脳卒中の外科
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50 巻, 3 号
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原  著
  • 毛利 正直, 山野 潤, 筒井 泰史
    2022 年 50 巻 3 号 p. 163-169
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/10
    ジャーナル フリー

    破裂で発症した後下小脳動脈末梢部動脈瘤(distal posterior inferior cerebellar artery aneurysm:distal PICA aneurysm)はまれであり,臨床的特徴や治療方法に関して不明な部分も多い.今回われわれは治療方法として脳動脈瘤クリッピングや瘤内コイル塞栓術でPICAを温存する,またはトラッピング術にはバイパスを併用してPICAを温存する方針とした.当院で急性期に治療を行った破裂distal PICA aneurysmの6例を対象とした.男性1例,女性5例で,動脈瘤の形状は,saccular 5例,fusiform 1例,動脈瘤の部位は,anterior medullary segment 1例,lateral medullary segment 1例,tonsillomedullary segment 2例,telovelotonsillar segment 2例であった.治療方法は,脳動脈瘤クリッピング術2例,瘤内コイル塞栓術 2例,後頭動脈-PICA 吻合併用脳動脈瘤トラッピング術 1例,PICA 端端吻合併用動脈瘤切除術 1例であった.退院時の転帰は,good outcome 5例,death 1例であった.フォロー期間中に再開通をきたした症例はなかった.破裂で発症したdistal PICA aneurysmに対してPICAを温存するデザインで治療を行い,発症時の重症度分類が良好であれば転帰も良好であった.

  • 中瀬 健太, 明田 秀太, 新 靖史, 井上 美里, 鄭 倫成, 岸 昌宏, 古田 隆徳, 宮座 静香, 佐々木 弘光, 高 由美, 宮前 ...
    2022 年 50 巻 3 号 p. 170-176
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/10
    ジャーナル フリー

    Spontaneous cervical internal carotid arterial dissection (SCICAD) is a common cause of ischemic stroke in younger patients (age <50 years). However, the underlying mechanism and pathophysiology are not fully understood, and a standard criterion for the treatment has not been established; therefore, we reviewed seven cases of SCICAD treated between 2013 and 2018 to determine the appropriate treatment. Headaches, orbital pain, or neck pain occurred in six cases. Six patients with SCICAD had an acceptable clinical course with medical therapy alone. Carotid artery stenting (CAS) was performed for three lesions in three patients. One patient was treated with CAS and superficial temporal artery-middle cerebral artery (STA-MCA) bypass. Another patient was treated with CAS with endovascular mechanical thrombectomy. A favorable functional outcome was observed in all cases, and antithrombotic therapy with an anticoagulant or antiplatelet drug was essential. Most patients are successfully treated with low recurrence rates; however, endovascular treatment is a viable option for drug-resistant cases.

  • 菅原 貴志, 藤井 照子, 田中 洋次, 前原 健寿
    2022 年 50 巻 3 号 p. 177-184
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/10
    ジャーナル フリー

    中大脳動脈瘤(middle cerebral artery aneurysm:MCAN)では,combination clip techniquesによるclosure lineでの閉鎖が有用であり理想的だが困難なことがある.MCAN clippingの戦略,方法を提示し,クリップの種類・方法選択の現状を報告する.

    筆頭著者が行ったMCAN連続31病変に関し,年齢,性別,破裂/未破裂,最大径,合併症を調査した.手術記録,ビデオを後方視的に確認し,術中破裂の有無,クリップの数,クリップの形状,closure line閉鎖の有無を調査し,年齢,性別,破裂/未破裂,動脈瘤最大径との関係も検討した.

    平均63.5(34-80)歳,男性5例(16.1%),破裂3例(9.7%),平均最大径5.1mm(2-10.2),術中破裂0例(0%)であった.2例(6.5%)で慢性硬膜下血腫を認めた.クリップ数は1本 13例(41.9%),2本 17例(54.8%),3本 1例(3.2%)で,24例(77.4%)でclosure lineの閉鎖が行えた.

    クリップ 2本以上使用例は1本使用例と比べて(5.2 vs 4.3mm,p=0.037),窓付クリップ使用例は未使用例と比べて(6.6 vs 4.8mm,p=0.034),それぞれ動脈瘤の最大径が有意に大きかった.closure lineで閉鎖の可否に年齢,性別,破裂/未破裂,動脈瘤の最大径にそれぞれ有意差はなかった.closure lineで閉鎖できなかった理由は,動脈硬化 2例,M2のkink 2例,クリップ挿入方向に制限 2例,小さな動脈瘤 1例であった.

    MCANのclippingでは大きな動脈瘤で複数のクリップと窓付クリップを使用し,closure lineでの閉鎖の可否に動脈瘤サイズは関与せず,77.4%でclosure lineでの閉鎖ができていた.動脈硬化やクリップ挿入方向の制限などでclosure lineの閉鎖困難であったが,症例数が少なく,さらなる症例の蓄積による検討が必要である.

