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森岡 晶, 佐能 正剛, 石田 雄二, 古武 弥一郎, 立野 知世
セッションID: P1-013E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
会議録・要旨集
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目的
ヒト化された肝臓を有するcDNAuPA/SCIDマウス(PXBマウス®)は、肝細胞の脂質合成を抑制する成長ホルモン(GH)の種特異性により脂肪肝を呈する。本研究では、PXBマウスの脂肪肝を改善させるためにヒトGH(hGH)の適切な投与量を検討し、薬剤性脂肪肝毒性評価への有用性を検討した。
方法
hGHを浸透圧ポンプにより持続投与し、投与量ごとの血中hGH濃度や肝臓中の遺伝子発現量、脂肪肝の改善を比較した。適切なhGH投与量を決定し、脂肪肝を惹起するTO901317(TO)を経口投与し影響を解析した。長期活性持続型hGH製剤の皮下注射により、より低侵襲な脂肪肝の改善も試みた。
結果・考察
0.25mg/kg hGHを2週間投与したPXBマウスにおいて、その血中濃度はヒトを反映し、かつ脂肪肝が改善した。そこで、hGHを0.25mg/kgで持続投与しながら、TOを4日間反復投与したところ、TO投与量依存的に脂肪肝が惹起された。さらに、hGHを4週間持続投与し、TOを1週間反復投与した場合は、より明確に脂肪肝が惹起され、複数の投与期間での本hGH投与系の活用が期待された。一方、長期活性持続型hGH製剤であるソグルーヤまたはエヌジェンラの投与によっても脂肪肝の改善がみられ、より低侵襲な薬剤性脂肪肝の評価検討も可能であると考えられた。
結論
PXBマウスの血中hGH濃度にヒトを反映させた形で脂肪肝を適度に正常化するhGH投与量を決定した。この脂肪肝正常化PXBマウスは、TOのような薬剤によって誘発される脂肪肝毒性評価に有用となることが期待される。hGH非投与のPXBマウスとの比較のため、肝臓中の薬物代謝因子とトランスポーターの発現量解析も検討中である。
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加藤 奈菜, 梅屋 直久, 西村 直恵, 栃谷 智秋, 国遠 かおり, 臼井 亨, 宮脇 出
セッションID: P1-014E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
会議録・要旨集
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【背景】リン酸は医薬品の結晶化に用いられる酸の1つであるが、リンとしての1日摂取量には上限があり、特に静脈内投与においてはそのリスクが懸念されている。リン酸をラットに急速静脈内投与すると、リン酸が生体内のカルシウムと結合し結晶化することで、糸球体障害性の腎毒性が認められることが報告されている(Tsuchiya et al., 2004)。
【目的】本研究では、投与速度の低減によって血漿中リン濃度の一過的な上昇を抑制することで、腎毒性が回避され得るか検証するため、ラットにリン酸を静脈内急速又は静脈内持続投与し、その毒性を比較した。
【方法】雌ラットにリン酸緩衝液をリン酸として2.8, 17.5及び35 mg/kg/日の投与量で11日間反復静脈内急速投与又は30分持続投与し、一般状態観察、体重及び摂餌量測定、眼科学的検査、尿検査(腎毒性バイオマーカー測定を含む)、血液学的検査、血液生化学的検査(無機リン及びカルシウム濃度の経時測定を含む)、器官重量測定、剖検並びに病理組織学的検査を実施した。
【結果】急速投与群では、尿中のシスタチン-C及びアルブミン濃度が高値を示し、病理組織学的検査では糸球体症を示唆する所見が認められた。一方で持続投与群では、一過性の電解質異常が認められたのみで、尿中の腎毒性バイオマーカーの変動や、腎臓への影響を示唆する病理所見は認められなかった。持続投与群における一過性の血漿中無機リン濃度上昇及びカルシウム濃度低下は、急速投与群と比較して変動の程度が小さいことが確認された。
【結論】ラットにおけるリン酸誘発性腎糸球体障害は、リン酸の静脈内投与速度を低減し血漿中リン酸濃度の一過的な上昇を抑制することで軽減されることが明らかとなった。発表では、ヒトでのリスクに関する考察についても議論したい。
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浅地 英, 白坂 善之, 鮒井 悠汰, 関 裕太, 番場 琴音, 玉井 郁巳
セッションID: P1-015E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
会議録・要旨集
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下痢や便秘などの消化器毒性は、医薬品開発の中止を招く有害事象の一つであり、有効性・安全性に優れた経口薬を創製する上で、その適切な評価・予測は重要となる。しかし、薬物性消化器毒性の発現機構については、蠕動運動、水分/電解質調節、腸内細菌叢など様々な生理的因子の交錯的な関与が推察されており、その評価を一元的に行うことは困難である。例えば、消化管生理機能に影響する腸内細菌叢の作用は、serotonin (5-HT)をはじめとする消化管ホルモンとの関連性が示唆されているが、その薬物応答性は不明なままである。そこで本研究では、薬物による消化器毒性発現機構の解明を目的として、消化器毒性の発症率が高いmetforminをモデル薬物として用い、消化管内5-HT動態および腸内細菌叢に及ぼす薬物の影響とそれに伴う水分挙動変動に関する詳細な検討を試みた。まず、Caco-2細胞およびアフリカツメガエル卵母細胞を用いた検討から、トランスポーター(SERTなど)を介した5-HTの吸収動態が、metforminにより阻害される可能性が示された。一方、ラットin situ実験により、metformin存在下で管腔内水分量および管腔内5-HTレベルが上昇した。同様の傾向がmetforminの長期投与下においても観察された。さらに、NGSを用いたメタゲノム解析から、糞便中の腸内細菌叢の変化(特にTuricibacter属)ならびに多様性(α-, β-diversity)の減少が観察された。また、これらの糞便を、別の無処置ラットに移植したところ、移植を受けたラットは、ドナーと同様の下痢様症状を示した。以上より、薬物性消化器毒性の発現が、トランスポーターを介した5-HT輸送阻害に基づく管腔内5-HT濃度の上昇とそれに伴う腸内細菌叢の変化に起因している可能性が示された。
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舘下 正和, 杉山 聡, 白石 泰士, 疋田 泰士, 三好 隼人
セッションID: P1-016E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
会議録・要旨集
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医薬品開発において、心臓への副作用は開発中止の主要因の一つとなっており、候補物質の設計段階から心臓への副作用を正確に把握しておくことが重要である。心臓機能の実体は、心筋細胞の周期的な収縮弛緩であり、心筋細胞に流れるイオン電流により制御されている。QT 間隔の延長や不整脈の誘発などの副作用は、薬剤のイオン電流に対する作用により誘発されるため、この作用を正確に把握することが、潜在的な副作用リスクの低減につながる。
ヒト iPS 細胞由来心筋細胞は、ヒトの心筋細胞における主要なイオンチャネルを発現しており、パッチクランプ法などによる活動電位測定により、薬剤がイオン電流に与える影響を評価可能である。一方で、スループット性の高い平面微小電極アレイ(MEA)による細胞外電位測定においては、細胞の培養状態や電極の状態の影響を受けるため、薬剤が単一チャネルレベルでのイオン電流に与える影響を評価することは難しい。
本研究では、MEA で計測された細胞外電位波形に対し、特徴量抽出を行い、主要阻害チャネル推定を行う機械学習モデルを構築した。このモデルについて、hERG 阻害剤を含むイオン電流への作用が既知の複数の薬剤についての実験データから評価を行い、効果を確認した。しかし、学習データ中に似た阻害メカニズムを持つ薬剤のデータが存在しない場合については予測精度が低いという問題があった。そこで、心筋の活動電位モデル(ORd モデル)により細胞内電位の挙動をシミュレーションしながら、ウェル内の細胞が単層を形成することを仮定した上で電位が空間伝播する様子をモデル化し、電極における細胞外電位をシミュレーションできる系を作成した。様々な阻害チャネルパターンで細胞外電位をシミュレートして利用することで、学習データ中にない阻害メカニズムをもつ薬剤への対応を可能にした。
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宮下 泰志, 千秋 政徳, 薩川 正広
セッションID: P1-017E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
会議録・要旨集
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【背景・目的】外用剤として開発された化合物Aのラット26週間経皮投与毒性試験では、製剤濃度5%、10%及び20%群で化合物Aの血漿中濃度が同程度にもかかわらず、水晶体混濁(後皮質及び後嚢)が10%及び20%群でのみ認められた。本研究では、化合物Aによる水晶体混濁の発現機序及び投与方法の違いが水晶体へ及ぼす影響を明らかにするために、ex vivo及びin vivoの検討を実施した。
【方法】Ex vivo検討では、ラット摘出水晶体を用いて化合物Aのコレステロール合成に対する作用を評価した。In vivo検討では、化合物Aの外部から眼への混入が混濁の原因となることを考察するために、ラットを用いて4週間経皮投与による眼球中濃度測定試験及び8週間点眼投与試験を実施した。また、外部から眼への化合物Aの混入がない条件で水晶体への影響を評価するためにラット26週間皮下投与試験を実施した。さらにラット2年間経皮投与試験を実施して、経皮投与容量の違いが混濁に及ぼす影響を検討した。
【結果】各検討から、化合物Aによる水晶体混濁の発現機序及び投与方法の違いが水晶体へ及ぼす影響についてデータを取得した。本学会では、各検討のより詳細な結果について報告する予定であり、ラットを用いた経皮投与毒性試験を実施する際の課題や展望について議論したい。
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Wenjing DONG, Ippo AKASAKA, Akifumi KOMIYAMA, Tatsuro NAKAMURA, Naohir ...
セッションID: P1-018E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
会議録・要旨集
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Active metabolites of chemicals by enzymes including cytochrome P450 (CYP) are important in the pharmacological and toxicological effects in some cases. While it has been believed for a long time that thalidomide causes characteristic limb malformation only in rabbits and primates including human, the involvement of their CYP3A subtypes (CYP3As) has been suggested. Recently, it was reported that thalidomide caused defects of zebrafish pectoral fins, homologous organs of limbs in mammals, as well as other deformities. On the other hand, however, it was also reported that conventional aqueous exposure to thalidomide has only little effect in developing zebrafish. In this study, we generated human CYP3A7 (hCYP3A7) -, human CYP3A4 (hCYP3A4)- and human CYP1A1 (hCYP1A1) - expressing zebrafish (F0) using transposon system. Thalidomide caused pectoral fin defects and other malformation including pericardium edema and otic vesicles in both hCYP3A7- and hCYP3A4-expressing zebrafish but not in wild-type and hCYP1A1-expressing embryos/larvae. Thalidomide also reduced expression of fibroblast growth factor 8 in the pectoral fin bud in hCYP3A7-expressing embryos/larvae. The results suggest the involvement of human CYP3As but not by hCYP1A1 in augmentation of thalidomide teratogenicity. hCYPs-expressing zebrafish is an useful model for developmental toxicology.
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宮澤 圭悟, 高倉 郁朗, 笠原 寛子, 岸田 知行, 沓掛 貴矢, 武田 熙子, 梶野 雅起, 小林 翔平, 金沢 徹, 横井 亮平, 林 ...
