日本視能訓練士協会誌
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43 巻
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第54回日本視能矯正学会
特別講演
  • 西田 輝夫
    2014 年 43 巻 p. 1-8
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
     わが国は、今日世界有数の長寿国である。量的な豊かさ わが国は、今日世界有数の長寿国である。量的な豊かさに加え、質的な豊かさを考えてみる必要がある。幸せな人生の基本は、常に激しく変化している環境(季節や気候などの自然現象とともに職場や家庭などの社会的環境)との関わりを十分に持って生きていくことであろう。私たち人間は、常に変化する環境の中で、心身の恒常状態を維持して生活することが極めて重要である。その為には、感覚器の果たす役割が極めて重要となる。五感の中で、私たち人間は視覚に大きく依存して生活している。
     視覚器には、角膜、虹彩、水晶体、硝子体や網膜が含まれる。外界の入射光は、透明な角膜を通過し網膜に焦点を合わせ、光のエネルギーを化学エネルギーからさらに電気エネルギーに転換し、視神経を通じて脳に情報を提供している。角膜の透明性と形状が適切に維持されていることが、良い視機能を得る第一歩である。
     今日、多くの角膜疾患を治すことができるようになってきたが、同時にまだまだ治癒せしめ得ない角膜疾患も多く存在する。私たちは、角膜上皮創傷治癒の機序に関する研究を行ってきた。これらの科学的な研究に基づき、遷延化した角膜上皮欠損を治療する新しい薬剤を開発することができた。本稿では、見えるということの意義を考察し、私たちの難治の角膜上皮疾患に対する橋渡し研究の足跡を述べる。
招待講演
教育講演
シンポジウム1
  • 石垣 尚男
    2014 年 43 巻 p. 21-27
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
     広義のスポーツビジョンは「スポーツと視覚および視覚器に関する研究」である。具体的には4つ側面(測定・評価、矯正、トレーニング、保護)から貢献するコンセプトである。競技力を向上させたいスポーツ選手や指導者の期待に応えるために、スポーツの現場では測定・評価とトレーニングが中心である。スポーツ選手の見る能力を測定・評価し、さらに強化するコンセプトは視能訓練士の眼やトレーニングの領域と大きく異なる。具体的な測定とトレーニング方法を紹介する。
     良好な視力はスポーツ実践の基礎である。しかし、スポーツ選手の約60%は視力1.0を有していない。視力測定や視機能矯正は眼科医や視能訓練士の領域である。スポーツの実践には、まず適正な視力や視機能があるか眼科で受診し、眼科医や視能訓練士と連携を取りつつ測定、トレーニングするシステムであることが望まれる。
  • 平島 ユイ子
    2014 年 43 巻 p. 29-33
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
     学習障害の一つである読み書き障害の主な原因は音韻意識(音に対応する文字の記憶や音声からの意味の想起など)の育ちにくさであるが、視機能の問題を併せ持つこともある。視機能の問題があると読み書きはより困難になる。周囲が視機能の問題を理解し、支援するためには、学校でどのような困難さが現れるのかを明らかにする必要があった。そこで、視機能の問題を持つ学習障害児1症例の学校における困難さを明らかにし、支援について検討した。症例は視機能に問題があることに8歳で初めて気づいた。書字の特異な部分省略と文字が動くという訴えによって眼科受診し、斜視と診断された。フレネル膜付き眼鏡が処方されたことで文字のずれや省略が軽減した。また、照明や文字の拡大等の支援を学校で得ることで視覚的な困難さが減り、読み書きを伴う学習に取り組める様になった。
  • 何 向東
    2014 年 43 巻 p. 35
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
     WHOの統計によると現在、世界では2.85億人の視力障害者があり、そのうち、3900万人は盲であり、2.46億人はロービジョンである。80%の視力障害は避けられるか或いは治癒できる。一方、WHOのアイケア従事者のニーズの推測により、1万人ごとに一人のアイケア従事者、10万人ごとに一人の眼科のパラメディカル者、25万人ごとに一人の眼科医が必要である。特に発展途上国においてはアイケア従事者不足は非常に深刻な状況である。先進国においても高齢化が進み、糖尿病網膜症や加齢性黄斑変性などが増え、ロービジョンケアの需要が増加する。地域においては眼保健はまだ普及しておらず、病気の早期発見、早期治療に実現することがまだできていないのは現状である。この状況の中、視能訓練士はもっと従事者の数を増やし、専門能力を高め、眼科のパラメディカルだけではなく独自性を強め、アイケア過程のあらゆる分野に責任を果たさなければならない時代になっている。
  • 高橋 広
    2014 年 43 巻 p. 37-42
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
     眼科医療においてロービジョンケアの重要性は言及するまでもなく、その担い手である視能訓練士の役割は非常に大きい。
     そのためにも、視能訓練士に求められていることは、まず正確な眼科検査ができることである。日常行っている検査を少し工夫し行えば、それから視覚に障害をもつ者の見え方を想像できる力(眼科検査と生活機能評価のギャップを埋める)がつき、ロービジョンリハビリテーションの第一歩を踏み出すことができる。
シンポジウム2
  • 金沢 創
    2014 年 43 巻 p. 43-46
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
  • -顔認知に及ぼす顔サイズと網膜偏心度の効果-
    川嶋 英嗣
    2014 年 43 巻 p. 47-53
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
     顔認知困難が中心視野欠損のある患者に多く見られる訴えであることはよく知られている。中心視野欠損を有する患者は偏心視で顔認知を行わなければならない。本研究では視覚正常者を対象として網膜偏心度別に顔認知に及ぼす顔サイズの効果について検討した。実験1では、人物同定と表情識別の顔サイズ閾を網膜偏心度別に測定した。人物同定の顔サイズ閾に及ぼす網膜偏心度の効果は表情認知よりも大きかった。実験2では、網膜偏心度0度と10度において、顔サイズ別に表情強度閾を測定した。網膜偏心度別に臨界顔サイズを推定したところ、網膜偏心度10度の臨界顔サイズは0度のときよりも大きくなることがわかった。顔サイズ閾と臨界顔サイズは中心視野欠損を有する患者の顔認知困難を客観的に評価するのに有用な指標であることが示唆された。
  • -対面コミュニケーションの課題と工夫に関する実態調査からの考察-
    中野 泰志, 相羽 大輔, 小松 真也
    2014 年 43 巻 p. 55-63
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】対人コミュニケーションでは、バーバルな情報以外に、視線や顔つきやジェスチャー等の視覚情報、抑揚等の聴覚情報、握手等の身体接触の際に伝わる触覚情報、コロン等の嗅覚情報等のノンバーバルな情報が極めて重要な役割を果たす。特に、顔つきやジェスチャー等の「表情」を通じ伝達される感情や情緒に関する情報のやり取りは、日常会話の円滑化に必要不可欠である。ところが、ロービジョン者の場合は、視覚情報を介し伝達される「表情」等のノンバーバル情報の認知が難しく、対人コミュニケーションで様々な困難に遭遇する。そこで、彼らが直面する困難さの内容と、困難への工夫の内容を調査した。
    【方法】37人の成人ロービジョン者にアンケート調査を実施した。主な項目は、a)障害の程度、b)対人コミュニケーションで遭遇している困難さ、c)コミュニケーションを効果的に行うために身につけた工夫であった。
    【結果】誰が誰に語りかけているかを特定する際、晴眼者は、顔の向き、視線、ジェスチャー等の情報に注目するが、ロービジョン者の中には視覚でこれらの情報を確認できないケースがあることがわかった。また、「表情」からYes/Noや同意の程度等を伝達するようなコミュニケーションに対応できないケースもあった。さらに、先天性のロービジョン者の中には、視線を合わせることの意味や「表情」からどのような情報伝達が行われているかを理解できていないと思われるケースもあった。
