日本重症心身障害学会誌
Online ISSN : 2433-7307
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45 巻, 3 号
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巻頭言
  • 白井 徳満
    2020 年 45 巻 3 号 p. 215-216
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
     今日の社会は、人々をいつも比較し、絶えず評価することによって成り立っている面があります。私は、そのことに関する忘れられない一つの出会いを経験しました。 1.A君母子との出会い  ずいぶん前のことですが、小頭症で生まれた男の赤ちゃんの担当医になったことがあったのです。その子、A君は、懸念されたようにやがて知恵が遅れ、下肢にマヒが出現し、言葉の発達が遅く、また聞き取りにくいことが次第に明らかになっていきました。けれども、自分で食べ、自力で歩き、呼吸機能もよかったので、家庭で育てられ、家庭から養護学校の小学部、中等部と進み、月に一度私の外来に通ってくれました。  母親は外来に来るたびに、A君がこの1か月にどんな経験をして、どれほど成長したかを嬉しそうに語ってくれました。外来における母と子には、いつも、平和な喜びがあふれているように見えました。母親はA君を誇りとしているようでした。 2.比較しなかったA君の母親  私は、外来のたびに、背負っているはずの重荷の中で輝くように生きているA君とその母親に出会って、不思議な驚きと感動を覚えました。そして、この母と子の平和の源のひとつは「比べない」ということにあるのではないか、と次第に思うようになりました。  母親は、わが子を同年代の他のお子さんと比べることをしなかったようなのです。母親がA君と比べたのは、他のお子さんとではなく昨日のA君とでした。今日のA君は昨日に比べるといつも新しく、いつも進歩し続けていました。  比較され、評価されることなしに今日の社会を生きることは不可能かもしれません。乳児検診から幼稚園への入園、小学校、中学校の入学、高校受験、大学入学のための共通テストなど、私たちはいつも比較され、評価されて生きてきました。 3.比較社会に生きる痛み  比較することなしには現代社会が成り立たないことは一つの現実でありましょう。けれども比較することは、同時に、計り知れないマイナスを社会と個人に与えます。  比較をルールとする社会は、少数のより高く評価される人とそうではない大部分の人々を生み出すのが常です。けれども、いかに優れた人でも、より優れた人と比較されればたちまち敗者となります。誰も生涯を通して勝者であり続けるのは不可能なのです。  多くの人々が本当に願うことは、勝つことではなく、負けることでもなく、心に平和があること。競うこと、争うことなしに互いに助け合って生きる社会です。私たちは現実にすでに比較社会に生きていますが、多くの人々の心からの願いを実現してくれる、別の原理によってこの社会を生きることが必要であると考えます。 4.比較社会に生きるもうひとつの原理  金子みすゞはかって「みんなちがって みんないい」と歌いましたが、この詩は、比較されるものの痛みを知ったみすゞの悲しみの声であり、その現実から抜け出ることを願ったみすゞが見た一筋の光であったと思われます。  最も小さな者、最も弱い者に価値があると二千年前に語った人がいました。ある時、自分のそばに一人の子どもを立たせて、「あなたがたの中で最も小さな者こそ最も偉い者である」とイエスが語ったと聖書は伝えます。  最も弱い者が最も尊ばれる社会こそ、そこでだれもが平和に生きることのできる社会であると思われます。なぜならば、だれもが、現に、あるいは、やがて、最も弱い者として生きねばならない時が来るからです。  予防接種の副作用で重症心身障害児となったご次男を38年間自宅でお世話した、私の尊敬する友人は、お子さんが召された時、「この生命は人の光」という書を書かれました。歌人であったお子さんの母親は、お子さんの死を悲しんで「青き蝶 この母を置き 旅立つか」と歌われました。  最も弱い者を一人残らず大切にするという重症心身障害児の医療と療育を導く精神は、比較社会に生きる人々の痛みを和らげる光であり、この社会を根底から支える力であると思われます。
原著
