-
宇治 美由紀, 吉岡 靖雄, 吉田 徳幸, 三里 一貴, 宇髙 麻子, 森 宣瑛, 平井 敏郎, 角田 慎一, 鍋師 裕美, 吉川 友章, ...
セッションID: P-134
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
非晶質ナノシリカ(nSP)は、食品添加物として認可されているなど、食品分野で実用化されている代表的なナノマテリアル(NM)の一つである。一方で、周知の通り、近年になってNMの安全性が世界的に懸念され始めており、NMの安全性評価が急務となっている。しかし、NMのハザード情報のみが先行しているのが現状であり、このままではハザード風評被害によって有用なnSPまでもが利用制限されかねない。すなわち、nSPの安全性を科学的に判断するためにも、nSPのリスクをハザードと曝露量/時間の積算で理解する必要がある。本観点から我々は、これまでに透過型電子顕微鏡を用いて、nSPの曝露実態を定性的に解析し、nSP70が血中移行する可能性を報告してきた。本検討ではnSPを経口曝露した際の体内吸収性の定量解析に挑戦した。粒子経が70 nm、1000 nmの非晶質シリカ(nSP70、mSP1000)を28日間経口投与した際の組織移行性を高周波誘導結合プラズマ発光(ICP-AES)解析により定量評価した。その結果、いずれの組織においても、ケイ素由来のシグナルは殆ど検出できなかった。これは、元々生体中に含まれるケイ素由来の強いシグナルがバックグラウンドとして検出されたことによるものと推察された。そこで次に、ラット腸管反転法を適用し、nSPの消化管吸収性に関する定量的な基礎情報の収集を図った。その結果、nSP70は約1.7%、mSP1000は約0.3%が透過し、その透過量は、経時的に増大した。以上の結果から、本実験系は主として受動拡散経路の定量評価ではあるものの、nSPの吸収量を解析するための有用なツールになり得るものと期待された。現在、nSPの消化管透過機構について能動拡散経路の観点からも追求することによって、nSPの消化管吸収予測方法の最適化を進めている。
抄録全体を表示
-
森下 裕貴, 吉岡 靖雄, 高雄 啓三, 吾郷 由希夫, 佐藤 宏祐, 野尻 奈央, 田熊 一敞, 角田 慎一, 鍋師 裕美, 吉川 友章, ...
セッションID: P-135
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
近年、100nm以下のサイズのナノマテリアル(NM)が、従来までのサブミクロンサイズ(100nm)以上の素材とは異なった生体影響を呈してしまうことが危惧されている。従って、安全なNMの選別と利用促進に加え、安全なNMへと仕立て上げていくこと及びその開発支援が急務となっており、NMの社会受容と生態/生体系の安全確保の観点で、ナノ安全科学(Nano-Safety Science)が重要性を増している。本視点から我々は、NMの次世代影響を検討し、高用量の静脈内投与によるハザード同定であるものの、サブミクロンサイズ以上の非晶質シリカと異なり、直径70nmの非晶質ナノシリカ(nSP70)の妊娠期曝露が、低体重仔の出生確率を増加させてしまうことを認めている。低出生体重児はヒトにおいても、将来的に神経学的障害などを併発するリスクが高いことから、NMを妊娠期曝露した仔の情動・認知機能の理解は重要課題と言える。そこで本研究では、「こころの安全学」とも言うべき新たな立場から、nSP70が次世代の認知機能に及ぼす影響を解析した。マウスにnSP70を妊娠16、17日目に静脈内投与した後、出生仔が21週齢になった時点で、八方向放射状迷路、バーンズ円形迷路、恐怖条件付け学習により記憶能力を評価した。その結果、短期記憶の一種である作業記憶、物の場所などの記憶に関わる参照記憶、経験の記憶に関わる文脈記憶について、nSP70を妊娠期曝露した仔と対照群間で変化は認められなかった。以上より、記憶の観点では、nSP70の妊娠期曝露は次世代の認知機能へ影響を及ぼさないことが示唆された。本検討は、NMを妊娠期曝露した仔の記憶能力を様々な観点から詳細に検討したものであり、NMの安全性を実証するうえで重要な知見となる。今後は、仔の認知機能のみならず、情動機能を詳細に評価すると共に、実際の曝露経路・量を加味した検討を実施し、安全なNM開発に向けた情報を収集する予定である。
抄録全体を表示
-
平井 敏郎, 吉岡 靖雄, 市橋 宏一, 髙橋 秀樹, 吉田 徳幸, 高木 達也, 角田 慎一, 鍋師 裕美, 吉川 友章, 堤 康央
セッションID: P-136
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
近年、ナノマテリアル(NM)のハザード情報が相次いで報告されており、NMの安全性に対する懸念が拡大している。しかし、これら報告の多くは、非現実的な曝露経路で、膨大な量を曝露した際のハザード情報である。こういった無責任なハザード情報によって、NMの安全性への懸念が無闇に煽られているといっても過言ではない。従って、責任ある科学技術立国を目指す我が国では、現実の曝露シナリオ(経路・量)を加味した適切なハザード同定の実施やADMEに関する定性・定量情報の収集が急務である。これまでに我々は、香粧品基剤として使用される非晶質ナノシリカ (nSP)が、皮膚バリアを突破し、表皮のランゲルハンス細胞や、所属リンパ節などの免疫応答に極めて重要な細胞・組織にまで到達することを報告した。したがって、nSPの経皮曝露が、皮膚免疫疾患の発症や悪化を引き起こす可能性が考えられた。そこで本検討では、ダニ抽出物(Dp)の経皮曝露によりアトピー性皮膚炎 (AD)様症状を発症するNC/Ngaマウスを用いて、nSPの経皮ハザード同定を実施した。NC/Ngaマウスに、Dpと粒径30 nmのnSP(nSP30)の混合溶液を連続塗布し、AD様病態を誘導した。まず、nSP30塗布によるAD病態への影響を、塗布部位の病理解析により評価した。その結果、Dp単独塗布群とDpとnSP30を混合塗布した群では、病理学的な変化は認められなかった。一方で、DpとnSP30を混合塗布した群では、total IgEの産生上昇と、Dp特異的IgGの産生低下が認められた。抗原特異的IgGは、IgE性のアレルギー応答抑制に関与することが知られている。このことを重ね合わせると、nSP30の塗布は、AD病態には影響を与えないものの、IgE性のアレルギー応答を亢進させる可能性が考えられた。今後、経皮曝露時の吸収性・蓄積性等の曝露実態情報を収集するとともに、nSP30が自然・獲得免疫系に与える影響や、他の免疫疾患を指標としたハザード同定を実施し、NMのリスク解析や安全なNMの開発支援に資する情報の集積を目指す。
抄録全体を表示
-
髙橋 秀樹, 吉岡 靖雄, 平井 敏郎, 市橋 宏一, 吉田 徳幸, 角田 慎一, 鍋師 裕美, 吉川 友章, 堤 康央
セッションID: P-137
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
ナノマテリアル(NM)は、従来までの素材には無い革新的な機能を発揮するため、既に化粧品や食品など、様々な分野において不可欠な素材となっている。一方で、NMの革新的機能が逆に、予期せぬ生体影響を与えることが指摘され始めており、その安全性確保が急務となっている。我々はこれまでの本会において、粒子径100 nm以下の非晶質ナノシリカ(nSP)が樹状細胞(DC)の抗原プロセシング過程に影響を与え、クロスプレゼンテーション(CP)を促進することを報告している。また過剰なCPの誘導は、過剰な細胞性免疫の誘導に繋がり得る。例えば一型糖尿病では、膵臓のβ細胞由来の自己抗原が過剰なCPにより提示されることで、自己反応性の免疫が誘導され、膵臓のβ細胞が死滅することが病因だと考えられている(Nat Rev Immunol 10,2010, 403-414.)。従って、nSPによりCPが促進されることで、自己免疫疾患をはじめとする何らかのハザードが発現し得ることが考えられた。そこで本検討では、CPを誘導しない安全なNMを創製するための基礎情報の収集を目指して、nSPによるCP誘導機構を解析した。まずnSPのエンドサイトーシスを介した取り込みがCPに与える影響を観たところ、nSPのスカベンジャーレセプターを介したエンドサイトーシスを阻害することで、CPが強く阻害されることを認めた。さらに、細胞質での抗原分解を担うプロテアソームを阻害することで、CPが殆ど誘導されなくなった。近年のDC 内における抗原動態解析に関する報告では、DC が外来性抗原を捕食した際、抗原がエンドソームから細胞質へと漏出し、CPが誘導される可能性が示されている。これを踏まえると、DCにより貪食を受けたnSPが、抗原のエンドソームからの漏出を促進することでCPの誘導が生じているものと考えられる。今後、nSPがエンドソームからの抗原漏出を促進する機構の解明を進めることで、nSPによるCP誘導の制御、ひいては安全なNMの開発に資する情報を収集する予定である。
抄録全体を表示
-
吉岡 靖雄, 野尻 奈央, 森下 裕貴, 佐藤 宏祐, 角田 慎一, 鍋師 裕美, 吉川 友章, 堤 康央
セッションID: P-138
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
近年、ナノマテリアル(NM)の革新的機能が逆に予測しにくい生体影響の発現に繋がってしまうことが指摘されているものの、その安全保障は未だ不十分である。既に、老若男女を問わずNMに曝露されている現状を鑑みると、様々な年齢、健康状態におけるNMの安全性情報の収集が重要課題であるものの、薬物や化学物質に対する感受性が高い妊婦・胎児・乳幼児などに対する安全性研究は進展していない。特に授乳期の新生児は、腸管バリアや肝臓の代謝能力が未発達であり、薬物等に対する感受性が特に高いことから、乳汁を介した新生児への影響評価は必要不可欠である。しかし、NMの乳汁移行性、および乳汁を介した新生児への影響を検討した例は皆無である。そこで本発表では、我々が推進しているナノ安全科学研究の一環として、乳汁を介した新生児への影響を評価するための基礎情報の収集を目的に、授乳期にNMを投与された母体に及ぶハザードの同定を試みた。本発表では、食品成分などで既に実用化されているナノ白金(nPt)を用いた。授乳期のマウスに高用量のnPtを1週間に5回経口投与し、投与期間中の母体の体重推移を観察するとともに、初回投与から1週間後の母体の臓器重量、血球細胞数を測定した。その結果、母体の体重推移、臓器重量は、nPt投与群と対照群間に変化は認められなかった。一方で、nPt投与群において、母体の白血球数および血小板数が、対照群と比較して有意に増加していた。以上から、nPtを高用量で経口投与した場合には、授乳期の母体の免疫機能、凝固機能に影響を及ぼす可能性が示された。今後は、nPtの乳汁移行性を検討するとともに、nPtが乳汁を介して新生仔に及ぼす影響を、新生仔の免疫機能、代謝機能、情動・認知行動等の観点から検討するとともに、最も重要な現実的な曝露実態を考慮したリスク解析に資する定量的検討を開始する予定である。
抄録全体を表示
-
伊佐間 和郎, 河上 強志, 酒井 恵子, 宮島 敦子, 松岡 厚子
セッションID: P-139
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【目的】ナノマテリアルは産業界においてすでに様々な用途に使用されているものの、ナノマテリアルの安全性はまだ十分には解明されていない。近年、in vitroにおけるナノマテリアル単独での毒性は徐々に明らかになりつつあるが、他の化学物質との相互作用は不明である。そこで、本研究では共存する金属塩の細胞毒性に及ぼすナノマテリアルの影響を調査した。
【実験方法】二酸化ケイ素(SiO
2)及び二酸化チタン(TiO
2)のナノ粒子を使用した。また、金属塩として、塩化アルミニウム(AlCl
3)、塩化銅(II)(CuCl
2)及び塩化亜鉛(ZnCl
2)を使用した。ナノ粒子の粒度分布及びゼータ電位は、動的光散乱光度計により測定した。ナノ粒子非共存下及び共存下におけるAlCl
3、CuCl
2及びZnCl
2の細胞毒性は、チャイニーズハムスターV79肺線維芽細胞を用いたコロニー形成法により評価した。
【結果及び考察】ナノ粒子の単独暴露条件で、100 µg/ml以下の濃度のSiO
2ナノ粒子は細胞毒性を示さなかったが、25 µg/ml以上の濃度のTiO
2ナノ粒子は弱い細胞毒性を示した。そこで、100 µg/mlの濃度のSiO
2ナノ粒子並びに10 µg/ml及び100 µg/mlの濃度のTiO
2ナノ粒子の共存による、AlCl
3、CuCl
2及びZnCl
2の細胞毒性の変化を調べた。その結果、100 µg/mlの濃度のSiO
2ナノ粒子共存下では、ZnCl
2の細胞毒性は変化しなかったが、AlCl
3及びCuCl
2の細胞毒性は増強した。一方、10 µg/ml及び100 µg/mlの濃度のTiO
2ナノ粒子共存下では、3種の金属塩の細胞毒性は変化しなかった。これらのことから、SiO
2ナノ粒子は共存する一部の金属塩の細胞毒性を増強させることが分かった。
抄録全体を表示
-
桑形 麻樹子, 松本 亜紀, 熊谷 文明, 斉藤 義明, 丸茂 秀樹, 野口 聡, 臼見 憲司, 千坂 亜希子, 古谷 真美, 関 剛幸, ...
