多い.また,半遠洋性泥岩の層厚は,10~20 cm程度とほぼ一定である.下部から上部への移行は,半遠洋性泥岩の積算層厚にして10 m程度と比較的速やかである.蛇ノ河内層最上部の堆積環境 厚層砂岩を挟んだ上位(石原ほか,2014)と,本研究で取り扱った下位の層厚や層相は,顕著な違いは認められない.そのため,挟在する厚層の砂岩によって堆積場の大きな変化はなかったと考えられる.一方,下位から上位に向かって急激にタービダイトの挟在頻度が減り,異なるタイプのタービダイトが堆積し始めるという現象は,基本的にはタービダイトの連続性が良く,海岸に沿った細長い堆積盆が想定される宮崎層群においては,外的要因というよりはむしろ前孤海盆内における堆積体の移動等に起因すると考えた方が自然である.文献:石原ほか,2009,堆積学研究,67,65-84;石原ほか,2014,地質雑補遺,120,41-62;中村ほか,1999,地質雑,105,45-60;Onishi et al., 2018, Jour. Sedim. Res., 88, 260-275. 本研究の一部には,科研費基盤研究(B)18H01293を利用した.

  • 李 琪, 竹内 誠, 橘 颯人, 藪田 桜子, 淺原 良浩
    セッションID: T6-P-18
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    Introduction: Detrital zircon U−Pb dating is not available only to constrain depositional age, but also to infer its provenance. However, provenance has not been discussed in these previous studies. In this study, provenance analysis for the Sanbagawa Metamorphic Rocks in the eastern Kii Peninsula based on detrital zircon U–Pb dating was carried out.Analytical methods and Result: U–Pb dating of detrital zircons from psammitic rocks of the Sanbagawa Belt in eastern Kii Peninsula, Japan was carried out. Tectonic unit was divided based on lithology and the YZ (youngest age of single grain) and YC1σ (weighted mean age of the youngest cluster). Four sedimentary types are distinguished according to zircon age proportions: Cretaceous type, Permain–Jurassic type, Precambrian type and mixed type. Combining age data with geological characteristics of the area and compare with previous studies (Jia and Takeuchi, 2020), we divide into four complexes: Kayumi Complex (Cretaceous and mixed types), Haze Complex (Precambrian type), Hachisu Complex (Cretaceous and mixed types) and Mayoidake Complex (Permian–Jurassic type) with their deposition–accretion ages estimated as 98–79, 75–72, 89–79, and 155–96 Ma, respectively.Discussion: The provenance of the Precambrian type zircons (mainly 1900 Ma) is considered to derived from the North China Block and the Korean Peninsula. The Permian to Jurassic zircons may have been supplied from Permian to Jurassic volcanic arc in the eastern margin of Asian continent including the Hida Belt in Japan and northeastern China. The provenance of Cretaceous zircons (110–70 Ma) is considered to be Late Cretaceous volcanic arc on the eastern margin of the Eurasian continent such as the Ryoke Belt in Japan island. We conclude as follows. When volcanic activity is strong during 90–85 Ma and 82–78 Ma, the Cretaceous igneous rocks cover on the surface and Cretaceous batholith is uplifted, preventing contact with other places. During the mild volcanic period during 85–82Ma and 78–72Ma, the influx pathway to depositional basins of the sediments recovered due to the erosion.Reference: Jia, S. and Takeuchi, M. 2020, Journal of Asian Earth Sciences, 196, 104342.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    杉山 春来, 吉田 孝紀
    セッションID: T6-P-19
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに: 古第三紀の日本列島は, 日本海形成以前のユーラシア大陸東岸に位置していたことが知られている. 日本海と中央高地の形成によって, 現在の日本列島は海洋の影響が大きい気候条件下にある. 日本海と日本アルプス等の中央高地の形成は新第三紀から第四紀にかけて生じており,(原山ほか,2003;菅沼ほか,2003) 古第三紀の日本列島は現在と大きく異なる気候条件下にあったと考えられる. そこで,本研究では東北日本常磐地域の日本海形成前の古第三系始新統–漸新統と日本海形成後の新第三系中新統に発達する古土壌を対象に古環境復元を行い, 古風化環境や当時の日本列島の気候条件を比較検討した.地質概説: 古第三系始新統–漸新統では白水層群石城層(須貝ほか,1957),新第三系中新統では湯長谷層群椚平層(半沢,1954)を研究対象とした.石城層は脊椎動物化石の記録や,花粉化石及び貝類化石群集の変化から,古第三紀後期始新世から前期漸新世に堆積したとされる(須藤ほか,2005).一方,椚平層は20.8±1.2 Ma及び17.4±1.0 MaのFT年代が報告されており,下部中新統とされる (久保ほか, 1994, 2002).堆積相と古土壌構成: 常磐地域での堆積相解析の結果, 本研究地域の石城層は主に礫質河川堆積物と蛇行河川の氾濫原堆積物から構成される. 本層では, 礫質河川のマイナーチャネル堆積物, 蛇行河川の氾濫原堆積物および後背湿地堆積物において古土壌を認めた. 本層の古土壌のほとんどは明瞭な土層分化を伴わない未成熟なものである.しかし,氾濫原の古土壌には、明瞭な土層分化がみられ,土壌生物の糞であるペレットを豊富に含み,土層分化に伴って形成される集積粘土層がよく発達しているものも認められる.このような結果は,本研究地域が排水性の高い地形条件の下で,温暖かつ降水量の多い気候下にあったことを示唆する.   一方,本研究地域の椚平層は主に蛇行河川のチャネル堆積物・氾濫原堆積物・後背湿地堆積物から構成される.椚平層は石城層と比較して細粒堆積物の層厚が厚く,石炭層を多く挟む.本層では,チャネル堆積物・氾濫原堆積物・後背湿地堆積物において古土壌を認めた.本層の古土壌は石城層の古土壌よりも強く土壌化する傾向を示し,赤褐色の特徴的なB層を伴う明瞭な土層分化,集積粘土,豊富な根化石に特徴づけられる.赤褐色の古土壌層はHurst (1977)が示す加水酸化鉄による酸化的な土壌環境を示唆する.さらに,後背湿地堆積物では,根化石を産する古土壌が発達するが,青灰色の土色を呈し,根化石は鉄酸化鉱物の被膜によって覆われる.このことは,初生的には高温の気候下において,排水性の高い地形環境のもとで土壌化が進行し,その後地下水位の上昇に伴って地下水グライ化を被ったことを示す.議論: 石城層と椚平層での古土壌構成の違いは,降水量や気温,季節性といった当時の気候条件の違いや堆積システムの違いを反映している可能性がある.古土壌の検討では,古第三紀始新世後期~漸新世初期では温暖湿潤な環境であったのに対し,新第三紀中新世前期では高温かつ季節性多雨を伴う気候であったと考えられる.しかし本研究の結果はごく限られた地域での局所的な排水条件あるいは堆積環境の変化による可能性があるため,今後それぞれの古環境についてより広域的な検討が必要である.引用文献: 原山ほか, 2003, 地質雑, 42, 1-14. 半沢正四郎, 1954, 東北地方, 日本地方地質誌, 344p. Hurst, V. J., 1977, Geol. Soc. Am. Bull., 88, 174–176. 久保ほか, 1994, 地域地質研究報告 (5万分の1地質図幅), 地質調査所, 104p. 久保ほか, 2002, 地域地質研究報告 (5万分の1地質図幅), 産業技術総合研究所地質調査総合センター, 136p. 須藤ほか, 2005, 地質調査研究報告, 56, 375-409.須貝ほか, 1957, 日本炭田図I, 地質調査所, 143p. 菅沼ほか, 2003, 第四紀研究, 42, 321-334.

  • 荒戸 裕之, 山本 由弦, 山田 泰広, 保柳 康一, 金子 一夫, 國香 正稔, 白石 和也, 千代延 俊, 吉本 剛瑠, 関山 優希
    セッションID: T6-P-20
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    1.はじめに 発表者らは海底地すべりの発生メカニズムを堆積学的に理解し運動学的なモデルを構築することを目的に研究を進めている[1, 2, 3].この過程で,一般的な地質調査に加えて三次元デジタル露頭モデル等を活用した地質解析を実施し,地すべり堆積体の多様で複雑な内部変形構造と滑動様式を検討したので,その概要を報告する.2.手法(1) 準備作業:富山県上市町稲村露頭の調査に先立ち,作業員および重機を導入して,灌木や下草類の伐採と露頭前面下部の崖錐被覆堆積物の除去を実施した.(2) 地質調査:露頭下部の地表付近については,一般的な岩相層序調査ならびに堆積相解析を実施した。詳細な堆積構造および変形構造を観察するため,グラインダー等を用いて一部露頭面の研磨を行なった.露頭高所については高所作業車を用いて近接し,岩相層序および堆積相の解析を行なった.(3) 空中写真撮影:ドローンを用いて,鉛直上空からのシリーズ画像および各露頭面に直角の斜めシリーズ画像をオーバーラップ率が85%以上になるように撮影した.(4) 三次元テクスチャーモデル製作と解釈への活用:ドローン空撮のシリーズ画像を三次元モデリングソフトウェア「pix4Dmapper」に取り込んで三次元デジタル露頭モデルを製作し,これを用いてより確度の高い地層対比や構造解釈を行なった.3.結果(1) 層序・岩相・地質構造:稲村露頭に分布する地層は,下部中新統福平層折戸凝灰岩部層の凝灰岩,凝灰角礫岩および凝灰質砂岩泥岩互層である[4].互層中の泥岩にはまれに大型植物の葉片化石が含まれるが,年代決定に資する微化石あるいは大型化石は検出されていない.分布する地層は,岩相の特徴に基づき,下位からA~Gの7ユニット(A, E〜G:凝灰岩および凝灰角礫岩,B〜D:凝灰質砂岩泥岩互層)に区分される.互層中の泥岩層には,大小の生痕化石が認められる.露頭の範囲全体としては約25度の北傾斜で,大局的には安定した地質構造をもつ.(2) ユニットDの変形様式:同層は内部に顕著なスランプや撓曲,低角逆断層などの変形構造を有し,概ね10〜15m程度の層厚を有する.これらの変形構造は,層内の逆断層を境にした北側のみで観察され,逆断層の南側では下位のユニットB, Cと調和的で安定した走向傾斜をもつ.内部変形構造の観察されないユニットDの層厚は約5mである.(3) ユニットDの鍵層追跡:同層の互層は,堆積学的特徴の異なる8層(便宜的に下位からD1〜8と仮称)の凝灰質砂岩鍵層と挟材する凝灰質泥岩層の繰り返しからなる.凝灰質砂岩層の層厚はそれぞれ15〜55cm程度で,基底部の極粗粒から細粒へ上方細粒化し凝灰質泥岩層へ漸移する.凝灰質泥岩層は,見かけ上,10〜55cm程度の層厚をもつ.露頭北部の同層は,南方向への滑動により布団を畳むように折り曲げられ,褶曲軸面付近に形成される低角逆断層によって上盤側が下流へ変位して,8層全体ないしその一部,ならびに逆転した一部が繰り返すことによって層厚を増している.(4) 地すべりの滑動モデル:以上の特徴から,これらの変形構造はユニットD堆積後の早い時期に北方から南方へ向かう当時の斜面下方へ同層が滑動し,層内の逆断層を先端としてそれより上流側が滑動方向に短縮したことによって形成されたものと解釈される.それらの変形が形成される過程は,1) ユニットDはある場所から上流側が基底面を境として滑動し,滑動しないユニットDに乗り上げる, 2) その過程で横臥褶曲を作るが,3) 活動による短縮量が褶曲で解消しきれなくなるとすべり面が上位へ分岐しさらに乗り上げていく,4) こうした変形がオーバーステップ状に上流側へ波及することでユニットD, Eの変形が累積し成長する,と解釈される.4.まとめ 稲村露頭では,地質時代の水中地すべり堆積体の可視的な最小単位の変形構造を観察することができた.これらの空間的な位置および姿勢を詳細に記載するとともに,すべり面,低角逆断層面の物性を観察することで,その運動学的モデルを導出することができる.謝辞:英修興産有限会社,立山黒部ジオパーク協会の諸氏,有限会社きんた,鉄建建設株式会社に心より感謝する.なお,当該研究には日本学術振興会科学研究費(19H02397)の一部を使用した.文献:[1] 荒戸, 2018, 地質学会講演要旨, 110., [2] 荒戸, 2022, 石技誌, 87, 136-146., [3] 荒戸ほか, 2023, 堆積学会講演要旨, 9-10., [4] 金子, 2001, 地質雑, 107, 729-748.

