今年の学会のテーマは「在宅支援のあり方 −支援方法と支援内容−」でした。重症心身障害児者(以下、重症児者)が施設から離れた場所、過疎地であってもどこで暮らしていても長年培ってきた医療、療育資産が行き渡るようにするにはどのような在宅支援をしたらいいかを考えるという、学会42 周年にふさわしいテーマでした。
重症児者の医療、療育の実践と医療の進歩により、重症児者の高齢化、重度化が進み、低年齢ほど医療的ケアを必要とする割合が高い現状があり、在宅支援について苦慮されている地域が多いと思います。三浦清邦先生の特別講演「重症心身障害児者支援と人材育成」では、社会全体の高齢化に伴う地域包括ケアシステムの構築や在宅医療の充実施策が進む中で、小児在宅医療体制充実に向けた動きが始まり、小児在宅医療が充実すれば、小児から高齢者まで一貫した支援が可能になると言う話があり、その実現が待たれます。また、医学生の重症児施設実習は、将来医師になったときに、何科になっても、重症児者を診察できる医師が増える可能性を秘めていて、人材育成になるとの話でした。著者も23年前から横浜市立大医学部1 年生の入所施設、通所施設3 日ずつの見学実習を開始し、医学生たちの多くは「重症児も私たちと同じ人間なのだ」という「気づき」を体感し、確かな手ごたえでした。重症児者支援のやりがいや重症児者そしてその支援者の魅力を伝え、重症児者(障害児者)支援が当たり前で、「共に生きる」ことができる社会、それが、今、必要とされています。
教育講演、中澤恵江先生の「重症心身障害を有する子どもとのコミュニケーションと環境について」では、子どもたちが表すかすかな表情や動きの変化を見逃さず、その意味を推測し、子どもたちの発信する力、高めようとする努力、あるいは子どもたちに分かりやすい語りかけやサインを用いて、かかわり手の意図することを伝えようとする努力、子どもたちの感受性を高める為に教材に工夫をこらし、関わる中で、反応がないと思われた子どもも、反応を表出するとの講演内容でした。著者も全く反応がないと思われた子どもが、教師の1 対1 の熱い関わりの中で自己表現を獲得出来た症例を経験しました。今回の講演内容は重症児の療育にとって大切な原点です。
講演を聞かれた方は、担当する重症児者が反応に乏しくとも、反応がないと諦めないで、微細な動きを観察し、生きる証である潜在能力に気づき自己表現を見つけてあげてください。自己表現方法を獲得した重症児者の変化する様子に、関わった担当者は共に歩む喜びを感ずることでしょう。
シンポジウム1、2「重症心身障害児の在宅支援のあり方 -支援方法、支援内容-」では、重症児者の在宅支援は1)通所支援(児童発達支援、生活介護、放課後等デイ、2)短期入所支援(医療、レスパイト入院)、3)訪問系支援(訪問診療/ 看護、訪問介護)があります。新潟(小西徹先生)では、身近な地域での支援を、1 次:臨床を担当する掛かり付け医院/病院、2 次:医療・療育・生活を担当する療育施設、3 次:高度医療・救急医療を担当する中核病院に分類し、実態調査に基づいた資源調査を行いながら体制整備をする。この方法はどの地域でも取り入れることが出来ると思われます。また、鳥取(汐田まどか先生)では、県、大学病院、地域との協働で在宅支援が行われ、地域連携の参考になります。また、超重症児の急激な増加に対しては、ショートステイで対応しているが、診療報酬上負担が大きく、これがショートステイを困難にしている理由の一つでした。北海道では(大田由美子先生、林時仲先生)遠隔過疎地では、巡回訪問指導、テレビ電話相談、医療機関の短期入所の医療型短期入所など工夫されているが、過疎地ではまだ、PT,OT等も不十分であり、地域の中で生涯にわたる支援体制を構築することが大きな課題です。さらに、札幌(土畠智幸先生)からは、増え続ける在宅人工呼吸器の地域支援について訪問診療を行う医師を育てることが課題として浮かびあがってきました。これらはどの地域でも同じ問題を抱えていて、対策が急がれます。
今回も緩和ケア、看取り、事前ケアプランなどの終末期についての演題が7 題報告され、最後まで重症児者と家族に寄り添い、一人の人間として尊厳を大切に思う気持ちが育まれてきていると感じました。この学会の大きな進歩を実感しました。また、看護研究の質の向上や発展のために、今年から第1 回看護研究応援セミナー 「大変だけどやってよかった!」意義ある看護研究にするために、が始まりした。今後に期待したいと思います。これからも、多職種が意見交換できる開かれた交流の場として、本学会が更に発展していくことを期待します。
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