脳卒中の外科
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51 巻, 4 号
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総  説
  • 吉田 和道, 山本 優, 山田 清文, 大川 将和, 宮本 享
    2023 年 51 巻 4 号 p. 279-285
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    頚動脈狭窄症における脳梗塞発症リスクは,おもに血管造影による狭窄率や潰瘍形成など,内腔形態に基づいて評価されてきた.近年,超音波検査・CT・MRIなどを用いたvessel wall imaging(VWI)の進歩により,プラークの性状・体積・形態など,「壁の性質」が虚血イベント発症にきわめて大きな役割を果たすことが明らかとなっており,たとえば非狭窄性動脈硬化症の一部にも外科治療対象となり得る高リスク病変が存在する.

    狭窄率から動脈壁性状への診断法の進歩とともに,高血圧をはじめとする動脈硬化リスクに対する管理や生活習慣の改善も含めた多面的内科治療の普及と治療成績の向上に伴い,外科治療に対する慎重な適応判断が求められる現状において,不安定プラークを有する軽度狭窄・非狭窄性病変に対する治療戦略や,無症候性病変の一部に存在する高リスク病変の診断法確立などが新たな課題となっている.

    本総説では,VWIによる軽度狭窄や無症候性病変における高リスク病変の診断について,プラーク内出血・陽性リモデリング・放射線誘発性の動脈硬化を取り上げて解説する.

原  著
  • 丸谷 明子, 山田 與徳
    2023 年 51 巻 4 号 p. 286-291
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    内頚動脈狭窄症に対する血行再建術として,一般的にCEAやCASが行われる.CEAはCASとの比較試験において有効性が高いが,80歳以上の高齢者を含むCEA高リスク群におけるCASの非劣性がSAPPHIRE試験において示され,侵襲性の低いCASが選択されることが多い.当施設では高齢者を含めた内頚動脈狭窄症に対してCAS高リスク症例(高度石灰化,不安定プラーク,近位あるいは遠位屈曲,アクセス不能例)のうち,割合の多い不安定プラークに対しても積極的にCEAを行っている.当施設で経験したCEA症例を年代別に分けて,有効性ならびに安全性について治療成績と臨床的特徴を報告する.

    対象は2014年1月から2020年12月末までに当院で施行したCEA 38症例39病変(平均73.2歳,男性37症例,女性1症例,症候性26病変,無症候性13病変)である.69歳以下,70-79歳,80歳以上の年代別に分類し,基礎疾患,30日以内の周術期成績,術後DWI陽性率,入退院時のmodified Rankin Scale score(mRS)を評価した.

    69歳以下の若年発症群で糖尿病や高血圧の割合が高く,70-79歳と80歳以上の高齢者で心・腎機能障害の割合が高かった.発症から手術までの期間を7日以内の急性期,8-30日以内の亜急性期,31日以上の晩期で分類した.70-79歳,80歳以上の高齢者で高度な血行力学的不全による症候性の脳梗塞を発症し急性期に治療を受けた割合が多く,そのうち,急性期と亜急性期において退院時のmRSスコアが改善した.

    本研究から70歳以上の高齢者の内頚動脈狭窄症に対して30日以内の早期CEAを行うことで,退院時のmRSが改善した.高度な血行力学的不全状態の頚動脈狭窄症例では,たとえ70歳以上の高齢者であっても,CEAを含む早期の血行再建が有効なケースがあると考えられた.