  • Hannes STENGEL, Christoph HEUBECK
    セッションID: T6-P-21
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    The Paleoarchean Moodies Group (ca. 3,220 Ma) in the central Barberton Greenstone Belt comprises up to around 3.7km thick, sandy alluvial- to tidal-facies sediments interspersed with diverse, syn- to shortly post-depositional intermediate to mafic (sub-)volcanic units. Renown for harbouring the up-to-date oldest known record of macroscopic mappable biomats in a siliciclastic tidal environment on earth, these densely biolaminated sub- to supra-tidal sandstones are pervaded by abundant, up to 6m high fluid-escape structures. Feeding small sand volcano ridges, their distribution is largely restricted to a single, ca. 150m thick, highly silicified sandstone unit overlying the Moodies-aged Lomati River Sill, ca. 1km below. Semiquantitative μXRF-mapping of slabbed fluid-escape structures suggests substantial enrichments of Fe, Mg, Ti, and Cr between the conduits and their surrounding beds, implying influences past mere microbial fluid-retention and overpressure build-up from decaying biomats in the shallow subsurface. Supported by sediment textures indicative of argillaceous and sericitic alteration, Raman temperatures ca. 50 – 100°C above the regional maximum, and past field observations of hydrothermal alteration and peperites nearby, we propose the substantial involvement of hydrothermal fluids generated in the thermal aureole of the cooling Lomati River Sill. Thermal and chemical gradients may have boosted microbial growth, while surficial pre-compaction silicification favoured the preservation of delicate microbial remains.

  • 高橋 宏明, 清川 昌一, 安永 雅, 池端 雄太, 池原 実, 高畑 直人
    セッションID: T6-P-22
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    1.はじめに五島列島は日本列島の最西端に位置しており,日本海拡大時に関連する下部-中部中新世の五島層群からなる.五島層群は22-15Ma頃に堆積しており,層厚が2000-3000mあり,下部ユニットが火山砕屑岩,中部ユニットが小規模河川・湖堆積物,そして上部ユニットが厚い河川堆積物からなる(Kiyokawa et al., 2022).五島層群において,当時の層序別の表層環境状況を明らかにするために,炭素物質が入った泥岩に着目し,詳細な露頭における堆積層解析や新鮮な泥岩の顕微鏡観察を行った.また,黒い炭素質物質の起源状態,硫酸還元菌などの寄与を調べるために,有機炭素濃度(TOC)分析及び炭素安定同位体比(δ13Corg),全硫黄量(TS),硫黄安定同位体比(δ34S)測定を行った.2.手法出来るだけ炭素物質の入った泥岩層に着目し,ルートマップ作成/柱状図作成/ファシス解析によりどのような堆積場かを認定し,五島層群における下部から上部にかけての泥岩層の変化を観察した.次に採取した泥岩から薄片を作製し,構成鉱物や黒色炭化物の特徴を光学・電子顕微鏡で観察した.さらに採取した泥岩試料の乾燥・粉砕後,6NHClを用いて炭酸塩を除去したバルク試料80個のTOC及びδ13Corgを高知コアセンターにて元素分析装置FlashEA1112(Thermo Electron Corporation製)を用いて測定した.最後にバルク試料30個のTS,δ34Sを東京大学大気海洋研究所にて安定同位体比質量分析装置(Isoprime 100)を用いて測定した.3.地層の特徴と炭素/硫黄分析結果・中部ユニット上部(戸楽) リップルや地域的に斜交層理を伴う砂岩主体の砂岩泥岩互層からなる.堆積環境は蛇行河川の氾濫原と考えられる.鏡下観察ではほとんど石英粒子が入らない粘土であり,10-40μmの黒色紐状有機物が確認された.全5試料測定し,TOCは0.03~0.19 %,δ13Corgは-25.4~-23.9‰であった. 2試料のみTSは0.13及び0.36%であり,δ34Sは0.3と5.6‰であった.・上部ユニット下部(登屋ノ首) イプシロン型の斜交層理を伴う厚さ10mを超える砂岩主体の砂岩泥岩互層からなる.砂岩中には平行葉理に発達した,厚さ数cmの木炭を挟む.堆積環境は巨大河川周辺部に広がった氾濫原と考えられる.鏡下観察ではシルトサイズの石英や植物片を含む.全7試料測定し, TOCは0.32~0.62 %,δ13Corgは-32.8~-25.0‰,2試料のTSは0.10%であった.また木炭のTOCは5.80%,δ13Corgは-25.4%であった. 特異的に泥岩試料中には大きさ20μmの白色楕円形の殻を持つ炭酸塩粒子があり,δ13Corgは-30‰よりも軽い.4.生物と堆積環境陸上植物は大気中の二酸化炭素の自由交換による光合成回路の違いによりC3植物とC4植物に分けられる(Cormie and Schwarcz, 1994).低温と湿った環境を好むC3植物のδ13Cは-21~-35‰の範囲内であり,一方で比較的温暖で乾燥した環境を好むC4植物のδ13Cは-6‰~-19‰と高い.五島層群の泥岩中の炭素安定同位体比は-32.8~-23.9‰であり,C3植物を由来と考えられる.また全硫黄量は29試料で0.3%以下を示しており,淡水性を示す領域を示す.本地域の泥岩は海水の影響を受けない淡水での堆積環境を示し,五島層群が河川や湖起源とする堆積相解析の結果を支持する.5.まとめ 五島層群の泥岩層の平均のTOCは0.2%,δ13Corgは-25.4‰を示す.これは単体で測定した木炭の値と一致しており,当時その地域に茂っていた木々やイネなどのC3植物が起源と考えられる.これらの湿地帯では,海の影響がなく,硫酸還元菌が繁栄するようなヘドロ状態ではない比較的酸化的な湿地帯であったと推察する.引用文献Cormie, A. B. and Schwarcz, H. P., 1994: Stable isotopes of nitrogen and carbon of North American White-tailed deer and implications for paleodietary and other food studies. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 107, 227-241.Kiyokawa, S. et al, 2022, Stratigraphic reconstruction of the lower-middle Miocene Goto Group, Nagasaki Prefecture. Japan, Islands arc, p.1-39. https://doi.org/10.1111/iar.12456

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    上村 葵, 足立 奈津子, 江﨑 洋一, 劉 建波, 渡部 真人, Gundsambuu ALTANSHAGAI, Batkhuyag EN ...
    セッションID: T6-P-23
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    オンコイドとは,生砕物などを核として,その周りに同心円状ラミナが発達する球状炭酸塩粒子のことである.ラミナの発達する被覆部は,微生物活動に起因する粒子のトラップや炭酸カルシウムの沈殿によって形成される.オンコイドは,先カンブリア時代から知られているが,カンブリア紀以降のオンコイドは,多様な石灰質微生物類を含むものがあり,微生物類がオンコイドの形成に果たした役割を解明する上で重要である.モンゴル西部ゴビ・アルタイ県に分布するBayan Gol層(カンブリア系テレヌーブ統)には,層厚約8mのオンコイド層が産出する.そこから分離した個々のオンコイドの被覆部は,層状,波状,斑点状,樹状を示す.本研究は,一般的なオンコイドとは異なり特異な樹状組織が顕著なオンコイドに注目し,その特徴と形成様式を検討する.樹状組織が顕著なオンコイド(樹状タイプ,総数10個)は,平均長径が61.6 mm,平均短径が49.2 mmで,長径/短径比が1.25で球に近い外形を示す.他の組織を持つタイプ(合計74個)の平均長径は52.0 mm,平均短径は36.6 mmで,樹状タイプは大きい.オンコイドの核は多くの場合不明瞭である.樹状組織は,外部へ凸状のラミナが累積した柱状構造を持ち,それは,核の周囲から放射状に発達する.また,一部では,ラミナが側方に広がり,柱状構造が連結し,ストロマトライトにおける “柱状-層状組織”に類似するラミナの累積様式を示す.さらに,柱状構造はしばしば分岐する.柱状構造間は,ぺロイド状粒子や石英粒子により充填される.柱状構造の内部には,上方に伸長するフィラメント状石灰質微生物類が存在する.柱状構造間を連結するラミナでは,柱状構造部とは異なるフィラメント状石灰質微生物類(Girvanella)が密集する.豊富なGirvanellaを含む明暗ラミナの累積が顕著な「層状組織」の周囲に「樹状組織」が発達する場合や,「樹状組織」の周囲に「層状組織」が発達するなど,被覆部内で組織が漸移的に移行する例も稀に認められる. 樹状タイプのオンコイドの形成過程は以下の通りである.(1)核表面で,フィラメント状微生物類が上方へ成長した.この過程で,凸状ラミナが累積する柱状構造が形成され,同時に柱状構造間にぺロイド状粒子や石英粒子が堆積した.(2)イベント時(堆積物の流入時等)には,フィラメント状微生物類の成長は抑制されたが,一方,Girvanellaが繁茂して側方に広がり柱状構造の間を連結するラミナを形成した.(3)抑制要因がなくなると,フィラメント状微生物類が再び上方に成長し柱状構造が形成された.(4)1から3を繰り返しつつ,樹状タイプのオンコイドは,水流などの影響で転がり,微生物類の成長箇所は次々に変化するため,その過程で核表面を覆って形成された組織は全方向に発達した.さらに,樹状タイプは,他のタイプのオンコイドとは異なりウーイドをほとんど含まず石英粒子を含むという特徴を持つ.このため,樹状タイプのオンコイドは,陸源性砕屑物が流入する環境で形成されたと推定できる.