セッションID: P1-019E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
会議録・要旨集
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【背景・目的】ゼブラフィッシュを用いた発生毒性試験(ZET)は創薬段階での催奇形性ポテンシャルの評価に有用であるが、定性評価に留まっている。しかし、ZETにおいて胚生存率や稚魚形態異常の出現率には濃度-反応関係が一般的に認められるため、胚への曝露量に基づいた定量評価ができる可能性が示唆される。本研究では、既知のラット胚・胎児発生毒性物質を用いて、ZETにおける最小影響処置濃度(zCOF)または当該処置濃度における稚魚中薬物濃度(zCIL)を明らかにし、これらとラットEFD試験の最小影響量(rLOAEL)における曝露量(rCmax及びrAUC)を比較することにより、ZETの結果からrLOAELでの曝露量の予測性を検討した。
【方法】既知のラット催奇形性物質を溶解させた処置水に受精卵を受精5時間後(5 hpf)から継続曝露し、120 hpfに稚魚の形態異常をスコア化して陰性/陽性を判定した。さらに、zCOFにおけるzCILを高速液体クロマトグラフ法により測定した。得られたzCOFまたはzCILをzCmaxとみなし、それぞれrCmaxと比較した。さらに、zCmaxからzAUCを算出しrAUCと比較した。
【結果・考察】zCmax (zCOFまたはzCIL)とrCmaxの比較において、概ね10-1~101となり、ZETのzCmaxからrLOAELのCmaxをある程度予測可能であった。一方、zAUCとrAUCは概ね一致しており、ZETの結果から高い予測性をもってrLOAELのAUCを推定できることが示された。本研究から、ZETは催奇形性ポテンシャルの定性評価に留まらず、ラットにおいて催奇形性を発現する曝露量を推定することが可能であり、さらには臨床推定曝露量との比較による安全マージンの算出により、創薬段階で催奇形性リスクを確度よく定量評価できる有用な評価系であることが示唆された。
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細井 紗弥佳, 廣瀬 貴子, 大坪 裕紀, 松村 奨士, 齋藤 和智, 池田 直弘, 伊藤 勇一, 小山 直己, 川出 明弘, 羽倉 昌志, ...
セッションID: P1-020E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
会議録・要旨集
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化学物質の遺伝毒性評価では、Ames試験等、指標遺伝子を介して突然変異を検出する試験法が用いられてきた。近年、DNAの相補鎖の情報を用いて、次世代シーケンサーのエラー頻度を約1/107 bpに低減するerror-corrected sequencing (ECS) が開発された。ECSは全ゲノムシーケンシングによる突然変異の直接検出を可能とし、従来の遺伝毒性評価の課題解決につながると期待されている。これまでに、ECS (i.e. Hawk-SeqTM) を用いて、Ames試験菌株やマウス等で、多様な変異原によるゲノム変異を検出できることが報告されている。我々は、ECSを遺伝毒性試験に応用するためには、感度や施設間再現性等、その有用性を検証することが重要と考えた。そこで今回、日本環境変異原ゲノム学会MMS研究会にて共同研究を開始し、ECSの有用性検証を目的に、変異頻度ならびに変異パターンの観点からHawk-SeqTMの感度や施設間再現性を確認することとした。まず、複数施設で実施可能な共通プロトコル策定のため、実験機器やシーケンサーの違いによる解析への影響を調べた。電気泳動装置については、Agilent 4200TapeStationと2100Bioanalyzerで同様にライブラリの品質管理、並びにその調製が可能であることを確認した。また、イルミナ社の複数種のシーケンサー間で、溶媒対照群におけるC>G等のエラー頻度に最大2倍の差が認められた一方、変異原曝露による変異頻度ならびに変異パターンは同等であった。現在、これらの検討を基に共通プロトコル、技術移管フローを策定し、技術移管を実施している。今後は変異原を曝露したマウス由来のDNAを用いて施設間における変異頻度や変異パターンの再現性を確認し、有用性の検証を行っていく予定である。
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藤田 侑里香, 伊藤 将, 篠原 彰
セッションID: P1-021E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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生物は日常的なDNA損傷からの防御として多くの修復経路を備え、相同組換え(Homologous Recombination; HR)修復はその正確さから主要経路の一つである。HR関連遺伝子の欠損は発がんや遺伝病と密接な関わりがあり、HR修復機構の詳細な解明が望まれる。アセトアルデヒドはアルコール摂取後に生体内で生じるDNA 鎖間架橋(interstrand crosslink; ICL)誘発物質で、DNA損傷や発がんを引き起こす。ICLの正確な修復には主にファンコニ貧血(Fanconi Anemia; FA)経路とHR修復経路が必要であり、近年FA経路の寄与はマウス個体を用いた検討で知見が深まる一方、HR経路の寄与はHR因子の変異体マウスの多くが致死のため解析が難しく未解明の点が多い。SWSAP1はHRの促進因子であり、所属研究室の検討で例外的に変異体マウスが生育可能であることが明らかになった。そこでSwsap1とAldh2(アルデヒド脱水素酵素 2)のダブルノックアウト (KO) マウスを新規に作製し、エタノール投与後のアセトアルデヒドが誘発するICLと、修復過程おけるHRの寄与について検証した。ダブルKO mouse embryonic fibroblasts(MEFs)にエタノールを暴露した結果、濃度依存的に小核形成頻度が上昇したことから、FA経路が正常であってもHRに異常があるとICL修復の過程でゲノムが不安定化することが示唆された。さらに若齢マウスにエタノールを投与し全身影響を検証した結果、ダブルKOマウスでは生育に大きな影響はなかったが、骨髄における造血細胞の減少等の異常が確認され、マウス個体でもSWSAP1を介したHRはICLの正確な修復に必要であることがわかった。本研究により、ICL修復に対してHRが担う、染色体安定化機構を新規に明らかにできると考えている。
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稲井 洋平, 仁平 開人, 南谷 賢一郎
セッションID: P1-022E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
会議録・要旨集
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目的:サイトカイン放出症候群(CRS)は全身に種々の影響を及ぼすが、その詳細な機序は明らかではない。本検討では生命予後に影響する心毒性に着目し、マウス及びカニクイザルのCRSモデルを用いて、その発現機序を検証した。方法:雄性マウスにリポポリサッカライド(LPS)を単回腹腔内投与(実験①)、雄性カニクイザルにLPSを2時間infusion投与(実験②)し、それぞれ投与24、48時間後まで経時的に一般状態観察や臨床検査を行った後、剖検及び病理組織学的評価を行った。また、雄性カニクイザルにCRSを誘発することが確認された抗体Xを100、1000 µg/kg単回静脈内投与し、経時的な一般状態観察、臨床検査を行った(実験③)。結果:実験①;投与3時間後をピークに高サイトカイン血症を認め、投与7~24時間後に自発運動低下/重度体温低下に至った。投与24時間後に心筋細胞の変性/壊死及び水腫変性、血清トロポニンT(TnT)の増加が認められた。実験②:投与2~6時間後に高サイトカイン血症を認め、投与48時間後までに血圧低下、摂餌廃絶、好中球/CRPの増加等を認めた。また、高サイトカイン血症の程度が最も強い個体で一過性かつ軽微に血清TnTが増加したが、心臓の病理組織学的異常は認められなかった。実験③:いずれの用量においても投与2~4時間後に高サイトカイン血症を認めた。1000 µg/kg投与個体は、投与24時間までに嘔吐、摂餌廃絶を認め、投与24時間後では重度の血圧低下、血清TnTの顕著な増加が認められた。考察と結論:明らかな高サイトカイン血症があっても心毒性を示唆するTnT増加に至らない個体が存在する一方で、心臓の傷害性変化又は血清TnTの顕著な増加が認められた個体ではいずれも重度の体温低下又は血圧低下を伴っていた。CRS誘発性心毒性は全身循環悪化に伴う虚血性変化が主因であると考えられた。
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BEIBEI BI, 福島 民雄, 三木 万梨子
セッションID: P1-023E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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Small molecular pharmaceuticals (SMPs) have been developed for years and used widely in therapy for various diseases. Although it’s recognized that the immunogenicity of SMPs is weak, excessive immunity activated by SMPs is usually occurred in non-clinical and clinical tests, leading to severe consequences such as toxic epidermal necrolysis, drug-induced hypersensitivity syndrome and anaphylaxis. Therefore, it’s critical to assess immunogenicity of systemic-exposed small molecular pharmaceuticals with evaluation system having high throughput and extrapolation. Human Cell Line Activation Test (h-CLAT) is an in vitro method for the assessment of skin sensitization potential of chemicals. We considered that whether h-CLAT can also be used in assessment of systemic response potential of chemicals. Thus, the purpose of this study is to clarify whether there is a relationship between in vitro h-CLAT results and in vivo systemic immune activation induced by SMPs. Compound A induced drug rush when treated to monkeys. Compound B resulted in severe inflammation when treated to rats. It was found they were positive for h-CLAT within 2-fold safety margin. Next, we used anti-bacterial and anti-viral drugs that is reported to induce immune risk in clinical application. Our results showed that short-administration drugs including clindamycin, rifampicin, colistin and spectinomycin are positive for h-CLAT with safety margin less than 10-15-fold, long-administration drugs including raltegravir, ritonavir, nelfinavir and efavirenz are positive for h-CLAT with safety margin less than 4-17-fold. Conclusively, our study indicated h-CLAT results have a good extrapolation into non-clinical/ clinical consequences. And we recommended h-CLAT for screening immunity induction of systemic-exposed small molecular pharmaceuticals in early stage.
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黒岩 美希, 山口 慎一朗, 加藤 慶宜, 堀 亜里沙, 豊浦 早織, 森本 展行, 中山 勝文
セッションID: P1-024E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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ポリスチレン(PS)はプラスチック容器の主な材料の一つであり、その環境中廃棄物はやがて劣化して微細化する。このようなマイクロプラスチックが生体内に入るとマクロファージに良く取り込まれるが、その分子機構は十分理解されていない。本研究では、最近私たちが明らかにしたCarbon nanotubes(CNTs)の認識受容体として機能するT cell immunoglobulin mucin 4(Tim4)(Omori et al., Cell Rep., 2021)が、PSマイクロ粒子も同様に認識するか否かについて検討した。 Tim4は細胞外領域の芳香族アミノ酸クラスターを介してCNTsと同様にPS粒子も認識した。さらにTim4遺伝子欠損マウス腹腔マクロファージはその野生型マクロファージに比べてこれら粒子の貪食能が有意に低いことが判明した。ただしCNTsを貪食したマクロファージからは炎症性サイトカインのInterleukin(IL)-1β が顕著に分泌されたが、PS粒子を貪食した場合はそれが認められなかった。Tim4はホスファチジルセリン(PtdSer)受容体でありアポトーシス細胞の貪食に関わるが、これはPS粒子により有意に低下することが明らかとなった。以上の結果は、マクロファージはTim4を介してCNTsやPS粒子を貪食するが、Tim4シグナルが直接的に炎症を惹起する訳ではないことを示唆する。またPS粒子はCNTsより安全な材料といえるが、慢性的な大量曝露はアポトーシス細胞貪食の抑制による自己免疫疾患につながる可能性が考えられる(Kuroiwa, M. et al., Sci. Total. Environ., 2023 published online)。
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風岡 顯良, 青木 重樹, 伊藤 晃成
セッションID: P1-025E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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アバカビル過敏症は,HLA-B*57:01保有者で生じ,斑状丘疹状の皮疹を主徴とし,発熱,全身倦怠感,その他,種々の臓器障害などの症状を伴う。そして,アバカビル過敏症既往者への再投与は,より重篤な症状を誘発するため,禁忌とされている。しかしながら,その症状の実態については,不明な点が多い。
筆者らは HLA-B*57:01導入マウスにPD-1欠損とCD4陽性T細胞の除去の条件を加え,5日間アバカビルを20 mg/body /day経口投与することで,皮疹,発熱,真皮および皮下組織へのリンパ球の浸潤や,肝臓おけるリンパ球の浸潤を認めている(風岡顯良ら,第5回 医薬品毒性機序研究会)。そこで,このHLA導入マウスにおいても再投与により顕著な症状の再発が生じるか,検討を行った。上述の条件で皮疹・発熱を生じたマウスに対して,15~18週間休薬したのち,20 mg/bodyアバカビルを投与し,24時間後に解剖した。アバカビル再投与群では,皮疹が確認され,皮膚および肝臓において,リンパ球(一部はCD8陽性)の浸潤ないし集簇が認められた。皮膚でのリンパ球の浸潤は再投与によって,より顕著に認められる傾向にあった。肝臓においては,5日間連続投与後,浸潤したリンパ球が小葉辺縁性に集簇する傾向にあったのに対し,再投与した場合には,類洞に多くリンパ球の集簇を観察し,さらに肝障害マーカーである血清ALTレベルの上昇も認めた。
以上のように,アバカビルの連日投与を行ったHLA-B*57:01導入マウスに比べ,休薬後にアバカビルを再投与したマウスでは,リンパ球の皮膚への浸潤や血中ALT上昇がより顕著に認められた。本結果から,アバカビル過敏症既往者における再投与による症状再発の機序理解に,HLA-B*57:01導入マウスが有用となる可能性がある。
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Oluwatoyin OWOKONIRAN, Akiko HONDA, Raga ISHIKAWA, Megumi NAGAO, Natsu ...
