日本救急医学会関東地方会雑誌
Online ISSN : 2434-2580
Print ISSN : 0287-301X
42 巻, 2 号
日本救急医学会関東地方会雑誌
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
原著論文
  • 坂口 裕介, 大井 康史, 森 浩介, 安部 猛, 伊巻 尚平, 竹内 一郎
    2021 年 42 巻 2 号 p. 4-9
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    院外心停止 (OHCA) において従来どおりの心肺蘇生法 (CPR) が奏効しない症例では, 経皮的心肺補助装置 (PCPS) を用いた体外循環式心肺蘇生法 (ECPR) が推奨されている。当院でも救急初療室 (ER) でPCPS導入が行われていたが, 血管穿刺やカテーテル留置において重大な合併症を起こす可能性があるため, 血管撮影室で導入すべきであると考えた。導入場所を血管撮影室とERの2群に分け, 1カ月後における生存率, 神経学的予後, 合併症発生率, PCPS導入までの時間を比較した。30例の血管撮影室群 (AGR群) と3例のER群が集められ, 評価項目について両群で統計学的有意差は認めなかったものの, AGR群において神経学的予後は良好な傾向を認めた。そのためにOHCAに対するECPRの導入場所は血管撮影室で行われることが望ましいと考えられるが, 予後や安全性に関してはさらなる検討が必要である。

  • 加納 誠也, 三宅 康史, 中原 慎二, 神田 潤, 宋 侑子, 坂本 哲也
    2021 年 42 巻 2 号 p. 10-13
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    【目的】熱中症の予後不良因子として播種性血管内凝固症候群 (disseminated intravascular coagulation ; DIC) の発症が報告されている。DICに先行して上昇することが知られているトロンビン-アンチトロンビン III 複合体 (thrombin-antithrombin III complex ; TAT) が, 熱中症発症早期の予後不良予測因子となり得るか検討した。【方法】2018年1月から2019年12月の間に帝京大学医学部附属病院高度救命救急センターに搬入された熱中症 (Japan Coma Scale 100以上) を対象とした。modified Rankin Scale2以下を神経学的予後良好群, 3以上を神経学的予後不良群とし, 搬入時のTAT, 急性期DICスコアを比較した。【結果】全症例41例中, 13例が予後不良であった。搬入時TATは予後不良群で高かった (中央値 : 64.2 vs. 15.2, p=0.002) が, 急性期DICスコアは差がなかった (2.0 vs. 2.0, p=0.682) 。【結論】搬入時のTAT高値は, 熱中症における予後予測因子である可能性が示唆された。

  • 中澤 真弓, 鈴木 健介, 小川 理郎
    2021 年 42 巻 2 号 p. 14-18
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    はじめに : 救急救命士による気管挿管は現場での実施頻度も少なく, 技術維持のため訓練が必要である。目的 : 救急救命士養成課程の学生が雪山において, 屋内の床上で習得した気管挿管と同様の基本手技を施行できるかを検証した。方法 : 日本体育大学救急医療学科2年生72名を対象に, 気道管理トレーナを用い, 雪上において(1)傷病者頭部谷側斜面(2)傷病者頭部山側斜面(3)傷病者立位(4)傷病者埋没の4想定で気管挿管基本手技訓練を行い, 屋内で実施した結果と比較した (対応のあるT検定・有意水準P<0.05) 。結果 : 胸骨圧迫の評価が雪山で有意に低かった。環境に関係なく目視で確認できる項目は雪山で有意に高得点であった。アクシデントは「滑落」「資器材の凍結」「歯牙損傷」が発生した。考察と結論 : 雪山での気管挿管は, 基本手技の習得が現場での応用を可能にしていると思われた。

