日本農村医学会学術総会抄録集
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第55回日本農村医学会学術総会
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一般演題
  • 佐藤 繁樹, 西井 由美, 中野 雅世, 飯田 健一, 紅粉 睦男
    セッションID: 2F20
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    〈緒言〉甲状腺刺激ホルモン(TSH)はα、β二つのサブユニットからなる糖蛋白で、下垂体前葉より分泌され甲状腺ホルモンの合成、分泌を促進するホルモンである。
     血清TSH検査精度の向上による高感度TSH測定が一般化して、甲状腺疾患の診断は大きく進歩した。同時に甲状腺ホルモン値は正常だがTSHのみ軽度異常を示す潜在性の甲状腺機能障害が比較的多く存在することもわかり、臨床的にどのように取り扱うべきか問題になっている。そこで顕性の甲状腺異常の他に、潜在性甲状腺機能障害を早期に発見し、専門医による的確な治療を行い、患者様のQOLを高める目的で当院人間ドックに血清TSH測定を導入し、ドック受診者の男女別血清TSH分布、男女別基準値の算出、血清TSH低値者の年齢分布及び男女比較、血清TSH高値者の年齢分布及び男女比較の検討を行ったので報告する。
    〈方法〉調査対象は、平成17年4月_から_9月の当院人間ドック受診者8,303名について以下の検討をした。
    1.男女別血清TSH測定値の分布
    2.男女別基準値の計算
    3.血清TSH低値者及び高値者の年齢分布と男女の比較
    測定原理は、磁性粒子に固相化された抗TSHマウスモノクローナル抗体と血清TSHが反応したところに、アクリジニウム標識抗TSHマウスモノクローナル抗体を加えBF分離した後、化学反応により発光物質を発光させ発光強度を測定するCLIA法(化学発光免疫測定法)である、アボット社ARCHITECTアナライザー専用試薬「アーキテクト・TSH」を使用した。
    〈結果〉1.血清TSH測定値の分布は、男女とも0.51-1.00μIU/mlの狭い範囲に男性約40%、女性約33%集中しており高値の方に裾を引く分布(対数分布)となった。
    2.基準値の計算は全測定値を対数変換し正規分布とし、±3SDを越える測定値を反復切断後、95%(±1.96SD)の範囲とした。
    全体で0.32_から_3.28μIU/mlとなり、男性0.30_から_3.01 、女性0.35_から_3.68μIU/mlであり女性が優位(P<0.01)に高い値を示した。
    3.全体の当院参考基準値でみるとTSH低値者は、男性3.7%、女性2.8%でTSH高値者は、男性2.3%、女性4.3%となった。年齢別のTSH低値群の頻度は、男性は年齢による変化は少なく、女性は年齢が上がるにつれて減少した。TSH高値群では、男女とも年齢とともに増加したが女性は男性より年齢による差異は少なかった。
    〈考察〉男女別の当院算定参考基準値は、女性が優位(P<0.01)に高い値を示し、今後は男女別の基準値設定を考慮する必要があると思われる。
     人間ドックにおける血清TSH測定から精検へとつなげる基準値の設定は、今後、更に例数を増やすとともに、TSH異常者個々の追跡調査をおこなわなければいけないが、顕性の甲状腺異常の他に、潜在性甲状腺機能障害を早期に発見し、専門医による的確な治療を行うことで患者様のQOLを高める事が出来る事から人間ドックに血清TSH測定を導入する意義は高いと思われる。
  • 飯塚 憲政, 池原 領子, 島田 知美, 上西 里美, 平山 健, 林 香葉子, 加藤 明子, 樋田 郁治, 西田 正人, 佐藤 純
    セッションID: 2F21
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言> 先天性難聴は1000出生中1_から_2人に起こるとされ、様々なマススクリーニングの中でも先天性難聴の発症は高率と言える。新生児期の聴覚障害はその後の発達に重大な影響を及ぼすため、早期発見、早期療育の開始が重要とされる。当院では2002年11月より北海道の新生児聴覚検査モデル事業に添う形で自動聴性脳幹反応(AABR) 検査を導入した。今回、当院における新生児聴覚検査の検討結果について報告する。
    <対象および方法> 2002年11月から2006年3月までに当院で出生した全新生児1720例中ABR検査まで追跡可能であった1711例を対象として同意を得た上で行った。AABRスクリーニング検査はネイタス社製アルゴ2eカラーで行った。初回検査は、生後2日から退院前日までに行い、NCUに入院している重症児は全身状態を評価し、状態が落ち着いてから退院までの間に実施した。要精査と判定された場合できるだけ新生児入院中に確認検査を行った。確認検査でも要精査の場合には、1ヶ月健診までに耳鼻科へ紹介し、ABR検査を実施して最終確認とした。
    <結果> 1711例中、初回検査で所見なしと判定された例数は1535例(89.7%)で、初回要精査と判定された例数は176例(10.3%)であった。初回要精査176例に対し、確認検査を実施した結果138例(8.1%)は所見なしとなり、38例(2.2%)は確認要精査と判定された。また、ABR検査では7例(0.4%)に中程度から高度の聴覚障害を認めた。
    <考察> 全出生率対比におけるスクリーニング率は99.7%であった。また、現時点でABR 検査を指標にしたAABRの感度は100%、特異度96%であり、AABRとABRの検査精度は同程度と考えられた。ABR 検査を実施した38例の経過を見ると31例にABR閾値の継時的改善を認めるが、聴覚障害例の7例には継時的変化が認められなかった。
     American Academy of Pediatricsはユニバーサルスクリーニングのガイドライン1)を策定している。実施率が95.0%以上であること、初期スクリーニングの要再検率は3.0%以下であること、確認聴力検査を必要とする児は4.0%を超えないことと提唱しているが、今回の成績ではそれぞれ(99.7%) 、(10.3%)、(2.2%)と初期スクリーニングの要再検率が高い結果となった。要再検率が低いことは再検査にかかる費用および人的負担の軽減につながること、要再検となった児の両親が受ける不安や検査を繰り返す負担を考慮すると今後、要再検率を低くするための方法を検討する必要があると思われた。
     当院でのAABRを用いた聴覚スクリーニング検査が始まって約3年間半経過し、最終的にABR検査などの結果から難聴と診断された7例に関しては早期に聴覚障害を発見することができた。しかし、聴力の継時的改善が見られないため、今後行われていく早期療育に期待したい。新生児聴覚検査は聴覚障害を早期に援助することを目的に行うもので聴覚検査の結果が要再検の場合には早期に再検査、精密検査を実施して確定診断を行い、適切な援助を行う体制が重要と考えられた。
    <文献>
    1) Erenberg A, Lemons J, Sia C, et al. Newborn and infant hearing loss:detection and intervention. American Academy of Pediatrics. Task Force on Newborn and infant hearing, 1998 - 1999. Pediarics 1999; 103: 527 - 530
  • 篠原 進, 瀬尾 由広, 野口 明子, 田村 綾子, 内田 清子, 猪瀬 由美子, 遠山 卓明, 有川 良二, 前田 裕史
    セッションID: 2F22
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
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    <背景・目的>多くの急性冠症候群(ACS)は予兆なしに発症する。しかし、ACS発症を予測することは未だ困難である。一方、頚動脈と冠動脈における動脈硬化には密接な関係があることが知られている。近年、頚動脈エコー法は動脈硬化の評価に広く行われており、本法により冠動脈疾患の有無の推定や、将来的な心血管疾患イベントの発症に関する報告が多くなされている。本研究は、ACS症例における頚動脈エコー像の特徴について検討することである。
    <方法>対象は、ACS79症例(男性64例,平均年齢65±11歳)。コントロールは心血管疾患の既往のない男性が40歳、女性が55歳以上の167名(男性102例,平均年齢56±7歳)である。頚動脈エコー法は、両側総頚動脈および内頚動脈の評価を行った。頚動脈球部より1cm近位部の総頚動脈において、内膜中膜複合体厚(IMT)、内腔径、および外膜間距離を外径とし、計測した。また、総頚動脈を3分画に分け、各分画で最も厚いプラーク厚の総計を、プラークスコアとして計測した。プラーク性状は、低輝度プラーク、高輝度プラーク、そして潰瘍性病変に分類し、低輝度プラークおよび潰瘍性病変を不安定プラークと定義した。
    <結果>冠動脈危険因子の比較では、ACSで有意にHDLコレステロールが低値(50±13VS.63±18mg/dl,p<0.001),HbA1Cが高値(6.3±3.3VS.5.4±0.8%,p<0.001)であった。頚動脈エコーでは、IMTおよびプラークスコアが有意に大であった(IMT:0.80±0.14VS.0.69±0.15mm,p<0.001,プラークスコア:6.5±4.0VS.2.2±2.0,p<0.001)。また、頚動脈不安定プラークが有意にACSに多く認められた(26.5VS.4.0%,p<0.001)。プラークスコアおよび頚動脈不安定プラークの存在は、年齢、冠動脈危険因子で補正後も有意なACSの独立規定因子であった。(プラークスコア:OR1.46,p<0.001,不安定プラーク:OR3.68,p=0.03)。
    <結論>頚動脈エコーにより、プラーク総量の推定と不安定プラークの存在を評価することで、ACS発症のハイリスク群を予測できる可能性が示唆された。
  • 篠宮 亜紀子, 坂口 久美子, 丑山 茂, 中川 龍男, 上原 剛
    セッションID: 2F23
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
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    <はじめに>膀胱癌の局在診断には,直視下で病変を観察できる膀胱鏡検査が最も優れているが,疼痛や逆行性に伴う感染の危険など患者への負担は避けられない.したがって,スクリーニング検査としてより精度の高い非侵襲な検査が求められているのが現状である.現在長野松代総合病院(以下当院)では,膀胱癌のスクリーニング検査として経腹的超音波検査(以下US)と尿細胞診検査(以下尿細胞診)を併用しているが,成績について検討したので報告する.
    <対象>1998年4月から2005年3月までの8年間で,当院泌尿器科を受診し,経尿道的膀胱腫瘍切除術が施行され,病理組織学診断で膀胱癌と確定診断をうけた49例(男性39例,平均年齢69.0±14.3(SD)歳,女性10例,平均年齢71.0±8.7(SD)歳)を対象とした.
    <方法>USは膀胱内に尿を充満させた状態で二方向から観察し,膀胱内に隆起病変を認めた場合を陽性とした.超音波検査断層装置はアロカ製(650, 650CL, SSD4000, SSD5000)を使用し,走査プローブは3.5MHzのコンベックス型を用いた.
     尿細胞診は自排尿および膀胱洗浄液を膀胱癌取扱い規約によりPapanicolaouの5段階法で評価し,classIII以上を陽性とした.
     統計学検討にはm×nχ検定イエーツ補正を用い,危険率5%未満を有意とした.
    <結果>
    1)膀胱癌症例におけるUSと尿細胞診の成績
     膀胱癌49例中陽性はUSで40例(81.6%),尿細胞診は43例(87.8%)であった.両検査を組み合わせいずれかが陽性を示した症例は47例(95.9%)であった.両検査法とも陰性となった症例は2例(4.1%)であった.
    2)膀胱癌の大きさとUS,尿細胞診の成績
     US,尿細胞診ともに陽性は5mm以下で12例中9例(75.0%),5-10mmではUSで12例中10例(83.8%)尿細胞診で陽性が9例(75.0%)であった.10mm以上では両検査ともに21例中21例(100%)と,膀胱癌の大きさによる陽性率に差は見られなかったが,腫瘍の径が大きくなると陽性率が高くなる傾向を示した. 上皮内癌(以下CIS)の4例はすべて尿細胞診で陽性であったがUSで陰性だった.
    3)尿細胞診での移行上皮癌(以下TCC)の異型度別(G1<G2<G3)陽性率の比較
     尿細胞診の成績は, TCCのG1は21例中17例(81.0%),G2は17例中16例(94.1%),G3は6例中6例(100%)が陽性であった.
    <考察>
    山下らの報告によると膀胱癌に対する診断感度はUSで60%,尿細胞診は60-80%であり,今回の成績は両検査法ともそれぞれ81.6%,87.8%と良好な結果と考えられた.しかしCISにおけるUSは,隆起病変だけでなく限局的な壁肥厚にも注意して観察していく必要があると考えられた.
     尿細胞診の診断能は,癌の分化度や浸潤度など細胞異型度の差によりその成績が異なるといわれているが,今回細胞異型度が増すに従って感度が高くなる傾向を示していた.
  • -病気と治療の理解-
    彦坂 美保子, 小笠原 律子, 出口 恵三, 三谷 幸生
    セッションID: 2F24
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
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    <はじめに>睡眠時無呼吸症候群(以下、OSAHS)の主な症状は、日中の眠気やいびき、起床時の頭痛などが挙げられる。就寝中の質の悪い睡眠と、酸欠状態を毎晩繰り返すため、重篤な心・血管系の合併症や、交通事故、作業事故をも引き起こす危険がある。更に、重症のOSAHSを未治療のまま放っておくと、10年後の生存率は大幅に下がってしまう。しかし、CPAP治療を行うことで、健常者と同様の生存率になると報告されている。このように、救える病気であるはずが、自覚症状が乏しい患者さまは、家族にいびきや無呼吸を指摘されて来院し、検査をしても、自身の病気を病気として受け入れていない場合や治療を面倒だと感じている等、病気や治療の理解不足で治療に至らないケースがみられた。今回、OSAHS患者さまのQOL向上のため、検査結果説明を始めたので報告する。
    <目的および方法>重症のOSAHSであっても自覚症状の乏しい方の場合、病気の怖さや治療の必要性を理解できず拒んだり、治療を始めても効果が実感できず、マスク装着の煩わしさや不快感のために離脱するケースも多い。その点を改善する為、再受診時の診察前に、検査技師による検査結果説明を行う事とした。
     患者さまには、検査時の状態を数字やグラフでまとめた“あなたの睡眠”、“あなたの呼吸状態”、“波形グラフ”の3枚を結果表として渡す。正常パターンの波形グラフと、典型的なOSAHSの波形グラフを見せながら説明し、気道が閉塞する様子は模型を使用して説明する。また、OSAHSの合併症など病気の怖さや治療の種類や効果についても説明し、一方的な説明だけでなく、病気や治療に対する不安や疑問に応える機会を増やした。
    <比較対象>結果説明を検査技師が行う事で、患者さまの治療への受け止め方に違いがあるかを比較するため、診断目的のPSG検査を受けた患者さまを対象に、説明をしていなかった以前と比較検討した。
    a.説明を始める前の2004年8月から2005年4月に、検査を受けた患者さま29名
    b.説明を始めた2005年8月から2006年4月に、検査を受けた患者さま37名
    <結果>
    ・平均AHI   a.58.6 b.42.4
    ・AHI:30以上の人数  a.26名(90%) b.28名(76%)
    ・AHI:30以上での平均AHI  a.59 b.48.8
    ・CPAP導入人数  a.16名(55%) b.22名(59%)
    ・CPAP導入人数の割合(AHI30以上)  a.61% b.79%
    ・AHI:30以上でCPAP未治療患者さまの平均AHI  a.45.5 b.36.3
    <考察>結果説明を検査技師が始め、重症とされるAHI30以上のOSAHS患者さまが、積極的にCPAP治療を行うようになり、要治療の方の病気への意識が高まったのではないかと思われる。また、医師からの「結果説明を受けてからの診察は、患者さまの病気の捉え方が以前とは明らかに違い、スムーズに診察が行えるようになった」という言葉もあり、医師の説明に関する負担軽減にもつながったと思う。更に、2006年1月からは、治療中の患者さまにも検査結果説明を開始し、治療のコンプライアンスも向上した。この疾患における治療の導入及び継続は、QOL向上に大きく寄与するものと考える。
  • 羽生 登, 倉田 真由美, 永井 久美子, 清水 敏夫, 峯村 今朝美, 西井 裕, 市川 英幸
    セッションID: 2F25
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
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    <目的>近年、生活習慣病のひとつである糖尿病は増加傾向にあり、その歯止めをかけることが急務とされている。糖尿病の血糖コントロールの指標としてHbA1cが用いられているが、半減期が長いため耐糖能異常群や治療開始の初期の段階での判定には適していない。しかし、グリコアルブミン(GA)は半減期がHbA1cよりも短く糖尿病の教育入院や治療効果の判定に適しており、GA測定は患者の状態や治療効果の判定にきめ細かい情報が提供できると考えられる。今回われわれは、GA測定を院内で行うために基礎的検討を行った。
    <方法>GA測定には、測定装置はオリンパスAU2700自動分析装置を用い、メーカー指定のパラメータを使用した。試薬は、酵素法であるルシカGA-L(第一化学)を用いた。HbA1c測定にはADAMS A1c HA-8160(アークレイ)、血糖測定にはGA05(アットウィル)をそれぞれ用いた。同時再現性、日内変動、日差変動をGAコントロールL、H(第一化学)を、共存物質の影響を干渉チェックAを用い検討した。また、糖尿病教育入院群および人工透析群の血糖とHbA1c、血糖とGA、およびHbA1cとGAの相関を求めた。
    <結果>同時再現性(n=10)の変動係数(CV)は、Lが0.8%、Hが1.4%、日内変動はLが2.4%、Hが2.7%、日差変動はLが2.2%、Hが3.3%とすべて4%以下であった。共存物質の影響は溶血で負の影響があった。教育入院群の血糖とHbA1cの相関は回帰式y= 0.013x+8.1、相関係数r= 0.335、透析群はそれぞれy= 0.0058x+5.5、r=0.389、教育入院群の血糖とGAの相関はそれぞれ y= 0.063x + 18.4、r= 0.534、透析群はそれぞれy= 0.061x+16.7、r=0.476であった(図1)。教育入院群のHbA1cとGAの相関はそれぞれy = 2.46x + 2.28、r= 0.858、透析群はそれぞれy=5.32x-8.13、r=0.784であった(図2)。
