脳卒中の外科
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51 巻, 6 号
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特別寄稿
特別寄稿―総 説
  • 岩間 亨, 冨永 悌二
    2023 年 51 巻 6 号 p. 469-474
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    日本脳卒中の外科学会は2016年度に技術認定制度を設立した.その目的は「脳卒中の外科に関する基本的技術を担保することにより,脳卒中の外科に携わる医師の育成を促進し,脳卒中の外科治療の進歩発展とその診療水準の向上をはかり,国民の福祉に貢献すること」であり,同年より技術認定を目指す医師および技術認定医に対して教育指導を行う技術指導医の認定を開始,翌年より技術認定医の認定を開始した.技術認定医であることが技術指導医の申請要件であるが,2018年度までの3年間は暫定期間として,脳神経外科専門医取得後10年以上を申請要件として運用した.技術認定医の課題ビデオは当初脳動脈瘤クリッピング術とバイパス術または頚動脈血栓内膜剝離術であったが,2019年度には,申請に必要とされる手術経験症例,手術ビデオ審査の対象手術を変更した.2022年度(2021年度申請)までに6回の技術指導医審査,5回の技術認定医審査を行い,延べ750名の技術指導医と346名の技術認定医を認定した.技術指導医,技術認定医ともに認定期間は5年間であり,2021年度,2022年度より技術指導医,技術認定医のそれぞれ初回の更新受けつけを開始した.

    本稿では7年を経過した技術認定制度の設立目的,制度開始後の経緯,課題,そして包括脳卒中センターの設置を含めた将来展望に関して概観して述べる.

特集 動脈瘤クリッピング術
特集 動脈瘤クリッピング術―総 説
  • 木村 英仁, 林 公祐, 森 達也, 藤本 陽介, 冨山 明男, 甲村 英二, 篠山 隆司
    2023 年 51 巻 6 号 p. 475-483
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    脳動脈瘤治療に際し,動脈瘤壁局所の壁菲薄・肥厚が術前からわかっていれば,手術の安全性に寄与する.われわれはこれまでの数値流体力学解析(CFD解析)研究から壁面剪断応力ベクトル変動(WSSDV)や振動剪断指数(OSI)によって動脈瘤壁の菲薄・肥厚部を予測し得ることを発見し,報告してきた.そして,2019年以降は術前CFD解析を行って動脈瘤壁菲薄・肥厚を予測し手術に活用してきた.今回,実例を提示して本パラメータの有効性・課題について報告する.対象は2019年以降に当院にて脳動脈瘤クリッピング術を行った42例(男性15例,女性27例,平均61歳),平均動脈瘤サイズ5.9mm.部位は中大脳動脈瘤18例,内頚動脈瘤15例,前交通動脈瘤8例.解析結果から壁菲薄が疑われる部分(疑菲薄部)は操作に伴う術中破裂の危険性があり,破裂脳動脈瘤にアプローチするように同部位を露出する前に親血管を確保して手術を行った.壁肥厚が疑われる部分(疑肥厚部)はクリッピングの際,近傍正常血管を狭窄する可能性や動脈瘤不完全閉鎖の原因になるため,クリップをかける際は配慮した.実際に疑肥厚部遮断の際は単一のクリップでは閉鎖困難で,予想どおり複数のクリップを必要とした.穿通枝や親血管遮断による脳梗塞の出現例はなかった.疑菲薄部から術中破裂をきたした1例(2.4%)があったが,全例でmRSの低下なく退院された.今後,精度向上により特に動脈瘤を直視しない血管内治療へも有用性が期待できる.

