遺伝性腫瘍
Online ISSN : 2435-6808
23 巻, 1 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
序文
特集
  • 平沢 晃
    原稿種別: 特集
    2023 年23 巻1 号 p. 2-5
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル オープンアクセス

     2020(令和2)年度の診療報酬改定では遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer:HBOC)診療の一部が保険収載され,卵巣癌発症者全例および乳癌既発症者の一部に対してBRCA1またはBRCA2(BRCA1/2)遺伝学的検査,BRCA1/2病的バリアント保持者に対するサーベイランスやリスク低減乳房切除術(risk-reducing salpingo-mastectomy: RRM),リスク低減卵管卵巣摘出術(risk-reducing salpingo-oophorectomy: RRSO)が保険償還の対象となった.しかしながら,HBOC血縁者や乳癌・卵巣癌未発症者のBRCA1/2病的バリアント保持者に対しては保険未収載であり,その解決が求められる.さらに今後は,多遺伝子パネル検査(Multi-gene panel testing: MGPT)の実地診療への導入が喫緊の課題となっている.

  • 吉田 玲子
    原稿種別: 特集
    2023 年23 巻1 号 p. 6-11
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル オープンアクセス

     本邦でも,PARP阻害薬の登場や乳癌と卵巣癌罹患者へのBRCA1/2遺伝医療の一部保険収載により,BRCA病的バリアント保持者に対する遺伝診療が増加している.一方,欧米では多遺伝子パネル検査が遺伝学的検査の主流となっており,幅広い遺伝性腫瘍症候群の診断と遺伝医療が開始されている.このような背景のなか,hereditary breast and ovarian cancer syndrome (HBOC)診療の次の一歩として,目的,対象,遺伝子,リスク管理,教育の5点の拡大について,欧米のエビデンスと共に,本邦でも目指すべきHBOC遺伝診療と課題について述べる.

  • 阿部 紘大, 北郷 実, 小林 佑介, 増田 健太, 関 朋子, 小坂 威雄, 小野 伊久美, 三須 久美子, 中村 康平, 内田 明花, ...
    原稿種別: 特集
    2023 年23 巻1 号 p. 12-16
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル オープンアクセス

     BRCA1病的バリアント保持者の1~3%およびBRCA2病的バリアント保持者の2~7%が生涯で膵癌を発症することが知られている.このような遺伝性膵癌家系や家族性膵癌家系を膵癌ハイリスク群としてリクルートし,磁気共鳴胆管膵管造影(Magnetic Resonance Cholangiopancreatography; MRCP)や超音波内視鏡検査(Endoscopic Ultrasound; EUS)でサーベイランスを行うことで,膵癌の早期発見率の向上および生命予後延長が示されてきた.そのため,『遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)診療ガイドライン 2021年版』1)では,家族歴が濃厚な膵癌家系やBRCA1/2を含む計10遺伝子の病的バリアント保持者に対する膵臓サーベイランスが推奨されている.当院では,2021年4月に産婦人科(婦人科,生殖班),一般・消化器外科(乳腺班,肝胆膵班),泌尿器科,臨床遺伝学センター,腫瘍センターの診療7部門によりHBOCセンターを設立し,同年10月より皮膚科と精神・神経科も参画し,現在9部門で運営している.膵臓サーベイランスは年に1〜2回のMRCPまたはEUSを行っており,そのサーベイランスのなかで発見される膵癌前癌病変の膵管内乳頭状粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm; IPMN)に着目し,環境因子・遺伝因子のリスクや相互作用を探索するだけでなく,IPMNが悪性化する前の早期発見や予防に取り組んでいる.2021年1月より乳癌や卵巣癌だけでなく膵癌に対しても生殖細胞系列BRCA1/2検査がpoly ADP-ribose polymerase(PARP)阻害薬のコンパニオン診断として保険適用となり,当院でも膵癌患者に検査が普及しつつあるが,適用はいまだに治癒切除不能膵癌に限定されており,HBOCの診断や膵癌サーベイランスに対しては保険未収載である.われわれはBRCA1/2検査や遺伝学的検査の普及に努めるとともに,遺伝カウンセリングも併用しながら膵癌ハイリスク家系全体でHBOCと同様に予防および早期発見につなげていく必要性が高いと考えている.

