日本毒性学会学術年会
最新号
選択された号の論文の555件中301~350を表示しています
学生ポスター発表賞 応募演題
  • 坂口 直哉, Samal KAUMBEKOVA, 小野田 淳人, 板野 凌大, Mehdi TORKMAHALLEH, Dhawal SHA ...
    セッションID: P1-063S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    フッ化物ナノ粒子 (NPs) は、蛍光材料としてバイオイメージングなど生物医学分野への応用が期待されている。NPsと生体系や生体分子との相互作用が調査されているが、これらの相互作用の根底にあるメカニズムは未解明である。特に、NPs表面におけるタンパク質凝集のメカニズムを解明することは、神経毒性を回避できる生体適合性の高い医療用NPsの開発に役立つ可能性がある。本研究は、赤外分光法を用いてフッ化物NPsとアミロイドβ (Aβ16–20) ペプチドとの相互作用を検証することを目的とした。フッ化物NPsは熱分解法により合成し、X線回折、動的光散乱測定を用いて評価した。合成したフッ化物NPsはCeF3であり、NPsの直径は80 nm程度であった。CeF3 NPsとAβ16–20ペプチドを混合し、赤外分光法による解析を行った結果、CeF3 NPsがAβ16–20のβシート形成を促進することが示された。この現象は、水性環境におけるNPsとAβペプチド間の疎水性相互作用によってAβペプチドがNPs表面で互いに接近し、規則正しい水素結合を形成することに起因すると考えられた。共存する塩がAβペプチドの凝集傾向に与える影響を検証した結果、Aβペプチドのβシート構造の形成がNH4+イオン共存下では促進され、NO3イオン共存下では抑制された。この現象はAβペプチドのリジン残基(アミノ基)とイオンの静電相互作用によって説明された。イオン非共存下においてはNPsの濃度が大きくなるにつれてAβペプチドのβシート量が増加したが、NH4+イオン、NO3イオン共存下ではこの増加量が減少しており、NPs表面へAβペプチドが吸着し束縛された可能性が考えられた。以上の結果は、NPs―タンパク質相互作用の原理の一端を示すものであり、異なるNPs、異なるタンパク質を用いた更なる比較研究が求められる。

  • 奥川 友裕, 佐川 友哉, 石川 良賀, 宮坂 奈津子, 長尾 慧, 本田 晶子, 高野 裕久
    セッションID: P1-064S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    ナノテクノロジーの急速な発展により、様々なナノ粒子の応用が進んでいるが、酸化チタン(TiO­2)ナノ粒子は、生物・医学、農業・食品など特に幅広い分野で利用されている。しかし近年、TiO2粒子の急性経気道曝露は肺における炎症・線維化を誘発する可能性が報告されており、またその詳細なメカニズムも明らかになっていない。そこで本研究では、TiO2粒子が急性肺炎症を惹起する分子機構の一端を明らかにすることを目的とし、細胞死の一種であるネクロトーシスに着目した。TiO2粒子を気管内投与したマウスの肺組織について、免疫組織化学染色によってネクロトーシスのトリガー分子であるpMLKLの発現を評価し、また同肺組織において暗視野顕微鏡観察を行い、TiO2粒子の肺組織における局在を評価した。その結果、曝露24時間後においてTiO2粒子を貪食したマクロファージでpMLKL陽性像が多数認められたが、曝露72時間後にはTiO2粒子およびpMLKL陽性像は減少していた。また、TiO2粒子気管内投与後の気管支肺胞洗浄液中を回収し、炎症細胞数およびケモカイン(CCL2、CCL3)濃度を測定した。その結果、曝露24時間後において炎症細胞数、ケモカイン濃度のいずれについてもコントロール群より有意に増加し、さらにネクロトーシス阻害剤の腹腔内投与によってそれらの増加は抑制された。一方、曝露72時間後には、24時間後に比べて炎症細胞数およびケモカイン濃度は減少しており、ネクロトーシス阻害剤による効果も減弱した。以上の結果より、TiO2粒子曝露後、主に肺胞マクロファージが起こすネクロトーシスは、曝露24時間前後までの急性期において肺炎症反応を制御していることが示唆された。本研究の成果は、未だ解明されていないTiO2粒子曝露による短・中期的な肺炎症の機序を明らかにする上で非常に重要な知見になることが期待される。

  • 信岡 英彦, 馬 闖, 泉谷 惇, 上野 麟太朗, 三村 将来, 上田 勝也, 齋藤 直人, 羽二生 久夫
    セッションID: P1-065S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    Purpose: Our group has been evaluating the function and biocompatibility of nanomaterials for medical applications in the field of orthopedics. We earlier presented on the safety of carbon nanohorns (CNHs) and nano-ferrite particles (NFPs) on osteoblasts. Although the cytotoxicity of CNHs was higher, the osteoblast status differed between the nanomaterials. This study evaluated the cytotoxicity and uptake status of NFPs on osteoblasts under the same conditions as the prior CNH exposure. Methods: The MC3T3-E1 mouse preosteoblastic cell line (MC cells) with (Cal) and without (Non) calcification stimulation was used for NFP cytotoxicity assessment, morphological evaluation of NFP intracellular uptake, and relative quantitative comparisons by flow cytometry (FCM). Results: The cytotoxicity of NFPs was comparable in the Cal and Non groups at 24 h post-exposure, but at 48 h, the Cal group exhibited significantly more cytotoxicity. NFP uptake was evident on optical microscopy in the Cal group only. FCM comparisons showed a slight increase in cellular uptake in the Non group and a significant increase in the Cal group versus each control. Discussion: The cellular response of MC cells to NFPs was considerably different to CNHs. It appears that the intracellular uptake mechanism of CNHs in the non-calcification state of MC cells does not function for NFPs, whereas calcification stimulation induces MC cells to uptake NFPs. These results suggest that the safety of nanomaterials on osteoblasts should be evaluated before and after functional changes caused by calcification stimulation.

  • 滝貞 真胤, 宗 才, 山崎 京香, 森本 匠飛, 滝澤 亮哉, 市原 佐保子, 市原 学
    セッションID: P1-066S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    カーボンナノチューブ(CNT)は工学の分野で広く応用可能性なナノマテリアルとして注目されている。しかし、その高いアスペクト比と生物耐久性がアスベスト様の毒性を誘発させる懸念が指摘されている。本研究では咽頭吸引法によりNrf2ノックアウトマウスおよび野生型マウスに多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を経気道曝露し、肺への影響におけるNrf2の役割を調べることを目的とした。C57BL/6JJcl野生型雄マウスとNrf2-/-雄マウスに咽頭吸引法にて、Dispersion medium (DM)に分散させたNanocyl社の多層カーボンナノチューブShort、Longともに10、20μg、コントロール群にはDMを吸引させた。曝露7日後に深麻酔下で気管支肺胞洗浄を行い、回収した気管支肺胞洗浄液(BALF)中の細胞数を計測した。また、摘出した肺の重量を測定した。各遺伝子型において群間比較を行った結果、絶対肺重量、相対肺重量ともに有意差はなかった。BALF中の総細胞数は野生型のLong20μg曝露群のみコントロール群と有意差があった。炎症細胞ごとに細胞数を計数したところ、野生型でのみマクロファージ数はLong20μg曝露群で、好中球数はShort20μg曝露群で有意に増加した。病理組織学的観察を行ったところ、肺肉芽腫様変化が観察された。野生型マウスにおいてLong20μg曝露群では炎症反応が起こるが、Nrf2KOマウスでは炎症反応が減弱することが示唆された。この結果は多くの化学物質でNrf2が炎症感受性を高めるものと逆である。さらにLong曝露群でのみ有意差が出たことから、MWCNTによる炎症誘導作用にはMWCNTの長さが関与していることも示唆された。また、病理組織学的観察からMWCNTは肺に滞留し、炎症反応を誘導することが分かった。

  • 山崎 京香, Sandra VRANIC, 渡邊 英里, 宮川 佳洋子, 竹内 咲恵, 長田 百合果, 市原 佐保子, Wenting WU ...
    セッションID: P1-067S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】近年、ナノマテリアルは様々な分野で利用が拡大しているのに対し、その安全性は未だ研究途上である。非晶質シリカナノ粒子(OH-SiO2NPs)は、広範に使用されているナノマテリアルだが、アミノ基やカルボキシル基などで修飾を受けたSiO2NPsと比較して、in vivoで肺胞マクロファージを減少させるとともに、in vitroでマウスマクロファージ細胞株RAW264.7の細胞生存率を著しく低下させることが先行研究により明らかになっている。本研究は、in vitroでOH-SiO2NPsによるマクロファージ傷害メカニズムを検討した。

    【方法】マウスマクロファージ細胞株RAW264.7をOH-SiO2NPsに曝露し、各種プログラム細胞死経路の阻害剤を処置することで、細胞傷害と各細胞死経路との関係を検討した。また、炎症性ケモカイン、サイトカインのmRNA発現量をRT-qPCRにより測定した。

    【結果・考察】OH-SiO2NPsによって引き起こされた細胞生存率の低下は、各種阻害剤を単独で処置しても有意な改善は見られなかったが、非特異的カスパーゼ阻害剤とネクロトーシス阻害剤を同時に処置すると一定の改善傾向が見られた。このことから、OH-SiO2NPsによる細胞死にはアポトーシスまたはネクロトーシス経路の部分的関与が示唆された。また、RT-qPCRで測定したMIP-2, IL-1β, MCP-1, TNF-αのmRNA発現は、コントロール群と比較してOH-SiO2NPs曝露群で有意に上昇していた。この結果から、OH-SiO2NPsへの曝露がマクロファージの炎症性ケモカイン、サイトカインの発現を誘導することがわかったが、ケモカイン、サイトカインの細胞死における役割についてはさらなる研究が必要である。

  • 根津 直幸, 田中 美樹, 奥田 知明, 石原 康宏
    セッションID: P1-068S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    最近の疫学研究により、大気汚染の主な原因の1つである微小粒子状物質(PM2.5)は、脳神経系に影響することが分かってきた。大気中PM2.5濃度増加により脳梗塞発症後の入院日数の増加や死亡率の上昇が報告され、PM2.5は脳梗塞予後を増悪させることが示唆されている。しかし、PM2.5の構成成分は多様で、PM2.5のどの成分が脳梗塞予後悪化に関わるかは明らかではない。そこで本研究ではPM2.5に含まれるエンドトキシンに着目し、その脳梗塞予後に及ぼす影響を解析した。

    まず、C3H/HeN(正常TLR4発現)とC3H/HeJ(変異TLR4発現)系統のマウスを用い、エンドトキシンの作用を検討した。横浜で採取したPM2.5を7日間経鼻曝露し、光血栓法により脳梗塞を誘導して、脳梗塞後の運動機能をロータロッド試験により調べた。しかし、PM2.5曝露に関わらず、系統間で運動機能障害に差が見られた。これはTLR4が脳梗塞の予後を悪化させることを示しており、エンドトキシンの作用を評価するには適切でない実験であった。そこで次に、エンドトキシンのTLR4結合を阻害することが知られているポリミキシンB(PMB)を用いた。U937より分化させたマクロファージにPMBで前処置したPM2.5を曝露したところ、PM2.5処置により生じる炎症性分子の発現増加が有意に抑制された。従って、PMBはPM2.5に含まれるエンドトキシンの作用を中和すると考えられる。ICRマウスにて脳梗塞予後を調べると、PM2.5曝露ではコントロールと比較して運動能力の増悪とその回復の遅延が認められ、PMBの前処理はこれらの作用を抑制した。

    以上の結果より、PM2.5に含まれるエンドトキシンが炎症を介して脳梗塞予後を悪化させることが示唆された。PM2.5中エンドトキシンの脳梗塞予後悪化メカニズムの精査は、今後の課題である。