一般講演
  • 原 涼子, 安藤 智子, 新井田 孝裕
    2014 年 43 巻 p. 65-71
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】視能訓練士の熟達化は患者の見え方の質、生活の質の向上につながると考えられるが、視能訓練士の熟達の定義は未だ為されていない。本研究では視能訓練士の熟達像を構成する要素について調査した。
    【対象及び方法】東京都、静岡県および栃木県の大学病院勤務の視能訓練士19名(平均職歴6.1年)、眼科医5名(平均職歴22.2年)を対象に、電子メールやインタビューで「どのような視能訓練士が熟達者だと思いますか」と質問した。得られた回答はKJ法を援用し、記述内容の類似性に基づいて整理しカテゴリに分類した。
    【結果】視能訓練士の熟達像として、全部で90項目の素データが得られ、最終的に18カテゴリに分類された。素データの出現率が高かったカテゴリは「自分にとって得意分野がある」、「患者さんに合わせた対応ができる」、「速くて正確な検査ができる」、「オールマイティーに検査ができる」、「周囲に対して目が向いている」、「仕事の環境全体が見えている」であった。
    【結論】視能訓練士においては、自身の検査技法、知識に関して精通しているだけでなく、自分の考えをしっかり持ち、それに基づき検査を行う事が必要である。また、正確な検査結果を引き出すために、患者に合わせた対応ができるコミュニケーション能力も必要とされる。仕事全体を円滑に運ぶために、仕事の環境全体が見えているというアセスメント能力も必要とされることが示された。
  • 澤田 園, 枩田 亨二, 新田 朋美, 丸中 夏央里, 北川 由貴, 西村 宗作, 中西 正典
    2014 年 43 巻 p. 73-80
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】眼軸長/角膜曲率半径比(以下、AL/CR比)は眼球の屈折バランスを反映する指標である。これを含めた術前指標を用い、眼内レンズ(以下、IOL)度数計算式の予測精度を評価する。
    【対象と方法】対象は2010年1月から2012年10月に白内障手術を施行し、NY60(HOYA)を挿入した術後1ヶ月時の矯正視力が0.8以上であった271例386眼。術前のIOLマスター™での眼軸長、角膜曲率半径、前房深度およびAL/CR比に着目し、症例を各3群に分類した(例えばAL/CR比:<3.0・3.0~3.3・≧3.3)。SRK/T式、Haigis式、およびSRK/T式を改良したT2式について、対象症例で最適化した定数を用い、術後屈折誤差を各指標の群間で比較した。さらに、各式の予測精度に関わる予測術後前房深度と各指標の相関についても検討した。
    【結果】検討指標のうち、AL/CR比にてSRK/T式とHaigis式で群間有意差を認め(p<0.01、Kruskal-Wallis検定)、前者は低AL/CR比で、後者は高AL/CR比で遠視性誤差の傾向を示した。一方、T2式ではいずれの指標においても群間有意差を認めなかった。またAL/CR比は他の指標に比して予測術後前房深度と強く相関していた(SRK/T:r=0.97、Haigis:r=0.76、T2:r=0.99、Pearson積率相関係数)。
    【結論】AL/CR比は術後屈折誤差リスクの指標として有用である。IOL度数計算式はこれを含めた各種術前指標の全域で群間有意差を認めないことが理想であり、T2式はこの理想に最も近く、安定した精度を示した。
  • 大平 亮, 塩谷 直子, 野村 美香, 渡辺 千草, 三浦 一真, 高野 雅彦
    2014 年 43 巻 p. 81-86
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】MP-1を用い弱視眼、斜視眼の固視安定性を測定し、視力との関係、左右眼を比較検討したので報告する。
    【対象及び方法】MP-1によるFixation Testが可能であった弱視および斜視症例16例(弱視9例、斜視7例)を対象とし、固視安定性の評価にはBivariate Contour Ellipse Area(以下BCEA)による解析を用いた。30秒間に測定された固視点の68.2%を含む楕円の面積をThe Ranged of Fixation Effectiveness(以下RFE)とし、 単位はSquare Degree(以下Sqd)とした。視力の良い方の眼を検討眼とし、斜視症例では固視眼を検討眼とし、弱視で両眼の視力差の無い場合は右眼を検討眼とした。それぞれ検討眼と反対の眼を対照眼とした。検討眼と対照眼それぞれ単眼での視力とRFEを比較、また視力およびRFEについて対照眼と検討眼の差分をとり検討した。検定にはPearsonの相関係数を用いた。
    【結果】検討眼ではRFEが比較的小さかったが、視力が1.2でもRFEは0.02~1.40Sqdとややばらつきがあり、視力との相関は見られなかった。(p=0.55)対照眼では視力不良例ほどRFEが大きく視力とRFEの間に正の相関が見られた。(p<0.01)両眼の視力差が大きいほどRFEの差も大きく、視力とRFEそれぞれの差分の間には正の相関が見られた。(p<0.01)
    【結論】MP-1を用いFixation Testを行いBCEAによる解析を用いることで、定量的な固視評価が可能であった。今回の検討により、両眼の固視の安定性を定量化し比較検討することで、MP-1での固視検査が今後弱視、斜視の新たな視機能評価の指標となりうると考えられた。
  • 則武 里奈, 鈴木 紗代, 山村 彩, 岡田 あかね, 近藤 奈津, 小島 隆司
    2014 年 43 巻 p. 87-91
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】Trabectome ™(NeoMedix社)を用いた線維柱帯切開術(以下TT)は前房側からのアプローチのため、他の緑内障手術と比較して低侵襲であり、白内障同時手術も可能である。今回はTT+PEA+IOLを行った場合、術後予測屈折値に与える影響を白内障単独手術(以下PEA+IOL)の場合と比較検討した。
    【方法・対象】2012年1月~10月までに当院でTT+PEA+IOL施行した19例28眼(トリプル群、平均年齢72.5±6.9歳)、病型は原発開放隅角緑内障18眼、正常眼圧緑内障2眼、続発緑内障6眼、ステロイド緑内障2眼と、白内障以外に眼疾患を認めず、PEA+IOLを施行した16例28眼(白内障単独手術群、73.0±5.8歳)である。方法はトリプル群と白内障単独群の2群間における術前、術後3ヶ月の自覚的屈折検査による屈折誤差、惹起乱視(Jaffe法)、平均角膜屈折力を比較検討した。統計解析は一元配置分散分析及びt検定を用い有意水準5%未満を有意差ありとした。
    【結果】術後3ヶ月の平均屈折誤差はトリプル群は+0.12±0.41Dで68%が目標屈折の±0.5D以内、白内障単独手術群は+0.04±0.3Dで86%が±0.5D以内となり、両群に有意差は認められなかった(p=0.11)。
    【結論】TTを用いた線維柱帯切開術併用白内障手術は術後予測屈折値への影響が小さいことが分かった。
  • 石田 圭, 池田 史子, 野田 聡実, 大平 陽子, 中尾 敦子, 櫻井 義素, 髙橋 奈美, 岸 章治
    2014 年 43 巻 p. 93-99
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】ロービジョンケアを行う上で、眼科と盲学校の連携の重要性について報告されている。群馬大学医学部附属病院眼科でも、群馬県立盲学校と連携してロービジョンケアを行っているが、今回その連携の現状と満足度の把握を目的に調査を行ったので報告する。
    【対象および方法】対象は当科に受診歴があり、群馬県立盲学校で行われている目の相談を受けたことのある視覚障害者94例。年齢は0~53歳(平均10.4±8.5歳)。方法は対象者の内訳を後ろ向きに検討し、更に郵送または手渡しによるアンケート調査を行った。アンケートは無記名で回答を求めた。
    【結果】主な原因疾患は、未熟児網膜症や先天白内障、斜視・眼球運動障害などで、先天疾患や早期発症の疾患が約8割を占めていた。目の相談の紹介時年齢は0~51歳(平均5.9±8.3歳)で、就学前が全体の81%であった。アンケートの回収率は74%(94例中70例)。目の相談の満足度は行って良かったが90%と高い結果となった。当科への意見は待ち時間に対する不満が多かった。
    【結論】盲学校の目の相談を受けた患者の満足度は高いことがわかった。ロービジョンケアにおいて当科から目の相談に患者を紹介することは有用である。
