日本毒性学会学術年会
第39回日本毒性学会学術年会
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若手研究者セミナー
  • 神田 洋紀, 外山 喬士, 熊谷 嘉人
    セッションID: MS2-6
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    メチル水銀(MeHg)は水俣病の原因物質であるが、現在では生物濃縮を介してマグロ等の大型食用魚類の摂取により我々の体内に侵入する、低濃度曝露が懸念されている環境化学物質である。MeHgイオンとタンパク質のシステインのイオウ部分(SH基)に対する親和力(解離定数pK=15.7)は他の種々のアミノ酸リガンドに対するどれよりも大きい。従って、体内に入るとMeHgはSH基特異的に共有結合して、タンパク質はMeHgによる親電子修飾(S-水銀化)を受ける。一般に、このことがMeHgの毒性発現に関係していると考えられているが、一方でその実態解明のために必要と考えらえる“ケミカルバイオロジー的なアプローチ”は少ない。その理由のひとつとしては、MeHgのS-水銀化を同定する手法が確立していなかったことがあげられる。
     我々は、MeHgがマンガン(Mn)スーパーオキシドディスムターゼ、神経型一酸化窒素合成酵素、およびアルギナーゼIをS-水銀化して、それぞれの機能を破綻することを報告してきた。更に、S-水銀化はタンパク質の構造変化を引き起こすため、タンパク質によっては不溶化が生じるのではないかと考えた。そこで、肝臓中の主要なMn結合タンパク質であるアルギナーゼIに対するMeHgの影響を検討した結果、S-水銀化により不溶化することが確認され、インビボで肝臓中のMn濃度の低下も認められた。このような背景から、MeHgによりS-水銀化されて不溶化するタンパク質のスクリーニング系を確立した。更に、本系によりS-水銀化の標的分子を探索した結果、糖代謝を司るソルビトール脱水素酵素(SDH)が同定された。
     本シンポジウムでは、これまで明らかにした当該スクリーニング法、MeHgのS-水銀化の検出方法、ならびにSDHの酵素活性の低下および不溶化に係わるS-水銀化部位等について紹介し、不溶化の原因についても考察する。
サテライトシンポジウム
化学物質の安全性をin silicoで評価する
  • 山田 隼
    セッションID: ST-1
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    2007年度から5年間、NEDOおよびMETIの開発資金を得て、反復投与毒性に関わる「有害性評価支援システム」(Hazard Evaluation Support System: HESS)の開発を行った。その背景と概要を報告する。
    【プロジェクトの背景】 化学物質管理の国際的な取り組みは、2020年までに流通する化学物質のリスクを評価、管理することが目標としている(WSSD2020)。有害性評価がなされないまま流通している化学物質が数万物質以上あり、これらを実測評価することは不可能に近く、動物試験による有害性についての有効な予測手法が求められていた。これに対し、OECDは予測手法開発に関する専門家会合(2003)を組織し、様々な討議を重ね、作用機序に基づくカテゴリーアプローチ手法およびこのためのプラットフォームOECD Toolboxを開発している。一方、我が国では化審法既存物質の評価データを蓄積・公開しており、その中で反復投与毒性の試験報告書をベースとして、各種データベースとカテゴリーアプローチのためのToolboxと互換性のあるプラットフォームの開発を行った。
    【HESSの概要】HESSのシステムは基本的には、試験報告書DB、代謝DBおよびシミュレータ、作用機序DB、体内動態DBおよびBaysian Netによる毒性予測システムで構成される。
     試験報告書DB:化審法28日反復投与毒性試験および反復・生殖併合毒性試験報告書、NTP短期および長期試験報告書、その他の学術文献から採取した約500物質の詳細なデータのDB;代謝DBおよびシミュレータ:約800物質のラットの代謝情報を網羅し、これを用いて代謝のパスウエイのシミュレーションを行う。;作用機序DB:収載した500物質の試験結果から、特定の臓器に重篤なレスポンスを示した物質を選び、その毒性発現のメカニズム情報を検索・収集し、可能な限り確証して、毒性発現のパスウエイを構成した。
  • 阿部 武丸
    セッションID: ST-2
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    反復投与毒性は、機能的変化(症状や液性変化)や器質的変化(剖検や組織変化)など、種々の検査データを総合的に考察して判断される。
     種々の化学物質の反復投与の影響を比較する場合、それら検査データを横並びで比較することが必須である。
     しかし、これまでにそうした比較は、報告書から検査データを各項目別に抽出し、比較表を作るなどの、高度の専門性が要求される煩瑣な作業を前提としていた。
     今回、そうした比較が可能な「反復投与毒性試験」DB構築のため、反復投与毒性試験の報告書群を俯瞰し、そのデータを入力するという作業に関わった。その中で
     1)用語の統一
     2)有意差に関する統計手法の標準化
     3)測定機器や表示単位の標準化
     4)図表の配置・表示法(フォーマット)の標準化
     5)病理所見表示法の標準化
    などの報告書内の「データ表示法」について、ガイドライン的な標準化の必要性を痛感した。
  • 山田 隆志
    セッションID: ST-3
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    In silicoにより化学物質の反復投与毒性を予測するためには、類似物質の既知の反復投与毒性試験データを有効に活用することが不可欠である。さらに予測結果が毒性学的に受け入れられるためには、毒性作用機序に基づき、予測結果の透明性を確保することが重要である。しかし、化学物質の毒性作用機序に関する情報は、学術文献や総説の形で分散して存在しており、その情報を効率よく利用することは困難である。そこで、反復投与毒性試験報告書データベースに収められている化学物質を対象に、発現毒性と関連がある作用機序の情報を収集・整理してデータベースの構築を行い、対象物質の毒性作用機序を考察できる根拠を提供することを目指した。強い毒性を誘発する物質は、その毒性作用機序の研究もある程度進んでいると考えられたため、反復投与毒性試験報告書データベースを精査して変性・壊死といった重篤な毒性を発現した物質を選抜し、その毒性作用機序に関連する学術文献を収集した。対象とする発現毒性には、溶血性貧血、肝毒性、腎毒性、精巣毒性、神経毒性、膀胱毒性を選んだ。そしてトキシカントの推定、生体機能に毒性影響を及ぼす生体分子・細胞内小器官・細胞・臓器の損傷、対象化合物に対する分子・細胞・臓器レベルでの生体応答、毒性作用機序と関連するマーカーなどに関する証拠を要約し、データベース化した。本発表では、毒性作用機序データベースに収録したデータの概要と、毒性予測における本データベースの活用事例について紹介したい。
  • 山下 辰博
    セッションID: ST-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    化学物質のリスク評価に不可欠な有害性の評価において、反復投与毒性は対象とする化学物質の毒性学的性状を明確化する重要な判断根拠である。この反復投与毒性の情報を得るためには、多額の費用と時間を要する動物試験が実施されているのが現状であり、in silicoで評価する手法やシステムへの期待が高まっている。しかし、反復投与毒性は多様なエンドポイントが対象であり、さらにまた、それらのデータの欠落があるためにこれまでシステム化することが困難であった。我々は、これらの課題の解決を目指して、カテゴリーアプローチ等の手法が実施可能な有害性評価支援システム(Hazard Evaluation Support System, HESS)を開発した。
     本システムには、有害性評価の根拠になる反復投与毒性の試験情報や発現した毒性の作用機序情報を収載した毒性知識情報データベースと、対象とする化学物質の生体内での代謝および動態に関して整理した代謝知識情報データベース(ADME DB)が搭載されている。さらに、これらのデータベースを統合して、検索およびユーザデータの登録を行うシステムとしてHESS DBを開発した。
     化学物質の反復投与毒性情報の多くが実験動物のデータから得られていることから、ヒトに対する有害性評価のためには、ヒトと実験動物の種差を検討することが必要である。ADME DBは、この種差検討を支援することを目的とし、ヒトおよび実験動物におけるADME情報を比較できるようにしている。HESS DBでは、物質名やその構造を検索条件として試験情報ほかの各データを検索するほか、血液などの検査データ、組織病理所見データといった毒性のエンドポイントからの検索によって、類似の毒性を示す物質を検索することができる。
     今回は、「ADME DBとHESS DBの開発」として、それぞれの開発の経緯とともに、公開されるシステムの概要について、HESS DBを使った実際の操作を交えて紹介する。
  • 山添 康
    セッションID: ST-5
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    代謝動態の情報は、医薬品および一般化学物質の生体影響を知るうえに重要である。非臨床試験における毒性データをヒトに外挿する際、代謝/動態の種差を明確にしておく必要がある。
    薬物代謝には明確な種差があり、医薬品の開発時にはヒト酵素系を用いた試験が実施されている。この評価試験には、実際に個々の候補薬物を入手/合成する必要がある。そこで開発効率を向上するためCYP分子種を中心にin silico手法が検討されてきた。既にCYP分子種の結晶構造をもとに作られた3Dモデルを使って基質適合性を判定する手法が数多く報告されている。しかしながらその多くは基質適合性(基質となるか否か)を推定することにとどまり、否(貧)基質と判定することができていない。また代謝される部位も特定できない。このようなことから実用性は低かった。
    演者らは、単一酵素発現系を用いた関与分子種判定データを利用して基質構造側から酵素内部の基質収容空間を表示できると考え、研究を進めてきた。データ表示にあたっては、基質収容空間を空間(ボリューム)表示ではなく、多環炭化水素の平面構造のように6員環集合体のテンプレートとして示すことにした。このテンプレートと被験物質の構造を重ね合わすことで、適合/否適合のみならず酸化部位の特定、貧基質と判定される原因を明確に示すことができるようになった。これらの実際を幾つかのCYP分子種に付いて紹介する。
  • 櫻谷 祐企
    セッションID: ST-6
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    カテゴリーアプローチによる反復投与毒性の評価を支援するためのコンピュータソフトウェアである有害性評価支援システム統合プラットフォーム(HESS)を開発した。HESSには、毒性発現のメカニズムに基づいて反復投与毒性のデータギャップ補完を行うためのカテゴリーのライブラリーが搭載されている。本発表では、我々が開発した反復投与毒性に対するカテゴリーの概要及びHESSの機能について発表する。化審法既存点検結果やNTP短期毒性試験などのデータの確認できる500物質の構造からカテゴリーの構築を行った。まず、これらの500物質のうち、類似する毒性発現メカニズムにより特定の毒性が発現することが想定できる物質群を学術論文により調べ特定した。次に、これらの物質群の反復投与毒性試験データを調べ、対象とする毒性が低用量で発現する物質の化学構造やパラメータの領域を特定しカテゴリーとして定義した。その結果、肝臓影響や溶血性貧血など14種類の毒性に対し、33種類のメカニズムに基づくカテゴリーを構築した。定義したカテゴリーは、トレーニングセットの物質や毒性発現のメカニズム情報などと共にカテゴリーライブラリーとしてHESSに搭載した。ユーザーが評価対象の化学物質をHESSに入力すると、HESSはカテゴリーライブラリーに基づき評価対象のカテゴリーの候補となる類似化学物質の反復投与毒性試験データをその毒性発現メカニズムや代謝情報と共に提供する。ユーザーはこれらHESSから提供された情報を確認しつつ、必要に応じてサブカテゴリー化を行い、データギャップ補完を行うためのカテゴリーを確定する。HESSにおいて反復投与毒性試験データは、約500種類の所見に対するNOELとLOELとして表現されており、ユーザーは確定したカテゴリーに基づき、関連する所見のNOEL又はLOELを使ってデータギャップ補完を行うことができる。
  • 岡田 孝, 大森 紀人
    セッションID: ST-7
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    確率推論の枠組みであるベイジアンネットを用いて、ラットを対象とした反復投与毒性評価システムToxBayを構築した。ネットは基本的に化合物カテゴリー、診断およびendpointの3層からなる。例えば溶血性貧血の診断の場合、RBCとHGB量の双方が減少した場合を毒性とした。7種の診断に対して毒性を引き起こす特徴的な部分構造を、カスケードモデルを用いたデータマイニングの技法により抽出した[1]。これらの部分構造群で化学的に類似したものを統合し、化合物カテゴリーノードを設定した。診断とendpointのノードは毒性専門家の意見に従い設定した。また、例えば酸は肝重量増を起こしにくいというように、いくつかのendpointでは化合物カテゴリーとendpoint間に特異的な相関が見られた。このような場合は、化合物カテゴリーからendpointへの直接のリンクを張った。化合物カテゴリーから診断への条件付確率表は、各カテゴリーにおける毒性発生頻度に従い確率を定め、NosiyOr関数により表現した。各診断からendpointへの確率表はEM learning法により値を定めた。このように作成したネットによる確率推論のシステムをwebアプリケーションToxBayとして実装し、インターネット上で公開している[2]。このシステムに化合物構造のSMILES表記を入力すると、ヒットした化合物カテゴリーや毒性確率の高い診断ノード、endpointノードが赤色で表示される。また、動物実験による結果も入力すると、非常にまれにしか起こらないネットの部分を赤色のリンクで表示するため、実験結果の評価に用いることもできる。