    <まとめ>再現性はすべてCV4%以下と良好な結果が得られたが、溶血で低値を示した。また、教育入院や人工透析患者の血糖コントロールの指標としてHbA1cよりGAの方が優れていた。
  • 田村 和孝
    セッションID: 2F26
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
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    目的〉本邦における前立腺癌の罹患率・死亡率は急増傾向にあり、その医学的・社会的対策は急務と考えられている。
     PSAは前立腺細胞及び導管上皮細胞に局在し、また正常前立腺組織・悪性前立腺腫瘍組織・前立腺液・精漿中に存在する。
     前立腺以外の正常細胞あるいは腫瘍細胞には存在せず前立腺に特異的である。
     PSAの血中濃度の測定は前立腺の各病態の把握、治療経過のモニターとして有効と考えられている。
     前立腺癌のマーカーとして広く使用されているPSAの測定法はRIA法が主流で、標準法として高い信頼性を得ている。
     今回私たちは、放射性同位元素を使用せず環境に配慮したnonRIA法と従来のRIA法を比較検討する機会を得、若干の考察を得たので報告する。
    方法〉(使用測定装置及び試薬)
    *アロカ(社)ARC950ハイブリテック(社)PSAタンデムR(IRMA法)
    *東ソー(社)AIA1800東ソー(社)ST-Eテスト「TOSOH」PA免疫反応試薬(FEIA法)
    *アボット(社)アーキテクトアボット(社)アーキテクトPSA(CLIA法)
    *アボット(社)アキシムアボット(社)PSAダイナパック(MEIA法)
     上記の測定装置・試薬を用いて97検体(アキシム92検体)を測定し比較検討をした。
    y=AIA y=1.0098x-0.017R=0.9979y=AXSYM y=0.9626x-0.0878R=0.9951y=ARCITECT y=0.9913x-0.0143R=0.9973
    結果〉比較検討した結果を下記の表にまとめた。
    y=AIA   y=1.0098x-0.017   R=0.9979y=AXSYM   y=0.9626x-0.0878  R=0.9951y=ARCITECT  y=0.9913x-0.0143  R=0.9973
    まとめ
     (1)今回使用した、AIA・アーキテクト・アキシムともに良好な相関が得られた。
     使用した検体が検診のものであったため比較的低値の検体が多くなったがタンデムR(RIA法)に対して使用した3試薬全て基準値「4.0ng/ml」での前立腺癌スクリーニングとして考えれば低値でも良好な結果を得ることができたと考えられる。
     (2)今回使用した、nonRIAの試薬は高感度PSA測定としても使用可能な0.02ng/ml以下(AIAを除く)の感度となっており今後診療、人間ドック、検診と幅広く活用することができると思われる。
     また、少人数の検査室や多量の検体を扱う施設でも院内で容易に測定し迅速な報告が可能であると考えられた。
  • 田ノ上 八郎, 森本 奈津, 百田 徳子, 今西 健, 小川 智子, 吉井 妙子, 長崎 万里子, 小松 広枝, 立石 美保, 中山 拓郎
    セッションID: 2F27
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>医療機関が日常診療の中で行う血液、尿、体腔液等、いわゆる検体検査は客観的なデータが得られ、疾患の有無や程度、治療方針の決定等に有用である。また、当病院の理念である『私たちは、医療の安全を保障し、質を高め、心のこもったサービスを提供し、患者の皆さまに選ばれる病院であり続けます。』を実践していくうえからも、いつ、どんな検体でも正確な検査を迅速に提供出来る検査体制を整備しておく事が大切である。
    <目的>高額な検体搬送システム等を導入せず、分析関連機器類の改良と検体の流れが止まらないような工夫をして、普通と至急の区別をする事無く全ての検体検査を30分程度で報告出来る検査体制を構築する。
    <工夫>当院は電子カルテ・オーダリングシステムが稼動しているのでこの機能を十分に活用し、日常検査業務をシンプルで分かりやすい作業にする事と検体の流れを止めないように次のような工夫を行った。
    (1)検査オーダ画面に検査所要時間を●や▲等の記号で表示した。
    (2)外来患者さんは午前7:30から採血して8:30から始まる外来診療に間に合うようにした。
    (3)外来患者さんの採血は検査科で実施。
    (4)生化学用採血管は血液を入れて4分間放置したら遠心分離作業にかかれる超高速凝固採血管を採用。
    (5)スタートボタンを押したら4分後に遠心開始するJAK型(JA高知型)遠心機を遠心機メーカーと共に開発。
    (6)自動分注装置に分注終了アラームを設置。
    (7)技師が作業ミスを起こしにくくするため分析装置別に試験管を色分けした。
    (8)装置間ラック乗り換え支援アラームを設置。
    (9)血沈測定終了アラームを設置した。
    (10)上下限値や前回値チェックにひっかかった場合やスタッフが誤って分注装置を通さずに直接分析装置にセットアップした場合などにアラームを発生する装置を設置した。
    <結果>このようなシステムを用いて日常検査を実施しているが採血後、もしくは検体を受け取り後、結果を報告するまでの検査所要時間を調査した結果、分析装置別の平均検査所要時間は次のようであった。
     (1)CBC              :3分40秒
     (2)検尿              :5分21秒
     (3)血糖、GA,HbA1c     :16分16秒
     (4)PT等凝固因子       :18分53秒
     (5)GOT等いわゆる生化学  :23分24秒
     (6)TSH、CEA等免疫化学  :31分00秒
     (7)血沈              :33分00秒
    <まとめ>私たちは高額で大掛かりな検体搬送システムを導入せず、分析関連装置類を工夫して、全ての検体検査を至急対応で検査する体制を構築した。その平均検査所要時間は前述のようにGOTやGPT等いわゆる生化学検査で23分24秒、血糖・HbA1cでは16分16秒である。全ての検体検査は至急で検査されるため、医師、看護師はオーダ時の煩雑さが改善され、患者さんは当日の検査結果で診療を受ける事が出来るようになった。また平成18年度の診療報酬改定で当日検査加算が新設され診療前検査体制の必要性が示唆された。
  • 緊急輸血を必要とされた事例を元に
    三ツ木 歩, 原田 康夫, 山本 敦子, 待田 智, 太田 光明
    セッションID: 2F28
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに> 2000年に発表された日本輸血学会の輸血事故実態調査では、時間外や緊急輸血においてABO不適合輸血の割合が高く、その原因として、血液バック・患者・検体の取り違えが半数以上を占めている。近年、このような輸血過誤を防止する手段として、システムを活用した安全対策が普及している。
     当院では2002年5月、病院移転に伴い、電子カルテによる輸血オーダリングシステムを導入した。また、同年12月より患者認証システムを導入し、採血から輸血実施まで、総合的に患者及び血液製剤の取り違えを防止するシステムが構築された。
     しかし、導入から3年余経過し、人的あるいはシステム的に対応が困難になった事例が発生している。
     我々は、当院救命救急センターで起きた事例を元に行った検査科での対応、及び輸血療法委員会での活動内容について報告する。
    <救命救急センターで起きた事例(要約)>
    緊急輸血のため、検査途中で製剤を払い出した。
               ↓
    「製剤の認証ができない。」と看護師、医師から連絡を受ける。(交差試験結果が未確定状態ではシステムでの製剤認証不可)
               ↓
    検査終了まで待ち、システム認証・輸血実施。
    <検査科での取り組み>
    1. 緊急払い出し用紙(目視認証を促す旨が記載されている)作成
    2. 緊急時のシミュレーション(3パターン)
    3. 電子カルテの勉強会(輸血関連)

    <院内での取り組み> 輸血療法委員会の小委員会として医師・看護師・薬剤師・医療情報部・医療安全対策委員・輸血検査室所属の臨床検査技師よりワーキンググループ(以下WG)を発足し、運用の問題点及び見直しを検討している。
    WGでの検討課題(抜粋)
     (1)検体採取時の誤認防止
     (2)認証の確実性向上のための方策
     (3) 輸血副作用・合併症対策
     (4)輸血血前後感染症の方針
     (5)輸血実施手順書作成
     (6)緊急時の対応
    <結果・考察> 電子的照合は、人的照合をより確実にするために使用し、双方の組み合わせにより安全性が向上すると考えられる。
    今回の事例においては、システム照合を省略し複数での目視確認により、輸血実施すべきであった。システムへの依存や緊急輸血における優先度の認識不足から安全な輸血療法が実施されず、職員への意識統一の重要性が改めて示された。
     今後同様の事例を起こさないために、マニュアルやシステムなどの環境の整備、逸脱行為に対しての検証、教育活動による認識の統一化、職種間の連携強化など職員への啓蒙を継続的に推進していく必要がある。
  • 藤田 征志, 弓削 亮一, 伊藤 広樹, 福永 浩也
    セッションID: 2F29
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに> がん化学療法の実施にあたっては、専門的知識を有する医療スタッフによるチーム医療が不可欠であり、薬剤師も積極的な介入が要求されている。
     平成15年度から平成17年度の3年間で、当院におけるがん化学療法の注射処方箋枚数は平均492枚/年、うち外来化学療法の割合は50%から70%へと増加した。そこで、薬剤師が入院から外来と一貫してがん化学療法に介入すべく、業務内容の改良を行ったので報告する。
    <概要> 当院薬剤部のがん化学療法への取り組みとして1)プロトコール管理B、2)看護師への啓発活動、3)薬剤部における無菌調製が挙げられる。
    1)プロトコール管理
     がん化学療法は複雑な投与方法があり注射処方箋の監査のみでは対応が困難な事が多い。そこで、抗がん剤の払い出し業務を円滑に行う目的で化学療法予定表を平成17年2月より導入し活用している。化学療法予定表には身長、体重、体表面積、使用薬剤、投与量、投与予定日、投与経路の記載欄を設け、施行前に主治医による提出を義務付けている。導入当初、化学療法予定表の書式に関する不満や提出の義務付けに難色を示す医師も多かったが、医師の意見を取り入れ改訂を加えることにより、現在がん化学療法開始時の提出率はほぼ100%に達している。
    2)看護師への啓発活動
     現在、抗がん剤の調製は外来あるいは病棟で看護師により行われている。抗がん剤には、細胞毒性、変異原性、および発がん性があるため、医療従事者の人体に及ぼす影響を考慮する必要がある。しかし、院内に抗がん剤の取り扱いに関するマニュアルが整備されておらず、看護師の抗がん剤取り扱いへの意識、対策は十分とは言えなかった。そこで、日本病院薬剤師会から公表されている「抗悪性腫瘍剤の院内取り扱い指針」に基づき、抗がん剤の使用マニュアルを作成した。また院内研修会にて抗がん剤調製時の注意事項、曝露対策などについて講義を行った。
    3)薬剤部における無菌調製
     より適切な抗がん剤調整を行う事、医療従事者の抗がん剤の曝露を最小限に抑える事を目的に薬剤部内に安全キャビネットを設置し、薬剤師による抗がん剤の無菌調整を開始した。開始にあたり調剤業務(入院・外来)、病棟業務兼任で薬剤師を3名配置した。調製手順および手技、曝露汚染時の対処方法を記載したマニュアルを作成し、平成18年5月より外来部門から開始した。今後、入院・外来のがん化学療法すべてを対象に無菌調整を行う予定である。
    <今後の課題> 現在、入院患者のがん化学療法に対して患者をモニタリングすることが可能であるが、入院から外来に移行後は直接患者をモニタリングすることは困難な状況である。今後、医師、看護師との連携をより深め、1人の患者様のがん化学療法に対し、処方から混合調製、投与及び投与後のモニタリング、すなわち入院から外来まで一貫した関与を行い、チーム医療に発展させていきたい。
  • ペン型インスリン製剤の継続的な適正使用に向けて
    津田 晃央, 菜花 晃, 沼田 明子, 辻 桃子, 久野 裕美子, 鈴木 敬久, 関野 好孝
    セッションID: 2F30
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <目的> 当院ではインスリン自己注射導入時、基本的に入院し、看護師と薬剤師が協力して手技指導を行ない、血糖コントロールできた時点で退院となる。しかし、退院後のインスリン自己注射の手技が正しく継続して行われているか確認していなかったのが現状である。今回、外来薬局窓口において、患者より「カートリッジのゴム栓が膨らんで破裂したものがある」「カートリッジ部分が赤くなることがある」などの訴えがあった。また、医師からも、正確に手技のできていない患者がいるとの報告もあったため、手技に関する問題が浮上してきた。そのため、再度手技確認の必要があると考え、その実態を調査したので報告する。
    <方法> 平成18年2月1日から平成18年3月31日の2か月間におけるペン型インスリン製剤を使用している患者のうち83名を面接方式により調査した。対象は特に使用数の多いノボリン、ノボラピット、ヒューマログ使用患者とした。指導・確認事項は製薬会社配布の患者指導用パンフレットを参考にして22項目を設定し、各項目において点数化して評価した。
    <結果・考察> 正しい手技が行われていない主な項目は以下の通りであった。(カッコ内は正解の割合)
    ○インスリン製剤の名前や種類を知っていますか(42.6%)
    ○針を抜くときはボタンを押したまま抜いていますか(43.4%)
    ○注射器の保管法を知っていますか(59.0%)
    ○手を洗っていますか(67.5%)
    ○注入ボタンを最後まで押したまま6秒以上待っていますか(70.5%)
    ○濁った製剤の場合10回以上キットを転がし、ゆっくり上下に振っていますか(74.1%)
    ○単位設定ダイアルを2単位に合わせ空打ちできていますか(77.7%)
     インスリン自己注射導入時には、手技指導している。しかし、今回の調査結果より、手技に関して正しく理解されていない項目がみられた。特に、“インスリン製剤の名前や種類を知っていますか”“薬剤を注入後、注射針を抜く際にボタンを押したまま抜いていますか”“注射器の保管方法を知っていますか”の項目について理解している割合は低かった。これらの項目は、重点的に指導するべき点として浮かび上がってきた。手技が正確に操作されていない場合、血糖コントロールを悪くする原因になり得る可能性がある。そのため、導入時のみならず定期的に手技の確認を行う必要性があることがわかった。
    <まとめ> 今回の調査から、インスリン自己注射手技指導において、正確に出来ていない項目があった。これらの項目については今回の面談時に再指導を行った。
     今後、これらの情報を医師・看護師と共有し、インスリン自己注射手技の継続的な適正使用に向け、看護師と協力して定期的に手技の確認をしていきたい。
  • 中村 浩彰, 西村 智佳, 大山 明, 高森 正人, 秋月 章
    セッションID: 2F31
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>後発医薬品の使用状況は、欧米医療先進国において医薬品市場の約半分を占めているが、わが国では2003年度に16%強である。これには、後発医薬品に関して品質、安定供給、情報提供体制などの面から様々な問題点が指摘されている背景がある。また、後発医薬品には、それら各要素の客観的評価が必要であり、適切な評価を与えることが望まれる。そこで今回、長野松代総合病院(以下当院)にて採用されているパップ剤後発医薬品及びパップ剤先発医薬品の使用感に着目し、その客観的評価を行ったので報告する。
    <対象>当院にて採用されているパップ剤後発医薬品、A、B及びCについて、その使用感をそれぞれのパップ剤先発医薬品、A´、B´及びC´と比較検討した。被験者は当院ボランティア(男性26名、女性21名、平均年齢 33.4歳±9.5歳)であった。
    <方法>一群の被験者に対して実薬対照試験モデルにしたがって、後発医薬品及び先発医薬品を一定期間ごとに使用した。薬剤の使用時間は、就寝前2時間から起床時まで、使用部位は右膝、使用期間は1日とした。各パップ剤使用後、使用感評価を被験者からの質問聞き取り方式にて集計した。 使用感評価項目についての質問の内訳を図1に示す。
    解析方法はvisual analog scale法にて行った。すなわち、スケール枠全体の長さに対し、値0.0から×印までのスケール枠の長さの割合を計算し、質問項目ごとに平均値及び標準偏差で示した。対応する後発医薬品及び先発医薬品の各質問項目の有意差検定は Mann-WhitneyのU-検定を用いた。
    〈結果〉
    1.AとA´における使用感の比較
     各質問項目において両薬品間に有意差は見られなかった。
    2.BとB´における使用感の比較
     各質問項目において両薬品間に有意差は見られなかった。
    3.CとC´における使用感の比較
     各質問項目において両薬品間に有意差は見られなかった。

    <考察>当院では2005年2月26日より2005年8月26日までのパップ剤の後発医薬品使用率は34.1%となっており、高い比率を占めている。後発医薬品製造製薬会社から提供される後発医薬品情報には、使用感覚の客観的比較についての情報はほとんど無いのが現状である。
     今回の先発医薬品と後発医薬品の使用感の比較検討では、各質問項目において有意差は認めなかった。
     先発医薬品製造製薬会社から提供されることの少ないパップ剤の使用感の評価を行うことで、使用感の面からも差は見られないという知見が得られた。この結果から、より薬価の低い後発医薬品パップ剤の使用検討に参考となると考えられる。
    <結語>
    (1)当院にて採用されているパップ剤後発医薬品及びパップ剤先発医薬品のうち、その使用感について比較検討した。
    (2)本研究結果では、パップ剤後発医薬品とパップ剤先発医薬品に関して、使用感には有意差は見られないと推測された。
    (3)薬価の低い後発医薬品パップ剤の使用検討に有用となる知見が得られたと考えられる。
