東アジアへの視点
Online ISSN : 1348-091X
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  • 本間 正義
    2023 年 34 巻 2 号 p. 1-19
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/02
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
     日本は第2次小泉内閣時代の2005 年以来,農林水産物・食品の輸出を農業振興の重要な柱としてきたが,2021年に輸出額は1兆円を超え,2022年には1 兆3,372億円に達した。しかし,その4割は食品が占め,国内産の農産物は全体の3割に満たない。品目でみた輸出額第1位はホタテ貝であり,第2位がウイスキー,第3位が牛肉,第4位がソース混合 調味料,第5位が清涼飲料水と続く。輸出先でみれば近年での第1位は中国であり,第2位は香港,第3位が米国,第4位が台湾,第5位がベトナムと,米国を除けば,アジア諸国への輸出が多い。  九州は農業生産額では全国の2割を占めるが,農林水産物・食品輸出額は2022年で1,464億円と全国の1割に過ぎない。輸出額のうち食品を含む農産物は47%で,水産物は38%,林産物は15%であり,九州の輸出は農産物の割合が小さく,水産物と林産物の比重が大きいことが特徴である。九州の農林水産物・食品の輸出先は,中国,米国,香港,台 湾,韓国がベスト5であり,6位以下にもベトナム,タイ,カンボジア,フィリピンとアジア諸国が並ぶ。  九州は地理的にアジア諸国に近く,農林水産物・食品の輸出成長の可能性が大きい。特 に,北九州空港を活用した航空貨物による輸出は検討に値する。国土交通政策研究所が行った航空貨物による農林水産物・食品輸出額の調査によれば,北九州空港には福岡県や東京都から農産物が集められ,韓国の仁川空港等を経て,ロシアや中国に輸出されている。福岡空港からの輸出も九州各地のみならず,東京都や山口県から集められアジア各地に空輸されている。  農産物の航空貨物による輸出としては,新型コロナ前に展開した沖縄・那覇空港における国際物流ハブ機能を活用したアジアへの農水産物輸出の例がある。ヤマト運輸が全日空と連携して行った当時の国際クール宅急便の展開は,ヤマト運輸が日本航空と提携し貨物専用機を2024年4月から運航することが決まっている北九州空港にとって大いに参考となる。北九州空港は九州唯一のフレーター空港として選ばれ,首都圏と九州を結ぶだけでなく,将来的には全国各地の空港とネットワークで結び,農産物輸出においてもアジアへのゲートウェイとして機能することが期待される。本稿では,そのための条件と解決すべき課題について検討した。
  • 岸本 千佳司
    2023 年 34 巻 2 号 p. 20-51
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/05
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    本論文は,台湾・高雄市における近年の産業革新の取り組み,とりわけスタートアップ推進について体系的に解説することを目的としている。高雄市は重化学工業を主体に発展してきた歴史があり,近年,産業構造の転換,企業のDX推進,環境汚染対策の必要性が叫ばれていた。産業革新に向けた高雄市の取り組みの中心は,半導体をはじめとするハイ テク・新興産業分野での園区・工業区の開設・拡張である。これらの園区・工業区を地図上で線でつなげるとS 字にみえることから全体として「南台湾ハイテクS字型回廊」と呼ばれている。また,その中には半導体関連企業が立地するものも多く,「南台湾半導体S 字型回廊」とも呼ばれる。S 字型回廊の終端には,国内最大の5G AIoT 実証実験・商業化エリアとして「亜灣5G AIoT 創新園区(Asia New Bay Area 5G AIoT Innovation Park)」が開設され,その中に国際スタートアップ基地の「亜灣新創園(Startup Terrace Kaohsiung)」も設立された(2021 年)。高雄市が5G・AIoT・デジタル技術の発展・応用をリードし,また従来型産業との連携により大々的にDXとGXを推進できるようにする狙いがある。加えて,その重要な担い手の1 つであるスタートアップを誘致・支援し,創業エコシステムにおける国際連携を進めることも期待されている。本論文では,デジタル技術の応用やグリーン経済への転換ではどちらかというと後れを取っていた高雄市が,近年の積極的な取り組みにより,台湾でも先端的な地位に躍り出ようとしている様を描き出す。
  • 彭 雪
    2023 年 34 巻 2 号 p. 52-76
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/02/05
    研究報告書・技術報告書 オープンアクセス
    人口減少が深刻化しつつある社会では,外国人の受入れは労働力の不足,消費者の減少,税・社会保障の担い手の減少等への解決策の1 つと期待されている。外国人が安心して生活・仕事できるようにするためには,彼らの社会への適応状況とそのメカニズムを解明することが喫緊の課題である。先行研究では,外国人の受入れ社会への適応メカニズムを「描き込む」ことに焦点を当てており,それは「問題解決」を出発点としたものではない。本研究は,人口減少に直面している地方都市北九州市を例として,外国人が安心して受入れ社会で生活できるような「適応」とそのメカニズムに注目したい。そこで,外国人としての「不愉快な経験の有無」と「都市の暮らしやすさ」を適応の指標として,その影響要因を分析した。分析の結果,住居や仕事,人間関係(コミュニケーション),偏見・差別の悩みが外国人の適応にマイナスに影響していることが見出された。また,居住期間は適応とU カーブの関係にあることが示された。研究結果から,外国人多文化共生についての政策提言を行った。
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