  • 中村 拓, 栗原 敏之
    セッションID: T6-P-24
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    秋吉帯に含まれるパンサラッサ海遠洋域で形成された礁成石灰岩では,その堆積期間中で主要な造礁生物群集が4度変遷したことが明らかになっている(Nakazawa et al., 2015).特に,後期石炭紀Moscovian期~Kasimovian期にかけて,それまで優勢であったサンゴ類・海綿動物chaetetidsからなる後生動物主体の生物礁が衰退し,石灰藻類とTubiphytesが優勢な生物礁へ変化したことは,秋吉帯石灰岩の生物史の中でも大きなイベントであった. 新潟県糸魚川市に分布する青海石灰岩では,前期石炭紀Visean期~Moscovian期後期の堆積環境と造礁生物の変遷が明らかにされている(中澤,1997;Nakazawa, 2001).Moscovian期中期にはchaetetidsからなる生物礁が発達し,Moscovian期後期になるとHikorocodium (?) sp.,phylloid algaeなどの石灰藻類の生物礁が優勢になるとされる.しかし,寒冷化が激化したとされるMoscovian期後期~Kasimovian期以降の石灰岩の堆積相・生物相については詳細に検討されていない.本研究では,青海石灰岩が分布する糸魚川市黒姫山北麓で掘削されたボーリングコア試料(深度335~220 m)を用い,堆積環境と造礁生物の変遷について考察した.検討区間のコア試料は全て石灰岩で,岩相に基づき,2つのユニットに区分した.試料の年代は,Moscovian期後期~Kasimovian期と推定される. Unit A:主に原地性の生物骨格によって形成されたboundstoneが卓越する.こうしたboundstoneには,細粒なバイオクラストを粒子として含むpackstoneを挟在する.年代はMoscovian期後期である.今回,Unit Aを以下の6つのサブユニットに区分した.Unit A1:Hikorocodium (?) sp. rudstoneとbioclastic grainstoneからなる.Unit A2:Hikorocodium (?) sp.–phylloid algal boundstoneが卓越する.Unit A3:層状のchaetetidsがboundstoneを構成する.Unit A4:大規模なHikorocodium (?) sp. boundstoneが含まれる.その他,packstone中に原地性のchaetetids,四射サンゴ類,phylloid algaeが孤立成長している産状がみられる.Unit A5:phylloid algal boundstoneからなる.Unit A6:主にHikorocodium (?) sp. boundstone/rudstoneからなる. Unit B:grainstone/rudstoneとpackstone/wackestoneが繰り返し,まれにphylloid algal-Tubiphytes boundstoneおよびTubiphytes boundstoneを含む.年代はKasimovian期である.バイオクラストに富む石灰岩では,下位のUnit Aと異なり,粒子としてTubiphytesのクラストが多量に含まれる. 両ユニットの岩相から,これらの堆積環境は,Unit Aがラグーン相とラグーン中の生物礁,Unit Bが砂浜相とラグーン相が繰り返す環境であったと推定される.これらの石灰岩は,環礁の形態を呈する礁複合体において,背礁側の堆積環境で形成されたといえる. Moscovian期後期に形成されたUnit Aでは,Unit A2,4,6にて原地性と判断できる密集したHikorocodium (?) sp.が観察され,当時の主要な礁形成者であったと考えられる.また,Unit Aにはphylloid algae,chaetetids,四射サンゴ類が含まれており,Hikorocodium (?) sp.のコロニーの近傍に生育していたと推定できる.Kasimovian期に形成されたUnit Bからは造礁生物としてphylloid algaeとTubiphytesが産する.また,Tubiphytesはバイオクラストとして多量に含まれる.そのため,Kasimovian期の青海石灰岩では秋吉石灰岩と同様,phylloid algaeとTubiphytesが繁栄していたと考えられる. 謝辞:明星セメント株式会社,太平洋セメント株式会社,デンカ株式会社には,ボーリングコア試料の研究に協力いただいた.文献:中澤,1997,地質雑.Nakazawa, 2001, Facies.Nakazawa et al., 2015, Facies.

  • 高島 千鶴, 奥村 知世, 狩野 彰宏
    セッションID: T6-P-25
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    生命が誕生した先カンブリア時代の大気・海洋環境の変動は縞状鉄鉱層やストロマトライトのような縞状堆積物に記録されているはずである.それらを対象にした堆積学的・地球化学的な研究が多くなされているが,縞状組織の周期や成因については不明な点が残されている.そこで本研究では先カンブリア時代の堆積岩と①構成鉱物,②ミクロオーダーの縞状組織,③微生物による鉱物沈殿,という類似点がある温泉堆積物に焦点を当てる.先行研究では鉄分に富む温泉堆積物は縞状鉄鉱層,炭酸塩温泉堆積物はストロマトライトのモダンアナログとして研究されている(e.g., Takashima et al., 2011, Okumura et al.,2011).しかし,これらの温泉堆積物は堆積速度が速く,温泉水の流路変化により数年スケールの長期的なデータを取得することが困難であった.本研究ではより堆積速度が遅いシリカを主成分とした温泉堆積物を研究対象とした. 鹿児島県指宿市にあるたまて箱温泉の温泉水は無色・無臭の高温(約100℃)・中性である.ナトリウムイオンと塩化物イオンを主成分とする海水起源の温泉水である.シリカは約180mg/L含まれている.シリカ温泉堆積物は源泉から下流に向かって約170m2に渡り扇型状のテラスを形成している.シリカ堆積物の堆積速度を見積もるために,源泉から約4m下流の地点にタイルを設置した.2019年10月にタイルを設置した際は水の流れはほとんどなく,2020年7月に水の流れが回復し,シリカの堆積が開始した.2020年12月に1回目の回収,2021年10月に2回目の採集を行なった.タイルに堆積したシリカ堆積物をタイル堆積物と呼ぶ.1回目に採集したタイル堆積物は厚さ1.5mm,2回目に採集したタイル堆積物は厚さ3〜11mmであった.1回目の採集時では堆積物の最表面は白色層であった.2回目の採集時でも,最表面は白色であるが全体的にこの白色層の厚さは1㎜以下と薄くなっていた.タイル堆積物は下位から白色層,有色層,白色層,有色層の順に堆積し,ミリ単位の縞状組織が見られた.白色層は孔隙質でフィラメント状のものが見られ,拡大すると幅2㎛程の微生物が確認できた.有色層では,有色層内にさらミクロン単位の縞状組織が認められた.電子顕微鏡観察によると,白色層は微生物が堆積面に垂直に伸びていた.それに対し,有色層は白色層よりも少ない微生物の菌体が堆積面に水平になっていた.タイル堆積物に白色層と有色層は各2層ずつ見られるが,特徴はどちらも共通していた.また,タイル堆積物以外のシリカ堆積物にも同様の組織・構造が確認されていた. タイル堆積物は約1年3ヶ月の間に有色層と白色層を周期的に繰り返していた. タイル直上は有色層であることから,有色層は夏に堆積すると考えられる.12月に採集を行なった時のタイル堆積物の表面は白色層で冬に対応すると考えられる.また,採集2回目の10月にも最表面が薄い白色層であったことから,10月頃には白色層が堆積し始めていることがわかる.したがって,夏に有色層が堆積し,冬(夏以外)に白色層が堆積していると推測される.温泉成シリカ堆積物の縞状組織に光合成細菌であるシアノバクテリアの関与が報告されている(Konhauser et al.,2001).たまて箱温泉のシリカ堆積物については顕微鏡観察により微生物の存在は確認できているが,微生物群集構造の特定には至っていない.今後,遺伝子解析を行う予定である.タイル堆積物の有色層に見られたミクロン単位の縞状組織は縞1本あたり幅約180㎛であった.タイル堆積物は堆積開始日から採集日の466日間で,全体の厚さとして約11.1㎜成長しているため,1日に約24㎛ずつ堆積していると見積もることができる.このことから有色層に見られるミクロン単位の縞状組織は日周期ではないと考えられる.【引用文献】 Takashima et al.(2011) Geomicrobiology Journal 25, 193-202.Okumura et al.(2011) Geomicrobiology Journal 30,910-927.Konhauser et al.(2001) Sedimentology 48, 415-433.

  • 佐久間 杏樹, 村田 彬, 高島 千鶴, 狩野 彰宏
    セッションID: T6-P-26
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    土壌成炭酸塩とは、蒸発の盛んな乾燥地域の土壌中で間隙水から沈殿する炭酸塩であり、様々な年代・地域の陸成層からノジュールや層状カルクリートといった形態で産出し、過去の環境を知る手がかりとして用いられてきた。特に、土壌成炭酸塩の酸素・炭素同位体比は沈殿時の水の情報を記録することから、古環境を調べるうえで重要な手掛かりとなる。土壌成炭酸塩の酸素同位体比は降水の酸素同位体比と炭酸塩沈殿時の温度、沈殿時の水の蒸発量と関係があることが知られている(Cerling, 1984; Quade, 2014)。つまり、酸素同位体比の変化は研究地域の水循環や気候条件の変化を示していると解釈される(e.g., Levin et al., 2007)。また、形成時の温度を仮定することで土壌成炭酸塩の酸素同位体比から求められる降水の酸素同位体比は、高度と関係があることが示されており、過去の高度の推定にも用いられている(e.g., Rowley and Currie, 2006)。一方で、炭素同位体比は土壌中の有機物の炭素同位体比と大気二酸化炭素の混合率と関係して変化する。土壌中の有機物の炭素同位体比は植生の割合(C3植物、C4植物、CAM植物)によって異なる値を取り、植生の変化から気候条件の変化が解釈されている (Cerling, 1984)。また、有機物の炭素同位体比などを仮定して土壌成炭酸塩の炭素同位体比から大気二酸化炭素の炭素同位体を計算し、大気二酸化炭素濃度を推定する手法も確立されている(e.g., Breecker and Retallack, 2014)。 このように土壌成炭酸塩の酸素・炭素同位体比を用いて過去の環境を調べる研究は行われてきたが、地質学的な観点から現世土壌成炭酸塩の記載や酸素・炭素同位体分析、鉱物種の鑑定などを同時に行った研究例は少ない(Candy et al., 2012)。また、研究地域はヨーロッパや北アメリカなど一部の地域に集中しており、その他の地域における研究例は限られている。本研究では、オーストラリア南オーストラリア州の35地点にて、母岩や降水量などの条件が異なる現世土壌成炭酸塩の産状の観察を行い、炭酸塩沈殿物が集積している層準から試料を採取した。実験室にて、採取した試料の偏光顕微鏡による構造の観察や、バルク試料の酸素・炭素同位体比の分析、XRD分析による鉱物種の同定を行ったので、それらの結果について報告をする。

