日本毒性学会学術年会
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一般演題 ポスター
  • 宗 才, 市原 学
    セッションID: P2-163
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    Background Neurotoxicity of environmental electrophile acrylamide (ACR) has been reported in human and experimental animals. Neuroinflammation is considered as one possible mechanism of ACR neurotoxicity, and increased expression of pro-inflammatory cytokines such as TNF-α has been reported after exposure to ACR. However, the underlying role of TNF-α has not been fully understood. Methods In this study, wild type and TNF-α knockout mice were exposed to ACR at 0, 12.5, or 25mg/kg body weight (bw) by gavage for 4-weeks. Results The result showed that after exposure in both WT and TNF-KO mice the body weight and brain weight significantly decreased. For Functional Observational Battery (FOB) test, the results showed that landing foot spread (LFS) significantly increased in both WT and TNF-KO mice after exposure to ACR, although at 25mg/kg bw exposure, KO mice showed a mild alleviation of LFS increase compared to WT mice. Grip strength of all-limbs and forelimbs significantly decreased after exposure to ACR in both WT and TNF-KO mice. IHC staining showed noradrenergic axon degeneration was alleviated in TNF-KO mice, especially at 12.5mg/kg bw. Real-time PCR showed increased expression of IL-6, SOD-1, CAT, NQO-1, KEAP-1, GCLC, GCLM in both WT and TNF-KO mice; expression of TGF-b, HO-1, MT-1 increased in wild type; expression of GR increased in TNF-KO mice. Conclusion The above results suggest that genetic ablation of pro-inflammatory cytokine TNF-α alleviates neurotoxicity induced by exposure to ACR, especially at 12.5mg/kg exposure. Our findings provide new insight for understanding the role of cytokines in neurodegeneration.

  • 野中 聖子, Julie HARNEY, Anna KOPEC, Jonathan JACKSON, Andrew BURDICK
    セッションID: P2-164
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    背景:動物試験は,臨床における望ましくない肝薬物代謝酵素誘導プロファイルを明らかにすることができるが,核内ホルモン受容体の発現には種差があるため,動物における評価結果のヒトへの外挿性を理解することは重要である。薬物相互作用,第I相または第II相の代謝酵素の誘導・阻害,多臓器毒性および毒性代謝物の生成は,薬剤開発および安全性プロファイルに影響を及ぼす可能性がある。従来の単培養でのサンドイッチ培養肝細胞(sandwich cultured hepatocytes: SCH)を用いたin vitro試験では,特に動物種由来の場合,期待する一貫した誘導反応が得られないことがある。 目的:本研究は,ヒト,ラット,イヌまたはカニクイザルの初代肝細胞を用い,異なる肝細胞培養系における薬物代謝酵素誘導能をin vitroで評価することを目的とした。 方法:初代肝細胞を用いる培養系として,自己組織化肝細胞共培養(self-assembling co-cultures:SACC),マイクロパターン肝細胞共培養(micropatterned co-culture hepatocytes:MPCC)およびSCHを用いた。種特異的および代謝経路特異的なシトクロムP450誘導能を有する一連の化合物で2日間連続処理し,mRNAレベルでの誘導能(溶媒対照と比較したときの倍率)により各培養系を評価した。 結果・考察:本研究の結果から,評価したすべての動物種由来の肝細胞で,SACCはMPCCおよびSCHよりも高い信頼性および特異性を示した。このことから,SACCはヒトおよび動物種を通して薬物代謝酵素誘導能プロファイルのスクリーニングに有用であることが示唆された。

  • 菅谷 俊, 下間 由佳子, 福永 賢輝, 浅野 敬之
    セッションID: P2-165
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    化合物投与によりげっ歯類で発がんが認められた場合、作用機序(MOA)を解明し、それに基づいて種差の解析を行いヒトとの関連性を解明する必要がある。げっ歯類の肝臓において、核内受容体であるconstitutive androstane receptor(CAR)の活性化により肝細胞増殖が亢進し、肝細胞腫瘍を誘発するMOAが知られているが、ヒト肝細胞キメラマウス(PXBマウス)を用いた研究において増殖亢進は認められていないことから、ヒトへの外挿性のないMOAと考えられている。近年、CARはYAP活性化を介してげっ歯類で肝細胞増殖を引き起こすが、ヒトでは活性化は生じないことが明らかになっている。しかし、PXBマウスがヒトYAPの機構を正確に反映したモデル動物であるか否かはこれまでに確認されていなかった。そこで、CD-1マウスおよびPXBマウスにCARを間接的に活性化するPhenobarbital(PB)を投与し、YAP活性化に着目した比較検証を実施した。 PBを100 mg/kgの投与量でCD-1マウスに8日間反復経口投与し、肝臓中の遺伝子発現を経時的に解析した結果、YAP標的遺伝子の発現変動が認められた。一方、CD-1マウスにおいてYAP活性化のピークとなるポイントでPXBマウスにおける遺伝子発現を確認したところ、有意な変動は認められなかった。さらに、Ki-67や細胞周期関連遺伝子の発現変動は、CD-1マウスのみで認められたことから、細胞増殖亢進はCD-1マウスのみで生じたことが示唆された。本研究により、PXBマウスではPB投与によるYAPの活性化と肝細胞増殖亢進が認められないことが明らかとなった。このことから、PXBマウスはヒト肝細胞の機能を適切に反映した有用なヒトモデル動物であり、CARを介したMOAのヒト外挿性評価に適切なモデルであることが示唆された。

  • 中村 和昭, 田中 理恵子, 相澤 和子, 阿久津 英憲
    セッションID: P2-166
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    ヒト初代肝細胞(PHH)は、創薬研究における薬物動態や代謝経路、肝毒性評価などにおいて不可欠であり、凍結細胞として市販され、入手が可能である。一般的にPHHの接着培養では、コラーゲンコートされた培養基材に播種されるが、市販されているPHHは、培養基材に接着する接着ロットと接着しない浮遊ロットの2種類に分けられている。多くの場合、接着ロットは単層培養として、肝胆道系の薬物輸送、薬物代謝、薬物-薬物相互作用、および肝毒性試験に用いられる。一方、浮遊ロットは、主に化合物の安定性、代謝物の形成、阻害試験、遺伝子発現の研究に用いられるが、浮遊状態で時間の経過とともに生存率や代謝活性が低下するため、短期間の試験にしか適さない。接着ロットは浮遊ロットに比べロット数が少なく、したがって高価である。PHHの接着性の差異、すなわち接着ロットが接着し、浮遊ロットが接着しない理由はこれまで不明であった。本研究では、この原因を探索し、接着ロットのPHHに比べて浮遊ロットのPHHの細胞表面には細胞外マトリックス(ECM)が多く存在し、ECMによる細胞表面の被覆が、培養基材への細胞接着を阻害していることを見出した。さらに、細胞表面を被覆しているECMの成分を同定し、主にエラスチンで構成されていることを明らかにした。エラスターゼ処理により浮遊ロットのPHHの細胞表面からエラスチンを除去すると、培養基材に接着して培養することが可能であった。これらの結果は、PHH表面のECMが培養基材への接着性を変化させ、ECMを除去することにより、浮遊ロットを接着ロットに変換可能であることを示している。

  • 川合 重人, 山田 美森, 中川 俊人, 鶴田 聡志, 田中 美咲, 伊藤 優子, 清川 順平, 寺尾 公男, 中野 清孝
    セッションID: P2-167
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    肝臓は医薬品化合物を代謝または排泄するとともに、肝臓自体も医薬品化合物による障害を受けやすい。従って肝臓における医薬品化合物の代謝、排泄ならびに毒性を正確に予測することは医薬品開発において重要となる。前臨床研究では実験動物を用いた評価が行われるが種間差も存在するため、ヒト細胞を用いたin vitro研究も必須となる。セルソースとしては凍結ヒト肝細胞が汎用されるが、ドナー間差や単一ロットの供給数が限られるなどの課題も存在する。今回我々は、新規ヒト肝キメラマウス由来肝細胞(Hu-liver cell)を新たなセルソースとして、安全性研究への応用について検討した。Hu-liver cellは公益財団法人実験動物中央研究所がヒト肝細胞の安定供給を目指して開発した細胞であり、改変TK-NOGマウスを用いて製造される。Hu-liver cellは細胞懸濁液の状態で供給され、Percoll比重遠心により精製し実験に供した。ヒト肝細胞のドナーが異なる3つのロットを比較したところ、いずれもプレートへの接着性、スフェロイド形成性ともに良好であり、in vitro研究に使い易いことが示された。次に、安全性研究における反復曝露を想定した長期培養時の代謝機能を評価した。市販培地を用いたところ2D培養では10日間、スフェロイド培養では2週間の維持が可能であり、2D培養ではCellartis Power Primary HEP MediumでCYP1A2、CYP3A4活性が最も維持されていた。スフェロイド培養ではWilliam’s Eをベースとしたタンパク不含、既知組成の培地でもCYP3A4活性が維持されていた。最後にスフェロイド培養を用いて市販肝毒性化合物に対する感受性を確認した。その結果、Hu-liver cellはスフェロイド培養にも使い易く、安全性研究において優れた肝細胞セルソースと考えられた。

  • 山崎 大樹, 堀内 新一郎, 田中 裕斗, 幸田 奈々重, 増尾 友佑, 加藤 将夫
    セッションID: P2-168
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    [背景]肝細胞の培地には、形態維持や機能向上のために低濃度デキサメタゾン(DEX)が添加されることがある。しかし、DEXはグルココルチコイド受容体リガンドであり、CYPsを誘導する。医薬品の安全性や薬物動態試験において、低濃度DEXが薬物相互作用する可能性は否定できない。このため、これらの試験に用いる培地からDEXを除去することが望ましい。本研究ではDEXを除いた市販のヒト肝細胞用の維持培地でヒト凍結肝細胞を培養し、主要CYPs発現へのDEXの影響を検討した。また、DEX除去条件においてCYP代謝能向上について検討した。市販プラスチックプレートにおける肝細胞培養では生体と比較して酸素供給が不十分との報告がある。そこで、酸素透過性膜を細胞接着面に応用した培養器InnoCellTM T-plate(InnoCell; 三井化学)を用いて細胞への酸素供給を改善し、CYPs代謝能の向上を目指した。[方法]A社のヒト凍結肝細胞をB社のヒト肝細胞維持培地及びDEX除去培地で4日間培養し、CYPs1A22C92C19、2D63A4)の発現を比較した。また、DEX除去条件では、InnoCellを用いて細胞を培養し、市販プラスチックプレートで培養した場合と、CYPsの発現と活性を比較した。[結果および結論]DEX除去によりCYP3A4発現が低下した。一方、CYP3A4以外のCYPs発現においてDEX除去による顕著な影響は観察されなかった。DEX除去条件において、酸素供給を改善することによってCYP3A4の発現が増加し、ヒト肝臓と同レベルとなった。同様にCYP3A4活性も向上した。加えて、酸素供給の改善によりCYP1A2発現は顕著に変化しなかったが、CYP1A活性が向上した。以上の結果より、酸素供給の改善によりDEX除去培地においても十分なCYPs代謝能が得られることが示唆された。

