NEUROINFECTION
Online ISSN : 2435-2225
Print ISSN : 1348-2718
29 巻, 1 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
会長挨拶
第27回日本神経感染症学会に寄せて
  • 庄司 紘史
    2024 年29 巻1 号 p. 2-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/23
    ジャーナル フリー

    1996 年日本神経感染症研究会として発足、2004 年学会へ移行し、各種脳炎・脳症、脊髄炎、髄膜炎を中心に取り上げ、学術発表、交流の場を提供し、2023 年第27 回本学会を盛会理に終了した。学会員94 →現在541 名、参加者160 → 393 名、一般演題数34 → 48 題に推移していた。第27 回までの会長講演・特別講演の演題名を分類したところ、プリオン病10 演題、ウイルス性脳炎5、インフルエンザ脳症3、HTLV-1 脊髄症(HAM)3、エイズ脳症3、ヒトヘルペスウイルス-6(HHV-6)1、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)1、多巣性白質脳症(PML)1、ワクチン1、野兎病などの希少疾患含むその他であった。それぞれの時代の社会的要請に対応し、広く一般医にも役立つ主要神経感染症疾患の診療ガイドラインを発行;細菌性髄膜炎、単純ヘルペス脳炎、HAM の診療ガイドラインの書籍発行、プリオン病、インフルエンザ脳症などのPDF を公開した。2019 年末から2020 年にかけてウイルス変異によるCOVID-19 感染の世界的な流行が発生したが、現在、なおあらたな変異の脅威は持続しており、異常気象や高齢化の宿主免疫能の低下による各種神経感染症の変貌、リスクの増加が予想される。

教育講演
  • 新井 文子
    2024 年29 巻1 号 p. 8-13
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/23
    ジャーナル フリー

    慢性活動性Epstein-Barr ウイルス病(CAEBV)は、持続する炎症症状に、EBV に感染したTもしくはNK 細胞のクローン性の増殖を伴う進行性の難治性疾患である。おもな症状は発熱、リンパ節腫脹、肝脾腫であるが、さまざまな臓器に感染細胞が浸潤し、多彩な臨床像を示す。特に神経症状は、単神経炎、慢性炎症性多発脱髄性神経炎、高サイトカイン血症に伴う意識障害、腫瘍としての浸潤など多岐にわたる。神経内科領域の医師への疾患周知は重要である。CAEBV は2017 年に改訂されたWHO 造血器腫瘍分類にT、NK 細胞腫瘍として記載されて以降、世界的に報告例が増えている。発症機構の解明と治療法開発が本邦の研究者に期待されている。

  • 森内 浩幸
    2024 年29 巻1 号 p. 14-20
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/23
    ジャーナル フリー

    オミクロン株に置き換わって、COVID-19 のインパクトは季節性インフルエンザに近づいた。医療のあり方を5類相当に切り替え、感染予防効果が期待できなくなったワクチンの対象をハイリスク者に絞る方針に、もっと早く移すべきだったと思う。子どもは重症化のリスクが低く、罹患後症状もまれである。日本の子どもにおけるCOVID-19 のインパクトは米国の子どもよりも小さいが、急性脳症のような神経学的合併症には注意を要する。いずれにせよ、感染対策だけ考える視野狭窄的な方針が子どもの心と社会的な健康を害してきたことについて猛省し、今後につなげていくべきである。

  • 奥村 彰久
    2024 年29 巻1 号 p. 21-25
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/23
    ジャーナル フリー

    小児の急性脳症はCOVID-19にさまざまな影響を受けた。オミクロン株の流行期に急性脳症の報告が増加し、厚生労働省高梨班の調査では31 例の小児のCOVID-19関連脳症の臨床像が報告された。けいれん重積型(二相性)脳症が最多で、全体の29%が死亡または重度後障害であり予後不良な症例が高率であった。また、COVID-19 の流行とそれに対する感染対策は、小児の感染症の疫学に甚大な影響を与えた。インフルエンザなどの気道感染症は激減し、それに伴ってインフルエンザ関連脳症が大きく減少した。一方、HHV-6/7 感染症は大きな影響を受けず、HHV-6/7 関連脳症の発症は続いている。出血性ショック脳症症候群は、重症の急性脳症として日本では比較的認知度が高いが、近年欧米からの報告はきわめて少ない。一方、劇症脳浮腫型脳症という概念が報告され、その特徴の一部は出血性ショック脳症症候群と類似している。出血性ショック脳症症候群はいまだ確固たる診断基準がなく、その作成と周知が望まれる。

  • 中嶋 秀人
    2024 年29 巻1 号 p. 26-31
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/23
    ジャーナル フリー

    脳炎・髄膜炎は迅速な診断と早期に的確な治療を開始することが必要な神経救急疾患であるが、原因はウイルス、細菌、結核、真菌など感染症のほか自己免疫機序によるものなど多岐にわたるうえ、臨床現場ではすみやかに原因病原体を同定することが困難なときも少なくない。そのため、推測される病原体に対する経験的治療(empiric therapy)を開始することが重要であり、細菌性髄膜炎では「1時間以内」の抗菌薬開始、単純ヘルペス脳炎では「6時間以内」のアシクロビル開始が推奨されている。2022 年に保険収載されたFilmArray 髄膜炎・脳炎パネルは短時間にウイルス、細菌、真菌を網羅的に検出できるマルチプレックスPCRであり、迅速診断による早期の確定的治療(definitive therapy)が期待されている。一方、原因不明の脳炎患者のなかからNMDA 受容体などシナプス関連蛋白や神経細胞表面蛋白を標的とする自己抗体による自己免疫性脳炎があることが報告され、重要な鑑別疾患と認識されるようになった。自己免疫性脳炎は免疫治療に良好な反応を示すことが特徴であるが、免疫療法の遅れが重症化や転帰不良につながることもある。脳炎・髄膜炎の診療においては、神経感染症と自己免疫性脳炎をあわせた診療アルゴリズムの構築が必要と考えられる。

