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坂東 清子, 紺屋 豊, 梅村 康士, 和泉 自泰, 国松 武史, 木村 重紀, 船橋 斉, 馬場 健史, 福崎 英一郎
セッションID: P-234
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
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【目的】薬剤誘発性肺障害の発症機序には不明な点が多く、モニターできる良好なバイオマーカーがないことが医薬品開発の重要な課題となっている。これまでの研究で肺のサーファクタント脂質の変動と肺病変との関連性が報告されていることから、本研究では薬剤誘発性肺障害の発症機序の解明及びバイオマーカー探索を目的に、ブレオマイシンの肺障害に伴う肺サーファクタント脂質の経時変動を、ターゲットメタボロミクスの手法を用いて網羅的に検索した。さらに、プロスタグランジン(PG)類も網羅的に一斉定量し、サーファクタント脂質変動と肺の炎症の発生機序ついて考察した。
【方法】雄性SDラットにブレオマイシン塩酸塩(1、5 mg/kg)を単回気管内投与後、投与後6時間から21日間まで経時的に気管支肺胞洗浄液(BALF)を採取した。BALFサンプルから脂質成分を抽出し、LC/MS/MSで脂質の網羅分析を行った。また、PG類はBALFサンプルを固相抽出し、キャピラリーLC/イオントラップ型質量分析計で一斉定量した。なお、同時点で肺を採取し、病理組織学的検査を実施し、炎症及び線維化の程度を確認した。
【結果および考察】BALF脂質の網羅分析の結果、ホスファチジルコリン類およびホスファチジルエタノールアミン類が肺の炎症性の進展とともに増加し、炎症の収束とともに減少することが明らかとなった。一方、ω-6脂肪酸の増加が投与直後から認められ、同時期にPGE
2やPGD
2の増加が認められたことから、肺のサーファクタント由来の脂肪酸がアラキドン酸カスケードを介して、炎症性メディエーターとなり、炎症を惹起している可能性が示唆された。また、ω-6脂肪酸も含む不飽和脂肪酸類は炎症ピーク時には減少が認められ、線維化の進行ともに再び増加する傾向が認められたことから、線維化のバイオマーカーとなる可能性が示唆された。
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石田 和也, 中園 金吾, 屋形 直明, 武吉 正博, 矢可部 芳州
セッションID: P-235
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
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生体内内因性代謝物を網羅的に解析するメタボロミクスは、化学物質の毒性をゲノミクスやプロテオミクスよりも表現型に近い現象として捉えることが可能である。近年、質量分析装置の飛躍的な性能向上により化学物質の生体影響評価の方法としてメタボロミクスが活用されるようになってきている。内分泌かく乱物質は生体内に取り込まれた場合、内因性ホルモンと類似した作用を示すことで生殖機能に有害作用を示すことが懸念されている。本研究では血液サンプルの内因性代謝物を指標とした化学物質の内分泌かく乱作用評価の可能性について検討した。17β-Estradiol(E2)及びエストロゲン作用物質として知られているDiethylstilbestrol(DES)並びにBisphenol A(BPA)をそれぞれラットに7日間、各2用量で投与試験を行い、LC/MS (LTQ-OrbitapXL)を用いて各個体の血清中代謝物の一斉解析を行った。その結果、高用量群のE2投与血清中で媒体対照群に比べて2倍以上及び1/2以下に有意(
p<0.05)に変動した内因性代謝物がそれぞれ46成分及び19成分検出された。このうち1/2倍以下に低下した成分にはステロイドホルモン生合成経路上の物質が複数含まれており、E2投与によるコレステロール代謝関連遺伝子の発現変動が示唆された。さらに同様の方法により、DES及びBPAについても生体内代謝への影響について解析を行い、これらのエストロゲン作用物質の内因性代謝物に対する影響及び内分泌かく乱作用との関連性についても報告する。
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南 圭一, 新田 浩之, 上原 健城, 上西 千晶, 五十嵐 芳暢, 神吉 将之, 木野 潤一, 阿部 香織, 堀之内 彰, 小野 敦, 山 ...
セッションID: P-236
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
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【背景および目的】トキシコゲノミクス・インフォマティクスプロジェクト(TGP2)は,トキシコゲノミクスによる安全性バイオマーカーの探索を行い,医薬品開発の効率化を目指す産官共同研究である.本プロジェクトでは,ゲノミクスによるバイオマーカーの検討を進める一方,近年飛躍的に研究が進行しているマイクロRNA(miRNA)についてもバイオマーカーとしての有用性に注目し研究を行っている.本検討では,シスプラチン(CDDP)投与ラット腎障害モデルを作製し,尿及び腎についてmiRNAの発現変動解析を行い,各種生化学検査値,病理検査結果との比較を行った.その結果見出された尿中miRNAについて,バイオマーカーとしての有用性を検証した.
