遺伝性腫瘍
Online ISSN : 2435-6808
20 巻, 3 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
総説
解説
  • 中野 嘉子
    原稿種別: 解説
    2020 年 20 巻 3 号 p. 124-130
    発行日: 2020/12/30
    公開日: 2020/12/30
    ジャーナル オープンアクセス

    DICER1症候群は,乳幼児から若年成人を中心に様々な稀少がんを発症し得る遺伝性腫瘍である.2009年にDICER1の病的バリアントが家族性胸膜肺芽腫の原因であることが報告されて以来,卵巣性索間質性腫瘍,嚢胞性腎腫,子宮頸部の胎児型横紋筋肉腫などとの関連が報告されてきた.本稿では,DICER1症候群について,バリアントの特徴,関連する腫瘍を中心に,遺伝学的検査やサーベイランスの話題も含めて概説する.

原著
  • 井上 慎吾, 大森 征人, 木村 亜矢子, 高橋 ひふみ, 中山 裕子, 市川 大輔, 中込 さと子, 矢ケ崎 英晃, 中根 貴弥
    原稿種別: Original
    2020 年 20 巻 3 号 p. 131-135
    発行日: 2020/12/30
    公開日: 2020/12/30
    ジャーナル オープンアクセス

    山梨大学医学部第1外科では2012年から遺伝性乳癌卵巣癌症候群(hereditary breast and overien cancer syndrome;HBOC)の診療を開始した.発端者は乳腺外科でプレカウンセリングとして,HBOCの概略の説明を受け,希望すれば遺伝カウンセリング外来で遺伝学的検査までの説明を受けている.2012年から2015年までを前期,2016年から2018年までを後期とした.前期のプレカウンセリング対象者は,1.発端者を含め,血縁者内に乳癌罹患者が3名以上いる,2.発端者を含め,血縁者内に卵巣癌罹患者がいる,3.発端者を含め,血縁者内に複数の乳癌罹患者がおり,両側乳癌または40歳未満の乳癌である,4.前記の対象に合致しないが,HBOCの説明を希望するクライエントとした.後期ではプレカウンセリングの説明内容を以下のように変更した.1.BRCA1/2遺伝学的検査の費用が高額かどうかの判断は発端者の価値観に任せる.2.検査陽性の場合は,今後の健康管理への強い動機付けに役立つ.3.検査陰性の場合は,遺伝性乳癌のほぼ半分は否定できるとした.前期と後期のプレカウンセリング実施数は31名と14名で,BRCA検査実施率は6%から36%へと上昇した.プレカウンセリングの説明内容の変更が,BRCA検査実施率の上昇に有効であった可能性が示唆された.

  • 野村 秀高, 吉田 玲子, 喜多 瑞穂, 芦原 有美, 髙津 美月, 竹内 抄與子, 田中 佑治, 尾身 牧子, 根津 幸穂, 栗田 智子, ...
    原稿種別: 原著
    2020 年 20 巻 3 号 p. 136-141
    発行日: 2020/12/30
    公開日: 2020/12/30
    ジャーナル オープンアクセス

    遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer : HBOC)は,癌の易罹患性症候群である.HBOC関連卵巣癌に関して,最も確実に予後を改善する方法としてリスク低減卵管卵巣摘出術(risk reducing salpingooophorectomy : RRSO)が推奨されている.NCCNガイドラインVersion 1.2020では家族計画が終了していればBRCA1の病的バリアント保持者では35歳から40歳を目安に,BRCA2の病的バリアント保持者では40歳から45歳を目途にRRSOを行うことを推奨している.

    がん研有明病院(以下,当院)ではこれまでに78例のHBOC症例にRRSOを施行してきたが,3例(3.8%)のオカルト癌を経験した.3例の内訳は,2例がBRCA1病的バリアント保持者(73歳と44歳)で,1例がBRCA2 病的バリアント保持者(47歳)であった.いずれもNCCNガイドラインのRRSO施行推奨年齢を超えていた.3例とも手術の1か月前に骨盤MRI,腫瘍マーカーの測定を行っていたが,いずれも悪性所見を認めなかった.当院の経験においてもサーベイランスでの早期発見は困難であるということ,そしてNCCNガイドラインのRRSO施行推奨年齢は日本人においても妥当である可能性が示唆された.