  • 糀 敏彦, 高岩 美希, 大城 望, 川原 ゆかり, 清水 義之, 白石 範子, 飯田 千晶, 柳瀬 治
    2020 年 45 巻 3 号 p. 217-224
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)施設長期入所者における、低亜鉛血症の現状および要因について栄養学的見地より検討した。2018年4月より2019年3月までに血清亜鉛値を測定した84名(34〜70歳)を対象とし、血清亜鉛値、亜鉛摂取量、亜鉛欠乏に関与する因子、栄養方法毎の栄養素摂取量を比較検討した。栄養方法は濃厚流動食を含む経口栄養補助食品(oral nutritional supplements、以下、ONS)群、ONSと食事の併用群、食事群の3群に分けた。84名の血清亜鉛中央値は67(44~128)μg/dl、亜鉛摂取量中央値は12.1(5.7~70.6)mg/日であった。推奨量(男性10mg/日、女性8mg/日)以上の摂取者58名中46名(79%)の血清亜鉛値は基準値(80~130μg/dl)を満たしておらず、亜鉛摂取量は十分であるにもかかわらず亜鉛欠乏を呈する入所者が多い現状がわかった。血清亜鉛値、亜鉛摂取量を目的変数とした多変量解析により、年齢、性別、血清銅値、亜鉛製剤の併用、血清アルブミン値、栄養方法、エネルギーが有意に関与していた。特に亜鉛製剤併用、栄養方法の違い(食事と較べONSで増大)が亜鉛摂取量に強く影響していた。栄養方法毎の栄養素摂取量の比較では、ONSと食事の間の亜鉛必要量の差に、銅・カルシウム・食物線維・ビタミンC摂取量、摂取亜鉛銅比の影響はみられなかった。可能なかぎり食事からの亜鉛摂取を増やすことが、亜鉛過剰を防ぎながらの低亜鉛血症の治療に有用である可能性が示唆された。
  • 鈴木 理恵, 糸見 世子, 白石 一浩
    2020 年 45 巻 3 号 p. 225-230
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
    気管切開(以下、気切)後の神経筋疾患患者では、気管の変形に伴う気切チューブの不適合など気切チューブに関わる問題点が生じやすい。その問題点に既製の気切チューブ(以下、既製チューブ)では対応困難な例に対して、長さや角度を変更して受注生産した気切チューブ(以下、受注チューブ)を導入した。気切下人工呼吸を行う神経筋疾患患者7例での使用経験から、受注チューブの有用性を検討した。気切後長期の6例では、気切チューブの不適合による交換時の苦痛やチューブ先端の気管壁への接触などの問題点があった。気切後短期の1例では、既製チューブでは希望する呼吸器装着下での発声が得られなかった。受注チューブ導入により、円滑な交換や先端位置の改善、呼吸器装着下での発声などが得られた。切り込みガーゼによる気切チューブの位置補正が不要になった。患者に適した気切チューブの選択は、合併症の予防や医療安全の向上、QOLの改善にもつながる。受注チューブは、既製チューブでは対応し難い問題点への改善策になりうる。
  • −全国受講生調査−
    落合 三枝子, 八代 博子, 石井 昌之, 有松 眞木, 富永 孝子, 西藤 武美
    2020 年 45 巻 3 号 p. 231-240
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
    2011年に創設された日本重症心身障害福祉協会認定の重症心身障害看護師制度においては、2017年3月末現在、7つの教育機関で研修が行われ、計449人の看護師が研修を修了している。教育機関の全国拡大を機に、認定教育機関における研修(以下、研修)を受講した看護師を対象に、研修の目標達成と課題を明らかにすることを目的に調査を行った。調査結果から「看護の質・専門性の向上」では、受講前と比べて18項目中10項目で70%以上の受講者が専門性の向上を認識していた。施設における「指導的役割の遂行」では、学習会・研修会等を担う役割の拡大が認められた。また、他施設の職員との交流やネットワークができ、施設の垣根を越えた研修の良さが確認できた。一方、課題としては、研修内容の改善とともに看護管理者による支援体制の構築を行う必要性が明らかとなった。
症例報告
  • 徳光 亜矢, 浅井 洋子, 斉藤 剛, 岩佐 諭美, 鳥井 希恵子, 土井 敦, 竹田津 未生, 林 時仲, 楠 祐一, 岡 隆治, 平元 ...