【方法】ラット(Crl:CD (SD)IGS;8週齢)にCDDP(0, 1, 4 mg/kg)を静脈内投与し,24及び48時間後に体重,尿量及び摂水量を測定し,腎,尿及び血漿を採取した.血液及び尿生化学検査を行い,尿中及び腎(48時間のみ)におけるmiRNAの測定及び腎病理組織学的検査を行った.
【結果】CDDPのいずれの投与群においても,体重,尿量,摂水量,尿クレアチニンなどの低下が24,48時間ともに認められた.また,腎病理組織学的検査では,CDDPの投与後24時間から,4 mg/kg投与群の全例(N=7)において核クロマチン変性(近位尿細管直部)が認められ,投与後48時間には尿細管壊死も認められた.尿におけるmiRNAアレイ解析の結果,4 mg/kg投与群において投与後24時間では約20種類,投与後48時間では50種類以上のmiRNAの有意な変動が認められ,腎障害時にはより多くのmiRNAが尿中に検出されることが示唆された.一方,腎におけるmiRNAはほとんど変動を示さなかった.投与後48時間において尿中で顕著に増加したmiRNAについてPCRを実施し,miRNAアレイと比較した結果も報告する.
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南 圭一, 上原 健城, 林 仁美, 三森 国敏, 大村 功, 神吉 将之, 小野 敦, 山田 弘, 大野 泰雄, 漆谷 徹郎
セッションID: P-237
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
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【背景および目的】トキシコゲノミクス・インフォマティクスプロジェクト(TGP2)において構築された遺伝子/毒性データベースであるTG-GATEsを用いて,ラット肝臓のマイクロアレイデータに基づく遺伝毒性肝発がん物質の判別モデルを構築した.その有用性検証の一環として,我々は2段階肝発がんモデルラットを作製し,種々の検討を実施した.本検討では,2段階肝発がんモデルラットの肝及び血漿における糖鎖プロファイルの変動について,レクチンアレイを用いて解析を行った.
【方法】ラット(Crl:CD (SD)IGS;6週齢)にDiethyl nitrosamine(DEN),Thioacetamide(TAA),Methapyrilene,Ethionamide及びAcetaminophenを2週間反復投与し,2週間休薬後にPhenobarbital(PB)飲水投与を開始した.PB投与1週間の時点で肝部分切除を行い,6週間後に解剖を行った.解剖時における糖鎖プロファイルの変化についてレクチンアレイを用いて解析し,前がん病変の発現との相関について検討した.
【結果】肝においては,前がん病変が最も顕著に認められたDEN高用量群において,最多である18種類のレクチンに反応増加が認められ,DEN低用量群でも一部共通した変化が認められた.弱い前がん病変の認められていたTAA投与群においては,高用量よりも低用量の方で多くのレクチンで反応増加が認められていたが,その原因は不明であった.変動していたレクチンより糖鎖構造の変化について推定したところ,特徴的な糖の脱離,付加やO型糖鎖の増加,糖鎖構造の絶対数増加を示唆するような変化が捉えられ,一般的にがん細胞に認められる糖鎖の変化と一致していた.これらのことから,前がん病変段階でも既に糖鎖構造はがん細胞に特徴的な形態に遷移し始めていることが示唆された.血漿においては,DEN高用量では5種類のレクチンに反応減少が認められており,この変化をもとにバイオマーカーの可能性について検討している.
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上原 健城, 森川 裕二, 林 仁美, 三森 国敏, 神吉 将之, 大村 功, 南 圭一, 中津 則之, 小野 敦, 山田 弘, 大野 泰雄 ...
セッションID: P-238
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
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医薬品や化学物質の発がんリスクは,長期がん原性試験において判定されるが,その代替法として,簡便かつ短期の発がん性リスク評価系の確立が望まれる.我々は,トキシコゲノミクス・インフォマティクスプロジェクトの産官学共同研究を通じて,化合物の遺伝毒性,非遺伝毒性肝発がん作用を最長28日間のラット反復投与試験で高精度に予測するトキシコゲノミクス判別モデルを構築した.今回,5種の化学物質 [肝発がん物質:nitrosodiethylamine (DEN),thioacetamide (TAA),methapyrilene,非発がん物質:acetaminophen,ethionamide] の肝イニシエーション作用の有無を,phenobarbitalをプロモーターとしたラット肝二段階発がん試験法を用いて検討した.イニシエーション活性の有無は,肝臓の病理組織学的検査,GST-P免疫組織化学染色による陽性細胞巣の計測により判定した.その結果,既知の遺伝毒性肝発がん物質であるDENに加え,文献的に非遺伝毒性肝発がん物質として報告されているTAAにイニシエーション作用が認められた.本試験成績は,トキシコゲノミクス判別モデルにより得られた予測結果と一致し,我々の構築した判別モデルの予測結果の妥当性の裏づけとなるものである.さらに我々は,クロスオミックスアプローチによる発がんメカニズムの解明や新規バイオマーカー探索を目的として,二段階発がんモデルにおいて採取したラットの肝臓及び血漿におけるマイクロRNA発現解析,次世代シーケンサーを用いた肝臓の網羅的DNAメチレーション解析,レクチンアレイを用いた肝臓の糖鎖プロファイル解析を実施した.本発表では,トキシコゲノミクス及び病理組織学的アプローチによる肝発がん物質のイニシエーション活性の検索を中心に,一連の研究成果を総括する.
