日本視能訓練士協会誌
Online ISSN : 1883-9215
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ISSN-L : 0387-5172
52 巻
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第62回 日本視能矯正学会
特別講演
  • 本吉 勇
    2022 年 52 巻 p. 1-5
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    私たちの多くは、目を開くだけで自分を取り囲む光景やその中にある様々のモノを即座に認識し、また多彩な形や質感に満ちた世界を体験する。この驚くべき認識能力は眼と脳の情報処理に支えられている。20世紀の視覚研究は、線画やCG立体といった人工的な視覚刺激を用いてその仕組みを追求し、脳は二次元の画像から三次元世界を復元して情景や物体を認識する、という理論を提唱してきた。しかし、この理論は複雑な現実世界の知覚を全く説明できない。森の小道、食卓の上の柔らかな花束……私たちがふだん体験しているリッチでリアルな「見える」世界は、脳のどのような情報処理により生み出されるのだろうか? 本稿では、最新の研究成果を通して、限られた処理能力しかもたない人間の脳が網膜像からどのように複雑な光景や物体を認識しているかを解説する。

一般講演
  • 西村 あかね, 酒井 幸弘, 小島 隆司, 玉置 明野, 市川 一夫
    2022 年 52 巻 p. 7-14
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】LASIK後眼に対しTotal Keratometry(TK)を用いたLASIK用IOL度数計算式と従来式による予測屈折誤差を比較し、TKの有用性を評価する。

    【対象及び方法】近視LASIK術後で白内障手術を施行した18例27眼(平均年齢60.4±9.7歳)を対象とした。眼軸長、角膜屈折力(K値)、TK値の平均±標準偏差(SD)は、26.9±1.5mm、39.7±1.8D、39.2±2.0Dであった。比較式はBarrett TK True-K(B-TK)式、EVO TK(E-TK)式、Haigis TK(H-TK)式とBarrett True-K(B)式、EVO(E)式、Haigis-L(H)式、Shammas-PL(S)式、Camellin-Calossi(C)式とした。予測屈折誤差の絶対値平均±SDと±0.5D以内の割合を比較した。

    【結果】絶対値平均±SDと±0.5D以内の割合はB-TK式:0.18±0.16D(96%)、E-TK式:0.20±0.16D(93%)、H-TK式:0.46±0.39D(52%)、B式:0.18±0.35D(85%)、E式(89%):0.21±0.32D、H式:0.35±0.25D(78%)、S式:0.29±0.27D(78%)、C式:0.37±0.33D(56%)であった。

    【結論】TK値を用いたB-TK式とE-TK式はその他の式と比較して予測屈折誤差が同等又は小さく有用である。

  • 漆原 美希, 佐藤 司, 新井田 孝裕
    2022 年 52 巻 p. 15-21
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】モノビジョンにおける両眼加重について視覚誘発電位(VEP)を用い他覚的に評価し、屈折差の許容範囲について検討すること。

    【対象と方法】対象は健常成人27名とした。VEPの測定には日本光電社製Neuropack X1を使用した。127cm先の17インチの液晶モニタに視角15分の市松模様のパターン反転刺激を低頻度で提示した。測定条件は、両眼屈折矯正、非優位眼遮閉、非優位眼の凸レンズ付加によるモノビジョンシミュレーション(+0.50、+1.00、+1.50、+2.00、+3.00D)とした。得られた波形の振幅(N1-P1)と潜時(P1)を各条件間で比較した。

    【結果】両眼屈折矯正の振幅(μV)は12.8、非優位眼遮閉では9.4で両者に有意差を認めた(p<0.001)。非優位眼の凸レンズ付加の平均振幅は+0.50、+1.00、+1.50、+2.00、+3.00D付加でそれぞれ12.0、11.0、9.8、9.4、8.8であった。非優位眼+0.50Dと非優位眼+1.00Dおよび両眼屈折矯正の振幅は、非優位眼遮閉の振幅よりも有意に大きかった(p<0.001)。非優位眼+0.50Dと両眼屈折矯正の振幅は、有意差を認めなかった(p>0.99)。潜時はいずれの条件でも有意差を認めなかった。

    【結論】屈折差1.00Dまでは両眼加重が成立することが示唆された。

  • 藤田 美佳, 岡 真由美, 米田 剛, 山下 力, 三木 淳司, 用稲 丈人, 平岡 崇
    2022 年 52 巻 p. 23-32
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】視線計測装置Gazefinderで、半側空間無視と同名半盲の視覚的注意の状態を把握するための予備的研究として眼球運動の評価指標を仮定し、健常人の年代別データを求めた。

    【対象および方法】健常人50名(20-60代)を対象に、Gazefinderで視標振幅30°の水平方向の衝動性眼球運動(以下 SEM)と、移動速度6°/sの滑動性眼球運動(以下 SPEM)を測定した。評価指標は、SEM視線移動量、SEM視点取得率、SPEMのSEM混入回数とした。

