日本重症心身障害学会誌
Online ISSN : 2433-7307
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第一報
巻頭言
  • 柳瀬 治
    2021 年 46 巻 3 号 p. 313-314
    発行日: 2021年
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー
    新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のため延期となりました「第46回日本重症心身障害学会学術集会」が令和3年12月10日、12月11日の2日間にわたってオンライン開催されますことを、心からお祝い申し上げます。繰り返される感染拡大の荒波の中で、開催に向けてご尽力をいただいた後藤一也大会長をはじめ主催者の皆様、関係者の皆様、ならびにすべての会員の皆様に深く敬意を表します。 COVID-19が世界中で拡大し、日本でもこの夏には新規感染者数が1日2万5千人を超えるというこれまでで最大の第5波に見舞われ、医療は逼迫しました。国を挙げての感染防止対策およびワクチン接種の推進加速化が相まって、9月に入ると新規感染者数は急激な減少に転じ、10月1日には緊急事態宣言が解除されました。これまでの厳しい新型コロナウィルスとの戦いの中で得られた大きな光ともいうべきエビデンスが2つあります。 1つは、現在日本で使われている新型コロナウィルスワクチンが感染しても発症を8割防ぎ、さらに重症化を9割防ぐこと、また感染力の強いデルタ株に対しても感染を6割予防するということです。実際に7月末までにおよそ8割が2回接種を済ませた65歳以上高齢者の新規感染者数に占める割合は、ワクチン接種前15%であったものが3%未満まで著減し、この年齢群におけるCOVID-19による死亡者数も減少しました。第5波に見舞われながらも目指すべき道標が浮かび上がっていたといえます。 ワクチン接種率と規制緩和との関連について、最近フランスのパスツール研究所から数理モデルを用いた研究が報告されています。デルタ株の場合、行動制限などの規制を完全に緩和し、かつ1日当たりの新規入院患者数を十分に抑制するには、65歳以上高齢者だけではなく18歳から64歳までの人々においても高い接種率が求められるとしています。また、18歳未満の年齢層にワクチン接種を広げることにより、この高いハードルを下げることが可能になると考えられています。ワクチン接種がさらに進むことによって、第5波の終焉がパンデミック収束に向かうターニングポイントになることを願ってやみません。 2つ目は、アメリカで開発されたカシリビマブおよびイムデビマブという2つのモノクロナール抗体を用いた「抗体カクテル療法」の有効性です。アメリカで行われた重症化リスクを1つ以上有する軽症から中等症の外来患者を対象とした無作為二重盲検試験では、「抗体カクテル療法」が入院・死亡のリスクをプラセボ群に比べ70%減少させることが確認され、昨年11月にアメリカの食品医薬品局(FDA)から緊急使用許可を得ています。「抗体カクテル療法」は日本でも今年の7月に承認され、その後アメリカの臨床試験結果と同等の効果が報告されています。 注目すべきは、FDAが「抗体カクテル療法」の対象となる高リスク患者として、脳性麻痺などの神経発達疾患患者、遺伝性・代謝性疾患または重度の先天性疾患など複雑な病態を抱える患者、および気管切開・胃瘻・COVID-19に起因しない陽圧呼吸など医療依存度の高い患者を挙げていることです。日本でも本年7月に厚生労働省新COVID-19対策推進本部から発出された通達において、脳性麻痺や医療依存度の高い患者をアメリカと同様に「抗体カクテル療法」の対象とすることが明記されています。新型コロナウィルスの増殖を抑えて重症化を防ぐという作用機序から、重症心身障害を有する利用者がCOVID-19に罹患した場合は診断後可及的早期に「抗体カクテル療法」を開始すべきであると考えます。 一方、駆虫薬イベルメクチンおよび抗インフルエンザウィルス薬ファビピラビルは、いずれもCOVID-19の重症化予防・生命予後改善効果について明確なエビデンスが得られておらず、COVID-19の治療薬として推奨することはできないと考えられます。 さて、当東大和療育センターでは緊急事態宣言の解除に伴い、本年10月11日から感染防止対策を講じながら、ご家族による面会を再開しました。その初日、利用者の手をしっかりと握り頭を撫でながら、今にも頬ずりをしそうなほど顔を利用者に寄せて語りかけるご家族、そして見つめ返す利用者の姿を拝見し、万葉集に収められた防人の歌を思い起こしました。 父母が頭(かしら)かき撫で幸くあれていいし言葉ぜ忘れかねつる 親が子の幸せを願い、子が親を思う心は古今東西変わりがありません。コロナ禍の中で、病める方も重い障害のある方も老いも若きも安心して自分らしく暮らしていくことができる社会の実現が、改めて希求されています。 重症心身障害児者の生活と人生を力強く支える存在として、本学会が益々発展していくことを祈念いたします。
