日本森林学会大会発表データベース
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学術講演集原稿
  • 松永 孝治, 岩泉 正和, 久保田 正裕, 原 亮太朗, 北嶋 諒太郎, 細川 貴弘, 渡辺 敦史, 久米 篤
    セッションID: S1-1
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    近年、熊本県にある九州育種場では原因不明のクロマツの種子生産の低下が見られていた。2018年にマツ類等の球果・種子の害虫である外来種マツヘリカメムシが同育種場内で確認され、種子生産低下への関与が疑われた。クロマツの種子生産に及ぼす本種の影響を明らかにするため、同育種場内のマツノザイセンチュウ抵抗性クロマツの実験交配園において袋かけ実験を行った。まず、クロマツ成木に着生した開裂前の球果に秋に袋かけを行い、マツヘリカメムシに球果を強制的に吸汁させたところ,得られる種子数は変化しなかったが、種子の充実率の低下が見られた。次にマツヘリカメムシが発生している交配園において、初夏から収穫までの期間、防虫用の袋を球果に設置したところ、未処理の球果に比べて有意に多くの充実種子が得られた。また、春に開花直前の雄球花に袋をかけて、マツヘリカメムシに強制的に吸汁させたところ、雄球花から得られる花粉の量が有意に減少した。これらの結果は、マツヘリカメムシが球果と雄球花の吸汁によってクロマツの種子生産に負の影響を与えることを示唆する。

  • 松田 修, 小川 健一
    セッションID: S1-2
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    種苗の品質は外観から評価することが難しい。このため、穀類や野菜等の指定種苗の流通においては、産地や有効期限、種子では発芽率の表記が義務づけられており、その目標値も定められている。一方、閉鎖環境での育成が困難な針葉樹では、種子発芽率が変動しやすく、10%を下回ることもある。この傾向は、マツ類よりもスギ・ヒノキにおいて顕著であり、これらの球果を吸汁するカメムシ類が、発芽率の低下を招く主因と見られている。

    本発表では、同一採種園内に生育するヒノキのクローン母樹を対象に、2018~2019年に行った採種試験について報告する。採種に当たり、吸汁阻止を目的とした網袋による被覆区と、無被覆の対照区を設定した。種子の品質評価には、計量や化学分析による実測に加え、近赤外分光法に基づく非破壊推定の手法を併用した。被覆の有無によらず、稔実粒の重量や化学的特性に顕著な差は認められなかった。一方、被覆区における稔実粒の収量は、対照区と比べ、球果あたりで約8倍、枝長あたりで約37倍に達した。このように、ヒノキにおけるカメムシ被害は甚大であり、持続的な種子生産の観点から、マツ類の球果を吸汁する新規外来種の防除は喫緊の課題と言える。

  • 細川 貴弘
    セッションID: S1-3
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
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    多くの昆虫類が体内や体表に共生微生物を保持しており、共生微生物は宿主昆虫の生態・生理・進化などに大きな影響を与えている。カメムシ下目に属するカメムシは一般的に植物から吸汁するため、深刻な農業害虫になっている種は少なくない。これらのカメムシ類は腸内に共生細菌を保持していることから、共生の維持機構や共生細菌が宿主カメムシに与える影響は基礎生物学と応用生物学の両方面から注目を集め、研究がおこなわれてきた。共生の維持機構としては共生細菌の垂直伝播と環境獲得の両方が知られており、カメムシ上科では垂直伝播、ヘリカメムシ上科・ナガカメムシ上科・ホシカメムシ上科では環境獲得が一般的である。宿主カメムシから共生細菌を実験的に除去すると成長遅延・矮小化・死亡などの異常が見られることから、共生細菌は宿主の成長に必要な必須アミノ酸やビタミン類を合成・供給していると考えられている。さらに、少なくとも一部のグループでは、共生細菌が宿主カメムシの寄主植物範囲や殺虫剤耐性に影響を与えることも知られている。本講演ではこれらの知見を概説するとともに、マツヘリカメムシの共生細菌の研究で明らかになってきたことを紹介する。

  • 原 亮太朗, 松永 孝治, 渡辺 敦史, 細川 貴弘, 久米 篤
    セッションID: S1-4
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
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    マツヘリカメムシは1910年に北アメリカにおいて世界で初めて発見され、2008年に日本への侵入が確認され、既に30以上の都府県で目撃例がある。このカメムシは針葉樹球果の種子を摂食することが知られており、欧米ではこのカメムシによる被害が多く報告されている。熊本県合志市の林木育種センター九州育種場では、近年本種の定着とクロマツ球果の吸汁が確認されており、防除法の確立が求められている。しかし、本種の日本における生態、発生時期などはほとんど調べられていない。そこで本研究では、マツヘリカメムシの個体群動態の解明を目的とした野外調査を実施した。林木育種センタ―九州育種場圃場を調査地として、2020年から2022年の3年間に渡って見つけ採り法を行い、齢構成の変化を調べた。そして、1年間の世代数をマツヘリカメムシの有効積算温度から推定し、野外調査の結果との整合性を評価した。また、各齢や、各世代の調査地内における分布様式を比較し、マツの球果数や花の開花状況などと合わせて評価することで、調査地内のマツヘリカメムシの空間分布要因を解析した。

  • 久米 篤, 北嶋 諒太郎, 松田 修, 松永 孝治, 原 亮太郎, 渡辺 敦史
    セッションID: S1-5
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    北米原産のマツヘリカメムシ(Leptoglossus occidentalis : WCSB)は、今世紀初頭から世界各地に急速に分布を拡大し、日本でも最近10年間で全国に分布を広げ、防除対策の検討に向けた生態特性の解明が必要となっている。WCSBは各種マツ類の花や球果に集まるが、可視光、赤外放射、およびモノテルペンなどの化学信号の組み合わせによって餌対象を探索していると考えられている。WCSBはより大きな球果を好むことも確認されているが、餌として種子を吸汁すると同時に、大きな球果上で体温上昇効果を得る可能性が検討されている。林木育種センター九州育種場のマツ採種園では、早春に、ほとんどのWCSBの越冬個体がクロマツの開花直前の雄花に集まることが観察された。一方、雄花が開花し他の訪花昆虫が集まってくると、WCSBは雄花上には見られなくなった。クロマツの雄花は、雌花や針葉よりも暖かいという仮説を立て、ハイパースペクトルセンサーで分光反射率を測定し、熱電対でマツ器官の温度を測定し、熱収支モデルで解析した。その結果、雄花は雌花や針葉よりも著しく温度が高く、雄花上のWCSBは他の器官のWCSBよりも体温を高く維持できることが示された。

  • 小池 孝良, 増井 昇, 渡辺 誠
    セッションID: S2-1
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    近年、化石燃料の消費増大に代表される人間活動によって、森林を取り巻く環境は劇的に変化している。降水量の変化、大気CO2濃度の上昇、窒素や硫黄などを含んだ酸性物質の沈着量の増加、オゾンやPM2.5などの大気汚染物質が都市樹林地など森林生態系に与える影響が懸念されている。このような無機環境変化は、光合成活性の低下、土壌の養分・水分の利用性や病虫害に対する抵抗性に変化を与え、森林の生産性や分布に影響を与える。これら環境変化を無機環境と病虫害などの生物応答を様々な角度から検討する。最近、マスコミでも多く取上げられているが、虫害に対する揮発性有機化合物(BVOC)を介する反応など、最新の知見を樹木の被食防衛に注目して議論するとともに、森林保護のさらなる発展に貢献できる(と信じている)出版物(木本植物の被食防衛―変動環境下での生存戦略)の紹介も行なう。

  • 松木 佐和子
    セッションID: S2-2
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    現在起きている、あるいは今後予想される環境変化によって森林害虫の被害は増えるのか?という問いに対して様々な検証研究が行われている。森林に生息していても、その利用が森林の生産性には大きく影響しない、いわゆる「普通の虫」の「害虫化」はどのようなプロセスによってもたらされるのだろうか?