    【結果】SEM視線移動量の中央値(右方視-左方視)は、20代で29.3-29.8°、30代で29.5-29.5°、40代で29.0-29.1°、50代で29.1-29.2°、60代で29.2-29.0°で年代別に有意差がなかった(右方視:p=0.590、左方視:p=0.143)。SEM視点取得率の中央値は、20代で92%、30代および40代で91%、50代および60代で90%と年代別に有意差がなかった(p=0.072)。SPEMのSEM混入回数の中央値(右方視-左方視)は、20-40代で1-1回、50代で2-1回、60代で2-2回と50代以降で有意に増加した(p<0.01)。

    【結論】Gazefinderを用いた眼球運動の評価指標は、SEMでは年代別に有意な差がなく、SPEMでは50代でSEM混入回数が増加した。

  • 岡野 真弓, 髙橋 由嗣, 漆原 美希, 内川 義和, 佐藤 司, 新井田 孝裕
    2022 年 52 巻 p. 33-38
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】就学前児における視機能異常と読み能力との関連について検討した。

    【対象および方法】5~6歳の就学前児91名を対象に、視機能検査と読み能力の測定を行った。視機能検査では、近見視力、SpotTM Vision Screenerによる自然瞳孔下での屈折値、近見立体視、眼位、輻湊近点を測定した。読み能力の測定では、「文字の認知」課題および「文の理解」課題を実施した。各課題のスコアに基づいて成績上位群と下位群に分類し、視機能異常との関連をFisherの正確確率検定を用いて解析した。

    【結果】眼鏡装用児、全検査を実施できなかった児、療育対象児を除いた76名(男児38名、女児38名)を解析対象とした。「文字の認知」課題、「文の理解」課題の成績下位児はそれぞれ16名、25名であった。視機能異常のうち、屈折異常は「文字の認知」課題の成績低下と有意な関連を認めた(p<0.01)。一方、視機能異常は「文の理解」課題の成績と有意な関連を認めなかった。

    【結論】就学前児において、視機能異常のうち、屈折異常は文字の認知の成績低下と関連することが示唆された。

  • 吉澤 唯香, 伊藤 智子, 荻嶋 優, 黒田 有里, 田中 宏樹, 井上 賢治
    2022 年 52 巻 p. 39-44
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】小児の近視症例における初回眼鏡処方時の完全矯正屈折値と処方された眼鏡度数との差である低矯正量について調査をした。

    【対象・方法】対象は2015年3月~2021年3月に小児眼科外来を受診した小中学生のうち、近視または乱視度数-1.00D未満の近視性乱視と診断され、屈折異常以外の眼疾患がない1,503例(男児703例、女児800例)。方法は小学生低学年(A群)615例(男児300例、女児315例)・高学年(B群)598例(男児274例、女児324例)・中学生(C群)290例(男児129例、女児161例)に分け、小数視力1.2が得られた完全矯正屈折値の等価球面度数、低矯正量、低矯正量が1.00D以上の割合と1.00D以上の低矯正処方に至った理由について3群間で比較した。

    【結果】男女合計では全ての群で屈折値平均と低矯正量平均(p<0.0001) で有意に減少していた。男女別ではA群(p<0.05)とC群(p<0.001)の屈折値平均、C群の低矯正量平均(p<0.01)で有意差があった。低矯正量が1.00D以上の割合に関しては男女合計、男女別いずれも有意差はなかった。低矯正処方に至った経緯は全ての群において「低矯正でないと装用できない」が最多であった。

    【結論】近視の小児の初回眼鏡処方時の完全矯正屈折値の平均および低矯正量は、A・B・C群の順に屈折値、低矯正量ともに有意に減少していた。

  • 内川 義和, 生田目 美海, 荒井 美穂, 黒川 愛弥乃, 佐藤 円香, 寺山 美穂, 渡邉 大, 岡野 真弓, 髙橋 由嗣, 新井田 孝裕
    2022 年 52 巻 p. 45-49
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】滑動性追従眼球運動(SPEM)負荷に対する姿勢応答特性があるとすれば、刺激周波数に関わらずばらつきの少ない一定周期の身体動揺を示すと考えられる。本研究では、複数の刺激周波数によるSPEM負荷時の重心動揺周波数解析から、SPEMによる姿勢応答特性と姿勢制御に関わる感覚運動システムとの関連について検討した。

    【対象および方法】対象は健常若年成人20名。2 m前方の視標の固視条件と、0.1、0.33、0.5 HzのSPEM条件(水平振幅30°、視標速度6.0、19.8、30.0 deg/s)とで重心動揺を計測した。高速フーリエ変換を用いた左右方向の重心動揺軌跡の周波数解析から重心動揺スペクトルを推定した。2.0 Hzまでのトータルパワーに対する各周波数のパワー含有率を算出し、対象20名の平均パワースペクトル曲線からピーク周波数を抽出し、変動係数(CV)を比較した。

    【結果】固視条件では有意なピーク周波数を認めなかったが、SPEM条件では刺激周波数0.1および0.5 Hzでは0.39 Hzに、刺激周波数0.33 Hzでは0.32 HzにCVが最小となるピーク周波数を認めた。