    [1] BASiC: http://www.dm-lab.ws/BASiC/ で公開中。
    [2] ToxBay: http://211.8.17.77/ で公開中。
一般口演
一般口演1
金属
  • 阿南 弥寿美, 大保 愛, 谷 祐太, 畠山 佳子, 八幡 紋子, 小椋 康光
    セッションID: O-1
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    セレンは動物にとって生体必須元素の一つであり、その生体内利用、代謝あるいは毒性はヒトや実験動物を用いて明らかにされてきた。近年では、植物や微生物のセレン代謝についても報告されているが、哺乳類以外の動物綱における生体内セレン代謝に関する情報は少ない。鳥類は哺乳類と同様に生態系の高次に位置し、環境中でのセレンの循環において重要な位置を占めると考えられる。そこで本研究ではニホンウズラに無機および有機セレン化合物を投与し、セレンの体内分布および化学形態を解析した。
     WE系ニホンウズラ(オス、5週齢)を一週間馴化後、5 µg Se/mLの亜セレン酸ナトリウム(selenite)またはセレノメチオニン(SeMet)を含む水を1週間自由摂取させた。対照群には精製水を与えた。各臓器・組織および排泄物を採取し、硝酸湿式灰化後、ICP-MSでセレン濃度を定量した。また、肝臓と腎臓の上清、および排泄物抽出液について、HPLC-ICP-MSによりSeの化学形態を分析した。
     セレン化合物を投与したウズラでは多くの組織で有意にSe濃度が増加した。また、2つの投与群を比べると、SeMet群の組織中セレン濃度はselenite群の2-5倍の高値を示した。従って、有機セレン化合物であるSeMetはseleniteに比べ生体内利用されやすいと示唆された。HPLC-ICP-MSによるセレン化学形態別分析の結果、肝臓および腎臓の上清においてセレンタンパク質に加え、セレン糖(selenosugars; SeSugs)とトリメチルセレノニウム(trimethylselenonium; TMSe)が検出された。これらは哺乳類において尿中代謝物として知られているが、鳥類でも検出されたことから、SeSugsおよびTMSeの生成は高等動物に共通したセレン代謝経路であると考えられた。また、これらの代謝物はセレン化合物投与により顕著に増加した。排泄物抽出液ではSeSugs、TMSeに加え、複数の未知代謝物が検出された。従って、鳥類は哺乳類と共通の経路の他に、特異的なセレン代謝機構を有することが示唆された。
  • 三浦 伸彦, 柳場 由絵, 大谷 勝己, 外川 雅子, 長谷川 達也
    セッションID: O-2
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    生体が示す多くの生理リズムの中で生体防御能も日内変動を示すことが知られている。生体防御機能の低下した時刻でばく露を受けた場合、毒性を含む生体影響が強く生じることが予想されることから、カドミウムの投与時刻がマウスの致死毒性に与える影響を解析した。C57BL/6Jマウス(5週齢、雄)を飼育環境下(照明ON: 8-20時)で2週間馴化後、カドミウム(CdCl2)を1回腹腔内投与した。投与は投与当日の10:00から開始し、それぞれ4時間毎に投与時刻の異なる6群について行った。先ず生存率について検討した結果、マウスの致死毒性は暗期(22, 2, 6時)よりも明期(10, 14,18時)に投与した方が強い致死毒性が認められ、暗期の平均致死率が40%であったのに対し、明期では73%であった。次に肝毒性について調べた結果、14時投与でGPT値の著しい上昇が認められたのに対し、2時投与ではコントロールレベルであり肝毒性は観察されなかった。これらの結果はCd毒性発現に著しい時刻依存性があることを示す。Cdの肝臓蓄積量に両時刻の差は認められず、またメタロチオネイン(MT)誘導量も両時刻で同様であったことから、毒性発現の時刻差におけるCd蓄積量及びMTの関与は否定された。一方、肝臓中グルタチオン(GSH)量をBSOで低下させるとこの時刻差は消失したことから、GSHがCd毒性発現の日内変動に影響を及ぼす一つの因子である可能性が示された。
  • 平田 明成, 廣岡 孝志, 山本 千夏, 鍜冶 利幸
    セッションID: O-3
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【目的】水俣病患者の大脳障害の特徴は,深い脳溝周辺に傷害が限局されていることである。その原因として「メチル水銀が浮腫を引き起こし周辺組織が圧迫されて循環障害が発生するが,その影響は形態的な理由から脳溝周辺に起こりやすい」とする浮腫仮説が病理組織学的研究から提唱されている。本研究の目的は,ポリオール経路に対するメチル水銀の毒性を血管内皮および周皮細胞を用いて検討し,メチル水銀による細胞毒性浮腫に分子基盤が存在することを示すことである。
    【方法】メチル水銀または高グルコースで処理したヒト脳微小血管内皮細胞および周皮細胞の浮腫性変化を形態学的観察で評価した。メチル水銀で処理した内皮および周皮細胞についてポリオール経路の代謝酵素であるアルドース還元酵素(AR)およびソルビトール脱水素酵素(SDH)の発現をReal-time RT-PCR法およびWestern blot法により分析した。
    【結果・考察】メチル水銀に曝露した内皮細胞においては,形態学的には細胞間隙の広がりが観察されたのみであり,またメチル水銀によるARおよびSDHの発現の変化は認められなかった。これに対し,メチル水銀に曝露した周皮細胞においては,紡錘形から敷石状への形態の変化が認められた。このとき,メチル水銀によるAR発現の上昇およびSDH発現の低下がmRNAおよびタンパク質レベルで確認された。敷石状への形態変化とARの発現上昇は高グルコースで処理した場合にも観察され,ARをノックダウンすることによりこの浮腫性の変化は抑制された。以上の結果は,メチル水銀に曝露した周皮細胞の浮腫性の形態変化は,ポリオール経路におけるARの発現上昇とSDHの発現低下によってソルビトールが細胞内に過剰に蓄積し,細胞内浸透圧と水分貯留が上昇したことに起因することを示唆している。
  • 廣岡 孝志, 山本 千夏, 安武 章, 衞藤 光明, 鍜冶 利幸
    セッションID: O-4
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【目的】水俣病においてメチル水銀の大脳の深い脳溝周辺組織への選択的な障害は,その毒性による脳浮腫形成が原因であることが「浮腫仮説」により提唱されている。しかしながら,浮腫形成と二次的な組織循環障害により形成される低酸素環境下における,メチル水銀の細胞毒性発現は未だ明らかになっていない。そこで,本研究ではメチル水銀による傷害ヒト脳微小血管内皮細胞層の修復阻害に対する低酸素の影響を調べた。【方法】物理的に傷害し修復過程にある内皮細胞層および異なる細胞密度に播種した内皮細胞層を調製し,低酸素(1% O2)および通常条件(20% O2)下,37℃で24時間,メチル水銀(1, 2, 3 µM)処理した。傷害細胞層の修復を形態学的観察により,非特異的な細胞傷害を培地中に逸脱した乳酸脱水素酵素(LDH)の活性により,それぞれ評価した。細胞の増殖活性は,細胞数の変化により評価した。別に,FGF-2システム関連mRNAおよびFGF-2タンパク質の発現レベルをReal-time RT-PCRとWestern blot 分析により調べた。【結果および考察】メチル水銀は傷害内皮細胞層の修復を濃度依存的に阻害し,その阻害作用は1% O2培養において増強された。しかしながら,メチル水銀の内皮細胞に対する非特異的な傷害および増殖阻害作用の1% O2培養による増強は確認できなかった。一方,傷害細胞層の修復に中心的な役割を担うFGF-2システムに関連する遺伝子群のうち,FGF-2 mRNAとそのタンパク質の発現が,1% O2下で20% O2下よりも強く阻害され,その阻害作用はメチル水銀濃度依存的に増強されることが確認された。これらの結果は,メチル水銀の傷害ヒト脳微小血管内皮細胞層の修復阻害が低酸素により増強されること,そのメカニズムの1つとして低酸素によるメチル水銀のFGF-2に対する発現低下作用の増強を示唆している。
  • 清野 正子, 曽根 有香, 中村 亮介, 坂部 貢, 芳生 秀光
    セッションID: O-5
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    本研究は環境中に放出された重金属のファイトレメディエーションを目指す。細菌由来のMerCは水銀、カドミウムを細胞外から細胞内へ輸送するトランスポーターである。また、シロイヌナズナ由来のSNAREファミリーのSYP121は細胞膜に、AtVAM3は液胞膜にそれぞれ特異的に局在する膜タンパク質である。本研究では、MerCに膜輸送タグとしてSYP121またはAtVAM3を融合させたタンパク質(MerC-SYP121, MerC-AtVAM3)を発現させた遺伝子組換え植物を構築し、耐性と蓄積性を指標とした機能解析を行った。merC, merC-SYP121, merC-AtVAM3遺伝子は植物ベクターpMAT137に組換え、常法に従い植物に形質転換した。組換え植物を用いて、ゲノムPCRおよびRT-PCRにより目的遺伝子のゲノムへの組換えおよびmRNAの発現をそれぞれ確認した。植物体の水銀、カドミウムに対する耐性および蓄積性について検討した。水銀耐性について、merC組換え植物は野生株とほぼ同等、merC-SYP121, merC-AtVAM3組換え植物はそれらに比べ上昇した。カドミウム耐性について、merC, merC-AtVAM3組換え植物は野生株とほぼ同等、merC-SYP121組換え植物はそれらに比べ上昇した。水銀蓄積性について、merC-SYP121, merC-AtVAM3組換え植物は野生株に比べ、それぞれ有意に上昇した。カドミウム蓄積性について、merC-SYP121組換え植物は野生株に比べ有意に上昇した。以上の結果より、merC-SYP121組換え植物は水銀とカドミウムに対する耐性および高蓄積性をそれぞれ有しており、重金属の浄化に適していると考えられた。
    Kiyono M., et al., Planta. (2012) 235(4):841-850
一般口演2
環境汚染物質
  • Wageh S. DARWISH, Yoshinori IKENAKA, Mayumi ISHIZUKA
    セッションID: O-6
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    [Introduction] The growing exposure of the human and animals to heavy metal pollution generates modulation in xenobiotics-metabolizing enzymes (XMEs) response. In this study, the modulation of Ahr ligand-dependent toxicities by heavy metals and the molecular basis of this modulation were investigated.
    [Materials and Methods] Samples were collected from different edible offal of cattle slaughtered at Zagazig abattoir, Egypt. Different heavy metals were measured using atomic absorption spectrophotometer. Human and rat liver hepatoma cell lines (HEPG2 and H4IIE) were treated with Lead and Copper under different concentrations ranged between permissible and toxic doses. The effects of these treatments on various XMEs and regulatory elements were screened using the methods of qPCR and Western Blotting.
    [Results and Discussion] Liver, kidney and tongue showed the highest contents of the various heavy metal residues compared to other tissues. Lead, copper, cadmium, zinc and nickel exceeded the maximum permissible limits of Egyptian Standards and WHO. Interestingly, both copper and lead could induce CYP1A1 mRNA expression under low doses in the treated cell cultures. This expression level was markedly decreased under high concentrations. Effects of copper and lead on CYP1A1 expression was parallel to their effects on Ahr suggesting that those effects were in response to Ahr. All tested phase II enzymes were severely down regulated by exposure to lead in a concentration dependent manner. In conclusion, there were clear cross-talks between copper, lead and pase I, II enzymes and regulatory elements in the cultured cells.
