脳卒中の外科
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51 巻, 5 号
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総  説
  • 小笠原 邦昭
    2023 年 51 巻 5 号 p. 381-389
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    われわれは虚血発症成人もやもや病に関する4つの自験前向きコホートを構築し,その転帰につき以下の結果を得た.「貧困灌流のない虚血発症成人もやもや病」においては,初期治療はシロスタゾールを含む内科治療が第一選択で,再発してから手術を考慮することで十分である.一方,上記のように内科治療を行った場合,2.4%/年で狭窄性病変の病期が進行し,その半数が脳血流低下による貧困灌流をきたし,脳虚血症状を再発する.また3.2%/年で新たにmicrobleedsが出現し,その出現は神経組織を損傷し,脳循環低下,認知機能低下をもたらす.この新たなmicrobleedsの出現にはクロピドグレル服用が関与している.「貧困灌流をもつ虚血発症成人もやもや病に対し直接血行再建術」を施行すると,認知機能の悪化を1/3の症例できたし,この悪化は不可逆的である.また,術後過灌流は術後microbleedsの出現に関与し,術後microbleedsの出現は術後不可逆的認知機能悪化に関与し,最終的に脳萎縮がもたらされる.「貧困灌流をもつ虚血発症成人もやもや病に対する間接血行再建術単独」を施行すると,十分に側副血行路が発達し,脳循環も改善し,認知機能を悪化させず,むしろ直接血行再建術より認知機能を改善させる.また,periventricular anastomosisが間接血行再建術単独であっても,術後に退縮する.「貧困灌流をもつ虚血発症成人もやもや病に対する薬物療法治療単独」を施行すると,最終発作1年以内にmajor strokeをきたす.

原  著
  • 虎澤 誠英, 佐藤 大介, 小川 正太郎, 堂福 翔吾, 佐藤 允之, 太田 貴裕
    2023 年 51 巻 5 号 p. 390-396
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    当院では頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)において,内頚動脈(internal carotid artery:ICA)の遠位を剝離・確保するための手技として「顎二腹筋後腹早期同定法」の有用性を提唱している.顎二腹筋後腹を早期に同定し,その周囲のスペースを広く利用する本法では,ICAの遠位を展開していく際に特に損傷しやすい顔面神経下顎縁枝と舌下神経の損傷を回避し,また高位病変でも対応可能な,ICA遠位の広いworking spaceを確保するのに有用と考えている.当院で本法にて施行したCEA連続191例の検討から,顔面神経下顎縁枝と舌下神経の障害出現率はともに0.5%と,文献的報告と比較して低く抑えられていた.また,高位病変であっても術後30日以内の同側脳梗塞の出現率を上げることなく対応可能であったことが示された.本法は上記神経障害を回避しつつICA遠位までの安全かつ迅速な展開操作を習得するのに有用な手法となり得ると考えている.

  • 前田 拓真, 大井川 秀聡, 小野寺 康暉, 佐藤 大樹, 鈴木 海馬, 栗田 浩樹
    2023 年 51 巻 5 号 p. 397-404
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    神経外視鏡手術が脳神経外科臨床にも導入され,その有用性が報告されている.当科では2021年から脳血管外科手術を神経外視鏡化するプロジェクトに取り組み,2022年は大部分の手術を神経外視鏡下で行っている.今回,顕微鏡手術からの移行期における脳動脈瘤手術の治療成績を検討した.

    対象は2021年1月から2022年8月までに当院で開頭手術を行った未破裂脳動脈瘤連続134例のうち,開頭クリッピング術を行った132例とした.神経外視鏡と顕微鏡の両群間で患者背景,セットアップ時間,手術時間,周術期合併症の有無,退院時予後について後方視的に検討を行った.

    神経外視鏡は75例(55.1%)で選択された.両群間で年齢・性別などの患者背景に有意差を認めなかった.両群で専攻医の執刀率が最も高く(65.3% vs. 59.0%),セットアップ時間(63分 vs. 62分),手術時間(295分 vs. 304分),周術期合併症(5.3% vs. 3.3%),退院時予後良好(97.3% vs. 95.1%)は両群間で有意差を認めなかった.

    アンケート調査では,画質(78.9%),明るさ(84.2%),操作性(73.7%),教育(57.9%)などにおいて,神経外視鏡がより高い評価を得た.一方で,助手の操作性については課題も明らかとなった.