    昆虫による森林被害(ここでは主に樹木の成長・生存被害)は、植物、植食性昆虫、捕食性動物(天敵)の3者それぞれが影響を及ぼし合い、その結果としてもたらされる。温暖化や大気中二酸化炭素濃度の上昇といった環境変化に対して、3者それぞれが異なる形で応答する。また、既に被害が日本全国に広がっているマツ枯れやナラ枯れが広がった背景には、環境変化に加えて人為的な植生改変が大きな誘因として作用していることを見過ごしてはならない。

    本講演では、2022年から再び北海道で大発生の兆しを見せているヤママユガ科の鱗翅目昆虫クスサンを例に、環境変化や植生改変がクスサン大発生にどのような影響をもたらしているのかについて、これまで明らかになってきた研究結果をもとに報告する。

  • 北岡 哲, 信濃 卓郎, 鈴木 卓
    セッションID: S2-3
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
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    本発表では紫外線の性質と、農林分野における利用について紹介する。紫外線はUV-C(100-280nm)、UV-B(280-320nm)、UV-A(320-400nm)に区別される。UV-CとUV-Bのほとんどは成層圏オゾン層などに吸収される。1980年代に大気汚染物質による成層圏オゾン層の破壊が観測されたが、現在成層圏オゾン層は回復傾向の見込である。地表に届く紫外線は、日射のうち数%を占めるUV-Aと0.1%程度を占めるUV-Bである。短波長の光ほど強いエネルギーを持ち、また核酸の吸光特性は260nm付近に吸収極大を持つためUV-Bを吸収しやすい。紫外線から花を守るために、ハンカチノキは多量のフラボノイド化合物を含む苞葉を持つ。紫外線はリター中のリグニン等の高分子化合物を低分子化合物に光分解することで、森林の炭素循環にも関わっている。紫外線の化学的な性質の応用例として、ハウス栽培での病害虫の抑制にUV-Bランプが活用されている。昆虫の紫外線への走向性を応用した害虫防除手法として、誘蛾灯や、紫外線を透過させないことで害虫の侵入を防ぐ紫外線カットフィルムが、施設園芸分野で活用されている。

  • 北尾 光俊, 矢崎 健一, 飛田 博順, 岸本 純子, 高林 厚史, 田中 亮一
    セッションID: S2-4
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    紅葉期のアントシアニンの役割を明らかにするため,ハウチワカエデ成木樹冠内の生育光環境が異なる葉を対象として,光合成色素,窒素含量,糖・デンプン含量,光合成特性の季節変化を調べた。樹冠表層南向き(強光),樹冠表層北向き(中間の光強度),樹冠内部北向き(弱光)の3か所に生育する葉を選び測定を行った。乾重当たりの窒素含量は光環境によらず,すべての葉で同じタイミングで同程度の低下を示した。光阻害の指標となるFv/Fmの低下についても光環境による違いは見られず,すべての葉で窒素を回収した後に光阻害が認められた。また,糖:(糖+デンプン)比もすべての葉で等しく秋季の上昇傾向を示し,窒素の回収が本格化するタイミングでデンプンはほぼ消失していた。樹冠表層の葉ではデンプンが消失した後にアントシアニン濃度が急上昇すること,アントシアニン濃度の上昇に対して糖濃度が頭打ちになることから,アントシアニンがデンプンの代替として糖濃度の上昇を抑制している可能性が示唆された。糖濃度の上昇は葉の老化を促進することが知られている。アントシアニンは糖濃度を制御することで,樹冠表層の葉の早期落葉防止に貢献していると考えられる。

  • 佐瀨 裕之
    セッションID: S2-5
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    樹木葉面のエピクチクラワックスは、制御できない水分の蒸発散、細胞にとって有害な紫外線の照射、そして、外部からの微生物の侵入などを防ぐ、防御壁としての役割がある。葉面ワックスの量的・質的変化は、昆虫等の葉面での挙動や食性に影響することも、栽培植物を中心に示唆されている。葉面は、常時外気に暴露されているため、大気汚染物質や気候の影響を受けやすく、変動する大気環境下において、エピクチクラワックス特性の変化を把握することは、樹木の被食防衛を考える上でも重要である。本講演では、我が国の代表的な樹木であるスギ(Cryptomeria japonica D. Don)の葉面ワックスの様々な環境因子による特性の変化、それと関連した葉面-大気間で生じる相互作用について論じる。ここでは、クロロホルムにより数10秒間程度で抽出される成分をエピクチクラワックスと定義する。スギ葉のワックス量は、生育標高、枝の高さ、葉齢、大気汚染物質の暴露などによって増減し、それに従って、ワックス中のC/O比も変化し、異なる成分の生成や流亡が示唆された。また、葉面におけるイオン交換や粒子状物質の沈着などと葉面環境との関連も論ずる。

  • 渡辺 陽子
    セッションID: S2-6
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    大気中CO2濃度上昇は、光合成能や蒸散など樹木の生理機能の変化を通して、木本植物と植食者の関係に影響することが予測されている。本研究では、北海道の主要落葉広葉樹3種を高CO2濃度環境下で生育させ、葉の被食防衛能がどのように変化するのか解明することを目的とした。試料は、2年生のホオノキ、ミズナラ、ブナとし、CO2付加区 (720 ppm)および対照区 (360 ppm)で2年間生育させた。その後、成熟葉を採取し、LMA、C/N比、総フェノール量、縮合タンニン量を測定した。また、葉内のフェノール性物質の分布について顕微鏡観察を行った。

    その結果、高CO2濃度下での被食防衛能の変化は、樹種により異なった。ホオノキやミズナラと異なり、ブナは全ての測定項目においてCO2付加区で有意に増加した。これはシュートの成長様式と関連があると考えられる。つまり、他の2種と異なりブナは固定成長を行うため、高CO2濃度環境下で発生した余剰の光合成産物は成長よりも被食防御物質(フェノール性物質)の生合成に利用され、結果的に被食防衛能が増大したと考えられる。フェノール性物質の葉内分布については、全ての樹種で変化しないことが明らかとなった。

  • 渡辺 誠, 則定 優成, 田中 亮志, 伊豆田 猛
    セッションID: S2-7
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では異なる土壌環境に生育するコナラ成木の葉の特性と植食者による食害率の樹冠内鉛直分布を調べた。2019年7月に東京農工大学農学部附属フィールドミュージアム多摩丘陵、草木、津久井、秩父、唐沢山および府中の6地点で、コナラ成木6個体の樹冠内5高度から葉を採取した。採取した葉の食害率、葉の糖、デンプンおよびタンパク質などの一次代謝物質の濃度、フェノール化合物などの化学的防御物質の濃度、細胞壁量および葉硬などの物理的特性を測定し、葉の食害率と各特性の鉛直分布を解析した。土壌環境として、鉱質土壌の養分濃度や窒素無機化速度などを測定した。葉の食害率は、貧栄養な環境よりも富栄養な環境のコナラの方が高かった。一方、全調査サイトにおいて、コナラ成木の葉の食害率に、樹冠位置による明確な違いはなかった。化学的防御物質であるフェノール化合物の濃度は樹冠上部で高く、樹冠下部にかけて減少した。一方、物理的防御の一つである細胞壁量は樹冠上部で低く、樹冠下部にかけて増加した。以上より、コナラは樹冠位置によって主な防御手段が異なり、その結果として、葉の食害率に樹冠内鉛直分布が見られなかったと考えられる。

