一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集
60回大会(2008年)
選択された号の論文の356件中201~250を表示しています
2日目ポスター発表
  • 山岸 裕美子, 佐野 雪江, 鈴木 靖弘
    セッションID: 2P65
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    〈B〉目的〈/B〉 介護の仕事は地味で職員の服装についても目立たないものが適しているとのイメージが持たれがちであり、これについては福祉従事者の間でも同じ認識がなされている。しかし果たしてそれで良いのであろうか。本研究は介護職員がおしゃれをすることにより、利用者がどのような好変化を見せるかについての調査である。59会大会の発表では、若者のファッションに対し高齢者がどう感じるかについての調査を行い、地味で目立たないものよりも、流行をある程度取り入れた服装に好感が持たれるという結果を得た。そこで今回はこの結果を受け、実際に介護職員に流行の服装をしてもらい、利用者たちの反応を調査した。〈BR〉 〈B〉方法〈/B〉 群馬県内のユニットケアを行っている介護老人福祉施設施設2か所において実施した(2007年10月~2008年2月)。各ユニット2名の職員に流行の服装で仕事をしてもらい、利用者の事前事後の状態について「生活満足尺度K」および「N式老年者用精神状態尺度」によって評価し変化の様子を見た。〈BR〉 〈B〉結果〈/B〉 得られた得点の数値は事後には高まり、利用者のQOLの向上及び生活機能面での変化が見られた。また、会話が円滑になり職員の意欲も向上するなど、生活空間の活性化がはかられた。これらより、利用者にとっては職員の服装は生活環境の一部であり、“今の文化”を共有するためにも重要な役割を果たすことが証明された。
  • 下村 香理, 見目 倫菜, 芦澤 昌子
    セッションID: 2P66
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    目的 色の見え方が照度レベルによって変化するということは、今まで多くの先人によって研究されてきた。今回、照度レベルの変化に加え、サイズのちがいにより色の明るさの見え方に着目し、小さい柄やボタン、または遠くの衣服などの色の見えにこの特性を応用できるのではないかと考え本研究に到った。
    方法 明るさを定量化するために、グレーの段階でスケールを作りカラーマッチングを行い、等価明度を計測した。照度レベルは1000、100、10、1、0.1、0.01lxの6段階。視野サイズは視角で4°、2°、1°、20′の4種類を使用した。刺激はマンセル表色系から赤、黄、緑、青の彩度、明度をそれぞれ変えた色票を選出し、被験者は学生5名、シニア5名の10名とした。
    結果 どの色票においても、照度レベルが低くなるとともに、等価明度の評価は小さくなった。薄明視以降、等価明度の評価は色相によって異なった。彩度のみを変化させた色票の等価明度はその変動が大きくみられ、赤では彩度の高いものでは、高い照度レベルで等価明度が高くなり、照度が暗くなるにつれ等価明度は低くなった。青では、照度が暗くなるにつれて一旦等価明度が下がるが、再びあがる。黄では等価明度の変動が小さい。明度のみを変化させた色票での等価明度の変動は、明度の差でほぼ並行的に移動し、動きは小さい。視野サイズの影響は、薄明視以降、それぞれの色相の視野サイズによる特徴が大きくみられた。赤では1lx以降20′の等価明度が他の視野サイズのものほど落ち込まない。青の20′では等価明度の上昇が照度10lxで起こり、他の視野サイズよりも早く、0.01lxで等価明度が大きくなる。黄と緑では、4°2°に比べ1°20′の等価明度の下降が小さい。
  • 道端 あい, 毛利 輝高, 内藤 直弘, 西川 直樹, 宮坂 広夫, 高岡 弘光
    セッションID: 2P67
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    【背景】洗濯後の衣類の香りや臭いに対する消費者意識は高く、近年、衣類の消臭、部屋干し臭抑制、高残香性等の機能を付与した洗剤が発売されている。また、洗濯後に残る気になる臭いとして、皮脂臭・加齢臭をあげる女性が多いことから、Web調査にて、特に“夫の洗濯物の臭い”に対する意識と洗濯行動の実態把握を行った。 【方法】洗濯主体者であり、かつ夫が同居している既婚女性を対象にWeb調査を行った(有効回答数1032人)。 【結果・考察】本調査により、既婚女性の82%が夫の洗濯物の臭いを不快に感じ、26%の人が分け洗いを行っている結果が得られた。年齢や結婚年数を項目とするクロス集計分析を行ったが、特に顕著な差はみられなかった。一方、結婚生活への満足度や二人での外出頻度等の夫婦間コミュニケーションに関連した項目と、夫の洗濯物の臭いに対する感じ方との間には高い相関性がみられた。また、家事参画度にも臭いの感じ方に対し同様な傾向が認められた。    そこで、夫婦間コミュニケーションレベルに関する25項目の質問を因子分析し、精神的充足や愛情表現実行等の4つの因子を抽出した。これらの因子を元に対象者をクラスター分析し、コミュニケーションレベルで夫婦の形態を5階層に分類した。その結果、「結婚生活ネガティブ」層では61%が夫の洗濯物の臭いを不快と感じているのに対し、「夫婦円満」層ではわずか6%であった。実際の行為としての分け洗いの実施率についても同様であった。これらのことから、夫婦間のコミュニケーションと夫の洗濯物の臭いに対する感じ方や洗濯行動とには密接な関係があると推定された。
3日目口頭発表
  • 松生 勝, 山田 智子
    セッションID: 3A4
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    ○松生 勝、山田智子 奈良女子大学大学院 目的、編布の伸長―回復過程において引張り荷重と被服圧を同時測定し、そのヒステレシス挙動についての解析を行った。解析には履歴積分を用いて荷重を時間の関数として求め、それを伸長―回復過程での荷重―ひずみ曲線に変換した。 方法、拘束巾1軸伸長装置にセットされた金属板の上にエアパックを置き、その上に編布をセットした。そして伸長及び回復過程での荷重と被服圧の関係を同時測定した。 結果、本解析法は、伸長-回復曲線をそれぞれひずみ履歴のステップ関数の加算、減算として組み立てるものである。この場合に、ヒステレシスは刺激に対する応答が時間依存性を有するという概念にもとづくものである。実験は、拘束巾で、0, 45, 90°方向にステップ関数としてのひずみ刺激を与えて、ヒステリシス(戻り)現象を求めた。この方法論は、ヒステレシス効果の小さい異方性連続体については適合性が示唆できるが、非連続体である編布の場合は、実験曲線と良い一致をみなかった。このため、布や編布では引張荷重Fとひずみεの間にF=Qεnなる関係を用いて評価したところ、最もシンプルな平編構造を持つ綿布試料では、理論曲線が実験曲線といずれの角度方向においてもよく適合した。また被服圧も荷重と同じ形状をしたヒステレシスが確認され、液体薄膜の荷重と圧力の関係式を用いると、実験曲線とよい一致を見た。
  • 松梨 久仁子, 島崎 恒蔵, 大野 淑子, 渡辺 聰子
    セッションID: 3A5
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    目的 高齢や障害により手が不自由になると、前あきのないウエストゴムのズボンが便利であるといわれる。ウエストゴムのズボンは上げ下ろしの際、ズボンが床に落ちることがないので、外出先でのトイレでも安心して着脱ができる。しかし、市販のズボンは幅広の伸縮性の強いインサイドベルトを使用しているものが多く、手や指に力が入らない人にとって上げ下げするのは、かなり困難な動作となる。そのため、使う人の状況に応じて、ゴム紐の条件を変えると着脱が楽になることが経験的に知られている。本研究ではズボンの着脱に着目し、ウエストゴムの強さ設定とズボンの上げ下ろしの容易さとの関係を検討することにした。
    方法 ウエスト部のゴムには3cm幅の伸縮性インサイドベルト、4~8コールのソフトタイプのゴム紐を選択した。ウエスト部の布地には3種類の織物を用いた。成人女子参考人体寸法11ARのサイズを想定し、ウエスト70cm、ヒップ93cmでウエストベルトを作製した。ゴム紐は3本入れとし、ウエスト寸法に対して100%と75%の長さを設定した。作製されたウエストベルトはテンシロン万能試験機により、ベルト長さ100cmまでの引張り試験を行なった。これらのウエストベルトを用い、高齢者による着脱の官能検査を行った。
    結果 ウエスト部の引張りに対する強度は、インサイドベルトと比較して、ゴム紐長さ100%の場合、8コールで約70%、6コールで約40~50%、4コールで25%~30%程度に低下する。また、着用実験でもこのウエスト部の強さ低下が、ズボンの上げ下ろしのし易さに反映されることがわかった。
  • 井上 真理
    セッションID: 3A6
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    目的 自動車シート用の皮革を収集し、力学特性、表面特性を測定してシート用皮革の性能を明らかにする。また触感の良さについての官能評価を行い、シート用皮革の触感に直接かかわる力学特性、表面特性を分析して、客観的に触感の良さを評価する方法を導く。
    方法 試料は自動車シート用材料として使用されている天然皮革8点、人工皮革34点、計42点を用いた。シート用皮革の触感に関係すると考えられる特性値として、力学特性、表面特性、構造特性(厚さ、重さ)を取り上げ、KES-Fシステムを用いて測定を行った。適切な測定条件の設定を検討し、客観的評価に用いた。官能評価は、自動車シート用材料としての触感の良否について、手触りにより5段階尺度で評価した。評価は、自動車利用者14名を被験者として行い、平均値をそれぞれの試料の評価値とした。触感の良さの客観的評価は、すでに様々な材料に適用されている力学量-基本風合い値変換式[1]の適用を試みる。
    結果 皮革試料はせん断硬いため、最大せん断角度を0.4°としてごく初期のせん断剛性と座屈前のせん断剛性およびせん断角度0°におけるヒステリシスをせん断特性の特性値とする。この点が衣料用の布と異なる条件である。従来の秋冬用紳士スーツ地KN101-W式[1]に、特性値を代入して基本風合い値を求め、KN301-W式[1]に代入して算出した総合風合い値と、シート用皮革の触感の良さとの評価は一致し、従来式の適用の妥当性が示された。また力学量から直接肌触りの良さを予測する方法として段階的ブロック間残差回帰方式を採用して評価式を導き、その精度を確認した。
    [文献] [1] 川端季雄;“風合い評価の標準化と解析第2版”日本繊維機械学会(1980)
  • 雨宮 敏子, 柚本 玲
    セッションID: 3A7
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    目的 専門学校では一般に、実技を重視することで社会において即戦力となる人材育成を目指している。本研究では、服飾専門学校において講義主体で素材の授業を行うにあたり、学生に興味をもたせ理解を深めることを目標として授業方法の検討を行った。また、目標の達成度評価と今後の授業の質向上のためにアンケート調査を実施し、学年末試験の結果と合わせ分析を行うことを目的とした。
    方法 服飾専門学校生を対象とし、科目名「素材」の授業を1回100分全8回で行った。各回とも板書と口頭説明による講義を主体とし、簡単な手作業を伴う実習や実験、洋裁検定の受験を考慮した練習問題を適宜取り入れ、最終回には個人発表の場を設けた。授業中は実際に布地サンプルに触れさせるように努めた。全授業終了後、アンケート調査を行った。SD法により、授業全体の理解度、素材への興味度など計5項目について評価させた。また、講義、実習や実験、練習問題、サンプル回覧の4つの授業形態について役立ったと感じた順を、最も印象に残った内容、全体を通しての感想の2項目については記述式で回答させた。学年末試験は択一式で全分野から出題した。