  • 昆 美保, 星 雄也, 菅原 千絵, 後藤 恭孝, 黒坂 大次郎
    2014 年 43 巻 p. 101-106
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】ロービジョンケアを行う上で、介護支援専門員との連携が重要と思われた緑内障患者を経験したので報告する。
    【対象・方法】症例は右眼開放隅角緑内障、左無眼球で経過観察中の72歳女性である。右眼視力は(0.125)、視野は約3°の求心性視野狭窄で、糖尿病、高血圧、高脂血症、骨粗鬆症等の全身疾患がある。身体障害者手帳がなく介護保険は要介護1の認定を受け居宅サービスを受けていた。しかし視覚障害と関連性のある課題が解決されていないため、介護支援専門員との連携をとりながらロービジョンケアのためのプランを検討した。
    【結果】介護支援専門員は、①買い物②転倒②投薬管理など視覚障害に起因した生活課題に対して、訪問介護と通所介護、訪問看護を提案し独自に改善を図ろうとしていた。一方、眼科側では、矯正眼鏡、遮光眼鏡、拡大鏡を処方していた。介護支援専門員との情報交換を行い、介護支援専門員側には弱視疑似体験レンズによって保有視機能を理解してもらうことができた。眼科側では、一般的な課題分析では把握しきれない潜在した生活課題があること、様々な非公的サービスによる包括的な支援内容があることなどが分かった。
    結論】介護認定を受けて居宅サービスを受けているロービジョンの症例では、介護支援専門員と相互に連携を図りながら進めることが有用であると思われる。
  • 小出 映里奈, 塩野 未祐紀, 堀 普美子, 市原 美重子, 山口 直子, 柿原 寛子
    2014 年 43 巻 p. 107-111
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】小児白内障の中でも片眼性先天白内障の術後の視力については予後が悪いとされている。当院における片眼性先天白内障術後無水晶体眼の弱視治療の長期経過を検討する。
    【対象】平成14年3月14日から平成24年3月31日までに当院にて白内障手術を施行した104例中の先天白内障89例のうち、片眼性術後無水晶体眼が15例であった。その中で弱視治療を開始し、全身疾患及び白内障以外の眼疾患がなく、5年以上経過を追えることが出来た5例(手術時年齢0歳5か月~1歳5か月 平均11.4か月)を対象とした。
    【結果】術後に5例全例にハードコンタクトレンズ(以下HCL)による屈折矯正と健眼遮閉を指示した。HCLの装用も健眼遮閉も困難だった1例の術後最終視力は(0.01)であった。HCLの装用は良好だったが健眼遮閉を指示した時間どおり行うことが出来なかった2例の術後最終視力は(0.01)であった。それに対し、HCLの装用が良好で健眼遮閉も指示どおり行うことが出来た2例のうち、1例の術後最終視力は(0.05)、もう1例は(0.4)だった。
    【結論】今回5年以上の経過を追ってみたところ、健眼遮閉のコンプライアンスの良否が術後視力に大きく影響していることが分かり、その重要性を再認識することが出来た。片眼性先天白内障の術後は見にくさから健眼遮閉が困難である為、指示どおりに出来ないことが多い。しかし、健眼遮閉を行えば視力向上につながることを保護者にきちんと説明していくことが重要と感じた。
  • 藤井 千晶, 岸本 典子, 大月 洋
    2014 年 43 巻 p. 113-121
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】Spectral-domain光干渉断層計(SD-OCT)を用いて、遠視性不同視弱視の黄斑網膜厚を解析する。
    【対象と方法】2011年12月から2013年10月31日までの間に井原市民病院を受診した10名(3~16歳)の遠視性不同視弱視を対象に、SD-OCTを用いて中心窩を通る、水平および垂直経線の網膜断層を撮影した。中心窩の網膜厚と陥凹深度、中心窩から500μmと1500μmの黄斑網膜厚、および同部位の層別厚をそれぞれ計測し僚眼と比較した。
    【結果】弱視眼の中心窩から1500μmの鼻側、耳側、上側、および下側の網膜厚は僚眼よりも有意に大きく(p <0.05)、同眼の中心窩から1500μmの部位の鼻側、耳側、上側の外網状層から視細胞外節までの外層網膜厚は僚眼よりも有意に大きかった(p <0.05)。中心窩の網膜厚、陥凹深度、および中心窩から500μmの網膜厚は僚眼と比較して有意差はなかった。
    【結論】弱視眼の中心窩から1500μmの黄斑の網膜厚は僚眼よりも大きく、外網状層から視細胞を含む外層網膜がそれに関係する。
  • 鍬塚 友子, 松澤 亜紀子, 春日 弘子, 佐藤 渚, 高木 均
    2014 年 43 巻 p. 123-129
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】前眼部光干渉断層計(以下CASIA)と光学式眼軸長測定装置(以下IOLマスター)により前房深度を測定し、比較検討すること。
    【対象と方法】屈折異常以外に眼疾患を有さない健常者48例96眼を対象とした。平均年齢は48.0±21.9歳、平均屈折値は-1.8±3.2Dであった。IOLマスターにて眼軸長・角膜曲率半径・前房深度を、CASIAにて角膜曲率半径・角膜厚・前房深度を測定した。9例18眼に暗室、明室、散瞳下での前房深度測定を行った。
    【結果】前房深度はIOLマスター平均3.35±0.40mm、CASIA平均3.46±0.39mmであり、CASIAの方が有意に長かった(p<0.01)。しかし、IOLマスターとCASIAにて測定した前房深度には強い相関を認めた(r=0.958 p<0.01)。眼軸長は平均24.49±1.41mmであり、前房深度と中等度の相関を認めた(IOLマスター(r=0.446 p<0.01)、CASIA(r=0.402 p<0.01)。2機種の角膜曲率半径の平均値は、IOLマスター平均7.76±0.26 mm、CASIA平均7.78±0.26mmであり、相関を認めなかった(IOLマスター(r=-0.36 p=0.725)、CASIA(r=-0.39 p=0.706))。IOLマスターによる前房深度測定値は、明室3.14±0.70mm、暗室3.13±0.70mm、散瞳下3.26±0.68mmであり、各条件で有意差は認められなかった(p<0.01)。CASIAによる前房深度測定値は、明室3.21±0.61mm、暗室3.25±0.66mm、散瞳下3.40±0.61mmであり、各条件で有意差は認められなかった(p<0.01)。
    【結論】前房深度の測定においては、測定機器により測定方法や測定原理が異なるため、その特性を理解し測定条件や測定値を評価することが必要と考えた。
  • 伊藤 志代美, 玉置 明野, 川出 美幸, 市川 一夫
    2014 年 43 巻 p. 131-135
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】屈折検査時に徹照像を撮影することによって、視力検査に有用な情報が得られた2症例について報告する。
    【症例1】両眼トーリック眼内レンズ(Toric IOL)挿入術後の77歳女性。Toric IOLの軸マーク位置を、オートレフケラトメーターARK-1s(NIDEK)に搭載された徹照像から分度器で計測したものと、角膜形状/屈折力解析装置OPD-ScanⅢ(NIDEK)の徹照像から得られる軸とで比較した。2つの方法による乱視軸マークの測定値の差は、全て3°以内であった。
    【症例2】眼内レンズ(IOL)偏位のため他覚的屈折値と自覚的屈折矯正値が矛盾した64歳女性。ARK-1sにて屈折検査、角膜曲率半径計測、徹照像撮影を行い、OPD-ScanⅢで眼収差量を測定した。他覚的屈折検査は測定不能であったにもかかわらず、自覚的視力検査は(0.7×IOL)(1.2×cyl-1.25D 90°)と良好で、ARK-1sによる徹照像からIOLが下方に偏位していることが確認された。瞳孔中心付近にIOLのエッジが掛かっているため他覚的屈折値はエラーとなるも、瞳孔領内の31.4%にIOL有効光学部があり、視覚的注意の選択特性により良好な矯正視力が得られたと考えられた。
    【結論】他覚的屈折検査時に徹照像を確認できることは、視力検査において有用な情報となると思われた。
  • 福光 実里, 松本 富美子, 立花 都子, 小池 英子, 七部 史, 阿部 考助, 日下 俊次, 大沼 一彦
    2014 年 43 巻 p. 137-143
