障害科学研究
Online ISSN : 2432-0714
Print ISSN : 1881-5812
46 巻, 1 号
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原著
  • 石田 祐貴, 鄭 仁豪
    原稿種別: 原著
    2022 年 46 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、言語のワーキングメモリ容量を測定するリーディングスパンテスト(RST)に関わる処理の分析を通して、聴覚障害者のワーキングメモリ方略について、コミュニケーションモードの相違による特徴を明らかにすることであった。聴覚障害者30名を対象とし、主なコミュニケーションモードをもとに口話群と手話併用群に分類した。RSTと心像度が異なる2 つの漢字単語の記憶課題を実施し、RST遂行時のターゲット語の記憶方略の違いと課題間の関連を検討した。研究の結果、両群のRST得点に差はなかったものの、口話群では意味情報を活用した記憶方略が用いられ、高心像度課題との相関関係が示されたことから、意味的符号化に関する処理や方略の利用における効率性がRSTと関連すること、一方の手話併用群では音韻情報や視覚情報に関する記憶方略が用いられ、低心像度課題との相関関係が示されたことから、音韻コードの利用における効率性がRSTと関連することが示唆された。

  • 有海 順子, 羽田野 真帆
    原稿種別: 原著
    2022 年 46 巻 1 号 p. 13-26
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    本研究では、聴覚障害当事者6 名の語りを質的に分析することを通して、聴覚障害学生の意思表明スキル獲得および活用のプロセスを明らかにすることを目的とした。 その結果、大学入学前は、情報が得られずともわからないままにし、第三者が代わりに意思表明する状態であったが、入学を機に自ら声を上げる必要性に気づくとともに、情報保障体験を通して支援の必要性も認識していた。その後、支援者養成への参加や他者との関わり、自己を語る経験を経て自分の意思が明確になり、目的意識の高まりとともに徐々に自ら意思表明していく様子がうかがえた。スキル獲得後は、過去の経験を活用しながら建設的対話を行い、一方では自身の立場や状況に応じて、あえて意思表明しないことを選択するなどスキルを活用していた。この意思表明スキル獲得および活用プロセスは、必ずしも直線的かつ一方向的なものではなく、循環的に発展していくという特徴が見いだされた。

資料
  • —コンサルタントを対象とした質問紙調査から—
    長山 慎太郎, 柘植 雅義
    原稿種別: 資料
    2022 年 46 巻 1 号 p. 27-40
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    本研究では、発達障害のある子どもが在籍する通常学級への授業コンサルテーションの現状と課題を明らかにすることを目的とした。特別支援教育および発達障害、コンサルテーションを専門とするコンサルタントを対象に質問紙を実施し、67名から回答を得た(回収率 50.4%)。その結果、小中学校から発達障害のある子どもが在籍する通常学級への授業コンサルテーションの依頼を受けたことがあると答えたのは、45名(68.2%) であった。計量テキスト分析の結果から、授業コンサルテーションにおいて困難だと思われることは、日程調整や時間の制約に関すること、児童生徒やコンサルティのアセスメントについてなどであった。また、授業コンサルテーションを円滑に進めるためにコンサルタントに求められることは、学校の実態に即した提案をすること、教員それぞれの専門性を把握すること、通常学級での一斉授業の仕方を知っておくことなどが示された。

  • 國武 加奈, 林 大輔, 竹田 一則
    原稿種別: 資料
    2022 年 46 巻 1 号 p. 41-49
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    食物アレルギー児の母親における育児ストレスと食物アレルギー情報の利用状況を調査し、インターネット上の食物アレルギー情報を活用した育児支援の方法を検討した。X病院に来院した0~12歳の食物アレルギー患者の母親に質問紙を配布し、77名から回答を得た。統計分析には一元配置分散分析とSpearmanの相関分析を用いた。0 ~3 歳の食物アレルギー児をもつ母親の育児ストレス得点において、44.8%の母親が80パーセンタイル以上の高スコアを示し、育児ストレスが高いことが示唆された。また、インターネット上の食物アレルギー情報の満足度と育児ストレスにおいて有意な負の相関が見られ、食物アレルギー情報の満足度が高いほど育児ストレスが低いことが明らかになった。インターネット上の食物アレルギー情報を充実させることによって、食物アレルギー児の母親の満足度を増加させ、育児ストレスを軽減することができる可能性があると考えられる。