    結果 SD法で得た結果のうち、授業全体を「理解できた」、素材について「興味をもてた」とした回答は共に半数を超えた。役に立った授業形態は、実習等を最上位に評価する回答が最も多かった。最も印象に残った内容に実験を挙げたものが有効回答数の約70%を占めた。また、学年末試験の結果、授業に実習等を取り入れたテーマに関する設問で高い正答率を示した。以上より、実験や実習を加えることで、素材に対する興味や理解が深まることが確認できた。
  • ―差動送り条件と生地物性との関係―
    岩佐 宏美, 青山 喜久子, 島崎 恒蔵
    セッションID: 3A8
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    【目的】ニット生地の縫製には、差動送り機構を有するミシンがよく使用されている。差動送りはニット生地に必要な伸縮性をシームに付与したり、縫い伸びや縫い縮みなどのシームの外観を修正する場合などに利用される。本研究では、縫製により生ずるニット生地のシームの外観の傾向と布地の物理的特性との関係を明らかにし、良好なシームの外観を得るための縫製条件(送り条件)の設定方法を検討することにした。 【実験】縫製には、ニット衣料の裾や袖口のヘム縫いなどに用いられる、ステッチ形式406の工業用二重環縫いミシン(JUKI MF-7723)を用いた。ミシンの布送り機構は伸し縫いから縮み縫いまでが可能な差動送り(下送り)である。縫製条件は差動比および押え金圧力を組み合わせて設定した。試料は布地の構成および物理的特性の異なるよこ編地20種類を用い、ヘム縫いを想定し、コース方向に長さ50cm、幅5cmの試料を外表に2枚重ねて縫製した。縫製後、上下布の縫い縮み率、縫いずれ率を測定し、シームの外観を観察した。 【結果】初めに、差動比1.0で縫製した結果、上布は縫い伸びるものから縮むものまで広範囲に存在し、布地の性状による影響が確認できた。ここで、上下布縫い縮み率を目的変数、布地の物性を説明変数として重回帰分析を試みたところ、コース方向のEM、2HG5、表裏SMDと布地厚さを変数とする有意な重回帰式を導出することができた。次に、シームの外観が不良な試料について、差動比と押え金圧力を変化させて縫製を行い、良好なシームが得られる縫製条件を求めた。この結果を用いて、さらに縫製条件と試料の生地物性の関係を検討した。
  • 花田 美和子, 島崎 恒藏
    セッションID: 3A9
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    目的 オーバーロックミシン(縁かがり縫いミシン)は、縫い代の始末と縫合を同時に行うことができ、また縫製能率も良いため、衣服製造に大変よく用いられている。しかし現在まで、オーバーロックミシン縫製に関しては、余り研究されているとはいえない。本研究では、縫い目の基本的性質として重要な縫い目強さについて、検討することにした。
    方法 オーバーロックミシンには多くの種類があるが、ここでは使用頻度の比較的高いステッチ形式504と514に着目し、実験することにした。両者のステッチ構造は似ているが、前者は1本針、後者は2本針である。実験はステッチ密度や縫い糸張力等にも注意し、二枚重ねの織物を縫製して、試料を製作した。縫い目強さは、引張り試験機(テンシロン)を用い、縫い目が破壊するまでの最大強さを求めた。また縫い糸切断箇所、布破壊等の破壊原因についても調べた。
    結果 ステッチ形式504と514ともに針糸、ルーパー糸に同種の糸を用いた場合には、針糸が切断して縫い目が破壊した。ステッチ形式514の場合には、縁に近い方の針糸(左針糸)が選択的に破壊した。このミシンステッチは、基本的に糸のルーピングにより形成されるので、糸が破壊する場合の縫い目強さには、縫い糸のループ強さ(引掛け強さ)が大きな意味を持つと考えられる。また縫い糸には強さのバラツキがあり、均等に各ステッチに力かかれば、最も強さが小さい箇所で破壊が起こるはずである1)。これをもとに、理論的に縫い目強さを考えると、針糸張力を強く設定した条件では、縫い目強さは理論とよく一致することが示された。
    [文献]1)島崎恒藏他:繊学誌, Vol.47, No.7, 365~372(1991)
  • 鎌田 佳伸, 比嘉 紗希, 亘 麻希, 江端 美和, 後藤 真由美
    セッションID: 3A10
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    目的:ミシン刺繍で重要な因子である光沢は、刺繍糸と縫い方により左右される。ミシン刺繍の光沢に関して、前報(第59回大会研究発表要旨集p.201)では、縫いパターンと光沢の関係、刺繍糸の繊維素材・糸の構造と光沢との関係を検討し、より高い光沢を得るには異形断面(三角断面)で、撚りは少なく、より細い繊維を利用して均整で平滑な刺繍糸を用いることであると結論した。本研究では、これらの結果の中で、縫いパターンと光沢の関係にのみ注目して、その関係を詳細に明らかにすることを試みた。 方法:刺繍ミシンはジャノメメモリークラフト10001、設計用ソフトはデジタイザープロを使用。刺繍糸は#50ポリエステル(白)、縫い方はサテン縫いとたたみ縫いの2パターンとし、5_cm_×5_cm_の試料を作成し、光沢を測定した。測定パラメータは縫いパターン、ステッチの長さ、糸密度、刺繍方向に対する見る角度、受光角度の5つとした。 結果:(1) 「サテン縫い」と「たたみ縫い」という縫い方の違いのみでは光沢値に大きな差異は認められなかった。(2)ステッチの長さが増大すると、8mmまでは光沢度は増大するが、それ以上になると変化が小さくなり、飽和状態に移行する。(3)「刺繍方向に対する見る角度」が変わると、光沢は受光角に依存して変化する。受光角45~60度では、刺繍方向で高い光沢度をもつが、その後急激に低下する。受光角75~85度でも類似の傾向を示すが光沢度は低くなる。しかし、受光角が20度のように小さい場合には、刺繍方向よりもそれに直交する方向で光沢は高くなり、受光角が大きい場合とは逆の結果となった。
  • 牛腸 ヒロミ, 丸井 正樹, ゴトバツ スザナ, 仲西 正, 小見山 二郎
    セッションID: 3A11
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    目的 繊維を細くしていくと、今までにない有用な極表面の性質が表れる。例えば、着心地にとって重要な吸湿性の増大も起こる。しかし極細繊維はその細さゆえ,嵩高くなるなどの計測上の難点がある。吸湿量測定におけるIGC法はこの難点を克服する測定法である。本報告では、IGC法による吸湿量測定にカラム長やキャリヤーガス流速が影響を及ぼさないことを確認した。
    方法 東レ(株)より提供されたナイロン6繊維の直径10μmの極細繊維と22μmの普通繊維を巻き取り、かせ状にして精製し、内径3mm、長さ5、25、50cmのカラムに充填した。これらのカラムを島津ガスクロマトグラフGC14Aに装着し、ヘリウムをキャリヤーガスとして流速を5ml/minから40ml/minに変化させ、蒸留水を注入した。得られたクロマトグラムの保持時間とキャリヤーガス流速から保持容量を、ピーク面積、高さなどから吸湿量を算出し、BET吸着理論を適用して単分子吸湿量Nmを求めた。
    結果 キャリヤーガス流速を5ml/minから40ml/minに、カラム長を5cmから50cmに変化させた結果、保持時間、保持容量が異なっても吸湿量から算出された単分子吸湿量Nmはほとんど変わらず、例えば、直径10μmの極細繊維では0.009g/g(90℃)から0.017g/g(40℃)であった。カラム長を2.5cmから50cmまで変化させた先の結果とも一致した。これらの結果から、測定温度40℃から90℃のナイロン6の吸湿量測定において、カラム長5cmから50cm、キャリヤーガス流速5ml/minから40ml/minの範囲内では、カラム長、キャリヤーガス流速のどちらも単分子吸湿量Nmの算出に影響を与えないことが明らかになった。
  • 伊佐治 せつ子, 松生 勝
    セッションID: 3A12
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    目的 超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)と低分子量ポリマー(EMMA)の混合物にニッケル被覆炭素繊維(NiCF)を充填した複合材料を作成し、電圧を印荷した時の導電性を検証し、内部発熱による表面温度への影響を検討する。 方法 超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)と低分子量ポリマー(EMMA)にニッケル被覆炭素繊維をフィラーとして充填し、ゲル-結晶化法でブレンドした。 UHMWPEとEMMAの比率、およびNiCF濃度を変化させた複合材料を作成した。作成した複合材料に直流電圧を印荷し、電圧の変化による表面温度及び電流値を測定した。UHMWPEとEMMAの比率、NiCF濃度、および電圧変化が複合材料の電気特性に及ぼす影響について検討した。 結果 超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)に低分子量ポリマー(EMMA)を混合した場合、EMMAの混合比率が増大するほど結晶化度は減少したが、EMMAは側鎖に極性基を持つため、電気伝導性は向上した。また、導電性物質であるニッケル被覆炭素繊維(NiCF)を充填させることによって電気伝導性が向上した。電圧が一定の場合、NiCF濃度の上昇とともに電流が上昇し、表面温度も高くなった。NiCF濃度が一定では、電圧の上昇とともに電流、表面温度が上昇した。しかし、いずれの場合も表面温度がUHMWPEの融点近くになると電流、表面温度は低下した。これは、温度の上昇によってUHMWPEの結晶化度が低下したためと考えた。つまり、UHMWPEの電気伝導性は、EMMAの混合比率、NiCFの濃度、電圧に依存すると考えられる。
  • 佐藤 之紀, 古川 弘子, 松井 慶子, 宮脇 長人
    セッションID: 3B1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    【目的】ユズペーストや嚥下食用増粘剤などの液状食品の堅さパラメータ(N/m2)は、プランジャー停止時のみかけの応力を示す場合が多い。これらの堅さパラメータ算出上の問題点について検討を加えた。
    【方法】試料には、高知県内で収穫されたユズ果皮から調製したユズペーストおよび4種類の市販の嚥下食用増粘剤を用いた。高齢者用食品試験法に準じて、プランジャーが等速直線運動する際に検出された力(FT (N))をテクスチュロメータRE2-33005S (山電)で追跡した。高齢者用食品試験法の規定にしたがい、プランジャー貫入距離(L)の限度を10mm、試料高を15mmに設定した。なお、高さ30mmの容器に試料を充塡し、高さ24mmの円筒型プランジャーを使用した。
    【結果】液状食品のFTとLの関係を調べたところ、プランジャーが停止するL=10mm付近ではプランジャー速度低下が原因と思われる低いFTが観測された。したがって、プランジャーの貫入限度(L=10mm)でのFT値から堅さパラメータを算出する場合が多い液状食品の場合、プランジャー速度低下による低FT値を除いたFT-Lの関係を求め、そこへL=10mmでのFT値を外挿させる必要がある。その場合、FT-L式は理論上Lの一次式で表すことが可能であるが、溶液内の分子間相互作用の寄与が無視できないユズペーストや嚥下食用増粘剤のFTは、FT-L式の偏向係数などの解析から、Lの4次式で表すことが適当であると思われた。
  • 橘高(桂) 博美, 藤井 千穂, 加藤 亜弓, 大西 美佳, 小西 ゆかり, 渡辺 文雄, 中野 長久