  • 渡邊 輝彦, 西藤 巧, Grace HELENA, 白木 伸明, 粂 昭苑
    セッションID: P2-169
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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     初代ヒト肝細胞(PHH)は、薬物動態研究において最も用いられている肝細胞であり、接着型と浮遊型の2種類が市販されている。接着型のメリットは、誘導試験や長期毒性試験などの数日間にわたる培養が必要な試験に適用可能な点だが、高価というデメリットがある。一方、浮遊型は安価だが、活性が数時間程度で低下するため短期的な試験にしか適用できない。これまでに我々は、cAMPシグナルの活性化により細胞の接着性が向上することを見出し、浮遊型PHHの接着培養を可能とする新規培地を開発した。本研究では、開発した培地を用いて浮遊型PHHを播種・培養することで、通常では不可能な酵素誘導試験に適用可能かどうか調査した。

     開発した培地を用いて、浮遊型PHHをコラーゲンIプレート(24well-type)に播種し、2日間培養した。その後、FDAで重要視されている薬物代謝酵素シトクロムP450(CYP)1A2、CYP2B6、CYP3A4の誘導剤(1A2:100 μMオメプラゾール、2B6:1 mMフェノバルビタール、3A4:10 μMリファンピシン)を2日間(48時間)曝露し、各薬物代謝酵素の遺伝子発現解析を実施した。その結果、誘導剤を添加していないVehicle条件と比較してCYP1A2では約43倍、CYP2B6では約6倍、CYP3A4では約29倍の遺伝子発現量の上昇が認められた。

     以上より、細胞接着性を向上させた本培地を用いることで、通常不可能であった浮遊型PHHでの酵素誘導試験が可能となることが示唆された。本培地は創薬試験に使用可能な肝細胞の選択肢を増やし、薬物動態研究のコスト低減に貢献できると考えられる。現在、本培地を用いて培養したPHHのマイクロアレイ解析を進めているところであり、こちらについても一部報告する。

  • 瀧本 憲史, 石井 雄二, 満元 達也, 相馬 明玲, 高須 伸二, 渋谷 淳, 小川 久美子
    セッションID: P2-170
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【目的】我々はこれまでに、acetamide(AA)が誘発する肝臓特異的な小核形成に示される染色体異常と肝発がんにラット系統差があることを報告してきた。一方、マウスを用いたAAの発がん性試験では肝腫瘍の発生は報告されておらず、AAの肝発がん性には種差も存在することが確認されている。本研究では、齧歯類で見られるAAの肝発がん性の種差についてその要因を明らかにするため、AAを4週間混餌投与したマウスの病理組織学的検査及び染色体異常の評価と、AA単回投与後のマウスにおける動態解析を実施し、ラットと比較した。

    【方法】実験① 雄性6週齢のC57BL/6マウスにAAを0.625、1.25または2.5%の濃度で4週間混餌投与し、肝臓の病理組織学的検査、骨髄及び肝臓小核試験を実施した。実験② 雄性6週齢のC57BL/6マウスに100または2000 mg/kg体重の用量で単回強制経口投与または尾静脈内投与し、投与 0.5、1、2、4、8及び24時間後に腹大動脈より採血を行い、得られた血漿をAAの濃度測定に供した。

    【結果】実験① 投与期間を通じて一般状態や体重推移に変化は認められず、肝重量にも有意な変化は認められなかった。病理組織学的検査ではAA投与に起因する変化は認められず、骨髄及び肝臓小核試験は陰性を示した。実験② 投与経路に関わらず、AAのCmax及びAUCは投与量に比例して増加した。F344ラットに比して、マウスのCmaxはやや高値を、AUCはやや低値を示したが、曝露推移に顕著な差は認められなかった。

    【考察】AAを投与したマウス肝臓では小核の出現は認められなかったことから、齧歯類にみられるAAの肝発がん性の種差は染色体異常の有無によるものと考えられた。本結果はAAの肝発がん性と染色体異常の関連を支持するものであった。一方、単回投与後のAAの血漿中濃度に差は認められず、種差との関連は見られなかった。

  • Shu-Hui JUAN, Fang-Ning CHOU, Tsui-Ling KO, Hsiu-Chu CHOU
    セッションID: P2-171
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    Among kidney cancers, clear cell renal cell carcinoma (ccRCC) has the highest incidence rate in adults. The survival rate of patients diagnosed as having metastatic ccRCC drastically declines even with intensive treatment. We examined the efficacy of simvastatin, a lipid-lowering drug with reduced mevalonate synthesis, in ccRCC treatment. Simvastatin reduced cell viability and increased autophagy induction and apoptosis. Simvastatin also decreased cell metastasis and lipid accumulation in mevalonate-dependent manner, and might reduce cancer metastasis through suppressing RhoA pathway due to reduced RhoA prenylation. A gene set enrichment analysis (GSEA) of the human ccRCC dataset revealed that the RhoA and lipogenesis pathways are activated. In simvastatin-treated ccRCC cells, although RhoA was transcriptionally and translationally upregulated, it was mainly restrained in the cytosol and concomitantly reduced ROCK activity. Additionally, 4-phenylbutyrate blocks ER stress, attenuating RhoA accumulation. RhoA inactivation by simvastatin was correlated with decreased cell metastasis, mimicked in dominantly negative RhoA-overexpressing cells. Thus, owing to the increased RhoA activation and cell metastasis in the ccRCC dataset analysis, simvastatin-mediated Rho inactivation might serve as a therapeutic target for patients with ccRCC. Altogether, simvastatin suppressed cell viability and metastasis of ccRCC cells; thus, it is a potentially effective ccRCC adjunct therapy after clinical validation.

  • 松下 幸平, 豊田 武士, 赤根 弘敏, 森川 朋美, 小川 久美子
    セッションID: P2-172
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【背景】シクロスポリン(CyA)は線維化を伴う慢性腎障害を誘発する。我々はこれまで種々の腎線維化モデルラットにおいて線維化病変内の尿細管にはCD44が発現し、血清CD44値が上昇することを明らかにした。本研究ではCyA誘発慢性腎障害モデルラットを用いCD44の役割及びバイオマーカーとしての可能性を検討した。

    【方法】6週齢雄性SDラットに既報に従い低Na飼料を給餌し、1週間後から0, 15及び30 mg/kgのCyAを4週間皮下投与した。

    【結果】病理解析ではCyA群に萎縮尿細管を伴う線維化を認めた。萎縮尿細管はCD44陽性を示し、分化マーカーの発現低下及び間葉系マーカーの発現が認められ、周囲には基底膜が観察された。30 mg/kg群の萎縮尿細管をレーザーマイクロダイセクションにより採材してマイクロアレイを行った。Gene Ontology解析では萎縮尿細管において細胞外基質(ECM)関連遺伝子の発現上昇、分化関連遺伝子の発現低下がみられた。パスウェイ解析ではCD44はフィブロネクチンをコードするFn1等の線維化関連遺伝子の上流因子として抽出された。in situ hybridization及び免疫染色においてFn1 mRNAは萎縮尿細管、フィブロネクチンは萎縮尿細管の周囲にみられた。ELISAでは15及び30 mg/kg群においてそれぞれ血清CD44値の上昇傾向及び有意な上昇を認めた。

    【考察】尿細管上皮が間質に遊走せず基底膜に接着した状態で間葉系の表現型を獲得する現象を部分的上皮間葉転換(pEMT)という。萎縮尿細管では分化マーカーの発現低下、間葉系マーカーの発現、基底膜への接着及びECM分泌を示唆する所見を認めたことからpEMTが生じていると考えられ、CD44はpEMTの生じた尿細管においてECM分泌を誘導することが示唆された。またCD44は腎線維化のバイオマーカーとなる可能性が示された。

  • 角口 萌乃, 荒川 大, 江刺家 勝弘, 松下 幸平, 楊 晶晶, 髙橋 淳, 玉井 郁巳
    セッションID: P2-173
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【目的】薬物誘発性腎毒性 (DIKI)は、前臨床試験段階での予測が難しく、有用なin vitro評価系が望まれる。初代培養ラット腎スライスは腎組織全体を含むためDIKI評価上有用である。これまでにガス透過性であるpoly-dimethylsiloxane (PDMS)プレートを用いることで腎スライスのviabilityは改善されたが1)、本素材は脂溶性薬物の吸着性が高い欠点がある。そこで本検討では、高酸素透過性・低吸着性の新規培養器材InnoCellTM Tプレートを用いた腎スライス培養系のDIKI評価上の有用性を調べた。

    【方法】InnoCellTM Tプレート及びPDMSプレートに薬物を含む培地を添加し、24時間後に残存する培地中薬物濃度から吸着性を評価した。ラットから腎スライスを作製し、InnoCellTM Tプレート上で培養3日目までのATP量の測定および組織観察を行った。既知の腎毒性誘発薬物を含む培地中で2日間培養後ATP量を測定した。

    【結果】InnoCellTM TプレートはPDMSプレートと比較し、cyclosporin Aなど高脂溶性薬物の培地内濃度が24時間高値で維持され、薬物吸着性が低いことが示された。InnoCellTM Tプレートを用いた腎スライス培養では、培養3日目までスライス内ATP量が維持された。組織免疫染色により、タンパク質の再吸収を担うMegalinの近位尿細管管腔側での発現が観察された。さらに、腎毒性を誘発するcisplatinやimatinibなどの薬物存在下で2日間培養後のATP量は、薬物非含有群と比較し有意に低下した。以上より、高酸素透過性・低吸着性のInnoCellTM Tプレートを用いたラット腎スライス培養系は脂溶性薬物のDIKI評価に有用であることが示された。

    1) Arakawa et al., Biol Pharm Bull, 2022;45:316-322.

  • 高橋 越史, 森村 馨, 荒木 綾乃, 樋口 大智, 荒川 大, 玉井 郁巳, 神保 陽一
    セッションID: P2-174
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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     ヒトの初代腎細胞や腎臓由来株化細胞は薬物トランスポーターなどの腎機能に関わる遺伝子発現を維持しておらず、いまだ創薬で利用されることは少ない。そのため,薬物誘発性腎毒性の多くは動物実験により評価されている。しかし、臨床試験への予測性の低さ、種差や動物愛護の観点からヒト細胞を用いたin vitro腎毒性評価系が望まれている。本研究では主要な薬物トランスポーターの発現量がヒト腎皮質と近いヒト初代培養近位尿細管上皮細胞の三次元培養系 (3D-RPTEC、日機装より販売)を用いて腎毒性評価の有用性を調べた。

     既知の腎毒性薬物のうち、細胞内取込みに薬物トランスポーターが必要なCisplatin(OCTの基質)及びTenofovir(OATの基質)を3D-RPTECに曝露したところ、28日まで時間依存的かつ濃度依存的に細胞内ATP量が減少した。一方、従来の2次元培養系ではTenofovirによるATP減少は見られず、腎毒性の評価には薬物トランスポーターの発現が必要である事が示された。さらに、20種以上の既知の腎毒性薬物を3D-RPTECに7日間曝露し、細胞内ATPの20%減少濃度と有効血中濃度との乖離を安全域として算出した。安全域100倍以下を指標に腎毒性の陽性率を調べた結果、70%程度のSensitivity及び90%以上のSpecificityが得られた。また、腎毒性の検出感度を上げるため、共焦点イメージサイトメーターを用いたHigh Content Analysis(HCA)の有用性についても検証した。本研究では薬物誘発性腎毒性評価として、3D-RPTECを用いたATP測定またはHCAの有用性について報告する。

  • Colin BROWN, Siannah SHUTTLEWORTH, Jonothan LOWE, Kathryn GARNER, Keit ...
    セッションID: P2-175
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    Biologics represent a new modality of drug molecules which is rapidly expanding in market share. Several studies have demonstrated the biodistribution of antibody drug conjugates (ADCs) siRNA and antisense oligonucleotide (ASO) is highly weighted to the kidney. Here we used have used the aProximate primary renal proximal tubule platform (PTCs) to investigate both the mechanisms of siRNA and ASO uptake into the proximal tubule biomarkers of nephrotoxicity to identify siRNA and ASO induced nephrotoxicity in man. To do this, we grew primary PTCs from human as confluent monolayers on Transwell filter supports. We confirmed expression of megalin and cubulin, using qPCR. To demonstrate function. uptake of FITC-albumin was assessed as a prototypic substrate. To screen for nephrotoxicity, cell monolayers were exposed to a range of ASOs including SPC5001, an AOS with known in-vivo toxicity, for and the release of biomarkers of kidney damage: KIM-1, clusterin and NGAL were measured. Initial experiments determined that the uptake of FITC-Albumin was primarily across the apical membrane. Apical uptake of FITC-albumin was saturable with an apparent EC50 of 24.1±9.2 µg/ml (n=3). FITC-albumin uptake was inhibited by the megalin-cubulin receptor antagonist RAP with an 82.1±4.5% inhibition of uptake at 200ng/ml RAP. An siRNA construct showed a similar pattern with apical uptake, inhibition by RAP and a saturable uptake (EC50 0.35±0.07µM). Exposure of PTC monolayers to a range of SPC5001 (0-20µM) for 48 hours resulted in a significant increase in biomarkers; KIM-1, clusterin and NGAL with apparent IC50 values of 0.71±0.28 µM, 0.22±0.09µM and 0.59±0.23µM respectively. Taken together, these data showcase the utility of the aProximate renal proximal tubule model to investigate both the transport and potential nephrotoxicity of both siRNA and ASO constructs.