  • 津田 修治, 佐々木 和明, 齋藤 憲光
    セッションID: O-7
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    過フッ素有機化合物は難分解性,高蓄積性,長距離移動性,人の健康・生態系への有害性という,POPsの性質をすべて備えている物質群であり,最近その環境汚染がとみに危惧されている。この過フッ素有機化合物の人体暴露の主要経路は水道水といわれており,その水源となる河川水中濃度が近畿地方,特に大阪・兵庫地区で高いことが知られている。そこで、今回われわれは大阪・兵庫の六ヶ所から2011年8月から9月に採取した水道水中のパーフルオルオロカルボン酸群(C5~14)とパーフルオロスルホン酸群(CS4, CS7,CS8 and CS10)をLCMSMSで測定し,その結果を2007年の水道水中の濃度と比較した。さらにこの水道水中の濃度変化を2003年と2010年に日本全国の河川から採取した過フッ素化有機合物濃度と関連づけて考察した。2011年の水道水中からはC5~C12とCS4, CS7,CS8 が検出された。そのうちで1ng/L以上のものは,C8,C9,CS8,C6であり,その幾何平均はそれぞれ6.0,4.1,3.6,2.0 ng/Lであった。2007年に大阪・兵庫の六ヶ所から採取した水道水中の濃度ではC8,C9,CS8,C7,C6が高い値を示し,その幾何平均はそれぞれ9.3,2.1,1.1,0.58 ng/Lであった。すなわちこの4年間にC8の濃度は65%に減少し,C6の濃度は3.4倍に増加した。2007年の水道水中のC8,CS8,C9濃度の全国平均値はいずれも2010年の河川中濃度の約20%であったが、C6だけは3.4%と極端に低く,近畿地方においてはC6濃度が全国平均の15倍と極端に高いため、この割合は2.3%とさらに低かった。このことからC6の環境中への放出が最近始まり、河川水を汚染し、水道水汚染へと向かっていることが明らかとなった。
  • 齋藤 憲光, 佐々木 和明, 津田 修治
    セッションID: O-8
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    過フッ素有機化合物は難分解性,高蓄積性,長距離移動性,有害性(人の健康・生態系)という,POPsの性質をすべて備えている物質群であり,最近その環境汚染がとみに危惧されている。今回われわれは大震災津波の三陸沖海水中の過フッ素有機化合物汚染に与えた影響を検討する目的で,震災後の2011年8月から9月に三陸沖の35地点から採取した海水中のパーフルオルオロカルボン酸群(C5~14)パーフルオロスルホン酸群(CS4, CS8 and CS10)をLCMSMSで測定した。結果は2003年に同じく三陸沖で測定したC8, CS8濃度と比較した。さらにこの海水中の濃度の変化を2003年と2010年に日本全国の河川から採取した難分解性有機フッ素化合物濃度と関連づけて考察した。2003年の海水中のC8とCS8の濃度は測定限界値以下であったが,震災後の海水中ではC5~C12及びCS6とCS8が検出された。そのうちC8,C6,C9,C10の濃度が高く幾何平均値はそれぞれ0.68,0.18,0.14,0.11 ng/Lであった。2003年から2010年にかけて,河川水中のC8とCS8の濃度はそれぞれ5.4から3.2 ng/L及び2.1から1.0 ng/Lと減少傾向を示し,北海道東北地区ではC8の濃度が1.1から0.72 ng/Lと減少傾向を示し,CS8濃度は1.2から0.1 ng/Lと明らかな減少を示していた。以上の結果から、東北大震災津波によって、陸上の過フッ素有機化合物が海に運ばれ、海水汚染を引き起こしていることが明らかとなった。
  • 川畑 公平, 尾川 雄一, 杉原 数美, 佐能 正剛, 北村 繁幸, 太田 茂
    セッションID: O-9
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【目的】近年、環境中に放出された医薬品等による環境汚染が報告されている。医薬品は高い生理活性を有しており、生態系に様々な影響を及ぼすことが懸念される。また医薬品は環境中において様々な環境因子により分解・代謝され、毒性・蓄積性の高い分解物が生じていることが予想されるが、その分解メカニズムおよび毒性増加の危険性など、医薬品の環境動態については充分に明らかにされていない。そこで本研究では、環境因子、特に太陽光に焦点を当て、太陽光照射による医薬品の分解と水生生物への毒性変動について検討を行った。
    【実験方法】検討医薬品として、アセトアミノフェン(AA)、アミオダロン(AM)、ダプソン(DP)、デキサメタゾン(DX)、インドメタシン(IM)、ナプロキセン(NP)、フェニトイン(PH)、ラロキシフェン(RL)、スリンダク(SL)の9種医薬品を用いた。調整した医薬品水溶液に紫外線ランプを用いて波長の異なる紫外線(UV-A・B・C)および太陽光を暴露し、暴露後にOasis HLB cartridgeにより固相抽出を行い100倍濃縮し、HPLCを用いて分解率を測定、もしくは水生生物に曝露して毒性を評価した。水生生物に対する毒性変動は、海洋発光細菌P.phosphoreumを用いた発光阻害試験(ISO11348)により評価した。
    【結果・考察】太陽光の暴露によりAA、PH以外の医薬品の分解が進行した。医薬品の分解の進行にともない、分解物の生成が認められた。紫外線ランプを用いた紫外線暴露により、波長特異的に医薬品の分解が進行した。また紫外線暴露により、医薬品の水生生物への毒性が増減した。毒性が増減した原因としては、分解により親化合物が減少したこと、もしくは分解により生成した分解物が親化合物に比べて毒性が大きいことが考えられる。以上の結果より、環境中に流入した医薬品は太陽光暴露により分解し、生成した分解物が水生生物に対して毒性を発現する可能性が示唆された。医薬品の環境における挙動に、太陽光が大きく寄与している可能性が示唆された。
  • 金 一和, 劉 薇, 于 文広, 佐々木 和明, 齋藤 憲光, 津田 修治
    セッションID: O-10
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【目的】 Perfluorooctane sulfonate(PFOS)は、近年注目されている難分解性有機フッ素化合物で、環境中に広く存在し、その毒性全貌はまだ不明である。本実験では、PFOS暴露によるラット血清中甲状腺ホルモン低下のメカニズムを検討にすることにした。
     【方法】 ラットに90日間PFOSを連日経口暴露された後、血清中の甲状腺ホルモン濃度と甲状腺ホルモンの合成、代謝に関連する酵素の活性と遺伝子発見に及ぼす影響を観察した。
     【結果及び考察】 PFOS暴露群の血清中TT4濃度は対照群に比べて有意に低下し、低下程度は暴露濃度に依存したが、FT4とT3の低下または甲状腺刺激ホルモン濃度の上昇は見られなかった。PFOS暴露群では肝臓組織中UGT1A1遺伝子発見の顕著な上昇と甲状腺組織中のDIO1活性の低下が観察されたが、甲状腺合成に関連するThyroperoxidaseの活性、甲状腺組織のSodium iodide symporter(NIS)とTyroid stimulating hormone receptor (TSHR)遺伝子発見の異常変化は観察されなかった。本実験により、PFOS暴露によってラット肝臓でT4がUGTとの結合が増強される一方、T4の代謝が促進されて、血清中のT4の濃度が低下されると思われる。
一般口演3
分析法、オミクス、エピジェネティクス、薬物代謝
  • 後藤 玄, 瀬戸 碧, 岡室 彰, 水口 浩康, 羽田 亮, 芹沢 光太郎, 溝口 靖基, 西原 義人, 木村 紗綾佳, 原 好子, 山下 ...
    セッションID: O-11
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    アルカリフォスファターゼ(ALP)は薬物による臓器障害時に血中へ逸脱し、血漿中の活性を上昇させるため、一般毒性試験で頻繁に測定されているが、その解釈が困難なケースにしばしば遭遇する。アイソザイム分析は有効な手法であるが、実験動物での分析法が十分に確立されていなかったため、我々はマウス、ラット及びイヌについて検討し報告した。今回、ウサギの血漿ALPアイソザイムについて同様に検討した。
     【材料及び方法】1) ウサギの血漿総ALP活性の背景を確認するため、我々の施設で実施された一般毒性試験を調査した。2) ウサギの血漿ALPアイソザイムの特徴を確認するため、条件の異なる動物(年齢、性、絶食の有無、系統:New Zealand White(NZW)、Japanese White(JW)及びDutch)から採取した血漿の総ALP活性測定(臨床化学自動分析装置 TBA-120FR:東芝)及びアイソザイム分析を行った。3) アイソザイム分析には、ヒトALPアイソザイム分析用ポリアクリルアミドゲルディスク電気泳動キット(アルフォー、3mA、80分、インディゴブルー染色:常光)を用いた。キット規定の方法に加え、試料のWGA (wheat germ agglutinin)処理やノイラミニダーゼ処理、並びにレバミゾールによる発色阻害を行った。
     【結果】NZWでは血漿総ALP活性に明確な性差はみられず、雌雄とも加齢に伴い低下した。原因は主に骨ALPアイソザイムの低下であった。ウサギの肝臓には小腸型のALPが非常に多いとの報告があるが、血漿中にも小腸型ALPと推定されるバンドが数本検出され、その発現に個体差を認めた。絶食による血漿総ALP及びALPアイソザイムの変動はなかった。少数例のJW及びDutchについても検討したが、明確な系統差はみられていない。現在、胆汁鬱滞モデルや臓器抽出ALPを用い、更なる検討を実施中である。
  • 北嶋 聡, 相崎 健一, 五十嵐 勝秀, 菅野 純
    セッションID: O-12
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    食品添加物のみならず、それらとの相互作用も問題となる食品中の各種化合物(残留農薬、飼料添加物、汚染物質、器具・容器包装等を含む)の安全確認について、従来の試験法による無毒性量/無影響量 の取得に加えて、生体反応の分子毒性メカニズムに立脚するPercellomeトキシコゲノミクス研究を推進してきた。この研究により、従来法の課題として挙げられる、妊婦、乳幼児などリスク感受性が高い者への対応、高額で時間がかかる従来試験法から迅速で費用がかからない新型試験法への移行、発がん性、神経系、内分泌・生殖系、免疫系等の社会的関心の高い多岐に亘る毒性への対応及び、内分泌かく乱化学物質の毒性研究からの教示(転写過程への影響など遺伝子発現の調整機構の重要性)への対応が可能となるものと考える。ここでは一例として、キク科ヨモギ属のタラゴン等に含まれる天然香料エストラゴールについて検討した結果を報告する。
     12週齢の雄性C57BL/6マウスを使用し、エストラゴールを溶媒(コーンオイル)及び3 用量(0、10、30及び100 mg/kg)にて単回強制経口投与し、投与2、4、8、及び24 時間後に(各群3 匹、4用量×4時点=16 群構成、計48 匹)肝のmRNAを経時的に採取しGeneChip MOE430v2 (affymetrix社)を用い、約45,000プローブセットの遺伝子発現の絶対量をPercellome法により得て解析し、また当毒性部が所有する100 化合物を超える遺伝子発現データベースとの比較解析を検討した。
     その結果エストラゴールは、高脂血症治療薬クロフィブレート(0、10、30及び100mg/kg)と同等の、強力なPPARαシグナル活性化作用を有していることが示唆された。この所見は、これまでに報告のないもので、基準値を設定する際等の安全性評価上、この点に留意する必要があるものと考える。
  • 澁谷 徹, 堀谷 幸治, 原 巧
    セッションID: O-13
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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     近年、Epigenetics(EG)という概念が生物学・医学において重視されつつある。EGは突然変異とは異なりDNAの配列変化を伴わないで、DNA塩基のメチル化、ヒストン修飾、マイクロRNAなどによってクロマチンの構造的な変化が誘発され、遺伝子発現を制御する機構で、Waddington(1942)によって提唱され、個体発生や細胞の分化の説明に用いられ、現在では、細胞分子的生物学的な解析が進められている。
     Epigeneticsは細胞における生化学反応であるので、化学物質などの環境因子によって、容易にかく乱される。これを「環境エピゲノミクス」と総称し、毒性学、臨床医学さらに社会心理行動学などで重要な概念となるつつある。特に臨床医学においては、胎児期のさまざまな栄養状態や化学物質のばく露などによって、出生後に心臓病、代謝異常、精神疾患などに罹患する危険性が高くなるという疫学データが得られつつある。これはBarker(1968)によって提唱され、「疾患胎児期発症説(Development Origin of Health and Disease説)と言われている。
     演者らは、これまでに雄マウスの始原生殖細胞にアルキル化剤のN-Ethyl-N-nitorsourea(ENU)を経胎盤投与し、得られた雄の精子に劣性突然変異が誘発されることを発見した。またクロマチンの変化の結果である遺伝子内組換えが高頻度に誘発されることを見出してきた。ENUは効率よく塩基置換を誘発することが知られている化学物質であるが、このように染色体構造にも影響を有することが分かった。
     多くの化学物質はEpigeneticな影響を及ぼすものと考えられる。この性質は化学物質のがん原性、催奇形性、免疫毒性などの多くの毒性事象の原因であることが考えられる。そこで、マウスの胎児期の始原生殖細胞に試験物質を投与し、無処理雌と2世代の交配を行って、F1では体細胞経由の影響を、F2では生殖細胞経由の影響を見る毒性試験を提唱する。また文献検索によってEpigeneticsによってさまざまな毒性が誘発されている可能性を概説する。
  • 大塚 亮一, 鈴木 穂高, 武田 眞記夫, 山口 悟, 小嶋 五百合, 富田 真理子, 小山 彩, 高橋 尚史, 桑原 真紀, 吉田 敏則, ...