  • 伊藤 嘉朗, 佐藤 允之, 松丸 祐司, 丸島 愛樹, 南本 新也, 日野 天佑, 早川 幹人, 石川 栄一, 松村 明
    2022 年 50 巻 3 号 p. 185-192
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/10
    ジャーナル フリー

    Recent developments in cerebral angiography equipment and workstations have made it possible to produce clear angiograms and useful images for neurosurgery. At our institution, we routinely perform cerebral aneurysm clipping after presurgical simulation using imaging data obtained using three-dimensional cerebral angiography. This report describes the clinical significance of three-dimensional cerebral angiography in cerebral aneurysm clipping.

    Materials and Methods: Three-dimensional rotational angiography (3D-RA) and three-dimensional rotational venography (3D-RV) were performed on cerebral angiography, and the resulting imaging data were processed on a workstation. Depending on the requirements of each case, we created 3D-RA, 3D-RV, slab maximum intensity projection, and fusion images for presurgical simulation, followed by cerebral aneurysm clipping.

    Results: Thirty patients underwent cerebral unruptured aneurysm clipping using this technique. Clipping was completed in all cases. The treatment complications were symptomatic cerebral infarction in one (3%) patient and deterioration in modified Rankin Scale score (≥2) at discharge compared to the preoperative scores in two (7%) patients. No cerebral contusions were observed.

    Conclusion: Cerebral angiography images were processed using a workstation for presurgical simulation. We were able to recognize the perforators and microvessels surrounding the aneurysm, cortical vein structure, and positioning of the existing coils in detail. This technique is useful for the presurgical simulation of cerebral aneurysm clipping.

  • 芝 真人, 石田 藤麿, 種村 浩, 当麻 直樹, 三浦 洋一, 安田 竜太, 中野 芙美, 鈴木 秀謙
    2022 年 50 巻 3 号 p. 193-199
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/10
    ジャーナル フリー

    中大脳動脈瘤は側頭葉などに埋没することが多く,十分な剝離操作をしないままtentative clippingを行うと,blindになり遮断不十分になりやすいばかりか,術中破裂をきたす可能性がある.今回われわれは,全周性の剝離操作を行ってtentative clippingを回避する戦略で臨んできた中大脳動脈瘤のクリッピング手術について報告する.当科および関連施設において2013年から2019年にクリッピングが行われた中大脳動脈瘤 42例を対象とした.全周性の剝離操作は必要のないtentative clippingを回避するのに有用であった.本稿では,temporary clippingを適切に使用し,血管,脳および血腫などの動脈瘤周囲の構造物と動脈瘤を剝離する操作の手技上の工夫について報告する.

  • 竹島 裕貴, 山城 重雄, 高島 諒, 鈴木 悠平, 萩田 大地, 竹﨑 達也, 賀耒 泰之, 牟田 大助, 加治 正知, 西 徹, 武笠 ...
    2022 年 50 巻 3 号 p. 200-204
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/10
    ジャーナル フリー

    内視鏡下脳内血腫除去術は,低侵襲かつ安全な治療方法として確立されつつある.当院では,2016年7月より脳内血腫に対する内視鏡下血腫除去術を日本神経内視鏡学会技術認定医指導のもと取り入れている.2016年7月から2018年9月までに当院で脳内血腫に対して内視鏡下血腫除去術を施行した連続 34例(被殻出血:17例,皮質下出血:14例,小脳出血:3例)を後方視的に検討した.当院では3群とも血腫量の多い症例が多く,主に救命目的で手術を施行していた.血腫除去率は3群とも中央値90%以上と良好であったが,被殻出血において血腫除去率が70%以下の症例が4例と,他の2群と比較して症例ごとの血腫除去率にばらつきを認めた.手術に関連した出血性合併症(術中止血困難:2例,術後出血:1例)はいずれも被殻出血例にみられた.今後の治療成績向上のためには,内視鏡手術に精通した経験豊富な術者のもとで安全・確実な手技を身につけ,止血手技を含めた手技習熟度を高めていく必要がある.

  • 梶原 壮翔, 河野 隆幸, 青木 孝親, 折戸 公彦, 牧園 剛大, 藤森 香奈, 大久保 卓, 菊池 仁, 古田 啓一郎, 廣畑 優, 森 ...
    2022 年 50 巻 3 号 p. 205-211
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/10
    ジャーナル フリー

    脳動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)摘出後に出血や脳浮腫を起こす現象として,normal perfusion pressure break-through(NPPB)やocclusive hyperemia(OH)という概念が報告されている.しかし,これらの発症の機序については不明な点が多く,必ずしもSpetzler-Martin gradeとは一致しない1).AVM摘出時の術中脳血管撮影検査(intraoperative angiography:IOA)やSPECTの所見の変化とNPPBやOH発症のリスクについて検討する.

    2016年12月から2018年10月までに脳血流検査(123 I-IMP SPECT)およびIOAを併用しAVM摘出術を行った11例を対象にした.未破裂 6例,破裂 5例で,nidusのサイズは平均20.8mm,drainerの数は平均1.9本であった.手術ではIOAを併用し完全摘出を確認し,術翌日のSPECTでNPPBやOHが疑われる場合は厳重な血圧管理を施行した.