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】Mittendorf spotを伴う不同視弱視の2症例に対して弱視治療を行い、視力、立体視ともに良好な結果を得ることができたので報告する。
    【症例1】初診時3歳7か月、男児。左眼に直径0.8mm程度のMittendorf spotを認めた。調節麻痺薬点眼後、RV=(1.0×+3.50D)、LV=(0.5×+5.00D cyl-2.50D 60°)の不同視を認めた。Wave-Front Analyzer KR-1W®(TOPCON社製)での眼球高次収差のRMS値(4.0mm径)はR: 0.052μm、L: 0.826μmであった。完全矯正眼鏡の常用と健眼遮閉法を行いLV=(1.0)、立体視も60秒に向上した。
    【症例2】初診時11歳1か月、女児。右眼に直径1.6mm程度のMittendorf spotを認めた。調節麻痺薬点眼後、RV=(0.6×+2.50D cyl-1.50D 155°)、LV=(1.5×+0.50D cyl-0.75D 180°)の不同視を認めた。眼球高次収差のRMS値はR:0.231μm、L:0.108μmであった。完全矯正眼鏡の常用と健眼遮閉法を行いRV=(1.2)、立体視も60秒に向上した。
    【結論】Mittendorf spotを伴う眼球高次収差が大きい症例では、不同視がある場合、弱視治療が有効である可能性がある。
  • 渡辺 逸美, 須藤 史子, 島村 恵美子, 蛭田 恵理, 渕江 勇太
    2014 年 43 巻 p. 145-152
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】特殊な角膜形状眼2例の眼内レンズ(以下IOL)度数計算を経験したので報告する。
    【症例1】両眼円錐角膜。オートケラトメータやIOLマスター(Zeiss)だけでなく、TMS-5(TOMEY)、Pentacam®(Oculus)による各種計測値も用いSRK/T式や光線追跡法で計算を行ったところ、正視合わせになるIOL度数はばらつきがあった。白内障手術は小切開創であり、角膜乱視はそのまま残ると予想されたため近視性単性乱視を狙い、IOLマスターの予測値が右-1.46 D、左-1.35 Dとなる右MA60MA±0.0 D、左MA60BM+17.5 Dを選択した。術後屈折誤差は右-0.54 D、左+0.35 D、視力は右0.7(1.0)、左0.5(0.9)、角膜乱視は予想通り残存したが自覚屈折の乱視度は軽減し、満足が得られた。
    症例2】左眼PTK眼。TMSによる形状解析では角膜中央が平坦化していた。症例1と同様に度数計算したところ、正視合わせのIOL度数はばらつきがあった。PRKやLASIKなど角膜中央部を平坦に切削した眼では3D遠視化するという過去の報告をふまえ、PTK後眼も遠視化することを考慮し、IOLマスターの予測値が-1.75DとなるSN6CWS+26.5 Dを挿入した。術後屈折誤差は+1.125 D、視力は0.6(0.8)で、PTKによる遠視化は予想したよりも軽度であった。
    【結論】特殊角膜形状眼のIOL度数は種々の形状解析装置の測定値や計算式を用い、慎重に検討した方が良いと思われた。
  • 高田 有希子, 奥出 祥代, 林 孝彰, 月花 環, 片桐 聡, 北川 貴明, 久保 朗子, 小島 博己, 常岡 寛
    2014 年 43 巻 p. 153-159
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】心因性視覚障害で、色覚異常を主訴として眼科受診するケースは少ない。今回、一過性の聴力障害後に、色覚異常を訴えた心因性視覚障害の1例を経験したので報告する。
    【症例】15歳女性。2013年1月頃より、一過性の左聴力障害を認めていたが、経過観察していた。同年2月右眼の色覚異常を自覚し、近医眼科を受診。同年3月精査目的にて当科受診となった。矯正視力は右眼1.5、左眼1.2であった。左右眼ともに前眼部、中間透光体、眼底に異常所見は認めず、Goldmann動的量的視野は正常で、網膜電図の潜時・振幅は正常範囲内であった。石原色覚検査表の分類表誤読数は右8表、左4表。パネルD-15では右fail、左passであった。Farnsworth-Munsell 100 Hue Test(F-M 100 Hue)の総偏差点は右148(正常範囲外)、左84(正常範囲内)であった。精査中、頭部MRIにて左聴神経腫瘍を認めた。2013年6月頃には自覚症状の改善を訴えており、同年7月再度色覚検査を行ったところ、石原色覚検査表誤読数は右2表、左1表。パネルD-15は左右眼それぞれpassと改善がみられた。F-M 100 Hueの総偏差点は右108、左124(ともに正常範囲外)であった。
    【結論】発症時、高校受験勉強の最中であり、一過性の左聴力障害などストレスとなる背景がいくつか存在していた。明らかな視路疾患や眼疾患がなかったことから、色覚異常は重複したストレスによる心因性視覚障害が原因であると思われた。
  • 横山 大輔, 瀧川 円, 小野 しずか, 新井 紀子, 古吉 三紀, 古吉 直彦
    2014 年 43 巻 p. 161-166
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】糖尿病眼筋麻痺は予後が比較的良好といわれているが微小な偏位や自覚症状の残存する症例をしばしば経験する。今回当院の糖尿病眼筋麻痺について臨床所見ならびに予後とその関連因子について検討した。
    【対象と方法】対象は2004~2013年に糖尿病眼筋麻痺と診断した14例である。発症年齢33~91歳。検査は交代プリズム遮閉試験、Bagolini線条鏡を用いた融像野試験、眼球運動検査、ヘモグロビンA1c(HbA1c)等を行った。深井らの後天性眼球運動障害の治癒基準に従った8)
    経過観察期間は1か月~2年である。
    【結果】眼筋麻痺は全例が一側の単独神経麻痺を生じ、3例に他の神経に再発を認めた。内訳は動眼神経7眼、滑車神経4眼、外転神経6眼であった。治癒例は14例中10例(71%)であった。治癒までの期間は平均2.6か月であった。残存例は4例(29%)であった。残存例は、発症から5か月以上経過しており、動眼神経麻痺の上下筋障害が多かった。発症時のHbA1c7%以上は14例中11例(79%)に認めた。発症時のHbA1cが7%以上、血糖コントロール不良例、糖尿病罹病期間5年以上の症例に残存が多かった。また2例は眼筋麻痺発症が糖尿病発見の契機になった。
    【結論】糖尿病眼筋麻痺で残存例を29%に認めた。血糖コントロールは予後に影響を及ぼすことが示唆された。
  • 中村 秋穂, 榊原 遥香, 高橋 亜矢子, 稲井 隆太, 石井 祐子, 南雲 幹, 玉置 正一, 井上 賢治
    2014 年 43 巻 p. 167-172
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】Laser in situ Keratomileusis (以下、LASIK)施行後10年の弱度・中等度近視(以下、弱中等度群)と強度・最強度近視(以下、強度群)の手術成績を比較、検討した。
    【対象】1999年7月~2003年9月にLASIKを施行した492例(855眼)のうち、術後10年の受診歴がある32例(62眼)、男性19例、女性13例、手術時平均年齢33.7±6.8歳。
    【方法】術後10年の受診理由を診療記録より後ろ向き調査した。術前の自覚的屈折(等価球面)値が-6.0D未満の弱中等度群24眼と-6.0D以上の強度群38眼に分け、術前・術後6か月・術後10年の裸眼視力、自覚的屈折値の変化を比較、検討した。
    【結果】術後10年の受診理由は、視力低下が22例(68.8%)、LASIK定期検査は4例(12.5%)であった。弱中等度群の裸眼視力の平均は、術前0.07、術後6か月1.24、術後10年0.92、強度群は、術前0.03、術後6か月1.18、術後10年0.55であった。術後10年の裸眼視力1.0以上の割合は弱中等度群では62.5%、強度群は18.4%で、両群間に有意差を認めた(p=0.0017)。弱中等度群の自覚屈折値の平均は、術前-3.89±1.47D、術後6か月+0.09±0.54D、術後10年-0.30±0.79D、強度群は、術前-8.73±1.70D、術後6か月-0.06±0.33D、術後10年-1.22±0.79Dであった。術後6か月と術後10年の自覚的屈折値の比較では、-0.50Dより大きい近視化は弱中等度群8眼(33.3%)、強度群29眼(76.3%)で、強度群が有意に近視化していた(p=0.0004)。
    【結論】長期経過で両群ともに近視化を示し、特に強度群では近視化を示す症例が多く継続的な長期観察の必要性があると考えた。