    セッションID: O-14
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    第38回本学会において,フェノバルビタール(PB)の反復投与によりラット肝臓において誘発されるDNAメチル基転移酵素であるDnmt3aの発現抑制が,転写因子であるcyclic AMP responsive element binding protein(Creb)の結合性の低下に起因する可能性を示し,さらに,Crebとhypoxia inducible factor 1a(Hif1a)との関連性を示唆した。今回我々は,Hif1aの肝臓における機能を検討するために,ラット初代培養肝細胞を用い,鉄キレート剤でHif1aの分解経路を阻害するとされるdeferoxamine methylate(DFO)あるいはHif1aに対するsiRNAを添加することによりその機能を修飾し,遺伝子発現の変動を検索した。0.1 MのDFO添加24時間後では,Hif1aおよびDnmt3aの有意な発現上昇が認められ,10 MのDFO添加24時間後では,Dnmt3aの有意な発現上昇ならびにDnmt1の有意な発現低下が認められた。これに対して,100 nMのsiRNA添加24時間後では,Hif1aの有意な発現低下とDnmt1の有意な発現上昇が認められた。これらの結果から,Hif1a(もしくは酸素濃度)がDNAメチル化モード(新規メチル化もしくは維持メチル化)を制御していることが考えられたため,さらに,低濃度のsiRNA(25 nM)添加後24ならびに72時間後の遺伝子発現の変動を検索した。その結果,24時間後では,Hif1a,Dnmt3a,CrebおよびCdkn1b(p27)が有意に発現低下していたのに対してPcnaは有意に上昇していた。72時間後では,Hif1a,Dnmt3aおよびCrebが有意に発現低下していたのに対してDnmt1,Myc,Pcna,Cdkn1bおよびE2f1が有意に上昇していた。これらのことから,Hif1aのDnmt3a制御においてCrebを介していること,ならびに,Dnmt1制御においてMycおよびE2f1を介していることが示された。以上のことから,DNAメチル化のrewritingにおいて低酸素状態が必須であり,さらにDNA脱メチル化によるerasingが加わることにより細胞の形質が制御を受ける可能性が示唆された。
  • 吉成 浩一, 荒木 希久子, 山添 康
    セッションID: O-15
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    CYP1A1およびCYP1A2は、化学物質の解毒的代謝および代謝活性化に働く薬物代謝酵素である。両酵素の発現レベルは化学物質の暴露により変化し、これにはAh受容体が中心的な役割を果たしている。最近我々は、異物応答性の核内受容体CARもまたヒトCYP1A1およびCYP1A2の転写活性化作用を有することを明らかにした。本研究では、両酵素の新たな発現調節因子を見出すことを目的として、CARと同様に肝に高発現し、低分子化合物応答性の核内受容体であるLXRαが、ヒトCYP1A1およびCYP1A2の転写活性化作用を有するか否かを解析した。両遺伝子は同一染色体上に存在し、約23 kbのプロモーター領域を共有している。そこで本研究では、両遺伝子のプロモーター領域の5'末端と3'末端に異なるレポーター遺伝子を融合し、両遺伝子の転写活性を同時に測定可能なデュアルレポーターコンストラクトを用いて転写機序解析を行った。野生型および欠失コンストラクトならびにヒトLXRα発現プラスミドを用いたレポーターアッセイの結果、LXRαはCYP1A1の-554から-511の領域および-510から-460の領域を介して両遺伝子の転写を同時に活性化することが示唆された。ゲルシフトアッセイにより、LXRα/RXRαヘテロダイマーは、-520付近および-460付近に見出した2つのER8型の核内受容体ダイマー結合モチーフ(前者はCAR結合モチーフと同一)に結合することが示された。この2つのモチーフに変異を導入したコンストラクトを用いたレポーターアッセイにより、これらのモチーフはLXRα依存的なCYP1A1およびCYP1A2の転写活性化に共に重要であることが確認された。さらに、レポーターアッセイにおいて、LXRα依存的な両遺伝子の転写活性化は、Ah受容体による両遺伝子の転写活性化に対して相加相乗的に作用したが、CARによる転写活性化にはそのような作用を示さなかった。以上の結果から、LXRαはヒトCYP1A1およびCYP1A2の新たな転写調節因子である可能性が示された。
一般口演4
内分泌攪乱化学物質、生殖毒性、毒性発現機構
  • 清水 良, 山口 雅史, 北村 繁幸, 太田 茂, 杉原 数美
    セッションID: O-16
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】脱ヨウ素化酵素であるiodotyrosine deiodinase (IYD)は、甲状腺ホルモンの代謝によって生成したiodotyrosine類からの脱ヨウ素化反応を触媒し、甲状腺組織中におけるヨウ素の再利用およびヨウ素濃度の維持に関与する酵素である。また、IYDはiodotyrosineだけでなく、chlorotyrosineやbromotyrosineをも基質とすることが報告されている。そのため、ハロゲン化tyrosine (Tyr)のように芳香環に水酸基およびハロゲン基が結合した化学物質は、この酵素を阻害し甲状腺ホルモン代謝系の攪乱を引き起こす可能性がある。今回、ハロゲン化Tyrと部分構造が類似した化学物質のIYD活性阻害作用を検討し、その構造活性相関を精査した。
    【方法】IYD遺伝子をヒト肝臓cDNAライブラリーからクローニングし、プラスミドpcDNA3.1hygro-IYDv2を構築した。このプラスミドをヒト胎児腎細胞由来HEK293T細胞にトランスフェクションすることで、IYD過剰発現HEK293T細胞を樹立した。この細胞のミクロソーム画分と被検物質を3-iodo-L-tyrosineおよびNADPH存在下で反応後、HPLCで反応液中のTyr量を定量することで被検物質のIYD活性阻害作用を評価した。
    【結果および考察】IYD活性阻害作用は、1) 芳香環にクロル基と水酸基が結合した3,3’,5,5’-tetrachlorobisphenol A (難燃剤)、triclosan (殺菌剤)、oxyclozanide、bithionol (駆虫薬)、2) 芳香環にブロム基と水酸基が結合した3,3’,5,5’-tetrabromobisphenol A (難燃剤)、benzbromarone (高尿酸血症治療薬)、phloxine B (着色料)、3) 芳香環にヨード基と水酸基が結合したrose bengal、erythrosine B (着色料)などで認められた。したがって、芳香環への水酸基およびハロゲン基の結合が、IYD活性阻害作用を示すための化学構造的要因であることが示唆された。
  • 青木 明, 吉岡 弘毅, 廣森 洋平, 木村 朋紀, 藤井 義明, 中西 剛, 永瀬 久光
    セッションID: O-17
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    ダイオキシン類の中で最も毒性の強い2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)は、ダイオキシン受容体(AhR)のアゴニストとして作用することで毒性を引き起こすことが知られている。また、AhRはエストロゲン受容体(ER)とクロストークし、ERの分解性を修飾することで、ダイオキシン類が抗エストロゲン作用を示すことが報告されており、TCDDはAhRを介してヒト乳癌細胞の増殖抑制作用を示すと考えられている。その一方で、AhR非依存的な経路でヒト乳癌細胞の増殖を抑制する有機塩素化合物が存在することから、TCDDもAhR非依存的な経路で作用を示す可能性が考えられる。そこで本研究では、TCDDのAhRを介さない毒性発現機構の解明を目的とし、TCDDのヒト乳癌細胞増殖抑制におけるAhRの関与について検討を行った。
     3H-thymidineの取り込み量を指標にTCDDのヒト女性生殖内分泌器系細胞株の増殖に対する影響について検討を行ったところ、TCDDは0.01 Mという低濃度で乳癌細胞株(MCF-7細胞、ZR-75-1細胞)の増殖を有意に抑制した。しかし、それ以外の細胞株(OVCAR3細胞、HeLa細胞、JEG-3細胞)には10 nMでも全く抑制されず、TCDDの作用は乳癌細胞特異的なものであった。続いて、ERαをノックダウンまたは過剰発現させた条件で同様に検討を行ったところ、TCDDによる増殖抑制作用の程度に変化は認められなかった。このことから、TCDDはER非依存的に乳癌細胞の増殖を抑制していることが示唆された。他のAhRアゴニストもTCDDと同様に細胞増殖抑制作用を示すか検討を行ったところ、3,3’,4,4’,5-pentachlorobiphenylは十分なAhR転写活性化能を示す濃度においても増殖抑制作用を示さなかった。その一方で、TCDDはAhRをノックダウンした条件においてもMCF-7細胞の増殖を抑制した。これらの結果から、TCDDによる乳癌細胞増殖抑制作用は、AhR以外の経路を介したTCDDに特徴的な現象である可能性が示唆された。
  • 古川 賢, 林 清吾, 臼田 浩二, 阿部 正義, 萩尾 宗一郎, 小川 いづみ
    セッションID: O-18
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】白金抗がん剤であるシスプラチンのラット胎盤発生に対する影響を経時的に検索した。【材料及び方法】試験にはWistar Hannover妊娠ラット52匹を供試した。シスプラチンは生理食塩水に溶解し、0及び2 mg/kgの用量にて妊娠11及び12日(11・12日投与群)並びに妊娠13及び14日(13・14日投与群)に腹腔内投与した。妊娠13、15、17及び21日に剖検を実施し、胎盤及び胚子/胎児を摘出し、重量測定後、胎盤の病理組織検査を実施した。【結果】11・12日投与群では、胎児死亡率は妊娠17日以降約65%まで上昇し、胎児重量は妊娠21日で減少した。胎盤重量は妊娠15日以降減少し、妊娠21日では肉眼的に小胎盤(対対照群重量比43%)を示した。13・14日投与群では、胎盤重量は11・12日投与群と同様、妊娠15日以降減少し、妊娠21日では小胎盤(対対照群重量比60%)を示したが、胎児死亡率、胎児重量には著変は認められなかった。病理組織学的には11・12日投与群では、アポトーシス増加が迷路層において妊娠13、15及び17日、基底層においては試験期間を通して認められた。細胞増殖活性低下は迷路層及び基底層において妊娠13日で認められ、両層は低形成を示した。さらに、基底層ではアポトーシスによるグリコーゲン細胞の減少が妊娠15及び17日で認められ、これによりグリコーゲン細胞の間膜腺間質への浸潤が抑制され、間膜腺は低形成を示した。13・14日投与群では、アポトーシス増加が迷路層において妊娠15及び17日、基底層において妊娠21日で認められ、迷路層は低形成を示した。一方、基底層及び間膜腺では著変は認められなかった。【結論】シスプラチンを妊娠11、12日に投与することにより迷路層と基底層は低形成となり、小胎盤が誘発された。間膜腺も低形成を示したが、これはグリコーゲン細胞の減少に起因した二次的変化と考えられた。一方、妊娠13、14日投与では迷路層は低形成を示したが、基底層には著変は認められず、基底層の感受期は迷路層よりも短いと考えられた。さらに、胎盤重量が約60%まで減少しても、正常な胎児発育は維持されることが明らかとなった。