    【結論】SPEMの刺激周波数に関わらず0.3~0.4 Hzの間にばらつきの少ないピーク周波数を認め、SPEM負荷による視覚および眼球運動情報の前庭系への入力を介して現れた姿勢応答であることが推察された。

  • 岡垣 あき, 仲村 永江, 宮田 律子, 佐々木 由佳, 御田村 睦, 馬服 つかさ, 藤定 恵美, 山田 晴彦
    2022 年 52 巻 p. 51-59
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】単焦点眼内レンズ挿入眼における術後残余乱視が距離別裸眼視力へ及ぼす影響について検討した。

    【対象及び方法】対象は当院にて白内障手術を施行し、単焦点眼内レンズを挿入した患者237名264眼。4.00m~0.32mの12点で距離別裸眼視力を測定した。自覚的屈折値の等価球面値(SE)+0.25D~-0.50Dを正視群、SE-1.00D~-2.50Dを近視群としC-0.50D以下をA群、C-0.75D~-1.25DをB群、C-1.50D~-2.00DをC群に分け正視群近視群を各々乱視度数別の3群間で比較検討した。また遠見及び近見の各4点(計8点)を点数化したものを有用視力スコア、全距離logMARの総和を視力指数として各々比較検討した。

    【結果】距離別裸眼視力の比較では正視群は4.00mから1.25mまで全てに有意差がみられ(P<0.05)、正視A群が最も視力良好であった。近視群は0.63mと0.50mでのみ近視C群が他群と比較し視力不良であった。また有用視力スコア及び視力指数ともに正視群ではA群がB群およびC群に対して有意に良好であった(P<0.05)。近視群では有用視力スコア、視力指数ともに有意差はなかった。

    【結論】術後の屈折が正視付近であれば遠見視力への残余乱視の影響は大きいが術後の屈折が近視の場合であれば術後残余乱視の影響は少なくなるため術後正視を狙う際には乱視矯正も選択肢に入れる必要がある。

  • 深津 有佳里, 関向 秀樹, 今村 拓未, 前田 駿介, 則川 晃希, 田中 啓一郎, 菅野 幸紀, 石龍 鉄樹
    2022 年 52 巻 p. 61-67
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】クリスタリン網膜症(BCD)や網膜色素変性症(RP)等の網脈絡膜変性疾患では、脈絡膜が菲薄化する例が多い。菲薄化には局在性があるが既報の多くは2次元画像による評価であるため、病態を反映していない可能性がある。3次元画像による脈絡膜形態解析が望ましいが報告は少ない。今回、BCDとRPおよび健常眼の脈絡膜血管形態を3次元モデルを用いて比較検討した。

    【対象および方法】対象はBCD 5例8眼、RP 13例23眼、健常眼 51例51眼。SS-OCTで黄斑部を撮影し、OCT連続画像を用いて3次元モデルを作製した。中心窩を中心とした直径4.5mmの円内部を測定した。OCT画像から中心窩下脈絡膜厚(SFCT)、3次元モデルから脈絡膜体積(CV)、脈絡膜血管容積(CVV)、脈絡膜血管比率(CVI)を算出し検討した。

    【結果】BCDとRPでは、健常眼と比較してSFCTとCVおよびCVVいずれも有意に薄く小さい(p<0.01)。CVIでは、RPと健常眼において有意差はなかった(p=0.057)。BCDでは、RPと比較してCVVとCVIが有意に小さかった(p<0.05、p<0.01)。

    【考按】3次元モデルを用いて、健常眼との比較でCVはBCDとRPで小さかった。一方、CVIはRPで差がなくBCDで低いことから、RPでは脈絡膜血管と実質は同等に減少し、BCDでは血管容積がより減少する可能性がある。

  • 今村 拓未, 深津 有佳里, 関向 秀樹, 佐藤 千尋, 前田 駿介, 田中 啓一郎, 笠井 彩香, 新田 美和, 菅野 幸紀, 森 隆史, ...
    2022 年 52 巻 p. 69-74
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】今回、アトロピン点眼による調節麻痺下の脈絡膜と脈絡膜血管形態を3次元モデルにより解析した。

    【対象と方法】対象は、完全屈折矯正眼鏡の更新または作成の目的で調節麻痺下屈折検査を施行した4歳から8歳の小児8名12眼である。1%アトロピン点眼1日2回7日間使用後の調節麻痺下と点眼終了後1ヶ月以上間隔をあけた自然瞳孔下で計測を行った。Swept-Source OCTで黄斑部6×6mmの範囲を撮影し、3次元モデルを作製して中心窩から直径4.5mm円内部の脈絡膜体積、脈絡膜血管容積、脈絡膜血管比率を計測し、それぞれを調節麻痺下と自然瞳孔下で比較した(Wilcoxon符号順位検定、p<0.05)。

    【結果】調節麻痺下は自然瞳孔下と比較して脈絡膜体積が有意に大きかった(p=0.034)。脈絡膜血管容積は調節麻痺下と自然瞳孔下に有意差はなかった(p=0.733)。脈絡膜血管比率は調節麻痺下にて有意に小さかった(p=0.012)。