  • 増井 昇
    セッションID: S2-8
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    高濃度のオゾン(O3)など、環境ストレスに伴う植物の防御物質量の低下は、植食性昆虫から見た餌資源としての魅力を向上させると想定される。しかし、近年の研究から、昆虫の行動は植物に辿り着く前の段階において、植物から放出される“香り”に大きく影響されることが分かってきた。この重要なシグナルである“香り”、非メタン系揮発性炭化水素のBVOCs(Biogenic Volatile Organic Compounds)は、放出後に大気中でO3と反応することで本来の機能を失うことが懸念されている。昆虫のBVOCsに対する誘引性は、1つの物質よりも、複数の成分のブレンド比によって効果を発揮する場合が多い。よって、O3と反応性の高い一部の重要な成分の減衰によって、その“香り”が昆虫に対しては認識されなくなってしまう。花粉媒介昆虫はもちろんのこと、植食性昆虫も生態系の流動を生み出す重要な構成種である。O3など大気環境の悪化は、BVOCsが紡いできた生物間コミュニケーションを崩壊させる懸念を孕んでいる。本講演では、開放系O3曝露システムを用いて行ってきた研究事例を中心に、大気汚染が及ぼす昆虫-植物間コミュニケーションへの影響とそのリスクに関して概説する。

  • 長谷川 愛
    セッションID: S3-1
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    中学校学習指導要領技術・家庭技術分野の(3)アでは「生活や社会,環境との関わりを踏まえて,技術の概念を理解すること」と示されている。内容A材料と加工の技術で再生産可能な材料として木材を扱うにあたって,社会や環境に大きく関わる森林学習が求められている。また,内容B生物育成の技術において木材などの材料の生産について扱うことは,小学校で森林の多面的機能について学習している生徒にとって,資源やエネルギーの有効利用,自然環境の保全等に貢献していることを理解する一助になる。そこで,内容Aで木質材料を用いた作品製作を行うとともに,工場での木質材料の製造過程を学習することで,再資源化や廃棄物などによる環境への負荷についても目を向けさせる。内容Bでは林業の現場の話を聞くことで,自分ごととして木材の利用と森林の保全の関わりを学ぶとともに常に変化し続けている技術について知る。これらの森林学習を通して,内容Aで使用する材料と内容Bの木材の生産のつながりをもたせる。さらに,美術の木工作品の製作や理科の植物の体のつくりと働きの学習と同時期に行うなど他教科との連携を意識して実施している。これらの取り組みを報告する。

  • 大和 知朗
    セッションID: S3-2
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    農業高校の森林・林業に関連する専攻授業を担当して10年になる。多様な環境をもつ演習林を活用しながら授業を行っている。専攻授業は2年生で「森林科学」、3年生で「林産物利用」、主に実習に取り組む「課題研究」と「総合実習」を担当している。実習では森林保育や林産物の利用に関わる内容を実施しており、チェンソーや高性能林業機械など、学校だけでは指導出来ない内容も多くある。地方振興事務所や森林組合、林研グループなど専門家の方々からご指導をいただいている。多くの方々の協力のおかげで教育内容の充実が図られ、森林専攻の人気は高い。進路先も県の林業職、森林組合・事業体、林業大学校などがみられるようになってきた。一方、教材や施設の維持管理や導入のためには、木材や林産物の販売、演習林の主伐と更新をすすめながら予算の確保が重要である。また、この分野を専門とする教員がおらず、教育内容の継承が難しくなっている。人材と体制づくりが急務である。また、少子化の進むなか、魅力ある学校づくりとPR、他業界に引けを取らない待遇の改善も必要であり、高校が縦(小中学校や進路先)と横(学校間)で連携することが求められる。

  • 井上 真理子, 山田 祐亮
    セッションID: S3-3
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    高等学校の森林・林業教育には、林業職公務員など専門的人材育成への期待が高い。森林・林業3科目のうち「森林経営」は、公務員試験に重要な科目で、持続可能な森林経営の内容が含まれている。ただし、森林・林業関連学科の現状調査によると、「森林経営」の実施率が低く、実習も少ないという課題がある。そこで、「森林経営」の森林計画の授業案(地域の森林計画を考える班活動)を考案し、実際の授業から実用性を検討した。授業対象は、森林・林業専門学科(「森林経営」のあるA校、ないB校)2・3年生で、専門家の模擬授業(2022年1月)と、高校教員(林業指導経験10年以上)の授業(2022年10~11月)を行った。授業(1~2時間)は、森林のゾーニング(木材生産林、環境保全林)を、4人が役割(市役所職員、森林所有者、林業作業者、漁業関係者)に分かれて行うもので、高校教員からの評価も得た。授業では全ての班がゾーニングを完成させ、生徒アンケート(5段階評価)から、難易度(平均3.25)、内容への興味(平均4.00)と評価が高かった。高校教員の授業も同様に行うことができ、身近な話題の挿入やタブレットの活用など工夫がされた。

  • 乗冨 真理
    セッションID: S3-4
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

     近年、林野庁では林業の生産性・安全性を飛躍的に向上させる林業イノベーションを推進しており、将来の林業を担う人材を育成する林業高校においても、ICT等を活用し資源管理や生産管理を行うスマート林業に関する教育の充実が重要となってきている。

     しかし、教材の不足や教員が十分な知識・経験を得られる機会が少ないことなどから、多くの林業高校ではスマート林業教育の実施にあたって課題を抱えている状況である。

     こうした中、全国の林業高校で一定水準以上のスマート林業に関する学習機会を設けるため、林野庁では令和4年度よりスマート林業教育推進事業を開始し、授業や自習用の教材として無料で活用できるスマート林業オンライン講座の作成・配信や、地域の企業等及び地方自治体と連携した地域協働型のスマート林業教育プログラムの開発・実証を実施している。また、年度末には全国の林業高校教職員を対象として、上記2点の成果共有を含めたオンラインでのサミットを開催し、林業高校におけるスマート林業教育の普及に向けた課題や対応策を提起し、これらを共有する場を設けている。

  • 津田 吉晃, 山川 陽祐, 廣田 充, 藤澤 将志, 湯川 愛, 小松 玄季, 佐藤 健司, 上野 文紀, 寺沢 正樹, 大西 沙織, 松川 ...
    セッションID: S3-5
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    筑波大学では理学分野(生態学、遺伝学、気象学、地理学など)、工学分野(河川工学、リスク工学など)、農学分野(造林学、林産学、環境経済学、山村社会学、観光学など)の融合分野として山岳科学を捉え、日本初の山岳に特化した修士課程“山岳科学学位プログラム”を2017年4月よりスタートした(津田ら2019)。本学位プログラムでは山岳地域を取り巻く環境問題の解決や山岳生態系の持続的管理などに対応できる人材育成を目指しているため、アカデミアでの研究教育に加え、山岳・森林業界との連携およびその教育への発展にも注力してきた。特に筑波大学、静岡大学、山梨大学、信州大学、林野庁関東森林管理局、中部森林管理局の6者間では、山岳科学の教育研究・人材育成に関する協定を締結し、授業、実習やセミナーを通して、学生に山岳・森林の現場を深く理解してもらう取り組みを行ってきた。また山岳・森林現場で活躍する関連省庁、県、企業、団体の職員を非常勤講師として迎え、山岳・森林の教養を深める授業にも取り組んでいる。本発表ではこのような取り組みを紹介するとともに、アカデミアと社会を結ぶ山岳・森林科学分野の大学院教育の発展について議論する。