  • 長谷川 あい子, 松田 直毅, 鈴木 郁郎
    セッションID: P1-069S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    神経伝達物質の放出異常によって引き起こされる中枢神経疾患および化合物の副作用は多くの報告がある。グルタミン酸とGABAの放出は興奮(E)と抑制(I)のバランスを調節しており、E/Iバランスの乱れがてんかんや統合失調症などの病態を引き起こすことが知られている。神経伝達物質の放出と細胞外電位(スパイク)を同時に測定することができれば、電気的活動の変化と神経伝達物質の放出の関係を明らかにすることができ、化合物の副作用評価や病態解明に有効な手段となる。 本研究では、 痙攣現象の重要な因子であるグルタミン酸と過酸化水素(H2O2)の放出を標的として、細胞外電位を同時に測定できる微小電極アレイ(MEA)の開発を目指した。 酵素修飾カーボンナノチューブ(CNT)-MEAを開発した結果、グルタミン酸の検出限界を1nMレベルで検出し、用量依存性を1μMレベルで検出した。H2O2 はnM レベルで正常に検出された。次に、酵素修飾CNT-MEAを用いてマウス急性脳スライスを測定した結果、グルタミン酸放出と細胞外電位、H2O2と細胞外電位を同時に測定することに成功し、薬物投与による神経伝達物質と細胞外電位の変化も検出することが出来た。今回開発したCNT-MEAによる神経伝達物質と細胞外電位の同時測定は、化合物の毒性リスク評価とメカニズム解明を可能にする新しい毒性評価法として応用が期待される。

  • 皆藤 駿之介, 岩田 美咲, 保坂 卓臣, 志津 怜太, 竹下 潤一, 吉成 浩一
    セッションID: P1-070S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【背景】薬剤性肝障害(DILI)は、医薬品の開発中止や販売中止の主要要因であり、その評価・予測法の確立が求められている。本研究では、未試験物質の毒性を類似物質の毒性情報から類推する、リードアクロス手法によるDILI評価手法の開発を最終的な目的とし、化学構造情報と毒性関連インビトロ試験結果を利用して基礎的検討を行った。【方法】米国FDAのDILIrankデータセットからDILI誘発性の薬物(DILI薬物)213種とDILI誘発性のない薬物(no-DILI薬物)74種を選択した。このデータセットから21種のDILI薬物、8種のno-DILI薬物を無作為に抽出して被験物質とし、残りを参照物質とした。これらの物質について、HepG2細胞を用いた細胞障害性試験並びにハイコンテント解析を実施した。また、10種のヒトP450分子種及びヒトUDP-グルクロン酸転移酵素に対する阻害作用をインビトロで評価した。分子記述子をalvaDescで計算し、計量的記述子を用いて物質間のユークリッド距離を算出した。【結果及び考察】物質間の全距離の分布の第一四分位を閾値として各被験物質の閾値以内に存在する参照物質を近傍物質として抽出し、近傍物質のDILI薬物の割合がデータセット全体の陽性率より高い場合に被験物質をDILI陽性、低い場合をDILI陰性と判定した。その結果、感度、特異度、一致率はそれぞれ0.714、0.750、0.724であった。次に、誤判定された6種のDILI薬物と2種のno-DILI薬物について、インビトロ試験結果を利用して決定木を作成してそれぞれの近傍物質をさらに選別したところ、6物質が正しく判定された。以上より、化学構造情報に基づくリードアクロスはDILI予測にも有用であること、またインビトロ試験結果を利用することでその精度向上が期待されることが示唆された。

  • 田口 央基, 藤代 瞳, 姫野 誠一郎, 角 大悟
    セッションID: P1-071S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    我々は、抗がん剤であるシスプラチン(CDDP)による腎障害の詳細な機序を解明するために、マウス近位尿細管S1, S2, S3領域由来不死化細胞(S1, S2, S3細胞)を用いて検討を行ってきた。これまでの検討により、S3細胞はCDDPに対して高い感受性を示すこと、その一因としてCDDPを添加したS3細胞では、活性酸素(ROS)量が顕著に増加することを見出した。本研究では、CDDPとROS産生剤のパラコート(PQ)添加による細胞応答を比較することで、S3細胞のCDDPに対する脆弱性に関わる機序を明らかにすることを目的とした。細胞内遊離Fe2+量を比較したところ、S3細胞で高い値を示した。また、CDDP添加によってFe2+量はS3細胞において顕著に増加した。細胞内で生じたROSは細胞膜リン脂質に含まれる不飽和脂肪酸を酸化することが知られている。そこで、CDDP, PQ添加後の過酸化脂質量について検討したところ、S3細胞において過酸化脂質量が著しく高いことが明らかとなった。また、生体内で生じた過酸化脂質を還元するグルタチオンペルオキシダーゼ4の発現量を細胞間で比較したところ、PQ添加ではいずれの細胞においても発現量は増加したが、CDDP添加ではS3細胞においてのみ減少した。CDDPに対するS3細胞の高感受性に鉄依存的な脂質酸化反応を伴う細胞死であるフェロトーシスが関与するのか検討したところ、フェロトーシス阻害剤Ferrostatin-1によってCDDPによる細胞死が抑制された。以上のことから、S3細胞がCDDPに対して高感受性を示す原因として、フェロトーシスが一部関与していることが示唆された。今後、CDDPによるS3細胞特異的な遊離Fe2+の増加と過酸化脂質量の増加との関係を検討することで、近位尿細管の領域特異的な障害発生機構の解明を目指したい。

  • 関口 敬大, 盛 喜久枝, 宇野 絹子, 煙山 紀子, 勝間田 真一, 松崎 広志, 美谷島 克宏
    セッションID: P1-072S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【背景及び目的】リンの過剰摂取は石灰沈着による尿細管障害を引き起こし、間質領域における線維化を惹起する。尿細管間質の線維化は腎機能の低下と相関することが知られているが、線維化が生じる機序については未だ不明な点が多い。本研究では高リン食の給餌により短期間で誘発される腎臓の線維化について病理組織学的な解析を実施した。【材料及び方法】5週齢の雄性SDラットに右片腎摘出処置(UNx)を施し、飼料として0.3%KH2PO4、または1.5% KH2PO4を与え、給餌期間は21日間とした。対照群は疑似手術を施したSDラットに0.3% KH2PO4を与え同条件で飼育した。解剖前に24時間採尿を行い、解剖時に腎臓を採取した。尿について生化学検査を実施し、腎臓について病理組織学的解析を行った。【結果】尿及び血液についての生化学的検査において、UNx+1.5%投与群で、Ccrの低下、U-ALB、尿中L-FABPの増加が認められた。病理組織化学的解析では、同群において、中程度~重度の炎症性細胞浸潤、再生尿細管、軽度~重度の尿細管拡張及び間質の線維化,ごく軽度~中程度の石灰化が観察された。また免疫組織化学染色では、尿細管上皮におけるCD44の発現、間質領域におけるα-SMA陽性細胞数の増加が見られた。【考察】UNx処置及び1.5% KH2PO4給餌によって、石灰沈着を伴う重度の尿細管障害が誘発され、それに続き尿細管間質に顕著な線維化が生じたものと考えられた。また、CD44の発現は先行研究と同様に再生尿細管上皮で発現し、それが線維化の進行に寄与していると考えられた。以上のことから、SDラットにUNx処置並びに高リン食を給餌することで尿細管間質の線維化が促進され慢性腎症の増悪要因となることを実験的に検証した。

  • 番場 琴音, 白坂 善之, 鮒井 悠汰, 浅地 英, 大島 浩子, 大島 正伸, 玉井 郁巳
    セッションID: P1-073S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    下痢や便秘などの消化器毒性は、新薬開発の第1相臨床試験において最も高頻度で発生する有害事象である。したがって、円滑な医薬品開発を実現するためには、薬物の有効性や動態特性のみならず、消化器毒性などの安全性の適切な予測が重要となる。しかし、消化器毒性については、水分/電解質調整、消化管ホルモン、腸内細菌叢など、複数因子の関与が推察されており、その発生機序に基づいた有効なin vitro毒性評価法は未だ確立されていない。そこで本研究では、生理機能を反映できるオルガノイド技術を活用した薬物性消化管毒性予測法の確立を目指して、副作用として下痢症状を有するmetforminをモデル薬物として用い、serotonin(5-HT)が及ぼす水分調節機能への影響ならびにその薬物応答性に関する検討を試みた。まず、Caco-2細胞およびアフリカツメガエル卵母細胞トランスポーター発現系を用いたin vitro実験より、metforminがセロトニントランスポーターSERTを介した5-HTの消化管吸収を阻害する可能性が示された。また、ラットin situ実験により、metformin暴露に伴い消化管内水分量が増加し、同時に管腔内5-HTならびにCl-レベルが上昇した。以上の結果から、薬物性消化器毒性は、5-HT輸送阻害による管腔内5-HTレベルの上昇とそれに伴う水分分泌作用に起因することが推察された。さらに、ラット大腸由来オルガノイドを用いたin vitro膨張評価(swelling assay)において、5-HTおよびforskolin(Cl-チャネル活性化薬)暴露による水分分泌が観察された。また、これらの現象はCl-チャネル阻害により改善した。以上より、大腸由来オルガノイドを用いた薬物性消化器毒性予測法が、in vivo毒性メカニズムを反映できる有効な評価システムとなることが示唆された。

  • 畑中 悠里, 宇野 絹子, 白井 陽月, 柴田 朱衣, 煙山 紀子, 美谷島 克宏
    セッションID: P1-074S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    炎症性腸疾患(IBD)は主に腸管に慢性炎症を引き起こす疾患であり、その患者数は増加傾向にあるとされる。発症要因として遺伝的素因やその他食事などの環境因子が挙げられるが、原因は明らかではない。原因解明や創薬のために、より早期で安定的な病態を発現するモデル動物の開発が求められる。デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘発性大腸炎モデルは投与が容易であり、ヒト潰瘍性大腸炎と類似したメカニズムを有していることから広く用いられている。しかし、DSSの濃度や飼育環境によって、発現する病態にばらつきがみられることがある。本研究は、DSSの異なる濃度・投与期間によって発現する病態を評価し、より早期で安定的な条件を検討するとともに、変動するパラメータの解析による病態制御に関与する因子の探索を行った。動物は雄性7週齢のC57BL/6jマウスを用い、通常食を与えた。DSSは1.25%、2.5%、及び5%を飲水投与し、試験期間は3日から2週間とした。試験期間中に、一般状態の悪化を呈する個体は安楽殺を施した。解剖時には大腸を摘出し、遺伝子発現解析及び病理組織学的解析を行った。DSS1.25%及び2.5%試験では、2週間の試験期間中で瀕死個体や死亡個体が呈された一方で、大腸に明らかな病変を示さない個体も観察され、病態にばらつきが見られた。DSS5%試験では、投与3日で炎症パラメータの安定的な上昇が示され、投与7日によって大腸における明らかな炎症像を呈し、安定した病態発現が観察された。TNF alphaやIL1betaは、投与3日で顕著な発現上昇を示し、投与7日では投与3日と比較して減少傾向を示した。一方で、MIP-2やMRP8は投与3日から顕著な発現上昇を示し、投与7日でさらに増強した。以上のことからDSS5%飲水投与が早期から安定した病態発現を誘導し、さらに炎症の増強に関与する因子が見出された。

  • Huan WANG, Guiying KANG, Chenglong MA, Hua LIAN, Kexin ZHAO, Jiangdong ...
    セッションID: P1-075S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    Acetaminophen (N-acetyl-p-aminophenol; APAP) is one of the most widely used analgesic and antipyretic drugs. In order to investigate the toxicity of APAP, we used zebrafish embryos or larvae as model animals to test the effect of APAP on zebrafish embryos or larvae. Zebrafish embryos were exposed to 0 (control), 0.01, 0.1, 1, and 5 mM APAP from 4 hour post fertilization (hpf) to detection. Morphological changes in zebrafish were observed every 24 hpf, and behavioral changes were detected from 18 to 120 hpf. Histological changes, transcriptional analysis, and expression changes of thyroid-related genes were performed at 72 hpf. Experimental data showed that APAP caused pericardial edema in zebrafish embryos or larvae (42.7%, P<0.05), and pigmentation decreased (66.6%, P<0.05). Behavioral analyzes showed that APAP (0.1-5 mM) exposure also resulted in a significant increase in coiling behavior in early-developing embryos (18-32 hpf). However, when tested at 120 hpf, APAP (0.1 and 1 mM) increased the swimming distance of zebrafish larvae, while 5 mM APAP decreased the swimming distance of zebrafish larvae (100%, P<0.05). KEGG discovery of retinol metabolism, Fanconi anemia pathway, and tyrosine metabolism. Differentially expressed lncRNAs were identified to affect pigment development (fabp4b, cyp7a1, rpe65a) as well as pigment production in the thyroid (tyrp1b, fabp4b). RT-PCR assay also showed that APAP treatment led to a decrease in zebrafish thyroid peroxidase (tpo) and thyroid hormone receptor β (thrβ) mRNA expression (P < 0.05). The deleterious effects of APAP on zebrafish embryos may be due to its disruptive effect on the functional regulation of the thyroid hormone (THs) system. It is suggested should use APAP with caution.