    【結論】アトロピン点眼による調節麻痺下では脈絡膜体積が増加し、脈絡膜血管比率が減少したことからアトロピン点眼時の脈絡膜体積増加に脈絡膜間質の拡大が関与する可能性がある。

  • 水本 強一, 香村 真里乃, 瓶井 資弘
    2022 年 52 巻 p. 75-84
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】網膜静脈分枝閉塞症において光干渉断層血管撮影を用いた繰返し測定による網膜血管密度の変動値と実数差に影響する因子を検討する。

    【対象および方法】RTVue XR AvantiTMを用いて、同一視能訓練士がRetina Angio 3×3mmスキャンパターンにて2回測定した網膜静脈分枝閉塞症患者152例。AngioAnalyticsTMの測定ゾーンであるWhole Imageで網膜血管密度の再現性係数(=1.96×√[実数差の無修正平方和/症例数])を全例および画質指標スコア別で求めた。影響する因子を1回目と2回目の実数差を目的変数、年齢・眼内レンズの有無・視力値・画質指標スコア・画質指標スコアの差・中心網膜厚を説明変数とし重回帰分析にて求めた。

    【結果】全例の再現性係数は表層網膜血管密度で3.46、深層網膜血管密度では4.68%ポイントであった。画質指標スコア平均別では、表層網膜血管密度は2.37から4.92%ポイント、深層網膜血管密度は2.73から7.07%ポイントであった。浅層および深層網膜血管密度ともに、撮影画質指標スコア平均が有意な因子であった。深層網膜血管網血管は、さらに眼内レンズの有無が有意な因子であった。

    【考按】再現性係数を超える変動があった場合は、有意な変動である可能性が示唆でき、臨床おける経過観察や集団縦断研究に有用な指標であると思われる。

  • 旭 香代子, 石井 雅子, 多々良 俊哉, 野神 麗子
    2022 年 52 巻 p. 85-91
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】新潟県弥彦村の3歳児視覚健診のプログラム改定前後の受健結果を実態調査する。

    【対象及び方法】2019年度と2020年度に3歳児視覚健診を受健予定であった96名(男児47名、女児49名)を対象とした。2019年度の3歳児視覚健診と2020年度の3歳児視覚健診のプログラムの改定後の受健結果について調査した。改定内容は、家庭での視力健診の説明書の文面を検査の動画QRコードを入れるなどしてわかりやすく変更し、視力健診の際に片眼を遮閉するフェースマスクとランドルト環のハンドルを同封した。全受健児に健診会場で視力健診とSpotTM Vision Screenerによる屈折検査を視能訓練士が実施した。

    【結果】各年度ともに家庭の視力健診を方法通りにできなかったのは、2019年度22名(44.9%)、2020年度19名(40.5%)であった。2020年度の家庭と健診会場での視力健診の結果が一致しない受健児がみられた。2019年度に精密検査となったのは1名(2.0%)、2020年度に精密検査となったのは7名(14.9%)で2名が医療機関で弱視と診断された。弱視の診断を受けた2名は、健診会場での視力健診と屈折検査により精密検査となっていた。

    【考按】3歳児視覚健診のプログラムの改定により、従来の健診では発見が困難な弱視を検出することができた。

  • 鈴木 美加, 森 隆史, 松野 希望, 笠井 彩香, 齋藤 章子, 橋本 禎子, 石龍 鉄樹
    2022 年 52 巻 p. 93-100
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】3歳児健診において複数のSpotTM Vision Screener(SVS)の異常判定基準が使用されている。今回、SVSに搭載された異常判定基準(A基準)または日本弱視斜視学会および日本小児眼科学会推奨の異常判定基準(J基準)を用いた場合の弱視リスクファクター(ARF・米国小児眼科斜視学会)該当例検出の精度を検討した。

    【対象および方法】対象は3歳児43例86眼。自然瞳孔下でのSVS測定値をA基準またはJ基準で陽性と陰性に分類した。1%アトロピン点眼1日2回7日間後の調節麻痺下屈折度数でARFを判定し、SVSの2つの基準値のARF検出精度を検討した。

    【結果】本集団の有病率は79%で、A基準で感度91%、特異度33%、J基準で感度85%、特異度44%であった。遠視の有病率は37%で、A・J基準で感度63%、特異度100%であった。近視の有病率は0%で、A基準で特異度98%、J基準で特異度99%であった。乱視の有病率は19%で、A基準で感度88%、特異度74%、J基準で感度88%、特異度83%であった。不同視の有病率は30%で、A基準で感度85%、特異度73%、J基準で感度85%、特異度90%であった。

    【結論】A基準でARF検出感度が高く、J基準で特異度が高かった。異常判定基準は健診などの母集団での多数例での検討が必要である。

  • 蜂谷 雪乃, 関 正佳, 船津 真衣, 狩野 久美子, 田川 楓, 田﨑 渚沙, 瀬戸 寛子, 園田 康平
    2022 年 52 巻 p. 101-107
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)として長期経過観察された急性梅毒性後部脈絡網膜炎の症例を報告する。