  • 小林 広昌, 吉永 進太郎, 福本 博順, 榎本 年孝, 福田 健治, 森下 登史, 野中 将, 安部 洋, 岩朝 光利, 井上 亨
    2023 年 51 巻 4 号 p. 292-297
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    前大脳動脈近位部(A1)動脈瘤はまれな疾患で全脳動脈瘤の1-2%の頻度と報告され,多くは穿通枝分岐部に発生するため治療の難易度は高い.今回,当院で施行した10例のA1動脈瘤について後方視的に検討を行い,臨床的特徴とさまざまな形態による治療戦略に関して報告する.当院で治療を行った脳動脈瘤症例1,520例を対象とし,A1動脈瘤は10例(0.6%)であった.9例が未破裂,1例が破裂脳動脈瘤で,発生位置はA1上のdistal 6例,proximal 3例,middle 1例であった.発生部位はmedial LSA分岐部 3例,orbito-frontal artery分岐部 2例,accessory MCA分岐部 1例であった.治療はclipping 4例,coil塞栓 4例,wrapping 1例で,巨大血栓化動脈瘤に対してはSTA-STA-A3 bypass+trappingを行った.全例で穿通枝障害含め合併症はなかった.A1動脈瘤に対しては,穿通枝温存のためにも直視下でのclippingが理想的と考えるが,近年では血管内治療の報告も散見される.巨大血栓化動脈瘤に関しては瘤の根治性を高めるためにbypassを駆使した治療戦略も求められる.

症  例
  • 原田 雅史, 安藤 俊平, 羽賀 大輔, 周郷 延雄
    2023 年 51 巻 4 号 p. 298-301
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    動脈瘤の高さがわずか2.5mmの内頚動脈後交通動脈分岐部(internal carotid-posterior communicating artery:ICPC)動脈瘤により動眼神経麻痺を発症した動脈瘤切迫破裂の1例を経験したので報告する.症例は65歳,女性.1週間前に右動眼神経麻痺による眼瞼下垂および複視が出現した.脳血管撮影でblebを伴った右ICPC動脈瘤を認めた.動脈瘤の高さは2.5mmと小型瘤であったが,fast imaging employing steady state acquisition(FIESTA)で動眼神経に近接した位置で動脈瘤を確認できたことから,ICPC動脈瘤の切迫破裂による動眼神経麻痺と診断し,緊急手術を行った.小さな動脈瘤であっても,内頚動脈の走行によって動眼神経を圧迫する可能性は十分あるため,積極的な画像検査を行い,速やかに脳動脈瘤に対する治療を検討する必要がある.

  • 尾辻 亮介, 天野 敏之, 宮松 雄一郎, 原 健太, 德永 聡, 中溝 玲
    2023 年 51 巻 4 号 p. 302-306
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    脳動脈瘤に血栓化が生じることがあるが,親動脈まで血栓が進展し閉塞にいたることはまれである.右内頚動脈海綿静脈洞部大型動脈瘤で内頚動脈偽閉塞をきたした1例を経験した.

    症例は55歳女性.原発性アルドステロン症に対し通院治療中であった.無症候であったが,頭部MRIで右内頚動脈海綿静脈洞部に大型脳動脈瘤を指摘された.血管撮影,バルーン閉塞試験(BOT)を含めた精査を行った.初回の血管撮影では動脈瘤内に血栓はなかった.BOT後7日目に突然頭痛,嘔吐,右眼痛,右眼瞼下垂をきたした.画像検査の結果,動脈瘤の血栓化と右内頚動脈の血栓による血流遅延および右中大脳動脈領域の梗塞をきたしていた.本例は側副血行路が発達しており,梗塞は血栓による遠位塞栓と考えた.さらなる血栓化と順行性の血流による塞栓症増悪の危険があると評価した.BOTでは対側比で10%程度の脳血流低下の所見であり,浅側頭動脈-中大脳動脈(STA-M4)bypass併用下で頚部内頚動脈結紮術を施行する方針とした.術後,右眼痛,眼瞼下垂は消失し,神経脱落症状はなく,新規梗塞巣もなかった.

    大型脳動脈瘤による親血管の閉塞はまれであり,原因は不明である.その一因としてBOTによる一時的な内頚動脈遮断が血行動態に変化を生じ血栓形成に影響した可能性がある.

  • 桝田 宏輔, 橋本 憲一郎, 松浦 威一郎, 山内 利宏, 鈴木 浩二, 相川 光広, 古口 徳雄, 宮田 昭宏
    2023 年 51 巻 4 号 p. 307-311
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    解離性内頚動脈病変による脳梗塞の急性期治療では血管内治療はいまだ確立されておらず,バイパス術を行う症例も報告されている.行われるバイパス術の多くは低流量バイパスであるが,われわれは低流量バイパスでは流量が足りず高流量バイパスを追加した症例を経験したので報告する.