特集 動脈瘤クリッピング術―原 著
  • 大井川 秀聡, 鈴木 海馬, 佐藤 大樹, 前田 拓真, 古峰 弘之, 竹田 理々子, 吉川 雄一郎, 小倉 丈司, 栗田 浩樹
    2023 年 51 巻 6 号 p. 484-489
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    当院では,前方循環に位置する通常サイズ未破裂脳動脈瘤の開頭術においては,積極的に若手に術者を担わせ指導医が助手鏡から指導するいわゆる‘Two-Surgeon-Three-Hand Surgery’(以下,three-hand surgery)を行ってきた.近年は神経外視鏡の導入により,助手も術者と同様の3次元モニターを使用することになり,明るく広い術野を得ることが可能となった.当院のthree-hand surgeryにおける術中トラブル回避と対処法について,前方循環脳動脈瘤クリッピングを対象に報告する.

    2012年1月1日から2021年10月31日までの間,当院において,前方循環の未破裂脳動脈瘤に対してシンプルクリッピング術を実施した965例を対象とした.

    全例three-hand surgeryを行い,手術を完遂した.退院時までにmodified Rankin Scaleを2以上低下させた症例は23例(2.4%)であり,原因は脳梗塞14例,視神経障害7例,その他の障害2例であった.

    前方循環未破裂脳動脈瘤に対するクリッピングにおけるthree-hand surgeryの実践は,安全性を担保しながら,若手術者に経験を積ませ,良好な治療成績を残すことが可能であった.

  • 河本 俊介, 池田 剛, 阿久津 善光, 深谷 春介, 安部 欣博, 奥貫 かなえ, 阿久津 博義
    2023 年 51 巻 6 号 p. 490-496
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    内頚動脈に発生した動脈瘤の直達術において近接する穿通枝の虚血を回避するための対策について報告する.対象は2012-2021年に当施設で直達術を行った未破裂内頚動脈瘤のうち,後交通動脈起始部から内頚動脈先端部までに発生した161患者170動脈瘤で,平均径5.7mm,部位は後交通動脈分岐部101個,前脈絡叢動脈分岐部49個,内頚動脈先端部15個,内頚動脈C1部5個であった.手術ではシルビウス裂を広く開放し,多方向から動脈瘤と穿通枝を確認できるように術野を展開したうえで,動脈瘤を周囲から可及的に剝離して瘤の裏側も含め穿通枝の全走行を確認しこれらを温存する形でclippigを行った.全例で術中のインドシアニングリーン蛍光血管造影および運動誘発電位のモニタリングを行い,術後4日目のMRで拡散強調像にて虚血巣の出現を評価した.

    術中破裂はなく,44手術(27.3%)で母血管の一時遮断を用いた.運動誘発電位の変化を6例(3.7%)で認めclipの修正を行った.術後症候性の虚血合併症はなく,全例modified Rankin Scale 0で退院した.術後のMR拡散強調像にて動脈瘤近傍の穿通枝領域の高信号を15例(9.3%)に認め,無症候性虚血が比較的高頻度にみられた.確実な手術手技と複数のモニタリング併用により症候学的には良好な成績が得られるが,画像の評価では成績改善の余地があると考えられる.

原  著
  • 久須美 真理, 岡 秀宏, 近藤 宏治, 宮坂 和弘, 隈部 俊宏
    2023 年 51 巻 6 号 p. 497-502
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    頚動脈高度狭窄症に対する頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)において,手術手技上の最大のポイントは内頚動脈遠位端のプラーク断端の処置であり,高位病変はプラーク遠位端確保を困難にする要因の1つである.頭蓋底外科領域における頚静脈孔神経鞘腫などでおもに使用される,頚静脈孔から内頚静脈を露出するhigh cervical approachの知識が有用である.今回,high cervical approachを行った際の解剖学的観点と実際の症例における手技を踏まえ,特別な操作を必要としないCEAにおける安全な到達限界を示す.加えて,実際の症例における遠位端到達限界での内シャント挿入困難時の対処法を報告する.結果,C1横突起のレベルで内頚静脈が視野を妨げ,下位脳神経が内頚動脈の前-外側面へ走行を変えるため,破裂孔からC1横突起までは内頚動脈の観察は難しく,C1横突起が到達点限界であると考える.そして,実際には内シャントを入れることを考えると,プラークの遠位端はC2椎体上縁が限界である.剝離限界の遠位内頚動脈において正常血管腔確保ができず内シャント挿入が困難な場合,遠位端プラークを先に剝離摘出することで内シャント挿入が容易になる.簡便で安全な方法である.