  • 佐藤 克也
    2024 年29 巻1 号 p. 32-39
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/23
    ジャーナル フリー

    プリオン病は、「プリオン」と呼ばれる正常型プリオン蛋白がなんらかの因子で異常型プリオン蛋白に変換され、この異常型プリオン蛋白が感染性をもち脳内で増殖・沈着し、さまざまな精神症状や運動失調、認知障害などを引き起こす神経変性疾患・神経感染症疾患の一つである。プリオン病の分類は①孤発性プリオン病、②遺伝性プリオン病、③獲得性プリオン病に大別される。分類および疾患名などが年々異なっており、プリオン病の分類や疾患概念の変遷を紹介する。また近年、試験管内で異常プリオン蛋白を増幅する方法が確立され、脳脊髄液や鼻粘膜を用いて異常プリオン蛋白を検出することが可能となってきている。診断基準についても1990 年、1995 年、2009 年、2021 年と診断基準も変遷している。治療については、現時点で科学的に有効性が証明されたものはないが、治療法開発が進行している。2022 年よりプリオン蛋白抗体療法の治験が開始され、2024 年よりsiRNA 療法による国際治験が開始される予定である。教育講演では今までの基礎的な知識を丁寧に講演し、過去から現在までの診断基準・治療法の変遷を基礎的な知識も紹介しさらに令和4年度プリオン病のプリオン病のサーベイランスと感染予防に関する調査研究班の報告書の最新のデータを加え丁寧に説明する。

  • 吉田 眞理
    2024 年29 巻1 号 p. 40-48
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/23
    ジャーナル フリー

    神経感染症の病原体はウイルス、細菌、真菌、原虫(寄生虫)などがあり、病理学的に髄膜炎、髄膜脳炎、脊髄炎、脳膿瘍、脳室上衣炎、脱髄病変などを起こす。組織学的には、リンパ球、好中球などの炎症細胞浸潤、神経細胞の壊死と神経貪食像、杆状ミクログリアやマクロファージの増生を認める。神経感染症の臨床病理像や病変分布は、病原体の量、感染経路、罹病期間、治療などにより修飾を受ける。血管への病原体の浸潤により循環障害を伴うことも少なくない。剖検や生検の病理像では、感度、特異度の高い抗体価やPCRによるDNA の判定が陰性を示しても、病原体を確認しうることがあるため、組織診断を確認することは重要である。

基本研究トピック
基礎医学講演
  • 中川 草
    2024 年29 巻1 号 p. 54-57
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/23
    ジャーナル フリー

    DNA シークエンス技術の発展により、さまざまな生体内や環境サンプルから大量に塩基配列を同定することが可能になり、そのデータ解析から多様なRNA ウイルスが存在することが明らかになってきた。RNA ウイルス探索のためには、RNA ウイルスに特有のRNA 依存性RNA 合成酵素(RdRp)の配列による類似度探索が一般的であるが、RdRp の多様性ゆえに、未知のRNA ウイルスも数多く存在すると考えられている。本総説ではRdRp を活用したRNA ウイルスの探索手法の進展とその関連研究を紹介し、今後の感染症と大規模塩基配列を活用したRNA ウイルス研究の方向性について議論する。

症例報告
  • 藤田 修英, 中嶋 伸太郎, 足立 知司, 眞上 俊亮, 中尾 保秋, 山本 拓史
    原稿種別: 症例報告
    2024 年29 巻1 号 p. 58-62
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/23
    ジャーナル フリー
    意識障害のため救急搬送された76 歳男性。約2ヵ月間にわたる慢性頭痛の訴えがあり、来院時頭部CT では蝶形骨洞に骨融解を伴う炎症性変化、MRI で頭蓋内硬膜下膿瘍を認めた。髄液検査で好中球優位の細胞数上昇を認め細菌性髄膜炎と判断し抗菌薬投与を開始したが、感染が制御できずショックバイタルとなり入院翌日に死亡した。血液・髄液培養は陰性であったが、蝶形骨洞の粘膜培養からCandida Albicans が同定された。副鼻腔の炎症性変化や骨融解像を認める髄膜炎の患者では、細菌性髄膜炎に加え、真菌感染症を疑う必要がある。起因菌が同定されるまでの期間、広域抗菌薬に加え、抗真菌薬の併用を検討すべきである。
  • 瀧川 魁人, 伊崎 祥子, 西村 敏樹, 森田 昭彦, 石川 晴美
    2024 年29 巻1 号 p. 63-68
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/23
    ジャーナル フリー
    症例は70歳男性。自宅で倒れていたところを救急搬送され、来院時意識E1V1M5、顔面を含む四肢麻痺と感覚障害、右半身に多発する褥瘡を認めた。頭部MRIで広範な出血性梗塞を認め、心電図では心房細動があり、心原性脳塞栓症と診断した。 入院時より炎症反応高値であり、入院時の血液培養で Granulicatella adiacens (G.adiacens) が同定された。同菌は口腔内や消化管粘膜に常在し、おもに感染性心内膜炎(IE)の起因菌として知られる。本症例では上唇粘膜の潰瘍、または直腸と連続する痔瘻と左肛門周囲膿瘍を感染源としてIEを発症し、多発出血性梗塞をきたしたと考えた。非弁膜症性心房細動を有する多発出血性梗塞の症例で、入院時に炎症反応上昇を認める場合は、IEを鑑別にあげる必要がある。
feedback
Top