  • 小関 崇, 寺下 太郎, 山田 容三, 都築 勇人, 川﨑 章惠
    セッションID: S3-6
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

     近年、高等学校森林・林業関連学科(以下「林業科」)は全国的に減少、多様化し、専門性の希薄化、専門教員の減少等の問題を抱えており、また林業科から大学への進学率が増加するなどかつての「職業教育」機関としての役割が揺らいでいる。そこで本研究は、大分県内の林業科を対象に2021年11月~2022年8月にかけて、現在の林業科が行う専門教育の役割を明らかにすることを目的に文献調査、在校生へのアンケート調査、教員への対面調査を行った。

     その結果、再編縮小を経験しながらも森林・林業関連3科目は維持され、課題研究や総合実習科目の中で地域産業・社会と連携した学習活動を行うなど、林業専門教員によって職業に関する教育が実施されており、職業意識や林業就業意欲が醸成され、地元就業とは限らないが林業・木材関連産業への人材輩出が現在も行われていることが明らかになった。すなわち、大分県の林業科は未だに職業教育機関としての役割が明確であった。しかしながら、なぜ大分県では職業教育機関としての役割が損なわれていないのか、今後全国的な傾向と同じ道をたどるのか、林業大学校等が行う就業前専門教育との役割の違いなどの研究課題が残された。

  • 牧野 耕輔
    セッションID: S3-7
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

     鹿児島大学農学部附属高隈演習林は,2014年度から文部科学省の教育関係共同利用拠点事業に取組み他大学との連携を推進している。2019年度からの第二期は新型コロナウイルスの影響により学外利用者の受入中止や延期が相次いだが,第一期の5年間は他大学から延人数3,011人の利用があった。受入内容は林業教育分野,環境教育分野,防災教育分野,動植物教育分野,地域コミュニティ分野と多岐にわたる。専門教育では,一週間連続で行う琉球大学の間伐実習が特徴的であり,スギ人工林の実習地確保が難しい琉球大学が鹿児島大学の演習林を活用することで充実した実習を実現している。初学者を対象とした教育では文系私立大学の野外実習などを受入れ,森林・林業の知識や技術を広く提供している。

     共同利用の取組みが定常化するにつれ,他大学の実習に鹿児島大学の学生が参加したり,高隈演習林の社会人教育プログラムを他大学の学生が受講するなど学びの幅が広がっている。また,鹿児島大学の教職員も他大学の実習から多くの知見を得ており,これを本学の学生実習にフィードバックさせるなど,大学間のつながりを通じた専門教育の質の向上に取組んでいる。

  • 枚田 邦宏
    セッションID: S3-8
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

     本報告では、林業に関わる現場・管理業務に関わる人材および行政専門職に従事する森林技術者として設定し、養成課程における大学の意味について検討を行うことを目的とする。一般的に大学における林学教育は、国家公務員森林関係専門職、都道府県林業専門職の人材養成を想定して教育プログラムが組まれてきた。しかし、大学教育の度重なる再編に伴い既存の林学教育内容は大きく変化し、技術者養成の認識が減退し、その結果、公務向けの専門技術者の供給に応えることができない状況になりつつある。一方、現場での技術者養成機関として森林・林業大学校の設置や緑の雇用事業をはじめとする国、都道府県で、生産技術ならびに多様な知識が得る事ができる技術者研修が実施されている。以上の状況変化の中で、大学における森林技術者養成は、いままでとは異なり、多面的機能を発揮できる地域の森林計画づくりのための多様な知識・能力の養成を踏まえた教育プログラムの維持、改善を進めること、技術の発展に伴う社会人向けの教育として、大学における学び直し教育の提供等が求められている。

  • 木下 仁
    セッションID: S4-1
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

     「森林サービス産業」は令和3年6月閣議決定の「森林・林業基本計画」に明記され、モデル地域への支援等が行われている。各地で企業の健康経営の一環で森林サービスを活用できるよう、その効果の計測とプログラム開発が取り組まれ、具体的な企業と地域の連携などへの発展も期待できる段階となっている。一方、地域での森林サービス産業創出の課題として、令和元年度林野庁委託調査報告書でも、意識共有や持続的な推進体制の構築、人材育成などがあげられている。

     林野庁では、令和3年にICT、AI等の異分野技術の森林・林業分野への導入促進方策の検討を行う「林業イノベーションハブセンター(森ハブ)」の取組を開始し、そのなかで地域で断続的にイノベーションを発生させる「林業イノベーションエコシステム」の形成に向けた議論を行っている。諸外国等の取組事例などをもとに、成熟過程を整理しフェーズ別展開とそのための支援プラットフォームの役割を検討しているが、地域の様々な関係者の連携が必要な「森林サービス産業」の創出においてもこのフェーズ別展開の方策が重要であることから、今後の「森林サービス産業」の創出への展開を考察する。

  • 落合 博子
    セッションID: S4-2
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    森林空間における健康効果活用は、「森林サービス産業」促進に不可欠な要素である。まず健康効果の推奨度を把握する目的で2019年にエビデンス専門部会検討委員会が組織され、「エビデンスレベル(EL)」を考慮した国内外の先行研究を収集・整理する作業を実施した。心身の健康づくりに関しては一定のELが報告されてきたが、社員研修やテレワーク、福利厚生・CSR活動に関しては、森林空間活用と関連した先行研究がほとんどなく、実証的取り組みの必要性が認識される結果となった。2020年からは、「企業の健康経営」の課題解決や「健康無関心層」の行動変容をターゲットとしたプログラムを実施する「モデル地域」が選定され、アウトカム評価に直結するエビデンスの取得・集積に対する支援が行われた。「モデル地域」ではモニターツアーの準備段階から専門家が加わり、地域独自のプログラム企画をサポートした。睡眠や自律神経、感性、気分状態などのアウトカム評価は地域事業のPR活動に利用され、新たな企業誘致に貢献できた。今後は「健康寿命延伸プラン」などの施策で森林空間活用を提案するために、産業医を含めた医療関係者への啓発に取り組んでいきたい。

  • 寺崎 竜雄
    セッションID: S4-3
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    森林の中で、観光旅行者に人的サービスを提供する事業の一例にエコツアーガイド業がある。例えば、屋久島では1990年代初頭に屋久島自然休養林(ヤクスギランド・白谷雲水峡)を一日かけてガイドが案内するエコツアー商品が開発された。当初は、参加者一人当たり15,000円程度のツアー費は高額だと思われたが、こうした市場が徐々に成長し、今では150人とも200人ともいわれるプロのガイドが屋久島の地域産業を形成している。近年では知床や小笠原などの原生的な森林をフィールドとしたエコツアーガイド業が定着するとともに、里地や里山などの身近な森林におけるガイドツアーも普及してきた。一方で、起業には資格や許認可は不要であり、携帯電話さえあれば始められる仕事だとも言われている。参入障壁の低さ、廃業の容易さ故に、産業としての理解の遅れにもつながっていると考える。一部地域ではガイドの登録・認定が制度化されているものの、この枠組みにとらわれずに活動するガイドは多い。産業としての発展に向けて、子供たちの憧れの仕事として広く知られるようになるためにも、ガイド産業という何らかの枠組みが必要な時期に来ているだろう。