    【症例】39歳男性。2019年X月左眼光視症を主訴に前医を受診し、AZOORとして経過観察された。13か月後、確定診断目的に当科紹介受診した。初診時、左眼の眼底に黄斑反射の低下と視神経乳頭発赤を認め、OCTでellipsoid zoneの不整、造影検査で視神経乳頭の蛍光漏出と多発性の蛍光貯留を認めた。血液検査で、梅毒性ぶどう膜炎と診断された。

    【結論】眼梅毒は特徴的な臨床所見が乏しく、診断と治療の開始が遅れてしまうことが多い。診断に苦慮する症例では梅毒を鑑別診断に考慮する必要がある。

  • 田川 楓, 関 正佳, 高木 健一, 吉川 洋, 田崎 渚沙, 蜂谷 雪乃, 瀬戸 寛子, 園田 康平
    2022 年 52 巻 p. 109-113
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【背景】視神経炎との鑑別に苦慮した視神経管内神経鞘腫の1例を経験したので報告する。

    【症例】25歳女性。3ヶ月前より左眼視力低下あり、ステロイドパルス3クール行うも効果なく、当科紹介受診。初診時左視力(0.04)、MRIで左視神経に径5×5mmの結節状病変を認めた。前医を含めた4回のステロイドパルスで視機能改善はなく、放射線治療にも病変の縮小が見られず腫瘍性疾患と考えた。初診後1年7ヶ月左眼光覚消失に至った。初診後3年4ヶ月腫瘍は10×7mmまで増大し、腫瘍摘出術を施行した。切除組織から腫瘍は神経鞘腫と確定診断した。

    【結果】急速に視機能低下を呈する疾患の鑑別診断として神経鞘腫を考慮すべきである。

  • 米田 剛, 横田 敏子, 田野上 恭子, 魚住 和代, 新井田 孝裕
    2022 年 52 巻 p. 115-125
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】視能訓練士の各養成校が指導している眼科検査の結果の記録方法を把握することを目的に、全国の各養成校へアンケート調査を実施した。

    【方法】全国視能訓練士学校協会に加盟している27校にアンケートを送付し、同意が得られた養成校のみ回答を依頼した。地域差を考慮するために、愛知県を含み西側を西日本、東側を東日本とした。アンケートの設問は、「視力・自覚的屈折検査」、「両眼視機能検査」、「9方向眼位検査」、「大型弱視鏡検査」、「眼位検査」の検査結果について具体的な症例を挙げ作成した。また、各検査結果の表記に関する項目を68項目設けて単純集計した。表記に関する項目で50%以上を占める記載があれば統一性が高い記録方法として評価した。

    【結果】アンケートの回収率は74%(20/27校)で、東日本は55%(11/20校)、西日本は45%(9/20校)であった。表記で統一性が高い項目は、全体で82.4%を占めることがわかった。表記の統一性が低かった代表例として、眼鏡装用下の表記では、「PG」が43%、「jB」が35%、「KB」が22%であった。

    【結論】本研究で調査した検査結果で表記の統一性がみられなかった項目は17.6%であった。統一性が低い表記については、学生が臨地実習や就職先で対応できるよう各養成校で記録方法を共有して指導することが望ましいことがわかった。

  • 成田 真帆, 森 隆史, 鈴木 美加, 松野 希望, 笠井 彩香, 新田 美和, 齋藤 章子, 橋本 禎子, 石龍 鉄樹
    2022 年 52 巻 p. 127-133
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】我々は眼球形態が成長により変化している3~8歳児の月齢と光学的生体測定装置での非侵襲的眼球形態検査から調節麻痺下等価球面屈折値を推定する予測式を報告した。今回、別集団を対象としてその予測式の精度を検討した。

    【対象及び方法】対象は平成29年12月から令和3年7月に当院を受診し、1%アトロピン点眼1日2回7日間による調節麻痺下屈折検査を施行した3~8歳児119例のべ337眼である。光学的生体測定装置(IOLマスター®700)で測定した眼軸長(x1)、強弱主経線の平均角膜曲率半径(x2)および月齢(x3)を既報の予測式(ý=1,154.91/x1-302.81/x2-115.33/x3-9.04)に代入して等価球面屈折値の予測値(ý)を算出し、調節麻痺下での等価球面屈折値の実測値(y)を比較検討した。

    【結果】337眼の分布範囲は、x1:18.68~24.14mm、x2:6.92~8.34mm、y:-1.00~+10.25Dであった。平均値±標準偏差は、ý:+3.51±2.29D、y:+3.58±2.40Dであった。ýとyの誤差の大きさは、0.50Ð未満164眼(49%)、1.00D未満271眼(80%)であった。

    【考按】月齢と眼球形態により等価球面屈折値を予測する本法は、別集団で同等な精度が得られた。

  • 池田 結佳, 松岡 久美子, 須田 美香, 太根 ゆさ, 平松 純子, 山内 まどか, 薄井 聡子, 森本 尚子, 藤井 靖史
    2022 年 52 巻 p. 135-145
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】読み書きに困難を抱える児童を対象に、視覚関連基礎スキルアセスメント(WAVES)を用いて視覚認知機能を評価し、支援への活用を検討すること。