    2020 年 45 巻 3 号 p. 241-246
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)における高齢発症のてんかんを2例経験した。1例目は発症時72歳の大島分類15の男性で、特に誘因なく20秒の強直間代けいれんを起こした。経過観察していたが、9か月後から、しばしば口をぺちゃぺちゃする自動症や、発作後のもうろう状態を伴う数分の意識減損発作がみられるようになった。レベチラセタム500 mg/日で治療を開始し、1000 mg/日で発作の抑制が可能となった。2例目は発症時73歳の大島分類1の女性で、舌を前に出すような動きと頻脈を伴った上肢と上眼瞼の律動的なぴくつきが断続的に出現した。クロバザムで治療を開始し、15 mg/日で発作は一度鎮静したが、2か月後から、時に頻脈や眼球固定を伴う、数分間の上肢・眼瞼のぴくつきが頻発するようになった。クロバザムを増量しても効果がなく、レベチラセタムへ置換した。500 mg/日から開始し、1000 mg/日で発作抑制効果が得られた。2例とも覚醒度や認知機能の低下といった副作用はみられなかった。今後、重症心身障害者においても高齢者てんかんの発症に留意する必要がある。また、その治療には副作用や薬剤間の相互作用が少ない新規抗てんかん薬を用いるのが望ましい。
  • 太田 恵美, 小西 健一郎, 草場 稜子
    2020 年 45 巻 3 号 p. 247-252
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
    重度脳性麻痺者は、加齢に伴う筋量、筋力の低下が起こりやすく、ADLが低下し、寝たきりに陥ることが多い。一例の重度脳性麻痺者へ筋力トレーニングを導入することで、サドル付き歩行器歩行を用いた移動動作の向上が見込めるか検討した。重度脳性麻痺の56歳男性。歩行器での移動経験をもつが、寝たきりに近い状態となった。多職種で協力し、週2回の頻度で20週間継続して筋力トレーニングを行った。運動強度は、バイタルサイン、独自の運動強度フェイススケールを用いて調整し、安全面および適度な負荷に配慮した。連続移動距離、歩行様動作の変化、痙性、参考評価として筋量、筋力を評価した。連続移動距離の延長とともに歩容の変化があった。また、20週間の筋力トレーニングで痙性の変化はなく、参考評価である筋量および筋力も増加した。重度脳性麻痺者への積極的な筋力トレーニングでサドル付き歩行器歩行での移動能力に有用な改善がみられた。
  • 三津井 彩加, 入間田 健, 安藏 慎
    2020 年 45 巻 3 号 p. 253-255
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
    症例は7歳女児、原因不明の急性脳症のため重症心身障害児となり経腸栄養剤で栄養管理されていた。ミキサー食導入目的で入院し、鶏卵を加熱処理した玉子豆腐を注入後にアナフィラキシーを起こした。重症心身障害児にミキサー食を導入する際には、アレルギー発症を考慮した慎重な対応が求められる。
  • 松澤 依子, 久保田 一生, 山本 崇裕, 足立 美穂
    2020 年 45 巻 3 号 p. 257-262
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
    Wolf-Hirschhorn症候群は重度の精神発達遅滞、難治性てんかんなどを合併し、予後はてんかんや心疾患による。近年、重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の高齢化により、死亡原因として悪性腫瘍の頻度が増えている。症例は、大島分類1の40歳男性。突然不機嫌や啼泣を認め、発熱も認めたので受診。39歳時にバレット食道に罹患しており、上部消化管内視鏡検査を行ったところ、食道部に隆起性病変を認め神経内分泌癌と診断した。神経内分泌癌は予後不良であり、消化器内科医も含め家族と話し合いを行った結果、緩和ケアを希望。緩和ケアチームを早期に発足し、痛み評価についても家族と話し合いを行いながら治療を行うこととした。家族の希望である在宅移行に向け多職種カンファレンスも定期的に行った結果、終末期に自宅で過ごせた。重症児(者)の緩和ケアの進め方、在宅移行の報告は少なく、小児科医による対応だけでは限界がある。重症児(者)の管理には、多職種や成人対応科等の他科との連携が重要と考える。
  • 上野 悠, 高尾 智也, 宮田 広善
    2020 年 45 巻 3 号 p. 263-266
