日本毒性学会学術年会
第39回日本毒性学会学術年会
選択された号の論文の420件中151~200を表示しています
脳神経、依存性(慢性毒性)、毒性発現機構
  • 舩田 正彦, 富山 健一
    セッションID: O-43
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    違法ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)として、カチノン誘導体である3,4-methylenedioxypyrovalerone (MDPV)が流通している。MDPVの有害作用に関する研究は進んでおらず、乱用により健康被害の発生が懸念される。本研究では、MDPVの行動薬理学特性並びに細胞毒性発現に関する検討を行った。
    【方 法】行動解析実験には、ICR系雄性マウス(20 - 25g)を使用した。1)MDPVの精神依存性:薬物の精神依存性は、conditioned place preference(CPP)法により評価した。MDPV投与による条件付け(1日1回6日間、3:溶媒、3:薬物)を行ない、条件付け終了24時間後に、CPP試験を行った。また、ドパミン受容体拮抗薬SCH23390前処置の影響も検討した。2)細胞毒性の評価:マウス線条体の初代培養神経細胞を使用して、MDPV添加24時間後に、死細胞由来プロテアーゼ遊離を測定し、細胞毒性の指標とした。
    【結 果】1)MDPVの精神依存性:MDPVの条件付けにより、有意なCPPの発現すなわち報酬効果の発現が確認された。MDPVは精神依存形成能を有する危険性が示唆された。また、MDPVによる報酬効果は、ドパミン受容体拮抗薬SCH23390の前処置により有意に抑制された。2)細胞毒性の評価:マウス線条体の初代培養神経細胞を使用して、MDPV添加による細胞毒性の評価を行った。MDPV添加24時間後に、死細胞由来プロテアーゼ遊離が増大し細胞毒性の発現が確認された。また、MAP-2抗体による神経細胞の染色を行ったところ、MDPV添加群においてMAP-2陽性細胞の減少が確認された。
    【考 察】本研究により、カチノン誘導体であるMDPVは精神依存形成能を有することが明らかになった。MDPVの精神依存形成において、ドパミン神経系が重要な役割を果たしていると考えられる。さらに、細胞毒性を惹起することから、MDPVの乱用により重篤な健康被害の発生が危惧される。
  • 富田 正文, 奥山 敏子, 勝山 博信, 伏見 滋子, 渡辺 洋子, 芝池 由規, 善成 晴彦, 宮本 修
    セッションID: O-44
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【目的】覚せい剤 (MA)使用者に体温が上昇することはよく知られている。中枢性の体温調節機構は一般に大脳皮質や辺縁系に連絡する視床下部やその周辺が関係する。そこでMAによる体温上昇が体温中枢に直接関与するか否かについて検討した。
    【材料と方法】MAをマウス腹腔内に投与し,自由運動下及び拘束状態下において経時的に直腸温を測定した。次にMA投与1時間後に麻酔下で還流固定を行い,各脳部位でのc-fos陽性細胞を比較検討した。
    【結果と考察】自由運動下ではMA 10-30mg/kgで体温上昇が認められdose-responseを示した。一方,拘束状態下では,MA 10mg/kgで体温上昇はみられなかったが,20 mg/kgで上昇を示した。この上昇は自由運動下でのMA 20 mg/kgと同様に投与後60分まで認められ,その後は急激に低下した。この60分までの体温上昇がMAによる体温中枢への関与を示唆したので,抗c-fos抗体を使ってMA投与後60分でのc-fos陽性細胞について検討した。その結果,線条体の他,視床室傍核, 視索前野, 外側前視床下部核, 背側野, 外側野などで対照群に比べ有意に高い数値が得られた。他方,海馬では顕著な変化はみられなかった。さらに抗NeuN抗体で検討した結果,c-fos陽性細胞はほぼ神経細胞に一致した。これまで,ストレスによってストレスホルモン産生細胞の多い脳部位でのc-fos陽性細胞が増加し,短時間での体温上昇を認めるという報告がみられる。一方,MA投与後6時間ではストレスホルモンである血中コルチコステロンが有意に上昇するが,短時間での変化は分かっていない。今後,短時間での血中ストレスホルモンを測定してストレスとの関連を調べ,MAによる60分までの体温上昇が,覚せい剤による直接的な神経細胞への影響なのか,ストレスを介した結果なのかを明らかにしたい。
一般口演10
毒性関連遺伝子、 酸化ストレス、発がん
  • 原 俊太郎, 佐々木 由香
    セッションID: O-45
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【目的】化学物質により引き起こされる発がんの過程に、誘導型シクロオキシゲナーゼCOX-2により産生されるプロスタグランジン(PG)類が深く関与することが示唆されているが、PG類がどのように化学発がんに関わるかについては未だ不明な点も多い。PGE2やPGI2といった各々のPG類は、COX-2によりアラキドン酸から合成されたPGH2に各々のPGに特異的な最終合成酵素が作用することにより産生される。本研究では、化学発がんにおけるPG類の関与をより明らかにするために、いずれもCOX-2と機能連関し、それぞれPGE2、PGI2の産生を担うPG最終合成酵素、膜結合型PGE合成酵素-1(mPGES-1)およびPGI合成酵素(PGIS)の欠損が化学発がんに及ぼす影響について、各々の酵素の遺伝子欠損(KO)マウスを用い検討した。
    【方法】mPGES-1/PGIS 両ヘテロ欠損マウスをコントロールとし、mPGES-1 KOマウス、PGIS KOマウス、mPGES-1/PGIS ダブルKO(DKO)マウスを用いて実験を行った。これら4種の遺伝子型のマウスに化学発がん剤アゾキシメタン(AOM)を週一回、6週連続投与し、投与開始から12週目の前がん病変形成と26週目のポリープ形成について解析した。
    【結果・考察】AOM投与から12週目の前がん病変の形成は、コントロールと比較してmPGES-1 KOマウスでは抑制され、PGIS KO マウスでは促進されたが、一方、DKOマウスではコントロールと同レベルであった。また、AOM投与後26週目におけるポリープ形成もmPGES-1 KOマウスでは抑制されたが、DKOマウスではmPGES-1 KOマウスよりも増加しており、PGIS KOマウスでは大きいサイズのポリープがコントロールよりも増加した。これらのことよりmPGES-1により産生されるPGE2が発がんに対して促進的に働くのに対し、PGISにより産生されるPGI2は抑制的に作用していることが明らかとなった。
  • 木村 真之, 藤井 雄太, 山本 龍一, 谷合 枝里子, 八舟 宏典, 林 新茂, 鈴木 和彦, 三森 国敏, 渋谷 淳
    セッションID: O-46
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    〔目的〕我々は肝細胞に巨大核を誘発するチオアセタミド(TAA)によるラット肝発がん促進過程早期に細胞周期異常が関与することを既に報告している。この細胞周期異常メカニズムに対する酸化性ストレスの関与の有無を検討する目的で以下の実験を行った。〔方法〕雄性F344ラットにジエチルニトロソアミン(DEN)を単回腹腔内投与し、2週後からTAA (0.02%)を6週間飲水投与し、同時に抗酸化剤である酵素処理イソクエルシトリン (EMIQ:0.5%)ないしαリポ酸 (ALA:0.2%)を混餌投与する群を設定し、TAA投与開始1週間後に2/3肝部分切除を行った。実験終了後、GST-P陽性巣の定量解析と共に、細胞増殖、細胞周期関連分子、アポトーシス等を解析し、抗酸化剤投与の影響を検討した。〔結果〕TAA単独群に比較して、EMIQ併用群において肝絶対・相対重量が減少した。GST-P陽性巣はTAA投与各群でDEN対照群と比較して数・面積共に増加したが、EMIQ、ALA併用により、それらは減少した。免疫組織化学的解析により、細胞増殖指標のKi-67、アポトーシス指標のactive caspase 3、G2/M期チェックポイント分子のp-Chk1、G2/M期分子のCdc2、TAAの細胞毒性を反映しているGST-P陽性単細胞は、TAA単独群に比較してEMIQ、ALA併用群で減少した。またreal-time RT-PCRによるmRNA解析では、G2/M期遺伝子のCdc2Ccnb1 (CyclinB1)、抗酸化酵素のGpx3の発現がTAA単独群と比較してEMIQ、ALA併用群で減少した。〔考察〕TAA投与により、肝細胞の増殖活性と共にアポトーシスや、抗酸化酵素発現肝細胞が増加し、これらの全てがEMIQ、ALA併用投与により抑制された。更に、TAA投与によるG2/M期チェックポイントの活性化と共にG2/M期にとどまる細胞の増加は抗酸化剤投与により減少し、TAAによる発がん促進作用には酸化性ストレスに起因したG2/M期の破綻とそれに引き続くアポトーシスや静止細胞の増加、反応性の増殖機構の関与が示唆された。
  • 盛田 怜子, 林 仁美, 谷合 枝里子, 八舟 宏典, 赤根 弘敏, 白木 彩子, 石井 雄二, 鈴木 和彦, 渋谷 淳, 三森 国敏
    セッションID: O-47
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【背景および目的】肝臓における代謝過程でCYP2Bを誘導する化学物質の中には、CYP2B誘導による活性酸素種 (ROS) 産生とそれに伴う酸化的ストレスに起因するラット肝発がんプロモーション作用を持つものがある。本研究では、CYP2B誘導剤であるORPHのラットにおける肝発がんプロモーション作用について検討した。【方法】ラット肝2段階発がんモデルを用い、6週齢の雄性F344ラットにイニシエーターとしてdiethylnitrosamine (200mg/kg) を単回腹腔内投与し、2週間後からプロモーターとしてORPH (1500ppm, 750ppm) の混餌投与を行った。混餌投与開始から1週間後に2/3部分肝切除を施し、実験開始から8週間後に剖検した。肝臓を採材し、病理組織学的、免疫組織化学的および分子病理学的検索を行った。【結果】ORPH投与群で体重増加抑制が認められ、相対肝重量の有意な増加が認められた。また、肝細胞の肥大と空胞変性、変異肝細胞巣が濃度依存的に認められた。肝前がん病変のマーカーであるglutathione S-transferase placental form (GST-P) の陽性細胞巣は個数、面積ともにORPH投与群で有意に増加し、Cyp2b1/2のmRNA発現、酸化的ストレスの指標であるthiobarbituric acid-reactive substance (TBARS) およびマイクロソームにおけるROS産生がORPH投与により有意に増加した。また、DNA損傷の指標となる8-hydroxydeoxyguanosine (8-OHdG) もORPH1500ppm投与群において有意に増加した。【考察】ORPHがラット肝発がんプロモーション作用を有することが明らかとなり、その機序にはCYP2B誘導によるROS産生とそれに伴う酸化的ストレスが関与していることが示唆された。
  • 河合 悦子, 新 範之, 渡辺 文太, 平竹 潤, 松村 靖夫, 大野 行弘
    セッションID: O-48
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【目的】γ-glutamyl transpeptidase(GGT)はグルタチオン(GSH)やGSH抱合体の代謝の第一段階を担う酵素である。このGGTを介した代謝経路で生成されたシスプラチンの活性代謝産物が腎障害を誘発するとの考えがある。そこで、新規に開発され従来の阻害薬に比べてGGTに対する選択性が高く、毒性の少ない阻害薬GGsTopTMのシスプラチン腎障害に対する保護作用について検討した。
    【方法】SD系雄性ラットにシスプラチン(6 mg/kg, i.v.)を投与し、GGsTopTM (10 mg/kg, i.v.)はシスプラチン投与30分前に投与した。 シスプラチン投与1,2,3日後にGGT活性および腎障害の指標として血漿クレアチニン、BUNやN-acetyl-β-D-glucosaminidase (NAG)の尿中への排泄量を測定した。また活性酸素産生は腎凍結切片を用いてジヒドロエチジウム(DHE)染色により、腎組織学的変化はPAS染色にてそれぞれ観察した。
    【結果】投与3日後においてシスプラチンは血漿クレアチニン、BUNおよびNAGの尿中への排泄量をそれぞれ有意に増大させ、尿細管拡張などの組織学的変化をもたらした。腎障害に先駆けてシスプラチン投与2日後よりDHEの蛍光強度増大がみられ、活性酸素産生増大が確認された。シスプラチンは腎GGT活性には影響を及ぼさなかった。GGsTopTMはこれらのシスプラチンによる活性酸素産生増大、腎障害や組織学的変化のいずれに対しても抑制効果を示した。
    【考察】選択的GGT阻害薬GGsTopTMは、シスプラチンによる活性酸素産生増大を抑制することで腎障害を軽減させたと考えられる。このシスプラチンによる活性酸素産生増大にGGTが関与していることが明らかとなった。