  • 八田 尚人, 石井 貴之
    原稿種別: 原著
    2020 年 20 巻 3 号 p. 142-145
    発行日: 2020/12/30
    公開日: 2020/12/30
    ジャーナル オープンアクセス

    口唇・口腔粘膜および掌蹠の色素斑はPeutz-Jeghers症候群(Peutz-Jeghers syndrome;PJS)の鑑別のうえで重要である.51歳女性のPJSの典型例1例を報告し,皮膚症状に関してLaugier-Huntziker-Baran症候群(Laugier-HunzikerBaran syndrome;LHBS)およびMcCune-Albright症候群(McCune-Albright syndrome;MAS)との鑑別点を検討した.

    LHBSの色素斑は口唇・口腔粘膜・掌蹠に存在する点がPJSと共通しているが,爪や爪囲にもみられること,やや大型で淡いことなどが異なっている.ダーモスコピー所見はPJSもLHBSも皮丘優位のパターンを呈する.MASは口唇にも色素斑がみられることがあり,幼児期から出現する点がPJSと共通しているが,やや大型で数が少ない傾向がみられる.口唇・手掌の色素斑が主訴の場合は,皮膚症状の特徴が診断の一助となることが示唆された.

  • 阿部 彰子, 香川 智洋, 祖川 英至, 峯田 あゆか, 西村 正人
    原稿種別: 原著
    2020 年 20 巻 3 号 p. 146-150
    発行日: 2020/12/30
    公開日: 2020/12/30
    ジャーナル オープンアクセス

    妊孕性温存療法希望の早期子宮体癌および異型内膜増殖症症例にMPA療法を行うも不応や再燃症例も経験する.徳島大学産科婦人科で初回治療を行った若年子宮体癌および異型内膜増殖症21症例を対象にミスマッチ修復(mismatch repair;MMR)蛋白発現と,MPA療法の効果,再燃リスク,および予後との関連について検討した.MMR蛋白の発現欠失は7例で認め,MLH1欠失4例,PMS2欠失5例,MSH2欠失2例,MSH6欠失2例であった.リンパ節転移例と再発原病死例はいずれもMLH1欠失例であった.MPA療法施行13例中,MMR欠失を2例で認めたが,いずれもMPA奏効・無病生存例であった.初回治療後,異時性卵巣癌発症を2例に認め,このうちの1例はPeutz-Jeghers症候群であった.本検討では対象例が少なく,MMR蛋白発現とMPA療法の効果および再燃リスクとの間に有意な関連は確認できなかった.しかしMMR欠失を認めなくとも, 遺伝性疾患を背景にもつハイリスク症例もあり,家族歴を考慮した適切な医学的管理が必要であると考えられた.

臨床経験
  • 太田 裕之, 清水 智治, 三宅 亨, 植木 智之, 小島 正継, 河合 由紀, 園田 寛道, 赤堀 浩也, 北村 直美, 安 炳九, 全 ...
    原稿種別: 臨床経験
    2020 年 20 巻 3 号 p. 151-155
    発行日: 2020/12/30
    公開日: 2020/12/30
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】リンチ症候群のスクリーニング目的としてMSI(microsatellite instability)検査を施行した大腸癌症例の臨床的特徴を明らかにする.

    【方法】2011年1月から2019年3月までの期間に改訂ベセスダガイドラインを満たし,リンチ症候群の第2次スクリーニングの目的としてMSI検査を施行した大腸癌31例を対象とした.後方視的に臨床所見について検討した.

    【結果】31症例において改訂ベセスダガイドラインに合致する項目は「50歳未満で診断された大腸癌」症例が16例と最多で,「年齢に関わりなく,同時性あるいは異時性大腸癌あるいはその他のリンチ症候群関連腫瘍がある」症例が15例と続いた.MSI検査を施行した31症例のうちMSI-H(high-frequency MSI)であった症例は8例(陽性率 25.8%)で,23例はMSS(microsatellite stable)で陰性であった.

    【結語】リンチ症候群は濃厚な家族歴とともに多彩な関連腫瘍を合併することがあり,遺伝カウンセリングや診療科横断的な診療体制の構築が課題である.