  • 大谷 勝己, 柳場 由絵, 外川 雅子, 長谷川 達也, 三浦 伸彦
    セッションID: O-19
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    生体リズムと生体影響発現との関連については、古くから指摘されてきているところではあるが、具体的にいつどのような影響があるのかを明確に示した実験データは少ない。我々が扱ってきた重金属のうち、カドミウムは内分泌撹乱作用が指摘され、精巣が標的臓器の一つとされている。そこで、今回カドミウムの投与時刻がマウスの精巣毒性に与える影響を腹腔内投与および皮下投与で解析した。
     雄性マウス(C57BL/6J、5週齢、雄)を飼育環境下(照明ON: 8-20時)で2週間馴化後、カドミウム(CdCl2)4.5mg/kgを1回腹腔内投与した。また、皮下でも4.0および6.0㎎/kgを同様に1回投与した。投与時刻は14:00 (ZT06)および2:00 (ZT18)を選択した。溶媒(生食)のみの対照は各投与時刻に設けた。腹腔内投与6日後(皮下では10日後)に体重を測定するとともに、エーテル麻酔下で解剖し左右の精巣、精巣上体および精巣上体尾部の重量を測定した。さらに、精巣および精巣上体尾部の精子数を計測するとともに、精巣上体尾部の精子を0.5%ウシ血清アルブミン含有M199培地に37℃で浮遊させ、精子運動能解析装置(HTM-IVOS)により精子運動能のパラメーターを測定した。
     腹腔内投与でも皮下投与でも、体重および臓器重量に変化は認められなかった。しかし、4.5mg/kg腹腔内投与群および6mg/kg皮下投与群では、精子、精子運動率および前進精子率が対照群に比べ14:00 (ZT06)の投与群で有意に低下していた。他方、2:00 (ZT18)の投与群ではその様な低下は認められなかった。以上の結果から、カドミウムの投与時刻の違いによって精巣毒性の発現の程度が異なり、明期で強く出る可能性が示された。
  • 宮田 昌明, 山川 泰輝, 山添 康
    セッションID: O-20
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】肝臓の胆汁酸レベルの上昇は肝胆道系の障害と密接に関連している。我々はマウスに抗菌薬を単独あるいは胆汁酸と併用投与すると対照群、胆汁酸単独投与群と比べて肝臓の胆汁酸レベルと血清中の肝障害マーカーが増加することを見いだした。複数種の抗菌薬で同様な結果が得られることより腸内細菌の減少が肝胆汁酸レベルの増加に関連すると考えられた。本研究では消化管からの胆汁酸吸収に着目して抗菌薬投与による肝胆汁酸レベルの上昇の機序の解明を実施した。
    【方法】C57BL/6N雄性マウスにampicillin (ABPC) 100 mg/kgを投与し、投与後3、12、24時間後のマウス門脈血、肝臓、回腸、直前3時間の糞を採取した。
    【結果】ABPC投与後門脈血中胆汁酸濃度の増加と糞中への胆汁酸排泄の減少が12、24時間に認められた。ABPC投与後12時間ですでに消化管管腔内の胆汁酸組成の変動が認められ、タウロコール酸(TCA)が有意に増加し、腸内細菌による代謝で生成するコール酸(CA)、タウロデオキシコール酸(TDCA)のレベルが検出限界以下まで減少した。消化管胆汁酸吸収に中心的な役割を担うapical sodium-dependent bile acid transporter (Asbt)の発現レベルを解析したところ、回腸mRNAレベルに変動は認められなかったが、ABPC投与後12、24時間の回腸刷子縁膜でAsbtタンパク質含量の有意な上昇が認められた。抗菌薬投与12時間後にCA、TCA、TDCAを投与するとAsbtタンパク質含量はCA、TDCA投与でコントロールレベル以下まで低下したがTCAでは変動しなかった。
    【結論】腸内細菌による代謝で生成する胆汁酸(CA、TDCA)は胆汁酸吸収トランスポーターAsbtの発現をタンパク質レベルで負に調節しており、抗菌薬投与による腸内細菌の減少は回腸Asbtタンパク質レベルを上昇させ、消化管胆汁酸吸収を亢進させることで肝内胆汁酸レベルの上昇に関与していることが示唆された。
一般口演5
循環器、皮膚、新規物質(ナノマテリアル等)-1
  • 山中 洋泉, 可徳 小四郎, 川迫 一史, 秋山 賢之介, 佐々木 一暁, 片山 誠一, 今泉 真和, 直 弘, 西 勝英
    セッションID: O-21
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】安全性薬理試験ではテレメトリー法で無麻酔無拘束下での大動脈圧を測定するが、心臓左室内圧(LVP)を測定することはない。しかしながら、近年、心臓機能を測定することも求められるようになってきた。こうした状況に対して2か所同時に圧を測定できるテレメトリー送信器が開発されたので、我々は大動脈圧に加え、心臓左室内圧を無麻酔無拘束下で測定し、心収縮力の指標であるLVdP/dtmaxとQA間隔の違いについて検討した。さらに、カニューレ留置による左心室損傷の程度を調べた。【方法】ベトナム産のカニクイザルを用いてテレメトリー送信器(TL11M3-D70-PCTP、Data Sciences International、USA)の血圧センサーを大腿動脈および心臓左心室内に留置し、心電図電極を心外膜に逢着した。データは,テレメトリー取得解析システム(Open ART Ponemah、Data Sciences International、USA)により完全自動解析を行った.手術後1、2、3、4および5週間のLVdP/dtmax およびQA間隔の日内変動を比較した。また、左心室内へのカニューレ挿入による影響を調べるため、挿入部(心尖部)から0.5cm間隔で心臓を横断し、HE標本を作製して鏡検した。【結果および考察】心収縮力の指標であるLVdP/dtmax およびQA間隔は、テレメトリー手術後1~5週間のそれぞれの日内変動パターンに差は認められなかった。LVdP/dtmaxの日内変動は、明期で高く暗期で低い傾向を示し、QA間隔では、前者で短く後者で長い傾向であった。また、カニューレ挿入部を中心に局所的にごく軽微の出血、血栓、褐色色素の沈着および線維化が認められたが、カニューレ留置による左心室の組織損傷はごく軽微であったことから、心臓機能に及ぼす影響は極めて低いと考えられた。以上のことから、カニクイザルにおいてテレメトリーシステムを用いた無麻酔無拘束下で左室内圧の測定および心収縮力の評価方法が確立できた。
  • 山浦 克典, 土居 亮介, 諏訪 映里子, 上野 光一
    セッションID: O-22
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    【目的】長期外用ステロイド療法の急激な中断に伴い、リバウンド症状がしばしばみられる。しかしながら、その発症頻度や症状の詳細については明らかとされていない。そこで我々は、実験的皮膚炎マウスに対しデキサメタゾンを長期間反復塗布することで掻痒を惹起する、ステロイド誘発性の新規掻痒モデルを作成した1)。本マウスモデルを用い、外用ステロイドによる掻痒誘発因子について検討した。
    【方法】BALB/cマウスに対し2,4,6-trinitro-1-chlorobenzene (TNCB)を5週間反復塗布して慢性接触性皮膚炎を誘発した。反応惹起直後から5週間にわたりデキサメタゾンを反復塗布し、耳介浮腫および掻破回数を測定した。また、抗原刺激したマスト細胞の脱顆粒反応およびプロスタグランジン(PGD2)産生に対するデキサメタゾンの作用を、RBL-2H3細胞を用い検討した。
    【結果】デキサメタゾンの反復塗布は、皮膚炎マウスの掻痒反応を有意に亢進したが、正常マウスに対しては掻痒を誘発しなかった。デキサメタゾンは耳介組織のPGD2産生を抑制した。さらに、デキサメタゾンは抗原刺激したRBL-2H3細胞のPGD2産生を有意に抑制したが、同一添加濃度において脱顆粒反応は抑制しなかった。
    【考察】外用ステロイド反復塗布が誘発する、アレルギー性接触皮膚炎マウスの掻痒症状の増強は、皮膚マスト細胞のPGD2産生抑制に起因する可能性が示唆された。
    1) Yamaura K. Doi R. Suwa E. Ueno K. J Toxicol Sci. 2011:36;395-401.
  • 東阪 和馬, 吉岡 靖雄, 永野 貴士, 國枝 章義, 畑 勝友, 角田 慎一, 鍋師 裕美, 吉川 友章, 堤 康央
    セッションID: O-23
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    非晶質ナノシリカや酸化チタンといったナノマテリアル(NM)を配合した製品は既に、人類の生活の質の維持・向上に不可欠となっている。一方で最近、NMの物性に起因した革新的機能が逆に、二面性を呈してしまい、予測しにくい生体影響を誘発してしまうことが懸念されつつある。従って、科学的根拠に基づき、将来的に定量的なNMの安全性情報を幅広く収集し、これら情報を基盤としてNMを有効かつ安全に使用し、うまくNMと共存共生していくことが重要と言える。本観点から我々は、最も代表的なNMである非晶質ナノシリカ(nSP)を対象に、NMの安全性評価と安全性確保に向けたナノ安全科学研究を推進している。これまでに、静脈内投与によるハザード同定ではあるものの、nSPが、その物性によっては、強い炎症応答を惹起すること、また適切な表面加工により高度に安全性を担保できることなどを明らかとしてきた。即ち今後、さらに安全性に優れたNMを開発していくためには、種々物性のNMと生体影響、体内・細胞内動態との定量的連関解析に加え、これら炎症惹起メカニズムを解明し、より詳細なNM開発支援情報を集積していくことが望まれる。そこで本研究では、血球細胞数の発現変動に焦点を絞り、炎症応答の惹起メカニズムの解明を試みた。BALB/cマウスに、粒子径70 nmのnSP70、及び従来素材である粒子径300、1000 nmのSPを尾静脈より投与し、24時間後の血中顆粒球数を解析した。なお本検討では、組織傷害マーカーなどに有意な変化が認められない投与量で各評価を試みた。いずれの群でも、赤血球数や白血球数などに変化は認められなかったが、nSP70投与群においてのみ血中顆粒球数が増加していた。そこで、顆粒球画分の割合を解析したところ、特に好中球画分の割合が増加していることを見出した。現在、安全かつ有効なNMの創製に向けて、nSP曝露により誘発される炎症応答と、末梢血好中球画分の増加との連関について精査している。
  • 羽二生 久夫, 斎藤 直人, 松田 佳和, 薄井 雄企, 高梨 誠司, 小林 伸輔, 岡本 正則, 清水 政幸, 荻原 伸英, 石垣 範雄, ...