  • 淺野 凱, 河西 夏美, 保柳 康一
    セッションID: T6-P-27
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    1.はじめに 北部フォッサマグナ新潟堆積盆地は日本海拡大に伴って形成されたリフト堆積盆地であり,厚い新第三系-第四系によって埋積されている.研究地域は北部フォッサマグナの一部であり,新潟県長岡市南部の渋海川西岸の丘陵地帯に位置する.この地域周辺には鮮新世から続く構造運動によって多くの褶曲構造が形成されており,本研究地域は八石背斜・渋海川向斜・山屋背斜・不動沢向斜の影響を受けている.研究対象としたのは更新統の魚沼層群であり,非海成層と海成層の繰り返しで形成さされており,堆積相解析に化学分析を加えて,堆積環境の変遷をより詳細に考察した.2.研究手法 八石背斜東翼の東西3km,南北15kmの範囲に分布する魚沼層群について,東西方向の19ルートの野外調査によって1/2500のルートマップを作成し,堆積相の記載を行った.なお,一部ルートでは1/1000で堆積相を記載した.これらの結果から堆積相分布図を作成し,堆積相解析を行い堆積システムを復元した.さらに,調査地域北部の奔走川と南部の芝ノ又川で泥岩試料を厚さで約10m間隔になるように採取し,全有機炭素量(TOC),全窒素量(TN),有機物の安定炭素同位体比(δ13C)分析を行った.これらの結果を総合して,堆積システムを考察した.3.堆積相と堆積環境 野外調査による岩相の組み合わせと堆積構造から,礫質主要河川道,氾濫原,分流河川河道,河口洲,干潟,前浜,上部外浜,下部外浜,内側陸棚,外側陸棚,海進期外浜の11の堆積相が見いだされた.さらに,調査地域南部の芝ノ又川では,下部魚沼層以下にのみ外浜以深の堆積環境を示す堆積相が見出されたが,北部の奔走川では中部魚沼層にも陸側環境下で形成されたと解釈される堆積物が存在する.4.堆積システムと化学分析 前述した堆積相の組み合わせから,本研究地域では,河川システムとエスチュアリーシステム,海岸平野システムの3つの堆積システムを設定した.河川システムは,下部魚沼層から上部魚沼層にかけて,チャネルの深さに相当する厚さ数mの粗粒な堆積物と,氾濫原に対応する厚い泥質堆積物とから構成される.エスチュアリーシステムは,下部魚沼層,また中部魚沼層から上部魚沼層の一部にかけて見られ,生物擾乱を強く受けた砂岩層から構成される.河川性の堆積物を覆って,砂質干潟の堆積物が見られることから,河川システムが海進に伴ってエスチュアリーシステムに変化したと考えられる.またその上位に河川システムが発達することから,海進によって形成されたエスチュアリーが,その後の海退によって河川成堆積物で埋積されたと考えられる.海岸平野システムは南部では下部魚沼層のみに,北部では下部魚沼層と中部魚沼層に見られ,漸移的にエスチュアリーシステムに移り変わる.これは研究地域の北側に隣接する,保柳ほか(2000)の堆積システム変遷と一致する.また,本研究地域の北部と南部を比較すると,南部の方がより河川の影響を受けている.このことから,本研究地域は南部から海洋が河川の影響を受けて埋積されたと考えられる. 化学分析のTOC値とC/Nは,上位に向かうにつれ値が大きくなる.これは上位へ向かうにつれ,陸源有機物を含む堆積物が増加することを示す.TOC値が3%を超すような値の堆積物は,河川の影響を非常に強く受けていると考えられ,礫岩に伴う亜炭層が見られる陸上環境の特徴を持つ地層中に見られる.また,上部にもC/Nから海洋の影響を受けていると考えられる部分がある.岩相でも生物擾乱や生痕化石などエスチュアリーの環境であったこと推測でき, C/Nの結果と一致する.δ13C値は,下位から上位へ向かうにつれて,値が小さくなる傾向を示す.これは上位へ向かうにつれて陸源性の有機物が増加したと考えることができる.また,分析値のほとんどの値が-25‰より低いのは,魚沼層群堆積期を通して陸源性有機物の寄与が大きかったと考えられる.δ13C値がやや高い値を示している部分でのC/Nの増加は,海洋有機物の供給が増加したと捉えられるため,エスチュアリー環境を示す堆積相とも一致する.5.結論  研究地域の魚沼層群は,一部海岸平野システムを挟在しながら,主に河川システムとエスチュアリーシステムの繰り返しで形成される.また,上位へ向かうにつれ河川システムの影響が強くなっていくことが考察される.さらに南部には河川環境が比較的多く見出され,北部には海洋環境が見出される.堆積システムの累重と化学分析の結果は,海進,海退の繰り返しと堆積盆地埋積に起因すると考えられる.6.文献保柳康一他,2000,地球科学,54,393-404.

  • 村宮 悠介, 吉田 英一, 勝田 長貴, 隈 隆成, 三上 智之
    セッションID: T6-P-28
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】炭酸塩コンクリーションは、堆積岩(物)中に形成される緻密な炭酸塩質岩塊で、多くの場合、その中には保存状態の良い化石が含まれている。中でも、中生代の海成層からはアンモナイトを含むコンクリーション(「アンモナイトコンクリーション」)が多く産出する。これに含まれる多くのアンモナイトは立体的な殻形状を保っており、連室細管のような繊細な構造が保存されることは珍しくない。このことから、アンモナイトコンクリーションは、アンモナイトの古生物学的研究において、極めて重要な役割を果たしてきた。しかし、それらがどのような地球化学的な過程を経て形成されたのかは、未だよく分かっていない。本研究は、北海道北部・天塩中川地域の白亜系蝦夷層群オソウシナイ層から産出したコンクリーションとアンモナイト内部の方解石充填物について、それらの産状、鉱物学的または地球化学的特徴を分析し、アンモナイトコンクリーションの形成環境を推定した。【地質概説】オソウシナイ層は白亜紀の前弧海盆で堆積したもので、生物擾乱の著しい暗灰色泥岩を主体とし、無数のアンモナイトコンクリーションを含んでいる。オソウシナイ層からは陸上植物化石が多産すること、また稀ではあるが陸上爬虫類化石も見つかることから、陸からそう遠くない堆積環境が想定される。【結果】コンクリーションにはアンモナイトや二枚貝類などの化石が密集して含まれていた。それらは立体的に保存されており、殻表面の溶解は認められなかった。いくつかのアンモナイトでは、住房部(生存時に軟体部が収まっていた部分)の奥が炭酸塩鉱物で充填物されていた。充填物のうち最も殻に近い側は、厚さ約0.3~2.2 mmの軸放射性の方解石層(BC1)で構成されている。BC1にはFe濃集帯とリン酸カルシウム包有物が見られた。また、その炭素安定同位体比(δ13C)は−22.5~1.2‰、酸素安定同位体比(δ18O)−1.0~−0.2‰で、δ13Cは負の値が優勢であった。コンクリーションは方解石質で、母岩に比べて相対的にFe、Mn、Mg、Ca、Pが濃集し、その元素組成はBC1と類似する。コンクリーションのδ13Cは−18.6~−0.7‰、δ18Oは−2.8~−1.4‰であった。【考察】オソウシナイ層のアンモナイトの住房部奥部には、方解石の充填物が形成されていた。この産状は、住房部に軟体部が残ったまま堆積物に埋没した証拠と解釈されている(Olivero, 2007)。本研究の方解石充填物は、負のδ13Cと親生元素のP濃集を示すことから、BC1とコンクリーションは、アンモナイトの遺骸を含む有機物が炭素源になって形成されたと考えられる。また、BC1に見られるFeの濃集帯は、BC1が形成された時に間隙水のFe濃度が増大したことを示唆している。有機物が堆積物表層近くの鉄還元帯で分解されると、Fe3がFe2に還元され、間隙水中のFe2濃度が上昇する(Burdige, 1993)。このことから、BC1は鉄還元帯での有機物分解に伴って形成されたと考えられる。また、BC1とコンクリーションの元素組成や同位対比組成が互いに類似することから、コンクリーションも鉄還元帯で形成された可能性が高い。鉄還元帯での有機物分解は、Fe3が豊富に供給されることと、生物擾乱によって堆積物が混合される環境では特に促進される(Canfield et al., 1993)。オソウシナイ層は陸原砕屑物(鉄酸化物としてFe3を含む)が多く供給される環境で堆積したことと、生物擾乱が著しいことから、鉄還元帯での有機物分解が促進され、結果として続成過程の初期にコンクリーションが形成されやすい環境であったと推察される。コンクリーションの形成環境の推定結果は、堆積構造と化石の保存状態との関係を整合的に説明することができる。蝦夷層群では、葉理の発達した層準に比べて、生物擾乱の顕著な層準は、コンクリーション内部の化石の保存状態が良いことが指摘されている(Maeda, 1991)。このことは、生物擾乱の顕著な層準では、コンクリーションの形成が埋没後の早い時期に生じたことを示唆する。これは、生物擾乱が顕著な堆積環境では鉄還元帯での有機物分解が促進されるため、葉理が保存されるような堆積環境と比べて、続成過程の初期にコンクリーションの形成に適した環境が生じたためと考えられる。【引用文献】 Burdige, 1993, Earth Sci. Rev., 35, 249–284. Canfield et al., 1993, GCA, 57, 3867–3883. Maeda, 1991, Lethaia, 24, 69–82. Olivero, 2007, Palaios, 22, 586–597.