  • 木俣 知大
    セッションID: S4-4
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    2019年に林野庁等が提唱した「森林サービス産業」は、主に健康・教育・観光の3分野を掲げている。そして、教育分野では、幼児教育の質の向上(幼児期)、社会を生き抜く力の育成(学童期)、社員研修(青壮年期)の取組が掲げられた。その後、幼児期においては、自治体による「自然保育」の認証制度の創設が拡がりつうある。また、過疎化・少子化による既存園が閉園した集落で新たに「森のようちえん」等を新設したり、廃園の危機にある保育所が「森のようちえん化」「民営化」することで移住を促進して、園を継承したりする動きが拡がっている。学童期においては、森林分野とともに教育分野の視点を組み込んだ「森林ESD」の考えを採り入れることで、教育委員会・青少年教育施設等との連携を深め、幅広い児童・生徒への移動教室における学習機会を創出する取組が拡がっている。青壮年期においては、SDGsが社会に浸透するとともに、コロナ禍により事業環境が激変する企業が少なくない中で、森林を活用して自律的・価値創造型の人材育成を目指す企業研修が拡がりつつある。そこで、本発表では最新の取組状況と、教育視点からの森林の現代的価値の試論に関して報告する。

  • 平野 悠一郎
    セッションID: S4-5
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    森林サービス産業は、観光、教育、健康などの目的を軸に、森林の多面的利用を促す施策である。このため、個別の政策論・実践はさておき、なぜ今日において多面的利用が求められているのかが、その社会的・学術的位相を明らかにする鍵となる。第一の背景として、近年の森林利用は、主に都市在住者の価値を反映しつつ多様化してきた。反面、従来の育成林業や物質採取などの生活・生業利用は、その基盤である農山村地域の衰退に伴って位置づけが低下してきた。その結果、森林サービス産業が「新たなライフスタイルの構築」を提唱するように、森林をめぐる社会のパラダイムシフトが進みつつあるという側面がある。このパラダイムシフトは、近未来の森林をめぐる持続的かつ公平な社会構築を前提に方向づけられるべきであり、学術研究も、多様な利用を規定する人間主体の価値の内実とその評価、および異なる価値同士の調整のあり方を探っていくこと等が求められる。

  • 香坂 玲
    セッションID: S5-1
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    2022年12月7日から19日の会期で、生物多様性条約(CBD)第15回締約国会議(COP15)第二部及び関連会合が、中国を議長国としてカナダ・モントリオールにおいて開催された。

    生物多様性に関する2030年までの新たな世界目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、陸と海のそれぞれ30%以上を保護・保全する、いわゆる30by30といった目標の合意に至った。国や公的な機関が生物多様性保全を第一義的な目的で設定する保全のエリアの積上げでは限界があるという認識が広がるなかで、国以外の主体、先住民、市民社会、企業・事業者が関与する保護地域以外で生物多様性保全に資する地域(Other Effective area-based Conservation Measures OECMsと略称)への関心が高まっている。本稿では、発表者が政府代表団(農林水産省)の一員として参画したCOP15の概論とOECMsの議論、そして企画の趣旨について説明を行なう。

  • 栗山 浩一
    セッションID: S5-2
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    国立公園および遺産地域(世界自然遺産・世界農業遺産)は多様な動植物が生息しており,生物多様性の保全において重要な地域である。一方,国立公園や遺産地域は美しい自然景観が残されていることから多数の観光客が訪れており,観光利用としても高い価値を持っている。このため,国立公園と遺産地域では利用と保全の両立が課題となっている。利用と保全を両立するためには,観光利用などによって得られる利用価値と生物多様性の保全によって得られる保全価値を定量的に評価し,両者を比較することが求められている。環境経済学では,国立公園および遺産地域の利用価値と保全価値を評価するための手法として環境価値評価手法の研究が進められており,国内でも多くの実証研究が行われてきた。従来の方法では,訪問者や一般市民を対象に実施したアンケート調査のデータを用いてきたが,近年はSNSや携帯電話の電波情報などのビッグデータの活用も進められている。本報告では,国立公園および遺産地域の利用価値と保全価値の評価について最新の研究動向を展望するとともに,国立公園や遺産地域における利用と保全の両立の実現に向けて今後の課題を検討する。

  • 林 浩昭
    セッションID: S5-3
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    大分県国東半島宇佐地域は、2013年国連食糧農業機関より世界農業遺産に認定された。クヌギ林の循環的利用によるシイタケ生産、保水力豊かな森林土壌とため池からの水を活用した水稲やシチトウイ生産、森林、ため池などが潤す沿岸域漁業などと景観、文化、生物多様性の一体的価値が認められた結果であった。

     水や栄養塩循環の起点であるクヌギ林の保全は、シイタケ農家による約15年周期の萌芽更新でなされてきた。クヌギ新芽を食い荒らすシカの個体数調査、狩猟やワナによる個体数管理、シカネット整備、下草刈り支援によってクヌギ林を保全し、シイタケ原木供給能、水源涵養能、二酸化炭素固定能の維持増進を行っている。また、次世代を担う児童生徒やシイタケ生産への新規参入者の啓発教育活動にも重点を置いており、地域の循環型農林水産業の意義や実態を考えることで人材育成を進めている。さらに、大学と連携しクヌギ林やため池周辺に生息する絶滅危惧種オオイタサンショウウオの生育調査や新種発見を支援し、農林水産業と生物多様性を同時に維持することを目指している。これらの保全活動は、農林水産省により定期的にモニタリングと評価が行われている。

  • 鈴木 裕也, 内山 愉太, 香坂 玲
    セッションID: S5-4
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    近年、生物多様性分野の保全の実践では、公的機関による保護地域以外の保全地域(OECM)への期待が高まっている。国内でも登録が増加しているエコパークを例にすると、緩衝・移行地域は、経済・観光と保全を架橋する場であり、民間団体による生態系の保全と持続可能な利活用が調和した国際的なモデルとなる取組が行われており、OECMへの示唆に富む。一方、OECMでは、保全効果や保全地域の連続性の確保が求められ、多様な組織間での連携が欠かせない。そこで、本研究は、南アルプスエコパークを事例に、質問票調査及び社会ネットワーク分析等を基に、地域資源を活用した取組に関する社会組織間の連携状況を解明し、民間主体の生態系保全の促進に寄与する示唆の導出を図った。その結果、各構成地域で、連携数は同定度確保されていた(p<0.05)が、連携の質(スムーズな連携の実現状況に対する認識)には差があった(p<0.05)。また、連携の課題として、「調整を担う人物・組織がいない・または機能が弱い」ことが最も選択されていた。以上より、民間主体の生態系保全に資する組織連携の実現には、連携の数よりも質を改善する取組を優先することが必要であると考えられる。

  • 久保 雄広, 岸田 隆明, 瓜生 真也, 三重野 太郎, 柘植 隆宏, 康 傑鋒, 豆野 皓太, 庄子 康, Arne Arnberger
    セッションID: S5-5
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    昨今、観光分野や生態系サービスの評価・研究において、ICT技術、特にInstagramやFlickr等のソーシャルメディア・データの応用が急速に進んでいる。しかしながらソーシャルメディア・データは投稿者の投稿意図や頻度に大きく影響を受けるため、モニタリングや管理に応用するには多くの懸念が指摘されている。

    本発表ではまず携帯電話ビッグデータを用いて実施した日本国内の研究事例を複数概観する。続いて、携帯電話GPSデータを用いて富士山の登山行動を分析した事例を紹介する。