原著
  • 沼口 知恵子, 西垣 佳織, 涌水 理恵, 藤岡 寛, 佐藤 奈保
    2021 年 46 巻 3 号 p. 315-322
    発行日: 2021年
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー
    本研究は、在宅で生活する重症心身障害児(以下、重症児)のきょうだいが、家族との生活の中で、重症児と自分自身、親・祖父母に対してどのような想いを持っているかを明らかにし、支援を検討する目的で実施した。12歳以上の重症児のきょうだい11名に、半構成面接を実施した。結果、重症児のきょうだいは、重症児を普通のきょうだい、障がいは当たり前と捉えながらも、障がいをもたらす状況への困惑や煩わしさを認識するという両価性が見られた。親や祖父母に対しては、感謝と気遣いを示し、自身に関しては、重症児のきょうだいである自分とは別に自分自身の将来があると考えていた。きょうだいの想いや葛藤を理解し、家族との想いの調整を図りながら、きょうだい自身のライフコース選択を支援することが必要であると考えられた。
  • 松井 吉裕
    2021 年 46 巻 3 号 p. 323-328
    発行日: 2021年
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー
    今回重度脳性麻痺者の脊柱側弯症の特性を調査し、進行予防につながる要素の検討を行った。対象は18歳以上の重度脳性麻痺者34名で、脊柱側弯症の有無、カーブパターンと凸側との関連性およびCobb角とSpinal Pelvic Obliquity(以下、SPO)、L4Pelvic Obliquity(以下、L4PO)、L4tiltとのそれぞれの相関性を調査した。その結果、カーブパターンと凸側との関連性では腰椎カーブにおいて左凸が有意に多かった(p<0.01)。Cobb角とSPO、L4PO、L4tiltとのそれぞれの相関性では、Cobb角とSPOでは有意に強い正の相関関係、Cobb角とL4PO、L4tiltでは有意に中等度の正の相関関係が認められた(p<0.01)。重度脳性麻痺者において、側弯のカーブには曲がりやすい方向が存在するという可能性が考えられた。また脊柱側弯症の角度が大きくなると骨盤に対する脊柱のバランスが悪くなることが示唆された。さらに側弯はL4tiltあるいはL4POの拡大を伴って進行する可能性があることが示唆された。
  • 枝川 千鶴子, 竹村 淳子, 泊 祐子
    2021 年 46 巻 3 号 p. 329-336
    発行日: 2021年
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、医療的ケア児のNICU等から在宅移行初期に、子どもの体調管理ができるよう母親を支援するために、訪問看護師がどのようなアセスメントの視点をもっているかを明らかにすることである。小児訪問看護経験5年以上の訪問看護師15人を対象に半構造化面接を行い、質的帰納的分析を行った。その結果、5カテゴリが抽出された。訪問看護師は、母親の【子どもの生命維持のための管理力】【医療的ケア児の体調管理を母親の生活になじませる力】【子どもの状態に合わせてケアをアレンジする力】【子どもへの愛着形成】【母親のストレスマネジメント力】をアセスメントの視点として持っていることが明らかとなった。この視点は、在宅移行初期にすべての習得を目指すものではなく、母親が在宅移行期の生活の再構築を行う中で、無理なく子どもの体調管理の方法を習得し、親子関係や母親自身の健康管理も含めた在宅生活を継続していくための支援の視点であり、母親の子どもの体調管理に関わる力を認める視点と考えられた。
  • 颯佐 かおり, 塚本 智子, 岡元 照秀, 栁澤 真希子, 雨宮 伸
    2021 年 46 巻 3 号 p. 337-340
    発行日: 2021年
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー
    成人に至るまで長年に亘り社会的接触の限られた重症心身障害児(者)施設において帯状疱疹罹患者からの水痘発症患者の抗体価測定の意義を検討し、水痘集団発症の予防策を検討した。59名在籍の埼玉県立嵐山郷療養介護棟において、2016年に二度にわたり水痘のアウトブレイクがあった。水痘患者8名(男:女=6:2、年齢39~64歳、中央値46歳)の、水痘抗体EIA IgG(基準値<2)およびEIA IgM(基準値<0.8)を発熱・発疹出現時に初回測定した。また、約2週間以上あけた後にEIA IgGを再検した。水痘発症8名のうち初感染パターンを示したものが3名、既感染パターンを示したものが5名で水痘再罹患と考えられた。発熱および水痘症状が出たものは隔離の上valaciclovir治療(1回1000mg1日3回5日間経口投与)を行い、療養介護棟入所者全員にも水痘発症予防目的に治療量と同量の経口投与を5日間行った。いずれの水痘発症者も、肺炎や敗血症、中枢神経感染症といった重篤な合併症なく経過し、感染拡大の予防として潜伏期における抗ウイルス薬の経口投与は水痘の軽症化にはある程度の有効性があった。しかし、2回目のアウトブレイクを考えると抗ウイルス薬内服では発症予防には不十分であり、ワクチン接種の必要性も考慮される。
  • −Paediatric Pain Profile日本語版を使用して−
    大北 真弓
    2021 年 46 巻 3 号 p. 341-348
    発行日: 2021年
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー
    本研究は、痛み評価尺度Paediatric Pain Profile日本語版を使用し、観察者である看護師の特性が重症心身障害児(以下、重症児)の痛みの評価に与える影響を明らかにすることを目的とし、効果的な痛み評価の方法について検討した。調査①は、重症児1名の痛み場面の録画を看護師28名が個別に見て評価し、看護経験や学歴による痛みの評価への影響を検証した。調査②は、重症児30名の担当看護師とそうでない看護師が録画を個別に見て評価し、その子どもをよく知っていることが痛みの評価に影響があるのかを検証した。結果、安静場面での痛み評価において、その子どもをよく知る看護師群がそうでない看護師群よりも有意に高いスコアをつけた(p=0.001)。看護経験年数と痛みスコアとの間に有意な相関関係は認められなかった(r=0.213、p=0.277)。重症児の痛みの評価は、その子どもをよく知る者が痛みスコアのベースラインを決定し、他の観察者はそのスコアを基準にしてアセスメントすることが重要である。
  • 向野 文貴, 市山 高志, 松藤 博紀, 伊住 浩史, 杉尾 嘉嗣
    2021 年 46 巻 3 号 p. 349-354
    発行日: 2021年
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー
    【目的】当センター入所中の重症心身障害児(者)のカルニチン(Car)欠乏の有無とバルプロ酸ナトリウム(VPA)服用や栄養状況との関連を調査した。【方法】入所者73例の血中Car濃度を測定し、遊離Car(FC)<20 μmol/lをCar欠乏症、20≦FC<36 μmol/lまたはアシルCar(AC)との比AC/FC>0.4を欠乏症のリスク群とし、VPA服用や栄養状況との関連を検討した。【結果】73例中7例(9.6%)が欠乏症、14例(19.2%)がリスク群だった。レボカルニチン(LC)を内服している症例7例は全例がFC> 36 μmol/lだった。LC非内服の66例でCar非添加栄養剤群は経口摂取群およびCar添加栄養剤群に比し有意に血中FC濃度が低かった(各々p<0.01)。また体重当たりのVPA内服量とFC濃度には負の相関関係があった (r=-0.839、p<0.01) 。【結論】Car非添加栄養剤のみの使用はCar欠乏症の高リスクであり、VPAは用量依存性にCar欠乏症のリスクとなる。
  • 佐藤 優衣, 田代 英之, 福本 幹太, 小塚 直樹
    2021 年 46 巻 3 号 p. 355-361
    発行日: 2021年
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー
    成人脳性麻痺者は、運動機能障害の増悪により身体活動量が低下することが知られているため、成人脳性麻痺者の座位行動および身体活動を調査し、粗大運動能力の影響や体脂肪率、部位別骨格筋量、骨密度との関連を検討した。対象者は成人脳性麻痺者23名とし、粗大運動能力分類システム(Gross Motor Function Classification System: GMFCS)Ⅰ-Ⅱ群とⅢ-Ⅳ群に分類した。成人脳性麻痺者の1日あたりの座位行動時間、低強度身体活動量、中高強度身体活動量、体脂肪率、部位別骨格筋量、骨密度を測定した。GMFCSレベルⅢ-Ⅳ群はⅠ-Ⅱ群と比較し、座位行動時間が長く、低強度、中高強度身体活動量が低下していた。また、下肢骨格筋量、骨密度も低値であった。成人脳性麻痺者の座位行動と上肢骨格筋量、座位行動および低強度、中高強度身体活動は、骨密度と相関関係を示した。座位行動時間を減少させ、身体活動量を増加させる生活指導は、骨密度の維持、向上に貢献する可能性が示唆された。
