遺伝医療やゲノム医療の進歩に伴い遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer;HBOC)の診断機会が増加するなか,確定診断後の診療状況の把握を目的に国内の248の医療機関を対象にインターネットを利用したアンケート調査を行った.調査への同意を得られた131施設のうちBRCA1/2遺伝学的検査は127施設,サーベイランスは107施設で実施していた.サーベイランスの実施率には,対象者のBRCA1/2病的バリアント保持と関連がんの発症が影響していた.検診項目はマンモグラフィ,乳房超音波検査,経腟超音波検査,卵巣腫瘍マーカー測定が主流で,男性の乳癌検診や前立腺PSA(prostate specific antigen)測定,膵臓に対して行う検査は一部の実施にとどまった.遺伝カウンセリングは59施設において行われ,その多くが不定期実施であった.HBOCフォローアップにおける課題は,院内外の連携,対応する人材確保,患者の経済的支援と考えられた.
BRCA病的バリアントを有する女性は,乳房と卵巣の健康管理方法を選択する必要がある.リスク低減手術,化学予防などサーベイランスの選択肢には不確実性が伴い,意思決定は容易ではない.本研究では,International Patient Decision Aid Standards(IPDAS)Collaborationの開発プロセスに沿って,オタワ意思決定理論を基盤としたディシジョンエイドを作成した.開発過程では,先行研究と医療者からのニーズ把握のうえで試作版を作成し,27名の当事者による内容適切性の評価と6名の専門家による内容の洗練を行った.すべての研究参加者がディシジョンエイドは有用だと評価し,他の当事者に勧めたいと回答した者もいた.一方,リスク低減卵管卵巣摘出術後の症状や医療費に関してはさらなる情報の充実が求められた.ディシジョンエイドへの受容性は高く,当事者の評価に基づいて改良し,よりニーズに合致するディシジョンエイドを作成した.