障害科学研究
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40 巻, 1 号
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原著
  • — 他者感情理解と自己感情表出への効果 
    岩本 佳世, 丹治 敬之, 野呂 文行
    2016 年 40 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー

    本研究は、自閉スペクトラム症幼児に対する刺激等価性の枠組みを用いた感情語の指導において、他者感情理解の刺激モダリティ間での般化を確認した後に、自己感情表出への派生効果を検討することを目的とした。プレポストデザインを用いた。大学内のプレイルームで実施された。他者感情理解の指導は、「喜び」「怒り」「悲しみ」「恐れ」の感情に対応する状況画を提示し、「どんな気持ち?」という質問をして感情語(音声)による回答を求めた。他者感情理解は、表情画、感情語(音声)、状況画、状況画の寸劇で測定した。自己感情表出は、セッション内で測定し、ゲームで勝ったあるいは負けた後などに、「どんな気持ち?」という質問をした。その結果、他者感情理解の刺激モダリティ間での般化および自己感情表出への派生効果が示された。自己感情表出の必要条件としての環境条件の設定が、本指導手続きに組み込まれていたことで、刺激般化が生じたと考えられた。

  • — 通常のPECS 指導と時間遅延・モーラリズムタッピングを併用した指導の比較 
    平野 礼子, 佐々木 銀河, 野呂 文行
    2016 年 40 巻 1 号 p. 15-28
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー

    PECS指導では音声表出の促進が報告されている。しかし、PECS指導あるいは付加的手続きと音声表出の内容における機能的関係は明らかになっていない。本研究では、 2 名の自閉スペクトラム症児に対して通常のPECS指導と時間遅延及びモーラリズムタッピングの併用指導を実施し、音声表出に及ぼす影響の差異を比較した。時間遅延では要求を満たすまでに5 秒間遅延した。モーラリズムタッピングではモーラの数だけカードをタッピングしながら音声を提示した。研究デザインは対象者間及び物品間多層ベースラインデザインを用いた。結果、通常のPECS指導と時間遅延では既に生起している音声の頻度を増加させたが、新規の発語は生起しなかった。一方、モーラリズムタッピングでは特定の物品で新規の発語が生起した。しかし、その生起頻度に明らかな増加が見られなかったため、モーラリズムタッピングで形成した発語の生起頻度を増加させることが今後の課題として挙げられた。

資料
  • — 宗教行為に対する合理的配慮との比較検討 
    品田 彩子, 岡 典子
    2016 年 40 巻 1 号 p. 29-41
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー

    本研究では、カナダの雇用上の宗教差別事案において適用された合理的配慮の概念が、どのような経緯で障害差別事案に援用されたのか、またその援用当初において「合理的な」対応として雇用主に何が求められたのかを宗教差別事案と比較しながら明らかにした。宗教差別事案から導き出された、差別意図がなくとも結果的に差別効果を生んでいるものを違法な差別と扱う論理は、1981年改正オンタリオ州人権法の条項に盛り込まれた。そして同条項を参考にして策定された障害差別の条項は、同州の審決会において障害者に対する合理的配慮義務を内含していると解釈された。宗教差別事案では雇用主において過度な負担がないことが合理的配慮における合理性の基準であったのに対し、障害差別事案では過度な負担がないことのほか、職務遂行能力の判定プロセスにおける職務の非本質部分の無考慮、個別性、正確な障害状況究明に向けた手段の適切性が、合理性の基準であった。

  • 佐々木 銀河, 施 燕秋, 野呂 文行
    2016 年 40 巻 1 号 p. 43-53
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー

    本研究では知的障害を伴う広汎性発達障害幼児1 名における箸操作スキルに対する身体的ガイドフェイディング法の効果を検証した。介入期では、対象児の指の位置を固定するトレーニング箸による身体的ガイドを実施した。最終的に身体的ガイドは段階的に撤去された。この介入は臨床指導場面と家庭指導場面で実施された。臨床指導場面では、ガイドなしの箸を使用して箸操作の正確性および流暢性を評価した。場面般化を評価するために、トレーニング箸を使用して家庭指導場面においてもデータが収集された。その結果、両方の場面において、対象児の箸操作スキルにおける正確性および流暢性が徐々に増加した。本研究の結果から、身体的ガイドフェイディングが対象児の箸操作のスキル般化を促進することが示唆された。知的・発達障害児の運動スキルに対する行動分析学に基づく介入技法の有効性について考察された。

  • — 推論の包括的な枠組みに基づく推論生成レベルの検討 
    深江 健司, 鄭 仁豪
    2016 年 40 巻 1 号 p. 50-67
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー

    本研究は、物語文理解における聴覚障害児の推論生成の特徴を明らかにするため、聴覚障害児2 年、4 年、6 年の計36名を対象に、Graesser, Singer, and Trabasso(1994)による推論の包括的な枠組みに基づいて推論生成レベルの検討を行った。その結果、聴覚障害児は因果関係に基づく推論を行う傾向が示され、とりわけ文脈的制約がある場合の推論や局所的推論の生成の高さが示唆された。包括的推論と精緻化推論に属す各推論においては、情報の選択と統合の必要性や関連情報の重要度により同タイプ内で生成レベルが異なることが示唆された。推論生成の発達的変化に関して統計的な差は示されなかったが、推論生成の質的側面の発達的変化が推察され、登場人物の感情に関わる推論に関しては学年間の情報利用の違いが推察された。

  • — 特殊教育学部の学生を対象に 
    丹野 傑史, Dang Thi Phuong Mai, 石阪 茉未, 山ノ上 奏, 任 龍在, 安藤 隆男
    2016 年 40 巻 1 号 p. 69-80
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー

    ベトナムで特殊教育を学ぶ大学生を対象に、肢体不自由児のイメージおよび肢体不自由教育観を調査した。回答学生の多くが肢体不自由児と接触経験があり、接触場所は特殊学校(盲・聾・知的)が多かった。肢体不自由児について、生活能力に関してはADL、書字、コミュニケーションとも「自立している」とイメージする学生は少なく、介助があればできるとの認識であった。教育・リハビリ訓練の場としては、いずれも障害児センターの回答が最も多く、接触場所として多くあがった特殊学校は、リハビリ訓練の場としてあげる学生は少数いたが、教育の場としてはあがらなかった。 教育観について、特殊教育教師として重要なことは、愛情や忍耐等精神的なことが多くあがった。一方、肢体不自由教育観については、教科指導より歩行訓練や日常生活訓練、コミュニケーション等の技能を重要しており、技能偏重といわれるベトナム人の教育観を反映した結果となった。

  • 宮内 久絵
    2016 年 40 巻 1 号 p. 81-91
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー

    1980年代の盲児童生徒のインテグレーションの開始と普及は、以下に挙げる要因が同時多発的に、また相互補完的に働いたことに起因していたと考えられる。第一に1981年教育法の成立が、親、地方当局関係者及び教員の意識に変化をもたらしたこと、第二に主に弱視児童生徒のインテグレーションの普及を意図として整備されたユニット型支援や巡回指導型支援が、より手厚い支援を必要とする盲児童生徒にも対応できる体制整備の基礎となったこと、第三に、上記に連動した形で、関係する慈善組織や研究機関が、視覚障害児童生徒の支援体制構築のため、教員養成プログラムの開催や地方当局関係者・教員むけの手引書の発行等の支援事業を広範に展開したことである。

  • — 教員・保護者への質問紙調査を通して 
    日野 瑠里, 小林 秀之
    2016 年 40 巻 1 号 p. 93-106
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー

