1. イソカニムシ
Garypus japonicus 成体卵巣の2つの主要な機能 (卵形成機能および栄養液分泌機能) の発現のパターンが, 卵母細胞および卵巣上皮細胞 (分泌細胞) の両者をそれぞれの指標として, 形態学的に追究された。
2. 成体卵巣は, 未肥大, 肥大, 収縮の3つの基本的な形態を示した。これらの形態の相違は卵巣の両機能の発現のパターンすなわち卵巣の機能相の相違を反映していると考えられる。
3. 未肥大卵巣は哺育巣外の雌に限つて見出され, 次の二つの機能相が認められる。秋から冬にかけての卵巣では両機能は完全に抑制されている (休止期) が, 生殖時期 (6-8月) にむかう卵巣では大型の卵母細胞における後期卵黄形成過程のみが活発化し, 産卵の準備がととのう (準備期)。
4. 肥大卵巣および収縮卵巣は哺育巣内の雌に限つて見出され, それぞれ次の2つの機能相に対応している。哺育巣内では, まず卵巣上皮細胞の栄養液分泌機能が活発化し卵巣は肥大するが, 卵形成機能は抑制されている (分泌期)。すべての分泌物を胚および幼生に与え終ると卵巣は収縮し, 分泌機能は停止する。分泌を終つた卵巣上皮は退化し, 新上皮が再生する。卵形成機能は活発化し, 卵巣は準備期の形態に近づく (更新期)。
5. これら4つの機能相において, 卵巣の両機能は重複することなく交互に発現している。また,これらの機能相は一定の順序で周期的にくりかえされると考えられる。すなわち, 胚哺育を行なわない場合には年1回の周期で休止期と準備期が交互に現われる。また, 胚哺育を行なう場合には準備期から分泌期および更新期を経てふたたび準備期にもどり, 生殖時期をすぎるとさらに休止期にもどる。
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