セッションID: P1-026E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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Cardiovascular diseases are the leading cause of global mortality; with endothelial dysfunction as the initiating stage and air pollution as a substantial environmental risk factor. Several lines of evidence have linked air pollution to cardiovascular morbidity and mortality. However, there is dearth of evidence on the health effects of air quality in enclosed subways with high metal composition due to wear of rail and brake. Therefore, the aim of this study was to investigate the effects of iron oxide particles on the health and physiological function of the vascular endothelium. Human Umbilical Vein Endothelial cells (HUVECs) were cultured as monolayers before exposure to 0, 25, 75 and 200 μg/mL of iron oxide particles for 6, 24 and 48 h. Cell viability, Lactate dehydrogenase (LDH) release, reactive oxygen species (ROS), Interleukins 6 and 8 (IL-6 and IL-8), Endothelin 1 (ET-1) and Plasminogen Activator Inhibitor 1 (PAI-1) production were assayed. Iron oxide caused significant dose-dependent loss in HUVECs’ cell viability with corresponding substantial increased LDH release. In addition, increased production of ROS and pro-inflammatory cytokines such as IL-6 and IL-8 were observed. Furthermore, production of PAI-1, a fibrinolytic modulator and ET-1, a vasoconstrictor significantly decreased compared to control with accompanying cell death and loss of membrane integrity. Overall, these results suggest that iron oxide-rich subway particulate matter can significantly impair endothelial function and cause coagulation dysfunction especially through gross cellular damage.
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山口 慎一朗, 謝 祺琳, 黒岩 美希, 笠原 浩太, 中山 勝文
セッションID: P1-027E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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一部の多層カーボンナノチューブ(MWCNTs)は生体内に入ると主にマクロファージに取り込まれ、そのマクロファージストレス応答により慢性炎症が起きると考えられている。しかしながら、マクロファージがどのようにCNTsを認識するか良く判っていない。最近我々は、CNT認識受容体としてマウスT cell mucin immunoglobulin 4 (Tim4) を同定したが(Omori et al., Cell Rep., 2021)、ヒトにおいてはTim4以外のCNT認識受容体が存在することが判ってきた。そこで本研究では、マウスTim4のCNT認識部位の三次元類似構造をもつ受容体のin silico screenを行い、新規ヒトCNT認識受容体としてsialic acid-binding lectin (Siglec)-5およびSiglec-14を同定することに成功した。ヒト単球系細胞株THP-1にSiglec-5およびSiglec-14を遺伝子導入したSiglec-5/THP-1とSiglec-14/THP-1は共に親株THP-1と比較して有意に高いMWCNT認識能を示した。MWCNTsの貪食およびIL-1βの分泌亢進はSiglec-5/THP-1ではなくSiglec-14/THP-1によってのみ認められた。この炎症応答はSyk阻害剤のR406でも有意に抑制された。この結果と一致して、CRISPR/Cas9システムによりspleen tyrosine kinase(Syk)遺伝子を欠損させたSyk null Siglec-14/THP-1ではMWCNTsによる炎症応答が認められなかった。以上の結果から、Siglec-14はSykを介するリン酸化シグナル伝達経路によりMWCNTsの貪食と炎症性サイトカインの分泌を誘導することが示唆された(Yamaguchi et al., Nat. Nanotechnol., 2023)。
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鍵 智裕, 平田 祐介, 野口 拓也, 松沢 厚
セッションID: P1-028E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
会議録・要旨集
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近年新たに提唱されたプログラム細胞死であるフェロトーシスは、鉄依存的な過酸化脂質の蓄積によって引き起こされる非典型的細胞死の一つである。癌細胞では細胞内の鉄濃度が高いことから、フェロトーシス誘導によって癌細胞を選択的に排除するという新たな癌治療戦略に大きな注目が集まっている。しかし、実際に抗癌剤として使用できるフェロトーシス誘導剤は存在しない。当研究室ではフェロトーシス誘導剤の探索を行い、ポリペプチド系抗菌薬の一つであるpolymyxin B (PMB) がフェロトーシス誘導能を有することを新たに見出した。そこで、PMBを用いた新たな癌治療戦略の構築を見据え、フェロトーシス誘導機構の解明を目的として研究に着手した。
ヒト線維肉腫細胞株HT1080を用いた解析の結果、PMBはオートファジーの一種であるフェリチノファジーを誘導し、鉄貯蔵タンパク質ferritinの分解により細胞内遊離鉄を増加させて、フェロトーシスを誘導することが判明した。次に、フェリチノファジーの誘導因子であるNCOA4に着目し、PMBによるフェリチノファジー誘導機構を解析した。NCOA4は鉄欠乏時、転写依存的に増加することでフェリチノファジーを誘導し、鉄を補給する役割があるが、興味深いことに、PMBは鉄が十分に存在する状況においても、NCOA4の発現量を翻訳依存的に増加させ、フェリチノファジーを誘導することが明らかとなった。本研究の結果から、PMBがフェリチノファジー依存的にフェロトーシスを誘導することを新たに見出した。PMBは既に承認された医薬品であることから、フェロトーシスを標的とする抗癌剤として実際に応用できる可能性が示された。さらに本研究成果は、PMBの構造展開による新規化合物の合成や、本研究を基盤とした新たな癌治療標的の同定により、従来の抗癌剤とは異なる作用機序を持つ革新的な抗癌剤の開発に繋がる。
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國重 莉奈, 野口 誉之, 米谷 信彦, 中津 大貴, 村田 昌之, 加納 ふみ
セッションID: P1-029E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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細胞へのシグナル入力後の超早期に起こる薬剤の主作用や毒性発現の分子機序を解明するには、関与するシグナル伝達タンパク質群の時空間ダイナミクスをネットワークとして一度に捉えることが必要である。我々の開発したPLOM-CON (Protein localization and modification-based covariation network) 解析法は、細胞への特定の刺激に応答して活性化・不活性化するタンパク質群の「量」「(共)局在」「質(リン酸化などの翻訳後修飾)」の時間変化を免疫蛍光染色画像から定量化し、特徴量の時間相関が強いもの同士をエッジ(線)で結んだ「共変動ネットワーク」として視覚化したものである。本手法の適用例として、インスリン刺激を与えたラット肝H4IIEC3細胞における〜50のタンパク質について共変動ネットワークを得た結果、インスリンシグナルの中心分子であるAktとそのリン酸化体p-Akt(Ser473)がネットワークのハブであることがわかった。さらに、p-GSK3βを含むグリコーゲン合成に関わるタンパク質群は主にアクチンドメイン(インスリンに応答し一過性に形成される構造体)において時間的同調性を示すことに加え、アクチンドメインの形成阻害によりグリコーゲン合成が阻害されたことから、アクチンドメインはインスリンシグナルに応答してグリコーゲン合成を制御するタンパク質分子の集積地であることが明らかになった。また、CK666処理によりアクチンドメイン形成を阻害する(糖尿病の肝臓細胞状態を再現できる)条件で作成したネットワークは、コントロール条件のものに比して形が大きく変化することがわかった。このように、本手法は場所依存的なタンパク質機能の解明に寄与するのみならず、特定の刺激に対する細胞状態の変化を鋭敏に表すため、細胞の正常性検証や薬剤の毒性検定にも応用可能である。
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原 崇人, 山本 千夏
セッションID: P1-030E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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プロテオグリカン(PGs)は、タンパク質上の特定のセリン残基に結合したxylose、galactose、galactose、glucuronic acidのリンカー四糖に対して、アミノ糖とウロン酸が繰り返される糖鎖を有する。この特徴から分かるように、PGsは合成に多量のアミノ酸、糖、ATPを必要とする非常に高コストな分子である。それにも関わらず、幅広い生物種がPGsを合成しては絶えず細胞外へと分泌している。そのため、PGs合成には生物種や分子種を超えた生理的意義が存在すると予想されるが、未だによく分かっていない。
終末糖化産物(AGEs)は還元糖がタンパク質のアミノ基に対して非酵素的に反応した構造体である。AGEsは活性酸素種(ROS)を増加させ、細胞の老化や血管の機能障害を引き起こす。上記のPGs合成に関わる糖はいずれも還元糖であるが、糖鎖の伸長過程で還元能が消失するため、PGs全体の還元能は合成に使用された糖がもつ総還元能と比べてはるかに小さくなる。よって、PGs合成を通じた還元糖の反応性の低下と細胞外への放出により、AGEsによる細胞傷害が軽減するのではないかと考え、これを検討した。
リンカー四糖の合成に関わるGlcAT-Iを干渉RNA法により抑制した血管内皮細胞を無血清の低D-glucose(5.55 mM)またはD-glucose添加(40.55 mM)DMEMで培養した。培養後48時間において、GlcAT-I 抑制群の細胞内ROS量が増加し、生存率の低下が認められた。また、D-glucose負荷条件下ではGlcAT-I抑制群において細胞内AGEs量とROS量が増加したものの、細胞生存率には影響を及ぼさなかった。以上の結果より、PGs合成が糖質負荷により加速するAGEsの生成や糖化ストレスに対する防御系として働くことが示唆された。
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池内 璃仁, 中野 毅, 原 崇人, 北畠 和己, 山本 千夏, 月本 光俊, 藤江 智也, 鍜冶 利幸
セッションID: P1-031E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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【目的】血管内腔を単層で覆う血管内皮細胞は,多様な血管機能を調節しており,これら機能調節にはヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPGs)が関与する。動脈硬化病変初期ではヘパラン硫酸の減少が認められているが,詳細な機構は不明である。アデニン代謝物(ATP,ADP,アデノシン)は炎症などの刺激により放出され,プリン受容体を介して細胞の機能を調節している。本研究では,内皮細胞におけるアデニン代謝物によるHSPGs発現の調節とその機構の解明を目的とした。【方法】ウシ大動脈内皮細胞をアデニン代謝物で処理し,HSPGs(パールカン,シンデカン-1,シンデカン-4)mRNA発現をreal-time RT-PCRで解析した。siRNAはリポフェクション法に基づき導入した。【結果および考察】内皮細胞のパールカン mRNA発現はATPの処理により減少したが,ADPおよびアデノシンではこのような抑制作用は認められなかった。シンデカン-1 mRNA発現は,ATP,ADPおよびアデノシンの処理により減少した。シンデカン-4 mRNA発現は,ATP処理により増加したが,その後減少に転じる二相性の変化を示した。このような二相性の変化は,ADPやアデノシン処理でも見られたが,ATPの作用が最も大きかった。内皮細胞に発現しているプリン受容体A2BR,P2X4R,P2X7R,P2Y1R,P2Y2Rのうち,ATPによるパールカンの転写抑制には,P2X4RおよびP2Y2Rが関与していた。ATPとADPによるシンデカン-1の転写抑制にはP2X4RおよびP2Y1Rが関与していた。一方,ATPおよびADPによるシンデカン-4の早期の転写誘導にはA2BRおよびP2X4Rが,その後の抑制にはP2Y2Rが関与した。内皮細胞のHSPGs発現はアデニン代謝物により調節されること,およびその発現調節はプリン受容体を介することが示唆された。
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池田 和輝, 高橋 政友, 秦 康祐, 中谷 航太, 油屋 駿介, 富安 範行, 松本 雅紀, 馬場 健史, 和泉 自泰
セッションID: P1-032E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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薬物誘発性肝障害 (DILI) は,医薬品開発中止の主要な原因である.DILI評価にメタボロミクス・プロテオミクスによるマルチオミクス解析を応用することで,更なる毒性メカニズムの解明が期待される.しかし,DILI評価に適するヒト初代肝細胞 (PHH) はコストが高く,同一ロットの入手数も限られるため,マルチオミクス研究への応用が進んでいない.そこで本研究では,従来の1/100相当の細胞数からなる5 × 104 cellsからマルチオミクス解析ができる96-well plateを用いた試料調製法を構築したので報告する. 本研究では,同一のPHHs試料から薬物代謝物,メタボローム,プロテオームの情報が取得できるように,前処理工程で効率的な分画を行うことで,マルチオミクス解析を可能にした.さらに,前処理からLC/MSへの試料導入までを96-well plate上で完結させることで,試料損失量を最小限に抑えることができ,従来の1 × 106 ~1 × 107 cellsを用いたバルク分析と比べて検出感度と堅牢性を維持しつつ,前処理操作のスループット向上を達成した.続いて,開発した分析系を用いて10%の阻害濃度でのアセトアミノフェン (APAP) を暴露したPHHsのマルチオミクス解析を行ったところ,APAP暴露群のみでAPAPやその関連代謝物を検出し,同時にCYPや抱合反応に関わる酵素の一部も有意な増加が確認された.加えて,マルチオミクス情報をパスウェイ解析に供したところ,GSHの枯渇やグルクロン酸抱合関連代謝物量の低下などin vivoで観察されている内生代謝の変化をin vitro系でも同様に捉えることに成功した.今後,本手法を用いて様々な薬物での評価を進めていくことで,詳細な毒性メカニズムの解明につながることが期待される.