    本研究は、視覚特別支援学校における「交流及び共同学習」の成果と今後期待されることを明らかにすることを目的とし、教員と保護者に質問紙調査を行った。因子分析の結果、学校間交流の成果として「視覚障害への理解」「児童生徒の成長」「地域における友人・人間関係」「児童生徒の経験拡大」の4 因子、居住地校交流の成果として「児童生徒の成長」「視覚障害への理解」「地域における友人・人間関係」の3 因子、地域交流の成果として「視覚障害への理解」「児童生徒の視野の拡大」「児童生徒の友人関係・基礎的能力の伸長」の3 因子が抽出された。課題として、児童生徒の実態に合わせた交流内容の設定や、中学部・高等部段階での交流機会の拡大、相手校の意識・理解が挙げられた。以上から、今後、視覚特別支援学校には児童生徒の教育目標により学校間交流と居住地校交流の回数を検討すること、地域交流を推進することが必要であると考えられた。

  • 藤井 和子
    2016 年 40 巻 1 号 p. 107-118
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー

    本研究は、言語障害通級指導教室における発達障害を併せ有する通級児の実態を明らかにするとともに、指導上の課題を考究するための基礎的な資料を得ることを目的とした。研究1 では、全国の言語障害通級指導教室を対象に質問紙調査を実施し、164校から回答を得た(回収率80.0%)。発達障害の診断のある通級児の割合は10.3%、診断はないが発達障害を併せ有すると評価される通級児は、19.5%であった。 研究2 では、指導上の課題に関するベテランの言語障害通級担当教師の意識を明らかにするために、6 名の教師を対象に半構造化面接を行った。分析の結果、9 個の概念が抽出された。【構音指導の重視】により、自立活動の指導で求められる担任教師との連携の構築に課題が生じていることが考えられ、この課題に対して、【チームアプローチ】によって解決を図ろうとしていた。今後、個別の指導計画をいかに連携して作成するか等、関係者との協働のあり方を検討していく必要がある。

  • 本間 貴子
    2016 年 40 巻 1 号 p. 119-133
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー

    本稿では、1940年代ニューヨーク市公立学校精神遅滞教育において行われた「職業教育」のコア・カリキュラムに焦点を当て、その理念と実態を明らかにした。「職業教育」は、社会貢献・社会的成熟・社会適応を目的とし、①単なる職業技術スキルの提供ではなくソーシャルスキルを提供する、②生活全体に適応させるために提供する教育活動全体で行う、③入学から卒業まで長い期間にわたり連続的・段階的に実施する、という理念的特徴を有していた。コア・カリキュラムは、ソーシャルスキル、言語技術、算数、健康・安全、職業スキルの五領域の内容があり、①家庭生活から地域生活、就労生活へと内容が広がり連続性をもつ、②生活経験と基礎的な認知学習の双方の実施、③集団の活動を重視、④ソーシャルスキルと生活スキルは繰り返し実施するという特徴があった。

  • — 日常生活スキルの自発的遂行に焦点を当てて 
    朝岡 寛史, 藤原 あや, 真名瀬 陽平, 野呂 文行
    2016 年 40 巻 1 号 p. 135-148
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー

    本研究では、日常生活スキルの自発的遂行に困難さを示す自閉症スペクトラム児2 名を対象に、自発的な自己管理スキルの使用を般化させるための方法の検討を目的とした。介入1期では、対象児自身が自己管理スキルを活用することを手続きの過程に組み込んだ。対象児は目標と評価基準を自分自身で設定し、バックアップ強化子を選定した。介入2期では、介入1期までの手続きに加え、対象児自身が作成した記録用紙と既存の計時装置を用いた。その結果、介入2期以降において対象児の記録の正確性が向上し、宿題を行う等の標的行動の自発遂行率も高く安定して推移した。さらに、自発的な自己管理スキルの使用が促進された。以上から、対象児が自己管理スキルを管理することに加え、対象児が作成した記録用紙と既存の計時装置を導入することの有効性が示唆された。今後の課題として、対象児が自発した自己管理スキルがどのような過程で獲得されたのかを明らかにする必要性が挙げられた。