  • 青木 康彦, 野呂 文行
    原稿種別: 資料
    2022 年 46 巻 1 号 p. 51-60
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    中学生段階にあり、知的能力障害のあるASDのある生徒2名を対象として、刺激等価性の枠組みを利用して、英単語指導を行い、派生的関係の成立について検討した。 指導では、英語文字表記カードと日本語文字表記カードの関係を直接指導した。事前事後のテストの際には、排他律の影響を統制するために、指導を行わない刺激も含めていた。その結果、2 名の生徒とも、指導した関係について、5 セッション連続で正答率が100%となった。また、いくつかの派生的関係についても、正答率が上昇した。 しかし、生徒によって、達成基準を満たすまでに必要としたセッション数や派生的関係の成立に違いがみられた。指導を行っていない刺激の関係の正答率について、生徒間において正答率の上昇に違いが見られた。考察では、指導した関係の正答率が達成基準を満たすまでに必要としたセッション数が生徒によって異なった点と指導を行っていない刺激の関係の正答率について議論された。

  • —小学部教師に対する質問紙調査から—
    池田 彩乃, 内海 友加, 橋本 陸
    原稿種別: 資料
    2022 年 46 巻 1 号 p. 61-73
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    本研究は、「養成」段階において身につけておくべき専門性を明らかにするため、特別支援学校教師(知的障害,肢体不自由,病弱)を対象とした質問紙調査を実施した。因子分析(主因子法 ・promax回転) を行った結果、「実態把握に基づく授業実践力(第Ⅰ因子)」「授業に関わる基礎的知識(第Ⅱ因子) 」「教職全般に関わる応用的展開力(第Ⅲ因子) 」の3 因子が抽出された。各因子における重要度を算出した結果、第Ⅱ因子、第Ⅰ因子、第Ⅲ因子の順に重要度が高かった。特別支援教育に関わる基礎的・基本的な知識や理解に関する専門性を養成段階において確実に身につける必要があることが示された。また、属性(教職経験年数 , 対象障害種) による重要度の違いは見られなかった。今後は、養成段階の検討とともに、「養成」「採用」「研修」の一体化をはかった視点での教師の専門性の向上を検討していく必要がある。

  • 王 青童, 竹田 一則
    原稿種別: 資料
    2022 年 46 巻 1 号 p. 75-89
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    中国では2014年以来、「特殊教育向上計画」と「障害者教育条例」により、障害のある児童生徒に訪問教育を提供することとなった。この計画や規定においては、訪問教育(送教上門) は特殊教育学校等に通学することが困難な障害のある児童生徒に対する極めて重要な特殊教育の手段であることが明確に規定され、訪問教育(送教上門) が多様な背景のある障害のある子どもの教育を受ける権利を守る教育形態であることも謳われた。本研究では、中国における訪問教育(送教上門) を担当している教員の専門性と実施を担っている学校の種別、さらに地域の経済格差が訪問教育に与える影響などを中心に、現在の中国の訪問教育(送教上門) の現状を明らかにし、また今般の新型コロナウイルス( COVID-19) 感染症拡大の影響も踏まえた、今後の中国の訪問教育における課題について考察した。

  • 小澤 良子, 一木 薫, 中村 貴志
    原稿種別: 資料
    2022 年 46 巻 1 号 p. 91-100
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    本研究では事業所と特別支援学校(知的障害)を対象として、知的障害者が一般就労で求められる能力や就労支援の改善点について質問紙調査を行い、就労支援課題の認識の共通点や相違点を検討した。その結果、双方が日常生活全般を重視し、人間関係・コミュニケーションは学校が高い能力を求めていた。就労支援課題について事業所と学校の回答の上位項目を比較すると、事業所は障害特性や本人への直接的な支援に関わる情報を求めたことに対し、特別支援学校の教師は就労支援制度の理解や情報共有、保護者支援等の間接的な支援に改善を求めていた。また、双方の約半数の回答者が本人の人間関係・コミュニケーション、就労後の相談機関に関する情報共有について改善を求めた一方で、個別移行支援計画の活用について改善の必要性が低いと認識していた。以上の結果を踏まえると、改善が必要と認識されている項目の現状と改善策について、さらに検討する必要がある。

  • 長谷川 ちか子, 左藤 敦子
    原稿種別: 資料
    2022 年 46 巻 1 号 p. 101-112
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    本研究は、通常の学級で学ぶ聴覚障害児に対する特別支援教育支援員の支援の実態と、支援に対する意識を明らかにすることを目的とする。特別支援教育支援員10名を対象に半構造化面接を行った。協力者は、聴覚障害大学生への支援経験があり、大学において聴覚障害教育を専攻している学生であった。その結果、授業等への情報保障、学校生活への参加のサポート、難聴学級の機能、関係者との連携、支援運営に関する12のカテゴリが抽出された。①情報保障を効果的に活用できるような多様な手段によるサポートの実施、②発達段階や教育活動の内容、情報保障の経験に応じた対応、③聴覚障害児を基点とした聴児との関わり、④支援員を介さないクラスメイトとのコミュニケーションの活発化等を意識した支援が展開されていたことが明らかとなった。また、小学校卒業以降を考慮し、聴覚障害児の自立を視野に入れた支援の重要性も示された。