T7.鉱物資源研究の最前線
  • 見邨 和英
    セッションID: T7-O-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    深層学習は,多層のニューラルネットワークを利用してデータの持つ複雑なパターンを学習する,機械学習の一手法である.近年,深層学習は自動運転や医療画像の診断,チャットボットなど,日常生活においても様々な場面に応用され,革新的な成果がもたらされている.本発表では特に,深層学習を用いた画像処理技術にフォーカスする.観察は地球科学の中で最も基本的な研究手法の一つでありながら,高度な知識や技術を持つ専門家が時間をかけて実施する必要があるために効率的なデータの蓄積が困難であることや,定量的な評価が難しいことなどが課題として存在した.深層学習によってこれらの課題を克服することができれば,地球科学研究における観察の意義がさらに高められると期待される. 発表者らはこれまでに,レアアースを高濃度で含む深海堆積物「レアアース泥」の成因研究を進める中で,様々な鉱物粒子を含む顕微鏡画像からレアアース泥の年代決定に有効な魚類の歯や鱗の微化石「イクチオリス」を自動で検出する深層学習システムを開発した [1, 2].この結果,従来の手作業での化石観察と比べて,観察できる化石数を1−2オーダー高めることが可能になった.さらに,この研究で使用した深層学習技術を海底熱水鉱床の物理探査にも応用し,マルチビーム音響測深機で取得した音響画像から,海底熱水活動のシグナルを自動で検知する手法を開発した [3].上述した微化石の観察,音響画像の解析はいずれも,技術を持つ専門家が時間をかけて実施してきたが,深層学習の適用によって従来手法よりもはるかに高効率で処理を行うことが可能になった.さらに,これらの研究を通じて,深層学習が単に既存の研究を効率的に進めることに寄与するだけでなく,取得できるデータの膨大さや解析の即時性を活かした新しい展開にも繋がる可能性が示されつつある.本発表では,これまでに発表者らが検討してきた深層学習技術について概説するとともに,開発した深層学習システムによって得られた最新の研究成果について報告する.これらを踏まえ,深層学習・画像処理技術の将来展望や今後の適用課題等について議論を深めたいと考えている.【引用文献】 [1] Mimura et al. (2023) ESS Open Archive, doi: 10.22541/essoar.168500340.03413762/v1 [2] Mimura et al. (2022) Applied Computing and Geosciences, 16, 100092. [3] Mimura et al. (2023) IEEE Journal of Selected Topics in Applied Earth Observations and Remote Sensing, 16, 2703-2710.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    松波 亮佑, 安川 和孝, 中村 謙太郎, 加藤 泰浩
    セッションID: T7-O-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    レアアースに富む深海堆積物である「レアアース泥」は,新規レアアース資源として開発が期待されている [1].これまでの研究において,レアアース泥の品位や分布にはバリエーションが認められており,こうしたバリエーションを生じさせている因子を理解することは,今後の開発に向けた有望海域を推定する上で重要な手掛かりとなると考えられる.こうしたレアアース泥の組成バリエーションは,堆積速度や魚類の生産性といった海洋環境の長期変動とそれに伴う海洋-堆積物間の物質収支の変動により生じてきたことが示唆されている [2, 3].これらの知見はいずれも,様々な海域の堆積物試料に対する鉱物学的・地球化学的分析に基づいて得られてきた.その一方で,これらの因子がレアアース泥の生成にもたらす影響について広域的かつ定量的に議論を行うには,数理モデルを用いた理論的アプローチが有効であると期待される.そこで本研究では,太平洋全域を対象とする海洋-堆積物間のNd質量収支ボックスモデルを構築し,レアアース泥の生成に関連する環境因子について定量的検討を行なった.本モデルでは, 近年注目されている海水-堆積物間のレアアース収支に関する相互作用を組み込み,堆積物から海洋へのレアアースの流出を考慮すると共に,大陸からのダストフラックスと堆積速度を明示的に関連づけるなど,より現実に即したシミュレーションが可能となっている.構築したモデルを用いて,レアアース泥生成の支配因子を検討した.最初に,モデルの感度分析を行なった結果,大陸縁辺域から海洋へのレアアースの流出がレアアース泥の品位に対して大きな影響を与えることが明らかとなった.次に,様々な地質記録から推定される炭酸塩補償深度や大陸のケイ酸塩岩風化強度,ダストフラックス,および全球的な海水準 (大陸縁辺域の面積に影響する) の長期変動を強制力としてモデルに与え,レアアース泥生成の長期シミュレーションを行なった.その結果,実際の遠洋性堆積物コア試料に見られるレアアース泥品位の増減の傾向を概ね再現できることが明らかとなった.しかしながら,本研究のシミュレーションでは,一部の海域のレアアース泥に特徴的に見られる顕著に大きなレアアース濃度ピークを再現することはできなかった.これを再現するには,堆積物中でレアアースを濃集するBCP (Biogenic Calcium Phosphate) フラックスの寄与をモデルに組み込むなど,海洋生態系の変遷も考慮したモデルへと改良する必要があると考えられる.[1] Kato, Y. et al. (2011) Nature Geoscience 4, 535-539.[2] Yasukawa et al. (2016) Scientific Reports 6, 29603.[3] Mimura (2021) The University of Tokyo, Ph. D. thesis.

  • タンパ マーシェルエマニュエル, 安川 和孝, 大田 隼一郎, 中村 謙太郎, 加藤 泰浩
    セッションID: T7-O-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    Rare-earth elements & yttrium (“REY”) play a crucial role in the development of high-tech electronics and energy-efficient appliances. However, the global supply of REY resources faces potential risks, production dominance by China and the environmental concerns due to radioactive contents in REY ores onshore. Under such circumstances, REY-rich mud is attracting attention as a new REY resource[1]. Particular attention has been paid to the 'extremely REY-rich mud' with a total REY concentrations (ΣREY) exceeding 5000 ppm found within Japan's exclusive economic zone (EEZ) around Minamitorishima in the western North Pacific[2, 3]. The extremely REY-rich mud, which is important in terms of resources, has so far been found only in the Minamitorishima EEZ and ODP site 1149 to the north of the EEZ. Recent study have also reported layers with relatively high concentrations of REY (ΣREY = 2000–4000 ppm) from the Penrhyn Basin in the central South Pacific[4]. In this study, therefore, we analyse chemical compositions of ten deep-sea sediment cores recovered during the GH83-3 Cruise. We report the first discovery of extremely REY-rich mud from the Penrhyn Basin and discuss their geochemical characteristics and with previously studied the REY-rich mud. [1] Y. Kato et al., “Deep-sea mud in the Pacific Ocean as a potential resource for rare-earth elements,” Nat Geosci, vol. 4, no. 8, pp. 535–539, Aug. 2011. [2] K. Iijima et al., “Discovery of extremely REY-rich mud in the western North Pacific Ocean,” Geochem J, vol. 50, no. 6, pp. 557–573, 2016. [3] K. Fujinaga et al., “Geochemistry of REY-rich mud in the Japanese Exclusive Economic Zone around Minamitorishima Island,” Geochem J, vol. 50, no. 6, pp. 575–590, 2016. [4] J. Ohta, K. Yasukawa, K. Nakamura, K. Fujinaga, K. Iijima, and Y. Kato, “Geological features and resource potential of deep-sea mud highly enriched in rare-earth elements in the Central Pacific Basin and the Penrhyn Basin,” Ore Geol Rev, vol. 139, p. 104440, Dec. 2021.

  • 中村 謙太郎
    セッションID: T7-O-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    近年、カーボンニュートラル実現に向けて再生可能エネルギー関連機器や電動車等の製造に必要不可欠であるレアアース・レアメタルの獲得競争が激化している。これらの資源の供給をほぼ100%輸入に頼っている日本にとって、その将来的な安定供給の確保は重要な課題であると言える。このような中,2012年に南鳥島周辺の日本の排他的経済水域 (EEZ) 内においてレアアース泥が発見されたことで,国産レアアース資源の開発に向けた期待は高まっており [1]、特に2013年に発見された総レアアース濃度5000 ppm以上の超高濃度レアアース泥層は,その極めて高い資源ポテンシャルから大きな注目を集めている[2]。 この資源として有望なレアアース泥の分布や資源量を見積るのに重要な役割を果たすのが、成因の解明である [3].堆積物の成因を考察するためには,層序に関する情報が不可欠であるが,レアアース泥を含む南鳥島EEZの深海底堆積物は,遠洋性粘土と呼ばれる記載的な特徴に乏しい堆積物であり,一般的な記載による層序区分が難しいという問題があった [4].そこで,発表者らの研究グループでは,化学組成の特徴から層序を区分する「化学層序」の手法を,南鳥島のレアアース泥を含む深海堆積物に適用した [5].さらに発表者は、昨年の地質学会においてUniform Manifold Approximation and Projection (UMAP) [6] という次元削減手法とHierarchical Density-Based Spatial Clustering of Applications with Noise (HDBSCAN) [7] というクラスタリング手法を組み合わせた新しいアプローチによって,南鳥島EEZの深海堆積物のクラスタリングを行い,その結果を元に化学層序を再定義した [8].これにより、南鳥島EEZの海底堆積物の層序とレアアースピーク形成イベントのタイミングが明らかとなった。 本研究では、この新たな層序を手掛かりとしてレアアースピークの成因を解明することを目的とする。発表では、層序の欠落を詳細に追跡することにより堆積物の削剥イベントの発生タイミング、分布、発生回数を明らかにするとともに、そのレアアースピーク形成との関連について議論を行う.<引用文献>[1] 加藤泰浩ほか,資源地質学会第62回年会講演会,O-11 (2012). [2] Iijima et al. (2016) Geochem. J., 50, 557-573. [3] 町田ほか,SIP「次世代海洋資源調査技術」研究開発成果資料集 vol. 3. [4] 中村謙太郎ほか,日本地質学会第123年学術大会,R24-O-3 (2016). [5] Tanaka et al. (2020) Ore Geol. Rev., 103392. [6] McInnes et al. (2018) J. Open Source Softw. 3, 861. [7] McInnes et al. (2017) J. Open Source Softw. 2, 205. [8] 中村謙太郎ほか,日本地質学会第129年学術大会,T10-O-8 (2022).

  • 矢野 萌生, 安川 和孝, 中村 謙太郎, 加藤 泰浩
    セッションID: T7-O-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    酸素に乏しい還元的な海洋環境においては,有機物の分解や底生生物の活動が減少するため,有機炭素含有量が高く葉理が発達した「黒色頁岩」と呼ばれる堆積物が形成される.黒色頁岩には,酸化還元鋭敏元素(redox sensitive elements)と呼ばれ,海水の酸化還元状態の変化に応じて溶解または析出・沈殿する元素のうち,還元的な条件下で安定的に固相として沈殿するバナジウム [V],クロム [Cr],コバルト [Co],ニッケル [Ni],モリブデン [Mo],レニウム [Re],ウラン [U] などの元素が濃集することが知られている[1,2].そして,これらの元素群はレアメタルとして産業上重要視されている元素群でもある.しかし,これらの元素は偏在性が高い上に,マグマ・熱水活動に起因するベースメタル鉱石の副産物となることが多いため,主生産物の産出量に影響を受ける.したがって,こうしたレアメタルの安定供給のためには,新たなタイプの鉱床の開発可能性を探ることが今後重要になると考えられる.還元環境下で安定に沈積するレアメタル元素群を高濃度で含む堆積物に対しては,含金属黒色頁岩 (metalliferous black shales) という呼称が用いられており[2],含金属黒色頁岩から成る堆積性鉱床を黒色頁岩型鉱床という.黒色頁岩型鉱床の例として,ポーランドとドイツにまたがる Kupferschiefer鉱床[3]や,南中国のHuangjiawan 鉱床 [4]およびフィンランドのTalvivaara 鉱床[5]などが知られている.一方,現世海洋は活発な鉛直循環によって表層から深層まで酸素に富んでいるが,一定の条件を満たす限られた海域においては,貧酸素水塊が発達していることが知られている[6,7].そのような海域に分布する黒色の堆積物 (本研究では「黒色泥」と呼ぶ) にも,VやMoなどのレアメタルの濃集が認められる[8,9].しかしながら,この黒色泥の資源ポテンシャルについては未だ検討されていない.本研究では,貧酸素水塊が発達することが知られる黒海およびカリアコ海盆の最表層堆積物のV,Mo濃度データをコンパイルし,その資源ポテンシャルを見積もった.また,カリアコ海盆の堆積物試料のRe濃度を測定した.分析前処理,測定は千葉工業大学次世代海洋資源研究センターで行った.発表では,その結果を報告し,既存の鉱床のデータと比較した上で,資源としての利用可能性について考察する.[1] Vine and Tourtelot, 1970, Econ. Geol. 65, 253–272. [2] Meyers et al., 1992, Chem. Geol. 99, 1–3. [3] Vaughan et al., 1989, Econ. Geol. 84, 1003–1027. [4] Mao et al., 2002, Econ. Geol. 97, 1051–1061. [5] Loukola-Ruskeeniemi and Heino, 1996, Econ. Geol. 91, 80–110. [6] 北里, 2003, 化石 74, 57–62. [7] Algeo and Lyons, 2006, Paleoceanography, PA1016. [8] Hirst, 1974, American Association of Petroleum Geologists. 633pp. [9] Ravizza et al., 1991, Geochim. Cosmochim. Acta 55, 3741–3752.