  • 最上(西巻) 知子, 伊藤 祥輔, 崔 紅艶, 秋山 卓美, 為廣 紀正, 安達 玲子, 柴田 識人, 若松 一雅, 五十嵐 良明, 近藤 ...
    セッションID: P2-176
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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     「化学白斑」は化学物質との接触により皮膚に脱色素班が生じる疾患である。その代表的原因物質はメラニン前駆体チロシン類似のフェノール化合物であり、1939年のモノベンゾン以降、ラズベリーケトン、ロドデノール配合化粧品等が報告された。これらは共通してチロシナーゼにより反応性の高いオルトキノン体に代謝され、色素細胞の直接傷害あるいは免疫応答を介して白斑発症をもたらす機序が提唱されている。本研究では決定的過程「代謝活性化」に着目し、1)代謝物解析あるいは2)細胞毒性の発現により検出する方法を検討した。

     代謝物解析は、ヒトチロシナーゼ高発現293T細胞または精製ヒトチロシナーゼ可溶性領域を各種フェノール類と反応させ、生成物をHPLC分析した。代謝活性化による毒性発現は、B16BL6メラノーマ細胞のチロシナーゼをsiRNAノックダウンし、化合物暴露によるチロシナーゼ依存的な細胞生存率の低下を評価した。

     ヒトチロシナーゼ高発現293T細胞を用いた代謝物解析では、ロドデノールなど白斑誘発性7化合物全ての2時間暴露でオルトキノン代謝物のグルタチオン/システイン付加物が濃度依存的に細胞・培地に検出され、細胞内グルタチオンが低下した。白斑報告の無い2化合物では検出されなかった。精製ヒトチロシナーゼ(短縮型)も同様の基質特異性を示した。一方、チロシナーゼ依存的な細胞生存率の低下は白斑誘発性7化合物中4化合物に限定された。従って白斑誘発性フェノール化合物のチロシナーゼによる代謝活性化の評価には代謝物解析が優れ、ヒトチロシナーゼ高発現293T細胞を用いてオルトキノン代謝物のチオール付加体を検出する手法は、細胞毒性による評価より検出力と特異性に優れることが判明した1)

    1) Nishimaki-Mogami T, Ito S, et al., J Dermatol Sci. 2022;108:77-86.

  • 川本 研介, 下間 由佳子, 岡田 一成, 浅野 敬之
    セッションID: P2-177
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    視覚は人の外界情報の取得において重要であり、視覚障害はQOLに大きな影響を与えるとされているが、実験動物を用いた化学物質の安全性試験において視覚への影響をその機能面から客観的に評価することは難しく、現状は主として眼検査や病理組織学的検査等の形態学的評価に頼らざるを得ない。しかしながら、形態学的異常と視覚の異常は必ずしも一致しないことから、形態学的評価に加え、視覚機能を定量的に評価することは重要である。

    視覚誘発電位(VEP)は、光刺激が網膜で受容され、視神経を介して大脳視覚野に伝わって記録される脳波の一種であり、伝達経路と視路が一致することから、視覚を客観的に評価する手法として有用と考えられる。そこで、末梢神経変性を引き起こし、視神経にも影響を与えることが知られているアクリルアミド(AA)をラットに投与し、VEPにより視覚の異常が検出できるか否か検討した。

    AAを0(対照群)および200 ppmの濃度でラットに4週間飲水投与し、投与0、2および4週に網膜電図(ERG)およびVEPを記録した。また、4週間の投与終了後に眼球および視神経の病理組織学的検査を実施した。また、AAによる末梢神経変性の確認のため、投与4週の握力検査と坐骨神経の病理組織学的検査を実施した。投与2および4週にVEPの潜時の有意な延長が認められた。一方、ERGには異常は認められず、眼球、網膜および視神経の病理組織学的検査において異常は認められなかった。また、後肢握力の有意な低下および坐骨神経細胞の軸索変性が認められた。

    以上のように、VEPによりAAの視覚への影響を検出することができた。また、網膜や視神経に形態的な影響が認められない初期段階においてもVEPの異常が検出されたことから、本手法は化学物質投与による眼の形態学的異常の毒性学的意義の考察に加え、短期投与でのスクリーニング等に活用できる可能性も示唆された。

  • 加藤 哲希, Cheryl TYSZKIEWICZ, Seo-Kyoung HWANG, Ben JAKUBCZAK, Karen WALT ...
    セッションID: P2-178
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【背景】ヒトの網膜機能には性差が存在すると言われ、一般的に、男性と比較して女性の網膜電図(ERG)の振幅は高値であることが知られている。非臨床安全性試験において、被験物質の網膜毒性を評価するために視覚機能検査を実施する場合があるが、アルビノラットの網膜機能の性差については議論の余地がある。そこで、毒性試験に汎用される雌雄Wistar Hanラットを用い、自然発生性のERG異常の発現を定量することで、網膜機能の性差について検討を行った。【方法】Wistar Hanラット(雄52例、雌51例、7~9週齢、チャールズリバーラボラトリーズ)に対し、暗順応下および明順応下でフラッシュ光刺激を照射してERG測定を行い、それぞれ桿体応答および錐体応答を評価した。【結果】雄の13%(7/52例)でフラッシュ光刺激に対するERGの欠如(自然発生性が示唆される消失型ERG)がみられた。一方、雌でERGの欠如は認められず(0/51例)、発現率に統計的有意な性差が示された(P<0.05)。また,暗順応下および明順応下でのERG b波の平均振幅は、雌に比べて雄(ERGの欠如がみられた例は除く)でそれぞれ43%および26%低値であった(それぞれP<0.0001およびP<0.05)。【結論】以上のように、Wistar HanラットのERG応答には性差がみられ、ERGの欠如が雄のみにおいて認められた。これらのことから、非臨床安全性試験にWistar Hanラットを使用する場合、試験デザインの検討および網膜機能評価結果の解釈に性差を考慮する必要があると考えられた。

  • 梅屋 直久, 稲田 拓, 宮脇 出
    セッションID: P2-179
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【目的・背景】Hyperpolarization-activated cyclic nucleotide-gated channel(HCN)阻害剤であるIvabradineはヒトにおいて眼内閃光等の視覚障害を惹起する。この視覚障害が網膜のON-OFF経路の障害に起因している可能性が考えられたため、ラットにIvabradineを投与し、各光刺激周波数を用いた暗順応下でのFlicker刺激による網膜電図(Flicker ERG)測定を行った。

    【方法】Long-Evans系ラットにIvabradineを4、12又は40 mg/kgで単回皮下投与し、投与後1.5時間にERG測定を行った。暗順応下において-2.0又は+0.5 log cd/m2∙sの光刺激強度で、光刺激周波数を1から20 Hzに段階的に変えてFlicker ERGを測定した。また、Flash ERG及び明順応下でのFlicker ERG測定も行った。

    【結果】-2.0及び+0.5 log cd/m2∙sのいずれにおいても、光刺激周波数の上昇に伴い波形の振幅が用量相関的に減少し、特に中(5-15 Hz)及び高(20 Hz)周波数帯で顕著に減少した。Flash ERGや明順応下でのFlicker ERGでは振幅の減少は見られなかった。

    【考察】暗順応下でのFlicker ERG測定では、低周波数域では視細胞以降の反応が、中周波数域ではON型双極細胞の反応が、高周波数域ではOFF型双極細胞の反応が得られ、また、-2.0及び+0.5 log cd/m2∙sの光刺激強度での測定では、それぞれ杆体及び錐体由来の反応が得られるとされている。これらの情報と本実験結果から、Ivabradineによるヒトの視覚障害は杆体及び錐体由来のON-OFF経路の信号伝達障害に関連している可能性が示唆された。

  • 浅野 雄哉, 小黒 裕嗣, 安田 秋太, 岩井 祥人, 安藤 さえこ, 古屋 優里子, 長瀬 孝彦, 山本 恵司
    セッションID: P2-180
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    <背景>聴覚毒性の検出にはin vivo での機能観察総合評価法や聴性脳幹反応測定が用いられてきたが、よりスループット性が高くメカニズムの検討も可能なin vitro の評価系が求められている。我々はマウス蝸牛細胞株(HEI-OC1 細胞)を33℃、10% CO2 条件で培養し、その特徴ならびにヒトにおいて聴覚毒性を示すシスプラチンの毒性を検討した。<方法>①HEI-OC1 細胞の特徴をその増殖性ならびに有毛細胞、支持細胞およびラセン神経節細胞マーカーの発現で確認した。②シスプラチンをHEI-OC1 細胞に24 時間暴露し、WST-8 アッセイ、Hoechst アッセイ、CellToxTM Green アッセイ、Caspase-Glo® 3/7 アッセイを実施した。③シスプラチンのオートファジー・リソソーム経路に対する作用を検討した。<結果>①HEI-OC1 細胞はMyo7a、Gjb2Bdnf 等の発現を示し、複数の蝸牛内細胞の特徴を有していた。②シスプラチンはHEI-OC1 細胞において3~30 µM の範囲で濃度依存的な細胞生存率および総細胞数の低下ならびに細胞毒性およびアポトーシス活性の増加を示した。③シスプラチンはオートファジーおよびリソソーム障害を惹起した。<結論>HEI-OC1 細胞を用いたin vitro 聴覚毒性アッセイ系を確立し、本系でシスプラチンによる毒性が確認できた。