    症例は48歳男性.突然の右片麻痺,失語で発症し救急搬送された.左頚部内頚動脈急性閉塞症と診断し,緊急で血栓回収療法を行ったが再開通は得られなかった.同日,引き続き左頚部内頚動脈結紮術および左浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術(STA-MCA bypass)を施行した.術翌日のMRIで脳梗塞巣の拡大を認め,CT perfusionで左大脳半球に広範な虚血ペナンブラ領域を認めたため,左外頚動脈-橈骨動脈-中大脳動脈吻合術(ECA-RA-M2 bypass)を追加した.これにより脳梗塞の進行は収まった.

    内頚動脈閉塞に対する急性期治療で低流量バイパスではバイパス流量が不十分である症例を経験した.一般的に急性期治療で高流量バイパスの追加を行うことは躊躇しがちであるが,症例によっては高流量バイパスの追加を考慮しなければならない.

  • 桝田 宏輔, 清水 望由紀, 橋本 憲一郎, 松浦 威一郎, 山内 利宏, 鈴木 浩二, 相川 光広, 古口 徳雄, 宮田 昭宏
    2023 年 51 巻 4 号 p. 312-317
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    前大脳動脈(A3)への血行再建術では中大脳動脈への血行再建術よりグラフトが長く必要となり,皮切のデザインに工夫を要する.今回,両側浅側頭動脈前頭枝の直上を切開するbicoronal skin incisionを用いて両側前頭開頭および浅側頭動脈-前大脳動脈(A3)吻合術を行えたので報告する.

    症例は73歳女性で,右遠位前大脳動脈瘤および両側前大脳動脈高度狭窄症を認めた.クリッピング術および両側前大脳動脈への血行再建術〔A3-A3バイパス,左浅側頭動脈-前大脳動脈(A3)吻合術〕を施行した.術後顔面神経麻痺はみられなかった.

    Pitanguy’s lineより上方での皮切では顔面神経麻痺が起こる可能性は低く,両側浅側頭動脈前頭枝の直上を切開する bicoronal skin incision は両側前頭開頭および前大脳動脈(A3)への血行再建術を行う場合に有用な皮切である.

  • 光樂 泰信, 中條 敬人, 杉山 達也, 水谷 徹
    2023 年 51 巻 4 号 p. 318-323
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    われわれは,海綿静脈洞部巨大内頚動脈瘤に対してsaphenous vein graft(SVG)を用いたhigh-flow bypass(HFB)で治療後,graftが閉塞し,MCAとの吻合部が瘤化したため,clipでMCAからの血流を遮断した症例を経験したので報告する.

    症例は70歳,女性.両側海綿静脈洞部巨大内頚動脈瘤に対し,X年9月に左側のinternal carotid artery(IC)ligationおよびHFB〔external carotid artery(EC)-SVG-middle cerebral artery(MCA)〕を施行した.X+1年3月に右側のIC ligationおよびHFB(EC-SVG-MCA)を施行した.右側の手術から1年4カ月後のX+2年7月に右HFBの閉塞と,HFBとMCA吻合部の盲端残存を確認した.経過観察中にSVGの盲端部が緩徐に拡大・瘤化したため,同部をclipでMCAからの血流を遮断し,瘤化部分を切除した.瘤化したSVGの病理学的観察では,内膜と中膜は肥厚し,内腔が著しく狭窄していた.また外膜の線維性肥厚を認めた.SVG内膜が動脈硬化性変化をきたしていることが観察され,血管吻合時の機械的刺激や動脈圧に曝露されたことが原因と考えられた.

    今回,HFBに使用したSVGが閉塞し,MCAとの吻合部が瘤化した症例に対し,clipでMCAからの血流を遮断し,瘤化部分を切除した.SVG閉塞後,MCAとの吻合部が瘤化,拡大傾向を示すことがあるため注意が必要である.