  • 平林 容子, 尹 秉一, 五十嵐 勝秀, 菅野 純, 井上 達
    セッションID: O-49
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    ベンゼンによる造血障害は、Santessonによるタイヤ工場での慢性中毒報告(1987)以来90余年を経た後、初めてSnyder(1980)やCronkite(1982)らが慢性間歇曝露により実験白血病発症の糸口を解いたが、発生した腫瘍はリンパ性白血病並びに悪性リンパ腫に限局しており、ヒトにおける骨髄性白血病の多発との乖離は関心の的であった。我々は骨髄性白血病好発系のC3H/Heマウスとリンパ性白血病好発系のC57BL/6マウスの双方を用い、かつ、それぞれのp53欠失マウスにおける造腫瘍亢進状態を併行して観察することで、ベンゼンに造血器腫瘍発生の一般的傾向が認められる事を確認するとともに、頻度の違いはあれ、いずれの系統にも潜在的な骨髄性白血病の発症特性があることを初めて証明した(Kawasaki et al. 2009)。今回、これらの背景としてのベンゼンによる遺伝子発現変化について、特にC3H/HeマウスとC57BL/6マウスの比較に焦点をあてて解析した結果を報告する。【材料と方法】C3H/He及びC57BL/6のSham群とベンゼン曝露群、各5匹、計4群に2週間の強制経口投与を行い、投与終了4週後にそれぞれ個体別に回収した骨髄細胞で網羅的な遺伝子発現解析をして、それぞれの系統別に発現強度に基づく有意差による群共通に特異的な遺伝子プロファイル(BICGEP)及び、それら群毎のマウス個別のstochasticな遺伝子発現を主要因分析によって選別したプロファイル(BISGEP)を抽出し、系統間で重複する遺伝子を省いた上で、既存のデータベースなどを利用してその特性を解析した。【結果と考察】BICGEPでは、多くの遺伝子が発がんもしくは細胞回転に関連している点で系統間に共通性があること、BISGEPではGene ontologyにも、予測される支配転写遺伝子にも系統差が認められることなどが明らかとなった。ベンゼン曝露に起因する共通の障害応答機序と、系統間での発がん頻度やそのスペクトラムの違いの両面が反映された結果と考えられ興味深い。
一般口演11
感覚器、安全性評価
  • 友廣 雅之
    セッションID: O-50
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    ヒトは外部環境の情報入力の約80%を視覚に頼っており、その障害はQOLに大きく影響し、過去にはクロロキン、キノホルムなどによる眼毒性が大きな社会問題となった。毒性試験ガイドラインには眼検査の実施が記載されており、医薬品開発においては各製薬会社が眼毒性の評価に細心の注意を払っているところである。国内においても、比較眼科学会の認定制度が整備され、検査実施者の水準は確実に向上した。
    一方、眼には、涙膜の性質、角膜内皮細胞の生理、房水排泄機構、桿体・錐体の比率、黄斑・中心窩の有無、網膜血管の走行、タペタムの有無、視交差における視神経線維の交換比率などに、ヒトと各種実験動物の間で様々な種差が知られている。眼毒性の評価にあたっては、これらを含め、眼の解剖・生理・生化学・発生・病態・病理などに広くかつ深い知識が要求される。特に病態に対する知識を書いた場合、眼毒性所見の臨床的重要性に対する判断が困難となり、リスク・ベネフィットバランスが評価できない。
    国内の既承認薬の眼毒性事例を把握するために、公開承認審査情報を調査した。その結果、頻度は高くないが、毒性試験において、主に水晶体・網膜に眼毒性所見の事例が認められた。これらを精査すると会社間で眼所見の記録方法にレベルの相違があることが明らかになった。他器官の所見の記載と同様、眼毒性所見においても、病変が具体的に描写されていないと、臨床でのモニターが困難となり、リスクマネージメントの用をなさない。眼毒性が生じた場合の追加眼毒性試験の実施においても、眼の生理機能の知識が極めて重要である。さらには、臨床での検査技術に対する知識からは、バイオマーカーとしての臨床モニターの方法の提案が期待される。
    本発表では、眼毒性評価における課題を明らかにして、リスクを低減しかつ効率的な医薬品開発を実現できる眼毒性評価の方向性について考察したい。
  • 山口 宏之, 小島 肇, 竹澤 俊明
    セッションID: O-51
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    [目的]コラーゲンビトリゲル薄膜(以下CVM)は生体内の結合組織に匹敵する高密度コラーゲン線維より成る厚さ約20μmの膜で、優れた透明性およびタンパク質透過性を有する。これまでにCVMを培養担体としてヒト角膜上皮由来細胞株(HCE-T細胞)を培養してヒト角膜上皮の組織シート型培養モデルを作製し、経上皮電気抵抗値(TEER)を指標として、化学物質の眼刺激性を解析する基盤技術を開発した(Takezawa T. et al., Toxicology in Vitro 25: 1237-41, 2011)。また、最近開発したCVMをプラスチック円筒の片面に貼ったチャンバー(CVMチャンバー)を用いて構築したヒト角膜上皮組織シート型培養モデルでは、化学物質曝露後のTEERの経時変化がGHS分類による被験物質の眼刺激性の強さと良好に相関することが分かった。本研究では、被験物質を曝露した後の「TEERの経時変化」と「組織障害の程度」との相関性について評価することを目的とした。[方法]CVMチャンバー内に再構築したヒト角膜上皮組織シートに被験物質を曝露しTEERの経時変化を3分間測定した。また、細胞生存率の測定、およびタイトジャンクション関連タンパク質の免疫組織学的な解析を行なった。[結果と考察]強い眼刺激性物質を曝露した場合、TEERは大きく減少し、細胞の剥離、細胞死、およびタイトジャンクションの破壊などの変化が全細胞層で認められた。一方、中程度の眼刺激性物質では、TEERの減少は比較的小さく、細胞層の変化は表層側に限定され基底層側では認められなかった。そして、無刺激性物質の場合は、TEERは減少しないか、曝露後、時間差を伴って減少する傾向が見られ、細胞層にはほとんど変化が認められなかった。これらの結果から、被験物質を曝露した後の「TEERの経時変化」と「組織障害の程度」との相関性が見出された。
  • 早川 智広, 國弘 威, 烏野 初萌, 松居 恵理子, 安田 章夫, 黒川 洵子, 古川 哲史
    セッションID: O-52
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    近年、ヒトiPS細胞由来の様々な疾患・病態モデル心筋細胞の作製が報告され、また、複数のiPS細胞由来心筋細胞が市販されるに至り、その産業応用への期待が一層高まっている。一方、これらの細胞を安全性試験等で利用していく上では、培養方法や細胞自体のさらなる最適化に加え、簡便性や自動化、ハイスループット化を視野に置いた新たな細胞評価手法の開発が重要であると考えられる。
     我々は、高速撮影した培養心筋細胞の動画像から、ブロックマッチング法にもとづいた動きベクトル検出技術(Motion Vector Prediction method: MVP法)によって心筋細胞の様々な拍動挙動の抽出を試みている(Hayakawa et al., Tissue Eng. Part C, 2012)。この手法は、培養心筋細胞の拍動数や収縮・弛緩速度、収縮長、拍動方向の配向性、細胞間における拍動の協同性、収縮・弛緩の持続時間、といった細胞の動きに関するパラメータを評価することが可能であり、非染色・非接触で測定することから、長期間の自動培養モニタリングや創薬における安全性評価への応用可能性が示唆された。
     今回、このMVP法を用いて、抗不整脈薬やイオンチャネルブロッカー等の薬剤存在下におけるヒトiPS細胞由来心筋細胞(単層培養、自律拍動)の拍動評価を行ったところ、薬剤やその濃度に依存した特徴的な収縮・弛緩速度の変化や収縮長の変化、弛緩時間の延長、拍動の伝播経路変化などを検出することができた。また、従来の細胞外電位測定法(MEA)とMVP法による細胞の同時測定を行うことによって、電気生理学的現象と拍動挙動の対応評価も行った。本年会においては、これらのデータの詳細をMVP法による心筋細胞評価の実際と併せて紹介し、手法の有用性について議論したい。
  • 細畑 圭子, 安藤 仁, 藤村 昭夫
    セッションID: O-53
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【背景】近年、腎障害マーカーである血清クレアチニンや血中尿素窒素値が上昇する前に進行している腎機能障害が問題になっている。当研究室では、これまでに構築したヒトプライマリ腎細胞に尿細管毒性を有する有機溶媒を曝露した際の遺伝子発現データベースを利用して、腎障害を早期検出するための新規バイオマーカー候補分子vanin-1を同定し、in vivoにおいても腎尿細管障害が顕性化する前に尿中vanin-1が検出されることを確認した(Hosohata K et al, Toxicology 290:82-88, 2011)。今回、薬物性腎障害モデルにおいても尿中vanin-1が既存マーカーおよび種々のバイオマーカーよりも早期に検出されるか否か検討した。
    【方法】急性薬物性腎障害モデルとして汎用されている白金系抗癌薬シスプラチンと抗菌薬ゲンタマイシンを用いて検討した。すなわち、7週齢のWistar系雄性ラットにシスプラチン(5 mg/kgおよび10 mg/kg)を単回投与したのち1日目と5日目に解剖を行うグループと、ゲンタマイシン(40 mg/kgおよび120 mg/kg)を9日間連日投与したのち解剖を行うグループに分けて、24時間蓄尿による採尿を連日行い、回収した腎組織の一部をPAS試薬により染色して病理学的な組織像を観察し、免疫蛍光染色法によりvanin-1の腎内局在を調べた。vanin-1の経時的な尿中および血中への増加についてはELISAにより検討した。
    【結果・考察】シスプラチン10mg/kg投与群では、投与後1日目から尿中vanin-1が上昇し始め、2日目にはコントロール群に比べ有意に高値を示した。ゲンタマイシン120mg/kg投与群においても、投与後4日目には有意な上昇を認め、いずれのモデルにおいても、血清クレアチニンやN-acetyl-β-D-glucosaminidase(NAG)よりも早期に尿中vanin-1が有意に高値を示した。また、vanin-1タンパク量はシスプラチン投与後1日目に比べ、投与5日目において有意に低値であったことから、尿中vanin-1は尿細管障害に伴う脱落によると考えられた。以上より、尿中vanin-1は薬物性腎障害を早期に検出するためのバイオマーカーとなる可能性がある。
  • 山口 文子, 三村 吉一, 佐藤 淳, 原田 房枝
    セッションID: O-54
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【背景と目的】ポリオキシエチレン脂肪酸メチルエステル(MEE)は、液体洗浄剤に使用される非イオン界面活性剤である。我々はMEEのヒト健康影響に対する評価を行い、変異原性、感作性はいずれも陰性であり、局所刺激性も弱いことを確認している。今回、MEEの長期使用時の生殖機能ならびに全身に対する影響を検討する目的で、反復投与毒性・生殖発生毒性併合試験(OECD422)を実施した。【方法】SD系ラット(雌雄各12匹/群)を用い、雄には交配前14日間及び交配期間を通して剖検前日まで(55日間投与)、雌には交配前14日間及び交配期間並びに妊娠期間を通して授乳4日まで(40~44日間投与)MEEを投与した。投与は、MEEを0、0.5、0.9及び1.3%濃度で混じた飼料の自由摂取で行なった。一般状態観察・体重測定を実施し、投与最終週に尿検査を行なった。投与期間終了後、剖検し、肉眼観察、臓器重量測定、血液学的検査、血液生化学的検査、血中ホルモン(TSH、T3およびT4)測定、及び病理組織学的検査を実施した。【結果及び考察】反復投与毒性については、全投与群においていずれの検査項目とも被験物質投与による影響は認められなかった。生殖発生毒性については、全投与群において母動物のいずれの検査項目、また授乳期中の哺育状態並びにその児についても異常は認めらなかったことから、MEEは生殖機能、児の成長・発達に影響は及ぼさないものと考えられた。これらの結果から、MEEのNOAELは雌雄ともに1.3%(雄714.9 mg/kg/day、雌974.9 mg/kg/day)を超えるものと推定された。
一般口演12
毒性試験法、代替法、循環器
  • 西村 有平, 梅本 紀子, 張 孜, 川端 美湖, 張 貝貝, 黒柳 淳哉, 島田 康人, 田中 利男
    セッションID: O-55
