脳卒中の外科
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50 巻, 5 号
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総  説
  • 小笠原 邦昭
    2022 年 50 巻 5 号 p. 337-344
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    虚血発症成人もやもや病においては,血行再建術の適応を決定するための根拠が明らかにされておらず,「もやもや病(ウイリス動脈輪閉塞症)診断・治療ガイドライン」および「脳卒中治療ガイドライン 2015[追補 2019対応]」においても,その手術適応は小児と区別されていない.自験例のデータをもとに「虚血発症成人」もやもや病に対する治療方針につき,以下のように提言する.

    ①治療方針を決定するために,まず貧困灌流の有無をSPECTなどを用いて脳血流低下の有無で決定する.このとき,アセタゾラマイド負荷脳血流測定は不要,②症候側大脳半球で脳血流低下が認められなかったら,血行再建術は行わず,抗血小板薬であるシロスタゾールを投与し経過をみる,③症候側大脳半球で脳血流低下が認められたら,99mTc製剤を用いた過換気負荷前後の脳血流SPECTを行い,脳血管収縮能を評価する,④脳血管収縮能低下がなければ,直接を含む血行再建を行う,⑤脳血管収縮能低下があれば,過灌流に対する対応を十分考慮したうえで血行再建を行う.

  • 宇野 昌明
    2022 年 50 巻 5 号 p. 345-350
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    頚動脈内膜剝離術(CEA)は重度の症候性/無症候性頚動脈狭窄症に対し,有効な治療法となっている.ゆえに,脳神経外科医にとってはCEAは習得すべき重要な手技である.この論文では,術前および術中の管理方法や手術方法を述べる.

    全身麻酔下に神経モニターを装着する(当科ではSEPとMEP).選択的シャントを置くかルーチンにシャントを置くかは,施設により信頼のおける方法を選択する.頚部を対側に回旋(45度),伸展させる.最近は顕微鏡下に筋肉,動静脈を剝離する.高位のプラークには頚神経ワナの切断および後頭動脈を切断して,舌下神経周囲を丁寧に剝離し,内頚動脈末梢を確保する.動脈縫合は当施設では原則patch angioplastyを行っているが,本邦ではその頻度は少ない.1人の脳神経外科医が経験するCEAの数は少ないので,トレーニングシステムを利用して練習することも重要である.

原  著
  • 疋田 ちよ恵, 根本 哲宏, 前田 昌宏, 井中 康史, 岩﨑 充宏, 山崎 英一, 福田 慎也, 佐藤 浩明, 森本 将史
    2022 年 50 巻 5 号 p. 351-356
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    経皮的血管形成術(percutaneous transluminal angioplasty:PTA)は頭蓋内狭窄病変に対して施行される外科的治療の選択肢の1つであるが,その際に,血管解離のリスクを完全には回避できない.今回われわれは,当院で施行したPTAにおいて生じた解離性病変の経時的予後について,後方視的に検討した.2012年4月より2019年3月のうちに当院で施行したPTA 82手技のうち,画像上,解離性病変が示唆された病変は11病変(13.4%)あり,3病変(3.7%)が症候性であり8病変が無症候性であった.症候性解離性病変 3病変のうち1病変は解離に伴い治療血管の閉塞をきたし,その他2病変は治療血管の主要血流は改善したものの,血管解離に伴い穿通枝梗塞をきたした.閉塞した1例を除く術後,解離性病変が生じた10病変のうち,血管解離急性期にステント留置を行った病変は2病変あり,2病変とも半年以上のフォローで再狭窄なく経過した.残りの8病変は末梢血流が改善したため経過観察としたが,1病変のみ再狭窄をきたし,その他の7病変は半年以上の経過で適切なflowを保ったまま経過した.PTAの合併症による解離性病変は,血流が良好であれば保存的加療が適切と考えられる.

  • 若林 健一, 伊藤 真史, 大多和 賢登, 橋田 美紀, 山本 諒, 福井 隆彦, 松山 知貴, 雄山 博文
    2022 年 50 巻 5 号 p. 357-364
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    twig-like middle cerebral artery(T-MCA)は稀少疾患であり,未解明な部分が多い.今回自験例のT-MCAをもとに,過去の文献を参照し,異常血管網の構造および無症候例の脳卒中発症の危険性について解析・検討を行った.