    セッションID: 3B2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    食品含有ビタミンB12(B12)の吸収のされやすさについては、食品によって形状や物性およびB12結合タンパク質の性質などが異なり、それぞれの食品および調理方法ごとに検討する必要がある。消化吸収能が低下した高齢者では、低タンパク質症に伴ってB12レベルが低下し、循環器疾患の危険因子であるホモシステイン濃度が血中で上昇することが知られている。さらに近年、このような高齢者においては食品中でタンパク質と結合しているB12の吸収率が極めて低いことが報告された。そこで本研究においては、高齢者にとって吸収しやすい鶏卵の調理方法を探ることを目的とした。  まず、鶏卵(全卵または卵黄のみ)を用いて種々の調理を行い、さらに塩酸とペプシンを用いて胃内人工消化試験を行った後、タンパク質から遊離するB12量の割合をゲルろ過および微生物学的定量法を用いて決定した。また、調理の際の塩の影響を検討するため、希釈加熱調理の際に食塩を1%加え、加えていない試料との比較を行った。  その結果、ゆで卵や全卵の凝固液では、生卵や希釈後加熱卵液よりも胃内消化を受けにくいことが分かった。また、希釈加熱凝固させる際に全卵使用した場合と卵黄のみの使用の場合で比較を行ったところ、卵黄のみの方が、胃内消化を受けやすく容易に遊離型となることが示された。さらに、卵の希釈加熱の際に、食塩が加えられると熱凝固が促進することが知られているが、食塩を加えた全卵希釈加熱凝固物では、胃内人工消化試験後に食塩を加えていないものより遊離型が増加することが示された。これらのことから、B12の吸収には、茶碗蒸しなどの調理が有効であると考えられた。
  • 真部 真里子, 中山 智栄, 西 祥恵, 津田 登美恵
    セッションID: 3B3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    目的 食嗜好は、離乳期からの食体験の積み重ねによって形成されていくため、親の食品選択は子どもの食嗜好形成にとって無視できない。これまでに、本研究室では食品のにおいが“嫌い”という意識に大きく寄与することを報告している。そこで、離乳初期の離乳食“かぼちゃペースト”について、手作り品、フリーズドライ品、瓶詰め品の3種類を用いて、調理加工法による香気成分の相異を検討した。
    方法 香気成分はSPME法により抽出し、GC-O分析によって前鼻腔・後鼻腔経由のにおいを分析した。また、後鼻腔経由のにおいについては人工唾液を用いて唾液の影響についても検討した。風味特性については、20歳代前半の女性40名を被験者として官能評価を実施した。
    結果 GC-O分析の結果、前鼻腔経由のにおいは、手作り品で認められた7種類の香気成分が他の試料にも認められたが、フリーズドライ、瓶詰め品には手作り品には無い香気成分が検出され、加工過程で香気成分が増えることが示唆された。しかし、離乳食は提供温度が低く、また、口腔内滞在時間が長いため、前鼻腔より後鼻腔経由のにおいが重要である。香気成分の多かった瓶詰め品について、前鼻腔、後鼻腔経由のにおいを比較し、さらに後鼻腔のにおいについては唾液の影響を検討したところ、一部、嗅上皮への経路の相異によって認識できない成分や唾液の影響を受ける成分が認められた。 また、官能評価の結果、瓶詰め品は「苦い」「渋い」などの風味が強くて好まれ難いのに対して、不快な風味が少なく甘味も控えめな手作り品が最も“かぼちゃらしい”と評価された。
    本研究は森永奉仕会「50周年記念森永賞」の研究助成によって実施した。
  • 清原 玲子, 山口 進, 田島 郁一, 潮 秀樹, 市川 朝子, 河野 和菜, 下村 道子
    セッションID: 3B4
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    【目的】 油脂で調理された揚げ物や炒め物のおいしさの要因解明の一環として、前報1)でマウス行動学的解析手法により、長鎖高度不飽和脂肪酸の酸化分解物がマウスの味覚として認識され、かつその嗜好性が高いことを明らかとした。そこで本研究では、主にヒトでの官能評価によって、この現象がヒトでも同様に確認できるか、また調理用油脂への応用が可能であるかを検討した。
    【方法】長鎖高度不飽和脂肪酸としてアラキドン酸(AA)やドコサヘキサエン酸(DHA),エイコサペンタエン酸(EPA)などを植物油へ微量添加し、これを揚げ油や炒め油などとして用い、ポテトフライ,コロッケ,チャーハンなどで官能評価を実施した。
    【結果】長鎖高度不飽和脂肪酸のうち特にAAを添加した油脂で調理した食品は、無添加に対し主にコク,うま味,後味が有意に強く、また嗜好性が高まった。このAAによる嗜好性の向上は、AAを酸化処理させることでより高まる傾向が確認され、加熱調理によって発現したAAの酸化分解物が“おいしさ起因物質”である可能性が示された。実際AAは動物や魚の脂身、卵黄等には含まれるため、これらの油脂が本来持っているおいしさの主な要因の1つがAAであると推定した。以上より、ヒトにおいては、嗜好性を高める長鎖高度不飽和脂肪酸のうちAAの添加量は非常に微量であったことから、本研究成果は植物油などの長鎖高度不飽和脂肪酸を含まない油脂および油脂調理食品のおいしさを向上させる手法として将来活用が期待できると考える。
    [文献] 1)山口ら;日本農芸化学会2007年次大会 一般講演,2B06p02,「油脂酸化物が哺乳類の味覚に及ぼす影響」
  • 山口 智子, 鈴木 景子, 筒井 和美, 高村 仁知
    セッションID: 3B5
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    目的 奈良漬は、奈良の特産品の一つとして広く知られている高級漬物である。ウリをはじめ、キュウリ、スイカ、ダイコンなどの野菜を約6ヶ月から12ヶ月間塩漬けした後、酒粕で数回漬け替えて作られる。独特の風味を持ち、その味や香りは製造業者ごとに異なっているが、化学的特性は明らかではない。そこで本研究では、奈良市内で市販されているウリの奈良漬について、化学的特性、物理的特性および嗜好性を調査した。
    方法 奈良市内の奈良漬製造業者6社の奈良漬ウリについて、一般成分として水分、タンパク質、灰分、アスコルビン酸量、嗜好成分としてpH、Brix糖度、塩分、エタノール含量、褐変度を測定した。また、機能性成分としてラジカル捕捉活性および総ポリフェノール量、物理的特性として破断特性の測定を行った。さらに、官能検査により嗜好性を調べるとともに、奈良漬添加クッキーを調製し、奈良漬の製菓適性を評価した。
    結果 6社の奈良漬ウリにおいて、化学的特性や物理的特性にそれぞれ違いがみられた。JAS規格をすべての項目で満たしている奈良漬はなく、それぞれの製造業者によって個性ある独自の奈良漬が作られていることが明らかになった。また、糖分や塩分の少ない奈良漬ウリの方が、ラジカル捕捉活性、総ポリフェノール量および褐変度が高い傾向にあった。官能検査の結果では、酒粕単独で漬けた奈良漬よりも、酒粕に砂糖やみりん粕などを添加して製造された甘口の奈良漬の方が漬物として好まれる傾向にあった。しかし、クッキーに調製することによって奈良漬の嗜好性に変化がみられ、「奈良漬風味」や「サクサク感」の強いクッキーが好まれた。
  • 水野 時子, 松村 正彦, 山田 幸二
    セッションID: 3B6
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    【目的】地産地消などの観点から、伝統野菜が見直されている。また、健康志向から食品に含まれている機能性成分についての関心が高まっている。近年には、アルギニン(Arg)、グルタミン(Gln)、ガンマーアミノ酪酸(GABA) 、分枝鎖アミノ酸(BCAA)などのアミノ酸が、生体内において特有の機能性を有する事が報告されている。そこで、福島県会津地域の伝統野菜であり、我が国に残っている唯一のアザミ葉のごぼうである「立川ごぼう」の品種、収穫時期、生産農家の違いによる機能性アミノ酸含量の差異、および調理操作における機能性アミノ酸含量の変動を市販のごぼうと対比して検討した。
    【方法】試料には、生産農家より入手した立川ごぼうと、郡山市内のスーパーで購入したごぼうを用いた。一般成分は、常法により分析した。遊離アミノ酸は、75%エタノールを用いて還流抽出(80℃、20分)を行い、日立L-8800型高速アミノ酸自動分析計の生体液分析法で分析した。
    【結果】ごぼうの遊離アミノ酸総量は生産地域によって大きく異なったが、主要なアミノ酸は生産地域に関わりなくArg、アスパラギン(Asn) 、プロリン(Pro)であった。立川ごぼうの主要なアミノ酸もArg、Asn 、Proであった。立川ごぼうは、品種(アザミ・赤口)、収穫時期、生産農家の違いにより、遊離アミノ酸総量、Gln、Arg、GABA、BCAAに差が見られた。特に、生産農家、収穫時期によりArg含量に差が見られ、品種によりGABA含量に差が見られた。また、収穫時期では12月は8月に対して遊離アミノ酸総量、Arg、Gln、BCAA含量は高値であったが、GABA含量は低値であった。
  • 井上 あゆみ, 米田  千恵
    セッションID: 3B7
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    目的アサリなどの二枚貝は、殻付きの状態で販売されることが多いが、貯蔵初期には生きている状態であり、貯蔵方法の良否によって鮮度変化の様相も異なるものと考えられる。本研究では、活アサリを冷蔵貯蔵し、エキス成分の変化と加熱による開殻状況を調べた。
    方法愛知県産活アサリを試料とし、以下の2群に分けて、4℃で9日間貯蔵した。食塩水浸漬群は、試料重量の2.5倍量の3%食塩水に浸漬し、食塩水は毎日交換した。水切り群は、試料を水切りした状態で貯蔵した。軟体部から過塩素酸抽出液を調製し、ATP関連化合物量(HPLC)、遊離アミノ酸(高速アミノ酸分析計)、コハク酸(酵素法)を測定した。また、15個体を重量の2.3倍量の水(15℃)または沸騰水で加熱し、開殻状況を調べた。
    結果貯蔵0日目の遊離アミノ酸総量は、1,281~1,499mg/100gであり、両群とも、タウリン、グリシン、アラニン、グルタミン酸が、貯蔵期間を通じて総量の80%以上を占めていた。遊離アミノ酸総量は、水切り群では有意な変化を示さなかったが、食塩水浸漬群は、貯蔵1~3日目に増加し、5日目以降に減少した。ATP関連化合物総量は、貯蔵0日目に3.6~4.2μmol/100g含まれ、両群とも0~3日目では、ATP、ADP、AMP、IMPが総量の90%以上を占めていた。初期腐敗である5日目以降に総量は減少傾向を示し、とくに食塩水浸漬群で大きく減少した。コハク酸量は、貯蔵期間中に、顕著な変化はみられなかった。開殻状況を調べたところ、貯蔵3日目までは全ての個体で加熱により殻が開いた。
  • 永塚 規衣, 前田 俊道, 福村 明子, 原田 和樹, 長尾 慶子
    セッションID: 3B8
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    【目的】「煮こごり」を調製する際に醤油が存在すると、化学発光(ケミルミネッセンス)法で調べたペルオキシラジカル捕捉活性能が増大する事を既に報告した1)。今回は、同様の条件で、醤油が「煮こごり」の脂質酸化を抑制するかを調べ、ペルオキシラジカル捕捉活性が脂質酸化抑制に寄与するか否かを検討した。
    【方法】未利用資源を活用するために、ブリの「あら」を材料に、60wt%の水で2時間加熱したものを対照とした。また、醤油を内割で10wt%添加したものも同様に調製した。それらの0時間放置試料と24時間常温放置試料を測定に用いた。これら各試料の脂質をジブチルヒドロキシトルエン入りクロロホルム/メタノール溶液で抽出し、TBA法で、テトラメトキシプロパンを標準として、脂質1 mg 当たりの酸化度を求め、TBARS(TBA反応物質量、nmol)で表した。
    【結果】対照の0時間放置試料では脂質酸化度が0.52±0.08 nmol/mgであったが、24時間常温放置試料では1.02±0.14 nmol/mgまで酸化が進んだ。一方、醤油が存在するとそれぞれ0.36±0.07 nmol/mgと0.55±0.14 nmol/mgとなり、ブリあらの「煮こごり」の脂質酸化は約2/3と約1/2に抑制された(いずれもp<0.05)。また、ペルオキシラジカル捕捉活性能も醤油添加により7.7~9.8倍に増大したことから、煮こごりの脂質酸化抑制への寄与が示唆された。本研究は、平成19年度東京家政大学生活科学研究所総合研究プロジェクトの一環として遂行された。1) Nagatsuka et. al.: Int. J. Mol. Med., 16, 427-430, 2005.
