経済の国際化とともに, 多くの企業が事業進展のため海外進出を図っており, 先進国のみならず開発途上国への赴任者も増加している。6カ月以上の海外赴任者に対しては, 関連法により赴任前と帰国時に健康診断が定められており, 赴任者の健康管理は, 産業医, 健診医にとって重要課題である。赴任者とその家族は, 赴任地の医療水準, 衛生状態, 医薬品, 予防接種等に関する知識が乏しく不安を感じることが多い。赴任先は医療水準の高い地域ばかりとは限らず, 自然環境の厳しい中, 各種熱帯感染症が蔓延し, 衛生状態の悪い地域での生活を余儀なくされている場合もある。疾病と予後は赴任国の医療状況, 衛生状態の影響を受けやすく, 赴任前の健康診断時には限界があるが, 産業医, 健診医は医学的観点から原則的な渡航可否基準を設定し, 既往症, 現在の病状, 治療経過, 服用薬の説明を赴任者に不安を与えぬ配慮のもとで説明しなければならない。さらに, 赴任者自身に自己健康管理の重要性を理解させ, メンタルヘルスを含めた家族単位の健康診断を実施する。その上, これらの健康診断以外に, 携帯医薬品, 予防接種, 保健指導, 熱帯感染症予防対策など, 内容は多岐にわたるため, 国際的な医療センスが求められる。具体的には, 各種診断書および証明書類の英訳, 赴任地の飲料水事情, 歯科水準, 熱帯感染症 (マラリア, デング熱, コレラ, 腸チフス) と寄生虫疾患予防のための保健指導, 輸血, 抗血清, 我が国の一般病院で入手困難な医薬品, マラリア予防内服薬などの知識である。その他, 海外からの電話健康相談の受付, 緊急時に対応可能な医療体制の整備があげられる。しかしながら, 我が国には, これらすべてに対応できる総合的な健康管理システムがいまだ確立されていないのが現状である。そのため, 産業医, 健診医は日頃よりWHOの出版物, インターネットなどで新しい情報を自ら収集することが重要である。
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