日本静脈経腸栄養学会雑誌
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31 巻, 6 号
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特集
  • 吉田 篤史, 上野 文昭, 森實 敏夫
    2016 年31 巻6 号 p. 1215-1220
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    胃瘻の歴史は長く、海外では外科的に造設された胃瘻が有用な栄養経路として普及していた。20世紀後半の PEGの開発により、胃瘻造設が内視鏡的に行われるようになった。1980年代の日本では、経静脈栄養あるいは経鼻胃管による経腸栄養が長期に行われる風土であったが、PEGの導入と医療制度の変革により、胃瘻が最も優れた長期栄養経路として認識されるようになった。現代の医療に定着した胃瘻を介した栄養療法ではあるが、著しい普及と共に濫用との批判を受けるようになった。確かに適応症例の選択の稚拙さもあることはあるが、多くの場合人工的水分栄養補給の可否を、胃瘻造設の可否にすり替えた議論の結果である。健全な臨床判断により、人工的水分栄養補給の必要性が認められれば、長期的には胃瘻を介した投与が適切であるのは当然と言えよう。

  • 鷲澤 尚宏
    2016 年31 巻6 号 p. 1221-1224
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    人工的水分・栄養補給法(artificial hydration and nutrition;以下、AHNと略)は改善することのない疾患や高齢者での適応を巡って議論されているが、何を指しているのかが明確になっていない。一般的には経管栄養や静脈栄養を指すことが多いが、医学的に特別な栄養法とは一致せず、患者や介護者のイメージで受け入れ状況が異なり、そこに医療者の誤った認識が影響して方針決定されていることを確認しなければならない。胃瘻を使った経管栄養は患者の病状によって、大きく位置づけが異なり、他の治療法と並んでひとつの医療技術に過ぎないが、何を AHNと判断するかが優先的に考慮されるべきで、対象となる患者にそれが適応となるか否かを方針決定する関係者全ての意見をすり合わせる必要がある。

  • 西口 幸雄
    2016 年31 巻6 号 p. 1225-1228
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    PEGは口から食べられない人にとって、きわめて安全で効率の良いエネルギー投与ルートである。PEGが「無駄な長生き」「国民医療費の無駄使い」のシンボルとして社会的にバッシングを受けてからというもの、PEG造設件数は減少した。いわゆる「PEGバッシング」があってから、どのようなことが起こっているのであろうか。代わって経鼻胃管や PICCの件数が増えている。PEG造設件数の減少は診療報酬の改定による造設手技料の減少によるところも大きい。また、在宅においては経腸栄養管理よりも経静脈栄養管理したほうが診療報酬が高いことも一因である。PEGが必要なひとに PEGができない現状であれば、非常に不幸である。PEGバッシングによって、PEGのエンドユーザーには無用の精神的な苦痛を与えていることは、ゆゆしい問題である。これを打破するには、社会に対する PEGの啓蒙と医師に対する栄養療法の教育が必要である。

  • 丸山 道生
    2016 年31 巻6 号 p. 1229-1233
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    経口的に食事が摂取できなくなった場合、「PEGを行うか否か?」が問題なのではなく、「人工的に水分・栄養補給をするか否か?」が問題なのである。人工的水分・栄養補給を行うと意思決定したならば、多くの摂食嚥下障害患者のもっとも適切な栄養投与経路は胃瘻となる。人工的水分・栄養補給を行わないなら、「何もせず」に、経口を細々続け、看取っていく。「胃瘻栄養」と「何もせず」の間に存在する経鼻栄養、静脈栄養、末梢点滴は栄養法として不適切である。PEGの適応は医学的な側面からの適応に加えて、倫理学的な側面からも検討が必要である。とくに、遷延した意識障害患者や重症認知症患者のような場合が問題となる。医学的に PEGが適応となる疾患それぞれの重症度や病態に対応したプラクティカルなガイドラインが必要である。PEGの適応の考察に加え、4例の PEG症例を挙げ、それぞれについてコメントを加えた。

  • ~臨床現場での現状と問題点~
    倉 敏郎
    2016 年31 巻6 号 p. 1234-1238
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    胃瘻は生理的で合併症も少なく QOLを維持する、AHNの中でもベストな投与経路である。しかし、マスコミなどによる PEGバッシングの影響で、患者・家族のみならず医療者も「PEGアレルギー」を持つようになり胃瘻のメリットが享受されない誤った選択がされている。適応を議論すべき高齢者の認知症終末期と、良い適応である各種疾患をしっかりと区別した上で倫理問題を考える必要がある。「PEGアレルギー」を払拭し胃瘻を使いこなせる社会づくりは簡単ではないが、PEG・在宅医療研究会や PEGドクターズネットワークが中心となり、あらゆる啓発活動を通じてなされるものと思われる。