ORIGINAL ARTICLE
  • 川崎 亜希子, 早野 大輔, 榊 健司朗, 華山 直二
    2021 年 42 巻 2 号 p. 19-22
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    ICU内での緊急再開胸術の実施時には, 円滑な準備と速やかな進行が望まれる。再開胸決定から心タンポナーデ解除後, 止血操作が開始できるように開胸器のかけ替えが終了するまでをシミュレーションにて実施した。シミュレーションの開始から心タンポナーデ解除までは速やかに行われたが, ICU内に手術室から搬入する必要物品が到着するまでに時間を要したため, 止血操作の開始まで一時的に待機時間が発生した。アンケートにより緊急開胸時の手順や物品搬入の優先順位の理解が不十分であったことにより効率的な準備作業ができなかったことが判明した。再開胸術の時間短縮は必須であり, 必要物品を理解し, 優先順位を考え効果的な搬入を行うことが重要である。緊急開胸術は頻繁に行わないため, アクションカードを作成し, 一連の動作を確認するためのシミュレーションを定期的に行うことにより, 緊急開胸時の対応が迅速に行えるようになると考えられた。

症例報告
  • 矢崎 めぐみ, 渡邉 栄三, 橋田 知明, 林 洋輔, 長谷川 正和
    2021 年 42 巻 2 号 p. 23-26
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    下痢および意識レベル低下を主訴に救急搬送された60歳男性。当初感染源が特定できなかったが, 入院後に下肢水疱が出現しA群溶連菌による壊死性筋膜炎, 敗血症性ショックの診断に至った。デブリードマン術を施行し, 術後に経腸栄養を開始したところ下痢が再燃した。サイトメガロウイルス (CMV) 腸炎を考慮してガンシクロビルを投与したが, 多臓器不全にて第32病日に永眠された。本症例では, 壊死性筋膜炎による敗血症性ショックからは脱したが, 免疫麻痺の状態に陥り, CMV再活性化による腸炎を発症した。敗血症患者では, リンパ球などの免疫担当細胞のアポトーシスから免疫麻痺をきたすことが明らかになっており, 敗血症急性期から脱しても免疫抑制状態に陥ることが稀ではない。敗血症亜急性期の免疫麻痺を可及的早期に認識し治療介入することが重要であるが, このような対応困難な病態に対しては, 免疫賦活療法のような新規治療介入も今後検討に値する。

  • 松井 拓也, 久村 正樹, 園田 健一郎, 淺野 祥孝, 中村 元洋, 重松 咲智子, 安藤 陽児, 輿水 健治
    2021 年 42 巻 2 号 p. 27-30
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    【症例】42歳女性。【既往歴】双極性障害。【現病歴】ラモトリギン (100mg) 72錠など合計398錠を自殺目的で服薬し, 救急搬送された。【来院時現症】意識はGCSでE1V1M1, BMIが 33kg/m2と肥満であった。【入院後経過】意識障害が遷延した。第9病日に意識が改善したが, 第12病日に再度意識がGCSでE1V1M1まで低下した。第14病日に意識が清明となり, 第19病日に精神科病院へ転院となった。【考察】意識障害の遷延は薬物の脂肪組織からの再分布によるものと考えられた。これは脂肪組織に脂溶性の高い薬物の分布容積が多くなり, 消失半減期が延長する機序による。静注脂肪乳剤 (ILE) 療法はわが国での使用報告が少なく使用に逡巡するが, 重篤な副作用の報告は少なく, 本症例もILE療法の適応があったと考えられた。【結語】脂溶性の高い薬物の中毒患者には, ILE療法を治療法の一つとして考慮する必要がある。

  • 中治 春香, 久村 正樹, 久木原 由里子, 淺野 祥孝, 中村 元洋, 園田 健一郎, 安藤 陽児, 輿水 健治
    2021 年 42 巻 2 号 p. 31-34
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    (症例) 66歳男性。 (既往歴) 統合失調症。 (現病歴) 自宅で転倒して動けなくなり, 近医を経て当院に搬送された。バイタルサインは安定しており, 急性腎障害疑い, 高CPK血症, 胸椎11圧迫骨折, 左大腿骨転子部骨折の診断で保存加療となった。 (入院後経過) 腎不全は輸液と透析で軽快し, CPKは第5病日にピークアウトした。第11病日にせん妄に対しリスペリドン6mgが開始され, その翌日から意識が低下する。第15病日から発熱し, 熱源として誤嚥性肺炎と診断された。抗菌薬で肺炎の治療を開始したが, 第23病日に死亡退院となった。 (考察) リスペリドンの副作用による誤嚥性肺炎による死亡と考えられた。せん妄は, 身体疾患による急性脳症であり, 原因となる身体疾患や薬物を同定して治療する必要がある。せん妄に対して対症療法として抗精神病薬を使用する場合には, 誤嚥などの副作用に注意して使用するべきであると考えられた。