セッションID: P-140
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
ナノマテリアルの安全性に関する試験の一環として、OECDTG410に準じてナノ白金(nPt)およびサブナノ白金(snPt)をラットに28日間反復経皮投与し生体への影響について評価した。雌雄のSDラットに、溶媒(注射用水)、nPtあるいはsnPtの注射用水懸濁液を1日6時間、1週4回、4週間にわたり閉塞経皮投与し、一般状態の変化、体重および摂餌量の推移を観察し、解剖前に尿検査を実施した。動物は投与4週に剖検し、血液学的検査、血液生化学的検査、器官重量、病理学検査(組織、電顕)を実施した。また、組織中の被験物質含量を誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)にて測定した。
その結果、nPt、snPt投与により、雌雄ともに投与第2週以降に潰瘍を伴う痂皮がみられた。体重、摂餌量には影響はみられなかったが、総コレステロール濃度、トリグリセライド濃度、リン脂質濃度が減少傾向を示し、栄養状態が良好ではない徴候がみられた。血液学検査では雄にのみ白血球数が減少した。病理組織学検査では、真皮にまでおよぶ炎症組織像がみられ、さらにsnPt群では好酸球浸潤が観察された。
認められた所見には、量的には性差があったが質的には差はなかった。また両被験物質で認められた一般毒性学的変化は類似していたが、snPt群で認められた変化はnPt群よりも顕著であった。組織内濃度分析の結果、snPtは皮膚以外の体内各組織に広く分布していることが確認されたが、nPtは皮膚以外には検出されなかった。電顕観察では細胞内の高電子密度を示す顆粒状分子と被験物質と考えられる粒子の識別が困難であった。
以上の結果から、snPt、nPtはともに経皮投与により皮膚に障害をもたらすこと、粒子径の小さいsnPtのみが皮膚以外の各組織に分布していることが確認された。しかし、snPtが組織内に残留していることによる生体全身への重篤な影響は認められなかった。
抄録全体を表示
-
諸澤 瑛, 小野寺 章, 屋山 勝俊, 田中 敦士, 久野 秀太, 岩崎 綾香, 田鍋 奈巳, 根津 菜摘, 宝諸 あい, 岡本 博, 米村 ...
セッションID: P-141
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【目的】カルシウムイオン(Ca
2+)は、細胞内シグナル伝達の主要なセカンドメッセンジャーとして広く知られている。本研究グループは、非晶質シリカをモデル材料とするナノマテリアルの安全性研究から、ナノサイズのシリカが細胞質中の遊離Ca
2+を増加させることを、昨年度の本年会において報告した。すなわち、ナノシリカの暴露は、細胞内で厳密に制御され低濃度に維持されているCa
2+を非生理的に増加させ、Ca
2+シグナルを惹起すると示唆された。また、経皮・経口暴露を介するナノシリカの体内動態は、循環血中へ移行することが多数報告されており、Ca
2+シグナル依存的な血管の恒常性維持に影響すると想定された。そこで本研究グループは、摘出ラット胸部大動脈を用い、ナノシリカによる細胞内Ca
2+動態変化に伴う血管弛緩への影響を解析した。
【方法】非晶質シリカは、1次粒子径が70 nm (nSP70)のナノサイズ、300 nm(nSP300)および1000 nm(mSP1000)のマイクロサイズを用い、それぞれ処置濃度を300 ug/mLとした。血管の弛緩反応は、11 週齢のWistar 系雄性ラット胸部大動脈を用い、Phenylephrine収縮下でマグヌス法により評価した。
【結果および考察】本研究グループは、昨年度の本年会において、nSP70暴露による細胞質中の遊離Ca
2+の増加を報告している。血管内皮細胞は、Ca
2+シグナル依存的な血管弛緩反応を惹起することから、ナノシリカ暴露が血管弛緩の原因となると想定された。そこで、摘出ラット胸部大動脈を用い、血管弛緩へのナノシリカの影響を解析した。その結果、摘出ラット胸部大動脈へのnSP70暴露は、血管を弛緩させ、その最大弛緩率は約75%であった。一方、nSP300・mSP1000暴露による血管の最大弛緩率は、約15%と約10% であり、ナノシリカ特異的な血管弛緩であると示唆された。また、アセチルコリン(Ach)による最大弛緩への到達時間が約1分である一方、nSP70では最大弛緩に約7分を必要としたことから、nSP70による血管弛緩機構は、Achとは異なると示唆された。
抄録全体を表示
-
加藤 美紀, 等 浩太郎, 鈴木 智子, 安藤 義則, 灘井 雅行
セッションID: P-142
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
カーボンナノチューブ(CNT)は電子工学や医療の分野での応用が期待されている一方で、人体に及ぼす影響は未だ不明な点が多い。CNTはグラフェンシートを筒状に巻いた構造であり、直径や長さがアスベストと類似していることからもCNTが呼吸器由来細胞に及ぼす影響を明らかにすることは重要である。そこで本実験では単層CNT(SWCNT)が正常ヒト気管支上皮細胞(NHBE)、疾患気管支上皮細胞(DHBE)および呼吸器由来がん細胞のストレス関連遺伝子に及ぼす影響について検討し、SWCNTに対する各細胞の応答性の違いを明らかにすることを目的とした。初代培養細胞であるNHBEおよび肺の炎症性疾患患者由来のDHBE(喘息および慢性閉塞性肺疾患)、またヒト呼吸器由来がん細胞であるA549およびFaDuに対して、NiとYを金属触媒としアーク放電法により製造したSWCNT(0.1、1.0 mg/mL)を6時間暴露させた後、9種類のストレス関連遺伝子の発現変動を検討した。SWCNT暴露によりinterleukin-6は全ての細胞で有意に減少したが、metallothionein 2Aやtumor necrosis factor-αは一部の細胞で有意な減少が認められた。アポトーシスに関与するBCL2-associated X proteinやBCL2-like 1、細胞周期に関与するcyclin D1、薬物代謝に関与するcytochrome P450 1A1およびcytochrome P450 oxidoreductaseの発現に及ぼす影響について検討したが、NHBEにおいてSWCNTはこれら遺伝子発現を減少させる傾向を示した。さらに、初代培養細胞ではがん細胞と比較してより大きな影響が認められた。本研究ではSWCNTが正常および炎症性疾患患者由来の初代培養細胞におけるストレス関連遺伝子の発現を減少させる傾向が認められ、さらにその変動は細胞により異なることを明らかにした。SWCNT暴露により外来異物によるストレスに対して肺の応答性が変動する可能性が考えられる。
抄録全体を表示
-
小林 憲弘, 河部 真弓, 古川 文夫, 久保田 領志, 杉本 直樹, 広瀬 明彦
セッションID: P-143
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
幾つかの研究において,妊娠動物におけるナノマテリアル暴露が,胎仔の奇形を誘発することや,胎仔に移行して発達・機能障害を引き起こす可能性が報告されていることから,ナノマテリアルの慢性毒性ポテンシャルについて詳細な検討が必要である.本研究では,暴露したナノマテリアルが血流に乗って全身を循環して生殖・発生毒性を引き起こす可能性について検証するために,多層カーボンナノチューブ(MWCNT)について妊娠ラットを用いた尾静脈内投与試験を行った.MWCNT(MWNT-7)を雌ラットから採取した血清に添加し,超音波バスを用いて30分間超音波処理を行ったところ,MWCNTは血清中によく分散し,投与中にMWCNTの凝集・沈降は認められなかった.このMWCNT懸濁液を妊娠7,8,9,および10日のCrlj:CD(SD)ラットそれぞれ5匹ずつに,予備試験で投与可能な最大量と判断された0.5 mg/kg bwの用量で投与し,妊娠20日に帝王切開して病理組織学的にMWCNTの組織への沈着を確認するとともに,胎仔への影響について検討した.母動物の病理組織学的検査では,心臓,肺,肝臓,腎臓,脾臓,および脳においてMWCNTの沈着が確認され,肺において好中球浸潤および肉芽腫がみられたことから,投与したMWCNTは血流に乗って全身を循環したと考えられる.胎仔の検査では,着床痕数,黄体数,胚・胎児死亡数(早期および後期吸収胚),生存胎児数,性別,生存胎児体重,生存胎児胎盤重量,および生存胎児外表観察のいずれにおいても,MWCNT投与の著明な影響は認められなかった.以上の結果から,暴露後に血流に乗ったMWCNTが生殖・発生毒性を引き起こす可能性は低いと考えられた.今後は,呼吸器系へ暴露した場合の肺の炎症や機能障害等を介した生殖・発生毒性について検討するために,MWCNTの気管内投与試験を実施する予定である.
抄録全体を表示
-
鈴木 正明, 加納 浩和, 山崎 一法, 近藤 ひとみ, 戸谷 忠雄, 齋藤 美佐江, 妹尾 英樹, 相磯 成敏, 福島 昭治
セッションID: P-144
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【目的】ナノ材料の有害性情報取得のための低コスト・簡便な有害性評価技術を構築するため、二酸化チタン(TiO
2: P25)を用いて、単回から複数回の投与群を設け、生体反応の差異を検討した。
【方法】12週齢のF344雄ラットに、TiO
2を気管内に1匹あたり10 mg/kgを1回投与する群、10mg/kgを複数回(5 mg/kgを2回、3.3 mg/kgを3回、2.5 mg/kgを4回:各群とも隔日に投与)に分けて投与する群、各溶媒対照群及び無処置群を設けた。動物飼育期間中は動物の状態観察、体重測定を行った。最終投与後3、28及び91日目に動物を解剖し、3と28日目には気管支肺胞洗浄液(BALF)を採取し、総細胞数、細胞分類の測定及び生化学的検査を行った。28と91日目には血液学的検査、血液生化学的検査、臓器重量の測定と病理組織学的検査を行った。
【結果】各群とも順調な体重増加を示したが、28日目以降は無処置群と比較して、溶媒対照群と投与群に軽度の体重増加抑制がみられた。BALFの検査では、3日目のTiO
2投与群で炎症と細胞傷害を示すパラメーターの増加が認められたが、28日目では、これらの値は減少し、ほとんどの項目で溶媒対照群と比較して差はなくなった。肺重量は28日目でTiO
2投与群に高値が認められた。病理組織学的検査では28日目にTiO
2投与群で肺胞Ⅱ型上皮の過形成、肺胞においてはTiO
2を貪食したマクロファージの出現、気管支関連リンパ組織とリンパ節(後縦隔リンパ節、傍胸腺リンパ節)においては粒子の沈着が認められた。また、91日目の投与群には脾臓に粒子の沈着が認められた。
【結論】3日後のBALFを用いた検査では、投与回数の少ない方が強い炎症反応を示す傾向があった。しかし、28と91日目では各検査結果に投与回数による差は認められなかった。なお、無処置群と各溶媒対照群の間にも差は認められなかった。
(本研究は経済産業省からの委託研究「ナノ材料の安全・安心確保のための国際先導的安全性評価技術の開発」による研究成果である。)
抄録全体を表示
-
永野 麗子, 加藤 晴久, 遠藤 茂寿, 丸 順子, 宮内 亜里沙, 中村 文子, 篠原 直秀, 内野 加奈子, 福田 真紀子, 衣笠 晋一 ...