  • 瀧川 円, 横山 大輔, 小野 しずか, 新井 紀子, 古吉 三紀, 古吉 直彦
    2014 年 43 巻 p. 173-179
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】重症筋無力症(以下MG)の発症年齢は、一般的に小児や20~50歳代に多いと言われている。我々は高齢発症のMGを数例経験し、1例は他院にて両眼眼瞼下垂の手術既往があった。今回、過去10年間に経験したMG8例について臨床的特徴を検討したので報告する。
    【対象と方法】対象は2003~2013年に当院を受診しMGと診断された8例である。それらに対し、年齢、主訴、瞼裂幅測定、上方注視負荷試験、眼位・眼球運動検査、抗アセチルコリンレセプター抗体(以下抗AChR抗体)の結果を調べた。
    【結果】男女比は1:1、受診時年齢は36歳~87歳で、30歳代1例、50歳代1例、60歳代1例、70歳代3例、80歳代2例だった(平均68.5歳)。受診時の主訴は、「瞼が下がっている」が最も多く6例、「二重に見える」3例、「見えにくい」2例、「遠近感がない」1例等があり、症状は7例で突発性だった。全例に左右非対称の眼瞼下垂を認めた。眼球運動障害は4例に認め、障害筋は上直筋3例、下斜筋4例、外直筋1例、偏位量は5~25⊿だった。確定診断は抗AchR抗体陽性7例、残り1例は内科にて診断された。
    【結論】当院におけるMGの発症年齢は、60歳以上の高齢者が75%を占めた。眼症状の発現は突発性で、眼瞼下垂の程度は軽度で左右非対称であった。眼球運動障害を半数に認め、偏位量の変動を認めた。日本でも近年高齢発症が増加している現状と一致しており、高齢者の眼瞼下垂で症状が突発性かつ複視を訴える症例では、MGも念頭に入れておく必要がある。
  • 横峯 弘隆, 常信 恵理, 吉村 佳子, 榎 美穂
    2014 年 43 巻 p. 181-186
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】IOLMaster®の測定において、すべて信頼係数signal to noise ratio(以下SNR)2.0未満の症例について、ノイズキャンセリング機能で得られた眼軸長の測定精度を検討した。
    【方法】測定5回すべてSNR2.0以上かつ黒字表示された測定値が得られた症例120眼(A群、平均年齢74.1±6.8歳)、すべてSNR2.0未満で眼軸長測定値が得られた症例15眼(B群、平均年齢76.3±11.9歳)、測定不能の症例16眼(C群、平均年齢75.5±8.3歳)を抽出した。①各群の合成SNR、②Aモードとの差、③B群の各測定波形と合成波形との比較、④術後屈折誤差について検討した。
    【結果】①各群のSNRはA群159.6±72.3、B群5.9±3.7、C群1.4±0.3であった。② A群0.27±0.14mm、B群0.28±0.12mmで有意差はなかった。Aモードとの相関係数はA群r=0.99、B群r=0.98で有意差はなかった。③B群で黒字ボーダーラインの測定値が得られた10眼について、黒字ボーダーラインの平均測定値は23.629±1.08mm、合成波形の平均測定値は23.631±1.08mmで有意差はなかった。黒字ボーダーラインの測定値がない5眼中4眼について、選別した測定波形をマニピュレーションした平均測定値は23.34±1.61mm、ノイズキャンセリング機能による合成測定値は23.34±1.63mmであった。④A群0.38±0.36D、B群0.38±0.24D、C群0.85±0.82DでA群とB群の間で有意差はなかった。
    【結論】各測定SNR2.0未満であっても、ノイズキャンセリング機能によって精度の高い術後屈折値が得られた。IOLMaster®よりAモードの方が長眼軸長の症例や合成SNR2.0未満の症例では、Aモード眼軸長の採用や再検査を行う必要があると思われた。
  • 稲井 隆太, 高橋 亜矢子, 榊原 遥香, 中村 秋穂, 石井 祐子, 南雲 幹, 玉置 正一, 井上 賢治
    2014 年 43 巻 p. 187-192
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】多焦点眼内レンズ挿入術後に屈折異常が残余した1例に対して、1眼にLASIK、他眼にFemtosecond Laserを使用した乱視矯正角膜切開術にて追加矯正を行なったので報告する。
    【症例】67歳男性。両眼白内障手術および回折型多焦点眼内レンズ挿入を施行、術後に残余した屈折異常を矯正する目的にて当院を紹介受診した。
     術前視力は右眼0.3(1.0×-1.00D cyl-1.00D Ax170°)、左眼0.4(1.0×+0.25D cyl-1.50D Ax30°)。近見視力は、右0.4(0.9×遠見矯正下)、左0.4(0.8×遠見矯正下)右眼は、近視性乱視のためWavefront-guided LASIK、左眼は角膜形状検査から、角膜斜乱視(1.40D Ax124°:TOMEY TMS4)であるため光学部・角膜上皮を傷つけず、侵襲が少ないFemtosecond Laserを使用した乱視矯正角膜切開術にて過矯正にならないよう、オプティカルゾーンを広く・切開幅を狭くとり追加矯正手術施行。
     術後20ヶ月の視力は右0.8(1.2×+0.50D)、左0.6(1.2×-0.75D cyl-0.50D Ax30°)、両眼1.0であった。近方視力は右0.6(0.9×+0.75D)、左0.7(0.9×±0.00D cyl-0.75D Ax30°)、両眼0.9であった。左眼の角膜乱視は0.67Dに減弱していた。
    【結論】白内障術後、特に多焦点眼内レンズ挿入眼において屈折異常が残余し良好な裸眼視力が得られなかった場合にはLASIKによる追加矯正は有効である。単性乱視の追加矯正としてFemtosecond Laserを使用して乱視矯正角膜切開術を行う場合は、矯正精度をより高くすることが今後の課題である。
  • ―1年次と4年次のエゴグラムの比較―
    難波 哲子, 小林 泰子, 山下 力, 田淵 昭雄
    2014 年 43 巻 p. 193-200
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】同一学生の1年次と4年次の自我状態の変化を検討する。
    【対象および方法】調査対象は平成20年度~平成22年度視能矯正専攻入学生のうち89名(女性83名、男性6名)、平均年齢は1年次が18.4歳、4年次が21.3歳であった。調査方法は、新版東大式エゴグラムⅡ®(TEG)を用いて、1年次は5月、4年次は実習終了後の7月に説明後同意の得られた学生に集団で行なった。
    【結果】TEGの各項目尺度別平均値は、1年次、4年次の順に、支配的親(CP)は10.1、9.9、養育的親(NP)は14.6、15.6、成人(A)は8.9、9.7、自由な子ども(FC)は12.7、12.8、順応した子ども(AC)は14.1、14.8であり、1年次に比べて4年次には「NP」が有意に高くなっていた(p<0.05)。1年次、4年次ともに「NP」と「AC」が高く、「CP」と「A」が相対的に低いN型を示した。基本的構え(OKグラム)では、1年次、4年次ともに自己否定・他者肯定型が多かった。TEGパターン分類で最も多いのは、1年次ではAC優位型が25名(28.1%)、4年次ではN型Ⅰが18名(20.2%)であった。
    【結論】視能矯正専攻における態度育成の教育では、1年次からもっている、医療職に必要とされる「NP」を高値に保ち続けると同時に、成人の「A」が高く機能するように育つよう教育的配慮の必要性が示唆された。
  • 宮後 宏美, 大野 明子, 澁谷 洋輔, 説田 雅子, 佐藤 友光子, 内田 亜梨紗, 西山 友貴, 倉田 あゆみ, 大野 京子
    2014 年 43 巻 p. 201-204
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【緒言】Möbius症候群は、両眼外転神経麻痺と部分的もしくは完全な顔面神経麻痺を有する先天性疾患である。両眼内直筋後転術を施行したため報告する。
    【症例】4ヶ月、男児。小児科でMöbius症候群を疑われ、生後4ヶ月に眼科精査目的のため紹介受診。初診時所見は、内斜視、外ひきの不良、睫毛内反、顔貌異常が見られた。MRIにて、顔面神経核は欠損しており、外直筋は内直筋より菲薄していた。これらの所見より、Möbius症候群と診断。生後6ヶ月には固視に優位が生じ、眼振が出現。生後7ヶ月で両眼内直筋後転術を施行した。術後は内斜視角が軽減し、眼振は消失した。
    【考按】完全外転神経麻痺のMöbius症候群では、固視眼に優位差が生じた時点での斜視手術が、非固視眼の弱視予防として有用な可能性がある。
