日本重症心身障害学会誌
Online ISSN : 2433-7307
Print ISSN : 1343-1439
41 巻, 3 号
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第一報
巻頭言
  • 山田 美智子
    原稿種別: 巻頭言
    2016 年 41 巻 3 号 p. 345-346
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー
    今年の学会のテーマは「在宅支援のあり方 −支援方法と支援内容−」でした。重症心身障害児者(以下、重症児者)が施設から離れた場所、過疎地であってもどこで暮らしていても長年培ってきた医療、療育資産が行き渡るようにするにはどのような在宅支援をしたらいいかを考えるという、学会42 周年にふさわしいテーマでした。  重症児者の医療、療育の実践と医療の進歩により、重症児者の高齢化、重度化が進み、低年齢ほど医療的ケアを必要とする割合が高い現状があり、在宅支援について苦慮されている地域が多いと思います。三浦清邦先生の特別講演「重症心身障害児者支援と人材育成」では、社会全体の高齢化に伴う地域包括ケアシステムの構築や在宅医療の充実施策が進む中で、小児在宅医療体制充実に向けた動きが始まり、小児在宅医療が充実すれば、小児から高齢者まで一貫した支援が可能になると言う話があり、その実現が待たれます。また、医学生の重症児施設実習は、将来医師になったときに、何科になっても、重症児者を診察できる医師が増える可能性を秘めていて、人材育成になるとの話でした。著者も23年前から横浜市立大医学部1 年生の入所施設、通所施設3 日ずつの見学実習を開始し、医学生たちの多くは「重症児も私たちと同じ人間なのだ」という「気づき」を体感し、確かな手ごたえでした。重症児者支援のやりがいや重症児者そしてその支援者の魅力を伝え、重症児者(障害児者)支援が当たり前で、「共に生きる」ことができる社会、それが、今、必要とされています。  教育講演、中澤恵江先生の「重症心身障害を有する子どもとのコミュニケーションと環境について」では、子どもたちが表すかすかな表情や動きの変化を見逃さず、その意味を推測し、子どもたちの発信する力、高めようとする努力、あるいは子どもたちに分かりやすい語りかけやサインを用いて、かかわり手の意図することを伝えようとする努力、子どもたちの感受性を高める為に教材に工夫をこらし、関わる中で、反応がないと思われた子どもも、反応を表出するとの講演内容でした。著者も全く反応がないと思われた子どもが、教師の1 対1 の熱い関わりの中で自己表現を獲得出来た症例を経験しました。今回の講演内容は重症児の療育にとって大切な原点です。  講演を聞かれた方は、担当する重症児者が反応に乏しくとも、反応がないと諦めないで、微細な動きを観察し、生きる証である潜在能力に気づき自己表現を見つけてあげてください。自己表現方法を獲得した重症児者の変化する様子に、関わった担当者は共に歩む喜びを感ずることでしょう。  シンポジウム1、2「重症心身障害児の在宅支援のあり方 -支援方法、支援内容-」では、重症児者の在宅支援は1)通所支援(児童発達支援、生活介護、放課後等デイ、2)短期入所支援(医療、レスパイト入院)、3)訪問系支援(訪問診療/ 看護、訪問介護)があります。新潟(小西徹先生)では、身近な地域での支援を、1 次:臨床を担当する掛かり付け医院/病院、2 次:医療・療育・生活を担当する療育施設、3 次:高度医療・救急医療を担当する中核病院に分類し、実態調査に基づいた資源調査を行いながら体制整備をする。この方法はどの地域でも取り入れることが出来ると思われます。また、鳥取(汐田まどか先生)では、県、大学病院、地域との協働で在宅支援が行われ、地域連携の参考になります。また、超重症児の急激な増加に対しては、ショートステイで対応しているが、診療報酬上負担が大きく、これがショートステイを困難にしている理由の一つでした。北海道では(大田由美子先生、林時仲先生)遠隔過疎地では、巡回訪問指導、テレビ電話相談、医療機関の短期入所の医療型短期入所など工夫されているが、過疎地ではまだ、PT,OT等も不十分であり、地域の中で生涯にわたる支援体制を構築することが大きな課題です。さらに、札幌(土畠智幸先生)からは、増え続ける在宅人工呼吸器の地域支援について訪問診療を行う医師を育てることが課題として浮かびあがってきました。これらはどの地域でも同じ問題を抱えていて、対策が急がれます。  今回も緩和ケア、看取り、事前ケアプランなどの終末期についての演題が7 題報告され、最後まで重症児者と家族に寄り添い、一人の人間として尊厳を大切に思う気持ちが育まれてきていると感じました。この学会の大きな進歩を実感しました。また、看護研究の質の向上や発展のために、今年から第1 回看護研究応援セミナー 「大変だけどやってよかった!」意義ある看護研究にするために、が始まりした。今後に期待したいと思います。これからも、多職種が意見交換できる開かれた交流の場として、本学会が更に発展していくことを期待します。