  • 下川 亜矢, 元島 成信, 河村 京子, 牧村 美佳, 川上 浩介, 近藤 恵美, 轟木 秀一, 大藏 尚文
    原稿種別: 臨床経験
    2020 年 20 巻 3 号 p. 156-159
    発行日: 2020/12/30
    公開日: 2020/12/30
    ジャーナル オープンアクセス

    国立病院機構小倉医療センターでは,遺伝性乳がん卵巣がん(Hereditary Breast and Ovarian Cancer;HBOC)症候群を疑う症例に対してプレカウンセリングを行い,希望者に遺伝カウンセリングを実施している.しかし,HBOCを疑う症例を特定しても遺伝カウンセリングを受診しない症例が散見される.そこで,遺伝カウンセリングにつながる要因を明らかにすることを目的として,遺伝カウンセリング実施群と未実施群の背景を比較した.HBOCのハイリスク,影響する家系員の有無,原疾患については有意差を認めなかったが,手術前または術後補助化学療法中である者が有意に遺伝カウンセリングを受診していなかった.手術前または治療中の者は遺伝カウンセリングを受診するほどの時間的,経済的,精神的余裕がないと考えられる.治療の経過の中で,遺伝に関して対話を続けるなど継続的なかかわりが効果的だと考える.

  • 坪内 寛文, 茂木 一将, 坂田 純, 森 正彦, 福江 美咲, 高磯 伸枝, 細田 和貴, 井本 逸勢
    原稿種別: 臨床経験
    2020 年 20 巻 3 号 p. 160-167
    発行日: 2020/12/30
    公開日: 2020/12/30
    ジャーナル オープンアクセス

    遺伝性乳癌卵巣癌症候群(hereditary breast and ovarian cancer syndrome;HBOC)は,BRCA1/2病的バリアントに基づく乳癌及び卵巣癌の生涯罹患率が高いことが知られている.患者を適切に抽出し,遺伝カウンセリングと遺伝学的検査によりHBOCを診断することで,患者のみならず,その家系員に対するサーベイランスや予防介入が可能となる.BRCA1/2病的バリアント保持者に対して,唯一推奨度の高い卵巣癌予防策とされているのがリスク低減卵管卵巣摘出術(risk reducing bilateral salpingo-oophorectomy;RRSO)である.愛知県がんセンター(以下,当院)婦人科部では,2017年1月に当院の倫理審査委員会承認後,HBOCに対するRRSOを臨床研究「遺伝性乳癌卵巣癌症候群(BRCA病的バリアントを有する乳癌患者および未発症者)に対するリスク低減手術(予防的両側卵管卵巣切除手術)の検討」として原則腹腔鏡下にて実施してきた.当院でのこれまでのRRSOの経験及びRRSO未実施でフォローアップ中のHBOC症例の検討からの課題の分析を試みた.

症例報告
  • 佐々木 律子, 堀本 義哉, 仙波 遼子, 村上 郁, 新井 正美, 齊藤 光江
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 20 巻 3 号 p. 168-171
    発行日: 2020/12/30
    公開日: 2020/12/30
    ジャーナル オープンアクセス

    乳癌既発症の遺伝性乳癌卵巣癌症候群患者に対して施行される対側リスク低減乳房切除術は,BRCA関連乳癌の生物学的な特徴,二次癌発症への不安軽減という観点から,本人の希望に基づく予防的介入である.新規乳癌の発症を90%以上低減させ,近年では総死亡率の低下を示唆する結果が報告されている.治療の有効性や安全性が確認されたことから, 2020年には乳癌および卵巣癌既発症者の未発症部位に対する切除術が条件付きで公的医療保険の適応となった.また,BRCA1/2遺伝学的検査の保険収載に伴い,遺伝性乳癌卵巣癌症候群と診断される症例も増えることが想定される.一方,人口の超高齢化,薬物療法の進歩により本邦の高齢乳癌患者は増加の一途であることから,幅広い年齢層への対応が望まれている.このような背景を踏まえ,本稿では遺伝性乳癌卵巣癌症候群の片側乳癌既発症高齢者に対して対側リスク低減乳房切除術を施行した経験を報告する.

論文修正のお知らせ
編集後記
feedback
Top