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神吉 将之, 上原 健城, 林 仁美, 三森 国敏, 大村 功, 南 圭一, 中津 則之, 小野 敦, 山田 弘, 大野 泰雄, 漆谷 徹郎
セッションID: P-239
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
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【背景・目的】我々は2段階肝発がんモデルラットを作製し,種々の検討を実施している。本検討では,2段階肝発がんモデルラットの肝及び血漿における網羅的マイクロRNA発現解析を行い,前がん病変形成過程におけるマイクロRNAの関与およびバイオマーカーとしての有用性について検討した。
【方法】雄性ラット(Crl:CD (SD)IGS;6週齢)にDiethyl nitrosamine(DEN),Thioacetamide(TAA),Methapyrilene(MP),Ethionamide(ETN)及びAcetaminophen(APAP)を2週間反復投与し,2週間休薬後にPhenobarbital(PB)飲水投与を開始した.PB投与1週間の時点で肝部分切除を行い,6週間後に解剖を行った.血漿は2週間休薬後と解剖時,肝臓は肝部分切除時と解剖時に採材し検討に用いた。マイクロRNA発現データはマイクロアレイを用いてデータを取得した。
【結果】肝臓における発現解析の結果,各薬物投与群において5から10種のマイクロRNAについて発現の増加および減少が認められた。前がん病変であるGST-P陽性肝細胞巣の有無による違いを調べた結果,GST-P陽性細胞巣が認められたDENおよびTAAにおいて,miR-34 familyであるmiR-34a, -34b, -34cの発現変化が認められた。miR-34 familyはDNA障害やp53シグナリングとの関与が報告されており,発がんメカニズムにおける重要な因子である事が推察された。血漿における発現解析では,各薬物投与群において発現変化を示すマイクロRNAは認められたが,GST-P陽性細胞巣の有無による違いは特に認められなかった。同組織で取得されたmRNA発現データとの統合解析を行い,メカニズム解析およびバイオマーカーとしての有用性について報告する。
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大村 功, 上原 健城, 林 仁美, 三森 国敏, 神吉 将之, 南 圭一, 中津 則之, 小野 敦, 山田 弘, 大野 泰雄, 漆谷 徹郎
セッションID: P-240
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
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【背景・目的】トキシコゲノミクス・インフォマティクスプロジェクト(TGP2)において,ラット肝臓の網羅的遺伝子発現データに基づく遺伝毒性肝発がん物質の判別モデルを構築した。その有用性検証の一環として,我々は2段階肝発がんモデルラットを作製し,種々の検討を実施している。本検討では発がんに至る初期の段階で生じるエピジェネティックな変化を捉える目的で,二段階肝発がんモデルラットの肝において次世代シーケンサーを用いた網羅的DNAメチレーション解析を行い,前がん病変形成過程においてメチル化状態が変動する領域を探索した。【方法】ラット(Crl:CD (SD)IGS;6週齢)にDiethyl nitrosamine(DEN),Thioacetamide(TAA),Methapyrilene(MP),Acetaminophen(APAP)をそれぞれ2週間反復投与し,2週間休薬後にPhenobarbital(PB)飲水投与を開始した。PB投与1週間の時点で肝部分切除を行い,6週間後に解剖を行った。肝切除時および解剖時に採材した肝臓サンプルについてゲノムDNAを採取し,超音波による断片化後,MBD2タンパクによるメチル化DNAの分画を行った。このメチル化DNAについて,Life technologies社のSOLiD4を使用してシーケンス及びマッピング解析を行った。【結果】単一のCpG,CpGアイランド,エクソン,イントロン,及びプロモーター領域のメチル化状態の変化を調べた結果,各化合物を処置したラットの剖検時の肝において,メチル化状態に変化が認められる領域が多数見つかった。肝切除時のDNAにおいても変動領域が認められたことから,DNAメチル化は変動の大きさに違いはあるものの,週齢や化合物処置により変動しうるものであることが示唆された。また二段階発がん試験において陽性と判定されたDEN投与ラット肝DNAで特異的な変動領域が存在し,これらの領域と発がんに何らかの関連がある可能性が考えられた。今後は本解析によって見出された変化と発がんメカニズムの関連について,より詳細な検討を実施していく予定である。
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藤田 正晴, 丸山 裕子, 湯浅 敦子, 神保 良弘, 笠原 利彦, 日置 孝徳
セッションID: P-241