セッションID: P-145
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
近年、高速蛍光バイオイメージング技術の開発が進み創薬における薬物評価、薬物スクリーニングなどに応用される傾向にある。イメージングサイトメーター(IN Cell Analyzer 2000)は、短時間で生きたままの細胞の様々な現象を高速にイメージングし、そこから得られる生化学的情報を迅速に定量し統計解析ができる大変優れたシステムである。本研究は、このIN Cell Analyzer 2000を使用して、細胞培地中におけるスーパーグロース-単層カーボンナノチューブ(以下、SG-単層CVNT)のヒトII型肺胞上皮細胞(A549細胞)への毒性影響を調べるために、SG-単層CNTを超音波処理により平均粒子径285.4nm, 長さ200nm、懸濁CNT濃度0.87μg/ml~87μg/mlの安定かつ均一に培地中に分散させた培地調製液を作製後、A549細胞へ6~48時間の暴露試験を行った。培地調製液に含まれる単層-CNTの2次的物性の計測は、CNTサイズ、形態、濃度、塩濃度、不純物濃度、分散安定性、およびタンパク吸収性に着目しTEM, UV, ICP, SEM-E, TG、DLS、FFF法によって細胞毒性試験と並行して行った。暴露試験後、IN Cell Analyzer 2000により細胞画像を取得し、解析ソフトウエアであるDeveloper Tool Box1.9によって画像解析を行った。解析項目は、細胞生存数、DNA合成率(EdU)、酸化ストレス(ROS),アポトーシス(Caspase 3/7)とした。その結果、酸化ストレスは、87μg/mlで48時間から有意に増加する傾向が見られたものの細胞生存数、死細胞数、およびアポトーシスについては、コントロール群と比して有意な毒性影響は認められなかった。本試験によって、イメージングサイトメーターは単層-CNTの細胞毒性影響を調べるツールとして有効であることが確認された。
抄録全体を表示
-
五十嵐 良明, 内野 正, 西村 哲治
セッションID: P-146
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
カーボンナノチューブ(CNT)は、特徴的な化学構造及び物理化学的性質から電子関連分野などで広く利用されている。しかしラットに腹腔内投与すると中皮腫が発生するなど、アスベストと同様の生体反応も確認されている。CNTにはまたアレルギー反応を増強するとの報告もある。こうした反応には形状の影響が大きいとされているが、材料中の金属不純物の可能性も指摘されている。そこで本研究では、各種カーボンナノマテリアルに残存する金属量を測定した。種々の製造会社より入手した多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)等を蛍光X線分析し、カーボンナノマテリアルに残存する金属を定性した。カーボンナノマテリアルに硝酸を加えてマイクロウェーブ照射して分解したものを試験溶液とし、これをICP-MSで分析した。CNTに検出された金属はFe、Al及びMo等であった。このうちFeは、比較的多量にほとんどのカーボンナノマテリアルに認められ、試験した中ではSWCNTが最も多かった。検出された金属は、各種媒体を加えて超音波処理すると溶出した。カーボンナノマテリアル及び金属の種類によっても異なるが、界面活性剤入り水溶液での溶出量は硝酸での量よりもかなり少なかった。また、in vitroにおける化学物質のアレルギー誘導反応に対し、これらの残存金属の酸化物が増強効果を有するか検討した。ヒト単球由来細胞株THP-1細胞は酸化鉄で処理してもコントロールと比べてCD86及びCD54細胞表面抗原の発現率に変化はなく、酸化鉄自体の感作誘導性はなかった。酸化鉄で前処理した後に皮膚感作性物質で処理したが、皮膚感作性物質による細胞表面抗原の発現率は変化なかった。今後、カーボンナノマテリアルの抽出物や金属イオンでの検討を行い、マテリアルの生体反応性と残存金属との関連性を明らかにする予定である。
抄録全体を表示
-
河合 里美, 辻 良三, 吉岡 薫, 齋藤 昇二
セッションID: P-147
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
ナノ材料の安全性については、各規制当局および研究機関において議論中であるが、産業界では、統一された見解を待つことなく、最新情報を精査の上、自主的な安全管理が求められている。酸化チタン等の難溶性低毒性粒子(PSLTs)については、産業技術総合研究所など複数の機関が、粒子沈着による炎症に起因するという二次的な発がんメカニズムに基づく労働安全基準を提案している。米国National Institute of Occupational Safety and Healthは、曝露終了後の肺に沈着している粒子の重量を表面積換算した肺沈着表面積を用量として評価している。我々は、酸化チタンを用いた複数のラット反復吸入毒性試験において、肺沈着表面積で評価した最低毒性用量(LOAEL)が同程度であったことから、これを指標としてPSLTsの推定無影響量(DNEL)を評価する手法を構築した。すなわち、ラット反復吸入毒性試験の無毒性量(NOAEL)における肺沈着表面積を求め、ラットおよびヒトの肺表面積比を用いて、ヒトNOAEL(肺沈着表面積)に外挿し、ヒト曝露粒子のBET比表面積を用いてヒト肺沈着重量に換算する。粒子沈着モデルMulti-Path Particle Deposition ver. 2 (MPPD2)に、粒径分布および粒子密度、ヒト呼吸条件を設定し、気中濃度に変換の上、不確実係数を用いて労働者および一般人のDNELを求める。ナノ酸化チタン(Degussa社、P25)への適用例を示す。本手法により、実際に曝露する粒子のBET比表面積、粒径分布および粒子密度を反映したDNELを得ることができる。また、P25と同等の毒性ポテンシャルと仮定すれば、そのデータを用いることにより、反復吸入毒性試験データが得られていない他の製品についても、DNELを評価することができる。なお、本手法は現時点において妥当と考えるが、今後も最新情報を精査の上、必要に応じて見直しを行う予定である。
抄録全体を表示
-
曽根 秀子, 黒河 佳香, 山崎 将嗣, 平野 靖史郎
セッションID: P-148
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
デンドリマーは、3次元的に広がる枝分かれ構造を持った球状の超分子である。他のナノ粒子と異なり、その形状の特異さから高い構造上の自由度を持つことが知られており、医療ドラッグデリバリー剤から電子デバイスの基盤にいたるまで工業的に多用されている。一方、その有用性とは逆に、高い生物活性に起因する生体毒性の可能性が懸念されているが、デンドリマーの毒性評価に関する研究はほとんど実施されていない。そこで、本研究では、デンドリマーの1種であるPAMAM(ポリアミドアミン)デンドリマーを研究対象として、デンドリマーの水環境(液相)における挙動と液相としての生体への影響について調べた。方法は、表面基が異なる4種の第4世代PAMAMをSigma社から購入し、DMEM培養液中2 % (w/w)濃度での粒子径を各サンプル50μlを用いて、光散乱光度計(ELSZ2plus、大塚電子)で調べた。さらに、4種のうち、カチオンとしての性質を持つPAMAM-NH2について、2.5%濃度1μlを用いて、走査型プローブ顕微鏡(9700島津製作所)で純水中の粒子径を調べた。さらに、ナノ顕微分光イメージ装置(Cytoviva)を用いて、DMEM培養液中のPAMAM-NH2の形態についても調べた。また、PAMAM-NH2 1分子にAlexa488を共有結合させたものを合成し(ナード研究所)、ヒト肺動脈血管細胞(HPAEC)における細胞内分布を共焦点レーザー走査型蛍光顕微鏡(FV1000-D、オリンパス)により調べた。その結果、PAMAM- succinamic acid以外のPAMAMはいずれも100~500 nm程度の二次粒子を生成することがわかった。この二次粒子は、分散剤tween80でも崩れなかった。Alexa488 -PAMAM-NH2は、曝露24時間以降で核周囲に蓄積することが認められた。
抄録全体を表示
-
安齋 享征, 上西 将路, ジョン ハンドレー, デトロフ シューラー, アルブレヒト ポス, ロバート ゲスト, 佐藤 哲男
セッションID: P-149
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
There are no clear regulations for safety assessment on nanomaterials, and systematic assessment methods are now examined in many countries. In Japan, it is examined how to handle nanomaterials under the Chemical Substance Control Law. NEDO project activities discussed extrapolation of 4-week inhalation into 13-week inhalation in rats given the results obtained by intratracheal administration on representative nanomaterials, and proposed determination of period-limited occupational exposure limit. In the EU, a recommendation on the definition of nanomaterials was adopted by the European Commission in October 2011 while the debate over relation to the revision of REACH scheduled for 2012 is ongoing. In the US, CNTs and fullerene are regarded as new chemical substances under TSCA Sec. 5, and those nanomaterials which are not listed in the TSCA inventory require submission of a premanufacture notification at least 90 days prior to manufacture or import. Thus, the trend to regulate nanomaterials is intensifying; however, the activities in each country are not harmonized. Given those gaps we examined utility of our newly developed multidimensional evaluation scheme for safety assessment on nanomaterials. This is a scheme for evaluating industrial materials in consideration of manufacturing processes and assessment of nanomaterials included in a finished product. Evaluations on CNTs, fullerene, titanium oxide, silver, and cerium oxide were simulated. The results showed that the scheme’s final stage could be reached in all cases; however, this scheme is conditional upon verification of intratracheal dosing, accumulation of inhalation background data, and development of environmental risk assessment. Therefore, it is considered that technology enhancement on those concerns will allow the scheme to evolve into a more sophisticated design.
抄録全体を表示
-
武田 志乃, 小久保 年章, 小西 輝昭, 酢屋 徳啓, 及川 将一, 鈴木 享子, 寺田 靖子, 早尾 辰雄, 井上 達也, 西村 まゆみ ...
セッションID: P-150
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【はじめに】原子力発電で利用されるウランは腎毒性物質として知られている。原発事故をはじめ、劣化ウラン弾汚染や原子力資源獲得競争による環境負荷の懸念などを背景に、ウランの毒性影響に関心がもたれ、放射線防護の観点から早急な対応が求められている。これまで我々は、標的臓器である腎臓のウランの挙動を調べ、ウランが近位直尿細管に選択的に蓄積し、組織損傷を引き起こしていることを示してきた。本研究では、微小ビームを用いたウラン局在量解析により、毒性発現および尿細管再生期における尿細管におけるウラン局在を調べた。
【実験】動物の処置:Wistar系雄性ラット(10週齢)に酢酸ウラン(天然型)を背部皮下に一回投与(0.5 mg/kg)した。ウランの分析:腎臓中ウラン濃度は誘導結合プラズマ質量分析により測定した。腎臓内ウラン分布および局所量の解析は高エネルギー領域シンクロトロン放射光蛍光X線分析(SR-XRF)により調べた。下流部位近位尿細管の検出:SR-XRF測定試料の隣接切片について下流部位近位尿細管に特異的に存在するグルタミンシンターゼの免疫染色を行った。組織影響観察: TUNELおよびPAS染色した。
【結果および考察】投与1日目ウランは下流部位近位尿細管に分布した。管腔側の刷子縁へのウラン沈着は認められず、尿細管上皮には腎臓平均ウラン濃度の50倍程度のウラン濃集部位が検出された。投与8日目では下流部位近位尿細管上皮の脱落が観察されたが、15日目になるとダメージ部位には再生尿細管が出現した。15日目の腎臓平均ウラン濃度は1日目の12%に減衰した。尿細管上皮のウラン濃集部位は減少したが、数ミクロン四方程度の微小領域に1日目と同等のウラン局所量の部位も検出された。このようなウラン濃集がばく露後どの程度持続するのか、今後明らかにする必要があると考えられた。
抄録全体を表示
-
伊吹 裕子, 豊岡 達士
セッションID: P-151
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
[目的] ヒストンの化学修飾による核内クロマチンの構造変化は、特定の遺伝子群の誘導もしくは抑制を引き起こし、発がんプロモーションに関わっていると考えられている。本研究ではタバコ副流煙中化学物質によるヒストン修飾について検討を行い、新しい見地からタバコ副流煙による発がんについて検討することを目的とした。
[方法] タバコ副流煙を細胞培養液中にトラップし、ヒト肺上皮細胞A549に作用させ、その後のヒストン修飾について各種抗体を用いて検出した。
[結果] タバコ副流煙により明らかな修飾変化を示したものは、ヒストンH2AX(S139)のリン酸化、ヒストンH3(S10)、H3(S28)のリン酸化であった。ヒストンH3(S10)のリン酸化に伴うとされるH3(K14)のアセチル化はわずかであった。ヒストンH2AXのリン酸化は、タバコ副流煙作用により産生される活性酸素種によるところが大きく、一方、ヒストンH3のリン酸化はAktのリン酸化といったシグナル伝達経路を経ており、核内分布が一致しないこと等からそれらは全く別の系で動いていることが判明した。proto-oncogene
