遺伝性腫瘍
Online ISSN : 2435-6808
24 巻, 1 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
原著
  • 簑輪 郁, 鈴木 裕太郎, 藤堂 幸治, 黒須 博之, 山田 竜太郎, 鶴田 智彦, 加藤 秀則, 箕浦 祐子, 佐々木 西里奈, 見延 進 ...
    原稿種別: 原著
    2024 年24 巻1 号 p. 53-60
    発行日: 2024/07/30
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

     子宮体癌(EC)患者においてLynch症候(LS)を診断するためのアルゴリズムは存在しない.ECを契機に診断したLS 12例の診断経緯・臨床的特徴を後方視的に検討した.子宮体下部癌に対する後方視的検討で3例,臨床的疑いから4例,EC全例対象の前方視的ユニバーサルスクリーニング(US)試験で,4例のLSを診断した.コンパニオン診断としてのマイクロサテライト不安定性検査をきっかけに1例LSを診断した.USから診断した症例には,家族歴・既往歴が明瞭ではない症例を認め,USを行わなければ診断に至らない可能性がある1)6).EC全例にUSを行うことで,取りこぼしを少なくLSを診断できると示唆された.USによりこれまで診断困難であったLS症例を蓄積し,最適な一次スクリーニング基準を確立することが目標となる.

  • 北川 大, 平井 星映, 河村 雪乃, 橋本 一樹, 谷山 智子, 下村 昭彦, 高野 梢, 荒川 玲子, 加藤 規弘, 本田 弥生, 清水 ...
    原稿種別: 原著
    2024 年24 巻1 号 p. 61-66
    発行日: 2024/07/30
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

     2020(令和2)年4月から遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療が保険収載され,通常診療でHBOCに関する情報提供の機会が増えたため,その情報提供実施率は重要である.今回,2020年4月~2022(令和4)年12月に当院の原発性乳癌手術症例で保険診療下の遺伝学的検査(GT)の対象となる188人に対するHBOCの情報提供の実態について検討した.情報提供実施率は62.2%で,年代が高くなるにつれ実施率は有意に低下した(p=0.0002).GTの該当項目では1項目の症例で約半数(49.6%)しか実施されておらず,情報提供未実施症例では40歳以上で有意に低かった.さらに,情報提供から遺伝カウンセリングへ進んだ症例は65%,そのうちGTを受けたのは96%であった.今回の結果より,当院では該当項目が1項目の症例への情報提供が不十分で,とくに40歳以上の症例でその実施率を高めることが重要な課題であることがわかった.

  • 村田 健, 椎野 翔, 渡瀬 智佳史, 田辺 記子, 渡辺 智子, 垣本 看子, 吉田 正行, 橋口 浩実, 小川 あゆみ, 松下 弘道, ...
    原稿種別: 原著
    2024 年24 巻1 号 p. 67-72
    発行日: 2024/07/30
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

     BRCA1/BRCA2病的バリアントを有する日本人乳癌既発症者45名を対側乳癌(CBC)発症群10名とCBC非発症群35名の2群に分け,CBC発症リスク因子の評価を目的に両群の臨床病理学的背景を比較した.初回乳癌手術後経過観察中央値は7.4年,初回乳癌術後からCBC発症までの中央値は8.1年.CBC発症群では初回乳癌発症時55歳以下の割合,化学療法未施行の割合,リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)未施行の割合が有意に高く,初発時閉経前の割合,内分泌療法未施行のER陽性乳癌の割合が高い傾向にあった.初回乳癌発症年齢や周術期薬物療法,RRSOの有無はBRCA病的バリアントを有する乳癌既発症者のCBC発症と関連する可能性が示唆された.一律的な対側リスク低減乳房切除術を推奨する代わりに,リスクに応じた予防策を症例毎に講じられるよう,さらなる症例集積によりCBCリスク評価法を確立することが重要と考えられる.