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
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【目的】多くの工業製品に使用されている高分子材料の原料の1つであるアクリレートは、強い皮膚感作性を示すことが良く知られている。本研究では高感度にUV吸収を有する新規Cys誘導体を利用して、市販アクリレートとの反応速度定数kとLLNA試験のEC
3との対応から、感作性予測が可能か否かの検討を行った。
【方法】Cysのアミノ基に2-(1-ナフチル)アセチル基を導入した新規Cys誘導体(NAC)を合成した。また、市販アクリレートを12種類購入し、これらを中性緩衝液とアセトンとの混合溶液中で25℃で反応させた。この反応液から経時的にサンプルングしてHPLC測定し、反応速度定数kを算出した。一方、市販アクリレートについてLLNA試験(BrdU法)を実施してEC
3を算出した。
【結果】①NACは281nmに吸収極大を有する化合物であり、HPLCで高感度に検出できた。②本試験条件下では市販アクリレートのk(h
-1)は0.01未満から0.5の範囲であった。④LLNA試験の結果、陽性が9種類、陰性は3種類であった。⑤pEC
3とlogkとの対応を検討した結果、両者の間に良好な正の相関が認められた。
【考察】化学合成した新規Cys誘導体NACは、HPLCで高感度測定が可能な化合物であることがわかった。これを用いて求めたlogkとLLNA試験から求めたpEC
3の間に良好な正の相関が認められた。これは、求電子剤としてのアクリレートの反応性が増加することによって、生体内におけるタンパクと反応しやすくなり、皮膚感作性の強度が増加するという発症機序に良く対応していることがわかった。
【結論】新規Cys誘導体を用いたkの算出から、アクリレートの感作性を予測することが可能となった。
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宮澤 正明, 額田 祐子, 坂口 斉, 西山 直宏
セッションID: P-242
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
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近年、動物愛護への関心の高まりや欧州での動物実験禁止への動きから、動物実験代替法の開発に注目が集まっている。そこで我々は、代替法を用いた皮膚感作性評価に向けて、感作誘導期で重要な樹状細胞の活性化に着目し、ヒト単球由来細胞のTHP-1細胞を用いた
in vitro皮膚感作性試験法human Cell Line Activation Test(h-CLAT)を㈱資生堂と共同で開発してきた。一方、動物試験のLocal lymph node assay(LLNA)で評価する複雑な感作反応全てを単独の
in vitro試験法だけで再現するには限界があるため、異なる作用機序に着目した
in vitro試験法を組み合わせることが予測精度を向上させるためには重要と考えられる。本研究では、LLNAで評価済みの101化合物に関して、h-CLATに加えて、感作性物質の蛋白結合性に着目した
in vitro試験法のDirect Peptide Reactivity Assay(DPRA)、
in silicoシステムのDerek、そして、各
in vitro試験法を組み合わせたバッテリー評価の有用性を検証した。その結果、各試験データをスコア化し、加算したスコアから感作性予測を実施するIntegrated Testing Strategyでは、LLNAに対し85.1%の一致率を示し、単独の試験で評価するよりも予測精度が向上した。また、h-CLATとDPRAを段階的に組み合わせるTiered approachでは、86.1%の一致率を示した。さらに、いずれのバッテリー評価でも感作性強度予測に対して70%以上の一致率を示した。本結果から、h-CLATが他の試験法とのバッテリー評価を構築するのに有用な試験法であることに加えて、h-CLATとDPRAのTiered approachが感作性の初期評価として有用であることが示唆された。
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内野 正, 竹澤 俊明, 山下 邦彦, 小島 肇, 清水 久美子, 宮永 裕子, 五十嵐 良明, 西村 哲治
セッションID: P-243
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
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【目的】我々は皮膚感作性試験代替モデルとして、ビトリゲルチャンバーを培養担体とした、正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHSF)、樹状細胞(NHDC)及び表皮角化細胞(NHEK(F))から成る3次元培養ヒト皮膚モデルを開発し、感作性物質によるサイトカイン放出について報告した。しかし、それぞれの細胞のサイトカイン放出への関与については不明な点が多かった。そこで、3種類の細胞を単独で、あるいは2種類を組み合わせて培養し、感作性物質を暴露した時のサイトカイン放出量を測定した。