  • 遠藤 信英, 度会 正人, 堀部 秀樹
    セッションID: 2F32
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <症例>18歳女性。
    <既往歴>15歳の頃より近医心療内科に自ら通院。2回の自殺企図の既往があった。
    <現病歴>2006年4月9日、インターネットにてジギタリスの毒性を知り、花屋でジギタリスの鉢植えを購入し、その葉20枚を煮て、煮汁を服用した。服用直後から嘔気があり嘔吐を続け、症状が持続するため翌日当院救急外来を受診した。受診時身体所見は、意識清明・血圧99/59mmHg・脈拍数55回/分・経皮的酸素飽和度97%であった。心電図では_II_・_III_・aVfとV4-6に盆状ST低下を認め、2:1房室ブロックを中心に、WenckebachやMobitz2型2度ブロックといった多彩な不整脈を呈していたため入院管理とした。
    <入院後経過>ジギトキシン・ジゴキシンの血中濃度はそれぞれ128ng/ml,5.33ng/mlと正常値上限の5倍程度まで著明に上昇していたが、心エコー検査にて心機能は正常で心不全兆候はなく、肝腎機能は良好であり、モニター心電図にてlong pauseなどの危険な兆候が見られなかったことから保存的治療で経過を見ることとした。入院中は心電図モニターによる監視下のもと、補液治療を行った。入院時から2:1房室ブロックは持続していたが、特に危険な不整脈を誘発することなく経過し、第4病日頃から、それまで2:1房室ブロックで50台ほどの脈拍数であったものが1:1でつながり始めるようになった。第7病日頃には伝導が2:1となることはなくなり、1:1伝導で脈拍数が100ほどの洞性頻脈になった。その後は脈拍数も70ほどへ低下し、嘔気もとれ経口摂取も十分可能になったため第10病日退院した。第7病日の時点でジギトキシン・ジゴキシンの血中濃度はそれぞれ38.4ng/ml,1.75ng/mlであった。
    <まとめ>自殺企図にてジギタリスの葉を大量摂取した一例を経験した。本症例では不整脈の増悪・急変に備えペースメーカーなどの緊急処置も考慮していたが、健康若年者であったことから良好な転帰をとったと考えられる。
  • 横山 千代, 松山 耐至, 竹下 秀司, 玉内 登志雄, 川出 博江, 小栗 泉
    セッションID: 2F33
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>抗菌薬の服用により、下部消化管に存在する腸内細菌叢のバランスが崩れ、下痢や軟便といった消化器症状が出現することはよく知られている。これら症状の改善を目的に多剤耐性乳酸菌製剤(以下本製剤という。)が併用されるが、新規に開発された抗菌薬に対する耐性については添付文書に記載されていないものも多く、また臨床効果を得るためには抗菌薬に対しどの程度の耐性を有していればよいかなどは明らかではない。そこで、本研究では、各種乳酸菌製剤の抗菌薬感受性の測定と、臨床でのアンケート調査により有用性を検討した。
    <方法>
    1.抗菌感受性の測定
     ビオフェルミン、ビオフェルミンR、ラックビー、ラックビーR、レベニンS、の5種の乳酸菌製剤から分離・同定された菌種に対し、19種類の抗菌薬について微量液体希釈法(日本化学療法学会)に基づいて行った。
    2.臨床での有用性評価
     2004年6月から12月までに当病院小児科において、抗菌薬;セフジニル(セフゾン)、セフテラム(トミロン)、エリスロマイシン(エリスロシン)が単独投与された患児と本製剤(ビオフェルミンR)が併用された患児を対象に、抗菌薬の服用期間中の排便回数および便の性状などを消化器症状の指標として427名の患児の保護者にアンケートを依頼した。
    <結果>
    1.抗菌感受性の測定
     ビオフェルミン、レベニンS、ビオフェルミンRからは好気性菌であるEnterococcus faeciumが、ラックビー、ラックビーRおよびレベニンSからは嫌気性菌であるBifidobacteriumが分離・同定された。各分離菌株に対するMIC値より、本製剤から分離された菌株については、ペニシリン系の2種、セフェム系の3種、ビアペネム、メロペネム、マクロライド系の3種、アルベカシンに対して耐性を有しており、それら抗菌薬投与時の消化器症状の予防に効果を発揮するものと推察された。しかし、プルリフロキサシン、ガチフロキサシン、テリスロマイシン、ミノサイクリン、ホスホマイシン、テイコプラニンおよびバンコマイシン、リネゾリドに対しては耐性を示さなかった。
    2.臨床での有用性評価
     抗菌薬単独群143名(平均年齢:4.5才)、本製剤併用群84名(平均年齢:5.0才)、合計227名からアンケートの回答が得られたが、本研究では抗菌薬単独群と本製剤併用群で消化器症状に有意な差がなく、併用による改善効果が認められなかった。
    <考察>本製剤による消化器症状の改善効果が認められなかったことは、抗菌薬の服用期間が平均4.5日と短かったこと、アンケートといった調査方法上の問題などが結果に影響を与えた可能性が考えられた。また、本製剤は消化器症状が現れやすいといわれるβラクタム系抗菌薬、エリスロマイシンなどには耐性が認められたが、キノロン系およびグリコペプチド系抗菌薬などには耐性が確認されなかった。しかしながらこれらの抗菌薬と乳酸菌製剤の併用は臨床現場ではしばしばみられることから、無意味な併用が行われないよう臨床現場に情報発信していかなければならないと考えられた。
  • 山崎 雅之, 米山 敏美, 渡部 麻実子, 乃木 章子, 塩飽 邦憲
    セッションID: 2G101
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>近年、日本では、肥満、メタボリックシンドローム、2型糖尿病が増加しており、動脈硬化性疾患の急増が危惧されている。
     我々は、アジアでの民族比較研究により、日本人の高炭水化物食摂取がメタボリックシンドローム、特に高中性脂肪血症発症に関与している可能性を報告してきた。特に、高Glycemic Index(GI)食品は、血糖の急激な上昇とインスリンの分泌を増加させることからメタボリックシンドロームや2型糖尿病の発症に強く関与していると考えられる。
     一方、レジスタントスターチ(RS、難消化性デンプン)と食物繊維(難消化性デキストリン)を多く含む低GI食品は、食後血糖の上昇を抑制し、肥満、メタボリックシンドローム、2型糖尿病の予防効果が期待されている。そこで、マウス用い、高炭水化物食による肥満、メタボリックシンドローム、2型糖尿病に対する予防効果を検討した。
    <方法>
    1.高RS食の単回投与実験
     雄8週齢C57J/BLマウスに経口ゾンデにて対照食、高RS食を投与し、食後血糖値と血中インスリン濃度の変化、および曲線下面積(AUC)の比較を行なった。
    2.高繊維食の中期投与実験雄8週齢ICRマウスに対照食、高炭水化物食、高炭水化物・高繊維食を等カロリー投与した。各群10匹の体重変化、投与4週での肝臓、副睾丸脂肪組織重量、肝臓のグリコーゲン、中性脂肪含量の測定、血液生化学検査を行った。また、肝臓での脂質合成関連遺伝子の発現量を解析した。
    <結果・考察>高RS食の単回投与実験において、高RS食群は対照群に対して、投与後15分から60分まで血糖値が有意に低値であった。投与後0分から120分までのAUCでも有意に低値であった。以上のことから、高RS食は、高炭水化物摂取による食後血糖値の上昇を抑える効果が明らかとなった。
     高繊維食の4週投与実験においては、高炭水化物食群は普通食群に比較して、体重、肝臓および副睾丸脂肪量の増加、血中の中性脂肪、遊離脂肪酸の増加をもたらした。しかし、高繊維食群は、高炭水化物食群に比較して、体重、肝臓、副睾丸脂肪組織重量、肝臓中の中性脂肪含量が低かった。血液生化学検査では、高繊維食群の空腹時血糖、総コレステロール、中性脂肪、遊離脂肪酸がやや低く、高血糖および高脂血症の予防効果が示唆された。肝臓での遺伝子発現解析でも、高繊維食群での脂質合成酵素の発現量が低く、高炭水化物食による炭水化物からの脂質新生を抑制する効果が明らかとなった。
     高RS食や高繊維食は、腸管での炭水化物の吸収を遅延し、食後血糖上昇を緩やかにすることで、肝臓への大量の糖の大量流入を抑制し、脂質新生を抑制していることが考えられた。また、4週投与で、空腹時血糖の上昇を抑えていることから、インスリン基礎分泌の亢進を抑え、膵臓の機能低下を予防する可能性が示唆された。さらに、単回、4週投与とも、肝臓での脂質新生が抑制されることにより、門脈への中性脂肪の大量放出、それに続く脂質代謝異常が抑制されていると考えられた。
  • 渡部 麻実子, 乃木 章子, 山崎 雅之, 米山 敏美, 塩飽 邦憲
    セッションID: 2G102
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>2000年より肥満改善に関心を持つ住民を対象に、「健康学習と自己決定に基づく内臓肥満改善プログラム」を開発してきた。
     アメリカ国立心臓肺血液研究所では半年間で約10%の体重減少を目標とするよう推奨しているため、我々は、3カ月で3 kgの減量を目標としている。
     メタボリックシンドロームに対しては体重減少が有効とされているが、日本人を含むアジア人に共通する特徴として、肥満度が軽度である割に糖尿病や代謝異常が多いことが報告されている。このため、日本人での体重減少に、食生活および身体活動がどのように寄与しているかを解明することは、日本人に効果的な体重減少プログラム開発のために重要と考えられる。このため本研究では体重と体組成の変化について解析したので報告する。
    <方法>健康学習による行動変容理論に基づいて、参加者の生活・健康の認知、プログラムによる体格または代謝パラメータの改善目標、改善目標達成のための具体的な行動目標の設定、生活習慣変容技術の獲得、行動目標のプロセス評価能力の開発、支援的集団療法による動機づけの強化と仲間支援から構成した。
     肥満者を対象とした3ヵ月間の生活習慣変容プログラム参加者(295名, 36-69歳,平均56.9歳, BMI 25.0±3.0, 17.5-35.4)について、減量と代謝パラメータの変化を解析した。2005年の参加者51名について、DEXA法によって体組成を解析した。
    <結果>参加者の平均体重変化は-1.5 kg(2.2-7.9 kg)であり、プログラム前後で摂取熱量(平均264 kcal)、BMI(0.6)、ウエスト囲(1.8 cm)、収縮期血圧(3.0mmHg)、拡張期血圧(2.6 mmHg)、総コレステロール(6.9 mg/dl)、LDLコレステロール(6.9 mg/dl)、中性脂肪(19 mg/dl)、血糖(1.3 mg/dl)の有意な減少、消費熱量(108 kcal)、HDLコレステロール(2.8 mg/dl)の有意な増加を認めた。
     肥満指標とDEXA法による体組成との関係を解析した。ウエスト囲は男性で体幹脂肪と0.746、筋肉0.945、女性では脂肪0.513、筋肉0.666の相関係数が得られた。
     体重とDEXA法による体組成の変化では、体組成の変化量は、体重変化量に極めて高い相関を示し、高い精度で測定可能であった。体重減少には、脂肪量減少が90%、筋肉量減少が10%寄与していた。体重減少による体組成変化の性差が認められ、男では脂肪量-101% (四肢-42%、体幹-62%)、筋肉量+1%(四肢-9%、体幹+10%)、女では脂肪量-87% (四肢-40%、体幹-44%)、筋肉量-13%(四肢-9%、体幹-4%)の変化割合であった。
    <考察とまとめ>教育介入は、効果的な行動変容をもたらし、メタボリックシンドロームを改善した。
     体重減少は、全身の脂肪量を減少させたが、筋肉量(主に四肢)も減少させた。皮下脂肪厚も顕著に減少していることから、内臓脂肪のみならず皮下脂肪も減少したと考えられる。筋肉、特に四肢の減少は、筋肉内の中性脂肪量の減少によると考えられ、本プログラムで推奨しているウォーキングに起因し、糖取り込みの貢献している可能性が示唆された。
  • 乃木 章子, 楊井 理恵, 渡部 麻実子, 山崎 雅之, 米山 敏美, 塩飽 邦憲, 井山 ゆり
    セッションID: 2G103
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>農村でメタボリック・シンドロームが増加し、予防対策の樹立が急がれている。2005年4月に発表された日本人向けのメタボリック・シンドローム診断基準では、内臓肥満の診断にウエスト囲が採用された。
     我々はこれまで本学会において、健康教育介入による生活習慣変容により体重とウエスト囲が減少し代謝異常が改善すること、ウエスト囲はスクリーニングには有効であるがモニタリングには検討の余地があることを報告してきた。今回は、内臓肥満変化と代謝パラメータ改善との関係について性別に検討した。
    <方法>2000-2005年に健康教育介入による3カ月間の肥満改善プログラムに参加した住民295名(男70,女225)を対象とした。肥満改善プログラム(2004年発表)前後に、生活調査および身体計測、12時間絶食後の採血を行った。参加者は生活習慣変容に取り組んだ。
     統計学的解析にはSPSS 12.0Jを使用し、肥満改善プログラム前後における体重およびウエスト囲と各変数との関係を解析した。
    <結果>本プログラムによって、摂取熱量は358/232kcal減少し、消費熱量は194/132kcal有意に増加し、その結果、体重は1.9 /1.3kg、ウエスト囲は1.7/1.8cm男女それぞれ有意に減少した。男性では総コレステロール(TC)、中性脂肪(TG)、血圧が、女性では血清脂質、血糖(FBS)、血圧すべてが有意に改善した。
     内蔵肥満変化に寄与した行動変容および体格要因を明らかにするために線型回帰分析(ステップワイズ)を行った結果、体重変化量には、男性は減量前体重と年齢が、女性は摂取熱量差、消費熱量差、介入前体重がそれぞれ18%と32%寄与し、ウエスト囲変化量には、男性は年齢と摂取熱量差が、女性は消費熱量差、摂取熱量差、介入前ウエスト囲がそれぞれ25%と16%寄与していた。栄養素レベルでは、男女とも炭水化物摂取変化量が寄与していたが、その女性の寄与率は体重変化量で23%、ウエスト囲変化量で9%であった。
     代謝パラメータ改善と体格要因について分析を行った結果、体重変化量は、女性のTC、HDL-C、TG、FBSの変化量を3‐9%説明したが、男性では有意な関係は認められなかった。ウエスト囲変化量は、男女とも全ての代謝パラメータにおいて変化量を説明しなかった。
     ウエスト囲の有用性について検証するため、HDL-C, TG, FBS, 血圧によるROC分析を行った結果、女性の至適カットオフ値は、78-80cmとなり、診断基準値90cmより低値となった。そこで、介入前のウエスト囲を、80cm未満、80cm以上90cm未満、90cm以上の3群に分類し代謝パラメータ変化量を比較した結果、90cm以上群では介入後基準値以下まで改善できなかったが、80cm以上90cm未満群ではすべて有意に改善した。
    <考察>今回の分析では、女性において、健康教育介入によるウエスト囲の変化量は、体重と同じく摂取熱量差と消費熱量差および介入前のサイズによって予測されたが、その予測値は体重変化量の半分であり、代謝パラメータ改善も説明しなかった。しかし、スクリーニング時のウエスト囲に注目して介入することにより、効果的な改善が可能であることが明らかになった。男性については、身体状況、生活習慣の多様性および参加者数の少なさから、今回は有意な結果は導き出せなかった。今後の参加者数増加が課題である。
  • 大杉 静佳, 桃崎 智美, 伊藤 有沙, 小川 亜矢子, 竹内 伸一, 村田 美鈴, 渡邉 瞳, 若松 景子, 瀬戸 幸子, 矢口 豊久
    セッションID: 2G104
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>術後せん妄は, 患者のルート類自己抜去・転倒転落などのアクシデントにつながるケースがある. 今後のせん妄予防看護の一助とするために, せん妄発症の誘因を統計学的に解析し, 検討したので報告する.
    <対象>2005年8月から10月まで5A病棟に入院し,全身麻酔の手術を行った患者様147名. 平均年齢63.4歳(±13.9), 男女比は1:0.6であった.
    <方法>1.患者様側および治療側の2つの要因について, せん妄発症群と健常群それぞれに各要素の比率を解析した. 比率についてはカイ二乗検定を用いて分析した. a. 患者様側の要因; 性別, 脳血管障害の有無, 認知症, 精神疾患, パーキンソン病の, 糖尿病, 聴力障害, 視力障害, 飲酒習慣, 喫煙習慣, 睡眠剤常用の有無. b. 病院側(治療を行う側)の要因; 術前訓練, 麻酔の種類, 麻酔からの郭清状態, 部屋の移動, 経鼻胃管(1-7病日), 末梢および中心静脈ライン(1-7病日), 尿管カテーテル(1-7病日), 抑制の有無. せん妄の評価はニーチャム日本語混乱錯乱スケールを用いてスコア化して行った(以下せん妄スコア). このせん妄スコアにて27点以下の患者様を, 術後せん妄と定義した. 評価は手術当日準夜帯から第7病日深夜帯までの23勤務帯とし, 1勤務帯でもせん妄スコアが27点以下になった患者様はせん妄群に分類した.
     また, せん妄発症群と健常群において, 年齢・出血量・麻酔時間・第1病日のドレーン数・術前在院日数の平均値の差の検定を行った. 2. せん妄スコア(病棟帰室準夜帯から第2病日までの5勤務帯・満点150点)と年齢・手術麻酔時間・出血量・術前在院日数との相関関係を検討した.
    <結果>対象となった147例中47例にせん妄を認めた. 患者側の要因として解析した11項目のうち, 性別のみがせん妄と有意な関係を示した. 治療を行う側の要因39項目を検討した結果, せん妄と有意な関連を示したのは, 麻酔の種類, 麻酔からの覚醒状態, 胃管留置(1-3病日)の有無, 末梢点滴の有無(2-7病日), 中心静脈点滴の有無(1-3病日), 尿道カテーテル留置の有無(2-7病日)であった. せん妄スコア(手術直後から第2病日までの合計)と年齢, 手術麻酔時間, 出血量, 術前在院日数との相関関係を検討した. 年齢, 手術麻酔時間, 出血量においては有意な相関がみられたが, 術前在院日数では有意な相関がみられなかった. 従来術後せん妄の誘因にあげられていた, 脳血管障害などの既往歴, 眠剤常用, 術前在院日数, 術前術後の部屋移動による環境の変化は, せん妄の発症にかかわりがないという結果が得られた.
    <考察>従来, せん妄発症のほとんどが60から70歳の高齢者であり, 薬物代謝機能の低下, 脳機能の低下, 身体機能低下による回復の長期化などが考えられていた. しかし今日, 80歳以上の症例も日常的に見られるようになっている. 私たちの解析結果は, 患者様側の要因において, 患者様が男性であること以外は薬物や既往歴にせん妄の発症が左右されない可能性があることを示した. 外科手術後は点滴やドレーン類が多数留置されることがあるが, これらはせん妄を誘発する可能性があり, このような患者様の看護には術後十分な注意が必要である.