  • —1995~2020年の研究論文の分析を中心に—
    裴 虹, 区 潔萍, 楊 鈺倩, 宋 鷺鷺, 米田 宏樹
    原稿種別: 資料
    2022 年 46 巻 1 号 p. 113-126
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    本研究は、中国における知的障害のある児童生徒を教育する学校(培智学校) の教育課程編成の根拠となる4つの計画・要綱を分析し、教育対象の多様化や教育目標の変容などの特徴を概括した。さらに、知的障害教育課程に関する研究動向を概観するとともに、学校ベースのカリキュラム研究における培智学校義務教育カリキュラム論の展開や「培智学校の義務教育課程基準( 2016年版)」以降の教育課程と学校教育の展開に焦点を当て、関連の実践研究と理論研究の成果を整理し、知的障害教育課程改革の現状と課題を明らかにした。特に、学校ベースのカリキュラム研究は、「児童生徒を基本とすること」や「生活即教育」などの理念を中心とし、全体的あるいは部分的なカリキュラム開発、既存のカリキュラムの改訂、他校のカリキュラムの選択的組み入れなどの形態で展開されてきた。培智学校における中・重度知的障害児童生徒の教育的ニーズをよりよく満たすために、多様な児童生徒に適用できる知的障害教育カリキュラムの開発と教育方法に関する検討が必要である。

  • Yuldasheva Nozima, 小林 秀之
    原稿種別: 資料
    2022 年 46 巻 1 号 p. 127-135
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    視覚障害留学生が日常生活を送る上で感じる困難を明らかにすることを目的とし、視覚障害留学生10名及び晴眼留学生10名に日常生活を送る上で感じている困難について半構造化面接を行った。視覚障害留学生から155件、晴眼留学生から58件の困難が抽出された。留学生の困難は6 件の大カテゴリ、14件の小カテゴリに整理できた。 視覚障害及び晴眼留学生の困難については「空間」で有意な差がみられた。視覚障害留学生の困難は「宗教的関係」、「机」、「商品」、「ハラール商品」、「ATM」、「福祉サービス」に関する6 件の困難に整理できた。

  • —触覚的イメージに依拠した文章題と操作可能な教具の有用性の検討—
    岩田 恵実, 青柳 まゆみ, 佐島 毅
    原稿種別: 資料
    2022 年 46 巻 1 号 p. 137-147
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    本研究は、一般的に理解が難しいとされている分数のわり算について、視覚を活用した学習が困難な盲児の理解を促すための触覚的イメージに依拠した文章題(以下 、触覚的文章題) と操作可能な教具を作成し、それらの有用性を検討することを目的とした。特別支援学校(視覚障害) 中学部に在籍する盲生徒8 名を対象とし、触覚的文章題の有用性を検討するために、視覚的イメージに依拠した文章題との比較に関する調査を行った。また操作可能な教具の有用性を検討するために、点図と操作可能な教具をそれぞれ用いた介入指導をクロスオーバー法で実施した。その結果、触覚的文章題の有用性について、比較課題からは明らかにならなかったものの、内省では支持する回答が多数認められた。操作可能な教具の有用性については、立式の際にわられる数とわる数を適切に認識する上で効果的であることが示唆され、内省からも支持する回答が多数認められた。

  • —放課後の過ごし方についての実態と保護者の評価—
    松下 浩之, 福本 稜佑
    原稿種別: 資料
    2022 年 46 巻 1 号 p. 149-162
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    余暇の過ごし方を充実させることは、障害のある人の生活の質を向上させるために必要な支援の一つである。知的障害のある子どもの余暇活動についての調査研究はこれまでにいくつかなされているが、その多くは休日や長期休業中の余暇に注目している。本研究では、学齢児童の平日の放課後の過ごし方について、支援資源や保護者のニーズなどについて調査した。そこで、知的障害の有無や学年という点から実施している活動を比較することで、知的障害のある子どもの好みの活動傾向を把握し、活動レパートリーを拡大するための支援の要点を整理することを目的とした。その結果、知的障害の有無にかかわらず、子どもたちは一人で、あるいは家族と自宅内で過ごすことが多かったが、知的障害のある子どもは特に活動レパートリーが乏しく、その多くがテレビや動画鑑賞などの受動的な活動であった。今後は、家族以外の資源を活用した放課後支援が必要であること、豊富な余暇活動機会の保障と、余暇活動を指導する場の設定が重要であると考えられた。