    2008年から2020年の期間に8例(男性 4例,女性 4例,平均年齢50.1歳)のT-MCA(右側 5例,左側 3例)を経験した.無症候性が7例,一過性脳虚血発作で発症した症候性が1例であった.

    放射線学的所見から,異常血管網に流入する動脈経路には,前大脳動脈からの経路と前脈絡叢動脈を含めた内頚動脈からの経路の2系統を認めた.この2系統の経路は,MCAの代表的奇形である副MCAおよび重複MCAとそれぞれ起始・走行様式が相似していた.

    文献検索から特定し得た無症候例21例と自験7例の計28例の無症候性T-MCAを解析したところ,保存的治療となった26例のうち,その後の追跡で8例(30.8%)が脳卒中を生じた(一過性脳虚血発作1例,脳梗塞1例,脳出血2例,くも膜下出血4例).全例がT-MCAを有する病側半球での発症であった.

    T-MCA は無症候であっても,脳卒中の危険性に留意して慎重に観察する必要がある.

  • 井谷 理彦, 秋山 義典, 谷 正一, 藤本 基秋, 設楽 智史, 杉田 義人, 小原 次郎, 山下 陽生
    2022 年 50 巻 5 号 p. 365-369
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    脳底動脈閉塞による急性期脳梗塞は, 非常に予後不良であるが, いまだ血栓回収療法の有効性や適応については確立していない. 今回われわれは当院での急性期脳底動脈閉塞症(BAO)に対する機械的血栓回収療法(MT)の転帰に寄与する因子を後方視的に検討した. 2014年1月から2019年6月までの66カ月間で, BAOに対して当院でMTを施行した連続13例(男性 8例, 平均 76歳)を対象とし, 背景因子および治療に伴う因子を後方視的に抽出し, 90日後転帰(modified Rankin Scale:mRS)を転帰良好群(mRS=0-2), 転帰不良群(mRS=3-6)の2群に分け, 各因子とその関連を検討した. TICI 2B以上の再開通率は91%で転帰良好群は31%となり, 死亡率は23%であった. 再開通までの平均時間は332分(140-720分)であり, 平均術前NIHSSは17点(3-30)であった. 背景因子と90日後転帰との関連をt検定で検討すると, 術前NIHSS 13点以下で転帰良好となることが示された(p=0.029). その他の因子は転帰と相関しない結果であった. 脳底動脈閉塞症に対する治療介入はNIHSSが13点以下であれば, 有意に90日後転帰を改善することがいえた. その他の因子に関しては, 今回の研究では有意な関連ではなかったが症例数の限界と考えられ, 今後症例の蓄積が望ましい.

  • 吉川 雄一郎, 柴田 碧人, 古峰 弘之, 根木 宏明, 寺西 亮雄, 鈴木 海馬, 上出 智也, 池田 俊貴, 栗田 浩樹
    2022 年 50 巻 5 号 p. 370-376
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    大型/巨大内頚動脈瘤に対する直達手術では,特にC1部の動脈瘤を中心に,しばしば良好な機能予後や根治性が得られない場合がある.当施設で2014年から2018年までに開頭手術により治療を行った15mm以上の内頚動脈瘤32例を対象とし〔C3-5部:17例,C2部(C2-3を含む):7例,C1部(C2-3部を含む):8例〕,治療方法,治療成績を後方視的に解析し,問題点を検討した.転帰は半年後のmodified Rankin Scale(mRS)を用いて評価した.C3-5部では,全例でEC-RA-M2バイパス+頚部内頚動脈結紮によるflow alteration(FA)を行った.術後,全例で動脈瘤は消失し,1例(6%)で梗塞によるmRSの悪化を認めた.C2部では,全例でclippingを行った.2例(18%)でmRSが悪化したが,穿通枝領域の虚血合併症は認めなかった.C1部では,6例でclipping,1例でEC-RA-M2バイパス+頚部内頚動脈結紮によるFA,1例でEC-RA-M2バイパス+trappingを行った.穿通枝領域の梗塞を生じた2例を含む3例(38%)でmRSが悪化した.FAを行った1例では,遅発性に瘤の再開通ならびに増大を認めた.大型/巨大内頚動脈の外科治療においては,C2-5部ではおおむね良好な転帰が得られたが,C1部では穿通枝梗塞,再開通,再増大などの課題がいまだに残る.