  • 安藤 真美, 北尾 悟
    セッションID: 3B9
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    【目的】和食の基本であるだし汁には,元来はかつお節,昆布,いりこなどの天然素材のものが使用されてきた。しかし近年では,利便性に優れた風味調味料だし汁の利用が増加している。これらのだし汁が持つ効果として,本来の“うまみ”の他に,近年では疲労回復効果といった機能性についての報告が増えつつある。そこで本研究では,だし汁の機能性として抗酸化能をとりあげ,その強さを測定するとともに,それらに含まれる核酸関連物質量の違いが抗酸化能におよぼす影響について検討した。
    【方法】水500mLに対しかつお節(6種)およびいりこ(5種)を15g用いて調製しただし汁,および風味調味料だし汁(かつお風味4種,いりこ風味1種,終濃度0.7%)を用いた。それぞれのだし汁についてペルオキシルラジカル捕捉活性能(AAPH-CL法),およびヒドロキシルラジカルを含むラジカル捕捉活性能(ALOKAラジカルキャッチ)をルミネッセンスリーダー(ALOKA AccuFLEX Lumi 400)を用いて測定した。抗酸化能の評価には,発生するラジカルの半分量を捕捉するだし汁の濃度(IC50値)を用いた。また,だし汁中の核酸関連物質をHPLC (島津LC7A)により定量した。
    【結果】ペルオキシルラジカル捕捉活性能およびヒドロキシルラジカルを含むラジカル捕捉活性能共に,天然だし汁の抗酸化能の方が風味調味料だし汁に比べて強い傾向を示した。各種だし汁に含まれる核酸関連物質量を測定したところ,イノシンおよびヒポキサンチンの含有量とだし汁のIC50値との相関が高かった。また,イノシンおよびヒポキサンチン溶液のIC50値はそれぞれ4.4 μmol/ml,5.5 μmol/mlであり,強い抗酸化能を示したことから,これらの核酸関連物質含有量の違いが各種だし汁の抗酸化能の違いに関与している可能性が示唆された。
  • 佐藤 久美, 牧田 寛, 小西 玄治, 齊藤 景子, 花岡 研一, 長尾 慶子
    セッションID: 3B10
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    【目的】和風素材の昆布に着目し,これまでアミノ酸ならびにヒ素の溶出量に焦点をあて,栄養・安全の両面からだし汁の最適な調製法を検討してきた。今回はだし汁の調製条件である短時間加熱の他に,佃煮や煮物を想定した長時間加熱の水煮ならびに調味料添加煮物試料を調製し,煮汁中および煮昆布中の総ヒ素量とその形態変化を追跡比較した。
    【方法】蒸留水200ml中に,2cm角に切った利尻昆布を5wt%加えた。だし汁の調製条件として,A(10℃水浸漬2時間,加熱なし),B(常法のだしのとり方として, 10℃水浸漬20分後, 加熱4分沸騰直前取り出し),C(水浸漬無し, 加熱4分沸騰直前取り出し),およびD(水浸漬無し, 9分煮沸加熱)法とした。長時間加熱法としてはE(30分加熱),F(60分加熱),およびG(120分加熱)の水煮試料を得た。調味料添加試料は,酢および酒をそれぞれ内割りで煮汁の10wt%添加し,上記加熱法で同様に調製した。煮汁のpH,透過色(L,a,b値)を測定し,煮汁および加熱前後の昆布中の総ヒ素量ならびに形態別ヒ素化合物量をHPLC/ICP-MS法により測定した。
    【結果】昆布には約42μg/gの総ヒ素が存在し,調理によりそのうちの約50%が煮汁中に溶出すると考えられ,長時間高温加熱により溶出量が増加した。昆布残渣および煮汁中の総ヒ素中無機ヒ素は5%以下で, 大部分はアルセノ糖などの無毒あるいは毒性の少ない有機ヒ素化合物と考えられた。煮汁のpH,透過色には添加調味料の特性が影響し,水煮よりも昆布中の残存ヒ素量が減少した。煮汁中に溶出する総ヒ素量およびヒ素化合物の形態は添加した調味料の特性により異なることが示唆された。
  • 原田 良子, 元木 万里子, 杉山 寿美, 石永 正隆
    セッションID: 3B11
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    【目的】給食施設等の食事生産システムとして,加熱調理後に冷却再加熱あるいは温蔵した料理を提供する新調理システムが中心的役割を果たしている。しかし,その料理の嗜好性は加熱後直ちに提供するクックサーブシステムよりも低いとされている。本研究ではクックサーブシステムと新調理システムで生じる嗜好性の差の要因を明らかにするために,新調理システムを利用した場合の食品成分等の変動を把握することを目的とした。
    【方法】魚類(紅鮭,銀鮭,鯖),肉類(鶏肉,豚肉)を用い,クックサーブシステム:オーブンで通常加熱(中心温度75℃,塩焼き)したもの,新調理システム(再加熱):加熱後,ブラストチラー(3℃)で急速冷却し、5日間保存後再加熱したもの,新調理システム(温蔵):加熱後,温湿蔵庫(65℃80%)に2時間または24時間保存したものを試料とした。これらについて,調理過程での重量変化,水分量,脂肪量を把握し,物性測定,官能評価も行った。
    【結果】新調理システム(再加熱,温蔵)で調理した鮭,鯖,鶏肉の官能評価結果は,クックサーブシステムよりもパサパサし,総合評価が低かった。再加熱,温蔵によるこれらの脂肪量に有意な減少は認められず,水分量で減少が認められた。新調理システムで調理された豚肉の官能評価結果では,温蔵2時間の総合評価が高かった。これは温蔵した豚肉が柔らかいと評価されたためであり,物性測定の結果とも一致した。また,豚肉では通常加熱による水分減少が他試料と比べて著しかったが,温蔵による減少は認められなかった。このことから,再加熱,温蔵では水分量の減少が著しいために,嗜好性が低下するが,豚肉では温蔵時の軟化により嗜好性が向上することが示唆された。
  • 小笹 保子, 森光 康次郎, 久保田 紀久枝
    セッションID: 3B12
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    【目的】ゴールドキウイフルーツ ( Actinidia chinensis ) は近年開発された果肉が黄色いキウイであり、甘く酸味が少ないことが特徴である。日本でも早くから出回っているグリーンキウイフルーツ ( Actinidia deliciosa ) の香気に関する研究は多く報告されているが、ゴールドキウイの香気に関する報告はほとんどない。本研究では、グリーンキウイを比較対照とし、ゴールドキウイの香気特性、香気に寄与する成分について明らかにすることを目的とした。 【方法】キウイの皮を剥き中心部を除いた後、果肉部分を5mm角に切り、ジクロロメタンと共にホモジナイズ後、2時間浸漬し香気成分を含む画分を溶媒抽出した。有機層を分離し、高真空蒸留により香気濃縮物を得、GC、GC-MS-Olfactometryにより分析した。各キウイのにおい特性をQDA法による官能評価により比較した後、香気に寄与する成分を機器分析により調べた。 【結果】官能評価の結果、グリーンはさっぱりした甘さと青臭く酸っぱいにおい、ゴールドはねっとりとした甘さとまろやかで芳醇な完熟果実様のにおいと評価された。香気成分組成は、グリーンは刺激的な青臭いにおいの(E)-2-hexenalや新鮮な青葉のにおいを持つ(Z)-3-hexenolなどのC6のアルデヒドや、アルコール類が多かった。一方、ゴールドはグリーンには含まれない1,8-cineolなどのモノテルペン類と、甘く果実様のにおいを有するethyl butyrateが主要成分だった。 においかぎ分析の結果、グリーンはhexanol、(E)-2-hexenal、(E)-2-hexanol、(Z)-3-hexenal、(E)-3-hexenol、dimethyl hexanedioate、4-hydroxy-2,5-dimethyl-3(2H)-furanoneが、ゴールドではethyl butyrate、1,8-cineol、4-hydroxy-2,5-dimethyl-3(2H)-furanone、3-methylthiopropanalが各キウイの特徴香気に寄与する重要成分として抽出された。
  • -ポルトガル,日本,タイの比較
    宇都宮 由佳
    セッションID: 3C1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    研究目的:
     米を主食とする東アジアにおいて,各地域の伝統菓子は類似したものが多い.16世紀後半の大航海時代にポルトガルが進出した地域(日本,タイ,マカオなど)では,その影響を受けた菓子が共通してみられる.東アジアという文化的に相互関連のある広い地域で,どのようなポルトガル菓子が各地域へ伝播し,発展または消失していったのか? 本研究では,特にポルトガル菓子をそのままの形で継承しているものに着目し,作り方,用いられ方,伝播の仕方などポルトガルと日本,タイとを比較分析する.