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
    症例は27歳の女性。生後10か月で肺炎球菌による細菌性髄膜炎となり水頭症を合併し重度の後遺症を残した。成長するにつれて誤嚥性肺炎を繰り返すようになり、19歳で胃瘻造設、22歳で気管切開術を施行された。25歳時に当施設に入所されたが、唾液誤嚥が多く肺炎を繰り返したため26歳で喉頭気管分離術を施行された。術後10か月目に気管より多量の出血を認め、頸部造影CTにて気管支動脈から肉芽への側副血行路より出血したものと診断した。挿管チューブを挿入してカフを膨らませて一時的に止血したが、翌日に再度出血して血液貯留による窒息により死亡した。
  • 井上 美智子, 吉永 治美, 産賀 温恵, 水内 秀次
    2020 年 45 巻 3 号 p. 267-271
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
    発作的な気管狭窄を来す気管軟化症と構造的な気管狭窄の合併のため呼吸不全が増悪した重症心身障害者において、気管切開を回避した外科手術により呼吸不全の改善を経験した。症例は手術時25歳の脳性麻痺の男性。17歳から高CO2血症のため、非侵襲的陽圧換気療法を施行した。筋緊張が強く19歳からバクロフェン髄注療法を開始、高度の側彎を認め、緊張亢進時には薬剤投与を要した。さらに術前10か月から気道感染を反復し、発作性に繰り返しチアノーゼを認めた。気道感染治癒後も筋緊張が増強し、酸素必要量が増加した。胸部CTでは気管が胸骨と腕頭動脈に圧迫され狭窄していた。これに対し、患者の良好な社会生活維持の観点を加味し、気管切開を回避した胸骨部分切除および腕頭動脈離断術を施行した。術後、日中の酸素投与は不要になり発作性の低酸素血症も消失した。胸骨部分切除および腕頭動脈離断術は、気管軟化症と構造的な気管狭窄により呼吸不全を来した患者において、社会的な制約を増加させることなく有効な治療法の一つと考えられた。
  • 三宅 進, 杉田 真喜雄, 岡崎 富男, 丸川 健一
    2020 年 45 巻 3 号 p. 273-278
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
    症例1は52歳の脳性麻痺とてんかんの男性で、胃食道逆流症による頻回の嘔吐を防ぐため胃瘻より排液していたところ、静脈血液ガス分析でpH7.59、HCO3- 62.8 mmol/L、K+ 2.81 meq/L 、 Cl- 81 meq/Lと異常を呈した。このときけいれん発作はなかったが脳波上右前頭部の棘徐波複合が頻発した。症例2は6歳10か月頭蓋内出血後遺症の男児で、生下時脳幹部動静脈奇形よりの出血がありけいれんを生じた。フェノバルビタール投与でけいれんは抑制されたが、頻回の嘔吐があり、症状軽減のため胃瘻からの排液を行っていた。4歳11か月の脳波検査で右後頭部に頻回のてんかん発射が見られ、静脈血液ガス分析はpH7.54、HCO3- 38 mmol/L 、K+ 2.82 meq/L、 Cl- 95 meq/Lと異常を認めた。両例とも胃瘻からの排液を中止し血液pHが改善するとともにてんかん発射は減少した。重症心身障害児(者)で嘔吐、胃吸引などに際してけいれんや脳波異常の悪化を生じた場合、その一因に代謝性アルカローシスをも考慮すべきと思われた。
  • −応用行動分析的手法を用いて−
    蜂谷 直樹, 竹﨑 和子
    2020 年 45 巻 3 号 p. 279-282
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、幼少時からつば吐き行為の行動障害が持続している重症心身障害者を対象に、応用行動分析的手法を用いて支援を検討することである。行動が起こる前には必ずその起こるきっかけがある1)ため、つば吐き行為の多い「朝食前の車イス移乗時」「夕食前の車イス移乗時」の2場面を抽出し、つば吐き行為の状況を点数化しantecedent-behavior-consequence analysis(以下、 ABC分析)を行った。ABC分析によって、つば吐き行為を起こす要因は行動障害の機能である注目の欲求の表出であると考え、言葉だけでなく視覚からの伝達、マッサージによるスキンシップ等の介入を行った。介入前後の点数を比較した結果、つば吐き行為のない日数が増加していることが明らかとなり、行動障害者に対して応用行動分析手法を活用した支援を検討して対応する重要性について示唆を得た。
論策
  • 土井 恵子, 泊 祐子