c-fosのプロモーター領域におけるヒストンH3(S10)リン酸化の亢進が免疫沈降法により示唆された。
[結論] タバコ副流煙により、ヒストンH2AXのリン酸化、ヒストンH3のリン酸化が誘導されることを明らかにした。ヒストンH2AXのリン酸化はDNA損傷マーカーであり、発がんイニシエーション、また、H3のリン酸化はproto-oncogeneの発現に関連することから発がんプロモーション活性を反映するものであり、これらのヒストン修飾変化はタバコ副流煙による発がんに繋がるものと考えられた。
抄録全体を表示
-
吉田 唯真, 豊岡 達士, 伊吹 裕子
セッションID: P-152
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
近年、エピジェネティック変化による遺伝子の制御が示唆されている。中でも核内クロマチンの構造変化は特定の遺伝子群の誘導もしくは抑制を引き起こし、発がんプロモーションにも関わっていることが明らかになっている。ヒストンH3のリン酸化は細胞が分裂促進因子や各種刺激物質に曝された際に誘導され、
proto-oncogeneである
c-fosや
c-junなどの発現に関連しているとされる。我々は発がん化学物質であるホルムアルデヒド(FA)がH3Ser10のリン酸化を誘導すること、近傍Lysのアセチル化状態を変化させること、それらが前述の遺伝子発現に関与することを明らかにしたので報告する。
ヒト肺上皮細胞A549にFAを作用させた結果、作用後2時間をピークにヒストンH3Ser10がリン酸化された。このリン酸化は細胞周期非依存的であり、caffeine及びwortmanninによりほとんど抑制が見られないことから損傷応答経路の関与は低いと考えられた。そこで主要な情報伝達経路であるMAPKの関与を阻害剤及びJNKノックダウンA549細胞を用いて検討したところ、主にJNK経路がリン酸化に関与していることが明らかとなった。一方、リン酸化を負に制御する脱リン酸化酵素活性をIn vitro phosphatase assay で検討したところ、活性の低下は見られなかった。FA作用により活性酸素種(ROS)が産生されたが、H
2O
2作用ではリン酸化は誘導されず、抗酸化物質Trolox共存下でもリン酸化されることから、リン酸化誘導に対するROSの関与は低いと考えられた。ヒストンH3Ser10のリン酸化に伴うとされるH3Lys9, Lys14のアセチル化は、FA作用開始直後から一時的に減少し、その後6時間以降は増加した。また、ChIP法によりFA作用後
c-fosプロモーター領域におけるH3Ser10リン酸化が上昇することが示された。
本研究では、FAはヒストンの化学修飾を変化させること、それががん関連遺伝子発現に関与することを明らかにした。今後、他のアルデヒド化合物についても検討する予定である。
抄録全体を表示
-
樋口 悟法, 常山 幸一, 深見 達基, 中島 美紀, 横井 毅
セッションID: P-153
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【目的】抗痙攣薬であるカルバマゼピン (CBZ) はごく稀に肝障害を惹起することが報告されており、その肝障害は炎症を伴う場合が多い。肝移植や死亡例も少なくなく、劇症化した患者では肝臓においてネクローシスや炎症が認められている。これまでの
in vitroにおける報告などから、CYPによって生成された反応性代謝物が肝臓のタンパク質と結合し、免疫反応およびネクローシスなどの細胞傷害が起きることで肝障害が惹起されると考えられているが、実験動物でその肝障害性が再現されたことは未だにない。本研究では、CBZ誘導性肝障害マウスモデルを確立し、肝障害発症メカニズムを免疫・代謝の両面から検討した。
【方法】10週齢の雄性BALB/cマウスにCBZを4日間400 mg/kgを、5日目に800 mg/kgを経口投与した。最終投与から0-72時間後に解剖し、血漿中ALTおよびAST値を測定するとともに肝臓の組織学的な変化を解析した。CBZとその代謝物の血中濃度の測定、肝臓中の酸化ストレスマーカー値や炎症性サイトカインなどの発現変動を解析した。Cyp3aの関与を検討する際には、Cyp3a特異的な阻害薬であるketoconazole (KTZ)、またはtroleandomycin (TAO) を前投与した。
【結果・考察】CBZ投与マウスにおいて、血漿中ALTおよびAST値の有意な上昇が認められ、肝組織においては広範なネクローシスに加え、肝細胞の脱落および免疫系細胞の浸潤が認められた。酸化ストレスマーカー値の有意な変動が認められ、肝障害の発症時に酸化ストレスが起きていることが示された。血中濃度とmRNA発現変動の解析から、特定の代謝物やサイトカインが肝障害時に上昇していた。Cyp3a阻害薬を併用投与した群では、血漿中ALT値およびAST値の上昇が認められ、Cyp3aがCBZ誘導性肝障害において解毒に作用することが示された。これらの結果から、CBZ誘導性肝障害のモデルマウスが作製でき、その発症には薬物代謝と炎症反応の両方が関与すると考えられた。
抄録全体を表示
-
後藤 浩一, 今岡 尚子, 後藤 真由美, 鈴木 貴美, 菊池 勇, 神藤 敏正, 三分一所 厚司
セッションID: P-154
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
キノロン系合成抗菌薬ofloxacin(OFLX)の900 mg/kgを3週齢の雄性Slc: SDラット(幼若ラット)に通常飼育条件下で単回経口投与し、投与8時間後に採取した大腿骨遠位関節軟骨について組織学的検査を実施した。また、関節毒性発現への影響が示唆されているtumor necrosis factor receptor superfamily, member 12a(Tnfrsf12a)、prostaglandin-endoperoxide synthase 2(Ptgs2)、plasminogen activator, urokinase receptor(Plaur)、及びmatrix metalloproteinase 3(Mmp3)遺伝子(Goto et al., Toxicology. 2010;276:122-127)についてreal-time PCR法で遺伝子発現量を調べた。さらに、関節毒性発症における軟骨に対する荷重負荷の影響を調べるため、OFLXの900 mg/kgを同様に投与し、投与後直ちに尾懸垂処置を施した幼若ラットの大腿骨遠位関節軟骨について、組織学的検査及び遺伝子発現量の測定を行った。その結果、通常飼育条件下では、組織学的検査でOFLX投与により軟骨細胞の核濃縮及び軟骨基質の亀裂形成が誘発された。また、遺伝子発現量測定では、Plaur及びMmp3遺伝子発現量の増加並びにTnfrsrf12a及びPtgs2遺伝子発現の増加傾向が認められた。一方、尾懸垂条件下では、通常飼育条件下で認められた大腿骨遠位関節軟骨の組織学的変化及び遺伝子発現量の増加は認められなかった。以上のことから、OFLXにより誘発される幼若ラットの軟骨病変形成及び遺伝子発現の変化には、関節軟骨に対する荷重負荷が必須であることが判明した。
抄録全体を表示
-
吉岡 亘, 川口 達也, 相田 圭子, 藤澤 希望, 遠山 千春
セッションID: P-155
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【背景】周産期の2, 3, 7, 8-四塩素化ジベンゾ-
p-ダイオキシン(TCDD)曝露は囓歯類に水腎症を引き起こす。水腎症は尿路通行障害を原因としてヒトを含む哺乳類で生じる病態であり、腎実質の菲薄化が起こる。授乳期TCDD曝露による水腎症は、尿路の物理的閉塞を伴わないことから、何らかの機能異常が原因と考えられた。そこで、腎からの尿排出に必要な尿管蠕動運動と尿濃縮について、曝露による影響を検討した。また、曝露により増加する生理活性物質プロスタグランジンE
2 (PGE
2) の発症に及ぼす影響を検討した。
【方法】出産後1日目のC57BL/6系統の母マウスに0, 10, 20, 80 µg/kgのいずれかの用量のTCDDを経口投与することで産仔に経母乳曝露した。尿管蠕動運動の指標として腎盂収縮頻度を、尿濃縮能の指標として膀胱中の尿重量と尿浸透圧を用いた。遺伝子発現はRT-qPCR法により、尿中PGE
2はEIA法により定量した。発症の有無は横断面で薄切した腎をHE染色して判定した。遺伝子欠損マウス実験では、雌雄のヘテロ欠損型マウスを交配して野生型とホモ欠損型の産仔を比較した。尿量抑制実験では、1 µg/kg/dayのdDAVPを新生仔に腹腔内投与した。
【結果と考察】新生仔の蠕動運動は曝露による変化がなく、尿量増加と尿浸透圧低下を見出した。曝露による尿量増加をdDAVPで抑制すると、水腎症が抑制された。また、TCDD曝露は尿中PGE
2レベルと腎におけるPGE
2合成酵素発現量を顕著に増加させた。PGE
2合成系の酵素mPGES-1あるいはcPLA
2αの欠損により、PGE
2量と水腎症が抑制された。
【結論】TCDDはPGE
2合成系を亢進させ尿濃縮メカニズムを撹乱することで水腎症を引き起こすと考えられる。
抄録全体を表示
-
立野 知世, 山本 敏誠, 吉里 勝利
セッションID: P-156
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
Peroxisome proliferator-activated receptor-alpha (PPARα) agonistは、げっ歯類において肝臓のペルオキシゾームの増殖及び肝臓の肥大化や過形成を経て、肝発癌を誘導する。一方、ヒトはこれらの作用に対して抵抗性を持つと考えられているが、これを証明するための
in vivo評価モデルは存在しなかった。我々は、albumin enhancer/promoter urokinase plasminogen transgenic/SCIDマウスにヒト肝細胞を移植して肝臓がヒト肝細胞で置換されたマウス(PXBマウス)を開発した。
in vivo評価モデルとしてこのマウスにPPARα agonistであるfenofibrateを投与し肝臓における作用を調べた。作製したPXBマウスおよびSCIDマウスに対して、300 mg/kg fenofibrateを4日間投与した。最終投与の翌日に、肝臓を採取し、病理組織学解析、遺伝子発現解析(RT-PCR)、プロテオーム解析(2次元電気泳動)を実施した。組織学的解析により、SCIDマウス肝細胞およびPXBマウスのマウス肝細胞領域では、ペルオキシゾームの顕著な増加が認められたが、キメラマウスのヒト肝細胞領域ではそのような変化は確認されなかった。RT-PCR解析から、SCIDマウスの肝臓では、ペルオキシゾームβ酸化、ミトコンドリアでの脂肪酸および糖代謝酵素に関連する遺伝子発現の増加が示されたが、キメラマウス肝臓のヒト肝細胞領域においては観察されなかった。プロテオーム解析により、peroxisomal bifunctional enzyme, acetyl-coenzyme A dehydrogenese, acetyl-coenzyme A acyltransferase等の脂肪酸代謝関連タンパクの発現は、SCIDマウス肝臓で増加し、PXBマウス肝臓のヒト肝細胞領域では変化しないことが分かった。これらの結果は、fenofibrateはヒト肝細胞中のペルオキシゾームに対して影響を与えないことを示しており、「ヒト肝細胞は、げっ歯類肝細胞と異なり、PPARα agonistに対して抵抗性を持つ」というこれまでの考えを実験的に証明したものである。本研究からPXBマウスはヒトやげっ歯類での肝毒性や肝発癌における種差に関する作用機序を解明するための動物モデルとして有用であると考えられた。
抄録全体を表示
-
栗林 秀明, 宮田 昌明, 山川 泰輝, 吉成 浩一, 山添 康
セッションID: P-157
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【背景・目的】胆汁酸レベルの上昇は肝障害を誘発するため、肝内胆汁酸レベルは厳密に制御されている。Fibroblast growth factor (FGF) 15/19は回腸に発現し、エンドクライン作用により肝内胆汁酸合成を負に調節することから、肝障害の防御に関与すると考えられている。FGF15/19は、胆汁酸をリガンドとする核内受容体farnesoid X receptor (FXR)により正に調節されるとされている。当研究室では抗菌薬をマウスに投与すると、小腸管腔内の総胆汁酸レベルが増加するにもかかわらず、回腸FGF15 mRNAレベルが減少することを見出した。このFGF15発現変動は、以前より報告されている胆汁酸によるFXRの活性化を介する機序のみでは説明出来ない。そこで本研究では、抗菌薬投与マウスを用いて回腸FGF15発現調節機序の解明を目的とした。
【方法】アンピシリン (APC、100 mg/kg、3 days)及び胆汁酸 (コール酸:CA、タウロコール酸:TCA、デオキシコール酸:DCA、タウロデオキシコール酸:TDCA、500 mg/kg)をマウスに経口投与し、mRNAはqRT-PCRで、胆汁酸量・組成はHPLCで解析した。
【結果・考察】CA、TCA、DCAあるいはTDCAを腸内細菌による胆汁酸変換反応(脱抱合・脱水酸化)を抑制したAPC処置マウスに投与すると、CA及びTDCA併用群で回腸FGF15 mRNAレベルは増加したが、TCA及びDCA併用群では増加しなかった。同様の実験をFXR欠損型マウスでも行ったところ、CA併用群においてのみ、FGF15発現誘導作用が認められた。FXRへの親和性が低いとされるCAが顕著な回腸FGF15発現誘導作用を示したことから、従来のFXRを介する機序以外の新たな経路の存在が示唆された。
抄録全体を表示
-
外山 喬士, 矢澤 亜紀, 三浦 高, 掛橋 秀直, 片山 祐子, 鍜冶 利幸, 熊谷 嘉人
セッションID: P-158
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
環境中および内在的な親電子物質は、タンパク質中のチオール基 (SH基) と共有結合することで、標的タンパク質の機能破綻を引き起こす。ユビキチンC末端加水分解酵素L1 (UCH-L1) は、生体内のモノユビキチン量を調節する酵素であるが、本酵素は15-deoxy-prostaglandin J
2のような内在的な親電子物質の良好な標的となり、その活性が阻害される。一方、我々は最近、大気中親電子物質である1,2-ナフトキノン (1,2-NQ) のGAPDHへの親電子修飾 (
S-アリール化) が、グルタチオン (GSH) による
S -トランスアリール化によって解除されることを見出した (Miura et al., Chem Res Toxicol. 2011)。本研究では、GAPDH以外の親電子物質の標的タンパク質でも、GSH が親電子修飾を解除できるか明らかにするため、1,2-NQをモデル親電子物質とし 1) UCH-L1が1,2-NQの標的となるか、2) UCH-L1の
S -アリール化がGSHにより解除されるかを検討した。
SH-SY5Y細胞中のGSH量をbutionin sulfoximine (BSO) により約50%に低下させ、UCH-L1に対する1,2-NQの
S -アリール化を二次元電気泳動により検討したところ、本タンパク質に対する
S -アリール化は増加した。1,2-NQはSH-SY5Y細胞内でUCH-L1とモノユビキチンの親和性を減少させるが、BSO処理により本効果は増強された。UCH-L1精製タンパク質において、1,2-NQの
S -アリール化をLC/MSにより検討したところCys151が修飾されたが、GSHの添加によって
S -トランスアリール化が起こり、本結合は解除された。以上の結果から、GSHはUCH-L1に対する1,2-NQのS−アリール化をGSHによる
S -トランスアリール化によって解除できることが示された。GSHは、親電子物質の抱合排泄以外にも親電子修飾の “事後処理” を介して多様なタンパク質の親電子修飾を制御している可能性がある。
抄録全体を表示
-
武田 真記夫, 鈴木 穂高, 大塚 亮一, 山口 悟, 小嶋 五百合, 富田 真理子, 小山 彩, 高橋 尚史, 桑原 真紀, 吉田 敏則, ...