  • 高江 正道, 鈴木 直
    原稿種別: 特集
    2023 年23 巻1 号 p. 17-21
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル オープンアクセス

     遺伝性腫瘍患者で妊孕性が問題になるものの一つとして,遺伝性乳がん卵巣がん症候群(hereditary breast and ovarian cancer syndrome; HBOC)があげられる.本疾患は若年性乳がんの発症が特徴的であり,ともに時間的制約のある,がん治療と妊娠の双方を両立させようとするなかで,患者は大きな葛藤を生じる.がんを発症したHBOC患者に対して実施可能な妊孕性温存療法では,胚(受精卵)凍結,未受精卵子凍結,卵巣組織凍結が検討される.しかしながら,HBOC患者では卵巣予備能の低下に関する懸念があり,現在でもその議論は継続している最中である.現在,わが国では,これら妊孕性温存療法に関するエビデンスが報告されつつあるが,とくにHBOC患者においては,個々の患者の卵巣予備能を正確に評価し,最適な妊孕性温存療法を実施することが肝要である.

解説
  • 長塚 美樹, 松嵜 正實, 片方 直人, 勝部 暢介, 野水 整
    原稿種別: 解説
    2023 年23 巻1 号 p. 22-26
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル オープンアクセス

     当院では1991年より「がんの遺伝外来」を開設し,約30年にわたり遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)をはじめとする遺伝性腫瘍疾患の遺伝学的検査と遺伝カウンセリングを実施してきた.2020年4月にHBOC診断目的のBRCA遺伝学的検査とリスク低減手術が保険適用となってから2年以上経過したが,BRCA遺伝学的検査はHBOC確定診断のみならず,乳癌やリスク低減手術の術式選択,再発乳癌や進行卵巣癌,前立腺癌,膵癌治療の薬物選択において不可欠になりつつある一方,現状は遺伝的側面に関し十分なサポートが難しい.当院は福島県郡山市にあり,周辺1診療所5病院と遺伝学的検査ならびに遺伝カウンセリングに関し連携システムを構築し対応している.保険適用後,当院では247家系258例の遺伝学的検査を施行し,うち病的バリアント保持者は24家系27名,他院からの紹介例は4例あった.地方で地域格差のない遺伝性腫瘍診療を行うためには,連携システムの運用のみならず乳癌診療にかかわる医療者への遺伝性腫瘍の啓発が必要と思われる.

症例報告
  • 原尾 美智子, 丸藤 琴音, 扇原 香澄, 佐々木 裕美子, 西田 紗季, 芝 聡美, 櫻木 雅子, 柳沢 佳子, 北山 丈二, 佐田 尚宏
    原稿種別: 症例報告
    2023 年23 巻1 号 p. 27-32
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル オープンアクセス

     BRCA1/2病的バリアントの部位と生じる病態については,いまだ不明な点も多い.今回,早期に脳転移をきたしたBRCA1病的バリアントの2症例を経験したので報告する.症例1は42歳,女性,両側乳癌に対し術前化学療法を行っていたがprogressive disease (PD)となったため手術を施行した.術後の検査でBRCA1 c.5558A>Gを認めた.術後1年で脳,肝,腎に転移が出現,全脳照射後に行われた薬物療法は効果なく,乳癌術後1年5カ月で死亡した.症例2は40歳,女性,左乳癌に対し術前化学療法後に手術を施行した.術前検査でBRCA1 c.5278-1G>Aを認め,術後11カ月で脳転移が出現し,開頭腫瘍摘出術,放射線照射を行うも乳癌術後1年3カ月で死亡した.現在,脳転移を含めた転移再発を早期に発見するためのサーベイランスは示されておらず,今後検討していく必要があると考える.