    【対象および方法】対象は2020年3月から2021年6月の帝京大学病院小児科LD外来受診者のうち、WAVESと見る力に関するチェックリストを実施した30名(男児25名・女児5名、年齢9.8±2.1歳)。WAVESを行い下位検査評価点と4つの指数を算出した。

    【結果】下位検査評価点の平均値の多くが標準値より低かったが、線なぞりの合格点と比率、形なぞりの比率は標準値より高かった。4つの指数では、視知覚+目と手の協応指数(VPECI)と視知覚指数(VPI)が標準値より低く、VPIが最も低かった。目と手の協応全般指数(ECGI)と目と手の協応正確性指数(ECAI)は標準値より高かった。

    【考按】視知覚指数(VPI)は読み書き困難を持つ児童では低く、過去の報告と同様の傾向を示した。眼科検査、言語検査、心理検査と合わせてWAVESを活用することで苦手の背景にある児童の特性を推測し、読み書き指導に有用な情報を与える可能性がある。

    図2 WAVES 結果 Fullsize Image
  • 赤塚 美月, 佐々木 梢, 中川 真紀, 林 孝雄
    2022 年 52 巻 p. 147-150
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】長期経過観察を要した先天眼振二症例の経験から視能訓練士の役割を考察する。

    【症例1】18歳男子。4歳初診時、振子眼振を認めた。幼児期には先天眼振の特徴や対処法、学童期には学習面や部活動の選択、大学受験時には学部選択についてアドバイスした。

    【症例2】34歳男性。16歳初診時、振子眼振と外斜視を認めた。手術を希望し両眼外直筋後転術を施行、術後眼位は正位、眼振は弱化し、視力は向上した。職業選択時には患者の視機能と運転の不向きを説明し、理解を得た。

    【考按】先天眼振の特徴と患者の生活環境等を包括的に把握できる視能訓練士が、時期を逃さず医師と共に適切なアドバイスを行うことは重要な役割であると考える。

第61回 日本視能矯正学会
一般講演
  • 花月 陸, 筒井 健太, 堀田 実木子, 早髙 妃紗子, 一木 聡, 松山 絵里, 林 美波, 大坂 恵, 後藤 信祐, 越山 健, 脇田 ...
    2022 年 52 巻 p. 151-158
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    前眼部光干渉断層計(OCT)のトーリックカリキュレーターにはKeratometry(K)を用いたBarrett Toric式(BT式)と、Fourier Real power Cylinder(FRCyl)を用いたCASIA Toric式(CT式)があり、両式による術後乱視誤差を検討した。

    【対象および方法】対象はトーリック多焦点眼内レンズ(T-IOL)を挿入した39名39眼(男性20眼、女性19眼、平均年齢68.8±9.7歳)。T-IOL度数は全症例CT式にて決定し、後ろ向きにBT式と比較した。検討項目は、①直乱視・倒乱視別でのKとFRCylによる術前角膜乱視量の比較、②BT式とCT式における術後乱視誤差の比較および術後乱視誤差の割合である。

    【結果】術前乱視量は、倒乱視においてFRCylが有意に大きかった(p=0.04)。術後乱視誤差は、直乱視でBT式が0.64±0.36D、CT式が0.45±0.39D (p=0.18)、倒乱視でBT式が0.37±0.27D、CT式が0.36±0.29Dであり(p=0.84)、両式に差はなかった。両式の術後乱視誤差の割合は、±0.5D以内では両式ともに66%(p=0.59)、±1.0D以内ではBT式が90%、CT式が95%であり(p=0.67)、いずれも差はなかった。

    【結論】前眼部OCTに搭載されているCT式は、BT式と同等な乱視矯正効果を示した。

    図1 CASIA2 のトーリック眼内レンズ度数算出 Fullsize Image
  • 碇 菜々恵, 切上 幸希, 谷口 めぐみ, 永沼 加代子, 石井 祐子, 南雲 幹, 大井田 紀和, 永野 雅子, 小口 芳久, 井上 賢治
    2022 年 52 巻 p. 159-166
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】発達障害が疑われる児に対する検査では障害特性への配慮が必要である。当院では眼科検査用「絵カード」や「見通し表」を作製・使用しており、今回はその使用前後での変化を定量的に評価できるか確認したので報告する。

    【対象および方法】対象は2018年5月から2020年5月までに当院を受診し、発達障害疑いのため「絵カード」や「見通し表」を使用した14例(男児11例・女児3例、平均年齢6.4±2.7歳)。他覚的屈折検査、視力検査距離、レンズ交換枚数、片眼遮閉方法、眼位検査の指標を作成し、検査の達成度を点数化した。各評価項目の達成度と合計点を「絵カード」や「見通し表」の使用前後で比較した。達成度のレーダーチャートを作成し、保護者に聞き取り調査を行った。

    【結果】使用前後で達成度に有意差があった項目は、他覚的屈折検査、レンズ交換枚数、眼位検査であった(p<0.05)。有意差がなかった項目は、視力検査距離、片眼遮閉方法であった。また、達成度の合計点が有意に向上した(p=0.003)。聞き取り調査より達成度をレーダーチャートに示すことについて、わかりやすい等の意見が得られた。