症  例
  • 吉田 拓也, 前田 佳一郎, 坂口 雄亮, 後藤 芳明, 越智 崇
    2022 年 50 巻 5 号 p. 377-380
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    今回われわれは大きな第 4 脳室内血腫を伴う破裂末梢性後下小脳動脈瘤破裂に対して,内視鏡下血腫除去術後にコイル塞栓術を行った1例を経験したので報告する.

    症例は,65歳,男性.重度の意識障害を発症し当院に搬送された.CTで第4脳室内に巨大な血腫を認めたが,CTアンギオグラフィーで動脈瘤は明らかでなかった.まずは血腫による脳幹圧迫と水頭症を治療するため,内視鏡下血腫除去術を急いで施行した.術後ただちに脳血管撮影を施行すると,末梢性後下小脳動脈瘤を認めた.動脈瘤はコイル塞栓術で治療した.患者は約7カ月のリハビリテーション後,杖歩行可能となり退院した.

    内視鏡下血腫除去術後にコイル塞栓術を行うことは,破裂脳動脈瘤による大きな小脳出血を伴う患者に対して,予後を改善し得る可能性があると考えられた.

  • 藤浪 亮太, 金井 秀樹, 打田 淳, 大野 貴之, 大石 龍矢, 間瀬 光人
    2022 年 50 巻 5 号 p. 381-385
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    片側のタンデム閉塞による脳梗塞で発症した両側性頚部内頚動脈解離(cervical internal carotid artery dissection:CICAD)に対して,血管内治療により両側ともに解離腔の閉鎖と血行再建を得た1例を報告した.

    症例は,40歳,男性.左片麻痺で搬送されたが3日前から頭痛があった.右内頚動脈起始部のテーパー状の閉塞と右中大脳動脈M1部の閉塞を認めた.遺伝子組み換え組織型プラスミノゲンアクチベーター投与下で,右中大脳動脈の機械的血栓回収を行った後で偽腔の拡大を認めていた内頚動脈にステントを留置した.左CICADに対しては,その後解離腔が拡大して内頚動脈の狭窄が増悪したため亜急性期にステントを留置した.特にタンデム閉塞をきたしている症例での両側 CICAD の血管内治療時には,解離による血行動態の変化を考慮することが重要である.

  • 須田 泉, 中村 道夫, 宮崎 格, 布瀬 善彦, 吉田 陽一
    2022 年 50 巻 5 号 p. 386-391
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    内頚動脈(internal carotid artery:ICA)C1部に発生した血豆状動脈瘤(blood blister-like aneurysm:BBA)に対して,前脈絡叢動脈(anterior choroidal artery:AChA)を温存するため,頚部ICA遮断にhigh-flow bypass(HFB)を併用した治療が奏効した症例を経験した.

    症例は,40歳,男性.くも膜下出血を発症し入院した.脳血管撮影で右ICAのAChA起始部前内側にBBAを認めた.初回手術ではclipping術を行ったが,術後8日に動脈瘤の増大を認め,再手術を行った.右橈骨動脈をgraftとしてHFBを置き,頚部ICAで近位遮断を行った.術後経過は良好で,AChAの温存と動脈瘤の消失を認め,虚血性合併症なく退院した.ICA-BBAに対してbypass併用下で行う病変部のtrappingは有効な手技だが,BBAの存在部位によってはAChAやPCoAの温存が不可能な症例もある.根治性について検討を要するが,trappingによりAChAの閉塞が避けられない場合に,bypassを併用した近位ICA遮断は有効な治療選択肢と思われる.

  • 山本 陽子, 島田 健司, 山口 泉, 宮本 健志, 曽我部 周, 兼松 康久, 髙木 康志
    2022 年 50 巻 5 号 p. 392-398
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    症候性総頚動脈閉塞症や,同側の総頚動脈と内頚動脈のtandem lesionはまれな疾患であり,治療に関するコンセンサスはない.今回われわれは慢性総頚動脈閉塞症に合併した同側症候性内頚動脈狭窄症に対し,内頚動脈内膜剝離術(CEA)を施行した1例を経験したので報告する.症例は73歳,男性で,これまで2回脳梗塞のため当院で入院加療を受けた.脳血管撮影にて慢性総頚動脈閉塞症と同側の内頚動脈狭窄症を認め,2回目の脳血管撮影で内頚動脈狭窄症の進行を認めた.SPECTでは有意な左右差は認めず,繰り返す脳梗塞の原因として血行力学的脳虚血よりは内頚動脈狭窄症による動脈原性塞栓が疑われた.侵襲度を考慮して総頚動脈の再建は行わず,内頚動脈のみに限局したCEAを施行した.術後経過良好で,6カ月経った現在脳虚血発作は認めていない.