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    血液脳関門(blood-brain barrier, BBB)は、脳の恒常性維持において極めて重要な役割を果たしており、その障害は様々な神経疾患の病態と関連することが知られている。近年、鉛や殺虫剤などの化学物質の曝露によりBBBが障害されることが報告されており、BBB障害を定量的に評価できる毒性試験法の開発は重要な研究課題のひとつとなっている。従来のin vivoにおけるBBB機能試験法では、マウスやラットに蛍光色素(フルオレッセインやエバンスブルーなど)や、標識ラベルしたタンパク質など、正常ではBBBを通過しない物質を静脈内注射し、BBBを通過して脳内に移行した蛍光色素やタンパク質を、脳切片のイメージングや、生化学的手法を用いて定量化している。これらの試験法の有用性は多くの研究により実証されているが、時間と労力を要するため多検体のスクリーニングには適していない。小型脊椎動物であるゼブラフィッシュは、モデル動物として、毒性学を含めて多くの研究分野でその有用性が世界的に認識されつつある。ゼブラフィッシュは哺乳類と同様のBBBを有しており、ゼブラフィッシュを用いたBBB機能評価を哺乳類へ外挿できる可能性が高いことが示唆されている。そこで我々は、a) 飼育水に加えるだけでゼブラフィッシュの体内に効率よく吸収され、b) 血漿アルブミンに対する高い親和性を有し血漿外への漏出が極めて少なく、c) ゼブラフィッシュの血漿を可視化するための十分な蛍光強度を有し、d) ゼブラフィッシュ体内で安定しており、長時間のイメージングが可能、などの特徴を有する蛍光色素を探索した。その結果、ゼブラフィッシュBBB障害の生体イメージングに適した蛍光色素を複数見出した。本研究で開発した新規蛍光色素を用いたBBB障害の生体イメージングは、多数の化学物質のBBBへの毒性を定量的に評価することを可能にするだけでなく、哺乳類を用いた毒性試験の削減にも貢献しうると考えられる。本研究は日本化学工業協会が推進するLRIにより支援された。
  • 中村 和昭, 加藤 奈津子, 相澤 和子, 田上 昭人
    セッションID: O-56
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    マウスES細胞は高栄養条件下で培養すると特別な誘導を行わなくても自然に心筋細胞へ分化し、その自律的収縮運動によって心筋細胞への分化を容易に検知できる。Embryonic Stem Cell Test (EST法)は、このようなマウスES細胞の特性を利用し、培養液に薬物を添加することにより、細胞生存率および心筋細胞への分化における薬物の影響を調べ、薬物の発生毒性を評価する方法である。これまでに我々は、心筋細胞分化以外の指標として、組織特異的分化マーカーの遺伝子発現変動をES細胞の分化の指標として用い、EST法による細胞分化に対する薬物の影響を検討してきた。一方、これまでのEST法では培養液に薬物を直接添加するため、肝臓での薬物代謝産物に由来する発生毒性評価はできなかった。今回我々は肝臓による薬物代謝産物の発生毒性を検討するため、従来のEST法を改良し、セルカルチャーインサートを用いてES細胞とヒト肝臓癌由来細胞株HepG2細胞およびヒト繊維芽細胞株WI-38細胞を非接触共培養する試験法(Hep-EST法)を構築した。Hep-EST法によるVPAの細胞毒性を評価した結果、WI-38細胞との共培養に比べHepG2細胞との共培養においてVPAのES細胞に対する細胞毒性の増悪がみられた。さらに、細胞分化マーカー発現を検討した結果、VPAの未分化マーカー誘導作用がHepG2との共培養により減弱した。これらの結果から、HepG2細胞により代謝されたVPAの活性中間代謝産物によりES細胞への毒性が増し、またES細胞分化に対する影響が変化したと考えられ、Hep-EST法により薬物肝代謝産物を考慮した発生毒性の評価が可能であると考えられた。
  • 竹澤 俊明
    セッションID: O-57
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    動物組織の複雑な微細構造と成分を保持している組織病理学用の切片を、動物細胞の培養担体に利用する培養技術を世界に先駆けて開発して【FASEB J. 16, 1847-1849, 2002】、異なる細胞を網羅的に解析するセロミクスの研究構想を提案してきた【Biomaterials 24, 2267-2275, 2003】。その後、切片担体は部域特異的なシグナルを細胞に伝達し、細胞はシグナルを認識するセンサーとして働くことが分かってきた。具体的には、マウスに四塩化炭素を投与して軽度の肝障害を惹起した後の様々な再生過程にある肝組織より作製した切片担体上でマウスES細胞を培養することで、障害肝組織の切片にはES細胞の接着、伸展および成長を阻害する活性があること、また、特定時期の再生肝組織の切片にのみES細胞を肝実質細胞の系譜へ分化誘導する活性があることを見出した【Tissue Eng. Part A 14, 267–274, 2008】。この結果は、様々な組織に由来する切片担体上で1つの細胞株の挙動を網羅的に解析するヒストミクスの研究が展開できることを示唆する。一方、化学物質が曝露された後の器官特異的な毒性の程度は、その器官を構成している成熟分化細胞の障害度のみならず、その器官に存在する幹細胞による再生活性によっても決定されると考えられる。そこで、この視点から上述の研究成果を解釈し直したところ、四塩化炭素による肝臓の障害度および再生活性はそれぞれ切片担体上で培養したES細胞の初期接着性および分化効率より予測できることが分かってきた。このような背景から、化学物質を曝露した実験動物の各種器官に由来する切片担体上で各種ヒト幹細胞を培養して、その経時的な挙動解析からヒトに於ける毒性を外挿する新しいアプローチを提案した【Methodological Advances in the Culture, Manipulation and Utilization of Embryonic Stem Cells for Basic and Practical Applications, Craig Atwood. (ed.), InTech, Croatia, pp. 473-488, 2011】。
  • 加藤 雅一, 浜島 史泰, 小笠原 隆広, 畠 賢一郎
    セッションID: O-58
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    化粧品や化学物質の安全性を確認する眼刺激性試験は、ウサギを用いたドレイズ法が一般的な試験方法であるが、動物福祉の観点からin vitro眼刺激性試験が求められている。われわれは、新規in vitro眼刺激性試験法の確立を目的として、ヒト培養角膜上皮モデルLabCyte CORNEA-MODELを開発した。本発表では、同モデルの品質再現性、同モデルを用いた眼刺激性試験条件の最適化、および種々の化学物質の眼刺激の予測率について報告する。
    ヒト角膜上皮から分離した角膜上皮細胞を3T3-J2フィーダー細胞を用いて増殖させた。得られたヒト角膜上皮細胞をセルカルチャーインサートに播種し、気液層界面で13日間培養して、LabCyte CORNEA-MODELを作製した。複数ロット間のLabCyte CORNEA-MODELの生細胞数、およびバリア機能評価において、ロット間の品質再現性が良好であることを確認した。次に、LabCyte CORNEA-MODELを用いた眼刺激性試験法を確立する目的で、試験条件(暴露時間、後培養時間)の最適化検討を行った。種々の検討から、液体被験物質については暴露時間1分、後培養時間24時間に設定することにより、in vivo眼刺激性と最も良好な相関を示した。一方、固体被験物質については、暴露時間24時間、後培養時間を設定しないことにより、in vivo眼刺激性と最も良好な相関を示した。さらに、最適化した試験条件で61化学物質の眼刺激性を評価した結果、in vivo眼刺激性分類と高い相関を示した(感度100.0%、特異度80.0%、一致率91.8%)。これらの検討を通じて、新しく開発したLabCyte CORNEA-MODEL眼刺激性試験法は、有用な眼刺激性評価試験系となりうる可能性が示された。
  • 是枝 哲平, 三浦 大作, 三浦 智博, 名村 敦佳, 安西 尚彦, 清宮 健一
    セッションID: O-59
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    ナノマテリアルとは、いわゆるナノテクノロジーにより生産された物質である。物質をナノメートルのレベルで加工することにより、重量当たりの表面積が大きくなるため粒子の表面活性が高くなり、元の物質とは異なる物理・化学特性を示すようになる。従って、ナノマテリアルに関しては新規に安全性評価を行う必要があると考えられるが、様々なナノマテリアルについて、どのような生体影響があるのかは未だよくわかっていない。我々は、生体がナノマテリアルに暴露される際、最初に接触するところは細胞膜であるという観点から、細胞膜に存在する代表的機能分子の一つであるトランスポーターに影響するのではないかという仮説に立脚して研究を行ってきた。まず、我々は、マウス白血病細胞由来L1210細胞にアドリアマイシン(ADM)を低濃度で長期間処置することにより樹立した多剤耐性L1210/ADM細胞を作製し、abcb1aに依存したADM排出能を獲得していることを確認した。L1210/ADM細胞にシリカナノ粒子(nSP)および酸化チタンナノ粒子(nTiO2)を処置すると、用量に対応してADM排出を阻害した。しかし、シリカマイクロ粒子(mSP)はL1210/ADM細胞のADM排出を阻害しなかった。また、nSP、mSPおよびnTiO2は、培養液中においてADMと直接結合しないことも判明した。以上の結果から、L1210/ADM細胞においてnSPやnTiO2はabcb1aを介したADM排出を阻害することが示唆され、L1210/ADM細胞を用いたADM排出阻害アッセイ系はナノマテリアルの生体影響評価法として利用できることが示された。
ポスター
  • 清水 佐紀, 多田羅 絢加, 佐藤 真穂, 杉内 友音, 増井 淳, 水口 裕登, 木津 朋也, 安達 咲希, 河合 悦子, 大野 行弘
    セッションID: P-1
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    抗精神病薬が引き起こす重篤な副作用に錐体外路系運動障害がある。一方、抗精神病薬は統合失調症の治療のみではなく、気分障害(うつ病、双極性障害)の治療にも繁用されており、臨床において抗精神病薬と抗うつ薬が併用される機会が急増している。しかし、錐体外路系副作用発現における抗精神病薬と抗うつ薬との相互作用に関する評価報告は少ない。そこで今回、抗精神病薬による錐体外路系副作用発現に対する抗うつ薬の併用効果と、その相互作用メカニズムについて検討した。実験にはddY系雄性マウスを用い、錐体外路系運動障害はpole testおよびcatalepsy testにより評価した。抗精神病薬であるhaloperidolにより誘発された錐体外路障害は、選択的セロトニン5-HT再取り込み阻害薬SSRI(fluoxetineおよびparoxetine)および三環系抗うつ薬(clomipramine)によって有意に増強された。これに対して、α2受容体拮抗作用を有するNaSSA系抗うつ薬(mirtazapine)は錐体外路障害を増強せず、むしろ、これを改善した。次に、各種受容体拮抗薬の作用を検討したところ、fluoxetineによる錐体外路障害の増強は、5-HT2(ritanserin)、5-HT3(ondansetron)あるいは5-HT6(SB-258585)拮抗薬によっていずれも有意に拮抗された。さらに、α2A(BRL-44408)およびα2C(JP-1302)拮抗薬も錐体外路障害を有意に改善した。以上の結果から、5-HT再取り込み阻害作用を有する抗うつ薬は抗精神病薬の錐体外路系副作用を増強し、この効果は5-HT2、5-HT3および5-HT6受容体を介することが示唆された。さらに、抗精神病薬との併用ではNaSSA系抗うつ薬の安全性が優れ、この特性にはα2受容体拮抗作用が関与していると考えられた。
  • 白木 彩子, 赤根 弘敏, 齋藤 文代, 山中 秀徳, Liyun WANG, 大石 巧, 鈴木 和彦, 三森 国敏, 渋谷 淳
    セッションID: P-2
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】ラットの発達期甲状腺機能低下により海馬歯状回のニューロン新生傷害が生じることは知られているが、成熟後の緩徐なニューロン新生への傷害影響は検出されにくい。一方、我々は成熟後の甲状腺機能低下により、門部の介在ニューロン群に発達期同様の反応性を見出している。そこで本研究では、海馬歯状回における成熟期ニューロン新生傷害性の簡便な検出を目標とし、まず発達期甲状腺機能低下モデルを利用したニューロン新生傷害の永続性の検出と関連する発現変動遺伝子プロファイルの同定を目的として以下の実験を行った。【方法】SDラットに妊娠6日から出産後21日までPTUを0、1、3、10 ppmの濃度で飲水投与し、仔動物を生後21日及び77日に屠殺した。【結果】免疫組織化学的検索により、顆粒細胞層下帯(SGZ)の細胞分化指標としては、生後21日では3及び10 ppm群でPax6及びdoublecortin (DCX)陽性細胞の減少、10 ppm群でアポトーシスの増加を認めた。生後77日では、10 ppm群でPax6陽性細胞の減少の他、3及び10 ppm群で門部のNeuN陽性細胞の増加を認めた。また、生後21日の10 ppm群における海馬歯状回のマイクロアレイを用いた網羅的な遺伝子発現量解析により、ニューロン新生・分化、chemokine (C-X-C motif) ligand 12やreelin等の細胞移動、細胞増殖やアポトーシス、神経突起形成等の遺伝子が発現変動していることが分かった。【考察】発達期甲状腺機能低下により、SGZの新生ニューロンに永続的な分化異常とそれを反映したアポトーシスの増加を認めた。門部の介在ニューロンは新生ニューロンの分化・成熟を促進することから、NeuN陽性細胞の増加は顆粒細胞層のニューロン新生・分化傷害を反映した変化であると考えられた。また、網羅的な遺伝子発現量解析から、これらの変化に対応する分子プロファイルが得られ、ニューロン新生傷害評価に利用できるバイオマーカーの探索への可能性が見出された。