  • 篠田 陽, 関口 由香, 松木 彩華, 吉田 映子, 高橋 勉, 鍜冶 利幸, 藤原 泰之
    セッションID: P2-181
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    メチル水銀(MeHg)は、水俣病と呼ばれる中枢神経系および末梢神経系に深刻な神経変性を引き起こすことが知られている。近年我々は、MeHg曝露ラットにおいて、選択的に痛覚鈍麻が誘導され、それが時間依存的に回復することを報告した。また、MeHg曝露ラットの後根神経節(DRG)のニューロン数は、痛覚鈍麻時に減少し、行動回復後にはコントロールレベルまで回復することを明らかにしている。しかしながら、DRGにおいて神経新生が本当に起こるかどうかについては不明である。本研究では、MeHg曝露DRGにおいて神経新生が経時的に起こるかどうかを明らかにするために、免疫組織化学的な検討を行った。WistarラットにMeHg(6.7 mg/kg/day)を5日間経口投与、2日間中止し、このサイクルをもう1度行った。BrdU(100mg/kg/day)を固定1週間前から5日間、腹腔内投与した。MeHg曝露開始後28日、42日、56日、70日目に、ラットをパラホルムアルデヒドで固定し、DRGを凍結摘出して免疫組織化学に処理した。切片は、神経細胞、核マーカー、Ki67およびBrdU抗体で免疫染色した。現在神経新生を見るための最適な実験条件を探っており、その結果を学会で発表したい。

  • 沼野 琢旬, 原 智美, 杉山 大揮, 萩原 顕昭, 河部 真弓, 青木 豊彦
    セッションID: P2-182
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【目的】近年、様々な創薬基盤技術を用いた医薬品の研究開発により、低分子医薬品だけでなく、様々な新規モダリティによる医薬品が臨床的に実用化されているが、新規モダリティのデリバリー経路として、吸入経路が注目されている(Hall et al. Toxicol Pathol., 2021)。吸入による薬物の安全性評価には、大規模な吸入曝露施設や大量の被験物質が必要とされ、また、吸入曝露条件下では、薬物が鼻腔を含む上気道でトラップされ、下部呼吸器への到達量は約2割と、標的臓器である肺への直接曝露には課題がある。当社は、これまで独自の気管内投与手技を確立し、吸入経路による薬剤の安全性評価の初期スクリーニングとしての有用性を報告してきた。今後、吸入投与のため様々な媒体が検討されることから、今回、6つの媒体について、マウスを用いて単回気管内投与し、これら媒体の影響を経時的に検討した。【方法】本試験では、媒体として注射用水、生理食塩液、10%マルトース溶液、0.1%Tween80、10%PEG400、10%DMSOを選択した。7週齢の雄Crl:CD1(ICR)マウスに、各媒体を100 uL/bodyの容量で単回気管内投与した。また、ゾンデの挿管のみを行うsham群も設定した。投与後、一般状態観察、体重測定を行い、投与1、3、7及び14日後に各群の5匹を剖検し、血液生化学的検査、肺胞洗浄液の検査、器官重量及び病理組織学的検査を実施した。【結果】実験期間を通して動物に死亡はみられなかった。一般状態ではsham群を除いた全例で投与後に一過性の捻髪音がみられたが、いずれの媒体投与群においても体重並びに血液生化学的検査に媒体投与の影響はみられなかった。本学会では、肺胞洗浄液の検査、器官重量及び病理組織学的検査の結果を含め、各媒体の影響を報告する。

  • 堀田 佳資, 今井 則夫, 土井 悠子, 河部 真弓, 青木 豊彦
    セッションID: P2-183
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【目的】近年、様々な創薬基盤技術を用いた医薬品の研究開発により、低分子医薬品だけでなく、様々な新規モダリティによる医薬品が臨床的に実用化されているが、新規モダリティの薬物デリバリー経路として、吸入経路が注目されている (Hall et al. Toxicol Pathol., 2021)。吸入による薬物の安全性評価には、大規模な吸入曝露施設や装置や大量の被験物質が必要とされ、また、吸入曝露条件下では、鼻腔を含む上気道で薬物がトラップされ、下部呼吸器への到達量は約2割と標的臓器である肺への直接曝露には課題がある。当社は、これまで独自の気管内投与手技を確立し、吸入経路による薬剤の安全性評価の初期スクリーニングとしての有用性を報告してきた。今後、吸入投与のため様々な媒体が検討されることから、今回、7つの媒体について、ラットを用いて7日間反復気管内投与し、これらの影響を経時的に検討した。

    【方法】本試験では、媒体として、5%PEG400、5%DMSO、0.1%Tween 80、生理食塩液、注射用水、マッキルベイン緩衝液(pH 7.0)及びPBSを選択した。8週齢の雄Crl:CD(SD)ラットに、各媒体を1 mL/kg の容量で7日間気管内投与し、また、ゾンデの挿管のみを行うsham群を設定した。投与後、一般状態観察及び体重測定を実施し、実験開始8日後及び7日間の回復期間終了後に剖検し、血液学的検査、血液生化学的検査、器官重量、肺胞洗浄液の検査並びに病理組織学的検査を実施した。

    【結果】実験期間を通して動物に死亡はみられず、一般状態観察においては、sham群を除くすべての投与群で投与後一過性に捻髪音がみられた。また、体重は各媒体群に影響はみられなかった。本学会では、その他の検査項目の解析並びに病理組織学的検査の結果も含めて報告する。

  • Min-Seok KIM, Chul-Min PARK, Seulgi JEON, Hyoung-Chin KIM, Su-Cheol HA ...
    セッションID: P2-184
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    Hazardous chemical exposure could adversely affect the health of people with underlying diseases. However, scientific validation and research on exacerbation mechanisms are insufficient. Therefore, we investigated the effects of PHMG exposure on lung injury in a model of monocrotaline (MCT)-induced pulmonary arterial hypertension (PAH). The PAH model was constructed by single subcutaneous injection of MCT (60 mg/kg) to Sprague-Dawley (SD) rats. After 3 weeks, a single intratracheal instillation (ITI) of polyhexamethylene guanidine (PHMG; 0.05 mg/kg) was administered and necropsy was performed 1 week later. The results show that the increased neutrophil count of bronchoalveolar lavage fluid (BALF) and lung weight in the MCT group were further increased in the MCT+PHMG group. However, heart weight and Fluton index ((RV/(LV + septum) weight), which are indicators of the PAH model, did not change in the MCT + PHMG group compared to the MCT group. Histopathological results also showed exacerbation of lung injury by PHMG exposure in the MCT group, but no changes were observed in the heart. Moreover, NGS sequencing confirmed that PHMG-associated genes are related to pulmonary fibrosis. These results suggest that chemical exposure induced lung injury may be exacerbated on underlying disease.

  • Goyunbaek SEO, Jinhee KIM, Yoon CHO, Kyung-Chul CHOI, Ryeo-Eun GO, Min ...
    セッションID: P2-185
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    Cigarette smoke (CS) cause to lung diseases such as lung cancer, chronic obstructive pulmonary disease (COPD), and pulmonary fibrosis. In the present study, we investigated lung damage and molecular mechanisms by repeated intratracheal instillation (ITI) of whole cigarette smoke condensate (WCSC) of 3R4F cigarette. Male SD rats were administered WCSC (0, 5, 10 or 20 mg/mL) once daily for 6 or 12 days. The lung weight, and monocyte chemoattractant protein-1 (MCP-1), neutrophil, and lymphocyte levels within bronchoalveolar lavage fluid (BALF) were increased in the WCSC-exposed group compared to the control group. In histopathological analysis of lung tissue, the inflammatory response was observed in the 20 mg/mL WCSC-exposed group on both days 6 and 12. The mRNA expression profiles revealed that inflammatory and immune response-related genes, such as the chemokine signaling pathway, Th1/Th2 cell differentiation, and cytokine-cytokine receptor interaction, were increased by WCSC exposure. Our data demonstrated that the ITI of WCSC could induce a pulmonary inflammatory response similar to cigarette smoke exposure. Moreover, gene expression analysis results support the induction of inflammation by WSCS exposure.

  • 小林 雅典, 檜杖 昌則, P HARRIS, N BAJORIN, D LI, S FOOTE, J COLANGELO, J CORDE ...
    セッションID: P2-186
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【背景・目的】定性的および定量的な心電図の解析は,薬剤が及ぼす心血管系への影響を評価する大動物を用いた毒性試験の重要な構成要素の1つである。無麻酔下のサルの四肢から得られる標準的な第Ⅱ誘導心電図の波形は,ノイズを検出することが多く,PR間隔などの正確な測定に影響を及ぼすことがある。本検討では,第Ⅱ誘導を検出する部位として四肢(Limb)および胴体部(Torso)を比較し,ノイズの減少および心電図間隔の測定精度の改善について検討した。

    【方法】無麻酔下で軽度に拘束したサル(45例)から,DSI Ponemah software (ver. 5.2)を用いてLimbでの第Ⅱ誘導心電図を測定した後,Torso(胴体部,右胸部から左腰部)での第Ⅱ誘導心電図を測定し,それぞれ約1分間のデータを収集した。2種の測定法(LimbまたはTorso)でそれぞれ得られた連続する10波形をソフトウェアおよびマニュアル解析した。偏りを防ぐため,データ解析者とデータセットの両方を無作為化し,同一動物からのデータセットは同一解析者が解析した。2種の測定法におけるPR間隔の違いを評価するため統計学的に比較し,標準偏差を用いて精度を評価した。また,2種の測定法で得られた心電図をオーバーレイ解析し,波形変化を視覚的に評価した。

    【結果および考察】Torsoでの第Ⅱ誘導における測定結果はLimbで得られた測定結果と比較して,個体内および個体間の標準偏差が低下した。Bland-Altman分析では,LimbおよびTorsoで測定されたPR間隔の差異は±5%であり,2種の測定法においてPR間隔の不整合はなかった。オーバーレイ解析の結果,2種の測定法に差異はみられなかった。 以上より,無麻酔下のサルから得られるTorsoでの第Ⅱ誘導心電図はシグナル品質およびPR間隔測定精度を改善する有用なオプションと考えられる。

  • 渡辺 絵里子, 三好 隼人, 望月 修征, 加藤 寛
    セッションID: P2-187
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    心血管系への副作用は医薬品開発の主な中止要因の一つであり、候補物質の設計段階において心血管系への副作用を正確に把握しておくことが重要である。ヒトiPS細胞由来心筋細胞(hiPSC-CM)の出現により、候補物質がヒトの心筋細胞に与える作用を早期に評価可能となった。特に、催不整脈作用(QT間隔延長、EADなど不整脈様波形の誘発)に関しては、hiPSC-CMにより従来のhERG試験よりも高精度に評価可能であることから、創薬現場での利用が進んでいる。一方で、心拍数に対する副作用(頻脈/徐脈)に関しては、評価手法が確立されていない。 本研究では、多点電極アレイ(Multi-Electrode Array: MEA)によるhiPSC-CMの細胞外電位測定により、薬剤が心拍数に与える作用を高いスループットで評価する手法を検討した。培養条件を最適化することにより、薬剤が心筋細胞の主要な心拍数制御機構(アドレナリン受容体やムスカリン受容体の活性化/抑制など)に作用し、心拍数を上昇/低下させるリスクを評価する手法を構築した。本手法により、医薬品の候補物質の心拍数に対する副作用を早期に評価することが可能である。

  • 石田 南人, 大丸 捷斗, 和田 進太郎, 久保 那月, 朝倉 圭一
    セッションID: P2-188
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    Introduction

    The relationship between QT prolongation by hERG inhibition and lethal arrhythimia, torsade de pointes, is well known and the risk assessment of in vitro hERG inhibition is described in ICH S7B guideline. Meanwhile, the proarrhythmic risk of hERG activating compounds is not mentioned in the guideline and has not been well investigated. The purposes of this study were to observe abnormal electrocardiographic waveforms induced by hERG activating compounds and to clarify the risk of lethal arrhythmia. In addition, the effects on various ECG parameters, including the QT interval, were also evaluated.