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Chan-Hao HSU, Pei-Jen CHEN*
セッションID: P1-033E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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Benzophenones (BPs) are a category of chemicals with similar structures, commonly used as UV filters (e.g., BP itself and BP1-BP12) in personal care products such as sunscreens, skincare products, and body washes. Their derivatives such as 2-methyl benzophenone (2MBP), 3-methyl benzophenone (3MBP), 4-methyl benzophenone (4MBP), 4-phenyl benzophenone (4PBP), and 4,4'-diethylamino-benzophenone (DEAB) are often used as photoinitiators, binders, or additives in printing inks of food contact materials. Because of the high usage of BPs and their potential for environmental persistence, residues of these chemicals are frequently detected in various environmental matrices and organisms. Studies have shown that BP3 increases coral bleaching rates and exhibits the estrogenic activity in aquatic life. However, much fewer studies report on the ecotoxicity of BP derivatives. Hence, the objective of this study is to systematically analyze in vivo toxic effects of specific BPs and their derivatives on medaka (Oryzias latipes) fish. The LC50 value from 96 hr-acute mortality of 7-day post-hatching medaka larvae showed that DEAB was the most toxic compound and BP was the least toxic compound. With the 7-day-sublethal exposure, only 4PBP and DEAB dose-dependently increased larval mobility at tested concentrations. The altered larval locomotion by 4PBP may be associated with chemical-induced oxidative stress. We will further investigate the toxic mechanism of 4PBP and DEAB in medaka fish regarding fish behavior under environmentally relevant exposure conditions.
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浅井 崇穂, 梅下 和彦, 櫻井 光智子, 坂根 慎治
セッションID: P1-034E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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化学物質の安全性評価における動物実験の代替案の一つとして、in silico手法は近年の機械学習技術の進歩により大きな注目を集めている。ITSv2はOECD Guideline No. 497に収載されている信頼性の高い皮膚感作性ハザード及びUN GHS分類に基づく多段階リスク評価手法であるが、LLNA EC3値のような定量的なリスク評価には対応していない。本研究では、LLNA EC3値および皮膚感作性AOP(Adverse Outcome Pathway)の各Key Eventに関するin chemico/in vitro試験データを有する195物質を用いて、各試験データ、分子記述子、リード・アクロスの考え方に基づく距離情報を使用した機械学習モデルとITSv2ハザード評価を組み合わせた、化学物質のLLNA EC3値を定量的に予測するin silico評価系を開発した。二つのCatBoostモデルとITSv2ハザード評価を組み合わせた予測系のパフォーマンスは、R2値として学習用データで0.862、内部検証用データで0.550、外部検証用データで0.617であった。更に、ITSv2ハザード評価で誤分類であった物質は、想定されているAOPを表現する各試験と皮膚感作性との対応に合致しない性質を有していると考え、ITSv2ハザード評価の正誤を当予測系の適用範囲の閾値として定めた。ITSv2ハザード評価が誤っていた物質を除いて再評価したところ、R2値として学習用データで0.963、内部検証用データで0.681、外部検証用データで0.815であり、予測精度が大幅に向上した。また、適用範囲内の物質のみでCatBoostモデルを再構築することで、R2値として学習用データで0.995、内部検証用データで0.787、外部検証用データで0.824となり、予測精度が更に向上した。
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縄司 奨, 溝口 直洋, 吉川 真弓, 関 雅範, 寺岡 宏樹
セッションID: P1-035E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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2020年に、医薬品規制調和国際会議(ICH)の生殖発生毒性試験ガイドライン(S5)が改訂され、胚・胎児の発生に関する試験(EFD試験)において代替法が利用可能になった。欧州において受精後120時間(hpf)までのゼブラフィッシュ(ZF)胚は保護動物の対象外と取り扱われるため、ZF胚を用いる発生毒性試験は動物福祉の観点で有利である。さらに、ヒト/哺乳類との組織学的、遺伝学的な類似性等の利点から、EFD試験の代替法として注目されている。しかし、薬物の水溶液濃度(Cw)と胚中濃度(Ce)の関係性及び毒性に係る薬物ばく露量におけるヒト/哺乳類との関係性は不明である。そこで本研究では、薬物のCw及びCeの関係性及び21種のICH S5陽性対照物質の薬物ばく露量におけるZF-ヒト/哺乳類間の相関性を調べた。まず、様々なlogD(pH 7におけるオクタノール/水分配係数の常用対数)値を示す10物質(ICH陽性対照物質含む)の薬物水溶液に、ZF受精卵(NIES-R系統)を5 hpf以内にばく露し、24~120 hpfの24時間ごとの胚中濃度(Ce)を測定した。その結果、各時点でlog[Ce/Cw]-logD間で高い相関性を示した(決定係数R2:0.87~0.96)。次に、得られた回帰式を用いて、ICH S5陽性対照物質21物質の最大無影響濃度における胚中濃度の推定値Ce(cal)を算出し、各時点のCe(cal)から胚中濃度-時間曲線下面積(zAUC)を求め、ヒト/哺乳類の無毒性量又は有効量における血中濃度-時間曲線下面積(AUC)と比較した。その結果、ZF胚で陽性と判定された物質では、log[AUC]-log[zAUC]間で良好な相関性を示した(R2:0.73~0.92)。このことから、各薬物の発生毒性発現に係るばく露量レベルはZF胚とヒト/哺乳類で類似していることが示唆された。
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橋本 真悟, 杉山 晶彦, 木股 敬裕, 岩井 良輔
セッションID: P1-036E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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【背景と目的】細胞外マトリクスを含むハイドロゲル内にて血管内皮細胞が形成する毛細血管構造体を血管毒性試験モデルとして用いる場合には、試験薬のゲル吸着による評価への影響を考慮する必要がある。また、毛細血管構造のランダムな形成・消失という動的変化が生じるため、経時的な構造変化の評価には向かない。我々が開発した細胞の自己凝集化技術(CAT)においては、ゲルを用いずに任意の形状の細胞組織体を自己形成させ培養皿底面に定点固定することが可能である。本研究では、CATを用いて培養皿底面に定点固定された血管様ファイバー状組織体を作製することを目的とした。
【実験方法】ダンベル形状(長辺幅16 mm)に切り抜いたシリコーン板を培養皿底面に貼付して作製した溝空間を培養部屋とし、その長辺両端から2 mm内側の短辺中央部に直径2 mmの円盤状のシリコーン板を細胞凝集塊の位置固定のための支持材として貼付した。CAT用のポリマー水溶液を培養部屋の底面に塗布した後、ヒト臍帯静脈内皮細胞とヒト間葉系幹細胞の混合懸濁液を播種し培養した。
【結果と考察】培養部屋底面に細胞が接着して形成した細胞単層の自発的な剥離と凝集化が培養部屋の辺縁から中心に向かって生じた。細胞単層の凝集化は支持材によって塞ぎ止められ、2点の支持材の間に約0.3 mm径のファイバー状の細胞凝集塊が播種1日後に形成した。ファイバーは少なくとも2週間は断裂することなく維持され、内部にはファイバーと等方向に配向した複数本の毛細血管様構造が、外表面には隙間のない内皮細胞単層が形成した特異な組織構造が観察された。そこで、培養液に塩化カドミウムを添加すると、組織体はファイバー形状を維持したまま外表面の内皮層のみが崩壊するという毒性反応を示した。ゲル吸着の影響を受けず、経時的な評価が可能な血管毒性試験モデルになり得ると考え組織体の詳細な解析を進めている。
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日吉 貴子, 西銘 千代子, 西中 栄子, 浦野 浩司, 山本 大地, 鈴木 雅実
セッションID: P1-037E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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【背景】疾患モデルのひとつとして、化合物の暴露により臓器障害を惹起するモデルが広く用いられている。暴露方法として様々な局所投与方法が開発されており、化合物誘発性肺障害モデルの作出には気管内投与が利用されている。投与方法開発初期には、気管への投与が主流であったため左右の肺にランダムに病変を誘導していたが、小動物用気管支鏡の開発により、左右肺への選択的投与が可能となった。
【目的】マウスの肺は左右で分葉状態が異なることより、左右肺選択的暴露の特徴を明らかにするために、ブレオマイシン(BLM)をモデル化合物として選択し、肺障害の分布と炎症から線維化に至る過程を病理組織学的に比較解析した。
【方法】8週齢のC57BL/6JJclマウスに、BLM(6 mg/mL)を20 µL、細径内視鏡を用いて左右肺に選択的に投与した。投与後、毎日の一般状態の観察とともに、週1回体重を測定した。投与後7日、14日、28日に安楽死処置により肺を採取し、病理組織学的に解析した。
【結果・考察】体重は、投与後7日に一過性に減少し、その後は増加傾向を示した。頻呼吸等の一般状態の変化は観察期間を通じて認められなかった。病理組織学的解析では、左肺にBLMを投与した群では、個体差が少なく、葉全体に均一に線維化を含む炎症像が観察された。一方、右肺にBLMを投与した群では、炎症像が観察されたものの、右肺の葉間(前葉、中葉、後葉、副葉)の病変分布に個体差がみられた。肺葉構造、気管支分岐など解剖学的特徴から、右肺では各葉への暴露が不均一となった。一方、左肺では、単葉であるため葉全体が暴露されやすく、個体差の少ない均一なモデルを作製できた。また、片肺への選択的投与では、非暴露肺が機能するため、重度の肺障害の惹起によるモデル化も可能と考えられた。
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森岡 久子, 小林 俊夫, 前田 洋祐, 武吉 正博
セッションID: P1-038E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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【背景及び目的】LLNA: BrdU-ELISA法(LLNA-BrdU法)は、OECD TG442Bに登録され、LLNA-RI法と同様に化学物質の皮膚感作性を評価する試験法として汎用されている。また、LLNAでは化学物質が感作性陽性反応を示す推定濃度EC値が感作性強度の指標とされ、LLNA-BrdU法のEC1.6 及びLLNA-RI法のEC3が、GHS細区分や定量リスク評価の指標として用いられている。これまでEC1.6とEC3を定量的に比較した報告はないことから、既存データを基にLLNA-BrdU法のEC1.6とLLNA-RI法のEC3との関係を統計的に解析し、回帰式の構築を試みた。さらに、回帰式を用いたEC3予測値と実測値の比較によりその実用性を検証した。
【材料及び方法】LLNAの性能確認に用いられる感作性物質(15物質)の、既知のEC1.6及びEC3について、実数又は数値変換後に回帰分析を行い、決定係数(R2)を指標に最適な回帰式を決定した。次に、既知の感作性物質(34物質)のEC3実測値からLLNA-RI法におけるEC3の95%変動範囲を推定した。さらに、予測式の実用性についてICCVAMによるELISA法評価報告書収載の、EC1.6及びEC3が既知の感作性物質(32物質)を用いて検証した。