  • 佐々木 翔, 林 孝雄, 金子 博行, 中川 真紀, 臼井 千惠
    2014 年 43 巻 p. 205-211
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】手術室で使用可能な回旋偏位測定装置(以下、本装置)を試作した。本装置の使用経験を、若干の知見と共に報告する。
    【対象・方法】1.健常者20名、回旋斜視患者20名を対象に、大型弱視鏡および本装置による座位および仰臥位での回旋偏位をそれぞれ測定し、両者を比較した。
    2.回旋複視を自覚する両眼上斜筋麻痺患者1名(以下、本症例)を対象に、本装置を用いて術前、術中、術後にそれぞれ回旋偏位を測定し、大型弱視鏡による検査結果と比較した。
    【結果】1.健常者20名の結果(平均値±標準偏差)は、大型弱視鏡でEx0.1°±0.3°、本装置の座位でEx0.1°±0.2°、仰臥位でEx0.1°±0.2°であった。回旋斜視患者20名では、大型弱視鏡でEx7.9°±4.6°、本装置の座位でEx8.1°±4.8°、仰臥位でEx8.3°±4.9°であった。健常者群、回旋斜視群共に各検査間での統計学的有意差は認めなかった。
    2.本症例の回旋偏位は、術前は大型弱視鏡でEx18°、本装置座位でEx19°、仰臥位でEx19°であった。手術は、残余回旋偏位を本装置の仰臥位で測定しながら行い、Ex6°となった時点で終了した。術後10日目の回旋偏位は大型弱視鏡でEx7°、本装置座位でEx7°、仰臥位でEx7°であり、日常視下での回旋複視は消失した。
    【結論】本装置の測定値は、座位、仰臥位で差がなく、定量性は大型弱視鏡と同等であった。術中に正確な回旋偏位の測定を行うことは、残余斜視による複視の残存を防ぎ、手術回数を最小限にとどめるために有用であると思われた。
    図の解説 Fullsize Image
    本装置は1対の小桿群を固定した10cm×26cmのアクリル板である。測定原理はMaddox double rod testと同様であるが、様々な体位での使用や、術中の清潔状態を維持したまま検査ができるように工夫した。使い方は、本装置の赤フィルターの側が固視眼の前に来るように被検者の眼前に保持し、50cm先の点光源を観察させ、見え方を問う。赤と緑の2本の線状光が観察され、互いに平行であった場合、回旋偏位はない。2本の線状光が平行でない場合は非固視眼の側の小桿群を回転させていき、見え方が平行となったときの角度を回旋偏位として定量する。
  • 外山 恵里, 関 ゆかり, 高橋 里佳, 梅原 郁美, 若山 曉美, 七部 史, 阿部 考助, 下村 嘉一
    2014 年 43 巻 p. 213-218
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】アトロピン硫酸塩点眼薬(以下アトロピン)による屈折検査は弱視や斜視の治療に不可欠な検査であるが、副作用の発現が報告され注意が必要である。今回アトロピンによる副作用の発現率と症状について検討した。
    【対象及び方法】対象は2008年4月から2011年3月の3年間に屈折検査のためアトロピンを点眼した387例とした。初めて点眼した症例は387例中326例(84.2%)、2回目以上の症例は61例(15.8%)であった。点眼薬の濃度は3歳未満が0.5%、3歳以上は1%を基準とし、1日2回7日間行った。処方時に点眼による作用と副作用、点眼時の涙嚢部圧迫の必要性を説明した。副作用については発現率、発現時期、症状、濃度や年齢、他の疾患の合併の影響について検討した。
    【結果】初めて点眼した症例の副作用の発現は18例(5.5%)、このうち7例が点眼を中止した。症状は発熱が最も多く、点眼開始4日以内の発現が多かった。発熱や顔面紅潮は7月と8月の発現が他の期間より有意に高かった。副作用が発現した症例に他の疾患の合併はなかった。濃度別の副作用の発現は、0.5%は212例中12例(5.7%)、1%は114例中6例(5.3%)で有意な差はなかった(p>0.05)。年齢、性別による副作用の発現も有意な差はなかった(p>0.05)。2回目以上の症例の副作用の発現は61例中1例(1.6%)であった。
    【結論】アトロピンによる副作用の発現率は5.5%で、症状は発熱が多く、点眼薬の濃度、年齢、性別による影響はなかった。
  • 南 稔浩, 戸成 匡宏, 中村 桂子, 濵村 美恵子, 稲泉 令巳子, 清水 みはる, 筒井 亜由美, 阿部 史絵, 真野 清佳, 松清 加 ...
    2014 年 43 巻 p. 219-226
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】日本の視覚障害認定基準は、以前からさまざまな問題が指摘されている。そこで今回、米国American Medical Associationが推奨しているFunctional Vision Score(以下 FVS)と比較し評価の妥当性を検討した。
    【対象及び方法】対象は、2012年11月~2013年5月に大阪医科大学附属病院 眼科を受診し、日本の認定基準を満たし検査可能だった150例、年齢は23歳~93歳で平均67.7±11.3歳。方法は、片眼及び両眼開放視力、Goldmann視野(Ⅲ/4eを含む)を測定し、日本の視覚障害等級とFVSを比較した。
    【結果】日本の視覚障害等級に区分された症例の各FVS値の中央値は、1級4.0、2級16.7、3級38.9、4級26.0、5級50.7、6級58.2で、3級と4級で逆転が見られた。また、日本で5級の症例がFVSでは最重度の障害に判定される例があった。日本の基準とFVSの間には、視力に関して高い相関がみられたが、視野では視力に比べて低い相関となった。
     日本の認定基準について両眼視力の和ではなく、両眼開放視力を用いて判定すると、18.6%の症例で等級が重くなる結果となった。
    【結論】日本の判定基準は、視野、特に求心性視野狭窄の判定方法に問題があると考えられた。
     また、視力を両眼の和で評価するために、実際には重度の視機能障害があっても軽く判定されることも問題であると思われた。
  • 森川 桃子, 小島 隆司, 磯谷 尚輝, 井藤 麻由香, 村田 あずさ, 片岡 嵩博, 玉置 明野, 吉田 陽子, 中村 友昭
    2014 年 43 巻 p. 227-232
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】円錐角膜の進行抑制治療として角膜クロスリンキング(以下:CXL)を施行した症例の角膜形状変化について検討する。
    【対象及び方法】名古屋アイクリニックにて円錐角膜の進行が認められCXLを施行して術後1年以上経過した症例9名11眼(男性5名6眼、女性4名5眼)。平均年齢21.9±6.5歳(15~34歳)を対象とした。
     角膜形状はTMS-4 Advance(TOMEY社)を用い、平均角膜屈折力、角膜乱視、Surface Asymmetry Index、Surface Regularity Index、フーリエ解析による非対称成分、高次不正乱視成分、またOrbscanⅡz(ボシュロム社)を用い角膜前後面Best Fit Sphere(以下:BFS)を術前、術後で比較検討した。統計解析は、術前と術後1年での結果をpaired t testを用い有意水準を5%未満とし行った。
    【結果】術前と比較し、術後1年では、平均角膜屈折力の有意な低下(p=0.005)、フーリエ解析による高次不正乱視成分の有意な低下(p=0.028)および、角膜前面BFSの有意なフラット化を認めた(p=0.003)。
    【結論】CXLは円錐角膜の進行予防だけでなく、平均角膜屈折力の低下、フーリエ解析による高次不正乱視の低下など角膜形状の変化を伴う治療法であることが示唆された。
  • 馬込 和功, 副島 由美, 山田 敏夫, 矢部 伸幸, 松井 孝明
    2014 年 43 巻 p. 233-239
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】角膜前面乱視、角膜後面乱視の関係について検討を行った。
    【対象および方法】2012年7月から2013年7月までに大島眼科病院において、白内障術前検査時にオートケラトメータの角膜乱視が1.00D以上あり、角膜疾患や眼手術歴を有さない204例291眼(男性144眼、女性147眼)を対象とした。平均年齢67.5±13.9歳であった。角膜乱視の測定は、角膜形状解析装置(TMS-5)を用いて、角膜前面、後面の解析を行った。