【方法】 96穴プレートにNHSF, NHDCを播種し、DNCB またはSDSを24時間暴露した後、細胞生存率をCell-Counting kitで、IL-8及び G-CSF放出量をELISAで測定した。角化細胞だけからなるEPI-200モデルまたはビトリゲルチャンバーにNHSF及びNHEK(F) を播種し、同様の物質を1時間暴露した後、サイトカイン放出量を測定した。
【結果及び考察】3種類の細胞を単独で培養した時及びEPI-200モデルでは、溶媒対照に比べてIL-8放出量の顕著な増加は認められず、G-CSF放出量は検出限界以下だった。NHSF及びNHEK(F)の2種類の細胞を播種したモデルでは3種類の細胞を播種したモデル(VGC-KDF-Skin)と比べてIL-8及び G-CSF放出量は有意に少なかった。これらの結果から、G-CSF及びIL-8を皮膚感作性の指標とした時、VGC-KDF-Skinはそれぞれの細胞を単独で培養した時あるいは角化細胞だけからなる皮膚モデル、または2種類の細胞を播種したモデルよりも優位であることがわかった。
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安保 孝幸, 大島 健一, 額田 祐子, 林 卓巳, 荒木 大作, 坂口 斉, 西山 直宏
セッションID: P-244
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
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眼刺激性の評価において、ウサギを用いたDraize試験を一つの代替法のみで完全代替するのは困難であり、複数の代替法を段階的に組合せた評価体系が有用であると考えられる。今回の検討では眼刺激性におけるGHS区分(区分外、Category 2、Category 1)を行うため、ウサギ角膜由来株化細胞SIRCを用いるShort Time Exposure(STE)試験、3次元培養モデルを用いるEpiOcular™ 試験、そしてウシ摘出角膜を用いるBCOP試験を段階的に組合せた評価体系の構築を検討した。
評価物質は一般化学物質から化学的分類、及びGHS区分を考慮し、125物質を選択した。STE試験は、評価物質の5%溶液をSIRC細胞に5分間暴露した際の細胞生存率を指標に、EpiOcular™ 試験は未希釈の評価物質を暴露した際の細胞生存率を指標に非刺激物と刺激物を区分した。一方、BCOP試験はウシ摘出角膜に評価物質を暴露し、角膜の混濁度と透過度をスコア化してGHS Category 1を区分した。
初めに、STE試験溶媒に可溶の評価物質はSTE試験を、不溶の評価物質およびSTE試験の適用限界物質である固体の塩類、アルコール、炭化水素、そして高揮発性物質(飽和蒸気圧>6000Pa(25℃))はEpiOcular™ 試験を実施し、非刺激物と判定された場合にGHS区分外と判別した。次に、刺激物と判定された評価物質に関してBCOP試験を実施し、Severeと判定された評価物質をGHS Category 1、Non-severeと判定された評価物質をGHS Category 2と判別した。その結果、125物質におけるGHS区分の予測性は72.0%、過小評価率は9.6%となった。以上、これらの3つの試験法を段階的に組合せた評価体系は、様々な化学物質の眼刺激性におけるGHSを区分するための有望な手法と考えられた。
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六川 潤美, 榊原 隆史, 伊藤 浩太, 河村 公太郎, 古川 正敏, 藤平 司郎, 市戸 等, 並木 正人, 平賀 武夫, 小島 肇, 松 ...
セッションID: P-245
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
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(背景)化学物質の安全性評価のために実施されている安全性試験の一つにウサギを用いた眼刺激性試験(Draize法)があるが、動物愛護の観点から様々な代替法が検討されてきた。そのうちの一つである「牛摘出角膜を用いた眼刺激性試験代替法(BCOP法)」が、2009年に経済協力開発機構(OECD)の化学物質に関する試験法ガイドライン(TG 437)に、眼腐食性および強度刺激性を評価する試験法として採択された。BCOP法は海外ではすでに受託試験として確立されているが、国内においてはBSEなどの問題もあり、実施が困難な状況であった。そこで我々は受託試験としてのBCOP法を国内で初めて立上げるために、検討を重ねてきたのでその結果を報告する。
(方法)食用牛の眼球より摘出した角膜を専用のホルダーに装着し、培地を満たして加温および平衡化した。被験物質暴露後に、オパシトメーター(BASF)により角膜の混濁度を測定し、フルオレセインナトリウム溶液の角膜透過率を分光光度計により測定した。また、混濁度および透過率より、