    神経外視鏡は高画質,デジタルズームによる従来以上の強拡大,head-up surgeryによる疲労軽減,接眼レンズをもたない小型なカメラで視軸の自由度が大きいなどのメリットを有する.神経外視鏡は開頭クリッピング術においても有用であり,trainer,traineeの経験がともに少ない初期経験においても,許容可能な治療成績であった.

  • 中野 響子, 三浦 洋一, 石田 藤麿, 南部 友昭, 福田 剛史, 南 紀夫, 市川 尚己, 古川 和博, 荒木 朋浩, 鈴木 秀謙
    2023 年 51 巻 5 号 p. 405-410
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    未破裂脳動脈瘤の壁性状が術前に予測できれば,治療の必要性の検討ならびに開頭クリッピング術や脳動脈瘤コイル塞栓術をより安全に行うための有用な情報となる.しかし,現在の神経画像技術から脳動脈瘤の壁性状を予測することは困難である.そこで,数値流体力学(computational fluid dynamics: CFD)による血行力学的パラメータと壁性状の関連を比較し,未破裂脳動脈瘤の壁性状が予測可能か検討した.

    開頭クリッピング術を行った未破裂脳動脈瘤のうち,術前3D-CTAが施行された連続41例45動脈瘤を対象として患者固有形状モデルを作成し,Hemoscope(EBM, Tokyo, Japan)による定常解析を行い,剪断応力(wall shear stress: WSS)を評価し壁性状との関連を検討した.

    Normalized WSS(NWSS)が低くWSSベクトルが衝突する部分では,18カ所中15カ所(83.3%)で白く厚い瘤壁であった.一方NWSSが高い部位では,36カ所中26カ所(72.2%)で赤く薄い瘤壁であった.

    CFD定常解析により,未破裂脳動脈瘤の壁性状を予測できる可能性が示唆された.

症  例
  • 西村 裕之, 野島 祐司, 細田 英樹, 帆足 裕
    2023 年 51 巻 5 号 p. 411-416
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    内頚動脈終末部C1部の形成不全はきわめてまれである.今回われわれは,遺残原始血管網(twig-like networks:T-Ns)の脆弱性が動脈瘤の発生,破裂と,その後の増大につながったと考えられるC1形成不全の1例を経験したので報告する.

    症例は66歳,男性,くも膜下出血,脳内出血と第3脳室閉塞による急性水頭症で発症した.脳血管撮影では,右内頚動脈は後交通動脈を分岐直後に2本の破格側副血管に分かれ,後交通動脈からの異常な分枝とともに中大脳動脈領域を灌流するT-Nsを形成し,脳動脈瘤はその内部に発生していた.術中所見では右C1は低形成で,右A1,M1近位部は存在したが側副血管を分枝後索状構造となり閉塞していた.動脈瘤はT-Nsに埋没し同定が困難であったが,術中脳血管撮影併用下でネッククリッピングを施行した.

  • 卯津羅 泰徳, 南都 昌孝, 宮本 淳一
    2023 年 51 巻 5 号 p. 417-422
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    LVIS Jr.を用いたoverlap stentingで治療した後下小脳動脈(PICA)に限局した解離性脳動脈瘤破裂の1例を報告する.

    症例は74歳の女性で,意識障害で発症し,当院へ救急搬送された.来院時WFNS grade IV,頭部CTでのくも膜下出血を認め,DSAで左後下小脳動脈のlateral medullary segmentに限局した動脈解離を認めた.紡錘形の解離性動脈瘤であり,解離部の血管径は3.0mmであった.大きさが小さくコイル塞栓による治療は困難と考えられ,母血管閉塞では脳幹部梗塞の回避が困難と判断した.そこで整流効果を期待してLVIS Jr.を2本用いたoverlap stentingを施行した.術後,一過性に嗄声を認めたが最終的にmRS:0で自宅へ退院した.術後のMRI画像では明らかな梗塞病変を認めなかった.術後28日目のDSAで動脈瘤の消失を確認し,術後3カ月時点でも再発を認めていない.

    後下小脳動脈に限局した解離性動脈瘤は頭蓋内動脈瘤の0.5-2.2%とまれである.再破裂率は高く,deconstructive治療による合併症も珍しくない.近年は血管内治療の進歩により合併症が少ないとの報告もあるが,本症例では母血管径の細い紡錘形であったため,これまでの治療法では困難と考えられた.内頚動脈などでoverlap stentingによる整流効果を利用した治療法が報告されており,今回われわれはLVIS Jr.を用いたoverlap stentingを行った.短中期的には良好な結果を得ることができた.われわれが渉猟し得た範囲では,LVIS Jr.を用いたoverlap stentingによりPICAに限局した解離性脳動脈瘤を治療した症例の報告はない.