  • 青木 咲子, 光本(貝崎) 明日香, 中野 僚太, 沼澤 聡
    セッションID: P1-076S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【背景】アンフェタミン型興奮薬は世界的に広く乱用されている。日本では特にメタンフェタミン(METH)の乱用者が多く、薬物事犯者のうち最多で推移している。母親のMETH乱用は、子に出生体重の低下、運動発達障害などの影響を与えると報告されている。しかし、METH乱用は男性に多いにも関わらず、父親の乱用が次世代へ与える影響は明らかでない。そこで本研究ではマウスモデルを用い、父親のMETH乱用が次世代及び次々世代に与える影響を検討した。【方法】6週齢のICR雄性マウスにMETHまたは生食を21日間皮下投与し、薬物未処置の雌性マウスと交配させ、仔(F1)を得た。出生日をP0とし、発育評価のために体重測定(P4-21)、正向反射試験(P4-12、2日毎)、断崖回避試験(P9-18、3日毎)およびワイヤーハング試験(P10-19、3日毎)を行った。6週齢で自発運動量測定及び高架式十字迷路試験を、7週齢で受動回避試験を実施した。一部のF1脳の線条体と海馬を採取し、RT-PCR法によりComtGabra3等の遺伝子発現量を測定した。また、一部の雄性F1(9週齢)と薬物未処置の雌性マウスを交配させ、孫世代(F2)を得た。P4から7週齢まで、F1と同様の試験を実施した。【結果・考察】F1、F2のMETH群では、対照群に比べ、いずれも有意な発育遅延が認められた。また、F1、F2共にMETH群の自発運動量は対照群に比べ有意に低かった。受動回避試験による記憶力評価では、F1のMETH群において記憶力の低下が認められたが、F2では認められなかった。F1、F2の脳では、一部雌雄差があるものの、ComtGabra3等、複数の遺伝子発現が変化していた。以上より、父親のMETH摂取は、次世代や次々世代の遺伝子発現に影響を与え、その結果、発達障害を引き起こす可能性が示唆された。

  • 酒巻 友里, 菖蒲谷 桃香, 尾城 椋太, 鄒 昕羽, 唐 倩, 小澤 俊介, 吉田 敏則, 渋谷 淳
    セッションID: P1-077S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【背景及び目的】甲状腺ホルモン(TH)は脳発達に重要な調節因子であり、甲状腺機能低下による精神遅滞等の発達障害を引き起こす。固体ロケット燃料や爆薬等の酸化剤として用いられる過塩素酸アンモニウム(AP)は、TH合成に不可欠なヨウ素の取り込みを阻害してTH放出を低下させる。また、過塩素酸塩は母乳中に集積するため、その環境汚染により乳幼児が高濃度に曝露される可能性がある。本研究ではAPの発達神経毒性評価を目的として、その高感受性エンドポイントと考えられる成体神経新生に着目して、ラットの発達期曝露による海馬歯状回の神経新生障害について検討した。【方法】OECDのTG426に準じ、妊娠6日目から離乳時の生後21日目まで、母ラットに対してAPを0, 300, 1000 ppmの用量で飲水投与した。離乳時及び成熟後(77日目)の雄児動物について、各種の神経新生指標を免疫組織化学的に検討した。【結果】曝露終了時に、母動物、児動物共に、低用量より甲状腺濾胞上皮の過形成とコロイドの減少を示し、児動物血清中のT3, T4は高用量群で減少した。海馬神経新生では、用量に依存して顆粒細胞系譜のGFAP+細胞数とPCNA+細胞数が減少した。その他、顆粒細胞系譜のSOX2+及びTBR2+細胞、ARC+顆粒細胞の用量依存的な減数傾向、高用量群でのRELN及びPVALB+介在ニューロンの減数傾向を認めた。成熟後では、これらの変化は消失した。【考察】APの発達期曝露により、既に報告してある抗甲状腺剤投与による変化と同様に、曝露終了時での顆粒細胞系譜の増殖抑制に伴うtype-1神経幹細胞からtype-2b神経前駆細胞数の減少、ARC依存性のシナプス可塑性の低下及びPVALB+介在ニューロンの減数を認めた。一方で、一致しない変化としてRELN+介在ニューロン数が減少し、幹細胞の静止・維持の抑制への関与が示唆された。

  • 糟谷 佐保里, 目加田 京子, 小泉 茉奈海, 石田 慶士, 松丸 大輔, 村嶋 亜紀, 諫田 泰成, 中西 剛
    セッションID: P1-078S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】甲状腺機能低下を誘導する化学物質の次世代影響が懸念されている。そのため2018年に甲状腺関連指標の評価がOECDの対象毒性試験ガイドラインに追加された。しかし、化学物質誘導性の甲状腺関連指標の変動レベルと次世代影響との相関については不明な点が多く、化学物質リスク管理のスキームの確立には至っていない。そこで本研究では、様々な程度で母体の甲状腺機能低下を誘導した際の胎仔発生への影響を解析した。【方法】OECD TG414に準じて試験をおこなった。ICRマウスに妊娠6日目から18日目まで抗甲状腺薬であるプロピルチオウラシル(PTU)を0、2、10、50、250 ppmの濃度で混餌投与し、妊娠18日目に剖検を行った。母動物では、血清甲状腺関連ホルモンの測定および甲状腺組織学的解析を行い、胎仔では外表検査・内臓検査・骨格検査を行った。【結果】母動物においては、50、250 ppm投与群でT3、T4の低下とTSHの上昇が認められ、典型的な甲状腺機能低下状態であることが確認された。また甲状腺組織解析においても50、250 ppm投与群で甲状腺の色調変化とコロイドの欠失が観察された。さらに濾胞細胞の肥厚については、50、250 ppm投与群に加えて、血中甲状腺関連ホルモンに変化が生じていない10 ppm投与群においても観察された。一方で胎仔においては、外表検査、内臓検査および骨格検査で、いずれの用量においてもPTU投与による影響は認められなかった。【考察・結論】妊娠期の甲状腺機能低下は、組織学的手法を用いることで血中甲状腺関連ホルモンの変化より鋭敏に検出することができる可能性、そして妊娠期の甲状腺機能低下は胎仔期の臓器形成や骨格形成には影響を与えない可能性が示唆された。本研究成果は、甲状腺機能低下を誘導する化学物質のリスク管理において有益な情報となることが期待される。

  • 小泉 茉奈海, 石田 慶士, 森 一馬, 糟谷 佐保里, 辰巳 佳乃子, 目加田 京子, 松丸 大輔, 村嶋 亜紀, 永瀬 久光, 諫田 泰 ...
    セッションID: P1-079S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】近年、甲状腺機能低下を誘導する化学物質が、児の脳発達に影響を与える可能性が懸念されている。このことから、2018年に甲状腺関連指標の評価がOECDの対象毒性試験ガイドラインに追加された。しかし追加された甲状腺機能関連指標の変動レベルと児の脳発達への影響の程度の関連は未だ不明であることから、化学物質リスク管理のスキームの確立には至っていない。本研究では、独自に作製した神経分化トレーサートランスジェニック(Tg)マウスを用いて、周産期の甲状腺機能低下と児の脳発達の関係を検証した。【方法】マウス母体に抗甲状腺薬プロピルチオウラシル(PTU)を妊娠6日目から出産後13日目まで10 ppm(マウスの甲状腺に影響がみられる最小用量)と250 ppm(重度の甲状腺機能低下を誘導する用量)、出産後14日目から21日目までは半量にして混餌投与した。Tgマウスの脳のLuc活性は出生後4から16日目まで3日おきにin vivoイメージングで評価した。【結果・考察】In vivoイメージング解析の結果、正常マウスと比較して10 ppm投与群では出生後4から16日目で脳のLuc活性の有意な上昇が認められた。特に4、7日目で影響が顕著であり、シナプスの過形成または刈り込み不全が起きている可能性が示唆された。このことから、甲状腺機能低下を引き起こす化学物質が低用量から児の脳発達に影響を与える可能性が示された。一方、250 ppm投与群では出生後10から16日目でLuc活性が高値となり、特に10、13日目で影響が顕著であったことから、神経分化の遅延も生じている可能性が示唆された。【結論】以上より、化学物質曝露で引き起こされる軽度な母体甲状腺機能低下においても児の脳発達に影響が生じる可能性が明らかとなった。また甲状腺機能低下の程度により、児の脳発達に多様な影響が生じる可能性が示唆された。

  • Xinyu ZOU, Qian TANG, Ryota OJIRO, Shunsuke OZAWA, Momoka SHOBUDANI, Y ...
    セッションID: P1-080S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    Imidacloprid (IMI) is a widely used neonicotinoid insecticide; however, its neurotoxic potential in mammalian brain remains unknown. The present study investigated the developmental exposure effect of IMI on postnatal neurogenesis in the hippocampal dentate gyrus (DG) of rat offspring. Dams were exposed to IMI (83, 250, and 750 ppm in diet) from gestation day 6 until day 21 post-delivery on weaning, and offspring were maintained without IMI exposure until adult age on postnatal day 77. On weaning, 750 ppm IMI decreased the numbers of DCX+ cells, TUBB3+ cells, and PCNA+ proliferating cells in the neurogenic niche, FOS+ or p-ERK1/2+ granule cells, and RELN+ interneurons in the DG hilus, suggesting suppressed proliferation of late-stage neural progenitor cells and decreased synaptic plasticity of newborn granule cells through suppressing RELN signaling. In adult age, IMI decreased the number of GFAP+ type-1 neural stem cells from 250 ppm and downregulated Pcna at 750 ppm, suggesting a late effect of suppressed RELN signaling on stem cell quiescence or maintenance at weaning. Immunohistochemical and gene expression data in the DG suggested a shift from an induction of both neuroinflammation and oxidative stress on weaning to a state of increased sensitivity to oxidative stress in adult age. Moreover, 750 ppm IMI sustained to decrease hippocampal acetylcholinesterase level. The results suggest that developmental IMI exposure persistently affected hippocampal nicotinergic signaling and neurogenesis involving neuroinflammatory and oxidative stress responses at high doses in rats.