  • 内山 愉太, 藤木 庄五郎, 鈴木 裕也, 三宅 良尚, 高取 千佳, 神山 智美, 香坂 玲
    セッションID: S5-6
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    人口減少・少子高齢化の状況下において、農林業の担い手不足等に起因して野生鳥獣管理に課題を抱える地域が増加傾向にある。これまで、管理対象の生物の分布データについては、専門家による調査から、非専門家を含む多様な主体によるデータ収集が市民科学等の枠組みを基に推進されてきている。例えば、スマートフォンのアプリ「バイオーム」は、対象となる生物等の写真と位置情報等を集積することにも貢献しており、全国的にデータの蓄積が進んでいる。他方、管理を行う側の人の行動については、サンプル調査や携帯端末のGPS情報等を基に移動実態が解析されている。森林と農地の境界域やそれぞれの領域において、管理される側とする側の双方の移動実態や位置情報の精度やデータ取得の頻度が高まっていく中で、どのような管理の方向性が考えられるのか。本報告では、既存のデータベースやプラットフォーム等の調査等を通じて考察を進めた結果について報告を行う。

  • 大澤 剛士
    セッションID: S5-7
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    OECMは、自然公園等の保護区に含まれていないが、生物多様性を効果的かつ長期的に保全しうる地域を指し、30by30達成に向けた鍵と考えられている。環境省が進める日本版OECMである自然共生サイトでは、2022年度に試行が行われ、前期23、後期33サイトが仮認定された。認定サイトの管理者は国内の有力企業から基礎自治体、NPO等、様々な主体が含まれ、今後の発展が期待されている。ただし、現状では少なくともOECM認定に対する直接的な経済的インセンティブは存在していない。このことは、有力企業等が複数地域を申請し、認定の総面積を増加させるインセンティブが欠けていることを示唆し、30by30に求められる“量”を確保する上で障壁になりうる。この状況に対し、“量”が確保されることによって社会的なベネフィットが増加するエビデンスを提示することができれば、より様々な主体が、より大面積のOECM認定を目指すインセンティブになるかもしれない。そこで本講演は、農地が持つ食料生産以外の機能:多面的機能のうち、近年特に社会的なニーズが高い防災・減災機能の担保を目指して農地を保全することが、”結果”として生物多様性の保全に貢献できる可能性を提示したい。

  • 高取 千佳, 謝 知秋, 森山 雅雄, 三宅 良尚, 香坂 玲
    セッションID: S5-8
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    国内の中山間地域では、人口減少・農業従事者の高齢化に伴い、耕作放棄される農地が増加し、獣害や生物多様性の低下などの環境面、景観面への悪影響が課題となっている。将来の農地の活用方針を定める上では、現状の耕作放棄地の分布状況の把握方法の定量化、およびその立地条件の把握が不可欠である。そこで、本研究では、三重県松阪市櫛田川流域を中心に、農地の生産、耕作放棄地の分布状況調査及び立地条件の把握、リモートセンシングデータの活用による自動化についての検討を行った。第一に、農地の管理労働量について統計資料の調査、農林業の管理者の把握およびヒアリング調査を基に、農地単位面積当たりの労働力・コストの算出、耕作放棄地の把握を行った。第二に、Sentinel-2のリモートセンシングデータを基に、合成開口レーダ及び光学センサの年間の変化量を分析し、耕作放棄されている箇所の自動的な把握を行い、ヒアリングによって得られた管理労働量および耕作放棄地との比較分析を行った。第三に、以上のデータに対し、平野部から中山間部に至る農地の管理労働量に、立地条件(地形・水系・集落や道路からの距離等)が与える影響について明らかとした。

  • 山本 一清, 高取 千佳, 森山 雅雄, 香坂 玲
    セッションID: S5-9
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

     近年、基盤的な森林情報の取得を目的として、航空機LiDAR観測が多くの自治体で実施されている。航空機LiDARは、主として樹高や材積等の広域資源量推定が可能であることは多くの研究で示されているが、広域LiDAR観測ゆえに個体抽出に十分な点密度での観測ができていなかったり、そもそも高密な林分では正確な個体抽出に限界もあり、十分に森林管理に生かされていないケースも見られる。そこで、昨年度は主に間伐後の経過年数による林分単位でのレーザー透過率(LPI)の差異を評価することにより、LPIが間伐効果の持続の判定として有効である可能性が示唆された。しかし、LPIだけで森林管理状況の把握を行うには不十分であり、更なる指標の検討が必要と考えられた。そこで本研究ではLiDAR観測データから得られるLPI以外の様々な指標についても検討を行い、森林管理状況の把握に有用な指標について検討を行った。

     なお、本研究は三重県知事の承認を受け(令和4年5月9日付け農林水第30-84号承認)、三重県農林水産部所管の測量成果を使用して実施した。

  • 嶌田 栄樹, 野々山 祥平, 三谷 羊平
    セッションID: S5-10
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    ナッジとは、選択の自由を奪うことなく、経済的なインセンティブを大きく変えることもなく、人々の行動を誘導する仕組みを指す。ナッジはその費用対効果から世界各国の様々な政策において活用されている。

    本報告では、森林経営管理制度におけるナッジの活用事例を紹介する。森林経営管理制度では市町村が中心となり、経営管理が行われていない森林の所有者に対して市町村への経営管理の委託に関する意向を調査し、林業経営者に経営管理を再委託する制度である。本研究では、森林所有者から市町村への経営管理の委託を促すため、意向調査時にナッジを活用した。本研究で用いたナッジは「情報の提供」である。具体的には、①委託にはコストがかからないこと、②委託した森林から収益を確保できる場合があることを情報として提供した。ナッジの効果を検証するため、愛媛県上浮穴郡久万高原町の森林所有者228名を対照群と介入群とにランダムに割り当てた。対照群の森林所有者には通常の意向調査票が配布されたが、介入群の森林所有者には上述の情報を追加した意向調査票が配布された。本報告では、実施したナッジの効果およびナッジを活用する際の注意点について紹介する。

  • Matsuoka HIkaru, Suzuki Yuya, Igami Yuto, Uchiyama Yuuta, Kohsaka Rei
    セッションID: S5-11
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    森林環境の維持増進を目的とした広域自治体の独自課税は,2003 年の高知県に始まった。その後、現在では 37 府県で導入されている。県・環境税導入の背景として,森林整備・林業の担い手育成,防災,リクリエーション機能だけではく、リクレーション機能や次世代へ継承していく必要性が言及されている。税の使途としても、このような目的もあるが、温暖化対策に使途として使われてもいる。本研究では、税の議論がどのようにされているのかを可視化する事を目標とし、実態を統計的に明らかにしていく。

  • 岸岡 智也, 内山 愉太, 香坂 玲
    セッションID: S5-12
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    森林環境の維持増進を目的とした府県の独自課税(県・環境税)は全国37府県で導入されてきた。報告者らのレビュー及び県担当者への聞き取り調査から、そのうち半数以上の府県で野生動物保護管理に関する事業に県・環境税を活用しており、個体数管理、被害管理、生息環境管理、その他の幅広い領域で活用されていることが明らかとなった。これらの事業は専門指導員の配置など新しい事業や,特定鳥獣管理計画策定に関わる調査等、野生動物保護管理において国による交付金等の他の予算では支援されない領域をカバーしていることが判明した。野生鳥獣による被害は農業と同様に林業でも深刻となっている中で、自治体における野生動物保護管理の事業デザインにおける県・環境税をはじめとした新たな財源の活用について報告する。さらに実際の事例として、県・環境税を活用した里山林整備事業の基礎自治体での実施における実態およびその効果と課題についても報告する。