  • 一年を経過した実績と今後の課題
    古田 和彦, 山田 晴生, 近藤 一男, 白井 徹, 渋谷 明
    セッションID: 2G105
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>
     近年、死亡原因のトップは悪性新生物であり、早期発見のためには今後もより精度の高いがん検診が求められている。そのような中、当センターでは平成17年度より腹部超音波の巡回検診を実施してきたので報告する。
    <対象と目的>
     対象は東三河地区の農協職員と組合員で、この一年間の実績および今後の課題について検討した。<方法>超音波診断装置は、(株)フクダ電子製UF_-_750XT(ポータブル式)を用いた。当センターの集団人間ドックを受けられた方の中からドック当日に超音波検査の希望者を募り、少なくとも胃透視検査日から中5日以上を空けて実施した。スタッフは1名で原則として前回と同じ農協の会場にて、超音波装置、プリンター、ベッド、つい立などの必要資材をワゴン車にて搬入し設置した。
     午前、午後それぞれ20名を限度とし、午前の部は9時、午後は13時開始とした。
     食事制限は、午前の部は朝食を抜き、午後の部は昼食を制限した。
     検査領域は消化器、泌尿器、婦人科、男性生殖器の範囲を検査した。さらに膀胱およびその周辺臓器を見るため、当日会場に来ていただく時には、適当量の尿を溜めて来てもらった。検査時間は一人当たり10分程度とし、画像データは記録紙とMO両方に保存した。結果報告は前回の集団人間ドックの結果と比較し読影後、受検者の各家庭へ郵送した。
    <結果>
     (1)
     平成17年度総受検者数は1,455名で男性522名、女性933名であった。年代別では男女ともに50代が最も多く60代・40代の順であった。
     (2)
     総受検者数の判定区分はC判定(経過観察)が最も多く、次いでA(異常なし)・B(わずかな異常)・D(要精密検査)・F(現在治療中)・E(要治療)の順であった。男女別では、男性はC・B・A・D・F・Eの順であるのに対し女性はAとBに逆転がみられた。
     (3)
     主な疾患の内訳としては脂肪肝445件(30.6%)、胆嚢ポリープ124件(8.5%)、胆石52件(3.6%)、子宮筋腫91件(6.3%)、胆嚢腫瘍3件(0.2%)、腎臓がん2件(0.1%)、子宮腫瘍2件(0.1%)であった。
    <考察>
     (1)
     従来からの集団人間ドックに腹部超音波検査を付加することで、より低侵襲で検査内容の充実を図ることができると思われる。
     (2)
     受検者がエコーを受けてみようと思った理由に1.近場に来てくれるから 2.広い範囲を検査してくれるから等の声が各会場で多く聞かれ、巡回で検査することのメリットは、ある程度満たしていると考える。
     (3)
     施設内の腹部超音波との比較では、主な疾患における発見率はほぼ同等であったが胆嚢ポリープのみ巡回8.5%、施設内17.6%と約2倍の差が見られたが、これに関しては、現時点ではっきりとした原因は分からない。
     <今後の課題>
     個人情報保護の面から、受検者との会話内容が他人に聞こえることなどを予防するため、会場の外の廊下などで待って頂いているのが現状である。特に真夏や真冬には厳しいものがあり快適な会場の環境確保のためにも巡回検診専用の検診車が必要であると考え現在検討中である。
  • アデポサイトカインの検討を併せて
    大林 浩幸, 浅井 真理子, 市橋 道子, 木村 裕恵, 羽柴 久美子, 林 弘太郎, 川島 司郎, 野坂 博行, 山瀬 裕彦, 平石 孝
    セッションID: 2G106
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <目的>当院のある岐阜県東濃地方住民のメタボリックシンドローム(MS)の存在実態を調査する。MS診断基準項目や数に応じた、アデポサイトカインの関連性を検討する。
    <方法>平成17年4月より12月末の期間中、当院健康管理センター人間ドックを受診した者2858名(平均年齢49.8±9.9歳)を対象とした。対象者全員を本邦MS基準で分類し、存在実態を調査した。また同意を得た受診者に対し、通常の健診採血時に、血清レプチン、アデポネクチン値、hsCRP値を追加測定した。
    <結果>MS該当者は、男性1744名中200名(11.5%)、女性1114名中25名(2.2%)であった。男性では加齢と共に、MS存在率の増加を認めた。MS群の血清レプチン値は非MS群より高値で、特に診断基準3項目該当群の値は有意に高く、ウェスト径85cm未満の非MS群のほぼ2倍であった。血清アデポネクチン値は、レプチン値と全く逆の傾向を認め、MS群は非MS群より低値であった。hsCRP値はMS群と非MS群間・内で、明らかな差を認めなかった。
    <考察>今回の当地域の調査では、男性の1割程度にMSが存在した。しかし、女性のMSは、男性に比し極端に少ない。女性のウェスト径基準値90cmが高いため、多くの女性がこの段階ですり抜けてしまい、今後基準値の見直しが必要と考える。また、レプチン値はMS診断に有用と考える。(なお、この研究は、全国共済農業協同組合連合会による平成17年度の医学研究委託に基づいて行われたものである。)
  • -第1報-人間ドック受診者の集計結果
    佐々木 司郎, 荻原 忠, 林 雅人
    セッションID: 2G107
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>2005年4月に日本版メタボリックシンドローム(以下MetSとする)診断基準が関連8学会より示された。その後、様々なデータが発表され、地域比較も可能となってきた。しかし、その中で女性のウエスト径基準等の諸問題も浮上している。本報告では日本版基準に従い当院人間ドック受診者を対象に集計を行い、当地域の特徴を知ろうとした。さらに、以前からの基準であるNCEP-ATIII改変版を用いて集計を行い、日本版基準との比較を行った。
    <対象と方法>対象は平成15から16年度に当院人間ドックを受診した男性1,314名、女性803名である。年令は30才代から60才代に分類したが30才代には20才代が、60才代には70、80才代の若干名が入っている。集計は日本版基準とNCEP-ATIII基準によったがウエスト周囲径については両基準とも男性85cm以上、女性90cm以上とした。
    <結果>
     (1) 対象者のウエスト径異常率は男性で39.1%、女性で8.7%であり、諸家の報告と比較すると低率であった。男性では50才代までは加齢上昇傾向であったが60才代で低下した。女性では60才代まで加齢上昇していた。次に日本版基準による各危険因子項目の異常率をみた。血圧は男性が58.1%、女性が46.1%であり、脂質はそれぞれ39.4%、9.8%、血糖はそれぞれ21.5%、10.5%と、いずれも男性で異常者が多かった。これらの数値はいずれも加齢上昇していたが男性の脂質のみ加齢減少していることが特徴的であった。また日本版基準に従い2個以上の危険因子保有率をみた。その結果は男性で35.4%、女性で11.6%であった。注目されるのは年代との関係がウエスト径異常率と大略一致していることであった。
     (2) 日本版基準によるMetS頻度は男性が30才代15.9%、40才代20.1%、50才代22.7%、60才代17.4%であり、女性はそれぞれ2.5%、1.8%、4.6%、6.5%となった。全年齢平均は男性が20.6%、女性が3.6%であった。これらの数値は諸家の報告に比し低率と思われた。ウエスト径が基準以上を示した者のうちMetSに該当した率は男性52.7%、女性41.4%であった。NCEP-ATIII改変版基準のMetSは男性がそれぞれ20.4%、25.4%、28.3%、20.6%、全年齢平均25.7%であり、女性ではそれぞれ3.8%、5.0%、8.9%、17.2%、全年齢平均8.0%であった。またウエスト径が危険因子として該当した率は男性84.0%、女性59.4%であった。NCEP-ATIII改変版基準でMetS頻度が高い理由は設定基準差と思われた。日本版基準でのMetS該当者のうち血圧が危険因子となった率は男性94.1%、女性89.7%と高率であり、NCEP-ATIII改変版基準も同様であった。脂質の危険因子率は男性80.8%、女性58.6%であり、血糖の男性50.2%、女性72.4%と男女で逆の数値を示した。また脂質は男女とも加齢減少であったが、血糖は逆に加齢上昇を示した。これらの傾向はNCEP-ATIII改変版基準も同様であった。
     (3) MetS危険因子を2個以上保有する者のうち日本版基準での捕捉率は男性58.3%、女性31.2%であり、男女間に有意差を認めた(P<0.0001)。
    <結論>秋田県南部横手地域のMetS頻度を日本版基準とNCEP_-_AT_III_改変版基準で求め比較した。その結果、当地域は諸家の報告よりもウエスト径異常率、MetS頻度共に低率であった。今回は人間ドック受診者の集計であるが、今後、一般住民健診においてもデータ集積を行っていく予定である。
  • -第2報-日本版基準での診断上の疑問点
    佐々木 英行, 佐々木 司郎, 今野谷 美名子, 荻原 忠, 林 雅人
    セッションID: 2G108
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
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    <緒言>
    2005年4月に日本版メタボリックシンドローム(以下MetSとする)診断基準が関連8学会より示されたことから、第1報において当地域の集計結果を示した。その集計作業中に生じたいくつかの疑問点について検討したので報告する。
    <方法>
    (1)ウエスト径測定精度の検討:当院で行われている健診時にウエスト径測定に従事する看護師11名が被験者男女16名の測定を3回ずつ行い、その精度をみた。
    (2)日本版のMetS診断基準発表以降、特に女性のウエスト径基準についての疑念が報告されている。これについて当院人間ドックデータから危険因子集積者の捕捉率を推定した。
    (3)BMIとウエスト径の関係について:当院の人間ドックでウエスト径測定を開始したのは平成13年度からである。それ以前のMetS頻度を推定するためにBMIを用いた場合の諸問題について検討した。
    <結果及び考察>
    (1)ウエスト径測定精度の検討:日本版診断基準ではウエスト径値測定が必須条件になっており、その数値のバラツキはそのままMetS頻度の誤差につながることから、その測定精度を調査した。測定者11名のバラツキ(最大値_-_最小値)は平均7.2cmと大きいことが認められた。バラツキには対象者の男女差がみられ、女性の場合に大きかった。その大きな要因は測定メジャーの締め付けの強弱と、対象者の呼吸状態指示の差と思われた。このため注意点の再確認を行い、再度精度試験を行ったところバラツキの平均は3cm程度に収束した。当院人間ドック成績にウエスト径のバラツキを当てはめ試算すると男性においては基準値±2.5cmでMetSに9.7%の差が生じることから、少なくとも施設内での測定にあたる前には充分な手技の統一を図る必要があると思われた。
    (2)当院人間ドック成績ではMetS危険因子を2個以上保有している者は男性35.4%、女性11.6%であった。その内MetSと診断される率は男性58.3%、女性31.2%で明らかに男性が多い結果となった。そこで平田等のデータを引用し女性の基準を77cmとして試算を行った。平田等のデータは内臓脂肪面積測定をCTを用いて行っており、われわれのウエスト径測定値から求めたMetS頻度は精度が劣ると思われたが傾向はつかめると考え年代を同じにして比較した。ウエスト径異常率が日本版基準では8.1%であったが77cmにすると41%となった。しかし平田等のデータとの大きな違いは内臓脂肪蓄積者中のMetS頻度であり、平田等の30%に対し17.4%と低率であった。すなわち当地域は危険因子保有率の少ないことが特徴と思われた。
    (3)BMIは日本版基準項目に含まれていないが当院でウエスト径測定が行われたのは平成13年からであり、それ以前のMetS頻度を予測するにはBMIを利用するしか方法がない。そのためBMIとウエスト径の関係をみた。両指数の判定が一致するのは男性で81.2%、女性で85.6%であったが、BMIが正常でウエスト径異常は男性13.77%、女性0.75%であり、その逆の状態は男性5.02%、女性13.7%と男女で著しい差が認められた。BMIを利用するにはこれらのことを充分に考慮に入れて判断する必要がある。
    <結論>
    (日本版基準メタボリックシンドローム診断上の疑問点を検討した。これらのことを考慮しながらデータ集積が必要と思われる。
  • -腹囲・BMIと血圧・脂質・血糖の関係について-
    池田 梢, 能藤 さと子, 小池 智子, 木内 一美, 佐藤 涼子, 安保 まり子, 西成 民夫, 西村 茂樹
    セッションID: 2G109
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>人間ドック受診者に腹囲の測定を実施し、血圧、脂質、血糖の関係について検討、メタボリックシンドロームの該当者の存在について調査した。また腹囲を肥満(BMI25以上)に置き換えたときの検査有所見率についても調査、検討したので報告する。
    <対象と方法>対象はH17年6月からH18年2月までの当院人間ドック受診者1992 名(男性1090 名、女性902名)とする。診断基準は日本内科学会総会8学会合同ガイドラインに基づいて実施した。検査有所見率の比較については腹囲(男性85cm以上、女性90cm以上)をA群、(男性85cm未満、女性90cm未満)をB群として血圧、脂質、血糖について、男女別に比較し、同じようにBMI25以上をC群、25未満をD群とした場合においても 比較した。
    <結果>腹囲(男性85cm以上、女性90cm以上)の割合,男性では1090名中531名(48.6%)、女性は902名中42名(4.7%)で、どの年代においても男性の割合が高く、有意差を認めた。
     メタボリックシンドローム該当者は男性1092名中238名(21.8%)、女性では902名中14名(1.6%)と男性に比べ顕著に低くどの年代においても男性が有意に高率だった。
     男性の腹囲別にみた有所見者の割合では、血圧・脂質・血糖の順でA群がB群より有意に高率で、女性においても同様の傾向を示したが、いずれの項目も有意差は認めなかった。
     BMI25以上の割合においては男性ではどの年代も3割前後であったが、女性においては年代とともに増加傾向を示し、60才以上では男性と同等の割合であった。
     BMI別にみた検査有所見の割合、男性においては血圧、血糖の2項目においてC群がD群より有意に高率であったが女性においては3項目すべてC群が有意に高率であった。
    <考察> メタボリックシンドローム該当者は、男性に多く、女性はどの年代においても低率であったこと、腹囲別にみた検査有所見の割合ではA群がB群より有意に高率であったことから腹囲の増大・内臓脂肪の蓄積は血圧、脂質、血糖が関連すると考えられ、男性においては腹囲の管理が重要と考えられる。
     BMI別にみた検査有所見の割合、男性では血圧、血糖の2項目においてC群がD群より有意に高率であったが、女性においては3項目すべてにおいてC群が有意に高率であった。これらのことから、男性においては腹囲の管理が重要であると思われるが、女性においては腹囲が90cm以上の該当者が少数なため、メタボリックの診断基準から除外される多くの対象者について検討し、内臓脂肪がない場合でも、リスクの重積を考えなければならないと感じる。
  • 前田 清, 山田 晴生, 加納 英子, 片山 香菜子, 金田 晴美, 鈴木 綾子, 二村 陽一, 梶田 美穂, 眞島 悦子
    セッションID: 2G110
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
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    <はじめに> 介護保険法が施行され、介護予防・生活支援事業が制度化されたなかで、高齢者が住みなれた地域でいきいきと暮らせる社会づくりをめざし、セルフケアによる健康づくりや介護予防の推進、地域の支えあいの仕組づくり、健康寿命の延伸を図ることが必要になってきている。
    <発足経緯> 愛知県厚生連長久手農村健診センターは、JA組合員の健康管理活動を推進するという役割に基づいて事業を行っているが、平成15年1月より健康管理活動の幅を広げるためにも、介護予防事業の一環として、動脈硬化予防教室と転倒予防教室を実施している。いずれも健診を含み10回のコースとした。
    <内容> 1回目に医師の講演・健診・QOLのアンケート(SF36を使用)・体力測定、2回目に健診結果の説明と事後指導・運動指導、3回目に栄養指導の講義・運動指導、4回目に調理実習、5回目から8回目は運動指導・レクリエーション、9回目にQOLのアンケート・体力測定・運動指導、10回目に個別指導・修了式を実施する。動脈硬化予防教室の健診内容は、身体計測、血圧、問診、診察、QOLのアンケート、ABI/PWV測定、頸部超音波、血液検査とした。転倒予防教室の検診は、骨密度の測定(DXA法)を行い他のプログラムは動脈硬化予防教室に準ずるものとした。体力測定は、個人に合わせた具体的な目標をたてる意味でも重要で、測定項目は10m全力歩行、最大一歩幅、40cm踏み台昇降、握力、開眼片足立ち、つぎ足歩行の6項目とした。栄養については生活習慣病予防の食事の講義と調理実習を実施している。運動指導については家庭で簡単に実践できるものを実施し、特に下肢の筋力アップのためのウォーキングとスクワットを中心に少しでも継続できるものを実施した。レクリエーションでは、血圧・筋肉・呼吸方法などの「健康」をテーマにし、楽しみながら良い生活習慣のきっかけづくりになるようなプログラムとした。毎回体重測定を行い前後に血圧を測定し予防教室用のノートに記入し、教室以外でも運動をした場合はノートに記入してもらうようにして、運動を生活習慣のなかに取り入れていくように意識づけを行った。教室の成果を確認するために、QOLのアンケートと体力測定の前後の比較をし、最終回の個別指導において、修了後もより良い生活習慣を継続するように促がした。また、「ブレスローの7つの健康習慣」により、個人の生活習慣の見直しを行った。
    <効果> 下肢の筋力アップに重点をおいた運動指導では、10m全力歩行と最大一歩幅において有意な成果の向上が認められ、QOLにおいても成果の向上が認められた。予防教室を通じて、健康づくりに対する意識の向上やコミュニティづくりにも役立った。