  • 浅見 慶志朗, 安川 和孝, 加藤 泰浩
    セッションID: T7-O-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    Agは人類が最初に利用した金属の1つであり,古代から中世は貨幣や装飾品,近代は銀塩写真,近年は電子部品や抗菌剤として広く用いられている.Agは水生無脊椎動物等に強い毒性を示すが,我々が利用するAgがどこから来てどこへ行くのか,すなわち鉱床におけるAgの起源,環境中に放たれたAgの挙動については未だ不明瞭である.地球表層におけるAg循環を明らかにするためには,地球表層物質のAg同位体比 (107Ag/109Ag) に基づく議論が不可欠である.しかし,有史以来続く人為的Ag汚染[1]により現代の海水から自然状態の海洋Ag同位体比を測定する事は不可能である.そのため,堆積岩や堆積物から古海洋Ag同位体比を復元する必要がある.海洋には陸源物質やマントル物質,宇宙塵由来の物質や元素が流入している.それらは堆積物や堆積岩として沈積し,海洋プレートの沈み込みに伴って上部マントルや陸上へともたらされ,地球表層を循環する.そのため,地球表層の7割を占める海洋のAg同位体比の解明は,地球表層におけるAg循環を理解する上で非常に重要である.例えば, Ag鉱石と海洋のAg同位体比を比較する事で,鉱床(主に浅熱水鉱床)へのAg供給源や鉱体形成プロセスの解明につながる可能性がある.しかし,実用的なAg同位体分析法が開発されたのは2010年代であり,Ag同位体比に関する知見は未だ不足している.特に海洋ではその傾向が顕著であり,堆積物の試験的な分析結果が数件報告されているのみである[2].Agは堆積物の初期続成過程において,二次的な溶出や間隙水を通じた上下移動が起きる元素の1つと考えられるため[3],堆積物のAg同位体比が堆積当時の海洋Ag同位体比を保持している保証は無い.そのため,酸化的環境が保たれ,Agの再移動が無いと考えられるFe–Mnクラストは,古海洋Ag同位体比の復元に適した試料と言える.上部地殻の平均Ag濃度が0.05 ppmであるのに対して,Fe–MnクラストのAg濃度は概ね1 ppm未満である[4].Fe–MnクラストがAgを海水から取り込む際に酸化還元を伴うのであればわずかな同位体比の変化を伴う可能性があるが,AgがFe–Mnクラストに取り込まれるプロセスは未だ明らかになっていない.そのため,本研究では古海洋Ag同位体比の復元に向けた予察的研究として,ICP-MSを用いて西太平洋のFe–Mnクラストの化学組成を分析し,Fe–Mnクラスト中のAgと相関を示す元素やAg濃度の時代変化を調べた.Fe–Mnクラスト試料のAg濃度は上部地殻の平均濃度よりも高く (概ね0.1–0.4 ppm),Al濃度と正の相関を示さない事から,砕屑物は主要なAgのホスト相たり得ない.また,AsやAu濃度と無相関である事から,Ag鉱床で観察されるような含Ag鉱物粒子として存在しているわけではないと考えられる.一方で,Fe,Mn濃度とも明確な相関を持たない事から,ホスト相のFe–Mn酸化物の量によってAg濃度が決まるわけではなく,形成時の海水中の溶存Ag濃度や成長速度(クラスト表面のFe–Mn酸化物が海水からAgを取り込める時間)によってAg濃度が決まると考えられる.Ag濃度と正の相関を示す元素としてCo,Cu,Zn,Snが挙げられる.CoはMn酸化物によって酸化されることでFe–Mnクラスト中に取り込まれるため,海水中の溶存Co濃度が一定ならばFe–Mnクラストの成長が遅いほど高濃度になると考えられている.一方,同様にMn酸化物よって酸化されて取り込まれるCeはAg濃度と相関を示さず,そもそもCuやZnはFe–Mn酸化物に取り込まれる際に酸化反応を伴わない.従って,Fe–MnクラストのAg濃度は成長速度よりも形成時の海水中の溶存Ag濃度によって決まると考えられる.Ag濃度と正の相関を示すCo,Cu,Zn,Snは,海洋における鉛直分布の特徴(鉛直輸送のメカニズム)は異なるが,平均滞留時間が海洋循環(約2×103年)より短い点が共通している.以上から,なんらかの局地的な現象により海水中の溶存Ag,Co,Cu,Zn,Sn濃度が連動して変化し,それに伴ってFe–MnクラストのAg濃度が変化していると考えられる.引用文献[1] Ranville et al. 2010, Environ. Sci. Technol., 1587-1593. [2] Luo et al. 2010, Anal. Chem., 3922-3928. [3] Morford et al. 2008, Mar. Chem., 77-88. [4] Hein et al. 1999, Handbook of marine mineral deposits, 239-281.

  • 寺内 大貴, 下村 遼, 町田 嗣樹, 安川 和孝, 中村 謙太郎, 加藤 泰浩
    セッションID: T7-O-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    深海底に存在する化学堆積岩であるマンガンノジュールは,将来のバッテリーメタル資源として注目されている海底鉱物資源の一つである [1].マンガンノジュールを資源として開発するには,その分布域を把握することが必要である.マンガンノジュールは内部に硬質な物質からなる核を持ち,その周囲に鉄マンガン酸化物が沈積することで形成される [2].そのため,核の存在はマンガンノジュール形成の必要条件であり,それゆえにマンガンノジュール分布の支配則を解明するための鍵であると考えられる.しかし,従来のマンガンノジュール研究は,主に鉄マンガン酸化物層の実態解明に力を注いできたため [2],核の実態を系統的に研究した例はほとんど存在しない.そこで本研究は,核の実態を解明することでマンガンノジュールの生成と分布の支配要因を明らかにすることを目的とする.これまでに,マンガンノジュールの核として,火山岩,パミス,サメの歯など様々な物質が存在することが知られている [3].そのため,核を系統的に研究するには,数個のマンガンノジュールの核を集中的に分析するのではなく,大量のサンプルを分析しそのバリエーションを大局的に掴む必要がある.しかし,マンガンノジュールの核を研究するには,これまで一つ一つの試料をマンガンノジュールの核が適切に現れる断面で半割する必要があり,大量の試料を研究するには非常に時間がかかった.そこで本研究では,非破壊で内部構造を分析できるX線CTを用いることで大量の試料の分析を行った.本発表では,南鳥島周辺海域で採取されたマンガンノジュール934個に対してX線CT分析を行い,CT画像によりマンガンノジュールの核を研究した成果を報告する.X線CT分析の結果は,独自に作成したPythonコードを用いて処理した.これにより,一定のCT値ごとに色分けを行い,視覚的にCT値が判別可能な画像を作成した(図).また,マンガンノジュール核のCT値の解析も行い,核のCT値の頻度分布やその分布に基づく核の分類を行った.さらに,CT解析によって分類されたマンガンノジュールから代表的な試料を選び出して半割し,µ-XRF分析による元素マッピングを行うことで,分類された核の起源を特定した.その結果,南鳥島マンガンノジュールの核は,サメの歯と固結した岩石 (火山岩、燐灰岩、鉄石など)、そして固結した堆積物からなることがわかった.このうち,今までにも多数報告されているサメの歯の割合は低く,マンガンノジュールの分布を考える上での優先度は低いと考えられる.核の大半は堆積物で構成されており,今後堆積物の核を研究することがマンガンノジュール分布を把握する上で重要である [4]. <引用文献>[1] Petersen et al. (2016) Marine Policy, 70, 175–187 [2] Hein et al. (2020) Nature Reviews Earth & Environment, 1, 158­–169 [3] Sarkar et al. (2008) Marine Georesources & Geotechnology, 26, 259­–289 [4] Terauchi et al. (2023) Minerals, 13, 710