in vitro刺激性スコア(IVIS)を算出し、化学物質の腐食性または刺激性の強さを判定した。混濁度と透過率の測定後、全ての角膜を10%中性緩衝ホルマリン液で固定し、常法に従って、ヘマトキシリン・エオシン染色標本を作製して病理組織学的検査を実施した。
(結果)これまでOECD TG 437推奨物質及び陰性対照物質を含む37被験物質について検査し、算出された
in vitro刺激性スコア(IVIS)は、公表されている
in vitro成績とも一致度は高く、眼腐食性・強度刺激性の検出精度が高いことが確認された。また角膜の病理組織学的検査は精査中であり、混濁度、透過性との関連性については更なる検討を行っている。
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西田 直史, 吉村 裕貴, 佐々木 勝崇, 中島 芳浩, 近江谷 克裕, 押村 光雄, 大林 徹也
セッションID: P-246
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
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[目的]
化学物質のリスク評価においては、一般的に動物を用いた長期毒性試験によって評価の基礎となる有毒性情報を取得している。しかし、動物愛護の観点や長期毒性試験の費用・効率が課題として指摘されていることから、動物実験に代わる評価手法が必要である。そこで本研究では、発光イメージング技術と染色体工学技術を融合させたin vitro試験系の開発を目指す。
[方法]
ヒトインターロイキン(hIL)-1βの転写制御領域を含むBACクローンを改変し、翻訳開始点下流に緑色ルシフェラーゼ遺伝子(SLG)を導入した。この改変BACクローンを長大ゲノムDNAの搭載が可能なヒト人工染色体(HAC)ベクターに組換えた。CHO細胞内に保持されているHACベクターを免疫毒性に感受性の培養細胞(U937細胞)に移入し、毒性評価細胞hIL-1β HAC U937細胞を樹立した。本研究では、この細胞のリポポリサッカライド(LPS)に対する動態を解析し、毒性評価細胞としての適正を検証した。
[結果と考察]
樹立したhIL-1β HAC U937細胞をLPS(100 ng/mL)で刺激したところ、LPS添加1.5時間後から経時的なルシフェラーゼ活性の増加が確認された。そのときの内因性hIL-1βをELISAで測定したところ同様の増加を示した。1-100 ng/mLのLPSで細胞を刺激し、ルシフェラーゼアッセイとELISA法の感度および反応時間を比較したところ、ルシフェラーゼアッセイにおいては1 ng/mLのLPS添加6時間後で有意な増加を検出できた。さらにLPSの検出限界を検討するために、0.001-0.1 ng/mLの濃度で細胞を刺激したところ、0.01 ng/mLでルシフェラーゼ活性の有意な増加が確認された。
これらの結果から、BACクローンの長大転写制御領域とルシフェラーゼ遺伝子、人工染色体ベクターを用いて、高感度な毒性評価細胞を作製できることが示された。
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津森 優希, 小林 秀太, 片木 淳
セッションID: P-247
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
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【背景・目的】肝障害は医薬品の開発中止につながる主要原因の一つであり,創薬において早期から潜在的な肝障害リスクを予測することが重要である.この創薬早期段階での肝毒性評価には,スループットの良さ,種差を考慮して,HepG2や初代ヒト凍結肝細胞などヒト細胞を用いたIn vitro評価系が多く用いられている.しかしながら,HepG2はCYPなどの代謝酵素やトランスポーターの発現が低く,ヒトへの外挿性は十分とはいえない.また,初代ヒト凍結肝細胞はロット差が極めて大きい,短期間で活性が失われるため長期培養は困難であるといったデメリットがある.そこで本研究では,初代ヒト凍結肝細胞で見られる主要代謝酵素,トランスポーター,核内受容体の発現や酵素誘導能を有することが報告されているヒト肝腫瘍由来細胞株HepaRG細胞に着目し,薬剤による細胞毒性作用をヒト肝腫瘍由来細胞株HepG2細胞,初代ヒト凍結肝細胞とで比較評価した.
【方法】肝毒性が報告されている既存薬(Troglitazone, Flutamide, Ticlopidine, FCCP)及び電子伝達系複合体阻害薬(Rotenone, AntimycinA2, Oligomycin)をそれぞれの細胞に作用させ,24時間後にATP濃度を測定し,薬剤の細胞毒性作用を評価した.
【結果】HepaRG細胞は,HepG2細胞に比べ薬剤の細胞毒性作用を低濃度から検出でき,初代ヒト凍結肝細胞により近いレベルで評価可能であった.特に,HepG2細胞では細胞毒性作用の感度が低い電子伝達系複合体阻害薬において,HepaRG細胞では初代ヒト凍結肝細胞と同様の強い作用が認められた.HepaRG細胞の毒性分野での検討は少なく,本結果はHepaRG細胞を用いたヒト肝毒性評価に貢献しうると考えている.
