遺伝性腫瘍
Online ISSN : 2435-6808
21 巻, 2 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
症例報告
  • 秋山 泰樹, 荒瀬 光一, 永田 淳, 井上 譲, 鳥越 貴行, 遠山 篤史, 富崎 一向, 石井 雅宏, 島尻 正平, 田中 久美子, 吉 ...
    原稿種別: 症例報告
    2021 年21 巻2 号 p. 36-40
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

     家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis;FAP)はAPC遺伝子の生殖細胞系列の病的バリアントを原因とし, 腸管外病変としてのデスモイド腫瘍はFAP患者の8〜20%に認める. 症例は28歳の女性で, 腹部手術歴はなし. 家族歴より精査を行い非密生型FAPと診断後, 16歳時より大腸ポリープに対し内視鏡的徹底摘除術や胃癌に対し内視鏡的粘膜下層剝離術を受けていた. 今回,腹部膨満を主訴として産業医科大学病院第一外科を受診した. 精査で多量の腹水, 骨盤左側壁に40mm大の多房性囊胞性腫瘤および左水腎症を認めた. 婦人科悪性腫瘍, デスモイド腫瘍, 腹膜癌などが疑われた. 審査腹腔鏡を施行したところ, 腫瘍が左尿管を巻き込んでおり,尿性腹水をきたしていた. 腹腔鏡下に腫瘤・左尿管合併切除, 尿管尿管新吻合を施行した. 腫瘤は病理組織学的検査でデスモイド腫瘍と診断された. FAPにデスモイド腫瘍が合併することは知られているが, 尿性腹水をきたした症例はきわめてまれであり, 文献的考察を加え報告する.

  • 阿左見 亜矢佳, 勝部 暢介, 赤間 孝典, 長塚 美樹, 岡野 舞子, 松嵜 正實, 片方 直人, 立花 和之進, 大竹 徹, 野水 整
    原稿種別: 症例報告
    2021 年21 巻2 号 p. 41-46
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

     近年BRCA1/2の生殖細胞系列の病的バリアントに起因する遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer; HBOC)に関心が高まってきている.BRCA遺伝子病的バリアント保持者には癌を発症する前のリスク低減卵巣卵管摘除(risk reducing salpingo-oophorectomy; RRSO)やリスク低減乳房切除術(risk reducing mastectomy; RRM)が勧められている.今回われわれは一卵性双生児の乳癌症例に対し,HBOCが疑われたため,術前に施行したBRCA遺伝学的検査が術式決定に有用であった症例を経験した.双生児姉が乳癌を発症し,続いて双生児妹が乳癌を発症した.姉の乳癌発症によって,妹の乳癌に対してHBOCが疑われた.妹のBRCA1遺伝子病的バリアント陽性を確認し,乳癌手術に加えて,対側RRMを施行した.HBOCの乳癌が疑われる症例では,乳癌の術式決定に遺伝学的検査が有用である.HBOCにおいては乳癌,卵巣癌発症リスクおよびリスク低減手術について,十分な情報提供がなされるべきであると考える.

臨床経験
  • 有澤 文夫, 樋口 徹, 林 祐二, 末國 久美子, 齊藤 毅
    原稿種別: 臨床経験
    2021 年21 巻2 号 p. 47-52
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

     2018年7月,BRCA病的バリアント保持者の進行再発乳癌患者の治療においてpoly adenosine diphosphate ribose polymerase(PARP)阻害薬であるオラパリブが薬事承認された.同時に,BRCA遺伝学的検査はオラパリブのコンパニオン診断の位置づけとなった.さいたま赤十字病院では,2018年6月〜2019年4月に38人のBRCA遺伝学的検査を行い,7名に病的バリアントを確認し,うち5名にオラパリブによる治療を行った.前治療のレジメン数にはよらず,全例に効果が得られた.5例中3例で1年以上治療効果が得られ継続中であるが,2例が半年でprogressive disease(PD)に転じ, ほかの治療への変更を余儀なくされた.副作用として,貧血を3例,消化器症状を1例に認めたがオラパリブの減量は必要なかった.副作用が制御可能で治療効果も期待できるため,治療を継続し得るHER2陰性進行再発乳癌患者には遺伝学的検査を選択肢として示すべきであると考える.また,効果が長く続かない患者が一定数存在し,オラパリブがPDとなった患者への次なる治療法の検討が必要である.

  • 田口 育, 森川 真紀, 加藤 彩, 林 孝子, 佐藤 康幸, 白石 和寛, 能澤 一樹, 杉山 圭司, 北川 智余恵, 服部 浩佳
    原稿種別: 臨床経験
    2021 年21 巻2 号 p. 53-57
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

     当院では2016年に遺伝カウンセリング外来を開設し,遺伝性乳がん卵巣がん(hereditary breast and ovarian cancer ; HBOC)の拾い上げを目的として, 乳がん手術患者全例を対象に認定遺伝カウンセラーによる家族歴聴取ならびにリスク評価を実施してきた.

     2016年11月〜2018年12月の間に306件の家族歴聴取を行い,National Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドラインの基準に少なくとも1項目が当てはまった94名に対して,リスク評価内容をフィードバックした.このうち, 2項目以上あるいはリスク評価ツール(Prevalence Table またはBRACAPRO)で高リスクとなった34名をHBOCフォローアップ推奨群として抽出し,再度遺伝カウンセリングの受診を案内したところ,3名が遺伝カウンセリングを受診した.

     家族歴聴取とりスク評価の取り組みが,関係するスタッフ間の遺伝性腫瘍に対する共通認識をもつ機会となり,各診療科が協力して継続的なフォローアップを行うHBOCマネジメントの体制整備につながった.

  • 野村 文夫, 稲田 麻里, 橋本 秀行, 渡邉 綾子, 齋藤 智子, 北橋 菜那, 山口 和也, 藤澤 武彦
    原稿種別: 臨床経験
    2021 年21 巻2 号 p. 58-63
    発行日: 2021/08/31
    公開日: 2021/09/01
    ジャーナル オープンアクセス

     ゲノム医療の時代となり,健診(検診)機関においても遺伝情報を適切かつ有効に活用する必要がある.千葉県と連携して多数の健診(検診)を担う公益財団法人ちば県民保健予防財団(以下,当施設)では,2015年10月に遺伝子診療科(遺伝カウンセリング外来)を開設し,遺伝性腫瘍とその家系を見出すことに取り組んでいる.当施設の乳がん検診受診者および消化管内視鏡検査受診者を対象としたがんの家族歴の問診票による調査,近隣の医療機関から紹介された症例の受け入れ等を通して,2020年9月末時点で遺伝学的検査により確認されたリンチ症候群5名,遺伝性乳がん卵巣がん症候群 (hereditary breast and ovarian cancer syndrome;HBOC)4名を見出している.多臓器にわたるがんのスクリーニングを効率よく実施できる健診機関の特性を活かし,当施設では未発症血縁者の遺伝学的リスクも評価したうえでのがんのサーベイランスを行っている.今後も遺伝カウンセリングを適切に実施しながら,検診受診者の遺伝学的リスクに応じた“個別化がん検診”を追求していきたいと考えている.

編集後記
feedback
Top