  • 加来 建之, 佐々木 貴煕, 原 健士朗, 種村 健太郎
    セッションID: P1-081S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】ネオニコチノイド系殺虫剤クロチアニジン(CLO)は昆虫のニコチン性アセチルコリン受容体と結合し、神経系の異常興奮伝達を引き起こすことで殺虫効果を示す。CLOは昆虫以外の生物には安全とされ広く用いられてきたが、近年では哺乳類に対しても毒性を示すという報告が複数挙がっている。また化学物質に対する感受性は雌雄で異なることが知られているが、毒性評価の多くが雄のみを対象としており、雌雄を包括した研究は少ない。本研究では、幼若期や思春期あるいは成熟期におけるCLO曝露による遅発行動影響とその雌雄差を評価することを目的とした。【方法】80mg/kg のCLOをアセトン溶液に溶解し、2、6、10週齢の雌雄のC57BL/6Nマウスに強制単回経口投与した。なお、対照群には上記の溶媒を投与した。各群は13~15週齢および28~30週齢に、オープンフィールド試験、明暗往来試験、恐怖条件付け学習記憶試験からなるバッテリー式の行動試験に供した。【結果】13~15週齢に実施した行動試験では顕著な行動変調は観察されなかった。一方で28~30週齢に実施した行動試験では、2週齢投与群で雌にオープンフィールド試験における中央部滞在時間の低下と恐怖条件付け学習記憶試験におけるすくみ率の低下がみられたことから不安関連行動の増加と音連想記憶能の低下が示唆された。また6週齢投与群でも雌に恐怖条件付け学習記憶試験におけるすくみ率が低下したことから空間連想記憶能の低下が示唆された。13~15週齢に実施した行動試験では行動変調が観察されなかったことからCLOの投与影響は経時的に進行すると考えられた。また28~30週齢に実施した行動試験では雌にのみ有意に行動変調が観察されたことから雌において脳高次機能障害を誘発することが推察された。

  • 大平 智春, 冨田 賢吾, 金木 真央, 早川 千春, 上家 潤一, 福山 朋季
    セッションID: P1-082S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    Ozone gas has been widely used as an infection control including COVID-19. Safety standard level (0.1 ppm) is set in most developed countries according to the results of preclinical and clinical studies in a healthy donor. Therefore, another safety standard level of ozone gas for the patient with respiratory disorders assumed to exist in a medical facility is required. The objective of this study is to investigate the detail adverse effects of 0.1 ppm ozone gas exposure in a mouse model of allergic asthma by focusing on both antigen-dependent and -independent immune responses including type 2 helper T cells (Th2) and type 2 innate lymphoid cells (ILC2). A mouse model of asthma was generated by repetitive intranasal sensitization and challenge of dermatophagoides farinae (Df) in female BALB/c mice. Ozone gas (0.1 ppm) was inhaled for continuous 5 days (6 hours/day) just before the end of the experiment. Ozone gas exposure significantly decreased the percutaneous oxygen saturation (SpO2). Inflammatory responses (related Th2 cytokine) and gene expression (IL13, IL33) in lung tissue, more over serum IgE levels were enhanced. This data indicates the safety standard level ozone gas (0.1ppm) has toxic effects for asthma patients. In the next step, reversibility of adverse effects of ozone gas was evaluated in a group with 2 weeks recovery phase after the final exposure to ozone gas. There was no impact of ozone gas exposure on SpO2, Th2 immune reactions (IL-4 and IL-5 production by T cells), and gene expression of lung tissue. Taken together, exposure to 0.1 ppm ozone gas significantly worsened the antigen-dependent and -independent asthma symptoms, however, the adverse effects of 0.1 ppm of ozone gas was temporary and 2 weeks recovery terms can alleviate the these symptoms to the normal.

  • 守安 寛清, 永吉 光成, 末吉 史弥, 大嶋 利之, 藤野 智史
    セッションID: P1-083S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】本研究では、野菜から作製した紙の活用法として、癌細胞が好んで接着するものの、増殖抑制する機能を有する、医療用野菜紙の開発を目指す。癌患部を本医療用野菜紙で覆えば、癌を縮小することが可能となる。我々はこれまでの癌細胞研究から、癌細胞選択的増殖抑制シグナルが生じる条件を見出しており、本医療用野菜紙を、そのようなシグナルを生じる構造体となせば、周囲の正常細胞に影響を与えない。本研究は、食品成分を利用しつつ、薬物を使わずに癌治療に貢献する点において、SDGsに寄与する次世代型がん治療研究である。まずは、材料となる野菜の種類、紙の作製法による、細胞接着・増殖への影響について検討した。

    【方法】廃棄野菜を用いて、鍋に野菜(500mg以上)と重曹(30g、野菜の繊維を壊すため)と水(500ml)を加えて煮込んだ。乾燥後、オートクレーブで滅菌し、野菜紙を得た。その野菜紙(約0.3g、2cm×2cm)に緑色蛍光タンパク質を発現させたHEK293細胞(GFP293)(5×105cells)をかけ培養した。

    【結果と考察】キャベツのみから作った紙では紙の中に細胞が入り込み、増殖し維持している状態である。様々な野菜(キャベツ、にんじん、玉ねぎ、レモンなど)から作った紙では、2日目までは増殖したが、3日目で全滅した。また、紙を作る際の接着剤についてはアロンアルファよりもボンドの方が細胞の接着がよかった。今後、増殖を左右した要因に、野菜種や製法がどのように関与するか検討していく。

  • 真鍋 颯太, 芳賀 優弥, 辻野 博文, 生野 雄大, 淺原 時泰, 東阪 和馬, 堤 康央
    セッションID: P1-084S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】直径5 mm以下のマイクロプラスチック(MP)は環境中の至るところに存在し、ヒトはその曝露を避け得ない。環境中MPは紫外線や波などの外的要因により劣化し、構造や性状が変化してしまう。しかし現状、劣化状態のMPは勿論のこと、未劣化MPのヒト健康影響に関する知見すら皆無に等しく、リスク評価に資する情報の蓄積は喫緊の課題と言える。そこで本研究では各種毒性評価の一環として細胞毒性に着目し、未劣化および劣化MPの毒性発現機序の解明を試みた。【方法】中位径230 µmのポリエチレン(PE)粉末サンプルに波長172 nmの紫外光を空気中で照射することで実環境中の表面性状を模擬した劣化サンプルを作製した。次に作製したサンプルをマウスマクロファージ細胞株RAW264.7とヒト単球細胞株THP-1に曝露させ、毒性発現機序を評価した。【結果・考察】はじめに、PEが誘導する細胞死の種類を解析したところ、未劣化PE曝露群ではほとんど死細胞の増加は認められなかったものの、劣化PE曝露群においてプログラム的に制御された死細胞の大幅な増加が認められた。一方で、アポトーシス実行因子caspase-3の活性化は認められず、劣化PE誘導性細胞死はアポトーシス以外のプログラム細胞死であることが考えられた。続けて他の種類の細胞死の関与を追求する中で、劣化PE曝露群でLC3-II/LC3-I比が上昇することを見出し、オートファゴソーム形成が亢進することが示唆された。さらに劣化PEとオートファジー阻害剤の共処置は劣化PEの細胞毒性を有意に抑制した。従って、劣化PEが誘導するオートファジーは細胞死促進的であることが示唆された。現在、劣化PEによる細胞死誘導の分子レベルでのメカニズム解明を追求するべく、オートファジーの分解過程に着目し、劣化PEが分解基質やリソソームpHへ及ぼす影響について評価している。

  • 齊藤 雄大, 綿貫 幹也, 高橋 勉, 篠田 陽, 藤原 泰之
    セッションID: P1-085S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】グリオブラストーマ(GBM)は、神経膠細胞が腫瘍化した脳腫瘍の一つであり、脳腫瘍の中でも最も悪性度が高く、有効な治療法は確立されていない。近年、ドラッグリポジショニング研究により、in vitroでGBMに対して殺細胞効果を示す既存薬が見出されている。本研究では、より効果の高いGBMへの治療法の開発を目指し、GBMに対する殺細胞効果を有する既存薬を併用することで、その殺細胞効果を相加的あるいは相乗的に強める組み合わせを見出すことを目的とした。【方法】ヒトGBM由来U251細胞を、亜ヒ酸、アスコルビン酸(AA)、レチノール(Rol)、レチノイン酸(RA)、バルプロ酸(VPA)のうち、単剤または2剤で24もしくは48時間処理し、CCK-8 assayにより細胞生存率を測定した。また、U251細胞をRolとRA、亜ヒ酸とAAで併用処理し、小胞体(ER)ストレスマーカー(CHOPおよびGRP78)の発現レベルをqPCR法により測定した。【結果・考察】上記薬剤で単独処理または併用処理したU251細胞の細胞生存率を検討し、相加・相乗効果を確認した。その結果、Rolは、VPAとの併用により相加効果を、RAとの併用により相乗効果を示した。また、AAと亜ヒ酸との併用により、相乗的な殺細胞効果が確認された。本研究で相加的または相乗的な殺細胞効果を示した薬剤を併用することによって、GBMに対する治療効果の増強に繋がることが期待される。VAおよびVCは、ともにERストレスの誘導を介して抗腫瘍効果を示すことが報告されている。さらに、相乗効果が認められたRolとRAおよびAAと亜ヒ酸の併用処理により、CHOPおよびGRP78の発現誘導が確認されたことから、これらの薬剤の併用はERストレス誘導を介してヒトGBMに対して抗腫瘍効果を示している可能性が考えられる。

  • 三浦 恵子, 西 夏未, 篠田 陽, 高橋 勉, 秋元 治朗, 藤原 泰之
    セッションID: P1-086S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】光線力学療法(PDT)は、腫瘍親和性光感受性物質とレーザー光照射による光化学反応を利用し、腫瘍細胞内に活性酸素種(ROS)を発生させ、腫瘍細胞を死滅させる治療法である。我々はこれまでに、光感受性物質としてタラポルフィンナトリウム(TS)を用いたPDT(TS-PDT)が、悪性度の高い脳腫瘍の一つであるグリオブラストーマ(GBM)に対して抗腫瘍効果を示すことを明らかにしてきた。近年、抗酸化作用を示す生体内物質である活性イオウ分子種(RSS)が、抗がん剤を用いた化学療法の治療効果を減弱させることが報告されているが、TS-PDTの治療効果へのRSSの関与に関する研究は皆無である。そこで本研究では、TS-PDT がGBMのRSS産生酵素の発現レベルに与える影響について検討した。【方法】ヒトGBM由来T98G細胞をTSで2時間処理後、レーザー光(664 nm、1 J/cm2)を照射し、RSS産生酵素(CSE、CBS、3MST、CARS1およびCARS2)のmRNA発現レベルをリアルタイムPCR 法によって測定した。また、細胞生存率はCCK-8アッセイにより測定した。【結果・考察】TS-PDT処理したT98G細胞におけるRSS産生酵素群のmRNAレベルを調べたところ、CSEのmRNAレベルが選択的に上昇することが確認された。また、転写因子Nrf2をノックダウンしたところTS-PDTによるCSEの発現誘導は有意に抑制されたことから、TS-PDTによるCSEの発現誘導にはNrf2の活性化が関与している可能性が考えられる。さらに、CSE阻害剤(プロパルギルグリシン)処理によって、T98G細胞のTS-PDTに対する感受性が亢進することが判明した。したがって、GBMに対するTS-PDTの殺細胞効果に、TS-PDTによるNrf2の活性化を介したCSEの発現誘導が防御的に働いている可能性が示唆された。

  • 松本 慎之介, 中野 匠, 稲本 拓斗, 中野 正隆, 深見 達基, 中島 美紀
    セッションID: P1-087S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】RNA上のアデノシンの6位がメチル化されるN6-メチルアデノシン (m6A) 修飾は、様々な疾患の発症や進行に関与する転写後修飾である。m6A修飾はmethyltransferase like (METTL) 3-METTL14複合体によりメチル化反応、fat mass and obesity-associated protein (FTO) またはAlkB homolog (ALKBH) 5により脱メチル化反応が担われ、リーダーと呼ばれる種々のタンパク質により認識されることでmRNAの安定性や翻訳効率を変化させる。本研究では、喫煙や大気汚染などによる酸化ストレスの影響を受けやすい肺において、酸化ストレスに対する生体防御応答におけるm6A修飾の意義を解明する一端として、抗酸化酵素ヘムオキシゲナーゼ-1 (HO-1) の発現に与えるm6A修飾の影響を明らかにすることを目的とした。

    【結果および考察】ヒト肺がん由来A549細胞においてHO-1 mRNA発現量および酵素活性はMETTL3/14のノックダウン (KD) により有意に低下した。抗m6A抗体を用いたRNA免疫沈降により、HO-1 mRNAの翻訳領域が高度に、3’-非翻訳領域が中程度にm6A修飾されていることを明らかにした。さらに、翻訳領域におけるm6AがHO-1の発現調節に寄与していることをレポーターアッセイにより明らかにした。HO-1 mRNA安定性がMETTL3/14 KDにより減少したことから、リーダータンパク質がm6Aを認識してmRNA安定性を向上させることでHO-1発現を増加させる可能性が示された。以上、本研究では、m6A修飾がHO-1の発現を増加させることで酸化ストレス抑制に機能していることを明らかにし、酸化ストレス関連疾患に対するエピトランスクリプトミック制御の関わりについて新知見を得た。