    Methods

    We used ICA-105574 as a hERG activating compound. To evaluate the proarrhythmic risk in in vivo, we adiministered ICA-105574 in doses of 10 and 30 mg/kg i.v. over 10 min to the isoflurane-anesthetized guinea pigs under monitoring of electrocardiogram and aortic pressure (n=4).

    Results

    As a result of administering ICA-105574 to guinea pigs, significant QT shortening with short J-Tpeak and increased Tpeak-Tend/QT ratio were observed at ≧10 mg/kg. At 30 mg/kg, arrhythmia followed by death occurred in all animals. In the electrocardiograms of these animals before lethal arrhythmia occurs, high risk findings, such as attenuation of R waves, appearance of J waves, and biphasic T waves, were observed.

    Conclusion

    QT shortening with J-Tpeak shortening and increased Tpeak-Tend/QT ratio in guinea pigs observed in this experiment are consistent with the features of short QT syndrome type 1, who are at very high risk of sudden cardiac death. It is speculated that lethal arrhythmia may be induced even when hERG activating compounds are administered to humans. Thus, when we want to develop hERG activating compounds as medicines, we should manage their risk carefully.

  • 中瀬古(泉) 寛子, 関野 祐子, 神林 隆一, 諫田 泰成, 杉山 篤
    セッションID: P2-189
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【目的】抗がん薬治療が左室機能障害を誘発することが臨床報告されている。我々はヒトiPS心筋細胞シートに対して、多電極システムによる細胞外電位記録、モーションベクトル測定および細胞内Caイメージングを併用することにより、抗がん薬により誘発される心室機能障害の新しい指標を開発した。【方法】ヒトiPS心筋細胞シートを作成し、電気的ペーシング下における各指標の変化と相関を解析した。左室機能障害が臨床報告されている代表的なチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であるイマチニブ(n=6-7)、ニロチニブ(n=6-7)、ダサチニブ(n=5-6)を累積的に投与した。【結果および考察】各TKIは濃度依存的に、細胞外電位持続時間を延長し、伝導速度を遅延させた。モーションベクトル解析において正の収縮速度-頻度関係は減弱し、弛緩速度は減少したが、収縮速度は減少しなかった。イマチニブとニロチニブはEADを誘発し、運動同期性を低下させ、この運動同期性低下はペーシング部位から300 µm以降での伝導速度の低下と相関があった。各TKIはCaトランジエントのピーク時間を短縮、ピーク振幅を減少し、減衰時定数を増加した。この減衰時定数の増加は弛緩速度の減少と相関していた。一方ピーク時間は頻度依存性および濃度依存性に短縮する傾向を示し、収縮速度変化と相関がみられた。ニロチニブではelectrical-mechanical windowの逆転現象が観察された。【結論】各TKIはヒトiPS心筋細胞シートに左室機能障害を誘発した。SERCA2aに関連する拡張機能障害の検出には、モーションベクトルの早期弛緩速度やCaトランジェントの初期相の減衰時定数が有用と考えられるが、同期性の変化の検出にはモーションベクトルのcorrelation値と多電極システムの伝導速度が有用を考えられた。

  • 福岡 隼, 山下 諒, 福田 光, 古賀 正, 内野 剛, 伴 昌明, 吉川 哲也, 山田 知信
    セッションID: P2-190
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【背景】近年ICH-E14/S7B Q&Asにおいて安全性薬理試験の心血管系評価の為の新たな推奨事項が示され,in vivo 試験では,ヒトのQT/QTc評価臨床試験と同程度のQTc延長作用の検出感度が求められている.そこで我々は,moxifloxacin投与カニクイザルから得られたQT間隔データ及び血漿中薬物濃度を用いて,曝露―反応解析(ER解析)を実施し,ヒト臨床試験成績と検出感度を比較することで,ヒト外挿性を検討した.【方法】テレメトリー送信器埋込雄カニクイザル4例を用いて,心外膜心電図を連続的に記録した.陰性対照(0.5 % methylcellulose)及びmoxifloxacin(10,30,100 mg/kg)を漸増単回経口投与し,投与前及び投与後1,2,4,6,8及び24時間のQT間隔を解析した.陰性対照データから個体毎の補正係数β値を算出し,個体別補正式により補正QT間隔(QTca)を算出した.血漿中薬物濃度測定の為の採血は心電図解析ポイント経過後直ちに実施した.投与前値及び同時点の陰性対照値からのQTca変化量(ΔΔQTca)を用いてER解析を実施し,ΔΔQTca-concentration plot及び90%信頼区間(CI)を求めた.【結果】QT-RR間隔においてQTcaはRR間隔に影響されなかった(回帰直線の傾き:0.0159以下).ER解析では用量―反応回帰直線は正の傾きを示し,ΔΔQTcaが10 ms延長する場合の平均血漿中薬物濃度は2402 ng/mL,90% CIは6.66~13.34 msであった.この結果はヒト臨床試験[最大血漿中薬物濃度(1862 ng/mL)時点での予測ΔΔQTcの90% CIが10.5~17.7 ms]と類似しており,カニクイザルテレメトリー試験によりヒトと同等の検出感度でQT延長を評価できる可能性が示唆された.

  • 小田 泉輝, 門前 雄樹, 宮崎 幸奈, 岩下 有美, 山下 奈緒子, 鈴木 晶子, 伴 昌明, 有村 由貴子, 吉川 哲也
    セッションID: P2-191
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【背景】ICH-E14/S7B Q&Asにおいて安全性薬理試験の心血管系評価のための新たな推奨事項(ベストプラクティス:BP)が示され,被験物質の心室再分極遅延及びQT間隔延長のリスクについてBPで実施された試験成績を基に評価することが推奨されている.本研究ではhERG阻害剤であるcisapride及びdofetilideについて,BPに準じた測定条件によりhERG電流に対する影響を評価した.【方法】hERG発現HEK293細胞を用い,マニュアルパッチクランプ法にてhERG電流を測定した.測定はBPに準じた電圧プロトコル(ランプダウンパルス,0.2 Hz)及び温度(35~37°C)で行った.電極内液及び細胞外液組成,電圧プロトコルについてはCiPA推奨プロトコルに従った.ベースライン測定後,各hERG阻害剤を単回適用で15分間細胞に曝露しhERG電流測定を行った.続けて,1 µmol/LのE-4031(IKr選択的阻害剤)を曝露し,残留電流の測定を行った.各hERG阻害剤について4濃度(n=4)の評価を行い,hERG電流に対するIC50及びHill係数を算出した.【結果】cisapride及びdofetilideのIC50はそれぞれ16.1 nmol/L(7.8 ng/mL)及び5.4 nmol/L(2.4 ng/mL)であり,Hill係数は1.0及び0.86であった.両阻害剤は,これまでに報告されている従来法(ステップパルス,室温条件下,0.1 Hz等)と,同程度の hERG電流抑制を示した.また,BPに準じた条件にて測定を実施したCA Baronの報告(J Pharmacol Toxicol Methods,2022)と比較すると,cisaprideでは同等のhERG電流抑制がみられたが,dofetilideではわずかに強いhERG電流抑制がみられた.

  • 柳田 翔太, 川岸 裕幸, 諫田 泰成
    セッションID: P2-192
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【序論】チロシンキナーゼ阻害薬(TKIs)などの分子標的薬により、がん患者が長期生存できるようになったが、その一方で、抗がん剤による心毒性の発生が顕在化してきた。抗がん剤による心毒性は不整脈、心収縮障害、高血圧など多岐に渡るが、特に、心収縮障害は心不全につながる重篤な副作用を引き起こす。そのため、抗がん剤による心収縮障害リスク評価は非常に重要である。これまでに、我々は、ヒトiPS細胞由来心筋細胞(ヒトiPS心筋)を用いてイメージングによる収縮評価法を開発してきた。そこで、本研究では、非小細胞肺がん患者に使用されているEGFR-TKIsについてヒトiPS心筋データと副作用データベースのシグナルの比較を行い、心毒性評価法の予測性を検証した。

    【方法】ヒトiPS細胞由来心筋細胞はiCell心筋細胞2.0(FCDI)を用いた。また、心筋細胞の収縮能は、動きベクトルシステムSI8000(ソニー)を用いて評価した。また、臨床における副作用データベースのシグナルは、米国FDA有害事象報告システム(FAERS)を用いてオッズ比(ROR)を解析した。

    【結果】オシメルチニブの慢性投与により、濃度依存的にヒトiPS心筋の収縮速度が有意に減少した。一方で、ゲフィチニブやエルロチニブでは特に変化は見られなかった。次に、ヒトiPS心筋データの予測性を検証するために、FAERSを用いてヒトにおけるリアルワールドデータの解析を行った。その結果、オシメルチニブは心毒性のオッズ比が有意に高かったが、ゲフィチニブやエルロチニブは有意なシグナルは認められなかった。

    【結論】イメージングによるヒトiPS心筋の収縮解析は、抗がん剤による心収縮毒性評価に有用であることが示唆された。

  • 服部 篤紀, 長谷川 翔, 岡 宏之, 新井 透子
    セッションID: P2-193
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    Cardiovascular (CV) risk is a serious and potentially life-threatening toxicity that must be avoided. Among them, the electrocardiogram (ECG) is formed from many elements and inhibiting even one of them can lead to fatal consequences. In particular, human-Ether-a-go-go-Related Gene (hERG) channel blockade is well known to prolong the QT interval in the ECG waveform and cause lethal arrhythmia. However, there are still many uncertainties, such as the severity of arrhythmias and the ECG waveforms that occur when channels other than hERG channel are affected. In non-clinical studies, it has been challenging to identify which region is involved in the arrhythmia from the ECG waveform due to the limited electrocardiographic lead waveform (only lead II). This study focuses on Ca2+ as one of the ions involved in ECG formation to clarify the mechanism of action behind fatal arrhythmia. First, low voltage-gated channel inhibition and intracellular Ca2+ dynamics were evaluated in guinea pigs, along with contractile force in human cardiomyocytes. Next, inhibition of the membrane structure of sarcoplasmic reticulum (SR) led to an ECG waveform similar to that of compound X, supporting to identify the specific site of action. These findings suggest that the lethal arrhythmia induced by compound X is associated with decreased Ca2+ concentration in the SR.