    <まとめ> 医療の質は、技術がどのくらい多く提供されたかによって計られるものではなく、それぞれの人生における目標、機能の回復、機能障害の予防といった、健康サービスから得られた転機により大きく関わっているとの意見が重視されている。また、患者様に対する医療目標は、実りある生活の実現と健康状態の保持にあると論じられるようなってきた。保健活動の効果はすぐに現れるものではないが、予防教室を通じて、質の高い医療の提供ができるのではないだろうか。
  • 前島 文夫, 西垣 良夫
    セッションID: 2G111
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言> 山岸らは40から69歳の男女1427人を4.3年追跡し、高血圧や糖尿病の発症リスクが上昇するBMIレベルは27以上と報告した。一方、日本のメタボリックシンドロームの定義と診断基準においては、BMIは25未満でもウエスト径増大のみられる例がありマルチプルリスクを伴う、と記載されているように、危険因子発生との関連では内臓脂肪蓄積の方がBMIよりも重視されている。これらのことから、BMIが27未満であっても、20歳からの体重増加が一定以上のものは内臓脂肪が蓄積することによって慢性疾患の発症リスクが高くなることが考えられる。今回の目的は、20歳代の非肥満男性が以後どの程度の体重増加があると慢性疾患の発症リスクが上昇するのかを検討するとともに、慢性疾患発症者においてBMI 27未満でかつ20歳代からの体重増加の大きい者がどの程度存在するのかを確認することである。
    <方法> 対象は健康診断を受診した男性で、1979-1985年(時期A)に20歳から24歳で、1998-2004年(時期B)に40歳代であったものの内、以下の条件に該当するものを除外した629人。‐初年度、BMI 25以上、血圧高値(BP 130/85mmHg以上及び治療)、高脂血症(Total cholesterol 220mg/dl以上、Triglyceride空腹時150mg/dl以上、Trigly-ceride食後240mg/dl以上、及び治療)、高血糖(空腹時血糖110mg/dl以上、食後血糖140mg/dl以上、及び治療)、血色素低下(11.9g/dl以下)、Cr上昇(1.2g/dl以上)。
     時期AB間の中央値は22年。時期Bの慢性疾患(高血圧、高コレステロール血症)を従属変数に、両時期間のBMI差等を説明変数としてロジスティック回帰分析を実施。BMI差によって階層化しオッズ比(OR)を求める際、BMI差1.0未満を基準とした。高血圧の発生はBP 140/90mmHg以上及び治療、高コレステロール血症の発生はTotal holesterol (TC) 240mg/dl以上及び治療、またはnon HDL cholesterol (non HDL-C) 190mg/dl以上及び治療と定義した。
    <結果> 時期AB間のBMI差は2.5±2.1。慢性疾患の発生と判定したのは、高血圧80人、TC 240mg/dl以上及び治療83人、non HDL-C 190mg/dl以上及び治療72人であった。慢性疾患の発生に関するOR(95%信頼区間)を、BMI差1以上、2以上、3以上、4以上、5以上についてそれぞれ示した。高血圧では、1.69(0.63-4.54)、2.99(1.19-7.57)、4.44(1.82-10.86)、3.55(1.36-9.25)、7.40(2.98-18.40)。TC 240mg/dl以上及び治療では、1.13(0.46-2.76)、0.83(0.33-2.08)、1.33(0.55-3.24)、3.12(1.40-6.96)、2.94(1.24-6.99)、non HDL-C 190mg/dl以上及び治療では、0.71(0.23-2.20)、0.74(0.25-2.17)、2.56(1.02-6.45)、3.61(1.49-8.72)、5.68(2.26-14.28)。有意なORの上昇をみたのは、高血圧ではBMI 2以上、高コレステロール血症ではBMI 3または4以上であった。発症者におけるBMI 27未満でかつBMI差の大きい者(高血圧ではBMI 2以上、高コレステロール血症ではBMI 3以上)は、高血圧では46/80(57.5%)、高コレステロール血症では39/72(54.2%)であった。
    <考察> 40歳代時点での高血圧や高コレステロールの発症を予防するためには、BMIが27に至らない範囲においても20歳代以降のBMIを2以上増加させないようにコントロールすることが望ましいと判断された。
  • 松山 美沙子, 片野 里美, 川西 孝子, 糸山 美保, 草野 健, 窪薗 修
    セッションID: 2G112
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>近年,生活習慣の変容に伴い,生活習慣病が増加し国民保健上の最大の課題となっている。特に食生活は,最重要のポイントとして注目されている。今回,当センターの人間ドックにおいて以前から行なっているコンピュータ食事診断(食物摂取頻度法)からみた食生活状況と健診結果の相関について検討し報告する。
    <方法>平成16年度に当センター,人間ドックを受診し,コンピュータ食事診断(以下PC食事診断)を行った11,262名のうち,男性6,918名を対象とした。
    <結果>
    ・食品摂取割合では,砂糖と食塩を除く食品群のほとんどの年齢階級で7割程度の者が不足であると回答していた。
    ・主食・魚・大豆製品・乳製品・食塩に関しては,年齢階級が上がるほど過剰摂取者の割合が高かった。
    ・砂糖に関しては,どの年齢階級でも過半数が過剰摂取していた。
    ・食塩に関しては,20代で2割,70代では8割の者が過剰摂取であり,年齢階級が上がるほど高くなる傾向にあった。
    ・対象のうち受診割合の高い40から60代に関し,検査結果との検討を行った。
    結果は下図の通りである。
    <まとめ>
    ・全体的に適量摂取している者の検査結果がよい傾向にあった。特に肉と野菜において,その傾向が強かった。
    ・今後の栄養相談では,これらの結果を踏まえ直接の聞き取りと併せ,個々人に対応した指導を行いたい。
  • 人間ドック受診者の糖尿病に対する意識調査から
    森田 由里絵, 杉山 祥子, 岡 未幸, 南 亜子, 鵜川 佳代子, 新野 峰久
    セッションID: 2G113
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>近年、糖尿病の罹患率は増加し、当院人間ドックでも糖代謝異常の指摘は平成11年では男性16.1%、女性7.2%、平成15年では男性21.1%、女性8.3%と増加傾向にある。人間ドック受診者の、糖尿病を発症することに対する不安、糖尿病についての知識、生活習慣を調査し、糖尿病発症を予防するための介入時期と援助の方向性を考察したので報告する。
    <対象及び方法>現在糖尿病の治療・経過観察をしていない30歳から69歳の当院人間ドック受診者898名にアンケートを配布し回収した(回収率100%)。(1)性別、(2)年齢、(3)「健診などで血糖値が高いと言われたことがあるか」(以下「過去の指摘」)、(4)「家族や知人に糖尿病の人がいるか」(以下「周囲に糖尿病」)、(5)体重(BMI25以上を肥満群)の5項目を基本事項とし、次にこの基本事項と「自分が糖尿病か気になるか」(以下「現在の不安」)、「糖尿病になるのではないか不安に思うか」(以下「将来の不安」)、糖尿病に関する知識(以下「知識」)と運動、食事、嗜好品の習慣について関連をみた。知識の有無と習慣の良否は中央値を用いて2群に区分した。検定はX2法(危険率5%)を用いた。
    <結 果>
    1.単項目の回答結果
     898件中、男性は508名(56.6%)、女性は390名(43.3%)であった。年齢構成では、40代328名(36.5%)と50代349名(38.9%)が多かった。「過去の指摘」あり群は、136名(15.2%)、「周囲に糖尿病」あり群は335名(37.6%)、肥満群は233名(25.9%)、「現在の不安」あり群は、498名(55.5%)「将来の不安」あり群は432名(48.1%)であった。
    2.分析結果
    (1)「現在の不安」「将来の不安」に男女差はみられなかった。男性は女性より運動習慣の良い人が多く、女性は男性より知識を持つ人、食事習慣の良い人が多い傾向だった。
    (2)「現在の不安」「将来の不安」、知識に年代間の差はみられなかった。加齢に伴って運動と食事の習慣が良くなっている傾向があった。
    (3)「過去の指摘」がある群に、「現在の不安」「将来の不安」を持つ者が多かったが、ない群と比較しても知識、運動、食事には差がみられなかった。
    (4)「周囲に糖尿病」がある群に「現在の不安」「将来の不安」を持つ者が多く、ない群より知識、運動習慣の良い人が多かった。
    (5)体重では、肥満群に「現在の不安」「将来の不安」を持つ者が多く、食事習慣が良い人が多かった。非肥満群と比較しても知識、運動習慣には差がみられなかった。
    (6)「現在の不安」「将来の不安」がある群はない群より知識、運動習慣が良い人が多かった。
    (7)嗜好品はどの項目でも差はみられなかった。
    <考察とまとめ>「過去の指摘」がある者に知識、生活習慣の差がみられなかったことは意外であった。今回の研究対象が「現在糖尿病の治療・経過観察をしていない者」であるため、指摘後の経過で血糖値に対する指導が継続されなかったことが影響しているのかも知れない。肥満など、糖尿病と関連する要因が持続する時には、その後の血糖の値に拘わらず指導介入の継続が予防上必要と考える。肥満の者は「現在の不安」「将来の不安」があるが、不安が好ましい習慣を必ずしも形成していないことがわかった。肥満は糖尿病発症の重大な要因になるため、肥満と糖尿病の関連で正しい知識を持つよう介入し、体重増など糖尿病発症の要因が変化した際には、早期から指導、介入することが大切である。
  • -第2報 バリウム誤嚥中間集計報告-
    柴田 信雄, 嘉藤 敏幸, 後藤 伸也, 桐原 優子, 荻原 忠, 大久保 俊治, 林 雅人
    セッションID: 2G114
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>秋田厚生会で組織している秋田県消化器癌検診委員会は平成14年度開始で7年間のハ゛リウム誤嚥調査から胃癌検診における受診者ハイリスク群名簿を作成し、実施主体との連携によりリスクマネーシ゛メント確立を計画し実施中である。
     平成15年当学会の第1報ではハ゛リウム誤嚥者が既往歴、性、年齢とどう関係するか調査し、性と関係なく高齢者、既往歴が呼吸器疾患の人にハ゛リウム誤嚥が比較的多く発生している結果を報告した。
     今回、当院での4年間の中間集計から受診者ハイリスク群名簿作成により、胃癌検診におけるハ゛リウム誤嚥リスクを回避する一つの方向性が示されたので報告する。
    <方法>平成14年から17年度の4年間の胃癌検診におけるハ゛リウム誤嚥者について以下の調査を実施した。
    1.誤嚥者の基礎テ゛ータ
    2.平成14から17年度の4年間におけるハ゛リウム誤嚥者数及び発生率の調査
    3. ハ゛リウム誤嚥者の既往歴調査
    <結果>ハ゛リウム誤嚥調査結果について以下に示す。
    1. 誤嚥者の基礎テ゛ータ
     平成14年度:男性9人、女性13人。
     平成15年度:男性12人、女性6人。
     平成16年度:男性8人、女性5人。
     平成17年度:男性4人、女性1人。
     男性の平均年齢は71.1歳で最小43歳、最大90歳であった。女性の平均年齢は67.3歳で最小45歳、最大82歳であった。
    2.ハ゛リウム誤嚥者数と誤嚥発生率(図1)
    3.ハ゛リウム誤嚥者の既往歴
     ハ゛リウム誤嚥者は既往歴なしが68.5%で既往歴ありが31.5%であった。既往歴あり群の病名別内訳では呼吸器疾患が47.1%、循環器疾患29.3%、ハ゜ーキンソン氏病など神経系疾患11.8%、その他が11.8%であった。
    <考察>
     1.平成14年から17年度の4年間でハ゛リウム誤嚥者数は54人で総受診者の0.1%を占めた。
     年齢別では男女とも40から80歳代後半まで分布し第1報と異なり、特に高齢者に多発する傾向はなかった。
     2.ハ゛リウム誤嚥者数と誤嚥発生率は経年減少した。
     3.ハ゛リウム誤嚥者の既往歴は第_I_報同様、呼吸器疾患の人に多発しており、循環器疾患の人は比較的少なかった。
    <まとめ>平成14年度からハ゛リウム誤嚥調査を開始し初年度の第1報結果と4年経過した第2報結果は呼吸器疾患に多発する事で一致したが、加齢多発傾向は不一致であった。
     4年間に渡り受診者ハイリスク群名簿を作成し集団検診から回避する事で、ハ゛リウム誤嚥発生率を初年度の0.16%から0.04%に減少させる事が出来、この計画が妥当である事を示した。
  • 小貫 琢哉, 井口 けさ人, 稲垣 雅春, 鈴木 恵子, エーカポット パンナチェート, 芝田 勝敏, 若井 陽子, 斉藤 和人, 高部 和 ...
    セッションID: 2G201
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>縦隔腫瘍に分類され,胸腺から発症する胸腺上皮性腫瘍は稀な腫瘍である.しかし,呼吸器外科医であれば必ず遭遇する.また,胸腺腫には重症筋無力症(MG),真性赤芽球癆(PRCA)や低ガンマグロブリン血症などの内科的疾患の合併が知られており,内科領域でも重要視される疾患である.胸腺上皮性腫瘍の大半は胸腺腫と胸腺癌であり,臨床病期分類である正岡分類をもとに治療方針が決定される.正岡分類は世界的に広く使われており,予後決定因子となっている.一方,胸腺上皮性腫瘍の病理形態学的分類(病理組織分類)は近年まで種々の分類が発表されたが,世界的に統一されたものはなかった.1999年にWorld Health Organization(WHO)から胸腺上皮性腫瘍の病理組織分類(WHO分類)が発表され,それ以来,国内外で広く検討された.2003年に改定されたが,正岡分類と同様にWHO分類が予後決定因子の一つであることはコンセンサスを得たと考えられる.
    <目的>当院の胸腺腫,胸腺癌について正岡分類,WHO分類について検討し,その有用性を確認することを目的とした.
    <対象・方法>1991年から2005年までに土浦協同病院呼吸器外科で治療した胸腺腫21例,胸腺癌4例を集計した.病理組織分類はMuller-Hermelink分類で評価されているものが多かったが,今回,当院病理医とともに生検・手術標本をWHO分類に再評価(再分類)した.
    <結果>胸腺腫の正岡分類別分布は,正岡I期4例,II期11例,III期6例,IV期0例.WHO分類別にはWHO Type B1・7例,B2・8例,B3・4例,A・0例,AB・0例,WHO分類不能・2例だった.胸腺腫2例(WHO Type B3・1例,WHO分類不能1例)にMGの合併を認めた.PRCA,低ガンマグロブリン血症の合併はなかった.胸腺癌は全4例で正岡II期とIII期が1例,IVb期が2例だった.胸腺癌にMGの合併はなかった.胸腺腫には腫瘍死はなく,胸腺癌に1例認めた.胸腺腫・胸腺癌とも治療の中心は手術だった.
    <考察>胸腺腫が21例と症例数が少なく,胸腺腫に関してWHO分類の有用性を統計学的に示すことはできなかった.しかし,正岡分類III期の胸腺腫の大半がWHO Type B2・B3であり,この群の局所浸潤能の高さ(悪性度の高さ)が示唆された.胸腺癌はIII期とIVb期のみで,胸腺腫よりも悪性度は高いと思われた.
    <結語>胸腺腫と胸腺癌は悪性腫瘍であり,胸腺全摘術が標準術式で進行例には放射線治療や化学療法も必要である.今後,WHO分類も治療方針決定の要因になりつつあり,診療上は正岡分類とWHO分類を併用していく必要がある.
  • 平原 沙弥花, 白井 正広, 福島 幸司, 川井 麻衣子, 寺島 茂, 風間 暁男, 谷村 繁雄
    セッションID: 2G202
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>カルチノイド腫瘍は神経内分泌分化を示唆する類器官,索状,島状,柵状,リボン状,ロゼット様などの増殖像を示す腫瘍で,その細胞異型により定型的カルチノイドと否定形的カルチノイドに分類されている.定型的カルチノイドは,中等度に好酸性で顆粒状の豊富な細胞質と細顆粒状のクロマチン像を示す円形_から_類円形の核を有する均一な細胞からなる.否定形的カルチノイドは核分裂像を有するか,あるいは壊死巣を有する.今回,我々は小型細胞を主体とした小細胞癌との鑑別に苦慮したカルチノイドを経験したので報告する.
    <症例>55歳,女性,感冒様症状にて近医内科受診,胸部X線で右肺野に異常陰影を指摘され当院呼吸器外科を紹介受診となった.
     既往歴:18才時急性虫垂炎,49才時より気管支喘息.
     家族歴:特記すべき事なし.
     画像所見:胸部CTにて右中葉S5に長径13mm程の不整型腫瘤を認めた.リンパ節腫大ならびに胸水は認めなかった.
     細胞所見:術中の捺印細胞診では,N/C比の高い細胞や裸核細胞が集塊または孤立散在性に多数出現していた.核は円形_から_類円形で,粗顆粒状のクロマチンと数個の明瞭な小型核小体を有していた.一部で細胞が索状に配列し,核の圧排像がみられ小細胞癌が疑われた.
     肉眼所見:腫瘍は境界明瞭な直径約1.0cm大の充実性腫瘤で,灰白色調の割面を呈した.出血ならびに壊死は認めなかった.
     病理所見:術中迅速診断では小細胞癌,腺癌,カルチノイドなどが鑑別として挙げられた.その後,永久標本では組織学的に腫瘍細胞は好酸性の細胞質を有し,管腔形成や索状配列を呈した.核分裂像や壊死は認めなかった.免疫組織化学的にCD56,NSE,Chromogranin A,Cytokeratin,Synaptophysinが陽性であり,定型的カルチノイドと診断した.周囲肺組織への浸潤はみられず,切除断端も陰性であった.
    <まとめ>術中の捺印細胞診では小型の腫瘍細胞が索状に配列し,核の圧排像や木目込み様の所見から小細胞癌と考えられた.しかしながら術後の病理組織をふまえて再検討してみると,核クロマチンは顆粒状であるが細胞質はレース状で辺縁は不明瞭であり,むしろカルチノイドの細胞像と考えられる部分が主体を占めていた.カルチノイド腫瘍は神経内分泌性格を有する低悪性度の腫瘍で,大多数は主気管支や区域気管支などの中枢性に発生するが,ときに末梢側にもみられる.中枢性のものは気管支内腔に突出するポリープ型のものが多いが,本症例は肺内腫瘍としてみられる末梢型の腫瘍であった.小細胞癌の好発部位は中枢側が優位であり,このことからも小細胞癌よりは末梢型カルチノイドを疑うべきだと言える.また,捺印細胞診では組織を押し付けてスライドガラスを塗抹するため,そのアーチファクトで圧排像や木目込み様に見えたものと思われた.小細胞癌,カルチノイドとも神経内分泌の性格を有することから両者の鑑別が困難なことも多いが,後者は低悪性度腫瘍であることから,均一な小型細胞を主体とした腫瘍細胞を認めた場合,小細胞癌だけでなくカルチノイド腫瘍も念頭においた注意深い観察が必要であると考えられた.
