沖縄県西表島の農薬を使用しない環境保全型水田において, キクヅキコモリグモの越冬生態に関する調査を1996年, 1997年, 1998年の2月に実施し, 次のような結果を得た.
1. 水田内で越冬中のキクヅキコモリグモの齢期は, 卵嚢を持った雌成体から若齢幼体まで様々であり, 冬期休閑期中であっても捕食活動をしていることが確認できた.
2. マーキング法による本種の移動分散に関する調査結果から, 水田内に生息している本種の個体数はおよそ1頭/m
2であることがわかった.
3. 冬季休閑期の水田を耕起せずに放置した場合, ハエ目, カメムシ目, アザミウマ目など多様な昆虫の越冬場所となるばかりでなく, クロスジツマグロヨコバイ, タイワンツマグロヨコバイ, ツマグロヨコバイなどのヨコバイ類の越冬場所となること, 本種を含む多様なクモの越冬場所になっていることがわかった.
4. キクヅキコモリグモの2月におけるクロスジツマグロヨコバイに対する捕食は, 通常5~6頭, 最大で12~13頭であることが推定された.
5. 日周期活動に関する調査結果から, キクヅキコモリグモの活動の山は午前8~10時と17~18時の2回あり, 照度が高いよりも低いとき活動が活発になる傾向が見られた.
6. 餌昆虫の種類と捕食頻度の調査から, 水田内が耕起された場合の本種の冬季休閑期における餌昆虫として, キアシクサヒバリ, ハネナガヒシバッタ, コオロギ科の1種, チャバネゴキブリ亜科の1種, ハナグモ, キクヅキコモリグモを確認できた. また, 夕方には水田内の水たまり周辺においてトビムシの個体数が多くキクヅキコモリグモが頻繁に捕食してたことから, ウンカ•ヨコバイなど主要な餌昆虫が少ない場合, トビムシが餌として重要であることが示唆された.
7. 同地域において本種は, ウンカ•ヨコバイなど餌昆虫の少ない冬季はトビムシなどの他の餌昆虫を捕食しつつ水田内で越冬しており, 冬期休閑期に水田やその近辺においてトビムシの生息しやすい環境を維持していくことは, キクヅキコモリグモを1期作目のイネ移植後からの水稲害虫防除に利用する上で必要であることがわった.
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