  • 糀 敏彦, 高岩 美希, 川原 ゆかり, 清水 義之, 白石 範子, 山下 達也, 西條 晴美, 飯田 千晶, 荒木 克仁, 柳瀬 治
    2021 年 46 巻 3 号 p. 363-368
    発行日: 2021年
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー
    【目的】重症心身障害児(者)施設長期入所者における、低亜鉛血症の治療について検討した。【対象・方法】2018年4月から2019年11月までの間に新規に低亜鉛血症に対する治療を開始した22名を対象とした。血清亜鉛値60~79μg/dlの15例はココア14g(亜鉛1 mg含有、ココア群)、60μg/dl未満の7例は、ポラプレジンク®75mg/日(亜鉛17mg含有、少量亜鉛製剤群)を投与し効果を検討した。【結果】治療前後の血清亜鉛中央値はココア群、少量亜鉛製剤群で、それぞれ70μg/dlから73μg/dl、57μg/dlから97μg/dlへと両群とも有意に上昇していた。治療後血清亜鉛値は、少量亜鉛製剤群の方が有意に高値を示した。基準値内となった有効例はココア群33.3%に対し、少量亜鉛製剤群71.4%であった。両群とも低銅血症を来した症例はみられなかった。【結論】ココアによる食事からの亜鉛補充は有用ではあるものの効果は限定的であった。亜鉛製剤による補充量に関しさらに多数例での検討が望まれる。
症例報告
  • 上野 悠, 吉松 昌司, 高尾 智也, 宮田 広善
    2021 年 46 巻 3 号 p. 369-372
    発行日: 2021年
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー
    症例は2歳の男児。在胎35週4日、出生体重2508gで常位胎盤早期剝離による新生児仮死で出生し、重症心身障害児となり1歳8か月で当施設へ入所された。2歳9か月で尿路感染を発症しcefaclor(以下、CCL)の内服を開始した。内服3日目に貧血傾向(Hb:9.6g/dl)を認め、5日目には重度な貧血(Hb:5.0g/dl)まで進行した。薬剤性貧血を考慮しただちにCCLを中止したが貧血はさらに進行した。原因精査を行ったところ直接クームス試験が陽性であったため、CCLによる薬剤性溶血性貧血と診断しプレドニゾロン(以下、PSL)の投与を開始した。PSL内服開始後、5日目より貧血傾向が止まり徐々に改善していった。セフェム系抗生物質は臨床現場で頻回に使用する機会のある薬剤であり、特に重症心身障害児(者)は尿路感染のリスクが高く使用頻度が高く、薬剤性溶血性貧血は注意が必要な疾患である。
  • 鳥山 泰嵩, 南谷 幹之, 杉原 進, 早川 美佳, 落合 幸勝, 今井 祐之
    2021 年 46 巻 3 号 p. 373-378
    発行日: 2021年
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー
    症例は長期経管栄養が導入された原因不明の退行性疾患の38歳男性である。患者は蛋白尿と低アルブミン血症に亜鉛欠乏を伴う蜂窩織炎を認め、ポラプレジンクが投与された。4か月後に補充に伴う銅欠乏性貧血を生じたためポラプレジンクを中止し、栄養剤調整を行ったが効果不十分であった。そこで銅を多く含む純ココア10gを追加投与したところ、投与4週間で銅欠乏性貧血が軽快した。また亜鉛補充に際し血清亜鉛値が200μg/dl以上の場合に銅欠乏を注意するとされているが、本症例は血清亜鉛値100μg/dl以下で銅欠乏性貧血に至った。その要因として低アルブミン血症によるアミノ酸結合亜鉛の尿排泄が促進されたことと、尿蛋白とともに蛋白結合亜鉛が尿中に漏出されたことで血清亜鉛値が高値とならなかった。さらに亜鉛銅比で相対的亜鉛過剰のため銅の吸収障害と消化管排泄促進が生じたと推定された。低アルブミン血症を伴う重症心身障害児(者)への亜鉛補充には、血清亜鉛値100μg/dl以下でも銅欠乏性貧血に注意が必要である。 
  • −専門職チームによるアプローチ−
    髙橋 悠也, 米田 傑, 川﨑 香里, 山川 紀子, 岩本 彰太郎
    2021 年 46 巻 3 号 p. 379-383
    発行日: 2021年
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー
    医療的ケア児の就学については、様々な検討が行われるようになってきているが、依然気管カニューレ内吸引を必要とする重症心身障害児の場合には多くの課題が残る。その一つに、スクールバスの利用制限がある。一般に、スクールバス内での医療的ケアの実施は困難なため、保護者による移動支援が主となる。今回、障害児通所支援事業として当施設を利用する気管切開児の就学に向け、スクールバス利用の可能性について、通所バスを用いた乗車前および乗車中の姿勢の検討を行った。その結果、乗車中腹臥位姿勢を取ることで、乗車中に気管カニューレ内吸引を実施することなく移動が可能であった。しかし、母親は安全性への危惧や他の児童と同様にバスから景色が見られる座位姿勢での移動を希望され、最終的には自家用車での通学を決断された。就学というライフイベントを前に、母親自身が我が子の障害と再び向き合うことが求められる。母親の希望に多職種で協働し、寄り添うことは、児の視点での母親の意思決定を支援する上で重要である。
  • 飯塚 忠史, 峯本 晃子, 玉置 尚司, 井上 美保子, 月野 隆一, 北野 尚美
    2021 年 46 巻 3 号 p. 385-391
    発行日: 2021年
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))施設の感染対策は療養環境、患者の病態などの特殊性から、既存の院内感染対策に関する教科書やガイドラインはそのまま活用できないことも多く、疎かになりやすい。今回重症児(者)病棟で発症したESBL(Extended Spectrum Beta Lactamase)産生菌によるアウトブレイクを経験した。院内感染が発生した病棟は、入所者合計42名、平均年齢46歳である。そのうち経管栄養者は21名、経口摂取者は21名である。アウトブレイクが疑われて全入所者の便培養を行った結果、ESBL産生菌保菌者は全体では60%(25/42)で、経管栄養者では90%、経口摂取者では29%が保菌していた。 (p<0.001)。同病棟の経管栄養準備室の環境ふき取り調査で腸内細菌が検出されたことから、アウトブレイクの原因としてスタッフの手指や経管栄養器材の細菌汚染が疑われた。器材の洗浄・消毒の見直しを行ったが消毒は不十分で、週1回交換していた栄養注入用チューブ類の単回使用が必要であった。器材の入念な洗浄・消毒やチューブ類の単回使用による人的・経済的負担は感染対策の上で大きな問題である。
論策
  • 三田 勝己, 赤滝 久美, 林 時仲
    2021 年 46 巻 3 号 p. 393-399
    発行日: 2021年
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー
    新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)は急激な拡大と世界的流行を引き起こした。全国の重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))施設では対面面会が制限され、その対策としてオンライン面会が始まった。本研究は、その実施状況を明らかにするため、全国135の公法人立重症児(者)施設にアンケート調査を行った。その結果、オンライン面会は自宅のみならず施設でも行われ、自宅と施設を任意選択できる施設もあった。面会開催日は平日あるいは毎日が64%の施設で設定され、開催時間は2時間以下が56%と半数余を占めた。面会実施時間は15分以下が約80%であった。通話アプリは多くの施設がLINEあるいはZoomを使用した。利用割合は8割余の施設で入所者の30%以下であった。本調査はオンライン面会の有用性と課題を上記6つの側面から評価することができた。また、オンライン面会がCOVID-19に因る一過性の対策に止まることなく、対面面会とセットとして整備され、日常的に利用されることを期待する。
  • −東京都多摩地区の生活介護施設通所者の家族へのアンケート調査から−
    吉見 啓子, 矢島 卓郎
    2021 年 46 巻 3 号 p. 401-412
    発行日: 2021年
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー
    本研究は特別支援学校卒業後の重症心身障害者の日常生活の実情と課題を明らかにするため、主に多摩地区にある生活介護施設22か所に通う重症心身障害者の家族を対象にアンケート調査を実施した。調査結果は、学校卒業後10年未満、10年~15年未満、15年以上の3つの期間に分けて分析した。その結果、家族の約90%が重症心身障害者をかかえた生活に「困難さ」を感じ、約70%が「長時間の介護」を行っていた。10年未満の家族は「ヘルプサービス」「レスパイトサービス」「外出支援」のニーズが高く、福祉サービスや地域支援に対する保護者の意識が異なっていた。将来、最も必要とする支援は3期間とも「下肢・上肢運動機能訓練」であるのに対して、将来望むサービスや支援は「福祉の情報・学習支援の情報・医療機関の情報・地域の施設情報」であり、また親亡き後の「生活の場」に、家族の約30%が重症児入所施設、10%がグループホームを希望していた。