    大きさの小さい紡錘形の,PICAに限局した解離性脳動脈瘤破裂に対し,overlap stentingは治療方法の選択肢の1つになり得る.

  • 大道 如毅, 松崎 丞, 山本 直樹, 山縣 徹, 水戸 勇貴, 岩田 亮一, 生野 弘道, 西川 節
    2023 年 51 巻 5 号 p. 423-428
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    椎骨動脈(vertebral artery:VA)損傷は頚椎後方固定術の合併症の1つであるが,術後遠隔期に発症することはまれである.術後1年4カ月で小脳梗塞を発症した症例を経験したので報告する.

    症例は64歳,男性,2020年3月他院で頚椎後方固定術が施行されていた.2021年7月,自宅で動けなくなっているところを発見され救急搬送となった.意識JCS3,左共同偏視,重度の構音障害と右顔面神経麻痺,右上下肢失調を認め,頭部CT,MRIで右小脳半球と虫部の広範囲脳梗塞がみられた.また,CT血管造影でスクリューが第2頚椎の右横突孔に迷入しているのが確認され,同部位を走行するVAを損傷している可能性が考えられた.第4病日に脳血管造影検査でVA狭窄を認め,脳梗塞再発予防を目的としてVAの母血管閉塞術を施行した.術後経過は良好でmRS 2で自宅退院となった.

    頚椎後方固定術に起因するVA損傷は遠隔期にも起こり得ることに留意すべきである.脳梗塞の再発予防治療として,現時点では確立された方法はないが,母血管閉塞術は有用かつ安全であると考える.

  • 山田 理, 大友 朋子, 森田 修平, 山川 功太, 赤須 功, 吉田 浩貴, 北川 亮, 酒井 淳, 沼澤 真一, 伊藤 康信, 渡邉 貞 ...
    2023 年 51 巻 5 号 p. 429-432
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    症例は74歳,男性.血栓化巨大脳動脈瘤(最大径:37mm)が左前大脳動脈遠位部に偶然に発見された.動脈瘤体部からA3が出ていたため,治療には血行再建術を必要とした.左脳梁縁動脈に橈骨動脈をグラフト血管として端・側吻合し,前頭骨に作成した溝に走行させ右浅側頭動脈に端・側吻合し,いわゆるhemi-bonnet bypassを作成した.瘤をトラッピングして,瘤内血栓を除去して手術を終了した.術後神経障害なし.術後3年後もbypassの開存性に問題はなかった.hemi-bonnet bypassによる前大脳動脈系の血行再建術は吻合が容易で安全である.

  • 丸谷 明子, 枡井 勝也, 石田 泰史
    2023 年 51 巻 5 号 p. 433-437
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    下垂体卒中は下垂体腺腫内に出血や梗塞を発症し,頭痛や視力視野障害,下垂体機能低下をきたす症候群である.動眼神経麻痺を呈した下垂体卒中の1例を経験した.症例は75歳の女性.左動眼神経麻痺が出現し,頭部MRIで左海綿静脈洞へ進展する出血成分を伴う下垂体腫瘤を認めた.下垂体卒中と診断し,発症から2週目で内視鏡下経鼻的蝶形骨洞手術を施行した.術翌日に動眼神経麻痺は完全に回復した.本例でみられた内眼筋障害を伴わない動眼神経麻痺の原因は,動眼神経を栄養するmeningohypophyseal trunkやtentorial arteryが二次的に圧迫,閉鎖されたことと考えられた.手術適応と時期として,外眼筋障害のみでは必ずしも緊急手術の適応がないとされるが,手術時期を検討するうえで迅速で的確な診断が重要である.

  • 大友 朋子, 山田 理, 森田 修平, 山川 功太, 赤須 功, 北川 亮, 吉田 浩貴, 酒井 淳, 沼澤 真一, 伊藤 康信, 渡邉 貞 ...
    2023 年 51 巻 5 号 p. 438-441
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    症例は57歳,女性.大型の内頚動脈傍床突起部脳動脈瘤が偶然に発見され,ステントアシスト法を用いたコイル塞栓術で治療を受けたが,すぐに再発した.脳血管撮影では瘤内に造影剤の流入を認めたが,頚部にはクリッピング術に必要なスペースはなかった.しかしながら血管内治療による再治療は希望されなかった.頭蓋内外のhigh-flow bypassを施行して頚部内頚動脈を結紮した.術後問題なく,bypass治療から12カ月経過したが再発を認めていない.血管内治療後に再発し,クリッピング術が不可能な傍床突起部脳動脈瘤症例に対して,high-flow bypassを併用した母血管閉塞術は治療の選択肢となり得る.