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小関 直輝, 山下 晃人, 出口 二郎, 山田 徹, 木村 重紀, 船橋 斉
セッションID: P-248
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
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【目的】薬物誘発性の痙攣は通常げっ歯類等の哺乳類で一般状態の観察を指標に評価されているが、これらの評価は創薬研究の比較的後期に実施されることが多く、創薬の初期段階に少量の検体で実施可能なスループット性の高い痙攣誘発スクリーニング系が求められている。このため、先に我々は少量検体での評価が可能で、ハイスループット化が容易な評価系として期待されるゼブラフィッシュ(Zf)を用いて行動量を指標に痙攣誘発能アッセイ系の確立を試みた(昨年度本学会にて発表)。しかしながら、先に報告した評価系では痙攣誘発が既知の薬剤の幾つかでそのポテンシャルを検出することが出来なかった。この問題を解決するため、実験条件について見直しを行い、検出感度の向上を試みたので以下に報告する。
【方法】TL系Zfより常法に従って受精卵を採取し、48 wellマイクロプレート中で7日間飼育した。その後、前回の報告で痙攣誘発ポテンシャルが殆ど検出できなかった抗うつ薬、キノロン系抗菌薬、抗ヒスタミン薬などの既知の痙攣誘発化合物について、脳内における曝露量確保の観点から曝露時間を延長した条件で、或いは痙攣に関連する行動の惹起を目的として閃光刺激を加えた条件で行動量を評価した。
【結果・考察】従来の薬物曝露直後における行動量測定では、痙攣に関連する高速移動時(> 20 mm/sec)の行動量の増加は認められなかったが、曝露3, 6時間後では高速移動時の行動量の増加した化合物が認められた。また、曝露4時間後の時点で1秒間に10回の閃光刺激を加えた場合においても、高速移動時の行動量の増加した化合物が認められた。以上の結果から、本評価系は薬物添加直後の行動量を指標とする従来法に加え、薬物の曝露時間延長や閃光刺激など適切な実験条件を設定することにより痙攣誘発能の検出力が向上し、初期スクリーニング評価系として有用性が向上すると考えられた。
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松下 幸平, 木島 綾希, 石井 雄二, 高須 伸二, 金 美蘭, 黒田 顕, 増井 則夫, 能美 健彦, 小川 久美子, 西川 秋佳, 梅 ...
セッションID: P-249
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
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【背景】化学物質の発がん性評価は、げっ歯類による長期発がん性試験により行われているが、その結果をヒトに外挿するためにはmode of action (MOA)を解析する必要があり、発がん物質のリスク評価には多大な動物数・コスト・時間が必要とされる。そこで、
gpt deltaラットに被験物質を4週間投与した後、部分肝切除(PH)を施し、その切除肝を用いて
in vivo変異原性試験を行い、引き続きdiethylnitrosamine(DEN)を単回投与して、被験物質投与を継続し、肝臓に誘発されるGST-P陽性巣への促進効果を同時に検索できる試験法の開発を試みた。今回は、標準プロトコール確立のため、DENの適正投与量およびプロモーションアッセイのための適正投与期間を検索する目的で実験を行った。【方法】
実験①10週齢雄性F344ラットにPHを施し、18時間後にDENを0, 10, 50, 100 mg/kg単回腹腔内投与した。6週後に動物を解剖し、肝臓におけるGST-Pの定量解析を行った。
実験②6週齢雄性F344ラットにphenobarbital (PB)を4週間混餌投与してPHを施し、18時間後に実験①の結果を踏まえDENを10 mg/kg投与した。その後PBの混餌投与を継続し、PHの6, 8, 10週後に動物を解剖し、同様にGST-Pの定量解析を行った。【結果】
実験①GST-P陽性細胞巣の数、面積ともに10 mg/kg群から用量依存性に増加がみられた。
実験②GST-P陽性細胞巣の数、面積ともにPH6週後より有意な増加が認められた。【考察】実験①および②の結果より、DEN投与量を10 mg/kgに、PH後の実験期間を6週間に決定した。本試験法では実験期間10週間で被験物質の
in vivo変異原性およびプロモーション活性の検出が可能であるため、短期間でMOAを考慮に入れた総括的な発がん性評価が期待される。現在、
gpt deltaラットを用いて、今回確立された実験プロトコールに従い既知の発がん物質による本試験法のバリデーションを実施中である。
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吉田 美雪, 佐々木 一暁, 村田 勇二, 片山 誠一, 今泉 真和, 那須 昌弘
セッションID: P-250
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
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薬物や化学物質の安全性評価において,内分泌器官に対する影響の有無を評価しておくことが一般的になっており,その評価項目の一つとして血中ホルモン濃度がある.例えば反復投与毒性試験等において,血中ホルモン濃度の変化を評価するためには,動物のホルモン濃度変動を事前に把握しておく必要があり,我々はこれまで各種動物のホルモン濃度の背景データを採取してきた.
医薬品開発における毒性試験ではウサギ以外の非げっ歯哺乳類としてイヌあるいはサルが一般的に用いられてきたが,近年,動物福祉の点からイヌやサルに代わりミニブタやマイクロミニブタの使用が増加している.
今回我々は,イヌやサルに代わる非げっ歯哺乳類として注目されているマイクロミニブタの血中のホルモン(甲状腺関係,副腎関係,性腺関係)濃度を測定し,その日内変動(日周性)の背景データを採取した.