  • 水口 裕登, 清水 佐紀, 増井 淳, 多田羅 絢加, 南本 翔子, 木津 朋也, 安達 咲希, 河合 悦子, 大野 行弘
    セッションID: P-3
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品の重篤な副作用に薬剤性錐体外路障害があり、多くの抗精神病薬によって誘発される。一方、抗精神病薬は統合失調症治療の他に、認知症の随伴症状(behavioral and psychological symptoms of dementia, BPSD)の治療にも使用される。しかし、錐体外路系副作用発現における抗精神病薬と抗認知症薬の相互作用についてはほとんど検討されていない。そこで今回、抗精神病薬haloperidol(HAL)によるブラジキネジア発現に対する抗認知症薬galantamine(GAL, コリンエステラーゼ阻害薬)の併用効果を検討すると共に、これに対する5-HT1A作動薬の作用を評価した。実験にはddY系雄性マウスを用い、各薬物のブラジキネジア誘発作用をpole test法により評価した。GALは単独投与において、1 mg/kgまで何ら影響を示さず、3 mg/kgにおいてブラジキネジアを誘発した。次に、無影響量のHAL(0.5 mg/kg)とGALを併用した場合、GALは1 mg/kgの用量から顕著なブラジキネジア誘発作用を示し、両薬物間に明らかな相乗効果が認められた。さらに、GALおよびHALの併用によるブラジキネジア発現は抗アセチルコリン薬trihexyphenidylにより抑制された。さらに、5-HT1A作動薬8-OH-DPATの抗ブラジキネジア作用を評価した結果、8-OH-DPATはGALおよびHAL併用によるブラジキネジア発現を用量依存的に改善し、この作用は5-HT1A拮抗薬WAY-100135により拮抗された。以上の結果から、抗精神病薬とコリンエステラーゼ阻害薬は錐体外路系副作用発現において相乗効果を示し、臨床においても注意を要することが明らかとなった。さらに、5-HT1A作動薬がこれら相互作用を顕著に改善することが示された。
  • 長尾 侑紀, 原田 悠耶, 向井 崇浩, 奥田 葵, 藤本 恵, 清水 佐紀, 河合 悦子, 芹川 忠雄, 笹 征史, 大野 行弘
    セッションID: P-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    【緒言】内向き整流性カリウムチャネルKir4.1は脳内アストロサイトに局在しており、シナプス周囲の細胞外K+濃度を調節する空間的K+緩衝機構を仲介している。最近、ヒトにおいてKir4.1の遺伝子変異がけいれん疾患に関連することや、けいれん助長作用を有する抗うつ薬がKir4.1を阻害することが示され、けいれん発現とKir4.1チャネル機能との関連が注目されている。そこで今回、全般性強直-間代性けいれんを自然発症するNoda epileptic rat (NER) を用い、けいれん病態におけるKir4.1の脳内発現変化を解析した。【方法】発作間欠期のNERおよび対照動物のCrj:Wistarラットをペントバルビタールにて深麻酔し、脳を摘出した。摘出脳は10部位 (前頭葉、頭頂-側頭葉、後頭葉、線条体、海馬、視床、視床下部、中脳、橋・延髄、小脳) に分離し、各脳部位の蛋白抽出液をサンプルとして、Kir4.1発現量をWestern blot 法により解析した。また、パラフイン包埋した脳より4 μmの冠状薄切片を作成し、ABC-DAB 法および蛍光抗体法によるKir4.1の免疫染色を行い、Kir4.1発現細胞数を計測した。【結果および考察】NERの脳10部位におけるKir4.1発現量を対照動物と比較した結果、NERではKir4.1レベルが後頭葉および視床において有意に低下していた。後頭葉切片における免疫染色から、Kir4.1チャネルは主としてアストロサイトの細胞体と終足部に発現していることが確認された。さらにNERでは、扁桃核におけるアストロサイト終足部のKir4.1発現が特異的かつ有意に低下していた。以上の結果から、NERでは扁桃核のアストロサイト終足部におけるKir4.1の発現が低下しており、扁桃核におけるK+緩衝機能の低下がけいれん発現に関連している可能性が示された。
  • 王 りゆん, 林 仁美, 谷合 枝里子, 白木 彩子, 赤根 弘敏, 鈴木 和彦, 三森 国敏, 渋谷 淳
    セッションID: P-5
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    We previously found a sustained aberration of neurogenesis in the mouse hippocampal dentate gyrus to the adult stage by developmental exposure to manganese (Mn). In the last JSOT meeting, we reported CpG island-hypermethylated genes in the dentate gyrus at the end of developmental Mn-exposure. In the present study, we performed methylation-specific qPCR and real-time RT-PCR on these genes at the adult stage. As a result, we found CpG island-hypermethylation and transcript downregulation with Mid1, Atp1a3, and Nr2f1 by Mn at 800 ppm. Since Mid1 plays a key role for left–right positioning during the early embryogenesis, we analyzed the methylation status and cellular expression at the end of Mn-exposure and adult stage. While untreated controls showed hypomethylation, Mn-exposure resulted in hypermethylation in the right side continuing to the adult stage. Mid1-positive cells distributed in both of the hilar interneurons and subgranular zone stem/progenitor cells with right side predominance in untreated controls; however, Mn-exposure canceled this asymmetry to the adult stage. We also found a decrease of immunoreactive cells for Nr2f1, a stem cell transcription factor, in the SGZ continuing to the adult stage. Nr2f1-positive cells co-expressed Sox2, doublecortin and TUC4, suggestive of cellular populations of granule cell lineage from type-1 stem cells to immature granule cells. The results suggest that developmental Mn-exposure caused permanent disruption of epigenetic gene control of granule cell lineage affecting bilateral difference of the brain function.
  • 赤根 弘敏, 齋藤 文代, 山中 秀徳, 白木 彩子, 盛田 怜子, 八舟 宏典, 谷合 枝里子, 鈴木 和彦, 三森 国敏, 渋谷 淳
    セッションID: P-6
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】食用油の合成工程で副生成物として混入されるグリシドールのラット母動物を介した発達期暴露を行い、母動物と児動物の神経毒性について検討した。【方法】雌SDラットに妊娠6日から分娩後21日まで0、100、300及び1000 ppmの濃度でグリシドールを飲水投与し、分娩後21日に母動物及び児動物を剖検した。母動物については、neurofilament-L抗体を用いた脳の免疫染色、坐骨神経及び三叉神経の病理組織学的検査を行った。児動物については、免疫染色により海馬歯状回顆粒細胞層下帯(SGZ)における新生ニューロン分化指標、PCNA及びTUNEL陽性細胞数、また歯状回門における介在ニューロン指標の陽性細胞数の検索を行った。【結果】母動物は1000 ppm群において分娩後14日より歩行異常が認められ、免疫染色によって小脳の顆粒細胞層及び延髄背索でスフェロイド形成がみられた。また三叉神経の神経節細胞は中心性色質融解を示し、坐骨神経には軽度の軸索変性がみられた。児動物は、1000 ppm群においてSGZでのdpysl3陽性細胞数が有意に減少し、歯状回門でのNeuN、calretinin及びreelin陽性細胞数が有意に増加した。【考察】グリシドールはその経口投与により母動物には感覚神経路の変性を主体とする遠位軸索変性症を引き起こすことが示唆された。児動物ではSGZにおいて未熟顆粒細胞の指標であるdpysl3の陽性細胞数が減少したことから、グリシドールの発達期暴露によって児動物で神経突起形成の起こる分化後期の細胞を標的としたニューロン新生が抑制されることが示唆された。また、歯状回門におけるNeuN、calretinin、reelin陽性細胞の変動は、介在ニューロンサブポピュレーションの変動を反映し、顆粒細胞系譜の新生、分化傷害に引き続くニューロン移動傷害を反映した変化であると示唆された。遠位軸索変性症、ニューロン新生障害のいずれも高用量性の反応であった。
  • 平野 義明, 田中 愛, 田畑 泰彦
    セッションID: P-7
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    一般的に細胞培養(単層培養)は,生体内では要因が複雑で解析不可能な現象を解析可能にする手段として発達してきた.本来,細胞は特有の三次元的組織構造の中にあるため,細胞を生体から取り出して単層培養系に移すと,その機能がどの程度失われたのかを知ることは困難である.細胞培養技術においてこのような単層培養系の問題点を部分的に克服し,同時に動物実験に比較して簡便性,操作性を保つ三次元培養法が着目されている.ハンギングドロップ法,旋回培養法などの培養によって形成される細胞集合体の大きさや形は,細胞の種類や培養条件によって異なる.われわれは,Poly(Lys-Pro)n含有の培地を細胞上に添加することで細胞集合体を形成する新しい化学的手法を発見した.本研究では,細胞集合体の形成条件・機能について詳細に検討した結果を報告する.
     目的のペプチドである(Lys-Pro)n(n=10, 12, 14, 16)の合成は,Fmoc固相法で合成した.次に合成したペプチド(Lys-Pro)n(n=10, 12, 14)とマウス線維芽細胞株(L929)およびヒト肝ガン由来細胞株(HepG2)などとの相互作用の観察を行い,細胞播種数,細胞接着時間,ペプチドの残基数依存性について検討した.
     合成したペプチドを培地中に添加した結果,L929とHepG2ともに均一な細胞集合体を形成することが明らかになった.その際に,ペプチドの残基数依存性を検討したところ,n=10, 12では細胞集合体を確認することができたが,残基数が多い程(n=14以上)細胞毒性がみられた.また,細胞集合体作成には,播種密度,接着時間が重要な因子であることが明らかになった.さらには,細胞集合体形成には,塩基性アミノ酸であるLysの残基数が大きく影響していると考えられる.