  • 平岡 恵美子, 惠美 純子, 網岡 愛, 利田 明日香, 北村 久美子, 阿部 明子, 石原 美紗子, 鈴木 可南子, 藤本 睦, 池尻 は ...
    原稿種別: 原著
    2024 年24 巻1 号 p. 73-79
    発行日: 2024/07/30
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

     Adolescent and young adult(AYA)世代はBRCA1/2遺伝学的検査(BRACAnalysis®)が保険適用となったが,AYA世代に関する研究は少ない.2020(令和2)年4月~2022(令和4)年12月のあいだに乳癌手術症例748例をAYA世代(39歳以下)と非AYA世代(40歳以上)で比較し,BRACAnalysis®出検率と陽性率,術式を統計学的手法で解析した.出検率はAYA世代で22/37例(59.5%),非AYA世代で203/711例(28.6%)(P<.001).術前症例でgBRCA1/2病的バリアント,病的意義不明のバリアント(VUS),陰性についてはAYA世代(11.1%,22.2%,66.7%),非AYA世代(4.7%,3.4%,91.9%)とAYA世代でVUSが多かった(P=0.010).術式はAYA世代で乳房全切除術と乳房再建術が多かった(P=0.003).

症例報告
  • 西村 真唯, 小池 和生, 小林 雄大, 西島 純一, 松本 沙知子, 中谷 真紀子, 中島 亜矢子, 福士 義将, 石黒 敦, 和田 真一 ...
    原稿種別: 症例報告
    2024 年24 巻1 号 p. 80-85
    発行日: 2024/07/30
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

     BRCA病的バリアント保持者は,リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)を行うことが推奨されている.従来の経腟的内視鏡手術(vNOTEs)は,スコープ挿入前にダグラス窩腹膜の播種や微量の腹水の有無を確認することができない.偶発的にダグラス窩に播種を認める可能性を考慮すると,従来のvNOTEsをそのままRRSOに適応することは危険である.また,腹腔内の詳細な観察も行うことができない.われわれは,BRCA1病的バリアント保持者の女性に対し,ハイブリッドvNOTEsとして,ダグラス窩から挿入した5mmポートからフレキシブルスコープを挿入し,臍部の12mmポートと下腹部正中に挿入した直径2.4mmのトロッカーレス細径鉗子を用いてRRSOを行った.われわれの提案するハイブリッドvNOTEsによるRRSOは術後疼痛の軽減や整容性に優れ,RRSOで必要とされる手術操作も十分行うことができる.

  • 三嶋 千恵子, 藤井 小真貴, 堀 亜実, 山下 加奈, 千原 陽子
    原稿種別: 症例報告
    2024 年24 巻1 号 p. 86-90
    発行日: 2024/07/30
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

     HBOC診療の一部が保険収載されて以降,乳癌診療の中で遺伝医療の機会が急増しており,当院におけるBRCA1/2病的バリアント(PV)陽性乳癌患者におけるリスク低減手術の現状について報告する.対象は当院で乳癌手術を施行したPV陽性の10例で,遺伝カウンセリングにおいてリスク低減手術について検討した.リスク低減乳房切除術(RRM),リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)の実施状況は,RRM+RRSO 4例,RRMのみ1例,RRSOのみ2例であった.RRMを希望した患者のうち1例は腹膜癌術後経過観察中,1例は乳癌骨転移化学療法中という背景であった.さまざまな背景をもつ乳癌患者の意思決定において,とくに原疾患がハイリスクの患者の場合,病状と手術侵襲を考慮し慎重に適応を決定する必要があるため,多職種による遺伝カウンセリングや各科連携の体制構築が重要であると考えられた.

  • 藤田 倫子, 井口 千景, 榎本 敬恵, 稲上 馨子, 箕畑 順也, 宮川 義仁, 柳沢 哲, 齋藤 智和, 野村 孝, 佐田 篤史, 春日 ...
    原稿種別: 症例報告
    2024 年24 巻1 号 p. 91-95
    発行日: 2024/07/30
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

     術後早期に多発性肝転移を認めたBRCA2に病的バリアントを有するホルモン受容体陽性乳癌に,一次治療としてオラパリブが長期間奏効した症例を経験したため報告する.32歳時に左乳癌cT4dN1M0,Stage ⅢB,Luminal B typeと診断した.術前化学療法後,手術を施行し,病理学的評価はpCRであった.術後7カ月,多発肝転移を認めた.BRCA2の病的バリアントが判明したため,一次治療でオラパリブを投与した.3年10カ月後,肝S5に1カ所のみ3cm大の肝転移を認め,肝腫瘍生検後,局所制御目的でラジオ波凝固療法を施行した.オラパリブを継続し,焼灼術後5カ月経過するが再燃は認めていない.無病期間が短く,肝転移再発を伴う予後不良な症例であっても,BRCA病的バリアントを有する乳癌患者であれば早期にオラパリブを投与することで長期予後を期待できる可能性がある.