セッションID: P-159
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
フェノバルビタール(PB)やDDT等の肝薬物代謝酵素誘導剤の反復投与による肝発癌過程において,血漿中の肝逸脱酵素活性が減少することが知られている。臨床検査における血漿中肝逸脱酵素活性は肝傷害のマーカーとして用いられているが,その減少に関する毒性学的意義は不明である。本研究において,まずPBを4週間にわたりF344ラットに強制経口投与したところ,対照群に対して血漿中のALTおよびAST活性は有意に減少したものの,肝臓の過酸化脂質は有意に増加した。RT-PCRの結果,ALTおよびASTの遺伝子発現がPB投与群で有意に抑制されていた。ALTはアラニンをピルビン酸へ転換する働きにより糖新生に関与しており,ASTは解糖―ATP生成におけるアスパラギン酸産生に関与している。これらのことから,PB投与ラット肝臓における糖代謝に関与する遺伝子の発現量を解析したところ,
Hif1a,
Foxo1,
G6pcが有意に減少していた。さらに,これらの遺伝子発現抑制メカニズムを調べるために,ラット初代培養肝細胞を用い,これらの遺伝子をsiRNAにより発現を抑制し,いくつかの遺伝子の発現変動を検索した。糖新生に関与しているFoxo1に対するsiRNA添加により
Foxo1,
G6pcに加えALTならびにASTの遺伝子発現は有意に減少した一方,細胞周期に関連する
Cdkn1bおよび
E2f1は有意に増加していた。また,解糖系に関与しているHif1aに対するsiRNA添加により
Hif1a,
Foxo1,
G6pcに加えALTならびにASTの遺伝子発現が有意に減少していた。以上のことから,PB投与による糖代謝から薬物代謝へのモードシフトにおいて糖代謝に関連する遺伝子の発現抑制が関与していることが示され,併せて,
Hif1aが
Foxo1の上流に位置することが示唆された。
Hif1aはその領域にinsulin response elementを複数持つことからその発現抑制にCARが関与していることが考えられるが,今後の検討課題としたい。
抄録全体を表示
-
小林 祐喜, 深見 達基, 樋口 良太, 中島 美紀, 横井 毅
セッションID: P-160
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【目的】解熱鎮痛薬フェナセチンは生体内で活性代謝物アセトアミノフェン (APAP) へ変換されるプロドラッグであるが、メトヘモグロビン(Met-Hb)血症や腎障害などの副作用が原因で市場から撤退した。これらの副作用の発現に加水分解代謝物である
p-フェネチジンの関与が示唆されているものの、詳細は不明である。これまでフェナセチンの加水分解を担う酵素はアリルアセタミドデアセチラーゼ(AADAC)であることを明らかにしており、本研究ではフェナセチンによるMet-Hb血症発症へのAADACの関与を明らかにすることを目的とした。
【方法】7週齢雄性C57BL/6マウスにフェナセチン125 mg/kgを経口投与しMet-Hb濃度およびフェナセチンとその代謝物の血中濃度を測定した。加水分解酵素のMet-Hb血症への関与を解析する際は、加水分解酵素阻害剤tri-
o-tolylphosphate (TOTP)を前投与した。Met-Hb血症発症への代謝反応の関与を解析するin vitro実験として、AADACやカルボキシルエステラーゼなどの加水分解酵素およびシトクロムP450発現系とフェナセチンを赤血球とインキュベートし、Met-Hb濃度の変動を測定した。
【結果および考察】フェナセチン投与1時間後にマウス血中Met-Hb濃度の有意な上昇が認められたが、TOTP前投与により認められなくなった。TOTP前投与は、フェナセチンとAPAPの血中濃度を変化させなかったが、
p-フェネチジンの濃度を有意に低下させた。In vitroにおける検討では、AADAC発現系とCYP1A2またはCYP2E1発現系を組み合わせてフェナセチンを赤血球とインキュベートすることによりMet-Hb濃度の上昇が認められた。以上より、フェナセチンによるメトヘモグロビン血症にはAADACによる加水分解を起点とする反応が関与していることを明らかにした。
抄録全体を表示
-
大渕 雅人, 吉成 浩一, 金子 勇人, 松本 哲, 井上 晃子, 米良 綾子, 河村 章生, 碓井 孝志, 山添 康
セッションID: P-161
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
[目的]幅広い抗真菌スペクトラムを有するトリアゾール系抗真菌薬voriconazole(VRCZ)は、ヒトで良好な薬効を示す一方,マウスでは抗真菌作用をほとんど認めず,その薬理作用には種差が存在する。本研究ではこの種差の機序を明らかにするため、VRCZのマウスでの薬効減弱における核内受容体pregnane X receptor(PXR)およびconstitutive androstane receptor(CAR)の関与を,VRCZの体内動態の観点から解析した。
[方法]C57BL/6J,
Pxr欠損(
Pxr-null),
Car欠損(
Car-null)および両受容体欠損(
Pxr/
Car-null)マウスに,VRCZを30 mg/kgで7日間連続経口投与し,VRCZの血中濃度推移および肝薬物代謝酵素レベルを常法に従い測定した。
[結果]C57BL/6J,
Pxr-nullおよび
Car-nullマウスにおいて,血漿中VRCZ濃度は投与初日に比べ投与7日目では有為に減少した。これらのマウスでは,肝ミクロソーム中VRCZ代謝活性および肝
Cyp3a11 mRNAレベルはVRCZの反復投与により増加し,自己誘導が認められた。一方
Pxr/
Car-nullマウスでは,反復投与によって血漿中VRCZ濃度はむしろ増加し,肝ミクロソーム中VRCZ代謝活性および肝
Cyp3a11 mRNAレベルに増加は認められなかった。これらマウスの肝ミクロソーム中VRCZ代謝活性は,midazolam(CYP3A基質)代謝活性と有為な相関を示し,さらにketoconazole(CYP3A阻害薬)によりほぼ完全に阻害された。
[考察]マウスにおいて,VRCZは主にCYP3Aにより代謝されること、VRCZ投与によりCYP3A誘導(自己誘導)が起こること、そしてPXRとCARは協調的にVRCZによるCYP3A誘導に関与していることが明らかになった。すなわち、マウスにおけるVRCZの薬効の減弱は、PXRとCARを介したVRCZ自身によるCYP3A誘導が主な原因と考えられた。ヒトではVRCZによるCYP誘導は報告されておらず、PXRまたはCAR活性化作用の有無は、VRCZの薬理作用発現における重要な決定要因の一つと考えられる。
抄録全体を表示
-
長澤 孝真, 田中 裕有, 関本 征史, 根本 清光, 出川 雅邦
セッションID: P-162
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【目的】CYP3A4遺伝子の発現はプレグナン X受容体(PXR)やビタミン D受容体(VDR)により、それぞれ正の制御を受けることが報告されている。しかし、CYP3A4遺伝子発現におけるこれら受容体の相互作用については未だ明確にされていない。最近、我々はPXRやVDRの活性化を介してLuciferaseを発現するHepG2由来レポーター細胞株(HPL-A3)の樹立に成功した。そこで、本研究では樹立したHPL-A3株を用い、PXR活性化剤とVDR活性化剤のそれぞれ単独、あるいは複合処理によるCYP3A4遺伝子発現への影響を検討した。
【方法】PXR活性化剤としてRifampicin(RIF)を、また、VDR活性化剤として1,25-dimehydroxyvitamin D
3(VD
3)を用いた。HPL-A3細胞に対し、RIF(1 µM)とVD
3(0.1 µM)をそれぞれ単独あるいは複合処理し、PXR/VDR活性化(CYP3A4プロモーター活性化能)への影響をLuciferase assayおよびReal time RT-PCR法を用いて測定した。
【結果】RIF単独処理では72時間まで経時的に、またVD
3の単独処理では24時間をピークとして、LuciferaseおよびCYP3A4遺伝子の有意な発現誘導が観察された。また、これら発現量はRIFとVD
3を24時間複合処理することで相加的に増加した。
【考察】以上の結果より、PXRリガンドとVDRリガンドの複合暴露により、CYP3A4プロモーター活性化が相加的に増強されることが明らかとなった。CYP3A4酵素は異物(医薬品を含む)の代謝に関わる主要酵素であり、その発現変動は異物の薬効・毒性発現に大きな影響をもたらす。したがって、適切な薬物治療や人の健康維持(異物の安全性・毒性評価)を考える上で、環境化学物質(医薬品を含む)のPXR活性化能やVDR活性化能について検索・評価し、さらに、その相互作用についても考慮することが重要であると考えられた。
抄録全体を表示
-
渡邉 研右, 河田 みなみ, 川合 佑典, 池中 良徳, 石塚 真由美
セッションID: P-163
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【背景と目的】鳥類では、ミクロソームを用いたシトクロムP450(CYP)によるワルファリン代謝活性について、ニワトリと比べ他種鳥類では活性が低く、数十倍の種差があることが明らかになっている。しかし、これまでにゲノムプロジェクトが終了しているニワトリにおいてもCYP分子種ごとの発現解析や機能解析が行われておらず、異物代謝上重要と考えられる分子種やそれぞれの機能が明らかになっていない。そのため、これまでに報告されている鳥類種間での異物代謝能の種差が、どの分子種に帰属されるのかも明らかでない。そこで、本研究では、鳥類の異物代謝において重要と考えられる分子種の特定と、その種差を明らかにすることを目的とした。
【方法と結果】ニワトリの肝臓を用い、CYP分子種ごとのmRNAコピー数を比較したところ、肝臓においてCYP1A5、2C23、2C45が多く発現していることが明らかになった。一方で、ニワトリなどの家禽で研究が進められているCYP3A37は大きな発現量を示さなかった。また、哺乳類でCYP2Bや3Aを誘導するフェノバルビタールを投与した場合においても、CYP2C、3Aが受ける誘導は同程度だった。そこで、これまでに機能解析がほとんど行われていないCYP2C23について8種の鳥類からcDNAクローニングを行い、鳥類種間で保存されているアミノ酸領域に対する抗ペプチド抗体の作製を行った。各鳥類種の肝臓ミクロソームについて、この抗体を用いたウェスタンブロット法を行った結果、すべての鳥類種でCYP2C23特異的に交差反応が見られ、CYP2C23タンパク質を定量することができた。
【考察】mRNAコピー数比較から、鳥類ではCYP2Cサブファミリーが多く発現し、重要な分子種であると考えられた。そこで、鳥類CYP2C23特異的抗体を用いたタンパク質発現量比較を行ったが、その発現量には大きな種差が見られなかった。以上の結果より、鳥類種間で見られる活性の種差はタンパク質発現量の違いによるものではなく、酵素の機能的な違いによるものであると考えられた。
抄録全体を表示
-
安東 志麻, 青戸 俊介, 太田 世志雄, 高折 均, 大保 奈々恵, 小泉 圭司, 藤居 義修, 川井 正, 金口 幸裕
セッションID: P-164
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【目的】クロロホルムはマウスおよびラットに腎障害を誘発し,長期投与により腎発がん性を示すことが知られている。我々は,クロロホルムによる初期病変と腎発がんとの関連を解析するため,病理組織学的な検索を行なった。