  • - 繰り返し化学療法を受ける患者への面接をKJ法で分析して -
    北口 文子, 中村 千織
    セッションID: 2G203
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>
     近年、肺がんの罹患率は増加傾向にある。抗がん剤は、がん細胞と同様に正常細胞に対しても強い毒性を示し、それが副作用となって出現するため、身体的苦痛が大きい。また、化学療法を受ける患者は病名告知を行っていることがほとんどで、予後への不安等精神的苦痛も大きいと考えられる。
    そこで、化学療法に対する患者の思いと繰り返し化学療法を受ける患者はどういう思いで入院治療を受けているのかを明らかにしたいと思い、研究に取り組んだ。
    <研究方法>
     対象者は呼吸器内科病棟で化学療法を受けた肺がん患者のうち、研究目的を説明し承諾が得られた患者、男性4名・女性2名(3ー9クール)とし、平成17年9月ー10月の期間で実施した。
    調査内容と方法は、半構成的質問用紙を作成し、それに基づき研究者が面接調査を行い、内容を記録。なお、面接場所はプライバシーの保てる個室とした。
    1)倫理的配慮:倫理綱領に基づき同意の得られた患者に対して行った。また、比較的全身状態の落ち着いている時期に施行した。
    2)分析方法:川喜田二郎の提案した発想法(以下KJ法)を用いて分析した。信頼性を確保するため、遂語録の中から患者の心理状況を示す言葉をラベル化し、意味内容の類似した言葉を集めた。
    <結果>
    1)治療を受けるにあたって、医師から病名・治療の説明を受け、ショックが大きいが前向きな気持ちをもって治療にのぞむ人と、悲観的な思いをもちながら治療にのぞむ人がいた。治療を受ける支えとして、医師からの言葉の支えや納得できる説明が背景にあった。一方で、分からないという意見や世間での偏見が不安を助長させているケースもあった。
    2)治療中に関しては、普段気にならないような点滴時間や足音、臭い等環境に対して過敏になっていた。副作用が出現するとコーピング行動をとったり、セルフケア行動をとったりするケースがあった。一方で、悲観的な思いを持ち続けているケースもあり、家族や医師・看護師の対応が支えになっていた。今後の生活について、目標を持つ人や、他の同病者が入退院を繰り返すのを見て不安を抱く人がいた。
    <まとめ>
    1)化学療法を受ける際は、病名告知による極度の緊張や不安により理解を得られにくいため、患者の治療の受けとめ方を確認したフォローが必要である。
    2)繰り返し化学療法を受ける患者の思いには、前向きな思い(意欲)と悲観的思い、不安、支え、今後の生活に対する思いがあった。そして、死への恐怖を抱き、初回時と心理変化が生じていた。
    3)繰り返し化学療法を受ける患者は、治療を重ねる毎に増強する身体的苦痛と、病気や予後に対する不安等精神的苦痛を抱えながらも自分なりに病気や治療を受けとめ、周囲の支えを得て、気持ちを切り替えながら治療に臨んでいる。それには、患者が自分の思いをまとめられるよう関わることが必要である。
  • 佐藤 トシエ, 荒木 由紀子, 土田 由美子, 石田 玲子, 矢沢 孝枝, 横山 喜代子, 喜多 秀文, 藤田 敦
    セッションID: 2G204
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>肺癌の手術は、1週間前後での退院が一般的な経過であるが、合併症等が起きると重症化し入院期間が長引くこともある。手術後、気管支断端瘻となり再手術、1年以上の人工呼吸器装着となっている患者様のウィニングに向けての看護を振り返り今後につなぎたいと考え、いままでの経過・看護の実際をまとめたので報告する。
    <事例紹介>T氏、74歳、男性 右肺癌2004年1月16日入院、21日胸腔鏡下右下葉切除術、食事・歩行開始となったが呼吸状態悪化し26日気管切開20日胸部開窓術・腸瘻造設術となる。3月10日CO2ナルコーシスになり人工呼吸器装着、8月16日ウィニング開始、9月8日呼吸器を短時間はずせるようになる。10月17日車イス散歩が可能になる。
    <看護の実践>無気肺・肺炎予防として観察、気管内吸引、体位交換、呼吸リハビリ、口腔内清潔保持を統一した手技で行なった。ウィニング計画は不安感を与えず、呼吸筋を疲労させないよう進めた。呼吸器の呼吸回数を昼夜で変更し自発呼吸時間を延長し、同時に昼間はラジオを流したり環境の改善に努め日常生活にリズムをつけた。血ガス値をみながら昼間は15分間酸素マスク使用から開始、8ヶ月後昼間マスクまたは人工呼吸器(CPAP)、夜間人工呼吸器(BIPAP・f4_から_8)で過ごせるようになった。床上リハビリ時はSaO2・呼吸状態・表情の観察に努め5m位歩行、手術後初めて院外車イス散歩ができた。T氏へは十分説明し表情を観察しながら接した。筆談・ジェスチャー・読唇等実施しニードの把握ができた。また発声が出来るようにカニューレ設定しT氏・家族に満足感を与えることが出来た。
    <考察>人工呼吸器装着中の患者様には身体的・精神的ケアの提供が必要となる。身体的ケアとしてバイタル・呼吸パターンの変化・検査値チェックや“患者様がいつもとどこか違う”という看護師の気づきが大切であり、それがウィニングを進める時の異常の早期発見になる。また私たちは、呼吸器使用時の全身への影響を理解し、合併症予防の看護ケアを実施した。これにより呼吸状態の安定が得られ、医師・リハビリ部門との連携もあり離床が進められたと考える。精神的ケアを提供する上で念頭におかなければならないのは呼吸器装着中の患者様は“話すことが出来ない”ことである。T氏は意識鮮明で知的に問題なく、それゆえに会話が出来ないストレスは多大であると推測できる。コミュニケーション技術としてまず傾聴することが最も有効とされているがT氏の場合は困難な状況であった。始めのころは意思疎通が上手くいかなかったが非言語的コミュニケーションを計画し家族の理解・協力も得られ、日常生活の中で関わりを多く持つことで、安心感を与えることができた。それらが、信頼関係につながりウィニングを一緒に進められたと考える。
    <まとめ>私たちの看護ケアが長期人工呼吸器装着となった患者様に与える影響は大きく、合併症予防を常に意識し身体・精神両面からていねいに関わっていく必要がある。
  • 蜂須賀 靖宏, 杉山 宗平, 稲垣 清剛, 成田 淳, 加藤 三喜子, 梅村 寿男, 早川 清順
    セッションID: 2G205
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>形質細胞性腫瘍はB細胞の最終分化段階である形質細胞の単クローン性増殖を特徴とする腫瘍性疾患で、新WHO分類では成熟B細胞性腫瘍の一型として分類されており、形質細胞性骨髄腫に比して限局性で髄外性にみられるものを形質細胞腫としている。今回我々は鼻腔原発形質細胞腫の精巣での再発・浸潤した症例を経験したので報告する。
    <症例>46歳男性、2003年9月6日鼻づまりおよび大量の鼻水を主訴に近医受診。右鼻腔内吸引したところ出血、止血できなくなり、当院救急外来を受診したが右鼻出血症と診断され一時帰宅。同年9月11日当院耳鼻科を受診し右鼻腔に肉芽様病変を認めたため切除生検を施行したところ形質細胞腫と診断された。血清学的にも免疫組織学的にも単クローン性高γグロブリン血症(IgG-λ型)が認められたが、ベンズジョーンズ蛋白は陰性であった。同年10月15日に骨髄検査が施行されたが異常なし。外来にて放射線治療を施行していたが2004年5月同部再発、右膝・右踵に新病変発生。化学療法と放射線治療を施行し軽快したが、2005年4月27日左精巣腫大を訴え泌尿器科受診。検査にて精巣腫瘍が疑われたため翌日高位除睾術が施行された。
    <肉眼所見>大きさは92mm×67mmで割面は出血を伴い小豆色で結節状に膨隆していた。
    <捺印細胞所見>出血性背景に腫瘍細胞が豊富に採取され散在性や集合性に出現していた。核は楕円形で偏在性を示し2核や3核の細胞も認められた。核クロマチンは不均等に分布し核小体の目立つ細胞も混在していたが、明らかな車軸状構造は認められなかった。細胞質は好塩基性で核周明庭を認めた。
    <組織所見>左精巣はわずかに精細管が残るのみでほとんどの部分が腫瘍に置換占領されていた。核小体の目立つ大型類円形核を有する腫瘍細胞がびまん性密に増殖発育している。腫瘍細胞は免疫芽球のようにも見えるが詳細に観察すると、核は胞体内で偏在し核周明庭があり異型の強い形質細胞形態を示していた。腫瘍は精巣網近くまで進襲あるいはその一部に入り込んで進襲しているが精巣上体・精索への進展はなく、鼻腔原発形質細胞腫の精巣での再発・浸潤と診断された。
    <まとめ>今回の症例は孤立性形質細胞腫の中でも精巣に転移をした珍しい症例であった。また、腫瘍細胞の異型性が高くより悪性度の高い形質細胞腫に変化・転換、あるいはびまん性大型B細胞性リンパ腫ないしそれに近いものに変化・転換している可能性が推測された。
  • 徐 英哲, 加藤 智則, 澤 正史, 伊藤 達也, 小野 芳孝
    セッションID: 2G206
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>粘膜関連リンパ組織(MALT)リンパ腫は消化管の他、甲状腺、唾液腺、肺、眼窩、胸腺、膀胱などの粘膜や腺に付随して見られるリンパ組織を発生母地として生じるB細胞系の低悪性度リンパ腫である。胃の限局期においては、最近ではH.pylori除菌療法が第一選択となるが、進行期においては強力な化学療法の有用性も確立しておらず、未だ治療法の見解が定まっていない。一方、プリンアナログの抗癌剤の一つであるクラドリビンは低悪性度リンパ腫、マントル細胞リンパ腫をはじめ、再発/難治性B細胞リンパ腫に対する有用性が報告されており、また、近年開発されたCD20に対するモノクローナル抗体であるリツキサンはB細胞性悪性リンパ腫に対する有用性が示され、本疾患においてもその効果が期待されている。今回我々は、高齢者に発症したMALTリンパ腫3例に対してリツキサン併用クラドリビン療法(R-Cd療法)を実施し良好な成績を得たので報告する。いずれの症例も1サイクルにRituximab 375mg/m2, Cladribine 0.09mg/kg(5days)を投与している。
    <症例>症例1:77歳男性、胃原発のstage IIIAと診断され、R-Cd療法6コース後12ヶ月の寛解を維持している。 症例2:80歳男性、右肺・縦隔・胸水に病変を認めたstage IIA。R-Cd療法2コースで寛解となり、3コース後は肝障害(Grade 2)と全身状態を考慮して以後はリツキサンのみの維持とし、14ヶ月間寛解を維持している。 症例3:65歳男性、胃原発で頸部・縦隔・両腋窩・後腹膜リンパ節に病変を認め、骨髄浸潤も認めたstage IVAで、R-Cd療法4コース終了で寛解に到達、計6コース終了し、7ヶ月間寛解を維持している。
    <結果・考察>R-Cd療法は骨髄抑制がごく軽度で、消化器症状、脱毛等もほとんどなく、高齢者においては充分外来通院にて実施可能であった。但し造血幹細胞に対するダメージが懸念される為、将来自家幹細胞移植の可能性のある症例では第一選択とはなり難い。今回いずれの症例も治療終了後より現在まで寛解を維持しており、自家幹細胞移植の適応のない症例あるいは高齢者の進行期MALTリンパ腫においては第一選択の治療として十分期待できると考えられる。
  • 赤羽 弘充, 高橋 昌宏, 中野 詩朗, 柳田 尚之, 正村 裕紀, 今井 浩二, 萩原 正弘, 吉田 雅, 馬場 基, 渡邊 賢二
    セッションID: 2G207
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>一般に腸重積症とは、腸管が肛門側腸管内に重なり合って入り込んでゆく病態であり、何らかの隆起性病変が先進部となることが多い。病因により、明らかな原因となる器質的病変を認めない特発性と、隆起性病変が先進部となる続発性に分類される。
    乳幼児腸重積症の90%以上を特発性腸重積症が占め、続発性は年長児や成人に多い。成人では、ポリープや癌などの腫瘍性病変が60%を占め、約半数は大腸に発生する。
    2歳8ヶ月の幼児に発症した回腸異所性膵(Heinrich III型)による腸重積症と40年前に胃切除術を受けた59歳男性の逆行性腸重積症を経験したので報告する。
    <症例1>2歳8ヶ月、男児。嘔気と嘔吐を主訴に近医を受診したが診断がつかず、同日夜、約200km離れた当院を受診した。発症より12時間経過しており、腸閉塞症の診断で入院となったが、腸重積症の診断には至らなかった。翌日、粘血便を認め、発症22時間で腸重積症の診断に至り、高圧浣腸による整復を試みたが、解除できず発症後26時間で外科手術となった。下腹部横切開で開腹し、回腸に発赤と腫瘤を認めたため、回腸部分切除術を施行した。病理学的検索により、導管のみを認める異所性膵(Heinrich III型)による回腸回腸型腸重積症と診断した。
    <症例2>59歳、男性。40年前に胃潰瘍にて胃切除術を受けた既往がある。心下部痛と嘔吐、吐血を主訴に受診、入院した。上部消化管内視鏡検査にて鬱血した小腸の胃内への嵌入を認めたため、緊急手術となった。胃はBillroth II法にて再建されており、輸出脚空腸が約30cmに亘って逆行性に胃内へ重積していた。Hutchinson法にて重積を解除し、腸管の血流が良好であったため、腸切除は必要としなかった。内視鏡上も触診上も腫瘍性病変は認めず、成人の特発性空腸胃型逆行性腸重積症と診断した。
    <考察>異所性膵は剖検例の0.6から5.6%に認められ、胃(27%)・十二指腸(30%)・空腸(16%)・回腸(6%)・Meckel憩室(5%)の順に多く、ラ氏島・腺房組織・導管の有無によりHeinrich分類(I型:すべての膵組織成分を有する、II型:腺房組織と導管を認め、ラ氏島を認めない、III型:導管のみ認める)が用いられている。症例1は、幼児には珍しい続発性腸重積症であり、医中誌による検索では異所性膵に起因する腸重積症は成人例を含めて96例が報告されるのみである。
    開腹術後の腸重積症は、成人腸重積症の1.2から4.0%とされ、その97%が胃切除術後である。胃切除術後患者の0.07から2.1%に腸重積症が発症し、その52%がBillroth II法による再建術後と報告されている。症例2もBillroth II法による術後の症例であるが、術後40年経過しており、その発症機序の説明は困難である。
    <結語>幼児と成人に発症した、珍しい腸重積症の2例を報告した。
  • 矢口 豊久, 都島 由希子, 渡部 俊也, 猪川 祥邦, 菅江 崇, 城田 高, 高瀬 恒信, 中山 茂樹, 梶川 真樹, 原田 明生
    セッションID: 2G208
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <諸語>近年大腸癌の化学療法は5FU/レボホリナート療法, FOLFIRI法など進行再発症例に対して高い奏効率をあげている治療が登場している.2005年4月6日にはオキサリプラチンが我が国でも薬価収載となり, FOLFOXの治療が可能な環境が整った.しかしながらオキサリプラチンの投与量が85mg/m2に制限されており, 使用可能なプロトコールはFOLFOX4またはmFOLFOX6に制限されている.
     当院では2004年11月より, 進行・再発大腸癌に対してFOLFIRI法(de Gramont regimen)を導入し, その後mFOLFOX6, FOLFOX4を取り入れ,その効果と副作用について検討したので報告する.
    <方法>2004年10月から2006年3月までの1年5ヶ月の間にFOLFIRI, mFOLFOX6, FOLFOX4を含む治療を行った切除不能進行大腸癌13例, 再発9例, 平均年齢58.5歳(23-76歳)を対象とした. 男性14例, 女性8例, Performance status 0; 20名, 1; 2名であった. 原則2週間に1回投与, 患者の体調により3週間に1回投与, Time to Progressionが過ぎるまで実施した. これらの治療後なおPerformance statusを維持している症例については肝動注療法, 放射線療法, UFT/Uzel内服, S1内服などの治療へ移行した.
    <結果>投与開始後2ヶ月以上経過したところで効果を評価した。22例のうち評価可能であった症例は20例で, CR 0, PR 8, SD 9, PD 3例であった. 22例中18例生存. 500日を経過したところでの累積生存率は74.3%であった(図1). Progression Free Survival は24.9%であった.50% Progression Free Survivalは181日であった(図2). 副作用としては, 投与が直接の原因と思われる死亡例を1例に認めた.この症例は5クール目にGCSF投与に反応しないGrade 4の白血球減少を認めた. そのほか6例にGrade 1以上の白血球減少を認めた. またGrade 1以上の脱毛を7例, 食欲低下を12例,に認めた.
    <考察>Tournigandら(2004)はMean Survival Rateを21.5ヶ月と報告している. FOLFIRI・FOLFOX法は進行・再発症例に対して新たな道を開くものである.一方で重篤な副作用も認められる.慎重な投与が必要であるが,症例によっては休薬期間を長くとるなどの工夫をすれば長期生存が期待できると思われた.