  • 佐々木 康介, 佐藤 慎治, 石毛 良実, 五十嵐 晃平, 川並 香菜子, 小久保 安昭, 園田 順彦
    2023 年 51 巻 4 号 p. 324-329
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    ハイフローバイパス(high flow bypass:HFB)のグラフトとして橈骨動脈(radial artery graft:RAG)や大伏在静脈(great saphenous vein graft:SVG)を用いるが,今回,SVGを用いたHFB14年後に発見され,増大傾向のグラフト動脈瘤に対してRAGによるバイパス置換が有効であった症例を経験したので報告する.36歳時に右内頚動脈C2部解離性動脈瘤破裂によるくも膜下出血を発症し,前医でSVGを用いたHFBおよびtrappingを施行され,49歳時に前医CTAでSVGの囊状動脈瘤(SVG aneurysm:SVGA)を指摘され,増大傾向を認めたため紹介となった.DSAで右内頚動脈は眼動脈で終止し,SVGの近位端は右外頚動脈分岐直後で端々吻合,頬骨上ルートを通り,遠位端は右中大脳動脈M2後枝と端側吻合され,右中大脳動脈は良好に描出された.SVGは頭蓋内で鋭角に屈曲し,屈曲部に最大径12.3mmのSVGAを認めた.SVGAは経時的に増大し,手術適応と判断した.手術はRAGを用いて右頚部内頚動脈と右中大脳動脈M2前枝の間で頬骨下ルートを用いて新たなHFBを作成し,SVGを頭蓋内と頚部でトラッピングしバイパス置換を行った.術後,SVGAは血栓化し,術後第20病日でmRS 0で自宅退院した.HFB後のSVGAの治療としてRAGを用いたバイパス置換は有効な方法の1つと考えられる.

  • 松島 佑二郎, 小川 博司, 元持 雅男, 佐藤 正夫, 長嶋 和郎, 木下 学
    2023 年 51 巻 4 号 p. 330-334
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    感染性脳動脈瘤は感染性心内膜炎の合併症の1つとして知られているが,複数種類の菌体が関与していることが明らかとなった感染性脳動脈瘤破裂はまれである.報告症例は75歳の男性で,9年前に未破裂右中大脳動脈に対する根治的頚部クリッピング術を行われていた.感染性心内膜炎によるseptic embolismの診断のもと,大動脈弁置換術を行った1週間後に意識障害および右共同偏視と左片麻痺をきたし,頭部CTで右側頭葉,頭頂葉から脳室内にわたる脳出血を発症した.頭部CT血管造影検査で過去にクリッピング術が施行されている右中大脳動脈M1-M2分岐部の近傍に直径7mm大の囊状動脈瘤の形成を認めた.緊急開頭血腫除去および頚部クリッピングを施行し,術中所見で動脈瘤に凝血塊を認める破裂瘤であった.切除した動脈瘤の中膜は解離しており,解離腔内にCryptococcus,瘤壁の内膜から中膜にAspergillusを認め,脳実質にGram positive cocciのコロニー形成を認めた.感染性脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の診断となったが,責任病原体の同定について示唆に富む症例だと考え,文献的考察を加えて報告する.

  • 千葉 貴之, 久保 慶高, 佐藤 慎平, 村上 寿孝, 赤松 洋祐, 千田 光平, 幸治 孝裕, 吉田 研二, 小笠原 邦昭
    2023 年 51 巻 4 号 p. 335-338
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    脳に埋没しているM3遠位部の非囊状動脈瘤に血行再建術を行う場合,レシピエントとなるM4は終末枝となっているために正確に確保しなければならない.しかし,瘤が視認できないためにレシピエントM4の同定は難しい.本稿ではindocyanine green(ICG)蛍光血管撮影を応用させたflash fluorescence法を用いて,レシピエントM4を正確に同定する方法を述べる.flash fluorescence法はICGによる血管造影の経時的変化を顕微鏡下でリアルタイムに観察して脳動脈瘤クリッピングやSTA-MCAバイパスにおけるレシピエントの決定に有用な方法である.先に術前の脳血管撮影を正確に読影して親動脈M3を同定しておく.シルビウス裂を広く開放することにより,術前の脳血管撮影と術中所見を比較しやすくさせる.親動脈であるM3にテンポラリークリップをかけて,ICGを静注して脳表を観察すると造影されないM4を認めるが,この状態でM3のテンポラリークリップを外すとM4が遅れて造影されるため,これをレシピエントM4と同定し,STA-M4バイパスを行う.