【方法】6週齢のCrlj:CD1(ICR)雄マウスに75 mg/kgまたは150 mg/kgの投与量で単回強制経口投与を行なった。75 mg/kg投与群については投与24時間後に,150 mg/kg投与群については,投与24時間後および48時間後に剖検し,病理組織学的検索を行なった。同時に,剖検時に採取した血清を用いて血液生化学的検査を行ない,腎毒性の評価を行なった。さらに,単回投与群と同一の投与量(75 mg/kgまたは150 mg/kg)で3日間強制経口投与を行ない,最終投与24時間後に剖検し,単回投与群と同様に病理組織学的検索ならびに血液生化学的検査により腎毒性を評価した。
【結果・考察】クロロホルム投与による組織学的影響は,近位尿細管に限定して認められた。尿細管上皮腫大,尿細管壊死が投与量/投与期間の増加により,より顕著に認められた。尿細管壊死がより顕著に認められてくると,近位尿細管からの再吸収能の低下に起因すると考えられる,好酸性硝子滴および硝子円柱もより顕著に観察された。150 mg/kgの単回投与群で投与48時間後に剖検した群および75および150 mg/kgの3日間投与群において,好塩基尿細管が認められた。この好塩基尿細管と一致して,Ki-67標識率は顕著に高値を示した。遺伝毒性試験が陰性を示すクロロホルム投与による腎臓の発がんは,この尿細管壊死と再生の持続により発生するものと考えられる。以上の結果とともに,腎障害の指標について免疫組織学的に検討した結果を報告する。
抄録全体を表示
-
浅岡 由次, 井村 奈緒子, 才 貴史, 冨樫 裕子, 宮本 庸平
セッションID: P-165
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【目的】肝細胞肥大とは、薬物代謝酵素などの増加によって肝細胞容積が増加し、肝臓重量が増加する変化である。肝細胞肥大は、一般的に病理組織学的に評価されるため、その精度や感度は観察者の技量によるところが大きい。本研究では、肝細胞肥大を誘発するclofibrateを投与したマウス肝臓について、画像解析による肝細胞肥大の定量評価法について検討した。
【方法】雄7週齢のCrlj:CD1(ICR)マウスに200, 400, 800 mg/kg/dayのclofibrateを5日間反復経口投与し、肝臓重量の測定、H.E.染色標本の病理組織学的観察および画像解析を実施した。画像解析では、H.E.染色標本をデジタルスライドスキャナー(NanoZoomer C9600, 浜松ホトニクス)でデジタル化して、5枚/動物の組織画像(×200)を採取した後、組織画像中における個々の肝細胞を画像解析ソフト(Definiens Developer XD, Definiens AG)で認識させて、各動物の平均肝細胞面積を算出した。
【結果およびまとめ】肝臓重量は400, 800 mg/kg/day投与群で溶媒対照群と比較してそれぞれ約20%、35%増加し、病理組織学的観察において、軽度な小葉中心性肝細胞肥大が400, 800 mg/kg/day投与群でそれぞれ1/5、3/5例にみられた。また、画像解析において、平均肝細胞面積が400, 800 mg/kg/day投与群で溶媒対照群と比較してそれぞれ約10%、20%増加した。従って、本画像解析法によりマウスおけるclofibrate誘発性肝細胞肥大を定量的に評価できることが示された。
抄録全体を表示
-
鈴木 和彦, 谷合 枝里子, 小野 敦, 石井 雄二, 盛田 怜子, 八舟 宏典, 三森 国敏, 渋谷 淳
セッションID: P-166
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【背景】フタル酸エステル類はアルキル基の違いによって活性化するPPAR亜型とその親和性や毒性標的は異なる。我々は昨年度の本学会にて、フタル酸ジへプチル(DHP)はラットへの90日間混餌投与により高用量域でのみPPARα非依存的にGST-P陽性肝前がん病変を形成することを明らかにした。本研究では作用機序や作用強度の異なるフタル酸エステルの併用投与による肝臓及び雄性生殖器に与える影響を検討するために、6週齢の雄性F344ラットにフタル酸ビス(2-エチルヘキシル) (DEHP; 12,000 ppm)、フタル酸ジブチル (DBP; 12,000 ppm)、DHP (10,000 ppm)を単独あるいはDEHPとDBP、DEHPとDHPの組み合わせで90日間混餌投与を行なった。【結果】肝臓ではDEHP単独群でみられた好酸性肝細胞肥大がDBPとの併用で増強し、DHP単独群でみられた肝細胞の腫大・空胞変性はDEHPとの併用で消失した。α2-macroglobulinの免疫染色では、DHP単独群のみでGST-P同様に陽性巣を形成したが、これらはいずれもDEHPとの併用で消失した。また、DHP単独群のみでPCNA陽性細胞率が増加した。精巣では各単独群では有意な変化を示さず、両併用投与群で精細胞の脱落を主としたびまん性の精細管萎縮を示した。肝臓におけるreal-time RT-PCRでは
Acox, Ehhadh及び
Cyp4a1などPPARα依存性の因子の発現増加はDEHP及びDBP単独群でみられ、これらの併用で増強した。また、活性酸素種産生酵素
Nox2はDHP単独群で発現増加したが、DEHPとの併用で抑制され、DHP単独群でみられた
Sod1,
Sod2及び
Catなどの酸化還元酵素の発現減少はDEHPとの併用で回復した。さらに、DNA酸化傷害指標の8-OHdGが全投与群で対照群より増加したが、併用による相加作用はみられなかった。【考察】肝臓ではDEHPによるPPARα活性に対するDBPの増強作用と、DHPによる酸化ストレス誘発及び肝細胞の増殖作用に対するDEHPの拮抗作用が推察され、精細管萎縮については併用による相加または増強作用が推定された。
抄録全体を表示
-
江田 景, 小林 吉彦, 楫野 恵美子, 小松 弘幸, 白岩 和己, 秋江 靖樹, 門田 利人, 齋藤 明美
セッションID: P-167
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【目的】マイクロミニピッグは㈱富士マイクラが開発した超小型の実験用ミニブタであり、取り扱い易さから次世代の実験動物として期待されている。現在、本動物を使用して薬物の安全性評価や薬効評価モデルの開発など,さまざまな研究が進められている。今回我々は、マイクロミニピッグを毒性試験で使用するにあたり,その特徴について解剖組織学的及び病理組織学的に検討した。
【材料及び方法】6ヶ月齢雄マイクロミニピッグ5匹を入荷し,毎日,一般状態観察,週一回の体重測定を実施した.14ヶ月齢で剖検し,肉眼観察後,器官・組織を摘出し,重量測定後,10%中性緩衝ホルマリン液で固定,常法に従って,HE染色標本を作製して,組織学的検査を実施した.
【結果及び考察】一般状態では8ヶ月間の飼育期間中、特筆すべき変化は認められなかった.体重は,8ヶ月齢付近からほとんど変化しなかった(剖検時平均9.38Kg).器官重量では,顎下腺,精巣,精巣上体,精嚢及び膵臓の相対重量がサル及びビーグルと比べ2~3倍であった.解剖学的に耳下腺が大きく,この下に顎下腺が位置していた.胆管は胃幽門管を通って,十二指腸の幽門から約1cmところで乳頭に開口し.甲状腺,上皮小体及び胸腺の位置が他の動物と異なるなどの特徴がみられた.組織学的には他の動物種と比較して心臓に太いプルキンエ線維がみられ,肝臓の肝小葉が結合組織で囲まれているなどの特徴が認められた.また,脳室脈絡叢の血管周囲,肝臓グリソン鞘及び心房に単核細胞の浸潤,肺では異物性肉芽腫,腎臓尿細管での好塩基性変化及び硝子円柱の出現,精巣の限局性精細管萎縮,前立腺の石灰化などの変化が観察された.
これらの特長はミニブタでもみられることから,マイクロミニピッグとミニブタはほぼ同様な解剖組織学的特徴を有していると考えられた. 従って,マイクロミニピッグはミニブタと同様に病理学的評価に使用できると判断された.
抄録全体を表示
-
三谷 治
セッションID: P-168
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【目的】速乾性擦式アルコール系手指消毒薬(以下、消毒薬と略)を頻回に使用すると手荒れを生じることが報告されている。これらの薬剤を開発するにあたり皮膚累積刺激性の評価は重要であり、ウサギを用いた試験法が汎用されている。一方、動物福祉や倫理の観点から、近年、ヒト培養皮膚モデルを用いた評価系も考案されてきた。今回、我々は消毒薬の皮膚累積刺激性を検討するにあたり、ウサギの試験系と三次元ヒト培養皮膚(表皮)モデル(LabCyte EPI-MODEL24:㈱J-TEC)用いた系を比較検討した。【方法】予め刈毛した日本白色種ウサギ(Kbl/JW)の背部皮膚に被験液(消毒用エタノール及び市販のA~E剤の6薬剤)0.1mL/siteを1日5回(1時間毎)、5日連続で反復塗布し、各投与日の最終投与1時間後及び回復期間3日目にDraizeの判定基準を用いて、肉眼的に皮膚反応を観察した。培養皮膚モデル実験は山本らの方法(薬学雑誌、130、2010)を用いた。LabCyte EPI-MODEL通常モデル(13日培養品)及び敏感肌モデル(6日培養品)に被験液10μLを適用させ、直ちにエアブロワーを用いて被験液を乾燥させるように1分間送風した。この操作を5回行った後、24時間後培養し、MTTアッセイを用いて生細胞率を算出した。【結果】ウサギの試験では、A剤で重度、C剤で軽度の皮膚累積刺激性が認められた。その他の薬剤では皮膚累積刺激性は認められなかった。培養皮膚モデルでは、A剤、B剤あるいはC剤で顕著な生細胞率の低下がみられた。D剤では通常モデルと敏感肌モデルとの差は認められなかったが、その他の製剤において敏感肌モデルで生細胞率の低下傾向が認められた。【考察】消毒薬の皮膚累積刺激性を評価する場合、培養皮膚モデルはウサギと比較して感度の高い反応性を示し、敏感肌モデルを用いることでさらにその感度が増す可能性が示唆された。以上から、培養皮膚モデルは消毒薬の皮膚累積刺激性を評価する上で有用性の高いモデルであると考えられた。
抄録全体を表示
-
前川 京子, 西川 潤, 鹿庭 なほ子, 杉山 永見子, 小泉 朋子, 黒瀬 光一, 頭金 正博, 斎藤 嘉朗
セッションID: P-169
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【目的】医薬品による有害事象のうち、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)及び中毒性表皮壊死症(TEN)を含む重症薬疹は、症状が重篤で、予後が悪いことから、発症予測のためのバイオマーカーの確立が望まれる。近年、高尿酸血症治療薬アロプリノールによる重症薬疹の発症に
HLA-B*58:01が相関することが、白人及びアジア人で報告された。さらに、我々は、日本人において第6番染色体のHLA遺伝子の近傍(6p21.3)に存在する遺伝子の多型が
HLA-B*58:01と絶対連鎖不平衡にあり、SJS/TEN発症のサロゲートマーカーとなりうることを見出した。そこで、今回、この遺伝子多型の簡便なタイピング系の構築を試みた。
【方法】日本人において
HLA-B*58:01と絶対連鎖不平衡(ρ
2 = 1, D’ = 1)を示す乾癬感受性遺伝子(
PSORS1C1)上に位置するrs9263726 (110G>A, Arg37His)につき、迅速タイピング系をPCR-RFLP法により構築した。SNP を挟むDNA断片をPCRで増幅した後、FokIによる制限酵素消化を行い、DNA電気泳動パターンから遺伝子多型の有無を検出した。
【結果および考察】中国系アメリカ人健常者について、構築したPCR-RFLP法によるrs9263726のタイピング結果は、TaqMan SNP assay法による結果と完全に一致した。さらに、HLAタイプが既知の日本人SJS/TEN発症者のうち、
HLA-B*58:01ヘテロ保因者はrs9263726がヘテロ接合体であることを確認した。
HLA-B*58:01と絶対連鎖不平衡にある遺伝子多型を利用した簡便で安価なタイピング系によるHLA-B*58:01保因者のスクリーニングは、日本人におけるアロプリノールによるSJS/TEN発症の回避に有用と考える。
抄録全体を表示
-
頭金 正博, 鹿庭 なほ子, 斎藤 嘉朗, 杉山 永見子, 黒瀬 光一, 西川 潤, 長谷川 隆一, 相原 道子, 松永 佳世子, 安部 正 ...
