東アジアへの視点
Online ISSN : 1348-091X
31 巻, 2 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
  • 八田 達夫, 保科 寛樹
    2020 年 31 巻 2 号 p. 01-14
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/05
    研究報告書・技術報告書 フリー
     「人口成長率の低下は生産性(1 人当たりGDP)の成長率を下げる」という因果関係は, 広く信じられており,地方への人口分散政策や外国人単純労働者受け入れ政策の与件とされ ていることが多い。この命題は,労働力投入の増大による集積の経済がもたらす生産性増大 効果が強く,その効果が,労働の限界生産力逓減の法則による生産性低減の効果を超えるこ とを,暗黙の内に前提としている。  本稿では,この因果関係が実証的に成り立っていないことを明らかにする。具体的には, OECD 加盟国,およびOECD にASEAN 加盟国・中国・インドを加えた各国の,1961~ 2019 年間のデータを分析対象として,次を示す。(1)この全期間において,人口成長率と1 人当たりGDP 成長率との間に,統計的に有意な正の相関関係は成り立たない。この間を10 年ごと・20 年ごとなどに分割したどの期間についても,同様である。(2)本稿で分析した大 多数のサンプルグループにおいて,統計的には有意でないものの逆の関係が回帰分析では観 察される。(3)特定の期間と国グループの組み合わせでは,負の関係が統計的に有意に成り 立つ。これらの事実は,一般に広く信じられているほどには集積の利益が強くないことを実 証的に示している。  「人口成長率の低下が生産性の成長率を下げる」という因果関係は,実証的に検証されて いないという事実は,広く政策担当者に認識されるべきであろう。
  • 岸本 千佳司
    2020 年 31 巻 2 号 p. 15-35
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/05
    研究報告書・技術報告書 フリー
    本研究では,台湾政府の「科技部(Ministry of Science and Technology:MOST)」によ る大学・研究機関の学生および教授・研究者の起業を奨励する政策に注目する。科技部の 政策の中でも,とりわけ最も初期ステージの主に学生起業家チーム向けのプログラムであ る「創新創業激勵計畫(From IP to IPO Program:FITI)」とその選抜チームへの現場支援 実務を担うため新竹科学園区内に開設されたスタートアップ育成施設「竹青庭(Young Entrepreneur’s Studio)」について詳しく解説する(科学園区も科技部の管轄下)。FITI は, アクセラレータと(段階的に実施される)ビジネスコンテストを組み合わせたようなプロ グラムである。「竹青庭」は,インキュベータにオープンスペース(コワーキングスペース) を併設したような施設である。FITI チームへの支援実務を担う他に,科学園区独自の長期 的観点から多様なスタートアップ支援策を講じ,加えてスタートアップと園区大企業との 連携によるイノベーション促進をも企図している。全体として,科技部の政策は,その傘 下の団体・計画・資源を動員し,大学・研究機関の研究成果に基づくスタートアップを奨 励しつつ,同時に成熟したハイテク企業の活性化をも促し,台湾ハイテク産業のさらなる アップグレーディング実現を目指すものと解釈される。
  • 坂本 博
    2020 年 31 巻 2 号 p. 36-49
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/05
    研究報告書・技術報告書 フリー
    本研究は,コロナ禍で大きく落ち込むと見込まれる日本の都道府県経済の状況,すなわち 「県内総生産」を予測・推計する。通常,予測・推計には過去のデータが参考になるが,コロ ナ禍の極端な状況においては,このまま使用することは適切でないと考えられる。そこで, 本研究では,コロナ禍によるマイナス成長部分をモンテカルロ実験で求めた。その際,分布 区間が確定し,非対称である三角分布に従う乱数を発生させた。また,都道府県の状況の違 いを三角分布に反映させるために,ある時点での累計感染者数の情報を用いた。結果,-10% を超えるマイナス成長になる可能性がある都道府県(東京都,沖縄県,福岡市)とマイナス 成長が概ね-5%以内にとどまる都道府県(岩手県など)に分かれた。また,この仮定の導入 により,県間所得格差が縮小する可能性があることが判明した。なお,全国においては,平 均的に-5%を少し超えるマイナス成長になる見通しである。
  • 田代 智治
    2020 年 31 巻 2 号 p. 50-70
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/03/05
    研究報告書・技術報告書 フリー
     「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」とは,2015 年9 月の国 連持続可能な国際サミットで全会一致で採択された「我々の世界を変革する持続可能な開発 のための2030 アジェンダ(行動計画)」の中核をなす世界的開発目標である。現在日本では, 内閣官房に推進本部が設置され(本部長:内閣総理大臣),関係省庁の連携および政府,地 方自治体の協力関係の下で,官民一体による推進が積極的に図られている。しかしながら一 方で,SDGs の実行段階における障害として,①多すぎる目標,②理解が容易でない,導入 方法がわからない,③法的拘束力がない,指標のためのデータの未整備,などの問題点が指 摘されている。  以上の背景から,今後,多くの自治体がSDGs 推進の際に求められる方向性について明ら かにすることを目的に,本稿では,SDGs を積極的に推進する国内主要都市である北九州市, 横浜市,さいたま市におけるSDGs 推進体制の状況や取り組みについての調査を実施した。 また,自治体が構築するSDGs 推進体制に対して企業がどのように応え,具体的な取り組み によって成果をあげているかといった点にも注目し,企業の取り組みの状況についても調査 した。以上の調査から比較検討を行い各自治体が構築するSDGs 推進体制を含めたSDGs へ の取り組み状況の成果と課題を整理した上で,SDGs 推進にむけた方向性についての簡単な 提言を行いたい。
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