    研究結果:
     東アジアで原型をとどめたポルトガル菓子にFios de ovos(卵の糸の意味)がある.これは,日本では鶏卵素麺,タイではフォイトーン(金色の細かいもの意味)と呼ばれ,他の地域ではみられない.マカオのポルトガル人が経営する菓子店では,クリスマスなど主要な伝統行事の際に作られるとのことであったが,現地の人々に浸透しているとはいえない.
     作り方について,ポルトガルでは,沸騰した砂糖水に卵黄液を細く糸のように落とし,その後水でさらすが,日本,タイは水にさらす工程はない. 用いられ方は,ポルトガルでは修道院で作られたため,宗教行事に際,多く用いられ,ケーキのトッピングやデコレーションとして他の菓子を引き立たせるのに使われている.日本では,黒田藩の菓子として献上品や茶会の菓子に,タイでは,宮廷菓子として発展し,結婚式など祝い事のほか,日常的にも食されている.
     日本では,藩の菓子として明治までその製法が他へ伝わることがなかったが,タイでは,宮廷から貴族,上流階級,庶民へと,各階層の厨房で働く者たちによって,製法が全国へ広がり,まだその発展系の菓子も誕生した.
  • 大須賀 彰子, 大越 ひろ, 茂木 美智子
    セッションID: 3C2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】乗降客が多い駅周辺では、利便性も高く、中食の利用者も多いことが推測される。そこで本研究では、千葉県の9つの地域(北総東部、北総中央部、北総西部、内房、外房、海岸南部、内陸南部、内陸中央部、内陸北部)に分け、その主要な駅周辺を調査地として、店舗販売されているすしについて地域の特徴が反映されているかを把握することを目的に、調査を行った。
    【方法】千葉県の9つの地域の主要な駅、のべ16駅から半径1km圏内を調査地域とし、持ち帰りずしを扱っている店舗ですしを購入した。調査項目は、各地域の店舗数と店舗形態、すしの種類、使用されている具材の種類と量、1パックあたりの重量と価格とした。調査時期は平成19年8月~11月とした。
    【結果】調査で抽出された店舗はのべ38店舗であり、スーパーマーケットが24店舗含まれた。購入したすしはのべ161種類であり、すべての地域でみられたすしは、握りずしと太巻きずしであり、北総中央部を除いて散らしずしがみられた。また、内房、内陸北部地域では「太巻きずし」でも、断面に絵柄が計算された「太巻きずし」があり、北総地域ではいわしやさんまの押しずしなどすしの種類と形態に地域の特徴がみられた。購入した散らしずしはのべ26個で、玉子が全てのすしでみられ、いくら17個、えびとしいたけは15個に使用されていた。太巻きずしはのべ28個を購入したが、全てに使用されていた具材は玉子であった。購入したすしの1パックあたりの価格は、細巻きずしやいなりずし、散らしずしなどは量に関係なく価格は低く、海鮮入りの散らしずし、握りずしなど生の魚介類を使用したものの価格は高い値を示した。以上のことより、千葉県で店舗販売されているすしについては「すしの種類と形態」に地域特性が認められた。
  • 園田 純子
    セッションID: 3C3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    〈B〉目的〈/B〉 栄養士を目指す大学生は、小学校での学外実習において小学生とともに箸を使う機会が多い。また、小学校では食育の取組みとして、授業に日本の食文化の特徴でもある箸の使い方を取り上げることも増えてきている。そこで、大学生が正しい箸の持ち方ができているかその実態を調査し、あわせて大学生の箸に関する意識およびしつけの教授歴等との関連を検討した。〈BR〉 〈B〉方法〈/B〉 調査は平成17年度から19年度の3年間、短大食物栄養学科1年次に在籍する女子学生を対象に、調理学実習授業時に行った(対象者326人)。自記式アンケート調査を行い、箸に関する講義終了後、小豆を用いた豆運びおよび一人一人の箸の持ち方の確認をした。なお、統計処理はエクセルアンケート太閤Ver.3.0を用いた。〈BR〉 〈B〉結果〈/B〉 箸を正しく持ち、上下にきちんと動かすことができていたのは全体の54%であった。指の位置が正しい持ち方と異なるものや上下にうまく動かせないものを含めると、約半数の学生が箸を正しく持つことができなかった。持ち方においては年度による差や祖父母との同居の有無による差はみられなかった。豆運びの数は30秒で6.2±2.3コであったが、最大16コ、最小0コと個人によりかなり違っていた。箸のしつけの教授者は、両親96%、祖父母36%、兄弟姉妹9%、学校教員(幼稚園・保育所含む)46%で、特に主たる教授者として68%の学生が母親をあげていた。正しく持てていない学生のうち、32%が正しい持ち方であると自己判断しており、本人以外の確認が必要であることが示唆された。
  • 坂本 加奈, 住 正宏, 宮崎 裕介
    セッションID: 3C4
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    (目的) 健康志向やダイエット志向の高まり等により、甘味に対する意識や嗜好は多様化しているものと考えられる。本研究は甘い食べ物や飲料に対する意識・実態について現状を調査し、健康意識との関係や性別・年代による違いを考察することを目的とした。
    (方法) 2006年11月に往復郵送による留め置き法でアンケート調査を行い、首都圏に在住する12歳から69歳の男女1084名から有効回答を得た。甘い食べ物や飲料についてのイメージ、好み、甘い食品を選ぶ時の行動等に関する質問から得られた回答についてクロス集計や因子分析等で解析を行った。
    (結果) 甘い食べ物を好む人は49%、甘い飲料を好む人は30%であった。甘い食べ物・飲料のイメージは、「疲れがとれる」、「カロリーが高そう」、「太りそう」という回答が多かった。甘いものを選ぶ時は、「果物などの自然な食品を選んでいる」という人が65%であった。また、約半数の人が「低糖表示」、「カロリーオフ」、「甘味が弱いもの」を選んでいると回答し、甘味を気にして食品を選んでいる人はかなり多いことが認められた。因子分析により、性別や年代による違いを調べた結果、40代以上は若年層よりも甘い味を好まず、甘味が弱いものや低糖のものを選ぶ傾向が認められた。10代女性と20代女性は甘い食品に対して「太りそう」というイメージを持ちながらも甘い味は好む傾向がある等、好みや意識は似ていたが、行動においては、20代女性は10代女性に比べて低糖の食品を選ぶ傾向が非常に強い等、性別や年代の違いで甘い食品に対する意識や行動が異なることが認められた。
  • 新宅 賀洋, 原田 理恵, 永藤 清子
    セッションID: 3C5
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】高齢者のQOLを高めるために、介護食に地域の食材を取り入れることを検討している。兵庫県西宮市鳴尾地域では、イチゴが大正から昭和初期にかけて盛んに栽培されていたことが文献調査からわかった1)。イチゴを介護食へ展開するための基礎資料として、イチゴの加工に関する調査を実施した。 【方法】兵庫県工場一覧、兵庫県会社一覧、兵庫県統計書などから、鳴尾地域における工場や会社の変遷について、イチゴの沿革については、鳴尾村誌、阪神の野菜その歴史と技術、兵庫の園芸などを調査した。また、大正時代の雑誌「主婦の友」より、イチゴを使用した献立についても調査した。 【結果】イチゴの収穫は一時期に集中し、冷凍技術のないこの時代には保存が難しかった。稲作以外の収入を得て農家経済の安定を図るという明治末期以降の政府の副業奨励により、イチゴは地域の農家の現金収入として重要な作物であった。イチゴ狩りやイチゴを生で出荷する以外に、収穫して鳴尾地域内でイチゴをボイルやジャムに加工していたが、現在の鳴尾地域には、イチゴに関する工場や会社などはない。主婦の友では、5~6月になるとイチゴを使用した献立が掲載され、加工・利用方法が紹介されている。 1)日本家政学会第59回大会研究発表要旨集p245
  • 池田 博子
    セッションID: 3C6
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的 近年、食材も料理も食情報も豊かに出回っているにもかかわらず学生の食の範囲は狭くかつ貧弱で、料理に関する知識や技術は著しく低下している。本調査は、入学時点の学生の調理技術と知識の把握を行い調理指導の参考にするために行った。 方法 2007年4月に、1年生の調理実習受講者79名に、日本料理141種類、西洋料理95種類、中国料理52種類について、1.一人で作ることが出来る、2.作ったことはあるが一人では作れない、3.作ったことはないが食べたことはある、4.名前は聞いたことがあるが説明できない、5.名前を知らない、の5段階で該当する番号を記入させた。 結果 1/3以上の学生が自分一人で作れると答えた料理は、ご飯類では日本料理より洋風のものが多く、麺類では和風のものが多い傾向がみられる。主菜は和・洋とも卵料理が上位を占め、ハンバーグステーキがそれに次ぐ。副菜は、ほうれん草の浸し、サラダ、野菜炒め程度で、酢の物・和え物は食べたことはあっても作ったことがない人が多く、教材として強化する必要を感じる。汁物は味噌汁のみであった。飲み物はコーヒー、紅茶、煎茶の順に多く、菓子は圧倒的に洋菓子が多く和菓子は白玉団子のみである。一人で作れると答えた料理は総じて洋風の料理が多く、中国料理では炒飯以外は調理体験が著しく少ない。一人で出来ると答えた料理は学校教育(家庭科)の中で学んだと考えられるものに多い。作ったことはあるが1人では出来ない料理は調味や調理操作に微妙なコツやカンを要すと思われる料理や揚げ物に多い傾向が見られた。また、名前を知らない料理は日本料理、中でも伝統的な料理に多く、伝統食を何らかの形で取り上げる必要を感じる。
  • 阿部 稚里
    セッションID: 3C7
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】わが国では、肥満やメタボリックシンドロームの早急な対策が望まれている。これは食事バランスの乱れが発症原因の一因であることが知られているため、本研究では、食事バランスに対する食事バランスガイドを用いた栄養教育の効果について検討した。
    【方法】M県に在住する男性39名およびM短期大学1年に在学する女性46名を対象に、食事バランスガイドを用いて食事内容調査を行った。メタボリックシンドロームについての講演を行い、さらに食事バランスガイドの使用方法を説明した後、講演前後の食事評価を対象者が行った。対象者には、本研究の趣旨および調査方法について文書を配布して口頭で十分な説明を行い、同意を得られた者の結果のみ回収した。(男性34名、女性41名;有効回答率88.2%)
    【結果】講演前の食事調査において、食事バランスガイドの基準と比べて、男性では主食、副菜、牛乳および果物のサービング量(食事の提供量の単位;SV)が少なかった。同様に女性では、主食、副菜、牛乳および果物のSVが少なかった。また、男性では、主菜のSVが多かった。講演前と比較して、男性では主菜のSVが減り、牛乳および果物のSVが増えた。女性では副菜、牛乳および果物のSVが増えた。しかし、基準と比べると、男性では主食、副菜および果物のSVが少なく、主菜のSVが多かった。女性では、果物のSVが少なく、主菜のSVが多かった。
    【考察】以上の結果から、食事バランスガイドを用いた栄養教育は、食事バランスを是正することが示唆された。しかし、講演後の調査においても、基準と有意差が出たことから、継続して食事バランスについての教育が必要であることが推察された。
  • 林 美恵子
    セッションID: 3C8
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    現代の子どもを取り巻く食生活は、味覚1つを取り上げても濃厚な味の食べ物に慣れ親しみ、自然本来の食材を味わい、おいしいと感じる体験が少なくなってきている。日本の伝統的な食文化である「だし料理」は、行事食おせち料理やお雑煮に代表されるように、長年にわたり、親しまれてきた。しかし、ファーストフードや加工食品などの簡便で安価な食品が食生活に浸透している実情では、おせち料理やお雑煮も手間ひまをかけない調理済みの加工食品が今日の食生活の主流になっていることは拭えない。この事例は現代の日本の食生活を反映したものの1つである。今、子どもの食生活、未来の食生活を危惧する1つの要因が「味覚」となっている。すなわち、幼稚園、小学校などの初等教育において、味覚を育てていこうとする「スローフード」の運動がある。加工食品などの濃厚な味に慣れ親しむのではなく、自然本来の食材を味わい、味を堪能し、「おいしい!」と感じる五感、つまり、「味覚」を育てていこうという取り組みが始まりつつある。例えば、食育では「5大栄養素」に「白の食品=だし」を加えていこうとする方向が検討されている。そこで、本研究では、味覚とだし文化に着目して日本の伝統食を見直し、味覚を育てていく学習環境を食育プログラムとして考えた。子どもの実態に即しながら、今後、どのような食育プログラムを構築していけばよいのかを実践研究をもとに検証していくものである。味覚を育てるといのは難しいことではあるが、日本の食文化を未来に継承していくのは子どもたちであり、食文化を継承する担い手である子どもたちの食環境を改善していくのは、今後の食育の方向性である。本研究が今後の食育に貢献できる1つになればと考える。
  • ラーメンの事例分析
    瀬下 卓弥, 武川 直樹, 湯浅 将英, 笠松 千夏, 立山 和美
    セッションID: 3C9
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的近年,個食の増加が人の様々な面に影響する問題として指摘されている.解決策として共食を推奨するが,その根拠を検証する必要がある.人の食事行動を映像分析し,共食の効果を検証することを目的とする.