セッションID: P-170
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【目的】スティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症(SJS/TEN)は、稀にしか発症しないものの、極めて重篤な医薬品による副作用の一つである。そこで、SJS/TEN発症を予測するバイオマーカーを見いだすことを目的として、アロプリノールを服用した患者でのSJS/TENの発症と関連する遺伝子多型を全ゲノムおよびヒト主要組織適合性複合体(HLA)遺伝子を対象として探索した。【方法】アロプリノールが被疑薬と考えられる患者14名および健常者991名から文書による同意を得てゲノムDNAを調製した。Illumina Human 1M-Duo DNA Analysis BeadChipによる網羅的な一塩基多型 (SNP) 解析を行い、SJS/TEN発症との関連解析を行った。また、SJS/TEN発症者についてはHLAクラスI及びII領域の配列解析により遺伝子多型解析を行った。【結果および考察】アロプリノールを服用していたSJS/TEN発症患者14名と健常者991名の網羅的SNPsデータを用いた関連解析において、多重性の補正後も有意に関連性のある複数のSNPsが、第6番染色体のHLA遺伝子群の近傍(6p21.3)に存在する乾癬感受性遺伝子(PSORS1C1)等で見いだされた。従って、これらの遺伝子の産物がSJS/TENの発症に関連している可能性が考えられた。また、これらのSNPsの中には、アロプロノールによるSJS/TENの発症と強く関連していることが漢民族をはじめ、コケージアンや日本人で既に報告されているHLA-B*5801と絶対連鎖不平衡になっているものがあった。これらのSNPsはHLA-B*5801よりも簡便に測定できるので、アロプロノールによるSJS/TEN発症と関連するバイオマーカーとしての有用性が高いと考えられる。
抄録全体を表示
-
森田 健, 常見 知広, 林 真
セッションID: P-171
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
2011年4月施行の改正化審法では、選定された優先評価化学物質についてリスク評価を行い、必要に応じ第二種特定化学物質に指定することとなった。優先評価化学物質の変異原性リスク評価では、in vitro試験が陽性の場合、in vivo試験データが必要と考えられる。化審法ではin vivo試験は求められておらず、リスク評価の過程で別途そのデータを要求する必要がある。しかし、in vivo試験を求めるケースとその種類について一般的な合意は得られていない。そこで、in vitro染色体異常試験(CA)が陽性の場合にin vivo小核試験(MN)データを求めるための優先順位付けについて検討した。化審法既存化学物質毒性データベースに収載されている277物質(2012年1月現在、
http://dra4.nihs.go.jp/mhlw_data/jsp/SearchPage.jsp)の調査では、CA陽性かつAmes試験およびMNデータが入手可能なものは66物質であった。その66物質について、CAでの最小有効濃度(LEC)ならびに各試験結果を比較した。その結果、LECにかかわらずAmes陽性物質がMN陽性を示す傾向、ならびに低いLECを示すものがAmes陰性であってもMN陽性となる傾向が判明した。LEC基準値として① 0.05 mg/mL以下、②0.05超0.5 mg/mL以下、③0.5 mg/mL超を設定したところ、MN陽性物質数(内、Ames陰性物質数)およびAmes陽性物質数は、それぞれ①では19物質中8(3)、6、②では21物質中1(0)、4、③では26物質中3(1、ただしこのMN陽性はMN誘発性代謝物生成に基づく推定)、7であった。これらの結果から、①、②、③の優先度をそれぞれ高、中、低とし、かつAmes陽性物質の優先度を高としてMNデータを求めるのがリスクコミュニケーシュンにおいて効果的と考えられた。
抄録全体を表示
-
掛樋 正樹, 宮下 史子, 古川 真理, 山際 慶典, 原ノ園 祐, 厚見 育代, 根本 真吾, 倉田 昌明, 榊 秀之
セッションID: P-172
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
患部に直接適用することを目的とする外用剤や点眼剤では適用局所の薬物濃度は高くなる。点眼投与を想定した場合には、角膜や結膜といった外眼部組織は必然的に高曝露にさらされることになる。しかし、骨髄細胞小核試験や肝UDS試験などの全身曝露でのin vivo試験では、急性毒性から高曝露を実現できない問題点があった。今回我々は点眼投与時に薬剤に高濃度暴露される眼組織における遺伝毒性評価の一環として、角膜細胞を用いたコメットアッセイを検討した。
不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)を用い、牛胎児血清5%添加(最終濃度) のDMEM/F12培地培養化(37℃、5% CO
2環境)で実施した。選択した代表的な変異原性物質は、アルキル化剤としてメチルメタンスルホン酸(MMS)、インターカレーター剤としてアクチノマイシンD(AMD)、酸化剤として過酸化水素(H
2O
2)、DNA架橋剤としてマイトマイシンC(MMC)、塩基類似化合物として5-ブロモウラシル(5-BrU)の計5物質とした。コメットアッセイはアルカリ条件でのマイクロゲル電気泳動を行い(Singh NP et al.,
Exp Cell Res. 1988;175:184-191)、50~75個の蛍光染色された細胞の画像を取り込み、画像解析でDNA損傷を%DNA in Tailとして定量化した。その結果、MMSとAMD、H
2O
2が濃度依存的に%DNA in Tailの増加が認められた。一方、MMCと5-BrUでは%DNA in Tailの増加は確認されなかったが、これは他の細胞の結果と一致していた。
以上、結論として、in vitroヒト角膜培養細胞を用いたコメットアッセイによりDNA損傷性を評価可能であることが示され、点眼剤の眼局所における遺伝毒性の評価への有用性が示唆された。今後は、実際の投与条件下を想定し、in vivo点眼投与後の角膜細胞を用いた評価系も合わせて検討する予定である。
抄録全体を表示
-
成見 香瑞範, 藤石 洋平, 岡田 恵美子, 永田 百合子, 角 将一, 大山 ワカ子
セッションID: P-173
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
我々は消化管(腺胃、結腸)小核試験法の開発を試みている。特に全身吸収が認められない、あるいは暴露証明の難しい複合化合物(食品等)の遺伝毒性を評価する際には、経口摂取時に直接接触する消化管を標的とした小核試験法が有用であると考える。一方、ICH S2(R1)ガイドラインにおいても動物実験の3Rsが求められているように、消化管小核試験法が広く利用されるためには、一般毒性試験への組込みが必要不可欠である。
【検討1】同一個体の消化管を病理組織学的検査および小核試験で共用する方法について
胃は前胃、胃底腺およびこれらの境界部が観察できる部位と胃底腺および幽門腺が観察できる部位の2か所で切り出し病理組織検査に用いた。残った胃の噴門からガラス棒を通し、棒の先端に備えた玉部で粘膜面を表に返して、接着剤を用いて固定した。この状態でDTT-EDTA処理を行い、小核観察用の細胞を分離した。結腸は近位部および中間部の約2 cmを病理組織検査用に採材した。残った二片をガラス棒に裏返して通し、EDTA処理により細胞を分離した。腺胃、結腸共に小核の観察に充分な質、量の細胞標本が得られることを確認した。
【検討2】長期反復投与時に適した腺胃の小核評価部位について
通常、4日間の連投により、主に被覆上皮細胞(寿命:3~4日程度)を分離して小核誘発性を評価している。今回、遺伝毒性発がん物質であるN-Methyl-N-nitrosoureaおよび臭素酸カリウムをCrl:CD(SD)ラット(雄、8週齢)に4、14日間反復投与し、被覆上皮細胞および増殖帯よりも基底側の細胞層(寿命:2~200日程度)を各々分離し、小核誘発頻度を比較評価した。その結果、投与日数や評価部位の相違による小核誘発頻度の明らかな差は認められなかった。従って、反復投与毒性試験に組込んだ場合にも、被覆上皮細胞について評価することで良いものと思われた。
抄録全体を表示
-
田原 春菜, 吉沢 広江, 下田 美裕紀, 梅屋 直久, 芝井 亜弥, 佐藤 洋, 藤田 正晴, 日置 孝徳, 笠原 利彦
セッションID: P-174
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【目的】哺乳類培養細胞を用いる染色体異常試験(以下、染色体異常試験)では、本試験の前に最適な用量を設定するために細胞増殖抑制試験を実施するのが通例である。特に新ガイドライン(S2(R1))では、毒性のある用量は解析対象外となることから細胞増殖抑制試験の結果によって遺伝毒性の判定が左右されるケースも出てくることが予想される。しかしながら、細胞増殖抑制試験の測定法ついてバリデートした報告はほとんどない。従って、我々は細胞増殖抑制試験でよく使用される血球計算盤法およびモノセレーター法に加えて、サテライト群を必要とせず少量の細胞で細胞毒性が測定可能なコールターカウンターを用いた測定法及び細胞内ATP量測定法の合計4種類の測定方法について、比較検討を行なった。
【方法】60mmシャーレに播種したCHL細胞に、染色体異常誘導能や細胞毒性を有する化合物の評価を24時間暴露して、各種細胞増殖抑制試験法でIC50値を求めた。
【結果および考察】死細胞や薬物の析出物があるケースを除くと血球計算盤法とコールターカウンター法の細胞増殖抑制の程度はほぼ一致した。しかしながら、薬物の析出や死細胞がないケースでも、モノセレーター法及びATP法は、血球計算盤法より細胞の増殖抑制の程度が弱くなる化合物が多く認められた。そこで細胞の直径を測定したところ、増殖抑制が弱くなる用量では細胞が肥大していることが分かった。よって、上記のケースは、細胞が肥大したためモノセレーター法では細胞に取り込まれる色素量が増加し、ATP法では肥大した細胞を維持するために細胞内ATP量が増加したため、みかけの細胞数が多くなったと示唆された。従って、細胞増殖抑制試験の測定法を選択する場合には、薬物の析出や死細胞の混入だけでなく、薬物誘発性の細胞肥大についても考慮して、測定法を選択する必要があると考えられた。
抄録全体を表示
-
石井 宏幸, 佐々木 豊, 高島 理恵, 橋本 知水, 土居 卓也, 濱田 修一
セッションID: P-175
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【目的】
肝小核試験は遺伝毒性肝発がん性物質の検出感度が高く,肝臓を標的とする遺伝毒性物質の評価に有用であるが,成熟動物の肝細胞低分裂性により,その評価には部分肝切除や幼若動物の使用が必要であった.近年,ラットにおいて反復投与により小核を持った肝細胞が蓄積され,部分肝切除や幼若動物を使用することなしに被験物質の肝小核誘発性を評価できることが報告された.In vivo遺伝毒性試験はハザード評価だけでなく,リスク評価としての役割を求められる傾向にあり,よりヒトに近いサルを用いて,反復投与による肝臓小核誘発性評価の可能性を検討した.また,一般毒性試験への組み込みも視野に入れ,病理組織検査や臨床検査も実施した.
【方法】
反復投与予備試験:
既知の肝発がん性物質であるN-Nitrosomorpholineを用いて,反復経口投与予備試験を実施した結果,N-Nitrosomorpholineは優位な肝細胞の小核誘発率を示した.
本試験(現在実施中):
予備試験の結果から,N-Nitrosomorpholineを10および20mg/kgの2用量で最長28日間の反復経口投与を実施した動物の肝臓の一部で肝小核検査および病理組織学的検査を実施する.また,投与期間中は肝臓の状態をモニターするために血液生化学的検査を実施す予定である.
