新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のため延期となりました「第46回日本重症心身障害学会学術集会」が令和3年12月10日、12月11日の2日間にわたってオンライン開催されますことを、心からお祝い申し上げます。繰り返される感染拡大の荒波の中で、開催に向けてご尽力をいただいた後藤一也大会長をはじめ主催者の皆様、関係者の皆様、ならびにすべての会員の皆様に深く敬意を表します。
COVID-19が世界中で拡大し、日本でもこの夏には新規感染者数が1日2万5千人を超えるというこれまでで最大の第5波に見舞われ、医療は逼迫しました。国を挙げての感染防止対策およびワクチン接種の推進加速化が相まって、9月に入ると新規感染者数は急激な減少に転じ、10月1日には緊急事態宣言が解除されました。これまでの厳しい新型コロナウィルスとの戦いの中で得られた大きな光ともいうべきエビデンスが2つあります。
1つは、現在日本で使われている新型コロナウィルスワクチンが感染しても発症を8割防ぎ、さらに重症化を9割防ぐこと、また感染力の強いデルタ株に対しても感染を6割予防するということです。実際に7月末までにおよそ8割が2回接種を済ませた65歳以上高齢者の新規感染者数に占める割合は、ワクチン接種前15%であったものが3%未満まで著減し、この年齢群におけるCOVID-19による死亡者数も減少しました。第5波に見舞われながらも目指すべき道標が浮かび上がっていたといえます。
ワクチン接種率と規制緩和との関連について、最近フランスのパスツール研究所から数理モデルを用いた研究が報告されています。デルタ株の場合、行動制限などの規制を完全に緩和し、かつ1日当たりの新規入院患者数を十分に抑制するには、65歳以上高齢者だけではなく18歳から64歳までの人々においても高い接種率が求められるとしています。また、18歳未満の年齢層にワクチン接種を広げることにより、この高いハードルを下げることが可能になると考えられています。ワクチン接種がさらに進むことによって、第5波の終焉がパンデミック収束に向かうターニングポイントになることを願ってやみません。
2つ目は、アメリカで開発されたカシリビマブおよびイムデビマブという2つのモノクロナール抗体を用いた「抗体カクテル療法」の有効性です。アメリカで行われた重症化リスクを1つ以上有する軽症から中等症の外来患者を対象とした無作為二重盲検試験では、「抗体カクテル療法」が入院・死亡のリスクをプラセボ群に比べ70%減少させることが確認され、昨年11月にアメリカの食品医薬品局(FDA)から緊急使用許可を得ています。「抗体カクテル療法」は日本でも今年の7月に承認され、その後アメリカの臨床試験結果と同等の効果が報告されています。
注目すべきは、FDAが「抗体カクテル療法」の対象となる高リスク患者として、脳性麻痺などの神経発達疾患患者、遺伝性・代謝性疾患または重度の先天性疾患など複雑な病態を抱える患者、および気管切開・胃瘻・COVID-19に起因しない陽圧呼吸など医療依存度の高い患者を挙げていることです。日本でも本年7月に厚生労働省新COVID-19対策推進本部から発出された通達において、脳性麻痺や医療依存度の高い患者をアメリカと同様に「抗体カクテル療法」の対象とすることが明記されています。新型コロナウィルスの増殖を抑えて重症化を防ぐという作用機序から、重症心身障害を有する利用者がCOVID-19に罹患した場合は診断後可及的早期に「抗体カクテル療法」を開始すべきであると考えます。
一方、駆虫薬イベルメクチンおよび抗インフルエンザウィルス薬ファビピラビルは、いずれもCOVID-19の重症化予防・生命予後改善効果について明確なエビデンスが得られておらず、COVID-19の治療薬として推奨することはできないと考えられます。
さて、当東大和療育センターでは緊急事態宣言の解除に伴い、本年10月11日から感染防止対策を講じながら、ご家族による面会を再開しました。その初日、利用者の手をしっかりと握り頭を撫でながら、今にも頬ずりをしそうなほど顔を利用者に寄せて語りかけるご家族、そして見つめ返す利用者の姿を拝見し、万葉集に収められた防人の歌を思い起こしました。
父母が頭(かしら)かき撫で幸くあれていいし言葉ぜ忘れかねつる
親が子の幸せを願い、子が親を思う心は古今東西変わりがありません。コロナ禍の中で、病める方も重い障害のある方も老いも若きも安心して自分らしく暮らしていくことができる社会の実現が、改めて希求されています。
重症心身障害児者の生活と人生を力強く支える存在として、本学会が益々発展していくことを祈念いたします。
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