  • 吉盛 智世, 湯元 良子, 川見 昌史, 高野 幹久
    セッションID: P1-088S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】抗がん剤であるアベマシクリブ(ABM)は、副作用として重篤な肺障害を誘発する。一方、薬剤による肺障害の発症には、肺胞上皮細胞から筋線維芽細胞への形質転換(EMT)が関与することが明らかになっている。当研究室では、ヒト培養肺胞上皮細胞A549において、ABMの薬理効果、すなわち細胞周期の停止が認められる条件下で、EMTが誘発される可能性を見出した。本発表では、細胞周期関連因子に焦点を当て、ABMが誘発する細胞周期の停止とEMTの関連解析を行った。

    【方法】A549細胞にsiRNAを24時間導入し、その後0.6μM ABMを24時間処置した。EMTの指標であるα-smooth muscle actin (SMA)のmRNAおよびタンパク質発現は、real-time PCR法とwestern blot法によって解析した。また、細胞周期はflow cytometryによって評価した。

    【結果・考察】ABMの標的であるCDK4/6と複合体を形成するcyclin D1のノックダウンにより、細胞周期の停止とα-SMAのmRNA/タンパク質発現が上昇したが、ABMを共存しても効果の増強は認められなかった。さらに、cyclin D1/CDK4/6複合体によってリン酸化されることで細胞周期を正に制御するRbのノックダウンは、ABMによる細胞周期の停止を一部抑制したが、ABMによるEMTの誘発には影響しなかった。従って、ABMによる細胞周期停止とEMT誘発に係る分子機構は、それぞれ異なる経路が存在する可能性が示唆された。さらに、siRNAやp53欠損細胞株を用いた検討から、p53がABM誘発性EMTに特異的に関与する可能性を見出した。これら知見は、ABMの抗がん効果と副作用発現につながるEMTの誘発を差別化するための基礎的知見として重要であると考える。

  • 鈴木 若奈, 鍵 智裕, 平田 祐介, 野口 拓也, 松沢 厚
    セッションID: P1-089S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

     コリスチンは、グラム陰性桿菌に対して優れた殺菌作用を示す環状ポリペプチド系抗菌薬である。近年、コリスチンは既存の抗菌薬が無効とされる多剤耐性グラム陰性桿菌に対する最終救済薬として注目を集めている。しかし、コリスチン投与により頻発する腎機能障害が大きな障壁となり、現状では臨床での使用が制限されている。従って、コリスチンによる腎機能障害発症メカニズムの解明は急務の課題である。NLRP3インフラマソームは、免疫担当細胞であるマクロファージなどに発現するタンパク質複合体であり、その活性化は炎症性サイトカインIL-1βの細胞外分泌を誘導して炎症反応を引き起こす。また、NLRP3インフラマソームの過剰活性化は、腎機能障害を含む様々な炎症性疾患の発症に関与することが知られている。そこで我々は、コリスチン誘導性腎機能障害におけるNLRP3インフラマソームの関与について検討した。

     マクロファージにコリスチンを処置すると、NLRP3インフラマソームを介したIL-1βの著しい分泌が認められた。実際にマウスを用いてin vivoでのコリスチンの作用を検討したところ、コリスチン投与による腎機能障害マーカーの上昇および腎組織の障害性の形態変化が、NLRP3インフラマソームの阻害剤で強力に抑制された。さらに興味深いことに、コリスチンは近位尿細管細胞に作用し、免疫担当細胞の分化・浸潤の促進因子であるM-CSFやMCP-1の発現を誘導して、マクロファージの腎への浸潤を誘引していることが示唆された。以上から、コリスチンは近位尿細管細胞においてマクロファージの浸潤促進因子を誘導する作用と、腎に浸潤したマクロファージのNLRP3インフラマソームを活性化し、炎症反応を誘導するという二つの作用により、強く腎機能障害を惹起すると考えられ、これまで長らく不明であったコリスチン誘導性腎障害の分子実態が初めて示された。

  • 北本 夏子, 芳賀 優弥, 辻井 勇気, 辻野 博文, 東阪 和馬, 堤 康央
    セッションID: P1-090S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】ベンゾピレン(BP)などの生体外化学物質は、肺がんをはじめとするがんの発生に関与しているという報告がある。一方で、原発巣が転移性腫瘍に変化する過程や、薬物治療後の残存腫瘍が再び増殖期へと変化する過程であるがん悪性転化に関して生体外化学物質が及ぼす影響はほとんど知られていない。また、近年、新たながんの悪性転化のフェノタイプとして細胞ストレスによって誘発される細胞周期の不可逆的な停止状態である細胞老化が注目されている。増殖が抑制される細胞老化はがん抑制的に機能すると考えられていたが、近年、周囲の正常細胞の増殖能亢進や薬剤耐性獲得に寄与していることが報告され、がん促進的な一面についても解明が進んでいる。そこで本研究では、代表的な発がん物質であるBPをモデル化学物質として、細胞老化とがん悪性転化への影響解析を試みた。【方法】エストロゲン受容体(ER)陽性乳がん細胞株MCF7に3日間のBPを曝露させ、細胞老化を誘導した際の細胞老化関連分子の発現および局在変動、細胞増殖能をはじめとする表現系の変化を評価した。また、表現系については、細胞老化を誘導したのちBP不含培養を続けた際の変化も継続的に評価した。【結果・考察】まず、3日間のBPの処置により、p21などの細胞老化マーカーの発現増加が認められ、細胞老化の誘導が示された。さらに、細胞老化により細胞増殖を停止していた細胞がBP不含培地での培養によって再増殖を始め、同時に低下していたコロニー形成能の回復する傾向が示された。また、BP結合分子であるAhRやERの核内移行に続いて、細胞老化マーカーであるp21やγH2AXの発現上昇が認められた。トリプルネガティブ乳がん細胞株4T1では細胞老化が起こらなかったことから、現在、AhRやERがBP誘導性の可逆的な細胞老化に寄与している可能性を考え、その機序解明を進めている。

  • 小林 雅, 池内 璃仁, 中野 毅, 北畠 和己, 山本 千夏, 月本 光俊, 藤江 智也, 鍜冶 利幸
    セッションID: P1-091S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】血管内皮細胞が調節する線溶系は,線溶促進因子t-PAとその阻害因子PAI-1のバランスに依存している。放射線被ばくは血小板数の減少による出血傾向を誘発するが,これには線溶系の異常も関与する可能性がある。そこで本研究では,γ線照射による内皮細胞の線溶系に対する影響とその機構を解析した。【方法】ヒト血管内皮細胞株EA.hy926にGammacell 40(137Cs:0.68 Gy/min)により細胞層を傷害しない線量のγ線(0-20 Gy)を照射した。遺伝子発現はリアルタイムPCR,タンパク質発現はELISAとウェスタンブロット法,線溶活性はフィブリンザイモグラフィーでそれぞれ評価した。siRNAはリポフェクション法により導入した。【結果および考察】γ線を照射された内皮細胞の培養上清では,線溶活性の上昇が認められた。このとき,培養上清中のt-PAおよびPAI-1タンパク質,およびこれらmRNA発現も増加していた。ATPで処理してもt-PA発現は増加し,プリン受容体P2X4およびP2Y2発現をそれぞれ抑制したとき,γ線照射によるt-PA発現の増加は抑制された。Akt阻害剤で前処理したとき,γ線照射によるt-PA mRNA発現の増加は抑制されたが,PI3K阻害剤ではそのような抑制効果は認められなかった。γ線照射はAktを活性化したが,この活性化はP2X4とP2Y2のノックダウンにより抑制された。以上より,血管内皮細胞のt-PA合成の誘導を通じて液相の線溶活性を上昇させること,この誘導はγ線照射により内皮細胞から放出されたATPによるP2X4とP2Y2受容体によるPI3K非依存的なAktシグナル活性化によって介在されることが示唆された。このようなγ線による内皮細胞の線溶系の活性化は,γ線被ばくによる出血傾向に寄与することが示唆される。

  • 岩坂 拓海, 水野 忠快, 森田 勝久, 東 一織, 楠原 洋之
    セッションID: P1-092S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    化合物を用いた肝障害モデルは肝毒性の研究に広く用いられているが、特に慢性毒性の研究では、長期間の連続投与が大きな負担となる。化合物を飲料水に混合し継続的に投与するモデルは労力面のコストが低く、構築が容易である。チオアセトアミド (TAA)の飲水投与による肝障害モデル(飲水/肝障害モデル)は、広く用いられている一方、その他の化合物の飲水/肝障害モデルについての知見は乏しい。複数の薬物性肝障害モデルの経時変化の共通点・相違点に着目することで、薬物の肝毒性の発現・進展機序の理解が深まると期待される。そこで、本研究では、TAA以外の化合物による飲水/肝障害モデルの確立を目的とした。文献調査により、経口投与により肝毒性の指標であるALTを増大させる化合物を抽出した。経口投与試験にてTAAと異なる毒性プロファイルを示し、安価かつ水に可溶なメチレンジアニリン (MDA)に着目し、飲水/肝障害モデル構築に取り組んだ。TAAとMDAの飲水/肝障害モデルについて、肝毒性プロファイルを比較した。TAA (300 mg/L)およびMDA (750 mg/L)をマウスに一週間飲水投与し、経時的に血液生化学値、及び肝臓中の免疫細胞比率を取得した。飲水中のMDA濃度は、文献情報に基づく事前検討により決定した。飲水投与開始後、TAA群は二日目、MDA群は三日目にALT値のピークが確認され、両群共にピーク時のALT値は顕著な個体差を示した。フローサイトメトリーによる解析の結果、肝臓への好中球の集積度とALT値との相関が見出され、さらにTAA群でのみALT値が改善する際に好酸球の集積が確認された。本研究により、MDAによる新たな飲水/肝障害モデルを樹立した。現在、本試験と同時に取得した検体のRNA-seq解析を進めている。

  • Yong Jun YU, Jieun YU, Sang Kyum KIM
    セッションID: P1-093S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    Paxlovid, a combination of nirmatrelvir (NTV) and ritonavir (RTV), has been granted emergency use authorization by the US FDA for the treatment of COVID-19. The objective of this study was to compare the effects of Paxlovid and RTV on the activities of cytochrome P450 (CYP) isoforms and to predict drug-drug interaction potential using pooled human liver microsomes and LC-MS/MS system. In the direct inhibition assay, the activities of nine CYP isoforms including CYP1A2, 2A6, 2B6, 2C8, 2C9, 2C19, 2D6, 2E1, and 3A4 were determined. NTV inhibited CYP2E1, 2C19, and 3A4 with an IC50 value of 18.0, 61.5, and 77.8 µM, respectively. RTV exhibited inhibitory potential against CYP2B6, 2C8, 2C9, 2C19, 2D6, and 2E1, with IC50 values ranging from 4.60 to 11.6 µM, and exhibited very strong inhibition against 3A4 with IC50 values of 0.302 µM. In NTV/RTV, the IC50 values for CYP2B6, 2C8, 2C9, 2C19, 2D6, and 2E1 ranged from 4.77 to 11.7 µM, and 3A4 was 0.230 µM, showing a similar tendency to that of RTV alone. In the time-dependent inhibition (TDI) assay, as ritonavir was rapidly depleted during the microsomal incubation, the IC50 values were calculated based on the remaining amount of ritonavir after the 30 min preincubation. The IC50 values of RTV and NTV/RTV in CYP3A4 using midazolam as a substrate were 0.014 and 0.034 µM, respectively, and IC50 shifts were 3.52- and 1.58-fold, respectively, after preincubation. In conclusion, these results suggest that NTV interferes with the metabolism of RTV by acting as a substrate of CYP3A4, showing attenuation of TDI potential of RTV.