  • 多久和 晴子, 佐々木 聖子, 小川 昌宣, 竹内 恵
    原稿種別: 症例報告
    2024 年24 巻1 号 p. 96-101
    発行日: 2024/07/30
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

     オラパリブが保険収載され,乳癌・卵巣癌既発症者に対しても検査の適応拡大がなされたことから,検査を希望する患者背景や目的が多様となった.病的バリアントを有する患者の未発症家系員からの検査希望も増えてきている.BRCA1/2病的バリアントを有する家系員のうち,未発症成人3例と,乳癌既発症家系員の1例がBRCA1/2遺伝学的検査を目的としたシングルサイト検査を施行した.シングルサイト検査の問題点としては,保険未収載,コンパニオン診断とならないため,オラパリブ適応を検討する場合には再度検査を受け直す必要がある,サーベイランス法の確立されていないがん腫が存在することなどがあげられた.病的バリアントを有する患者の未発症家系員へのシングルサイト検査は,今後増えていくことが予想される.今後も,適切な診療体制を含めた,未発症キャリアをサポートする体制の拡充が必要と考えられる.

  • 鎌田 奈都子, 宇田 智浩, 三田 村卓, 岩木 宏之, 五十嵐 冬華, 柴田 有花, 佐々木 佑菜, 向中野 実央, 櫻井 愛美, 千葉 ...
    原稿種別: 症例報告
    2024 年24 巻1 号 p. 102-106
    発行日: 2024/07/30
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

     Li-Fraumeni症候群(LFS)の表現型として,皮膚外悪性黒色腫はまれである.今回われわれは,24歳で卵巣悪性黒色腫を発症した女性患者の家族歴からLFSを推測し,遺伝学的検査の実施による診断の確定に繋げた.患者は便秘を主訴に受診し,母親に15歳時の乳癌治療歴があった.CT検査で骨盤内に130mm大の嚢胞性腫瘍を認めたため両側卵管卵巣摘出術を施行したところ,成熟奇形腫の上皮成分に由来する悪性黒色腫と診断された.治療薬の探索目的で腫瘍組織を用いて実施したがんゲノムプロファイリングでTP53ミスセンスバリアントc.476C>T(p.Ala159Val)を認め,病的バリアントと判断されたため血液検体によるシングルサイト確認検査を行ったところ,本人,母親,3人の同胞中1人がLFSと診断された.本患者は既存のTP53検査推奨基準を満たしておらず,LFS非コア腫瘍患者の診断困難性を感じたため,情報を共有するために症例報告を行う.

  • 上原 圭, 森川 真紀, 畠山 未来, 森田 真未, 佐原 知子, 山口 達郎, 山田 岳史
    原稿種別: 症例報告
    2024 年24 巻1 号 p. 107-110
    発行日: 2024/07/30
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

     症例は64歳の女性.母親と次兄が大腸癌,母方伯父が胃癌に罹患している.限局性腹膜播種を伴う虫垂癌(pT 4aN0M1c)に対して回盲部切除術を行い,術後補助化学療法を施行した.術後1年半の検査で卵巣転移が疑われたため,両側付属器切除を行い,虫垂癌の卵巣転移および腹膜播種と診断された.薬物療法開始とともに,包括的がんゲノムプロファイリング検査を行ったところ,TMB-Highでpembrolizumabの投与が可能となったが,同時にMSH6およびBRCA2遺伝子に病的バリアントを認めた.遺伝学的検査にてMSH6およびBRCA2遺伝子ともに生殖細胞系列の病的バリアントであることが確認され,Lynch症候群および遺伝性乳癌卵巣癌と診断された.

