ジョロウグモ, ズグロオニグモ, コガネグモから採取した牽引糸の熱的性質を, 示差走基熱量てんびん (DSC-TC 同時測定装置) を用いて, 20°Cから600°Cの間で調べた。ジョロウグモの牽引糸では, 100°C付近に吸熱ピークが, 300°C, 340°C, 500°C, 580°C付近に発熱ピークが観測された。前者のピークは, 牽引糸を構成しているタンパク質からの水の脱着に起因し, 後者はタンパク質の分解に起因することが推定される。クモの糸は, 少なくとも200°C までは安定であるが, 600°Cで完全に分解してしまうことがわかった。牽引糸の熱的性質は季節とともに変化し, クモの種のみならず, 性に依存することがわかった。熱的性質における差異は, 糸の形態, 分子量, 密度のみならずアミノ酸組成のような化学構造の差異に起因することが考えられよう。
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