近年の医学, 科学の進歩により臨床検査の診断学および治療分野に果たす役割はますます増加しており, その形態も医療施設内で実施される臨床検査とともに, 殊に検体検査においては衛生検査所に外部委託する割合も増加しており, 98%にものぼるとされている。
従来から臨床検査に係わる精度管理には施設が独自にその精度を管理するために実施してきた内部精度管理と, 日本医師会, 日本総合健診医学会, 日本臨床衛生検査技師会などの実施するものに代表される外部精度管理とが挙げられる。
外部精度管理は, 各々の臨床検査実施機関で独自に実施してきた内部精度管理の状況を特にその正確性の検討に重点をおいて評価することを目的に実施されている。
臨床検査の精度には分析精度の繰り返し計測における再現性の「誤差の小ささ」を評価する精密度の監視と, 分析値の「真値からの隔たりの大きさ」を評価する正確性の評価を目的とした外部精度管理とがある。
また, 近年はこれら分析の精度管理の他に, 試薬保管に対する精度や患者IDなど, 非医療職職員の関与する事務的管理の質に起因する精度の低下の原因となる要素まで包括した調査を実施するtotal quality control (TQC) あるいは精度保証quality assurance (QA) という概念が提案されている。
外部精度管理はその調査に参加する施設問の真値からの隔たりの大きさを知り, この施設問差を改善し, 診療を受けようとする人々にいつでも, どこで受診しても同レベルの信頼性の高い臨床検査のデータが提供され, 適切な診療が受けられるようにすることを目的として実施される。したがって, 外部精度管理は単発的に年に1回程度実施するよりも, 年に3~4回と一定の間隔をおいて継続的に調査が実施されることが望ましく, 研究報告書には記載しなかったが, 本研究の検討の過程では専門家より, できれば年12回実施することが望ましいなどの意見も出された。
このような施設問差が最も重要視されるのは, 治療を中心とする病院はもとより, 健康者を対象とする健康審査あるいは健康管理の部門ではことさら重要な意味をもってくる。
平成3年度の厚生科学研究「外部精度管理の今後のあり方」では, 外部精度管理の設計にあたって, 従来, 問題点として指摘されていた以下の5項目について検討を行った。
1.各種検体検査のための標準検体 (参照物質) の検討。
2.標準検体の値付けのための基準法 (defini-tive method) の検討。
3.外部精度管理が厳正に行われるための標準検体の配布の方法。
4.基準法による値付けを行う検査施設 (基準検査施設) の要件。
5.外部精度管理の結果解析とフィードバック, 結果の活かし方の方法。
今回はこの内, 1, 3, 5についてその概要について述べる。
まず始めに各種検体検査のための標準検体 (参照物質あるいは精度管理調査用試料) の検討を行った。
臨床検査の検体検査の分野は, 生化学検査, 臨床血液学的検査, 免疫血清学的検査, 尿・便など一般検査, 細菌学的検査, 細胞診検査, 病理組織学的検査, ラジオアイソトープ検査など多岐にわたっている。
今回は, これらの内でも検体検査としての実施の頻度の高いものから生化学的検査, 臨床血液学的検査の外部精度管理のための標準検体の検討を行った。
この標準検体の検討を実施するに先だち, 現在臨床検査を実施している500の施設に対してアンケート調査を実施しその実態を調べた。
精度管理に関するアンケート調査の結果では, 外部精度管理においてはその検体の選定, 配布方法, 並びにその結果の評価方法および結果の生かし方などに参加者の多くの要望が寄せられた。
これらについてはそれぞれ独立した検討によってその成果が期待されるものではなく, 配布試料の性状およびその特性によって, 配布の方法が決定されるであろうし, 配布試料の性状によってその評価の方法も異なってくる。
試料を調整するに際しては, 現在のわが国の輸血および血液行政の上からはヒト血液の売買およびこれに準じた方法によるヒト血の入手が困難な状況にあることから, 動物血の代替利用についての検討も行った。
前述したとおり, 現在市販品としてその多くがヒト由来の材料による凍結乾燥品が使用されているが, 真空凍結乾燥品のような大がかりな加工の行程を必要とする試料では, ランダムペアのような多階調の試料を多種類準備することはその経済性あるいは生産性からみて対応が難しい状況にある。
理想的な外部精度管理試料は, その組成 (マトリックス) がヒト検体に限りなく近似したものでかつ外部精度管理調査の試料配布の期間に耐え得る安定性があること, そしてHIVやHBsなどヒトへの感染性の危険のないものが望まれる。
臨床検査の日常検体はヒトの新鮮血清であるところから, ヒト由来の血清が用いられてきた。
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