  • 田中 豊人, 鈴木 仁, 猪又 明子
    セッションID: P2-194
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【目的】ネオニコチノイド系殺虫剤であるジノテフランのマウスを用いた2世代行動発達毒性試験を行い、マウスの生殖及び次世代の行動発達に及ぼす影響の有無について検討する。

    【方法】ジノテフランを混餌法により0%(対照群)、0.015%(低濃度)、0.03%(中濃度)、0.06%(高濃度)となるように調製してCD1マウスのF0世代の5週齢からF1世代の11週齢まで投与して、マウスの生殖及び次世代の行動発達に及ぼす影響について検討した。

    【結果】F0世代の探査行動では雄マウスの移動時間が用量依存的に延長し、立ち上がり時間及び平均立ち上がり時間が用量依存的に短縮した。出生時の平均産仔数は用量依存的に増加し、平均性比(雄%)は用量依存的に減少した。F1世代の授乳期における仔マウスの体重は21日齢の雌雄で用量依存的に増加した。F1世代の授乳期間中の行動発達では雄仔マウスの14日齢の嗅覚性指向反応の所要時間が用量依存的に抑制された。F1世代の3週齢の探査行動では雄仔マウスの総移動距離と平均移動速度が用量依存的に減少し、平均立ち上がり時間と排糞数が用量依存的に増加した。雌仔マウスでは立ち上がり関連項目が用量依存的に増加した。F1世代の8週齢の探査行動では雌マウスの排糞数が用量依存的に減少した。F1世代の自発行動では水平移動回数の経時変化は雄では平行幅が有意に異なった。

    【まとめ】本実験においてジノテフランの継代投与により、親世代の探査行動や出生時の産仔数と性比、授乳期間中の行動発達や探査行動に投与によると思われる影響が観察された。本実験で用いられたジノテフランの用量はADI値を基に算出されたものであるが、人の食品からの推定摂取量(15.75μg/kg/日)はADI値(0.2mg/kg/日)の1/12以下であるので、食品からのジノテフランの摂取量では人の健康に対して影響を及ぼさないものと思われる。

  • Yuji ISOBE, Natasha CATLIN, Chirstine STETHEM, Christopher BOWMAN, Sar ...
    セッションID: P2-195
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【背景】従来,医薬品の曝露による発生毒性(催奇形性または胚・胎児毒性)の評価は, ICHガイドラインに示された生殖発生毒性試験のうち,主として胚・胎児発生への影響に関する試験(EFD試験)および出生前及び出生後の発生ならびに母体の機能に関する試験(PPND試験)により行われてきた。近年,医薬品の薬理作用から発生毒性が懸念される場合あるいは遺伝子改変動物の表現型に影響を及ぼすと考えられる場合について,科学的根拠の重みづけ(weight of evidence:WOE)に基づいたリスク評価を実施することの重要性に対する認識が高まっている。【緒言・目的】医薬品の薬理作用から発生毒性が懸念される場合,ノックアウトマウスを用いた試験から得られる結果を適切に評価することは重要である。今回我々は,ノックアウトマウスを用いた試験から得られた結果を適切に評価し,医薬品の曝露による発生毒性を予測することの有用性についてより深く理解するため,ノックアウトマウスを用いた試験およびEFD試験から得られた結果について比較を行ったので報告する。【方法】2017年から2019年にかけてFDAにより承認された医薬品のうち,ノックアウトマウスを用いた試験の結果が公開されている86品目について,EFD試験の結果との比較を行った。【結果】EFD試験で催奇形性または胚・胎児死亡(MEFL)の結果が認められた品目の場合,ノックアウトマウスを用いた試験の結果からの予測性は高かった。一方,EFD試験で陰性の結果が得られた品目の場合,ノックアウトマウスを用いた試験の結果からの予測性はあまり高くなかった。【結論】今回の比較調査の結果から,医薬品の発生毒性に関する情報を得るためのWOEに基づいたリスク評価の一環として,ノックアウトマウスモデルから得られる胚・胎児毒性のデータは有用であることが示唆された。

  • 東阪 和馬, 北原 剛, 仲本 有里菜, 山本 怜奈, 坂橋 優治, 辻野 博文, 芳賀 優弥, 堤 康央
    セッションID: P2-196
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【目的】近年、化学物質曝露による有害妊娠転帰と胎盤機能障害との連関が示唆されつつある。しかし、化学物質曝露に起因する生殖発生毒性について、胎盤機能の観点から評価した研究は未だ乏しい。胎盤は妊娠の成立・維持に重要な役割を果たすことから、胎盤での毒性発現が有害妊娠転帰につながるリスクは十分に存在する。従って、胎児に対する毒性評価のみならず、胎盤機能にも着目した、化学物質の生殖発生毒性評価が重要である。そこで本研究では、妊娠期の使用による妊娠転帰悪化リスクが大きいバルプロ酸をモデル化学物質として選択し、バルプロ酸が胎盤機能へおよぼす影響評価を試みた。【方法・結果・考察】ヒト絨毛癌細胞株(BeWo)にforskolinを処置することで合胞体栄養膜細胞へ分化させた後、バルプロ酸を72時間作用させた。その後、妊娠維持に寄与する胎盤ホルモンである、ヒト絨毛性ゴナドトロピンβ(遺伝子名CGB)の発現量をreal time RT-PCRにより解析した。その結果、forskolin処置群と比較して、バルプロ酸添加によりCGBの有意な発現上昇が示された。また、胎児の発育に必須であるグルコース輸送能に着目し、BeWoにおけるグルコースの細胞内取り込みを評価したところ、forskolin処置により認められたグルコースの細胞内取り込み量の増加が、バルプロ酸添加により抑制されることが明らかとなった。さらに、バルプロ酸処置後のBeWoにおける遺伝子発現変動をRNA-Seqにより網羅的に解析し、得られた変動遺伝子に対してPathway解析を実施したところ、HIF-1 transcriptional activity in hypoxia pathwayを見出した。そこで現在、バルプロ酸による胎盤機能低下の機序を明らかとするため、BeWoにおけるHIF-1活性と胎盤機能低下との連関を追究している。

  • 古川 賢, 辻 菜穂, 林 清吾, 黒田 雄介, 木村 真之, 小島 知里, 竹内 和也
    セッションID: P2-197
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【目的】シクロホスファミド(CPA)のラットの胎盤における経時的な病理組織学的影響について検討した。【材料および方法】妊娠ラット(Han Wistar)にCPAを25mg/kgの用量にて、妊娠12日(CPA/GD12群)あるいは妊娠14日(CPA/GD14群)に単回腹腔内投与した。対照群には溶媒の生理食塩水を妊娠12日に投与した。これら動物は妊娠13、15、17及び21日に剖検し、胎盤の病理組織学的検査に供試した。【結果】両CPA投与群では胎児及び胎盤重量は減少し、特に、CPA/GD12群では妊娠17日以降に全胚吸収、CPA/GD14群では外形奇形が認められた。病理組織学的検査において、両CPA投与群共に、迷路層ではアポトーシス及び/または細胞増殖の抑制によって選択的に合胞性栄養膜細胞は減少し、細胞性栄養膜細胞は顕著となった。栄養膜中隔の細胞密度は低下したものの、残存した合胞性栄養膜細胞が腫大することで、胎盤関門の構造は保持されていた。これら病変により迷路層は菲薄化した。基底層ではグリコーゲン細胞が減少し、間質性栄養膜細胞の間膜腺へ浸潤が抑制された。これら病変の程度は、CPA/GD12群の方がCPA/GD14群よりも重篤であった。間膜腺ではCPA/GD12群で子宮NK細胞は減少したものの、間膜腺の発達には影響は認められなかった。【考察及び結論】CPAはラットへの妊娠12または14日に投与により、迷路層において選択的に合胞性栄養膜細胞を障害することで小胎盤を誘発することが明らかとなった。

  • 松葉 健吾, 本元 恒越, 速水 耕介, 曽根 秀子
    セッションID: P2-198
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【目的】オートファジーは、発生初期に機能不全に陥ったオルガネラやタンパク質凝集体を分解する主要な細胞内経路である。しかし、化学物質によるストレス条件下では、細胞機能の生存メカニズムの変化は不明である。化学物質によるストレス環境下において、オートファジー経路の機能障害は多くの疾患の病態に関与するため、オートファジー誘導物質がこの経路の機能障害に影響を与えるかを検討する必要がある。そのため、本研究では、オートファジー誘導物質と既知の毒性物質を多変量解析による特徴抽出によって特異的な活性を持つオートファジー誘導物質を推定した。【方法】オートファジーの遺伝的及び薬理学的調節が報告されている化学物質、米国食品医薬品局(FDA)で催奇形性が報告されている化学物質、成人への有害性が知られている化学物質の合計121物質をPubChemより収集し、ADMETpredictor9.5を用いて、薬物代謝に関与する11種類のCYP450 サブタイプのメカエリス定数、Vmax、クリアランスを抽出しデータを作成した。作成したデータを、多変量解析である主成分分析及びクラスタリングを行なった。【結果及び考察】121化学物質に関して11種類のCYP450 サブタイプを主成分分析した結果、4種類の化学物質が、他とは異なる寄与率を示した。そのうち、オートファジー誘導物質としてマイコラクトンが抽出された。11種類のCYP450 サブタイプをクラスタリングした場合の結果から、6種類の階層に分類でき、催奇形性が知られているイブプロフェンとバルプロ酸と同じクラスターには、オートファジー誘導物質であるドコサヘキサエン酸とベツリン酸が抽出された。以上の結果から、オートファジー誘導物質が、CYP450に対して特異的な活性を持つ可能性が示唆された。

  • 中桐 英明, 寺坂 慎平, 額田 祐子, 小川 毅彦
    セッションID: P2-199
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【目的】雄性生殖毒性は医薬品などの様々な化学物質の毒性評価において重要であり、特に次世代への影響にもつながることからAdverse Outcome Pathway(AOP)の理解が不可欠となる。この際に有用な手法として生体と同様に複雑な細胞間相互作用を再現しながらも対象組織のみにフォーカス可能な器官培養技術がある。これまでに複雑な精子形成過程を再現し、かつ長期間維持を可能とした優れた器官培養法が開発されており、毒性影響を理解するうえで有用な手法として期待されている。そこで本研究では代表的な精巣毒性物質を用い器官培養組織による毒性機序およびポテンシャル理解への有用性を目的とした検討を行った。

    【方法】精巣器官培養は既報であるシリコーン樹脂のチップを用いた培養方法を採用した。また同器官培養には精子形成の進行とともに蛍光タンパク質(GFP)を発現する遺伝子改変動物(Acro3-EGFPマウス)の精巣片を供した。被験物質には精子形成障害が知られるBusulfan(Bu)を用いた。培養下のAcro3-EGFPマウスの精巣組織片に対して、Bu処理前後から経時的に明視野像およびGFP像を取得した。またBu処置後の組織片は所定の培養期間ごとに採取し組織学および組織免疫化学(IHC)により毒性影響を解析した。

    【結果および考察】組織学検査およびIHCの結果から、Bu処理後の培養組織面積および組織GFP発現面積の推移を把握することで、精子形成障害を検出可能であることが示唆された。加えて同系は濃度依存性のある毒性応答性および毒性の可逆性の有無までをも評価可能であることが示唆された。 以上より器官培養下の精巣は動物個体と同様な機序で毒性を誘発するものと考えられAOP理解に向けて有用な手法であることが示唆された。加えて各種精巣構成細胞が保持されていることから雄性生殖毒性評価への活用が期待される。