【結果及び考察】決定した回帰式(LogEC3=0.972LogEC1.6+0.118(±0.618))を用いてEC1.6から予測されたEC3は、27/32物質がLLNA-RI法における推定変動範囲内に分布した。また、変動範囲から逸脱した物質についても、その差は軽微であったことから、回帰式のEC3予測精度は良好であり、実用的なものであることが示された。
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杉山 聡, 今村 弥佳, 舘下 正和, 村上 諒一, 疋田 泰士
セッションID: P1-039E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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Ames試験は医薬品や工業製品に含まれる化学物質のDNAに対する作用(変異原性)を評価する代表的な試験である。試験では、化学物質そのもの、およびラット代謝酵素を用いた化合物の代謝産物両方の変異原性評価を実施している。このような毒性懸念の評価を迅速・安価に進めるために、化合物構造のみから試験結果を予測する in silico(QSAR)の技術開発が盛んになっており、医薬中に含まれる不純物の変異原性評価にQSARの利用がガイドライン化される(ICH-M7)など、利用が進んでいる。手法は大別して化合物の懸念構造に基づいて判定する知識ベースと、機械学習などの計算科学的手法を用いた統計ベースがある。ICH-M7では、Ames試験による変異原性の評価に知識ベースと統計ベースの両方を使用することが求められている。知識ベースの手法では、化学反応知見を基にDNAとの化学反応メカニズムをルール化することで判定を行っている。一方、in silico で入力される化合物構造は酵素による代謝反応前の構造であり、代謝反応によって化合物の構造が変わる場合はDNAとの化学反応の有無を判定することができない。そこで我々は、予測対象の化合物がAmes試験環境中でどのように代謝され、そして試験結果に影響を与えるかをシミュレートする機能を構築し、知識ベース予測の性能を向上させた。さらに公共および社内のAmes試験データを用い、統計ベースである機械学習の一種であるGNNを用いた予測モデルを作成し、上記知識ベースのモデルと組み合わせ、相補的に判定するシステムを構築した。
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若狹 瑞帆, 阿部 香織
セッションID: P1-040E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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Drug-induced convulsive seizures are a serious adverse event and drug evaluation is usually carried out using behavioural indicators in laboratory animals such as rodents. However, these evaluation methods use large numbers of animals and require large amounts of test substance, resulting in low throughput. While tests using laboratory animals provide a lot of useful information, they are also considered to be an area for improvement in terms of animal welfare, speed of research and development and cost. To address this issue, a test method using zebrafish, which can be evaluated with a small amount of test substance (-µg) and can contribute to the promotion of the 3Rs, has been reported using the amount of behaviour immediately after drug addition as an indicator. However, in the previously reported evaluation system, the presence or absence of convulsions is finally determined by visual observation by researchers, which causes problems such as inconsistency in evaluation, reduced throughput and difficulty in multi-tracking. Therefore, in this study, we aimed to solve the above issues by introducing AI into the evaluation of seizure-like behaviour using zebrafish and automating some of the tasks.
In this presentation, an overview of automated tracking for each designated site using DeepLabCut, extraction of behavioural parameters that change in relation to compound administration, and evaluation of a seizure-like behaviour classification model using the behavioural parameter dataset will be presented.
Keywords: Toxicity prediction, Deep Learning, Multi-animal tracking, Central Nervous System
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松下 優作, 北村 哲生, 塩谷 元宏, 水野 洋, 中川 宗洋, 朝倉 省二, 吉永 貴志
セッションID: P1-041E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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非臨床安全性試験における薬剤性の行動変化(活動量増加や痙攣等)は,ヒトでの重篤な副作用に関連し得るため,前臨床段階においてこれらの発現を見逃すことは許されない。サルの行動変化は,主にビデオ映像の目視により確認しているため,膨大な時間を要している。本研究では,サルの動画データを用いた深層学習による行動解析を行い,活動量評価及び痙攣検出の実現可能性を検討した。動画データを基に骨格部位のアノテーションを教師データとして,ケージ毎に骨格推定モデルを作成し,算出した2D座標を用いて2つの実験を行った。実験1(活動量評価):カニクイザル4例にアポモルヒネ塩酸塩(APO, 0及び1 mg/kg)を皮下投与し,投与後4時間まで動画を撮影した。腰の2D座標のframe間の差分を活動量として算出した。更に1時間毎の2D座標の軌跡を作成した。実験2(痙攣検出):カニクイザル4例にペンチレンテトラゾール(60-70 mg/kg)を皮下投与し,明期・暗期の痙攣検出を検証するために点灯下・消灯下で痙攣発生まで動画を撮影した。周波数解析により算出した振動強度及び2D座標を用いて閾値を設定し,痙攣検出アルゴリズムを作成した。実験1では,APO特有の行動変化(旋回運動や跳躍,ケージを舐める等)が投与後1時間までに4例4様で認められた。旋回運動や跳躍が認められた2例では各々で異なる軌跡を示したが,活動量は共に増加した。実験2では,投与後約1時間以内に全例で痙攣が発生し,痙攣検出アルゴリズムは点灯・消灯のいずれの条件でも全例で痙攣を検出した。実験1の群では全例で痙攣を誤検出しなかった。以上より,サルの動画データを用いて骨格推定モデルを作成し,客観的かつ定量的な活動量評価,さらには効率的な痙攣検出を行うアルゴリズムを作成した。本法は前臨床段階における行動変化検出に有用な手法となり得ると期待される。
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高木 優奈, 酒井 幸, 松本 崇, 西條 英里, 宮本 実, 豊柴 博義
セッションID: P1-042E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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背景: 薬剤性肝障害(DILI)の発症は様々な因子に影響されるため予測が非常に困難である。DILIに影響を及ぼす因子の探索には着目すべき因子を見出す仮説生成が欠かせない。自然言語処理AIは膨大なテキスト情報の網羅的かつ客観的な解析や言葉同士の演算を可能とし、近年創薬標的探索における仮説生成に活用されている。本研究ではDILIと遺伝子の関係に注目し、仮説生成の観点からAIのDILI影響因子探索への適用可能性を検討した。
方法: Liver Toxicity Knowledge Base DILIrank datasetに含まれる1036 FDA承認薬と約2万ヒト遺伝子についてAIを使いベクトル化した。ブートストラップ法を組み合わせたロジスティック回帰モデルを作成し、モデルの出力結果をDILIスコアと定義した。DILIスコアの高い141の薬剤と約2万遺伝子の合算ベクトルから算出したDILIスコアが、薬剤単独のスコアより低くなる遺伝子に着目し、薬剤横断的に共通する遺伝子を抽出した。
結果と考察: DILIスコアが0.5以上を肝毒性ありとした。DILI懸念の高い薬剤(Most-DILI)において、薬剤単体で肝毒性ありと判断されたにも関わらず、遺伝子ベクトルと合算した場合にDILIスコアが明確に低下するケースがあった(141件、89%)。これらDILI懸念の高い薬剤に共通する遺伝子は219個であった。DILI スコアの低下に関与しているであろう遺伝子のクラスター解析を実施したところ、異物代謝、タンパク質脱リン酸化、ERストレス応答、miRNA介在遺伝子サイレンシングなどと関連が深い遺伝子が薬剤横断的に認められ、DILIとの関連報告のない遺伝子も含まれていた。今回の検討から、自然言語処理AIはDILI影響因子探索においてこれまでにない仮説を検証する機会を提供する可能性があると考えられた。
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橋本 芳樹, 前田 和哉, 下村 治, 宮﨑 貴寛, 橋本 真治, 小田 竜也, 楠原 洋之
セッションID: P1-043E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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薬剤誘導性の悪心・嘔吐の機序の一つとして、消化管上皮のenterochromaffin細胞(EC細胞)から分泌されるセロトニン(5-HT)による、求心性の迷走神経を介した嘔吐中枢の過度な刺激が挙げられる。一方でげっ歯類は嘔吐反射がないことから、薬剤誘導性の嘔吐リスクをin vivo実験から予測することは困難である。本研究では、crypt由来のヒト空腸幹細胞スフェロイドをEC細胞へ分化させ、薬物暴露依存的な5-HT放出活性を評価することにより、薬剤誘導性の悪心・嘔吐のリスクを予見可能なin vitro評価系の構築を目指した。
幹細胞性の維持に必須な因子を含むL-WRN細胞由来の馴化培地で培養したヒト空腸幹細胞スフェロイドを、Notch阻害薬DAPTを添加した条件下で5日間培養した。その結果、EC細胞マーカーCHGA, TPH1の発現上昇と免疫染色による5-HT陽性の細胞集団の増加が観察され、EC細胞への分化が促進されていることが示唆された。
また、5-HT放出の陽性対照としてforskolin刺激を行い、培養上清を回収、LC-MS/MSによる5-HT分泌量を定量したところ、DAPT添加時では5-HT放出量の大幅な上昇が観察され、本実験系によりEC細胞の5-HT放出活性を評価可能であることが示唆された。 また、悪心・嘔吐のリスクが臨床で報告されているシスプラチンやクリゾチニブ、メトホルミンといった薬物の暴露により、5-HT放出の上昇が観察されることを確認した。現在、5-HT放出活性と悪心・嘔吐の発症頻度との対応を調べることにより、悪心・嘔吐のリスク評価を行う上での5-HT分泌量評価の有用性を検証中である。また、EC細胞に対する細胞傷害や機能変動を評価することにより、薬物暴露によるEC細胞からの5-HT放出制御メカニズムについて検討を進めている。
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弓桁 洋, 上森 健至, 鈴木 唯, 小島 健介, 仁平 開人, 南谷 賢一郎
セッションID: P1-044E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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医薬品の探索初期段階において、薬剤標的分子に基づく毒性(on-target毒性)のハザードを可能な範囲で洗い出し、その対策を考えるtarget safety assessment(TSA)は創薬の効率化や成功確率を向上させる上で重要である。しかしながら、探索初期では実験によってTSAを実施するための適切なツール化合物を用意できないことが多く、データベースや検索ツールを用いてdryな環境で実施するin silico TSAに限定される。遺伝子欠損マウス(KOマウス)や後天的遺伝子欠損マウス(cKOマウス)を作出するという方法も考えられるが、前者では胎生致死の懸念があり、後者では、一般的に利用されているCre/loxPシステムを用いると非常に長い時間を要するという課題がある。そこで我々はin vivoでの感染性が報告されているアデノ随伴ウイルス(AAV)とゲノム編集技術を組み合わせることで、マウス生体において後天的かつ簡便に標的遺伝子を欠損できる技術を構築した。生体内での機能が既知である血液凝固第9因子(F9)を標的とした実験では、AAV感染による遺伝子欠損導入後、約1か月でF9遺伝子欠損マウスにおいて認められる表現型であるAPTTの延長が認められた。AAVが効果的に感染できない器官・組織でのKOは期待できない点が課題として残されるが、本技術を用いることでいずれの遺伝子に対しても短期間でcKOマウスの作出が可能になると考えられた。