  • 黒田 隆之, 吉岡 耕太郎, Su SU LEI MON, 阪本 敏浩, 勝山 真帆, 吉田(田中) 規恵, 原(岩田) 倫太朗, 山口 卓 ...
    セッションID: P1-094S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    <背景・目的> 中枢神経疾患を標的とする核酸医薬、ことにRNaseH依存性の遺伝子抑制効果を持つギャップマー型アンチセンス医薬(antisense oligonucleotide, ASO)の臨床開発において、薬剤による中枢神経毒性が創薬の課題である。過去の報告では、2'-O-methylation (2'-OMe)や5'-methyl などの化学修飾をASOに導入することで、ASOとタンパクとの結合性を調節し、ASOの全身投与における肝毒性を軽減させた(Vasquez, G. et al., Nucleic Acids Res. 2021)。我々の研究は、人工修飾核酸をASOに導入し、ASOの髄腔内投与における遅発性中枢神経毒性を軽減させることを目的とする。

    <方法> ギャップマー型ASOのギャップ部分のDNAモノマーに2'-OMeまたは5'-cyclopropane (5'-CP)を導入し、神経毒性の変化を評価した。in vitro系では、Neuro-2aまたはBE(2)-M17細胞にASOをトランスフェクションし、72時間後の細胞毒性を評価した。in vivo系では、マウスにASOを脳室内注射し、投与後の体重や運動機能を経時的に評価した。

    <結果> 複数の配列のASOにおいて、2'-OMeまたは5'-CPを特定の位置に導入することで、有効性を保持しつつ遅発性中枢神経毒性を低下させた。

    <結論> ASOに2'-OMeや5'-CPなどの人工修飾核酸を適切に導入することにより、髄腔内投与におけるASOの遅発性中枢神経毒性を軽減させることができる。この技術が中枢神経疾患を対象とした核酸医薬の臨床応用を今後推進すると期待している。

  • 竹本 誠也, 中野 正隆, 深見 達基, 中島 美紀
    セッションID: P1-095S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    [目的] グアニン四重鎖 (G4) はDNA上のグアニンに富む配列において形成される高次構造体である。ゲノム上のG4はクロマチン構造や転写因子のDNAへの結合を制御することで、遺伝子発現を調節する。本研究では、ヒトにおける主な薬物代謝酵素であるCYP3A4遺伝子の上流領域に潜在的なG4形成配列が存在していることに注目し、これらによるG4の形成がCYP3A4の発現に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。

    [結果および考察] G4の安定化剤であるピリドスタチンをHepG2細胞およびヒト初代培養肝細胞に処置したところ、CYP3A4 mRNA発現量が増加し、プレグナンX受容体 (PXR) のリガンドであるリファンピシンとの共処置により、リファンピシン単独処置よりも顕著な発現増加が認められた。In vitroにおけるG4形成能を評価する手法であるqPCR stop assayにより、CYP3A4遺伝子上流がG4構造を形成することが示された。CYP3A4上流領域のオープンクロマチン解析および抗PXR抗体を用いたクロマチン免疫沈降の結果から、G4の安定化がCYP3A4上流のクロマチン構造を弛緩させ、PXRの結合性を増強させることでCYP3A4の転写を促進することが示唆された。CYP3A4上流のG4を安定化する医薬品化合物が存在するか、FDA承認薬ライブラリーの中からqPCR stop assayによって探索したところ、ジゴキシンが見いだされた。PXRのリガンドにはならないジゴキシンがCYP3A4の発現を増加させたことから、G4安定化のメカニズムを介して薬物動態が影響を受ける可能性が示された。以上、本研究ではG4安定化が薬物代謝酵素の発現を調節するという新規知見を見出し、G4形成に影響を与える低分子化合物はCYP3A4の発現変動を介した薬物間相互作用を引き起こす可能性を明らかにした。

  • 土田 知貴, 伊藤 昭博, 熊谷 嘉人, 上原 孝
    セッションID: P1-096S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    近年,慢性疾患のリスクファクターとして環境因子が注目されている.このような背景から,ヒトの生涯曝露の総体として「エクスポソーム」という魅力的な概念が提唱された.一方,エクスポソーム研究は測定項目が膨大であることからアプローチ手法が定まらず,従来と同様の生涯曝露量に主眼を置いた研究が進められており,分子メカニズム研究はほとんど行われていない.そこで,本研究では後天的な遺伝子発現制御機構の一つであるDNAメチル化に着目し,反応性の高い環境中の親電子物質が及ぼす影響を解析した.まず初めに,DNAメチル化を制御するDNAメチル基転移酵素(DNMT)に対して,親電子物質の影響を検討した.その結果,45種の親電子物質の中から酵素活性を低下させる4種を同定した.その中の一つである1,2-ナフトキノン(1,2-NQ)を用いて以下検討を行った.LC-MS/MSを用いてDNMT3Bとの相互作用を解析したところ,1,2-NQは特定のリジンおよびヒスチジン残基に結合することが示された.続いて,SAGE法から1,2-NQが遺伝子発現に与える影響を網羅的に解析し,炎症応答に関連する遺伝子群の有意な発現上昇を確認した.さらに,qPCRを用いて詳細な発現解析を行なったところ,1,2-NQおよびDNMT阻害薬5-aza-2’-deooxycitidineの処理時間依存的にケモカイン類の発現が上昇した.また,A549細胞において1,2-NQは処理濃度依存的に細胞増殖を誘導したが,ケモカイン受容体アンタゴニストの前処理はこの効果を有意に抑制した.以上の結果から,環境中親電子物質の一つである1,2-NQはDNMT3Bと直接相互作用することでエピゲノム変化を誘発し,細胞増殖を亢進する可能性が示された.

  • 東 一織, 森田 勝久, 水野 忠快, 楠原 洋之
    セッションID: P1-097S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    現在、公共データベース(DB)には毒性発現時の組織トランスクリプトームデータが豊富に蓄積されている。Deconvolutionはトランスクリプトームデータより試料中の免疫細胞比率を推定する手法であり、DB中のデータが持つ潜在的な免疫応答の情報を抽出する。一方、同手法に関して組織特異性や種差を考慮したモデリングが推定性能に及ぼす影響は不明であった。本研究では、大規模毒性DBへの適用に向け、deconvolutionにおける組織特異性と種差の影響を評価した。低分子化合物により誘導した多様な肝障害モデルでのRNA-seqデータと免疫細胞比率が対応する評価用データセットを自ら取得し、組織特異性を考慮したモデリングの影響を評価した。結果、肝臓に固有な細胞種を考慮したモデリングが高い推定性能を示すことを見出した。公共DBより取得したアセトアミノフェン投与時の経時データを解析し、免疫細胞の変化を推定・検証したところ、提案モデルは従来モデルよりも高い推定性能を示した。Deconvolutionはヒトやマウスへの適用が主であり、毒性評価で頻用されるラットに適したデータセットや手法が存在しない。そこでラットの免疫細胞のRNA-seqデータセットを自ら取得し、ラット特異的なdeconvolutionモデルを構築した。ラットの毒性データに適用する際、本モデルはヒトやマウスのデータを援用したモデルと比較して優位性が示された他、大規模毒性DBのデータを解析することでシクロヘキシミドとLPSが惹起する免疫細胞の挙動が類似するといった新規知見が得られた。 以上より、組織特異性や種差の考慮がdeconvolutionによる免疫応答の精緻な推定に重要であることが示された。これらを考慮したモデルを大規模毒性DB適用することで、免疫応答に関する集約的な知見が取得可能となり、毒性発現機序の理解が進展すると期待される。

  • 山田 治人, 小田切 瑞基, 安井 学, 本間 正充, 杉山 圭一, 浦 聖恵, 佐々 彰
    セッションID: P1-098S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    DNAメチル化やヒストン修飾などのエピジェネティックな修飾変化を誘発する化学物質の存在が多く示唆されており、それらの物質の毒性影響をヒト細胞で定量評価可能な試験系の開発が望まれる。そこで本研究ではin vitro遺伝毒性試験法であるTK6遺伝子突然変異試験をプラットフォームとして、TK 遺伝子の発現の有無を指標にDNAメチル化状態の変化を定量評価可能な”epi-TK試験”を確立した。試験株として、CRISPR/dCas9-DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT3A)融合システムを用いて、ヒトリンパ芽球細胞株TK6のTK遺伝子座プロモーター領域へのDNAメチル化によってTK遺伝子発現がエピジェネティックに制御されたmTK6株を樹立した。RT-qPCRによってmTK6における野生株と比較したTK遺伝子発現の著しい低下が観察された。また、バイサルファイトシークエンスによってTK遺伝子のエキソン1上流250 bpの範囲でCpG配列の高度なメチル化が観察された。mTK6株を利用したepi-TK試験の被験物質として、DNAメチル化酵素DNMT阻害剤で作用機序がそれぞれ異なる5-aza-2’-deoxycytidine(5-AZ)、GSK-3484862、RG108の3つについて評価を行った。5-AZ及びGSK-3484862においては、37℃ 24時間処理後に溶媒対象と比較してTK発現復帰頻度がそれぞれ最大で230倍、1900倍まで上昇した。一方でRG108では、24時間または48時間処理後にTK復帰頻度の変化はみられなかった。次に、DNAメチル化亢進作用の可能性が疑われる有機溶媒DMSOをはじめ数種の被験物質について解析を行った結果、TK復帰頻度の低下がみられた。これらの結果から、epi-TK試験はDNAメチル化阻害と亢進の双方向の変化を検出可能な試験法であることが示唆された。

  • 溝田 華柊, 大久保 佑亮, 柴田 光章, 大原 凛太郎, 北嶋 聡, 平林 容子, 中島 芳浩, 福田 淳二
    セッションID: P1-099S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    我々は、ヒトiPS細胞を用いたFGF-SRFシグナルレポーターアッセイによる発生毒性評価法を開発してきた(S. Kanno et al., iScience, 2022) 。胎児の発生過程はシグナル伝達相互作用により適切に制御される。また、発生毒性物質の中にはシグナル伝達経路をかく乱し奇形を生じさせるものが報告されてきた。そこで、我々は発生毒性は正常なシグナル伝達相互作用のかく乱により引き起こされると仮説を立て、シグナルレポーターアッセイ法を構築した。この手法は生細胞を用いたリアルタイム計測を特徴としており、発生毒性物質毎に異なる時間にシグナルがかく乱されることを明らかにした。この知見を基に被験物質のシグナルかく乱作用のダイナミクスを解析することで、非常に高い正確度で発生毒性を評価可能であった。今回、シグナルかく乱作用のダイナミクスを詳細にとらえるために、生細胞ルシフェラーゼアッセイ法の改良を行った。以前の手法では、シグナルはアッセイ開始2、4、6、8、10、24時間後に手動で計測していた。そのため、長時間及び夜間の計測が困難であり詳細なシグナルかく乱作用の検出ができていなかった。本研究では、細胞培養と発光測定を同時に行うことのできる多検体生細胞リアルタイム発光測定システムを用い、シグナルかく乱の経時的変化をより詳細かつ長時間計測可能な試験法の開発に取り組んだ。この手法を用いた測定によって、24時間までの測定ではシグナル活性のピークが一回のみ観察されたのに対して、72時間まででは二回のピークが現れるということが明らかになった。さらに、バルプロ酸など一部の化学物質は24時間以降にかく乱の度合いが大きくなることがわかり、そういった物質の発生毒性の検出がより正確にできるようになった。このことから、この方法は発生毒性物質の初期スクリーニングのための有望なツールとなると考えられる。