    【考按】達成度の点数化により「絵カード」や「見通し表」の使用前後での変化を定量的に評価できることが確認できた。達成度をレーダーチャートで可視化することで視能訓練士だけでなく患児や保護者にとっても検査の達成度が目で見てわかりやすくなることが示唆された。

  • 高﨑 裕子, 林 泰子, 松井 佳奈子, 米嶋 美智子
    2022 年 52 巻 p. 167-175
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】小学生の視力不良に影響する屈折異常やICT使用状況を検討する。

    【方法】小学生1,054名を対象に視力と非調節麻痺下の屈折値、ICT使用状況を質問紙調査した。質問項目はICTの使用有無、使用頻度、使用時間、使用距離、眼精疲労、使用途中の目休め、屋外時間であった。視力の低い1眼を選択し、0.15 log MARと0.00 log MARより大を従属変数に、視力選択眼の屈折値と質問紙項目を独立変数にして多重ロジスティック回帰分析をした。

    【結果】1,019眼を分析した。視力分布は-0.30 log MARから+1.70 log MAR(中央値0.00 log MAR)0.00 log MARより大は328眼、0.15 log MARより大は205眼だった。正視(±1.0 D範囲)は363眼、近視(-1.0 D未満)は632眼だった。ICT使用は965眼、毎日使用は571眼、2時間未満使用は654眼、眼精疲労371眼、屋外2時間未満は810眼だった。視力0.15 log MARより大には近視、使用頻度、眼精疲労が影響し(各オッズ比:5.585、1.636、1.562、全てp<0.01)、視力0.00 log MARより大には近視と眼精疲労が影響した(各オッズ比:3.468、1.682、共にp<0.01)。

    【考按】小学生の視力不良に影響を及ぼす要素は近視、毎日のICT使用,眼精疲労と考えた。

第60回 日本視能矯正学会
一般講演
  • 切上 幸希, 碇 菜々恵, 谷口 めぐみ, 池田 有里, 永沼 加代子, 石井 祐子, 南雲 幹, 大井田 紀和, 永野 雅子, 井上 賢治
    2022 年 52 巻 p. 177-181
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】発達障害、特に自閉症スペクトラム障害(ASD)の認知特性を生かした援助として有効性が認められているTEACCHプログラムを援用して、眼科診療用の「絵カード」と「見通し表」を試作し、発達障害の症例に対して使用した効果を報告する。

    【症例】発達障害と診断されている2症例(使用時年齢 症例1:4歳2ヶ月、症例2:5歳4ヶ月)

    【結果】「絵カード」を取り入れた症例1は、嫌がっていた検査を受け入れて協力的に行うことができた。「見通し表」を取り入れた症例2は、検査に集中して取り組む時間が増し、予定していた検査が全て実施できた。

    【結論】検査を行う私たち視能訓練士がASDの認知特性を理解し、TEACCHの手法の導入により、検査の円滑な実施に効果があることがわかった。

  • 福田 有紀, 髙田 有希子, 大平 亮, 奥出 祥代, 溝渕 圭, 林 孝彰, 中野 匡
    2022 年 52 巻 p. 183-189
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】ColorDx® CCT-HDTM(以下ColorDx®)は3錐体の各コントラスト感度を測定し、色覚異常の検出に加えて型判定が可能な色覚検査用ソフトウェアである。今回我々はColorDx®を先天色覚異常者に施行し有用性を検討した。

    【対象と方法】先天色覚異常を疑われた男性10例(年齢6~12歳、前眼部・中間透光体・眼底に異常所見を有さず、矯正視力1.5以上)を対象とし、石原色覚検査表Ⅱ、Panel D-15、アノマロスコープ、ColorDx®を施行した。ColorDx®の判定は、錐体毎に示されるScore75未満(Category:Color Deficient)を異常とし、アノマロスコープと色覚異常検出の感度と型判定の一致性について比較検討した。

    【結果】全例がアノマロスコープとColorDx®の両機器で色覚異常と判定され、色覚異常検出の感度は100%であった。アノマロスコープで2型色覚の9例のうち6例はColorDx®においてもM錐体単独の異常判定であり型判定は一致した。アノマロスコープで1型色覚の1例と2型色覚の3例では複数の錐体で異常判定であったが、それぞれL・M錐体のScoreが最低値を示した。

    【考按】本機器は色覚異常を検出するスクリーニング検査として有用であることが示唆された。複数の錐体で異常判定された場合はScoreの最低値による型判定が有用と考えられた。

投稿論文
  • 橋本 諭, 鈴木 聡
    2022 年 52 巻 p. 191-198
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【緒言】Virtual Reality(VR)機器を用いて視能訓練を行った不同視弱視症例の3年経過を報告する。

    【症例】6歳の女児。不同視弱視と診断され眼鏡装用と遮閉訓練を行い視力は向上したが、9歳の時点で立体視は100″であった。VRを用いた立体視訓練を行ったところ立体視は40″へ向上を示した。3年が経過した時点で60″を維持している。