  • —成人障害当事者に対する懐古的分析をもとに—
    長谷川 大也, 米田 宏樹
    原稿種別: 資料
    2022 年 46 巻 1 号 p. 163-174
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    通常学級で学ぶ障害のある児童生徒に支援を提供する際には、本人主体であることが重要であるが、実際には教員や保護者が支援を考えており、本人のニーズや意向があまり反映されない現状がある。本研究では、障害当事者からみた初等中等教育段階における通常学級での障害児支援・配慮の現状と課題を明らかにすることを目的に、Z大学の障害学生に質問紙及び聞き取り調査を行った。その結果、通常学級で支援を行う際には、「自分で何とかできる」児童生徒への教員からのアプローチ、授業以外の学校生活における支援、教員とのかかわり、児童生徒自身の障害受容、児童生徒の主体性の尊重の5 点が重要なポイントとなることが示唆された。いずれの事例も本人の意向を尊重して支援がなされていた。本研究の対象者は、自分のことを自分で説明する力をもっていた。言語コミュニケーションや意思の伝達が困難な人を対象にした研究方法の検討が必要である。

  • 齋藤 大地, 岡崎 慎治
    原稿種別: 資料
    2022 年 46 巻 1 号 p. 175-187
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    本稿では、これまで開発されてきたダイナミック・アセスメント(Dynamic Assessment; 以下,DA)の主要なアプローチを整理した上で、特別支援教育におけるDAに関する国外の研究を概観し、今後の研究を展望した。DAは検査者と被検査者間の相互作用のタイプによって、相互作用主義と介入主義に分類される。またDAで用いられる課題は、その性質によって領域固有性と領域一般性の課題に大別される。知的障害や発達障害児者を対象とし領域一般性の課題を扱ったDAにおいては、相互作用主義のアプローチが多く、ほとんどが実験的な研究であった。今後は、DAの信頼性と妥当性の確立を前提にしながらも、教育現場における事例的な研究によってDA が本来目指すべき指導と評価の一体化に立ち戻り、アセスメントの結果と実際の指導とを結び付けることを第一義的な目的に据えた研究が求められる。

  • —就労移行支援の利用者および支援者へのインタビュー調査から—
    末吉 彩香, 柘植 雅義
    原稿種別: 資料
    2022 年 46 巻 1 号 p. 189-201
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は自閉スペクトラム症(ASD)学生用に開発された就業体験振り返りシートの就労移行支援事業所での活用可能性を示すことである。就労移行支援事業所で振り返りシートを用いた面談を経験したASD者2 名と支援者2 名に半構造化面接を実施し、振り返りシートの感想や評価を聴取した。結果、振り返りシート利用により遂行行動の達成が意味づけやすくなり、課題に対する手立ての明確化や肯定的な自己評価等の言語的説得をふまえた課題に対する自己効力感の変化が推察された。また振り返りシートの活用は利用者の語りを引き出し就労への意欲の向上につながるほか、面談を通した自己理解の深化も示された。さらに支援経験の少ない支援者にとって振り返りシートは支援の質を担保するために有効であることも指摘された。今後は利用者の障害特性や認知特性、支援の利用歴等をふまえた検証や、量的分析が可能な研究デザインによる詳細な検討が必要である。

  • 龔 麗媛, 馬場 千歳, 野呂 文行
    原稿種別: 資料
    2022 年 46 巻 1 号 p. 203-212
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    本研究では行動間多層ベースラインを用い、疑問詞質問のレパートリーが少ない自閉スペクトラム症児1 名を対象に、絵カードで未知/既知刺激を提示し、未知刺激に対して「これはなに」「これはどこ」「これはだれ」の質問の表出を促す指導を実施した。介入期では、対象児に未知刺激を提示し、対象児が疑問詞質問を表出しない、もしくは誤った質問を表出した場合に、指導者が標的行動の書かれた文字プロンプトカードを提示し、質問の表出を促した。文字プロンプトは段階的にフェイドアウトした。その結果、介入終了後、未知刺激に対する「これはなに」という質問行動が維持した。一方、「これはどこ」は介入終了後に生起したものの、フォローアップ期は生起しなかった。「これはだれ」は介入後、正反応数が減少し、フォローアップ期においても低い水準であった。未知刺激の絵カードに対する疑問詞質問「どこ」と「だれ」を獲得しなかった要因について考察した。