  • 内藤 駿哉, 竹村 晃典, 樋口 裕一郎, 上原 正太郎, 米田 直央, 末水 洋志, 伊藤 晃成
    セッションID: P1-100S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】当研究室では、胆汁うっ滞に伴う肝毒性発現リスク判別のin vitro評価系として胆汁酸依存的肝細胞毒性(BAtox)の評価系を構築して報告している。BAtoxの評価では凍結初代ヒト肝細胞(PHH)をゴールドスタンダードとして用いてきたが、ⅰ)ロット間差、ii)同一ロットの供給に限りがある、などの欠点がある。そこで、これらを解決し得る細胞として、ヒト肝キメラマウスから調製されたHu-liver cellに着目し、BAtoxの評価結果に特に影響を与える胆汁酸排泄トランスポーター(BSEP)の機能評価、ならびに典型的な薬物群についてのBAtox評価を実施し、PHHと比較した。【方法・結果・考察】3ロットの異なるドナー肝細胞由来のHu-liver cellを5日間培養し、BSEP機能の指標として胆汁酸排泄機能(BEI)を評価したところ、いずれも52〜87%と、PHHと同等以上の値を示した。22種類の薬物と胆汁酸の共曝露を行い、24時間後のBAtoxを評価したところ、毒性感受性の低いロットを1つ認め、これは移植肝細胞のロット差に起因すると考えられた。Hu-liver cellは、臨床における肝障害マーカー上昇頻度の大小判別に関して感度・特異度ともに63〜83%と、PHHと同等程度の予測精度を示した。PHHで認められたBAtoxがHu-liver cellでは認められない薬物が一部あり(flutamide, leflunomide, ticlopidine)、これについては両細胞のCYP活性の違いが影響している可能性が示された。【まとめ】Hu-liver cellはBAtox評価に必要な機能を有することが示された。PHHとの評価結果が不一致の薬物も一部存在したが、肝障害マーカー上昇頻度の判別精度はPHHと同等であり、PHHの代替として十分に利用できる可能性が示された。

  • 弓削 瑞葵, 若井 恵里, 小岩 純子, 白水 崇, 駒田 致和, 西村 有平
    セッションID: P1-101S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    毒物による中枢神経系の傷害では、活性化されたミクログリアがその病態に関与することが知られている。ミクログリアが活性化した際には、その形態が変化すると考えられ、これが毒物の中枢神経系に対する毒性の指標になる可能性がある。そこで、本研究はミクログリアの形態を定量的に評価し神経毒性を検討する方法の確立を試みた。生体における脳全体のミクログリアを効率よく評価できるように、ニューロンやミクログリアに蛍光タンパクを発現させたトランスジェニックゼブラフィッシュの仔魚を用いて、神経毒性がよく知られているエタノールの曝露を行い、二光子レーザー顕微鏡で脳全体のin vivoイメージングを行った。得られた画像をImage Jを用いて解析し、ゼブラフィッシュ脳の特定の領域内に存在するミクログリアの三次元データを取得した。形態の定量評価のために、個々のミクログリアの投影図を得て、Image Jの形態記述子を用いて評価した。その結果、2%エタノールで24時間処理したゼブラフィッシュ仔魚の中脳視蓋におけるミクログリアの真円度や凸度といった指標が、コントロール群に比べて上昇し1.0に近づくことがわかった。真円度は円に近い形状で1.0に近づき、凸度は凹みが少ないほど1.0に近づくことから、エタノールの急性曝露によって、ゼブラフィッシュ視蓋において円形に近く分枝の少ないアメボイド型のミクログリアが増加したことを反映したと考えられた。このことから神経毒性物質によって生じるミクログリアの形態変化を定量的に評価できることが示された。現在複数の神経毒性を有する化合物を用いて同様の手法で検討を行っているので紹介する。

  • 望月 龍, 小林 あかね, 高山 廣光, 戸井田 敏彦, 小椋 康光
    セッションID: P1-102S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【背景・目的】生体内の抗酸化物質として重要なグルタチオン(還元型:GSH,酸化型:GSSG)の分析法としては, DTNBを用いた比色法がキット製品として販売され,広く用いられている.しかし,微量なGSSGを定量するのに感度が不十分であることや,GSHとGSSGを同時に定量できないという煩雑さが欠点として挙げられる.一方,LC-MSを用いることにより,高感度でGSH及びGSSGの同時定量が可能ではあるが,装置自体や維持にも費用がかかり,より簡便かつ高感度なGSH及びGSSGの同時定量法の開発が望まれている.我々は,シアン化物イオンの分析に用いるKönig反応をグルタチオン分析に応用できることを見出し,GSH及びGSSGの同時定量法を開発したので,報告する.

    【方法】GSH及びGSSGをLCにより分離した後,0.03% クロラミンT及びピリジン・バルビツール酸溶液とポストカラムで反応させて蛍光物質をオンラインで生成し,蛍光検出器(励起波長583 nm,蛍光波長607 nm)で検出した.実試料への応用として,ラット褐色細胞腫由来のPC12細胞に酸化ストレスを誘発するパラコートを250 μM及び500 μM,24時間曝露し,GSH及びGSSG の量からGSH/GSSG比の変化を求めた.

    【結果・考察】本法によるGSH及びGSSGの定量下限値は18.3 nM及び33.9 nMであり,一部のLC-MS法を凌駕する感度が得られた.GSHは0.05 μM-50 μM,GSSGは0.05-10 μMの範囲で良好な直線性が得られた(R2>0.999).精度は2.39-10.9%,真度は84.8-96.5%であった.さらに,パラコートを曝露したPC12細胞において,GSH/GSSG比が曝露量に応じて有意に減少していく様を観察することができた.

  • 木下 啓, 安部 賀央里, 山田 隆志, 足利 太可雄, 頭金 正博
    セッションID: P1-103S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【背景・目的】

    化学物質の皮膚感作性評価では、動物試験代替法を用いた評価への転換が進められている。しかし、代替法を用いた皮膚感作性の強度評価手法は、リスク評価のために重要であるものの、未だ確立されていない。当研究室では、皮膚感作性の強度の指標である、マウス局所リンパ節試験 (LLNA)のEC3値を予測する機械学習モデルの開発に取り組んでいるが、実用化にはモデルの説明性・解釈性の向上や外部検証の実施等の課題がある。本研究では、皮膚感作性強度予測モデルの実用化を目指したLLNA EC3値予測モデルの構築を行った。

    【方法】

    経済協力開発機構(OECD) により策定された、皮膚感作性の評価手法に関するガイドライン(No.497)において公開されたデータセットに含まれる143物質の試験情報を使用した。それらを訓練データと外部検証データに4:1の割合でランダムに分割し、勾配ブースティング決定木系のアルゴリズムであるXGBoostによる回帰モデルを構築した。目的変数は、LLNA EC3値とした。説明変数は、皮膚感作性の有害性発現経路(AOP)に関するin vitro試験結果(DPRA、KeratinoSensTM 、h-CLAT)、物性値、OECD QSAR ToolBoxから算出した分子記述子や構造アラート情報を使用した。

    【結果・考察】

    構築したLLNA EC3値予測モデルを用いて外部検証データの29物質の予測値を算出し、動物実験から得られたLLNA EC3値と比較したところ、決定係数が0.68であった。また、予測モデルの変数重要度を調べたところ、3種のin vitro試験結果 が上位を占めており、予測結果への寄与が大きいことが示唆された。本モデルは、説明性・解釈性を持ち、かつ外部検証による性能評価を実施した、実用的な皮膚感作性の強度予測モデルとなることが期待される。

  • 水野 航介, 原川 ゆう, 竹下 潤一, 保坂 卓臣, 志津 怜太, 吉成 浩一
    セッションID: P1-104S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    [背景]現在、化学物質の非遺伝毒性発がんは、主にラットの2年間発がん性試験により評価されているが、発がん機序の複雑さ故に発がん性試験の代替法開発は進んでいない。そこで本研究では、インビトロ試験結果及び分子記述子を用いたリードアクロスによる非遺伝毒性発がん性予測手法の確立を目的とした。[方法及び結果]食品安全委員会が公表している農薬評価書の2年間ラット発がん性試験の結果から、がんの発症頻度が高い9臓器(肝臓、甲状腺、精巣、子宮、卵巣、乳腺、鼻腔、胃、膀胱/尿道)のいずれかで良性又は悪性腫瘍を起こす80農薬、並びに発がん関連所見を認めない46農薬を選出した。これら126物質について、HepG2細胞を用いた細胞傷害性試験(LDH放出、細胞内ATPレベル、細胞内GSHレベル)並びに異物応答性核内受容体(AHR、PXR、PPARα、RXRα)のレポーターアッセイを実施した。Fisherの正確確率検定により発がん性と試験結果の関連性を解析したところ、甲状腺がんとPXR活性化、精巣がんとAHR活性化、胃がんと細胞内GSHレベル変化、膀胱/尿道がんとAHR活性化に有意な関連性が認められた。次いで、これら4種のがんに着目し、計算可能な2106種のalvaDesc(alvascience社)分子記述子を利用して物質間のユークリッド距離を計算し、各被験物質について一定距離内に含まれる近傍物質から被験物質の発がん性を予測した。その結果、いずれのがんにおいても、記述子のみの予測結果(一致率:0.421~0.556)と比較し、関連性が見られたインビトロ試験結果で被験物質を層別化することで予測精度が向上した(一致率=0.571~0.921)。 [結論]非遺伝毒性発がん性のリードアクロスによる予測には、インビトロ試験結果による層別化が有用であることが示唆された。

  • 原川 ゆう, 竹下 潤一, 志津 怜太, 保坂 卓臣, 吉成 浩一
    セッションID: P1-105S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】反復投与毒性(RDT)試験は化学物質の安全性評価に重要である。近年、動物を用いないRDT評価手法として、類似物質の毒性情報に基づくリードアクロスに期待が寄せられている。本研究では化学構造情報(分子記述子)に加えてインビトロ試験データの活用がリードアクロスの精度を向上するか否かを解析した。【方法及び結果】有害性評価支援システム統合プラットフォーム(製品評価技術基盤機構)から326物質の雄性ラット28-42⽇間RDT試験データを入手した。類似の毒性所見をグループ化し、肝毒性(6種)及び血液毒性(2種)のグループエンドポイント(gEP)を定義した。グループ内のいずれかの所見でLOELが報告されていた場合に該当gEPを陽性とした。分子記述子はalvaDesc(Alvascience)で計算された2649種を利用した。インビトロ試験パラメーターとして、ラットシトクロムP450阻害試験並びにHepG2細胞を用いた細胞傷害性試験及びハイコンテント解析の結果(陽性・陰性の2値)を利用した。32物質を被験物質として選択し、分子記述子から算出した物質間ユークリッド距離により残りの294物質から近傍物質を決定した。その結果、感度、特異度及びbalanced accuracyはそれぞれ0.5〜1.0、0.1〜0.7及び0.6〜0.8であり、gEPにより大きく異なった。次に、Fisherの正確確率検定でgEPの有無と最も関連性が高かったインビトロ試験パラメーターを選択し、被験物質とその結果が一致した近傍物質のみを毒性予測に利用したところ、肝肥大、脂質代謝異常及び貧血において予測精度は向上した。【結論】一部のgEPでは、gEPと関連するインビトロ試験データを使用することでリードアクロスの精度が向上することが示唆された。

  • 泉谷 惇, 馬 闖, 信岡 英彦, 上野 麟太朗, 三村 将来, 上田 勝也, 羽二生 久夫, 齋藤 直人
    セッションID: P1-106S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【背景】我々はin vivo実験を代替できるin vitro骨形成機能評価国際標準法の開発を目指している。前回、培地の違いで前骨芽細胞MC3T3-E1細胞(MC)の増殖性・骨芽関連遺伝子の発現状態・ALP活性・石灰化応答が異なることを報告した。そこで今回、異なる培地条件下の細胞に対し網羅的遺伝子解析を行い、骨形成機能評価の指標となり得る候補遺伝子の抽出を試みた。【材料と方法】アスコルビン酸(VC)不含αMEMとDMEMの各種培地(無処理培地)で培養したMCを培養用マイクロプレートに播種し、1日後に各種無処理培地及びVCとβグリセロリン酸を添加した石灰化誘導培地へと交換した。誘導から3日後における各種無処理及び石灰化誘導培地の4条件の詳細な遺伝子発現状態をマイクロアレイで確認した。誘導で大きく変化したまたは培地種間で発現差が大きかった遺伝子をいくつか抜粋しqPCRで検証した。【結果】マイクロアレイ解析の結果、αMEMとDMEMでは石灰化誘導刺激によって発現上昇する遺伝子の種類に違いが見られた。特に、既知の骨芽細胞分化関連遺伝子(IbspAlpl)の発現上昇はαMEMでのみ確認された。また、生体の骨修復に関連するとされるGpnmbはDMEMでのみ高い発現を示し、石灰化誘導刺激による変化も認められた。これらの遺伝子をqPCRでも検証したところ、マイクロアレイと同様の傾向を示し、培地の違いによるMCの遺伝子発現差を示唆する結果となった。【考察】培地の種類毎に遺伝子発現に差が見られ、抽出する機能指標候補遺伝子も異なった。多様なin vivo骨形成過程の各々に対応し、生体内の反応を的確に反映できる遺伝子や培地条件が存在する可能性がある。今後、様々なin vivo骨形成状態と照合しながらそれを特定し、国際標準法の提案につなげたい。