    セッションID: O-24
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】カーボンナノチューブ(CNTs)は強靭性、熱伝導性、導電性、吸着性など多くのユニークな特性から産業応用が精力的に進められている。その一方で、CNTsはアスベストに類似した形状と生体滞留性であることから安全性に関して懸念が持たれている。そのため、国際的にその安全性評価が進められており、NIOSHやNEDOプロジェクトから安全基準が示されてきている。しかしながら、CNTsによるバイオレスポンスは用いたCNTsや検討条件で大きく異なることが知られている。そこで、サイズの異なる多層型(MWCNTs)とカップスタック型(CSCNTs)のCNTsのin vitroにおけるバイオレスポンスの違いとその機序について検討を行った。【方法】MWCNTs(昭和電工)はVGCF(長さ;7-10 μm、平均径;150 nm)、VGCF-S(長さ;7-10 μm、平均径;80 nm)、VGCF-X(長さ;3 μm、平均径;15 nm)とカップスタック型CNTs(GSIクレオス)はCS-L(長さ;20-80 μm、平均径;100 nm)、CS-M(長さ;10-40 μm、平均径;100 nm)、CS-S(0.5-20 μm、平均径;100 nm)の各3種類を0.1% gelatinで分散した。ヒト気管支上皮細胞(BEAS-2B)、あるいはヒト悪性胸膜中皮腫細胞(MESO-1)に24時間暴露後、Alamar blue法による細胞毒性、細胞内酸化ストレス反応、透過型電子顕微鏡と共焦点顕微鏡によるCNTsの細胞内局在、そして、ライソソームの障害性を調べた。【結果】MWCNTsの細胞毒性はMESO-1では径の太さに依存していたが、BEAS-2Bでは太さに関係がなかった。CSCNTsではBEAS-2B で長さに依存して細胞障害性が見られたが、MESO-1ではほとんど障害性がなく、どちらの細胞でも明らかにMWCNTs よりCSCNTsの細胞毒性が低かった。これらの障害性に細胞内酸化ストレスは関与しておらず、CNTsの凝集状態によって細胞内の局在とライソソームへの障害性が異なった。【考察】CNTsによる細胞毒性はCNTsの形状が関与しているだけでなく、取り込む方の細胞の種類も関与しており、CNTsの安全性評価は想定される被曝部位による評価が必要であることが示唆された。
  • 酒々井 眞澄, 徐 結苟, 深町 勝巳, 二口 充, 津田 洋幸
    セッションID: O-25
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    我々は長さの異なる多層カーボンナノチューブ(CNT)による肺組織への影響を検討し、ヒト細胞株への曝露による細胞増殖およびラット肺胞マクロファージの遺伝子発現への影響を解析した。CNT(N社製)を用い、分散性を指標に適切な懸濁液を検討した。さらにCNTを篩板(ふるい)にて濾過し、非濾過(R)、濾過(FT)、原液(W)の3分画に分け、それぞれの分画を用いて、肺および胸膜周辺像の観察、および、細胞増殖および遺伝子発現への影響を解析した。分散性の良好な懸濁液は、ポリマー含有生理食塩水であり、FTは懸濁後長期間経過しても分散性が維持された。RとWについては懸濁後早期より塊状になり、時間経過に伴いCNTと液体部分が分離した。電子顕微鏡での観察にてFTには短いCNTが多く存在した。RおよびWには様々な長さと塊状のCNTが存在していた。FTを気管内噴霧したところ、肺胞に弱い炎症細胞浸潤を伴い、マクロファージがCNTを貪食する像を認めた。RおよびWでは強い炎症像がみられ、CNTを貪食したマクロファージを中心に異物肉芽腫の形成が認められた。臓側胸膜周辺にも、肺胞内で見られたようにCNTを貪食したマクロファージが観察された。FT、RおよびWをマクロファージに曝露し、その上清で処置したヒト肺がん細胞株の増殖率はコントロールと比較していずれの分画曝露群でも有意な増加が見られた(P<0.01)。一方、ヒト中皮腫細胞株およびヒト肺線維芽細胞株の増殖率に変化は認められなかった。CNT曝露によりラット肺胞マクロファージの遺伝子発現をマイクロアレイ解析した結果、3分画でCsf3およびIL6遺伝子のmRNA発現増加を認めた。RT-PCRの解析でも、3分画でCsf3およびIL6遺伝子のmRNA発現増加を認めた。以上より、長さの異なるFT, RおよびW分画はラット肺組織像に影響した。
一般口演6
新規物質(ナノマテリアル等)-2
  • 市橋 宏一, 吉岡 靖雄, 平井 敏郎, 髙橋 秀樹, 吉田 徳幸, 角田 慎一, 鍋師 裕美, 吉川 友章, 堤 康央
    セッションID: O-26
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    近年、粒子径が10~100 nmのナノマテリアル(NM)や10 nm以下のサブナノ素材(sNM)の開発が急速に進んでいる。これらの素材は電気的・機械的性質等に加え、融点などの物質固有の特性の点で、サブミクロンサイズの素材とは全く異なる性質を発揮する。そのため、NM・sNMは様々な産業に革命を起こす夢の新素材として期待されている。一方でNMやsNMの革新的な機能は、逆に、予測しにくい負の生体影響を誘発する可能性が懸念されている。これを受けて、世界各国でNMの安全性情報の収集が行われている。しかし、その安全性評価の現状は、NMを対象としたハザード同定が始まったにすぎず、安全性を議論するためのリスク解析に必須の曝露・動態の定量的評価とハザードの定量評価(閾値設定など)は殆ど進展していない。その上、sNMについては全くの手つかずである。以上の現状を鑑みて我々は、粒径20 nm未満のナノ銀(nAg)、1 nm未満のサブナノ銀(snAg)を用い、吸入曝露を想定し、経鼻曝露した際のハザード同定を試みた。nAg、snAg、硝酸銀水溶液を6.0 mg Ag/kgでマウスに7日間連続経鼻投与した時の一般毒性を評価した。その結果、snAg投与マウスは5日以内に全例死亡した。それに対して、nAgならびに硝酸銀水溶液投与マウスでは死亡例は認められなかった。続いて、各6.0 mg Ag/kgで単回経鼻投与した際の生体影響を評価したところ、nAg投与群では特に異常所見が認められなかった。その一方で、硝酸銀水溶液やsnAgを投与したマウスでは体重減少および体温低下が認められ、これらの効果は特にsnAg投与群において顕著であった。また、血球検査・血液生化学検査においてはいずれの群でも異常所見が認められなかった。以上、snAgがnAgとは異なる特徴的な生体影響を惹起することが示された。今後、snAgによる体重、体温の低下メカニズムを追究すると共に、snAgのADME情報を収集することで、snAgのハザードを定性・定量的に評価し、snAgの安全性情報を集積していく。
  • 三里 一貴, 吉岡 靖雄, 吉田 徳幸, 宇治 美由紀, 宇髙 麻子, 森 宣瑛, 平井 敏郎, 赤瀬 貴憲, 角田 慎一, 鍋師 裕美, ...
    セッションID: O-27
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    近年、粒子径が100 nm以下の素材であるナノマテリアル(NM)や10 nm以下のサブナノ素材(sNM)の開発が進展している。これらの素材は、粒子径を微小化すればするほど、従来素材にはない革新的な機能を発揮する。そのため、NMの応用領域は化粧品や食品、また歯磨き粉などの口腔ケア製品にまで拡大している。一方で周知の通り、NM/sNMが、予期せぬ生体影響を誘発し得ることが指摘されており、安全なNM/sNMの選別、懸念のあるNM/sNMに関しては安全なものに仕立てあげていく(安全なNM/sNMの開発とその支援)が、今まさに急務となっており、本視点からナノ安全科学(Nano-Safety Science)の重要性が高まっている。しかし現状では、経皮・経口・吸入等を対象としたハザード同定が始まったに過ぎず、口腔曝露を想定したナノ安全科学研究は皆無である。NM/sNMが歯磨き粉等の口腔ケア製品に配合され、老若男女を問わず一生涯に渡って曝露する可能性があることを踏まえると、NM/sNMの口腔影響評価は急務と言える。そこで本発表では、既に抗菌剤として口腔ケア製品に配合されているナノ銀(nAg)、サブナノ銀(snAg)の口腔内曝露時の一般毒性をハザード同定の立場で評価した。1次粒子径が20 nmのnAg、1 nmのsnAgをマウスに7日間連続舌下投与した。その結果、高用量のsnAg投与群のみ7例中6例において致死毒性が認められた。また致死毒性が見られなかったマウスについて血液生化学検査を実施したところ、snAg投与群でのみALT、ASTなどの肝障害マーカー、およびTNF-αの産生上昇が認められた。以上から、snAgの舌下投与による致死毒性発現に肝障害や炎症応答が関与している可能性が示唆された。この事実は、高用量のsnAgが口腔曝露した場合には、ハザードになり得ることを示す一方で、直径20 nm以上のnAgは極めて安全性が高いことを意味している。これは最適な粒子径を選択することで銀粒子の口腔曝露時の安全性を担保できることを示した最初の知見であり、現在、実際の曝露実態を加味し、最も重要な閾値設定やリスク解析に資する定量的解析を進めている。
  • 佐藤 宏祐, 吉岡 靖雄, 森下 裕貴, 野尻 奈央, 角田 慎一, 鍋師 裕美, 吉川 友章, 堤 康央
    セッションID: O-28
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    ナノマテリアル(NM)は、粒子径の減少に伴い、高い界面反応性等の有用機能を発揮することから、既に化粧品、食品等、広範な領域で使用されている。近年では、サイズの微小化はさらに進行し、10 nm以下の素材であるサブナノ素材(sNM)が既に利用され、分子ともNMとも異なる画期的機能を発揮すると期待さている。一方で、NM/sNMが未知の生体影響を誘発してしまうことが懸念され、安全なNM/sNMの選別と利用促進、安全性に懸念があるものについては安全なNM/sNMに仕立てあげていくことが急務となっており、本視点からナノ安全科学(Nano-Safety Science)の重要性が増している。しかし、NMの安全性情報は未だ不十分であるうえ、sNMについてはハザード同定の例すら乏しい。この点で我々は例えば、一部のNMを高用量曝露した場合、低体重仔の出産確率を増加させ得ることを認めている。一方、sNMの生殖発生毒性に関する情報は、国内外を問わず皆無に等しい。そこで本発表では、sNMのハザード同定の一環として、サブナノ白金(snPt)が胎仔に及ぼす影響を高用量で評価した。snPtとナノ白金(nPt)を妊娠16、17日目のマウスに静脈内投与したところ、nPt投与群では変化が認められない一方で、snPt投与群の胎仔重量が対照群と比較して有意に低値を示した。また、snPt投与群の顆粒球、好中球が対照群と比較して有意に増加していた。一方で、胎盤重量、ALT、BUN値は、群間に変化は認められなかった。以上は、sNMがNMと異なる生体影響を発揮することを示唆するとともに、胎仔影響の点ではnPtがsnPtと比較して安全性に優れていることを示す貴重な知見である。今後は、胎盤の組織学的解析や炎症性サイトカインの定量により、低体重仔誘発のメカニズムを解明するとともに、実際の曝露実態を考慮し、閾値設定やリスク解析に資する定量評価を進める予定である。
  • 坂本 義光, 小縣 昭夫, 前野 智和, 西村 哲治, 広瀬 明彦, 小杉 有希, 鈴木 俊也, 中江 大
    セッションID: O-29
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    目的:我々は,多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の陰嚢内及び腹腔内投与によりラットに中皮腫が誘発されることを報告したが,それ以外では,p53欠損マウスによるものを除いて,同様の報告がない.その理由のひとつには,繊維サイズなどMWCNTの性状の影響が考えられている.今回は,サイズ等性状の異なる5種のMWCNTのラット中皮腫誘発性を比較検討した.方法:動物は,F344系雄性ラット10週齢を用いた.MWCNTは前実験で使用したMWNT-7(M-CNT,長さ1-9μm 74.3%,>10μm 25%,径50-80nm 97,2%)に加えて,N社(N-CNT,長さ1-9μm 79.1%,>10μm 21%,径50-80nm 94.8%),W社(2種;WL-CNT,長さ0.5-10μm,径85-200nm及びWS-CNT,長さ0.5-2μm,径40-70nm)及びT社(T-CNT,長さ10-100μm,径20-100nm)の計5種のMWCNTを2%CMCに懸濁し,1mg/kg体重の用量で,各群12~15匹に腹腔内単回投与した.動物は投与後55週間を目処に飼育し,途中死亡,瀕死例及び終了時生存例について剖検及びHE染色切片等による組織学的観察を行った.結果・考察:WL群では26週目より43週までに全例を,M群では投与後32-50週で死亡例 (4/12)と瀕死例(7/12), N群では投与後39-53週の死亡例(5/10)と瀕死例(2/10)をそれぞれ途中解剖した.WS及びT群では,全例が55週まで生存した.投与後55週目に,各群の生存例(M群1/12,N群 3/10,WS及びT群全例)を屠殺,解剖した.M,N及びWL群では,死亡例及び瀕死例を含む全例で腹腔内腫瘍結節形成と出血性腹水貯留を認め,組織学的に中皮腫と診断した.WS及びT群では,解剖時に全例で腫瘍結節や出血性腹水を認めなかったが,組織学的にT群の1/14例に中皮腫を認めた.以上の結果より,MWCNTの繊維サイズはその中皮腫誘発性における重要な因子のひとつと考えられ,今後は中皮腫誘発性に関して報告されている物性の影響と影響の詳細についてさらに検討する予定である.
  • 吉田 徳幸, 吉岡 靖雄, 栃木 彩恵子, 宇治 美由紀, 三里 一貴, 宇髙 麻子, 森 宣瑛, 平井 敏郎, 角田 慎一, 鍋師 裕美, ...