抄録全体を表示
-
木島 綾希, 石井 雄二, 高須 伸二, 松下 幸平, 黒田 顕, 小川 久美子, 梅村 隆志
セッションID: P-176
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【目的】合成抗菌剤であるニトロフラン類は、ニトロフランを基本骨格に、隣接するヒドラジド誘導体の違いにより多くの種類が知られているが、一部は発がん性が報告され、食品中への残留が危惧されるものは国内での使用が禁止されている。しかし、その発がん機序の詳細は不明である。そこで今回、雄ラット腎で発がん性の報告があるnitrofurantoin (NFT)とその代謝物の
in vivo 変異原性を検討して、ニトロフラン類の化学構造依存的な発がん機序を検索した。【方法】雄のF344
gpt deltaラットにNFT及びニトロフラン骨格を有する代謝物5-nitro-2-furaldehyde (NFA)、ヒドラジド誘導体である代謝物1-aminohydantoin (AHD)を4及び13週間強制経口投与し、腎臓における
in vivo変異原性を検索した。NFTの投与濃度は、混餌投与での発がん用量から換算した125 mg/kg bw に設定した。NFAおよびAHDについては、NFT投与量と同モルの用量を基準にした予備試験から得られた最大耐量のNFA:50 mg/kg bw 、AHD:80 mg/kg bw、を設定した。【結果】投与4及び13週の腎臓の
gpt assay およびSpi- assayの結果、13週のNFT群で
gpt mutant frequency (MF) の有意な増加が認められた。さらに変異スペクトラム解析では、GC-TA transversion変異頻度が有意に増加した。また13週のNFA群でも、
gpt MFの有意な増加が認められた。【考察】NFTの13週間投与により、標的臓器の腎臓で
gpt MFが有意に増加したことから、NFTの腎発がん機序には遺伝毒性メカニズムが含まれていることが強く示唆された。また同時に、NFAの変異原性も確認されたことから、NFTの変異原性には代謝物のNFAの関与が考えられた。今回、ニトロフラン骨格を有する上記二物質に陽性結果が得られたことから、この変異原性発現機序には酸化的DNA損傷の関与が示唆された。今後はさらに腎DNA中の8-OHdGレベルの定量解析を行い、NFTの
in vivo変異原性と酸化的DNA損傷の関連性を検討する。
抄録全体を表示
-
橋本 和之, 永田 真有美, 河井 良太, 矢本 敬, 三分一所 厚司, 高崎 渉
セッションID: P-177
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
Erythropoietin(EPO)は赤血球系幹細胞の分化誘導を刺激して赤血球産生を促進する糖タンパクホルモンであり、DNAとの直接的な反応性はないと考えられている。一方で、EPOがマウスなどにおいて小核保有赤血球を増加させることや化合物の小核誘発作用を増強することが報告されているが、遺伝子突然変異作用については報告がない。
Pig-a遺伝子産物は細胞表面上のGPIアンカーの生合成及びタンパクへの結合に重要な働きをしており、近年、
Pig-a遺伝子を標的とした
in vivo遺伝子突然変異試験法の有用性が示されている。そこで、本研究では組換えヒトEPO(rhEPO)のマウスにおける遺伝子突然変異誘発作用について
Pig-aアッセイを用いて検討した。実験には雄性C57BLマウス(7週齢)を用い、rhEPO(50000 IU/kg、single i.p.)の単独投与、およびN-ethyl-N-nitrosourea(ENU、50 mg/kg、single p.o.)とrhEPO(50000 IU/kg、single i.p.)の併用投与を行った。小核保有網赤血球の出現頻度は投与1~5日後に、
Pig-a遺伝子に変異を持つ赤血球の出現頻度は投与1、2及び4週後に末梢血を用いて検討した。
Pig-a遺伝子変異解析にはTER-119抗体およびCD24抗体を用い、フローサイトメトリーにてCD24-negative赤血球数(
Pig-a遺伝子変異体)を評価した。その結果、小核保有網赤血球はrhEPO投与群で僅かに増加し、ENU投与群では顕著な増加が観察された。また、rhEPOの併用投与によりENUによる小核誘発作用が増強されるとともにその作用のピークが早く出現した。
Pig-a遺伝子変異赤血球は、rhEPO投与群では増加せず、ENU投与群では投与1週後から僅かに増加し始め、投与2週後には著明な増加が観察された。なお、rhEPOの併用投与により、ENUによる
Pig-a遺伝子変異赤血球の著明な増加が投与1週後から観察された。以上の結果から、本試験条件下ではEPO単独では
Pig-a遺伝子に対する遺伝子突然変異を惹起しないこと、ENUによる遺伝子突然変異誘発作用をEPOの併用投与でより早期に検出できることが示された。
抄録全体を表示
-
真田 尚和, 小山 直美, 米澤 豊, 寒川 祐見, 岡本 美奈子, 堀 友香, 木原 享, 葛谷 和也, 橋本 和人, 濱田 修一
セッションID: P-178
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
改訂ICH遺伝毒性ガイドラインでは、反復投与毒性試験の中に遺伝毒性評価を組み入れることも可能となる。そこで、本検討では複数の遺伝毒性評価を組み入れた反復投与毒性試験を実施した。6週齢のCrl:CD(SD)雄性ラットに既知遺伝毒性物質である4,4’-Methylenedianiline(MDA)の2週間反復経口投与を行い、最終投与の翌日に骨髄細胞での小核評価に加えて肝臓での小核評価及び末梢血でのPig-a遺伝子突然変異頻度の変動を調べた。本試験結果より、骨髄に加えて肝臓においても小核出現頻度の増加が認められた。さらに、高用量では末梢血においてPig-a遺伝子突然変異の増加が認められ、肝臓を用いた小核評価及び末梢血を用いたPig-a遺伝子突然変異は、反復投与毒性試験での評価が可能であった。また、骨髄細胞と比較し肝臓を用いた小核試験では、それぞれの媒体対照群に対する小核出現頻度の変動比が高く、代謝物の曝露量の違いによるものだと推測された。本演題ではその他の毒性評価項目についても報告する。なお、本研究はMMSの共同研究の一環として行われたものである。
抄録全体を表示
-
小山 直己, 羽倉 昌志, 柿内 太, 鳥塚 尚樹, 関 由紀, 園田 二朗, 細川 暁, 朝倉 省二, 築舘 一男
セッションID: P-179
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【目的】私達はこれまでに,変異・発がん物質であるBenzo[a]pyrene (BP) のマウスへの経口投与により大腸に高頻度の変異を誘発するものの,がんは発生しないことを報告した。さらに,最近,Dextran sulfate sodium (DSS) を用いたマウス大腸炎モデルにおいて,BP投与4週後に大腸がんが誘発されるBP/DSS早期大腸発がんモデルを開発した。今回,BP投与4週後の大腸粘膜の網羅的遺伝子発現解析を行い、本モデルにおける腫瘍発生要因の手掛かりを得ることを目的とした。
【材料・方法】7週齢の CD2F1雄マウスに BPを125 mg/kg/dayで5日間経口投与し,9日間の休薬後に4%DSS水溶液を1週間飲水投与した。その1週間後に腫瘍好発部位である肛門側1/3の結腸粘膜を採取した。また,比較のために媒体群,BP群,DSS群からも同様に採取し,得られたtotalRNAをDNAマイクロアレイで網羅的な遺伝子発現解析を行った。
【結果・考察】媒体群に対してBP/DSS併用群特異的に2倍以上変動した遺伝子群およびIngenuity Pathway Analysisによる解析で発現変動量上位の遺伝子群の機能について調べた。その結果,発現が増加した遺伝子は324個同定され,SOX4やCD44などのがん(cancer, tumorigenesis)に関連する遺伝子が含まれていた。また,発現が減少した遺伝子は239個同定され,EFNA1などの細胞形態(cell morphology)に関連する遺伝子が含まれていた。これらの遺伝子群は,BPやDSS単独処理では,発現量の変動を示さなかった。これらの結果から,BPとDSS併用で特異的に発現変動を示す遺伝子群が本モデルの大腸発がんに重要な役割を担っていることが示唆された。
抄録全体を表示
-
志津 怜太, 吉成 浩一, 辺野喜 智, 児玉 進, 山添 康
セッションID: P-180
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【目的】Constitutive androstane receptor (CAR)およびpregnene X receptor (PXR)は、肝に高発現し生体異物により活性化される核内受容体である。両受容体は薬物代謝酵素など異物除去と関連する種々の遺伝子の転写制御に中心的に働いている。また、両受容体は類似したプロモーター配列に結合するため、多くの標的遺伝子を共有し、上記の遺伝子発現において協調的に機能していると考えられている。CARは、薬物代謝酵素の誘導に加えて、齧歯動物における肝細胞増殖にも働くことが知られており、CAR活性化作用が化学物質のヒトでの安全性評価において問題となっている。一方、PXRと肝細胞増殖に関する報告はほとんどなく、肝細胞増殖作用における両核内受容体の協調性は明確ではない。本研究では、CARとPXRが、薬物代謝酵素の遺伝子発現と同様に、肝細胞増殖作用においても協調的に機能しているか否かを検討した。
【方法】8週齢の雄性C57BL/6系マウスにCAR活性化薬物のTCPOBOP (3 mg/kg)とPXR活性化薬物のPCN (100 mg/kg)を単独または同時に腹腔内投与し、4、24、48時間後の肝臓を試料とした。細胞増殖は抗Ki-67抗体および抗PCNA抗体を用いた免疫染色により評価した。細胞周期関連遺伝子のmRNA発現レベルは定量的逆転写PCR法により測定した。
【結果・考察】TCPOBOP処置24および48時間後においてKi-67またはPCNA陽性細胞数の増加、細胞周期関連遺伝子発現レベルの増加が認められ、CARの肝細胞増殖作用が確認された。一方、PCN処置ではいずれの時間においてもそのような変化は認められなかった。しかし、PCNをTCPOBOPと併用処置した場合には、24および48時間後における細胞増殖陽性細胞数や細胞周期関連遺伝子の発現レベルは、TCPOBOP単独処置時に比べて増加した。以上の結果から、マウス肝において、PXRの活性化は、単独では細胞増殖を引き起こさないがCARによる細胞増殖作用を増強させる可能性が示された。
抄録全体を表示
-
辺野喜 智, 吉成 浩一, 志津 怜太, 児玉 進, 山添 康
セッションID: P-181
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【背景・目的】Constitutive androstane receptor (CAR)とpregnane X receptor (PXR)は、同じ核内受容体遺伝子ファミリーに属し、類似した機能を有している。両者は共に肝に高発現し、薬物などの生体外異物により活性化される。CARとPXRが結合する塩基配列は類似しており、異物代謝関連遺伝子など多くの標的遺伝子は両者により活性化される。CARまたはPXRを活性化する薬物はいずれも齧歯動物において肝肥大を起こすことも知られている。しかし、詳細な分子機構は不明であるが、CARの活性化は、齧歯動物において肝細胞増殖作用を示すのに対し、PXRの活性化は肝細胞増殖および肝発癌プロモーション作用を示さないと考えられている。このため、CAR選択的な発現制御を受ける遺伝子が肝細胞増殖作用に関わるのではないかと考えた。そこで本研究では、CARまたはPXRの活性化に伴う、細胞周期関連遺伝子の発現プロファイルの変化を比較解析した。
【方法】8週齢の雄性C57BL/6NマウスにマウスCAR活性化物質のTCPOBOP (3 mg/kg)、マウスPXR活性化物質のPCN (100 mg/kg)または溶媒を経時的に投与し、肝から調製したRNAを用いて、PCRアレイ法 (細胞周期関連の84遺伝子)および定量的逆転写PCR法により細胞周期関連遺伝子の発現変動を解析した。
【結果・考察】TCPOBOPとPCN投与に伴う細胞周期関連遺伝子の発現変動プロファイルは大きく異なることが示され、CAR選択的に発現が制御されている可能性がある遺伝子を7遺伝子同定した。その中には
Nek2や
Cdc20などのG2期からM期への移行に関与する遺伝子が含まれており、これらの遺伝子の発現変動がCARを介した肝細胞増殖に関与している可能性が考えられた。
抄録全体を表示
-
Atsushi WATANABE, Shigeki YONEYAMA, Mikio NAKAJIMA, Norihiro SATO, Ryo ...
セッションID: P-182
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
Teriparatide, a therapeutic agent for osteoporosis, has been reported to increase the incidences of bone neoplasms such as osteosarcoma when administered subcutaneously to Fischer 344 (F344) rats for a long term, but its non-carcinogenic dose level following 2-year daily administration has not been established. Here we report the detailed studies on the carcinogenicity of teriparatide following long-term administration. When teriparatide was administered subcutaneously to male and female Sprague-Dawley (SD) rats daily for 2 years, the incidence of osteosarcoma was increased at 13.6 μg/kg/day. The non-carcinogenic dose level was 4.5 μg/kg/day for both males and females. The development of osteosarcoma in SD rats depends on the dose level of, and treatment duration with, teriparatide. Responses of the bones to teriparatide were similar between F344 and SD rats in many aspects. These results suggested that the carcinogenic potential of teriparatide in SD rats is essentially the same as in F344 rats.
抄録全体を表示
-
藤井 雄太, 木村 真之, 山本 龍一, 谷合 枝里子, 八舟 宏典, 林 新茂, 鈴木 和彦, 三森 国敏, 渋谷 淳
セッションID: P-183
発行日: 2012年
公開日: 2012/11/24
会議録・要旨集
フリー
【目的】TAAによるラット肝発がん促進作用に寄与する肝細胞周囲環境の変化への酸化性ストレスの関与を検討する目的で、2種類の抗酸化剤を用いた発がん促進抑制実験を行った。【方法】雄性F344ラットにDENの腹腔内投与後2週目から、0.02%のTAAを6週間飲水投与すると共に 0.5%酵素処理イソクエルシトリン (EMIQ) ないし0.2%α-リポ酸 (α-LA) を6週間混餌投与した。DEN処置3週目に2/3部分肝切除を行った。【結果】TAAで認められた発がん促進作用 (GST-P陽性肝細胞巣の増加) は、EMIQやα-LAの併用投与により抑制された。 肝細胞の増殖活性やアポトーシスも同様の変動を示した。マクロファージ (MΦ) のポピュレーションであるHO-1
+MΦ、COX2
+MΦ、ED2
+MΦと共に、CD3
+T細胞がTAA群で増加し、EMIQやα-LAの併用で抑制された。ED1
+MΦは、DEN単独群に比べてTAA群で増加したが、EMIQやα-LAの併用投与では抑制されなかった。Real-time RT-PCR解析ではdeath receptor 5 (DR5) の発現がTAA群とTAA+EMIQ群でDEN単独群に比べて増加したが、TAA+α-LA群では、TAA群に比べて減少した。DR5の免疫染色の結果、GST-P陽性巣内では、TAA+EMIQ群でTAA群に比べて増加し、GST-P陽性巣外では、TAA+EMIQ群ないしTAA+α-LA群でTAA群に比べて減少した。特にTAA+α-LA群でより強く減少した。【考察】貪食作用を示すED1
+MΦは抗酸化剤で抑制されなかったものの、ED2
+、COX2
+ないしHO-1
+のMΦは抑制されたことから、TAAによる肝発がん促進時に増加するMΦのサブポピュレーションは炎症性サイトカイン産生性であり、酸化性ストレス刺激を受けて、活性化したMΦがサイトカインの不均衡を生じている可能性が示唆された。EMIQでは、DR5が前がん病変巣内で発現増加したため前がん細胞のアポトーシスが誘導され、α-LAでは、前がん病変周囲の細胞でDR5が減少していたため、これらのアポトーシスを抑制することで、発がん促進を抑制している可能性が示唆された。
抄録全体を表示