    【結果】角膜乱視量の平均は、前面乱視2.08±0.81D、後面乱視0.30±0.10Dであった。角膜前面乱視では加齢に伴い直乱視が減少し、倒乱視が増加した。角膜後面乱視については73.2%が倒乱視であり、どの年齢層でも倒乱視が大部分を占めたが、高齢の年齢層では直乱視、斜乱視の割合が増加した。角膜前面直乱視軸群は全症例が後面倒乱視であったが、前面倒乱視軸群では、後面倒乱視が47.1%であり角膜後面乱視軸の分布が異なっていた。また、角膜前面直乱視軸群は前面乱視量と後面乱視量に有意な相関を認めたが(r=0.673、p<0.01)、角膜前面倒乱視軸群では、前面乱視量と後面乱視量に相関を認めなかった。
    【結論】角膜前面乱視の種類により、角膜後面乱視の特徴が異なるため、角膜形状解析装置や前眼部OCTを用いて後面乱視を十分に検討し、トーリック眼内レンズのモデルを検討する必要性が示唆された。
  • 橋爪 良太, 玉置 明野, 小島 隆司, 長谷川 亜里, 市川 一夫
    2014 年 43 巻 p. 241-247
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】測定原理の異なる2つの角膜形状解析装置による各種測定値の比較。
    【対象と方法】対象は、明らかな角膜疾患の無い白内障手術例120眼である。角膜前面をプラチドリング、断面画像をシャインプルークで取得するTMS-5(TOMEY)と前眼部OCTの断層画像から角膜前後面の形状解析を行うCASIA(TOMEY)を用い、Keratometric(前面曲率半径と換算屈折率により近軸計算される値)、Posterior(後面のAxial power map)、Real(前後面のtotal power map)それぞれの屈折力と乱視量、高次不正乱視成分、中心角膜厚を比較した。統計解析にはwilcoxon符号順位和検定及びBland-Altman Plotを用いた。
    【結果】2機種の差の平均±標準偏差は、Keratometricが0.06±0.20D、Posteriorは0.02±0.06D、Realは0.03±0.21D、KeratometricとRealの乱視量は0.07±0.34D、0.03±0.36D、高次不正乱視成分は0.01±0.06、中心角膜厚は3.97±8.68μmであった。各測定値は、Realを除き統計学的有意差を認めたが、Bland-Altman Plotでは何れの項目においても加算誤差、比例誤差は認めなかった。
    【結論】正常角膜でのTMS-5とCASIAで乱視量には差が出る症例もあり注意が必要であるが、平均値の差は、臨床上問題ない程度と考えられた。
  • 金永 圭祐, 岡 真由美, 星原 徳子, 橋本 真代, 森 壽子, 河原 正明
    2014 年 43 巻 p. 249-255
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】注意欠陥多動性障害(以下、ADHD)児は眼球運動異常を伴うことが報告されている。今回我々はADHD児において文字間隔と行数が読みの眼球運動に与える影響について検討した。
    【対象および方法】対象はADHD児5例(平均年齢6.4 ± 0.5歳)(以下、ADHD群)とした。このうち間欠性外斜視が2例であった。対照は正位または斜位5例を対照群(6.4 ± 0.5歳)、間欠性外斜視5例(7.0 ± 0.6歳)を斜視群とした。読みの眼球運動発達検査はDevelopmental Eye Movement test(DEM)を用いた。DEMはテストA、テストBおよびテストC で構成されている。テストA、Bでは数字が縦(2行)に等間隔に、テストCでは横(16行)に不等間隔に配列されている。DEM測定中の眼球運動の記録にはEye Mark Recorder-9®を用いた。分析はテストCの1行あたりの読み時間、文字間の視角別(<2º、 2º≤ <4º、 4º≤ <6º、 6º≤ <10º、≥10º)の衝動性眼球運動(saccade)回数、saccade速度、停留時間とした。
    【結果】DEM比率の平均はADHD群が1.90±0.3、対照群が1.47±0.1、斜視群が1.40±0.2であった。ADHD群は対照群に比べ1行あたりの読み時間が3、4、5、6、7、13行目で延長した。saccade回数は文字間の視角が4º未満の場合、両群に差はなかった。しかし文字間の視角が4º以上ではADHD群のsaccade回数が有意に増加した。両群のsaccade速度および停留時間に差はなかった。
    【結論】ADHD児は文字間隔と行数が読みの眼球運動に影響していた。ADHD児には眼球運動の側面から視覚教材の文字配列を工夫し、学習障害の早期発見と予防を行う必要がある。
  • 常盤 純子, 石川 奈津美, 山本 莉奈, 竹下 孝之, 中澤 徹
    2014 年 43 巻 p. 257-262
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
     調節痙攣は毛様体筋の不随意的な持続的収縮により過剰な近視を呈する病態であり、その多くは心因性である。調節は通常両眼対称性に生じる反応であることから、心因性の調節痙攣も一般的には両眼性で生じ、片眼性での報告は希である。今回我々は、片眼性の調節痙攣と心因性視覚障害が合併した特異な症例を経験したので報告する。
     症例は14歳女性。左眼の視力低下を自覚し近医を受診、他覚的にあきらかな異常が認められなかったため精査目的で当院を紹介され受診した。左眼は通常の視力検査では視力が出ず、トリック法を用いると良好な矯正視力が得られた。また視野検査では求心性視野狭窄を認めた。細隙灯検査や眼底検査などの他覚的検査で異常は見られなかったことなどから、心因性視覚障害と診断された。また、右眼に比べ左眼のみ過度の近視化が認められたが、調節麻痺下では屈折値に左右差はなく、眼軸長も左右差がなかったことから、左眼の片眼性調節痙攣が疑われた。
     その後、経過観察中に矯正視力の変動を繰り返し、トリック法を用いても良好な視力が得られなくなり、自覚的視力は無光覚まで低下するようになった。それと同時期に輻輳痙攣も見られるようになった。
     調節痙攣に対する治療として、累進屈折力レンズや調節麻痺剤の点眼を使用したが、十分な改善は得られず、輻輳痙攣が若干軽減した程度であった。片眼性の調節痙攣と心因性視覚障害という特異な所見を呈し、各種治療にも抵抗性であったが、その後の生活環境の変化で心理的ストレスが軽減された様子があり、発症1年後には自覚症状は改善し、調節痙攣などの所見は自然消失した。
投稿論文
  • 中川 浩明, 石子 智士, 菅原 一博, 間瀬 智子, 吉田 晃敏
    2014 年 43 巻 p. 263-268
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【緒言】エミリーA09®(プラスオプティクス社。以下エミリー)は、従来のフォトレフラクタ装置と同様に、被験者から離れて検査が可能な装置であり、従来の装置よりも測定範囲や測定時間などが改善されている。今回我々は、エミリーを含めた3種類の他覚的自動屈折検査装置の特徴を検討した。
    【対象と方法】矯正視力1.0以上を有する10名20眼(男性10眼、女性10眼)、22~63歳を対象とした。据置型オートレフラクトメータ:TONOREF Ⅱ®(NIDEK社。以下トノレフ)、手持ち型オートレフラクトメータ:レチノマックスK-プラス3®(ライトン社。以下レチノマックス)およびエミリーを用いて明所下で他覚的屈折度数を測定し、自覚的屈折度数と比較検討を行った。
    【結果】全ての装置において他覚的屈折度数は、自覚的屈折度数と有意な相関関係を認めた。トノレフとレチノマックスは、自覚度数と比べ他覚度数が有意に近視側に測定された。エミリーでは今回の対象全てにおいて有意差を認めなかったが、近視眼と遠視眼に分けて検討すると、それぞれにおいては自覚的屈折度数と有意差を認め、近視ではより近視側に、遠視ではより遠視側に測定された。また、エミリーを用いた検査では2名が測定不能であった。
    【考按】他覚的自動屈折検査装置を用いて得られた値の評価の際には、装置による特徴を念頭に置く必要があると思われた。
  • 渡邊 あゆみ, 坂下 智子, 石川 裕子, 戸塚 悦子, 戸塚 伸吉
    2014 年 43 巻 p. 269-276
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】当院では、DVDを用いたデジタル掲示をテレビ画面に放映(以下DVDプレゼンテーションと呼ぶ)し、診療案内や術後指導などに利用してきた。今回、新たに導入したデジタルフォトフレーム(以下DPF)による院内掲示方法の有用性について、その他の掲示方法と比較検討したので報告する。