    セッションID: O-30
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    ナノマテリアル(NM)は、組織浸透性や体内局在/動態、生体反応の点で、従来素材にはない特性を発揮する。このことから、NMの薬物送達キャリアとしての利用が精力的に進められている。一方で、NMを薬学的に応用するに当たって考慮すべき点は、NMの特徴的な特性が、逆に、想定外の部位で予期せぬ生体影響の発現に繋がり得る点である。即ち、安全かつ有効で治療域の広い理想的なNMの薬学的応用を実現するに当たっては、NMの曝露実態(体内吸収性や動態など)やハザードを詳細に把握しつつ、ベネフィットとリスクのバランスの観点から有効活用を進める、所謂、安全科学的アプローチが有効である。本視点から我々は、薬物送達キャリアとしての応用が期待されている非晶質ナノシリカ(nSP)の経鼻ワクチンへの適用を想定し、安全科学的解析を推進してきた。昨年度の本学会で報告したように、経鼻吸収された直径70 nmの非晶質ナノシリカ(nSP70)は血中へ移行した後、血液凝固異常を誘発する。そこで本年度は、nSP70の治療域拡大に向けて、nSP70の血液凝固促進機構の解析を実施した。まず、nSP70投与マウスの血液を用いて、外因系血液凝固の指標であるPTあるいは内因系血液凝固の指標であるAPTTを測定したところ、APTTのみ増加傾向が認められた。一般に内因系血液凝固は、異物表面と血液凝固第XII因子などとの相互作用を起点に開始される。即ち、nSPの粒子表面の性状を適切に制御すれば、血中移行しても血液凝固異常を誘導しない安全なnSPを作製できるものと考えられた。事実、表面をカルボキシル基あるいはアミノ基で修飾したnSP70は内因系血液凝固経路を殆ど活性化しなかった。以上、我々は、nSPの表面性状の最適化により、nSPに起因する生体影響を回避できる可能性を初めて見出した。現在、表面修飾シリカの経鼻ワクチンキャリアとしての応用に向けて検討を進めている。
一般口演7
新規物質(ナノマテリアル等)-3
  • 二口 充, 徐 結苟, 井上 義之, 高月 峰夫, 津田 洋幸, 酒々井 真澄
    セッションID: O-31
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    タイヤのゴム補強剤やプリンターのトナーとして使用されているカーボンブラックは、IARCではGroup2Bに分類され、長期に吸入曝露した場合、ヒトに対する発がん性が示唆されている。我々は、 ナノ材料吸入曝露肺発がんリスク短期評価法を開発し、カーボンナノチューブなどの肺内噴霧による肺発がんのリスク評価を行っている。これに関連して本研究では、カーボンブラック(Printex90)の吸入曝露による肺発がん性を検索した。6週齢の雌雄のF344ラットにそれぞれ0.2%DHPNを2週間飲水投与した後、氷砂糖溶液に分散させたカーボンブラックを第4週から第24週まで1週間に1回の割合で肺内に噴霧した。1回の噴霧は500ug/mlの用量で、それぞれ0.5mlをマイクロスプレイヤーを用いて行った。第24週で屠殺剖検し肺を病理組織学的に検索したところ、雌雄いずれも肺内ではリンパ球、好中球など炎症細胞浸潤は軽度であった。カーボンブラックを貪食した肺胞マクロファージの集簇像が多数観察された。マクロファージ周囲の肺胞上皮細胞は腫大し、マクロファージの周囲を取り囲むように肺胞過形成様の病変が観察された。この病変は、DHPNで誘発された肺胞過形成、肺腺腫および肺腺がんとは別の部位に観察された。DHPNで誘発された病変の平均発生個数は、カーボンブラックの肺内噴霧により有意に上昇しなかった。マクロファージ周囲の肺胞過形成様病変の平均発生個数はDHPN誘発肺病変の発生個数よりも多かった。また肺胞過形成様病変の発生個数は、DHPNの処置に関わらずほぼ同数であった。これらの結果から、マクロファージの周囲に発生した肺胞過形成様病変が腫瘍性病変であるかどうかが、カーボンブラックの肺内噴霧による肺発がん性の評価に重要であることが示唆された。
  • 沼野 琢旬, 徐 結苟, 二口 充, 深町 勝巳, 清水 秀夫, 古川 文夫, 酒々井 眞澄, 津田 洋幸
    セッションID: O-32
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    【背景と目的】化粧品、食品、塗料などに用いられているナノサイズ二酸化チタニウム(nTiO2)は吸入曝露による健康被害が懸念されている。nTiO2は主にルチル型とアナターゼ型に分けられ、これまでに我々は、ルチル型nTiO2に肺発がんプロモーション作用があること、そのメカニズムに、マクロファージの誘導、酸化ストレス、MIP1αが関与すること、さらにMIP1αがヒト肺がん細胞株 (A549) の増殖を促進することを見出した。本研究ではアナターゼ型 nTiO2の肺内噴霧による肺組織および培養マクロファージに対する影響をルチル型と比較検討した。
    【材料と方法】雌SDラットにアナターゼ型およびルチル型nTiO2生食懸濁液を1回あたり500 ug/mLの濃度で0.5 mL肺内噴霧した。2週間に計8回噴霧した後に屠殺剖検した。肺組織を取り出し、MIP1αの発現量および8-OHdGレベルを測定し、肺組織に誘導されたマクロファージの数を定量した。nTiO2を初代培養マクロファージに曝露させ、その培養上清によるA549の細胞増殖率を測定した。
    【結果と考察】アナターゼ型nTiO2投与群の肺組織におけるMIP1α発現量およびマクロファージ誘導数は、対照群に比べて有意に上昇していたが、ルチル型nTiO2投与群より有意に低下していた。有意差は無いが、8-OHdG量にも同様の傾向を認めた。電顕では、いずれの型も肺胞マクロファージに貪食されていた。ルチル型nTiO2で処理したマクロファージの培養上清はA549細胞の増殖率を有意に増加させたが、アナターゼ型では有意差は無いが増殖率の増加傾向を示した。アナターゼ型はルチル型と比べて肺組織および培養マクロファージへの影響は弱いことが示唆された。影響の違いはアナターゼ型とルチル型との結晶構造の違いに依存している可能性がある。よってnTiO2のヒト健康への影響を考えた時、その形状を考慮する必要がある。
  • 深町 勝巳, 徐 結苟, 二口 充, 橋爪 直樹, 井上 義之, 高月 峰夫, 津田 洋幸, 酒々井 眞澄
    セッションID: O-33
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    我々は、 ナノ材料吸入曝露による肺発がんリスク短期評価法を開発し、カーボンナノチューブなどの肺発がんリスク評価を行っている。これまでの検討では、被検物質としてフラーレン(C60)を用いた結果、C60を貪食したマクロファージが分泌するサイトカインが肺胞上皮細胞の増殖促進作用および、酸化ストレスのマーカーである8-OHdGレベルの上昇が観察された。本研究では、二段階肺発がん試験法を用いてC60の肺内噴霧による肺発がんプロモーション作用の有無を検索した。6週齢の雌雄F344ラットにそれぞれ0.2%DHPNを2週間飲水投与した後、氷砂糖溶液に分散させたC60を第4週から第24週まで1週間に1回の割合で、250 µg/mlまたは500 µg/mlの用量で、それぞれ0.5 mlを肺内に噴霧した。第24週で屠殺剖検し、肺を病理組織学的に検索したところ、雌雄いずれも、C60は肺胞マクロファージに貪食されており、肺内での炎症性変化は弱かった。肺には、肺胞過形成、腺腫および腺がんが観察された。雄ラットにおける肺胞過形成の発生個数は、溶媒対照群に対し、C60低濃度群、高濃度群で、それぞれ有意に増加しており濃度依存性の促進作用が観察された。雌ラットにおける肺胞過形成の発生個数は、溶媒対照群に対し、C60低濃度群、高濃度群でそれぞれ有意に増加し、濃度依存性の促進作用が観察された。雌雄とも腺腫および腺がんの発生個数は少なく、有意な差は見られなかった。以上の結果から、C60の肺内噴霧による肺発がんプロモーション作用の有無を明らかにするにはさらに検討が必要である。
  • 髙橋 祐次, 小川 幸男, 高木 篤也, 相磯 成敏, 今井田 克己, 菅野 純
    セッションID: O-34
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
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    多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の有害性情報を取得する上では全身暴露吸入による毒性が最も重要であるが、MWCNTは凝集体を作りやすく、分散性を確保した上で定量的に吸入暴露させることが困難であるため、その検討が最も進んでいない。この課題を解決する手段として演者らは、米国National Institute for Occupational Safety and Health(NIOSH)が考案した音響式ダスト発生装置の概念を導入し、マウス16匹/群の全身暴露吸入が可能な独自の吸入暴露チャンバーを加えた全身暴露吸入装置を開発した。暴露濃度の制御は、暴露チャンバー内の相対濃度をパーティクルカウンター(最小検出直径0.3μm)で測定し、フィードバック制御によりスピーカーの電圧をコントロールして行った。検体としてMWCNT(MWNT-7、三井)の未処理原末を用い、200,000cpm/cfを設定値とした条件において0.3 mg/m3の重量濃度が得られた。暴露チャンバー内のMWCNTを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察すると80%以上が単離された状態にあり、長さが10μm以下の線維が60%(幾何平均長11.6μm)を占め、20μmを超える線維も15%含まれていた。また、肺からMWCNTを溶解抽出しSEMで観察するのに適したサンプルを得る方法を開発し、本装置を用いて全身暴露肺して肺に吸入されたMWCNTの本数とサイズの計測を進めている。更に、MWCNT原末を高度に分散処理する独自の方法(Taquann法)を開発した。Taquann法で処理した検体は液相にも気相にも速やかに再分散する。吸入暴露実験に供したところ、従来のパーティクルカウンターによる検出が困難となったため、現在、装備の改良を進めている。本研究成果は、厚生労働科学研究費 化学物質リスク事業 「ナノマテリアルのヒト健康影響の評価手法に関する研究-全身暴露吸入による肺を主標的とした毒性評価研究-」による。
  • 森本 泰夫, 廣橋 雅美, 堀江 祐範, 大藪 貴子, 明星 敏彦, 黒田 悦史
    セッションID: O-35
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】吸入ばく露試験や気管内注入試験は、吸入性工業用ナノ材料の有害性評価に有用と考えられる。しかし、過剰なばく露は、排泄機能障害をひき起こり、たとえ低毒性の物質でも、肺腫瘍や線維化を誘発する。排泄障害を引き起こさない適正用量を調べることは、有害性を評価する上で重要である。よって、低毒性と考えられるナノ材料を気管内注入し、ラット肺の炎症や排泄能を検討した。
    【方法】対象粒子として、二酸化チタンナノナノ粒子(デグサ製 P90)を用いた。超音波により分散させ、遠心分離により上清中のナノ粒子懸濁液(中位径25nm)を得た。Wistar系雄性ラット(300g)に0.1、0.2、1および3 mgを単回気管内注入し、3日、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月後に解剖した。肺内沈着量は、肺を酸分解後、ICP-AESでTiを定量して算出、排泄能を生物学的半減期として求めた。肺組織とBALFを用いて、ELISA法により、好中球のケモカインであるcytokine-induced neutrophil chemoattractant (CINC)濃度測定を行った。
    【結果】TiO2粒子の生物学的半減期は、0.1、0.2、1、3mg注入群で それぞれ4.2ヶ月、4.4ヶ月、6.7ヶ月、10.8ヶ月であった。1、3mg注入群で排泄の遅延傾向を認めた。BALFの好中球数は、3mg注入群で3日から6ヶ月まで持続的に増加し、1mg注入群でも3日、6ヶ月後に増加した。一方、0.1mg注入群、0.2mg注入群では、好中球数の増加は認められなかった。BALFのCINC-1濃度は、3mg注入群で、3日から3ヶ月、1mg注入群では、3日と3ヶ月まで上昇したが、0.1mg注入群、0.2mg注入群では、CINC-1濃度の上昇は認められなかった。BALFのCINC-2濃度においても、同様の傾向であった。
    【考察と考察】低毒性である二酸化チタンナノ粒子を気管内注入した結果、1mg以上の投与量において排泄が遅延した。よって、1mg以上の用量で炎症を認めたことは、過剰負荷によることが考えられた。本研究成果は、産業医科大学高度研究による。
一般口演8
新規物質(ナノマテリアル等)-4
  • 山下 浩平, 吉岡 靖雄, 潘 慧燕, 小椋 健正, 平 茉由, 青山 道彦, 角田 慎一, 中山 博之, 藤尾 滋, 青島 央江, 小久保 ...
    セッションID: O-36
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    ナノテクノロジーの進歩により、粒子径が100 nm以下に制御されたナノマテリアルが続々と新規開発され、工業品・化粧品・食品など、多くの分野で既に実用化されている。さらに、近年開発されているサブナノ素材(10 nm以下)は、分子とも異なるうえ、ナノマテリアルとも異なる生体内動態や生体影響を示すなど、新たな素材として期待されている。特に医療分野において、ナノ・サブナノ素材を用いた医薬品開発が注目されており、抗炎症作用などの薬理活性を発揮するナノ・サブナノ医薬の開発が世界的に進められている。サブナノ素材の一つであるC60フラーレン(C60)は、ラジカルスポンジとよばれるほどの強い抗酸化作用に起因する抗炎症作用を有するため、炎症性疾患に対する新たな医薬品としての実用化が待望されている。しかし、非侵襲性・汎用性の観点で最も優れた経口投与製剤としてC60を適用した例は無く、医薬品化に必須である安全性情報も乏しいことから、C60の医薬品化は立ち遅れているのが現状である。本観点から我々は、C60の経口サブナノ医薬としての適用に向けて、経口投与時の安全性情報の収集を図った。異なる数の水酸基で修飾された4種類の水酸化C60をマウスに7日間経口投与し、経日的に体重を測定した。また、各臓器・血液を回収し、臓器重量測定・血清生化学的検査・血球検査を実施した。その結果、各種水酸化C60投与群で、マウスの体重、臓器重量に変化は認められず、白血球数などの血球細胞数や、血漿中ALT・AST・BUN値など組織障害マーカーにも大きな変化は認められなかった。以上の結果から、短期間での検討ではあるものの、水酸化C60は、ナノ毒性の懸念が少なく、安全な経口サブナノ医薬となり得る可能性が示された。今後は、腸管吸収性や体内動態を評価するなど、有効かつ安全なナノ・サブナノ素材の開発支援に資する情報集積を推進する予定である。
  • 森 宣瑛, 吉岡 靖雄, 吉田 徳幸, 宇治 美由紀, 三里 一貴, 宇髙 麻子, 平井 敏郎, 角田 慎一, 鍋師 裕美, 吉川 友章, ...