  • 伊藤 芳記, 池田 公, 前田 憲幸, 竹本 将也, 坂本 悠介, 秋 禎樹, 春原 裕希, 藤田 王樹, 渋谷 正人
    2022 年 50 巻 5 号 p. 399-403
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    頭皮動静脈奇形はきわめてまれな疾患である.今回われわれは,巨大な頭皮動静脈奇形に対し摘出術を行った症例を経験したので報告する.45歳,男性.幼少時に頭部打撲により右後頭部に皮下血腫を形成し,その後時期は不明だが同部位に軟らかい腫瘤を触れるようになった.今回,家人より増大を指摘され,当科紹介となった.血管撮影では,流入動脈に後頭動脈と浅側頭動脈を,流出静脈に浅側頭静脈と後耳介静脈をそれぞれもつ血管奇形を認めた.頭皮動静脈奇形と診断し,摘出術を施行した.頭皮動静脈奇形の手術においては,栄養血管の結紮のみや不十分な塞栓だけでは,側副路の発達によって残存病変から再発・増大をきたす場合もあり,根治的には全摘出術が望ましいとされている.病変への血流をコントロールし,術中の出血量をできるかぎり減らすこと,また術後の合併症となる皮膚の感染・壊死を予防することが肝要となる.術前の画像検査による流出入血管の十分な評価と,それに基づく手術戦略の立案が求められる.

手術手技
  • 渡邉 隆之, 松本 隆, 山本 光晴, 出村 光一朗, 庄田 幹
    2022 年 50 巻 5 号 p. 404-407
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    内視鏡下血腫除去術は,高血圧性脳出血に対する低侵襲な術式として普及しつつある.より安全,確実に手術を行うために重要な手順がいくつかあるが,鮮明な術野を保つための洗浄操作はとても重要な手技の1つである.当院では,透明シースの後端付近にirrigation tubeを接続し,フットペダルによる操作で人工髄液を注入できるようにしている.これにより,術者自身のタイミングで内視鏡先端やシース内面を洗浄したり,血腫吸引して虚脱した血腫腔を拡張させて術野を保つことができる.また,十分な流量で灌流することにより,wet fieldでの出血点の確認も可能である.当院で行っている灌流方法につき報告する.

  • 山木 哲, 近藤 礼, 下川 友侑, 久下 淳史, 齋藤 伸二郎, 園田 順彦
    2022 年 50 巻 5 号 p. 408-411
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    脳神経血管内治療では大腿動脈や上腕動脈からのアプローチが困難な場合,頚動脈直接穿刺法が有用なことがある.しかし,同穿刺法は止血法に問題があり,術後出血は重篤な合併症へつながる可能性がある.さらに,複数の抗血栓療法下に施行する場合も多く,より確実な止血が求められる.以前われわれは,頚動脈を露出して行う直視下頚動脈穿刺法の有用性を報告した.しかしながら,切開剝離した頚動脈の周囲軟部組織からの出血,いわゆるoozingのコントロールは必ずしも容易ではなく,皮下血腫をきたす可能性があった.吸収性局所止血材Floseal®は架橋ゼラチン粒子と乾燥ヒトトロンビンを原材料とした止血剤で,ヘパリン投与下でも止血効果が報告されており,これを閉創の際に用いることとした.アクセスルートに問題があり,直視下頚動脈穿刺法にて頚動脈ステント留置術またはコイル塞栓術を施行した4例を対象とした.術前より抗血小板2剤を服用し,術中はヘパリン静注し抗血栓療法を行った.ステント留置またはコイル塞栓術後,閉創時に剝離した軟部組織にFloseal®を塗布した.

    全例で術後,創部に後出血を呈することなく経過した.

    抗血栓療法下であっても閉創の際にFloseal®を用いることでoozingのコントロールが可能となり,皮下血腫をきたすことなく手技を行うことができ有用であった.

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