日本救急医学会関東地方会雑誌
Online ISSN : 2434-2580
Print ISSN : 0287-301X
42 巻, 3 号
日本救急医学会関東地方会雑誌
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
総説
  • 中島 功, 大塚 洋幸, 市村 篤, 本多 ゆみえ, 梅澤 和夫, 守田 誠司, 中川 儀英
    2021 年 42 巻 3 号 p. 63-66
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    福島第一原子力発電所事故 (以下, 福島原発事故) では, 政府から自治体に対する連絡が遅れたばかりではなく, その深刻さも住民に伝えることができなかった。事故の発生を知った住民の割合では避難指示の発令と住民が知った時間には遅延が認められ通信回線や情報伝達が満足できる環境ではなく, 人によっては幾度となく避難場所を変更させられ, 線量の高い地域への移動を余儀なくされた。甲状腺を飽和させ放射性同位元素であるヨウ素I131の取り込みを抑える目的で, ヨウ素製剤を配布しなければならなかったが, 多くの市町村で配布服用できなかった。福島原発事故の教訓として, 災害時は現場が混乱し一人ひとりに錠剤を手渡し, 説明する作業は困難をきわめるため, 30km圏内の住民に対しても事前にヨウ素製剤を配布し, 背景や副作用を学習させることが望ましい。これはパンデミック対策のTargeted Antivirus Prophylaxis (TAP) に通じるところがある。

症例報告
  • 小野 貴広, 星野 哲也, 小林 有彩, 伏野 拓也, 朴 啓俊, 坂本 彩香, 鈴木 喜一, 中尾 隼三, 関谷 芳明, 平谷 太吾, 榎 ...
    2021 年 42 巻 3 号 p. 67-70
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    気道内腫瘍はきわめてまれな腫瘍である。治療として外科的切除のほか, 気管ステント留置後の化学・放射線療法がある。気道処置を確実な呼吸補助下で行ううえでVeno-venous extracorporeal membrane oxygenation (V-V ECMO) が有効である。症例1 : 39歳女性。労作時呼吸困難感を自覚し気管支喘息として加療されるも増悪した。胸部CT画像で左主気管支を圧排する後縦隔腫瘍を認めた。気管挿管, V-V ECMOを導入し, 気管・気管支ステントを留置しV-V ECMO離脱, 14病日に抜管した。症例2 : 64歳女性。喀痰・咳嗽・喘鳴を自覚し受診した。胸部CT画像で気管分岐部から右主気管支入口部にかけて増生する腫瘍性病変を認めた。気管挿管, V-V ECMOを導入し, 気管支ステント留置後にV-V ECMO離脱, 21病日に抜管した。V-V ECMO自体の合併症のリスクを考慮し, V-V ECMOの稼働時間を長期化しない運用を務めることを前提に, 腫瘍性病変による気道狭窄に対する気道処置時の確実な呼吸補助としてV-V ECMOは有用である。

  • 加藤 秋太, 鈴木 美麗, 赤星 昂己, 小崎 良平, 岩崎 恵, 安達 朋宏, 吉川 和秀, 小島 光暁, 庄古 知久
    2021 年 42 巻 3 号 p. 71-74
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    患者は69歳女性。うつ病で他院精神科に入院中に血圧低下を認め, 敗血症性ショックの疑いで当院へ転院となった。来院時ショックであり, CT検査で多量の腹水と骨盤内に被包化された液体貯留腔, 腸管外遊離ガスを認めた。下部消化管穿孔による汎発性腹膜炎の疑いの術前診断で緊急開腹手術を行った。開腹すると腹腔内は悪臭を伴う多量の膿性腹水, 高度に菲薄化し一部壊死した子宮を認め, 内部には白色膿が貯留していた。子宮留膿腫破裂による汎発性腹膜炎の診断とし, 子宮膣上切除術, 腹腔洗浄ドレナージ術を行った。その後, ICUで循環動態の維持, 人工呼吸器管理, 抗菌薬治療, DIC治療など集中治療を行った。全身状態は改善したが, 意識障害が残存し第25病日に気管切開術を行い, 第34病日にICUを退室, 第101病日にリハビリテーション病院へ転院した。高齢女性の骨盤内膿瘍や腹膜炎では, 本疾患も鑑別にあげる必要があると考える。

  • 石垣 佳織, 廣瀬 陽介, 木村 友則, 小口 萌, 森戸 知宏, 片山 延哉, 中島 聡美, 貞広 智仁
    2021 年 42 巻 3 号 p. 75-78
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は63歳女性。5年前に鞍鼻と鼻閉, 1年前に喘鳴があり精査中だったが診断が確定する前に通院を自己中断した。その後呼吸困難で当院へ救急搬送され, 喘鳴を聴取し重症気管支喘息重積発作と判断した。薬剤投与にいったん反応したが, ICU入室後にも喘息様発作を繰り返し, 第3病日に挿管・人工呼吸管理とした。第7病日の気管支鏡検査で, 陽圧換気中にもかかわらず吸気呼気ともに気管支の内腔の狭小化が著明で再発性多発肋軟骨炎と診断した。気管軟骨組織の変形のため気管内ステント挿入が必要と考え, 気管切開ののち, 転院し他院で全身麻酔下に気管から両側主気管支に挿入した。しかし末梢の気道狭窄は残存し帰院後も呼吸器から離脱できず, 誤嚥性肺炎を併発して第65病日に永眠した。難治性の気管支喘息重積発作と診断され薬剤抵抗性の場合は, 再発性多発軟骨炎の可能性を考慮する必要がある。

  • 北野 夕佳, 若竹 春明, 堤 健, 吉田 稔, 吉田 徹, 桝井 良裕, 村澤 昌, 中薗 健一, 平 泰彦, 藤谷 茂樹
    2021 年 42 巻 3 号 p. 79-82
    発行日: 2021/06/30
    公開日: 2021/06/30
    ジャーナル フリー

    【背景】アンギオテンシンII受容体拮抗薬 (ARB) などのレニンアンギオテンシン (RA) 系阻害薬は心・腎保護作用の観点から処方頻度が高い。発熱, 下痢, 嘔吐, 経口摂取低下などのシックデイには, 急性腎障害 (AKI) のリスクがありレニン・アンジオテンシンン (RA) 系阻害薬は休薬を指導することが日本腎臓学会からも提唱されているが, 周知度は高くない。【症例】70歳台男性。腎硬化症によるChronic kidney disease (CKD) G3aでオルメサルタン, アムロジピン処方あり。カンボジア観光旅行に行き, 約8回/日の水様下痢が出現するも, ARBを含め内服を継続した。帰国後体重7kg減と嘔気にて近医を受診しCr 9.8mg/dLを指摘され当院に紹介入院となった。乏尿でありCrは13.4mg/dLまで上昇したが, 補液, ARB休薬にて自尿は回復した。腎機能もCr2.9mg/dLまで改善したため第9病日自宅退院した。旅行者下痢症からの脱水症およびARBによるacute on chronic kidney diseaseと考えられた。【結語】シックデイにはRA系阻害薬を休薬することが重要である。

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