  • 田村 圭, 井上 薫, 高橋 美和, 松尾 沙織里, 入江 かをる, 小澤 正吾, 小川 久美子, 西川 秋佳, 吉田 緑
    セッションID: P-8
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    【緒言】Constitutive Androstane Receptor (CAR)は、マウスの肝臓においてCytochrome P450(CYP)2B誘導、肝肥大/肝腫瘍発生に関与している核内受容体である。多くのトリアゾール系抗真菌剤(TRI)は、マウスに肝肥大や非遺伝毒性メカニズムによる肝腫瘍を誘発する。我々は、3種のTRIの肝肥大とCARの関与に投与用量による違いがあるか検討し、代表的CAR活性化剤のPhenobarbital(PB)と比較した。【方法】7週齢の雄性C3H由来Car -/-(CARKO)マウス及びCar +/+(Wild)であるC3Hマウス(C3H/HeNCrlCrlj)に3用量(低・中・高)のCyproconazole(Cyp)、Tebuconazole(Teb)、Fluconazole(Flu)またはPBを各々1週間混餌投与し、肝肥大(肝重量、肝細胞肥大)、肝臓のCYP発現量(2b103a11 mRNA、CYP2B蛋白)及び肝細胞増殖活性(PCNA陽性率)を検索した。【結果】Wildマウス:全投与群で肝肥大、CYP発現量及び肝細胞増殖活性が用量依存的に増加した。CARKOマウス:PB群ではWildマウスで認められた変化がほぼ認められなかった。Cyp、Flu群では高用量のみ肝肥大が認められた。Teb群では用量依存性に明らかに肝肥大を示したが、低用量でWildマウスより軽減した。全TRI群でCYP2B発現増加量がWildマウスより軽減したものの、高用量では対照群よりも高く、Cyp3a11発現量がWildマウスと同程度に増加した。PBと同様に全TRI群における肝細胞増殖活性化は高用量でも認められなかった。【考察】3種のTRIの肝肥大には用量による差はあるものの、いずれもCAR及びCAR以外(PXRなど)の両方が関与しており、PBとは異なる結果となった。Cyp、Fluによる肝肥大はCARが主であり、高用量群のみCAR以外の関与が認められた。Tebによる肝肥大はCAR以外が主であったが、低用量群ではCARの関与が示唆された。今回の結果より、TRIの肝肥大におけるCARの関与には投与用量による差があることが明らかとなった。
  • 大塚 祐多, 吉成 浩一, 山添 康
    セッションID: P-9
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    constitutive androstane receptor(CAR)は、薬物代謝酵素の誘導に関わる主要な核内受容体として知られている。一方で、CARは薬物動態の調節のみならず、糖や脂質などの内因性物質レベルの調節にも関与することが示されている。しかし、その全容や機序の詳細は不明である。そこで本研究では、エネルギー代謝におけるCARの新規生理機能の解析を試みた。CAR活性化薬投与に伴うマウス肝臓における脂質代謝関連遺伝子の発現変動を、DNAマイクロアレイにより網羅的に解析した。その結果、CAR活性化に伴いインスリンシグナルや脂肪酸酸化に関わる遺伝子の発現レベルの低下が示唆された。レポーターアッセイの結果、CARの活性化はマウスHmgcs2の転写活性化作用を有するperoxisome proliferator activated-receptor α (PPARα)の活性化薬bezafibrate(BZF)の処置に伴うレポーター活性の上昇を抑制した。同様の結果はヒトHMGCS2でも得られた。また、DNAアフィニティー法およびツーハイブリッド法の結果、PPAR応答領域上においてCARは何らかの因子を介してPPARαと相互作用し、その複合体形成を介してHMGCS2の転写活性を減弱させる可能性が示唆された。さらに、培養ヒト肝細胞においてBZF処置により増加したHMGCS2 mRNAレベルは、CAR活性化薬の併用により低値を示した。以上の結果から、ヒトとマウスの肝臓において、CARはPPARαを介したHMGCS2遺伝子の転写を負に制御することが示された。ケトン体は、糖尿病や絶食時において高値を示し、1型糖尿病患者ではケトアシドーシスが臨床上問題となっている。一方で、絶食時や糖尿病モデル動物においてCARの活性は増大すると報告されている。本研究成果から、CARはHMGCS2発現において負の調節因子として機能することで、ケトン体の過剰産生を抑制する防御的な働きを持つ可能性が考えられた。
  • 高山 和雄, 稲村 充, 川端 健二, 菅原 道子, 菊池 きよ美, 櫻井 文教, 古江(楠田) 美保, 水口 裕之
    セッションID: P-10
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】肝臓は多くの薬物を代謝する臓器であり、創薬過程における候補薬物の肝毒性を正確に予測することが、安全な医薬品開発には重要である。無限増殖能と多分化能を有するヒト胚性幹細胞(ES細胞)およびヒト人工多能性幹細胞(ヒトiPS細胞)から分化誘導した肝細胞は、創薬過程における候補薬物の毒性評価などへの応用が期待されている。我々はこれまでに、SOX17、HEX、HNF4α遺伝子を分化過程の適切な時期に導入することにより、ヒトES/iPS細胞から成熟肝細胞を効率良く分化誘導できることを報告した(Mol Ther. 2012 Jan;20(1): 127-37)。ヒトES/iPS細胞由来の肝細胞を薬物の毒性評価へ応用するには、ヒト初代培養肝細胞と同程度の薬剤代謝能を有している必要がある。そこで本研究では、非常に高い遺伝子導入効率を示すアデノウイルスベクターを用いて肝関連転写因子を遺伝子導入し、さらに高い薬剤代謝能を有する肝細胞の作製を試みた。【方法】ヒトES/iPS細胞から肝細胞の分化過程において7種類の肝関連転写因子を導入し、最も効率良く肝分化を促進できる転写因子を探索した。分化誘導肝細胞の薬剤代謝能をヒト初代培養肝細胞と比較し、さらに肝臓で毒性を示すベンゾブロマロンなどの薬剤を分化誘導肝細胞に作用させた後の細胞毒性についても検討した。【結果・考察】検討した7種類の肝関連転写因子のうち、FOXA2およびHNF1α遺伝子を組み合わせて導入することにより、最も効率良く成熟肝細胞が分化誘導された。またシトクロムP450酵素などで代謝される9種類の薬物の代謝プロファイルを調べたところ、分化誘導肝細胞の薬物代謝能はヒト初代培養肝細胞より低いものの、いずれの薬物に対しても代謝能を有していることが確認された。さらに、分化誘導肝細胞は肝毒性を示す薬剤に対してヒト初代培養肝細胞と同様に細胞毒性を呈した。以上のことから、FOXA2およびHNF1α遺伝子を導入することにより、ヒトES/iPS細胞から薬物代謝能を有する肝細胞を効率良く分化誘導できるだけでなく、薬物の毒性スクリーニングに使用可能であることが示唆された。
  • 端 秀子, 三木 康宏, 笹野 公伸
    セッションID: P-11
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【目的】薬物代謝や発がん性物質研究の為に実験動物を用いて多くの変異原性試験が開発されているが、薬物代謝酵素の発現パターンや発現制御機構は動物種によって異なる為、ヒトへの影響を知る上で重要な個人差を考慮することが難しい。本研究では、実際のヒト肝組織を用いた変異原性試験を行い、さらに薬物代謝酵素の発現の個人差について比較検討した。【方法】当分野で凍結保存している肝組織(剖検・手術例)からS9を採取してAmes試験、染色体異常試験に用いた(東北大学医学部倫理委員会承認済)。被験物質はアクリルアミド、2-アミノアントラセン(2-AA)、ベンゾピレン(B[a]P)およびシクロホスファミド (CP)を用いた。Ames試験にはTA98およびTA100株を使用し、染色体異常試験にはCHL/IU細胞を用いた。また同症例のホルマリン固定パラフィン包埋標本からHE染色標本を作製し、病変の有無を確認し、免疫組織化学にてCYPを評価した。さらに肝組織からRNAを抽出し、定量的PCRにて解析を行った。変異原性試験および病理学的所見の結果と各遺伝子の発現プロファイルの個人差の比較検討を行った。【結果および考察】Ames試験の結果、アクリルアミドはすべての症例において陰性であったのに対し、2-AAおよびB[a]Pは個人差が見られた。染色体異常試験の結果、アクリルアミドは高濃度下ですべての症例において陽性で、CPの陽性は2例であった。免疫組織化学においても局在に個人差が見られた。またAmes試験の結果を基にグループ分けし、定量的PCRの結果を解析すると、2-AAおよびB[a]P陰性症例がこれらの代謝活性に関与するCYP1Aの発現が低い傾向が見られた。CPの代謝活性に関与するCYP2B6の発現も同様であった。実際のヒト組織を用いてその発現プロファイルや個人差を明らかにすることは重要と考えられる。
  • 田中 匠, 関本 征史, 大井 一樹, 山田 景太, 小島 美咲, 出川 雅邦
    セッションID: P-12
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【目的】IL-1s(IL-1α、IL-1β)は転写因子NF-κBの活性化を介して肝コレステロール異化酵素(CYP7A1)遺伝子発現を抑制し、血清コレステロール量を増加させることが報告されてきた。しかし、最近我々は、性成熟した雌雄マウスでの構成的な肝IL-1s量と肝CYP7A1の遺伝子発現量との間に正の相関があることを見出し、IL-1sはその発現量によりCYP7A1発現に対して相反する作用を有することを示唆した。そこで、本研究では、IL-1s量とCYP7A1遺伝子発現量との関連性をヒト肝がん由来HepG2細胞を用いて追究した。
    【方法】HepG2細胞にNF-κB活性化測定用レポータープラスミドを一過的に導入し、IL-1α(0.32~10 U/ml)、IL-1β(0.625~20 U/ml)をそれぞれ24時間処理した。各細胞におけるNF-κBの活性化をルシフェラーゼアッセイにより、また、CYP7A1タンパク質の発現をウェスタンブロッティングによりそれぞれ解析した。さらに、種々濃度のIL-1sを処理したHepG2細胞でのCYP7A1、およびその発現制御分子(PGC-1α、SRC-1、SHP-1、LXRα、HNF4α)の遺伝子発現量をリアルタイムRT-PCR法により測定した。
    【結果】NF-κBは、IL-1αおよびIL-1βのいずれの添加でも濃度依存的に活性化された。一方、CYP7A1遺伝子やCYP7A1蛋白質の発現量は、低濃度のIL-1α(1.25 U/ml)やIL-1β(5 U/ml)処理により誘導され、高濃度域(IL-1α, > 10 U/ml ; IL-1β, > 10 U/ml)ではその誘導効果は低下・消失することが明らかになった。また、IL-1sに対する発現応答性がCYP7A1遺伝子と類似している発現制御分子遺伝子として、PGC-1α遺伝子、HNF-4α遺伝子、SRC-1遺伝子が見出された。
    【考察】IL-1sはCYP7A1遺伝子発現に対して、低濃度では誘導、高濃度では抑制(誘導効果の消失)といった作用を示すことが明らかとなり、IL-1sによるCYP7A1遺伝子発現誘導における閾値の存在が示唆された。また、その発現変動には転写共役因子であるPGC-1αなどの発現変動が関与している可能性が考えられた。
  • 中村 伊都子, 井上 芳已, 清水 俊敦, 三宅 真波, 佐藤 寛子, 西川 智美, 桝富 直哉
    セッションID: P-13
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    血中ALTは毒性試験において肝障害マーカとして古くから測定されている.しかし,軽微な肝障害がみられていても血中ALTが変化しないケースや,肝障害以外の要因でALT上昇がみられるケースがある.そこで,肝臓に多く存在し特異性が高い肝障害マーカとされるGlutamate dehydrogenase (GLDH) について有用性を検討した.雄性SD系ラット (Crl:CD(SD)) にAcetaminophen (APAP),Methapyrilene (MTP),Carbon tetrachloride (CCl4),Bendazac (BDZ),Alpha-naphthyl isothiocyanate (ANIT),Dexamethasone (DEX),2,3,5,6-Tetramethyl-1,4-phenylenediamine (TMPD)を単回または4日間投与し,GLDH,ALTなどの生化学パラメータを測定するとともに,病理組織学的検査を実施した.MTP,BDZ,ANIT投与群では,ALT,GLDHともに顕著に上昇し,肝臓の病理組織学的変化の発現時期とも概ね一致した.一方,APAPおよびCCl4投与群では,肝細胞壊死等が見られたにもかかわらずALTは軽度上昇あるいは変動なしであったが,GLDHは明確に上昇した.これらの群では小葉中心性に組織変化が認められ,中心部に多く分布するGLDHの方が辺縁部に多く分布するALTよりも鋭敏に組織変化を反映したものと推察された.また,肝細胞グリコーゲン増加およびALT上昇がみられたDEX投与群や,筋線維壊死やALT,AST,CKなどの上昇がみられたTMPD投与群では,GLDHは変動なしあるいは軽度な上昇であった.これらの結果から,GLDHをALTと併用して測定することにより,肝障害検出感度および特異性の向上が図られる可能性が示された.
  • 片桐 公一, 堀井 渉, 小野 珠乙, 佐野 順一, 上塚 浩司, 齋藤 敏樹, 土井 邦雄, 布谷 鉄夫
    セッションID: P-14
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【目的】ブタは食性や解剖学的所見がヒトと多くの点で類似している。特に腎臓はヒトと同様の構造を有していることから、他の動物種よりもヒトに近似した腎機能パラメーターを示すと考えられる。今回、我々はNIBS系ミニブタの腎機能に関する基礎データを検索したので報告する。
    【材料・方法】NIBS系ミニブタ (6ヶ月齢、雌) 6頭を使用した。採尿ケージに1週間の馴化後、尿量・飲水量を4日間連続で測定し、4日目の24時間蓄尿を採取した。その後、全身麻酔下で採血した。血清中および尿中生化学値の測定を行い、尿中生化学値は体重当たりの排泄量を算出した。次に糸球体濾過率(GFR)の指標となるイオヘキソール血漿クリアランス(PCio)を求めた。イオヘキソール(ヨード量として90 mg/㎏)を単回静脈内投与し、血漿中のヨード濃度よりPCioを算出した。全ての検査終了後に剖検し、腎重量を測定した。
    【結果および考察】血清中生化学値(mean±S.D.)はTP 6.0±0.2 g/dL、Cre 0.69±0.09 mg/dL、BUN 4.3±0.5 mg/dLおよびシスタチンC 0.07±0.03 mg/Lであった。尿量は840±400 mL、尿中排泄量はTP 3.3±1.9 mg/kg/day、Cre 22.7±3.32 mg/kg/day、BUN 141.1±23.8 mg/kg/dayおよびNAG 0.23±0.28 U/kg/dayであった。PCioは115.9±30.4 mL/minであった。ヒトにおけるPCioは平均127 mL/min (Krutzen, E. et al., J. Lab. Clin. Med., 104, 995-961, 1984.)であり、ミニブタにおいてもほぼ同様の値を示した。血清中シスタチンCおよび尿中NAGは腎機能障害を鋭敏に反映するバイオマーカーとして知られている。今回、我々は正常動物において血清中シスタチンCおよび尿中NAGの基礎データを得た。今後、高齢および腎機能に障害を負荷したミニブタを用いることで、これらのバイオマーカーとしての有用性を検討する予定である。
  • 杉浦 孝宏, 平澤 康史, 岩田 晃治, 今泉 隆人, 今井 順, 早川 浩太, 松井 ゆかり, 川﨑 由紀子, 豊吉 亨, 久木 浩平
    セッションID: P-15
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【背景・目的】ヨード造影剤は,血管造影やCT造影などの画像診断において必要不可欠な体内診断薬であるが,副作用として急性腎不全が多数報告されている.我々はiopamidolを用いることで造影剤の副作用を確認してきた.しかしiopamidolは薬理研究用試薬であり造影剤としては用いられていない.そこで今回の実験は,臨床で用いられている非イオン性尿路・血管造影剤であるオイパロミンを投与して造影剤の副作用を確認した.