展望
  • 尾形 雅徳, 熊谷 恵子
    2016 年 40 巻 1 号 p. 149-161
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー

    Scotopic Sensitivity Syndrome(以下、SSS)と言われる視知覚に関連した障害がある。 この障害は、文字や文章を読む際に歪みや不快感が生じるものである。その症状は有色フィルムやレンズを使用することで改善が見られる。欧米では、1980年に、そして日本では2006年にこの障害の研究が始まり様々な視点からSSSは検証されている。日本において、このSSSの研究を進めていくにあたって、どのような視点で研究を行っていくかの知見を得るため、本稿ではSSSのスクリーニング方法、有色フィルムの効果、SSSの有症率についての研究に焦点を当て、それぞれの課題を明らかとすることした。第一にスクリーニング方法においては、様々な方法で試みられ検証されたスクリーニング検査において、チェックリストでのスクリーニングが重要であることが明らかとなった。第二に有色フィルムの効果においては、読みに困難がある場合でも条件によってその効果は変わるということが明らかとなった。最後に有症率においては、欧米では20%から38%、日本では6%と推定されることが明らかとなった。

実践報告
  • — 個別の指導計画上の課題に応じた援助段階のチェックリスト化 
    竹村 洋子
    2016 年 40 巻 1 号 p. 163-172
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー

    教師は現場研修を通じて教師として成長することが求められ、昨今の学校現場の状況から組織的・体系的な現場研修の必要性が一層高まっている。本研究では、知的特別支援学校における授業作りの過程で、新任教師1 名を含む担当教師3 名の話し合いにより、児童の活動遂行の様子と教師による援助段階をチェックできる評価票を作成した。そして新任教師がその評価票を用いて自身の実践の振り返りを行った。授業場面での新任教師と広汎性発達障害のある児童のかかわりの変化を分析したところ、評価票の作成と使用により両者のかかわりに好ましい変化が生じ、児童の自発的な「望ましい行動」が増えた。新任教師は「話し合いによって援助段階を明確にでき、余計なかかわりや指示を少なくできた」ことが児童とのかかわりを安定させたと捉えていた。

  • 半田 健, 野呂 文行
    2016 年 40 巻 1 号 p. 173-183
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー

    本研究は、通常の学級において、時間内での連絡帳の書字行動に困難を呈する児童に対し、セルフモニタリングの効果を検討した。標的行動に関するアセスメントは、教師へのインタビューと直接観察によって行った。その結果、対象児が13時30分の掃除開始時刻までに連絡帳に書字し提出する行動を標的行動として選定した。指導1 期では、対象児は、標的行動の成否について自己記録を行った。指導2 期では、指導 1 期の指導手続きに加え、担任教師が対象児に自己記録の結果に応じて付加的な好子を与えた。評価方法は、標的行動に関する行動観察と、社会的妥当性、受容性を用いた。その結果、対象児の標的行動が改善し、これは指導終了から2 ヵ月間後も維持していた。さらに、社会的妥当性と受容性も高い結果を示した。考察では、これらの結果と今後の課題について検討した。

  • 前田 久美子, 佐々木 銀河, 野呂 文行
    2016 年 40 巻 1 号 p. 185-197
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー

    知的障害児者における生活の質(QOL)の変化を評価することは困難であると示唆されている。本研究では、知的障害を伴う自閉スペクトラム症児の要求行動の改善において、対象児の好みの活動のメニュー表を用いた指導の有効性を検証した。対象児は家庭の自由時間において自発的に要求をすることに困難を示していた。本研究の 目的は、(1)対象児の要求行動の改善における指導の有効性(行動的QOL)、および (2)対象児の母親と姉による指導の社会的妥当性(主観的QOL)を評価することであった。対象児の自発的な要求行動の割合、メニュー表における写真選択の正確性および対象児によって選択された活動の種類数に関するデータが大学と家庭の両方において評価された。指導の社会的妥当性を評価するために、指導の前後において、母親と姉の指導に対する考え方に関するアンケートを行った。結果、対象児の自発的な要求行動およびメニュー表の写真選択の正確性が増加した。加えて、対象児の母親と姉は指導に対してポジティブな考え方を示した。今後の課題と実践への示唆が考察された。