  • 下川 友侑, 近藤 礼, 佐竹 洸亮, 中村 和貴, 山木 哲, 久下 淳史, 齋藤 伸二郎, 園田 順彦
    2023 年 51 巻 4 号 p. 339-342
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    シルビウス裂血腫を伴う破裂脳動脈瘤症例において,クリッピングおよび血腫除去術に加え減圧開頭術を併用することの有用性が報告されているが,術後どの程度脳腫脹が生じるか個々の症例で異なること,減圧開頭術を行った場合にはsinking flap syndrome(SFS)をきたす可能性やあらためて頭蓋形成術を要することが問題になることから,減圧開頭術を併用するか否か,術中ジレンマを抱える場合がある.そこでわれわれは,閉創時に,減圧を図りながら一期的な頭蓋骨形成が行えるよう,自家骨弁の内板を切削し菲薄化させて戻す工夫を行った症例を報告する.

    症例:58歳,女性.左中大脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血例で,左シルビウス裂血腫を伴っており,直達手術での根治術を行った.開頭は大きめの左前頭側頭開頭を行い,可及的な血腫除去と動脈瘤柄部クリッピング術を施行.閉創の際に硬膜はpericranial flapを用いて形成し,自家骨を半分の厚みになるまで内板をドリルで切削し,チタンプレートを用いて固定した.術後,脳浮腫をきたしたが,できた空間に脳が張り出したため正中構造偏移はきたさなかった.術後42日で独歩退院した.

    本手法は通常の減圧開頭術にとって代わるものではない.しかし,軽度の脳腫脹の場合には,術後のSFSや新たな手術侵襲を考慮することなく,頭蓋内圧亢進の防止および脳循環動態を保つことに寄与するものと思われた.

手術手技
  • 横田 陽史, 花岡 吉亀, 堀内 哲吉
    2023 年 51 巻 4 号 p. 343-349
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula:DAVF)に対する液体塞栓物質を使用した根治的な経動脈的塞栓術(transarterial embolization:TAE)は,頭皮壊死を惹起する可能性があり,特に開頭術既往症例には注意が必要である.今回,開頭術後再発性上矢状静脈洞部(superior sagittal sinus:SSS)DAVFに対して,リン酸カルシウム骨ペーストを用いた頭蓋外流入血管遮断法(shield technique)が有用と思われた症例を経験したので報告する.

    症例は71歳,男性.68歳時に全身痙攣発作を発症.精査にてSSS DVAF(Cognard type IIB)および左頭頂葉脳軟膜動静脈瘻(pial AVF)と診断.流入血管である両側中硬膜動脈に対してTAE施行,さらに正中を越えたU字型皮膚切開を置いて左頭頂開頭を行い,SSS DAVFおよびpial AVFに対して可及的にシャント離断術を施行した.術後,てんかん発作なく経過した.70歳時,歩行障害が出現.SSS DAVFによるシャント血流の増悪あり,静脈還流障害を呈していた.前回皮膚切開を使用したH字型皮膚切開にて両側頭頂開頭を行い,硬膜動脈を焼灼した.術後症状は軽快したが,71歳時に歩行障害が再度出現.開頭部骨縁を介して発達した頭蓋外流入血管を主体としたシャント血流の再増悪あり.前回治療による皮膚切開を考慮して,shield techniqueによる頭蓋外流入血管のシャント血流の外科的遮断を行った.前回のH字型皮膚切開を使用して両側頭頂骨を広く露出,骨皮質を5mm程度ドリリングし,頭蓋外流入血管からの将来生じ得るシャント血流を“shield”するために骨ペーストを塗布した.術後,症状は改善した.術後経過は創治癒を含め良好であった.術後シャント血流は著明に減少した.術2年6カ月後,症状再燃なく経過良好である.

    本法は,開頭術後再発性DAVFに対して有用な治療オプションとなり得る.

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