  • 岡本 透
    セッションID: S6-1
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    斜面崩壊、土石流が生じた跡地では、滑落崖、谷壁、谷底などにおいて被覆物が削剥されたため、埋もれていた土壌が地表に露出することがある。こうした埋没土は、有機物が蓄積するような土砂移動の少ない地表環境のもとで形成され、きわめて短期間のうちに移動してきた土砂によって覆われたものであり、埋没腐植層とも呼ばれる。崩壊跡地で認められる埋没腐植層は、それを被覆する崩積性の土層と物理的特性が著しく異なる場合があり、崩壊の素因となることがあるため、存在の有無が注目される。また、埋没腐植層は、放射性炭素年代測定などによって埋没した年代が測定され、崩壊の履歴や発生頻度を解明するための指標として用いられる。一方、先に述べたように埋没腐植層は短期間に土砂に覆われたかつての地表面であるため、当時の環境に関する情報を良く保存している可能性がある。これらのことを踏まえて本発表では、過去の環境を解析する手法として、植物性微化石を用いる花粉分析、植物珪酸体分析、植物体が燃えた痕跡物を用いる微粒炭分析の方法を概説するとともに、研究例もあわせて紹介する。

  • 石川 芳治
    セッションID: S6-2
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

     最近、山地渓流において流木による災害が顕著になってきている。この背景には時間的な変化として流木の発生源となる森林自体の変化が影響している。また、流木災害が発生する場所としての空間的な変化の影響も見逃すことができない。森林自体の変化で最も大きいのは、近年の森林蓄積の増加である。森林の生長に伴い、流木量(材積)や形状(樹高、胸高直径)が変化してきておりこれらが流木災害の増加に影響を与えている。一方で、最近、砂防・治山事業において流木対策施設が積極的に設置されてきており、さらに橋梁の改良も進みつつあることから地域によってはこれらが流木災害の軽減につながっている。空間的な変化としては渓流の上流区間、下流区間およびその下流となる河川区間の違いがある。これらの区間では土砂および流木の流下形態が異なるため、流木による災害の形態も変化する。今後の山地渓流における流木災害を予測し、その対策を検討する際にはこのような時間的・空間的な変化について考慮することが必要と考えられる。

  • 芳賀 和樹
    セッションID: S6-3
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

     本研究では、旧営林局に残された史料群(国有林史料)の分析により、近代日本における官林(国有林)の資源状況や利用の特徴について考察する。対象は史料の残存状況等に鑑み秋田県域とする。主な使用史料は東北森林管理局所蔵の施業案関係史料である。1890年、秋田大林区署は官林の仮施業案を編成した。実務は各小林区署が担当し、面積・樹種・林齢・本数・材積・毎年伐採高等が把握・計画された。阿仁銅山(のち阿仁合)・長木沢両小林区を例にとり樹種別本数の割合(上位2位、樹種表記は史料通り)をみると、前者は雑(91.4%)、檜(4.5%)、後者は杉(58.1%)、雑(41.7%)となり相違が認められた。99年の国有林野特別経営事業開始により、秋田大林区署管内の国有林についても施業案・同説明書が作成された。説明書には地況・林況、木材需給と他産業との関係、施業方針等が記載された。阿仁合小林区小又(09年)・大又両事業区(10年)の説明書を例にとり蓄積をみると、前者は約499万尺〆で82.9%を雑木が占め、後者は約422万尺〆で97.6%を雑木が占めた。両区とも利用は阿仁鉱業所への払下げが主で、08年の払下げ量は両区合計でスギ約11万尺〆、雑木約19万棚であった。

  • 浅野 友子, 水内 佑輔, 岸本 光樹, Kristin Bunte, 田中 延亮
    セッションID: S6-4
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    はげ山では毎年の降雨による表土の侵食速度が大きかったが、森林が回復し侵食速度が小さくなると、表土は年々厚さを増す。これに伴い水・土砂移動の形態が「表面流・表層浸食型」から「地中流・崩壊型」に変化することが予測されてきたが、そのような変化がいつどのように起こったのか、実態は明らかではない。本研究では東京大学生態水文学研究所白坂流域(88.5ha)での1930年からの量水堰堤からの土砂排出量、掃流砂観測や既往研究のレビュー等から、流域の土砂動態変化の実態を明らかにする。裸地斜面の侵食速度はおよそ5500m3/km2/yだったが、白坂流域からの土砂流出量は1930~1960年代は1000m3/km2/y程度であり、観測開始時にはほぼ森林に覆われていた白坂ではすでにはげ山に比べると土砂流出量が減少していたと考えられる。1970年代以降は流出土砂量は500m3/km2/y以下に減少し、1990年以降は東海豪雨時を除き300m3/km2/y以下で推移している。現在の流域からの土砂流出量は、森林斜面の侵食速度に比べて1オーダー大きく、粒度組成から主に斜面崩壊で生産された土砂であることが示唆された。

  • 矢守 航
    セッションID: S7-1
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
    会議録・要旨集 フリー

    光合成は植物成長を決定づける重要な反応であるが、自然環境において光合成機能が最大限に発揮できる環境は少ない。たとえば、強光下では過剰な光エネルギーが光阻害を引き起こす一方で、弱光下では光強度が光合成反応を律速してしまう。また、自然環境では植物の受ける光強度が一日を通して常に変動しているため、光合成効率のさらなる低下を招いている。変動する光環境の中で、弱い光から強い光への急な変化に対して光合成の速度は俊敏に応答できず、緩やかに上昇しながら最大値に達する。この応答は光合成誘導反応と呼ばれ、野外環境にある植物の成長を決定づける要因の一つとなる。現在のところ、どのような因子が光合成誘導反応を律速しているのか、その分子機構は未だ解明されてない点が多い。

    これまでの私たちの研究成果によって、光合成誘導の初期過程には、光合成系電子伝達反応が主な律速要因となり、その後、CO2固定の鍵酵素であるRubiscoの活性化や、大気中のCO2を葉内に取り込む「玄関」となる気孔の開口が重要な役割を果たすことを明らかにしてきた。本講演では、これらの研究結果をふまえて、光合成系の変動光応答メカニズムについて議論する。

  • 後藤 栄治
    セッションID: S7-2
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
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    林床に生育する植物は、日なたの数百分の1の弱光から、太陽光の直達光のような強光に至るまで、広い範囲の光強度の変化にさらされる。植物にとって光は、光合成のエネルギー源として必要である一方で、過剰な光は有害となる。そこで植物は、周囲の光環境の変化を感知し、様々な光応答を駆動することで生育光環境に適応している。植物の光応答の一つに、葉緑体運動がある。葉緑体運動とは、葉緑体が光強度依存的に細胞内の配置を変えることで、光の吸収量を調節する応答である。モデル植物の変異株を用いた解析により、葉緑体運動は植物の生育において重要な役割を担うことが明らかとなっている。その一方で、実際の野外で育つ植物の生長解析では、葉緑体運動の寄与はほとんど考慮されてこなかった。そこで発表者らは、日本広域の林床に生育する植物の葉緑体運動と葉緑体の細胞内配置を網羅的に調べた。その結果、微弱光環境に生育する植物は、葉緑体運動をほとんど示さない一方で、柵状組織細胞の形状が光の獲得に最適な形を示すことを発見した。本発表では、柵状組織細胞の形状変化に関する生態生理学的意義とその分子機構について最新の知見を紹介したい。