    【方法】15週齢で片腎摘出した17週齢の雄性SDラットを用いて,indomethacin (10 mg/kg),L-NAME (10 mg/kg),オイパロミン (5 mL/kg, 10 mL/kg, 20 mL/kg, 30 mL/kg) を30分間隔で静脈内投与することで造影剤の副作用を確認した.オイパロミン投与24時間後に血液を採取し腎機能パラメータを測定した.
    【結果】片腎摘出ラットに対してindomethacin,L-NAME,オイパロミンの投与により,オイパロミンの用量に相関して腎機能パラメータであるBUN及びPcrが上昇し、腎障害が確認された.その他の腎機能パラメータ及び病理標本の変化についても報告する.
  • 木村 啓成, 平山 雅士, 本橋 昌也, 田中 勲, 西元 俊恵, 白井 勝, 鷹橋 浩幸, 武藤 朋子, 酒田 昭彦, 羽野 寛, 和久井 ...
    セッションID: P-16
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    腎臓毒性の理解において重要な事は、腎臓の基本構築を総括的に把握することである。ネフロンが複雑な三次元形態を示すことは周知のことであるが、腎臓の二次元情報を基に毒性学的評価を実施しているのが一般的である。これに対し、腎病変の理解のための基礎情報には教本等に記載されていない多くの不明点があることも事実である。我々は腎臓毒性評価の基盤情報確立を目的として、ラット腎臓の組織学的構造について三次元形態学的な定量解析を行ってきた。微細腎糸球体病変の進行は糸球体の局所から発現する、すなわち腎糸球体病変の理解には腎小体の基本構造との関連性が高いことが仮説できる。本検討では、腎臓の相対重量に有意差を示さない9週齢の健常な雌雄のSD(Slc)ラットを用いた。各腎臓から常法に従い600枚以上の連続組織切片を作製した後、各標本からそれぞれ標的領域の二次元画像をCCD光学顕微鏡画像から抽出してXY-pictorial dataに変換した。次に、各データをRegister 2001 (Vey Tek, Inc., USA)を用いて位置情報を特定しZ-連続性の解析を行った。次いで、Vox Blast 3.1 (Vey Tek, Inc., USA)を用いて、ボーマン嚢のXYZ-pictorial dataを基に三次元再構築を行った。さらに、輸入・輸出細動脈のボーマン嚢侵入部2点、尿管極1点、さらに形態解析からボーマン嚢中心部1点を決定した。決定した細動脈2点を結ぶ直線の中点を血管極と規定した。そして、血管極点・ボーマン嚢中心点・尿管極点を直線で結ぶことで形成される角度を血管・尿管極角度として解析を行った。腎臓単位体積あたりの糸球体数は、雄に比較して雌で有意に高値を示した。これに対し、糸球体体積は雌に比較して雄で有意に高値を示した。さらに、血管・尿管極角度はボーマン嚢の体積と正の相関を示し、その相関係数には雌雄差があることが認められた。本検討ではラット腎臓の腎小体構築に雌雄差があることを明らかにした。本解析は今後、実験的腎臓病変の進行時の雌雄差の理解において重要な基盤的情報となる。
  • 佐々木 大祐, 神吉 将之, 西原 久美子, 平本 昌志, 由利 正利, 梅野 仁美, 森口 聡, 見鳥 光, 廣田 里香, 関 二郎, 宮 ...
    セッションID: P-17
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    腎乳頭部壊死(RPN; Renal Papillary Necrosis)は糖尿病や,鎮痛剤・抗癌剤等の服用等によって生じる腎障害の一つであり,薬剤の開発や臨床的使用に支障を来すことがある。しかしこれまでヒトにおいてRPNの発生初期から鋭敏に変動するバイオマーカー(BM)は知られていない。そこで我々は,トキシコプロテオミクス(TPx)及びトキシコゲノミクス(TGx)の技術を利用してRPNを検出するための新規BMを探索した。
     2-bromoethylamine hydrobromideによるRPNモデルラットを作製し,その尿をTPx解析に,剖検後摘出した片腎の乳頭部をTGx解析に用いた。もう一方の片腎では病理組織学的検査を実施し,各BM候補と比較検証した。更に腎臓内障害特異性確認のため,puromycinやcisplatin等で糸球体或いは近位尿細管を障害させたモデルラットでの結果と比較した。
     RPNモデルラットのTPx解析の結果,急性期炎症性蛋白質を複数含む計94種の蛋白BM候補が得られた。TGx解析の結果,アポトーシスシグナルやIL-1シグナルの活性化,酸化ストレスの亢進等をうかがわせる遺伝子群の変化が認められた。特にfibrinogenとC3はTPx解析及びTGx解析から共に検出されたため,これらはRPNと関連した着目すべきBMと考えられた。しかし障害部位特異性検討の結果,尿中のfibrinogenとC3は近位尿細管障害でも増加することが判明した。よって,fibrinogen及びC3はRPNを検出することは可能であるもののRPN特異的ではなく,近位尿細管の障害をも検出するBMであり,これら急性期炎症性蛋白質の増加は腎臓内障害部位における炎症関連シグナルの活性化に起因するものと考えられた。
     現在,RPNを特異的かつ鋭敏に検出するBMを残りの92候補から見出すべく,各候補に対する検討を実施中である。
  • 大町 康, 池田 瑞代, 宍倉 恵理子, 田嶋 克史
    セッションID: P-18
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    ウランはアクチニド元素の一種で、化学毒性として腎毒性を惹起する。ウラン体内汚染時の治療を考える上でも本腎毒性をより鋭敏に検出できることが望まれている。今回我々は、ウラン創傷汚染を模擬した体内暴露モデルにおける急性期の腎毒性について、近年その有用性が報告されている各種腎毒性関連マーカーの動態について検討を行った。8週齢雄性SDラットに硝酸ウラン(0.03~4mg/kg)を筋肉内投与し、ウラン投与1日目、3日目の24時間尿について尿生化学検査を行うとともに、ウラン投与3日後に解剖し、血液生化学的、病理学的な解析を行った。尿についてはKim-1、ALB、Clusterin、β2ミクログロブリンをELISA法により測定した。ウラン投与3日後において0.25mg/kg以上でBUNの、0.5mg/kg以上で血清Cre、尿中TP、尿糖の用量依存的な増加が認められた。組織学的には投与1日後では0.5mg/kg以上で尿細管上皮細胞の孤在性壊死が、投与3日後では0.06mg/kgで尿細管上皮細胞の孤在性壊死が、0.13mg/kg以上で尿細管壊死が認められた。尿中ALBは1日目尿では2mg/kg以上で、3日目尿では0.5mg/kg以上で排泄増加が認められ、Kim-1,Clusterin,β2ミクログロブリンは3日目尿で排泄量が増加し、Kim-1は0.13mg/kg群で有意に増加した。以上、ウラン投与ラット腎毒性では、高度の障害がおこる用量では早期にアルブミン排泄が増加し、また腎毒性が明らかとなるウラン投与3日後ではKim-1が一番鋭敏な指標であることがわかった。実際の臨床においては、できるだけ早期にかつ鋭敏な検出ができるマーカーが望まれるため、さらなる検討を進めてゆく予定である。
  • 鈴木 慶幸, 星合 清隆, 高尾 みゆき, 秋江 靖樹, 門田 利人, 及川 剛, 田口 景子, 筑广 紗弥香, 菅谷 健, 吉田 啓造, ...
    セッションID: P-19
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【目的】尿中のL-type Fatty Acid Binding Protein(L-FABP)は,腎微小循環障害を反映する虚血・酸化ストレスマーカーであり,本邦ではすでに体外診断薬の承認を取得し、2011年には尿細管機能障害を伴う腎疾患の診断を目的として保険収載されている.毒性試験においては腎毒性の指標としてBUN及び血清クレアチニン(sCr)値がよく利用されるが,より感度の高いバイオマーカー(BM)が望まれている。今回,ラット及びイヌの腎障害モデルを用いて,尿中L-FABPが毒性試験に応用可能であるかを検証した.
    【方法】ラット腎障害モデルとして,雄Wistarラットにシスプラチン(CDDP)を投与し,経時的に尿採取及び頚静脈より採血を行い,尿中L-FABP,尿中酵素活性,BUN,sCr及び病理組織学的検査を行なった.イヌ腎障害モデルとして,2腎1クリップ(2K1C)腎性高血圧モデル及び房室ブロック(AV-B)モデルを用いて,増感型ELISA法により尿中L-FABPを測定した.
    【結果】CDDP誘発ラット腎障害モデルにおいて,尿中L-FABP値は投与後24時間から上昇傾向にあり,投与後72時間に最大値を示した.尿中酵素活性の変動もほぼ同様に投与後72時間に最大値を示した.投与前と投与後72時間での変動率はBUN及びsCrは約2倍であったのに対し,尿中酵素活性は約6倍,尿中L-FABPは約30倍であった.イヌ2K1Cモデルでは,術後1日目から尿中L-FABPは上昇し,2日目に最大値を検出し,3日目には術前の値まで低下した.AV-Bモデルでは,尿中L-FABPが高値な個体が7例中2例で認められた.
    以上のラット及びイヌの腎障害モデルにおいて,腎臓の障害度に依存した尿中L-FABPの上昇が認められた。前臨床向けに安全性予測試験コンソーシアムが提唱する7種の腎BMは、ヒト腎障害への外挿性という観点から再評価が必要とされる。今後、臨床BMとして確立された尿中L-FABPが、他の動物種や系統を用いた腎障害モデルにおいても有用かどうかさらに検討する予定である.
  • 山田 恭史, 浅野 育子, 内藤 一嘉, 田中 勝幸, 豊吉 亨, 久木 浩平
    セッションID: P-20
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    目的:第36回トキシコロジー学会学術年会で、皮膚反応を客観的に評価するため色差計を用いることで紅斑を数値化し、その値とドレーズの肉眼観察における評点との相関性について報告した。今回は前回の報告に加え、光学3D皮膚測定装置(以下PRIMOS)を用いて皮膚反応の浮腫の程度を相対的に数値化し、その値と肉眼観察における評点との相関性について検討した。
    方法:Hartley系モルモット、JW系ウサギ及びNIBS系ミニブタにおける皮膚一次刺激性で認められた皮膚反応(浮腫)と、Hartley系モルモット及びNIBS系ミニブタにおける皮膚感作性で認められた皮膚反応(浮腫)をドレーズの評価基準に従い肉眼的に評価すると共にPRIMOSを用いて各皮膚反応部位の浮腫の程度を計測し、肉眼観察の評点と比較した。
    結果:モルモットを用いた皮膚一次刺激性における皮膚反応の浮腫は、肉眼観察で判定した評点1の皮膚反応部位をPRIMOSで測定すると0.3782 mm、評点2では0.5437~0.6911 mm、評点3では0.7678~0.9105 mm、評点4では1.0511 mmと、ドレーズの評点とPRIMOSの計測値は相関していた。同様にPRIMOSにおける浮腫の計測値はウサギ及びミニブタの皮膚一次刺激性における皮膚反応、モルモット及びミニブタにおける皮膚感作性の皮膚反応の肉眼観察における評点とほぼ相関していた。
    以上の結果、PRIMOSを用いた浮腫の計測値は客観的な評価手段の一つになりうると考えられる。
  • 長瀬 孝彦, 山田 恭史, 矢吹 慎也, 久保田 友成, 鈴木 信介, 太田 隆雄, 久木 浩平
    セッションID: P-21
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】私達は、これまでの本学術集会において、NIBS系あるいはGottingen系ミニブタを用いた各種外用剤の背部皮膚における皮膚刺激性の検討を行い、ミニブタはヒトの反応性と近似しているという有用性について報告した。しかし、ヒトでの外用剤の適用部位は、手、足、腹あるいは背などと異なり、適用部位によって効果や刺激性には大きな差がある。従って、非臨床試験での背部皮膚を用いた皮膚刺激性の結果が生体全体の反応性を示すものではないと考え、今回、Gottingen系ミニブタを用いて各投与部位(額部、頬部、鼻部、頚部、背部及び脇腹)における皮膚刺激性の差について検討を行った。【方法】Gottingen系ミニブタ(各n=3)の各投与部位に白色ワセリン、5及び20%ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)を24時間閉塞投与し、投与後24、48及び72時間にDraize et al.の基準に従い皮膚反応を観察した。観察終了後、各投与部位について病理組織学的検査を実施した。【結果】5及び20% SLSともに、背部皮膚と比べて、他の投与部位の皮膚一次刺激指数(P.I.I.)は高値を示した。その程度は、概ね頚部・額部、次いで鼻部・頬部・脇腹の順であった。また、病理組織学的検査でも20% SLSにおいて、背部皮膚を除く各投与部位で痂皮形成、潰瘍等が認められ、背部皮膚より強い所見が認められた。白色ワセリンでは、各投与部位とも皮膚反応はみられず、病理組織学的変化でも変化は認められなかった。【まとめ】一般的に皮膚刺激性試験の投与部位は、背部皮膚が用いられるが、今回の検討により、頚部、額部、脇腹、鼻部及び頬部の刺激に対する反応性は、背部皮膚と比べて高いことが確認できた。その中で、鼻部及び頬部は投与手技上の問題もみられた。これらの結果から、鼻部及び頬部を除く額部、頚部、脇腹は、従来の背部皮膚に替わる投与部位として、選択可能であることが確認されると共に、非臨床試験における皮膚刺激性試験は臨床での適用部位に応じた評価が適切と思われた。
  • 山下 祐介, 髙橋 義博, 岡谷 秀明, 本門 忠文, 宇都宮 慎治, 大坪 靖治, 中村 隆広, 和泉 博之, 川口 博明, 三好 宣彰, ...