原著
  • 岩崎 裕治, 堀江 久子, 木原 肖子, 齊木 博, 山本 雅章
    原稿種別: 原著
    2016 年 41 巻 3 号 p. 347-356
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー
    重症心身障害者(以下、重症者)の入居が可能で、医療的ケアを提供できるグループホーム(以下、GH)は少ない。そこで都内のGHの調査を行い課題を検討した。障害者向けGHを運営する407法人中回答数は357で、その内36法人に94名の重症心身障害を持つ入居者がいた。さらなる調査の結果、重症者の居住するGHの傾向としては、法人の施設保有率が高く、バリアフリー化など設備がより充実、補助金や加算の利用率が高い、職員数が比較的多いなどがわかった。GHの報酬はかなり低く、共同生活援助サービス費や加算など見直しが必要で、またGHをバックアップする診療所などに対しての報酬がないなどの課題がある。また重症者を受け入れるには人的配置の手厚さや専門職の配置が欠かせず、報酬増額、自治体等からの財政支援等が不可欠である。GHのニーズは十分にあるにもかかわらず施設数は増加しておらず、障害者総合支援法と名称を変えてもGH制度の枠組みは重症者が住まうに足るものとなっていないことがその要因だと考えられた。
  • 小沢 愉理, 野村 芳子, 雨宮 馨, 小沢 浩
    原稿種別: 原著
    2016 年 41 巻 3 号 p. 357-362
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児者(以下、重症児者)は、抗てんかん薬やカルニチン無添加の経腸栄養剤の使用、また筋肉量が少ないためカルニチンの貯蔵量が少なく、二次性の低カルニチン血症に陥りやすい。本研究では、カル ニチン無添加の経管栄養剤を使用している12例の二次性低カルニチン血症の重症児者に対してL-カルニチン少量投与(2mg/kg/ 日、4mg/kg/ 日)を行い、投与前、投与1、3 カ月後の遊離カルニチン値と生化学検査を比較検討した。これにより遊離カルニチン値は投与3 カ月後には全例正常値になり維持できたとの結果を得られた。今回の結果より、摂取不足による重症児者の二次性低カルニチン血症に対しては、L‐カルニチンは少量投与で十分であるが、ピボキシル基含有抗菌薬やバルプロ酸ナトリウム(以下、VPA)投与時の場合 はカルニチン欠乏に陥りやすく、適切な補充量、推奨量の検討と定期的な血中カルニチン値の測定が必要であることが示唆された。
  • 田中 千恵, 佐島 毅
    原稿種別: 原著
    2016 年 41 巻 3 号 p. 363-370
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))とその介護者の将来的な生活場所の希望を明らかにし、在宅生活を継続するために必要な支援について検討することを目的に、重症心身障害日中活動支援事業所一覧の事業所に登録・通所している全国の重症児(者)および介護者を対象として質問紙調査を実施した。調査した626名の結果では、主たる介護者は母親であり、年代は50代が最も多く、重症児(者)の年齢は平均28.2歳であった。約半数の介護者は将来的にも在宅で介護を継続したいと希望していた。また、四国地方居住、重症児(者)の年齢が低い場合や医療的ケアの必要性がある場合は、よりその傾向が示された。在宅介護継続のために短期入所、生活介護、居宅介護といったサービスが必要とされていた。具体的に、短期入所には事業所の増加、生活介護には休日の利用、居宅介護にはヘルパーによる医療的ケアの実施が望まれていた。また、重症児(者)に関わる職員の知識や技術の向上は、どのサービスに対しても期待されていることが示された。
  • 本林 光雄, 稲葉 雄二, 八木 芳雄, 金子 和可子, 小林 桂子, 関 ひろみ, 遠山 真智子, 木口 サチ, 石田 修一, 花村 真由