  • 柴田 碧人, 根木 宏明, 池田 峻介, 柳川 太郎, 池田 俊貴, 神山 信也
    2023 年 51 巻 5 号 p. 442-447
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    症例は55歳,女性.頭痛と見当識障害の精査にて頭部magnetic resonance imaging(MRI)を施行し,硬膜下血腫およびもやもや病が疑われ当院紹介となった.脳血管造影(digital subtraction angiography:DSA)にてanterior ethmoidal arteryの側副血行路上に仮性動脈瘤を認め硬膜下血腫の出血源と判断し,母血管閉塞術を施行した.塞栓直後のDSAで動脈瘤消失とcentral retinal arteryおよびretinal choroidal brushの描出を確認するも,麻酔覚醒時には視力障害を認めた.もやもや病の側副血行路上の動脈瘤破裂に対する母血管塞栓術は,塞栓性合併症を生じる可能性があり,安易な選択は避けるべきであると考えられた.

  • 前山 元, 井戸 啓介, 藤井 裕太郎, 横溝 明史, 松本 健一
    2023 年 51 巻 5 号 p. 448-452
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    今回われわれは,くも膜下出血に頚部内頚動脈解離を合併した症例を経験したため報告する.症例は47歳,男性.仕事から帰宅後に後頚部痛を自覚した.翌日に意識障害を呈している状態で発見され,当院に救急搬送された.頭部CTで脳底槽にびまん性のくも膜下出血を認め,3D-CTAでは左中大脳動脈分岐部に囊状動脈瘤を認めた.左中大脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血の診断で,開頭クリッピング術を行った.第5病日に施行したMRI検査で左頚部内頚動脈の狭窄を認め,intimal flapを伴っていたことから左内頚動脈解離を疑った.あらためて入院時の3D-CTAを確認したところ左内頚動脈の狭窄があり,来院時にはすでに発症していたと考えた.また,島皮質に脳梗塞があり,頚動脈解離に伴い脳梗塞を発症した可能性が否定できなかった.第11病日に施行した血管造影検査では内頚動脈起始部にstring signがあり,内頚動脈解離と診断した.第22病日に施行した3D-CTAで狭窄の改善がなかったため第32病日に頚動脈ステント留置術を行った.術後の経過に問題なく,第44病日にmodified Rankin Scale(mRS)0で自宅退院とした.意識障害に先行して後頚部痛があった病歴を考慮し,本症例は頚部内頚動脈解離後にくも膜下出血を発症したと考えた.本症例のように病歴の中で頚部痛を伴っていた場合は,頚部動脈解離の合併も考慮する必要がある.

  • 久代 裕一郎, 大島 幸亮, 寺田 友昭, 中村 歩希, 小林 博雄, 田中 雄一郎
    2023 年 51 巻 5 号 p. 453-457
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/04
    ジャーナル フリー

    症例は突然の意識障害と右片麻痺で発症した25歳女性で,CTで左視床出血と脳室拡大を認めた.DSAでもやもや病により発達した右後視床穿通動脈に微小脳動脈瘤を認めた.同時に行ったcone-beam CT(CBCT)で右後視床穿通動脈近位の屈曲と遠位に後脈絡叢動脈との吻合が描出された.微小脳動脈瘤の塞栓術において,母血管温存が困難と予想された.術前側副血行路の存在が確認できたため,続いて再破裂予防の脳血管内治療を行った.カテーテルは右後視床穿通動脈に誘導できたが,同近位部の屈曲のため瘤内へアプローチできず,瘤内コイル塞栓は断念した.瘤遠位の右後視床穿通動脈の側副血行をCBCTであらためて確認した後,右後視床穿通動脈近位部を閉塞した.術後虚血性合併症なく脳室腹腔短絡術後に独歩退院した.

    側副血行路が密集していてもcone-beam CTを用いることで動脈瘤と吻合血管の血管構築を精細に評価できた.合理的な治療戦略を立てるうえでcone-beam CTはとても有用であった.

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