  • 菖蒲谷 桃香, 酒巻 友里, 尾城 椋太, 鄒 昕羽, 唐 倩, 小澤 俊介, 吉田 敏則, 渋谷 淳
    セッションID: P2-200
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【背景及び目的】フッ化ナトリウム(NaF)は鉱物や水など自然界に広く存在するフッ化物である。中国の一部地域ではフッ化物の高濃度曝露に起因する小児の知能低下が報告されており、動物への実験的な曝露により学習・記憶障害を誘発する。本研究ではNaFの発達神経毒性評価を目的として、その高感受性エンドポイントと考えられる成体神経新生に着目して、ラットの発達期曝露による海馬歯状回の神経新生障害について検討した。【方法】OECDの発達神経毒性テストガイドライン426に準じ、ラット母動物に妊娠6日目から出産後21日目の離乳時まで、NaFを0、30、100 ppmの濃度で飲水投与した。生後21日目及び休薬後の77日目に雄児動物を対象として、各種の神経新生指標を免疫組織化学的に検討した。また、離乳時の海馬において酸化ストレス指標のmalondialdehyde (MDA)及びglutathione (GSH)を測定した。【結果】生後21日目に、100 ppm群において顆粒細胞系譜のGFAP陽性細胞及びSOX2陽性細胞が増加し、DCX陽性細胞が減少傾向を示した。シナプス可塑性関連ではARC陽性顆粒細胞が増加した。生後77日目に、30 ppm群においてARC陽性顆粒細胞とCOX2陽性顆粒細胞が増加し、100 ppm群では歯状回門のミクログリアのうちCD163陽性グリアが増加した。生後21日目の海馬MDA及びGSHレベルは変動しなかった。【考察】NaFの発達期曝露により、生後21日目の海馬でtype-1神経幹細胞及びtype-2a神経前駆細胞の増加と顆粒細胞のシナプス可塑性の増加がみられた。これはtype-3神経前駆細胞の減少を示唆するDCX陽性細胞の減少傾向に対する代償性の神経新生及び新生ニューロンのシナプス可塑性の増強を示唆するが、これらの変化は成熟後には消失した。

  • 髙島 宏昌, 田中 加奈子, 長谷川 拓郎, 羽田 亮, 山崎 浩史, 北嶋 聡, 桑形 麻樹子
    セッションID: P2-201
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    精漿を介した催奇形性発現の可能性を検討する一環として、サリドマイド(Th)の最大臨床量を雄ウサギに経口投与した結果、血漿と精漿濃度が近似していたことを第48回本学会にて報告した。この結果を基に、最大精漿移行濃度の約100倍量である0.4 mg/kgを妊娠1~13日の雌ウサギに膣内投与し、胚・胎児への影響を調べた。また、母血漿中のTh及びヒト型代謝物である5-hydroxythalidomide(5-OH体)及びげっ歯類型代謝物である5’-hydroxythalidomide(5’-OH体)濃度を測定した。さらに最大調製限界量である10 mg/kgを薬物動態確認用に設定した。

    その結果、母動物に毒性は観察されず、胎児の生存性及び形態にも異常は認められなかった。母血漿中のThのCmax及びAUC0-tの平均はそれぞれ13.4 ng/mL及び30.9 h*ng/mLで血漿中5-OH体濃度はThの約1.2%、5’-OH体濃度は5-OH体濃度の約3倍であった。

    胎盤、卵黄嚢膜、胚中のTh濃度は、投与後7時間の0.4 mg/kg群では母体血漿の約30%、10 mg/kg群では約60%であり、24時間後にはいずれも10%以下であった。

    代謝物は0.4 mg/kg群では5’-OH体のみが検出された。10 mg/kg群では、子宮内容物における投与後7時間の5-OH体はThの約0.6~0.9%を示し、5’-OH体は5-OH体の約4~7倍を示した。投与後24時間において胚に5-OH体は検出されなかったが、それ以外は投与後7時間と同様の傾向が認められた。

    以上の結果から、本条件下では、サリドマイドの精液を通じた催奇形作用は認められないと結論した。また、膣内投与によりThおよび代謝物の濃度は概ね、胎盤>卵黄嚢膜≒胚の順であった。なお、着床位置には影響を受けなかった。

  • 吉岡 亘, 菊竹 寛太
    セッションID: P2-202
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    アリル炭化水素受容体(AhR)の外来物質による活性化によって、マウス新生仔の腎において、種々の遺伝子の発現増加と水腎症が生じる。AhRリガンドの中で水腎症を引き起こすのはダイオキシン類であり、四塩素化ジベンゾダイオキシン(TCDD)を用いて水腎症の研究が進展してきた。一方で、TCDD以外によってAhRを活性化した場合にも水腎症および関連の変化が生じるかはよく分かっていない。本研究においては、AhRリガンドであるbeta-naphthoflavone(bNF)を用いて新生仔腎への影響を解明することを目標とし、まずはAhRの転写活性化能の指標となるCYP1A1発現増加に焦点を当てた。

    bNFの曝露方法は、TCDDによる水腎症研究の方法[PMID: 2000632]を踏襲した。すなわち、出産日を出生後日数0(PND0)としてPND1にTCDDを母マウスに経口投与することで仔マウスに母乳を介した曝露をおこなった。bNF 80 mg/kg体重 を母マウスに投与してから2-15日後の仔マウス腎におけるCYP1A1 mRNAは溶媒対照群との違いがみとめられなかった。より早い時点である投与後3, 6, 9時間後には顕著な発現増加があり、48時間後には溶媒対照群と同水準に戻った。曝露方法を母マウスへの混餌投与(bNF 1.5 g/kg飼料)としたところ、 混餌投与開始後3, 6, 9時間後に顕著な発現増加があり、24時間後に増加傾向、48時間後には通常餌の対照群と同水準に戻った。

    本研究によって、母マウスに経口的に与えたbNFによって仔マウス腎のCYP1A1発現上昇が生じる期間がごく短時間であることが判明した。混餌投与により持続的に曝露されているにも関わらず効果が短時間のみであることについて、母マウスおよび仔マウスの体内でbNFが代謝されることが関係する可能性が考えられた。

  • 増村 健一, 本間 正充
    セッションID: P2-203
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    変異原性と発がん性の量的相関性を理解するためには、in vivo 変異原性の用量反応データを解析することが重要である。しかし、発がん標的臓器における変異原性の用量反応データとその解析例は十分でない。そこで、遺伝子組換えげっ歯類(TGR)遺伝子突然変異試験とベンチマークドーズ(BMD)法を用いて、標的臓器における変異原性の定量的解析を行った。げっ歯類肝発がん物質であるN-nitrosodimethylamine (DMN)、N-nitrosodiethylamine (DEN)、2-acetylaminofluorene (2-AAF)、2,4-diaminotoluene (2,4-DAT)を 雄Mutaマウスに28日間経口投与し、最終投与3日後に肝臓を採取してlacZ遺伝子突然変異体頻度の用量反応データをBMD法で解析した。ベンチマークレスポンスの信頼下限値(BMDL)を出発点(POD)として、発がん性データベース(CPDB)から算出した発がん性 POD(TD50, BMDL10)と比較した。その結果、TGR試験による変異原性と発がん性には量的に正の相関があることが示唆された。In vivo変異原性に基づく量的指標は発がん性予測評価に有用である可能性が示唆された。一方で、TGR 試験と発がん性試験の実験系の相違等による不確実性要因を考慮する必要があると考えられた。

  • 井垣 茂, 橋本 清弘
    セッションID: P2-204
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    In vitro遺伝毒性試験として用いられるAmes試験や小核試験では代謝物の遺伝毒性を評価するため、ラット肝臓ミクロソームであるS9分画を用いて薬剤の代謝物を生成させる試験手法が一般的である。S9分画取得のため、欧米ではPCB (polychlorinated biphenyls) 分子種であるAroclor 1254を投与してシトクロムP450の発現を誘導させるが、日本ではPCBの使用制限のためPhenobarbital+Beta-Naphthoflavone(PB/BNF)を投与して酵素誘導する。これらの誘導剤の相違によって生成代謝物の質や量に相違が生じ、遺伝毒性試験結果に差が認められるか検討した。 今回、Micro Ames試験を用い、Aroclor 1254、PB/BNFそれぞれによって誘導されたS9分画を添加して、種々の化合物添加時におけるコロニー数の増加を観察した。TA100株では2倍、TA98株では3倍のコロニー数増加を陽性判定の基準とした。一般にAmes試験の陽性対象として用いられる化合物群 (2-aminoanthraceneなど)では、誘導剤の種類による陰性/陽性判定の相違は認められなかったが、いくつかのニトロソアミン類の化合物で結果の相違が観察された。また、Aroclor 1254誘導のS9分画は、PB/BNF誘導のS9分画よりもCYP活性が高い傾向が認められた。これらの結果から、用いる誘導剤によって形成される代謝物が質的、量的に異なり、それによって遺伝毒性試験結果に相違が生じた可能性が示唆された。

  • 村田 康允, 重田 善之, 磯 貴子, 馬野 高昭, 広瀬 望, 長谷川 彩由香, 堀端 克良, 杉山 圭一, 広瀬 明彦, 増村 健一, ...
    セッションID: P2-205
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    tert-Butyl hydroperoxide (TBHP; CAS 75-91-2) is a relatively stable hydroperoxide mainly used as a polymerization initiator to produce polyethylene, polyvinyl chloride, and unsaturated polyester. It is a high production chemical, widely used in industrial countries including Japan. TBHP is also used as an additive for the manufacture of food utensils, containers, and packaging (UCP) and one of the listed chemicals on a positive list of “Food Sanitation Act” in Japan. Thus, there could be consumer exposure through oral intake of TBHP eluted from UCPs. It was revealed that TBHP is genotoxic in in vitro and in vivo assays. On the other hand, regarding the mutagenicity, there are few information about in vivo test results by oral exposure, and no information is available about carcinogenicity. We performed in vivo genotoxicity test by using the transgenic rodent gene mutation assay (OECD TG488). The transgenic MutaMouse were administered TBHP orally 75, 150, and 300 mg/kg/day for 28 days, and the induced gene mutant frequencies (MFs) were calculated by lacZ assay in tissues of liver and glandular stomach. An increase in locomotor activity was observed at 150 and 300 mg/kg/day, but no differences in weight changes and macroscopic findings were observed in either treatment group. No significant increase in the MFs of the TBHP-treated groups were observed in both liver and glandular stomach. The ENU-treated positive control showed the significant increase of MF. These results demonstrated that TBHP is not mutagenic in liver and glandular stomach under this experimental condition.

  • 古濱 彩子, 本間 正充, 杉山 圭一
    セッションID: P2-206
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    香料等の食品添加物の遺伝毒性のスクリーニングの評価には、in silicoもしくはin vitro手法を用いることが効率的である。現状Ames試験は現在もその中心を担っている一方で、in silicoの遺伝毒性評価としてのAmes変異原性を予測する定量的構造活性相関(QSAR)モデルの活用が進んでいる。本研究では、香料の中でもAmes変異原性の懸念を有する物質として報告されているフラン骨格の化学物質に着目して解析を行った。知識ベースLhasa社のDEREK Nexus、および統計ベースMultiCASE社のCASE Ultra(GT1_BMUT)を用いたAmes予測結果とAmes実試験結果について比較を行った。ここではCase Ultraにおいて、Inconclusiveの場合は保守的・安全側に陽性とした場合の評価を試みた。 評価対象とした21種類の香料並びに香料様フラン骨格の化学物質では、6物質が[試験結果と2つのQSAR予測結果が一致]し、[試験結果とDEREK Nexusが一致]が9物質、[試験結果とCASE Ultraが一致]が1物質、[試験結果と両QSAR結果が不一致]が5物質であった。これまでの試験結果のうち、加水分解や互変異性により3,4-Dihydroxyfuranを有する骨格の4物質では、Ames試験陽性の共通の傾向を有した。これら4物質は[試験結果とDEREK Nexusが一致]した。一方、加水分解反応でヒドロキシル基を有しない2物質では、類似の骨格であってもAmes試験陰性であった。これら2物質は[試験結果と両QSAR結果が不一致(Case UltraはいずれもInconclusive)]であった。香料のQSAR評価にも専門家判断は重要であることが示唆された。