    原稿種別: 原著
    2016 年 41 巻 3 号 p. 371-377
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)(以下、重症児者)の栄養管理の向上を目的に、重症児者の栄養学的評価と小児用栄養製剤の安全性と有用性を検討した。経管栄養中の18歳未満の重症児者18名を対象とした。経腸栄養剤をアイソカル ジュニア®へ置換し、置換前および6カ月後に血液検査を行った。置換後6カ月からアイソカル ジュニア®をカルニチン添加製剤(アイソカル 1.0ジュニア®)へ変更し、1カ月後に血中遊離カルニチン値を測定した。置換前に基準値外の患者が多かった項目は、遊離カルニチン、亜鉛、銅であった。アイソカル ジュニア®へ置換後、BUNは有意に低下した。アイソカル 1.0ジュニア®へ置換後、遊離カルニチン値は有意に上昇した。置換に伴う有害事象は認めなかった。重症児者における微量栄養素の欠乏状況が明らかになった。アイソカル ジュニア®により窒素負荷が軽減される可能性が示唆された。アイソカル 1.0ジュニア®はカルニチンの補充に有用であった。
  • 古谷 幸子, 山崎 喜比古, 宍倉 啓子
    原稿種別: 原著
    2016 年 41 巻 3 号 p. 379-391
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、18歳以上の重症心身障害者の親に焦点を当て、在宅で介護している親が子の将来についてどのような期待や願望を持っているかを明らかにし、本人と介護者およびその家族への将来にわたる支援策についての示唆を得ること、そして親の生活の質(以下、QOL)の関連要因を明らかにすることを通して、親のQOLの底上げ・向上やその支援策に関する知見を得ることである。横浜市内の在宅重症心身障害者の親122名の質問紙調査による量的調査分析結果から以下の知見を得た。将来に対しては、単なる居場所の快適さではなく「人」に対する期待が高く、期待の中でも医療の担い手と医療施設への期待が高いことが示された。重症者の親のQOLについては、全体的に低い傾向にあったが、配偶者サポートをはじめとする周囲のサポートの手厚さがQOLを向上させる要因となっていることが明らかとなった。また、配偶者が存在しない場合は、居宅ヘルパーなどの社会的資源を活用するようになり、社会資源が対象者の支えとなっている実態が明らかとなった。
  • 中山 祐一, 新家 一輝, 髙島 遊子, 久保田 牧子, 中島 るり子, 山崎 あけみ
    原稿種別: 原著
    2016 年 41 巻 3 号 p. 393-401
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー
    本研究は特別支援学校卒業前後の重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))と養育者の体験を明らかにすることを目的として、特別支援学校卒業後から5年程度の重症児(者)の養育者15例に半構造化面接を行い、質的帰納的分析を行った。調査期間2015年2月~2015年11月。重症児(者)は19~24歳(男10名、女5名)、養育者は45~61歳(男1名、女13名、両親参加1組の計16名)、面接時間は平均103分であった。卒業前後の体験を表すカテゴリーを7つ抽出した。養育者は重症児(者)に【充実した人生を過ごして欲しいという思い】を抱き【養育者友達との支え合い】の中で養育し続けてきた。重症児(者)は支援学級や特別支援学校に就学し【充実した学校生活】を過ごしていた。卒業後は重症児(者)の体調・卒業後の行先・携わる人によって【重症児(者)の生活の相違】が生じ、社会資源の活用の程度によって【養育者の生活の相違】も見られた。現在、養育者は【子どもの将来を懸念】しながら【子離れに逡巡】し、将来について悩んでいた。
症例報告
  • 武田 尚子, 井上 洋子, 鵜飼 宏和, 栗林 健, 小林 孝司, 福島 教江
    原稿種別: 症例報告
    2016 年 41 巻 3 号 p. 403-409
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー
    当重症心身障害者入所施設では、国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health;以下、ICF)の視点から、入所している重症心身障害者の生活機能向上をめざすリハビリテーションを実践している。今回われわれは、2事例に行ったICFに基づくリハビリテーション介入の有用性について、ICFの各構成要素の相互作用に着目して後方視的に検証した。検証にはICFの構成要素間の相互作用の図1)をもとに作成したICFシートを用いた。その結果、2事例ともに構成要素間の相互作用による生活機能の向上が認められ、ICFに基づくリハビリテーションの有用性が確認できた。また、チームアプローチを視野に入れたシートの活用方法を検討し、相互作用の視覚化が職種間の共通理解を得る一手法となる可能性を確認した。さらに、ICFシートがリハビリテーション介入の方向を事前に示す上で有用であるとの示唆も得た。
  • 多田 益巳, 村木 起代乃, 青嶋 高志, 遠藤 雄策, 鈴木 輝彦, 平野 浩一, 村山 恵子, 白井 眞美
    原稿種別: 症例報告
    2016 年 41 巻 3 号 p. 411-416
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー
    誤嚥性肺炎を繰り返した重症心身障害児に対して肺内パーカッションベンチレーター(以下、IPV)と理学療法を継続的に実施した。IPV導入や姿勢管理を実施したことで、誤嚥性肺炎での平均入院期間は短縮した。理学療法開始前の経皮的二酸化炭素分圧(以下、TcPCO2)は、IPV導入前に比べて導入後の2年間あまりは減少傾向が継続した。この換気改善が入院期間短縮をもたらした一要因ではないかと考える。慢性期の長期にわたるIPV使用や在宅での継続的な使用、および姿勢管理は、呼吸状態改善に有効であり、入院期間が短縮し、在宅管理が容易になり、QOL向上に役立つ可能性が示唆された。
  • 上野 知香, 横田 吾郎, 今吉 美代子, 荒牧 修一, 山本 修一
    原稿種別: 症例報告
    2016 年 41 巻 3 号 p. 417-421
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー
    当院に長期入院中の重症心身障害者に右側多量胸水を認めた。感染症や悪性腫瘍などを疑い精査したがいずれも否定的で、末梢血好酸球の増多と胸水中の好酸球増多を認めた。全身の筋緊張亢進に対しdantrolene sodiumを27年間使用しており、本剤による薬剤性胸水を疑い中止したところ、胸水は数カ月の経過で改善しつつある。Dantrolene sodiumは重症心身障害児(者)の診療で日常的によく使われる薬剤だが、長期間副作用の発現がなくても呼吸器系の副作用が起こりうることを考え、胸部レントゲン検査などの定期検査で確認が必要である。原因不明の胸水を認めた場合、本剤を含めた薬剤性胸水の可能性を念頭において鑑別を進める必要があると考えられた。
  • 草苅 己香, 松塚 敦子
    原稿種別: 症例報告
    2016 年 41 巻 3 号 p. 423-428
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー
    症例は、慢性呼吸不全を呈し呼吸器感染を繰り返すため、長期臥床を余儀なくされ、QOLが低下していた。呼吸改善の目的で、陽圧換気療法(肺内パーカッションベンチレーター・インエクスサフレーター)・運動療法・呼吸理学療法・姿勢保持管理を定期的に試みた。その結果、発熱回数が減少し、感染後も早期に緩解ができた。また、分泌物の減少により吸引等の医療的ケアも減少した。この結果、早期離床につながり、われわれの取り組みがQOL向上の一助となったと考えられた。
  • 櫻井 篤志, 増田 俊和, 金子 広司
    原稿種別: 症例報告
    2016 年 41 巻 3 号 p. 429-434
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー
    症例は発症時53歳、男性の重症心身障害者である。数日の経過で四つ這い移動や歩行器を用いた介助歩行を行わなくなり、下肢痛を思わせる素振りもみせるようになった。身体所見や諸検査から骨折、感染、リウマチ性疾患などは否定的であった。コルチゾールとACTHの基礎値、ACTH負荷に対するコルチゾールの反応性などはある程度保たれていたが、続発性副腎皮質機能低下症を完全には否定できなかった。さらにCRH負荷試験、他の下垂体を含む各種ホルモン検査の結果から、ACTH単独欠損症が疑われた。ヒドロコルチゾン補充により臨床症状は劇的に改善し、二次性副腎皮質機能低下症の診断が妥当と考えた。副腎不全の臨床症状は非特異的なものが多く、軽症例では負荷試験を含めたホルモン値に明らかな異常を示さないこともある。本症はホルモン補充によって完全寛解が見込めるため、特に活動性の低下を主訴とする重症心身障害者では積極的に鑑別すべきである。また本例のごとく疼痛などの筋骨格症状をみた際には本症も鑑別対象に加える必要がある。