     包括的がんゲノムプロファイリング検査の普及に伴い,二次的所見から遺伝性疾患が発見される事例はますます増加すると思われるが,2つの遺伝性疾患が同時に見つかるdual genetic diagnosisの報告はいまだ少ない.

臨床経験
  • 椎野 翔, 田辺 記子, 渡辺 智子, 垣本 看子, 吉田 正行, 渡瀬 智佳史, 村田 健, 吉田 輝彦, 松下 弘道, 首藤 昭彦, 高 ...
    原稿種別: 臨床経験
    2024 年24 巻1 号 p. 111-117
    発行日: 2024/07/30
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

     遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診断目的のBRCA1/2遺伝学的検査が2020(令和2)年度より保険収載となったことを背景に,当施設ではHBOCに特化した専門外来(通称HBOC外来)を同年4月より開設した.同外来では,乳腺外科医師,乳がん看護認定看護師,認定遺伝カウンセラー同席の下,家族歴聴取とBRCA1/2遺伝学的検査の説明を行い,同検査実施前の意思決定支援を行っている.2020年5月〜2021(令和3)年12月までにHBOC外来を受診しBRACAnalysis®を受けたのは166例であり,20例(12.0%)にBRCA1/2病的バリアントを認めた.一方で,各種課題が浮き彫りになり,かつ医療者の業務上の負担を軽減するための効率よいシステム構築が必要と考えられた.当施設でのHBOC外来実績やBRCA1/2病的バリアント保持者の臨床学的傾向を振り返るとともに,今後の課題・展望を報告する.

  • 木村 香里, 綿貫 瑠璃奈, 平岡 弓枝, 友澤 周子, 四十谷 美樹, 松川 愛未, 原野 謙一, 田部 宏, 桑田 健, 大西 達也
    原稿種別: 臨床経験
    2024 年24 巻1 号 p. 118-122
    発行日: 2024/07/30
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

     当院では,遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診断目的でのBRCA1/2遺伝学的検査は各診療科で実施し,病的バリアントが認められた場合には主治医より遺伝子診療部門に紹介,遺伝カウンセリング(GC)を行っている.近年,HBOC診療の重要性が増しており,HBOC診療の質を担保するためにも検査数,GC受診,リスク低減手術の実施状況などを診療科横断的に把握・管理できる体制が必要と考え,当該診療科が連携しHBOCデータベース(DB)を構築した.これにより,GC対象患者の拾い上げや,認定遺伝カウンセラーから主治医へのGC受診のリマインドが効果的に行えるようになり,各診療科と遺伝子診療部門との連携が深まり,HBOC診療の質向上に繋がった.また,DBの情報を通じて病的バリアント保持者へリスク低減手術の実施状況について最新の情報提供ができるようになった.診療科横断的なHBOCのDBの作成・運用は遺伝性腫瘍の診療支援の体系化に寄与する.

  • 白石 哲郎, 竹田 貴, 金子 奈穂美, 立石 真子, 田中 恒成, 田村 光, 白石 悟
    原稿種別: 臨床経験
    2024 年24 巻1 号 p. 123-126
    発行日: 2024/07/30
    公開日: 2024/07/30
    ジャーナル オープンアクセス

     本邦では2018(平成30)年以降,PARP阻害薬のコンパニオン診断や遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)の診断として,BRCA1/2遺伝学的検査が保険収載された.当院でも2020(令和2)年のHBOC診断の保険収載と新型コロナウイルス感染症の流行に合わせて,二次医療圏内での保険診療としての遺伝カウンセリングの完結を目指し,産婦人科内に遺伝担当外来を開設した.近隣医療機関と連携しながら紹介患者の受け入れを行い,2年間で31件のBRCA1/2遺伝学的検査を実施し,サーベイランスやリスク低減卵管卵巣摘出術に繋げることができた.一方で,持続可能な診療体制の構築には,院内の多職種協力や地域連携に関する課題も見出された.栃木県には県南に偏在する高次医療機関にアクセスし難い地域があるため,高まる遺伝学的検査のニーズに応えるべく,関連各科や地域との連携に基づく診療体制を各地域で確立することが重要と考えられる.

編集後記
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