  • 鈴木 裕, 大平 寛典, 吉田 昌, 北島 政樹
    2016 年31 巻6 号 p. 1239-1242
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    日本は急激な高齢化を迎え、2030年には生産人口と非生産人口が逆転すると予想されている。世界に類を見ない超高齢社会に確実に突入するなかで、PEGなどの医療の扱いは極めてデリケートな問題である。今や医療を経済と引き離して議論することはできないが、生命が直接関与する問題にはより慎重であるべきである。胃瘻を使いこなせる社会づくりの構築は、決して易しくないであろうが、日本の高齢者医療の進むべき道の指南役になる可能性を秘めている。

原著
  • ―本邦参加経験施設対象のアンケート結果から―
    伊在 井淳子, 野村 主弥, 池本 あゆみ, 山口 瞳, 隅田 英憲, 内藤 敦, 東別府 直紀
    2016 年31 巻6 号 p. 1243-1248
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    【目的】ICUにおける国際栄養調査の参加意義を検討する.【対象及び方法】参加前後の栄養管理の主導者,調査結果の共有方法,参加後の栄養管理改善の有無,コメディカルへの影響について,本調査の完遂経験がある本邦19施設にアンケートを行った.【結果】施設代表者100%,コメディカル63.2%の回答を得た.参加後は多職種参画の栄養管理が増えた.調査結果の共有を多職種で共有した施設は68.4%で,そのうち92.3%が「早期経腸栄養施行数が増加した」と回答し,医師のみで共有した施設の16.7%に比し有意に高かった (p<0.01) .多職種向け啓発活動を実施した施設は63.2%で,そのうち83.3%が「蛋白質投与量が増加した」と回答し,啓発活動未実施もしくは医師のみ対象に実施した施設の0%に比し有意に高かった (p<0.01) .【結論】国際栄養調査の参加は,多職種の栄養管理参画や栄養療法改善の契機となりうる.

  • 井田 絵美, 西本 好児, 大森 清孝
    2016 年31 巻6 号 p. 1249-1255
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    【目的】栄養療法開始後に薬剤師が患者の状態をモニタリングしていくためのチェックリストを作成し、その有用性を評価した。【対象及び方法】対象はチェックリスト導入前後それぞれ2年間の TPN患者とし、調査項目は五大栄養素、電解質異常、投与栄養量および処方提案件数とした。【結果】糖質、タンパク質およびビタミンについては導入前 (272名) および導入後 (254名) のすべての患者に投与されていた。電解質異常および投与栄養量に変化はみられなかったが、脂質および微量元素の投与割合は導入後にそれぞれ32.1%および28.4%有意に増加した。導入後の処方提案件数は1.6倍に増加し、提案の採択割合は20.4%有意に増加した。また、代謝性合併症に対する提案も可能となった。【結論】TPN処方チェックリストを用いた薬剤師による患者モニタリング業務は五大栄養素を充足させ、代謝性合併症に関する処方提案を可能とさせることが示された。

  • 穴田 聡, 中野 雅, 宮下 博幸, 八木澤 啓司, 中島 チ鹿子, 内田 淳一, 山田 悟
    2016 年31 巻6 号 p. 1256-1262
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    【目的】入院期間中の低栄養患者で ADL向上とその関連要因を調査すること.【対象及び方法】入院時のアルブミン値3.0g/dL未満の NST対象者で,ADLの指標として FIM運動項目 (運動 FIM) に着目し,ADL向上の関連要因の検討を行った.【結果】本研究の対象者は557例 (80.6±11.3歳) で,運動 FIMは NST開始時15.0点 (IQR: 13.0-34.0) ,終了時17.0点 (IQR: 13.0-41.0) へ有意に向上した (p=0.000) .しかし,NST終了時に ADLが中等度介助 (107例) と重度介助 (409例) の対象者で92.6%を占め,劇的な ADL向上を認めなかった.重回帰分析の結果,ベースラインの ADLが重度介助の対象者で,FIM認知項目 (β: 0.113,p=0.021) ,年齢 (β: -0.140, p=0.003) ,消化器疾患 (β: 0.166,p=0.000) ,運動器疾患 (β: 0.127,p=0.007) ,腎疾患 (β: 0.148,p=0.001) が有意因子として抽出された.【結論】低栄養患者の ADL向上には認知機能と疾患の把握が重要であるが,包括的支援の必要性が高いことが示唆された.