  • 渡辺 慎太郎, 佐藤 秀亮, 安藤 天湧, 寺田 智哉, 杉原 航平, 関本 征史
    セッションID: P1-107S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】本邦で臨床的に陽性患者が多く見られる代表的なアレルゲン(ジャパニーズスタンダードアレルゲン2015、JSA)の多くは、in vitro感作性が未評価であり、その感作性のメカニズムが明らかとなっていない。我々は、感作性指標としてヒト表皮角化細胞HaCaTでのNuclear factor erythroid2-related factor 2(Nrf2)の活性化に注目し、レポーターアッセイによる評価を実施したところ、22種のJSAうち半数の11種にNrf2活性化能があることを昨年の本学会で報告した。本研究では、これら化合物の感作性発現にシトクロムP450(CYP)酵素による代謝活性化の寄与について検討を行った。【方法】佐藤製薬のパッチテストパネル(22種のJSAを含む)のうち顕著なNrf2活性化能を示した9種のJSAをDMSOで抽出したもの(JSA抽出物)、および発がん性物質であり強い皮膚炎誘発能を持つBenzo[a]pyrene(BaP)を被験化合物とした。これらを、非特異的P450阻害剤であるSKF525Aで前処理したNrf2レポーター細胞(HaCaT-Nrf2-Luc)に処理し、24時間後のNrf活性化を指標としてその感作性発現に及ぼす影響を評価した。さらに、CYP1A1、CYP1B1のsiRNAを前処理し、BaPの感作性発現に及ぼす影響について検討した。【結果・考察】JSA抽出物およびBaPにおいてSKF525Aの前処理によりNrf2活性化が有意に減弱した。このことから、これら化合物の感作性発現にP450が関与することが示唆された。さらにBaPでは、CYP1A1 siRNAの処理により活性が低下する一方で、CYP1B1 siRNAの処理により活性が上昇したことから、それぞれ代謝活性化と解毒への寄与が示唆された。現在、JSA抽出物についても同様の検討を進めている。

  • 各務 温花, 宇野 絹子, 煙山 紀子, 笹瀬 智彦, 太田 毅, 美谷島 克宏
    セッションID: P1-108S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】非肥満2型糖尿病モデル動物であるSDT (Spontaneously Diabetic Torii)ラットに生じる膵島の線維化について病態の発現メカニズムを探索した。【材料・方法】通常食 (CRF-1)を給餌した雌性SDTラットについて、8、16、24、32及び40週齢時に採血、剖検並びに諸臓器の採取を施し、各種の解析を実施した。【結果】血液生化学検査において、週齢を重ねるごとに体重は増加した。血糖値は高値を示さなかったが、血中インスリン濃度は週齢を重ねるごとに著しく増加した。これらの結果より、雌性SDTラットは顕著なインスリン抵抗性を呈する病態モデルであることが明らかとなった。病理組織学的に、24週齢以降で膵島の不整化、大型化及び出血が認められた。また24週齢から膵島の線維化が観察され、32並びに40週齢では全個体で高頻度に線維化が認められた。さらに、線維化に関与するとされているCD44陽性細胞が24並びに32週齢で観察され、24週齢と32週齢の比較において、32週齢でより多くの陽性細胞が確認された。しかし、40週齢では同細胞数は減っていた。【考察】糖尿病の病態モデルであるSDTラットに生じる膵島の線維化について、CD44陽性細胞が病態進行に関与しているものと考えられた。なお、40週齢ではCD44陽性細胞数の減少が認められたが、その時点では膵島の線維化はより顕著な病変となっていた。これよりCD44陽性細胞は、膵島線維化の初期からの進行過程に関与しているものと考えられた。

  • 小島 竣平, 小原 息吹, 髙野 珠実, 磯田 豊, 馬 敏, 栃内 亮太, 大久保 佑亮, 高橋 裕次, 太田 裕貴
    セッションID: P1-109S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【背景・目的】 実験用小動物の覚醒下非拘束による経時的なバイタルサイン(VS)測定は、医薬品開発における安全性薬理試験で既に実現されているが、一般の化学物質を対象とした毒性試験においては実施されていない。一般状態観察においてVS変化をある程度は推察可能であるが、コスト及びスループット性に優れたVSの記録技術に限界があるため、あくまで定性的な定点観測に留まっている。これまで我々はラット用ウェアラブル測定機器(rWD)を開発し、覚醒下非拘束ラットからマルチVS(脈拍数・血中酸素濃度・呼吸数・体温)の低コストでの経時的測定を実現した(第49回日本毒性学会学術年会)。今回さらに、rWDの軽量化、体動ノイズに対応するプログラムの構築および加速度センサの応用による活動量評価を達成したのでここに報告する。【方法】これまでに開発に成功しているパルスオキシメータおよび体温計を搭載したrWDを、センサの配置と回路の再設計することで小型化し、さらに6軸センサを追加実装した。また、アーティファクトによる脈波波形の異常変化を認識し、解析から除外する解析プログラムを構築した。得られたrWDをラットに装着し、イソプロテレノール、メサコリンあるいはアセフェートを投与し、脈拍数、血中酸素飽和度、呼吸数、体温および活動量を解析した。 【結果・考察】rWDの小型化により、以前と比較して47%の重量削減を達成した。また体動に起因するノイズに対し新たにプログラム上での対策によりパルスオキシメータの計測精度が向上し、イソプロテレノール、メサコリンおよびアセフェートにより誘発されるバイタルサインの変化をより正確に検出することが可能になった。さらに加速度データから動物の活動量を数値化することに成功した。今後はさらなるVS計測の精度向上・複数の一般状態情報の分類により、毒性評価の精緻化と供試動物数及び経費の削減の両立を目指す。

  • 鄭 多訓, 曽根 秀子, 住野 彰英, 速水 耕介
    セッションID: P1-110S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    創薬分野において,心毒性リスクを回避することは最も重要な課題の1つとなっている.hERGの低分子化合物による遮断は,再分極抑制によるQT間隔延長を誘発し,torsade de pointes (TdP) などの致死的不整脈や重篤心不全など心毒性を引き起こす可能性がある.現在,医薬品承認申請の際に,全ての医薬品候補化合物に対しhERG阻害の検証が要求されている.これに伴い,多くの研究機関において,in silico アッセイによるhERG阻害予測モデルの開発が報告されている.しかしながら,先行研究の多くは,hERG阻害の有無を予測する分類モデルであり,この予測結果では阻害の強弱に関する情報は得られない. 本研究では,低分子化合物の公共データベースから得られた,約15700個の化合物データセットを用い,定量モデルとして,pIC50予測モデルの構築を行った.説明変数には,各低分子化合物より生成した分子記述子を用いた.AutoMLを用いて計19の機械学習アルゴリズムの中から最適なアルゴリズムを探索した.その結果,Extra Trees Regressor(ET)が最適アルゴリズムとして選択された.ETモデルのテストデータにおける予測精度はR2が約0.69を示した.さらに,予測したpIC50を可視化し,実際のpIC50と比較検討を実施した.また,pIC50<5を非阻害化合物,pIC50≧5を阻害化合物とした場合,その判別予測精度は約0.85であった. ETモデルにおけるpIC50予測に大きく寄与する項目は,SHAP値より,n-オクタノール/水分配係数やN塩基性基数などが挙げられた.本モデルは,医薬品候補化合物に対するhERGチャネルへの影響を検証するためのスクリーニング方法の一つとして期待される.

  • 長嶌 優子, Ting-Wei YU, 山本 晴, 臼井 達哉, 佐々木 一昭
    セッションID: P1-111S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    化学物質による発がんメカニズムを明らかにすることはがんの予防や治療法の探究に重要である。しかしながら、化学物質の数は膨大であり、それらを従来の長期にわたる発がん性試験で検索することは多大な時間と労力を要することや、近年の動物愛護意識の高まりからも何らかの代替法の開発が望まれている。そこで、生体内の上皮組織構造や遺伝子発現パターンなどを培養ディッシュ上で再現可能な3Dオルガノイド培養法に着目した。当研究室ではこれまでに膀胱がん罹患犬の尿に含まれるがん幹細胞かイヌ膀胱がんオルガノイドの培養法を確立している。さらに、健常犬から非侵襲的に採取した膀胱粘膜細胞からもイヌ正常膀胱オルガノイドの作製に成功している。そこで本研究では、イヌ正常膀胱オルガノイドに膀胱発がん物質(2-Acetylaminofluorene、N-Butyl-N-(4-hydroxybutyl)nitrosamine)をそれぞれ6日間処置したのちに、免疫組織化学染色を用いてがん幹細胞マーカー(CD44)や膀胱がんの早期検出において着目されているDNA損傷マーカー(γ-H2AX)の発現を解析した。また化学物質を処置したオルガノイドを免疫不全マウスに移植することで腫瘍形成能の評価を行ない、新規発がんモデルとしての犬正常膀胱オルガノイドの有用性を検証した。2-AAFを処置した犬正常膀胱オルガノイドでは、CD44およびγ-H2AXの発現亢進が認められ、発がんのイニシエーションが惹起された可能性が示唆された。また、2-AAFを処置した膀胱オルガノイドを免疫不全マウスに移植したところ、移植後2週間で腫瘍の形成が観察された。しかしながら移植後4週で腫瘍の退縮が認められたため、オルガノイドへの化学物質の暴露条件を再検討している。

  • 仝 嫣然, 植山(鳥羽) 由希子, 横田 純平, 榎本 詢子, 山崎 春香, 叶井 正樹, 松井 勇人, 水口 裕之
    セッションID: P1-112S
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/08
    会議録・要旨集 フリー

    【背景・目的】新薬開発の初期段階では、候補化合物の安全性を肝毒性評価試験により正確に予測する必要がある。ヒト肝オルガノイドは、創薬研究に資する新規ヒト肝細胞モデルとして期待されている。しかし、オルガノイド培養に最適な細胞外基質であるマトリゲルは動物由来品であるためにバッチ間のばらつきが大きく、実験の再現性が懸念される。我々は以前に、合成高分子由来三次元ナノファイバー「HYDROX」を開発し、これがヒトiPS細胞由来肝細胞培養に適用可能であることを報告した。本研究では、動物由来成分を含まないHYDROXを用いてヒト肝オルガノイドの培養を試み、肝毒性評価試験への応用可能性を検討した。

    【方法】ヒト初代肝細胞をマトリゲルへ包埋し、ヒト肝オルガノイドを樹立した。酵素処理によりマトリゲルを分解後、得られた細胞塊をHYDROXコートプレートに播種して三次元的に培養した。HYDROX培養ヒト肝オルガノイドについて、電子顕微鏡観察や遺伝子発現量解析、薬物代謝酵素活性測定を実施し、その肝機能を評価した。さらに、肝毒性を引き起こす複数の薬剤を作用した後の細胞生存率を測定し、肝毒性評価試験への応用可能性を検討した。

    【結果・考察】HYDROX培養群の電子顕微鏡観察像において、マトリゲル培養群に観察されなかったミトコンドリア等の細胞内小器官が認められた。HYDROX培養群における肝細胞マーカーCYP3A4遺伝子の発現量およびその活性は、マトリゲル培養群と比較して大きく向上し、ヒト初代肝細胞に匹敵した。肝毒性の発現が認められるアセトアミノフェン等の薬剤を作用した後の細胞生存率は、ヒト初代肝細胞と同程度であった。以上の結果から、ヒト肝オルガノイドはHYDROX培養により高い肝機能を獲得し、肝毒性の評価試験に有用であることが示唆された。今後は、HYDROXによるヒト肝オルガノイドの成熟機構の解明に取り組む。

feedback
Top