展望
  • 石原 章子, 岡崎 慎治
    原稿種別: 展望
    2022 年 46 巻 1 号 p. 213-224
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    幼児期の認知教育の現状と今後の課題について検討することを目的に、幼児の認知能力のアセスメントおよび認知教育プログラムを扱った先行研究をレビューした。その結果、認知能力のアセスメントには、標準化された心理検査、特定の認知機能の測定に焦点を当てた実験課題、質問紙が利用されており、これらを組み合わせて実施することで、対象児への負担を最小限にした上で、より正確に対象児の実態を評価できる可能性が考えられた。また、認知教育プログラムは、課題を行う上で他者とのやりとりを通して課題への理解を深めることを重視するものが多いことが特徴として挙げられた。さらに、介入によって認知能力の向上は概ね認められている一方で、就学後の学習への影響については十分に認められていない先行研究が複数見られた。今後の課題としては、より簡便かつ信頼性・妥当性の高いアセスメント方法の検討、プログラムの介入効果の検証の必要性が考えられた。

実践報告
  • —順番の明示と相手を待つ行動に対する指導の効果—
    馬場 千歳, 龔 麗媛, 林 詩穂里, 野呂 文行
    原稿種別: 実践報告
    2022 年 46 巻 1 号 p. 225-233
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    本研究では、他者と順番を交代しながら遊ぶことに困難さが見られる自閉スペクトラム症児1 名を対象に、事物の受け渡しがない遊び場面において交互交代行動の指導を行った。対象児と指導者は、机上に並べたカードを交互にめくった。また対象児と指導者のネームシートのどちらかに丸シートを貼ることで、めくる順番を明示した。 指導では、順番を正しく答えることと相手を待つことを標的行動とした。順番を正しく答えた場合に、言語賞賛とお菓子を与えた結果、正しく順番を答える行動が増加した。しかし相手を待つ行動は、「お休みする」という言語教示に加え、机上のカードをめくる直前に提示し、めくった後は撤去する手続きが必要であった。対象児が視覚的に順番を確認できることに加え、遊びの中でも順番の切り替わりを示す環境を設定し、相手を待つ行動に対しても指導を行うことで、事物の受け渡しがない遊び場面でも交互交代行動が促進されることが示された。

  • —発達障害に関するオンデマンド講義と「個別の指導計画」作成OJT研修の実施—
    区 潔萍, 柘植 雅義, 熊谷 恵子, 三盃 亜美, 宮本 昌子, 岡崎 慎治, 野呂 文行, 小島 道生, 米田 宏樹
    原稿種別: 実践報告
    2022 年 46 巻 1 号 p. 235-247
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    本報告は、通級指導教室担当教員を対象としたオンラインによるオンデマンド型講義研修とOJT事例検討の効果と課題を検討した。講義研修では、受講後のアンケートの回答内容を分析した。事例検討では、各受講生が担当児童生徒1 名について作成した「個別の指導計画」について、受講生・大学教員・指導主事が討議した記録と「個別の指導計画」の修正状況、受講生のまとめの報告を用いて分析を行った。その結果、講義研修では、受講生は特別支援教育に関する理念や法律などについての知識や発達障害全般に関する基礎的な知識、障害理解啓発の重要性を理解できたと考えられた。 しかし、個に応じた指導・支援方法とともに、具体的なアセスメントの方法や結果の活用方法など子どもの実態を把握することに困難さがあることがうかがわれた。事例検討では、受講生が具体的な支援例を挙げることで、研修で得た知識を活用し、児童生徒に支援を行うことができると考えられた。

  • —音韻情報処理能力の指導の効果と関連して—
    前田 真理子, 小島 道生
    原稿種別: 実践報告
    2022 年 46 巻 1 号 p. 249-259
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2022/10/01
    ジャーナル フリー

    先行研究において、ダウン症児の平仮名の濁音・半濁音、特殊音節の読み書き能力には音韻情報処理能力の関与が示されている。本研究では、音韻情報処理能力を伴う濁音・半濁音、特殊音節の読み書き指導を実施し、指導の在り方を検討した。対象児は、特別支援学校に通う小学4 年生~6 年生のダウン症女児3 名であった。アセスメントの結果、A児は濁音・半濁音の読み書き能力、B児は特殊音節の読み能力、濁音・半濁音の書き能力、C児は濁音・半濁音の読み書き能力、特殊音節の読み能力の向上を目的とした指導を行った。その結果、ダウン症児に対しての特殊音節の読み能力、濁音・半濁音の書き能力の指導に音韻情報処理能力の指導が影響していることが示唆された。また、オンライン指導では、ラポート形成や回答しやすい問題形式等の配慮を行うことで課題への取り組みやすさにつながる可能性が示された。

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