    方法会話分析,行動分析の手法を援用し,共食中の人の行動を撮影して映像分析する.分析材料として,二人が横並びになってラーメンを食べながら会話する設定を用いる.食事中のコミュニケーションを,視線の方向(だれが何を見ているか),食行動の状態(スタンバイ:手が食器から離れている/レディー:手に箸や容器をもっている,麺をつかんでいる/ゴー:口に入れた,咀嚼中)によって分類し分析する.分析は,食状態,発話を時間にそって記述し,定量的な分析をするとともに,人の食べたい,話したいなどの気持ちを読み取る.
    結果2名3組の共食シーンを収録し,約3分間の行動を書き起こし,発話,食行動,視線量の頻度などを測定した.その結果,実験協力者Aはスタンバイ状態の表出が90秒以上に対し,Bが10秒ほど,Aはレディー状態からゴー状態へ遷移するとき相手へ視線を送る回数が4回に対し,Bは1回以下であった.また,Aの発言量は73秒に対し,Bは26秒であった.これらの数値からこの3分間のコミュニケーションにおいて,Aは会話に対する意欲がBよりも高く,Bは食べる行動の意欲が高いといえる.このような分析は,食行動におけるルールや個性,癖など,人の食事中のコミュニケーションの仕組みを明らかにし,味の評価だけでなく,コミュニケーション満足度の評価指標の確立にも寄与すると考える.今後,分析対象データを増やし,視線配分量や食行動配分量などの行動と共食の満足度との関係を明らかにする.
  • 佐原 秋生
    セッションID: 3C10
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的食の研究には食材や調理や栄養など、作り供する側ばかりでなく、楽しみ味わう側からのアプローチも必要と思われるが、楽しみ味わうのは極めて主観的だとして、真面目に取り上げられて来なかったのが現状のようである。しかしそのために生産側のみに関心を集中し、消費側に注意を払わなくて構わないことにはならないし、また楽しみ味わうのに主観性が含まれるあまり、学として研究し得ないものとも窺えない。味わう側からの食の科学の可能性について考えてみたい。
    方法まず土台としてガストロノミについて、フランスで発生した際の目的と現在の内容を見る。次に食を楽しみ味わうということの構造を分析する。そしてその結果をどのように学に結びつけるかを検討する。
    結果ガストロノミは革命後のフランスで、食の楽しみ方に疎い新興ブルジョワジに、旧来のエリート層である王侯貴族のノウハウを頒ち示すものとして出発し、以後は料理評論やガイドブックの形で受け継がれている。およそ楽しみというものは、主体と客体との相関で決まる。客体を一定とすると、楽しみは主体の能力に比例して増大する。能力を向上させるには、とかく軽視され勝ちな知識を充実させた上で、経験を重ねるべきである。向上した能力で臨むところに、批評が生まれる。批評とは楽しみ味わう行為の知的形式である。科学とは「事柄の間に客観的な決まりや原理を見いだし、全体を体系的に組織し、説明すること」という。食の研究が他の社会科学や人文科学と同等の客観性を確保するのは、難しいことではない。受け継がれたガストロノミの基礎の上に、今日の批評がもたらす知見を組み入れて体系化する時、味わう側の食の科学は成立するであろう。
  • 松尾 量子
    セッションID: 3D1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    16世紀の後半から女性は、乗馬の際に、ダブレットや羽根飾りのついた帽子など男性の服飾に由来する服飾アイテムを着用していた。16世紀末のエリザベス一世の衣裳に関する記録には、乗馬用衣服という項目が見られる。1660年代になると、王妃を中心とする宮廷の女性たちの間で、乗馬用衣服を着用するという流行が見られるようになる。本発表では、サミュエル・ピープスやジョン・イーヴリンの日記をはじめとする当時の記述を主な資料として検討を行い、1660年代を中心に17世紀後半の英国に見られる女性の乗馬用衣服着用の流行についての報告を行う。 サミュエル・ピープスは、1666年6月の日記において、王妃の侍女たちが乗馬服を着ている様子を記しており、男性との違いはスカートが着用されているか否かであると述べている。ピープスと同時代のジョン・イーヴリンは、1666年9月の日記に王妃の装いとして、乗馬服(riding-habit)という言葉を使用しており、帽子と羽根飾り、騎手の上着が流行していたと記述している。オックスフォードの歴史家アンソニー・ウッドは、これらが宮廷からの流行であったことを記述している。紋章官であるランドル・ホームは、1688年に女性用の乗馬服として、フード、キャップ、マント、乗馬用の防護スカート、乗馬用上着を挙げており、特に乗馬用コートについては、男性のジャケットのようであると記している。男性風の乗馬用上着とスカートという組み合わせは、女性の乗馬用衣服として16世紀後半から17世紀を通じて着用されたが、17世紀の後半には、これらのアイテムの組み合わせが乗馬服としての明確に位置づけられていたと考えられる。
  • 坂井 妙子
    セッションID: 3D2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的ヴィクトリア朝期には、女性たちは衣服を選ぶ際、個人的な趣味よりも階級指標として、生地の種類や値段、装飾の有無を決定し、また、T.P.O.を重視したことは周知の通りである。しかし、顔色とドレスの色の相性も重視していた。このことは今までほとんど研究されてこなかったが、ドレスの色の顔映りに対する彼女たちの執着は、強迫観念にも等しい。それはなぜかを顔色と健康、モラルとの関係、さらに、顔色と表情の問題、化粧非容認との関係から探る。
    方法 良い顔色とは具体的にどのようなものか、また、良い顔色の重要性を美容書、ファッション誌、小説などの記述資料から言説分析する。次に、良い顔色と健康、悪い顔色と不健康の二律背反を同類の資料から明らかにする。さらに、ヴィクトリア朝期に於ける化粧非容認論とモラル、表情の関わりから、顔色と健康、道徳観の関連を総括する。
    結果良い顔色は色白で肌理が細かく、明るく、透明感がある。若々しく、赤面するとすぐにそれとわかる。これ以外はすべて、不健康な顔色に分類された。不健康な顔色は不道徳と見なされ、放縦や暴飲暴食、虚飾の結果として、身体で最も人目につく顔に書き込まれてしまった烙印と考えられた。一方、化粧は悪しき技巧と見なされ、それによって不健康を健康に見せかけることは、不道徳の極みだった。このように、道徳観が健康や化粧行為にまで及んだ時代には、衣服の色による良い顔色の演出は、社会的に容認された数少ない方法の一つであり、そのために衣服の色に並々ならぬ関心が引き寄せられたと考えられる。
  • 大澤 香奈子
    セッションID: 3D3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的 服飾が担う役割の一つに自己表現があり、人々は装いによって自らの主張や存在価値を表そうとする。1830年代のパリモードは、人々がもっとも装いに貪欲であった時代の一つであり、服飾のその要素がデザインに顕著に表れていると予測する。そのためにこの1830年代パリにおける人々の欲求と服飾デザインとの関係は興味深い。当時の様子を伝えるモード誌JOURNAL DES DAMES ET DES MODESからは、人々が一心に「エレガント」と表現される要素を求めていたことがうかがわれる。そこで本研究では「エレガント」と評された服飾表現と、それをつくり出した人々の欲求や価値観等を明らかにすることを目的とした。
    方法 モード誌JOURNAL DES DAMES ET DES MODESの1830年から1836年刊行分、計504号を資料とした。ファッションデザインについては資料に収められたファッションプレートの内、レディスファッションのものを用いた。ファッションプレートはコーディネートパターンからこれを分類し、各パターンのデザイン表現の特徴を捉えた。
    結果 当時人々が求めた「エレガント」は、現在にあるような一つのファッションイメージとしてあるのではなく、総体的なデザインコンセプトであった。そして、このエレガントの要素として、ラグジュアリー、シンプル、新規性等のキーワードがあり、このキーワードが服飾表現とより直接的に繋がっていた。
  • 『ガールズ・オウン・ペーパー』を中心に
    好田 由佳
    セッションID: 3D4
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的19世紀末イギリスでは、新しいという言葉がもてはやされ、ヴィクトリア後期は、新しさに価値を見出した時代であるともいえる。なかでも、新しい女性の登場は、ヴィクトリア後期社会の女性観を知る上で注目に値する。そこで、ヴィクトリア後期社会の女性の生き方の新しさや、精神の新しさを明らかにするために、レジャー時代が到来したと考えられる1880年代を中心に、若い女性の関心事である流行のファッションをとおして、ヴィクトリア後期の生活にどのような新しい動きがあったのかを当時の女性雑誌をてがかりとして分析する。
    方法新しい女性たちの新しさを明らかにするてがかりとして、1880年1月に創刊されたThe Girl’s own paperを取り上げる。The Girl’s own paperは、タイトルに少女という言葉がつけられているにもかかわらず、ターゲットとした読者層は、若い女性にまで至り、あらゆる階層を視野に入れた多彩な内容を特徴とした雑誌である。ファッションやレジャーに関する特集記事を中心として、新しい女性たちの新しいライフスタイルを検討する。
    結果The Girl’s own paperにおいて、良妻賢母志向を持った雑誌であるにもかかわらず、時代の要請に合わせ、テニスや乗馬の楽しみ方を指南し、新しいライフスタイルを肯定している点が1880年代の時代性を反映している。また、雑誌を飾るシンプルな新しい装いの挿絵は、The Girl’s own paperの新しさを印象づける役割を担い、新しいことに価値を見出す時代のシンボル的な装いとなっているといえる。
  • 米今 由希子
    セッションID: 3D5