    セッションID: O-37
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    銀粒子は、広範なスペクトルで細菌に対して優れた殺菌/抗菌効果を発揮するため、既に抗菌剤として食品や食器へ利用されている。この銀粒子の粒子径を微小化すると、比表面積が増大し、菌体との接触確率が高まることから、その抗菌効果が飛躍的に向上することが知られている。そのため、現在では直径100 nm程度のナノ銀粒子(nAg)や10 nm程度のサブナノ銀粒子(snAg)が開発されている。しかし、直径が100 nm以下のナノ・サブナノマテリアルは、サブミクロンサイズの従来素材とは異なる想定外の生体影響を誘発し得ることが懸念されている。そのため、ナノ・サブナノマテリアルのリスク解析に資するハザードや体内吸収性/動態の理解が急務となっている。特に、nAg・snAgは強力な殺菌/抗菌効果を発揮することから、一般毒性学的観点からの情報収集に加えて、全く理解されていない、宿主の恒常性維持に必須の腸内細菌叢に対する影響を評価する必要がある。そこで本発表では、nAg・snAgのハザードを同定する目的で、各粒子を経口投与したマウスを用いて一般毒性学的解析ならびに腸内細菌叢の解析を試みた。1次粒子径が20 nmのnAgと、1 nmのsnAgをBALB/cマウスに28日間経口投与した後、血球・生化学マーカーの評価、ならびに糞便中腸内細菌DNAのT-RFLP解析を実施した。その結果、nAgとsnAgは625 µg Ag/kg以下の濃度では生体影響を及ぼさなかった。その一方で、多くの腸内細菌の割合が増減していた。特に、制御性T細胞の分化・誘導に必須のクロストリジウム属の割合が著しく減少した点は非常に興味深い。以上、nAg・snAgの経口摂取が、腸内細菌叢の変動を介して腸管免疫系に何らかの影響を及ぼす可能性が示された。現在、nAg・snAg投与による腸内細菌の変動と宿主の健康影響との関係の因果関係を追求している。
  • 永野 貴士, 吉岡 靖雄, 東阪 和馬, 國枝 章義, 畑 勝友, 角田 慎一, 鍋師 裕美, 吉川 友章, 堤 康央
    セッションID: O-38
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    ナノマテリアル(NM)は、医薬品や食品など様々な領域で既に実用化されており、我々の生活には欠かせない素材となっている。一方で、NMの革新的な機能が、生体に対し負の影響を及ぼし得ることが懸念されており、NMの安全性を科学的根拠に基づいて解析・評価し、安全なNMの選別と利用促進、安全性が懸念されるものについては安全性確保していくことが急務となっている。本観点から我々は、NMの安全性を事前に予測し得る安全性評価マーカーの探索を試みてきた。これまでにプロテオーム解析により、急性期蛋白質の一種が、非晶質ナノシリカ(nSP)により誘発される肝障害に対する安全性評価マーカーとなり得ることを明らかとしてきた。一方、NMの安全性を確度、精度よく評価するには、蛋白質のみならず、他の生体物質由来の安全性評価マーカーと複合的に解析することが望まれる。そこで本研究では、臓器特異的な発現様式を示すmicroRNA(miRNA)に焦点を当て、miRNAが安全性評価マーカーとしての可能性を検証した。まず、BALB/cマウスに粒子径70 nmであるnSP70、及び300 nm、1000 nmであるnSP300、mSP1000を尾静脈より単回投与した。投与8時間後に血液を回収し、肝臓特異的に発現するmiRNA-122の血中での発現変動について定量的RT-PCRにより解析した。その結果、nSP300、mSP1000投与群では、対照群と比較して血中miRNA-122量に変化は認められなかったが、nSP70投与群では上昇傾向を示した。さらに、血中miRNA-122量は、nSP70投与量依存的に発現上昇することが示唆された。以上の結果より、血中miRNA-122は、nSP70により誘発される肝障害を反映する安全性評価マーカーとなり得るものと考えられた。現在、NMの安全性情報の集積に向け、miRNA-122の有用性を精査している。
  • 宇髙 麻子, 吉岡 靖雄, 吉田 徳幸, 宇治 美由紀, 三里 一貴, 森 宣瑛, 平井 敏郎, 長野 一也, 阿部 康弘, 鎌田 春彦, ...
    セッションID: O-39
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    抗原を粘膜面から接種する粘膜ワクチンは、全身面と初発感染部位である粘膜面に二段構えの防御を誘導できる優れたワクチンとなり得る可能性を秘めている。しかし抗原蛋白質は体内安定性に乏しく、単独接種ではワクチン効果が期待できない。そのため、免疫賦活剤(アジュバント)の併用が有効とされており、既に我々はTNF-αやIL-1α等のサイトカインが優れたアジュバント活性を有することを先駆けて見出してきた(J.Virology, 2010)。しかしサイトカインは吸収性にも乏しく、アジュバントの標的である免疫担当細胞への到達効率が極めて低い。そのため十分なワクチン効果を得るには大量投与を避け得ず、予期せぬ副作用が懸念される。言うまでも無く、現代のワクチン開発研究においては、有効性のみを追求するのではなく、安全性を加味して剤型を設計せねばならない。そこで本発表では、ナノ粒子と蛋白質の相互作用により形成されるプロテインコロナ(PC)を利用することで、サイトカイン投与量の低減に成功したので報告する。PCとは、ナノ粒子表面に蛋白質が吸着して形成する層のことを指す。近年、PC化した蛋白質は体内安定性や細胞内移行効率が向上することが報告されている。まず粒子径30 nmの非晶質ナノシリカ(nSP30)を用いてPC化したTNF-α(TNF-α/nSP30)を、ニワトリ卵白アルブミン(OVA)と共にBALB/cマウスに経鼻免疫し、OVA特異的抗体誘導能を評価した。その結果、有害事象を観察することなく、0.1 µgのTNF-αを単独で投与した群と比べ、TNF-α/nSP30投与群においてOVA特異的IgG・IgAの産生が顕著に上昇していた。以上、PCがTNF-αアジュバントの有効性と安全性を向上できる基盤技術となる可能性を見出した。現在、体内吸収性の観点からPC化サイトカインのワクチン効果増強機構やナノ安全性を解析すると共に、最適なPC創製法の確立を推進している。
一般口演9
脳神経、依存性(慢性毒性)、毒性発現機構
  • 宮良 政嗣, 古武 弥一郎, 廣兼 裕司, 太田 茂
    セッションID: O-40
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】パーキンソン病 (PD) 発症において、タンパク質分解異常が重要な役割を果たしていると考えられている。オートファジーは隔離膜に囲まれた細胞質成分をリソソームに導き大規模に消化する分解機構であり、ユビキチン-プロテアソーム系で分解できないタンパク質凝集体や障害を受けた細胞小器官を分解することができるため、PD発症との関連性が注目されてきている。PD関連神経毒MPP+は、細胞において数百µM~数mMと高濃度での毒性が多数報告されているものの、MPTP誘発PDモデル動物の脳内においてそのような濃度では存在せず、高濃度で起こる細胞内変化が老年期に発症する神経変性疾患を反映していない可能性が考えられる。本研究では、低濃度MPP+がオートファジーに及ぼす影響を主として形態的観察により検討した。
    【方法】ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞に10 µM MPP+を48時間曝露し、4% paraformaldehydeで固定、100 µg/mL digitoninで膜透過処理を行った。3% BSAでブロッキングし、各種一次抗体、Alexa Fluor®標識二次抗体にて順次反応を行った後、スライドを封入して共焦点レーザー顕微鏡観察を行った。ウェスタンブロットには細胞を2% SDS含有tris bufferで可溶化し、sample bufferと混合、熱処理したサンプルを用いた。
    【結果および考察】細胞骨格タンパク質β-チューブリンを免疫細胞化学染色した結果、主に細胞質内において空胞が認められ、その数は10 µM MPP+によってコントロールの約2.5倍に増加することが明らかとなった。オートファジーマーカーLC3の免疫細胞化学染色、ウェスタンブロットより、10 µM MPP+を曝露した細胞は典型的なオートファジーの特徴を示したことから、空胞はオートファジー空胞であることが明らかとなった。これらの結果は低濃度MPP+がオートファジーの異常を引き起こすことを示唆しており、実際のPDにおいてもオートファジーが重要な役割を果たしていることが考えられる。
  • 笛田 由紀子, 福田 瑠美, 石田尾 徹, 上野 晋, 保利 一
    セッションID: O-41
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    フロン代替の溶剤である1−ブロモプロパン(1-BP)について、吸入曝露動物モデルやin vitroモデルを用いて中枢神経毒性を検討し、1-BPが神経伝達物質受容体や細胞内シグナルに作用することを報告した(第33回本学会で報告)。さらに1-BPを吸入曝露した成獣ラットの海馬におけるフィードバック抑制を解析し、フィードバック抑制の減弱に関してのNOAELは200 ppm、LOAELは400 ppmであることを見出した。今回、1-BP胎生期曝露モデルを用いて授乳期ラットの脳興奮性を調べたので報告する。Wistar系妊娠ラットに1-BP濃度0、400および700 ppmでday1-20の20日間(6時間/日)連続曝露した。3群の13-15日齢仔ラットから海馬スライス標本を作成した。海馬CA1領域のfEPSP slope (slope)と、population spike(PS)について、単一刺激および2連続刺激への応答性を解析した。曝露群では生後14日目にslopeとPSが対照群と比べて亢進した。ペアパルス比については、slope比は胎生期曝露の影響は見られなかったがPS比は曝露群で減少した。これらの結果から、1-BPに胎生期曝露した14日齢仔ラット海馬CA1領域においては、単一刺激への応答は亢進しているが、てんかん波のような連続した過剰興奮電位が海馬から大脳皮質へ出力されることは抑制されやすいのではないかと考えられた。この仮説を確認するために14日齢仔ラットにけいれん薬であるペンチレンテトラゾールを腹腔内投与した。対照群で誘導されるけいれん発作の出現は400、700 ppm曝露群では抑制された。以上の結果から、1-BP胎生期曝露は授乳期仔ラットの脳興奮性に影響を及ぼすことと、海馬以外の脳部位の興奮性が変化した可能性が示唆された。
  • 冨永 貴志, 冨永 洋子, 五十嵐 勝秀, 種村 健太郎, 菅野 純, 中島 欽一
    セッションID: O-42
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/11/24
    会議録・要旨集 フリー
    てんかん等に対して臨床的に用いられるバルプロ酸(VPA)の妊娠期投与により、子に起こり得る情動認知障害について神経回路機構を調べた。VPAは部分性てんかん、全般性てんかんなどの治療に処方される抗精神薬であり、すでに50年以上も用いられている。しかし、近年、妊娠期の母親への投与で、子の成長後に情動認知異常を示すことがわかり、2011年にはFDAからの安全性情報に妊娠中服用による子の認知機構発達障害リスクが追加された。本研究では胎生12.5から14.5日の妊娠中のマウスにVPAを経口投与(300mg/kg, 1回/日)した。この母から産まれ成熟した雄マウス(胎生期VPA暴露マウス)には学習記憶異常が認められた。そこでさらに、この胎生期VPA暴露マウスの脳から海馬を含む活スライス標本を作成し、その神経回路機能の異常を検討した。手法として、海馬の神経活動を網羅的、かつ定量的に調べることができる膜電位感受性色素(VSD)による神経活動の光計測を採用した。これで、情動認知機能の中枢を担う「記憶の座」海馬の神経回路活動の全てを可視化解析することが可能である。本研究では海馬の神経回路のトリシナプティック回路の入力線維(歯状回への貫通線維、歯状回からCA3野への苔状線維、CA3野からCA1野へのシャーファー側枝)のそれぞれに電気刺激を加えその応答を計測した。するとコントロールマウスとVPA暴露マウスでは基本的な神経回路活動に差がなかったが、GABA受容体の阻害剤を加えた時の応答は有意に異なり、コントロールマウスで認められる神経活動へのGABA受容体の寄与がVPA暴露マウスでは見られなかった。このことは妊娠期のVPA暴露による学習記憶異常が、GABA 受容体による抑制系の働きの減弱によることを示している。
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