通常、ひとは周辺環境を認知する場合、その大半を視覚情報に頼っている。しかし視覚情報に頼ることの困難な視覚障害者は、その代行として聴覚情報や触覚情報を利用し、行動している。本研究は視覚障害者の聴覚情報を利用した空間認知の過程を探り、視覚障害者が街中で安全で正確な移動ができるような音環境造りのための指針を与えようとするものである。4名の視覚障害者に、訪れたことのない2つの街路空間を3回ずつ歩行してもらい、歩行中の内観報告、歩行後の記憶しているものの報告、歩行経路の描画を得た。これらを基に、聴覚情報の利用に重点を置きながら、彼らの歩行経路の認知過程について探った。得られた結果は以下の通りであった。(1)初めて歩行する経路は、直進距離と曲がる方向を基にしたルートマップとして記憶された。細かな目印よりも、空間の広がりや聞こえる音に対するイメージが優先的に記憶された。(2)2回目以降の歩行の段階で、曲がり角の位置の確認が不確実な部分において、目印(ランドマーク)を求める行動がみられた。特に大通りの交通音は、早い時期から位置確認のために積極的に利用された。商店等からの音も、ある程度の歩行を行うことで、利用されるようになった。(3)記憶された情報を追従しながら移動が行われた。そのため曲がり角近辺では、目印発見のため意識が高まった。一方、情報の取捨選択が行われ、発見しやすい目印の手前では意識に留まるものは減少した。
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