  • 河原 健夫, 佐伯 悟三, 新井 利幸, 岡田 禎人, 安部 哲也, 佐藤 健一郎, 檜垣 栄治, 山内 康平, 伊藤 英樹, 横井 俊平
    セッションID: 2G209
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     画像診断法の普及により脾腫瘤の報告が増加してきているが、その診断には難渋することが多い。当院において5例の脾腫瘤を経験したのでその画像的特徴を若干の文献的考察を加えて報告する。
     経験した症例は脾嚢胞1例、脾血管腫2例、脾炎症性偽腫瘍1例、転移性脾腫瘍1例であった。脾嚢胞の症例は27歳の女性、右下腹部痛を主訴として来院され、USで約10cmの嚢胞性病変を脾臓に指摘された。CTでは隔壁のある嚢胞性病変を指摘、MRIでは隔壁のある嚢胞性病変として指摘されたが造影される充実部分は存在しなかった。脾血管腫の症例は51歳男性と32歳女性。前者は健診で脾臓腫瘤を指摘、ダイナミックCTで脾臓内に多発の低吸収域を指摘された。後者は心窩部不快感で近医受診、USで境界不明瞭、円形多発のう胞のある腫瘤を指摘、ダイナミックCT動脈相で強く濃染され門脈相、平衡相でも脾臓実質より強い染まりを認めた。脾炎症性偽腫瘍の症例は44歳女性、健診USで脾臓内腫瘤を指摘された。ダイナミックCTで徐々にまだらに染まる像が得られた。MRIではT2強調画像でlow intensity、造影T1強調画像で不均一に染まる所見を認めた。転移性脾腫瘍の症例は61歳男性、2年前にS状結腸癌、腹膜播種、傍大動脈リンパ節転移陽性でS状結腸切除術を施行していた。腫瘍マーカーは高値、脾臓内に淡く造影される腫瘤を認め他部位に再発を認めなかったため、孤立性脾転移と診断した。
     脾腫瘤は画像診断である程度の特徴的な所見があるが、術前診断をつけるのは困難であり今回全例に脾臓摘出術を行った。脾腫瘤については切除して組織診断をつけることが必要と考える。
  • 退院後の面接を続けて
    石橋 麻由, 野村 里恵, 朝熊 由美, 新開 妙子
    セッションID: 2G210
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに> 糖尿病は治療者と患者、家族が長い年月に渡り忍耐強い治療、努力が要求される疾患である。入院中はコントロール出来ても、その後入退院を繰り返す人も多い。そこで、どのように関わりを持つ事で自己管理能力の維持が出来るかを考え、今回入院時から退院後数回の面接を行った。その結果、行動変容がみられ、HbA1cも正常値を保つ事が出来たので、ここに報告する。
    <研究目的・方法> 糖尿病患者が自己管理継続を行える為に退院後の関わりにて明らかにする。64歳の時に糖尿病を指摘され自分なりに食事療法は行なっていたという71歳の初回入院患者に対して、入院時から退院後にかけて面接を行なった。入院中、退院後の4回の約30分/回の面接を行なった。定期的に関わる事で、患者にとって自己管理が継続出来るのではないかと考えた。また、本研究において対象者には研究協力を得ている。
    <結果・考察> この患者は高齢ということもあり、今後の生活について患者に合わせ、一緒に考えていく中で少しずつ情報提供を行なった。入院中に「合併症を起こすと怖いから、食事の量に気をつける」と聞かれる。年齢や社会的状況においても個人差が大きいので患者のQOLやwellbeingを十分に考慮した介入を取るよう心がけた。退院後の面接では、そのつど状態を見ながら、次回面接を相談し医療者側より電話にて受診日を確認し面接の約束をした。その日までの状態確認と感情、困った事、データなどについて会話を持った。それを続けていく事で患者は、連絡を楽しみに待つようになり、また、家では話せない気持ちの表出する場所となった。入院時から退院時にかけて話を傾聴する場を設けながらの関わりを持った事は、患者にとって信頼関係を深め負担感の軽減になったのではないかと思われる。
    石井は「私達が苦悩を聴く態度を示すだけでも、そういう思いを表現してもよいのだ、と患者は認識し楽になるのではないか」と述べている。また、治療を継続していく事は必ずと言っていい程どこかで乱れる時期がある。その為に状態が悪化する人が少なくない。その為に、入院時から退院後にかけて継続して関わることでよい刺激を患者に与えられると考え、面接を繰り返した。その結果、1回の買い物の量が多かったのが、必要最少限に減らす事ができ、間食も「まーいっかー」で食べていたのも、「あまり食べたいと思わなくなっていった。」と聞かれるようになった。どうしても摂取したくなると、半分にするとか、寝る、などでセルフコントロールができる様になった。HbA1cも入院前9.8%あったのが、4.8%と低下し正常値を維持出来ていた。そのつど分からない事などについて説明を加えることで知識の向上も図れたと思われる。つまり、退院後も適宜関わりを持つ事で自己管理を維持できるきっかけとなったと考えられる。
    福西は「長期の療養生活上では『中だるみ』がくることがある。看護者は、その時期を予測して患者を援助していく。そして、患者を責めず長い過程にみられる一現象である。」と述べている。 このように、カウンセリング的アプローチ的な関わりを続けることが、患者の意識の維持または向上につながり、血糖値にも反映していくと考える。当院では、退院後にしっかりした関わりを持つのが難しい状況であるが、今後糖尿病患者が増加すると言われている現状があり、どのように関わりを持つかが課題となる。
    <まとめ>
     1.退院後のフォローも適宜行ない、患者の支えとなり、自己管理能力の維 持を図る関わりを持つことが必要。
     2.精神的に受け入れる姿勢を持ち、カウンセリング技法が必要。
     3.個々のペースに合わせた援助が必要。                                         
  • 6ステップメソッドを用いた教育プログラムを導入して
    竹口 美穂, 朝熊 由美, 伊藤 由紀, 新開 妙子
    セッションID: 2G211
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>生活習慣病といわれる糖尿病は、血糖値を良好に保つことにより、合併症の発症を防止することができる。そのためには、食事療法・運動療法などの自己管理の継続が重要になってくる。しかし、長期にわたり治療を継続していくことは容易ではない。当病棟でも、血糖コントロールが不良となり繰り返し入院してくる患者も多く、糖尿病患者への指導のあり方に疑問を感じていた。しかし、糖尿病教育入院に決められたシステムはなく、満足のいく教育がされていないのが現状である。そのため、短い入院期間の中で、自己管理能力を向上させる教育プランが必要であると考えた。
    <目的>糖尿病教育入院患者に、6ステップメソットを用いた教育プログラムを使用し、事例検討することで、今後の課題を明らかにし、看護の方向性をみつける。
    <研究方法>初回糖尿病教育入院患者に、教育プログラムに沿って糖尿病教育を実施し、半構成面接と石井均監訳糖尿病バーンアウトをもとに作成した独自の質問紙を用いて自己効力について評価し、教育プログラムの有用性について検討した。また、本研究において対象者には研究協力の同意を得ている。
    <結果・考察>糖尿病教育を初めて受けるS氏は入院当初、「なぜ自分が糖尿病になったのか」「自分は運動なんてしなくて良い」など、糖尿病について知識不足のため不安や戸惑いを感じている様子であった。教育プログラムに沿って教育を進めるうちに、治療にも前向きとなり、「散歩と体操頑張ってきたよ、昼食後も夕食後もするわ」「退院してからも頑張るわ」と意欲的な言動へと変化していった。また、退院後の質問紙調査では、食事療法・運動療法は継続できており、自己管理していくことに関して、ストレスに感じていないことが伺えた。S氏は、食事療法や運動療法の能力を身につけ、自信を持って退院することができた。また、退院後も継続できていることからも、自己管理能力は向上したといえ、今回の教育プログラムは自己管理能力を高めるために有用だったといえる。しかし、教育プログラムは導入したばかりであり、6ステップメソッドについてスタッフが理解できていない部分があり、教育が遅れたり、統一した指導が行えていないなど、スムーズに取り組めていないこともあった。短い入院期間の中で、患者自らが生活を見直し、自分にはできそうだという自己効力感を高められるような関わりが当病棟には必要であり、そのためにも、知識を身につけ、患者の反応や問題となっていることをカンファレンスで話し合い、スタッフ全員が共有し統一した看護を提供していく必要がある。
    <おわりに>6ステップメソッドを用いた糖尿病教育プログラムを導入したことで、患者が糖尿病生活への自信をもち、自己効力を維持することができた。今後も、教育プログラムを使用し、その中で個々の患者にあった教育を実践していきたい。今回の結果は成功した1症例に過ぎず、一般化するにはデータが少なく、今後もデータを収集する必要があるため研究の限界とする。
  • 横山 有見子, 武山 直治, 横山 敏之, 北村 顕
    セッションID: 2G212
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>糖尿病患者では血糖コントロールが季節により変動することは過去に報告されている。当院の糖尿病患者における血糖コントロールも夏から初冬にかけて改善し、冬から春にかけて悪化することは第52回日農医総会で報告した。当院は岐阜県飛騨地方の山間部に位置しており、冬季は気温が低く積雪が多いため屋外運動量が制限される。また農業従事者が多く農繁期には運動量が増える人が多いことが予測される。血糖コントロールが変動する原因は、当地域では、季節により1日の栄養摂取量や身体活動量が変化する人が多いからではないかと考え、調査し検討した。
    <方法>本調査は「農村における生活習慣と生活習慣病有病率の地域差に関する疫学研究、主任研究者 福岡大学医学部教授 畝博先生」の一部として行われた。岐阜県飛騨地方の農村部に居住する者で2004年9月から12月(秋季)に基本健康診査を受診した者のうち、本研究についての説明を理解し同意を得た者に対し、受診日から1ヶ月以内を目安に後日、訓練を受けた調査員が訪問し、対象者の属性、生活習慣についての質問票に対する聞き取り調査を行った。秋季調査回答者に対して、2005年春に2005年2月ごろ(冬季)の生活習慣および食習慣の自記式質問票記入を郵送で依頼した。377例から回答を得て、これを秋季と冬季で比較し検討した。身体活動量については国際標準化身体活動質問票を用い、栄養摂取量については国立健康・栄養研究所の佐々木敏先生の作成した食習慣調査票を用いて行った。
    <結果>対象377例(男性184例、女性193例、年齢64.1±9.5才)の構成は農業従事者143例(男性80例、女性63例、年齢63.1±9.4才)、非農業従事者234例(男性104例、女性130例、年齢64.7±9.4才)であった。1日1万歩に相当する300kcal以上の身体活動量を行った人の割合は対象全体では秋季67.9%、冬季52.5%であった。農業従事者ではこの割合は秋季77.6%、冬季53.8%であり、非農業従事者では秋季62.0%、冬季51.8%であった。身体活動量の多い人の割合は、秋季が冬季より多く、その傾向は農業従事者においてより顕著であった。一方、1日の栄養摂取量は秋季が冬季に比べて有意に多かったがその差はわずかであった(秋季2107.7±654.4kcal、冬季2023.6±670.2 kcal、p=0.004)。
    <考察>今回の結果から、当地域では身体活動量が季節により変動する人が多く、とくに農業従事者では農繁期である春から初冬と、冬季との変動が顕著である人が多いという結果が得られた。1日の栄養摂取量も季節により変動するがその差はわずかであった。当院通院患者には農業従事者が多く含まれることから、当院の糖尿病患者全体の血糖コントロールの季節変動におよぼす因子としては、とくに農業従事患者の身体活動量の変動が影響している可能性が考えられた。糖尿病患者の治療に対しては居住地や職業、季節、気候のよる生活様式の変化を加味する必要があると考えられた。
  • 濱崎 真沙子, 旅河 佐知子, 小林 則子, 栗林 友子, 片野 寛子, 渡辺 一也, 遠藤 弘, 八幡 和明, 吉川 明
    セッションID: 2G213
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     血糖認識トレーニング(以下BGAT)は、血糖の変化に対する外部情報(インスリン・食事・運動)とともに内部情報(身体症状・気分など)について学習し高血糖・低血糖の認識を高めるトレーニング法としてアメリカで考案されたものである。
     1型糖尿病患者で血糖値を測定する際に、あらかじめ血糖値の予測を行い、それと実測値と比較している人にこのBGATの正しいやり方を指導し、糖尿病チーム医療の一員として薬剤師の立場から患者に介入を試みた。
     1.血糖値を予測することが実際の血糖コントロールの改善に結びつき、高血糖・低血糖の予防に役立っているかなどを調査した。
     2.血糖値の予測値・実測値より血糖誤差判定グラフ(エラーグリッド)を作成した。
     3.エラーグリッドから見落としのエラーのあるゾーン、血糖値を高く推測したのに実際の血糖値が低かったという危険なエラーのみられる患者に注目してみた。
     4.血糖認識の手がかり(キュー)やエラーグリッドを用いて患者指導に介入し、血糖予測の正確さの評価や意識レベルの向上の関わりをもった。
     血糖自己測定は糖尿病治療のセルフケア行動に欠かせない手技である。単に測定するだけでなくその日の自己の生活・環境を振り返り、血糖値を予測することを練習していた患者にこのBGATを指導することで、自分の血糖値をより深く意識するようになり高血糖や低血糖を上手く予測することが可能になってきた。
     これからより多くの患者にBGATを使用し継続して関わることで、血糖変化に対する各個人の意識を高めていきたい。
  • 矢野 一郎, 村川 和義, 冨田 智子
    セッションID: 2G301
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
     小児気管支喘息の治療は吸入ステロイド薬の普及に伴い、飛躍的に改善している。しかし、使用が長期にわたる場合や高用量を使用した場合、その成長や視床下部下垂体副腎系への影響が危惧されます。今回、私たちは長期間吸入ステロイド薬を投与している患児のうち、同意の得られた10症例に改良 rapid ACTH試験を施行したので、その結果を含め、臨床的効果、副反応、身長発育などについて、報告します。
    <対象>長期間吸入ステロイド薬を投与している10例で、投与期間は1年2ヶ月から6年9ヶ月で、平均4.0年であった。喘息の発症年齢は6ヶ月から4歳(平均1.8歳)、吸入ステロイド薬開始年齢は3歳から11歳(平均6.2歳)、現在の年齢は5歳から15歳(平均10.3歳)、性比は男7女3であった。吸入ステロイド薬の種類はCFC-BDP,FP-dpであった。投与量は全例で最高でBDP換算で400μg/dayであった。効果の判定は投与前後で、吸入ステロイド導入前の1年間とこの1年間の入院日数の入院日数、吸入ステロイド導入前の1年間とこの1年間の定期外外来受診日数で比較して行った。結果は全例で入院日数、定期外外来受診日数の減少が見られ、患児のQOLは著しい改善した。呼吸機能も全例で改善したが、1例でV50の低下を認めた。アレルギーの検査では投与前後で、血中IgE値、血中好酸球数を測定した。結果は血中IgE値は低下傾向を認めなかったが、血中好酸球数は有意に低下していた。身長発育については、投与前後で、身長測定を行い標準偏差で比較した。1例を除き、身長発育の明らかな抑制は認めなかった。副腎機能については投与後現在の副腎機能を改良Rapid ACTH testで行った。結果はコルチゾールの基礎値が1例で低下していたが、ACTHに対する反応性は全例で良好であった。
    <まとめ>
    1.吸入ステロイド薬投与により、全例でQOLの改善を認めた。呼吸機能も改善したが、1例でV50の低下があり、治療方法の検討、注意深い観察が必要であると思われた。
    2.総IgE値は低下傾向は認めなかったが、血中好酸球数は有意に低下していた。
    3.1例を除き、その他の症例では身長発育の明らかな抑制は認められなかった。
    4.改良rapid ACTH testによる副腎機能検査ではコルチゾールの基礎値が1例で軽度に低下していたが、反応性は全例で良好であった。
    5.吸入ステロイド薬はQOLの改善に有効であった。一方、1例で身長発育抑制の疑いとコルチゾールの基礎値の軽度低下が認められたが、他の9例では副反応、身長発育、副腎機能では明らかな異常は認められなかった。
  • 渡辺 章充, 赤羽 桂子, 片桐 朋子, 山田 均, 山本 敦子, 黒澤 信行, 渡部 誠一
    セッションID: 2G302
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>近年、けいれん重積で発症したあと数日経ってからけいれんの群発を起こすという二峰性の経過をとり、発症数日後の頭部MRIにて拡散強調画像で皮質下白質に高信号域をみる急性脳炎脳症が報告され、けいれん重積型脳症として臨床的に特有な病態として考えられるようになってきている。厚生労働省インフルエンザ脳症研究班のガイドラインでは、インフルエンザ脳症の特殊型としても「けいれん重積型」が記載されている。今回、当科で経験したけいれん重積型脳症及び類似の脳炎脳症の臨床経過・画像所見・予後について検討したので報告する。
    <症例・臨床像>当科において2003年9月から2006年3月に経験した、けいれん重積型脳症3例(A群)、発症時のけいれんは重積ではないが、画像所見やけいれん群発がけいれん重積型脳症に類似していた急性脳炎脳症3例(B群)について後方視的にカルテを基に検討した。年齢はA群11ヶ月、12ヶ月、14ヶ月、B群8ヶ月、12ヶ月、20ヶ月。発症までに明らかな発達異常を指摘されていた例はなかった。全例けいれん発作で発症、A群3例のうち2例は入院時に人工呼吸管理を要した。B群の2例は入院時は複合型熱性けいれんの診断、1例は単純型熱性けいれんだった。全例でけいれん発作は入院時の治療(ジアゼパム、フェニトイン、ミダゾラム)で抑制され、2日目には小康状態が保たれていた。しかし、初回けいれんから3から5日目に短いけいれん発作(複雑部分発作もしくは強直発作)が群発した。けいれん群発はA群はリドカインで、B群はフェニトイン1例、フェニトイン+フェノバール2例でコントロールされた。A群の2例は発症24時間以内にステロイドパルス療法とうち1例には軽度低体温療法が施行され、AB合わせて5例で経過中にステロイド剤が使用されていた。
    <画像所見・脳波>入院時に全例頭部CTが撮影されているが明らかな異常所見はなかった。頭部MRIは、入院翌日に撮影された2例は異常を認めず、3日目以降に撮影した全例で(入院翌日異常なしの2例の再検も含む)拡散協調画像で異常信号域を認めた。B群に比してA群の異常信号域は白質中心で範囲も広かった。B群の発症初期の脳波は、薬剤の影響を加味して、異常なしから境界レベルの評価で脳炎は否定的とされていた。
    <予後>A群は全例で知的運動発達が退行し、発達障害を遺した。B群も急性期には退行したが、その後回復し、2例はほぼ正常発達、1例が軽度の発達障害を認めていた。
    <考察>けいれん出現が二峰性、頭部MRI拡散強調画像での異常という特長をもつ脳炎脳症では、やはり発症時にけいれん重積をするほうが、画像所見の異常も強く、予後が悪い傾向があった。インフルエンザ脳症で予後改善効果が期待されるステロイドパルス療法を施行しても発達障害は遺しており、今後は治療法に関しての検討が必要である。また、重積を示さない例は、発達退行を認めるものの、初期の画像や脳波に異常が乏しく、発症時には熱性けいれんとの区別は困難であった。画像検査のタイミングの他、早期診断の指標をみつける必要がある。
  • 服部 哲夫, 加藤 有一, 伊藤 美春, 多賀谷 亜実, 中村 麗亜, 大江 英之, 久保田 哲夫, 宮島 雄二, 小川 昭正, 久野 邦義
    セッションID: 2G303