  • 服部 正見, 森 瞳美, 鬼塚 哲, 畑井 三四郎, 遠藤 翔, 森松 克哉, 安井 隆晴, 山中 直樹, 黒木 英男, 佐々木 暢彦, 横 ...
    原稿種別: 症例報告
    2023 年23 巻1 号 p. 33-37
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル オープンアクセス

     症例は70才,男性.弟がStageⅣ乳癌で,PARP阻害薬のコンパニオン診断を他院で施行され,BRCA2の病的バリアントを認めていた.患者は弟より自身がBRCA2病的バリアント保持者である告知を受けたが,遠方に在住のため遺伝カウンセリングを受けていなかった.3年後,右乳輪外側縁に皮下腫瘤を触知したためかかりつけの内科クリニックを受診した.問診で家族歴を問われなかったため患者も乳癌の家族歴を伝えず,経過観察となった.4カ月後,腫瘤が増大したため再度受診し.その際に弟が乳癌で遺伝子変異を認めていることを伝えたところ当科紹介受診となった.精査の結果は右乳癌の診断で,右乳房全切除術+センチネルリンパ節生検を行い,病理診断はinvasive ductal carcinoma pT2N1a(sn)M0 pStageⅡBであった.今回われわれは,BRCA2病的バリアントを有する男性乳癌の家族歴を伝えず診断が遅れた男性乳癌の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 山下 美智子, 坂川 太一, 新山 賢二, 田口 加奈, 亀井 義明, 藤本 悦子, 尾崎 依里奈, 江口 真理子
    原稿種別: 症例報告
    2023 年23 巻1 号 p. 38-43
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル オープンアクセス

     遺伝性乳癌卵巣癌症候群(hereditary breast and overian cancer syndrome;HBOC)の患者において乳頭温存乳房全切除術(nipple-sparing mastectomy;NSM)は標準的に実施されている.今回われわれは,NSM後の乳頭乳輪部に乳癌を生じたHBOCの1例を経験したため報告する.症例は49歳,女性.33歳時に左乳癌にてNSM+腋窩郭清を行い,切除断端は陰性であった.43歳時に右乳癌にて手術を施行した.49歳時に左乳頭直下に腫瘤を自覚され受診した.摘出生検にて左乳癌と診断した後, 左乳頭乳輪を含めた全切除術を施行した.術後に遺伝学的検査を施行し,BRCA2にc.9076C>T(p.Gln3026*)の病的バリアントを認めた.

     HBOC患者における治療的NSMの報告は少ないが,これまでに乳頭乳輪部の再発の報告はない.また,いずれの報告も観察期間が2~5年と短く,HBOCでは本症例のように術後長期間を経た後に乳癌を発症する可能性があり,長期的な症例の蓄積が必要と考えられる.

臨床経験
  • 内田 恵, 小林 貴代, 石川 泰
    原稿種別: 臨床経験
    2023 年23 巻1 号 p. 44-49
    発行日: 2023/06/30
    公開日: 2023/07/01
    ジャーナル オープンアクセス

     兵庫県立加古川医療センターでは,遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer syndrome;HBOC)が疑われる乳癌患者に対して2015年より遺伝カウンセリング(genetic counceling;GC)外来を設置し,HBOCプレカウンセリングを経てGC,遺伝学的検査(genetic test;GT)を実施している.今回,GTを希望しなかった患者が後の検査で病的バリアントを認めた経験から,私達はフォローアップの重要性を再認識した.そこで,GTを希望しなかった患者の背景とフォローの状況を調査し,プレカウンセリング後のフォローアップについて検討した.GTの意向を保留または拒否した患者は88%で,その理由は心理的負担,血縁者への影響,経済的負担の順に多かった.実際にフォローを行ったのは9名で,フォローのきっかけは事前の意向確認の約束と遺伝以外の相談であった.プレカウンセリング後のフォローアップは施設で方針や基準を定め,遺伝性腫瘍コーディネーター(Hereditary Tumor Coordinator;HTC)のような乳癌診療と遺伝医療との間をつなぐ人材が施設内外の連携の一助を担うことが有用であると考えられた.

編集後記
feedback
Top