草と緑
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9 巻
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  • 伊藤 操子
    2017 年 9 巻 p. 2-12
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    ジャーナル オープンアクセス
    生物は外部からの化学物質に対して様々な生体反応を示し,これは医薬と人間・病原菌等と同様に除草剤と雑草にも当てはまる.除草剤の最終的に効果である雑草の死亡に至るまでには,薬剤の植物体(茎葉,根,種子)へ吸収,体内の作用部位への移行,作用点での特定の生化学反応の阻害,これらの過程中での薬剤の代謝・分解といった,様々なプロセスが関わっている.そして,この各プロセスは植物の種類,生育段階等による差異が大きく,このことが望む効果を決定づけたり,ときには薬害の原因になったりしている.“雑草がなぜ枯れるか”については,緑地雑草管理の関係者も日頃あまり気にかけないか,その必要を感じていないのではないかと思われる.しかし,実際は望ましい結果を得るためには,枯れるまでの各プロセスへの正確な知識は非常に重要であり,少なくとも米国の雑草管理事業者はこれらを身に着けているようだ.そこで本稿では,1)除草剤はどのようにして植物体内に入るか,2)どのようにして作用部位にたどりつくのか,3)どのような作用によって雑草を枯死させるのか,および4)除草剤の精緻な作用機構が生んだ深刻な問題である除草剤抵抗性変異について,現場関係者の理解を目標に,できるだけ分かりやすく解説することを試みた.
  • 黒川 俊二
    2017 年 9 巻 p. 13-21
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    ジャーナル オープンアクセス
    意図的あるいは非意図的に持ち込まれる外来植物を管理する場面においては,人間活動とその社会的背景が大きく影響する伝播や拡散経路を意識して管理を行う必要がある.本稿では,戦後の畜産物の需要増大を支えるべく高生産性を追い求めてきた現代畜産が原因となって生じている外来植物問題について解説する.戦後の畜産の発展過程では,生産性を上げるために高栄養飼料が必要となり,栄養価の高い外来牧草の意図的導入が行われた.これらの中には逸出して緑地管理場面で雑草問題を引き起こすこともある,また,酪農では高泌乳牛を飼養するためより栄養価の高い飼料が必要となり,輸入穀物を原料とする濃厚飼料を多給する形態に変化した.その結果,輸入穀物に混入する外来雑草の非意図的導入をもたらした.経営体の大規模化も進み,畜産農家は処理しきれないほど多量の家畜糞尿を抱えることとなり,、混入する雑草種子の死滅をもたらす発酵熱が期待できない未熟堆肥を飼料畑に投入せざるを得なくなった.こうして外来植物の侵入量の増大と死滅率の低下が合わさり,飼料畑における外来雑草問題を引き起こした.さらに,山間部で行われる酪農地帯で蔓延したアレチウリなどの外来雑草が,水の流れによってその下流域全域に拡散し,緑地管理場面などにも影響を与えることとなっている.
  • 長沼 和夫
    2017 年 9 巻 p. 22-26
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    ジャーナル オープンアクセス
    芝生としては,イネ科の約40種類がその土地の気象や土壌条件・利用目的に合わせて使われている.牧草として利用が始まったが,現在ではスポーツの場としてや,修景や土壌被覆植物として新たな草種が育種され,芝生として利用されている.芝生はC3植物の寒地型芝生と,C4植物の暖地型芝生に分けられる.国内で利用されている寒地型芝生の主なものとしては,ゴルフ場のパッティンググリーンのクリーピングベントグラス,公園などの多目的の利用やサッカー場などのスポーツターフとしてケンタッキーブルーグラス・トールフェスク・ペレニアルライグラスなどがある.暖地型芝生としては,ノシバ(シバ)・コウライシバ(コウシュンシバ)・ティフトン(419)・センチピードグラス・セントオーガスチングラスなどが利用されている.シバは地際に成長点があり,草食動物の丹念な摂食にも成長点が失われることがない.葉は密に生じ葉身が上を向いているので,あらゆる方向の光を受け取り,蓄積して,動物の踏み付けにも良く耐える.肥料の要求度が低く,乾燥に強く,様々な環境への適応性が高い.繁殖力が旺盛で,裸地を良く被覆し,衰退しにくいなどの特性によって生き残り,芝生として利用されるようになった.
  • 伊藤 幹二
    2017 年 9 巻 p. 27-36
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/15
    ジャーナル オープンアクセス
    近年,雑草に起因する様々な社会・環境・経済的問題が頻発しています.そこでNPO法人緑地雑草科学研究所が中心になって,市民科学集団“雑草ウオッチャー”を立上げ,様々な問題を市民の目でウオッチしています.今回の報告は,生活圏において人々を傷つける雑草,いわゆる「傷害雑草」についてです.55件の報告内容は,傷害雑草・雑木は27種類,このうちトゲ(あるいは鉤毛)をもつ種は23種で,とくに多かったのは,ワルナスビの7件、アメリカオニアザミ,ノイバラの5件、メリケントキンソウの4件でした.全体として,分類群ではキク科,ナス科,バラ科,タデ科,ウリ科,ユリ科,ヒユ科,マメ科,イラクサ科,グミ科に,生活史では一年生草本,多年生草本,木本と多岐にわたっていましたが.挙げられたトゲ雑草の大半が近年分布を広げている外来種であることは注目すべき点です.傷害雑草の部位としては,茎が最も多く,果実,茎葉,葉,葉腋の順で,葉・茎・花・果実すべてが傷害部位であるのはアメリカオニアザミ1種でした.トゲ以外に負傷の原因になる部分は,鋭い葉縁,長く横走する蔓,硬い切断部,衣服付着果実,刈取り時の粉末(揮発性物質の吸引が原因か)が挙げられました.最もトゲの危険性(ケガの大きさ・痛さの程度)の高い種類は,アメリカオニアザミ,ニセアカシヤ,サルトリイバラ,ノイバラかと思われます.
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