  • 田中 亮一
    セッションID: S7-3
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
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    光合成反応はその原理からいって、低温に弱いと考えられている。光吸収は気温にはあまり関係なく進み、電子伝達を引き起こすが、低温下ではカルビン回路の活性が著しく下がり、行き場を失った電子が活性酸素の発生を引き起こすからである。これを回避するため、寒冷圏の常緑樹は、冬季は光強度に関係なく大部分の励起エネルギーを熱として放散する分子機構を有する。この機構の実体を明らかにするために、イチイなどの常緑樹を材料に、トランスクリプトーム、光化学系複合体、光合成色素などの解析を行った。その結果、冬期のイチイのトランスクリプトームの15%以上をELIPとよばれるクロロフィル結合タンパク質のmRNAが占め、このタンパク質は光化学系のアンテナに匹敵するほどの数が蓄積しうることが明らかとなった。また、時間分解クロロフィル蛍光測定によって、冬期には光化学系IIおよびIの両方において熱放散が促進されていることが示唆された。これらの結果から、イチイでは、ELIPが熱放散によって光化学系の電子伝達を抑制していると考えられる。本研究は、森林総研北海道支所、神戸大学、基生研との共同研究によって行われた。

  • 尾崎 研一
    セッションID: T1-1
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
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    保持林業(保残伐施業)は、主伐時に一部の樹木を残して複雑な森林構造を維持することにより、生物多様性や生態系サービスを維持する施業方法であり、木材生産と公益的機能の両立をめざす森林管理方法として世界的に普及している。この保残伐を人工林に適用するために、2013年から北海道有林空知管理区において「トドマツ人工林における保残伐施業の実証実験(略称:REFRESH)」を実施している。ここでは主伐期のトドマツ人工林で保残方法や保残率を変えた伐採を行い、生物多様性や水土保全機能、木材生産性の変化を調べている。実験開始から10年間が経過し、これまでの成果をまとめた。単木保残についてはいろいろな生物群で森林性種の個体数,種数と保残量に正の相関がみられたことから,広葉樹を単木的に残すと皆伐の負の影響を緩和できること,その効果は保残量が多いほど大きいことが示された。一方,群状保残の効果は生物群によって異なり,保残パッチは皆伐の影響から逃れる一時的な避難場所として機能する場合と,しない場合があった。以上の成果から保持林業を人工林に適用する場合、何をどのようにどれくらい保残すれば良いのかについて検討する。

  • 明石 信廣, 新田 紀敏
    セッションID: T1-2
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
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    保持林業(保残伐施業)が下層植生に及ぼす影響を検討するには、伐採による撹乱に加え、地拵え、植栽、下刈りなどの管理の影響も考慮する必要がある。そこで、北海道有林空知管理区において実施している「トドマツ人工林における保残伐施業の実証実験(略称:REFRESH)」において、伐採前年から伐採6年後までの下層植生を調査した。密度の異なる3段階の単木保残区、60m四方の群状保残区、皆伐区などが設定されている。伐採された調査区では、単木保残の有無に関わらず、伐採後に遷移初期種が多く侵入して群集の組成は大きく変化した。NMDSによる序列は伐採によって平行に移動し、伐採前植生の影響が強いこと示していた。変化の方向は伐採3年後から6年後に反転しつつある。群状保残された部分では、上層木が風倒によって失われた調査区でも変化が小さく、伐採地の中で森林性種の避難場所になることが期待された。伐採前にあった種は保残木のある調査区や傾斜の急な調査区で伐採後まで残る確率が高く、これらの場所で機械作業が困難であった結果、地表の撹乱が緩和されたためであると考えられる。伐採、地拵えの期間とその後の下刈りの期間では種に対する影響は異なっていた。

  • 山中 聡
    セッションID: T1-3
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
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    保持林業とは、伐採時に森林に存在する重要な構造や生物を残すことで、生物多様性保全と木材生産との両立を目指す森林管理である。北海道の空知総合振興局では、トドマツ人工林に侵入した広葉樹を伐採地に残す保持林業の実証実験が行われており、保持林業の生物多様性保全上の有効性が様々な分類群にて実証されつつある。一方で、実際に保持林業を導入するためには、伐採地にどのような種類・性質の木を残すべきかを明らかにし、保持木の選定基準を検討する必要がある。

    発表者はこれまで、保持林業の実証実験地において、保持木を利用する枯死材性甲虫を調査し、保持木の樹種や枯死の有無が枯死材性甲虫群集に及ぼす影響を検証してきた。現在は、保持木の持つ微小環境(Tree-related microhabitats)についても調査を行い、樹種によって各環境の発生率が変化するのかを検証している。本発表ではこれらの調査結果をもとに、保持林業の生物多様性保全機能を高めるうえで重要と考えられる保持木の樹種や特徴、保持木の選定に係る今後の課題について報告する。

  • 山浦 悠一, 瀨戸 美文, 富田 幹次, 佐藤 重穂, 米田 令仁, 比嘉 基紀, 市栄 智明, 鈴木 保志
    セッションID: T1-4
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
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     生物多様性の保全に関する社会的な機運が高まり、林業施業地でも生物多様性の保全への配慮が求められている。私たちは高知県のスギ・ヒノキ人工林を主伐再造林する際に広葉樹を保持する試みを国有林と水源林で行なっている。

     国有林の対象地は四万十森林管理署管内・長野山国有林2027林班い小班である。本地では地拵え前のヒノキ人工林伐採跡地に広葉樹が生残していた。そこで2022年6月に5 haほどの区画内で合計48本の広葉樹に印をつけた。胸高直径の平均は9 cm(標準偏差5 cm)、最大21 cm、最小1 cmだった。本数が多かった5樹種は順にシロダモ、ホソバタブ、シキミ、アカガシ、サカキで、胸高断面積が大きかった5樹種は順にシロダモ、ホソバタブ、アカガシ、ムクロジ、シキミだった。

     四万十市西土佐の水源林施業地では、森林整備センターと西土佐村森林組合の職員と現地検討会を2022年9月に行なった。伐採予定のスギ・ヒノキ人工林を訪問し、高木性樹種を確認した上で、30 m四方に一本を目安に高木性の樹冠木を保持すること、樹冠木がなければ稚樹でも構わないといった方針を決定した。

     両地とも施業後に再訪し、樹木の保持の状況を確認したいと考えている。

  • 速水 将人, 中濱 直之, 岩﨑 健太, 新田 紀敏
    セッションID: T1-5
    発行日: 2023/05/30
    公開日: 2023/05/30
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    防風林は、主に農地の風害などを軽減し、農業の生産性を直接高める機能が期待されてきた。同時に、絶滅危惧種の避難場所としての機能など、多様な生物の生息場所としての役割を担っているが、防風林の景観や更新施業・下刈りなどの管理が生物多様性にもたらす影響はよくわかっていない。本研究では、北海道を代表する防風林景観がある十勝地域において、カラマツ人工防風林とその周囲の景観として林縁、林内、更新地、草原の4つの景観を対象に、チョウ類と開花植物の多様性を比較した。

    その結果、防風林の林縁や更新地、周辺の草原では、絶滅危惧種を含む多くのチョウや植物の開花が認められた。また草原や更新地では、それぞれ特有のチョウや植物の開花が見られた。林内では、種数・個体数は少なかったが、絶滅危惧種の植物の開花が認められた。したがって、防風林を含む景観の維持や防風林管理によって、チョウや開花植物の多様性維持に好適な環境が創出されていると考えられた。今後、防風林や周辺に生息する種の生態特性を踏まえた上で、既存の管理方法にうまく組み込むことで、絶滅危惧種や生物多様性保全と防風林本来の減風機能を両立する持続的管理が可能であろう。

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