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中村 武浩, 緒方 文彦, 川﨑 直人
セッションID: P1-045E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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錯体分子は優れた合成・触媒試薬として知られ,その有用性を活用した化学研究の発展が目覚しい。一方で,異なる研究領域における有効活用は十分に見出されていない。錯体には有機物同士あるいは金属同士では起こり得なかった結合が生まれるだけでなく,錯体分子が特異な活性を発揮し,次の現象を導く鍵反応となる。即ち,アウトリーチの方向性を最適化すれば,既存のフィールドにおいても有益な活用手法に転換できると考えた。そこで,「有機物と金属が錯体を形成することで起こる変化」に着目し,様々な異分野領域における研究での応用を実施した。
一つは血管内皮細胞を標的として,微量元素である亜鉛の活性を引き上げる錯体を創出し,分子機構を解析した。亜鉛は内皮細胞に対して増殖促進能があるが,特定の配位子構造で錯体形成した亜鉛錯体が無機亜鉛より強力な増殖促進能を有することを見出した。また,そのメカニズムが既存の増殖シグナルの下流を介在する新たな経路であることを明らかとした。本結果は,錯体分子が生体内機能分子として代替可能であることを示す有用な知見である。
二つ目は水質汚濁の改善に寄与する基剤への応用である。吸着法による水処理は扱い易い処理法であるが,活性炭などの高効率な基剤はコストが高く継続的に採用し難い。そこで,低コストな基剤として茶粕廃棄物に着目した。茶粕には有機物が多く残されており,排水中の有害金属と錯体形成することで,吸着除去が達成できると考えた。吸着パラメータおよびモデル,寄与因子を解析し,茶粕がカドミウム,鉛,水銀の吸着除去に有用であることを明らかとし,さらには染料除去にも活用できることを示した。茶は世界中で広く消費されるため,茶粕がボーダーレスに利活用可能なバイオマスとして,高い実用性を有することを明らかとした。
本発表では上記2例の解析結果を報告すると共に,錯体を活用した研究の有効性について展望を示す。
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西野 瑶子, 永山 裕子, 宮嶋 之子, 中谷 陽介, 若山 直美, 太田 恵津子, 朝倉 省二
セッションID: P1-046E
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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【背景・目的】CIN(Chemotherapy induced neutropenia)やFN(Febrile neutropenia)は抗がん剤治療において頻度が高い副作用として認められ,これらの副作用はRDI(Relative dose intensity)や治療効果の低下につながる。TK/TDシミュレーションを用いて,ヒトにおける抗がん剤による骨髄毒性の発現プロファイルを予測出来れば,投薬が続けられずに薬効がでないリスクを最小化し,患者様・被験者様に薬効用量が処方される機会が増えると考えられる。生体内の好中球の動態を反映したTK/TDモデルの作成に向けて,これまで報告のないラットにおけるMean transit time(MTT: 骨髄中の後骨髄球が成熟し,末梢血に移行するまでにかかる時間)を求める解析を実施し,以前の検討でみられた骨髄毒性感受性の種差の考察の一助とする。
【方法】ラットにBromodeoxyuridine(BrdU)を100 mg/kg単回腹腔内投与し,経時的に末梢血を採材した。各採血ポイントでのCD11b/c+RP-1+細胞(好中球)におけるBrdU+細胞の割合をFACS Celestaにより測定し,MTTを算出した。
【結果】末梢血中のCD11b/c+RP-1+細胞におけるBrdU+細胞の割合は投与72-96時間後に30-50%の最大値を示した。これらのデータから算出した結果,ラットのMTTは約64時間となった。今後は今回算出したMTTをTK/TDモデルに活用し,ヒトにおける骨髄毒性の予測精度を高めていく。本学会では,ラットのMTTを他の動物種と比較した結果も含め紹介する予定である。
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叶 心瑩, 外山 喬士, 斎藤 芳郎
セッションID: P1-047S
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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肝臓から血中に分泌されるセレン含有タンパク質セレノプロテインP (SeP) は、高血糖に伴いその発現が増加する。過剰なSeP分泌はインスリン抵抗性を増加することから糖尿病増悪因子であり、有望な新規治療標的である。しかし、SePの過剰分泌を阻害する薬剤についての研究はほとんど進んでいない。最近我々はスルフォラファン (SFN) が、SePの発現を抑制することを見出した。そこで、本研究では、SFNによるSeP発現抑制作用の解明を目指した。 培養肝細胞HepG2はSePを産生し培地中に放出するモデル細胞である。そこでHepG2をSFNで処理すると、細胞内および培地中SePがいずれも減少した。SFNはSePのmRNAレベルにはあまり影響せずに、タンパク質量を顕著に減少させたことから、分解亢進が関与すると考え、リソソーム阻害剤による検討を行った。その結果、リソソーム阻害剤でSFNによるSePの減少が完全にキャンセルされた。さらにリソソーム内pH指示薬Lysotrackerを用いた検討から、SFNはリソソームの酸性化を亢進することも明らかとなった。SFNは転写因子Nrf2の活性化剤として知られている。実際SFNは上記条件でNrf2を活性化したが、リソソームの酸性化やSePの減少に対してNrf2 siRNAは効果を示さなかった。このことから、SFNによるSePの減少はNrf2非依存的な作用であると考えられた。また、マウスにSFNを投与すると、血漿中のSeP量が減少したことから、その作用は個体レベルでも認められた。SFNはNrf2活性化を介して様々な毒物の毒性軽減に関わることは周知であるが、Nrf2非依存な作用についてはあまり理解されていない。本研究からSFNにはまだ未解明な作用点が存在しており、複合的な作用によって健康増進作用を発揮することが示唆された。
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宮前 萌優, 長岡 慧, 山本 早苗, 鎌田 亮, 武田 一貴
セッションID: P1-048S
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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【背景】ワルファリンは抗血液凝固作用を有する医薬品(肝臓のビタミンKエポキシド還元酵素(VKOR)を競合的に阻害しビタミンK依存性凝固因子産生を阻害する)が、元々殺鼠剤として開発された。ワルファリン系殺鼠剤の濫用により抵抗性を示す齧歯類群(スーパーラット)が世界各地に出現し駆除が困難になっている。対策にワルファリンを基に毒性を増強した第二世代殺鼠剤が開発されたが、蓄積性が高く野生動物の中毒死が絶えない。従って、スーパーラットに有効かつ野生動物の中毒を生じ辛い新規殺鼠剤が求められている。【目的】第二世代殺鼠剤は構造上主要5物質全てが幾何異性体を持つが、近年同一化合物でもcis-trans間で生体内半減期が大きく異なる事が示された。一方でこの異性体間の排泄速度差の原因は不明である。そこで本研究では中毒を生じ辛い新規殺鼠剤開発の基盤的知見として第二世代殺鼠剤の幾何異性体の性状を比較した。【方法】本研究では第二世代殺鼠剤ブロジファクム・ブロマジオロン・ジフェナクム・ジフェチアロン・フロクマフェンの幾何異性体を分離し、培養細胞でのVKOR阻害アッセイとin silico VKOR-殺鼠剤分子ドッキングを実施した。【結果・考察】ブロマジオロンとジフェチアロンはtrans体の方が低いIC50値を示し、他3物質はcis体の方が低いIC50値を示した。しかし、全ての物質・異性体のIC50は10 nM未満であり、ワルファリン(20 nM)と比較し強いVKOR阻害活性を持つ事が判明した。また、分子ドッキングにおいてもcis,trans双方が高い結合数値を示した為標的分子VKORへの結合性・阻害能はcis-trans間で大きな差が無い事が示唆される結果となった。従って、cis-trans間での体内動態の差を生じる原因はVKORへの結合以外のアルブミン結合やP450の代謝能である可能性がある。
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竹川 芽依, 田口 央基, 藤代 瞳, 姫野 誠一郎, 角 大悟
セッションID: P1-049S
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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【背景】バングラデシュ等のアジア諸地域では、井戸水を介した慢性ヒ素中毒が深刻な問題となっている。慢性的なヒ素曝露により、糖尿病を発症することが知られているが、その機序は不明である。そこで、糖代謝を担う筋肉組織に着目しマウス筋芽C2C12細胞を用い、筋細胞への分化誘導に対するヒ素化合物の影響を検討した。【方法】細胞:マウス筋芽C2C12細胞、C2C12細胞の分化:分化誘導培地として2%馬血清含有培地で培養した。分化マーカーである抗MHC抗体で蛍光染色し、蛍光顕微鏡にて観察した。タンパク質発現:ウエスタンブロット法 【結果と考察】播種したC2C12細胞を分化誘導培地に交換し、8日後の細胞をMHCで染色したところ、分化によって生じる多核細胞(一つの細胞に2個以上の核を有する細胞)が確認できた。そこで、C2C12細胞の分化誘導における亜ヒ酸(As(III))の影響を調べるために、分化誘導培地にAs(III)を添加し培養した。8日後の細胞を顕微鏡下で観察したところ、多核細胞の出現がAs(III)により著しく減少した。この条件のライゼートをウエスタンブロットで測定したところ、MHC発現量はAs(III)の濃度依存的に減少しており、5, 10 μMのAs(III)曝露では検出されなかった。次に、あらかじめ6日間As(III)に曝したC2C12細胞を播種し、8日間As(III)が無い状況で分化を誘導したところ、顕微鏡下では多核細胞の出現が著しく減少しているにもかかわらず、ウエスタンブロットによるMHC発現量に変化は無かった。以上の結果から、As(III)によりC2C12細胞の多核細胞への分化は阻害されるものの、As(III)曝露のタイミングにより阻害の機序が異なることが明らかとなった。今後、分化誘導に関わる因子について調べることで、As(III)に分化の阻害機序を明らかにする予定である。
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白井 美咲, 原 崇人, 鍜冶 利幸, 山本 千夏
セッションID: P1-050S
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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【目的】カドミウムは環境中に存在し,我々が食事や喫煙などを通じて非意図的に曝露するだけでなく,血管内腔を覆う内皮細胞の機能障害を引き起こす動脈硬化症のリスク因子である。内皮細胞の表面にはN-アセチルグルコサミンとグルクロン酸から構成されるヒアルロン酸(HA)が存在し,1000 - 2000 kDaの大型HAと100 kDa程度の小型HAが3種のHA合成酵素(HAS1-3)によって作り分けられる。動脈硬化病変部においてもHAが蓄積することが報告されており,HAがカドミウムによる動脈硬化の発症や進展に寄与すると推察される。しかしながら,内皮細胞のHA合成に対するカドミウムの影響は明らかとなっておらず,本研究ではその解明を試みた。
【方法】ウシ大動脈内皮細胞にカドミウムを処理した。mRNA発現は定量的RT-PCR法,タンパク質発現はウェスタンブロット法,HAの合成量はHA定量キット,HAの特性は細胞を[3H]グルコサミンで標識した後にDEAE Sephacel陰イオン交換およびSepharose CL-4B/6Bゲルろ過クロマトグラフィーで分離することで解析した。
【結果および考察】内皮細胞において,カドミウムはJNK-c-Jun経路を介したHAS3の特異的な発現誘導によりHA合成を促進させることが明らかとなった。3種のHA合成酵素のなかで唯一小型のHAを合成するHAS3は初期の動脈硬化病変部において強く発現誘導され,小型のHAによる血管新生および炎症反応の促進も報告されている。また,動脈硬化病変部ではマクロファージやTリンパ球の集積が認められ,内皮細胞におけるHA合成の亢進はHA受容体CD44依存的に炎症部位へのマクロファージおよびTリンパ球を動員する。以上より,カドミウムによる内皮細胞のHAS3の誘導は,炎症性変化の増強を通じて動脈硬化病変の発症と進展に寄与すると考えられる。
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市田 夏海, 佐山 健太郎, 原 崇人, 鍜冶 利幸, 山本 千夏, 藤江 智也
セッションID: P1-051S