    謝辞:本研究は厚生労働科学研究費補助金(21KA1001)の交付を受けたものです。

  • 鈴木 瑞穂, 黒河 佐知子, 金田 理穂, 角田 聡
    セッションID: P2-207
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    2022年8月にICHにおいてStep 4段階に到達したICH-S1B (R1)ガイドラインでは、医薬品の生理活性、免疫/内分泌系への影響及び慢性毒性試験の増殖性病変等を判断基準としたweight of evidence (WoE)に基づくがん原性評価の考え方が盛り込まれ、がん原性を予見するエビデンスが認められない場合には、ラットを用いたがん原性試験を実施せず、rasH2 Tgマウス等を用いたがん原性試験の成績から、医薬品の全身の器官・組織に対するがん原性評価が可能であることが示されている。一方、ICH-S1B (R1)ガイドラインにおいては、経皮経路で投与される局所作用型の医薬品(経皮投与医薬品)における皮膚へのがん原性評価のWoE評価の具体的な事例は示されておらず、rasH2 Tgマウスの経皮投与医薬品に対する皮膚発がん性評価への利用については、試験系の感受性も含め一定の結論は得られていない。そこで、本発表では、既知の皮膚発がん性物質の非臨床安全性試験の成績等から、皮膚への発がん性に注目したWoE評価に求められる項目を検討した上で、国内外の経皮投与医薬品の非臨床安全性試験の成績を用いたWoE評価に基づく皮膚発がん性リスク予測の結果と、これらの予測結果とがん原性試験における皮膚がん発生との関連性について比較評価した結果を報告する。また、これらの評価結果に基づいて経皮経路医薬品における「皮膚発がん性に注目したがん原性試験の実施が必要な要件」及び「皮膚発がん性に注目したがん原性試験を実施する際に考慮すべき事項について」の審査側の考察を報告する。

  • 鈴木 武博, 山村 茂樹, 岡村 和幸, 野原 恵子
    セッションID: P2-208
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【目的】C3H/HeNマウスのオスは肝腫瘍が自然発症する系統である。その自然発症肝腫瘍には、遺伝的要因、ホルモンに加え、腸内細菌も関与することが報告されている。本研究では、肝腫瘍が発症する個体における腸内細菌叢の関与を明らかにするために、個体識別後、経時的に採取した糞便DNAの16S rRNA解析から、将来的に肝腫瘍が発症する個体ではどのような腸内細菌叢に変化が起こるのかを種レベルで検討した。

    【方法】C3H/HeNマウスを個体識別し、経時的(33週齢、48週齢、74週齢)に糞便を採取し、DNAを抽出した。74週齢で解剖し、肝腫瘍の有無を確認後、肝腫瘍がある個体(腫瘍群)と肝腫瘍がない個体(対照群)に分類した。糞便中腸内細菌叢は、16S rRNAのV4領域をMiSeqでシーケンスし、QIIME2を用いて解析した。また、70週齢においてグルコース耐性試験を行い、耐糖能についても検討した。

    【結果・考察】細菌種の豊富さを示すα多様性は、マウスの週齢とともに減少する傾向がみられたが、対照群と腫瘍群で有意な変化はなかった。サンプル間での大まかな種組成の違いを示すβ多様性も、いずれの週齢においても対照群と腫瘍群で有意な変化はなかった。分子系統解析の結果、将来的に肝腫瘍が発症するマウスでは、肝腫瘍が発症していない48週齢において、肝腫瘍や2型糖尿病との関連が報告されている細菌が属レベルで有意に増加しており、74週齢でもその変化が持続していることがわかった。さらに、配列情報の解析から、肝腫瘍発症に関与する可能性のある細菌の候補を種レベルで推定した。グルコース耐性試験の結果、70週齢では腫瘍群で耐糖能の低下が観測された。糖代謝異常は肝腫瘍との関連が報告されており、以上の結果から、C3Hマウスの自然発症肝腫瘍には、腸内細菌叢の変化による糖代謝異常が関連している可能性が示唆された。

  • 志津 怜太, 牧田 夏希, 保坂 卓臣, 菅野 裕一朗, 吉成 浩一
    セッションID: P2-209
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    核内受容体CARは肝に高発現し、多種多様な化学物質により活性化され、齧歯動物において肝細胞増殖及び肝がんプロモーション作用を示すが、CAR活性化により肝がんが生じる分子機序は不明である。近年我々は、齧歯動物におけるCAR依存的な肝発がんの分子機序の解明を目指して研究を進め、発がん関連タンパク質であるYAPが重要な役割を果たすことを明らかにした。さらにCARとYAPの相互作用部位を同定し、当該部位のTyr150のHisへの変異は、相互作用を阻害することを明らかにした。本研究では、CAR遺伝子にY150H変異を導入したマウス(Y150Hマウス)を用いてCAR活性化薬投与による影響を調べ、CAR依存的な肝発がんの分子機序解明を目指した。野生型及びY150HマウスにCAR活性化薬であるTCPOBOPを単回あるいは1日1回、3日間連続で腹腔内投与し、初回投与72時間後に肝を摘出した。Ki67及びYAP抗体を用いた免疫組織染色の結果、TCPOBOP単回投与により野生型マウスで認められた肝細胞増殖及びYAPの増加はY150Hマウスで抑制された。一方で、TCPOBOP3回投与時では、YAPの増加はY150Hマウスで抑制されたものの、Ki-67陽性細胞数は両マウスで同様に増加することが確認された。肝RNAを用いた遺伝子発現解析により、3回投与時の遺伝子発現を調べたところ、細胞増殖関連遺伝子が両マウスで増加し、Y150HマウスにおいてCAR依存的な肝細胞増殖が同様に起こることが示された。単回投与時と比較して、3回投与時ではCAR標的遺伝子であるCyp2b10の誘導倍率も高く、強力なCAR活性化が認められた。すなわち、強力に活性化されたCARは、YAP との相互作用を介した経路以外にも、肝細胞増殖誘導につながる経路を有することが示された。現在、この経路を解明するため解析を進めている。

  • 佐々木 由香, 横山 知永子, 原 俊太郎
    セッションID: P2-210
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【目的】プロスタサイクリン合成酵素(PGIS)はアラキドン酸からシクロオキシゲナーゼ(COX)によって代謝されたPG(プロスタグランジン)H2をPGI2に変換する酵素である。PGISは血管内皮細胞や血管平滑筋細胞に恒常的に発現しており、産生されたPGI2は血管平滑筋の弛緩や血液凝固抑制などの役割を担っている。また、これまでに私たちはPGIS欠損マウスを用いた解析によって、PGISの欠損が化学発がん物質の誘導する膀胱がんや大腸がんを促進することを見出してきた。しかし、皮膚がんにおいてはPGIS欠損マウスでは野生型マウスと同程度の発がんが認められ、組織によってPGISの発がんにおける役割は異なることが考えられた。そこで本研究では、本邦においても罹患率の増加が問題となっている乳がんに着目し、PGISが化学発がん物質による乳がんの発症に関与するのか明らかにすることを目的とした。

    【方法】Balb/c系雌性野生型マウスおよびPGIS欠損マウスに7,12-dimethylbenz[a]anthracene(DMBA)1 mg/20 g B.W.を週1回、6週間投与した。その後は週に1回触診、観察を行い、DMBA投与開始から20週後に組織を摘出して標本を作製、観察した。

    【結果・考察】野生型マウスではDMBA投与開始から20週後には37%のマウスに乳腺に腫瘍が観察された。一方、PGIS欠損マウスでは18%にしか腫瘍が認められなかった。組織標本を作製し、顕微鏡下で観察したところ、野生型マウスでは56%のマウスの乳腺に発がんが認められたが、PGIS欠損マウスでは27%にしか認められなかった。これまでの発がんモデルと異なり、PGISの欠損は化学発がん物質による乳がんの発症を抑制することが示唆された。

  • 薄田 健史, 青木 重樹, 早川 芳弘
    セッションID: P2-211
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    【背景・目的】特異体質性の薬物過敏症の発症リスクへのヒト白血球抗原(HLA)多型の関与が近年見出されたものの、その陽性的中率が100%とならないことが問題となっている。薬物過敏症の発症環境因子を探索するため、我々はこれまでにHLA-B*57:01多型の遺伝子導入マウス(B*57:01-Tg)を作出し、本マウスが抗HIV薬アバカビル(ABC)による薬物過敏症のモデルマウスとなることを報告した。一方で免疫システムの制御には細胞内代謝環境が影響することが近年報告されている。本研究では、カロリー制限がHLA多型の関与する薬物過敏症の発症に及ぼす影響を検証した。【方法】40%カロリー制限食(CR diet)もしくは通常食を2週間給餌したCD4+ T細胞除去B*57:01-TgマウスにABC混餌を1週間経口投与した。マウスのリンパ節から単離したCD8+ T細胞について、解糖系速度、effector memory細胞の割合・機能(IFN-γ産生細胞)を評価した。【結果・考察】CR dietを給餌したB*57:01-TgマウスではCD8+ T細胞における解糖系速度が通常食給餌群と比較して有意に低下した。一方で、通常食給餌群で認められたeffector memory (CD44highCD62Llow) CD8+ T細胞やIFN-γ産生CD44highCD8+ T細胞の割合の増加がCR diet給餌群では認められず、代償的にpre-effector memory (CD44lowCD62Llow) CD8+ T細胞の割合が有意に増加した。以上の結果から、CD8+ T細胞内での解糖系代謝の抑制によりeffector機能が低下し、ABC過敏症の発症が減弱する可能性が示唆された。すなわち、HLA多型の関わる薬物過敏症の発症リスクに栄養状態の個人差も発症環境因子となりうることが示唆された。

  • 有賀 千浪, 泉沢 航平, 太田 哲也, 角谷 友美, 木村 真弥, 小森 久和, 篠澤 忠紘, 宗 哲慶, 栃谷 智秋, 永山 裕子, 福 ...
    セッションID: P2-212
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
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    核酸医薬品はクラスエフェクトとして臨床でインフルエンザ様症状等の炎症性の有害事象を起こしうることが知られており,その機序としてToll様受容体(TLR)を始めとする自然免疫系の刺激が疑われている.自然免疫活性化機構は,ヒトと実験動物で種差が大きいとされ,実験動物では臨床における作用予測が難しいと考えられることから,ヒトの末梢血単核細胞(PBMC)を用いて,in vitroで早期に臨床でのポテンシャルを検出可能な評価系構築を目指し,条件検討を行った.健常成人ボランティアの血液から調製したPBMCを,96 wellプレートに1×10^5, 2×10^5および4×10^5 cells/wellで播種して4種のTLRアゴニストを24時間曝露し,培養上清中のサイトカイン濃度を測定した.Poly(I:C) HMW(TLR3アゴニスト, 2本鎖RNA)は, IL-6,IP-10,MCP-1およびIFN-αを増加させた.R848(TLR7/8アゴニスト)は,IL-1β,IL-6,IL-8,IP-10,IFN-α,MCP-1およびTNF-αを増加させた.ODN 2006(TLR9アゴニスト, 1本鎖DNA)は,IP-10,IFN-α,MCP-1およびIL-8を,ODN 2216(TLR9アゴニスト, 1本鎖DNA)は,IL-6,IP-10,IFN-α,MCP-1,TNF-αおよびIFN-βを増加させた.サイトカイン濃度は播種細胞密度依存的に増加する傾向が見られたが,今回用いたいずれの播種細胞密度においてもTLRアゴニストによるサイトカインの増加作用は概ね検出可能であった.以上より,ヒトPBMCを用いて本試験で用いたサイトカインを測定することで,核酸医薬品による自然免疫活性化作用を評価可能なことが示唆された.

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