    2020 年 45 巻 3 号 p. 283-290
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
    看護師は重症心身障害児(以下、重症児)の体調をどのように観察し臨床判断を行っているのか、重症児ケアの専門性を明らかにすることを目的とする。重症児に精通した看護師に半構成面接を行い質的記述的に分析した。その結果、看護師の臨床判断は、【重症児の特徴を踏まえて観る】をベースに、重症児特有の病態などを加味し【治療が必要な体調変化を見極める】ことで、【診断・治療の変更に結びつける代弁をする】ことにより、完治することのない重症児に【安定した体調維持への看護ケアを選択する】ことであった。これらの臨床判断は【重症児のQOLを第一に考える】という重症児を看る基本姿勢の中にあった。看護師は、重症児の日常生活に影響する体調変化に着目し、日常生活パターンから逸脱状況を見極めることで、治療介入の有無を臨床判断していることが解った。つまり、単なる病状判断だけではなく重症児の生活そのものを加味しながら臨床判断を繰り返し、体調の安定した生活維持を目指すことが重症児看護の専門性であると考える。
  • 杉浦 信子, 小沢 浩
    2020 年 45 巻 3 号 p. 291-297
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
    障害児者のノーマライゼーション推進のためには障害児者を社会が正しく理解することが大切である。そこで、発達・療育に関する知識が社会にどの程度正しく広まっているのかを調査した。入学直後の看護学生40名、言語聴覚学科学生34名にアンケートを行った。用語を知っているか否か、知っていれば数行で説明を記述するよう依頼した。アンケート配布数74、回収数74、回収率100%。18歳から43歳の男性14名、女性60名の回答を得た。療育関係の用語は「知らない」との回答が多かった。特に超重症児、重症心身障害児、医療的ケアは認知度が低く、それぞれ93%、73%、69%が知らないと答えていた。発達障害関係の用語は誤答が多く、発達障害を発達遅滞(25名/74名)、学習障害を知的障害(15名/74名)とする回答が多かった。発達・療育に関する理解は、関心が高いと思われる分野の学生においても不十分であり、今後正しい知識を伝えていく必要があると考える。
  • 淺野 一恵, 牧野 善浴
    2020 年 45 巻 3 号 p. 299-307
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
    経腸栄養分野相互接続防止コネクタ(ISO80369-3)新規導入にあたり、小児発達期分野での課題を抽出するため、在宅医療的ケア児者の介護者を対象にWeb上でアンケートを実施した。有効回答数は667回答。1日のコネクタ着脱回数は21~40回が42%、41~60回が19%、61回以上が12%であり、非常に頻回である実態が判明した。接続部がロック機構に変更になる点に関して「外れなくては困る」19%、「外れた方がよい」42%という回答が、「外れない方がよい」13%、「外れては困る」1.8%を大幅に上回った。その理由として118回答が「胃瘻本体・経鼻チューブの事故抜去」「胃瘻部の損傷」等の重大事故の可能性をあげた。ネジ式に変更になる点に関しては89%が不安であると答え、その多くは介護者の負担増加、溝への栄養剤付着による衛生面の問題をあげた。ネジ式ロック機構の新規格コネクタは在宅医療的ケア児者にとって安全面と介護者負担の点で不利益となる可能性があり、これらの課題が検証されるまで現行コネクタの出荷は継続されるべきと考えた。
  • 永江 彰子, 淺野 一恵, 片山 珠美, 徳光 亜矢, 口分田 政夫
    2020 年 45 巻 3 号 p. 309-312
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
    医療事故防止対策の推進や、国際的な整合による製品の安定供給のために、我が国においても異なる分野間の相互接続を防止する国際規格ISO80369-3(新規格製品)が2019年12月より導入され、2021年11月末には既存規格製品と両者の相互性のための変換コネクタの支給が終了する予定である。しかし、米国における新規格製品への移行率は導入から3年が経過しているにもかかわらず20%以下である。移行率の低さの原因としてネジ部分の汚染、ネジ操作やアダプター着脱の煩雑さおよび急な牽引による腹壁損傷の可能性等が挙げられるが、これらは在宅注入栄養者にとって特に負担となるものである。注入栄養は在宅等で非医療従事者によっても実施されている医療的ケアであるため、関連するデバイスは様々な視点から合理性を追求する必要がある。新規格製品の小児科領域における問題点を徹底的に検証する必要があること、そのために既存製品の使用期限の延長が必要であることを新規コネクタ問題プロジェクトチームより提言する。