  • 鈴木 恵輔, 加藤 晶人, 光本 (貝崎) 明日香, 沼澤 聡, 杉田 栄樹, 中村 元保, 香月 姿乃, 井上 元, 柿 佑樹, 中島 靖 ...
    2021 年 42 巻 2 号 p. 35-38
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    ジフェンヒドラミンは抗ヒスタミン薬であり過量内服により多彩な中毒症状を呈するが, 重症例では最悪死に至ることがある。近年インターネットなどで取り上げられ, 自殺目的での中毒症例の増加が懸念されている。今回, 市販の抗ヒスタミン薬の大量服薬により心肺停止に至った症例を経験したので報告する。17歳女性。公園内で倒れているところを通行人が発見し救急要請。ジフェンヒドラミン12,000mg内服したと推定され, 救急隊現着時には心肺停止状態であった。当院救命救急センター来院時も心肺停止状態であり蘇生することはできず永眠となった。後日ジフェンヒドラミンの血中濃度を測定したところ, 来院時の血中濃度は26.73µg/mLと過去に報告されている心肺停止症例と比較しても高値であった。OTC医薬品として簡単に手に入る薬剤での死亡症例のため治療側も販売側も十分に注意していく必要があると考えられる。

  • 杉中 宏司, 岡本 健, 田中 裕
    2021 年 42 巻 2 号 p. 39-42
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    今回われわれは, 来院時造影CTにて明らかな腹腔内臓器損傷を認めず, 数日後左胃動脈仮性動脈瘤破裂を呈した症例を経験した。症例は, 85歳女性, 自転車走行中車と接触し, 救急搬送された。来院時バイタルは意識レベル以外明らかな異常を認めず, 身体所見にて後頭部挫創, 左腰部擦過創, 画像所見にて外傷性くも膜下出血, 側頭骨骨折のみを認めたため, 頭部単独外傷と診断し入院となった。第4病日に, ショック状態となり, 体幹部造影CTにて, 食道裂孔ヘルニアにより胸腔内に逸脱した胃体部前面に活動性出血を認めたため, 緊急血管造影検査を施行した。左胃動脈に仮性動脈瘤を認め, 塞栓術を施行した。その後明らかな貧血の進行は認めず, リハビリ目的に第32病日に転院となった。遅発性に左胃動脈の仮性動脈瘤を発症した報告は非常にまれである。来院時に体幹部に明らかな異常を認めなくても, 状態が悪化したときには全身を再検査することが重要である。

  • 舩越 拓, 高祖 麻美, 西田 和広, 高橋 仁, 窪田 忠夫
    2021 年 42 巻 2 号 p. 43-47
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    57歳男性。二輪車の単独事故で救急搬送された。近医で脾損傷を指摘され当院へ転送された。来院時ショックバイタルであったため直ちに蘇生処置を開始した。脾損傷に対しては前医のCT所見から日本外傷学会分類 III b型脾損傷と判断し, 脾動脈塞栓術を施行した。術後も頻脈が続き, 血圧も再度低下したため開腹術に移行したところ, 膵尾部損傷が認められた。静脈性の出血が持続している状態で挫滅も高度であったため膵尾部切除を施行し併せて脾臓摘出術も行った。術後, 全身状態は安定し第3病日にパッキングを解除・閉腹し, 受傷67日目に独歩退院となった。血管内治療の奏効率が高いとされる固形臓器の単臓器損傷と考えられた症例においても, 血管内治療後にバイタルサインが安定しない外傷患者ではほかの臓器損傷を念頭に速やかに開腹術へ移行することが重要である。