  • 西 和彦, 杉生 憲志, 平松 匡文, 菱川 朋人, 春間 純, 髙橋 悠, 村井 智, 山岡 陽子, 胡谷 侑貴, 枝木 久典, 木村 颯 ...
    2023 年 51 巻 6 号 p. 503-507
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    近年,画像診断の進歩により硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula:dAVF)の血管解剖について詳細な理解が可能となってきた.われわれの施設ではdigital subtraction angiography(DSA)のslab maximum intensity projection(MIP)画像を駆使して,dAVFの質的診断に努めてきた.このような,画像診断の進歩は,血管内治療を主体とする外科的治療の戦略決定にも大きく寄与しており,治療成績の向上につながっている.今回はテーマごとにわれわれの知見や最近の文献を交えながら,dAVFに関する画像診断の新展開を紹介する.

症  例
  • 福本 博順, 小林 広昌, 廣田 篤, 吉永 進太郎, 河野 大, 榎本 年孝, 福田 健治, 森下 登史, 竹本 光一郎, 井上 亨, 安 ...
    2023 年 51 巻 6 号 p. 508-512
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は60歳の男性.30年前に下垂体腫瘍に対して経蝶形骨洞的腫瘍摘出術が行われ,術中大量出血をきたした.今回,突然の大量鼻出血により,貧血となり当院に搬送となった.蝶形骨洞後壁の骨窓より内頚動脈C3部の小動脈瘤が露出しており,出血源と考えられた.その後,バイパス併用母血管閉塞術を行い,経過は良好である.経蝶形骨洞術後の内頚動脈損傷および遅発性仮性動脈瘤形成は非常に重篤な合併症である.文献的考察を交えて報告する.

  • 鈴木 倫明, 長谷川 仁, 澁谷 航平, 齋藤 太希, 高橋 陽彦, 大石 誠, 藤井 幸彦
    2023 年 51 巻 6 号 p. 513-519
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    後下小脳動脈(posterior inferior cerebellar artery:PICA)と前脊髄動脈(anterior spinal artery:ASA)の双方を含むdominant sideの破裂解離性椎骨動脈瘤(ruptured vertebral artery dissecting aneurysm:rVADA)に対して,急性期にステント併用コイル塞栓術(stent-assisted coiling:SAC)を行い,再発を認めたため慢性期にOA-PICA bypass併用コイル塞栓術を行った症例を経験したので報告する.

    症例は50歳男性.突然の頭痛,全身痙攣にて発症.後頭蓋窩に厚いくも膜下出血を認め(Hunt and Kosnik grade III),dominant sideの左VAに破裂解離性椎骨動脈瘤を認めた.PICA and ASA involved typeのrVADAに対して,破裂急性期にSACにてPICAとASAの血流を温存して破裂部位を中心にコイル塞栓を行った.しかしながら,術後8日目にminor bleedingを認めたため,破裂部位の追加塞栓を行った.その後は自宅退院となり(mRS 1),再出血を認めず経過していたが,術後2カ月目に偽腔の開大を認めたため,後頭動脈(occipital artery:OA)-PICA bypassを併用した解離部のコイル塞栓術を行い,最終的に根治することができた.

    Dominant side VAにおけるPICA and ASA involved type rVADAに対して破裂急性期のSACによるreconstructive treatmentと慢性期におけるOA-PICA bypass併用によるコイル塞栓術は有効な治療選択肢の1つとなり得る.