    【対象と方法】3ヶ月以上継続して当院を受診している外来患者100名を対象として、DVDプレゼンテーション、DPFによるデジタル掲示、ポスター掲示板の3種類の掲示方法で見やすさの評価とその理由についてアンケート調査を実施した。また、デジタル掲示の製作方法の簡便性について検討した。
    【結果】ポスター掲示板については、DVDプレゼンテーションと比較して見ている患者の割合が低く、大きさの不揃いを指摘する意見があった。デジタル掲示の見やすさの比較では大きな違いが無かったが、設置位置や画面の大きさについては意見が分かれた。また、DPFの設置に気付かなかった患者が少なからずいた。
    【結論】デジタルサイネージは掲示板よりも見やすいと考えられる。見やすさの観点からは、DPFによる院内掲示は、DVDプレゼンテーションと比較して劣らない結果であった。一方、市販で入手可能なDPFの短所としては画面の小ささが挙げられ、その存在を宣伝する必要がある。しかし、DPFによる院内掲示は製作が容易なこと、設置位置の自由度が高いこと、導入も安価なことから有用な院内掲示方法になると考えた。
  • 西脇 友紀, 阿曽沼 早苗, 小野 峰子, 仲村 永江, 田中 恵津子
    2014 年 43 巻 p. 277-285
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】視能訓練士の拡大鏡選定状況に関するアンケート調査の結果を報告する。
    【対象及び方法】2013年5月、ロービジョン(LV)対応医療機関に勤務している視能訓練士(日本LV学会員)を対象に拡大鏡選定に関するアンケートを郵送で行った。
    【結果】86名の視能訓練士から回答を得た。回答者の82.6%は、月あたり平均拡大鏡選定数が3つ以下であった。拡大鏡選定時に必要拡大率の計算・算定をしている者は72.1%で、視力値から計算する方法が最も多く用いられていた。方法を学んだ場所・機会について視能訓練士養成校と回答した割合は低く、養成校修了後に習得したと思われる回答が多かった。その方法を用いている理由の多くは効率性や正確性などで、計算・算定方法により違いがみられた。計算・算定をしていない場合の理由は「患者に任せている」との回答が多かった。計算・算定していると回答した者はほぼ全員が拡大鏡使用法の指導もしていると回答していた。
    【結論】LV対応医療機関に勤務している視能訓練士の拡大鏡選定状況の概要がわかった。現状では全体的に拡大鏡の選定数は少なかったが、今後、LVケアの需要は高まり視能訓練士が拡大鏡選定に携わる機会が増えることが予想される。視能訓練士はLVケアの主たる担い手として、その中核となる拡大鏡選定を適切に行えるように技術を高める必要がある。
  • 塩釜 裕子, 宮本 正
    2014 年 43 巻 p. 287-295
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】色覚補正眼鏡の一種であるカラービューに対する有効性を検討すること。
    【対象と方法】カラービューを用いて以下の四項目について検討した。①石原色覚検査表の誤読数及び、パネルD-15の横断線が減少するか。②20色の色の名前を正しく答えられるようになるか。③日本眼科学会ホームページに記してある、先天赤緑色覚異常が見分けにくい色の組み合わせの各二色(8種類、合計16色)が見分けやすくなるか。④「先天色覚異常の方のための色の確認表」を用いて複数の色から色名を用いて特定の色を選択できるようになるか。これらは1型2色覚、1型3色覚、2型2色覚、2型3色覚、各1名、合計4名の色覚異常者の協力を得て行った。
    【結果】カラービューの使用によって結果は以下のようになった。①石原色覚検査表の誤読数とパネルD-15の横断線は減少した。②色名を正しく認識できるようにはならず、逆に色名がわかりにくくなる場合もあった。③検討した二色の多くが見分けやすくなった。④色名を用いて特定の色を選択することはできなかった。
    【結論】色覚補正眼鏡カラービューでは正常色覚者と全く同じ色の認識を得ることはできない。特に色の名称を正しく認識するのは不可能である。また、使用することによって逆に色を混同する場合もあった。だが、特定の二色間の識別に関しては有効であった。
  • 石田 篤行, 益子 直子, 箕輪 美紗斗, 湯田 兼次, 湯田 健太郎
    2014 年 43 巻 p. 297-303
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】Retinal Function Imager(RFI)は赤血球の動きを捉えることで、毛細血管レベルでの網膜血流を測定することが可能な装置である。RFIを用いて、健常者における網膜微小血管での循環状況について検討した。
    【対象および方法】対象は高血圧など全身疾患の既往がなく、眼科的疾患のない健常者68名68眼とした。方法はOptical Imaging社製RFI 3005を用いて黄斑部の血流を測定し、動脈・静脈に分けて解析を行った。
    【成績】黄斑部の血流速度は動脈3.15±1.08mm/sec、静脈2.47±0.80mm/secであった。平均血流速度は、動脈および静脈ともに男女差および年齢差はなかった。しかし、動脈のみ血流速度が加齢に伴い測定値がばらつく傾向が見られた(線形回帰分析、p<0.05)。
    【結論】RFIを用いた場合の健常者における網膜血流の基準値を設定することができた。動脈のみ、加齢に伴い測定値がばらついた要因として血管の狭細化、生理的な動脈硬化の影響が示唆される。
第53回日本視能矯正学会
一般講演
  • 中谷 勝己, 内山 仁志, 吉原 浩二, 魚里 博
    2014 年 43 巻 p. 305-310
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】乱視の矯正において円柱レンズ軸のずれが視力に及ぼす影響について検討した。
    【対象および方法】平均年齢19.8±2.2歳、矯正視力1.5以上を有する屈折異常以外に眼科的疾患のない22名22眼を対象とした。被験眼を模擬的に乱視の屈折異常にして検討するため、完全屈折矯正をした上で凸円柱レンズを付加した。その屈折状態は1.00 Dから3.00 Dまでの1.00 D刻み、軸は90°、135°、180°の近視性単乱視とした。矯正する円柱レンズ軸を5°~15°までの5°刻みでずらした時の視力を測定した。
    【結果】1.00 Dの直、倒、斜乱視では10°の軸のずれで有意に視力は低下した。2.00 D、3.00 Dの直、倒、斜乱視では5°の軸のずれで有意に視力は低下した。2.00 Dの直、倒乱視は15°のずれにより斜乱視と比べ有意に視力が低下した。3.00 Dの直、倒乱視は10°、15°のずれにより斜乱視と比べ有意に視力が低下した。
    【結論】2.00 D以上の直、倒乱視は斜乱視に比べて円柱レンズ軸のずれが10°以上になると視力は低下しやすいため、注意が必要である。
  • 梅原 瑞恵, 福嶋 紀子, 豊岡 真由美, 勝海 修, 堀 貞夫, 井上 賢治
    2014 年 43 巻 p. 311-317
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/03/19
    ジャーナル フリー
    【目的】片眼性先天性眼瞼下垂に対して実施しているテープ挙上の実態調査を行った。
    【対象及び方法】対象は、平成19年10月から平成24年6月までに、西葛西井上眼科こどもクリニックを受診した片眼性先天性眼瞼下垂の乳幼児18例(初診時年齢1~25ヶ月)である。ただし、顕性眼位異常、±2.0D以上の屈折異常及びS±1.0以上の左右の屈折の差のいずれかを有するものは除外した。テープ挙上が継続できた症例10例をA群、継続できなかった症例8例をB群とし、2群に分けて検討した。A群とB群間の、テープ挙上の開始月齢と視力差の比較を行った。また、A群においては、テープ挙上実施日数と時間及び継続期間について調査した。
    【結果】テープ挙上の平均開始月齢は、A群は6ヶ月、B群は14ヶ月であった。健眼と眼瞼下垂眼で視力差が見られた症例は、A群は3例、B群は4例であった。また、B群の2例においてはlogMARの視力差が0.60と0.67であった。A群のテープ挙上実施時間の実態調査では、終日挙上が最も多く、全体の40%を占めた。また、平均継続期間は22ヶ月であった。
    【結論】より月齢の低い患児はテープ拳上に順応しやすく、長期間続けられた症例が多かった。片眼性先天性眼瞼下垂では、下垂の程度が大きいと、乳幼児の視覚発達を妨げることがある。可能な限り早期にテープ拳上を開始することで弱視の予防に役立つと考えられる。
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