  • 龔 麗媛, 河南 佐和呼, 真名瀬 陽平, 野呂 文行
    2016 年 40 巻 1 号 p. 199-207
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー

    ASD児は他者や自己の感情を言語化することに困難さがあることが知られている。 本研究の目的は、感情語の表出がみられないASDの男児1 名に対し、刺激等価性の枠組みを用いて、4 種類の状況に応じた自己感情語(嬉しい、悲しい、怒る、びっくり)を指導することの有効性を評価した。さらに、実際場面でも適切に感情語を表出できるかどうか検討した。刺激等価性は、参加児が主人公となる状況文とその動画、参加児の表情写真、そして感情語の文字の4 刺激で構成された。等価関係のプレテストに基づき、状況文から感情語を選択する指導を実施した。指導後に再度テストをした結果、直接指導をしていない状況動画から感情語及び表情写真の等価関係が成立した。 また実際場面での評価を行ったところ、それぞれの状況に応じた感情語を言語化することが可能だった。本研究の結果は、自己感情語の習得における刺激等価性の枠組みの有効性という観点から考察された。

  • 飯島 啓太, 高浜 浩二, 野呂 文行
    2016 年 40 巻 1 号 p. 209-222
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー

    本研究は、自閉症スペクトラム障害のある児童生徒3 名を対象に、漢字の書字学習において既学習課題挿入手続きの効果を検討し、その結果について行動的モメンタムの観点から考察することを目的とした。遂行時間が相対的に短い既学習課題を挿入する条件と遂行時間が相対的に長い既学習課題を挿入する条件を設定し、標的課題の達成数と逸脱行動の生起率、および単位時間あたりの平均強化率を従属変数として測定した。その結果、単位時間あたりの強化率が相対的に高くなった条件において、標的課題の達成がより促進され、また逸脱行動の生起率が少ない傾向が示された。これは、課題従事行動の反応クラスに対する強化の密度が高くなったことで、標的行動の遂行時にも課題従事行動が生起しやすくなったためであると考えられる。この結果は、既学習課題挿入手続きの機序として行動的モメンタムが関係しているという仮説を支持するものであると考えらえる。

  • — 従来の分析方法および非言語行動の分析を含め 
    李 彩環, 田原 敬, 原島 恒夫, 鈴木 祥隆, 堅田 明義
    2016 年 40 巻 1 号 p. 223-232
    発行日: 2016/03/31
    公開日: 2017/07/20
    ジャーナル フリー

    本研究では、コミュニケーション中断(communication breakdown, 以下CB)場面における聴覚障害児の使用する訂正方略(repair strategy, 以下RS)を検討することを目的とした。聴覚障害のある4 歳児4 名、5 歳児5 名を対象とした。分析にあたって、先行研究のRS分類を「繰り返し」「付加」「置換」「応答」「その他」の5 項目に整理した。まず、従来と同様の手法でRS分類を用い、CB場面における対象児の反応を分析した。次に、非言語行動の視点から「その他」に分類された反応について検討し、その後、RS分類を用いて「その他」に含まれた非言語行動による反応を分析した。 分析した結果、対象児の使用したRSは「付加」「繰り返し」「置換」「応答」の順に多いことが確認された。「その他」に分類された反応が20回であり、うち、非言語行動が14回であった。これら14回の反応をRS分類で分析した結果、「付加」が1 回で、「応答」が12回で、「その他」が1 回であった。この結果から、聴覚障害児がCBを修復する際、非言語行動も使用することが確認され、今後、非言語行動を分析に取り入れる必要性が示唆された。

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