  • −検査技師分科会におけるアンケート調査−
    田村 えり子, 泉 明佳
    2020 年 45 巻 3 号 p. 313-318
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))施設における臨床検査技師は、検体検査や生理学的検査だけでなく感染症対策など各種委員会での重要な役割もあり、少人数でそれらの業務を実施している施設が多い。全国重症児(者)施設職員研修会において2008年から開催している検査技師分科会からは、臨床検査領域で重症児(者)に特有の課題・問題が多く存在しており、各施設、各技師の工夫で対策して検査を実施している状況が窺えた。そのような状況の中で業務を行う臨床検査技師の思いについて、2018年検査技師分科会において全国134施設に対し「重症児(者)施設における臨床検査技師の役割とやりがい」としてアンケート調査を実施した。回収率は20.2%と低かったが、「役割を感じる」という回答が92.9%、「やりがいを感じる」という回答が89.3%であった。今後、より組織化した検査技師分科会等の活動を行い、多くの課題に対し体系的な対策を考えて情報発信し、多くの重症児(者)施設の臨床検査技師がそれらの情報を共有して検査全般に生かし、重症児(者)医療に貢献していくよう努めることが、さらなる臨床検査技師の役割とやりがいにつながるものと考える。
  • 吉良 美緯, 富和 清隆
    2020 年 45 巻 3 号 p. 319-326
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))のQOLの向上と、介護者の負担の軽減を目的として、重症児(者)の被服設計に必要な身体寸法の計測、被服製作に取り組んだ。東大寺福祉療育病院に入所・通所する25名を計測し、新規に考案した「計測値記録用紙」に、重症児(者)の被服設計に必要な情報・参考寸法をまとめ、計測結果を既存のデータと比較・分析した。被験者の8割以上が低身長で、痩せた細い体格であることを確認し、参考文献に記された身体各部の寸法に対して、特に下肢が極端に細く、体幹部と四肢の太さが不均衡な状態であることがわかった。重症児(者)の被服設計において、特に細い部位は麻痺が強く着脱が困難であることに留意して、伸縮性の高い素材の選択や、更衣動作に適した開口部を設計する必要性が示唆された。
  • 伊東 藍, 中村 由紀子, 雨宮 馨, 大谷 聖信, 阿部 恵, 粟田 美穂子, 高嵜 瑞貴, 小沢 浩
    2020 年 45 巻 3 号 p. 327-332
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
    喉頭気管分離術後のカニューレフリー管理は、気管内肉芽や気管腕頭動脈瘻などの合併症が防げる有用な方法のため近年その報告も増加傾向にあるが、気管内吸引の実施者が医療者に限られるなどの課題がある。当院の重症心身障害児(者)通所事業ではカニューレフリーの重症心身障害児(者)(以下、フリー者)が4名いるため、送迎時に看護師が添乗できない場面が生じる場合、緊急時に介護福祉士、保育士などの介護職が吸引することが避けられず、フリー者の安全確保を目的としたワーキンググループ(以下、WG)を立ち上げた。WGの活動内容として、1.講習会の開催、2.フリー者2名のカニューレフリーの状況評価と対応の検討、3.本人用チェックリストカードの作成、4.バスマニュアル用の急変対応フローチャートの作成、5.介護職に対する3号研修に準じた模擬モデルを用いた吸引手技と急変時対応の研修会の実施、6.介護職による送迎バスの添乗、を行った。社会的制約によりフリー者の生活の質が低下することのないよう、本WGのようなシステムの確立が必要である。
  • 仁宮 真紀, 松田 明子
    2020 年 45 巻 3 号 p. 333-340
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