  • 武居 史也, 中村 謙太郎, 町田 嗣樹, 安川 和孝, 大田 隼一郎, 藤永 公一郎, 加藤 泰浩
    セッションID: T7-O-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    CoやNiは、リチウムイオン電池などに使用され、今後も世界的に需要が増加すると考えられる重要な資源である。しかし、これらの鉱物資源は生産国の政情不安や資源ナショナリズム等の問題が指摘されており、新しい供給源の開発が求められている[1]。海底鉱物資源の1つであるマンガンノジュールは、CoやNiなどの重要な金属を高濃度で含んでいるため、こうした有用元素の新たな供給源として期待されている[2]。2010年、YK10-05航海によって、日本最東端の南鳥島の排他的経済水域(EEZ)の東部でマンガンノジュールの密集域が発見され、試料の採取が行われた[3]。この発見を受けて、2016年には国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)、東京大学、千葉工業大学などによってYK16-01航海が実施された。YK16-01航海では、南鳥島EEZ内の8地点でマンガンノジュールの潜航調査が行われ、広大なマンガンノジュールの密集域が東部から南東部にわたって発見された[4, 5]。また、その翌年の2017年には、JAMSTEC、東京大学、千葉工業大学などによってさらに広域的なマンガンノジュールの分布調査を目的としたYK17-11C航海が実施された。YK17-11C航海では、YK16-01航海で未調査であったEEZ内北部とEEZ外の海域を含む全8回の潜航調査が行われ、新たなマンガンノジュールの密集域が複数の地点で確認された[6]。南鳥島EEZのマンガンノジュールは、鉱物組織や化学組成の特徴が同海域の鉄マンガンクラストとよく一致しており[7]、これらはいずれも海水起源であると指摘されている[3]。海水起源のマンガンノジュールは、海水中に存在する鉄マンガン酸化物が直接沈殿し、中心の核から鉄マンガン酸化物層が順次成長することで層構造を形成することが知られている。また、マンガンノジュールの成長速度は非常に遅く、1〜5 mm/Myr程度と考えられている[8]。そのため、マンガン酸化物層の微細な構造や化学組成には、長期間にわたる海洋環境の変化やイベントが記録されていると考えられている[9]。したがって、マンガンノジュールの鉄マンガン酸化物層の特徴を明らかにすることにより、過去の海洋環境を理解することができると期待される。また、詳細な岩石学的および化学的解析によって、どの海域に有用な元素が濃集しているかを推定することで、高品位の海域を特定することも期待される。これまで、南鳥島EEZのマンガンノジュールの層構造に関するいくつかの研究が行われてきている。Machidaら[3]は、南鳥島EEZのマンガンノジュールの酸化物層を岩石学的に分類した。また、Nakamuraら[10]はX線CTの値に基づいて酸化物層を分類した。さらにMachidaら[11]は、µXRF分析によって得られた化学組成の特徴を用いて鉄マンガン酸化物層を細分化することで、南鳥島EEZのマンガンノジュールにおいて合計9層の層序を識別し、マンガンノジュールのより詳細な化学層序を定義した。これまでの先行研究から、µXRF分析をより多くのマンガンノジュールに対して適用することで、南鳥島EEZ内の様々な海域のマンガンノジュールについて詳細な層区分とキャラクタリゼーションが可能となり、それらの成長の過程を詳細に解析することができると考えられる。そこで本研究では、南鳥島EEZ全体で採取されたマンガンノジュールに対して包括的なµXRF分析を行うことで、南鳥島EEZのマンガンノジュールの成長史を明らかにすると共に、その形成を支配する過去の海洋環境を考察することを目的とする。発表では、多数のマンガンノジュール試料に対して層区分を解析した結果と、その結果をもとに同海域のマンガンノジュールの成因および形成を支配する要因について議論する。引用文献[1] 経済産業省 (2021) プレスリリース. [2] Hein et al. (2013) Ore Geology Reviews, 51, 1-14. [3] Machida. et al. (2016) Geochemical Journal, 50, 539-555. [4] 石井ほか (2016) 深田地質研究所年報, 17, 1-28. [5] JAMSTEC (2016) プレスリリース. [6] 町田ほか (2017) 日本地質学会第124年学術大会. [7] Nozaki et al. (2016) Geochemical Journal, 50, 527-537. [8] Halbach et al. (1983) Nature, 304, 716-719. [9] 臼井 朗 (1998) 地質ニュース, 493, 30-41. [10] Nakamura et al. (2021) Minerals, 11, 1110. [11] Machida et al. (2021) Island Arc, 30, e12395.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    佐々木 航, 安川 和孝, 見邨 和英, 中村 謙太郎, 町田 嗣樹 , 加藤 泰浩
    セッションID: T7-O-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    マンガンノジュールは,低炭素社会に欠かせない二次電池の原料であるコバルトやニッケルを高濃度で含むため,新たなレアメタル資源として世界的に注目されており,世界各国でその開発に向けた調査・研究が行われている.日本でも,2016年に南鳥島周辺の排他的経済水域(EEZ) 内でマンガンノジュールの密集域が発見され,国産レアメタル資源としての期待が高まっている [1].南鳥島周辺のマンガンノジュール分布調査を目的としたYK16-01航海およびYK17-11C航海では,マルチナロービーム音響測深機 (MBES) を用いた海底の後方散乱強度調査および有人深海調査船「しんかい6500」を用いた潜航調査が実施されている.Machida et al[2] は,これらのマンガンノジュール調査航海で得られた後方散乱強度データと当該海域において過去に実施されたレアアース泥を対象とした複数の調査航海で得られた後方散乱強度データとを統合した解析を行い,実際の海底面におけるマンガンノジュールの分布様態と比較検討した.その結果,マンガンノジュールの分布と海底からの後方散乱強度が大きい海域に関係があることを明らかとなった [2].この先行研究で得られた後方散乱強度データのヒストグラムには,複数の明瞭なピークが見られる.このことは,南鳥島周辺の海底付近の音響的特性が幾つかの類型に分けられることを示唆する.しかしながら,これらの後方散乱強度ピークと実際の海底面の特徴との関係については,未だ十分には明らかとなっていない.そこで本研究では,南鳥島周辺EEZで取得された音響後方散乱強度のヒストグラムに対してピークフィット解析を行った.そして,各強度ピークに相当する海域においてしんかい6500で得られた海底画像を解析し,これらの後方散乱強度ピークがマンガンノジュールの分布様態を含む実際の海底面の特徴とどのように対応しているかを詳細に調べた.本発表では,その結果について報告する.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    高橋 美咲, 岡本 敦, 山田 亮一, 佐藤 義倫, 野崎 達生
    セッションID: T7-O-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    海底熱水噴出孔では噴出した熱水が周囲の海水と混合して急速に冷却されて硫化鉱物などの粒子が析出して煙突状のチムニーを形成する。チムニーは内側から外側へ硫化鉱物の種類と割合が変化しており、還元的な噴出熱水と酸化的な海水との間で触媒として働き、化学反応を通して海中に電子が放出されるプロセスが提案されている(Yamamoto. et al, 2018)。チムニーを構成する硫化鉱物は半導体の特性を持ち、温度勾配によって電子を移動させる働きがあることが知られている。しかし、硫化鉱物の半導体特性は微量元素によって変化する可能性があること、チムニーが複数鉱物からなる複雑な累帯構造を持つことから、熱水が噴出するチムニー全体として、電子を海水側と熱水側のどちらに移動させているのかはわかっていない。本研究では、現世の海底熱水噴出孔から採取したチムニー試料について、鉱物組織解析と熱起電力測定を行い、チムニーの発達過程と発電プロセスについて検討した。  伊豆諸島南部の明神礁カルデラから採取した縦30㎝、横21㎝、高さ10㎝のアクティブチムニーと、縦40㎝、横19㎝、高さ17㎝のデッドチムニーの解析を行った。サンプルは縦50 ㎜・横 28㎜・厚さ3 ㎜に整形した。アクティブチムニーは全体的に黄鉄鉱、ウルツ鉱、方鉛鉱から構成され、直径が数百µmの熱水流路が数多く分布していた。デッドチムニーは、最も内側に厚さ5㎜の方鉛鉱と黄銅鉱の層が存在し、外側は重晶石とウルツ鉱の混合層が存在した。熱水流路に近い部分では方鉛鉱の粒子サイズが大きく、離れるにつれて重晶石とウルツ鉱の割合が増え、海水に近い側では組織のほとんどが重晶石で構成されていた。 電位測定では2つのペルチェ素子の上にサンプルを置き、同心円構造の内側を加熱、外側を冷却し、熱水噴出孔付近と同じ方向に温度勾配を作った。最大約120 ℃まで加熱を行い、プローブ接触点は直径100㎛、プローブ間距離を約1㎜として起電力を測定してp型およびn型のキャリアを判別した。 測定はチムニーサンプルと、チムニーが変化したものと考えられている同心円構造を持つ陸上の黒鉱鉱石試料、硫化鉱物の単結晶で行った。デッドチムニーの熱水流路に近傍の方鉛鉱と黄銅鉱の混合領域では負の熱起電力が得られ、n型の領域であると分かった。一方、外側のウルツ鉱と重晶石の領域では熱起電力の測定ができなかった。ウルツ鉱は先行研究よりp型半導体であると指摘されているが、温度当たりの熱起電力の大きさを示すゼーベック係数が小さいことと、空隙の多い組織であったために抵抗が大きくなり、測定ができなかったと考えられる。アクティブチムニーでは組織内のどの部分でも測定が不可能であった。これは組織全体がデッドチムニーよりも空隙の多い構造で抵抗が大きかったことと、組織内に不導体である重晶石が多く分布していることが原因と考えられる。チムニー内に含まれるZnSはラマン分光測定により閃亜鉛鉱ではなくウルツ鉱であると確認されたが、黒鉱の閃亜鉛鉱の熱起電力測定を行ったところ数百~千㎶/Kの大きな正の熱起電力が得られ、p型の特性を持つと分かった。 組織観察と熱起電力の測定結果より、チムニーの累帯構造の形成過程とそれに伴う熱起電力の状態モデルを提案する。初期は硬石膏の壁ができ、最外部に硫化鉱物の微粒子が付着・成長し、それらが外壁を作ることで内部の温度が上がり、黄銅鉱や方鉛鉱などの硫化鉱物が形成すると考えられる。その発達時に最も内側に高密度の方鉛鉱、黄銅鉱の層ができると熱水と海水間の急激な温度勾配によりn型の熱起電力が発生する。これは電子をチムニーの内側から外側へ移動させる働きを持ち、チムニー表面での有機分子の合成や還元反応を進行させると考えられる。後にウルツ鉱の層が形成することでp型の熱起電力も部分的に発生するが、方鉛鉱や黄銅鉱のn型の領域に比べゼーベック係数が小さいため、チムニー全体では電子を海水側に移動させる働きをしていると考えられる。重晶石は初期から硫化鉱物層の外側に形成しているが、半導体特性を持たないため熱起電力には関与しない。熱水活動が停止してからはチムニー内外に温度差が存在しないため、熱起電力は発生しない。もし熱水活動が続いている状態で組織内のウルツ鉱が閃亜鉛鉱に変化するのに十分な時間が経過した場合、大きなp型の熱起電力が発生する可能性がある。その場合はp型のチムニーが形成し、全体として電子を海水側から熱水側へ移動させる働きをする可能性がある。 本研究の結果は、非常に高い温度勾配をもつ海底のチムニーで熱起電力が発生しうること、また、組織改変過程において半導体特性と温度環境が変化するために、特定の時期に熱起電力を発生する可能性を示唆している。

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    小笠原 光基, 大田 隼一郎, 石田 美月, 中村 謙太郎, 安川 和孝, 藤永 公一郎, 加藤 泰浩
    セッションID: T7-O-12
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    兵庫県の但馬地域に存在する明延鉱床は多金属鉱脈型鉱床として知られ、かつては錫をはじめ、銅、鉛、亜鉛を対象に採掘されていた。これらの他にも、脱炭素社会を実現するうえで重要なタングステンやビスマス、インジウムなど多様なレアメタルを含む鉱物を産出した、日本でも有数の金属鉱山である。このように多様な金属が濃集する鉱床の成因を制約するうえで、鉱床の形成年代は非常に重要な条件となる。年代情報を明らかにすることで、例えば鉱化作用に関与した火成活動の推定が可能となり、起源マグマの特徴と濃集した金属の関連性を議論できるようになることが期待される。 明延鉱床は西南日本内帯の舞鶴帯に分布しており、粘板岩や塩基性凝灰岩および塩基性溶岩からなる舞鶴層群中に胚胎している。周辺には和田山花崗岩 (チタン鉄鉱系) や、沖ノ山花崗岩 (磁鉄鉱系) など複数種類の花崗岩体が貫入している。明延鉱床を構成する鉱脈は、産出鉱物や産状に基づく前後関係から、前期の銅-亜鉛 (Cu-Zn) 脈と後期の錫-タングステン (Sn-W) 脈に大別される [1]。先行研究によって、それぞれの鉱脈が形成された時期はCu-Zn脈が66〜63 Ma 、 Sn-W脈が59〜54 Ma [2]と推定されている。しかしながら、これらの年代値は周辺鉱床の形成年代や、鉱脈の形成と前後関係にある岩脈の年代から推定されたものであり、明延鉱床の鉱石に対する直接的な年代決定は行われていない。多金属鉱床である明延鉱床における金属濃集プロセスを理解するためには、鉱脈から直接得られた形成年代が重要な鍵になると考えられる。 本研究では、鉱脈の形成年代を直接決定するため、明延鉱床の智恵門鉱脈群の鉱石試料を対象に、レニウム(Re)-オスミウム(Os)放射年代測定を実施した。顕微鏡観察、SEM-EDSによって鉱石試料をCu-Zn脈とSn-W脈のそれぞれに分類したのち、 ReとOsの分布を調べるために、千葉工業大学次世代海洋資源研究センターのレーザーアブレーション システムとマルチコレクター型誘導結合プラズマ質量分析装置を用いてRe-Os元素マッピングを行った。その後、ReとOsの明瞭なシグナルを検出したCu-Zn脈とSn-W脈の鉱石試料に対してRe-Os同位体測定を実施し、明延鉱床の年代値を求めた。本発表では、得られたRe-Os放射年代から推定される、明延鉱床に多様な金属を濃集させる要因となった火成活動について議論を行う。 [1]. 伊藤 和男, 高階 和郎, 杉山 輝芳, (1985), 明延鉱山智恵門脈群の下部探鉱とその成果について. 鉱山地質, 35, 119-132 p. [2]. MITI, (1988), 広域地質調査報告書:播但地域–昭和62年度, 178 p.