  • −手の常同運動で困ること−
    平野 大輔, 後藤 純信, 勝二 博亮, 谷口 敬道
    2021 年 46 巻 3 号 p. 413-418
    発行日: 2021年
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、レット症候群児(者)における手の常同運動で困ることについて、保護者の視点から明らかにすることである。日本レット症候群協会会員の131家族とレット症候群支援機構会員の63家族の計194家族を対象に郵送による質問紙調査を行った。71家族から回答があり、双子1組を含めた計72名のレット症候群児(者)の情報を得た。87%の児(者)の保護者は、現在手の常同運動で困ることがある、あるいは過去に困ることが有ったと回答し、81%の保護者が困ることの具体的内容を挙げた。困ることの具体的内容は、手や指、顎等の皮膚損傷、手を口に入れること、食事の介助困難、関節拘縮や変形、衛生や感染症等の心配、手を使用できないこと、更衣や整容、歯磨きの介助困難、周囲からの視線、筋の硬さ、歯並びの悪さ、姿勢の偏り、服噛みに関する内容だった。本結果より、レット症候群児(者)に対しては手の常同運動の状態に合わせた介入を行いながら、児(者)の保護者に対しては手の常同運動による生活上での困り事に対する介入の必要性が示された。
  • −Rett Syndrome Behaviour Questionnaire(RSBQ)の使用−
    平野 大輔, 後藤 純信, 勝二 博亮, 谷口 敬道
    2021 年 46 巻 3 号 p. 419-426
    発行日: 2021年
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー
    Rett Syndrome Behaviour Questionnaire(RSBQ)は、介護者が45項目に対し「有」、「時々」、「無」のいずれかで回答し、全項目の総計点や領域毎の合計点を得られる。本研究では、本邦のレット症候群児(者)に対するRSBQの結果の特徴を明らかにし、年齢、知的発達、移動機能との関連を明らかにすることを目的とした。対象は日本レット症候群協会会員とレット症候群支援機構会員の計194家族とし、自記式質問紙を用いた。72名の情報が収集され、RSBQの各項目に対して70名以上が回答された。70%以上の児(者)が「手の動き」の領域の全6項目で「有」または「時々」に回答した。「手の動き」の領域の合計点は、横地分類知的発達と有意な相関も認め、レット症候群の症状や特徴をよく反映し、リハビリテーションや教育的支援の評価や効果判定の一つの指標として活用できる可能性が示唆された。一方で、60%以上の児(者)が「夜の行動」の領域では「無」との回答が多く、レット症候群の症状との関連の見直しが必要な項目や領域があることも示唆された。
短報
  • 譽田 貴子, 竹本 潔, 稲田 浩, 山下 順子, 服部 妙香, 田中 勝治, 新宅 治夫
    2021 年 46 巻 3 号 p. 427-430
    発行日: 2021年
    公開日: 2024/03/27
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、アドバンス・ケア・プランニング(以下、ACP)を導入する前に施設職員の意識を明らかにすることである。重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))へ直接接する職員(医師、看護師、生活支援員、リハビリテーション療法士)を対象にACPに関するアンケート調査を実施した。その結果、ACPの認知度は7%と少なかったが、その内容を説明すると22%の職員が実践していると回答した。話し合いを開始する時期は、死が近づいたときが最も多く、話し合いの内容は本人の気がかりや意向、価値観よりも症状や治療の方が多かった。ACPを実践する上での課題は、話し合った内容を共有する方法や本人や家族への相談体制の充実で、施設職員への教育と研修も必要であった。重症児(者)は本人の意向確認が難しいため、できるだけ正確に意思を推定するには客観的な情報が重要になる。情報を記録に残して共有し、家族と医療ケアチームが早期からACPを開始する取り組みは重症児(者)の終末期医療やケアを担う施設の重要な役割である。
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