    【結論】VRを用いた立体視訓練は、遮閉訓練で治療が停滞した弱視の立体視向上の一助となりえるが、身体への影響が考えられるため使用環境や年齢に注意が必要である。

    図2 視力と立体視の変化 Fullsize Image
  • ―通院のしやすさに関して―
    種本 寛加, 木村 久
    2022 年 52 巻 p. 199-205
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】診療所では間欠性外斜視の訓練療法があまり行われていないのが現状である。今回、通院のしやすさを活かして当診療所にて金谷の提唱する実施方法を参考にして訓練を行った。そして、工夫点や訓練終了時期などについて考察したので報告する。

    【対象および方法】症例は7〜15歳の12例で、偏位量は遠見2〜45⊿、近見14〜45⊿であった。通院にて抑制除去訓練、生理的複視認知訓練、輻湊訓練、融像訓練を2週間毎に行い、自宅では輻湊訓練および融像訓練を毎日行った。訓練目標は抑制がないこと、遠見・近見ともに斜位を維持できること、輻湊近点が10cm以内であること、融像/偏位比が3.0以上であること、とした。

    【結果】訓練期間は16〜60週で、目標を全て達成したのは5例(治癒群)で、この内の1例は訓練41週目から急に改善が起こった。目標のいずれかを達成したのは4例(部分治癒群)、訓練の適応とすべきでなかったのはこわがり融像を認めた3例(非適応群)であり、訓練前に症例を適切に選ぶことの大切さが改めて認識できた。なお、1例は親の同伴なしに児のみで通院できた。

    【結論】部分治癒群の特徴として訓練への理解・意欲・集中力の不安定などがみられ、症例に合わせて訓練内容を工夫する必要があったが、長期間の訓練が必要になった場合でも訓練を継続できた。診療所の通院のしやすさは治療効果を上げるうえで利点であると思われた。

  • 稲垣 尚恵
    2022 年 52 巻 p. 207-215
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】頭位傾斜と視標の呈示角度がかな視標の正答割合に与える影響について検討した。

    【対象と方法】対象は眼疾患がなく、裸眼または矯正下で乱視度数が0.5D以下、視力1.5以上の4名(21.67±2.05歳)4眼。頭位条件は頭位傾斜のない0°、時計回りに45°傾斜した+45°、右下側臥位の+90°の3条件、コントラスト97.6%のかな46文字を視標とし、大きさ0.2logMAR〜-0.3logMAR(0.3°〜0.1°)の6条件を設定した。ディスプレイ上に0°、+45°、+90°に呈示し、正答1、誤答0として分散分析を用いて検討した。

    【結果】-0.1logMAR条件より小さい視標条件で、頭位や呈示角度の影響が現れ、頭位条件に関わらず網膜座標上の視標の呈示角度0°の正答割合が有意に高く、網膜座標上の呈示角度が45°、90°と回転するに従い正答割合は低下した。視標の大きさ-0.3logMAR条件では頭位+90°条件の正答割合が最も低かった。

    【結論】字や顔を認知しやすい「上」の感覚の軸である知覚的直立位(PU)は網膜座標0°とほぼ重なるとされ、かな視標刺激は頭位の傾斜に関わらず網膜座標0°に呈示した条件で正答割合が高く、網膜に写った像と過去に記憶している文字とマッチングするという認知過程が必要と考えられた。側臥位は座位より正答割合が低く、異なる機序が働いていると考えられた。

    図8 各頭位条件における視標の呈示角度と網膜座標の関係 Fullsize Image
  • 大内 達央, 山下 力, 米田 剛, 岡 真由美, 藤田 美佳, 三木 淳司
    2022 年 52 巻 p. 217-223
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/10
    ジャーナル フリー

    【目的】視線計測装置を用いた縞視標に対する視線の停留時間に基づく他覚的視力検査の有用性を検討する。

    【対象及び方法】対象は成人30名30眼であった。他覚的視力測定は視線計測装置Gazefinder、Teller acuity cards(TAC)を使用した。視線計測装置では縞視標3.2、4.8、7.5、12、19 cycles/degreeをディスプレイ上に呈示した。呈示位置は上下左右いずれかとし呈示時間は3秒とした。視力値判定は視線停留率〈(視標への視線停留時間/視標呈示時間)×100〉を算出し、視線停留率50%以上が視標呈示4回中3回以上であることとした。測定条件は裸眼、屈折矯正下、+6.00 D負荷した視力障害シミュレーション下(視力障害)とした。各検査における視力値の比較と相関を検討した。

    【結果】視線計測装置による平均視力値(logMAR)は、裸眼+0.29±0.15、屈折矯正下+0.21±0.04、視力障害+0.55±0.17であった。TACによる平均視力値は、裸眼+0.30±0.15、屈折矯正下+0.21±0.04、視力障害+0.58±0.20であった。全測定条件で視線計測装置とTACを用いた視力値に有意差はなく有意な相関を示した。

    【結論】視線計測装置による眼球運動の解析は他覚的視力検査として有用であることが示唆された。

    表1 視線計測装置を用いた視力値とTAC を用いた視力値の比較 Fullsize Image
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