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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【目的】血管の内腔を単層で覆う内皮細胞は,血管の内腔を単層で覆い,その機能障害は血管病変の発症・進展に関与する。カドミウムは血管病変の発症・進展の危険因子であり,内皮細胞層に対して脱離様の細胞傷害を引き起こす。インテグリン(ITGs)は,αおよびβサブユニットのヘテロ二量体からなる膜貫通型の細胞接着分子であると同時に,分化,増殖および細胞死にも関与する細胞内シグナルを制御する受容体でもあるが,カドミウムの内皮細胞毒性に対するITGsの関与は不明である。本研究は,ITGs発現変化のカドミウムによる内皮細胞毒性への関与とカドミウムがITGs発現に与える影響の解明を目的とした。【方法】コンフルエントまで培養したウシ大動脈内皮細胞にカドミウムを曝露して,細胞傷害性をギムザ染色による形態学的観察および培地中のLDH量により評価した。siRNAの導入にはリポフェクション法を用いた。タンパク質およびmRNA発現はウエスタンブロット法およびreal-time RT-PCRによりそれぞれ解析した。siRNAの導入にはリポフェクション法を用いた。【結果および考察】血管内皮細胞において,構成的発現が認められたサブユニットITGA1,ITGA2,ITGA3,ITGA5,ITGA6,ITGAV,ITGB1,ITGB3,ITGB4およびITGB5の構成的な発現が認められた。これらのうち,ITGB4およびITGB5発現を抑制したとき,カドミウムと同様の内皮細胞層の傷害が認められた。カドミウムに曝露された血管内皮細胞では,ITGB4およびITGB5タンパク質の発現が低下していた。このとき,ITGB4,ITGB5に加えてその他のサブユニットのmRNA発現も減少していた。以上より,カドミウムはITGB4およびITGB5発現を抑制すること,およびその抑制により内皮細胞毒性が増強されることが示唆された。
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山中 智貴, 山本 勝也, 石田 慶士, 松丸 大輔, 宮崎 航, 中西 剛
セッションID: P1-052S
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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【背景】カドミウム(Cd)は生体蓄積性の高い環境汚染物質であり、慢性曝露によりイタイイタイ病に代表される骨軟化症を引き起こすことが知られている。その発症機序は慢性曝露による腎障害を介して誘導されると考えられているが、げっ歯類を用いた病態モデル動物の作成が困難とされており、現在も不明な点が多い。一方でCdは、生体内でメタロチオネイン(MT)と結合し、この複合体(Cd-MT)が近位尿細管を障害することが知られている。またイタイイタイ病は、閉経後の女性で多く認められることが報告されている。そこで本研究では、閉経後モデルとして卵巣摘出術(OVX)を実施したマウスに対して、Cd-MT投与を行うことで腎障害を誘導した病態モデルを作成し、骨に及ぼす影響やヒト病態との類似性に関する検討を行った。【方法】8週齢メスのC57BL/6NマウスにOVXを行い、1週間後に0.3 mg Cd/kgのCd-MT混合溶液を単回尾静脈投与した。Cd-MT混合溶液の投与12週間または24週間後に安楽死させ臓器を回収し、腎臓と大腿骨の組織学的解析を行った。また、大腿骨はX線μCTによる3次元解析を行い、骨密度と骨量を測定した。【結果】Cd-MT投与12週間後、24週間後のいずれにおいても、腎臓のボーマン嚢の肥大がみられた。このことから腎障害が生じていることが確認された。大腿骨骨密度及び骨量については、Cd-MT投与12週間後では有意な変化は生じなかったが、24週間後ではCd-MT投与群の骨量が溶媒対照群と比べて有意に減少していた。OVXによっても骨量の減少はみられたが、Cd-MT曝露による骨組織への相加的な影響はみられなかった。【結論】Cd-MTの単回投与により腎障害に加えて骨量の減少が生じていたことから、マウスにCd-MTを投与することで、ヒトのCd慢性毒性と類似した病態モデルを作成できる可能性が示された。
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飯島 悠太, 岩脇 隆夫, 熊谷 嘉人, 藤村 成剛, 上原 孝
セッションID: P1-053S
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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【目的】メチル水銀(MeHg)は水俣病のように重篤な中枢神経障害を引き起こすが,有効な治療法はおろかその毒性発現機構も定かでない.一方で我々は,MeHgによる神経毒性の機序解明に取り組む中で,MeHgが小胞体(ER)ストレスを惹起し,Unfolded Protein Response(UPR)と呼ばれる一種のストレス調節機構を活性化することを見出している.本研究では,MeHg毒性におけるERストレスの負の影響を明らかにすることを目的とし,MeHg 曝露に伴うERストレス性細胞死シグナルの経時変化を解析するとともに,それに対する化学シャペロン4-フェニル酪酸(4-PBA)の影響について動物レベルで検討した.
【方法】ERストレス下で発現が誘導されるER stress-activated indicator(ERAI)を導入したマウスに,MeHg含有水(終濃度50 ppm)を一定期間自由飲水させた.MeHg中毒の原因病巣の一つである一次体性感覚野について,脳切片の免疫蛍光染色からERストレスおよびUPR活性化を,TUNEL染色からアポトーシスを定量評価した.
【結果・考察】MeHg曝露に伴いERAI陽性細胞が増加し,ERストレスセンサー分子IRE1αおよびPERKのリン酸化が亢進した.加えて,TUNEL陽性細胞の増加と一致してPERK下流のアポトーシス誘導因子CHOP陽性細胞が増加した.一方で4-PBA投与(120 mg/kg/day)により,ERAI陽性細胞と同様にIRE1αおよびPERKのリン酸化が有意に抑制された.さらにはCHOPおよびTUNEL陽性細胞も有意に減少した.以上の結果から,MeHg曝露に伴いERストレス誘導性アポトーシスが促進されることが明らかとなり,4-PBAがERストレス抑制作用によってMeHg中毒の予防に一部有効な可能性が示された.
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Fu-Mei CHAN, Pei-Jen CHEN*
セッションID: P1-054S
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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Benzophenones (BPs) are a class of ultraviolet filters with similar chemical structures, commonly used in personal care products such as sunscreen to protect the skin from excessive sun exposure. Some BPs are also added to plastic products to prevent their photo-degradation. Certain BPs (e.g., BP-3) can induce coral bleaching and estrogenic effects on aquatic life, making BPs an environmental concern. However, little literature analyzes both the toxicity and beneficial function possessed by BP-type UV filters. The purpose of this study is to assess the cytotoxicity of commercially available BPs and their additional function on melanin inhibition in the mouse skin melanoma cell line (B16F10). According to the cytotoxicity rank (e.g., 48-hr LC50 values) of BPs by the MTT assay, BP-2 had the lowest toxicity among the six tested BPs (BP-1, BP-2, BP-3, BP-4, BP-7, BP-8), while BP-8 and BP-7 had higher cytotoxicity. In addition, BP-2 caused the dose-dependent inhibition of melanin content in B16F10 cells, as compared to the control. Lastly, we will discuss the molecular mechanism of how BPs (particularly BP-2) regulate tyrosinase-related melanogenesis. We will suggest a better BP alternative that is environmentally friendly, low toxic and multiple functional for sunscreen-related product manufacturing.
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Giselle LEE, YU-TUNG JHANG, I-Lun HSIAO
セッションID: P1-055S
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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Recently, plastic food contact materials such as tea bags can release large amounts of nanoplastics when exposed to hot water. These particles may enter the human body through ingestion and have the potential for absorption and bioaccumulation. The size of nanoplastics is one of the crucial factors affecting the efficiency of absorption. Therefore, it is important to understand how size of nanoplastics change during digestion. In the study, we selected the commercial fluorescent polystyrene (PS) with two diameters (200 nm and 750 nm) and the fluorescent 366 nm melamine-formaldehyde resin (MF) as models. Nanoparticle Tracking Analysis (NTA) operated in the fluorescence model was used to measure the three types of nanoplastics in artificial digestive fluids with and without food matrix. All nanoplastics formed larger agglomerates in gastric juice, but the agglomeration was reduced after intestinal digestion. In gastric juice with pH adjusted while no enzyme added, 200 nm nano-PS agglomeration did not decrease after intestinal digestion. On the other hand, 750 nm PS and 366 nm MF showed similar size of agglomerates throughout the digestion process. The size changes were all associated with zeta potential of the nanoplastics. However, when pH was not adjusted, all particles retained their original secondary size as observed in saliva. Hence, we suggested that in the absence of food matrix, the pH affects differently between various nanoplastics in determining the agglomeration states. Considering the presence of food matrix, all nanoplastics have a larger size in saliva and intestinal fluids, but in gastric juice we observed a lower degree of agglomeration. We thus believed that the formation of protein or lipid corona on the surface of the nanoplastics contributed the size of nanoplastics (e.g. thicker shell or stereo barrier) in the presence of food matrix.