    セッションID: P-22
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【目的】第38回学術年会において,マイクロミニピッグ(MMPig),クラウン系,NIBS系及びゲッチンゲン系ミニブタの無傷皮膚を用いた皮膚一次刺激性の検討を行い,刺激性に対する感受性に系統間差がみられないことを報告した.今回,MMPigを用いて,刺激性が確認されているジメチルスルホキシド(DMSO)及び10 w/w% ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)軟膏を無傷及び損傷皮膚に塗布し,皮膚一次刺激性について検討を行った.
    【方法】投与前日に,3匹のMMPigの背部皮膚を電気バリカン及びシェーバーを用いて剪毛及び剃毛した.動物1匹につき2.5 × 2.5 cmの面積で6箇所設定し,そのうち3箇所には18ゲージの注射針を用いて,真皮まで達しないように角化層に井げた状に傷をつけ(損傷皮膚),他の3箇所を無処置(無傷皮膚)とした.無傷及び損傷皮膚の各1箇所にDMSO(0.5 mL)あるいは10 w/w%SLS軟膏(0.5 g)を均一に塗布し,リント布,パラフィルム及び不織布粘着包帯で固定した.更に自着性弾力包帯で保護した後,ネット包帯で固定し24時間閉塞貼付した.対照群として生理食塩液(0.5 mL)を同様に塗布した.貼付終了後1,24及び48時間に観察を行い,Draize法を用いて皮膚反応の判定を実施した.また,貼付除去後48時間の判定終了後,病理組織学的検査を行うために皮膚を採取した.
    【結果】DMSOあるいは10 w/w% SLS軟膏を投与した投与部位(無傷及び損傷皮膚)では,非常に軽度な紅斑(評点1)が貼付除去後1及び24時間に1あるいは2例でみられたが,無傷及び損傷皮膚の間で刺激性の差はみられなかった.また,無傷皮膚の刺激性については,昨年報告した結果と同様な反応(非常に軽度な紅斑)を示した.現在,投与部位の病理組織学的検査を実施中であり,その結果も合わせて報告する予定である.
  • 樋口 剛史, 北浦 智規, 下田 淳子, 佐々木 正治
    セッションID: P-23
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】ヨウ素酸ナトリウム(SI)による網膜への影響を各種検査によって検出し,網膜毒性の発現について検討した。
    【方法】Crl:CD(SD)ラットにSI(50 mg/kg)を単回静脈内投与し,投与後8,24,48,96時間にERGを記録した。ERGは,暗順応下で杆体応答,混合応答及び律動様小波を,明順応下で錐体応答及び10Hzフリッカー応答をそれぞれ白色LED内臓コンタクトレンズ型電極及びGanzfeld dome型光刺激装置を用いて記録した。また,投与後3時間及び各ERG記録後に検眼鏡的検査,蛍光眼底検査あるいは組織学的検査を行った。
    【結果】両機器で記録したERGにおいて,ほぼ同様な応答が得られた。すなわち,すべての応答で投与後8あるいは24時間から潜時の延長が認められた。振幅については,杆体応答,混合応答及び律動様小波は投与後8時間から,錐体応答は投与後24時間から減少が認められたが,投与後8時間には減少した例と増加した例が全ての応答で認められた。検眼鏡的検査ではSI投与の影響はみられなかったが,蛍光眼底検査では投与後3時間に蛍光剤の漏出が認められた。病理組織学的検査では,投与後3時間以降に色素上皮細胞層の壊死及び消失が,24時間以降に視細胞層の萎縮及び皺曲がみられた。
    【結論】SIによる網膜への影響は病理組織学的検査で確認され,色素上皮細胞に続いて視細胞が影響を受けることが示された。これらに対応する変化がERGにおける振幅の減少及び潜時の延長として,あるいは蛍光眼底検査における蛍光剤の漏出として検出された。総じて,2つの機器で記録したERGに違いはなかった。ERGにおける振幅増加の原因は不明であり,その意味について突き詰めていくことにより,今後の網膜毒性評価に有用な情報を得られるものと考えられた。
    注:本実験結果の一部は,第31回比較眼科学会年次大会で発表されたものである。
  • 塚本 俊平, 奥原 裕次
    セッションID: P-24
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【目的】
     Sodium Iodate(SI)のウサギ網膜への影響について,2種類の測定装置を用いた網膜電位図(ERG)で検討すると共に病理組織学的検査についても実施した。
    【方法】
     異なる2施設において,それぞれウサギ(日本白色種, 11~12週齢)に20 mg/kgのSIを単回静脈内投与し,投与3, 8, 24, 48および96時間後に,白色LED内蔵コンタクトレンズ型電極(LED),またはGanzfeld dome型光刺激装置(Ganz)を用いて,麻酔下でISCEVのプロトコール(杆体応答,混合応答,錐体応答,律動様小波および30 Hzフリッカー応答)に準じた方法によりERGを記録した。また,投与3, 8, 24, 48および96時間後に眼球を摘出し,病理組織学的検査を実施した。
    【結果】
     LEDおよびGanzに共通して,すべての応答の振幅が24時間以降に経時的に減弱し,96時間後までに波形はほぼ消失した。杆体応答および混合応答b 波の振幅は,投与3時間後および8時間後でLEDでは減弱を示したが,Ganzでは増加を示した。病理組織学的検査では,投与初期に色素上皮細胞の変化,24時間後に視細胞の変化が認められた。
    【考察】
     本条件下におけるLEDおよびGanzを用いたERGの記録および病理組織学的検査により,ウサギのSI投与による網膜障害の経時的な変化を検出することができた。投与後8時間までの杆体応答および混合応答の振幅データが,LEDとGanzで異なった原因は不明であるが,SI投与後の網膜障害の経時的な変化に両施設で違いがあったためと推察された。
    注:本実験結果の一部は,第31回比較眼科学会年次大会で発表されたものである。
  • 津田 裕一, 余戸 拓也, 藤枝 光博, 中下 富雄
    セッションID: P-25
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【目的】ヨウ素酸ナトリウム(SI)によるビーグル犬の網膜への影響を複数施設にて各種検査により検出し、機器や施設による違いによる網膜毒性の発現について検討した。
    【方法】雌性ビーグル犬(1~2.5歳齢)に35 mg/kgのSIを単回静脈内投与し、白色LED内臓コンタクトレンズ型電極(LED)あるいはGanzfeld dome型光刺激装置(Ganz)を用いて、鎮静下でISCEVプロトコルの網膜電位図(ERG)[暗順応(杆体応答、混合応答、律動様小波、高輝度応答)及び明順応(錐体応答及び30Hzフリッカー応答)]を記録した。また、ERG記録後に眼科学的検査、蛍光眼底検査及び病理組織学的検査を行った。
    【結果】両装置のERGで、暗順応ERG及び錐体応答の潜時延長及び振幅減少がみられ、波形が消失した。フリッカー応答では約半数例で波形消失、残る約半数例で振幅減少が認められ、LEDを用いた方が波形消失までに至る日数が少なかった。しかし、両装置とも潜時の変化はなかった。また、LEDでは一部の例で高輝度応答消失後にわずかな回復性がみられ、Ganzでは全ERG応答において回復性が認められた。2施設でLEDを用いたERGが検討され、いずれも同様のERG変化が認められた。眼科学的検査ではノンタペタム領域の色素変性がみられ、対応する部位に蛍光眼底検査で過蛍光が認められた。病理組織学的検査では網膜色素上皮(RPE)細胞の壊死及び視細胞の変性が認められ、それに続いて視細胞層の萎縮及びRPE細胞の再生がみられた。
    【結論】両ERG装置におけるSIによる網膜への影響として、振幅減少、潜時延長あるいはこれら変化の回復性が認められ、病理組織学検査の結果と一致した。これら刺激装置の反応に若干の差があったものの、同様の反応が認められており、同一プロトコルを用いた試験の結果、何れの装置あるいは施設に於いても同等に網膜毒性を捉えることが可能であると確認された。
    注:本実験結果の一部は、第31回比較眼科学会年次大会で発表されたものである。
  • 田中 守, 大竹 誠司, 和田 聰, 一井 隆亨, 荒木 智陽
    セッションID: P-26
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【目的】ヨウ素酸ナトリウム(SI)による網膜への影響を各種検査によって検出し,網膜毒性の発現について検討した。
    【方法】カニクイザルにSI(25又は50 mg/kg)を単回静脈内投与し,白色LED内臓コンタクトレンズ型電極(LED)又はGanzfeld dome型光刺激装置(Ganzfeld)を用いてERG(ISCEV推奨5項目の杆体応答,混合応答,律動様小波,錐体応答及び30 Hzフリッカーに加え,高輝度応答及びLEDではc波)を経時的に記録した。各記録後に眼科的検査又は蛍光眼底造影を,最終記録後に病理組織学的検査を行った。
    【結果】ERGでは25 mg/kgで杆体応答に,50 mg/kgでc波を除く全ての応答に投与後1~8時間に潜時の延長又は振幅の増加が認められた。振幅は多くの応答で増加の後に減少した。c波はいずれの投与量でも投与後1時間から振幅が減少し,陽性波が陰性波に転じる例もあった。以上のERGの変化は投与後14日までに回復性が認められた。なお,LED及びGanzfeldで結果に明らかな相違はなかった。眼科的検査では変化はみられなかった。蛍光眼底造影では50 mg/kgで過蛍光又は蛍光剤の漏出が認められた例があった。病理組織学的検査では50 mg/kgで網膜色素上皮又は視細胞層に軽微~軽度の変化がみられた。
    【結論】SIの25 mg/kg投与で光顕レベルの器質的変化を伴わない網膜機能の変化が確認された。低用量のSI投与では網膜色素上皮及び杆体細胞の機能が障害され,その後に錐体細胞を含むその他の網膜機能が障害されるものと考えられた。また,SI投与による網膜機能への障害には回復性が認められた。なお,ERG振幅の増加の意義については不明であるが,網膜毒性評価に有用である可能性が示唆された。
    注:本実験結果の一部は,第31回比較眼科学会年次大会で発表されたものである。
  • Katsuhiko YOSHIZAWA, Tomo SASAKI, Maki KURO, Norihisa UEHARA, Hideho T ...
    セッションID: P-27
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    The effects of dietary arachidonic acid (AA) supplementation on N-methyl-N-nitrosourea (MNU)-induced retinal degeneration was investigated in young Lewis rats during the gestational, lactational and post-weaning periods. Dams were fed 0.1%, 0.5%, or 2.0% AA diets or a basal (<0.01% AA) diet. On postnatal day 21 (at weaning), male pups received a single intraperitoneal injection of 50 mg/kg MNU or vehicle and were fed the same diet as their mother for 7 days. Retinal apoptosis was analyzed by the TUNEL assay 24 hr after MNU treatment, and retinal morphology was examined 7 days post-MNU. Histologically, all rats that received MNU and were fed basal and 0.1% AA diets developed retinal degeneration characterized by the loss of photoreceptor cells (disappearance of the outer nuclear layer and photoreceptor layer) in the central retina. The 0.5% and 2.0% AA diets suppressed the retinal damage, and the 2.0% AA diet completely rescued rats from retinal damage. Morphometrically, in parallel with AA dose (0.5% and 2.0% AA), the photoreceptor ratio significantly increased and the retinal damage ratio decreased in the central retina, as compared to the corresponding ratios in basal diet–fed rats. In parallel to the increase in serum and retinal AA levels and the AA/DHA ratio, the apoptotic index in the central retina was dose-dependently decreased in rats fed the 0.5% and 2.0% AA diets. In conclusion, an AA-rich diet during the gestation, lactation and post-weaning periods rescued young Lewis rats from MNU-induced retinal degeneration via the inhibition of photoreceptor apoptosis.