臨床経験
  • 長沼 文子, 折居 史佳, 佐藤 詩織, 石川 華奈子, 内山 絵里, 松井 美由紀, 古川 滋, 前本 篤男, 蘆田 知史
    2016 年31 巻6 号 p. 1263-1269
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    【目的】生物製剤を導入したクローン病への栄養指導の効果を明らかにする。【対象と方法】H20年4月~ H23年8月に当施設でインフリキシマブによる治療を施行した% IBWが90%未満のクローン病患者を対象とした。継続指導群17例、単回指導群10例について、102週まで経時的に% IBW、総蛋白、アルブミン、ヘモグロビン、CRP、Crohn's disease activity index (以下、CDAIと略) を比較した。群間の比較は Fischer検定、Mann-Whitneyの U検定、反復測定項目は分散分析を用いた。【結果】% IBWは両群において102週で有意な増加を認めた。総蛋白、アルブミンは102週間の増加量が継続指導群で有意に高値だった。CDAIは継続指導群で有意な低下を示した。【結論】体重減少したクローン病においては、継続的栄養指導による必要摂取量の充足が栄養指標の改善に寄与し、寛解維持に寄与する可能性が示唆された。

  • 西村 さゆみ, 高田 俊之, 中村 文泰, 合田 文則, 明石 哲郎, 水野 英彰, 三原 千惠, 佐藤 斉, 栗原 美香, 佐々木 雅也
    2016 年31 巻6 号 p. 1270-1273
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    近年、胃食道逆流・下痢の予防として経腸栄養剤の半固形化の有用性が報告されているが、細径の経鼻チューブでは、経腸栄養剤の粘度が高くなるほど注入が困難となる。我々は胃内で液体から半固形状に変化する粘度可変型流動食マーメッド®の有用性について多施設共同で研究したので報告する。液状の経腸栄養剤で消化器合併症をきたした症例に対し、ほぼ同エネルギーのマーメッド®に切り替え、胃食道逆流・下痢の評価を行った。喀痰吸引回数は有意に減少し、1日の吸引回数は半減した。下痢の回数に変化は見られなかったが、ブリストルスケールは有意に改善した。マーメッド®の胃内で半固形化する特性により、胃食道逆流のリスクは軽減し、アルギン酸の保水性や腸内細菌叢への作用により便性状を改善させたと推測できる。今回の結果からは、経鼻胃管栄養管理下にある患者の消化器合併症を抑制する選択肢として、粘度可逆型流動食マーメッド®は有用であると考えられた。

症例報告
  • 中丸 和彦, 白井 範子, 池邉 佳美, 村上 博美, 瀬口 正志, 飯田 則利
    2016 年31 巻6 号 p. 1274-1277
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    症例は46歳の女性。小脳出血と診断され近医で保存的治療中であったが、高 Na血症が悪化したため当院へ紹介入院となった。入院時検査で高 Na血症、低 K血症を認めたため、5%ブドウ糖輸液と塩化カリウム注射液で電解質異常の補正を行うとともに栄養管理及び摂食嚥下訓練目的に NST介入を開始した。栄養は静脈栄養と経腸栄養あわせて1日当りエネルギー 1400kcal、蛋白45g、脂質40gを目標とした。その後、入院10日目に横紋筋融解症による急性腎不全、高 K血症を認め、無尿状態となったため血液透析療法を開始した。血液透析療法により自尿が回復し腎機能も改善したため、入院20日目に中止した。高 Na血症の原因精査を行ったところ、高コルチゾール血症を認めたため、診断的治療として3β-HSD阻害薬であるトリロスタンを開始した。本症例における電解質異常はストレスや炎症による一過性の高コルチゾール血症が主たる要因と考えるが、さらに一過性の抗利尿ホルモン不応状態による可能性も考えられた。本症例における栄養サポートの目的は、栄養状態と嚥下機能を経時的に評価し、適切な提言を行うことであった。その結果、誤嚥性肺炎を起こすことなく全身状態は順調に回復した。本症例のような複雑かつ重篤な病態に対しては、リハビリテーションとともに NSTの積極的な介入を含めた集学的治療が有用であると考えられた。

  • 村山 敦, 冨田 雅史
    2016 年31 巻6 号 p. 1278-1281
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/12/20
    ジャーナル フリー

    歯痛による食事摂取不良から低栄養状態に陥り、ガス壊疽を伴った頸部壊死性筋膜炎を認めた61歳女性に対して、消炎処置と併行して早期栄養療法介入を行い良好な経過が得られた1例を経験した。全身麻酔下に膿瘍に対する切開ドレナージを施行、術翌日から経鼻経腸栄養を開始し、亜鉛等の微量元素を含む補助食品も加えて術後6日目には1600kcal/day以上のエネルギー提供量とした。術後10日で経口摂取移行し、術後3週間で頸部皮膚欠損部に対する植皮術を施行した。植皮後は創傷治癒に有利に働くとされるβ-hydroxyl-β-methyl butyrate (以下、HMBと略) ・L-アルギニン・L-グルタミン配合飲料を追加した。その結果、治療開始後から Alb・TTR・血中亜鉛濃度は徐々に上昇し、植皮も良好に生着、治療開始から約6週間で退院となった。早期に経腸栄養が開始することの重要性、ならびに病態や治療段階に応じた栄養療法介入が有用であったことが改めて示された症例であった。

日本静脈経腸栄養学会認定地方研究会
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