  • 山本 哲也, 豊岡 輝繁, 田之上 俊介, 竹内 誠, 大村 朋子, 和田 孝次郎
    2023 年 51 巻 6 号 p. 520-525
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    巨大血栓化脳動脈瘤は瘤の増大に伴い周囲組織の圧迫や破裂によるくも膜下出血をきたす予後不良な疾患である.今回,巨大血栓化右椎骨動脈瘤に対し母血管閉塞術,開頭動脈瘤内血栓除去術を二期的に施行し良好な転帰を得た1例を報告する.症例は50歳男性.嘔気を自覚後,体動困難となり救急搬送された.脳MRIおよび血管撮影で直径30mmの巨大血栓化右椎骨動脈瘤と診断した.動脈瘤はその形状から血栓化を伴うdolichoectatic aneurysmであった.直視下での動脈瘤と母血管の確認は困難と判断し,まず血管内治療による母血管閉塞術を行い,二期的に直達手術による血栓除去術を施行した.術後良好に経過し,術前の症状は改善された.巨大血栓化動脈瘤に対するクリッピング術は動脈瘤の大きさなどにより困難な場合が多く出血リスクも高い.本症例では,まず脳幹穿通枝を温存しつつ母血管閉塞を行うことで出血のリスクを軽減し,直達手術で瘤内器質化血栓を除去し脳幹への圧迫を解除し得た.血管内治療と直達術双方の利点を生かし,最適条件を追求したハイブリッド手術により,今まで以上に安全な治療が行える可能性が示唆された.

  • 村井 保夫, 佐藤 俊, 亦野 文宏, 森田 明夫
    2023 年 51 巻 6 号 p. 526-530
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    7年の経過で拡大し,治療に苦慮した椎骨動脈解離症例を経験したので,治療方針の考察とともに報告する.症例は40代女性(発症時),頭痛精査で椎骨動脈(VA)解離(17×5mm)と診断され,脳梗塞や出血なく経過したが,7年後に病変が拡大を認め(24×9mm)紹介された.紹介時,無症候で,血圧は適切に管理されていた.画像上はPICA involved VA解離で患側VAは対側への蛇行し,壁在血栓が確認され,開頭手術ではVA-PICA分岐部および病変末梢側の確保が困難と予測された.一方,脳血管内治療では壁在血栓による塞栓性合併症とPICA閉塞が危惧された.虚血性合併症を回避するためVA-PICA分岐部の閉鎖は行わず,OA-PICA吻合術とVAの近位閉塞のみで動脈瘤の血栓化を図ることとした.術後,脳動脈瘤の血栓化が得られ,虚血性障害をきたさず退院し,1年11カ月の経過で再発は認めない.PICA involved VA解離では,OA-PICA吻合術とVA近位部閉塞により,VA-PICA分岐部を閉鎖せずとも動脈瘤が血栓化する可能性がある.

  • 樋上 真之, 富永 貴志, 林 真人, 駒井 崇紀, 安田 貴哉, 山本 健太, 中嶋 千也
    2023 年 51 巻 6 号 p. 531-535
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    頚部血栓化巨大動脈瘤に対し,後頚三角を利用して動脈瘤切除を行った症例を経験したので報告する.症例は82歳女性.最大径24.1mmの左頚部動脈瘤を認めるも,無症状のため経過観察していた.6年後に一過性右上下肢麻痺が出現し,MRI拡散強調画像では左前頭葉皮質に新鮮脳梗塞を認め,左頚部動脈瘤は最大径72.2mmに拡大していた.手術では乳様突起から胸鎖乳突筋前縁に沿った皮膚切開に加え,その下端から鎖骨上を外側に延長させたL字切開を行った.動脈瘤外壁には内頚静脈や周囲組織が強く癒着していた.内シャント設置後,動脈を切開した.動脈瘤内は器質化した血栓が充満しており,潰瘍形成している部分もあった.周囲組織との剝離後,動脈瘤を切断し,正常な血管壁同士を縫合して手術終了した.頚部動脈瘤に対する手術では,適切な術式選択もさることながら,適切な術野展開も重要である.

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