  • 黒岩 有一, 久世 博, 小川 竜也, 中山 祥大, 津田 裕一, 工藤 茂樹, 中村 厚, 榎並 倫宣, 岡崎 修三
    セッションID: P-28
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【目的】我々は先に硫酸カナマイシン(KM)をラットに反復投与し、聴性脳幹反応(ABR)を経日的に記録して聴覚閾値(HT)の上昇を捉え、閾値上昇に先行するⅠ或いはⅡ波の振幅増高を報告した(J. Toxicol. Sci. 36, 835-841, 2011)。今回、ヒトで突発性難聴の報告があるPDE-5阻害薬のシルデナフィル(SIL)をマウスに反復投与し、ABRを経日的に記録した。
    【材料及び方法】9週齢のCrlj:B6C3F1マウス雌雄各6匹を用いて、SIL 20 mg/kgを1日1回、14日間強制経口投与後、40 mg/kgに増量し、さらに14日間投与した。ABRは誘発電位検査装置MEB-9102(日本光電)、新生児用イヤホン及び針電極を用いて、投与開始前、投与7、14、21及び28日後の計5回測定した。動物はイソフルラン吸入麻酔下で体温を37.5±1℃に維持し、クリック音刺激により、1秒間に20回の刺激頻度で、1000回加算した。刺激音圧90 dB SPLから10dB単位で段階的に下げ、左右耳のI及びⅡ波の振幅及び潜時を計測し、HTを算定した。
    【結果】SIL 20 mg/kgの投与7日後に、振幅の低下傾向が認められた。また、投与7日から21日に、KM投与ラットでHT上昇の前兆としてみられたものと同様のI波又はⅡ波の振幅増高が個体別に散見された。続いて、21日後(40 mg/kg増量7日)にはHTの上昇及び振幅の低下傾向が認められ、SILによる聴覚障害が示唆された。しかし、28日後(増量14日)には、高音圧(90 dB SPL)でのI波及びⅡ波振幅の大幅な増高がみられ、HTは投与前の水準まで回復するか投与前より低下した。これらは投与21日後とは逆の変化であったが、SILの聴覚器への影響を示唆する一連の変化と考えられた。なお、潜時には影響はみられず、聴覚器の病理組織学検査でも異常は認められなかった。以上の結果から、今後適切な用量を検討する必要があるのもの、SILがマウスABR検査の陽性対照物質として有用な可能性が示された。
  • 杉山 真弓, 江崎 健, 関戸 徹, 西川 真由, 早川 和宏, 峯島 浩, 本岡 覚, 柿内 太, 園田 二朗
    セッションID: P-29
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    [目的] ラットを用いた一般毒性試験では,通常自然発生眼病変を有する動物は試験より除外されるため,詳細な検索が実施される機会は少ない。今回,胎生期の遺残病変あるいは先天異常と考えられる症例について眼科学的及び病理組織学的に詳細な検索を実施したので報告する。
    [方法] 水晶体後嚢・硝子体の混濁(症例1),水晶体後面の血管網(症例2),前眼房腫脹及び虹彩癒着(症例3)がみられた動物について,双眼倒像検眼鏡及びスリットランプを用いて詳細な眼科学的検査を実施した。さらに,剖検時摘出した眼球を用いて組織学的検索を実施した。
    [結果及び考察] 症例1では,眼科学検査において水晶体後嚢における限局性の混濁と視神経乳頭から水晶体後極にかけて索状物が観察された。組織学的には硝子体血管を取り囲むように増殖した線維様組織が,視神経乳頭から硝子体を通って水晶体後面に達し,水晶体後面を覆うように増殖が認められ,第一次硝子体過形成遺残(Persistent hyperplastic primary vitreous : PHPV)と考えられた。症例2では,水晶体後嚢における混濁に加え,水晶体後面を被覆するような血管網が観察された。この所見と一致して,組織学的には血管を主体とする膜様構造が水晶体後面を覆うように認められたことから,水晶体血管膜遺残(Persistent tunica vasculosa lentis : PTVL)と診断された。一方,症例3では,前眼房腫脹に加え角膜と虹彩の広範囲な癒着,水晶体前嚢下及び後嚢下混濁,網膜の反射性亢進がみられ,組織学的に虹彩と角膜後面との癒着,水晶体前・後極被膜下の白内障及び網膜萎縮が認められ,虹彩前癒着(anterior synechia)と診断された。
  • 橋爪 昌美, 大神 明, 楯 美樹, 石井 雅己, 高橋 響, 榎本 眞, 小林 素秋, 森本 泰夫
    セッションID: P-30
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【目的】珪肺症は結晶質シリカの粉じんの吸入により起こり, 肺胞蛋白症(急性)や線維性瘢痕病変(慢性)が観察される。ラットでは発癌性も指摘されている。今回, ウサギに結晶質シリカを気管内に単回投与し, 肺への経時的影響を検討した。
    【方法】2 mLの生理食塩液に懸濁した結晶質シリカ(平均粒径1.6μm)50 mgをJW雄ウサギ(平均体重:1.8 kg)の気管内に投与し, 投与後3日, 3ヶ月, 6ヶ月に投与群と対照群各3例を解剖して病変を検索した。組織マイクロアレイ標本も作製し, HE染色に加え, 特染(PAS, Masson trichrome, EVG)や免疫染色(RAM11, MAC387, IL-1β, IL-6, TNF-α)を行った。
    【結果および考察】投与後3日では, 肺野全体にシリカ粒子を貪食した肺胞マクロファージや多形核白血球が出現した。呼吸細気管支周囲には小型の珪肺結節が形成され, 結節の外縁には肺胞上皮が増生した。投与後3ヶ月では, 肺胞内に蛋白様物質(PAS陽性)の貯留, 結節内の線維芽細胞出現、石灰化巣(一部)や結節の融合などを認めた。結節周囲のリンパ球出現, 結節内と肺胞内のマクロファージ, 多形核白血球の増加傾向も観察された。 投与後6ヶ月では, 肺胞内の蛋白様物質の減少, 結節融合の進行, 線維芽細胞の増生増加が示され, マクロファージ, 多形核白血球の浸潤, リンパ球出現もさらに目立った。以上の所見から, シリカ粒子は先ず肺胞内マクロファージに貪食されるが, マクロファージの死滅に伴い肺胞内や間質に再放出されること, 肺胞Ⅱ型上皮細胞の産生する肺サーファクタントなども加わった蛋白様物質が結節性病変を招くことが推察され, 免疫染色などによる裏付けを行った。なお、結節は時間の経過とともに融合・大型化し, 投与後6ヶ月には肺胞上皮増生や炎症細胞浸潤も加わって特徴的な形態を示す線維性瘢痕が形成されることを確認した。
  • 野川 央, 河合 智之, 三浦 正弘
    セッションID: P-31
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【目的】薬剤誘発性QT延長のメカニズムとしてhERGチャネルタンパク質の細胞膜内輸送(hERG Trafficking)阻害作用の関与が指摘されている。このhERG Trafficking阻害作用は再分極予備力の低下にも関与し、QT延長や不整脈の誘発を促進させると推察されるが、hERG Trafficking阻害作用のin vivoに関する情報は少なく、hERGチャネル直接阻害作用を示す薬剤との併用についてもほとんど報告されていない。本研究では、in vitroにおいてhERGチャネル直接阻害作用は示さないがhERG Trafficking阻害作用を有することが報告されているProbucolのin vivoでのQT間隔に対する影響について検討した。さらに、ProbucolとMoxifloxacin(MFLX)の併用試験を実施し、hERG Trafficking阻害下におけるQT延長作用について検討した。【方法】イヌ(Beagle、雄4頭)を用いて(1)Probucol(100 mg/kg)の単回投与、(2)MFLX(20 mg/kg)の単回投与、(3)Probucol単回投与+MFLX単回投与、(4)Probucol 7日間反復投与+MFLX単回投与の4試験を実施し、QT間隔に対する影響をテレメトリー法にて検討した。心電図は心表面より誘導し、取得したデータをProbabilistic Methodにより解析、個体別補正法によりQTcを算出することでQT間隔に対する作用を高精度に評価した。【結果及び考察】Probucolは、単回投与において溶媒投与と比較して軽度のQTc間隔の延長を示した。7日間反復投与では、投与期間に依存したQTc間隔の延長がみられ、7日目では10%前後のQTc間隔の延長が認められた。MFLXとの併用においては、それぞれの単独投与におけるQT延長作用を相加した効果が認められた。本結果より、hERG Trafficking阻害作用を有する薬剤はin vivoにおいてQT延長作用を示すこと、また、hERGチャネル直接阻害作用を示す薬剤との併用は相加的なQT延長効果をもたらす可能性が示唆された。
  • 永山 幸利, 中根 史之, 斉藤 裕之, 星合 清隆, 秋江 靖樹, 齋藤 明美
    セッションID: P-32
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】薬物の心機能に対する影響を詳細に評価するとき,これまではイヌやサルを用いて麻酔下で心臓カテーテル法を用いてきたが,1回の測定に数時間を要するため,反復投与試験で繰り返し測定するには適していなかった.一方,心臓超音波検査は非侵襲で短時間に測定ができるため,繰り返しの測定が可能である.今回,麻酔下のサルに急性心不全治療薬であるMilrinoneを投与し,経時的に心臓超音波検査を実施して左室収縮能と拡張能の評価を行い,心臓カテーテル法の結果と比較して心機能評価を検討した.
    【方法】カニクイザル雄5匹(体重:3~6 kg)を用い,イソフルラン麻酔下(1.0 ~ 2.0 %)でMilrinone(0, 20, 60, 200 μg/kg)の各用量を10分間持続投与後,20分間の休薬を行い,累積静脈内投与した.心臓超音波検査は,動物を左横臥位で保持して超音波診断装置を用いて実施した.心臓カテーテル法は,動物を仰臥位に保持し,頚静脈からサーモダイリューションカテーテルを肺動脈まで,頚動脈からピッグテールカテーテルを左心室内までそれぞれ挿入し,分時心拍出量,左心室内圧及び左心室内圧最大上昇速度を測定した.
    【結果 考察】両検査においてMilrinoneは一回拍出量(SV),分時心拍出量(CO),駆出率(EF),径短縮率(FS),心拍数(HR)を用量依存的に増加させ,左室収縮能の亢進が認められた.以上の結果から,カニクイザルにおける心臓超音波検査法で得られた結果は,心臓カテーテル法と同様の傾向を示したことから,心臓超音波検査は非侵襲的な心機能検査法として反復投与毒性試験などで有用であると考えられる.
  • 松山 拓矢, 高田 早苗, 片岡 広子, 矢部 光一, 新野 訓代, 伊藤 和美, 谷 吉朗, 三分一所 厚司, 高崎 渉
    セッションID: P-33
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    我々は、1, 3-dinitrobenzeneを投与したラット精巣において、精母細胞障害の増悪に伴う精母細胞特異的遺伝子群の発現低下を報告した(Matsuyama et al., Toxicology 290: 169-177, 2011)。そこで本研究では、マイクロアレイを用いた遺伝子発現解析による精巣毒性評価系の構築を目的として、化合物誘発ラット精母細胞障害検出に対する精母細胞特異的遺伝子の有用性について検討した。精母細胞障害を惹起することが知られるEthylene glycol monoethyl ether(EGME)を200、600および2000 mg/kgの投与量で9週齢の雄性F344ラット に経口単回投与し、投与後24時間に精巣を採材して病理組織学的検査およびマイクロアレイ解析(Affymetrix社、GeneChip® Rat Genome 230 2.0 Array)を実施した。その結果、病理組織検査において、600 mg/kg以上の投与群で精母細胞の単細胞壊死がみられた。マイクロアレイ解析では、精母細胞特異的遺伝子群の多くの遺伝子発現レベルが用量相関的に低下していた。続いて、精母細胞特異的遺伝子のラット精巣での発現細胞を組織学的に確認するため、無処置の9週齢の雄性F344ラット精巣に対して代表的な3つの遺伝子(Cklf、Prok2およびLef1)についてIn situ hybridization法を用いて調べたところ、いずれの遺伝子も精母細胞特異的に発現していた。以上より、精母細胞特異的遺伝子の発現低下は化合物誘発ラット精母細胞障害を検出する毒性評価指標として有用と考えられた。
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