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丸山 祐輝, 宮川 直也, 高橋 勉, 篠田 陽, 藤江 智也, 山本 千夏, 鍛冶 利幸, 藤原 泰之
セッションID: P1-056S
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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【目的】ヒ素は環境汚染物質であり、その慢性的な曝露は動脈硬化症などの血管病変発症のリスク要因になる。ヒ素の血管における毒性発現に活性酸素種(ROS)の産生促進が関与することが知られている。近年の研究により、ROSに対して防御作用を有する生体内物質として活性イオウ分子種(RSS)が注目されている。当研究室では、三価の無機ヒ素(亜ヒ酸)で処理した血管内皮細胞において、RSS産生酵素の1種であるcystathionine γ-lyase(CSE)が発現誘導されることを明らかにしている。本研究では、血管内皮細胞における亜ヒ酸毒性発現へのCSEの関与およびその誘導機構について検討した。【方法】ウシ大動脈血管内皮細胞を亜ヒ酸で24時間処理し、細胞毒性はLDH release assayにより、CSEのmRNAレベルはリアルタイムPCR法により測定した。【結果・考察】siRNA導入によりCSEをノックダウンした細胞を亜ヒ酸で処理したところ、コントロール細胞に比べ亜ヒ酸の毒性が増強されることが判明した。このことからCSEが亜ヒ酸による細胞毒性発現に対して防御的に働くことが示唆された。これまでにCSEの発現調節に関与する転写因子としてNrf2、NF-κB、HIF-1およびATF4が報告されている。そこで、これらの転写因子の活性を阻害剤またはsiRNAによって抑制し、亜ヒ酸によるCSE発現誘導への影響を検討した。その結果、Nrf2のノックダウンはCSEの発現誘導に影響を与えず、NF-κB阻害剤(SC-514)は逆にCSEの発現誘導を促進した。一方、HIF-1のノックダウンは亜ヒ酸によるCSEの発現誘導を部分的に抑制した。本結果から、亜ヒ酸によるCSE発現誘導機構にはHIF-1経路の活性化が一部関与していると考えられる。現在、本誘導機構におけるATF4の関与についても検討中である。
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イ ゼスン, 川合 佑典, 森田 友理, Adrian COVACI, 久保田 彰
セッションID: P1-057S
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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Organophosphorus flame retardants (OPFRs) are increasingly used as a replacement for polybrominated diphenyl ethers, and thus, human exposure to OPFRs has been increasing. Epidemiological studies indicate possible effects of OPFRs on children’s health status such as rhinoconjunctivitis. The objective of the present study was to assess the developmental effects of OPFRs and their metabolites, and possible mechanisms underlying developmental toxicity using zebrafish as a model. Zebrafish embryos were exposed to OPFRs or their metabolites observations. Significant increases in circulatory failure including blood flow reduction and pericardial edema were detected in embryos exposed to TPHP, TDCIPP, EHDPHP, and some of their metabolites (HO-m/p-TPHP and 5-HO-EHDPHP). The chemicals with higher logKow induced greater severity of the circulatory failure. RNA-Seq results of embryos exposed to EHDPHP, 5-HO-EHDPHP, and EHPHP at the highest concentrations where no significant circulatory failure was observed showed that genes involved in glucose homeostasis and retinol metabolism, as well as GUCY-cGMP and calcineurin signalings, were significantly altered by EHDPHP and/or 5-HO-EHDPHP, while immunity-related genes were significantly altered by EHPHP. These results clearly indicate distinct potency for developmental toxicity among OPFRs and their metabolites. Transcriptomic data suggest differences in possible molecular mechanisms underlying the developmental effects of these compounds.
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冨田 俊維, Pinyapach DUNGKOKKRUAD, 廣森 洋平, 石田 慶士, 松丸 大輔, 永瀬 久光, 田中 慶一, 中西 剛
セッションID: P1-058S
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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【背景】TCDDは、Dioxin類の中でも特に難分解性で生体蓄積性が高いことから慢性毒性が懸念されているが、わずかに尿中に排泄されることが報告されている。このことから哺乳動物にもTCDDの代謝機構が存在する可能性が示唆されるが、その詳細ついては全く不明なままである。このような背景のもと我々は、甲状腺ホルモン(TH)がTCDDの尿中排泄を促進することを新たに見出したので報告する。さらに本研究では、THによるTCDDの尿中排泄促進効果に加え、各組織への分布に及ぼす影響とその排泄促進機構についての解明も試みた。
【方法】雄性のddYマウス、C57BL/6Jマウス、TH受容体αまたはβ欠損(TRαKO、TRβKO)マウスに3H標識2,3,7,8-Tetrachroldibenzo-p-dioxin([3H]TCDD)を腹腔内投与し、TCDD曝露モデルを作成した。投与後8日目から、Thyroxine(T4)または3,3',5-Triiodo-L-thyronine(T3)を連日8日間皮下投与した。尿または糞中へのTCDD排泄量および各組織への分布は[3H]放射活性を指標に評価した。
【結果】ddYマウスとC57BL/6Jマウス、いずれの種においても、T4またはT3投与により[3H]TCDDの糞中排泄量に有意な変化は認められなかったが、尿中排泄量が有意に増加すると共に、TCDDの主要蓄積臓器である肝臓への蓄積が有意に減少した。更に[3H]TCDDを曝露したTRαKOまたはTRβKOマウスにT3を投与したところ、TRαKOマウスでは [3H]TCDD尿中排泄促進と肝臓への蓄積低下が認められたが、TRβKOマウスではその作用が認められなくなった。
【結論】以上より、マウスにおいてTCDDを尿中に排泄する機構の存在が確認されるとともに、その機構はTRβによって制御されている可能性が示唆された。
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Shao Chin CHEN, Hung Chang CHOU, Teh Min HU, Shih Jiuan CHIU
セッションID: P1-059S
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
会議録・要旨集
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Surface charges of a nanomedicine is one of the multiple factors that would affect its therapeutic and toxicologic outcomes. Positively charged nanomaterials have been shown to have high tendency to interact with cells. Accordingly, positively charged nanoparticles are usually more toxic and have poor pharmacokinetic properties, compared with negatively or neutrally charged particles. Previously, we developed a method to prepare organosilica nanoparticles, which are positively charged at physiological pH and carry two functional groups (thiol and amine) for drug conjugation and delivery. This study aimed to control the cellular interaction and uptake of positively charged organosilica nanoparticles by modifying the particle surface with adsorbed serum proteins. Protein adsorption and binding of nanoparticles were fully explored by adjusting various factors, including pH, temperature, time, etc. Particle size and surface charges were measured by DLS, and TEM was used to confirm protein adsorption. The amount of protein adsorbed were further quantified by a protein assay. Cellular uptake were evaluated by fluorescence microscopy and cytotoxicity of nanoparticles were measured by MTT assays. The results demonstrated that, after protein adsorption, particle size increases from 91.87±0.88 nm to 149.57±1.82 nm. The surface charge will switch from positive to negative (from 53.13±3.35 mV to -17.07±0.65 mV), confirming successful protein adsorption on the surface of nanoparticles. Protein adsorption efficiency ranges from 0.01% to 1.98%, depending on preparation condition. The quantitative cellular uptake and cytotoxicity data will be presented in the meeting.
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奥村 萌, 芳賀 優弥, 辻野 博文, 東阪 和馬, 堤 康央
セッションID: P1-060S
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
会議録・要旨集
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【目的】近年、薬物送達担体としてナノ粒子(NM)を用いたナノキャリア(NC)の開発が進んでいる。NCは、Nose to brain経路を介して脳への薬物移行を高め得るものの、その詳細な移行経路は解明されていないうえ、ハザードに関する報告も存在する。そこで我々は、安全で有効な脳へのNC開発に向け、NMの動態とハザード情報の収集を図った。具体的には、NCとしての有効性が報告されている非晶質ナノシリカ(nSP)に着目し、in vitroにおける細胞内取り込み経路の検討およびin vivoにおける経鼻投与後の動態を評価した。【方法】粒子径10、50、100nmのnSP(nSP10、nSP50、nSP100)を用い、Flow cytometryや共焦点顕微鏡にてマウスミクログリア細胞株MG6への取り込み量を経時的に評価した。さらにbalb/cマウスにnSP10を経鼻投与し、鼻腔から脳にかけての分布を観察した。【結果・考察】Flow cytometryによってMG6に取り込まれたnSP由来の赤色蛍光を測定したところ、濃度依存的に細胞内への取り込み量が増加していることが示された。また、nSP10、nSP50、nSP100の細胞内取り込みの経時的観察では、粒子径の小さいnSPがより早く細胞内へ取り込まれていることが示唆された。さらに、エンドサイトーシス阻害剤で処置したMG6で同様に検討したところ、nSPの細胞内取り込み量は減少し、nSPがエンドサイトーシスによって取り込まれている可能性が示された。鼻腔から脳にかけての切片観察では、nSP10由来の蛍光が呼吸上皮、嗅上皮、嗅球において観察され、経鼻投与したnSP10が脳へ到達し得ることが示された。現在、nSP経鼻投与後のマウス脳における網羅的なタンパク質の発現変動解析を進めており、移行したnSPが脳へ及ぼすハザードの評価を目指している。
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Jiwon SEO, 東阪 和馬, 坂橋 優治, 泉谷 里奈, 宮地 一輝, 辻野 博文, 芳賀 優弥, 堤 康央
セッションID: P1-061S
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
会議録・要旨集
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【目的】ナノマテリアル(NM)は既に、日常用品や医療用品にも広く使用されることから、老若男女を問わず、ヒトへの持続的な曝露は避けえない。一方でサイズの微小化に伴い、予想外の生体影響を引き起こし得ることが懸念されており、とりわけ、化学物質曝露に対し脆弱な妊娠期における安全性情報の収集が求められている。本観点から、これまでに我々は、粒子径10 nmの銀ナノ粒子(nAg10)が胎盤細胞の合胞体化を抑制し得ることを明らかとしてきた(第49回年会にて発表)。しかし、そのメカニズムについては未だ情報に乏しく、安全なNMの開発につながる情報の集積が不可欠である。そこで本研究では、胎盤合胞体化の進行にエピジェネティックな制御が関与するという報告を踏まえ、nAg10がエピジェネティックな変化を介して合胞体化の進行を抑制する可能性について検討した。
【方法・結果・考察】本検討では、エピジェネティックな制御機構の中でも、ヒストンアセチル化への影響に着目した。まず、nAg10がヒストン脱アセチル化酵素であるHDAC1とHDAC2の活性に与える影響をHDAC活性アッセイにより解析した。その結果、nAg10がHDAC1、HDAC2の活性を低下し得ることが明らかとなった。次に、nAg10を作用させたヒト絨毛癌細胞株BeWoを用い、HDAC1の発現量を評価した。しかし、合胞体化の誘導試薬であるforskolinを添加した群と比較し、nAg10とforskolinを共処置した群においては、有意な発現変動は認められなかった。そこで現在、HDAC2の発現量を評価すると共に、各酵素の細胞内における活性におよぼす影響について評価している。今後は、nAg10曝露による合胞体化の抑制とHDACの活性変動との連関について解析することで、NM曝露に起因した合胞体化抑制のメカニズム解明につながることを期待する。
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Hsin Hui LIN, Wen Yu LI, Shih Jiuan CHIU
セッションID: P1-062S
発行日: 2023年
公開日: 2024/03/08
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Silica nanoparticles as drug carriers have drawn much attention in recent years. They have the advantages of good biocompatibility and high surface modification. Triple-negative breast cancer (TNBC) is a breast cancer that lacks estrogen receptors, progesterone receptors and human epidermal growth factor receptor 2. Current standard treatment strategies for TNBC include chemotherapy, surgery, and radiation. Paclitaxel (PTX) is the first-line drug for the treatment of breast cancer. Due to its high hydrophobicity, a special excipient, Cremophor EL, is needed to dissolve PTX for clinical use, which, however, may cause various solvent induced toxicity. Histone deacetylase inhibitor (HDACi), such as vorinostat (SAHA), is a new class of agent with the potential to treat multiple cancers via several mechanisms. Combination use of PTX and HDACi may lead to higher efficacy and lower toxicity of cancer therapy. In this study, silica nanoparticles with trifunctional groups (-SH, -NH2, -COOH) were developed and used as a carrier to deliver PTX and SAHA. The particle size, zeta potential, the appearance, encapsulation efficiency and in vitro drug release were measured. Moreover, combined therapy of PTX and SAHA was evaluated in MCF-7 cells and MDA-MB-231 cells. The results demonstrated that only PTX can be effectively encapsulated in multi-functionalized silica nanoparticles. Cytotoxicity of PTX or SAHA encapsulated in silica nanoparticles were also observed. In conclusion, this study demonstrated that drug-loaded trifunctional silica nanoparticles have potential to be a good carrier for breast cancer therapy.
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