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>鎖骨頭蓋異形成症は(Cleidocranial dysplasia)は鎖骨低形成、頭蓋骨縫合骨化遅延、歯牙萌出遅延を特徴とする稀な先天性骨系統疾患である。近年、その責任遺伝子として、6p21に局在する転写因子Core Binding Factor α1(以下CBFA1)/RUNX2が同定されている。われわれは、互いに血縁関係にない2症例を経験したので報告する。
    <症例1>在胎37週5日、出生体重2848gの女児。妊娠合併症、家族歴なし。産婦人科医院にて出生後、著明な大泉門開大をみとめ当院に搬送された。頭蓋骨は高度に低形成で、泉門、縫合は著明に開大していた。また両側鎖骨の外側部欠損、顔面骨の癒合不全をみとめた。これらの所見から鎖骨頭蓋異形成症と診断した。その他合併症なく日齢9に退院した。家族よりインフォームド・コンセントを得たのち、慶應義塾大学小児科に遺伝子解析を依頼し、CBFA1遺伝子のヘテロ変異384-386 delGGT(V129del)を同定した。1歳9ヶ月現在、精神発達は正常で、外傷防止のためヘルメット装着を指導している。頭蓋骨の骨化も緩徐ながら進んでいる。歯牙萌出は8本と比較的順調であるが、今後歯列の問題が出現すると予想される。
    <症例2>在胎41週1日、出生体重3064gの女児。妊娠合併症、家族歴なし。産婦人科医院にて出生後、著明な大泉門開大みとめ当院に搬送された。症例1と同様の典型的な臨床像から鎖骨頭蓋異形成症と診断した。本児は生後数日から上気道狭窄によると思われる呼吸障害が進行し、呼吸管理に難渋した。人工換気や経鼻持続陽圧呼吸法を併用しながら、数ヶ月を経て徐々に自然軽快をみとめ、日齢130に退院、在宅管理に移行した。慶応義塾大学小児科の遺伝子解析でCBFA1遺伝子変異623A>G(D208G)を同定した。9ヶ月現在、呼吸障害は軽度であり、精神発達に大きな遅れはない。
    <考察>われわれは、典型的な臨床像を呈する鎖骨頭蓋異形成症の2例を経験し、それぞれにおいてCBFA1遺伝子変異を同定し診断を確定した。遺伝子診断により確定診断を行うことで、原則的に発達遅滞を伴わないことを含めた予後の見通しを説明することができた。症例2でみとめた上気道狭窄の合併は本症においては非常に稀であり、病態学的に興味深いものである。
    <謝辞>遺伝子解析をお願いした慶應義塾大学小児科助教授の小崎健次郎先生に、心より深謝申し上げます
  • 大榮 薫, 尾崎 隆男, 舟橋 恵二, 山田 祥之, 佐々 治紀, 伊藤 雄二, 森下 憲一, 加藤 幸男
    セッションID: 2G304
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言> 当院における耐性菌サーベイランスは、院内感染対策に問題となりうる薬剤耐性菌の感染発生動向を調査し、その対策を打ち立てることを目的としている。薬剤耐性菌の代表であるMRSA (Methicillin-resistant Staphylococcus aureus:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)以外にも、近年問題となっているESBL(Extended-spectrum β-lactamase)産生菌やMDRP(Multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa:多剤耐性緑膿菌)のサーベイランスを実践した。院内感染を防止させるための対策と実際の対応事例を紹介する。
    <方法>
     (1)院内感染対策上問題となりうる耐性菌検出後のフローチャートの作成。
     (2)耐性菌サーベイランスの実践。
     (3)感染症隔離予防策マニュアル(隔離予防策のためのCDCガイドライン準拠)の実践。
     (4)入院における平成17年10月から平成18年4月までの対応事例。
    <結果>
    (1)院内感染対策上問題となりうる耐性菌の定義を確認、また、発生からその対策までをフローチャートとしてまとめた。ポイントとしては、院内感染対策委員会(Infection Control Committee:ICC)に報告されることによる早期対策の実現にある。ほとんどの症例において、ESBL等の耐性菌検出報告から数時間で感染症状の把握、並びにより強力な抗菌薬療法の開始、または経過観察など治療方針が決定されていた。
    (2)耐性菌の検出において、通常はカルテに添付される細菌検査報告書を確認する必要がある。その場合、主治医が院内感染対策上問題となりうる耐性菌と判断するまでに時間を要する場合も少なくない。当院ではESBL、MDRPなどが検出された場合、主治医・ICC事務局・各病棟師長に細菌検査室より第一報が電話連絡される。ICC事務局の初動により、カルテ記載内容を確認し、その情報を基にICCの医師によるフォローアップを始める。主治医との協議、及び連携によって感染症状の有無の判断、また抗菌薬療法が適切であるか等方針決定されるが、治療に於いては、ICC作成の抗菌薬療法ガイドラインは十分に活用されていた。
    (3)前記のように主治医や病棟師長ばかりでなく、ICCより、感染症隔離予防策マニュアル(隔離予防策のためのCDCガイドライン準拠)の実践を関係スタッフに啓発した。
    (4)ESBLの報告件数は18件、そのうち感染症状が無しと判断されたケースは4件、検体提出日より適切な抗菌薬療法の実践は5件、より強力な抗菌薬療法を必要となったケースは9件であった。またMDRPの報告は4件あり、その全てはmetallo-β-lactamaseを産生しないと判断された。感染症状が無しと判断されたケースは1件、全ての抗生剤の中止による薬剤感受性の改善は2件、残る1件は原疾患および肺炎の悪化により約1月後に死亡したケースであった。
    <まとめ> ICCによる耐性菌サーベイランスで高度耐性菌が検出された際、その対策は全て当日の内に確立された。その治療に於いて、ICC作成の抗菌薬療法ガイドラインは十分に活用されていた。また、検出される菌の感受性パターンの相違から、高度耐性菌の院内伝播は発生していないと判断された。院内感染防止のため、さらなる対策を講じていく所存である。
  • 患者背景との関連要因を知る
    渡辺 絹江, 小林 百合, 加納 一二三, 渡辺 静代, 矢島 広美
    セッションID: 2G305
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>近年、院内感染が社会的に問題となっており、当院でも、感染対策委員会やリンクナースの発足によりスタッフ間の感染意識の高まりが見られている。その中で、患者は院内感染についてどのように感じているのか疑問に思った。当院では現在、全身麻酔下での手術前に、看護師が患者の鼻腔のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(以下MRSAという)検査を行っているが、その時のマニュアル等はなく、患者への説明は統一されていない。実際検査を行っていても、患者から院内感染について聞かれることはほとんど無い。そこで今回、手術前患者のMRSAに対する知識の有無を知り、知識の差が患者背景と関係しているのか調査し、今後の患者感染教育の手掛かりとすることができたのでここに報告する。
    <方法>
     研究期間:平成17年10月1日から平成17年12月31日。
     対象:全身麻酔下手術前の患者(緊急手術、意志疎通の困難な患者を除く)。
     調査方法:独自に作成したアンケート用紙方式。入院時に渡し、手術前に回収。
     調査内容:(1)性別、年齢。(2) MRSAという言葉を聞いたことの有無。(3) MRSAの意味を知っているか、知らないか。(4) 過去の手術目的入院の有無。(5) 自分、身内、知り合いの医療従事者の存在の有無。(6) 自分、身内、知り合いのMRSA罹患者の存在の有無。(7) MRSAの意味を知っている患者に対し、知っている項目に丸をつけてもらう。
     分析方法:調査内容(1)から(7)を記述統計。
     倫理的配慮について:無記名で記入してもらい、この研究以外では使用しないことに同意を得た患者にのみ協力を得た。
    <結果>対象患者30名(男性12名、女性18名)平均年齢58.3±14.4歳。MRSAを聞いたことのある患者の割合は40%、聞いたことのない患者は60%。MRSAの意味を知っている患者は26.7%、知らない患者は73.3%であった。男女とも、意味を知っている患者の割合は25%程度であり、性別に感染意識の差は見られなかった。過去に手術経験のある患者で、MRSAの意味を知っている患者の割合は57.1%、手術経験のない患者では17.4%であった。周りに医療従事者が存在すると答えた患者で、MRSAの意味を知っている患者は45.5%、医療従事者が存在しない患者では15.8%であった。身内にMRSAに罹患した人が存在した対象は1名であり、この項目では比較が行えなかった。年齢にも偏りがあり、比較が行えなかった。MRSAについて知っている項目(複数回答可)は、名称3、院内感染の原因8、感染しやすい人の特徴7、耐性を持つ1、感染経路3、予防法3であった。MRSAは、抵抗力の弱い入院患者にとっては難治化することが多く、入院の長期化を強いられることになる。入院してくる全患者家族にリスクを知ってもらい、自己防衛してもらうことで、院内感染の減少に繋がる。手術を行うA病棟においても重要なことであり、今後、術前のMRSA検査時には、患者の背景を把握し、手術が初めてという患者や、身内に医療従事者が存在しない患者には、特に統一した患者感染教育を行う必要がある。また、院内感染の原因となることは知っていても、予防法や、感染経路についての知識が低い傾向にあるため、指導していく必要がある。
  • 加藤 純, 伊藤 辰美, 工藤 昌子, 佐藤 義昭, 杉田 暁大, 朝倉 健一, 鈴木 隆
    セッションID: 2G306
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>呼吸器感染症とは軽症の鼻炎から肺炎まで含まれ、病原は細菌、ウイルスなどである。中でも冬季感染症のインフルエンザは毎年全国で大規模な多数の患者が発生し、その社会的影響は計り知れない。インフルエンザは咳嗽などの気道症状、突然の発熱で発症し、また流行期にはライノウイルス、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルス、パラインフルエンザウイルス、マイコプラズマ、肺炎球菌、インフルエンザ菌、溶連菌などインフルエンザウイルス以外の感染により同症状を呈する場合もあり、臨床症状だけでは診断困難と思われる。また小児や高齢者が感染症のターゲットとなりやすく常に危険にさらされている。近年、迅速検査診断法の飛躍的な発展により感染症診断はより容易になっていると思われる。今回我々は、当院における小児科呼吸器感染症に対して行っている迅速診断検査状況を報告する。
    <方法>対象は、当院で行っている小児科依頼のインフルエンザ、RSウイルス、A群溶連菌の迅速診断検査結果とし、期間は2005年25週から2006年13週までとした。迅速診断検査キットは、インフルエンザ:エスプラインインフルエンザA&B_-_N(富士レビオ)、RSウイルス:BD RSVエグザマン(日本BD)、A群溶連菌:スタットチェックストレップA(カイノス)を用いた。
    <結果>各迅速診断検査依頼数、陽性数(陽性率)、年齢別陽性率を示す。RSウイルス:依頼数248件、陽性数148件(59.7%)、年齢別陽性率1歳未満児42.6%、1歳児31.8%。A群溶連菌:依頼数340件、陽性数137件(40.3%)、年齢別陽性率5歳児21.2%、4歳児16.8%、6歳児15.3%。インフルエンザ:依頼数1047件、陽性数311件(29.7%)、年齢別陽性率1-3歳児29.3%、4-6歳児23.2%。またインフルエンザワクチン接種率は44.1%であった。
    <結語>小児呼吸器感染症時に迅速診断検査を行うことにより原因が特定もしくは絞られ、診断が容易になると思われる。引き続きこの集計を行い学会当日にはその詳細を報告する。
  • 大林 浩幸, 松下 次用, 古田 悟, 渡辺 常夫, 土屋 雅子, 原田 武典, 平井 房夫, 野坂 博行, 佐々木 明, 平石 孝
    セッションID: 2G307
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <はじめに>今回、インフルエンザワクチン予防接種とインフルエンザ発生状況を調査し、高齢者を中心に、実際に予防接種の効果があったか検討した。
    <方法>平成14年度、15年度、16年度の3年に渡り、当院にて(1)インフルエンザ予防接種を実施した全患者、(2)鼻腔スワブ法の迅速検査を実施した全患者、(3)インフルエンザと診断された全患者、の各々をレトロスペクティブに調査した。
    <結果>平成14年、15年、16年度と、年ごとに予防接種者数は増え、65歳以上がその70%以上を占めた。インフルエンザ発症患者の平均年齢は、平成14年度、15年度、16年度で各々42.9±21.3歳、34.9±20.4歳、45.4±20.2歳であり、高齢患者層と比較し、若・中年齢層のワクチン未接種者の発症を多く認めた。一方、高齢患者層では、ワクチン既接種にかかわらず発症した患者があった。
    <結語>ワクチン接種率の高い高年齢者層では、インフルエンザ発症が少なく、その予防効果を認めた。高齢患者において、ワクチン既接種にもかかわらず発症する例があり、注意すべきである。(なお、この発表は、日農医誌54巻5号756-761ページ掲載論文の内容である。)
  • 高橋 恵子, 野原 恭子, 野口 優子, 茂木 弘子, 妻木 良二, 和田  照美, 高野 雅光, 小林 一, 吉川 隆志
    セッションID: 2G308
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>インフルエンザの流行に対し、標準・飛沫感染防止策に加え、咳エチケットの徹底と職員のワクチン接種、発症時の勤務制限などの対応を行っている。今回、当院職員のインフルエンザワクチン接種と罹患状況について検討したので報告する。
    <方法>2005年12月16日から2006年3月31日の期間内で、各部署よりインフルエンザ迅速診断キットでインフルエンザ(A・B)と診断された職員を報告し集計した。
    <結果>職員全体のインフルエンザワクチンの接種率は66.8%で、昨年の60.6%に比較して6.2%高くなった。職員のインフルエンザ罹患率1.89%で、ワクチンの接種者が1.84%、ワクチンの未接種者が1.9%と罹患率に大差はなかった。期間中のインフルエンザ罹患職員は21人、罹患による年休取得総数は59日間、平均年休取得日数は2.8日であった。ワクチン接種を受けたが罹患した職員は15人、受けず罹患した職員は6人、平均年休数は共に2.8日で、重症化した職員はいなかった。ワクチンの接種率別に職員のインフルエンザ罹患率を見ると、接種率90%以上での職員罹患率は0.5%で、入院患者のインフルエンザ罹患患者はいなかった。接種率80%以上での職員罹患率は3.29%で、入院患者の罹患は5人、接種率70%以上での職員罹患率は0.63%で、入院患者の罹患は12人、接種率69%以下での職員罹患率は2.9%で、入院患者の罹患は15人であった。入院患者のインフルエンザ罹患者が10人だった病棟は、易感染状態の患者が多いが、職員のワクチン接種率は13.79%と低くかった。この病棟の場合は、ワクチン未接種の職員1名が罹患し、10名の患者が罹患した。感染経路は明確にならなかったが、職員のワクチン接種率の低い部署での入院患者の罹患者が多いというデータから推測すると、インフルエンザの感染リスクが高い状況だったと考える。また入院中のインフルエンザ罹患患者が9人だった病棟の職員ワクチン接種率は、70.37%と病院全体のワクチン接種率より高かった。しかし、入院患者の罹患者が多かったのは、この精神科病棟は隔離と開放の混合病棟であり、患者同士がフロアーを共有して生活する場面が多いことと、感染対策徹底の難しさが影響していることが考えられる。
    <結論>
    1.インフルエンザに罹患した職員の年休日数は、ワクチンの接種状況によって差はみられなかった。
    2.インフルエンザワクチンを接種することでの感染防止効果については、今回の検討では明確にならなかった。しかし、施設内のワクチン接種率を高めることは、集団免疫という視点から考えると、大きなアウトブレイクを抑止する効果を期待できると考えられており、今後とも調査を継続していきたい。
    3.易感染状態患者の多い病棟や精神科病棟のインフルエンザ予防対策では、病棟の特徴を十分考慮した対策が必要である。
  • 高野 三男, 戸井田 真弓, 内山 明子, 田中 千恵子, 馬場 浩介, 西村 博行
    セッションID: 2G309
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/06
    会議録・要旨集 フリー
    <緒言>
     インフルエンザ感染症は、高齢者が感染した場合急性呼吸器感染症を発生し肺炎などで重篤化することがあるきわめて予後が悪い疾患である。2005年7月にインフルエンザ感染する恐れのある高齢者や、ハイリスク疾患患者(慢性呼吸器・心疾患患者、腎機能障害患者、糖尿病患者等)、に対しオセルタミビル(以下本剤)の予防投与が認可された。高齢者は基礎代謝や免疫機能が低下しており感染の機会が高い。このため老人保健施設ではインフルエンザ感染には十分に気を付ける必要がある。今回、当院併設の介護老人保健施設(入居者100名)で13名のインフルエンザ感染患者(A型インフルエンザウイルス感染症)が認められ広範囲の伝播が予想されたため、本剤による予防投与を行なった。高齢者に対する本剤の予防投与の効果につき考察を行なった。
    <対象患者・経過>
     当院併設の介護老人保健施設は、1階は39床、2階は東西にフロアーが分かれ東棟認知症フロアー(以下東棟)には30床、西棟フロアー(以下西棟)には31床があり合計で100名の収容が可能な施設を備えている。初発患者は1階の患者であった。2月2日、認知症のため一旦は東棟へ転棟したが同日39℃の高熱を発症したため当院内科を受診し、A型インフルエンザ感染症と診断された。このため同患者を隔離し同時に本剤にて治療を行なった。患者が一旦転棟した東棟では3日後の2月5日、新たに2名の患者が同感染症と診断されたため本剤にて治療を行なった。2月6日、さらに東棟で10名の患者に発熱があり同感染症と診断されたため本剤にて治療を行なった。2月7日、このインフルエンザ感染が広範囲に伝播する恐れがあると判断されたため、予防を目的として本人もしくは家族の了解を得て東棟入居者全員に本剤1日1回1カプセル75mgを3日間投与し同時に西棟入居者全員に本剤を同用量で1日の投与を行なった。
    <結果・考察>
     本剤投与を始めた2月7日以降、東棟と西棟から新たな患者の発生は見られなかった。新たな感染の発症が見られないことで今回の予防投与がインフルエンザ感染の広がりと感染の防止に功を奏したと推定された。インフルエンザ非感染者に対しては適切な予防投与が感染の拡大を防止することになるため投与時期を逸しないことが重要なポイントとなる。拡大防止の要因としては、1)発症患者の把握と早めの治療 2)本剤の適切な予防投与 3)共同入居者の移動の制限と隔離 4)新たな入居者の受け入れ中止 5)職員による施設内感染防止に向けての努力等が考えられる。今回の予防投与はインフルエンザを発症している患者の共同生活者である高齢者(65歳以上)に行なったが特記すべき副作用は見られず比較的安全性が高いと思われた。また腎機能がCcr>30ml/minの高齢者では本剤の用量調整の必要は無いと言われるが、本剤の半減期が約7-9時間と比較的長く、腎排泄であることを考慮し高齢者の投与後の容態に注意を怠ってはならない。今回の予防投与に関して感染の広がりを考慮に入れ適切な投与時期を見過ごさず、投与対象者への投与量、間隔等に十分注意を払い経過を観察して行くことが重要であると思われた。
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