  • 湯川 正敏, 渡辺 洵, 星野 健一
    セッションID: T7-P-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    1.はじめに 別子鉱山を中心とする層状含銅硫化鉄鉱鉱床の研究は明治時代に始まるが、層準規制型鉱床であることが明らかになり同生説が定着している。その後の地球化学的研究をもとにSato and Kase(1996)は鉱床の硫黄同位体の特徴から2タイプに分類する提案をおこなった(グループA:陸源性堆積物をともなわない海嶺での鉱床、グループB:陸源性堆積物に覆われた海嶺での鉱床)。本研究では西南日本外帯の層状含銅硫化鉄鉱鉱床である野々脇鉱床・三尾鉱床の地質および鉱床母岩の岩石学的検討を行った。2.鉱床および周辺地質 野々脇鉱床は四国東部三波川帯に、三尾鉱床は紀伊半島中央部四万十帯北帯に位置する。野々脇鉱床は三繩ユニット下部の野々脇緑色片岩層に胚胎されており、露頭において鉱床と上下の母岩との整合的な関係が観察できる。また、三尾鉱床は麦谷コンプレックス中の玄武岩質火山岩中に胚胎される。珪酸塩鉱物組合せから野々脇および三尾両地域の変成作用はpumpellyite-actinolite相であることがわかる。 野々脇・三尾鉱床の鉱石鉱物は黄鉄鉱、磁硫鉄鉱、閃亜鉛鉱、黄銅鉱から成り、磁硫鉄鉱は両鉱床とも六方磁硫鉄鉱および単斜磁硫鉄鉱のラメラから成ることが磁性コロイド法およびEPMA組成像から確認できた。両鉱床はpumpellyite-actinolite相の同一変成相であるが塊状鉱中の黄鉄鉱の粒径は、三尾鉱床の方がより小さく、またフランボイダル状組織が観察できることから、三尾鉱床が野々脇鉱床より低変成度で一部に鉱床生成時の初生的組織を保存していると考えられる。  三波川帯野々脇鉱床母岩の緑色片岩について主要元素および一部の希土類元素を含む微量元素について全岩化学組成分析を行った。主要酸化物組成、微量元素およびREE組成の特徴から野々脇鉱床の母岩となった玄武岩はN-MORBとしての特徴を有することが明らかになった。また、紀伊半島四万十帯北帯三尾鉱床周辺の玄武岩については残留単斜輝石判別図や発泡組織の検討を行った。その結果は四万十帯北帯の緑色岩類に関する先行研究とも調和的であり、鉱床母岩はN-MORBであると判断できる。しかし、鉱床から約1km離れた地点でアルカリ玄武岩も存在することが残留単斜輝石の組成から明らかになった。この岩石は混在岩中の玄武岩岩塊であり付加した海山起源の玄武岩と考えられる。3.野々脇および三尾鉱床のテクトニックセッティング 野々脇鉱床周辺(三波川帯三繩ユニット下部)および三尾鉱床周辺(四万十帯北帯)では,広域変成作用の影響で原岩年代決定に有効な化石を見いだすことができないが、近年両地域周辺でのジルコン年代が報告されている(四国東部三波川帯三繩ユニット下部 : 約81Ma , Nagata et. al., 2019、紀伊半島中央部四万十帯北帯麦谷コンプレックス : 約90Ma, Shimura et. al., 2019)。ジルコン年代および四万十帯のプレート層序をもとにすれば、両鉱床とも四国四万十帯北帯、手結―谷山ユニットに相当すると推定される。野々脇鉱床および三尾鉱床はSato and Kase(1996)のジュラ紀末から白亜紀最初期に生成された層状含銅硫化鉄鉱鉱床と判断した。これらの鉱床は大陸からはなれた中央海嶺上(イザナギ-太平洋海嶺)で生成されたグループA型鉱床と指摘できる。引用文献Nagata, M., et. al., 2019, Island Arc, 28:e12306. Sato, K. and Kase, K., 1996, The Islanid Arc, 5, 216-228Shimura, Y., Tokiwa, T., Takeuchi, M., Mori, H. and Yamamoto, 2019, Island Arc, 28, e12325.

  • 北澤 尭大, 見邨 和英, 安川 和孝, 大田 隼一郎, 藤永 公一郎, 中村 謙太郎, 加藤 泰浩
    セッションID: T7-P-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    2011年にKato et al. [1] は太平洋広域にレアアースを高濃度で含む「レアアース泥」を発見し,新たなレアアース資源となりうることを報告した.さらに,Takaya et al. [2] により,南鳥島周辺の日本の排他的経済水域南部に位置する約2,500 km2の海域に世界年間需要の数百倍ものレアアースが胚胎していると見積もられ,その開発に向けた期待が高まっている. Tanaka et al. [3] は,上述の南鳥島周辺海域で採取された49本の堆積物コアの全岩化学組成を検討し,多元素の特徴に基づく堆積層序 (化学層序) を定義することで,南鳥島レアアース泥を5つのユニットと3つのレアアース濃度ピークに分類した.これにより,レアアース泥を含む遠洋性粘土層同士を相互に対応づけることが可能となった. 南鳥島周辺海域のレアアース泥の堆積史を明らかにし,資源として重要なレアアースピーク層の成因を解明するためには,この化学層序の各ユニットの堆積年代が極めて重要な鍵を握る.各堆積層の年代を決定することによって,それぞれの化学層序ユニットの地球化学的な特徴が,いつ・どこで・どのようなイベントによって形成されたのかを議論できるようになると期待される.しかし,レアアース泥の堆積学上の区分である遠洋性粘土は,堆積年代の決定が非常に困難であることが知られている.遠洋性粘土は,海洋表層の生物生産性が低く大水深の環境で堆積するため,海底堆積物の年代決定に一般的に用いられる珪質・石灰質の微化石がほとんど産出しない.また,堆積速度が非常に遅いことから,地磁気の逆転を読み取ることも難しく,古地磁気層序年代の適用も困難である.これらの理由から,化学層序の各ユニットがいつ堆積したのかは未だ十分に解明されていない. この問題に対する解決策の1つとして,イクチオリス層序年代を用いたアプローチが有望と考えられる.イクチオリスとは魚類の歯や鱗の微化石を指し,通常の海水の条件下で溶解度が非常に小さいリン酸カルシウムで構成されているため,珪質や石灰質の微化石 (放散虫,有孔虫等) が溶解してしまう高圧の深海環境下でも良く保存される[4].先行研究 [5] において,これらの形態的特徴が広範に調べられ,体系的な分類が確立されている.実際に,発表者らのグループによる近年の研究でも,イクチオリス層序がレアアース泥の堆積年代決定に有効であることが確認された [6].しかし一方で,堆積物からのイクチオリスの検出には多大な労力を要することから,解析の効率化が新たな課題となっていた. そこでMimura et al. [7, 8] は,深層学習を用いて顕微鏡画像からイクチオリスを自動で検出する手法を提案した.これにより,イクチオリス検出の手間が大幅に低減し,多数の試料に対して効率的にイクチオリス年代決定を行うことが可能になった.北澤ら[9]は,この検出手法を南鳥島周辺で採取された3本のコア試料に適用した結果,最下層にあたるUnit V の堆積年代は64 Ma以前であることを示した. 本研究では,この年代決定手法をさらに南鳥島周辺海域の11サイトで採取されたコアに拡張することにより,南鳥島レアアース泥に見られる全ての化学層序ユニットの堆積年代を決定することを目的とする.本発表では,現在までに年代決定を完了したユニットの時代を報告し,南鳥島レアアース泥の堆積史について議論する.<引用文献> [1] Kato et al. (2011) Nature Geoscience 4, 535-539. [2] Takaya et al. (2018) Scientific Reports 8, 5763. [3] Tanaka et al. (2020) Ore Geology Reviews 119, 103392. [4] Sibert and Norris (2015) Proceedings of the National Academy of Sciences 112(28), 8537-8542. [5] Doyle and Riedel. Scripps Inst. Oceanogr. 1-231 pp (1979). [6] Ohta et al. (2020) Scientific Reports, 10, 9896. [7] Mimura et al. (2022) Applied Computing and Geosciences 16, 100092. [8] Mimura et al. (2023) ESS Open Archive. DOI: 10.22541/essoar.168500340.03413762/v1 [9] 北澤ほか (2023), 日本地球惑星科学連合2023年大会.

  • 安川 和孝, 田中 えりか, 宮崎 隆, Vaglarov Bogdan, 常 青, 中村 謙太郎, 大田 隼一郎, 藤永 公一郎, 岩森 ...
    セッションID: T7-P-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    南鳥島周辺のレアアース泥を含む深海堆積物 (遠洋性粘土) 層は,その全岩化学組成の特徴に基づき,5つのユニットとそれらに挟在する3つのレアアース濃集層に区分されてきた [1].この化学層序によって,外見上均質な遠洋性粘土であるレアアース泥の各層がコア間で対比可能となり,これによってレアアース濃集層の空間的連続性や大規模な堆積層削剥の存在が明らかとなった [1].本研究では,南鳥島周辺のレアアース泥に見られる化学層序のより包括的なキャラクタリゼーションを目指して,当該海域で採取された計66本のピストンコア試料から分取された計1,646試料×41元素の全岩化学組成データ [2–6] を対象に統計解析を行った.解析にあたっては,元素濃度データに対数比変換を施してから白色化 (変数同士を無相関かつ分散1に規格化する操作) を行い,k-meansクラスター分析 [7] を適用し,統計的および地質学的観点に基づいて全データを計10個のクラスターに分類した.得られた10個のクラスターで各堆積物試料をラベリングし,海底面下でのそれらの深度方向分布に着目すると,多数のコア間において共通した順序でクラスターが並ぶことが分かった.すなわち,本研究のクラスタリングにより,41元素の情報を反映した高次元化学層序が構築された.さらに,各クラスターの中心に最も近い試料を各クラスター (化学層序ユニット) の代表試料と見なし,その10試料からケイ酸塩成分を分離してSr-Nd-Pb同位体分析を実施した.その結果,堆積層の下位から上位に向かって,マトリックス成分としての風成塵が北米由来とアジア由来の混合からアジア由来の卓越へと長期的かつ不可逆的に変化していることが明らかとなった.また,その間に西太平洋の島弧火山由来と考えられる火山起源成分の影響が重なることも示された.レアアース泥の化学層序として記録されたこれら一連の変化は,太平洋プレートの移動および伊豆-小笠原-マリアナ島弧の活動に影響を受けてきた,北西太平洋の長期的な堆積史を反映していると考えられる. [1] Tanaka et al. (2020) Ore Geol. Rev. 119, 103392. [2] Iijima et al. (2016) Geochem. J. 50, 557-573. [3] Fujinaga et al. (2016) Geochem. J. 50, 575-590. [4] Takaya et al. (2018) Sci. Rep. 8, 5763. [5] Yasukawa et al. (2019) Geochem. Geophys. Geosyst. 20, 3402-3430. [6] Tanaka et al. (2021) Minerals 10, 575. [7] Iwamori et al. (2017) Geochem. Geophys. Geosyst. 18, 994-1012.

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