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的 19世紀後期のイギリスにおいて、服装改革を積極的に進めようとして活動を行っていたグループに合理服協会が挙げられる。合理服協会の活動の意義は、女性の健康を損なわない衣服を作るべきであるという主張に基づいて、実際に具体的な衣服を発表していたことであると考えられる。そこで、その具体的な衣服としてディバイデッド・スカートをとりあげ、当時の人々にどのように受け止められ普及していったのかを明らかにし、19世紀後期イギリスのファッションにどのような影響を与えていたのかを考察する。
    方法 資料として当時イギリスで発行されていた婦人雑誌や新聞The QueenThe Lady’s WorldThe Illustrated London News、などをとりあげ、記事や広告からディバイデッド・スカートについてどのように紹介されていたのかを明らかにし、その普及の過程と当時のファッションに与えた影響について考察する。
    結果 合理服という形では定着しなかったが、ディバイデッド・スカートだけに着目すると、発表当時から、身に着けていることが外見上分からなければ普及するだろうという評判のとおり、流行のファッションを変えることなく着用できることから、下着として普及していった事が分かった。また、1890年代になるとサイクリング服として取り入れられ、普及していったことが明らかになった。下着やスポーツ服としてではあるが、ディバイデッド・スカートが普及し定着していったことによって、女子服に対する意識に揺さぶりをかけ、女子服に新しい形態の可能性を広げたといえる。
  • 太田 茜
    セッションID: 3D6
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    [目的]1892年にアメリカで創刊され現在では12カ国で発行されているVogueは世界で最も有名なファッション誌のひとつであるが、元々はニューヨークの社交界の人々を対象に発行された雑誌である。その読者層は少数であるため誌面に描かれる生活は一般的な人々の生活とは異なっているが、彼らの収入にも上限があるためその中で社交界のメンバーとしての体面を保つために衣生活についてどのような工夫をしているかを探る。

    [方法]ヴォーグを資料として服飾に関する記事を中心に衣服の種類や価格、入手方法について検討した。さらにヴォーグ誌面に連載されている服飾記事からヴォーグ読者層の衣生活について特にどのような衣服を重視しているか、またどのように新しい衣服を手に入れる工夫をしているかを考察した。

    [結果]ヴォーグは上流階級向けの雑誌であるため、その中に見られる服飾は日常生活で必要なものの他にダンス・パーティーや晩餐会、観劇など社交の場で着用するドレスが多くみられた。またそのような場で着用するドレスは流行を重視しており前年と同じドレスは着るべきでないといった意見もみられるが、定期的に誌面に掲載されている”Smart Fashions for Limited Incomes”という記事では毎年新しいドレスをつくるのではなく手持ちのものをつくりかえることで今年風のものにみせることを勧めている。このような工夫は経済的な必要性に迫られて行われていたと同時に、手芸や家計のやりくりといった家政の手腕を発揮することで女性が主婦としての家庭での存在意義を主張する機会でもあったといえる。
  • 衣生活とその周辺機器を中心に
    田村 沙織, 宮澤 俊惠, 伊藤 紀之
    セッションID: 3D7
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的20世紀初頭の米国では世界に先駆け、大衆消費社会が登場した。その米国でカタログによる通信販売会社として大きな発展をとげたSears , Roebuck & Co.は1886年に創設された。未だ流通網の発達していなかった当時、広大な米国に住む人々にとって、カタログによる通信販売は消費社会を支えた。特に地方では一家に一冊はあったとされることからもSears社のカタログは当時の米国社会や人々の生活、動向を知る上で、大きな手掛かりとなる資料であると考える。そこで、これらの資料をもとに商品の出現状況や種類を把握することで当時の米国消費社会の実態を解明していくことを目的とする。
    方法1886年から1993年までに発行された総合カタログの内、今回は1902年,1927年,1952年,1974年,1993年を主な資料とし、これらに掲載されている全商品の集計、分類を行い、約1世紀の動向を探る。
    結果各商品が掲載された頁の配置を分野別にみると衣料品は1902年では主にカタログの後方に位置していたのに対し、1927年以降になると最初の頁より掲載されるようになる。1000頁を超えるカタログの全頁数に対する衣料品の頁数の割合を年代別にみると1902年から順に22%、25%、31%、35%、20%となる。これにより1974年までに人々が衣料品に関心を寄せるようになったということ、年代を追う毎に工具や馬具、銃製品から衣料品、日用品に重点が置かれるようになったことが伺える。商品の出現状況をみると1902年には氷冷蔵庫や手動の洗濯機、1927年には自動車製品や電気掃除機、1952年にはテレビ、1993年にはパソコンが登場し、生活機器の変遷が伺える。
  • 山村 明子
    セッションID: 3D8
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    目的 ファッション雑誌によるトレンド提案と、それらを支持する消費者像を分析し、現代ファッションの背景を探る。 方法 雑誌モデル蛯原友里が提案するOLスタイルに着目し、そのファッションテイスト、モデル像、及び消費者の生活スタイルを検討する。主な資料にはファッション雑誌CanCamを利用する。 結果 CanCam誌上のファッションスタイルの変遷を追うと、2004年3月にロマンチックスタイルが提案され、翌月にはその提案は蛯原友里をメインにエビちゃんOLと名付けられた。そのスタイルは白、ピンクといった淡い色彩とフリルやリボンを取り入れたソフトでキュートなファッションイメージで、上司にも好印象を与える「愛され系スタイル」として位置づけられている。このような提案は多くの読者に支持され、「蛯原友里が着た服は店頭で即日完売」というエビちゃん現象を巻き起こす。この背景には「恋も仕事も頑張る」というモデル像の設定と、現代女性の価値観が合致し、ファッションイメージをモデル像によって増幅させた効果が反映されていると考える。
  • 鄭 銀志
    セッションID: 3D9
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    京狩野家第四代当主であった狩野永敬(一六六二~一七〇二)は、早くから京狩野家の後継者として抜群の力量を発揮し、天和度に訪れた朝鮮通信使一行の様子を、「朝鮮通信使行列図巻」と「朝鮮通信使行列図屏風」に描き遺し、また朝鮮へ贈呈する屏風絵の製作にも携わった絵師である。本研究では、永敬若年期の作品であるハーバード大学サックラー美術館所蔵「朝鮮通信使行列図屏風」を取り上げる。本屏風は、天和二年(一六八二)に来日した朝鮮通信使一行を写実的な画風で描いたもので、制作年代が推定できること、また、通信使一行の各職分別の服装が詳しく描かれていることから、朝鮮通信使服飾の研究において極めて重要な位置を占める史料である。<BR> 周知のように、近世を通じて朝鮮通信使は十二回に亘り来日しており、天和度朝鮮通信使はその第七回目に当たる。本研究では、朝鮮通信使の服飾を、当屏風から職分別に考察し、その上で、当時の朝鮮時代の実物資料、また、日朝両国における文献史料との比較・考察をおこない、天和度にみる朝鮮通信使服飾の一面を明確にすることを試みた。<BR> その結果、文官の公服と小童の服装からは、朝鮮風と日本風の折衷がみられたが、その他の職分別にみる服飾は、当時の朝鮮中期におけるものとしてほぼ写実性に沿って描かれていたことが確認された。
  • ー紅型,伊勢型,会津型を中心にー
    富士栄 登美子, 島袋 麻美
    セッションID: 3D10
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    【研究内容】沖縄県の沖縄島を中心とした紅型,福島県の会津若松,田島,喜多方を中心とした会津型,三重県鈴鹿市の白子・寺家を中心とした伊勢型について,それぞれの色彩,文様,技法などの相違点を明らかにし,型染の美意識について比較検討し,技法,染色法,色彩,道具,型紙の面から考察した。 【研究結果】(1)染型紙:伊勢型,会津型は,白地彫りと染地彫りのいづれかであるのに対して,紅型は,白地彫りと染地彫りの両方がひとつの染型に存在している場合が多い。(2)技法や道具:紅型には「糸掛け」が,伊勢型には「糸入れ」が残っている。「糸入れ」と「糸かけ」は異なる技法である。(3) 彫り台:紅型の型を彫るときの台は,「ルクジュウ」である。(4) 型屋と染屋(紺屋):(5) 色彩:伊勢型,会津型は、おおむね単色が多い。これに対して紅型は、顔料を使った多色染である。紅型は、藍と墨で染める藍型もあるが、[紅入色型染]を略して[紅型]と呼ぶように、[色差し][色配り][隈取り][二度刷り]など多色の色使いである。(6) 染色法:紅型は捺染法であり,伊勢型,会津型は浸染法である。(7) 文様:紅型は図案化,伊勢型は繊細,会津型は技巧的である。(8) 美意識:紅型の美意識は,伊勢型から生まれた江戸小紋や,中形にみられるような粋好みの美意識ともちがう。紅型の隈取りや白地彫り染地彫りがひとつの型紙に共存しているという特徴が幻想的で自由で明るい紅型の美意識を生み出しているといえる。(9) 教育の現場で:今後は地域教材とした授業を小・中・高等学校の教育の中に取り入れることで子供たちの伝統工芸に対する意識の向上の更なる変容が期待される。「紅型」を地域教材として取り上げ,現職教員で大学院生の島袋麻美の教育実践は,教育成果をあげている。 本研究は、科学研究費補助金(2005~2007年度、課題番号17500509)を受けていることを申し添えます。
  • 久保 博子, 磯田 憲生, 中川 舞衣子, 水田 祐美子
    セッションID: 3E1
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    [目的] 青年女性の選択気温を用いた温熱的快適性に関する検討を行ってきたが、それらは一定条件(気温28℃)からの選択であり、異なる気温条件からの選択気温は検討されていない。本研究では、異なる3条件から気温を選択することにより、好みの気温に選択前の気温や生理量がどのような影響があるのか、それは個人差と関係があるのかを知ることを目的とする。