    重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の看護において、安楽は重要な看護実践の一つである。本研究では、医療型障害児入所施設でくらしている重症児(者)を安楽な状態に導くための看護実践と課題を明らかにすることを目的として、グループインタビューを行い、データを質的に分析した。その結果、【安楽を確かめるためにさまざまな手段を駆使する】、【安楽な状態に導くための方法を多角的に模索する】、【「その人」の安楽な状態を知るために関係性をつくる】、【“ドンピシャリな安楽”が提供できたときに喜びを感じ、その方法を伝えたい】、【看護師間で対話が上手くできないことに葛藤する】、【安楽のケアを実践していくために職員が良い雰囲気で対話できる環境を模索する】の6つのカテゴリーが抽出された。看護師は、重症児(者)を安楽な状態に導くために、「その人」が安楽な状態であるのかを確かめたり、ケア方法を試行錯誤するプロセスを経ていた。また、看護師自身の心理状態や安楽を提供する環境を整えること、さらに重症児(者)との関係性を構築するというプロセスを経ることが重要であると考えて看護実践を行っていた。そして、重症児(者)を安楽な状態に導く看護実践を行うためには、そのプロセスにおける看護師の意図を言語化して、他の看護師や職員に伝えることが必要であると考えていた。そのためには、職員間で安楽について対話を重ねていく機会を作ることが課題として挙げられた。
  • −東京都内の受講生と看護管理者調査−
    八代 博子, 落合 三枝子, 石井 昌之, 有松 眞木, 富永 孝子, 西藤 武美
    2020 年 45 巻 3 号 p. 341-348
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
    東京都内(以下、都内)の医療型障害児入所施設・療養介護事業所における重症心身障害看護師研修(東京都重症心身障害プロフェッショナルナース育成研修 以下、研修)の受講生と当該施設の看護管理者を対象に、研修の成果と課題を明らかにすることを目的に調査を行った。調査結果から、研修の目的である「専門的な知識・技術の理論的な探究」が認められ、「離職率の低下」も研修の成果として認められた。一方、研修の教育機関には「受講生の負担を軽減する研修方法」「地域の特性を考慮した研修の工夫」、看護管理者には「受講生の負担を配慮した役割分担」「研修継続には受講生を増加させる仕組みづくり」の課題が明らかとなった。
  • 岩垣 穂大, 扇原 淳
    2020 年 45 巻 3 号 p. 349-358
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
    本研究は、重度訪問介護におけるヘルパーのリスクを抽出し、予防方法と対策を考察することを目的とした。重度訪問介護を提供する事業所のヘルパーを対象としたインタビュー調査およびWeb アンケート調査を実施した。【感染症のリスク】について感じたことがあると答えたヘルパーは 83.3%であった。【腰痛のリスク】では、リスクを感じていたヘルパーが87.3%であった。【感染症のリスク】に関して、費用を理由に予防接種を行わないヘルパーが多かった。今後は、行政によるヘルパーを対象とした予防接種に対する財政的な補助制度について検討する必要がある。【腰痛のリスク】に関しては多くのヘルパーが各自で対策をとっていた。こうした課題への対策として、行政では重度訪問介護従業者養成研修を行っているが、本調査結果を反映した研修内容とその構成の検討が求められる。
短報
  • 久保 恭子, 坂口 由紀子
    2020 年 45 巻 3 号 p. 359-363
    発行日: 2020年
    公開日: 2023/03/30
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、在宅で暮らす超重症児(者)の長期停電を想定した屋外避難の可能性と母親の心理を明らかにすることである。面接調査の結果、屋外避難の可否は屋外に【超重症児の生活する場所の有無】と【超重症児を移動する手段の有無】があった。母親の心理は【(大災害時)児とともに生き延びる自信がない】【児と一緒に天国に行くことを望む】があった。今後の支援として、長期停電が予測される際、地域の医療機関等で超重症児(者)を受け入れるシステムを全国的に整備すること、居住地域の共助力を上げ、超重症児(者)を屋外に移動させる手段を確保すること、そのためには、超重症児(者)が使用できる避難用物品のさらなる開発が必要である。母親は危機的状況時、児と自らの命を守る行動に消極的であり、母親へのサポートが求められる。
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