  • 坂本 浩一, 大畠 雅之
    原稿種別: 症例報告
    2016 年 41 巻 3 号 p. 435-438
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー
    症例は脳性麻痺の10歳男児。5歳時に胃食道逆流症の診断で他医にて腹腔鏡下噴門形成術および胃瘻造設術が行われた。術後に経口摂取、胃瘻からの栄養剤の注入を行うと嘔気、気分不良を生じ胃瘻部からの栄養剤漏出が頻発したため在宅中心静脈栄養が行われていた。上部消化管造影検査では胃瘻は幽門部小彎側に造設されており胃瘻バルーンによる幽門通過障害を認めたため、腹腔鏡下胃瘻再造設術を施行し胃瘻の位置変更を行った。術後経過は良好で、術後5日目から胃瘻注入と経口摂取を再開し、術前に見られた嘔気、気分不良、胃内容物漏出は著明に改善した。幽門に近い位置の胃瘻は幽門通過障害の原因となることがあり至適位置に胃瘻を造設することが重要であるが、胃瘻位置不良による幽門通過障害は胃瘻再造設術によって症状の改善が期待でき、腹腔鏡下胃瘻造設術が有用であった。
  • 澁谷 郁彦, 元木 崇裕, 上田 理誉, 西條 晴美, 本橋 裕子, 中川 栄二, 須貝 研司, 佐々木 征行
    原稿種別: 症例報告
    2016 年 41 巻 3 号 p. 439-444
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー
    一般集団において、膀胱癌を40歳未満で発症することは稀である。また、重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))では、尿路感染・結石等の泌尿器科的合併症による血尿がしばしば見られる。40歳未満の重症心身障害者で、膀胱癌の診断に至った2例を報告する。症例1は37歳男性、基礎疾患に副腎白質ジストロフィーがあり、大島分類1である。37歳時に肉眼的血尿を反復した。病歴を見返すと34歳頃から間欠的な血尿を認めていたため、超音波と膀胱内視鏡検査を行った。膀胱癌の診断で、経尿道的膀胱癌切除術を施行した。症例2は33歳女性、基礎疾患に結節性硬化症あり、大島分類1である。12歳時に腎血管筋脂肪腫(以下、AML)と診断された。30歳時から血尿を認め、腎AMLからの出血と考えられていた。32歳時に肉眼的血尿を反復したので腹部CT検査を行い、膀胱腫瘤を認め、膀胱内視鏡検査で膀胱癌と診断された。家族と話し合い、緩和医療を選択した。重症児(者)においては若年であっても血尿が見られた場合は膀胱癌の検索を積極的に行う必要がある。
短報
  • 中村 達也, 野村 芳子, 加藤 真希, 北 洋輔, 鮎澤 浩一, 小沢 浩
    原稿種別: 短報
    2016 年 41 巻 3 号 p. 445-449
    発行日: 2016/12/01
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー
    大脳基底核損傷後には、咽喉頭の知覚低下により、不顕性誤嚥を来すことが多い。咽喉頭の知覚低下改善に、黒胡椒嗅覚刺激が有効であるとする先行研究があるが、これを小児に適応した報告はない。今回、黒胡椒嗅覚刺激により嚥下機能が改善した小児症例を経験した。症例は1歳3カ月時、脊髄梗塞後に生じた心肺停止による蘇生後脳症のため大脳基底核を損傷した。安静時の嚥下反射は認めず、気管内吸引は頻回であったが、味覚刺激時には嚥下反射惹起を認めた。また、嚥下造影検査では咽喉頭に嚥下前の食物の残留を認めるも誤嚥は認めなかったことから、咽喉頭の知覚低下が唾液貯留の主な原因と判断し、2歳3カ月より黒胡椒嗅覚刺激を行った。気管内吸引回数を指標に、A1B1A2B2デザインで検討したところ、黒胡椒嗅覚刺激時には気管内吸引回数が徐々に減少する傾向がみられ、最終的には1日数回程度まで減少した。黒胡椒嗅覚刺激は、本症例の咽喉頭の知覚を改善し、良好な唾液嚥下の契機となった。これは、黒胡椒嗅覚刺激が小児の咽喉頭知覚の改善にも有用である可能性を示唆する。
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