  • 井上 元, 宮本 和幸, 柿 佑樹, 鈴木 恵輔, 高安 弘美, 樫村 洋次郎, 大野 孝則, 前田 敦雄, 佐々木 純, 土肥 謙二, 林 ...
    2021 年 42 巻 2 号 p. 48-50
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    III 度熱中症は時に重篤な肝不全をきたすことがある。症例は60歳, 男性。トラック内で意識消失した状態で発見され直近医療機関へ搬送された。前医搬送時の体温は41℃でショック状態であったが, 補液で改善した。意識障害の遷延と肝逸脱酵素の上昇があり当院へ転送された。高体温, 中枢神経障害, 肝・腎機能障害, 凝固異常があり III 度熱中症と診断した。第3病日に肝不全となり, 同日から血漿交換, 血液濾過透析, メチルプレドニゾロン1,000 mg/dayを3日間施行した。肝障害は第3~4病日にかけて徐々に軽快した。 III 度熱中症に伴う肝不全は2~3病日前後から顕在化することが多い。肝障害から肝不全に至った場合は, 血漿交換・血液濾過透析・ステロイドパルスなど集学的な集中治療を早期に導入するべきであると考える。

  • 高橋 叶衣, 松田 航, 渡邉 愛乃, 山本 真貴子, 廣瀬 恵佳, 植村 樹, 小林 憲太郎, 佐々木 亮, 木村 昭夫
    2021 年 42 巻 2 号 p. 51-55
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    神経性やせ症患者における急性腎障害, とりわけ非乏尿性腎障害についての報告は乏しい。非乏尿性腎障害では, 乏尿性腎不全への進行を防ぐため早期診断・介入が重要である。本報告では自験例5名を中心に検討した。全例で来院時の血清クレアチニンは基準範囲内にあったが, 尿中ナトリウム排泄分画 (FENa) や尿細管障害マーカーは高値を示していた。KDIGO分類上でも入院時に急性腎障害と診断した。入院中正の水分出納を保つよう輸液管理を行ったところ全例で乏尿性腎不全への進行を防ぐことができた。神経性やせ症患者では, 患者の正常腎機能を示す血清クレアチニンが一般的な基準範囲の下限を下回る場合があり, 腎障害の発見が遅れる可能性がある。その場合には, FENaや尿細管障害マーカーが非乏尿性腎障害の早期診断に有用となり得る。早期診断した場合には, 循環血漿量を維持する輸液管理を早期から開始することが肝要と考える。

  • 高橋 充, 大井 康史, 白澤 彩, 山縣 英尋, 道下 貴弘, 伊巻 尚平, 竹内 一郎
    2021 年 42 巻 2 号 p. 56-60
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2021/03/31
    ジャーナル フリー

    重症心不全患者は, 植え込み型左心補助人工心臓 (LVAD) の適応がある場合, 体外式膜型人工肺 (VA-ECMO) や大動脈内バルーンポンピング (IABP) などの補助循環を使用した状態で植え込み術実施可能施設に搬送を要する場合がある。補助循環を使用した重症患者の搬送には専用搬送車両や特殊救急車が多く使用される。重症患者の安全で迅速な搬送には, 重症患者搬送に特化したチームの育成が理想であるが, 搬送チームが存在しない状況では救急医に搬送を求められる場合がある。そのため救急医は常に対応できるように準備する必要がある。搬送に際し最小限かつ過不足なく, また急変も想定した物品を準備する必要があり, そのためにはトラブルも見据えた物品やマニュアルなども記載されたチェックリストを作成しておくことが有効である。また地域として重症患者の集約化を図り, 地域全体で重症患者搬送を支持するシステム構築も求められる。

  • 2021 年 42 巻 2 号 p. 61-
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/02
    ジャーナル フリー
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