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吉岡 豊晃, 須山 由美, 段林 健太, 岩地道 貴子
セッションID: P-251
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
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嘔吐する能力を有しないラットの唾液アミラーゼ活性が嘔吐の有力なマーカーであることをこれまで報告してきた(Fukui et al., J Pharmacol Sci, 2010; 113: 143-152, 2011; 115: 69-74)。リラグルチド(Lira)あるいはエキセナチド(Exe)等のGLP-1受容体作動薬は臨床で嘔吐が報告されているが、サルの毒性試験では高用量を投与しても嘔吐はみられていない。今回、ヒト特異的に嘔吐を起こすと考えられるlira及びexeがラットの唾液アミラーゼ活性及びイヌの催吐作用に及ぼす影響を検討した。また、lira及びexeにより増加したラット唾液アミラーゼ活性に及ぼすドーパミンD
2受容体拮抗薬メトクロプラミド、5-HT
3受容体拮抗薬グランニセトロンあるいは腹部迷走神経切断の影響を検討した。
Lira (0.2-1 mg/kg, s.c.)及びexe (0.003-0.03 mg/kg, s.c.)の臨床血中濃度付近から、ラット唾液アミラーゼ活性は用量依存的に増加した。一方、イヌにlira (1 mg/kg, s.c.)あるいはexe (0.03-0.2 mg/kg, s.c.)を投与しても嘔吐は惹起されなかった。Liraによる唾液アミラーゼ活性の増加はメトクロプラミドで有意に抑制されたが、グラニセトロンあるいは腹部迷走神経切断では抑制されなかった。一方、exeによる唾液アミラーゼ活性の増加は、いずれの処置でも抑制されなかった。以上の結果から、ラット唾液アミラーゼ活性はGLP-1受容体作動薬の臨床暴露量付近から増加したことから、ヒト特異的に嘔吐を誘発させる薬物の催吐作用検出にも有用であること、及びliraによる唾液アミラーゼ分泌は中枢のドーパミンD
2受容体が関与し、exeのそれはドーパミンD
2あるいは5-HT
3受容体を除く中枢の受容体に関与することが示唆された。
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大歳 達也, 三浦 大作, 名村 敦佳, 井上 雄太, 安西 尚彦, 清宮 健一
セッションID: P-252
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
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近年、世界中でナノマテリアルが利用されるようになってきているが、各ナノマテリアルの生体に対する影響はまだ完全には明らかになっていない。我々は、ナノマテリアルの安全性評価系を確立することを目標として研究を行っている。ナノマテリアルが生体と最初に接触するところは細胞膜であり、細胞膜に存在する機能分子、特にトランスポーターに影響するのではないかという仮説の元に研究を行っている。ナノシリカ(nSP)は、よく用いられるナノマテリアルのうちカーボンブラックに次いで生産量が多いものであり、様々な粒子径、表面修飾および色素封入したものなどが入手しやすいことから、nSPを用いて様々な検討を行ってきた。我々はまず、マウス白血病細胞由来L1210細胞にアドリアマイシン(ADM)を低濃度で長期間処置することにより多剤耐性L1210/ADM細胞を樹立し、abcb1a依存性ADM排出に対するnSPの影響を調査した。平均粒子径70 nm(nSP70)および300 nm(nSP300)のものは用量に対応してL1210/ADM細胞のabcb1a依存性ADM排出を阻害した。同様の方法で平均粒子径1 µm(mSP1)および3 µm(mSP3)のものはL1210/ADM細胞のabcb1a依存性ADM排出を阻害しなかった。また、ADM排出トランスポーターであるabcc1を強制発現させたHEK293細胞株を用いて、nSPがabcc1依存性ADM排出に対する影響も確認する。
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井上 雄太, 三浦 大作, 小林 学, 安西 尚彦, 清宮 健一
セッションID: P-253
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
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平均粒子径がナノメートルオーダーに加工された非晶質シリカ粒子(nSP)は、今日では医薬品、食品および化粧品の添加物として広く用いられているが、その生物学的影響についてはまだよくわかっていない。
我々は、生体に暴露されたシリカ粒子が最初に接触する場所は細胞膜であるという観点から、nSPが細胞膜に存在する機能分子、特にトランスポーターに影響するのではないかという仮説に基づいて研究を行っている。マウス白血病由来L1210細胞に低濃度のアドリアマイシン(ADM)を長期間処置することにより樹立した多剤耐性L1210/ADM細胞は、abcb1aトランスポーターを発現し、ADM排出能を獲得していることが確認された。このL1210/ADM細胞を用いてADM排出能を調べたところ、平均粒子径が1 µm以上のシリカ粒子(mSP)はADM排出を阻害しなかったが、nSPはADM排出を用量に対応して阻害した。赤色蛍光色素を封入した平均粒子径50 nmのnSP(nSP50-RITC)をL1210/ADM細胞に処置したところ、細胞膜近傍に局在することが観察された。また、nSP50-RITCを処置したL1210/ADM細胞を用いてabcb1aの免疫組織化学的解析を行ったところ、nSP50-RITCとabcb1aは共局在していることが示唆された。
以上の結果から、L1210/ADM細胞において、nSPはabcb1aと相互作用することにより、ADM排出を阻害することが示唆された。
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