    [方法] 被験者は青年女子10名とし、27℃、29℃の前室で30分滞在後、23℃、28℃、33℃一定の室内で60分間椅座安静状態を保った。その後120分間手元の装置で気温を快適と感じるように自由に調節した。その間の生理反応を皮膚温、心拍数を30秒間隔、舌下温・心拍数は10分間隔などを測定し、心理反応を温冷感、快適感など主観申告を10分間隔で測定した。
    [結果] (1) 選択気温は、23℃では気温を上げ、28℃、33℃では気温を下げる傾向にあった。28℃では26.4±2.7℃に調節されており、既往の研究とほぼ同様の結果であった。また、条件23℃と33℃の選択気温には有意差があり、条件33℃における選択気温はやや高かった。(2) 気温調節後の平均皮膚温には有意差があり、気温の影響を受け、3条件で皮膚温は同じではなかった。(3) 温冷感は条件23℃では涼しい側から、条件28℃、33℃では暖かい側から移行し、「0:どちらでもない」に推移した。どの条件も気温調節前の申告には有意差があったが、60分以降は差がなかった。(4) 平均皮膚温は選択気温の高い人ほど気温選択前に低く、選択後に高い傾向にあった。選択気温と気温選択前の温冷感には、条件23℃において負の相関関係が見られ、関連性があった。
  • -蒸気温熱シートを使用した場合-
    佐々 尚美, 梁瀬 度子
    セッションID: 3E2
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】冷えを感じる時として冬期が多く挙げられ、冬期の効果的な冷え対策が望まれている。これまでに、夏期の冷え対策として蒸気温熱シート(以下シートと称す)を用いた実態調査より、シート使用部位は、腰あるいは腹に使用する者の同率に分かれ、今後も腰や腹を温める事を多くが希望していた。本報告では、冬期の冷え対策としての暖める部位の実態および今後の暖める部位の好みなどを把握することを目的に実態調査を実施した。【方法】主に冷え性である女子大学生を対象に、日常生活にて3日間‘冷え’を感じた時に自由に腰または腹部にシートを使用し評価する実態調査を実施した。使用日毎に「使用状況、使用前後の全身および部位の温冷感、快適感、冷えの改善」等を、3日使用後に「今後使用したい方法、時期」等を評価した。被験者は30名であり、調査は2006年1月~2月に実施した。【結果】使用部位は、全体の約7割が腰に、約3割が腹に使用し、夏期と異なっていた。シート使用により、使用前より全身および各部位の温冷感は暖かい側となり、シート使用時の末梢部の温冷感は「やや涼しい」であったが、全身温冷感は「やや暖かい」となった。更に、快適側となり、冷えが改善したと評価した。今後使用したい時期では、「冬、冬期外出時、冷えを感じた時」が多く5割以上が回答した。また、冷え改善として今後使用したい方法では、約7割が「腰に使用」と回答し最も多く、次いで約6割が「腹に使用」であり、腰を暖める方を好んでいた。更に、夏期では希望が少なかった「足の裏に使用」や「手でにぎる」なども多く回答された。夏期より冷える部位を直接暖めたい傾向にあると考えられ、季節により暖める部位を考慮する必要性が示された。
  • 都築 和代, 栃原 裕, 大中 忠勝
    セッションID: 3E3
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに  乳幼児の体温調節反応に関しての研究は少なく、特に寒冷環境においてはほとんど報告されていない。本研究の目的は寒冷環境に乳幼児と母親を暴露した時の体温と心拍数を比較するとともに、乳幼児の性差を検討することである。 2.実験概要  被験者は健康な乳幼児15名(1歳3ヶ月-3歳;男子9名,女子6名)とその母親(29-40歳)であり、乳幼児はTシャツと紙おむつを着用し、母親はTシャツと短パンを着用した。気温25℃、相対湿度50%、気流0.2m/sの人工気候室に1時間滞在し、その後、寒冷条件として隣り合う気温15℃、相対湿度50%、気流0.3m/sの部屋に移動し30分間滞在し、さらに、元の部屋に戻って30分間安静を保った。測定項目は、直腸温、皮膚温7点(前額、腹、上腕、手背、大腿、下腿、足背)および心拍数であった。 3.結果  乳幼児の身体特性は、身長、体重、皮下脂肪厚の全てにおいて母親の22%–55% の範囲にあり、体重あたりの体表面積は163% であった。身体的特徴に性差は認められなかった。気温25℃では、母親に比べて乳幼児の腹部皮膚温[乳幼児:35.6℃、母親:34.7℃]は有意に高く、手[33.2℃ 、33.8℃]と腕[31.6℃ 、32.1℃ ]は有意に低くなった。寒冷暴露において乳幼児の直腸温は上昇を示し、変化度は[0.1℃、–0.1℃]で有意な差が認められ、皮膚温では手[–8.5℃、–5.7℃] と足 [–7.3℃、–6℃] で乳幼児の方が有意に大きな低下度を示した。寒冷暴露の最終においては、腕 [25.7℃、27.1℃]と手 [24.7℃、28.1℃]で有意に乳幼児の皮膚温が低くなった。皮膚温の変化には性差は認められなかったが、直腸温の変化には差が認められ、男子で寒冷暴露の途中から低下を示した。心拍数は男子においてのみ寒冷暴露中に有意に低くなり、女子や母親では有意な変化を示さなかった。
  • ~仕上げ材が異なる場合について~
    藤井 佳代, 磯田 憲生, 数江 昇資, 遠藤 稔
    セッションID: 3E4
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    〔目的〕床暖房装置を夏期に床冷却として利用するために床冷却の温熱的快適性に関する研究が進められている。本研究では、実験住宅のLDK実験室を使用し、木質パネルと木質パネルより薄く熱伝導性が高い新素材パネルの2種類の床仕上げ材を使用し床冷却実験を行い、設定気温・床温および床仕上げ材の違いによる床冷却の人体反応に及ぼす影響を把握し、温熱的快適範囲を検討する。〔方法〕実験型住宅棟のLDK空間を使用し、床仕上げ材として木質パネルと新素材パネルを床冷却装置の中央で分けて敷設する。室内温熱環境条件として設定気温28℃~30℃・床温23℃~冷却なしとする。被験者は健康な青年女子24名を採用し、着衣は0.32cloとした。準備室(28℃設定)で約30分間椅子座安静を保つ。LDK実験室に移動し、床座で安静を保つ。測定項目は皮膚温・舌下温などの生理反応、全身温冷感・快適感・床温温冷感などの主観申告であり、入室後60分間測定する。実験は2007年7月10日~7月31日のうちの14日間実施した。〔結果〕床温は新素材パネルのほうが低く、接触部である臀部・足底は実験開始時から皮膚温が低下した。また、新素材パネルのほうが皮膚温は低く、熱伝導性の違いが見られる。躯幹部は大きな差は見られない。心理的反応への影響として、温熱的中性申告(-1~+1)が得られる気温は28℃~31℃の範囲となる。床温が高いと温かい側の申告となるが、床温24℃以下では冷たい側の申告が多くなる。温熱的快適範囲が得られる気温と床温の組み合わせ範囲を検討すると、気温27.5℃~32.5℃、床温25℃~30℃の範囲となる。
  • 磯田 憲生, 藤井 佳代, 東 実千代
    セッションID: 3E5
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    【目的】床暖房は頭寒足熱の快適な暖房方式であり、建物の熱的性能(断熱性・気密性)、住まい方、床接触部位(椅子座・床座)などを考慮した温熱的に快適な室温・床温の提案が望まれる。本研究では、床暖房装置を設置した住宅を使用して被験者実験を行い、人体反応を把握し、床暖房に対する温熱的快適室温・床温について検討する。 【方法】実測に使用した建物は窓にはペアグラス、屋根・壁には100mm厚の断熱材を使用している。1階LDK室(電気床暖房装置・吹き抜け有)及び地階室(温水床暖房装置)を用いて、健康な女子学生16名を床座で条件下に90分間暴露し、温熱環境要素及び人体反応として舌下温、皮膚温(16点)を測定し、温冷感・快適感・満足感などの主観申告を受けた。 【結果】室内温熱環境は、LDK室では気温Ta20℃~24℃、床温Tf20℃~33℃、地階室ではTa20℃~25℃、Tf26℃~39℃となり、床温が高いと気温も高くなる傾向がみられる。部位別皮膚温は、躯幹部及び臀部などの接触部位は高く、末梢部位は低い。全身温冷感は気温が高くなるほど暖かい側の評価となる。温熱的中性範囲申告が得られる気温は約21℃であり、中性範囲は19℃~24℃である。平均皮膚温は29℃~35℃の範囲にあり、平均皮膚温が約33℃の時に温熱的中性申告が得られる。床温が33℃を超えると床に対する温冷感が「かなり暖かい」を超え、床温満足感評価が低下する。これらより床暖房の温熱的快適範囲を検討すると、気温は16℃~24℃、床温は20℃を下限に32℃の範囲と考えられる。
  • 五十嵐 由利子, 塩谷 奈緒子, 高野 智香, 丹野 友貴, 松本 夕香
    セッションID: 3E6
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/11/10
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    目的 2007年7月16日に新潟県柏崎市を中心に発生した新潟県中越沖地震では、多数の住家被害があり、多くの人が避難所での生活を余儀なくされた。避難所として、体育館やコミニュティセンター等が利用されたが、その多くには冷房設備がなく、暑さ対策が大きな課題となった。そこで、本研究では、避難所として最も多く利用される体育館を対象に、温熱環境の実測調査を行い、実態を明らかにするとともに、改善の提案を目的とした。
    方法 3箇所の避難所(体育館)を対象に、2008年7月19日~8月10までの間、温湿度測定を行った。また、1箇所の避難所において、途中から冷房車による緊急支援が行われた(ダクトによる冷風を送風)ことから気流と騒音測定を追加した。
    結果 1)開口部が少なく、通風はその日の風向に左右され、通風状態はあまりよくなかった。2)鉄骨造の体育館は日射の影響を受けやすく、室温は外気温より高くなっていた。4)緊急支援によりダクトを用いた冷房が行われた避難所では、温度低下は小さかったが相対湿度の著しい低下が認められた。しかし、騒音レベルは60Db(A)とかなり大であった。
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