    SPECTで有意な所見を示したのは未破裂 3例,破裂 1例であった.これらの症例では摘出直後のIOAで盲端となったfeederに造影剤の停滞を認め,wash outまでに時間を要していた.術後厳重な血圧管理を行うことで,NPPBやOHが疑われる症例においても出血合併症は認めず,術前のmRSと比較し増悪した症例はなかった.

    IOAでfeederに造影剤が停滞する所見はNPPBやOH発生のリスク評価に非常に有用であり,術後管理に役立ち,術後合併症を減らすことができると考える.

症  例
  • 西井 智哉, 宇田 憲司, 玉利 洋介, 泉 孝嗣, 林 重正
    2022 年 50 巻 3 号 p. 212-217
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/10
    ジャーナル フリー

    症例は66歳の男性で,WFNS分類grade IIのくも膜下出血を発症した.頭部CTAより,後大脳動脈P1部からの分枝であるlong circumflex branchに3mm大の動脈瘤を認め,血腫の分布から出血源と診断した.さらに,本血管は,合併するテント部硬膜動静脈瘻のmain feederであると考えられた.出血源とシャント部が同時に治療できれば望ましいが,脳動脈瘤がwide neckであり,血管内治療では母血管の温存が困難となり得る可能性,さらに二期的にテント部硬膜動静脈瘻を治療する際の重要なapproach routeであることを勘案し,まず開頭クリッピング術による破裂脳動脈瘤のみ治療を行い,その後二期的にテント部硬膜動静脈瘻の治療を行う方針とした.trans-sylvian approachで問題なくネッククリッピングが達成でき,テント部硬膜動静脈瘻に対しては後日血管内治療が行われた.頻度がまれな位置に生じた破裂脳動脈瘤に対し合併症なく良好な経過が得られた本症例は,以後同様のケースにおける治療方針決定の一助を担うと考え報告する.

手術手技
  • 岡本 右滋, 大久保 卓, 中嶋 大介, 岡田 洋介, 駒谷 英基, 宮城 尚久, 森岡 基浩, 梶原 収功
    2022 年 50 巻 3 号 p. 218-221
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/10
    ジャーナル フリー

    傍前床突起部動脈瘤は現在血管内治療が第一選択である.しかしながら,クリッピング手術が必要となる症例もまれながら存在するため,その手技や経験は伝えていくべきものであると考えられる.こういった観点から,われわれが過去に同部位動脈瘤に対し反対側からクリッピングを行った3例について報告する.本法は前床突起を削除する必要がなく,上下垂体動脈の同定操作も容易であり全例通常のクリップで可能であり,術後視力視野障害の合併はなかった.本法は親血管の中枢側の確保に問題があるためその適応は非常にかぎられてはいるものの,比較的小さな傍前床突起部上下垂体動脈瘤に対して視障害回避のために有用であると考えられた.

  • 杉山 達也, 水谷 徹, 鷲見 賢司, 中條 敬人, 佐藤 洋輔, 松本 政輝, 新井 晋太郎, 廣瀬 瑛介, 清水 克悦
    2022 年 50 巻 3 号 p. 222-225
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/10
    ジャーナル フリー

    superficial temporal artery-middle cerebral artery(STA-MCA)バイパス術は,脳虚血や治療困難な脳動脈瘤,もやもや病などに対する手技として,脳卒中の外科医に必要な手技である.バイパス術の練習方法や手技についての報告はあるが,本稿で主張している縫合部の内膜確認方法や縫合の手技が述べられた文献は渉猟し得なかった.われわれは2012年5月から2018年4月までに112症例(207吻合)にバイパス術を経験し,開存率98.1%と良好な結果を得た.鑷子や運針にて内膜を確認するintimal checkとneedle tail check,また,縫合方法を工夫したintimal fittingを行うことにより,確実な血管吻合ができたと考える.

  • 杉本 正, 下間 惇子, 八重垣 貴英, 宮前 誠亮, 堀内 薫, 森 康輔, 玉置 亮, 横田 浩, 飯田 淳一
    2022 年 50 巻 3 号 p. 226-230
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/08/10
    ジャーナル フリー

    sylvian fissureの十分な剝離は,未破裂脳動脈瘤を安全かつ確実にclipするために必要不可欠である.われわれは,特に吸引管による脳のretractionを意識しながらsylvian fissureの剝離を行っており,その方法を報告する.吸引管を脳のretractorとして使用する際にretractionする吸引管の強さ(tension)と方向(direction),つまりベクトル(vector)を意識することが重要である.吸引管を用いて脳を適切な強さ(tension)と方向(direction)〔適切なベクトル(vector)〕で圧排することにより,くも膜や微細な血管の視認性が高まりくも膜の切離を容易にすると同時に,脳圧排による挫傷や血管損傷を最小限にすることができる.sylvian fissureの十分な剝離は広い術野をつくり出し,結果的にclipping操作も行いやすくなると考える.

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